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  • 特開-試料の評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112748
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】試料の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/30 20100101AFI20240814BHJP
   G01Q 30/20 20100101ALI20240814BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G01Q60/30
G01Q30/20
G01N33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091092
(22)【出願日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2023017636
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】横塚 英治
(57)【要約】
【課題】複数種類の樹脂と無機化合物粒子とを含有する試料において、該複数種類の樹脂の各々を区別してマッピング可能にする。
【解決手段】複数種類の樹脂と無機化合物粒子とを含有する試料に対してアルゴンによるイオンミリングを行い被測定面を得るイオンミリング工程と、被測定面に対して走査プローブ顕微鏡により弾性率をマッピングして被測定面における複数種類の樹脂の各々と無機化合物粒子とを区別するマッピング工程と、を有する、試料の評価方法を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の樹脂と無機化合物粒子とを含有する試料に対してアルゴンによるイオンミリングを行い被測定面を得るイオンミリング工程と、
前記被測定面に対して走査プローブ顕微鏡により弾性率をマッピングして前記被測定面における前記複数種類の樹脂の各々と前記無機化合物粒子とを区別するマッピング工程と、
を有する、試料の評価方法。
【請求項2】
前記被測定面の平均粗さは50nm以下である、請求項1に記載の試料の評価方法。
【請求項3】
前記被測定面の最大高さは250nm以下である、請求項1又は2に記載の試料の評価方法。
【請求項4】
前記複数種類の樹脂の間での弾性率E(単位:Pa)の対数(log(E))の差は1を超える、請求項1又は2に記載の試料の評価方法。
【請求項5】
前記複数種類の樹脂の少なくとも2種は同族体である、請求項1又は2に記載の試料の評価方法。
【請求項6】
前記被測定面の平均粗さは50nm以下であり、
前記被測定面の最大高さは250nm以下であり、
前記複数種類の樹脂の間での弾性率E(単位:Pa)の対数(log(E))の差は1を超え、
前記複数種類の樹脂の少なくとも2種は同族体である、請求項1に記載の試料の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の評価方法に属する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、質量や弾性等をカンチレバー等の振動体の振動挙動から測定するための計測装置、計測装置用の部品及び計測装置用の演算処理装置が記載されている([0001])。測定対象の物理量として、質量に限るものではなく、表面形状、弾性率、粘弾性率、力の場のいずれかでもよいことが記載されている([0055])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2020/080544号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料中の各成分の分散状態を評価する方法としては光学顕微鏡が挙げられる。その一方、該分散状態を詳細に評価するためには、各成分の形状又は配置関係を区別して観察する必要がある。
【0005】
本発明者は以下の知見を得た。複数種類の樹脂(有機化合物樹脂)と無機化合物粒子とが試料中において包含される場合、光学顕微鏡では該樹脂を種類ごとに区別できない可能性がある。染色を用いることも考えられるが、その場合、該無機化合物粒子と染料とが反応する可能性がある。
