(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113595
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/18 20060101AFI20240815BHJP
C08F 14/06 20060101ALI20240815BHJP
C08F 4/40 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C08F2/18
C08F14/06
C08F4/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018706
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和徳
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊輔
【テーマコード(参考)】
4J011
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA08
4J011AC03
4J011BB02
4J011BB08
4J011BB09
4J011JA13
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4J015CA04
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4J100AC03P
4J100EA05
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4J100FA08
4J100FA21
4J100FA28
4J100GB12
4J100JA57
(57)【要約】
【課題】 可塑剤に分散し調製したペースト加工用塩化ビニル系樹脂組成物ゾルが低粘度であり、ゾル化性、混練性、粉体特性、コーティング性、スプレー特性に優れ、特に手袋用として優れた特性を有するペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 水性媒体中、重合開始剤を含有する塩化ビニル系樹脂シードの存在下、塩化ビニル系単量体のシード重合にてペースト加工用塩化ビニル系樹脂を製造する際に、重合反応温度到達後110分以上の時間経過の後にレドックス触媒の添加を開始することを特徴とするペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中、重合開始剤を含有する塩化ビニル系樹脂シードの存在下、塩化ビニル系単量体のシード重合にてペースト加工用塩化ビニル系樹脂を製造する際に、重合反応温度到達後110分以上の時間経過の後にレドックス触媒の添加を開始することを特徴とするペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
レドックス触媒の添加を重合反応停止時まで連続して行うことを特徴とする請求項1に記載のペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
重合反応温度が45~55℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
レドックス触媒が、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アスコルビン酸金属塩及びエリソルビン酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1種以上のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
重合開始剤が、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド及びコハク酸パーオキサイドからなる群より選択される1種以上のものであり、シード重合がシード微細懸濁重合であることを特徴とする請求項1又は2に記載のペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シード重合法によるペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法に関するものであり、微小粒子の割合が少なく、可塑剤に分散し調製したペースト加工用塩化ビニル系樹脂組成物ゾルが低粘度であり、ゾル化性、混練性、コーティング性、スプレー特性に優れ、特に手袋用途として優れた特性を有するペースト加工用塩化ビニル系樹脂を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂(以下、ペースト塩ビと略記することもある。)を製造する方法としては、一般に、重合反応器に塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体との混合単量体を、重合開始剤の存在下において水性媒体中で微細懸濁重合法、乳化重合法、シード微細懸濁重合法、シード乳化重合法等の重合法を行い、重合反応器内温を所定温度に維持しながら、重合反応を進め、重合転化率の増加と共に、仕込み単量体の未反応分が減少し、重合反応器内圧力が降下し始めるので、所望の重合転化率に相当する重合反応器内圧力になった時点で、重合反応を終了し、ペースト塩ビラテックスを製造し、該ラテックスを乾燥することにより、ペースト塩ビを得る製造方法が挙げられる。
