(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113402
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】脂肪族ポリエステルの成形物の製造方法および脂肪族ポリエステルの成形物
(51)【国際特許分類】
D01F 6/84 20060101AFI20240815BHJP
B29C 55/00 20060101ALI20240815BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
D01F6/84 303Z
B29C55/00
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018355
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岩田 忠久
(72)【発明者】
【氏名】加部 泰三
(72)【発明者】
【氏名】大村 拓
(72)【発明者】
【氏名】辻本 桜
(72)【発明者】
【氏名】前原 晃
【テーマコード(参考)】
4F210
4J200
4L035
【Fターム(参考)】
4F210AA24
4F210AH81
4F210AR06
4F210AR11
4F210AR20
4F210QA10
4F210QC02
4F210QG08
4F210QG20
4J200AA14
4J200AA18
4J200BA15
4J200BA16
4J200CA06
4J200DA22
4J200EA22
4L035AA05
4L035BB32
4L035BB54
4L035BB91
4L035DD03
4L035DD07
4L035DD20
4L035EE20
4L035HH10
(57)【要約】
【課題】脂肪族ポリエステルを溶融成形した後に、固化して、多孔質である結晶化繊維を製造する際に、非晶質の繊維をガラス転移点温度+15℃以下に放置しておく時間が短縮されるような、脂肪族ポリエステルの成形物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(1)異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含む脂肪族ポリエステルを、一部のラメラ結晶は溶融して流動化させ、その他残部のラメラ結晶は溶融せずに残存している温度範囲において、溶融成形すること;(2)前記(1)で得られた溶融成形物を、前記脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の温度において12時間未満保持すること;および(3)前記(2)で得られた成形物を延伸すること;を含む、脂肪族ポリエステルの成形物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含む脂肪族ポリエステルを、一部のラメラ結晶は溶融して流動化させ、その他残部のラメラ結晶は溶融せずに残存している温度範囲において、溶融成形すること;
(2) 前記(1)で得られた溶融成形物を、前記脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の温度において12時間未満保持すること;および
(3) 前記(2)で得られた成形物を延伸すること;
を含む、脂肪族ポリエステルの成形物の製造方法。
【請求項2】
前記温度範囲が、フローテスタ昇温法による流出開始温度よりも高く、かつ示差走査熱量計によって測定される結晶融解が完全に完了することを示す温度よりも低い範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度範囲が、フローテスタ昇温法による流出開始温度よりも高く、かつ補外融解終了温度よりも低い範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溶融成形が、溶融押出による成形である、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
溶融成形が、溶融押出紡糸による成形である、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記脂肪族ポリエステルが、生分解性高分子を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記脂肪族ポリエステルが、モノマーユニットとして3-ヒドロキシ酪酸を含む共重合体である、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記脂肪族ポリエステルが、モノマーユニットとして3-ヒドロキシ酪酸と4-ヒドロキシ酪酸とを含む共重合体、またはモノマーユニットとして3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシバレレートとを含む共重合体である、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記(2)において、前記(1)で得られた溶融成形物を、前記脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の温度において、6時間以下保持する、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から3の何れか一項に記載の方法により製造される、脂肪族ポリエステルの成形物。
【請求項11】
前記成形物が、孔径0.5μm以上の空隙を有さない表面層と、孔径0.5μm以上の空隙を複数有するコア層とから構成されている、請求項10に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
【請求項12】
表面層の体積が、成形物の体積の5~50%である、請求項10に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
