(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112657
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240814BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240814BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017856
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】310024033
【氏名又は名称】エスケーハイニックス株式会社
【氏名又は名称原語表記】SK hynix Inc.
【住所又は居所原語表記】2091, Gyeongchung-daero,Bubal-eub,Icheon-si,Gyeonggi-do,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】安 炯祐
(72)【発明者】
【氏名】磯田 大河
(72)【発明者】
【氏名】福田 健二
(72)【発明者】
【氏名】カク ジュンヒョク
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA20
4M119BB01
4M119CC05
4M119DD08
4M119DD09
4M119DD17
4M119DD26
4M119DD32
4M119DD45
4M119EE22
4M119EE27
4M119JJ12
4M119JJ14
5F092AA20
5F092AB07
5F092AC12
5F092AD04
5F092AD23
5F092AD25
5F092BB23
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5F092BB35
5F092BB36
5F092BB43
5F092BB90
5F092BC07
5F092BC42
(57)【要約】
【課題】メモリセルの特性を向上し且つ不良の発生を抑制させる。
【解決手段】実施形態によれば、磁気記憶装置1は、第1強磁性層32と、第1強磁性層32の上に設けられた第1非磁性層33と、第1非磁性層33の上に設けられた第2強磁性層34と、第2強磁性層34の上に設けられたマグネシウム(Mg)と希土類元素と貴金属元素とを含む酸化物層35と、酸化物層35の上に設けられた第2非磁性層36と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1強磁性層と、
前記第1強磁性層の上に設けられた第1非磁性層と、
前記第1非磁性層の上に設けられた第2強磁性層と、
前記第2強磁性層の上に設けられたマグネシウム(Mg)と希土類元素と貴金属元素とを含む酸化物層と、
前記酸化物層の上に設けられた第2非磁性層と、
を備える、磁気記憶装置。
【請求項2】
前記希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む、
請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項3】
前記貴金属元素は、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及びルテニウム(Ru)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む、
請求項1または2に記載の磁気記憶装置。
【請求項4】
前記第2非磁性層は、タングステン(W)及びモリブデン(Mo)のいずれかの元素を含む、
請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項5】
前記第2強磁性層と前記酸化物層は接する、
請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項6】
前記第1強磁性層は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み、
前記第1非磁性層は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、及びLSM(Lanthanum-strontium-manganese)からなる群から選択される少なくとも1つの元素または化合物の酸化物を含み、
前記第2強磁性層は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む、
請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項7】
前記第1強磁性層の下方に設けられた第3強磁性層と、
前記第1強磁性層と前記第3強磁性層の間に設けられた第3非磁性層と
を更に備える、請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項8】
前記第3非磁性層は、前記第3強磁性層と反強磁性的に結合され、
前記第3強磁性層の磁化方向が、前記第1強磁性層の磁化方向に対して反平行な方向に固定される、
請求項7に記載の磁気記憶装置。
【請求項9】
前記第3強磁性層からの漏れ磁場は、前記第1強磁性層からの漏れ磁場が前記第2強磁性層の磁化方向に与える影響を低減させる、
請求項7に記載の磁気記憶装置。
【請求項10】
前記第3強磁性層は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む、
請求項7に記載の磁気記憶装置。
【請求項11】
前記第3非磁性層は、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、バナジウム(V)、及びクロム(Cr)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む、
請求項7に記載の磁気記憶装置。
【請求項12】
前記第1強磁性層、及び前記第2強磁性層とのそれぞれは、膜面に垂直な方向に磁化容易軸方向を有し、
前記第1強磁性層の磁化方向は、固定され、
前記第2強磁性層は、磁化方向が前記第1強磁性層と比較して容易に反転するように構成される、
請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項13】
前記第2非磁性層の上に設けられた第4非磁性層を更に備え、
前記第4非磁性層は、白金(Pt)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)から選択される少なくとも1つの元素を含む、
請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項14】
第1方向に延伸して設けられた第1導電体層と、
前記第1方向と交差する第2方向に延伸し、前記第1導電体層と離間して設けられた第2導電体層と、
前記第1導電体層と前記第2導電体層との間に設けられたメモリセルと、
を更に備え、
前記メモリセルは、前記第1強磁性層と、前記第1非磁性層と、前記第2強磁性層と、前記酸化物層と、前記第2非磁性層とを含む、
請求項1に記載の磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子を記憶素子として用いた記憶装置(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メモリセルの特性を向上し且つ不良の発生を抑制させること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る磁気記憶装置は、第1強磁性層と、第1強磁性層の上に設けられた第1非磁性層と、第1非磁性層の上に設けられた第2強磁性層と、第2強磁性層の上に設けられたマグネシウム(Mg)と希土類元素と貴金属元素とを含む酸化物層と、酸化物層の上に設けられた第2非磁性層と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る磁気記憶装置を含むメモリシステムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る磁気記憶装置に含まれるメモリセルアレイの回路構成の一例を示す回路図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る磁気記憶装置に含まれるメモリセルアレイの構造の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る磁気記憶装置に含まれるメモリセルに含まれた可変抵抗素子の断面構造の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、可変抵抗素子のSLキャップ層及びトップ層の違いに基づく特性の変化の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、実施形態について図面を参照して説明する。図面は、模式的または概念的なものである。各図面の寸法及び比率等は、必ずしも現実のものと同一とは限らない。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一の符号が付されている。参照符号を構成する文字の後の数字等は、同じ文字を含んだ参照符号によって参照され、且つ同様の構成を有する要素同士を区別するために使用される。同じ文字を含んだ参照符号で示される要素を相互に区別する必要がない場合、これらの要素は文字のみを含んだ参照符号により参照される。
【0008】
1 構成
以下に、実施形態に係るメモリシステムMSについて説明する。
【0009】
1.1 メモリシステムの構成
まず、
図1を参照して、メモリシステムMSの構成の一例について説明する。
図1は、実施形態に係るメモリシステムMSの構成の一例を示すブロック図である。
【0010】
図1に示すように、メモリシステムMSは、磁気記憶装置1及びメモリコントローラ2を含む。磁気記憶装置1は、メモリコントローラ2の制御に基づいて動作する。メモリコントローラ2は、外部のホスト機器からの要求(命令)に応答して、磁気記憶装置1に対して、読み出し動作及び書き込み動作などの実行を命令し得る。
【0011】
磁気記憶装置1は、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子をメモリセルに使用したメモリデバイスであり、抵抗変化型メモリの一種である。MTJ素子は、磁気トンネル接合による磁気抵抗効果(Magnetoresistance effect)を利用する。MTJ素子は、磁気抵抗効果素子(Magnetoresistance effect element)とも呼ばれる。磁気記憶装置1は、例えば、メモリセルアレイ11、入出力回路12、制御回路13、ロウ選択回路14、カラム選択回路15、書き込み回路16、及び読み出し回路17を含む。
【0012】
メモリセルアレイ11は、複数のメモリセルMC、複数のワード線WL、及び複数のビット線BLを含む。