【0003】
得られたペースト塩ビは、例えば可塑剤、安定剤、希釈剤等の配合剤と混練することによりペースト加工用塩化ビニル系樹脂組成物ゾル(以下、ペースト塩ビゾルと記すこともある。)として加工に用いられる。このようにして得られたペースト塩ビゾルを、コーティング法、スッラシュ成形、浸漬成形、回転成形等の方法で加工し成形品が得られる。その際、加工時のゾル粘度が高いと、例えばコーティング時の加工スピードが上げられず生産性に影響が生じたり、均一な成形品が得られなかったり、又、粘度の経時変化が大きいため加工が困難になったりするなどの課題があった。
【0004】
ペースト塩ビゾルにおけるこれらの課題は、ペースト塩ビを構成する基本粒子径に起因するものと考えられる。
【0005】
シード微細懸濁重合法は、約0.5μmの油溶性重合開始剤を含有する種粒子を単独、あるいは必要に応じて油溶性重合開始剤を含有しない種粒子を用い、種粒子を成長させることにより約0.1~2μm程度の粒子を得るペースト塩ビ特有の製造方法である。シード微細懸濁重合を一般に使用されているアニオン系及びノニオン系の界面活性剤を使用して行うと、主に重合末期に仕込種粒子以外の0.1μm未満の微小な粒子が多数発生する。これら多数発生した0.1μm未満の粒子は、重合体ラテックスを乾燥しペースト塩ビを得る際、0.1~2μmの粒子間の凝集力を強めるためにこれをペースト塩ビゾルとした場合、可塑剤などの液状成分への分散性の悪化による粘度の増加と、凝集物が形成する多孔性部分への液状成分の吸収などからゾルの経時変化が大きくなる原因と考えられる。
【0006】
そして、粘度の低下、粘度の経時変化の少ないゾルを得るための目的では種々の方法が試みられ、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸エステルのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩をミクロ懸濁重合で使用する方法(例えば特許文献1参照。)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルフォネートのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩を乳化重合またはミクロ懸濁重合で使用する方法(例えば特許文献2参照。)、特定の界面活性剤の存在下、シードミクロ懸濁重合を行う方法(例えば特許文献3参照。)、等の提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63-35166号
【特許文献2】特開昭61-44907号公報
【特許文献3】特開平6-56915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1,2に提案の方法においては、いずれも基本粒子の制御、特に重合中に発生する微小粒子の抑制に関して課題を有し、また、特許文献3に提案の方法は、特に手袋用途としてのペースト塩ビの製造方法に関しては提案されておらず、微小粒子成分の生成を抑制したペースト塩ビに関しては検討されていないものであった。
【0009】
そこで、ペースト塩ビをシード重合により製造する際に、微小粒子成分が少なく、ゾル化性、混練性に優れ、特に手袋材としての適用を可能とするペースト塩ビを効率的に製造する方法の出現が期待されてきた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の条件下でシード重合を行うことにより、低粘度であり、コーティング性、スプレー特性に優れるペースト塩ビゾルを提供することが可能であり、特に手袋材としての適用を可能とするペースト塩ビを安定的に製造することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、水性媒体中、重合開始剤を含有する塩化ビニル系樹脂シードの存在下、塩化ビニル系単量体のシード重合にてペースト塩ビを製造する際に、重合反応温度到達後110分以上の時間経過の後にレドックス触媒の添加を開始することを特徴とするペースト塩ビの製造方法に関するものである。
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のペースト塩ビの製造方法は、塩化ビニル系単量体のシード重合にてペースト塩ビを製造する際に、レドックス触媒の存在下とするものであり、その添加開始時期を重合反応温度到達後110分以上の時間経過の後とするものであり、微小粒子の発生を特に抑制したペースト塩ビの製造方法となることから300分以上の時間経過後とすることが好ましく、更に重合停止時までの連続添加とすることが好ましい。ここで、レドックス触媒の添加開始時期を重合反応温度到達後110分未満とした場合、微小粒子の発生が多くなり、得られるペースト塩ビをペースト塩ビゾルとした場合、混練時に高粘度となり、作業性、ハンドリング性に劣るものとなる。そして、この際のレドックス触媒としては、レドックス触媒と称される範疇に属するものであればよく、例えばアスコルビン酸、エリソルビン酸、アスコルビン酸カリウム,アスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸金属塩、エリソルビン酸カリウム,エリソルビン酸ナトリウム等のエリソルビン酸金属塩等を挙げることができ、その添加の際の状態としては、固体状は無論、溶液、水溶液の状態であってもよい。
【0014】
本発明のペースト塩ビの製造方法は、水性媒体中、重合開始剤を含有する塩化ビニル系樹脂シード、レドックス触媒、場合によっては乳化剤等の存在下、塩化ビニル系単量体のシード重合を行うことにより、微小粒子の割合が少なく、特に手袋材としての適用も可能とするペースト塩ビを安定的に製造することが可能となるものである。その際のシード重合法としては、例えばシード乳化重合法、シード微細懸濁重合法等によるシード重合法を挙げることができる。
【0015】
その際の塩化ビニル系単量体としては、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体との混合単量体を挙げることができ、その際の塩化ビニル単量体と共重合し得る単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物類;アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル,メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、桂皮酸エステル等の不飽和カルボン酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルアミルエーテル、ビニルフェニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のモノオレフィン類;塩化ビニリデン、スチレン及びその誘導体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができ、これらは2種以上でも用いることができる。
【0016】
水性媒体としては、水性媒体と称される範疇に属するものであり、水、脱イオン水、蒸留水、上水等を挙げることができ、水性媒体と称される範疇に属するものであれば有機溶媒等を含むものであってもよい。また、水性媒体の添加量としては塩化ビニル系単量体100重量部に対して、50~200重量部であることが好ましい。
【0017】
乳化剤としては、例えばラウリル硫酸エステルナトリウム,ミリスチル硫酸エステルナトリウムの如きアルキル硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムの如きアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム,ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムの如きスルホコハク酸塩類、ラウリン酸アンモニウム,ステアリン酸カリウムの如き脂肪酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類などのアニオン系界面活性剤;ソルビタンモノオレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートの如きソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類などのノニオン系界面活性剤;などの従来より知られているものを1種類または2種類以上用いることができ、中でも、特に品質に優れるペースト塩ビを製造することが可能となることからアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、該アルキルベンゼンスルホン酸塩の具体的例示としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアンモニウム塩等を挙げることができる。乳化剤は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.5~3重量部を添加することが好ましい。
【0018】
そして、本発明のペースト塩ビの製造方法における重合開始剤を含有する塩化ビニル系樹脂シードとしては、通常のシード微細懸濁法、シード乳化重合法に用いられるものでよく、その調製方法としては、例えば水性媒体、塩化ビニル系単量体、重合開始剤、乳化剤等の均質化を、例えばホモジナーザー等の均質化処理装置により行い、その後、重合温度30~50℃で重合を進行し製造する方法を挙げることができる。その際の重合時間としては300~800分を挙げることができる。
【0019】