【請求項13】
成形物が、略円柱状である、請求項10に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
【請求項14】
孔径0.5μm以上の空隙を有さない表面層と、孔径0.5μm以上の空隙を複数有するコア層とから構成され、
表面層とコア層とが同一の脂肪族ポリエステルから構成されている、
脂肪族ポリエステルの成形物。
【請求項15】
表面層の体積が、成形物の体積の5~50%である、請求項14に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
【請求項16】
成形物が、略円柱状である、請求項14又は15に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含む脂肪族ポリエステルを部分的に溶融した状態において溶融成形することを含む脂肪族ポリエステルの成形物の製造方法に関する。本発明はさらに、孔径0.5μm以上の空隙を有さない表面層と、孔径0.5μm以上の空隙を複数有するコア層とから構成されている、脂肪族ポリエステルの成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート(Polyhydroxyalkanoate、ポリヒドロキシアルカン酸、以後PHAとも略す)は、微生物が蓄積する熱可塑性のポリエステルであり、生分解性・生体適合性・生体吸収性のプラスチックとして注目され、多くの研究がなされてきた)。PHAを構成するモノマーユニットは100種類以上知られている。代表的なPHAとしては、(R)-3-ヒドロキシブチレート((R)-3-ヒドロキシ酪酸ともいう。以下、3HBと略す)からなるポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート](以下、P(3HB)と略す)が知られている。
【0003】
特許文献1には、高強度な繊維を提供することを目的として、ポリヒドロキシアルカン酸を溶融押出して溶融押出繊維を作製し、該溶融押出繊維をポリヒドロキシアルカン酸のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化させて非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度+15℃以下に放置して結晶化繊維を作製し、該結晶化繊維を延伸し、更に緊張熱処理をすることを特徴とする繊維の製造方法が記載されている。特許文献2には、生分解性ポリエステルを含む組成物から繊維を溶融紡糸する工程と、前記溶融紡糸した繊維を生分解性ポリエステルのガラス転移点温度+15℃以下に急冷する工程と、前記急冷した繊維を生分解性ポリエステルのガラス転移点温度+15℃以下に保冷し、多孔性繊維を得る工程と、前記多孔性繊維に機能性薬剤を内包させる工程、とを有する、機能性薬剤を内包する多孔性繊維の製造方法が記載されている。
【0004】
一方、異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含む脂肪族ポリエステルを部分的に溶融した状態において溶融成形することが報告されている。特許文献3には、異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含む高分子を、一部のラメラ結晶は溶融して流動化し、その他残部のラメラ結晶は溶融せずに残存している温度範囲において、溶融成形することを含む、高分子成形物の製造方法が記載されている。特許文献4には、結晶性ポリヒドロキシアルカノエートをガラス転移点以上の温度で加熱処理すること;及び上記加熱処理で得られる異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含むポリヒドロキシアルカノエートを、一部のラメラ結晶は溶融して流動化し、その他残部のラメラ結晶は溶融せずに残存している温度範囲において、溶融成形することを含む、高分子成形物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2006/038373号公報
【特許文献2】特開2012-246588号公報
【特許文献3】国際公開WO2021/246433号公報
【特許文献4】国際公開WO2021/246434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載の方法においては、溶融押出繊維を急冷、固化させて非晶質の繊維を作製し、非晶質の繊維をガラス転移点温度+15℃以下に放置して結晶化繊維を作製している。しかし、多孔質である結晶化繊維を作製するためには、非晶質の繊維をガラス転移点温度+15℃以下に長時間放置おくことが必要であり、生産性の観点から改善が求められていた。
【0007】
本発明は、脂肪族ポリエステルを溶融成形した後に、固化して、多孔質である結晶化繊維を製造する際に、非晶質の繊維をガラス転移点温度+15℃以下に放置しておく時間が短縮されるような、脂肪族ポリエステルの成形物の製造方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は上記方法で製造され、特定の構造を有する、脂肪族ポリエステルの成形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含む脂肪族ポリエステルを、部分溶融した状態において溶融成形し、上記で得られた溶融成形物を、脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の温度において12時間未満保持することによって、多孔質である結晶化繊維を製造できることを見出した。本発明は上記の知見に基づいて完成したものである。
【0009】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> (1) 異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含む脂肪族ポリエステルを、一部のラメラ結晶は溶融して流動化させ、その他残部のラメラ結晶は溶融せずに残存している温度範囲において、溶融成形すること;