【0006】
本発明の課題は、複数種類の樹脂と無機化合物粒子とを含有する試料において、該複数種類の樹脂の各々を区別してマッピング可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討した。各成分の弾性率が異なることに着目し、走査プローブ顕微鏡(以下、SPMとも称する。)による弾性率マッピングが有用と考えられた。
【0008】
本発明は上記の知見の下に創出された。その具体的な態様は以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
複数種類の樹脂と無機化合物粒子とを含有する試料に対してアルゴンによるイオンミリングを行い被測定面を得るイオンミリング工程と、
前記被測定面に対して走査プローブ顕微鏡により弾性率をマッピングして前記被測定面における前記複数種類の樹脂の各々と前記無機化合物粒子とを区別するマッピング工程と、
を有する、試料の評価方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、
前記被測定面の平均粗さは50nm以下である、第1の態様に記載の試料の評価方法である。
【0010】
本発明の第3の態様は、
前記被測定面の最大高さは250nm以下である、第1又は第2の態様に記載の試料の評価方法である。
【0011】
本発明の第4の態様は、
前記複数種類の樹脂の間での弾性率E(単位:Pa)の対数(log(E))の差は1を超える、第1又は第2の態様に記載の試料の評価方法である。
【0012】
本発明の第5の態様は、
前記複数種類の樹脂の少なくとも2種は同族体である、第1又は第2の態様に記載の試料の評価方法である。
【0013】
本発明の第6の態様は、
前記被測定面の平均粗さは50nm以下であり、
前記被測定面の最大高さは250nm以下であり、
前記複数種類の樹脂の間での弾性率E(単位:Pa)の対数(log(E))の差は1を超え、
前記複数種類の樹脂の少なくとも2種は同族体である、第1の態様に記載の試料の評価方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料中の各成分の分散状態を詳細に評価できる。
特に、本発明によれば、試料が複数種類の樹脂を含有する場合、無機化合物粒子に加え、該複数種類の樹脂の各々も区別してマッピング可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ミクロトーム(比較例1)により得られた断面に対する弾性率測定結果を示す図であり、(a)は形状像、(b)は弾性率のマッピング結果を示す。
図2図2は、CP(実施例1)により得られた断面に対する弾性率測定結果を示す図であり、(a)は形状像、(b)は弾性率のマッピング結果を示す。
図3図3は、CP(実施例2)により得られた断面に対する弾性率測定結果を示す図であり、(a)は形状像、(b)は弾性率のマッピング結果を示す。
図4図4は、冷却型CP(実施例3)により得られた断面に対する弾性率測定結果を示す図であり、(a)は形状像、(b)は弾性率のマッピング結果を示す。
図5図5は、カーテン効果による凹凸が加工面に生じる様子を示す、被測定面の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について説明する。本実施形態は、複数種類の樹脂と無機化合物粒子とを含有する試料に対してアルゴンによるイオンミリングを行い被測定面を得るイオンミリング工程と、前記被測定面に対して走査プローブ顕微鏡により弾性率をマッピングするマッピング工程と、を有する、試料の評価方法に係る。
【0017】
本実施形態における試料は、複数種類の樹脂と無機化合物粒子とを含有する。それ以外の内容には限定は無い。
【0018】
複数種類の樹脂とは有機化合物樹脂である。これらの樹脂は金属を含んでいても構わない。これらの樹脂のことをまとめてバインダーとも言う。
【0019】
無機化合物粒子を構成するのは金属化合物(金属単体含む)であってもよい。
【0020】
仮に、試料中の各成分の分散状態を評価する方法として走査電子線顕微鏡(以降、SEMと記す。)を採用した場合、SEMだと原子番号の違いに応じたコントラスト像を表示できる。その一方、試料中には樹脂が含有される。樹脂は、主にC(炭素)及びH(水素)で構成される有機化合物である。その場合、該分散状態を評価するうえで、SEMの検出器では感度が足りない。これは、バインダーが複数種類の有機化合物(「樹脂」を指す。)により構成されている場合、これらの有機化合物がSEMの画像上ではほぼ同等に映しだされることを意味する。これでは、複数種類の有機化合物を区別できない。
