(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112841
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】部分的にコーティングされた電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240814BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240814BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240814BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024076324
(22)【出願日】2024-05-09
(62)【分割の表示】P 2021518513の分割
【原出願日】2019-09-20
(31)【優先権主張番号】18198187.9
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】エルク,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,チョンチー
(72)【発明者】
【氏名】柏木 順次
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,スーハオ
(72)【発明者】
【氏名】山村 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】森田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ-ドブリク,マルティン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた電気化学特性を有するNiの多い電極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Niと、任意にCo及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意にAl、Mg、Ba及びBから選択される少なくとも1種の元素と、Ni、Co及びMn以外の遷移金属とを含み、xは-0.05~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による電極活物質を提供する工程と、
(b)前記電極活物質を、水中に分散又はスラリー化された無機アルミニウム化合物を含有する水性製剤で処理する工程と、
(c)水を分離する工程と、
(d)工程(c)から得られた物質を熱処理する工程と、
を含む部分的にコーティングされた電極活物質の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的にコーティングされた電極活物質の製造方法であって、前記方法が、以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Niと、任意にCo及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意にAl、Mg、Ba及びBから選択される少なくとも1種の元素と、Ni、Co及びMn以外の遷移金属とを含み、xは-0.05~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による電極活物質を提供する工程と、
(b)前記電極活物質を、水中に分散又はスラリー化された水不溶性の無機アルミニウム化合物を含有する水性製剤で処理する工程であって、水不溶性は25℃で0.1g未満のアルミニウム化合物/lの水の溶解度を意味し、前記水不溶性の無機アルミニウム化合物は、水中に分散され、X線回折によって決定された200nm~5μmの範囲の平均粒径(D50)を有する、工程と、
(c)濾過により又は遠心分離機を用いて、水を分離する工程と、
(d)工程(c)から得られた物質を熱処理する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程(d)は、純酸素下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(d)は、酸素富化空気下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
TMが、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I)
(式中、aは、0.6~0.99の範囲であり、
bは、0.01~0.2の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
M1は、Al、Mg、Ti、Mo、Nb、W及びZrの少なくとも1つであり、
a+b+c=1である)
による金属の組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
cがゼロであり、M1がAlであり、dが0.01~0.05の範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)における前記無機アルミニウム化合物が酸化アルミニウム化合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)における前記酸化アルミニウム化合物が水中に分散又はスラリー化された酸化アルミニウムから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)における前記水性製剤がコロイド溶液である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)が、300~700℃の範囲の最高温度でのか焼工程を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)が、40~250℃の範囲の最高温度での乾燥工程を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
