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特開2024-112751金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜とその作製方法、および六方晶窒化ホウ素膜を有する半導体素子と電子デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112751
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜とその作製方法、および六方晶窒化ホウ素膜を有する半導体素子と電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20240814BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240814BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20240814BHJP
   C30B 31/04 20060101ALI20240814BHJP
   C01B 21/064 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C30B29/38 A
H01L29/78 618B
H01L21/365
C30B31/04
C01B21/064 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118117
(22)【出願日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2023017551
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴壽
(72)【発明者】
【氏名】谷口 尚
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
5F110
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077BE12
4G077FA02
4G077FA08
4G077GA01
4G077GA06
4G077HA06
5F045AA03
5F045AB15
5F045AC01
5F045AC07
5F045AC08
5F045AC09
5F045AC12
5F045AD10
5F045AD11
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AD15
5F045AD16
5F045AD17
5F045AD18
5F045AE09
5F045AE11
5F045AE13
5F045AE15
5F045AE17
5F045AE19
5F045AE21
5F045AE23
5F045AE25
5F045AF02
5F045AF03
5F045AF07
5F045AF09
5F045AF10
5F045AF19
5F045CA15
5F110CC07
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD03
5F110DD04
5F110DD05
5F110EE30
5F110GG04
5F110GG12
5F110GG13
5F110GG25
5F110GG32
5F110GG42
5F110GG43
5F110GG44
5F110GG51
5F110QQ17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜を提供すること。
【解決手段】金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製は、周期表第1族または第2族の金属の塩または水酸化物の水溶液中で六方晶窒化ホウ素膜に対して電気化学的処理を行うことを含む。上記電気化学的処理は、陰極上に六方晶窒化ホウ素単結晶膜を形成すること、および上記水溶液中に配置された陽極と陰極間に通電することを含むことができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第1族または第2族の金属の塩または水酸化物の水溶液中で六方晶窒化ホウ素膜に対して電気化学的処理を行うことを含む、金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製方法。
【請求項2】
前記電気化学的処理は、
陰極上に六方晶窒化ホウ素単結晶膜を形成すること、および
前記水溶液中に配置された陽極と前記陰極間に通電することを含む、請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
前記六方晶窒化ホウ素単結晶膜を前記陰極上に形成することは、
六方晶窒化ホウ素単結晶から六方晶窒化ホウ素単結晶の薄膜を取得し、
前記薄膜を前記陰極上に転写することを含む、請求項2に記載の作製方法。
【請求項4】
前記金属は、カリウムである、請求項1に記載の作製方法。
【請求項5】
