(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112727
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】リサイクル用のロジウム元素可溶化物の製造方法、及びリサイクルロジウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/02 20060101AFI20240814BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20240814BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20240814BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B5/04
C22B5/10
C22B7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017975
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】323001683
【氏名又は名称】アサヒプリテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】谷ノ内 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】橋野 治
(72)【発明者】
【氏名】竹田 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】岡部 徹
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA22
4K001CA11
4K001DA05
4K001HA01
4K001HA03
4K001HA04
4K001HA05
4K001KA08
(57)【要約】
【課題】本発明は、白金族元素の中でも特にロジウムを高回収率で回収しながらも、当該回収に要する条件をより穏やかにすること及び/又はより単純化することで、設備上の制約を緩和できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ロジウム元素を含む廃触媒と塩化マグネシウムとを、単一の気相中で、前記廃触媒が溶融しない加熱条件に供し、ロジウム元素可溶化物を含む反応物を得る加熱処理工程を含む、リサイクル用のロジウム元素可溶化物の製造方法によれば、白金族元素の中でも特にロジウムを高回収率で回収しながらも、当該回収に要する条件をより穏やかにすること及び/又はより単純化することで、設備上の制約を緩和できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム元素を含む廃触媒と塩化マグネシウムとを、単一の気相中で、前記廃触媒が溶融しない加熱条件に供し、ロジウム元素可溶化物を含む反応物を得る加熱処理工程を含む、リサイクル用のロジウム元素可溶化物の製造方法。
【請求項2】
前記廃触媒と前記塩化マグネシウムとが互いに接触させられている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記廃触媒と前記塩化マグネシウムとが互いに離間して載置されている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理工程における前記加熱条件が550℃以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理工程における前記加熱条件が850℃以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記気相が空気又は空気と水蒸気との混合ガスである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理において還元剤を併用しない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記気相が不活性ガス又は不活性ガスと水蒸気との混合ガスである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記加熱処理において還元剤を併用する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記還元剤が、アルミニウム、鉄、及び亜鉛からなる群より選択される金属、並びに/若しくは炭素である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
ロジウム元素を含む廃触媒と塩化マグネシウムとを、単一の気相中で、前記廃触媒が溶融しない加熱条件に供し、ロジウム元素可溶化物を含む反応物を得る加熱処理工程と、前記反応物から前記ロジウム元素を溶出させる溶出処理工程と、を含む、リサイクルロジウムの製造方法。