(2) 前記(1)で得られた溶融成形物を、前記脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の温度において12時間未満保持すること;および
(3) 前記(2)で得られた成形物を延伸すること;
を含む、脂肪族ポリエステルの成形物の製造方法。
<2> 前記温度範囲が、フローテスタ昇温法による流出開始温度よりも高く、かつ示差走査熱量計によって測定される結晶融解が完全に完了することを示す温度よりも低い範囲である、<1>に記載の方法。
<3> 前記温度範囲が、フローテスタ昇温法による流出開始温度よりも高く、かつ補外融解終了温度よりも低い範囲である、<1>に記載の方法。
<4> 溶融成形が、溶融押出による成形である、<1>から<3>の何れか一に記載の方法。
<5> 溶融成形が、溶融押出紡糸による成形である、<1>から<4>の何れか一に記載の方法。
<6> 前記脂肪族ポリエステルが、生分解性高分子を含む、<1>から<5>の何れか一に記載の方法。
<7> 前記脂肪族ポリエステルが、モノマーユニットとして3-ヒドロキシ酪酸を含む共重合体である、<1>から<6>の何れか一に記載の方法。
<8> 前記脂肪族ポリエステルが、モノマーユニットとして3-ヒドロキシ酪酸と4-ヒドロキシ酪酸とを含む共重合体、またはモノマーユニットとして3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシバレレートとを含む共重合体である、<1>から<7>の何れか一に記載の方法。
<9> 前記(2)において、前記(1)で得られた溶融成形物を、前記脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の温度において、6時間以下保持する、<1>から<8>の何れか一に記載の方法。
<10> <1>から<9>の何れか一に記載の方法により製造される、脂肪族ポリエステルの成形物。
<11> 前記成形物が、孔径0.5μm以上の空隙を有さない表面層と、孔径0.5μm以上の空隙を複数有するコア層とから構成されている、<10>に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
<12> 表面層の体積が、成形物の体積の5~50%である、<10>又は<11>に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
<13> 成形物が、略円柱状である、<10>から<12>の何れか一に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
<14> 孔径0.5μm以上の空隙を有さない表面層と、孔径0.5μm以上の空隙を複数有するコア層とから構成され、
表面層とコア層とが同一の脂肪族ポリエステルから構成されている、
脂肪族ポリエステルの成形物。
<15> 表面層の体積が、成形物の体積の5~50%である、<14>に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
<16> 成形物が、略円柱状である、<14>又は<15>に記載の脂肪族ポリエステルの成形物。
【発明の効果】
【0010】
本発明による脂肪族ポリエステルの成形物の製造方法によれば、脂肪族ポリエステルを溶融成形した後に、固化して、多孔質である結晶化繊維結晶化を製造する際に、非晶質の繊維をガラス転移点温度+15℃以下に放置しておく時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、P(3HB-co-16mol%-4HB)のDSCチャートを示す。
【
図2】
図2は、P(3HB-co-16mol%-4HB)を用いたポーラス繊維の内部形態を示す。上段は公知の方法の結果を示し、下段は本発明の方法の結果を示す。
【
図3】
図3は、P(3HB-co-16mol%-4HB)を用いたポーラス繊維のポアサイズ分布を示す。
【
図4】
図4は、P(3HB-co-8mol%-3HV)のDSCチャートを示す。
【
図5】
図5は、P(3HB-co-8mol%-3HV)を用いたポーラス繊維の内部形態を示す。上段は公知の方法の結果を示し、下段は本発明の方法の結果を示す。
【
図6】
図6は、本発明の方法で作製したP(3HB-co-16mol%-4HB)ポーラス繊維と非ポーラス性繊維の結紮部の評価の結果を示す。本発明のポーラス繊維は左側が4時間、右側が6時間の低温保持をしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては、異なるラメラ厚を有するラメラ結晶を含む脂肪族ポリエステルを、一部のラメラ結晶は溶融して流動化させ、その他残部のラメラ結晶は溶融せずに残存している温度範囲において、溶融成形する。
【0013】
本発明においては、脂肪族ポリエステルの流動性をフローテスタにて評価した時に測定した流出開始温度以上であり、示差走査熱量計(DSC)によって測定される結晶融解が完全に完了することを示す温度よりも低温の温度域にて溶融し、その後成形することによって、結晶化が遅く加工特性の悪い脂肪族ポリエステルの加工性を向上させることができる。
【0014】
「示差走査熱量計(DSC)によって測定される結晶融解が完全に完了することを示す温度」とは、好ましくは、融解ピークの補外融解終了温度である。融解ピークがシャープな場合には、JIS-K7121に準拠し、融解ピークの補外融解終了温度は、ピーク終了前の最大傾斜の点で引いた接線とピーク後のベースラインとの交点の温度である(例えばRigaku,Thermo plus EVO ソフトウェアによって認識させる)。融解ピーク形状が複数重なっている場合には、より高温側のピークに対してマニュアルにて接線を引き直し、ベースラインとの交点を補外融解終了温度とする。
【0015】