周期表第1族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜。
【請求項6】
前記金属イオンが膜厚方向において分布する、請求項5に記載の六方晶窒化ホウ素単結晶膜。
【請求項7】
前記金属イオンがカリウムイオンである、請求項6に記載の六方晶窒化ホウ素単結晶膜。
【請求項8】
エネルギー分散型X線分光法によって求められるカリウムイオン濃度が0atm%よりも高く1.0atm%以下の領域を有する、請求項7に記載の六方晶窒化ホウ素単結晶膜。
【請求項9】
電子エネルギー損失分光法によって求められるホウ素のKエッジピーク強度に対するカリウムのLエッジピーク強度は、0.1以上5以下である、請求項7に記載の六方晶窒化ホウ素単結晶膜。
【請求項10】
電子エネルギー損失分光法によって求められる窒素のKエッジピーク強度に対するカリウムのLエッジピーク強度は、0.1以上5以下である、請求項7に記載の六方晶窒化ホウ素単結晶膜。
【請求項11】
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフト1364±1.5cm-1にピークを示す、請求項7に記載の六方晶窒化ホウ素単結晶膜。
【請求項12】
X線光電子分光法で求められる窒素の1s結合エネルギーは、未ドープ六方晶窒化ホウ素単結晶膜のそれよりも高く、
前記窒素の1s結合エネルギーについて、前記未ドープ六方晶窒化ホウ素単結晶膜との差は、0.10eV以上0.15eV以下である、請求項7に記載の六方晶窒化ホウ素単結晶膜。
【請求項13】
請求項5に記載の前記金属イオンでドープされた前記六方晶窒化ホウ素単結晶膜を含む半導体素子。
【請求項14】
請求項5に記載の前記金属イオンでドープされた前記六方晶窒化ホウ素単結晶膜を含む電子デバイス。
【請求項15】
ゲート電極
周期表第1族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜、
前記ゲート電極と前記六方晶窒化ホウ素単結晶膜の間のゲート絶縁膜、および
前記六方晶窒化ホウ素単結晶膜と電気的に接続される一対の電極端子を含む半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜とその作製方法に関する。あるいは、本発明の実施形態の一つは、上記六方晶窒化ホウ素単結晶膜を含む半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(h-BN)は、ホウ素原子と窒素原子が交互にsp結合することで形成される層が、窒素原子とホウ素原子が上下に交互に重なるように積層した層状化合物であり、新しいワイドギャップ半導体として期待されている。例えば特許文献1から4には、化学気相堆積(CVD)法やスパッタリング法で六方晶窒化ホウ素膜を形成する際に不純物を添加することで、マグネシウムやケイ素、リチウム、炭素、硫黄などの元素でドーピングされた六方晶窒化ホウ素膜を作製できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-041221号公報
【特許文献2】特開2015-030647号公報
【特許文献3】特開2015-030648号公報
【特許文献4】特開2015-034969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜を穏和な条件下で作製するための方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、上記六方晶窒化ホウ素単結晶膜を含む半導体素子を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製方法である。この作製方法は、周期表第1族または第2族の金属の塩または水酸化物の水溶液中で六方晶窒化ホウ素膜に対して電気化学的処理を行うことを含む。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、周期表第1族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜である。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、上記金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜を含む半導体素子および半導体デバイスである。
【0008】
本発明の実施形態の一つは、半導体素子である。この半導体素子は、ゲート電極、周期表第1族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜、ゲート電極と六方晶窒化ホウ素単結晶膜の間のゲート絶縁膜、および六方晶窒化ホウ素単結晶膜と電気的に接続される一対の電極端子を含む。
【0009】
本発明の実施形態の一つは、上記半導体素子を含む電子デバイスである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態の一つに係る、周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製方法を示すフローチャート。
