IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特開2024-113751超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物
<>
  • 特開-超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物 図1
  • 特開-超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物 図2
  • 特開-超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物 図3
  • 特開-超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物 図4
  • 特開-超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物 図5
  • 特開-超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物 図6
  • 特開-超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113751
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20240816BHJP
   A01H 6/46 20180101ALN20240816BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
A01H6/46
C12N15/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018896
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】井澤 毅
(72)【発明者】
【氏名】西出 典子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎琴
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA14
2B030CB02
(57)【要約】
【課題】単独の遺伝子座で超優性アリルとして雑種強勢を可能とする技術を提供する。
【解決手段】超優性形質を有する作物の作出方法であって、単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれに、独立に劣勢変異を導入し、それぞれの遺伝子に変異を有する系統を得る工程と、前記系統から、ヘテロ接合の個体を得る工程と、を有する作出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超優性形質を有する作物の作出方法であって、
単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれに、独立に劣勢変異を導入し、それぞれの遺伝子に変異を有する系統を得る工程と、
前記系統から、ヘテロ接合の個体を得る工程と、
を有する作出方法。
【請求項2】
前記形質は、雑種強勢である、請求項1に記載の作出方法。
【請求項3】
前記作物は、イネ科作物である、請求項1に記載の作出方法。
【請求項4】
前記作物は、イネである、請求項1に記載の作出方法。
【請求項5】
前記複数の遺伝子は、フロリゲン様遺伝子である、請求項1に記載の作出方法。
【請求項6】
超優性形質を有する作物であって、
単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれが、両アリルの内、一方のアリル上に劣勢変異を有する作物。
【請求項7】
前記形質は、雑種強勢である、請求項6に記載の作物。
【請求項8】
前記作物は、イネ科作物である、請求項6に記載の作物。
【請求項9】
前記作物は、イネである、請求項6に記載の作物。
【請求項10】
前記複数の遺伝子は、フロリゲン様遺伝子である、請求項6に記載の作物。
【請求項11】
前記複数の遺伝子は、Hd3a及びRFT1である、請求項6に記載の作物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超優性形質を有する作物の作出方法、及び超優性形質を有する作物に関する。
【背景技術】
【0002】
コシヒカリのような高品質米の収量性を向上する技術は、コメを主食とする国、特に人口増加が著しい国では特に強く求められている技術である。収量性が高いイネ品種は多く存在するが、高食味と両立しているケースは存在しない。
【0003】
一方、作物の雑種強勢は、遺伝解析が難しいケースが多く、複数の遺伝子座の組み合わせによる顕性説(優性説)で説明可能なソルガムのケースと(例えば、非特許文献1参照)、と、トマトの単独遺伝子SFT(SINGLE FLOWER TRUSS)による超優性アリルの例しかしられていない(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】The dominance model for heterosis explains culm length genetics in a hybrid sorghum variety. Hashimoto S, Wake T, Nakamura H, Minamiyama M, Araki-Nakamura S, Ohmae-Shinohara K, Koketsu E, Okamura S, Miura K, Kawaguchi H, Kasuga S, Sazuka T. Sci Rep. 2021 Feb 25;11(1):4532. doi: 10.1038/s41598-021-84020-3.
