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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113612
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】電磁波制御素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
G02F1/01 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018742
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅司
(72)【発明者】
【氏名】安田 英紀
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA36
2K102BA01
2K102BB01
2K102BC10
2K102CA18
2K102CA28
2K102DB01
2K102DC09
2K102DD02
2K102DD08
2K102DD10
(57)【要約】
【課題】所望の領域における電磁波透過性を迅速に制御することができる電磁波制御素子の提供。
【解決手段】基材と、電磁波に対して共振器となる導電性パターンと、を有し、導電性パターンが発熱することで電磁波が変調する、電磁波制御素子。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、電磁波に対して共振器となる導電性パターンと、を有し、
前記導電性パターンが発熱することで前記電磁波が変調する、電磁波制御素子。
【請求項2】
前記導電性パターンのシート抵抗が、0.01Ω/□~25.0Ω/□である、請求項1に記載の電磁波制御素子。
【請求項3】
前記基材の面積をA、前記導電性パターンの面積をBとしたとき、下記式1により求められる開口率が80%以上である、請求項1又は請求項2に記載の電磁波制御素子。
(式1)開口率(%)=(A-B)/A×100
【請求項4】
前記導電性パターンが金属を含む、請求項1又は請求項2に記載の電磁波制御素子。
【請求項5】
前記基材の波長550nmにおける光の透過率が、5%以上である、請求項1又は請求項2に記載の電磁波制御素子。
【請求項6】
前記基材の周波数0.3THzにおける誘電正接が、0.05以下である、請求項1又は請求項2に記載の電磁波制御素子。
【請求項7】
前記導電性パターンの前記基材が設けられている側とは反対側に、相変化材料を含む層又はパターンをさらに有する、請求項1又は請求項2に記載の電磁波制御素子。
【請求項8】
前記基材と前記導電性パターンとの間に、相変化材料を含む層又はパターンをさらに有する、請求項1又は請求項2に記載の電磁波制御素子。
【請求項9】
前記導電性パターンの前記基材が設けられている側とは反対側に、液晶層をさらに有する、請求項1又は請求項2に記載の電磁波制御素子。
【請求項10】
前記基材と前記導電性パターンとの間に、液晶層をさらに有する、請求項1又は請求項2に記載の電磁波制御素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基材と、導電性材料等により構成され、基材の表面に設けられたパターンとを備える電磁波制御素子を、周波数0.1THz~10THz(波長が30μm~3000μm)の電磁波(以下、テラヘルツ帯の電磁波とも記載する。)を制御するための素子に適用することが検討されている。
例えば、非特許文献1では、基板と、酸化バナジウムを含むパターンと、銅を含むパターンと、を有する、動的メタサーフィスが記載されている。
一方、特許文献1には、第1パターン導電体と、第1パターン導電体から第1方向の一側に離間して配置される第2パターン導電体と、を備える発熱体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-089004号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Switchable Ultrathin Quarter-wave Plate in Terahertz Using Active Phase-change Metasurface” Dacheng Wangら、scientific reports、2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
動的メタサーフィスにおいて、例えば、所望の領域における電磁波透過性を迅速に制御することが求められる場合がある。
【0006】
本開示の実施形態が解決しようとする課題は、所望の領域における電磁波透過性を迅速に制御することができる電磁波制御素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>
基材と、電磁波に対して共振器となる導電性パターンと、を有し、
導電性パターンが発熱することで電磁波が変調する、電磁波制御素子。
<2>
導電性パターンのシート抵抗が、0.01Ω/□~25.0Ω/□である、<1>に記載の電磁波制御素子。
<3>
基材の面積をA、導電性パターンの面積をBとしたとき、下記式1により求められる開口率が80%以上である、<1>又は<2>に記載の電磁波制御素子。
(式1)開口率(%)=(A-B)/A×100
<4>
導電性パターンが金属を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の電磁波制御素子。
<5>
基材の波長550nmにおける光の透過率が、5%以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の電磁波制御素子。
<6>
基材の周波数0.3THzにおける誘電正接が、0.05以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の電磁波制御素子。
<7>
導電性パターンの基材が設けられている側とは反対側に、相変化材料を含む層又はパターンをさらに有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の電磁波制御素子。
<8>
基材と導電性パターンとの間に、相変化材料を含む層又はパターンをさらに有する、<1>~<7>のいずれか1つに記載の電磁波制御素子。
<9>
導電性パターンの基材が設けられている側とは反対側に、液晶層をさらに有する、<1>~<8>のいずれか1つに記載の電磁波制御素子。
<10>
基材と導電性パターンとの間に、液晶層をさらに有する、<1>~<9>のいずれか1つに記載の電磁波制御素子。
【発明の効果】
【0008】
本開示の実施形態によれば、所望の領域における電磁波透過性を迅速に制御することができる電磁波制御素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】導電性パターン12の形状の一例を示す模式図である。
図2】本開示の電磁波制御素子の一実施態様を示す断面模式図である。
図3】本開示の電磁波制御素子の他の一実施態様を示す断面模式図である。
図4】本開示の電磁波制御素子の他の一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0011】
本開示において、電磁波制御素子が「可視光に対し透明である」とは、電磁波制御素子に対して入射した波長550nmの光の透過率が50%以上であることを意味する。本開示において、「可視光」とは、波長400nm~760nmの光を意味する。
透明性の観点から、上記透過率は、70%以上であることが好ましく、78%以上であることがより好ましく、84%以上であることがさらに好ましい。
電磁波制御素子の上記透過率は、導電性パターンを構成する材料、導電性パターンに含まれる構造体の形成、基材を構成する材料等を変更することにより調整することができる。