また、重合開始剤としては重合開始剤と称されるものであればよく、シード乳化重合法に適用する塩化ビニル系樹脂シードを製造する際であれば、通常過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等に代表される水溶性開始剤を挙げることができ、シード微細懸濁重合法に適用する塩化ビニル系樹脂シードを製造する際であれば、通常アゾビスイソブチロニトリルに代表されるアゾ化合物、ラウロイルパーオキサイド,t-ブチルペルオキシピバレート,ジアシルパーオキサイド,パーオキシエステル,パーオキシジカーボネート等に代表される過酸化物、等の油溶性開始剤等を挙げることができる。そして、中でも効率的なペースト塩ビの製造方法であるシード微細懸濁重合法への適用を可能とする塩化ビニル系樹脂シードの製造が可能となることから油溶性重合開始剤であることが好ましく、特に塩化ビニル系単量体に可溶し、10時間半減期温度30~70℃の油溶性重合開始剤、例えばジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイドなどが好ましく、更にジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ラウリルパーオキサイドが好ましい。重合開始剤は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1~3重量部を添加することが好ましい。
【0020】
また、重合開始剤を含有する塩化ビニル系樹脂シードを製造する際には、界面活性剤、緩衝剤等の重合助剤、乳化補助剤、連鎖移動剤等を用いてもよく、該乳化補助剤としては、例えばセチルアルコール,ラウリルアルコール等の高級アルコール、ラウリン酸,パルミチン酸,ステアリン酸等の高級脂肪酸又はそのエステル、芳香族炭化水素、高級脂肪酸炭化水素、塩素化パラフィンのようなハロゲン化炭化水素、等が挙げられる。また、連鎖移動剤としては、例えばトリクロロエチレン,四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素、2-メルカプトエタノール,3-メルカプトプロピオン酸オクチル,ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、アセトン,n-ブチルアルデヒド等のアルデヒド類、等が挙げられ、これらは、単独でも、2種類以上混合して用いても良い。また、その添加量としては塩化ビニル系単量体100重量部に対して、0.5~5重量部であることが好ましい。
【0021】
重合開始剤を含有する塩化ビニル系樹脂シードは、粒子自体又はそれを含むラテックスであってもよく、その際の平均粒子径としては、特に取扱い性に優れ、形状に優れるペースト塩ビを安定的に供給できるものとなることから0.2~0.8μmであることが好ましい。
【0022】
そして、本発明のペースト塩ビの製造方法は、水性媒体中、得られた重合開始剤を含有する塩化ビニル系樹脂シード、レドックス触媒、場合によっては乳化剤、界面活性等の存在下、塩化ビニル系単量体のシード重合を行うことにより、微小粒子成分が少なく、ゾル化性、混練性に優れ、特に手袋材としての適用も可能とするペースト塩ビを安定的に製造することが可能となるものである。その際のシード重合法としては、例えばシード乳化重合法、シード微細懸濁重合法等によるシード重合法を挙げることができる。その際の塩化ビニル系単量体、乳化剤、連鎖移動剤、水性媒体、重合助剤、乳化補助剤に関しては上記したものと同様のものを例示することができ、重合条件としては、例えば重合温度45~55℃で行い、重合系の圧力が0.2~0.8MPaまで低下し始めるまでとすることが好ましい。また、その際の重合時間としては200~600分を挙げることができる。
【0023】
得られたペースト塩ビの水性媒体分散液(微細懸濁液、乳化液)であるペースト塩ビラテックスよりペースト塩ビを得る方法としては、いかなる方法を用いてもよく、中でも、効率よく該ラテックスから水分を除去することができることから、噴霧乾燥による方法が好ましい。噴霧乾燥に使用する乾燥機は、一般的に使用されているものでよく、例えば「SPRAY DAYING HANDBOOK」(K.Masters著、3版、1979年、George godwin Limitedより出版)の121頁第4.10図に記載されている各種のスプレー乾燥機(例えば、Standard chamber,Tall-form nozzlechamber等)があげられる。その際の乾燥温度は、乾燥機の入口で一般的に80~200℃に、また出口では40~70℃、好ましくは45~65℃がよい。乾燥後、得られたペースト塩ビは、塩化ビニル系樹脂ラテックスを構成する粒子の凝集体であり、通常10~150μmの顆粒状である。乾燥出口温度が52℃を超える場合には、得られた顆粒状ペースト塩ビを粉砕した方が可塑剤への分散性の点から好ましく、乾燥出口温度が52℃以下であれば、顆粒状のままでも粉砕して使用してもどちらでもよい。
【0024】
得られたペースト塩ビは、可塑剤に分散し調製したペースト塩ビゾルが低粘度であると共に経時変化が少なく、コーティング性、スプレー特性に優れ、コート剤、シーラント剤、消しゴム、壁紙、タイル、履物等の各種用途に適用できるものとなる。そして、特に手袋用として優れた粉体特性、ゾル化性を発現することから粒子径0.4μm以下の微小粒子の割合が10重量%以下のものであることが好ましい
【発明の効果】
【0025】
本発明の製造方法により得られるペースト塩ビは、微小粒子割合が低く、可塑剤に分散し調製したペースト塩ビゾルの粘度が低粘度で経時変化が少なく、特に手袋材として優れた特性を有するものとなる。