【非特許文献2】The flowering gene SINGLE FLOWER TRUSS drives heterosis for yield in tomato.Krieger U, Lippman ZB, Zamir D.Nat Genet. 2010 May;42(5):459-63. doi: 10.1038/ng.550. Epub 2010 Mar 28.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一遺伝子座支配で、簡単に育種利用できる雑種強勢遺伝子座は、イネといった主要穀物では実現していない。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、単独の遺伝子座で超優性アリルとして雑種強勢を可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]超優性形質を有する作物の作出方法であって、単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれに、独立に劣勢変異を導入し、それぞれの遺伝子に変異を有する系統を得る工程と、前記系統から、ヘテロ接合の個体を得る工程と、を有する作出方法。
[2]前記形質は、雑種強勢である、[1]に記載の作出方法。
[3]前記作物は、イネ科作物である、[1]に記載の作出方法。
[4]前記作物は、イネである、[1]に記載の作出方法。
[5]前記複数の遺伝子は、フロリゲン様遺伝子である、[1]に記載の作出方法。
[6]超優性形質を有する作物であって、単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれが、両アリルの内、一方のアリル上に劣勢変異を有する作物。
[7]前記形質は、雑種強勢である、[6]に記載の作物。
[8]前記作物は、イネ科作物である、[6]に記載の作物。
[9]前記作物は、イネである、[6]に記載の作物。
[10]前記複数の遺伝子は、フロリゲン様遺伝子である、[6]に記載の作物。
[11]前記複数の遺伝子は、Hd3a及びRFT1である、[6]に記載の作物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、単独の遺伝子座で超優性アリルとして雑種強勢を可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】設計したgRNA 配列と遺伝子上の位置を示した図である。
図2】Hd3a遺伝子にbi-allelic変異、RFT1遺伝子にヘテロ変異を有する系統が有するDNA変異について、シークエンス解析を行い確認した結果である。
図3】実験の手順を示した図である。
図4】Hd3a RFT1/Hd3a RFT1及びHd3a RFT1/hd3a rft1の稲穂の写真である。
図5】Hd3a RFT1/Hd3a RFT1及びHd3a RFT1/hd3a rft1の稲穂の乾燥体の写真である。
図6】各イネの分げつ数を調べた結果を示すグラフである。
図7】栽培した個体の穂数、生産量、乾重量 、穂重を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪超優性形質を有する作物の作出方法≫
一実施形態において、本発明は、超優性形質を有する作物の作出方法であって、単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれに、独立に劣勢変異を導入し、それぞれの遺伝子に変異を有する系統を得る工程と、前記系統から、ヘテロ接合の個体を得る工程と、を有する作出方法を提供する。
【0011】
超優性形質とは、ヘテロ接合体がホモ接合体よりも極端な、またはより適応した表現型を生み出す形質をいう。超優性形質としては、ヘテロ接合時に示すベストな形質であれば特に限定されない。係る形質としては、イネにおいて、同じ施肥環境で良食味米になる形質、同じ施肥環境で種子タンパク質が減り良食味米になる形質等が挙げられる。中でも超優性形質としては、雑種強勢が好ましい。
雑種強勢とは、種内交雑のF1世代が、両親系統より、品種として、優れた形質をもつ現象をいう。特に、バイオマスの向上が顕著にみられるケースが多い。遺伝学的に複雑な現象であるため、F2世代以降では、分離が激しく、集団としては、F1世代にのみ、観察できる現象である。雑種強勢としては、ヘテロ接合時に分げつ・穂数、個体サイズ(差や茎のサイズ)、開花までの日数、粒サイズ、穂サイズ、登熟歩合・稔実率の向上を起こすことが挙げられる。
【0012】
単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子とは、ゲノム上で近いところにあり、育種上いつも挙動を共にする遺伝子をいう。言い換えれば、相同組換えが起こらない程度に近くに存在し、育種時に1カ所として扱える遺伝子をいう。
【0013】