TMが、Ni0.6Co0.2Mn0.2、Ni0.7Co0.2Mn0.1、Ni0.8Co0.1Mn0.1、Ni0.88Co0.055Al0.055、Ni0.9Co0.45Al0.045及びNi0.85Co0.1Mn0.05から選択される、請求項1又は4又は6から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)で提供される前記電極活物質の残留リチウムのモル量が、無機アルミニウム化合物のアルミニウムのモル量を超える、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的にコーティングされた電極活物質の製造方法に関し、ここで、当該方法が、以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Niと、任意にCo及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意にAl、Mg、Ba及びBから選択される少なくとも1種の元素と、Ni、Co及びMn以外の遷移金属とを含み、xは-0.05~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による電極活物質を提供する工程と、
(b)前記電極活物質を、水中に分散又はスラリー化された無機アルミニウム化合物を含有する水性製剤で処理する工程と、
(c)水を分離する工程と、
(d)工程(c)から得られた物質を熱処理する工程と、
を含む。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0003】
現在、いわゆるNiの多い電極活物質、例えば、総TM含有量に対して、75モル%以上のNiを含有する電極活物質への特定の関心が観察される。
【0004】
リチウムイオン電池、特にNiの多い電極活物質の1つの問題は、電極活物質の表面での望ましくない反応に起因する。このような反応は、電解質又は溶媒又はその両方の分解であり得る。したがって、充電及び放電中のリチウム交換を妨げることなく、表面を保護することが試みられた。例は、例えばアルミニウムオキシド又はカルシウムオキシドで電極活物質の表面をコーティングする試みである(例えば、US 8,993,051参照)。
【0005】
他の理論では、表面の遊離LiOH又はLi2CO3に望ましくない反応が割り当てられる。電極活物質を水で洗浄することにより、そのような遊離のLiOH又はLi2CO3を除去する試みがなされてきた(例えば、JP 4,789,066 B、JP 5,139,024 B、及びUS2015/0372300参照)。しかしながら、場合によっては、得られた電極活物質の特性が改善されないことが観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US 8,993,051
【特許文献2】JP 4,789,066 B
【特許文献3】JP 5,139,024 B
【特許文献4】US2015/0372300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiの多い電極活物質の製造方法を提供することであった。また、本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiの多い電極活物質を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、以下に「本発明の方法」とも称される、冒頭で定義された方法が見出された。
【0009】
本発明の方法は、以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Niと、任意にCo及びMnの少なくとも1種と、任意にAl、Mg、Ba及びBから選択される少なくとも1種の元素と、Ni、Co及びMn以外の遷移金属とを含み、xは-0.05~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による電極活物質を提供する工程と、
(b)前記電極活物質を、水中に分散又はスラリー化された無機アルミニウム化合物を含有する水性製剤で処理する工程と、
(c)水を分離する工程と、
(d)残りを熱処理する工程と、
を含む。
【0010】
以下、本発明の方法をより具体的に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法は、本発明の文脈においてそれぞれ工程(a)、工程(b)、工程(c)及び工程(d)とも称される4つの工程(a)、(b)、(c)及び(d)を含む。工程(b)及び(c)の開始は、同時又は好ましくは連続的であり得る。工程(b)及び(c)は、同時に又は連続的に、又は好ましくは少なくとも部分的に重ねて又は同時に行うことができる。工程(d)は、工程(c)の完了後に行われる。
【0012】
本発明の方法は、一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMは、Niと、任意にCo及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意にAl、Ba、B及びMgから選択される少なくとも1種の元素とを含み、TMの少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも75モル%はNiであり、xは-0.05~0.2の範囲である)による電極活物質から開始する。前記物質は、以下で出発物質とも称される。
【0013】
本発明の一実施態様において、出発物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0014】
本発明の一実施態様において、出発物質は、0.1~1.0m2/gの範囲の、以下で「BET表面積」とも称される比表面積(BET)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分以上、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0015】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供される粒子状物質は、20~2,000ppmの範囲の、カールフィッシャー滴定によって決定された含水量を有し、200~1,200ppmが好ましい。
【0016】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I)
(式中、aは、0.6~0.99の範囲であり、
bは、0.01~0.2の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
M1は、Al、Mg、Ti、Mo、Nb、W及びZrの少なくとも1つであり、
a+b+c=1である)
による金属の組合せである。
【0017】
本発明の一実施態様において、変数TMは、一般式(Ia)に対応する
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I a)
(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95、好ましくは0.85~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
