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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001138
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ステロイドの21-ヒドロキシル化
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20231226BHJP
   C12P 33/06 20060101ALI20231226BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231226BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231226BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231226BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231226BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12P33/06 A ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/53
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023172426
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2021041937の分割
【原出願日】2015-10-29
(31)【優先権主張番号】14306740.3
(32)【優先日】2014-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・ラテマン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・シュティルガー
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・ヤノハ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ファルク・ラッサー
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・リーソム
(72)【発明者】
【氏名】ジモーネ・アンデルコ
(72)【発明者】
【氏名】リタ・ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ハンネマン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細胞におけるステロイドの21-ヒドロキシル化の方法を提供する。
【解決手段】ステロイドの炭素原子21をヒドロキシル化する方法であって、a)(i)異種CYP21A2タンパク質または無改変の異種CYP21A2タンパク質のステロイドを21-ヒドロキシル化する能力の少なくとも20%を有するその機能的バリアント、(ii)フラボドキシンレダクターゼ(Fpr)とアドレノドキシンとの組合せ、Fprと電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etpfd)との組合せ、アドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh)とアドレノドキシンとの組合せ、およびArhとetpfdとの組合せ、からなる群から選択される異種電子伝達系、ならびに(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロン、を発現する細胞を用意する工程;ならびにb)該細胞にステロイドを添加する工程、を含む、前記方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロイドの炭素原子21をヒドロキシル化する方法であって、
a)(i)異種CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアント、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系、および
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロン
を発現する細胞を用意する工程;ならびに
b)該細胞にステロイドを添加する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
細胞の上清から21-ヒドロキシル化ステロイドを抽出する工程c)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)の後に、細胞に1種またはそれ以上の細胞透過剤を添加することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステロイドは3-ケトステロイドである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
3-ケトステロイドは、メドラン、デルタメドラン、プロゲステロン、17OH-プロゲステロン、メドロキシプロゲステロン、および5-α-ジヒドロプロゲステロンからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞は静止細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
細胞は原核細胞、特に大腸菌細胞、または真核細胞、特に酵母細胞である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの電子伝達系は、