図1には、1組のメモリセルMC、ワード線WL、及びビット線BLが示されている。メモリセルMCは、データを不揮発に記憶し得る。メモリセルMCは、1本のワード線WLと、1本のビット線BLとの間に接続され、行(row)、及び列(column)の組に対応付けられる。ワード線WLには、ロウアドレスが割り当てられる。ビット線BLには、カラムアドレスが割り当てられる。1つまたは複数のメモリセルMCが、1つの行の選択、及び1つまたは複数の列の選択により特定され得る。
【0013】
入出力回路12は、メモリコントローラ2に接続され、磁気記憶装置1とメモリコントローラ2との間の通信を司る。入出力回路12は、メモリコントローラ2から受け取った制御信号CNT及びコマンドCMDを、制御回路13に転送する。入出力回路12は、メモリコントローラ2から受け取ったアドレス信号ADDに含まれたロウアドレス及びカラムアドレスを、ロウ選択回路14及びカラム選択回路15にそれぞれ転送する。入出力回路12は、メモリコントローラ2から受け取ったデータDAT(書き込みデータ)を、書き込み回路16に転送する。入出力回路12は、読み出し回路17から受け取ったデータDAT(読み出しデータ)を、メモリコントローラ2に転送する。
【0014】
制御回路13は、磁気記憶装置1の全体の動作を制御する。例えば、制御回路13は、制御信号CNTにより指示される制御とコマンドCMDとに基づいて、読み出し動作や書き込み動作などを実行する。例えば、制御回路13は、書き込み動作において、データの書き込みに使用される電圧を書き込み回路16に供給する。また、制御回路13は、読み出し動作において、データの読み出しに使用される電圧を読み出し回路17に供給する。
【0015】
ロウ選択回路14は、複数のワード線WLに接続される。そして、ロウ選択回路14は、ロウアドレスにより特定された1つのワード線WLを選択する。選択されたワード線WLは、例えば、図示が省略されたドライバ回路と電気的に接続される。
【0016】
カラム選択回路15は、複数のビット線BLに接続される。そして、カラム選択回路15は、カラムアドレスにより特定された1つまたは複数のビット線BLを選択する。選択されたビット線BLは、例えば、図示が省略されたドライバ回路と電気的に接続される。
【0017】
書き込み回路16は、制御回路13の制御と、入出力回路12から受け取ったデータDAT(書き込みデータ)とに基づいて、データの書き込みに使用される電圧をカラム選択回路15に供給する。書き込みデータに基づいた電流がメモリセルMCを介して流れると、メモリセルMCに所望のデータが書き込まれる。
【0018】
読み出し回路17は、センスアンプを含む。読み出し回路17は、制御回路13の制御に基づいて、データの読み出しに使用される電圧をカラム選択回路15に供給する。そして、センスアンプが、選択されたビット線BLの電圧または電流に基づいて、メモリセルMCに記憶されているデータを判定する。それから、読み出し回路17は、判定結果に対応するデータDAT(読み出しデータ)を、入出力回路12に転送する。
【0019】
1.2 メモリセルアレイの回路構成
次に、
図2を参照して、メモリセルアレイ11の回路構成の一例について説明する。
図2は、実施形態に係る磁気記憶装置1が備えるメモリセルアレイ11の回路構成の一例を示す回路図である。
図2は、複数のワード線WLのうちWL0及びWL1と、複数のビット線BLのうちBL0及びBL1とを抽出して示している。
【0020】
図2に示すように、1つのメモリセルMCが、WL0とBL0との間と、WL0とBL1との間と、WL1とBL0との間と、WL1とBL1との間とのそれぞれに接続されている。メモリセルアレイ11内で、複数のメモリセルMCは、例えば、マトリクス状に配置される。
【0021】
各メモリセルMCは、可変抵抗素子VRとスイッチング素子SEとを含む。可変抵抗素子VR及びスイッチング素子SEは、関連付けられたビット線BL及びワード線WLの間に直列に接続される。例えば、可変抵抗素子VRの一端が、ビット線BLに接続される。可変抵抗素子VRの他端が、スイッチング素子SEの一端に接続される。スイッチング素子SEの他端が、ワード線WLに接続される。なお、ビット線BL及びワード線WLの間における可変抵抗素子VRとスイッチング素子SEとの接続関係は、逆であってもよい。
【0022】
可変抵抗素子VRは、MTJ素子に対応する。可変抵抗素子VRは、その抵抗値に基づいて、データを不揮発に記憶し得る。例えば、高抵抗状態の可変抵抗素子VRを含むメモリセルMCは、“1”データを記憶する。低抵抗状態の可変抵抗素子VRを含むメモリセルMCは、“0”データを記憶する。可変抵抗素子VRの抵抗値に関連付けられたデータの割り当ては、その他の設定であってもよい。可変抵抗素子VRの抵抗状態は、可変抵抗素子VRを介して流れる電流に応じて変化し得る。
【0023】
スイッチング素子SEは、例えば、双方向ダイオードである。スイッチング素子SEは、関連付けられた可変抵抗素子VRへの電流の供給を制御するセレクタとして機能する。具体的には、あるメモリセルMCに含まれたスイッチング素子SEは、当該メモリセルMCに印加された電圧が、スイッチング素子SEの閾値電圧を下回っている場合にオフ状態となり、スイッチング素子SEの閾値電圧以上である場合にオン状態となる。オフ状態のスイッチング素子SEは、抵抗値の大きい絶縁体として機能する。スイッチング素子SEがオフ状態である場合、当該メモリセルMCに接続されたワード線WL及びビット線BLの間で電流が流れることが抑制される。オン状態のスイッチング素子SEは、抵抗値の小さい導電体として機能する。スイッチング素子SEがオン状態である場合、当該メモリセルMCに接続されたワード線WL及びビット線BLの間で電流が流れる。すなわち、スイッチング素子SEは、電流が流れる方向に依らずに、メモリセルMCに印加される電圧の大きさに応じて、電流を流すか否かを切り替えることが可能である。なお、スイッチング素子SEとしては、トランジスタなど、その他の素子が使用されてもよい。