さらに、溶融成形は従来においては、融点+20℃、融点+10℃、融点+5℃等、融点以上の温度にて溶融され、その後成形されるのが一般的である。これに対し、本発明のように部分溶融状態で成形する場合には融点よりも低い温度で部分溶融させるため、融点と熱分解点が近い高分子の場合には熱による分解、すなわち分子量低下を抑えることができ、成形後の高分子の分子量を高い状態に維持できるため、物性面でもより有益である。さらに部分溶融状態での溶融には、完全溶融よりもより低い温度であるために、高分子の熱分解だけでなく、微量に混入する水分が加熱状態で関与する高分子の分子鎖の加水分解も減少できることが推察されるため、原料の水分含量は一般的には低い方が望ましいが、特別に低濃度になるように減量・維持する必要性が減少する。これにより、紡糸や成形装置において大気中の水分が、原料高分子に移行してしまうような、乾燥原料高分子の乾燥状態を厳密に維持するための特別な装置が必要なくなるという利点も予想される。
【0016】
なお、本発明は結晶核剤の添加をしなくても溶融結晶化の遅いポリエステルの成形加工性を改善し、生産性を向上するものであるが、結晶核剤の使用を妨げるものではない。
【0017】
本発明の一例としては、脂肪族ポリエステルとしてP(3HB-co-4HB)を使用することができる。この場合、本発明の方法は、P(3HB-co-4HB)の溶融時に、ポリマー内部の3HBセグメントからなる相対的に薄いラメラ結晶をはじめとする結晶や非晶領域が溶融、流動化し始める温度から、3HBセグメントからなる相対的に厚めのラメラ結晶等が溶融する温度の間で溶融押出する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明においては、脂肪族ポリエステルに含まれるラメラ結晶をはじめとする結晶の一部を残して溶融成型し、その溶け残った結晶が結晶核となることで、一般的な溶融成型での一次核形成を待たずして成形することが可能になる。
【0019】
従って、結晶化の遅い結晶性熱可塑性高分子の成形加工性の低さを改善し、完全溶融時とは違って結晶一次核形成を待つことなく、部分溶融直後に成形でき、生産性が向上する。
結晶性熱可塑性高分子のバルク中にすでに分散しているラメラ結晶をはじめとする結晶の一部の結晶が溶け残って結晶核として働くので、一次核形成の待機時間が必要なくなり、溶融押出直後の結晶性の低さからくる粘着性も減少し、繊維やフィルムなど成形体が膠着しにくくなり、溶融紡糸直後、フィルム化直後に巻き取りや延伸が可能であり、生産性が向上する。
【0020】
一部の結晶が溶け残った状態で溶融紡糸し、その直後に延伸することで、溶け残っているラメラ結晶は配向し、非晶状態の高分子鎖は高配向し、結晶を成形しやすいモノマーユニット連続セグメントが集まって結晶化が促進される。熱分解を引き起こすような高温での溶融を行わないことで、熱分解による分子量低下が抑えられ、成形物の分子量維持、つまり、熱による劣化を防止することにもつながる。さらに高分子に残存水分がある場合や、空気中の水分を吸湿しやすい高分子であっても、部分溶融成形で溶融温度を下げることができるので、完全溶融成形よりも熱と水分が関与する加水分解の度合も低下することができ、高分子の分子量低下が抑えられ、成形物の分子量維持につながる。
【0021】
[脂肪族ポリエステルについて]
脂肪族ポリエステルは、脂肪族ヒドロキシカルボン酸のホモポリマー(例えば、ポリ3-ヒドロキシプロピオン酸、ポリ3-ヒドロキシ酪酸、ポリ3-ヒドロキシ吉草酸、ポリ4-ヒドロキシ酪酸、ポリ3-ヒドロキシヘキサン酸、ポリ3-ヒドロキシオクタン酸、ポリ4-ヒドロキシ吉草酸、ポリ4-ヒドロキシヘキサン酸、ポリ5-ヒドロキシ吉草酸、ポリ2-ヒドロキシ酪酸、ポリ2-ヒドロキシ吉草酸、ポリ2-ヒドロキシヘキサン酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等)、コポリマー(例えば、3-ヒドロキシプロピオン酸と3-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、3-ヒドロキシプロピオン酸と3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマー、3-ヒドロキシプロピオン酸と4-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、3-ヒドロキシプロピオン酸と3-ヒドロキシヘキサン酸のコポリマー、3-ヒドロキシプロピオン酸と3-ヒドロキシオクタン酸のコポリマー、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマー、3-ヒドロキシ酪酸と4-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸のコポリマー、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシオクタン酸のコポリマー、3-ヒドロキシ吉草酸と4-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、3-ヒドロキシ吉草酸と3-ヒドロキシヘキサン酸のコポリマー、3-ヒドロキシ吉草酸と3-ヒドロキシオクタン酸のコポリマー、乳酸とグリコール酸のコポリマー、乳酸とε-カプロラクトンのコポリマー、乳酸と3-ヒドロキシプロピオン酸のコポリマー、乳酸と3-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、乳酸と3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマー、乳酸と3-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、乳酸と3-ヒドロキシヘキサン酸のコポリマー、乳酸と3-ヒドロキシオクタン酸のコポリマー、グリコール酸とε-カプロラクトンのコポリマー、グリコール酸と3-ヒドロキシプロピオン酸のコポリマー、グリコール酸と3-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、グリコール酸と3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマー、グリコール酸と4-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、グリコール酸と3-ヒドロキシヘキサン酸のコポリマー、グリコール酸と3-ヒドロキシオクタン酸のコポリマー、ε-カプロラクトンと3-ヒドロキシプロピオン酸のコポリマーε-カプロラクトンと3-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、ε-カプロラクトンと3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマー、ε-カプロラクトンと4-ヒドロキシ酪酸のコポリマー、ε-カプロラクトンと3-ヒドロキシヘキサン酸のコポリマー、ε-カプロラクトンと3-ヒドロキシオクタン酸のコポリマー)及びターポリマーなどの3種類以上のモノマーで構成される共重合体、脂肪族多価アルコールカルボン酸のホモポリマー(例えば、ポリブチレンサクシネート等)及びコポリマー(例えば、ブタンジオールとコハク酸及びアジピン酸のコポリマー等)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸と脂肪族多価アルコール及び脂肪族多価カルボン酸からなるコポリマー(例えば、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートのブロックコポリマー、)、ポリジオキサノンやジオキサノンを含む共重合体、及びそれらの混合物を包含する。
【0022】
本発明で取り扱う脂肪族ポリエステルにおいて、ラメラ結晶や房状ミセル構造、球晶、デンドライト、シシカバブ構造、伸びきり鎖結晶など結晶性セグメントの高分子構造を構成するためには高結晶性の連続モノマーユニット連鎖、例えば、乳酸の連鎖、グリコール酸の連鎖、ε-カプロラクトンの連鎖、3-ヒドロキシプロピオン酸の連鎖、3-ヒドロキシ酪酸の連鎖、3-ヒドロキシ吉草酸の連鎖、4-ヒドロキシ酪酸の連鎖、3-ヒドロキシヘキサン酸の連鎖、3-ヒドロキシヘキサン酸の連鎖、3-ヒドロキシオクタン酸の連鎖、4-ヒドロキシ吉草酸の連鎖、4-ヒドロキシヘキサン酸の連鎖、5-ヒドロキシ吉草酸の連鎖、2-ヒドロキシ酪酸の連鎖、2-ヒドロキシ吉草酸の連鎖、2-ヒドロキシヘキサン酸の連鎖、ブチレンサクシネートの連鎖、ブチレンサクシネートアジペートの連鎖等、結晶性のミクロ構造をとるのに十分な連鎖構造が高分子鎖の中に繰り返し存在することが望ましい。モノマーユニットとして立体異性体あるいは光学異性体が存在する場合には、同じ立体異性体でできた連鎖からなる結晶性セグメントが必要であり、例えば、L-乳酸の連鎖、D-乳酸の連鎖、R-3-ヒドロキシ酪酸の連鎖、S-3-ヒドロキシ酪酸の連鎖、R-3-ヒドロキシ吉草酸の連鎖、S-3-ヒドロキシ吉草酸の連鎖、R-3-ヒドロキシヘキサン酸の連鎖、S-3-ヒドロキシヘキサン酸の連鎖等、同じ立体異性体の連鎖構造が結晶構造を構成するためには重要な要素である。立体異性体もしくは光学異性体の存在するモノマーユニットを含むポリエステルの場合、結晶性が低下し、結晶性セグメントが得られにくくなる。特に生物学的にこれらのモノマーユニットからなる高分子を合成する場合には、R-3-ヒドロキシ酪酸の連鎖を持ち、第二成分としてその他のモノマーユニットを取り込んだ2元共重合体あるいは3元以上の共重合体がより好ましい。
【0023】
脂肪族ポリエステルは化学合成法でも生物合成法のどちらによって生成されても構わないが、連鎖構造による結晶性セグメントを確保するためには、立体異性体のあるモノマーユニットを含む場合には、例えばL-乳酸とグリコール酸の共重合体、D-乳酸とグリコール酸の共重合体、R-3-ヒドロキシ酪酸と4-ヒドロキシ酪酸の共重合体、S-3-ヒドロキシ酪酸と4-ヒドロキシ酪酸の共重合体、R-3-ヒドロキシ酪酸とε-カプロラクトンとの共重合体、S-3-ヒドロキシ酪酸とε-カプロラクトンとの共重合体、などのように、どちらかの立体異性体からなる共重合体であることが望ましい。
【0024】
脂肪族ポリエステルが、3-ヒドロキシ酪酸単位と4-ヒドロキシ酪酸単位を含む場合においては、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシ酪酸単位の割合は、好ましくは5モル%以上40モル%以下である。全モノマー単位に対する4-ヒドロキシ酪酸の割合は、5モル%以上、6モル%以上、7モル%以上、8モル%以上、9モル%以上、10モル%以上、11モル%以上、12モル%以上、13モル%以上、14モル%以上、15モル%以上、または16モル%以上でもよく、17モル%以上、18モル%上、19モル%以上、20モル%以上でもよい。全モノマー単位に対する4-ヒドロキシ酪酸単位の割合は、35モル%以下、34モル%以下、33モル%以下、32モル%以下、31モル%以下、30モル%以下、29モル%以下、28モル%以下、27モル%以下、26モル%以下、25モル%以下、24モル%以下、23モル%以下、22モル%以下、または21モル%以下でもよい。
【0025】
脂肪族ポリエステルが、3-ヒドロキシ酪酸単位と3-ヒドロキシ吉草酸単位を含む場合においては、全モノマー単位に対する3-ヒドロキシ吉草酸単位の割合は、好ましくは5モル%以上90モル%以下である。全モノマー単位に対する3-ヒドロキシ吉草酸単位の割合は、5モル%以上、6モル%以上、7モル%以上、8モル%以上、9モル%以上、10モル%以上、15モル%以上、20モル%以上、25モル%以上、30モル%以上、35モル%以上、または40モル%以上でもよく、45モル%以上、50モル%上、55モル%以上、60モル%以上でもよい。全モノマー単位に対する3-ヒドロキシ吉草酸単位の割合は、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、75モル%以下、70モル%以下、65モル%以下でもよい。