【0021】
その一方、バインダーを構成する樹脂が複数種類であっても、本実施形態を適用することにより、無機化合物粒子に加え、該複数種類の樹脂の各々も区別してマッピング可能になる。つまり、バインダーを構成する樹脂が複数種類であれば、本実施形態の効果が際立つ。
【0022】
走査プローブ顕微鏡(SPM)は、原子間力顕微鏡(AFM)又は広がり抵抗顕微鏡(SSRM)などの総称であり、特定の装置構成に限定されない。
【0023】
SPMの基本的な測定原理は以下の通りである。カンチレバーの先端に装備した探針を試料に近づける、あるいは接触させた際に発生する相互作用を検出して、得られた情報を解析して画像化及び数値化する。
【0024】
SPMにより、試料(詳しく言うと試料を構成する各成分、以降同様)に探針を押し付けた際のカンチレバーのたわみ量とカンチレバーのバネ定数から得られるフォースカーブを解析して弾性率が算出される。カンチレバーのバネ定数は、試料の弾性率に合わせて選択すればよい。
【0025】
SPMの測定条件は、AFMによる表面粗さ測定と基本的には同じである。但し、本実施形態の場合、試料を取り扱うことから、比較的硬いカンチレバーを用いるのがよい。そのカンチレバーに適した測定条件(触圧、PID設定、走査速度など)に設定すればよい。
【0026】
試料中の各成分の分散状態を調べるには、試料の断面を露出させ、この露出した面を被測定面とすればよい。試料の被測定面は以下のように得るのが好ましい。
【0027】
本実施形態では、上記試料に対してアルゴンによるイオンミリングを行い、断面を露出させる。この断面を被測定面とする。本作業をイオンミリング工程と称する。具体的な装置には限定は無いが、例えばクロスセクションポリッシャー(登録商標)を使用可能であり、以降はこの例を挙げる。
【0028】
その一方、露出させた断面に凹凸が存在するか否かは、SPM探針の接触面積及び触圧の変化をもたらす。そのため、断面の平滑性は重要である。特に、本実施形態では、複数種類の樹脂と無機化合物粒子とを含有する試料が評価対象となる。樹脂と無機化合物粒子とでは、一般的に硬さが大きく異なる。断面の平滑性を確保するのが上記の通り好ましいその一方、このような試料に対して該平滑性を確保することは容易とは言えない。そこで、本実施形態を採用することにより、このような試料に対しても断面の平滑性を確保できる。
【0029】
後掲の実施例2(CPを使用した例であって実施例1の加工条件を変更した例)だと、他の例である後掲の比較例1(ミクロトームを使用した例)及び実施例1(CPを使用した例)に比べ、断面の凹凸は小さかった。特に、エッチングレートの異なる界面を起点としてカーテン効果と呼ばれる線状の凹凸も小さかった。そのため、露出させた断面である被測定面は、試料に対してアルゴンによるイオンミリングを行い、それにより露出させた面であるのが好ましい。
【0030】
被測定面の平均粗さ(Ra)は50nm以下(或いは30nm以下、20nm以下、10nm以下)であるのが好ましい。また、被測定面の最大高さ(Rmax)は250nm以下(或いは200nm以下、150nm以下、120nm以下)であるのが好ましい。本段落の「以下」を「未満」と置き換えてもよい。ここで言う平均粗さ、最大高さは、後掲の実施例で使用したAFM装置にて自動で算出結果が得られる。平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rmax)はISO 25178又はJIS B 0601-2001に準拠したパラメータである。
【0031】
本実施形態によれば、試料中の各成分の分散状態を詳細に評価できる。
特に、本実施形態によれば、試料が複数種類の樹脂を含有する場合、無機化合物粒子に加え、該複数種類の樹脂の各々も区別してマッピング可能になる。
【0032】
なお、本発明の技術的範囲は本実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0033】