【0024】
1.3 メモリセルアレイの構造
以下に、実施形態におけるメモリセルアレイ11の構造の一例について説明する。以下の説明では、xyz直交座標系が使用される。X方向は、ビット線BLの延伸方向に対応する。Y方向は、ワード線WLの延伸方向に対応する。Z方向は、磁気記憶装置1の形成に使用される半導体基板の表面に対する鉛直方向に対応する。“下”との記述及びその派生語並びに関連語は、z軸上のより小さい座標の位置を示している。“上”との記述及びその派生語並びに関連語は、z軸上のより大きい座標の位置を示している。斜視図には、ハッチングが適宜付加されている。斜視図に付加されたハッチングは、ハッチングが付加された構成要素の素材や特性とは必ずしも関連していない。斜視図及び断面図では、層間絶縁膜などの構成の図示が省略されている。
【0025】
1.3.1 メモリセルアレイの立体構造
次に、
図3を参照して、メモリセルアレイの立体構造の一例について説明する。
図3は、実施形態に係る磁気記憶装置1が備えるメモリセルアレイ11の構造の一例を示す斜視図である。
【0026】
図3に示すように、メモリセルアレイ11は、複数の導電体層20と複数の導電体層21とを含む。
【0027】
複数の導電体層20のそれぞれは、X方向に延伸した部分を有する。複数の導電体層20は、Y方向に並んで設けられ、互いに離れている。各導電体層20は、ビット線BLとして使用される。
【0028】
複数の導電体層21のそれぞれは、Y方向に延伸した部分を有する。複数の導電体層21は、X方向に並んで設けられ、互いに離れている。各導電体層21は、ワード線WLとして使用される。
【0029】
複数の導電体層21が設けられた配線層は、複数の導電体層20が設けられた配線層の上方に設けられる。複数の導電体層20と複数の導電体層21とが交差した部分のそれぞれに、1つのメモリセルMCが設けられる。言い換えると、各メモリセルMCは、関連付けられたビット線BLとワード線WLとの間に柱状に設けられる。本例では、導電体層20の上に、可変抵抗素子VRが設けられる。可変抵抗素子VRの上に、スイッチング素子SEが設けられる。スイッチング素子SEの上に、導電体層21が設けられる。
【0030】
なお、可変抵抗素子VRがスイッチング素子SEの下方に設けられる場合について例示したが、メモリセルアレイ11の回路構成に依っては、可変抵抗素子VRがスイッチング素子SEの上方に設けられてもよい。
【0031】
1.3.2 可変抵抗素子の断面構造
次に、
図4を参照して、可変抵抗素子の断面構造について説明する。
図4は、実施形態に係る磁気記憶装置1のメモリセルMCに含まれた可変抵抗素子VRの断面構造の一例を示す断面図である。
【0032】
図4に示すように、可変抵抗素子VRは、例えば、強磁性層30、非磁性層31、強磁性層32、非磁性層33、強磁性層34、酸化物層35、並びに非磁性層36及び37を含む。なお、
図4では、磁性層の磁化方向が矢印で示されている。両方向の矢印は、磁化方向が可変であることを示している。
【0033】
強磁性層30、非磁性層31、強磁性層32、非磁性層33、強磁性層34、酸化物層35、並びに非磁性層36及び37は、導電体層20(ビット線BL)側から導電体層21(ワード線WL)側に向かって、この順番に積層されている。具体的には、強磁性層30は、導電体層20の上方に設けられる。非磁性層31は、強磁性層30の上に設けられる。強磁性層32は、非磁性層31の上に設けられる。非磁性層33は、強磁性層32の上に設けられる。強磁性層34は、非磁性層33の上に設けられる。酸化物層35は、強磁性層34の上に設けられる。非磁性層36は、酸化物層35の上に設けられる。非磁性層37は、非磁性層36の上に設けられる。導電体層21は、非磁性層37の上方に設けられる。
【0034】
強磁性層30は、強磁性の導電体である。強磁性層30は、膜面に垂直な方向に磁化容易軸方向を有する。
図4に示された一例では、強磁性層30の磁化方向は、強磁性層32側を向いている。強磁性層30の磁化方向を反転させるために必要な磁界の大きさは、例えば、強磁性層32よりも大きい。強磁性層30からの漏れ磁場は、強磁性層32からの漏れ磁場が強磁性層34の磁化方向に与える影響を低減させる。すなわち、強磁性層30は、シフトキャンセル層SCL(Shift Cancelling Layer)として機能する。強磁性層30は、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。また、強磁性層30は、不純物として、ボロン(B)、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、及びチタン(Ti)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み得る。具体的には、強磁性層30は、コバルト鉄ボロン(CoFeB)を含み得る。強磁性層30は、ホウ化鉄(FeB)、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)からなる群から選択される少なくとも1つの二元化合物を含み得る。
【0035】