本開示において、電磁波制御素子の透過率は、分光光度計(例えば、UV-2450、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。
なお、基材の透過率も同様にして測定する。
【0012】
本開示において、「相変化材料」とは、熱、光照射、電圧等の刺激により、相変化を起こす材料を意味する。
【0013】
本開示において、「電圧により導電率が変化する材料」とは、電圧の印加の有無、印加する電圧の大きさ等により、導電率が変化する材料を意味する。
【0014】
本開示において、「二次元材料」とは、一次元方向に量子閉じ込め効果を有し、二次元方向に電気伝導性を有する材料を指す。
【0015】
本開示において、「酸化物導電体」とは、構成元素に酸素を有し、金属的な電気伝導性を有する材料を意味する。
【0016】
本開示において、「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
【0017】
本開示において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念である。
【0018】
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。各図面において同一の符号を用いて示す構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。
【0019】
[電磁波制御素子]
本開示の電磁波制御素子は、基材と、電磁波に対して共振器となる導電性パターンと、を有し、導電性パターンが発熱することで電磁波が変調する。
【0020】
本開示の電磁波制御素子は、導電性パターンが発熱することで電磁波が変調するため、所望の領域における電磁波透過性を迅速に制御することができる。本開示の電磁波制御素子によれば、例えば、所望の領域における電磁波透過性を均一に制御することができ、所望の領域における電磁波透過性を部分的に制御することもできる。
【0021】
非特許文献1及び特許文献1には、導電性パターンが発熱することで電磁波が変調することに着目した記載はない。
【0022】
本開示の電磁波制御素子は、電磁波の少なくとも一部の波長において、透過率を制御することが可能な電磁波制御素子であることが好ましい。
【0023】
また、本開示の電磁波制御素子は、周波数0.01THz~10THz(波長が30μm~30,000μm)の電磁波に対し共振器となるパターンを有することが好ましく、周波数0.1THz~10THz(波長が30μm~3,000μm)の電磁波に対し共振器となるパターンを有することがより好ましい。
【0024】
具体的には、本開示の電磁波制御素子は、周波数0.01THz~1.0THzのうち少なくとも一部の周波数における電磁波の透過率が、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。透過率の上限値は、例えば、99%である。
【0025】
本開示の電磁波制御素子は、電磁波透過性の観点から、基材の面積をA、導電性パターンの面積をBとしたとき、下記式1により求められる開口率が80%以上であることが好ましく、83%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、87%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。
【0026】
開口率は、電磁波制御素子から選択した1cmの領域を、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX2000)で撮影し、画像における基材と、導電性パターンとを2値化処理し、基材の面積に対する導電性パターンが形成された領域の割合から算出する。任意の5か所において上記開口率の算出を行い、その平均を本開示の開口率とする。
(式1)開口率(%)=(A-B)/A×100
【0027】
<基材>
本開示に用いられる基材は、特に制限はなく、公知の材質の基材を用いることができる。
【0028】
基材の形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。基材の構造は単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
【0029】
基材としては、無機化合物を含むものであっても、樹脂を含むものであってもよく、例えば、YSZ(イットリウム安定化ジルコニウム)、ガラス等の無機材料;樹脂及び樹脂複合材料からなる基材を用いることができる。中でも軽量である点、可撓性を有する点から樹脂あるいは樹脂複合材料からなる基材が好ましい。具体的には、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、変性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンズアゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素ポリマー、液晶ポリマー、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アイオノマー樹脂、シアネート樹脂、架橋フマル酸ジエステル、環状ポリオレフィン、芳香族エーテル、マレイミドーオレフィン、セルロース、エピスルフィド化合物等の合成樹脂からなる基材、既述の合成樹脂等と酸化珪素粒子との複合プラスチック材料からなる基材、既述の合成樹脂等と金属ナノ粒子、無機酸化物ナノ粒子若しくは無機窒化物ナノ粒子等との複合プラスチック材料からなる基材、既述の合成樹脂等とカーボン繊維若しくはカーボンナノチューブとの複合プラスチック材料からなる基材、既述の合成樹脂等とガラスフレーク、ガラスファイバー若しくはガラスビーズとの複合プラスチック材料からなる基材、既述の合成樹脂等と粘土鉱物若しくは雲母派生結晶構造を有する粒子との複合プラスチック材料からなる基材、薄いガラスと既述のいずれかの樹脂との間に少なくとも1回の接合界面を有する積層プラスチック基材、無機層と有機層(既述の合成樹脂を含む層)を交互に積層することで、少なくとも1回以上の接合界面を有するバリア性能を有する複合材料からなる基材、ステンレス基材又はステンレスと異種金属とを積層した金属多層基材、アルミニウム基材又は表面に酸化処理(例えば陽極酸化処理)を施すことで表面の絶縁性を向上させた酸化皮膜付きのアルミニウム基材等を用いることができる。
【0030】
中でも、上記樹脂としては、誘電正接、パターンとの密着性、及び、耐熱性の観点から、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、変性ポリイミド、液晶ポリマー、及び、フッ素ポリマーよりなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
また、基材としては、強度、及び、耐熱性の観点から、石英基材、ガラス基材、セラミック基材、又は、シリコン基材であることが好ましく、電波領域における透過率の観点から、石英基材、又は、石英ガラス基材であることがより好ましい。
【0031】
液晶ポリマーは、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーであってもよく、溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーであってもよい。また、液晶ポリマーがサーモトロピック液晶ポリマーである場合には、450℃以下の温度で溶融する液晶ポリマーであることが好ましい。
液晶ポリマーとしては、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルにアミド結合が導入された液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルにエーテル結合が導入された液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルにカーボネート結合が導入された液晶ポリエステルカーボネート等を挙げることができる。