図2】本発明の実施形態の一つに係る、周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製方法を示す模式図。
図3】本発明の実施形態の一つに係る、周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製方法を示す模式図。
図4A】実施例で作製したカリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜のエネルギー分散型X線分析(EDS)スペクトル。
図4B】比較例の六方晶窒化ホウ素単結晶膜のEDSスペクトル。
図5】実施例で作製したカリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜の環状暗視野(ADF)像。
図6図5の点Aにおける電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトル。
図7A】実施例で作製したカリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像。
図7B】実施例で作製したカリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜のホウ素元素のマッピング像。
図7C】実施例で作製したカリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜の窒素元素のマッピング像。
図7D】実施例で作製したカリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜のカリウム元素のマッピング像。
図8】実施例で作製したカリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜の透過型電子顕微鏡(TEM)像。
図9図8の測定点041におけるEDSスペクトル。
図10】ドープ前およびカリウムイオンによるドーピング後の六方晶窒化ホウ素単結晶膜のラマンスペクトル。
図11】ドープ前およびカリウムイオンによるドーピング後の六方晶窒化ホウ素単結晶膜のX線光電子分光(XPS)スペクトル。
図12】本発明の実施形態の一つに係る周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜を含む電界効果トランジスタの模式的端面図。
図13】実施例で作製したカリウムドープされた六方晶窒化ホウ素膜を含むトランジスタ、および未ドープ六方晶窒化ホウ素膜を含む電界効果トランジスタのVGS-IDS特性。
図14A】実施例で作製したカリウムドープされた六方晶窒化ホウ素膜を含む電界効果トランジスタのVGS-IDS特性。
図14B】実施例で作製した未ドープ六方晶窒化ホウ素膜を含む電界効果トランジスタのVGS-IDS特性。
図15A】実施例で作製したカリウムドープされた六方晶窒化ホウ素膜の電界電子放出特性を示す陽極電圧-放出電流プロット。
図15B】実施例で作製したカリウムドープされた六方晶窒化ホウ素膜の電界電子放出特性から得られたファウラー-ノルドハイム(F-N)プロット。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本出願で開示される発明の実施形態について説明する。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。以下の実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【0012】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0013】
1.金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製方法
周期表第1族または第2族の金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製方法の一例を示すフローチャートを図1に示す。六方晶窒化ホウ素膜は、膜全体が一つの結晶子として存在する単結晶膜でもよく、あるいは複数の単結晶の集合体である多結晶膜でもよい。あるいは、六方晶窒化ホウ素膜はアモルファス膜でもよい。図1に示すように、本作製方法の一例は、六方晶窒化ホウ素膜を形成した後、六方晶窒化ホウ素膜を作用電極である陰極上に転写し、陰極上の六方晶窒化ホウ素膜に対して周期表第1族または第2族の金属塩または水酸化物の水溶液中で電気化学的処理を行うことを含む。以下、本作製方法の詳細を説明する。
【0014】
(1)六方晶窒化ホウ素膜の形成と陰極上への転写
単結晶の六方晶窒化ホウ素膜を用いる場合、その作製方法に制約はないが、一例として、六方晶窒化ホウ素単結晶を再結晶法で合成し、その一部を剥離・転写することで六方晶窒化ホウ素単結晶膜を形成することができる。この方法では、粒径が0.1μmから1.0μm程度の六方晶窒化ホウ素焼結体を原料として用い、この六方晶窒化ホウ素焼結体、および溶媒として機能するホウ窒化バリウムやホウ窒化リチウムなどのホウ窒化金属をモリブデンカプセルなどの耐圧性カプセル内で高温高圧条件下で処理することによって六方晶窒化ホウ素単結晶を得ることができる。処理温度は、例えば1000℃以上2000℃以下であり、処理圧力は、例えば1.5×10気圧以上3×10気圧以下とすればよい。加熱時の昇温速度も任意に設定することができ、例えば100℃/分以上1000℃/分以下の範囲から設定すればよい。この後、カプセルを機械的処理および/または化学的処理によって除去することで、最大長が0.3mmから5mm程度の六方晶窒化ホウ素単結晶を得ることができる。