cは、0.025~0.2、好ましくは0.05~0.1の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0~0.04の範囲であり、
M1は、Al、Mg、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つ、好ましくはAl、Ti及びWの少なくとも1つである)。
【0018】
本発明の一実施態様において、変数cはゼロであり、M1はAlであり、dは0.01~0.05の範囲である。
【0019】
本発明の他の実施態様において、変数TMは、一般式(Ib)に対応する
(Nia*Cob*Ale*)1-d*M2
d* (I b)
(式中、a*+b*+c*=1であり、
a*は、0.75~0.95、好ましくは0.88~0.95の範囲であり、
b*は、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
e*は、0.01~0.2、好ましくは0.015~0.04の範囲であり、
d*は、0~0.1、好ましくは0~0.02の範囲であり、
M2は、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)。
【0020】
変数xは-0.05~0.2の範囲である。
【0021】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ia)に対応し、xは、0~0.2、好ましくは0~0.1、さらにより好ましくは0.01~0.05の範囲である。
【0022】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ib)に対応し、xは-0.05~0の範囲である。
【0023】
工程(a)で提供される電極活物質は一般に導電性炭素を含まない、すなわち、出発物質の導電性炭素含有量は、前記出発物質に対して、1質量%未満、好ましくは0.001~1.0質量%である。
【0024】
一部の元素は遍在する。本発明の文脈において、不純物としての微量の遍在する金属、例えばナトリウム、カルシウム、鉄又は亜鉛は、本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量は、出発物質の総金属含有量に対して、0.05モル%以下の量を意味する。
【0025】
工程(b)では、前記粒子状物質を、水中に分散又はスラリー化された無機アルミニウム化合物を含有する水性製剤で処理する。前記水性製剤は、2~14の範囲、好ましくは少なくとも3.5、より好ましくは3.5~7のpH値を有し得る。pH値は、工程(b)の開始時に測定される。工程(b)の過程中で、pH値が少なくとも10、例えば11~13に上昇することが観察される。
【0026】
工程(b)で使用される前記水性製剤の水硬度、特にカルシウムが少なくとも部分的に除去されることが好ましい。脱塩水の使用が好ましい。
【0027】
前記無機アルミニウム化合物は水不溶性である。この文脈における「水不溶性」とは、25℃で0.1g未満のアルミニウム化合物/lの水の溶解度を意味する。例として、例えば、Al2O3、Al(OH)3、AlOOH、Al2O3・aqが挙げられ、AlOOH及びAl2O3が好ましい。
【0028】
前記水不溶性アルミニウム化合物は、水中に分散又はスラリー化されてもよい。本発明の文脈において、AlOOHは、必ずしも等モル量の酸化物と水酸化物を含むとは限らず、時にAl(O)(OH)とも呼ばれる。
【0029】
工程(b)で使用される無機アルミニウム化合物、特にAl2O3及びAl(O)(OH)は、純物質(Siを含む金属の合計に対して、≧99.9モル%のAl)であるか、又は例えば0.1~5モル%の量で、La2O3、Ce2O3、チタニア又はジルコニアなどの酸化物でドープされてもよい。
【0030】
本発明の一実施態様において、前記水不溶性アルミニウム化合物は、水中に分散され、X線回折によって決定された200nm~5μm、好ましくは2~5μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0031】
本発明の一実施態様において、前記アルミニウム化合物は、コロイド製剤(「コロイド溶液」)として提供される。コロイド溶液としてAlOOHを使用し、X線回折図で検出された反射の半値全幅(「FWMH」)から決定された平均粒径が5~10nmの範囲であることが好ましい。コロイド溶液中のそのような粒子は、20~200nm、好ましくは20~50nmの範囲の平均粒径を有する凝集体を形成し得る。好ましくは、そのようなコロイド溶液は5~6の範囲のpH値を有する。乾燥粉末として、最大15μmの平均粒径を有する凝集体が形成される。
【0032】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、工程(a)からの粒子状物質を無機アルミニウム化合物を含有する水性製剤中でスラリー化することによって行われ、続いて固液分離法によって水を除去し、50~450℃の範囲の最高温度で乾燥する。
【0033】
工程(b)の一実施態様において、工程(b)で使用される水性媒体は、アンモニア、又は少なくとも1種の遷移金属塩、例えばニッケル塩又はコバルト塩をさらに含有し得る。そのような遷移金属塩は、好ましくは、電極活物質に有害ではない対イオンを有する。硫酸塩及び硝酸塩は使用可能である。塩化物は好ましくない。
【0034】
工程(b)の一実施態様において、工程(b)で使用される水性媒体は、0.001~10質量%の、Al、Mo、W、Ti、Sb、Ni又はZrの酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物を含有する。工程(b)の他の実施態様において、工程(b)で使用される水性媒体は、測定可能な量の、Al、Mo、W、Ti、Sb、Ni又はZrの酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物を含有しない。
【0035】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、5~85℃の範囲の温度で行われ、10~60℃が好ましい。
【0036】
本発明の一実施態様において、工程(b)は常圧で行われる。しかしながら、高圧下で、例えば常圧より10ミリバール~10バール高い圧力で、又は吸引で、例えば常圧より50~250ミリバール低い圧力、好ましくは常圧より100~200ミリバール低い圧力で、工程(b)を行うことが好ましい。
【0037】
例えば、工程(b)は、例えば、フィルター装置の上の位置のために、容易に排出することができる容器内で行われてもよい。そのような容器は出発物質で充填され、続いて水性媒体が導入されてもよい。他の実施態様において、そのような容器は水性媒体で充填され、続いて出発物質が導入される。他の実施態様において、出発物質と水性媒体は同時に導入される。