また、液晶ポリマーは、液晶性、及び、熱膨張係数の観点から、芳香環を有するポリマーであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることがより好ましい。
さらに、液晶ポリマーは、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドに、さらにイミド結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
また、液晶ポリマーは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリマーであることが好ましい。
【0032】
液晶ポリマーの例としては、例えば、以下の液晶ポリマーが挙げられる。
1)(i)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、(ii)芳香族ジカルボン酸と、(iii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重縮合させてなるもの。
2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重縮合させてなるもの。
3)(i)芳香族ジカルボン酸と、(ii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重縮合させてなるもの。
4)(i)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、(ii)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重縮合させてなるもの。
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンはそれぞれ独立に、重縮合可能な誘導体に置き換えてもよい。
【0033】
例えば、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換することにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を、芳香族ヒドロキシカルボン酸エステル及び芳香族ジカルボン酸エステルに置き換えることができる。
カルボキシ基をハロホルミル基に変換することにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を、芳香族ヒドロキシカルボン酸ハロゲン化物及び芳香族ジカルボン酸ハロゲン化物に置き換えることができる。
カルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換することにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を、芳香族ヒドロキシカルボン酸無水物及び芳香族ジカルボン酸無水物に置き換えることができる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
例えば、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシ基に変換することにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、及び芳香族ヒドロキシアミンをそれぞれ、アシル化物に置き換えることができる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
例えば、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換することにより、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンをそれぞれ、アシル化物に置き換えることができる。
【0034】
また、液晶ポリマーの重量平均分子量は、1,000,000以下であることが好ましく、3,000~300,000であることがより好ましく、5,000~100,000であることがさらに好ましく、5,000~30,000であることが特に好ましい。この液晶ポリマーの重量平均分子量が上記範囲であると、基材の厚さ方向の熱伝導性、耐熱性、強度及び剛性に優れる。
【0035】
フッ素系ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン共重合体、エチレン/四フッ化エチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
中でも、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく挙げられる。
【0036】
また、フッ素系ポリマーは、フッ素化α-オレフィンモノマー、すなわち、少なくとも1つのフッ素原子を含むα-オレフィンモノマー、及び、必要に応じ、フッ素化α-オレフィンモノマーに対して反応性の非フッ素化エチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位を含むホモポリマー及びコポリマーが挙げられる。
フッ素化α-オレフィンモノマーとしては、CF=CF、CHF=CF、CH=CF、CHCl=CHF、CClF=CF、CCl=CF、CClF=CClF、CHF=CCl、CH=CClF、CCl=CClF、CFCF=CF、CFCF=CHF、CFCH=CF、CFCH=CH、CHFCH=CHF、CFCF=CF、パーフルオロ(炭素数2~8のアルキル)ビニルエーテル(例えば、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロオクチルビニルエーテル)等が挙げられる。中でも、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、クロロトリフルオロエチレン(CClF=CF)、(パーフルオロブチル)エチレン、フッ化ビニリデン(CH=CF)、及び、ヘキサフルオロプロピレン(CF=CFCF)よりなる群から選ばれた少なくとも1種のモノマーが好ましい。
非フッ素化モノエチレン性不飽和モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、エチレン性不飽和芳香族モノマー(例えば、スチレン及びα-メチルスチレン)等が挙げられる。
フッ素化α-オレフィンモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、非フッ素化エチレン性不飽和モノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
フッ素系ポリマーとしては、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)(PCTFE)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン-プロピレン)、ポリ(エチレン-テトラフルオロエチレン)(ETFE)、ポリ(エチレン-クロロトリフルオロエチレン)(ECTFE)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン-エチレン-プロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン)(フッ素化エチレン-プロピレンコポリマー(FEP)とも呼ばれる。)、ポリ(テトラフルオロエチレン-プロピレン)(フルオロエラストマー(FEPMとも呼ばれる。))、ポリ(テトラフルオロエチレン-パーフルオロプロピレンビニルエーテル)、テトラフルオロエチレン主鎖と完全フッ素化アルコキシ側鎖とを有するコポリマー(パーフルオロアルコキシポリマーポリ(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル)(PFA)とも呼ばれる。)(例えば、ポリ(テトラフルオロエチレン-パーフルオロプロピレンプロピルビニルエーテル)))、ポリビニルフルオリド(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン)、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロポリオキセタン等が挙げられる。