【0015】
この後、図2に示すように、表面に接着剤が付着した粘着テープ102を六方晶窒化ホウ素単結晶100上に貼り付けて剥がす(a)。これにより、六方晶窒化ホウ素単結晶100において層間剥離が生じ、六方晶窒化ホウ素単結晶の薄膜104を粘着テープ102上に転写することができる。その後、転写によって取得した薄膜104が陰極106と粘着テープ102によって挟まれるよう、陰極106上に粘着テープ102を貼り付ける(b)。その後、粘着テープ102を剥がすことで薄膜104を陰極106上に転写することができる(c)。陰極106上における六方晶窒化ホウ素単結晶の薄膜104の厚さに制約はないが、効率よくドーピングを行うため、好ましい厚さは1nm以上100nm以下である。厚さを調節(低減)する場合には、薄膜104が形成された陰極106に粘着テープ102を再度を貼り合わせ(d)、その後粘着テープを剥がすことで、薄膜104の一部の層を除去してもよい(e)。
【0016】
上述した方法では、六方晶窒化ホウ素単結晶の一部を剥離することで単結晶の六方晶窒化ホウ素の薄膜が得られるが、六方晶窒化ホウ素膜の形成方法は上記方法に限られない。例えば、例えばCVD法を利用して単結晶ダイアモンド基板、単結晶シリコン基板、単結晶サファイア基板、石英基板、Cu、Fe、Ni、Rh、Pt、Ir、若しくはAu/Niなどの金属基板などの支持基板上に六方晶窒化ホウ素の単結晶膜、多結晶膜、またはアモルファス膜を直接形成してもよい。この場合、反応ガスとしてはボラジンを用いることができる。また、ホウ素と窒素の供給源を独立にする場合は、ホウ素の供給源として機能する反応性ガスとして、例えばボランやジボラン、デカボランなどの水素化ホウ素、あるいはトリメチルボロン、トリエチルボロン、トリメチルボレート、トリエチルボレートなどの有機ホウ素化合物、三塩化ホウ素などのハロゲン化ホウ素化合物などを用いることができる。窒素の供給源として機能する反応性ガスとしては、例えばアンモニア、窒素の他、トリメチルアミンやトリエチルアミンなどのアミン類、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンなどの窒素含有リン化合物などを用いることができる。これらのホウ素と窒素の供給源として機能する反応性ガスは、成膜用のチャンバーに同時に供給してもよく、あるいは交互に供給してもよい。また、反応性ガスとともに希釈用のガスとして水素をチャンバーに導入してもよい。成膜時の温度は、例えば600℃以上2300℃以下の範囲で設定すればよい。また、成膜時の反応性ガスの圧力は、例えば、3.0×10-4Pa以上1.0×10Pa以下の範囲で設定すればよい。支持基板は、そのガラス転移温度または融点が成膜時の温度よりも高くなるように選択される。その後、図2に示す工程と同様、支持基板上の六方晶窒化ホウ素膜の剥離・転写を行い、陰極上に六方晶窒化ホウ素の単結晶膜、多結晶膜、またはアモルファス膜を形成すればよい。または、支持基板上に直接形成した六方晶窒化ホウ素膜を用いてもよい。
【0017】
あるいは、多結晶またはアモルファスの六方晶窒化ホウ素膜を形成する場合には、スパッタリング法を利用してもよい。この場合には、アルゴンガスなどをスパッタ用ガスとして用いて六方晶窒化ホウ素を含むターゲットをスパッタリングすることで、支持基板または陰極上に直接六方晶窒化ホウ素多結晶膜またはアモルファス膜を形成することができる。必要に応じて、窒素ガスをアルゴンガスに加えてもよい。
【0018】
あるいは、六方晶窒化ホウ素単結晶粉末を溶媒に分散させ、この分散液を支持基板または陰極上に塗布することで六方晶窒化ホウ素多結晶膜を形成してもよい。溶媒に制約はなく、水やアルコール、アミド系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒などを用いることができる。支持基板上に形成された六方晶窒化ホウ素多結晶膜は、図2に示す剥離・転写によって陰極上に転置すればよい。
【0019】
(2)電気化学処理と洗浄
次に、図3に示すように、図示しない容器内に充填された周期表第1族または第2族の金属の塩または水酸化物の水溶液108中に陽極110、および六方晶窒化ホウ素膜が形成された陰極106を配置する。金属の塩としては、炭酸塩、炭酸水素塩、塩酸塩、臭酸塩、ヨウ酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、硝酸塩などが例示されるが、これらに限られない。好ましくは、水に対する溶解性の高い塩を用いる。例えば、金属がカリウムの場合には、水酸化カリウムのほか、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、硝酸カリウムなどを用いることができる。水溶液108中の金属の塩または水酸化物の濃度は、例えば1%以上20%以上または3%以上10%以下であり、典型的には5%である。陽極110としては、例えば金電極や白金電極、パラジウム電極、炭素電極などを用いることができる。陰極106と陽極110間の距離は、例えば10μm以上10cm以下の範囲で設定すればよい。