遺伝子としては、作物の表現型に寄与する遺伝子であれば特に限定されず、例えばフロリゲン様遺伝子が挙げられる。フロリゲンとは、接ぎ木等でも移動可能な、種を超えて茎頂に花芽形成を誘導する植物ホルモンである。フロリゲン様遺伝子としては、シロイヌナズナのFT(Flowering Locus T)遺伝子やイネのオーソログであるHd3a(Heading date 3a)遺伝子とRFT1(RICE FLOWERING LOCUS T1)との組み合わせ等が挙げられる。イネにおいては、11個のフロリゲン様遺伝子が確認されている。
【0014】
Hd3a遺伝子のホモログ遺伝子としては、例えば、表に挙げられるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。表中、「同一性」は、Hd3aタンパク質との同一性を示す。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
【表4】
【0019】
【表5】
【0020】
RFT1遺伝子のホモログ遺伝子としては、例えば、表に挙げられるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。表中、「同一性」は、RFT1タンパク質との同一性を示す。
【0021】
【表6】
【0022】
【表7】
【0023】
【表8】
【0024】
【表9】
【0025】
【表10】
【0026】
作物としては、特に限定されずイネ科作物が好ましい。イネ科作物としては、イネ、ソルガム、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、エンバク、シバ、ライムギ、アワ、サトウキビなどが挙げられ、イネがより好ましい。
【0027】
実施例で後述するように、イネ染色体6番に約10kb離れて存在する二つのフロリゲン遺伝子Hd3aとRFT1の両方に機能欠損を起こす突然変異をもつ系統を作出し、そのアリルがヘテロ接合の状態の個体のみ、両方が機能型でホモ接合の状態の個体に比べ、個体あたりの収量が大幅に増加することを見出した。本発明者は、世界で初めて、単独遺伝子座の人為的変異のみを用いて、雑種強勢を実現した。
【0028】
本実施形態において、劣勢変異とは、野生型遺伝子と比較して、機能抑制又は機能欠損を誘導する変異をいう。
単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれに、独立に劣勢変異を導入する方法としては、特に限定されず、例えば、標的遺伝子のゲノムに人為的に改変又は変異を加える方法が挙げられる。例えば、突然変異誘発剤の処理により、標的遺伝子の機能が欠損又は抑制された植物をスクリーニングする方法が挙げられる。
また例えば、遺伝子ターゲッティング法や、ゲノム編集技術、トランスジェニック等によって、標的遺伝子のゲノムに人為的に改変又は変異を加えてもよい。
【0029】
本実施形態の植物の作出方法は、標的遺伝子の機能を、そのプロモーターを改変することによって、欠損又は抑制する方法でもよい。
【0030】
標的遺伝子及び/又はそのプロモーターを改変する方法としては、効率の観点からゲノム編集技術を用いることが好ましい。
改変する方法としては、標的ゲノムDNAの二重鎖切断後の非相同末端結合(NHEJ)による挿入欠損(InDel)変異を生じさせる方法が挙げられる。InDel変異により、フレームシフトや未成熟終始コドンが誘発される。
また、標的ゲノムDNAの二重鎖切断後、相同組換え型修復により、変異を導入した外来DNAを標的ゲノム中に挿入する方法も挙げられる。
【0031】
標的ゲノムDNAの二重鎖切断に用いるシステムとしては、特に限定されず、CRISPR-Casシステム、TALENシステム、Znフィンガーヌクレアーゼシステム等が挙げられる。これらのシステムの細胞への導入方法としては、特に限定されず、標的ゲノムDNA切断酵素自体を細胞に導入してもよく、標的ゲノムDNA切断酵素発現ベクターを細胞に導入してもよい。標的ゲノムDNAの二重鎖切断に用いるシステムは、外来DNAと同時又は外来DNAの前若しくは後に細胞に導入される。
【0032】
例えば、CRISPR-Casシステムにおいては、Cas9発現ベクターと、切断したい箇所にCas9を誘導するガイドRNAをコードする発現ベクターと、を細胞に導入する方法や、発現精製した組み換えCas9タンパク質と、ガイドRNAと、を細胞に導入する方法等が挙げられる。
本実施形態において、標的ゲノムDNAの二重鎖切断に用いるシステムは、CRISPR-Casシステムが好ましい。
【0033】
本実施形態において、ゲノム編集は、in vitro培養系で行われても、in plantaで行われてもよい。in vitro培養系でのゲノム編集方法においては、外来遺伝子、核酸及びタンパク質の細胞への導入は、カルス又は組織片に対して、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法及びウィスカー法等の公知の方法を用いて行われる。in plantaにおけるゲノム編集方法においては、外来遺伝子、核酸及びタンパク質の細胞への導入は、露出させた未熟胚や完熟胚のシュート頂に対して、公知の方法を用いて行われる。