フッ素系ポリマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
フッ素系ポリマーは、FEP、PFA、ETFE、又は、PTFEの少なくとも1つであることが好ましい。これらはフィブリル形成性、又は、非フィブリル形成性を有していてもよい。FEPは、デュポン(DuPont)社よりテフロン(登録商標)FEP(TEFLON(登録商標)FEP)の商品名、又は、ダイキン工業(株)よりネオフロンFEP(NEOFLON FEP)の商品名で入手可能であり;PFAは、ダイキン工業(株)よりネオフロンPFA(NEOFLON PFA)の商品名、デュポン(DuPont)社よりテフロン(登録商標)PFA(TEFLON(登録商標)PFA)の商品名、又は、ソルベイ・ソレクシス(Solvay Solexis)社よりハイフロンPFA(HYFLON PFA)の商品名で入手可能である。
【0039】
フッ素系ポリマーは、PTFEを含むことが好ましい。PTFEは、PTFEホモポリマー、一部が変性されたPTFEホモポリマー、又は、これらの一方若しくは両方を含む組合せを含むことができる。一部が変性されたPTFEホモポリマーは、ポリマーの全質量を基準として、テトラフルオロエチレン以外のコモノマーに由来する構成単位を1質量%未満含むことが好ましい。
【0040】
フッ素系ポリマーは、架橋性基を有する架橋性フルオロポリマーであってもよい。架橋性フルオロポリマーは、従来公知の架橋方法によって架橋させることができる。代表的な架橋性フルオロポリマーの1つは、(メタ)アクリロキシ基を有するフルオロポリマーである。例えば、架橋性フルオロポリマーは式:
C=CR’COO-(CH)n-R-(CH)n-OOCR’=CH
で表すことができ、式中、Rは、フッ素化α-オレフィンモノマー又は非フッ素化モノエチレン性不飽和モノマーに由来する構成単位を2以上有するフッ素系オリゴマー鎖であり、R’はH又は-CHであり、nは1~4である。Rは、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位を含むフッ素系オリゴマー鎖であってよい。
【0041】
フッ素系ポリマー上の(メタ)アクリロキシ基を介してラジカル架橋反応を開始するために、(メタ)アクリロキシ基を有するフルオロポリマーをフリーラジカル源に曝露することによって、架橋フルオロポリマー網目構造を形成することができる。フリーラジカル源は、特に制限はないが、光ラジカル重合開始剤、又は、有機過酸化物が好適に挙げられる。適切な光ラジカル重合開始剤及び有機過酸化物は当技術分野においてよく知られている。架橋性フルオロポリマーは市販されており、例えば、デュポン社製バイトンBが挙げられる。
【0042】
基材は導電性パターンが形成される面に、シード層を備えていてもよい。シード層は、金、銀、プラチナ、銅及びアルミニウムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0043】
上記基材の波長550nmにおける光の透過率は、電磁波透過性の観点から、5%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましく、92%~100%であることが最も好ましい。
【0044】
基材の波長550nmにおける光の透過率は、基材に含有させる材料等を変更することにより調整することができる。
【0045】
上記基材の周波数0.3THzにおける誘電正接は、電磁波の透過量を大きくする観点から、0.05以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、0.005以下であることがさらに好ましく、0.0005以下であることが特に好ましい。
【0046】
基材の誘電正接は、基材に含有させる材料等を変更することにより調整することができる。
【0047】
本開示において、基材の誘電正接は、以下のテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)により測定する。
まず、基材を100mm×100mmの試験片に切り出す。
次いで、透過型テラヘルツ分光の光学系を作製し、温度25℃、湿度10%RH環境下、試験片の挿入前後の光電場の時間波形の変化から、試験片の誘電正接(周波数0.3THz)を測定する。
なお、基材の表面に後述する導電性パターンが形成されている場合には、塩化鉄等の溶液を用いてエッチングした基材を使用して、上記誘電正接の測定を行う。
【0048】
基材の厚みは、特に限定されるものでなく、取扱い性の観点からは、30μm~200mmであることが好ましく、40μm~100mmであることがより好ましく、50μm~50mmであることがさらに好ましい。
【0049】
基材は、従来公知の方法により作製したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
また、基材として、ガラスクロス等の織物、不織布などを上記樹脂に含浸させたものを使用してもよい。さらに、上記樹脂に含浸させたガラスクロス等の少なくとも一方の表面に、上記した樹脂等の材料を使用して、層を形成し、多層構造としたものを基材として使用してもよい。
【0050】
また、基材としては、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、加工性、低通気性、及び、低吸湿性等に優れていることが好ましい。基材は、水分や酸素の透過を防止するためのガスバリア層や、樹脂基材の平坦性や下部電極との密着性を向上するためのアンダーコート層等を備えていてもよい。
また、基材上に、下部電極、絶縁膜を備えていてもよく、その場合には基材上の下部電極、絶縁膜上に導電性パターンが形成されることが好ましい。
また、基材と導電性パターンとの間に、密着性の観点から、金属クロム層、金属チタン層、金属ニッケル層等を設けることが好ましい。
【0051】
<導電性パターン>
本開示の電磁波制御素子は、電磁波に対して共振器となる導電性パターンを有する。
本開示の電磁波制御素子では、導電性パターンが発熱することで電磁波が変調する。
【0052】
導電性パターンを発熱させる手段は特に限定されないが、例えば、電圧や電流印加による電気的手法、及び、励起光、マイクロ波、電波等の電磁波照射法が挙げられる。
【0053】
導電性パターンは、金属又は酸化物導電体を含むことができる。
本開示において、「導電性」とは、電気を通すことをいい、比抵抗値が10-2Ωcm以下であることが望ましい。比抵抗値は、導電性パターンの形状を把握したうえで電気伝導測定を行うことで算出することが可能である。
【0054】
電磁波透過性の観点から、導電性パターンは金属を含むことが好ましい。電磁波透過性の観点から、導電性パターンは、金、銀、プラチナ、チタン銅及びアルミニウムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0055】
上記金属の形状は、特に限定されるものではなく、粒子状であってもよく、非粒子状であってもよい。電磁波透過性の観点から、金属の形状は、粒子状であることが好ましい。
導電性パターンは、導電性を高くする観点から、上記金属を含む金属配線を含むことが好ましい。
【0056】
導電性パターンの全質量に対する金属の含有率は、特に限定されるものでなく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0057】