【0020】
その後、陰極106と陽極110間に通電する。陰極106と陽極110間の電圧(電極間電圧)は、陰極106と陽極110間の距離にも依存するが、例えば2.0V以上10.0V以下、典型的には4.0Vである。電極間電圧は、陰極106と陽極110の間の電流密度に基づいて設定してもよい。例えば、電極間に流れる電流の密度が100mA/cm以上1000mA/cm以下となるように電極間電圧を設定すればよい。電気化学的処理の時間、すなわち、通電時間は、電流密度や六方晶窒化ホウ素膜の量(質量)、h―BNフレークサイズや数にも依存するが、例えば3分以上20分以下の範囲で設定すればよい。電気化学的処理の温度は、金属塩または金属水酸化物の水溶液108が液体として存在する温度範囲から任意に選択することができ、例えば10℃以上40℃以下でもよく、室温といった外部環境温度で電気化学的処理を行ってもよい。
【0021】
引き続き、得られるドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜を洗浄する。洗浄は、水で行えばよい。また、水による洗浄後、エタノールやイソプロピルアルコールなどのアルコールやアセトンなどの水に可溶であり、かつ、低沸点(例えば、沸点が100℃以下)の溶媒を用いてさらに洗浄することで水を速やかに除去してもよい。
【0022】
後述する実施例で示されるように、金属イオンが六方晶窒化ホウ素膜に導入される。すなわち、六方晶窒化ホウ素膜が金属イオンによってドープされる。得られる六方晶窒化ホウ素膜の構造は明らかではないが、ホウ素および/または窒素元素の一部が金属イオンによって置換されるのではなく、ホウ素原子と窒素原子が交互にsp結合した六角網目状の層間に金属イオンが挿入されているものと考えられる。
【0023】
sp結合の炭素によって構成される層状化合物であるグラフェンは、例えば水酸化カリウム水溶液に浸漬することにより、電気化学的処理を行わなくてもカリウムイオンでドーピングできることが知られている。しかしながら、実施例で示されるように、六方晶窒化ホウ素膜はグラフェンとは異なり、水酸化カリウムなどの金属水酸化物の水溶液に浸漬するだけではドーピングすることはできない。このことから、グラフェンのドーピング法は、六方晶窒化ホウ素膜のドーピングに直接適用することはできず、電気化学的処理によって効果的に六方晶窒化ホウ素膜がドーピングできると言える。
【0024】
従来、六方晶窒化ホウ素膜に対するドーピングでは、例えば、高真空下で過酷な条件下(例えば、200℃以上の温度で24時間以上の時間)で六方晶窒化ホウ素膜を処理する必要であり、効率よく、かつ、穏和な条件下で六方晶窒化ホウ素膜をドーピングすることができなかった。また、六方晶窒化ホウ素膜をCVD法で形成する際にドーパントを反応性ガスに混合する、あるいは六方晶窒化ホウ素膜をスパッタリング法で形成する際にターゲットにドーパントを混合するなどの手法でドープされた六方晶窒化ホウ素膜を形成することは可能であるものの、得られる六方晶窒化ホウ素膜は多結晶膜またはアモルファス膜に限られている
【0025】
これに対し、本発明の実施形態の一つに係る本作製方法では、六方晶窒化ホウ素膜の結晶状態に依存することなく、温和な条件(例えば、常温、常圧)でドーピングされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜や多結晶膜、アモルファス膜を得ることができる。特に、金属イオンがドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜を提供できることから、本発明の実施形態により、特性ばらつきが少なく、特性制御が容易なワイドギャップ半導体を温和な条件下、極めて短時間で提供することが可能になる。この特徴は、六方晶窒化ホウ素膜を半導体層として利用する半導体デバイスの開発に大きく寄与するものと言える。
【0026】
2.ドープされた六方晶窒化ホウ素膜の特性
以下、金属イオンでドーピングされた六方晶窒化ホウ素膜の特性について説明する。
【0027】
上述したドーピング方法により、周期表第1族または第2族の金属イオンでドーピングされた六方晶窒化ホウ素膜が得られる。このため、ドーピング六方晶窒化ホウ素膜では、窒素とホウ素に加え、周期表第1族の金属イオンが分布する。これらの元素の分布は、エネルギー分散型X線分光光度計(EDS)が搭載されたSEMを用い、各元素のマッピングを取得することで確認することができる。
【0028】