【0026】
<脂肪族ポリエステルの分子量>
ポリヒドロキシアルカノエート等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸ポリマーについては、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は、好ましくは10万以上であり、より好ましくは20万以上であり、さらに30万以上、40万以上又は50万以上でもよい。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は、60万以上、70万以上、80万以上、90万以上、100万以上、110万以上、120万以上、130万以上、140万以上、150万以上、200万以上、300万以上、または400万以上でもよい。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量の上限は特に限定されないが、一般的には、2000万以下であり、1000万以下、800万以下、700万以下、600万以下、500万以下、400万以下、又は300万以下でもよい。ただし溶融成型を行う場合には熱分解による分子量低下と溶融時の粘度が高くなりすぎないことを勘案し、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は40万以上、250万以下が望ましく、より好ましくは50万以上、220万以下であり、さらに好ましくは60万以上、200万以下である。
【0027】
<脂肪族ポリエステルの好ましい態様>
本発明の高分子は、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、交互コポリマー、またはグラフトコポリマーの何れでもよいが、好ましくはランダムコポリマーである。
【0028】
脂肪族ポリエステルは、より好ましくは生分解性高分子であり、さらに好ましくは生体吸収性高分子である。生分解性とは、自然環境(例えば、土壌、堆肥、湖沼、海水など)において微生物や酵素によって分解され得るか、または生体内で非毒性成分に分解され得ることを意味する。生体吸収性とは、ヒトまたは動物などの生体により代謝され得ることを意味する。
【0029】
脂肪族ポリエステルの融点は特に限定されないが、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは175℃以下であり、さらに好ましくは175℃未満である。高分子の融点は、170℃以下、160℃以下、150℃以下、140℃以下、又は130℃以下でもよい。高分子の融点の下限は特に限定されないが、一般的には、40℃以上であり、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、又は100℃以上でもよい。脂肪族ポリエステルが複数の融点を有する場合には、主成分の融点が上記の範囲内であればよい。
【0030】
[溶融成形について]
本発明においては、脂肪族ポリエステルを溶融成形する。脂肪族ポリエステルを溶融成形する際には、本発明の効果を損なわない限りさらに、添加剤を添加してもよい。
添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、着色防止剤(亜リン酸塩、次亜リン酸塩など)、滑剤、離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、着色剤(染料または顔料など)、導電剤あるいは着色剤としてのカーボンブラック、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される一種以上を挙げることができる。
【0031】
脂肪族ポリエステルに添加剤を配合する方法としては、特に限定されるものではなく、ドライブレンド、溶液配合、高分子の重合時における添加などが挙げられる。
【0032】
脂肪族ポリエステルは、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形(溶融押出成形)、ブロー成形、プレス成形、紡糸(溶融押出紡糸)などの公知の溶融成形を行うことができる。
溶融成形の回数は特に限定されないが、好ましくは1回だけ行うことができる。
【0033】
工程(1)で得られた部分溶融した成形物は、部分溶融した成形物を脂肪族ポリエステルのガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化させて非晶質の成形物を作製することが好ましい。急冷、固化の温度としては、通常ガラス転移点温度+15℃以下、好ましくはガラス転移点温度+10℃以下、更に好ましくはガラス転移点温以下である。また、特に下限はないが、経済性の点から通常は-180℃以上で行うことができる。急冷工程により、脂肪族ポリエステルは非晶質となる。
【0034】
ガラス転移点温度は、例えば、動的粘弾性測定を行うことにより評価することができる。動的粘弾性は、例えば、セイコーインスツルメンッ株式会社製DMS210動的粘弾性測定機を用い、窒素雰囲気下、周波数1Ηz、昇温速度2℃/minの条件で、100~120℃の範囲で測定することができる。例えば、Mn30万程度の低分子量のPHBでは、ガラス転移点温度は4℃以下である。コポリマーの場合は、その組成により異なる。なお、ガラス転移点温度は高い方が、加工しやすいという点で有用である。
【0035】
冷却媒体としては、例えば、空気、水(氷水)、不活性気体等が挙げられる。急冷は、例えば、溶融PHA類をガラス転移点温度+15℃以下の空気または氷水等の媒体中に押出し、巻き取りながら同媒体中を通過させておこなうことができる。巻き取りの速度としては、通常、3~150m/min、好ましくは3~30m/minである。非晶質の繊維であることは、例えば、X線回折等の方法により確認することができる。X線回折において、結晶に由来するピークが確認できなければ、非晶質であるといえる。