酸化物導電体としては、In、Zn、Sn、Cd等を含む酸化物等が挙げられる。より具体的には、In、ZnO、SnO、CdO、またはそれらの固溶体、及びドーパントを含んだものが挙げられる。さらに具体的には、InSnO、InZnO、AlドープZnO、GaドープZnO、FドープSnO、アンチモンドープSnO等が挙げられる。特に、可視光透明性が高い酸化物導電体を用いることにより、開口率によらず高い透明性を有する電磁波制御素子を実現することができる。このような電磁波制御素子では、例えば、可視光を透過しつつ電波を遮断するなどの、電波変調性能と、視認性及びデザイン性とを両立させることが可能となる。
【0058】
導電性パターンの全質量に対する酸化物導電層の含有率は、特に限定されるものでなく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0059】
また、導電性パターンは、カーボンナノチューブ、多層グラフェン等の導電性炭素材料を含んでいてもよい。
【0060】
導電性パターンは、単層であってもよく、多層であってもよい。
【0061】
導電性パターンは、1つ以上の構造体を含むことができる。導電性パターンは、形状、サイズ等の異なる2種以上の構造体を含んでいてもよい。
構造体の形状は、特に限定されるものでなく、電磁波制御素子にテラヘルツ帯の電磁波が入射すると、入射した電磁波の電界及び磁界等との相互作用によって、構造体内又は隣接する構造体間において電荷の偏り及び電流等が発生し、誘電的又は磁性的な応答変化を誘起することが可能な形状が好ましい。
構造体の形状は、特に限定されるものでなく、例えば、基材の面内方向において、C型、U型、2重リング型、V型、L型、格子型、螺旋型、矩形状、円形状、十字形状等の形状が挙げられる。
【0062】
偏光依存性を低下させる観点からは、構造体は、基材の面内方向において、任意のX方向、これに直交するY方向に対して対称となる形状であることが好ましく、例えば、十字形状、エルサレムクロス形状、円形状、正方形形状等が挙げられる。
【0063】
構造体のサイズは、特に限定されるものでなく、構造体の最大長さは、入射する電磁波の波長サイズ以下であることが好ましく、1,000nm~3,000,000nmであることがより好ましく、10,000nm~1,000,000nmであることがさらに好ましい。
なお、本開示において、構造体の最大長さとは、基材の面内方向において、構造体の一端から他端まで直線を引いた際に最も長くなる長さを意味する。
パターンの平滑性の観点から、構造体の幅は、3μm~400μmであることが好ましい。例えば、構造体がC型である場合、構造体の幅は、C形状の長手方向と直交する方向の長さを指す。
また、構造体間の最短距離は、構造体の形状、サイズ等に応じて適宜変更することが好ましく、例えば、20μm~1000μmとすることができる。
また、構造体が分割リング共振器である場合、パターンの平滑性の観点から、ギャップは、1μm~15μmであることが好ましい。
分割リング共振器とは、C型、又はU型の形状を有する構造体を意味する。
【0064】
基材表面における構造体の配置位置は、特に制限されず、テラヘルツ帯の電磁波に対して共振する配置であることが好ましい。
また、基材表面の中心から外側の領域にいくに従って、テラヘルツ帯の電磁波の位相シフト量が連続的に増大又は減少するような周期構造を形成するように、構造体を基材表面に配置してもよい。上記周期構造の一実施形態としては、直径の異なる構造体を同心円状に配列させた構造が挙げられる。同心円状に配列した構造体の直径の変化幅は、10μm~200μmとすることができる。
【0065】
導電性パターンのシート抵抗は、0.01Ω/□~25.0Ω/□であることが好ましく、0.01Ω/□~10Ω/□であることがより好ましく、0.01Ω/□~1Ω/□であることがさらに好ましい。
【0066】
シート抵抗が0.01Ω/□以上であると、電磁波透過性に優れる。一方、シート抵抗が25.0Ω/□以下であると、電磁波絶縁性に優れる。
【0067】
本開示において、シート抵抗は、抵抗測定器を使用することにより測定する。抵抗測定器としては、ナプソン株式会社製の非接触式の渦電流方式の抵抗測定器EC-80P又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0068】
電磁波透過性、コスト低減等の観点から、導電性パターンの厚さは、5μm未満であることが好ましく、0.01μm~4μmであることがより好ましく、0.05μm~3μmであることがさらに好ましく、0.1μm~1μmであることが特に好ましい。
【0069】
また、本開示において、導電性パターン、相変化材料を含む層又はパターン等の厚さは、別途、電磁波制御素子の厚さ方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定を行い、任意の5点の平均値から決定するものとする。
【0070】
本開示の電磁波制御素子は、導電性パターンが発熱することで電磁波を変調させる。この際、発熱した導電性パターンの熱エネルギーを、電磁波透過性を変化させ得る材料に伝達することにより、材料を含む層又はパターンの全領域又は一部領域の電磁波の変調を可能にする。電磁波透過性を変化させ得る材料としては、例えば、熱エネルギーの授受により相変化して電磁波透過性が変化する相変化材料、液晶材料、電圧により導電率が変化する材料、熱電変換材料等を挙げることができる。
【0071】
<相変化材料を含む層又はパターン>
本開示の電磁波制御素子は、相変化材料を含む層又はパターンをさらに有することが好ましい。
【0072】
相変化材料を含む層又はパターンを有する一態様として、本開示の電磁波制御素子は、導電性パターンの基材が設けられている側とは反対側に、相変化材料を含む層又はパターンをさらに有することが好ましい。
すなわち、基材、導電性パターン、及び、相変化材料を含む層又はパターンが、この順に積層されていることが好ましい。
【0073】
相変化材料を含む層又はパターンが上記位置に配置されていると、導電性パターンの加工工程によって相変化材料を含む層又はパターンへのダメージやエッチング等の影響がなく、電磁波制御素子を作製しやすくなる。また、上記ダメージに伴う相変化材料を含む層又はパターンの劣化を抑制することが可能である。
【0074】
相変化材料を含む層又はパターンを有する別の態様として、本開示の電磁波制御素子は、基材と導電性パターンとの間に、相変化材料を含む層又はパターンをさらに有することが好ましい。
すなわち、基材、相変化材料を含む層又はパターン、及び導電性パターンが、この順に積層されていることが好ましい。
【0075】
相変化材料を含む層又はパターンが上記位置に配置されていると、導電性パターンの厚さによって相変化材料を含む層又はパターンと基板との光学干渉を制御することが可能となり、その結果、位相の制御を行いやすくなる。
【0076】
本開示の電磁波制御素子が、相変化材料を含む層又はパターンを有することにより、熱を加えることにより、少なくとも一部の周波数における電磁波の透過率を制御することができる。
【0077】
相変化材料は、熱、光照射、電圧等の刺激により、相変化を起こす材料である。中でも、相変化材料は、熱により相変化を起こす材料であることが好ましく、電気パルスによるジュール熱により相変化を起こす材料であることがより好ましい。
【0078】
また、相変化材料を含む層又はパターンは、金属相と絶縁体相との相変化を示すことが好ましい。
【0079】
また、上記相変化材料の相変化後の導電率は、電磁波の透過量の変化量を大きくする観点から、10,000S/m以上であることが好ましく、20,000S/m以上であることがより好ましく、50,000S/m以上であることがさらに好ましく、100,000S/m~100,000,000S/mであることが特に好ましい。
【0080】
本開示における導電率の測定は、低抵抗計を用いて測定を行う。低抵抗計としては、日東精工アナリテック株式会社製のMCP-T610 Loresta-GP又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0081】