【0038】
本発明の一実施態様において、工程(b)における出発物質と水性媒体の全体との体積比は、2:1~1:5、好ましくは2:1~1:2の範囲である。
【0039】
工程(b)は、混合操作、例えば振とう、又は特に攪拌又は剪断によってサポートされる(以下を参照)。
【0040】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供される電極活物質の残留リチウムのモル量は、工程(b)からの無機アルミニウム化合物のモル量を、例えば1.01~3.0、好ましくは1.1~2.0の係数で超える。例えば、そのような好ましい実施態様の範囲において、工程(a)で提供される電極活物質中の残留リチウム1モル当たり1.1~2.0の係数でAl(O)(OH)を適用することである。また、例えば、そのような好ましい実施態様の範囲において、工程(a)で提供される電極活物質中の残留リチウム1モル当たり1.01~1.0の係数でAl2O3を適用することである。
【0041】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、1分~30分、好ましくは1分から5分未満の範囲の持続時間を有する。工程(b)において、水処理及び水除去が重ねて又は同時に行われる実施形態では、5分以上の持続時間が可能である。
【0042】
本発明の一実施態様において、工程(b)による水処理及び工程(c)による水除去は連続的に行われる。工程(b)に従って水性媒体で処理した後、あらゆるタイプのろ過によって、例えばバンドフィルター又はフィルタープレスで、水を除去することができる。
【0043】
本発明の一実施態様において、工程(b)の開始から遅くとも3分後に、工程(c)が開始される。工程(c)は、例えば固液分離によって、例えばデカンテーションによって、又は好ましくは濾過によって、処理された粒子状物質から水を分離することを含む。前記「分離」は除去とも称される。
【0044】
工程(c)の一実施態様において、工程(b)で得られたスラリーは、遠心分離機、例えばデカンター遠心分離機又はフィルター遠心分離機中に、又はフィルター装置、例えば吸引フィルターに、又は好ましくは工程(b)が行われる容器の真下に配置されたベルトフィルターに直接排出される。その後、濾過が開始する。
【0045】
本発明の特に好ましい実施態様において、工程(b)及び工程(c)は、攪拌機を備えたフィルター装置、例えば攪拌機を備えた圧力フィルター又は攪拌機を備えた吸引フィルターで行われる。工程(b)に従って出発物質と水性媒体を組み合わせた後最大3分後、又はその直後でさえ、水性媒体の除去は、濾過を開始することによって開始される。実験室規模では、工程(b)及び(c)はブフナー漏斗で行われ、工程(b)及び(c)は手動で攪拌することによってサポートされる。
【0046】
好ましい実施態様において、工程(b)は、フィルター装置、例えば、フィルター内のスラリー又はフィルターケーキの攪拌を可能にする攪拌フィルター装置で行われる。工程(b)の開始後最大3分の時間の後、濾過、例えば圧力濾過又は吸引濾過の開始により、工程(c)が開始される。
【0047】
本発明の一実施態様において、工程(b)に従う水除去は、1分~1時間の範囲の持続時間を有する。
【0048】
本発明の一実施態様において、工程(b)、及び該当する場合に工程(c)における撹拌は、1分当たり1~50回転(「rpm」)の範囲の速度で行われ、5~20rpmが好ましい。
【0049】
本発明の一実施態様において、濾材は、セラミック、焼結ガラス、焼結金属、有機ポリマーフィルム、不織布、及び織物から選択することができる。
【0050】
本発明の一実施態様において、工程(b)及び(c)は、低減されたCO2含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO2含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(b)及び(c)を行うことがさらにより好ましい。
【0051】
その後、工程(c)の後に得られた水処理された物質は、例えば40~250℃の範囲の温度、及び常圧又は減圧、例えば1~500ミリバールで乾燥される。40~100℃のようなより低い温度での乾燥が望ましい場合は、1~20ミリバールのような強力な減圧が好ましい。
【0052】
本発明の一実施態様において、前記乾燥は、低減されたCO2含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO2含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(d)を行うことがさらにより好ましい。
【0053】
本発明の一実施態様において、前記乾燥は、1~10時間、好ましくは90分~6時間の範囲の持続時間を有する。
【0054】
本発明の一実施態様において、工程(b)及び(c)を行うことにより、電極活物質のリチウム含有量の1~5質量%、好ましくは2~4質量%は還元される。前記還元は、主にいわゆる残留リチウムに影響を与える。
【0055】
本発明の好ましい実施態様において、工程(c)から得られた物質は、50~1,200ppm、好ましくは100~400ppmの範囲の残留水含有量を有する。この残留水含有量はカールフィッシャー滴定によって決定することができる。
【0056】
本発明の方法は、後続の工程(d)を含む:
(d)工程(c)から得られた物質を熱処理する工程。
【0057】
工程(d)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0058】
工程(d)による熱処理の温度は、300~900℃、好ましくは300~700℃、さらにより好ましくは550~650℃の範囲であり得る。
【0059】
350~700℃の温度は、工程(d)の最高温度に対応する。
【0060】
工程(c)から得られた物質を工程(d)に直接に供することが可能である。しかしながら、温度を段階的に上げること、又は温度を徐々に上げること、又は工程(c)の後に得られた物質を最初に40~80℃の範囲の温度で乾燥させてから工程(d)に供することが好ましい。前記段階的な上昇又は徐々の上昇は、常圧又は減圧、例えば1~500ミリバールの圧力下で行うことができる。
【0061】
その最高温度での工程(d)は常圧下で行われる。
【0062】
本発明の一実施態様において、工程(d)は、酸素含有雰囲気、例えば、空気、酸素富化空気又は純酸素の下で行われる。
【0063】
工程(d)の前に100~250℃の範囲の温度で乾燥を行う実施態様において、そのような乾燥は、10分間~5時間の持続時間で行うことができる。