(i)CYP21A2レダクターゼ、ならびに/または
(ii)フェレドキシンレダクターゼ、特にNADPH依存性フェレドキシンレダクターゼ、およびフェレドキシン
を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
1種またはそれ以上のシャペロンは組換えで発現されたシャペロンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのトリプトファナーゼ遺伝子の発現は細胞において低減または消失している、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
細胞は、ヘムの生合成経路における工程を触媒する酵素をコードする異種遺伝子、特にhemA遺伝子をさらに発現する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(i)、(ii)、および場合により(iii)をコードする遺伝子は、細胞のゲノムに組み込まれる1つまたはそれ以上の発現カセットに含まれる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
細胞であって、
(i)異種CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアント、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系
、および
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロン
を発現する前記細胞。
【請求項14】
多シストロン性発現ベクターであって、
(i)CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアントをコードする核酸、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系をコードする1種またはそれ以上の核酸、および場合により
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進するシャペロンをコードする1種またはそれ以上の核酸
を含む、前記多シストロン性発現ベクター。
【請求項15】
キットであって、
請求項13に記載の細胞、
請求項14に記載の多シストロン性発現ベクター、または
(i)CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアントをコードする核酸を含む発現ベクター、(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系をコードする1種またはそれ以上の核酸を含む1つまたはそれ以上の発現ベクター、および場合により(iii)CYP21A2の折りたたみを促進するシャペロンをコードする1種またはそれ以上の核酸を含む1つまたはそれ以上の発現ベクター
を含む前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概してステロイドヒドロキシル化の分野に関する。より詳細には、本発明は細胞におけるステロイドの21-ヒドロキシル化の方法に関する。本発明はまた、ステロイド21-ヒドロキシル化を行う酵素、すなわちステロイド21-ヒドロキシラーゼを発現する細胞、ステロイド21-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む発現ベクター、および細胞におけるステロイドの21-ヒドロキシル化の方法を実行するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
合成グルココルチコイドは、天然存在のストレスホルモンコルチゾールからの派生であり、その抗炎症効果および免疫抑制効果から、医薬品産業において重要な役割を果たす。さらに合成分子は多くの場合、コルチゾールよりも有効に作用する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、一部の薬学的に活性なステロイドの合成は、その前駆体の21-ヒドロキシル化(一例として図1を参照のこと)を含み、長時間続く多段階化学合成からなる。また、化学的な酸化剤は21位に対して選択的ではないので、合成化学によってはこのヒドロキシル化は困難である。この理由から、他の官能基を保護してその酸化を回避し、またヒドロキシル化反応を21位に導く必要がある。さらに、ヨウ素などの試薬を使用するため、この合成は環境に優しくない。したがって、薬学的に活性なステロイドを安価かつ持続可能に生成することは、これらの重要な薬物に対する高い需要を満たすために極めて望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、酵素CYP21A2による1段階合成でのステロイドの全細胞生体内変換の開発によってこの問題に取り組んでいる。酵素CYP21A2は、チトクロムP450モノオキシゲナーゼのタンパク質ファミリーのメンバーであり、ステロイド骨格の21位において高選択的なステロイドのヒドロキシル化を行うことができる(この方法のスキームについては図2を参照のこと)。CYP21A2は、小胞体に位置し、ステロイドホルモン生合成において重要な役割を果たす、哺乳類の膜アンカー酵素である。本発明者らは、本発明の生体触媒系が、確立された化学合成に取って代わる有望な候補であることを示している。本発明者らは特に、所望の1生成物に至る単一のヒドロキシル化工程でステロイドを修飾することができることを示している。これは時間を節約し、環境に優しく(副生成物は観測されなかった)、下流のプロセシングを容易にする。それに加え、かつ有利に、本発明による全細胞でのステロイド生成では、酵素を精製する必要がなく、酵素は宿主において安定なままであり、かつ細胞自体が供与体としての役割を果たすので、NADPHのような高価な酸化還元等価物を添加する必要がない。