非磁性層31は、非磁性の導電体である。非磁性層31は、スペーサ層SP(Spacer Layer)として使用され、強磁性層30と反強磁性的に結合される。これにより、強磁性層30の磁化方向が、強磁性層32の磁化方向に対して反平行な方向に固定される。このような強磁性層30、非磁性層31、及び強磁性層32の結合構造は、SAF(Synthetic Anti-Ferromagnetic)構造と呼ばれる。非磁性層31は、例えば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、バナジウム(V)、及びクロム(Cr)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0036】
強磁性層32は、強磁性の導電体である。強磁性層32は、膜面に垂直な方向に磁化容易軸方向を有する。強磁性層32の磁化方向は、強磁性層30側、または強磁性層34側に固定される。
図4に示された一例では、強磁性層32の磁化方向は、強磁性層30側に固定されている。これにより、強磁性層32は、MTJ素子の参照層RL(Reference Layer)として使用される。参照層RLは、“ピン層”、または“固定層”と呼ばれてもよい。強磁性層32は、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。また、強磁性層32は、不純物として、ボロン(B)、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、及びチタン(Ti)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み得る。具体的には、強磁性層32は、コバルト鉄ボロン(CoFeB)を含み得る。強磁性層32は、ホウ化鉄(FeB)、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)からなる群から選択される少なくとも1つの二元化合物を含み得る。
【0037】
非磁性層33は、非磁性の絶縁体である。非磁性層33は、強磁性層32及び34と共に磁気トンネル接合を形成する。すなわち、非磁性層33は、MTJ素子のトンネルバリア層(Tunnel barrier layer)として機能する。また、非磁性層33は、磁気記憶装置1の製造工程に含まれた強磁性層32及び34の結晶化処理において、シード材として機能する。このシード材は、強磁性層32及び34の界面から結晶質の膜を成長させるための核となる材料に対応する。非磁性層33は、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、及びLSM(Lanthanum-Strontium-Manganese)からなる群から選択される少なくとも1つの元素または化合物の酸化物を含む。
【0038】
強磁性層34は、強磁性の導電体である。強磁性層34は、膜面に垂直な方向に磁化容易軸方向を有する。強磁性層34の磁化方向は、強磁性層32側及び酸化物層35側のいずれかに向かう方向である。強磁性層34の磁化方向は、強磁性層32と比較して容易に反転するように構成される。これにより、強磁性層34は、MTJ素子の記憶層SL(Storage Layer)として使用される。記憶層SLは、“フリー層”と呼ばれてもよい。強磁性層34は、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。また、強磁性層34は、不純物として、ボロン(B)、リン(P)、炭素(C)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、及びチタン(Ti)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含み得る。具体的には、強磁性層34は、コバルト鉄ボロン(CoFeB)、またはホウ化鉄(FeB)を含み得る。
【0039】
酸化物層35は、非磁性の酸化物である。酸化物層35は、強磁性層34(記憶層SL)に対するSLキャップ層SLCPとして使用される。酸化物層35は、強磁性層34に接する。換言すれば、SLキャップ層SLCPは、記憶層SLに接する。酸化物層35は、マグネシウム(Mg)と、希土類元素(Rare-earth element)と、貴金属元素と、を含む四元系酸化物である。なお、酸化物層35の含まれる貴金属元素の組成比は、マグネシウム(Mg)及び希土類元素よりも小さくてもよい。酸化物層35に含まれる希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。例えば、酸化物層35に含まれる希土類元素として、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)、及びスカンジウム(Sc)のいずれか1つの元素が選択されるとより好適である。酸化物層35に含まれる貴金属元素は、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及びルテニウム(Ru)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0040】
上記四元系酸化物は、強磁性層34の垂直磁気異方性(PMA;Perpendicular Magnetic Anisotropy)を改善させる機能を有する。例えば、上記四元系酸化物は、希土類元素を含む二元系酸化物、あるいは、マグネシウム(Mg)及び希土類元素を含む三元系酸化物よりも、強磁性層34の異方性磁界(Hk)を増加させる。
【0041】