【0064】
本発明の一実施態様において、工程(d)は、低減されたCO2含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO2含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(d)を行うことがさらにより好ましい。
【0065】
本発明の一実施態様において、工程(d)は、1~10時間、好ましくは90分間~6時間の範囲の持続時間を有する。
【0066】
本発明の一実施態様において、電極活物質のリチウム含有量は、1~5質量%、好ましくは2~4質量%還元される。前記還元は主に、いわゆる残留リチウムに影響を及ぼす。
【0067】
本発明の方法を行うことにより、優れた電気化学特性を有する電極活物質が得られる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、余分なアルミニウムは、電極活物質の表面に堆積したリチウム化合物の除去につながると仮定する。
【0068】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、電極活物質の表面は、無機アルミニウム化合物を添加しない洗浄方法よりも、本発明の方法による悪影響が少ないと仮定する。
【0069】
本発明の方法により、電極活物質を製造することができる。そのような電極活物質は、粒子状であり、一般式Li1+x1TM1-x1O2(式中、TMは、Niと、任意にCo及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意にAl、Mg、Ba及びBから選択される少なくとも1種の元素と、Ni、Co及びMn以外の遷移金属とを含み、x1は-0.05~0.15の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)を有し、ここで、前記粒子の外表面が、アルミナ及びリチウムアルミネート、例えばLiAlO2でコーティングされる。好ましくは、そのようなアルミナは、α-アルミナ、γ-アルミナ、アモルファスアルミナ、及び前述の少なくとも2種の組み合わせから選択され、γ-アルミナが好ましい。
【0070】
本発明の好ましい実施態様において、LiAlO2などのリチウムアルミネートはアモルファスである。
【0071】
本発明の好ましい実施態様において、コーティングは、不均一、例えば島の構造である。これは、アルミナもLiAlO2も示さない電極活物質のコーティングされていない部分があり、かつ、例えばEDSマッピング及び電子回折を含むTEM(「透過型電子顕微鏡」)によって検出可能であるそのようなコーティングを示す「島」があることを意味する。
【0072】
本発明の一実施態様において、変数TMは、一般式(Ia)に対応する
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I a)
(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95、好ましくは0.85~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
cは、0.025~0.2、好ましくは0.05~0.1の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0~0.04の範囲であり、
M1は、Al、Mg、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つ、好ましくはAl、Ti及びWの少なくとも1つである)。
【0073】
本発明の一実施態様において、変数cはゼロであり、M1はAlであり、dは0.01~0.05の範囲である。
【0074】
本発明の他の実施態様において、変数TMは、一般式(Ib)に対応する
(Nia*Cob*Ale*)1-d*M2
d* (I b)
(式中、a*+b*+c*=1であり、
a*は、0.75~0.95、好ましくは0.88~0.95の範囲であり、
b*は、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
e*は、0.01~0.2、好ましくは0.015~0.04の範囲であり、
d*は、0~0.1、好ましくは0~0.02の範囲であり、
M2は、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)。
【0075】
変数x1は-0.05~0.15の範囲である。
【0076】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ia)に対応し、x1は0~0.2、好ましくは0~0.1、さらにより好ましくは0.01~0.05の範囲である。
【0077】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ib)に対応し、x1は-0.05~0の範囲である。
【0078】
本発明の一実施態様において、電極活物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0079】
本発明の一実施態様において、電極活物質は、0.1~0.8m2/gの範囲の、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された表面積(BET)を有する。
【0080】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極に関する。それらは、リチウムイオン電池に特に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は良好な放電挙動を示す。少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極は、以下で本発明のカソード又は本発明によるカソードとも称される。
【0081】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0082】
好適なバインダーは、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0083】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0084】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタアクリレート、2-エチルヘキシルメタアクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0085】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0086】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0087】