金属イオンは、六方晶窒化ホウ素膜が大気に晒されても消失せず、このため、一定量の金属イオンが六方晶窒化ホウ素膜に含まれる。また、金属イオンは、六方晶窒化ホウ素膜の表面に局在化するのではなく、膜厚方向に広く分布する。このことは、例えばセシウムイオンなどのイオンによるスパッタリングを行い、放出される二次イオンを飛行時間型二次イオン質量分析法(SIMS)を利用して検出することで確認することができる。あるいは、六方晶窒化ホウ素膜の断面のTEM像をEDS分析することでも膜厚方向における金属イオンの分布を確認することができ、例えばカリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素(以下、K-ドープhBNとも記す)単結晶膜の場合、カリウムイオン濃度は0atm%よりも高く1.0atm%以下、または0.1atm%以上0.8atm%以下である。換言すると、K-ドープhBN単結晶膜は、0atm%よりも高く1.0atm%以下、または0.1atm%以上0.8atm%以下のカリウムイオン濃度を有する領域を含む。
【0029】
また、金属イオンの存在に起因し、六方晶窒化ホウ素膜のEDSスペクトルでは、金属の特性X線に起因するピークが明確に観察される。K-ドープhBN単結晶膜の場合、カリウムのKα特性X線に起因するピークが3.3eV付近に観察される。さらに、電子エネルギー損失分光法(EELS)により、ホウ素のKエッジピークと窒素のKエッジピークに加え、金属のエッジピークが観察される。K-ドープhBN単結晶膜の場合、ホウ素のKエッジピーク強度に対するカリウムのLエッジピーク強度の比は、0.1以上5以下であり、窒素のKエッジピーク強度に対するカリウムのLエッジピーク強度の比は、0.1以上5以下である。
【0030】
なお、金属イオンによるドープでは、六方晶窒化ホウ素膜の結晶構造は大きく変化しない。このため、未ドープとドープ後の六方晶窒化ホウ素膜を比較すると、ラマンスペクトルのピーク位置はほぼ同じであり、その半値幅もほぼ同じである。例えばカリウムイオンによるドーピングの場合、未ドープとドープ後の六方晶窒化ホウ素単結晶膜のラマンピークのラマンシフトはいずれも1364±1.5cm-1であり、前者と後者の半値幅は、それぞれ約6.26cm-1、6.24cm-1である。ただし、XPSで求められる六方晶窒化ホウ素単結晶膜の窒素の1s結合エネルギーは、未ドープ六方晶窒化ホウ素単結晶膜のそれよりも高く、K-ドープhBN単結晶膜の場合、両者の差は0.10eV以上0.15eV以下である。このことは、ドーピングによって仕事関数が低減することを示唆している。
【0031】
3.応用
実施例でも示されるように、K-ドープhBN単結晶膜は、n型の半導体特性を示す。このため、K-ドープhBN単結晶膜は、半導体特性を利用する様々な半導体素子へ応用することができる。例えば、K-ドープhBN単結晶膜は、トランジスタのチャネル層として用いることができる。この場合、図12に示すように、本発明の実施形態の一つに係る電界効果トランジスタ130は、ガラス基板や石英基板、単結晶シリコン基板、単結晶サファイア基板などの基板120上に直接または任意の構成である保護絶縁膜122を介して設けられる。電界効果トランジスタ130は、ゲート電極132、ゲート絶縁膜134、K-ドープhBN単結晶膜136、および一対の電極端子138、140を有し、ゲート絶縁膜134がゲート電極132とK-ドープhBN単結晶膜136に挟まれるように配置される。K-ドープhBN単結晶膜136には、ソース電極とドレイン電極として機能する一対の電極端子138、140が電気的に接続される。図15に示される電界効果トランジスタ130は所謂ボトムゲート型のトランジスタであるが、電界効果トランジスタ130の構成に制約はなく、トップゲート型のトランジスタでもよく、あるいは、K-ドープhBN単結晶膜136を挟む一対のゲート電極を備えたトランジスタでもよい。
【0032】
K-ドープhBN単結晶膜を含む半導体素子はトランジスタに限られない。例えば、K-ドープhBN単結晶膜は、遠紫外光を発光可能な電界発光素子、遠紫外光を検知可能なフォトダイオードなどへ応用することも可能である。さらに、バンドギャップが大きいことから電力変換素子、インバーター、ダイオードなどへの応用も可能である。また、これらの半導体素子を含む電子回路も本発明の実施形態の一つに含まれる。さらに、この電子回路が組み込まれた電子デバイスも実施形態の一つである。電子デバイスとしては、表示装置、撮像装置、照明装置などが例示される。
【実施例0033】
以下の実施例では、カリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜の作製と特性評価について述べる。
【0034】
1.カリウムイオンでドープされた六方晶窒化ホウ素単結晶膜の作製
真空中で1500℃、窒素気流中で2000℃の熱処理による脱酸素処理を施した六方晶窒化ホウ素焼結体(粒径約0.5μm)をホウ窒化バリウム溶媒とともにモリブデンカプセルに充填した。これらの溶媒の調製、六方晶窒化ホウ素焼結体と溶媒のモリブデンカプセルへの充填は、すべて乾燥窒素雰囲気中で行った。高圧反応容器をベルト型超高圧力発生装置により2.5万気圧、1700℃の条件で20時間処理した。昇温速度は50℃/分程度であった。500℃/分の冷却速度でモリブデンカプセルを冷却した後、除圧し、モリブデンカプセルを回収した。引き続き、機械的と化学処理(塩酸-硝酸混液による処理)によりモリブデンカプセルを除去して試料を回収した結果、無色透明で六角柱状の六方晶窒化ホウ素単結晶を得た。
【0035】