【請求項12】
前記溶出処理工程において、前記溶出を酸抽出により行う、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記酸が塩酸又は王水である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記溶出処理工程を常圧で行う、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジウムのリサイクル技術に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族元素の1つであるロジウムは、硬度、電気抵抗、及び耐食性に優れており、他の白金族元素と同様に、その需要の大部分は、自動車等の排ガス浄化触媒が占めている。
【0003】
ロジウムは、産出量の少なさ及び産地の偏在による供給不足が特に顕著であり、白金族元素の中でも極めて高価である。このため、排ガス浄化廃触媒からの白金族元素のリサイクルにおいて、ロジウムの回収率向上必要性がますます高まっている。
【0004】
排ガス浄化廃触媒から白金族元素を回収する代表的な方法として、王水、又は塩酸と過酸化水素との混合溶液等の酸化性の無機酸溶液に、廃触媒を浸漬し、白金族元素を溶解抽出させる湿式処理法が知られている。しかしながら、通常の湿式処理では白金族金属の回収率は不十分である。このため、例えば特許文献1に記載されるように、白金族金属を溶解抽出して回収するにあたり、外気を遮断できる密閉容器中に、無機酸と触媒及び酸化剤を加え、更に、該無機酸の濃度を上昇させ、この後に加熱抽出することで、回収効率を上げる手法が知られている。
【0005】
一方、排ガス浄化廃触媒から白金族元素を回収する方法として、乾式法も知られている。乾式法の一例として、特許文献2に記載されるように、塩素ガスを用いた高温塩素化により、白金族元素を塩化物として揮発させることで回収する手法も知られている。さらに乾式法の他の例として、ローズ法と呼ばれる方法、つまり、廃触媒を還元剤と共に溶錬することで白金族元素を抽出する方法が知られており、現在この方法が排ガス浄化廃触媒から白金族元素を回収する方法の主流となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-136465号公報
【特許文献2】特開平3-013532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される手法では白金族金属の溶解抽出時に高圧を負荷する必要があり、また、ローズ法では溶錬時に高温を負荷する必要があるため、いずれも設備上の制約が大きい。また、特許文献2に記載される手法では、大量に発生する白金族元素の揮発物の収集及び冷却回収のための設備を要し、やはり設備上の制約が大きい。このように、リサイクル技術においては、目的物の回収効率を高めるための条件に対応できる設備を要し、それに伴う環境負荷を免れないという本質的な課題があり、この点は未だ十分に解決されていない。
【0008】
そこで、本発明は、白金族元素の中でも特にロジウムを高回収率で回収するとともに、当該回収に要する条件をより穏やかにすること及び/又はより単純化することで、設備上の制約を緩和できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、塩化マグネシウムを用いて廃触媒を加熱処理することで、廃触媒の溶融を不要とする温度条件でありながら、廃触媒に担持されているロジウム等の白金族元素を揮発させない態様で、易溶出性の(溶出時に高圧を要しない)ロジウム元素可溶化物に変換することができることを予期せず見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ロジウム元素を含む廃触媒と塩化マグネシウムとを、単一の気相中で、前記廃触媒が溶融しない加熱条件に供し、ロジウム元素可溶化物を含む反応物を得る加熱処理工程を含む、リサイクル用のロジウム元素可溶化物の製造方法。
項2. 前記廃触媒と前記塩化マグネシウムとが互いに接触させられている、項1に記載の製造方法。
項3. 前記廃触媒と前記塩化マグネシウムとが互いに離間して載置されている、項1に記載の製造方法。
項4. 前記加熱処理工程における前記加熱条件が550℃以上である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
項5. 前記加熱処理工程における前記加熱条件が850℃以下である、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
項6. 前記気相が空気又は空気と水蒸気との混合ガスである、項1~5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 前記加熱処理において還元剤を併用しない、項1~6のいずれかに記載の製造方法。