【0005】
本発明を以下で詳細に説明する前に、方法、プロトコルおよび試薬は様々でありうるので、本発明は、本明細書に記載する特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されないことを理解するべきである。また本明細書において使用する用語は、単に特定の実施形態を説明することを目的とするものであり、本発明の範囲を限定するよう意図するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることを理解するべきである。別段の定めがない限り、本明細書中において使用する全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0006】
本明細書において使用する用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)」、Leuenberger,H.G.W、Nagel,B.およびKolbl,H.編(1995)、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerlandに記載されるように規定されることが好ましい。
【0007】
本明細書の本文では、いくつかの文書を引用している。本明細書において引用する文書(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書などを含める)の各々は、上記または下記のいずれでも、参照によってその全体を組み入れる。本明細書においては、先行発明に基づき、かかる開示に先行する権限が本発明にないことの承認として解釈するべきものはない。
【0008】
以下に、本発明の構成要素を説明する。これらの構成要素は特定の実施形態と共に列挙するが、これらの構成要素は任意の様式および任意の数で組み合わせて、さらなる実施形態を作成してもよいことを理解するべきである。様々に説明している例、および好ましい実施形態は、明示的に説明している実施形態のみに本発明を限定するものとして解釈するべきではない。この記載は、明示的に説明している実施形態を任意の数の開示した構成要素および/または好ましい構成要素と組み合わせる実施形態を支持し、包含するものとして理解するべきである。さらに、文脈により別のことが示されない限り、本出願において説明している全ての構成要素の任意の順列および組合せが、本出願の説明によって開示されると見なされるべきである。
【0009】
本明細書とこれに続く特許請求の範囲とにわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語と、「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変化形は、述べられている整数もしくは工程、または整数もしくは工程の群を含むことを意味しているが、他のいかなる整数もしくは工程、または整数もしくは工程の群を排除することを意味するものではないことを理解するべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、内容から明らかに他の意味で示されている場合を除き、単数形「a」「an」および「the」は複数指示物を含む。
【0010】
第1の態様においては、本発明は、ステロイドの炭素原子21をヒドロキシル化する方法であって、
a)(i)異種CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアント、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系、および
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロン
を発現する細胞を用意する工程;ならびに
b)細胞にステロイドを添加する工程
を含む方法に関する。
【0011】
ステロイドは、互いにつながった特徴的な配置の4つのシクロアルカン環を含有する有機化合物の1種である(以下に示す)。ステロイド核は、互いに結合した17個の炭素原子から構成されており、この17個の炭素原子は4つの縮合環:3つのシクロヘキサン環(環A、BおよびCと呼ぶ)ならびに1つのシクロペンタン環(環D)の形態をしている。ステロイドは、この4環核に付いた官能基と、環の酸化状態とによって異なる。
【0012】
ステロイドの炭素原子21のヒドロキシル化は、上記のABCDステロイド環系において示される21位での-OH基の付加である。炭素原子の番号付けは、IUPAC(国際
純正および応用化学連合)承認の環の標記および原子の番号付けに従う。ステロイドの21-ヒドロキシル化を図1に示す。
【0013】
本発明の第1の態様の方法の特定の実施形態においては、ステロイドは3-ケトステロイドである。より詳細には、ステロイドは非天然ステロイド、すなわち、遺伝子改変されていない細胞、特にヒトまたはウシ細胞において生成および/または21-ヒドロキシル化されていないステロイドである。
【0014】
一実施形態においては、ステロイドは、メドラン(medrane)、デルタメドラン(deltamedrane)、プロゲステロン、17OH-プロゲステロン、メドロキシプロゲステロン、および5-α-ジヒドロプロゲステロンからなる群から選択される。21-ヒドロキシル化は、これらの特定のステロイドをそれぞれプレメドロール(premedrol)、メドロール、11-デオキシコルチコステロン、11-デオキシコルチゾール、21OH-メドロキシプロゲステロン、および21OH-(5α-ジヒドロプロゲステロン)に変換する。ステロイドが非天然ステロイドである特定の一実施形態においては、ステロイドは、メドラン、デルタメドラン、メドロキシプロゲステロン、および5-α-ジヒドロプロゲステロンからなる群から選択される。
【0015】