別の好ましいバインダーは、ポリブタジエンである。
【0088】
他の好適なバインダーは、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0089】
本発明の一実施態様において、バインダーは、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量MWを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0090】
バインダーは、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0091】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダーは、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0092】
好適なバインダーは、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0093】
本発明のカソードは、電極活物質に対して、1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。他の実施態様において、本発明のカソードは、0.1質量%から1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0094】
本発明のさらなる態様は、本発明の電極活物質、カーボン及びバインダーを含む少なくとも1つのカソード、少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1つの電解質を含有する電池である。
【0095】
本発明のカソードの実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0096】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO2、酸化リチウムチタン、シリコン又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0097】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0098】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0099】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1~C4-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC1~C4-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0100】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、少なくとも400g/molであり得る。
【0101】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、最大5000000g/mol、好ましくは最大2000000g/molであり得る。
【0102】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0103】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0104】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0105】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0106】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0107】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)、
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なることができ、水素及びC
1~C
4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R
2及びR
3の両方ともがtert-ブチルであることはない)
による化合物である。
【0108】
特に好ましい実施態様において、R1はメチルであり、R2及びR3はそれぞれ水素であるか、又はR1、R2及びR3はそれぞれ水素である。
【0109】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0110】
【0111】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0112】
電解質(C)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、リチウムイミド、例えばLiN(CnF2n+1SO2)2(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4、及び一般式(CnF2n+1SO2)tYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0113】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4から選択され、LiPF6及びLiN(CF3SO2)2が特に好ましい。
【0114】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0115】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0116】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0117】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形缶の形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0118】
本発明による電池は、例えば低温(0℃以下、例えば-10℃以下でさえ)での良好な放電挙動、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0119】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0120】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0121】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例0122】