【実施例0026】
以下に、実施例及び比較例により本発明の内容を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
以下に実施例における評価・測定方法を示す。
【0028】
<微小粒子の評価方法>
微小粒子の評価方法を以下に示す。実施例、比較例により得られたペースト塩ビラテックスをディスク遠心式粒度分布測定装置(日本ルフト(株)、(商品名)DC24000UHR)を用いて、粒子径分布を測定し、0.4μm以下の割合を微小粒子の重量割合(0.4μm以下)とし評価した。
なお、0.4μm以下の割合が10重量%以下のものは、微小粒子が少なく、粉体特性に優れるのみならず、ペースト塩ビゾルの調製が容易でゾル化性にも優れると判断した。
【0029】
<混練状態>
ペースト塩ビ100重量部に対し、フタル酸ジイソノニル60重量部(株式会社ジェイプラス製)を秤量し、金属棒を使用して手で混練した。その後、T.K.ホモディスパー20型(特殊機化工業製)を用い、2000rpmで3分間混練し、ゾルを調製した。その際、ペースト塩ビゾルの状態を確認した。
○:特に問題なく混練できる。
×:混練時に高粘度となり、ハンドリング性に劣る。
【0030】
実施例1
2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水1200g、塩化ビニル単量体400g、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(商品名:パーロイルOPP、重合開始剤濃度70重量%)9g、高級アルコール(商品名:カルコール6850)6g、及び10重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液80gを仕込み、該重合液をホモジナイザーを用いて90分間循環し、均質化処理後、温度を30℃に上げて、重合を進めた。オートクレーブの圧力が0.2MPaまで低下した点で重合反応を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、重合開始剤を含有する塩化ビニル樹脂シードをラテックス1として得た。ラテックス1中の塩化ビニル樹脂シードの平均粒子径は0.54μmであった。
【0031】
また、2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水990g、塩化ビニル単量体400g、過酸化ラウロイル(商品名:パーロイルL)9g、及び10重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液120gを仕込み、該重合液をホモジナイザーを用いて90分間循環し、均質化処理後、温度を46℃に上げて、重合を進めた。オートクレーブの圧力が0.4MPaまで低下した点で重合反応を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、重合開始剤を含有する塩化ビニル樹脂シードをラテックス2として得た。ラテックス2中の塩化ビニル樹脂シードの平均粒子径は0.57μmであった。
【0032】
そして、2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水780g、塩化ビニル単量体を800g、5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を9g、上記により得られた塩化ビニル樹脂シードラテックス1を60g、塩化ビニル樹脂シードラテックス2を50g、0.1重量%硫酸銅水溶液を4g仕込み、その後、この反応混合物を攪拌下、48℃に昇温しシード微細懸濁重合を開始し、オートクレーブの圧力が0.5MPaに低下するまで重合反応を行った。その際に重合反応温度(48℃)到達から重合終了までの間ラウリル硫酸ナトリウムを連続的に添加した。その添加量は5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液として60gであった。また、重合反応温度(48℃)到達から120分経過後にレドックス触媒を重合終了までの間連続的に添加した。その添加量は0.05重量%アスコルビン酸水溶液として80gであった。シード微細懸濁重合の重合時間は414分であった。
【0033】
シード微細懸濁重合後、未反応塩化ビニル単量体を回収し、ペースト塩ビラテックスを得た。得られたペースト塩ビラテックスをスプレードライヤーにて、熱風入口温度160℃、出口温度55℃で噴霧乾燥を行って、塩化ビニル単独重合体であるペースト塩ビを得た。
【0034】
得られたペースト塩ビを用いてペースト塩ビゾルを作製し、物性を評価した。得られたペースト塩ビは0.4μm以下の微小粒子の割合が7重量%と低く、ペースト塩ビゾルを調製する際の混練性に優れるものであった。
【0035】
実施例2