【0036】
冷却した後に、溶融成形物は、脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の温度において12時間未満保持する。
好ましくは、工程(2)においては、溶融成形物を、脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の等温において12時間未満保持することができる。
好ましくは、工程(2)において、溶融成形物を、脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+15℃の温度以下の温度において、6時間以下保持することができる。
【0037】
上記により、結晶化した成形体を作製することができる。結晶化は、通常ガラス転移点温度+15℃以下、好ましくはガラス転移点温度+10℃C以下、さらに好ましくはガラス転移点温度以下で行うことができる。結晶化の温度としては、特に下限はないが、経済性の点力も通常は-180℃以上で行うことができる。
【0038】
従来の微結晶核延伸法における結晶化の時間は、通常は、24~72時間、好ましくは48~72時間程度である。これに対し、本発明の方法においては、結晶化の時間は12時間未満である。
このガラス転移点温度+15℃以下での等温結晶化によれば、繊維における結晶化が非常にゆっくり進む。また、生成される結晶は非常に小さいものである。その小さな結晶が延伸の基点(延伸核)となり、1段階の延伸(比較的低倍率の延伸)で分子鎖が高度に配向するものと考えられる。このことは本発明の繊維において、5倍の延伸倍率でも、分子鎖の一部が伸びきり構造となっていることから推測できる。結晶化の時間が短すぎる場合には、結晶化が十分に進まず、結晶が十分に形成されないため好ましくない。また、結晶化の時間が長すぎる場合には、結晶化が進みすぎて、加工性が低下するため好ましくない。
【0039】
本発明においては、工程(2)で得られた成形物を延伸する。
延伸は、ガラス転移点温度以上で行うことができ、例えば室温で行うことができる。延伸の温度としては、特に上限はないが、通常融点以下で行うことができる。
延伸は、例えば、延伸器などに固定して行うことができ、また、2つの巻き取りローラ一により巻き取りながら張力をかけて行うことができる。延伸器などに固定して延伸する場合、延伸倍率は通常、200%以上、好ましくは500%以上である。延伸倍率としては、特に上限はなく破断しない程度であればよい。
【0040】
本発明においては、延伸後、更に緊張熱処理を行ってもよい。
緊張熱処理は、温風熱処理、乾燥機熱処理等により行うことができる。緊張熱処理は、通常は25~150℃、好ましくは40℃~100℃程度で、通常5秒~120分、好ましくは10秒~30分程度で行うことができる。
【0041】
なお、緊張熱処理とは、緊張下で熱処理を行うことであり、緊張は、例えば、固定、加重、張力等によって行うことができる。固定熱処理とは、繊維の両端を固定した状態で熱処理を行うことである。また、繊維の先に重りを吊して加重して熱処理を行う場合、加重は繊維が切断しなければ、重ければ重い程良い。加重は延伸後の繊維に加重をかけて切断しない程度までの範囲で決定することができる。また、巻き取り口一ラー等により、送りと巻き取りのローラー速度を変えて、張力をかけながら熱処理を行うことができる。張力により繊維は延伸されながら熱処理される。巻き取りローラーにより張力をかけて熱処理を行う場合、通常延伸倍率100%以上、好ましくは300%以上で行うことができる。なお、倍率100%での延伸とは、繊維が伸びないように巻き取ことである。延伸倍率としては、特に上限はなく破断しない程度であればよい。
【0042】
本発明によれば、上記した本発明の方法により製造される、脂肪族ポリエステルの成形物が提供される。
本発明によれば、孔径0.5μm以上の空隙を有さない表面層と、孔径0.5μm以上の空隙を複数有するコア層とから構成され、表面層とコア層とが同一の脂肪族ポリエステルから構成されている、脂肪族ポリエステルの成形物が提供される。
【0043】
空隙のサイズとしては、一般的には0.5μm以上5μm以下である。空隙のサイズの平均としては1μm以上3μm以下程度である。
【0044】
表面層の体積は、好ましくは成形物の体積の5~50%であり、より好ましくは成形物の体積の10~40%であり、さらに好ましくは成形物の体積の15~35%である。
【0045】
本発明の方法で製造される成形品としては、射出成形品、押出成形品、プレス成形品、シート、パイプ、フィルム、糸などの各種繊維などが挙げられる。なお、本発明の方法で製造される成形品としては、略円柱状(チューブ形状)のものでもよいし、略円柱状(チューブ形状)以外のものでもよい。
【0046】
以下の実施例および比較例により本発明をさらに詳述する。なお以下の実施例および比較例の記載は、本発明の例を説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例0047】
<使用ポリマー>
P(3HB-co-4HB)共重合体はWO2019/044837に記載の方法に従って培養法により製造した。4HB比率は16mol%であった。また、P(3HB-co-3HV)共重合体はICI社のBiopolを使用した。3HV比率は8mol%であった。各サンプルは粉末形状のものを用い、保存する際には脱水剤を入れた。さらに、使用する前に真空乾燥機に入れ24時間程度真空乾燥させた。
【0048】
<ポリマーの熱特性評価とポーラス繊維の作製>
ポーラス繊維作製の作製について、公知の手法と本発明の手法について以下に記述する。なお、公知の手法とは、特開2012-246588、WO-A1-2006/038373などに開示されている手法であり、微結晶核延伸法と呼ばれている。本発明の手法は、ポーラスを含む成型物の迅速な作製方法を提案する。実施例では、繊維形状のポーラス繊維の作製法について示す。
【0049】