総説:N-メチル-2-ピロリドン:NMP。
【0123】
I.カソード活物質の合成
I.1 前駆体TM-OH.1の合成
脱イオン水及び1kgの水あたり49gの硫酸アンモニウムで、撹拌タンク反応器を充填した。溶液を55℃に加熱し、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより12のpH値を調整した。
【0124】
硫酸遷移金属水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を1.8の流量比で同時に供給し、総流量を8時間の滞留時間とすることにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、Ni、Co及びMnを8.5:1.0:0.5のモル比及び1.65mol/kgの合計の遷移金属濃度で含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、6の質量比での25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液であった。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を12に維持した。すべての供給の始動から始めて、母液を継続的に取り出した。33時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥させ、ふるいにかけることにより、混合遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体を得た。
【0125】
I.2 TM-OH.1のカソード活物質への変換
I.2.1 比較用のカソード活物質C-CAM.1の製造、工程(a.1)
C-CAM.1(比較):I.1に従って得られた混合遷移金属オキシ水酸化物前駆体をAl2O3(平均粒径が6nm)及びLiOH一水和物と混合して、Ni+Co+Mn+Alに対して0.3モル%のAlの濃度、及び1.06のLi/(TM+Al)モル比を得た。混合物を760℃に加熱し、60体積%の酸素と40体積%の窒素との混合物の強制流中に10時間保持した。室温に冷却した後、粉末を解凝集し、32μmのメッシュでふるいにかけて、電極活物質C-CAM 1を得た。
【0126】
Malvern InstrumentsからのMastersize 3000機でレーザー回折の技術を使用して決定されたD50は9.0μmであった。Al含有量は、ICP分析によって決定し、780ppmに対応した。250℃で決定した残留水分は300ppmであった。
【0127】
II.無機アルミニウム化合物を含有する水性製剤でのカソード活物質の処理、及び比較実験
超乾燥空気:水分及びCO2を含まない空気
II.1 AlOOHの水性分散液での処理
工程(b.1):平均一次粒子径が20nmの0.37gの量のAl(O)(OH)を、67mlの脱イオン水とともに撹拌した。4.06のpH値を有するAl(O)(OH)のコロイド溶液が得られ、これに100gのC-CAM.1を添加した。Al分散液/(TM+Al)のモル比は0.006であった。得られたスラリーを室温で5分間撹拌した。
【0128】
工程(c.1):次に、ブフナー漏斗を通して濾過することにより水を除去した。
【0129】
工程(d.1):得られたフィルターケーキを超乾燥空気中、70℃で2時間、次に120℃で10時間乾燥し、続いて強制酸素流中で700℃で1時間熱処理した。本発明のカソード活物質CAM.2を得た。
【0130】
II.2 Al2O3の水性スラリーでの処理
工程(b.2):平均一次粒子径が5nmの0.32gの量のAl2O3を、67mlの脱イオン水とともに撹拌した。3.58のpH値を有するスラリーが得られ、これに100gのC-CAM.1を添加した。Al分散液/(TM+Al)のモル比は0.006であった。得られたスラリーを室温で5分間撹拌した。工程(b.3)の終了時に、pH値は12.88であった。
【0131】
工程(c.2):次に、得られた分散液をフィルタープレスに移し、濾過した。
【0132】
工程(d.2):得られたフィルターケーキを超乾燥空気中、70℃で2時間、次に120℃で10時間乾燥し、続いて酸素の雰囲気中で700℃で1時間熱処理した。本発明のカソード活物質CAM.3を得た。
【0133】
II.3 Al2O3の水性スラリーでの処理
工程(b.2)及び(c.2)を上記のように繰り返した。
【0134】
工程(d.3):得られたフィルターケーキを超乾燥空気中、70℃で2時間、次に120℃で10時間乾燥し、続いて酸素の雰囲気中で600℃で1時間熱処理した。本発明のカソード活物質CAM.4を得た。
【0135】
II.4 Al2O3の水性スラリーでの処理
工程(b.2)及び(c.2)を上記のように繰り返した。
【0136】
工程(d.4):得られたフィルターケーキを超乾燥空気中、70℃で2時間、次に120℃で10時間乾燥し、続いて酸素の雰囲気中で500℃で1時間熱処理した。本発明のカソード活物質CAM.5を得た。
【0137】
II.5 Al2O3の水性スラリーでの処理
工程(b.2)及び(c.2)を上記のように繰り返した。
【0138】
工程(d.5):得られたフィルターケーキを超乾燥空気中、70℃で2時間、次に120℃で10時間乾燥し、続いて酸素の雰囲気中で400℃で1時間熱処理した。本発明のカソード活物質CAM.6を得た。
【0139】
II.6 比較用のカソード活物質C-CAM.7の製造
比較工程(b.6):100gの量のC-CAM.1を67mlの蒸留水に添加した。得られたスラリーを室温で5分間撹拌した。
【0140】
工程(c.6):次に、得られた分散液をフィルタープレスに移し、濾過した。
【0141】
工程(d.6):得られたフィルターケーキを超乾燥空気中、70℃で2時間、次に120℃で10時間乾燥した。比較用のカソード活物質C-CAM.7を得た。
【0142】
II.7 AlOOHの水性分散液での処理
工程(b.1)及び(c.1)を上記のように繰り返した。
【0143】
工程(d.7):得られたフィルターケーキを真空下に40℃で10時間乾燥し、続いて強制酸素流中で650℃で1時間熱処理した。本発明のカソード活物質CAM.8を得た。
【0144】
II.8 硫酸アルミニウムを溶解したAlOOHの水性分散液での処理