非磁性層36は、非磁性の導電体である。非磁性層36は、タングステン(W)及びモリブデン(Mo)からなる群から選択されるいずれか1つの元素を含む。非磁性層36は、トップ層TL(Top layer)として使用される。トップ層TLは、例えば、MTJ素子の特性を向上させる機能や、ハードマスクとしての機能や電極としての機能を有し得る。非磁性層36がモリブデン(Mo)またはタングステン(W)を含むことにより、強磁性層34の異方性磁界が増加する。例えば、シリコン基板上に可変抵抗素子VRに相当する層構造を形成して、エッチングプロセスにより素子化される前のブランケット状態で、非磁性層36がモリブデン(Mo)を含む場合と、非磁性層36がタングステン(W)を含む場合とを比較する。すると、非磁性層36がモリブデン(Mo)を含む場合、非磁性層36がタングステン(W)を含む場合と比較して、強磁性層34の異方性磁界は小さくなるが、強磁性層34の保磁力の増加は抑えられる。非磁性層36は、強磁性層34の異方性磁界(垂直磁気異方性)と保磁力とに基づいて、適宜材料を選択され得る。
【0042】
非磁性層37は、非磁性の導電体である。非磁性層37は、トップ層TLに対するTLキャップ層TLCPとして使用される。TLキャップ層TLCPは、可変抵抗素子VRと上方の素子(例えば、スイッチング素子SE)または配線(例えば、ビット線BL)との電気的な接続性を向上させる電極として使用され得る。非磁性層37は、例えば、白金(Pt)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、及びルテニウム(Ru)から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0043】
以上で説明された可変抵抗素子VRは、TMR(Tunneling Magnetoresistance)効果を利用した垂直磁化型のMTJ素子として機能する。可変抵抗素子VRは、強磁性層32及び34のそれぞれの磁化方向の相対関係に応じて、低抵抗状態と高抵抗状態とのいずれかになり得る。具体的には、可変抵抗素子VRは、参照層RLと記憶層SLの磁化方向が反平行状態(AP(Antiparallel)状態)である場合に高抵抗状態になり、参照層RLと記憶層SLの磁化方向が平行状態(P(Parallel)状態)である場合に低抵抗状態になる。
【0044】
磁気記憶装置1は、強磁性層34(記憶層SL)の磁化方向を変化させることによって、メモリセルMCに所望のデータを記憶させることができる。具体的には、磁気記憶装置1は、可変抵抗素子VRに書き込み電流を流すことによって、記憶層SL及び参照層RLにスピントルクを注入し、記憶層SLの磁化方向を制御する。このような書き込み方法は、“スピン注入書き込み方式”と呼ばれる。
【0045】
本例において、可変抵抗素子VRは、強磁性層32から強磁性層34に向かう方向に書き込み電流が流された場合にAP状態になり、強磁性層34から強磁性層32に向かう方向に書き込み電流が流された場合にP状態になる。なお、可変抵抗素子VRは、強磁性層34の磁化方向を反転させ得る大きさの電流が可変抵抗素子VRに流された場合に、強磁性層32の磁化方向が変化しないように構成される。すなわち、“磁化方向が固定されている”とは、強磁性層34の磁化方向を反転させ得る大きさの電流によって、磁化方向が変化しないことを意味する。
【0046】
なお、可変抵抗素子VRは、その他の層を備えていてもよいし、各磁性層が複数の層により構成されてもよい。例えば、強磁性層32は、複数の層からなる積層体であってもよい。強磁性層32を構成する積層体は、例えば、非磁性層33との界面層としてコバルト鉄ボロン(CoFeB)またはホウ化鉄(FeB)を含む層を有しつつ、当該界面層と非磁性層31との間に非磁性の導電体を介して更なる強磁性層を有し得る。
【0047】
2 SLキャップ層及びトップ層の違いに基づく特性の比較
次に、
図5を参照して、SLキャップ層SLCP及びトップ層TLの違いに基づく特性の比較について説明する。
図5は、SLキャップ層SLCP及びトップ層TLの違いに基づく特性の変化の一例を示す模式図である。
図5は、本実施形態に基づく第1及び第2構成例、並びに第1乃至第6比較例を示している。各例の断面構造は、シリコン基板上に形成された可変抵抗素子VRに相当する層構造の強磁性層34(記憶層SL)、酸化物層35(SLキャップ層SLCP)、及び非磁性層36(トップ層TL)を抜粋して示している。なお、第1及び第2構成例並びに第1乃至第6比較例における各層の膜厚及びサイズは、概略同じである。また、
図5の各例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hk及び保磁力SL_Hcは、シリコン基板上に可変抵抗素子VRに相当する層構造を形成して、エッチングプロセスにより素子化される前のブランケット状態で特性を測定した結果を示す。
【0048】
例えば、ブランケット状態の記憶層SLの保磁力SL_Hcは、記憶層SLの構造の乱れに起因して増大する。このため、ブランケット状態の記憶層SLの保磁力SL_Hcは、小さい方が好適である。これに対し、可変抵抗素子VRを形成するために加工された後の記憶層SLの保磁力SL_Hcは、熱安定性と相関している。このため、素子状態の記憶層SLの保磁力SL_Hcは、大きい方が好適である。
【0049】
図5に示すように、第1及び第2構成例並びに第1乃至第6比較例の記憶層SLには、コバルト鉄ボロン(CoFeB)が共通して用いられる。そして、第1及び第2構成例並びに第1乃至第6比較例のSLキャップ層SLCP及びトップ層TLには、それぞれ異なる材料が用いられる。
【0050】