【0034】
ヘテロ接合の個体を得るに際しては、既存のCMS(Cytoplasmic Male Sterility)系統との組み合わせや、ホモ接合で成長不良や発芽不良を起こす変異との組み合わせで、この遺伝子座がヘテロ接合な個体のみが収穫に寄与できるF1品種種子を作製し利用することができる。
【0035】
≪超優性形質を有する作物≫
一実施形態において、本発明は、超優性形質を有する作物であって、単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれが、両アリルの内、一方のアリル上に劣勢変異を有する作物を提供する。
【0036】
超優性形質としては、雑種強勢が好ましい。遺伝子としては、作物の表現型に寄与する遺伝子であれば特に限定されず、フロリゲン様遺伝子が好ましい。フロリゲン様遺伝子としては、シロイヌナズナのFT(Flowering Locus T)遺伝子やイネのオーソログであるHd3a(Heading date 3a)遺伝子とRFT1(RICE FLOWERING LOCUS T1)との組み合わせ等が挙げられ、Hd3a及びRFT1の組み合わせが好ましい。各用語の意味は、≪超優性形質を有する作物の作出方法≫で述べたものと同様である。
【0037】
Hd3aタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1で表される。RFT1タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2で表される。
【0038】
本実施形態の作物は、以下の(a)~(c)のいずれかの遺伝子の機能、及び以下の(d)~(f)のいずれかの遺伝子の機能が欠損している又は抑制されていることが好ましい。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(b)前記(a)で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ茎頂に花芽形成を誘導する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(c)前記(a)で表されるアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ茎頂に花芽形成を誘導する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(e)前記(d)で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ茎頂に花芽形成を誘導する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(f)前記(d)で表されるアミノ酸配列と55%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ茎頂に花芽形成を誘導する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0039】
(b)において、欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸の数としては、1~30個であり、1~20個が好ましく、1~10個がより好ましく、1~5個が最も好ましい。
【0040】
(c)において、同一性としては、65%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、より85%以上が好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が最も好ましい。
【0041】
(e)において、欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸の数としては、1~30個であり、1~20個が好ましく、1~10個がより好ましく、1~5個が最も好ましい。
【0042】
(f)において、同一性としては、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が最も好ましい。
【0043】
作物としては、特に限定されずイネ科作物が好ましい。イネ科作物としては、イネ、ソルガム、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、エンバク、シバ、ライムギ、アワ、サトウキビなどが挙げられ、イネがより好ましい。
【0044】
本実施形態の作物において、単一遺伝子座として挙動する複数の遺伝子のそれぞれが、両アリルの内、一方のアリル上に劣勢変異を有する。即ち、本実施形態の作物は、ヘテロ接合の個体である。