例えば、複数種類の樹脂の間での弾性率E(単位:Pa)の対数(log(E))の差は1を超えれば、後掲の実施例で示した図のように、マッピング結果を画像表示したときに明確に複数種類の樹脂を各々区別可能である。その一方、本発明は本段落に記載の規定に限定されない。例えば、マッピング工程においてマッピング結果を画像表示するのではなく数値として得る場合、画像上では区別つきにくくとも数値としては各種類の樹脂でマッピング可能である。本明細書における「マッピング工程」とは、画像表示する場合も含まれるし、その画像表示のもととなった数値と撮像画像上の配置との対応関係を得ることも含まれる。
【0034】
また、複数種類の樹脂において、その中でも少なくとも2種が同系統の樹脂であってもよい。具体的には、複数種類の樹脂において、その中でも少なくとも2種(好適には全種)が同じ官能基を備えてもよい。通常、同系統の樹脂だと、電子顕微鏡像上では区別がつきにくい。その一方、本実施形態を採用することにより、互いに弾性率が異なる樹脂同士であれば明確に区別可能となる。このような同系統の樹脂を、本明細書では同族体と称する。
【0035】
SPM探針と接触面積及び触圧の変化に関しては、上記の通り断面の平滑性が重要であると共に、SPM探針の劣化度合いについても重要である。このSPM探針の劣化度合いの判別は公知の技術にて行ってもよく、本発明に対して該公知の技術を適用してもよい。この公知の技術としては、本出願人による特開2022-153337号公報に記載の技術や、特許6515873号に記載の技術が挙げられる。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0037】
無機化合物粒子と有機化合物である樹脂A及び樹脂Bを混合して作製した試料に対し、ミクロトーム(比較例1)、CP(実施例1)、CPであって実施例1から条件を変えた例(実施例2)でそれぞれ断面加工した。なお、樹脂A、Bに比べ、無機化合物粒子は硬い。樹脂A、Bを比べたとき、樹脂Bの方が軟らかい。ミクロトームは、イオンビームを用いたイオンミリングではない。いずれの加工も常温で行った。それらとは別に、該試料に対し、液体窒素で試料を0℃に冷却する冷却型CP(実施例3)で断面加工した。冷却温度は0℃に設定した。
実施例1、2では、CPとしてJEOL製SM-09010を使用した。実施例3では、冷却型CPとしてJEOL製IB-19520CCPを使用した。実施例1での加速電圧は5kV、電流値は120μA、加工時間は12時間とした。実施例2、3での加速電圧は6kV、電流値は150μA、加工時間は8時間とした。
比較例1では、ミクロトームとしてライカ製EM UC7を使用した。切削速度は2mm/秒とし、送り量は300nmとした。
【0038】
これらの実施例で得られた各断面に対し、SPM(ブルカージャパン製Dimension Icon)により形状像(a)を得且つ弾性率のマッピング結果(b)を得た。その他の条件は以下の通りである。
測定範囲:10μm×10μm
走査速度:0.3 Hz(6μm/s)
測定点数:512×512
探針:単結晶シリコン(先端曲率半径:8 nm)
【0039】
図1は、ミクロトーム(比較例1)により得られた断面に対する弾性率測定結果を示す図であり、(a)は形状像、(b)は弾性率のマッピング結果を示す。
図2は、CP(実施例1)により得られた断面に対する弾性率測定結果を示す図であり、(a)は形状像、(b)は弾性率のマッピング結果を示す。
図3は、CP(実施例2)により得られた断面に対する弾性率測定結果を示す図であり、(a)は形状像、(b)は弾性率のマッピング結果を示す。
図4は、冷却型CP(実施例3)により得られた断面に対する弾性率測定結果を示す図であり、(a)は形状像、(b)は弾性率のマッピング結果を示す。
各図の平均粗さ及び最大高さは上記AFMにより求めた。
図1(比較例1)での平均粗さは148nm、最大高さは1537nmであった。
図2(実施例1)での平均粗さは27nm、最大高さは215nmであった。
図3(実施例2)での平均粗さは6nm、最大高さは118nmであった。
図4(実施例3)での平均粗さは7nm、最大高さは108nmであった。
【0040】
いずれの実施例においても、試料中の各成分の分散状態を詳細に評価できた。
【0041】
そのうえで、試料が複数種類の樹脂を含有する場合、CP(実施例2)及び冷却型CP(実施例3)が優れていた。詳しくは以下の通りである。
【0042】