第1構成例と第2構成例とは、SLキャップ層SLCPが同じであり、トップ層TLが異なる。より具体的には、第1構成例及び第2構成例のSLキャップ層SLCPには、四元系酸化物の一例として、マグネシウム(Mg)、希土類元素としてガドリニウム(Gd)、及び貴金属元素としてイリジウム(Ir)を含む酸化マグネシウムガドリニウムイリジウム(MgGdIrOx)が用いられる。第1構成例のトップ層TLには、モリブデン(Mo)が用いられる。他方で、第2構成例のトップ層TLには、タングステン(W)が用いられる。
【0051】
第1比較例と第4比較例とは、SLキャップ層SLCPが同じであり、トップ層TLが異なる。より具体的には、第1比較例及び第4比較例のSLキャップ層SLCPには、希土類元素を含む二元系酸化物の一例として、希土類元素としてガドリニウム(Gd)を含む酸化ガドリニウム(GdOx)が用いられる。第1比較例のトップ層TLには、モリブデン(Mo)が用いられる。他方で、第4比較例のトップ層TLには、タングステン(W)が用いられる。
【0052】
第2比較例と第5比較例とは、SLキャップ層SLCPが同じであり、トップ層TLが異なる。より具体的には、第2比較例及び第5比較例のSLキャップ層SLCPには、二元系酸化物の一例として、マグネシウム(Mg)を含む酸化マグネシウム(MgOx)が用いられる。第2比較例のトップ層TLには、モリブデン(Mo)が用いられる。他方で、第5比較例のトップ層TLには、タングステン(W)が用いられる。
【0053】
第3比較例と第6比較例とは、SLキャップ層SLCPが同じであり、トップ層TLが異なる。より具体的には、第3比較例及び第6比較例のSLキャップ層SLCPには、三元系酸化物の一例として、マグネシウム(Mg)及び希土類元素としてガドリニウム(Gd)を含む酸化マグネシウムガドリニウム(MgGdOx)が用いられる。第3比較例のトップ層TLには、モリブデン(Mo)が用いられる。他方で、第5比較例のトップ層TLには、ルテニウム(Ru)が用いられる。
【0054】
第1構成例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは、8.1 kOeである。また、記憶層SLの保磁力SL_Hcは、90 Oeである。
【0055】
第2構成例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは、9.2 kOeである。また、記憶層SLの保磁力SL_Hcは、110 Oeである。
【0056】
第1比較例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは、3.5 kOeである。また、記憶層SLの保磁力SL_Hcは、40 Oeである。
【0057】
第2比較例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは、5.5 kOeである。また、記憶層SLの保磁力SL_Hcは、60 Oeである。
【0058】
第3比較例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは、6.4 kOeである。また、記憶層SLの保磁力SL_Hcは、90 Oeである。
【0059】
第4比較例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは、4.3 kOeである。また、記憶層SLの保磁力SL_Hcは、70 Oeである。
【0060】
第5比較例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは、6.3 kOeである。また、記憶層SLの保磁力SL_Hcは、95 Oeである。
【0061】
第6比較例における記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは、5.2 kOeである。また、記憶層SLの保磁力SL_Hcは、55 Oeである。
【0062】
まず、SLキャップ層SLCPの違いに着目する。例えば、トップ層TLが同じモリブデン(Mo)であり且つSLキャップ層SLCPが異なる第1構成例、第1比較例、第2比較例、及び第3比較例を比較する。すなわち、SLキャップ層SLCPとして、MgGdIrOxを用いた第1構成例と、GdOxを用いた第1比較例と、MgOxを用いた第2比較例と、MgGdOxを用いた第3比較例と、を比較する。これらの構造の記憶層SLの異方性磁界SL_Hkの大きさを比較すると、第1構成例(MdGdIrOx)>第3比較例(MgGdOx)>第2比較例(MgOx)>第1比較例(GdOx)の関係にある。すなわち、SLキャップ層としてMgGdIrOxを用いた場合に、記憶層SLの異方性磁界SL_Hkが最も大きくなる。換言すると、SLキャップ層SLCPに本実施形態の四元系酸化物を用いると、二元系酸化物及び三元系酸化物よりも記憶層SLの異方性磁界SL_Hkが大きくなる。例えば、第3比較例のMgGdOxにIrを添加すると、第1構成例に示すように、記憶層SLの異方性磁界SL_Hkが増加する。トップ層TLが同じタングステン(W)であり且つSLキャップ層SLCPが異なる第2構成例、第4比較例、及び第5比較例を比較した場合も同様である。
【0063】
一般的に、ブランケット状態で膜特性を測定した場合、記憶層SLの異方性磁界SL_Hkが増加すると、記憶層SLの保磁力SL_Hcも増加していく傾向にある。しかし、ブランケット状態において、第1構成例と第3比較例とを比較すると、第1構成例の記憶層SLの異方性磁界SL_Hkは第3比較例よりも大きいが、第1構成例及び第3比較例の記憶層SLの保磁力SL_Hcは同じである。従って、SLキャップ層SLCPとして用いられるMgGdIrOxは、ブランケット状態の膜特性として、記憶層SLの保磁力SL_Hcの増加を最小限にしながら、記憶層SLの異方性磁界SL_Hk、すなわち垂直磁気異方性を増加させる機能を有する。