得られた六方晶窒化ホウ素単結晶に粘着テープ(日本電工社製、N-380R)の貼り付け-剥離によって六方晶窒化ホウ素単結晶の層間剥離を行い、粘着テープ上に六方晶窒化ホウ素単結晶の薄膜を転写した。この後、粘着テープを白金製陰極(1cm×1cm)に貼り付け、剥がすことで六方晶窒化ホウ素単結晶の薄膜を陰極上に転写した。転写された六方晶窒化ホウ素単結晶のフレークの大きさは、約10μm~1mmであった。また、この薄膜の厚さが10~30nm程度になるまで、陰極上の薄膜に対し、粘着テープの貼り付けと剥離を数回行った。
【0036】
六方晶窒化ホウ素単結晶の薄膜が形成された上記陰極、および白金製陽極(1cm×1cm)をステンレス製容器(容量5mL)中の5%水酸化カリウム溶液に浸漬し、電極間電圧4.0Vで10分間、陰極と陽極間に通電した。その後、薄膜を水で洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。
【0037】
2.特性評価
(1)EDSによる評価
ドーピング後の六方晶窒化ホウ素単結晶薄膜に対して粘着テープを貼り付け、剥がした粘着テープを酸化ケイ素が形成された単結晶シリコン基板上に貼り付け、再度剥がすことで、K-ドープhBN単結晶膜を転写した。このK-ドープhBN単結晶膜のEDSスペクトルを図4Aに示す。比較例として、白金陰極上に形成されたhBN単結晶膜を5%水酸化カリウム水溶液に室温で120分間浸漬することで得た比較試料のEDSスペクトルを図4Bに示す。EDSスペクトルは、エネルギー分散型X線分析(EDS)装置(HORIBA 社製、型番X-Max)を用いて取得した(以下、同様。)。これらの図から明らかなように、電気化学的処理を行った試料にはカリウムのKα特性X線エネルギーに相当するピークが3.3eV付近に観察されるのに対し、電気化学的処理を行わずに水酸化カリウム水溶液に浸漬しただけの比較例の試料には当該ピークは観察されなかった。このことから、電気化学的処理を行った六方晶窒化ホウ素単結晶膜にはカリウムイオンが存在するのに対し、電気化学的処理を行わない場合にはカリウムイオンを導入できないことが分かる。
【0038】
(2)ADF-STEM、SEM-EDS、および断面TEMによる評価
六方晶窒化ホウ素単結晶膜のADF法で取得したSTEM像を図5に示す。STEM像は、日本電子社製透過型電子顕微鏡(型番ARM200)を用いて取得した。図5に示すように、原子番号の大きい元素が存在する輝点領域(点A)が観測された。この点A、および暗点領域(点B)において電子エネルギー損失分光光度計(Gatan社製、型番Enfina)を用いて得られたエネルギー損失スペクトルを図6に示す。図6から理解されるように、点Bにおいては、ホウ素のKエッジピークと窒素のKエッジピークが確認されるものの、カリウムに由来するピークは見られない。これに対し、点Aにおいては、ホウ素のKエッジピークと窒素のKエッジピークとともにカリウムのLエッジピークが明確に確認することができた。このことからも、K-ドープhBN単結晶膜にはカリウムイオンを含む領域が存在することが結論づけられる。この試料では、ホウ素のKエッジピーク強度に対するカリウムのLエッジピーク強度は、0.28であり、窒素のKエッジピーク強度に対するカリウムのLエッジピーク強度は、0.64であった。
【0039】
また、EDS装置が搭載されたSEMを用いてK-ドープhBN単結晶膜の元素分析を行った。図7AにSEM像を、EDSによって得られたホウ素、窒素、カリウムのマッピングチャートをそれぞれ図7Bから図7Dに示す。これらの図から理解されるように、ホウ素と窒素に加え、カリウムがK-ドープhBN単結晶膜の面内全体にわたってほぼ均一に分布していることが確認された。
【0040】
図8に白金陰極上のK-ドープhBN単結晶膜の断面のTEM像を、図8に示された測定点bで取得されたEDSスペクトルを図9に示す。また、図8における三つの測定点(測定点a、測定点b、測定点c)でEDSによって求められた原子組成を表1に示す。測定点aが白金陰極から最も遠い測定点である。測定点bはK-ドープhBN単結晶膜の内部に位置し、この測定点のEDSスペクトル中にカリウムのKα特性X線エネルギーに相当するピークが図9において確認される。また、表1から理解されるように、白金陰極から距離の異なる複数の測定点でカリウムイオンが検出されている。これらの結果から、K-ドープhBN単結晶膜では、カリウムイオンは表面に局在化するのではなく、膜厚方向にわたって分布していることがわかる。
【0041】
【表1】
【0042】
(3)ラマンスペクトルとXPSによる評価
本発明の実施形態の一つに係る金属イオンでドープされた六方晶窒化ホウ素膜の作製方法では、六方晶窒化ホウ素膜の結晶構造には大きな影響を与えないことがラマンスペクトルから示唆された。ラマンスペクトルはレニショー社製 inVia Raman Microscopeを用い、波長488nmのレーザーで測定した。具体的には、図10に示すように、ドープ前のhBN単結晶膜とカリウムイオンでドープした後のK-ドープhBN単結晶膜のラマンスペクトルピークのラマンシフトはいずれも1364cm-1であり、半値幅もそれぞれ6.26cm-1、6.24cm-1であった。この結果から、ドーピングによる結晶構造の変化は無視できる程度であることが示唆される。ただし、XPSスペクトルにおいては、窒素の1s結合エネルギーに相当するピークがシフトし、カリウムイオンによるドーピングの場合、結合エネルギーが約0.1eV増大することが確認されている(図11)。このことから、ドーピングにより、仕事関数が低減することが考えられる。