上記相変化材料を含む層又はパターンの表面粗さRaは、基材又は導電性パターンとの密着性、及び、電磁波の透過量の変化量を大きくする観点から、10nm以上であることが好ましく、20nm~1,000nmであることがより好ましい。
【0082】
本開示において、表面粗さは、光干渉顕微鏡で測定することができる。光干渉顕微鏡で確認できない場合は、断面SEMの画像を用いて測定することができる。断面SEMの画像で確認できない場合は、断面TEMの画像から測定される。光干渉顕微鏡としては、菱化システム株式会社製の非接触表面形状計測器VertScan又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0083】
上記相変化材料は、相変化可能な材料であれば、特に制限はないが、酸化バナジウム(VO)、アンチモンテルル(SbTe)合金、ゲルマニウムテルル(GeTe)合金、ゲルマニウムアンチモンテルル(GeSbTe)合金、インジウムアンチモンテルル(InSbTe)合金、銀インジウムアンチモンテルル(AgInSbTe)合金等が挙げられる。
【0084】
中でも、上記相変化材料は、パターンの平滑性、基材との密着性、及び、電磁波の透過量の変化量を大きくする観点から、周期表における4族、5族、7族、8族、9族、13族、14族、15族及び16族のいずれかの元素を含む化合物を含むことが好ましく、V、Nd、Ni、Ge、Sb、Te、Fe、La、Sm、Ti及びCoよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む化合物を含むことがより好ましく、酸化バナジウム又はGeSbTe合金を含むことがさらに好ましく、酸化バナジウムを含むことが特に好ましい。
【0085】
上記酸化バナジウムは、電磁波の透過量の変化量を大きくする観点から、X線回折(XRD)における回折プロファイルにおいて、2θ=44°~45°のピーク強度Aと、2θ=27.5°~28°のピーク強度Bとの比率A/Bが、0.37以上である酸化バナジウムであることが好ましい。
【0086】
上記相変化材料を含む層又はパターンの厚さは、電磁波の透過量の変化量を大きくし、また、密着の良い均一な膜を得る観点から、20nm~2,000nmであることが好ましく、50nm~1,000nmであることがより好ましく、50nm~500nmであることが特に好ましい。
【0087】
(液晶層)
本開示の電磁波制御素子は、液晶層をさらに有することが好ましい。
【0088】
液晶層を含む層を有する一態様として、本開示の電磁波制御素子は、導電性パターンの基材が設けられている側とは反対側に、液晶層をさらに有することが好ましい。
すなわち、基材、導電性パターン、及び液晶層が、この順に積層されていることが好ましい。
【0089】
液晶層が上記位置に配置されていると、導電性パターンの加工工程によって液晶層へのダメージやエッチング等の影響がなく、電磁波制御素子を作製しやすくなる。また、上記ダメージに伴う液晶層の劣化を抑制することが可能である。
【0090】
液晶層を含む層を有する別の態様として、本開示の電磁波制御素子は、基材と導電性パターンとの間に、液晶層をさらに有することが好ましい。
すなわち、基材、液晶層、及び導電性パターンが、この順に積層されていることが好ましい。
【0091】
液晶層が上記位置に配置されていると、液晶層の厚さによって液晶層と基板との光学干渉を制御することが可能となり、その結果、位相の制御を行いやすくなる。
【0092】
液晶層は、液晶ポリマーを含むことが好ましい。液晶ポリマーとしては、基材に含まれていてもよい液晶ポリマーが挙げられる。
【0093】
(電圧により導電率が変化する材料を含む層)
本開示の電磁波制御素子は、電圧により導電率が変化する材料(以下、「導電率変化材料」ともいう。)を含む層をさらに有していてもよい。
【0094】
導電率変化材料を含む層は、例えば、基材と導電性パターンとの間に設けられる。
【0095】
本開示の電磁波制御素子が、導電率変化材料を含む層を有することにより、電圧を印加することにより電磁波の少なくとも一部の波長における透過率を制御することができる。
【0096】
本開示において、導電率変化層とは、導電率変化材料を含む層を意味する。
【0097】
導電率変化層の100Vの電圧を印加した場合の透過減衰率と、電圧を印加しない場合の透過減衰率との差は、5dB以上であることが好ましく、10dB以上であることがより好ましい。
導電率変化層の透過減衰率は、フェムト秒パルスレーザーを用いた時間領域テラヘルツ分光システムを用い、透過振幅を測定し、透過振幅に基づき算出する。
【0098】
導電率変化材料は、二次元材料を含むことが好ましい。
印加する電圧による電磁波の透過率の変化量を大きくするという観点から、二次元材料は、炭素を有することが好ましい。二次元材料としては、グラフェン、P、As、Sb、Biの層状結晶、h-BN、AB(A;Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W等、B;O、S、Se、Te)で表される遷移金属ダイカルコゲナイド、GaS、GaSe、GaTe、InSe等の13族カルコゲナイド、GeS、SnS、SnSe、PbO等の14族カルコゲナイド、BiSe、BiTe等のビスマスカルコゲナイド、M(OH)(M;Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd)などの水酸化2価金属、MgBr、CdCl、CdI、AgF、AsI、AlCl等のハロゲン化金属、ペロブスカイト系ナノシート等が挙げられる。
【0099】
印加する電圧による電磁波の透過率の変化量を大きくするという観点から、導電率変化材料は、グラフェンを含むことが好ましい。
【0100】
印加する電圧による電磁波の透過率の変化量を大きくするという観点から、導電率変化材料は、酸化物半導体を含むことが好ましい。
印加する電圧による電磁波の透過率の変化量を大きくするという観点から、酸化物半導体は、In(インジウム)及びZn(亜鉛)の少なくとも一方を有することが好ましい。
酸化物半導体としては、酸化インジウム(In)、In-Ga-Zn-O(IGZO)、In-Zn-O(IZO)、In-Ga-O(IGO)、In-Sn-O(ITO)、In-Sn-Zn-O(ITZO)やそれら化合物の混合物、それら化合物をベースとしてドーパントを加えたもの等が挙げられる。
【0101】
印加する電圧による電磁波の透過率の変化量を大きくするという観点から、導電率変化材料は、バンドギャップが3.0eV以上の材料を含むことが好ましい。
バンドギャップが3.0eV以上の材料としては、上記酸化物半導体等が挙げられる。
【0102】
本開示において、バンドギャップは、以下のようにして測定する。
紫外可視近赤外分光光度計を用いて、波長300nm~1100nmの範囲における導電率変化材料の吸光度を測定する。
【0103】
上記の方法で測定した吸光度について、縦軸を(ahv)、横軸をエネルギー値(eV)とするグラフにプロットして、(ahv)-eV曲線に変換する。ここで係数Rは、直接許容遷移の場合:R=1/2、直接禁制遷移の場合:R=3/2、間接許容遷移の場合:R=2、間接禁制遷移の場合:R=3となる。(ahv)-eV曲線とは、縦軸を(ahv)、横軸をエネルギー値(eV)とするグラフである。aは、吸光度であり、hはプランク定数であり、vは振動数である。
【0104】
紫外可視近赤外分光光度計としては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のU-4150又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0105】
波長λ1におけるエネルギー値E1は以下の関係にある。以下の関係式から波長をエネルギー値に変換できる。
E1=1240/λ1
E1の単位はeVで、λ1の単位はnmである。
【0106】
上記の(ahv)-eV曲線において、(ahv)の値が立ち上がる部分の接線と、(ahv)の値が立ち上がる前の部分における接線との交点におけるエネルギー値を算出し、前述の交点におけるエネルギー値をバンドギャップエネルギーとする。