(1)融点の測定-DSC測定
サンプルの熱特性は、示差走査熱量測定(DSC8500,PerkinElmer,USA)により、窒素雰囲気下、流速30ml/minで測定した。各サンプル約5mgをアルミパンに入れ、室温から200℃まで10℃/minの速度で昇温した。このDSC曲線から吸熱ピークを決定し、融点とした。また、この融点の補外溶融終了温度を測定した。測定は、溶融紡糸を念頭に置き、ファーストランを評価した。
【0050】
(2)ポーラス繊維の作製
溶融紡糸にはシングルショットタイプの溶融紡糸機(IMC-19F8(井元製作所,日本))を用いた。一回の溶融紡糸にはポリマーを1.5g程度用いた。溶融温度はDSC測定の結果を踏まえて決定した。公知の手法は、DSCで検出される最も高温に出ている融点ピークの補外溶融終了温度以降を溶融紡糸温度とした。本発明の手法(本手法)においては、融点ピークの補外溶融終了温度よりも低い温度を溶融紡糸温度とした。溶融押出された繊維は直ちに氷水中に投入され、急冷されながら巻き取られた。こうして作製された非晶質繊維は、この氷水中で所定の時間低温保持された。その後、この繊維を手回し延伸器にセットし、初期長2cmから延伸倍率12倍になるまで室温下で延伸された。具体的な溶融温度、低温保持時間については、以下の実施例にて示す。
【0051】
<ポーラス繊維の評価>
(1)繊維の形態観察
繊維の内部形態は、走査型電子顕微鏡(SEM S-4800、日立製作所、日本)を用いて1kVの加速電圧で観察した(SEM観察)。観察前にイオンスパッタ装置(E-1030、日立製作所、日本)を用いて試料を白金コーティングすることで伝導性を高めた。
作製した繊維を、繊維軸に対して直交する方向に切断し、繊維軸と垂直な方向の活断面を観察した。
【0052】
(2)結紮性の評価
公知の手法、本発明の手法、および非ポーラス繊維のそれぞれを外科結びし、結紮部を作製した。結び目を作製する際には力を入れず、結び目を作製したのち、おおよそ5Nの力で締め付けた。この結紮部をSEM観察することで結び目のサイズを測定した。
【0053】
<実施例1>P(3HB-co-16mol%-4HB)
P(3HB-co-16mol%-4HB)にDSC測定した結果を
図1に示す。DSC測定の結果から、融点は複数確認され、最も高い融点は161℃であった。さらに、この融点における補外溶融終了温度は170℃であった。このことから、公知の手法として、溶融温度170℃で溶融紡糸した繊維、本発明の手法として150℃で作製した繊維の二つを用意した。さらに、これらの繊維を約0℃の氷水中で、4、6、72時間保持し、12倍延伸を施した。この繊維の活断面を観察した結果を
図2に示す。0、6時間ではポア(細孔)の出現は認められなかった。一方、72時間保持した繊維の内部には小さなポアが大量に形成されている様子が観察された。これは、公知の資料(特開2012-246588)などにも記されている結果と一致している。一方、本発明の手法で作製した繊維は、0時間こそポアが認められないものの、4時間、6時間では1μm前後のポアが観察された。
【0054】
4時間後および6時間後におけるポーラス繊維のポアサイズ分布を
図3に示す。
本発明の手法により作製した繊維において、ポア(空隙)のサイズは、大部分が0.5μm以上5μm以下であった。ポア(空隙)のサイズの平均は、4時間後においては0.9μmであり、6時間後においては1.6μmであった。
【0055】
公知の手法では、最短で12時間程度の低温保持を必要とすることから、4時間で細孔を有するポーラス繊維を作製できる本手法では大幅な作製時間の短縮効果(作製時間の迅速化)が認められた。これは、融点以下で溶融紡糸を行ったため、溶融し切らなかった結晶(残留結晶)が微結晶核のようにふるまったためだと考えられる。また、作製したポーラス繊維のポア分布に着目すると、繊維表面においてはポアの存在していない領域が認められ、ポアのある芯とポアのない鞘の二重構造(芯鞘構造)が存在することが明らかとなった。
【0056】
<実施例2>P(3HB-co-8mol%-3HV)
P(3HB-co-8mol%-3HV)にDSC測定を行った結果、融点は二つに割れており、高温側の融点は156℃であった。また、補外溶融終了温度は166℃であった。この結果より、公知の手法を補外溶融終了温度よりも5℃程度高い170℃に設定した。また、本発明の手法を補外溶融終了温度よりも低い160℃に設定した(
図4)。
図4のチャートにおいて、補外融解終了温度は162℃であった。作製した繊維を氷水中で、0、1、6時間保持し、12倍の延伸を施し、繊維断面のSEM観察を行った。SEM観察結果を
図5に示す。
【0057】
公知の手法では、0時間ではポアが見られないが、1時間以上保持したものはポアが観察された。一方、本発明の手法では、0時間からポアの存在が観察されており、大幅な作製時間の短縮(作製の迅速化)に成功した。本発明の手法により作製した繊維において、ポア(空隙)のサイズは、大部分が0.5μm以上5μm以下であった。また、本発明の手法で作製した繊維には、上記P(3HB-co-16mol%-4HB)と同様に芯鞘構造が認められた。
【0058】
<作製したP(3HB-co-16mol%-4HB)ポーラス繊維の結紮性>
本発明の手法で作製したポーラス繊維(低温保持時間4時間、6時間のもの)、ポーラスが無いP(3HB-co-4HB繊維)、さらに手術用縫合糸などとして上市されているP(4HB)繊維の4種類について、外科結びし、これらの結紮部サイズの比較を行った。P(3HB-co-16mol%-4HB)ポーラス繊維と、P(4HB)非ポーラス性繊維の結紮部の評価の結果を
図6に示す。
SEM観察の結果、各繊維の直径はおおよそ400μmであった。一方、結紮部の観察を行った結果、ポアが存在するポーラス繊維はポアがつぶれることによって結紮部サイズが大幅に小さくなることが明らかとなった。結紮部のサイズは、小さい順に、本発明の手法で作製されたポーラス繊維<P(3HB-co-16mol%-4HB)<P(4HB)繊維となった。