【0043】
(4)半導体特性
K-ドープhBN単結晶膜をチャネル層として含む電界効果トランジスタを作製し、その電気的特性を評価した。
【0044】
表面に酸化ケイ素が形成された単結晶シリコン基板上に、上述した方法に従って粘着テープ上に転写されたK-ドープhBN単結晶膜を転写し、K-ドープhBNをチャネル層として有するバックゲート型の電界効果トランジスタを作製した。単結晶シリコン基板は、p+型でありゲート電極の機能を有する。この時のK-ドープhBN単結晶膜の厚さは5nm~20nmであった。その後、電子線リソグラフィによりパターニングし、測定用端子をEB蒸着法を用いて形成した。測定用端子は、ニッケル(10nm)と金(90nm)の積層であった。測定用端子間距離はは、それぞれ5μmから20μmであった。なお、比較例として、カリウムドープされていないhBN単結晶膜をチャネル層として含む電界効果トランジスタも作製した。
【0045】
SEM式ナノプロービングシステム(日立ハイテク社製)を用い、実施例と比較例の電界効果トランジスタの電気的特性を評価した。図13にソース-ドレイン電圧(VDS)が30Vの時の入力特性(VGS-IDS特性)を示す。ドーピングされていないhBN単結晶膜を含む比較例の電界効果トランジスタでは、ゲート電圧(VGS)を-30Vから+30Vまで変化させてもドレイン電流IDSは殆ど流れないことが図13から理解される。これに対し、K-ドープhBN単結晶膜を含む実施例の電界効果トランジスタでは、ゲート電圧が+15V近辺でドレイン電流IDSが流れ始めることが確認され、ゲート電圧の増大に従ってドレイン電流IDSが増大することが分かる。このことから、K-ドープhBN単結晶膜がn型の半導体特性を示すことが確認された。なお、図示しないが、同様の測定結果が再現性よく得られることも確認した。
【0046】
同様の測定を真空プローバ(サーマルブロック社製)を用い、8×10-3Paの圧力下で行った結果を図14A図14Bに示す。図14Aに示すように、K-ドープhBN単結晶膜を含む実施例の電界効果トランジスタでは、ゲート電極VGSが-20Vから+20Vへの増大に伴うドレイン電流IDSの増大が観測された。これに対し、図14Bに示すように、ドーピングされていないhBN単結晶膜を含む比較例のトランジスタでは、上記範囲のゲート電極VGSにおけるドレイン電流IDSは、ほぼ測定限界以下であった。以上の結果は、K-ドープhBN単結晶膜がn型の半導体特性を示し、これを用いることで電界効果トランジスタを形成できることを明確に表している。
【0047】
(5)電界電子放出特性
上述した方法に従って、K-ドープhBN単結晶膜を白金基板上に転写した。K-ドープhBN単結晶膜の厚さはおよそ20nmであった。この白金基板上のK-ドープhBN単結晶膜の電界放出特性を電界放出測定装置(を用いて評価した。ここでは、陰極(タングステン陰極、先端の曲率半径200μm)をK-ドープhBN単結晶膜から10μmの距離で対向させ、直流電圧を印加しながら10-8Paの圧力下で測定を行った。比較例として、白金基板上に設けられた未ドープのhBN単結晶膜(厚さおよそ20nm)についても同様の測定を行った。結果を図15A図15Bに示す。図15Aは陽極電圧に対する放出電流のプロットであり、図15B図15Aの測定結果に基づくF-Nプロットである。図15Aの結果から、K-ドープすることにより、電子放出に必要な電界強度が大きく低下することが確認された。このことから、K-ドープによってn型の電気的特性がhBN単結晶膜に付与されることが分かる。また、F-Nプロットの傾きは、未ドープのhBN単結晶膜と比較してK-ドープhBN単結晶膜の方が緩やかであり、このことから、K-ドープすることで仕事関数が低下することが確認された。
【0048】
以上述べたように、本発明の実施形態を適用することで、従来過酷な条件が要求されてきた六方晶窒化ホウ素膜のドーピングを、温和な条件下で短時間で行うことができ、n型の半導体特性を有する六方晶窒化ホウ素膜を作製することができる。したがって、本発明の実施形態は、新しい半導体デバイスの効率的な製造に寄与するものと言える。
【0049】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0050】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0051】
100:六方晶窒化ホウ素単結晶、102:粘着テープ、104:薄膜、106:陰極、108:水溶液、110:陽極、120:基板、122:保護絶縁膜、130:電界効果トランジスタ、132:ゲート電極、134:ゲート絶縁膜、136:単結晶膜、138:電極端子、140:電極端子
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B