【0107】
印加する電圧による電磁波の透過率の変化量を大きくするという観点から、導電率変化層の全質量に対する導電率変化材料の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましく、100質量%であってもよい。
【0108】
導電率変化材料がグラフェンを含む場合、印加する電圧による電磁波の透過率の変化量を大きくするという観点から、導電率変化材料の全質量に対するグラフェンの含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましく、100質量%であってもよい。
【0109】
導電率変化材料が酸化物半導体を含む場合、印加する電圧による電磁波の透過率の変化量を大きくするという観点から、導電率変化材料の全質量に対する酸化物半導体の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましく、100質量%であってもよい。
【0110】
電磁波透過性の観点から、導電率変化層の厚さは、0.1nm~1μmであることが好ましく、0.1nm~300nmであることがより好ましく、0.1nm~150nmであることがさらに好ましい。
【0111】
電磁波制御素子の一実施態様を図1図4を参照して説明する。なお、電磁波制御素子は、これに限定されるものでない。
【0112】
図1は、導電性パターン12の形状の一例を示す模式図である。
図1に示す導電性パターン12は、導電層に十字状の穴抜き部(開口部)14を3次元状に配列して形成されており、導電性パターン12は連続したパターンとなっている。十字状の穴抜き部14が、電磁波に対して共振器として機能する。電磁波制御素子において、十字状の穴抜き部14は、図2図4にて説明するように、電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層又はパターン16により埋められていてもよいし、空隙であってもよく、樹脂等により充填された充填部であってもよい。
【0113】
図2は、本開示に係る電磁波制御素子の一実施態様を示す断面模式図である。
図2に示す電磁波制御素子20は、基材18上に導電性パターン12が形成されており、導電性パターン12を覆うように、電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層16が形成されている。
【0114】
図3は、本開示に係る電磁波制御素子の他の一実施態様を示す断面模式図である。
図3に示す電磁波制御素子20は、基材18上に導電性パターン12が形成されており、導電性パターン12間を埋めるように、電磁波透過性を変化させ得る材料を含むパターン16が形成されている。
【0115】
図4は、本開示に係る電磁波制御素子の他の一実施態様を示す断面模式図である。
図4に示す電磁波制御素子20は、基材18上に導電性パターン12が形成されており、導電性パターン12上に、電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層16が形成されている。また、導電性パターン12間は、空隙22であってもよいし、樹脂等により埋められた充填部22であってもよい。
【0116】
本開示の電磁波制御素子は、上述した以外の他の層を有していてもよい。
本開示の電磁波制御素子の用途は、特に限定されるものでなく、平板レンズ、回折格子、波長フィルタ、偏光子、センサー、反射板、平板プリズム、ビームステアリング等が挙げられる。
また、使用環境についても特に限定されるものでなく、電子機器等に搭載してもよく、波長フィルタとして、野外に設置してもよい。
【0117】
[電磁波制御素子の製造方法]
本開示の電磁波制御素子の製造方法は、上記電磁波制御素子の製造方法であって、基材上に電磁波に対して共振器となる導電性パターンを形成する工程(以下、「導電性パターンの形成工程」という。)を含むことが好ましい。
【0118】
本開示の電磁波制御素子の製造方法は、導電性パターンが設けられた側とは反対の側に、電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層又はパターンを形成する工程をさらに含んでもよい。
本開示の電磁波制御素子の製造方法は、導電性パターンを形成する前に、導電性パターンを形成する基材上に電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層又はパターンを形成する工程をさらに含んでもよい。
本開示の電磁波制御素子の製造方法は、導電性パターンを形成する後に、基材の導電性が形成されていない領域に電磁波透過性を変化させ得る材料を含むパターンを形成する工程をさらに含んでもよい。
以下、上記3つの電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層又はパターンを形成する工程を、まとめて「電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層又はパターンの形成工程」という。
【0119】
本開示の電磁波制御素子の製造方法は、導電性パターンを形成する前に、導電性パターンを形成する基材上に電圧により導電率が変化する材料を含む層を形成する工程(以下、「電圧により導電率が変化する材料を含む層の形成工程」という。)をさらに含んでもよい。
【0120】
<導電性パターンの形成工程>
導電性パターンの形成方法は、特に限定されるものでなく、例えば、基材等の上に設けられる前、又は、基材等の上に設けられた後の導電性膜に対し穴抜き加工を行う方法、スパッタ法により、スパッタ膜を基材表面に形成し、次いで、スパッタ膜の表面に、レジストパターンを形成し、レジストパターンにより覆われていないスパッタ膜をエッチング除去し、次いでレジストパターンを除去することにより導電性パターンを形成する方法、或いは、基材表面等にレジストパターンを形成した後にスパッタ法などで導電膜を形成し、レジストパターンごと不要な部分を除去するリフトオフ法等が挙げられる。
導電性パターンの形成方法は、上記方法に限定されるものではなく、上記スパッタ法に代えて、インクジェット、ディスペンサー、スクリーン印刷、又は、パターンメッキ等により形成してもよいし、また、上記スパッタ法に代えて蒸着法により蒸着膜を形成してもよい。
【0121】
<電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層又はパターンの形成工程>
電磁波透過性を変化させ得る材料を含む層又はパターンの形成方法は、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。中でも、溶媒と相変化材料又はその前駆体とを含む組成物を用いる方法が好ましく挙げられる。
電磁波透過性を変化させ得る材料としては、本開示の電磁波制御素子において上述したものを好適に用いることができる。
上記組成物を基材等の上に塗布する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。中でも、スピンコート法が好適に挙げられる。
【0122】
上記溶媒としては、電磁波透過性を変化させ得る材料又はその前駆体を溶解又は分散可能で溶媒であればよいが、電磁波透過性を変化させ得る材料又はその前駆体の凝集抑制性、膜形成性、及び、電磁波の透過量の変化量を大きくする観点から、ハンセン溶解パラメータの極性項δpの値が0.5以上である溶媒を含むことが好ましく、ハンセン溶解パラメータの極性項δpの値が1.0以上である溶媒を含むことがより好ましく、ハンセン溶解パラメータの極性項δpの値が1.2以上3.0以下である溶媒を含むことが特に好ましい。
また、上記溶媒としては、芳香環化合物、有機ハロゲン化合物等が好ましく挙げられ、具体的には、トルエン(δp=0.7)、クロロホルム(δp=1.5)等が挙げられる。