工程(b.8):平均一次粒子径が20nmの0.28gの量のAl(O)(OH)を、67mlの脱イオン水とともに撹拌した。0.27gの量のAl2(SO4)3を添加した。Al(O)(OH)のコロイド溶液が得られ、これに100gのC-CAM.1を添加した。Al(AlOOHから)のAl(硫酸アルミニウムから)に対するモル比が4:1であるように、100gのC-CAM.1を添加した。Al分散液/(TM+Al)のモル比は0.006であった。得られたスラリーを室温で3分間撹拌した。
【0145】
工程(c.8):次に、ブフナー漏斗を通して濾過することにより水を除去した。
【0146】
工程(d.8):得られたフィルターケーキを真空下に40℃で10時間乾燥し、続いて強制酸素流中で700℃で1時間熱処理した。本発明のカソード活物質CAM.9を得た。
【0147】
III.カソード活物質のテスト
III.1 電極の製造、一般的な手順
III.1.1 カソードの製造
正極:PVDFバインダー(Solef(登録商標)5130)をNMP(Merck)中に溶解して、7.5質量%の溶液を製造した。電極の調製では、バインダー溶液(3質量%)、グラファイト(SFG6L、2質量%)及びカーボンブラック(Super C65、1質量%)をNMP中に懸濁させた。自転公転攪拌機(ARE-250、Thinky Corp.;日本)を使用して混合した後、本発明のCAM.1~CAM.7のいずれか、又は比較用のカソード活物質(94質量%)を添加し、懸濁液を再度混合して、塊のないスラリーを得た。スラリーの固形分を65%に調整した。KTF-Sロールツーロールコーター(Mathis AG)を使用して、スラリーをAlホイルにコーティングした。使用前に、すべての電極をカレンダ加工した。カソード材料の厚さは70μmであり、15mg/cm2に対応した。バッテリーを組み立てる前に、すべての電極を105℃で7時間乾燥させた。
【0148】
III.1.2 ポーチセルアノードの製造
グラファイト及びカーボンブラックを完全に混合した。CMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液及びSBR(スチレンブタジエンゴム)水溶液をバインダーとして使用した。カソード活物質:カーボン:CMC:SBRが96:0.5:2:1.5であるような質量比で、グラファイトとカーボンブラックの混合物をバインダー溶液と混合し、十分な量の水を添加して、電極の調製に適したスラリーを調製した。このようにして得られたスラリーを、ロールコーターを使用して銅ホイル(厚さ=10μm)上にコーティングし、室温で乾燥させた。Cuホイル上の電極サンプルの増量は、単層ポーチセルテストにおいて10 mgcm-2であるように固定した。
【0149】
III.2 電解質の製造
EL塩基1の総質量に基づいて、12.7質量%のLiPF6、26.2質量%のエチレンカーボネート(EC)、及び61.1質量%のエチルメチルカーボネート(EMC)を含有する塩基電解質組成物(EL塩基1)を調製した。この塩基電解質製剤に2質量%のビニレンカーボネート(VC)を添加した(EL塩基2)。
【0150】
III.3 テストセルの製造
III.3.1 コイン型ハーフセル
下記のIV.1.1で記載されているように調製したカソードと、動作電極及び対極としてのリチウム金属とを含むコイン型ハーフセル(直径20mm、厚さ3.2mm)をそれぞれ組み立て、Arを充填したグローブボックス中に密封した。さらに、カソード、アノード、及びセパレータをカソード//セパレータ//Liホイルの順に重ね合わせて、ハーフコインセルを製造した。その後、0.15mLの上記(IV.2)に記載されているEL塩基1をこのコインセル中に導入した。
【0151】
III.3.2 ポーチセル
上記のIV.1.1で記載されているように調製したアノードとIV.1.2によるグラファイト電極を含む単層ポーチセル(70mAh)を組み立て、Arを充填したグローブボックス中に密封した。カソード、アノード、及びセパレータをカソード//セパレータ//アノードの順に重ね合わせて、複数層のポーチセルを製造した。その後、0.8mLのEL塩基2をラミネートポーチセル中に導入した。
【0152】
IV セル性能の評価
IV.1 コインハーフセルの性能の評価
製造したコイン型電池を使用して、セル性能を評価した。電池の性能については、セルの初期容量と反応抵抗を測定した。
【0153】
以下のように初期性能及びサイクルを測定した:
IV.3.1によるコインハーフセルを、室温で4.3V~2.8Vの範囲の電圧でテストした。初期サイクルでは、初期リチウム化をCC-CVモードで行い、すなわち、0.01Cに達するまで0.1Cの定電流(CC)を適用した。10分の休止時間の後、0.1C~2.8Vの定電流で還元リチウム化を行った。サイクリングでは、電流密度は0.1Cであった。結果を表1にまとめている。
【0154】
セル反応抵抗は以下の方法で算出した。
【0155】
初期性能評価後のコインセルを4.3Vまで再充電し、ポテンシオスタット及び周波数応答アナライザーシステム(Solartron CellTest System 1470E)を使用して、ACインピーダンス法により抵抗を測定した。EISから、スペクトルはオーミック抵抗及び相対抵抗に分けることができる。結果を表1にまとめている。[%]相対抵抗は、100%としてのC-CAM.8をベースとするセルの抵抗に基づくものである。
【0156】
【0157】
IV.2 単層ポーチセルの長期電気化学性能の評価
IV.2.1 45℃での長期電気化学性能
IV.3.2によるポーチセルを、室温及び45℃で4.2V~2.5Vの範囲の電圧でテストした。
【0158】
形成工程において、前記ポーチセルを、0.1Cの定電流で3.1Vに充電し、次に、電流値が初期サイクルで0.01Cに達するまで3.1Vの定電圧で充電した。その後、これらのセル脱気した。脱気後、アルキメデス法によりセルの体積を測定した。その後、ポーチセルを、0.1Cの定電流で4.2Vに充電し、次に電流値が0.01Cに達するまで4.2Vの定電圧で充電した。これらのセルを45℃で1日間エージングした後、25℃に移して容量及びレート性能を確認した。25℃のサイクルテストでは、セルを25℃のオーブンに移し、電流密度を1.0Cに上げた。45℃のサイクルテストでは、セルを45℃のオーブンに移し、電流密度も1.0Cに上げた。400サイクル後の放電容量及びサイクル安定性の結果を表2にまとめている。
【0159】
IV.2.2 45℃サイクリングでのガス量
200サイクルごとに、セルの体積を再度測定した。セルのサイクリングガス量をセルのサイクリング前後の体積差として決定した。結果を表2に示している。
【0160】
IV.2.3 25℃サイクリングでのDCIR
100サイクルごとに、直流抵抗(「DCIR」)を測定した。これらのセルでは、25℃及び4.2VでDCIRを測定した。結果を表2及び3に示している。
【0161】
【0162】