項8. 前記気相が不活性ガス又は不活性ガスと水蒸気との混合ガスである、項1~5,7のいずれかに記載の製造方法。
項9. 前記加熱処理においてさらに還元剤を用いる、項1~6,8のいずれかに記載の製造方法。
項10. 前記還元剤が、アルミニウム、鉄、及び亜鉛からなる群より選択される金属、並びに/若しくは炭素である、項9に記載の製造方法。
項11. ロジウム元素を含む廃触媒と塩化マグネシウムとを、単一の気相中で、前記廃触媒が溶融しない加熱条件に供し、ロジウム元素可溶化物を含む反応物を得る加熱処理工程と、前記反応物から前記ロジウム元素を溶出させる溶出処理工程を含む、リサイクルロジウムの製造方法。
項12. 前記溶出処理工程において、前記溶出を酸抽出により行う、項11に記載の製造方法。
項13. 前記酸が塩酸又は王水である、項12に記載の製造方法。
項14. 前記溶出処理工程を常圧で行う、項11~13のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、白金族元素の中でも特にロジウムを高回収率で回収しながらも、当該回収に要する条件をより穏やかにすること及び/又はより単純化することで、設備上の制約を緩和できる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】自動車触媒の使用に伴う変化の一例及びそれによって生じる廃触媒の状態を模式的に示す。
【
図3】自動車触媒の使用に伴う変化の他の例及びそれによって生じる廃触媒の状態を模式的に示す。
【
図4】実施例で用いた、本発明のリサイクル用のロジウム元素可溶化物の製造方法を実施する装置の一例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリサイクル用のロジウム元素可溶化物の製造方法は、ロジウム元素を含む廃触媒と塩化マグネシウムとを、単一の気相中で、前記廃触媒が溶融しない加熱条件に供し、ロジウム元素可溶化物を含む反応物を得る加熱処理工程を含むことを特徴とする。また、本発明のリサイクルロジウムの製造方法は、ロジウム元素を含む廃触媒と塩化マグネシウムとを、単一の気相中で、前記廃触媒が溶融しない加熱条件に供し、ロジウム元素可溶化物を含む反応物を得る加熱処理工程と、前記反応物から前記ロジウム元素を溶出させる溶出処理工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0014】
なお、ロジウム元素可溶化物とは、上記加熱処理工程により得られるロジウム元素を含む物質であって、酸への溶出性が廃触媒に存在するロジウム元素を含む物質よりも向上している(つまりより易溶出性である)ものをいい、ロジウム元素が塩の形態であるか金属の形態であるかを問わない。
【0015】
以下、本発明のリサイクル用のロジウム元素可溶化物の製造方法及びリサイクルロジウムの製造方法(これらをまとめて単に「製造方法」とも記載する。)について詳述する。
【0016】
1.加熱処理工程
加熱処理工程では、ロジウム元素を含む廃触媒と塩化マグネシウムとを、単一の気相中で、前記廃触媒が溶融しない加熱条件に供し、ロジウム元素可溶化物を含む反応物を得る。
【0017】
1-1.廃触媒
廃触媒については、ロジウム元素を含むものであれば特に限定されない。典型的には、廃触媒は、自動車排ガス等の内燃機関排ガスの浄化用触媒等として用いられる三元触媒の使用済みのものであって、通常、ロジウム元素と共に他の白金族元素(具体的には、白金元素及びパラジウム元素)を含む。
【0018】
廃触媒は、ハニカム担体に触媒組成物が担持されており、触媒組成物には、母材、活性種及び助触媒が含まれる。ハニカム担体の材料としては、コーディエライト、アルミナ、スピネル、ムライト、チタン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、炭化珪素、ゼオライト、ペロブスカイト、シリカアルミナ等のセラミックス等が挙げられる。母材としては、アルミナ等が挙げられ、活性種としては、ロジウム元素の他に、白金元素及びパラジウム元素が挙げられる。
図1に示すように、ロジウム元素活性種2は、母材1の上に微粒子の形態で配置されている。助触媒としては、酸化セリウム等が挙げられる。
【0019】
廃触媒は、自動車製造から8~15年程度排ガスの浄化に使用された後、廃車時に廃棄物として排出されることが一般的である。排ガスの浄化とは、白金族元素を触媒としたCO、HCの酸化除去、NOxの還元除去を意味する。排ガスの浄化は900℃を超えるような高温条件下で行われ、三元触媒はこのような高温条件下で長期間に亘り使用されるため、熱劣化と呼ばれる現象が起こる。熱劣化は、具体的には、母材の表面に存在する白金族元素の微粒子が凝集する、母材と固溶する、及び/又は、白金族元素の微粒子の表面が酸化されることによって、白金族元素の排ガス浄化における触媒活性が低下する現象である。
【0020】