【0064】
次に、トップ層TLの違いに着目する。まず、トップ層TLが異なり且つSLキャップ層SLCPが同じである第3比較例と第6比較例とを比較する。すなわち、トップ層TLとして、モリブデン(Mo)を用いた第3比較例と、ルテニウム(Ru)を用いた第6比較例と、を比較する。これらの構造の記憶層SLの異方性磁界SL_Hkの大きさを比較すると、第3比較例>第6比較例の関係にある。すなわち、トップ層TLにモリブデン(Mo)を用いた場合、トップ層TLにルテニウム(Ru)を用いた場合よりも、記憶層SLの異方性磁界SL_Hkが大きくなる。
【0065】
また、例えば、トップ層TLが異なり且つSLキャップ層SLCPが同じである第1構成例と第2構成例とを比較する。すなわち、トップ層TLとして、モリブデン(Mo)を用いた第1構成例と、タングステン(W)を用いた第2構成例と、を比較する。これらの構造の記憶層SLの異方性磁界SL_Hkの大きさを比較すると、第2構成例>第1構成例の関係にある。すなわち、トップ層TLにタングステン(W)を用いた場合、トップ層TLにモリブデン(Mo)を用いた場合よりも、記憶層SLの異方性磁界SL_Hkが大きくなる。また、これらの構造のブランケット状態の記憶層SLの保磁力SL_Hcの大きさを比較すると、第2構成例>第1構成例の関係にある。すなわち、ブランケット状態の膜特性を比較した場合、トップ層TLにタングステン(W)を用いると、トップ層TLにモリブデン(Mo)を用いた場合よりも、記憶層SLの異方性磁界SL_Hk及び記憶層SLの保磁力SL_Hcが大きくなる。第1比較例と第4比較例と比較した場合、及び第2比較例と第5比較例とを比較した場合も同様である。
【0066】
ブランケット状態の膜特性を比較した場合、トップ層TLとして用いられるモリブデン(Mo)及びタングステン(W)は、記憶層SLの異方性磁界SL_Hk、すなわち垂直磁気異方性を増加させる機能を有する。更に、トップ層TLとして用いられるモリブデン(Mo)は、タングステン(W)と比較して、記憶層SLの異方性磁界SL_Hkの増加の効果は小さいが、記憶層SLの保磁力SL_Hcの増加を抑えられる。
【0067】
3 実施形態の効果
以上で説明された実施形態に係る磁気記憶装置1によれば、メモリセルMCの特性を向上させ且つ不良の発生を抑制させることができる。以下に、実施形態に係る磁気記憶装置1の効果の詳細について説明する。
【0068】
磁気記憶装置の記憶容量を大きくする方法としては、メモリセルMCを高密度に配置することが考えられる。メモリセルMCの微細化及び狭ピッチ化にともない、記憶層SLの垂直磁気異方性の改善が求められる。記憶層SLの異方性磁界SL_Hkを向上させる方法の1つとして、記憶層SLの薄膜化がある。但し、記憶層SLを薄くすると、記憶層SLが凝集する、すなわち記憶層SLの表面粗さが増大する可能性が高くなる。例えば、記憶層SLの結晶粒が凝集すると、記憶層SLとSLキャップ層SLCPとの界面が乱れることにより、表面粗さが増大する。記憶層SLの凝集(表面粗さの増大)が生じると、MTJ素子(可変抵抗素子VR)の抵抗値及び保磁力のばらつきが増加する。これにより、メモリセルMCの特性が劣化し、不良発生の可能性が高くなる。
【0069】
これに対し、本実施形態に係る構成であれば、記憶層SLのSLキャップ層SLCPとして、マグネシウム(Mg)と希土類元素と貴金属元素とを含む四元系酸化物を用いることができる。また、トップ層TLとして、タングステン(W)またはモリブデン(Mo)を含む非磁性層を用いることができる。これにより、記憶層SLの異方性磁界SL_Hkを向上させることができる。すなわち、記憶層SLの垂直磁気異方性を向上できる。よって、メモリセルMCの特性を向上し且つ不良の発生を抑制させることができる。
【0070】
また、本実施形態に係る構成であれば、記憶層SLとSLキャップ層SLCPである四元系酸化物とが接することにより、記憶層SLの界面に起因する異方性磁界Hkが増加する。よって、メモリセルMCの特性が向上する。
【0071】
4.その他
実施形態では、MTJ素子(可変抵抗素子VR)を備える磁気装置の一例として、磁気記憶装置1について説明したが、これに限られない。磁気装置は、センサやメディアなどの垂直磁気異方性を有する磁気素子を必要とする他のデバイスであってもよい。当該磁気素子は、少なくとも可変抵抗素子VRを使用していればよい。
【0072】
本明細書において“接続”は、電気的に接続されている事を示し、間に別の素子を介することを除外しない。非磁性層31、36、及び37のそれぞれは、“導電体層”と呼ばれてもよい。非磁性層33は、“酸化物層”と呼ばれてもよい。酸化物層35は、“非磁性層”と呼ばれてもよい。MTJ素子の各層に含まれる元素は、例えば、走査透過型電子顕微鏡(STEM; Scanning Transmission Electron Microscope)による電子エネルギー損失分光法(EELS; Electron Energy Loss Spectroscopy)等を用いることによって測定可能である。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1…磁気記憶装置、2…メモリコントローラ、11…メモリセルアレイ、12…入出力回路、13…制御回路、14…ロウ選択回路、15…カラム選択回路、16…書き込み回路、17…読み出し回路、20、21…導電体層、30、32、34…強磁性層、31、33、36、37…非磁性層、35…酸化物層