【0045】
例えば、Hd3a及びRFT1の組み合わせにおけるヘテロ接合体の場合には、単位面積当たりのイネ収量を3割程度増加させる効果が期待できる。この収量性向上効果は、分げつの増加が主因であり、光合成を行う器官も増えるので、シンクのみを増やすのではなく、シンクとソースバランスを維持した技術であり、汎用性が高い。また、同じ量の施肥で栽培した場合、穀粒に蓄積するタンパク質が減ると想定され、高品質な収穫物を効率的に収穫できるものと考えられる。
【実施例0046】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
イネ品種「日本晴」を用い、イネのフロリゲン遺伝子である Hd3a(Heading date 3a)とRFT1(RICE FLOWERING LOCUS T1)のコーディング領域にgRNA 配列を設計して、作製したコンストラクトをアグロバクテリウム法により形質転換した。設計したgRNA 配列と遺伝子上の位置を図 1に示す(RFT1センス鎖5’-CGTCCATGGTGACCCAACAGCCCAGGGTCATGGTCGG-3’(配列番号3);RFT1アンチセンス鎖5’-CCGACCACGACCCTGGGCTGTTGGGTCACCATGG-3’(配列番号4;Hd3aセンス鎖5’-CAAGCCGTCCATGGTCACCCACCAGCCTAGGGTCG-3’(配列番号5);Hd3aアンチセンス鎖5’-CGACCCTAGGCTGGTGGGTGACCATGGACGGCTTG-3’(配列番号6))。Cas9酵素によりターゲット遺伝子中のガイドRNA相同配列のPAM配列近傍で二重鎖切断が起こり、その後の修復過程で、突然変異が導入される。
【0048】
形質転換により、Hd3a遺伝子にbi-allelic変異、RFT1遺伝子にヘテロ変異を有する系統を得た。この系統が有するDNA変異についてシークエンス解析を行い確認した結果を図2に示す。Hd3a遺伝子に、WT対応箇所(5’-AATGGCTGCGAGCTCAAGCCGTCCATGGTCACCCACCAGCCTAGGGTCGAGGTCGGCGGCAATGACATGAGGACATTCTACA-3’ (配列番号7))と比較して45bp(5’-AATGGCTGCGAGCTCAATGACATGAGGACATTCTACA-3’ (配列番号8))と6bp(5’-AATGGCTGCGAGCTCAAGCCGTCCACCCACCAGCCTAGGGTCGAGGTCGGCGGCAATGACATGAGGACATTCTACA-3’ (配列番号9))の欠失変異が確認され、RFT1遺伝子に、WT対応箇所(5’-CTCAAGCCGTCCATGGTGACCCAACAGCCCAGGGTCGTGGTCGGTGGCAATGACATGAGGACGT-3’ (配列番号10))と比較して18bp(5’-CTCAAGCCGTCCATGGTCGTGGTCGGTGGCAATGACATGAGGACGT-3’ (配列番号11))の欠失変異が確認された。
【0049】
図3は、実験の手順を示す。hd3a RFT1/hd3a rft1の自殖後代により、hd3a RFT1/hd3a RFT1、hd3a RFT1/hd3a rft1、hd3a rft1/hd3a rft1を得た。これらをコシヒカリと交配し、選抜し、Hd3a RFT1/hd3a rft1を得た。これを自殖後代し、Hd3a RFT1/Hd3a RFT1、Hd3a RFT1/hd3a rft1、hd3a rft1/hd3a rft1を得た。
【0050】
得られた各個体を栽培した。Hd3a RFT1/Hd3a RFT1及びHd3a RFT1/hd3a rft1の稲穂の写真を図4に示し、その乾燥体の写真を図5に示す。各イネの分げつ数を調べた結果を図6に示す。図6に示すように、Hd3a RFT1/hd3a rft1の分げつ数が最も多かった。
【0051】
更に栽培した個体の穂数、生産量、乾重量 、穂重を図7に示す。図7に示すように、穂数、生産量、乾重量 、穂重の全てにおいて、Hd3a RFT1/Hd3a RFT1と比較して、Hd3a RFT1/hd3a rft1が勝っていた。
【0052】
更に栽培した個体(野生型(Hd3a RFT1/Hd3a RFT1)6個体;ヘテロ型(Hd3a RFT1/hd3a rft1)7個体)において、全穂粒数及び全穂籾重(g)を計測した。結果を表11に示す。
【0053】
【表11】
【0054】
ヘテロ型個体は、野生型個体に比べて、稔実粒数、全穂粒数、全穂籾重の全てにおいて勝っており、稔実粒数として、約1.3倍の収量が得られるだけでなく、バイオマスとして増加することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、単独の遺伝子座で超優性アリルとして雑種強勢を可能とする技術を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024113751000001.xml