2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水1200g、塩化ビニル単量体400g、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(商品名:パーロイルOPP、重合開始剤濃度70重量%)9g及び10重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液80gを仕込み、該重合液をホモジナイザーを用いて90分間循環し、均質化処理後、温度を30℃に上げて、重合を進めた。オートクレーブの圧力が0.2MPaまで低下した点で重合反応を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、重合開始剤を含有する塩化ビニル樹脂シードをラテックスとして得た。ラテックス中の塩化ビニル樹脂シードの平均粒子径は0.55μmであった。
【0036】
そして、2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水780g、塩化ビニル単量体を800g、5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を9g、上記により得られた塩化ビニル樹脂シードラテックスを140g、0.1重量%硫酸銅水溶液を4g仕込み、その後、この反応混合物を攪拌下、48℃に昇温しシード微細懸濁重合を開始し、オートクレーブの圧力が0.5MPaに低下するまで重合反応を行った。その際に重合反応温度(48℃)到達から重合終了までの間ラウリル硫酸ナトリウムを連続的に添加した。その添加量は5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液として60gであった。また、重合反応温度(48℃)到達から300分経過後にレドックス触媒を重合終了までの間連続的に添加した。その添加量は0.05重量%アスコルビン酸水溶液として30gであった。シード微細懸濁重合の重合時間は433分であった。
【0037】
シード微細懸濁重合後、未反応塩化ビニル単量体を回収し、ペースト塩ビラテックスを得た。得られたペースト塩ビラテックスをスプレードライヤーにて、熱風入口温度160℃、出口温度55℃で噴霧乾燥を行って、塩化ビニル単独重合体であるペースト塩ビを得た。
【0038】
得られたペースト塩ビを用いてペースト塩ビゾルを作製し、物性を評価した。得られたペースト塩ビは0.4μm以下の微小粒子の割合が9重量%と低く、ペースト塩ビゾルを調製する際の混練性に優れるものであった。
【0039】
実施例3
2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水1200g、塩化ビニル単量体400g、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(商品名:パーロイルOPP、重合開始剤濃度70重量%)9g及び10重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液60gを仕込み、該重合液をホモジナイザーを用いて90分間循環し、均質化処理後、温度を30℃に上げて、重合を進めた。オートクレーブの圧力が0.2MPaまで低下した点で重合反応を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、重量開始剤を含有する塩化ビニル樹脂シードをラテックスとして得た。得られたラテックス中の塩化ビニル樹脂シードの平均粒子径は0.4μmであった。
【0040】
そして、2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水780g、塩化ビニル単量体を800g、5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を9g、上記により得られた塩化ビニル樹脂シードラテックスを150g、0.1重量%硫酸銅水溶液を4g仕込み、その後、この反応混合物を攪拌下、48℃に昇温し、シード微細懸濁重合を開始し、オートクレーブの圧力が0.5MPaに低下するまで重合反応を行った。その際に重合反応温度(48℃)到達から重合終了までの間ラウリル硫酸ナトリウムを連続的に添加した。その添加量は5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液として60gであった。また、重合開始(48℃到達時点)から400分経過後にレドックス触媒を重合終了までの間連続的に添加した。その添加量は0.05重量%アスコルビン酸水溶液として30gであった。シード微細懸濁重合の重合時間は407分であった。
【0041】
シード微細懸濁重合後、未反応塩化ビニル単量体を回収し、ペースト塩ビラテックスを得た。得られたペースト塩ビラテックスをスプレードライヤーにて、熱風入口温度160℃、出口温度55℃で噴霧乾燥を行って、塩化ビニル単独重合体であるペースト塩ビを得た。
【0042】
得られたペースト塩ビを用いてペースト塩ビゾルを作製し、物性を評価した。得られたペースト塩ビは0.4μm以下の微小粒子の割合が8重量%と低く、ペースト塩ビゾルを調製する際の混練性に優れるものであった。
【0043】
比較例1