ミクロトーム(比較例1)だと、形状像から被測定面の凹凸が数百nmと大きいことがわかった。弾性率像では有機樹脂の部分が形状に合わせて弾性率が上下していることから、凹凸の影響で弾性率が変動していると思われる。例えば、図1の破線囲み部分を見ると、形状像の特徴が弾性率像でも反映されていることがわかる。
【0043】
CP(実施例1)だと、形状像から被測定面の凹凸が数十nmであることがわかった。これは、ミクロトーム(比較例1)に比べると改善されている。その結果、図2(b)(実施例1)では、無機化合物粒子(最も硬い部分であり白色部分)と、樹脂A(灰色部分)と、樹脂B(軟らかい部分であり黒色部分)を明確に判別できた。その一方、弾性率像では、水平や斜め方向の線状の変動や粒子部の局所的な弾性率の低下など、凹凸の影響と思われる弾性率の変動が若干見られた。
【0044】
CPでエッチングレートの異なる複合材料を加工する場合、エッチングレートの異なる界面を起点としてカーテン効果と呼ばれる線状の凹凸が発生する。今回の測定対象は、無機化合物粒子と数種の有機化合物である樹脂との混合物である。各成分はエッチングレートが異なる。そのため、加工面に凹凸が発生しやすいと考えられる。
【0045】
図5は、カーテン効果による凹凸が加工面に生じる様子を示す、被測定面の概略斜視図である。
カーテン効果による凹凸は以下のメカニズムにより発生する。
イオンビームを一方向から照射する際に、硬い物質によりイオンビームが幾ばくか遮蔽されることにより該硬い物質の周囲にある軟らかい物質において切削量に差が生じ、その結果、該軟らかい物質において、イオンビームの照射方向に向けて放射状に段差が生じる。この段差に起因して、カーテン効果による凹凸は発生する。
【0046】
CPにおいてイオンビームは基本的には一方向から加工面に対して照射される。イオンビームの照射の際に試料を揺動させるとしても、照射方向は図5に示すように基本的に一方向である。照射方向は、図2(a)で言うと紙面右から左に向かう方向である。そのため、図2(a)の一点鎖線の囲み部分では、上下の各々の矢印が示す部分において、右から左に向けて放射状に加工痕が延びている。これがカーテン効果による凹凸である。図2(b)に示す弾性率像における一点鎖線の囲み部分では、カーテン効果による凹凸に起因し、右から左方向へと摺れた状態になっている。
【0047】
カーテン効果による凹凸は、加工装置上の問題で完全には無くせないが、加工条件を最適化して可能な限り小さくすることが重要である。
【0048】
CPのようなイオン加工では、エッチングレートが低い材料も高速にエッチングできるように加速電圧を上げたイオンビームで加工することで、複合材料の加工においてもカーテン効果を低減できる。そこで、実施例2、3では、加速電圧を上げた加工条件に変更した。具体的には、CP(実施例1)から加速電圧を上げた例(実施例2)に変更したり、実施例2に対して冷却型を採用した冷却型CP(実施例3)に変更したりした。
【0049】
その結果、CP(実施例2)及び冷却型CP(実施例3)だと、凹凸が数nmまで改善された。CP(実施例2)及び冷却型CP(実施例3)では、樹脂A及び樹脂Bの分散状態を各々区別して確認できることから、安定した弾性率測定ができることが分かった。
【0050】
ちなみに、冷却型CP(実施例3)を実施した経緯は以下の通りである。
通常、CPでは加工箇所が100℃程度になる。この場合、熱ダメージの有無について検討するのが無難である。
しかも、実施例2では、図5に示すような硬さの差に起因する段差を解消すべく、加速電圧を上げており、なおさら熱ダメージについて考慮する必要がある。熱ダメージの具体例としては、各物質(例えば樹脂Aと樹脂B)との間の界面に、熱膨張係数の違いにより空隙が発生することが挙げられる。
【0051】
この検討において、同じCPを採用しながらも加工箇所を0℃程度とした冷却型CPを実施例3として実施した。そして、この実施例3の結果を、実施例2の結果と比較した。両者を比較したところ、実施例2と3とで結果に大きな差は無かった。そのため、冷却型ではない実施例2であっても熱ダメージの影響はほぼなかったと考えられる。
【0052】
図5に示すようなカーテン効果による凹凸の解消は、試料を構成する各物質の硬さの差(特に樹脂Aと樹脂Bとの硬さの差)に起因する段差を解消可能な程度に加速電圧を上げればよい。各物質の種類(ひいては硬さの差)に応じて加速電圧を決定すればよい。仮に、加速電圧の増加により熱ダメージが懸念される場合は、冷却型CPを採用すればよい。
図1
図2
図3
図4
図5