さらに、上記組成物においては、電磁波透過性を変化させ得る材料又はその前駆体の凝集抑制性、膜形成性、及び、電磁波の透過量の変化量を大きくする観点から、ハンセン溶解パラメータの極性項δpの値が0.5以上である溶媒を、上記組成物中に含まれる溶媒の全質量に対し、50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%~100質量%含むことが特に好ましい。
【0123】
本開示の電磁波制御素子の製造方法は、電磁波透過性を変化させ得る材料として相変化材料を用い、相変化材料を含む層又はパターンの形成工程後に、上記相変化材料を結晶化させる結晶化工程を含むことが好ましい。
上記結晶化工程は、使用する相変化材料又はその前駆体にもよるが、相変化材料又はその前駆体を加熱して上記相変化材料を結晶化させる工程であることが好ましい。
上記結晶化工程における加熱温度としては、特に制限はないが、200℃~800℃であることが好ましく、300℃~700℃であることがより好ましい。
また、上記結晶化工程における加熱時間は、特に制限はないが、30秒~100時間であることが好ましく、1分~48時間であることがより好ましく、1分~1時間であることがさらに好ましく、1分~20分であることが特に好ましい。
【0124】
相変化材料を含む層又はパターンの形成工程及び結晶化工程は、複数回繰り返してもよい。
【0125】
<電圧により導電率が変化する材料を含む層の形成工程>
電磁波透過性を変化させ得る材料として、電圧により導電率が変化する材料を用いる場合、電圧により導電率が変化する材料を含む層の形成方法は、特に限定されるものではなく、スパッタリング法、蒸着法、CVD法、ALD法等の真空成膜による方法;電圧により導電率が変化する材料を含む層を備える転写シートを別途用意し、上記転写シートから電圧により導電率が変化する材料を含む層を基材等の上に転写する方法が挙げられる。
【0126】
本開示の電磁波制御素子の製造方法は、上述した工程以外の任意の工程(その他の工程)を含んでもよい。
【実施例0127】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
<酸化バナジウムナノ粒子分散液の合成>
グローブボックス中で、フラスコに1-オクタデカノール7.92gとオレイルアミン30mLを測り取った。フラスコを真空引きしながら、125℃で1時間加熱して脱気を行った。次いで、窒素フロー状態に切り替え、フラスコ内にバナジウムオキシクロライド0.4mLを注入した。窒素フローを停止した状態で、フラスコ内の液温を250℃に昇温し、250℃で20分間保持した。次いで、反応液を室温(25℃)に冷却し、トルエン40mLを加えた。次いで、反応液をグローブボックスに移した。次いで過剰量のメタノールを加え、粒子を沈殿させたのち遠心分離を行い、上澄みを除去した。沈殿物に20mLのクロロホルムを加えて再分散させ、酸化バナジウム(VOx)粒子のクロロホルム分散液を得た。
【0129】
<導電性パターン付き基材の作製>
-実施例1、実施例2-
石英基板の全面に、アルバック社製の真空蒸着装置(EBX-1000)を用いて、10nmのTi蒸着膜(導電性膜)及び200nmのAu蒸着膜(導電性膜)を連続形成した。
次いでフォトリソグラフィープロセスにより、図1において線で囲われた領域を穴抜き加工し、導電性パターンを形成した(十字構造体(十字状共振器)の最大長さL1:290μm、十字構造体の幅L2:25μm、十字構造体間の最短距離L3:30μm、周期P(P=L1+L3):320μm)。
また、図1に示す十字形状の縦方向と横方向とは、同じ長さの形状であり、また、各十字形状はそれぞれ同じ形状である。
また、基材の波長550nmにおける光の透過率は、約93%であった。基材の周波数0.3THzにおける誘電正接は0.002であった。
【0130】
-実施例3、実施例4-
石英基板の前面にアルバック社製の真空蒸着装置(SME-200)を用いてITO膜を形成した。次いで、フォトリソグラフィープロセスにより、実施例1及び実施例2と同一形状の導電性パターンを表1のシート抵抗となるように厚みを制御し、形成した。
【0131】
<電磁波制御素子の作製>
上記導電性パターン付き基材を、アセトン及びイソプロピルアルコール(IPA)を用いて超音波洗浄を行った。その後、グローブボックス中で上記酸化バナジウムナノ粒子分散液を1,500rpm(revolutions per minute)、30秒の条件下でスピンコートした。次いで、約160Paの減圧下において、500℃で5分間、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置で熱処理を行った。熱処理により、酸素不定比性のある酸化バナジウムナノ粒子膜をVO膜に転化させた。酸化バナジウムナノ粒子分散液の塗布とRTA処理とを繰り返すことで、表1に記載の厚さであるVO膜(相変化材料を含む層)を導電性パターンの表面に形成した。導電性パターンの両端部に銀ペーストで配線を接続し、導電性パターンを加熱部とする電磁波制御素子を作製した。
実施例1及び実施例2において、導電性パターンの抵抗値は、約0.8Ωであった。配線部の抵抗値は、約0.2Ωであった。
実施例3及び実施例4において、導電性パターンの抵抗値は、以下の表に示す値であった。配線部の抵抗値は約0.2Ωであった。
【0132】
<VO膜形成の確認>
RTA処理後の膜がVO膜であることを確認するため、上記酸化バナジウムナノ粒子分散液をノンドープシリコン基板上にスピンコートした後、上記RTA処理と同様の方法でRTA処理を行い、薄膜を形成した。
薄膜に対してX線回折装置を用いて結晶構造解析を行った。その結果、二酸化バナジウム(VO)が主成分であることを確認した。また、2θ=44°~45°のピーク強度Aと、2θ=27.5°~28°のピーク強度Bとの比率A/Bは、およそ0.40であった。
【0133】
<VO薄膜の導電率の測定>
上記酸化バナジウムナノ粒子分散液をノンドープシリコン基板上にスピンコートした後、上記RTA処理と同様の方法でRTA処理を行い、薄膜を形成した。薄膜に対して導電率の測定を行った。導電率は、低抵抗計(製品名「MCP-T610 Loresta-GP」、三菱ケミカルアナリテック社製)を用いて測定した。膜厚は、別途、断面SEMによって測定した。得られた導電率(電気抵抗率の逆数)は、低温相で280S/m、高温相で75,000S/mであった。
【0134】
作製した電磁波制御素子を用いて、変調率を算出した。算出方法は、以下のとおりである。
【0135】
<変調率>
80MHzフェムト秒パルスレーザーを用いた時間領域テラヘルツ分光システムを用いた。電磁波制御素子をΦ10mmの試料ホルダに固定して垂直入射時の透過振幅を測定した。テラヘルツビームの試料へ入射のNAは約1/6であった。
電圧を0V及び1Vとし、それぞれの透過振幅を測定し、300GHzにおける電磁波制御素子の透過減衰率を算出した。
事前の温度評価により、電圧が0Vの場合は、導電性パターンが約23℃(低温相)であり、電圧が1Vの場合は約80℃(高温相)であった。
変調率は、300GHz帯において下記の式に基づいて算出した。
変調率(dB)=-20×lоg10(電波遮断モードでの透過振幅/電波透過モードでの透過振幅)
【0136】
<応答速度>
電気的信号を入力してから変調率が一定値に落ち着くまでの時間を、応答速度として評価した。比較例1では上記配線をつなげずに、非特許文献1と同様に導線ヒーターを備えた金属板上にサンプルをセットし、金属板全面を温めることで変調を制御した。
【0137】
表1に算出結果を示す。表1中、「ITO」はインジウムスズ酸化物を意味する。
【0138】
【表1】
【0139】
表1に示すように、実施例1~実施例4では、比較例1と比較して応答速度が速いことから、所望の領域における電磁波透過性を迅速に制御することができることが分かった。
【符号の説明】
【0140】
12:導電性パターン、14:穴抜き部、16:相変化材料を含む層又はパターン、18:基材、20:電磁波制御素子、22:空隙又は充填部、L1:十字構造体の最大長さ、L2:十字構造体の幅、L3:十字構造体間の間隔
図1
図2
図3
図4