2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水1200g、塩化ビニル単量体400g、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(商品名:パーロイルOPP、重合開始剤濃度70重量%)9g及び10重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液80gを仕込み、該重合液をホモジナイザーを用いて90分間循環し、均質化処理後、温度を30℃に上げて、重合を進めた。オートクレーブの圧力が0.2MPaまで低下した点で重合反応を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、重合開始剤を含有する塩化ビニル樹脂シードをラテックスとして得た。得られたラテックス中の塩化ビニル樹脂シードの平均粒子径は0.55μmであった。
【0044】
そして、2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水780g、塩化ビニル単量体を800g、5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を9g、上記により得られた塩化ビニル樹脂シードラテックス140g、0.1重量%硫酸銅水溶液4gを仕込み、その後、この反応混合物を攪拌下、48℃に昇温し、シード微細懸濁重合を開始し、オートクレーブの圧力が0.5MPaに低下するまで重合反応を行った。その際に重合反応温度(48℃)到達から重合終了までの間ラウリル硫酸ナトリウムを連続的に添加した。その添加量は5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液として60gであった。また、重合反応温度(48℃)到達からレドックス触媒を重合終了までの間連続的に添加した。その添加量は0.05重量%アスコルビン酸水溶液として120gであった。シード微細懸濁重合の重合時間は381分であった。
【0045】
シード微細懸濁重合後、未反応塩化ビニル単量体を回収し、ペースト塩ビラテックスを得た。得られたペースト塩ビラテックスをスプレードライヤーにて、熱風入口温度160℃、出口温度55℃で噴霧乾燥を行って、塩化ビニル単独重合体であるペースト塩ビを得た。
【0046】
得られたペースト塩ビを用いてペースト塩ビゾルを作製し、物性を評価した。得られたペースト塩ビは0.4μm以下の微小粒子を14重量%含み微小粒子を多く含み粉体特性に劣り、ペースト塩ビを調製する際に高粘度となりハンドリング性、ゾル化性、混練性に劣るものであった。
【0047】
比較例2
2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水1200g、塩化ビニル単量体400g、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(商品名:パーロイルOPP、重合開始剤濃度70重量%)9g及び10重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液60gを仕込み、該重合液をホモジナイザーを用いて90分間循環し、均質化処理後、温度を30℃に上げて、重合を進めた。オートクレーブの圧力が0.2MPaまで低下した点で重合反応を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、重合開始剤を含有する塩化ビニル樹脂シードをラテックスとして得た。得られたラテックス中の塩化ビニル樹脂シードの平均粒子径は0.49μmであった。
【0048】
そして、2.5リットルオートクレーブ中に脱イオン水780g、塩化ビニル単量体を800g、5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を9g、上記により得られた塩化ビニル樹脂シードラテックスを150g、0.1重量%硫酸銅水溶液を4g仕込み、その後、この反応混合物攪拌下、48℃に昇温し、シード微細懸濁重合を開始し、オートクレーブの圧力が0.5MPaに低下するまで重合反応を行った。その際に重合反応温度(48℃)到達から重合終了までの間ラウリル硫酸ナトリウムを連続的に添加した。その添加量は5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液として60gであった。また、重合開始(48℃到達時点)から50分経過後にレドックス触媒を重合終了までの間連続的に添加した。その添加量は0.05重量%アスコルビン酸水溶液として80gであった。シード微細懸濁重合の重合時間は365分であった。
【0049】
シード微細懸濁重合後、未反応塩化ビニル単量体を回収し、ペースト塩ビラテックスを得た。得られたペースト塩ビラテックスをスプレードライヤーにて、熱風入口温度160℃、出口温度55℃で噴霧乾燥を行って、塩化ビニル単独重合体であるペースト塩ビを得た。
【0050】
得られたペースト塩ビを用いてペースト塩ビゾルを作製し、物性を評価した。得られたペースト塩ビは0.4μm以下の微小粒子を12重量%含み粉体特性に劣り、ペースト塩ビを調製する際高粘度となり、ゾル化性、混練性に劣るものであった。
本発明のペースト塩ビの製造方法は、微小粒子成分が少なく、可塑剤に分散し調製したペースト塩ビゾルの粘度が低粘度で経時変化が少なく、ゾル化性、混練性に優れ、特に手袋材として優れた特性を有するペースト塩ビを提供するものであり、その産業的価値は高いものである。