白金族元素のうち特にロジウム元素については、母材のアルミナに固溶しやすいことが知られており、
図2に示すように、一部のロジウム元素は母材1のアルミナと固溶体3(具体的には、RhO
x-Al
2O
3)を形成する。固溶体3は、ロジウム元素活性種2が母材1であるアルミナ結晶中に入り込む形で固溶するため、微粒子形状(ロジウム元素活性種2の形状)が消失する。ロジウム元素がこのようにアルミナと固溶すると、常圧下加熱で塩酸又は王水を用いて酸溶解を行っても、母材内部に取り込まれたロジウム元素と酸との効率的接触が困難であり、かつ、固溶体3が酸に難溶であることから、一部のロジウム元素は溶解されずに廃触媒中に残留する。
【0021】
また、ロジウム元素活性種が完全には固溶せずに母材の表面に残ったとしても、
図3に示すように、ロジウム元素活性種2の微粒子の表面が酸化されてロジウム酸化物被覆微粒子4を形成する。ロジウム酸化物被覆微粒子4は、表面がRh
2O
3及び/又はRhO
2等のロジウム酸化物で被膜されている。被膜を構成するロジウム酸化物は酸に難溶であることから、塩酸又は王水を用いて酸溶解を行っても溶解されずに廃触媒に残留する。
【0022】
廃触媒の使用時の様々な条件により、ロジウムは、母材アルミナとの固溶体の形成(
図2)、ロジウム微粒子の表面酸化(
図3)、或いは、それらの両方の現象が生じことで、極めてリサイクル困難な形態で廃触媒中に存在している。
【0023】
廃触媒の形態については、廃触媒に含まれるロジウム元素と、塩化処理試薬又は塩化処理試薬から発生する塩素系活性ガスとが接触可能である限りにおいて特に限定されない。塩化処理試薬による作用の効率性を向上させる観点から、破砕された形態であることが好ましく、粉体の形態であることがより好ましい。粉体のサイズとしては特に限定されないが、好ましくは篩目500μmを通過する程度であることが好ましい。廃触媒を粉体に粉砕する方法については任意の粉砕方法から適宜選択すればよいが、例えば、ジョークラッシャー、ボールミル等を用いる方法が挙げられる。
【0024】
廃触媒粉体に含まれる各元素の含有量としては特に限定されないが、ロジウム元素については、例えば0.02~0.1重量%、好ましくは0.02~0.07重量%、より好ましくは0.04~0.06重量%が挙げられ;白金元素については、例えば0.06~1重量%、好ましくは0.07~0.5重量%、より好ましくは0.08~0.2重量%が挙げられ;パラジウム元素については、例えば0.04~1重量%、好ましくは0.15~0.7重量%、より好ましくは0.2~0.4重量%が挙げられ;アルミニウム元素については、例えば12~28重量%、好ましくは18~20重量%が挙げられ;セリン元素については、例えば2~7重量%、好ましくは4~5重量%が挙げられ;鉄元素については、例えば0.3~2重量%、好ましくは0.5~1.5重量%が挙げられ;マグネシウム元素については、例えば2~7重量%、好ましくは4~5重量%が挙げられ;ケイ素元素については、例えば10~20重量%、好ましくは14~16重量%が挙げられ;ジルコニウム元素については、例えば2~8重量%、好ましくは4~6重量%が挙げられる。
【0025】
1-2.塩化マグネシウム
塩化マグネシウムは、廃触媒と共に加熱されることにより、廃触媒に担持されているロジウム等の白金族元素を、ロジウム元素可溶化物を含む易溶出性の物質に変換する。塩化マグネシウムとしては、塩化マグネシウム無水物及び塩化マグネシウム水和物(MgCl2・6H2O)のいずれを用いてもよい。
【0026】
塩化マグネシウムにより廃触媒中のロジウム元素等の白金族元素が加熱処理される詳細な反応機構については定かではないが、加熱により塩化マグネシウムから塩素ガス及び/又は塩化水素ガスが発生し(下記式群(A))、このような塩素系活性ガスが、廃触媒に担持されているロジウム元素等の白金族元素と反応し、ロジウム元素可溶化物に変換するものと考えられる。例えば、廃触媒に担持されているロジウム元素(例えばRh2O3等の形態のもの)については、ロジウム元素可溶化物としてロジウムの塩化物塩(例えばRhCl3)に変換する(下記式群(B))と考えられる。また塩化マグネシウムとの直接反応による可溶化物への変換、例えば廃触媒に担持されているロジウム元素(例えばRh2O3等の形態のもの)については、ロジウム元素可溶化物としてロジウムの塩化物塩(例えばRhCl3)への変換(下記式群(C))も起きていると考えられる。
【0027】
【0028】
塩化マグネシウムと反応して得られるロジウム元素可溶化物は、他の白金族元素可溶化物とともに、廃触媒に担持又は付着した反応物の状態で得られる。つまり、本発明によれば、従来の塩素ガスを用いた高温塩素化により白金族元素を塩化物として揮発させる方法とは異なり、白金族元素を揮発させない形態で可溶化物に変換することができる。
【0029】
塩化マグネシウムの使用態様としては、廃触媒と接触させられた形態、好ましくは廃触媒粉体との混合物(以下において、「廃触媒混合物」とも記載する。)をなしている形態(以下において、「接触形態」とも記載する。)と、廃触媒粉体と接触させずに離間して載置されている形態(以下において、「離間形態」とも記載する。)とが挙げられる。
【0030】
接触形態では、塩化マグネシウムが廃触媒粉体と接触しているため、式群(A)に示される塩化マグネシウムから発生した塩素系活性ガスが、直ちに廃触媒粉体中のロジウムに作用し、式群(B)の反応を極めて効率的に進行させることができる点で特に好ましい。また、接触形態では、式群(C)の反応も極めて効率的に進行させることができる。しかも、気相中に塩素系活性ガスを充満させることなく所望の反応を進行させることができることから、腐食性ガスの漏洩防止及び/又は腐食性ガスに対する耐腐食性を充足するために厳密に構成された設備を要しない点で、設備負担が格段に軽減される点でも特に好ましい。
【0031】
離間形態では、式群(A)に示される塩化マグネシウムから発生した塩素系活性ガスが気相中に放出され、さらに、離れた位置に載置されている廃触媒粉体に塩素系活性ガスが到達すると、式群(B)の反応が進行する。廃触媒粉体に塩素系活性ガスを効率的に作用させる観点から、気相中の気体を一方向に流動させ、且つ塩化マグネシウムを上流側に載置し、廃触媒粉体を下流側に載置することができる。なお、離間形態では、気相中の塩素系活性ガスの濃度が高ければ高いほど、廃触媒粉体に塩素系活性ガスを効率的に作用させることができる。
【0032】
塩化マグネシウムの使用量(塩化マグネシウムを水和物の形態で用いる場合は、結合水を除く量)については、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されないが、例えば、廃触媒粉体1重量部に対し、例えば0.2重量部以上、好ましくは0.4重量部以上、より好ましくは1.1重量部以上、さらに好ましくは1.3重量部以上が挙げられる。塩化マグネシウムの使用量範囲は、その上限においても特に限定されないが、廃触媒粉体1重量部に対し、例えば、5重量部以下、好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1.7重量部以下が挙げられる。
【0033】
1-3.他の塩化物塩
また、塩化マグネシウムとともに、塩化ナトリウムなどの他の塩化物を補助剤として用いることができる。このような塩化物としては、ロジウムの塩化には寄与せず複塩形成剤として寄与するものが用いられ、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属の塩化物塩が挙げられる。例えば塩化ナトリウムが補助剤として用いられる場合、塩化マグネシウムによるロジウムの塩化において複塩Na3RhCl6を形成することで、ロジウム元素可溶化物をより易溶出性の物質として得ることができる。
【0034】
1-4.還元剤
本発明においては、ロジウムの回収率をより一層向上させる目的等において、還元剤を用いることが好ましい。
【0035】
還元剤としては、廃触媒中の白金族元素化合物を還元できるものであれば特に限定されず、例えば、アルミニウム、鉄、及び亜鉛等の金属、並びに炭素が挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの還元剤の中でも、ロジウムの回収率をより一層向上させる観点から、好ましくは、鉄、炭素が挙げられ、より好ましくは鉄が挙げられる。
【0036】
還元剤の形態としては特に限定されず、例えば、粒子状(具体的には、粒径がナノメートルオーダーの粉末状、粒径がミリメートルオーダーの粒状等)、及び箔状等が挙げられる。
【0037】
還元剤として金属を用いる場合、上記式群(B)および/または上記式群(C)で得られた、それ自体ロジウム元素の可溶化物であるロジウムの塩化物塩が、金属によってさらにロジウム金属に還元される(下記式群(D))と考えられ、ロジウム元素の可溶化物を金属の形態で得ることができる。
【0038】
【0039】
還元剤として炭素を用いる場合、炭素と水が反応することにより水素(H2)が生じ、上記式群(B)および/または上記式群(C)で得られた、それ自体ロジウム元素の可溶化物であるロジウムの塩化物塩が、水素によってさらにロジウム金属に還元される(下記式群(E))と考えられ、ロジウム元素の可溶化物を金属の形態で得ることができる。
【0040】
【0041】
還元剤の使用態様としては、廃触媒及び塩化マグネシウムと共に廃触媒と接触させて用いる形態、好ましくは廃触媒及び塩化マグネシウムを含む廃触媒混合物中に混合して用いる形態と、廃触媒粉体及び塩化マグネシウムのいずれとも接触させずに離間させて用いる形態とが挙げられる。なお、還元剤を廃触媒と接触させて用いる場合の還元剤としては、好ましくは金属が挙げられる。また、還元剤を離間させて用いる場合の還元剤としては、金属及び炭素のいずれを用いてもよいが、好ましくは炭素が挙げられる。還元剤を離間させて用いる場合、気相中の気体を一方向に流動させ、且つ還元剤を上流側(還元剤として炭素を用いる場合)又は下流側(還元剤として金属を用いる場合)に載置することができる。
【0042】
還元剤の使用量については特に限定されないが、例えば、廃触媒粉体1重量部に対し、例えば0.3重量部以上、好ましくは1重量部以上、より好ましくは1.2重量部、さらに好ましくは2重量部以上、一層好ましくは2.5重量部以上が挙げられる。還元剤の使用量範囲は、その上限においても特に限定されないが、廃触媒粉体1重量部に対し、例えば、5重量部以下、好ましくは4重量部以下、さらに好ましくは3.5重量部以下、3重量部以下、2.5重量部以下、又は2重量部以下が挙げられる。
【0043】
1-5.反応条件
加熱処理工程における反応条件については、上記の塩素系活性ガスが発生する温度であること、及び廃触媒を溶融させない温度に供することを条件として特に限定されない。
【0044】
加熱処理工程における具体的な温度としては、好ましくは、550℃以上が挙げられる。ロジウムの回収率をより一層向上させる観点から、より好ましくは580℃以上、さらに好ましくは680℃以上、一層好ましくは780℃以上が挙げられる。
【0045】
加熱処理工程における温度の上限は、廃触媒を溶融させない温度に設定されればよいが、温度が低いほど、設備負荷が軽くなるため好ましい。加熱処理における具体的な温度の上限としては、例えば850℃以下、好ましくは830℃以下、より好ましくは820℃以下が挙げられる。また、加熱処理工程において還元剤として亜鉛等の揮発しやすい物質を用いる場合は、そのような物質が揮発しない温度(例えば600℃以下等)に設定することもできる。
【0046】
加熱処理工程における気相を構成する気体については、空気、不活性ガス、及びこれらのガスと水蒸気との混合ガスが挙げられる。ロジウムの回収率をより一層向上させる観点から、還元剤を併用しない場合は、好ましくは空気又は空気と水蒸気との混合ガスが挙げられ、還元剤を併用する場合は、好ましくは不活性ガス又は不活性ガスと水蒸気との混合ガスが挙げられる。不活性ガスとしては特に限定されないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられ、好ましくはアルゴンが挙げられる。
【0047】
加熱処理工程における気相の圧力については特に限定されないが、本発明がロジウム溶出効率に優れているため、好ましくは常圧(非加圧)が挙げられる。
【0048】
加熱処理工程を行う時間については、廃触媒粉体の仕込みスケール及び/又は反応温度等に応じて適宜決定すればよい。具体的な加熱処理時間としては、例えば5分~5時間、好ましくは10分~3.5時間が挙げられる。なお、空気又は空気と水蒸気との混合ガスのもとで加熱処理を行う場合の加熱処理時間は、加熱を持続させることによるロジウム元素可溶化物の再酸化を抑制するよう、比較的短い時間に設定することが望ましい。このような観点から、好適な加熱処理時間としては、5分~2時間、10分~1時間、又は10分~30分が挙げられる。
【0049】
2.溶出処理工程
溶出処理工程では、加熱処理工程で得られたロジウム元素可溶化物を含む反応物からロジウム元素を溶出させる。
【0050】
溶出処理は、典型的には湿式処理により行う。具体的には、溶出処理は酸抽出により行うことができる。酸抽出で用いられる酸溶液としては、王水、塩酸が挙げられる。これらの酸溶液の中でも、還元剤を併用しない場合は、ロジウムの回収率をより一層向上させる観点から好ましくは塩酸が挙げられ、還元剤を併用する場合は、ロジウムの回収率をより一層向上させる観点から好ましくは王水が挙げられる。
【0051】
塩酸の塩化水素濃度としては特に限定されないが、好ましくは6~13.5N、より好ましくは8~12N、さらに好ましくは10~12Nが挙げられる。
【0052】
溶出処理における温度としては特に限定されないが、例えば80~150℃、好ましくは90~120℃、より好ましくは95~110℃が挙げられる。
【0053】
溶出処理における気相の圧力については特に限定されないが、本発明がロジウム溶出効率に優れているため、好ましくは常圧(非加圧)が挙げられる。
【0054】
3.他の工程
本発明の製造方法は、上記工程の他に、本発明の効果を損なわない限り、任意の他の工程を含むことができる。このような他の工程としては、加熱処理工程の前に行われる工程として、前焼成工程が挙げられ、加熱処理工程の後に行われる工程として、物理的選別工程が挙げられ、溶出処理工程の後に行われる工程として、固液分離工程及び濃縮工程が挙げられる。
【0055】
3-1.前焼成工程
前焼成工程では、廃触媒粉体を焼成する。焼成温度としては特に限定されないが、例えば900~1100℃が挙げられる。焼成における雰囲気としては特に限定されないが、例えば空気などの酸化雰囲気、アルゴンなどの不活性雰囲気、水素などの還元雰囲気が挙げられる。ロジウムの回収率をより一層向上させる観点からは、酸化雰囲気での前焼成工程を行わない方が好ましい。
【0056】
3-2.物理的選別工程
物理的選別工程では、反応後の廃触媒粉体から未反応の還元剤を物理的に選別して除去する。物理的選別の具体的方法としては、選別対象となる物質の物理的特性に応じて当業者が適宜選択することができ、例えば選別対象が鉄の場合は磁力を用いた選別法が挙げられ、選別対象がアルミニウムの場合は静電気を用いた選別法が挙げられる。物理的選別工程により、後の溶出処理工程での酸の消費量を削減することができる。また、選別した未反応の還元剤は、加熱処理における還元剤として再利用することができる。
【0057】
3-3.固液分離工程
固液分離工程では、溶出工程後のロジウム元素を含む溶出液を不溶残渣と分離して回収する。分離回収の具体的な方法としては、好ましくはろ過が挙げられ、より好ましくはメンブレンフィルターを用いたろ過が挙げられる。
【0058】
3-4.濃縮工程
濃縮工程では、固液分離工程で得られた溶出液から濃縮ロジウム元素を含む材料を得る。濃縮ロジウム元素を含む材料を得る具体的な方法としては、溶出液中のロジウム元素を濃縮できる任意の方法であってよく、このような方法は、当業者によって適宜選択される。
【0059】
濃縮工程で行われる方法の具体例としては、揮発成分除去、中和、抽出、還元沈降、及び単一元素の分離等から選択される1種又は複数種が挙げられる。これら具体的な方法の具体的な操作手順は、当業者が適宜決定することができる。
【0060】
濃縮工程において得られる濃縮ロジウム元素を含む材料は、少なくとも、廃触媒に含まれていたロジウム元素を、廃触媒に含まれていた濃度に比べて極めて高い濃度で(つまり濃縮された状態で)含む。濃縮ロジウム元素を含む材料に含まれる具体的な成分は、本工程で適用された方法に依存して異なりうる。
【0061】
例えば、濃縮工程において、単一元素の分離以外の方法を行った場合、得られる濃縮ロジウム元素を含む材料は、典型的には、廃触媒に含まれていた白金族元素の組み合わせを含む。廃触媒が、ロジウム以外に白金及び/又はパラジウムを含んでいた場合は、通常、濃縮ロジウム元素を含む材料は、濃縮白金及び/又は濃縮パラジウムも含む混合物として得られる。濃縮ロジウム元素を含む材料には、さらに、溶出処理工程ロジウム元素等の白金族元素と同時に溶出した他の元素(例えば、セリウム、マグネシウム、ジルコニウム、及び/又はアルミニウム等)も含まれ得る。
【0062】
濃縮工程において、単一元素の分離を行った場合、得られる濃縮ロジウム元素を含む材料は、廃触媒に由来する元素としてロジウムを単独で含む。
【実施例0063】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
(1)材料
(1-1)廃触媒の粉体
コージェライト(ハニカム担体)、耐熱性アルミナ等(母材)、及び酸化セリウム等(助触媒)を含む三元触媒である自動車排ガス浄化用触媒の廃触媒を、500μm未満の粉体となるように粉砕したものを用意した。なお、この粉体は、Pdを0.2重量%、Ptを0.1重量%、Rhを0.05重量%、Alを18~20重量%、Ceを4~5重量%、Feを1重量%、Mgを4~5重量%、Siを14~16重量%、Zrを5重量%含んでいた。
【0065】
(1-2)処理用試薬-塩化物塩
塩化鉄(III)、塩化ナトリウム、塩化カルシウム水和物(CaCl2・2H2O)、若しくは、塩化マグネシウム水和物(MgCl2・6H2O)又は塩化マグネシウム無水物(無水MgCl2)を用いた。
【0066】
(1-3)処理用試薬-還元剤
炭素(具体的には、活性炭の粉砕物)、アルミニウム(具体的には、粒径約3~5mmの粒状の金属アルミニウム(Al粒))、又は鉄(具体的には、粒径約20~200μmの粉状の金属鉄(Fe粉))を用いた。
【0067】
(2)試験装置
図4に示す加熱装置を用いた。
図4に示す加熱装置は、両端に開口部を有する石英管12(内径φ41mm、長さ120cm)を導入した管状炉11を有し、当該開口部の一方はガス流入用ラインに連通し、当該開口部の他方はガス排出用ラインに連通する。ガス流入用ラインは、当該開口部の一方とは反対側の末端が、ガスを供給するガスボンベ15(アルゴンガスボンベ)に連結され、ガスボンベと当該開口部の一方との間に、ガスボンベ側(上流側)から順に、流量計31と、バルブ21と、バルブ24と、バルブ25を介した真空計とが備えられ、流量計31よりもガスボンベ側(上流側)で、リリースバルブ22を備えるリリース用ラインに分岐し、バルブ21とバルブ24との間で、リリース用ラインとの連通部とニードルバルブ23とオイルミストトラップを備え、真空ポンプ17に連結された吸引用ラインに分岐している。
【0068】
(3)廃触媒混合物等の仕込み
(3-1)基本操作
下記(3-2)に該当するもの以外については、廃触媒粉体と、表1に示す加熱処理用試薬(塩化物塩及び還元剤)とを、表1に示す仕込み量でアルミナボート(幅30mm、高さ15mm、長さ118mm)にとり、薬さじで十分に混合し、廃触媒混合物を得た。一部の試験では蓋として別のアルミナボートを重ねて廃触媒混合物を覆った。廃触媒混合物14を載置したアルミナボート13を石英管12の中の中央付近に設置し、両開口部を、ガス流入用ライン及びガス排出用ラインをそれぞれ貫通させたシリコーン栓で封じた。加熱装置の全てのバルブが閉じていることを確認した。
【0069】
(3-2)還元剤として活性炭を用いる場合
活性炭の粉砕物を載置したアルミナボートと、廃触媒粉体と表1に示す加熱処理用試薬(塩化物塩)との混合物を載置したアルミナボートとを用意し、前者のアルミナボートは石英管12の中の上流側に、後者のアルミナボートは石英管12の中の下流側に設置した。その他の操作は上記(3-1)と同じである。
【0070】
(4)炉内ガスの調整
(4-1)アルゴンガス気相中で処理する場合
一部の試験(表中、「雰囲気」が「Ar」と表記されるもの)では、以下の操作を行った。バルブ23~25を開け、系内の気体を真空ポンプ17で排気した。真空度を確認し、バルブ23を閉じた後真空ポンプ17を停止した。バルブ21を開き、圧力計32を確認しながら系内が約1気圧となるまでガスボンベからガスを流した。その途中で、バルブ22、及びバルブ23を開き、オイルミストトラップ16への真空ポンプオイルの逆流を防ぐため、吸引用ラインも約1気圧とした。その後、バルブ21~23を閉じた。
【0071】
上記の操作を3回繰り返し、炉内の気相を完全に置換した。その後、すべてのバルブを閉じた。
【0072】
(4-2)加湿気相中で処理する場合
また、一部の試験(表中、「加湿」が「あり」と表記されるもの)では、水瓶を流量計の上流側に設置し、バブリングにより加湿した空気又はアルゴンガスを石英管12の中に流入させた。
【0073】
(5)加熱処理
バルブ21、24、25、26を開け、表1に示すガス流量でガスボンベからガスを流した。管状炉11の電源を入れ、表1に示す昇温速度で昇温を開始し、表1に示す温度及び保持時間で加熱処理を行った。保持時間終了後、加熱を停止し、室温程度になるまで自然冷却した(アルゴンガス気相中で処理した場合は、自然冷却中ガスを流し続けた)。
【0074】
アルミナボート13を取り出し、反応混合物の重量を測定した。
【0075】
(6)溶出処理
反応混合物を、表1に示す酸溶液100mLを用い、常圧で、100℃で4時間溶出処理した。0.45μmのメンブレンフィルターを用いて溶出液をろ過した。フィルター上の溶出残渣を一晩乾燥させ、溶出残渣重量を測定した。
【0076】
(7)分析及び評価
酸溶出液及び溶出残渣中のPGM(白金族元素、具体的には、Pd、Pt又はRh)及びセラミックス元素(具体的には、Al、Ce、Mg又はZr)の含有量を定量分析し、さらに、加熱処理前の廃触媒粉体重量と、溶出処理後の廃触媒粉体重量(溶出残渣重量)から、溶解後重量比を導出した。結果を表1に示す。
【0077】
下記計算式に基づき、PGM溶出率を算出した。
【数1】
【0078】
下記計算式に基づき、セラミックス元素の溶出率を算出した。
【数2】
【0079】
下記計算式に基づき、溶解後重量比を導出した。
【数3】
【0080】
【0081】
表1に示す通り、塩化マグネシウムを用いて廃触媒を加熱処理することで、廃触媒の溶融を不要とする温度条件でありながら、廃触媒に担持されているロジウム等の白金族元素を揮発させない態様でロジウム元素可溶化物を含む易溶出性の物質に変換することができたため、常圧条件下での溶出で、白金族元素を高効率で溶出でき、特に、ロジウムの溶出率の向上が際立っていた(実施例1~13)。中でも、短時間で顕著に高いロジウム回収率が達成できた(実施例7)のは特筆すべき効果であった。また、前焼成をしない方がロジウムの溶出率が高くなることが判った(実施例4、5と対比される実施例2、3)。つまり、塩化マグネシウムを用いて廃触媒を加熱処理することでロジウムを回収する方法は、ロジウムを高回収率で回収できるとともに、当該回収に要する条件がマイルド且つシンプルであるため、設備上の制約を緩和できる優れた方法であることが判った。
【0082】
また、加熱処理条件をアルゴンガス気相中且つ還元剤の共存下で行った場合も、高いロジウム回収率が達成されている(実施例9~13)中で、還元剤として鉄を用いた場合(実施例11~13)に、ロジウムの溶出率の向上が各段顕著であった。
【0083】
なお、還元剤を用いない場合は、溶出時に使用する酸溶液として、王水よりも濃塩酸の方でロジウムの溶出率が向上した(実施例2、4と対比される実施例3、5)。この場合のロジウムの溶出率の向上は数パーセント程度であるが、ロジウムの希少性や市場価格の高騰を考慮すると、この程度の溶出率の向上も顕著と認められる。一方、還元剤を併用した場合は、濃塩酸よりも王水の方でロジウムの溶出率が向上したことを確認した。還元剤を併用した場合に王水の方でロジウムの溶出率が向上した要因は、式群(D)および式群(E)で示したように、ロジウムの塩化物塩がロジウム金属に還元されたことにより、酸化力がより強い王水に溶出しやすいことにあると合理的に推察される。