細胞は特に、任意の細胞培地、例えば増殖培地において培養される培養細胞であり、特定の実施形態においては、静止状態である。この実施形態によれば、細胞は、増殖培地ではなく、細胞を維持することができるバッファーまたは培地中に含まれる。バッファーの組成は特定の細胞に応じ、好適なバッファーは当技術分野において周知である。細胞の種類に応じて、細胞は懸濁細胞または接着細胞である。懸濁細胞は、懸濁液中で(すなわち表面に付着せずに)自然に存在することができる細胞、または、懸濁培養物中で生存することができるように、例えば接着状態によって可能となる密度よりも高い密度に増殖するように改変された細胞である。接着細胞は、組織培養プラスチックまたはマイクロキャリアなどの表面を必要とする細胞であり、その表面は、細胞外マトリックス(コラーゲンおよびラミニンなど)成分でコーティングして接着特性を向上させ、増殖および分化に必要な他のシグナルを与えてもよい。一実施形態においては、接着細胞は単層細胞である。
【0016】
細胞は概して原核細胞でも真核細胞でもよい。第1の態様の方法において使用する原核細胞の特定の例は、大腸菌(E. coli)細胞であり、例えば実施例の大腸菌株C43(DE3)細胞である。真核細胞の特定の例は酵母細胞であり、例えばS.セレビシエ(S. cerevisae)細胞またはシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)細胞である。しかしながら第1の態様の方法は、いずれの特定の細胞タイプにも限定されず、任意の細胞タイプを使用してもよい。特に、上述の細胞のほかに昆虫細胞または哺乳類細胞のような、培養で増殖させて維持することができ、かつ組換え発現系として使用することができる任意の細胞タイプを使用してもよい。
【0017】
「異種」という用語は、タンパク質を、通常は(すなわち、ヒトの介入なしでは)そのタンパク質を発現しない細胞において発現させることを意味する。例えばCYP21A2は21-ヒドロキシラーゼとも呼ばれる酵素であり、チトクロムP450ファミリーの酵素の一部である。チトクロムP450酵素は、薬物を分解する反応を補助すること、ならびにコレステロール、特定のホルモン、および脂肪(脂質)の生成を助けることなど、体内の多くのプロセスに関与する。21-ヒドロキシラーゼ酵素は副腎において見出され、副腎は腎臓の頂部に位置して、体内での多くの必須機能を調節する様々なホルモンを生成する。したがって異種発現に関しCYP21A2タンパク質は、副腎細胞ではない任意の細胞については異種であると見なすことができる。
【0018】
特に「異種」という用語は、タンパク質または遺伝子が発現される細胞、特に組換えで発現される細胞と比べた、タンパク質または遺伝子が由来する種を指すこともある。その場合、異種タンパク質は、タンパク質が発現される細胞、すなわち本発明の第1の態様の方法の細胞とは異なる種に由来するタンパク質である。例えば本発明者らは哺乳類、特にヒトまたはウシのタンパク質を大腸菌細胞において発現させた。これにより、これらのタンパク質は細胞に対して異種となる。
【0019】
本発明の第1の態様の方法の特定の実施形態においては、CYP21A2タンパク質は、ヒトまたはウシ起源のタンパク質である。ヒトCYP21A2(UniProt受入番号P08686)は、配列表の配列番号1に従った配列を有する。ウシCYP21A2(UniProt受入番号P00191)は、配列表の配列番号2に従った配列を有する。図8も参照のこと。しかしながら相同遺伝子は、Canis lupus(イヌ)、Macaca mulata(アカゲザル)、Rattus norvegicus(ラット)、Gallus gallus(ニワトリ)、Danio rerio(ゼブラフィッシュ)、Mus musculus(マウス)、またはPan troglodytes(チンパンジー)などの他の哺乳類種にも存在する。したがって任意のCYP21A2タンパク質、特に任意の哺乳類CYP21A2タンパク質を使用することができることを強調する。それぞれ配列番号3および配列番号4に従った、改変されたヒトCYP21A2またはウシCYP21A2も使用することができる。図8も参照のこと。
【0020】
「機能的バリアント」という用語は、無改変のタンパク質またはCYP21A2タンパク質の、ステロイドを21-ヒドロキシル化する能力の少なくとも20%(例えば、少なくとも:20%;30%;40%;50%;60%;70%;80%;90%;95%;98%;99%;99.5%;もしくは100%;またはさらにそれ以上)を有するタンパク質バリアントである。この能力は、例えば本明細書における実施例1および実施例2に示す方法を用いて、当業者によって過度の負担なく決定することができる。
【0021】
「タンパク質バリアント」は、それが由来するCYP21A2のアミノ酸配列、例えばヒトCYP21A2の場合には配列番号1もしくは3、またはウシCYP21A2の場合には配列番号2もしくは4と、少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有するタンパク質である。2つの配列のパーセント同一性(percent identity)の決定は、KarlinおよびAltschul、Proc. Natl. Acad. Sci. USA
90、5873-5877、1993の数学アルゴリズムを用いて行う。このようなアルゴリズムは、Altschulら、(1990) J. Mol. Biol.215、403-410のBLASTNおよびBLASTPプログラムに組み込まれている。比較の目的で、ギャップが挿入されたアライメントを得るには、Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25、3389-3402において記載されるようにGapped BLASTを利用する。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラムのデフォルトパラメータを使用する。
【0022】
あるいはタンパク質バリアントは、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、4、3、2、または1個以下のアミノ酸置換、特に保存的アミノ酸置換を有するものとして規定することもできる。保存的置換表は当技術分野において周知である(例えば、Creighton(1984)Proteins. W.H.Freeman and Companyを参照のこと)。アミノ酸の物理特性および化学特性の概観を以下の表1に示す。特定の実施形態においては、保存的置換は、表1に従って同じ特性を有するアミノ酸を用いて行われる置換である。
【0023】
【表1】
【0024】
「バリアント」という用語は、タンパク質断片も含む。CYP21A2の断片は、合計で100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、4、3、2、または1個以下のアミノ酸のN末端欠失および/またはC末端欠失を有する。特定の実施形態においては、機能的バリアントは、疎水性アンカー領域を欠損している、すなわち29個のN末端アミノ酸残基がトランケーションされているCYP21A2の断片である(図8)。
【0025】
さらにCYP21A2タンパク質は、例えばタグなどのN末端またはC末端アミノ酸付加、または細菌発現を改良するためのN末端修飾などによって修飾してもよい。例えば、タグは6×HisタグなどのC末端Hisタグとしてもよく、N末端修飾は、CYP2C3のN末端に10個のアミノ酸を付加することとしてもよい(図8ならびに配列番号3および4を参照のこと)。
【0026】
電子伝達系は、酸化還元反応によって電子供与体から電子受容体へと電子を伝達する一連の化合物である。「CYP21A2に電子を伝達することができる」という用語は、これによりCYP21A2がこの一連の電子受容体であることを意味する。本明細書において「一連」という用語はCYP21A2を含んでもよく、よって電子伝達系は、CYP21A2のほかには単一のタンパク質からなっていてもよい。本発明の第1の態様の方法では、電子伝達系がCYP21A2に電子を伝達することができる限り、電子伝達系がどのメンバーからなっているかは重要ではない。好適な系は当技術分野において周知である。本発明の第1の態様の方法の特定の実施形態においては、少なくとも1つの電子伝達系は、(i)CYP21A2レダクターゼ、または(ii)フェレドキシンレダクターゼ、好ましくはNADPH依存性フェレドキシンレダクターゼ(アドレノドキシンレダクターゼ)およびフェレドキシン、を含む。例えば少なくとも1つの電子伝達系は、NADPH依存性チトクロムP450レダクターゼ(CPR、例えばヒトまたはウシ)、アドレノドキシンレダクターゼ(AdR、例えばヒトまたはウシ)とアドレノドキシン(Adx4-108、例えばヒトまたはウシ)との組合せ、フラボドキシンレダクターゼ(Fpr、例えば大腸菌由来)とアドレノドキシン(Adx4-108、例えばヒトまたはウシ)との組
合せ、アドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh)、例えばS.ポンベ(S. pombe)アドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh1)とアドレノドキシン(Adx4-108、例えばヒトまたはウシ)との組合せ、アドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh)、例えばS.ポンベアドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh1)と電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etpfd)、例えばS.ポンベ電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etp1fd)との組合せ、およびフラボドキシンレダクターゼ(Fpr、例えば大腸菌由来)と電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etpfd)、例えばS.ポンベ電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etp1fd)との組合せからなる群から選択することができる。
【0027】
特定の実施形態においては、外因性NADPHを細胞に添加しない。この実施形態においては、NADPHは細胞によって生成される。特定の実施形態においては、細胞におけるNADPH生成は、組換え手段、例えばNADPH生成に関する酵素(例えば、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)、ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(PGD)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH)、および/もしくはイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDH)のうちの1つもしくはそれ以上)の異種発現によって増加させてもよく、かつ/またはホルモンシグナルを与えること、すなわち内因性NADPH生成のレベルを向上させるエストラジオールなどのホルモンを添加することによって増加させてもよい。
【0028】
同様にシャペロンは、CYP21A2の折りたたみを促進することができる限りは任意のシャペロンとすることができる。本発明者らは、本発明の第1の態様の方法が内因性シャペロンのみに依拠することができること、すなわち好適なシャペロンのさらなる発現は必須ではないことを見出した。しかしながらさらなる発現により、細胞における機能的CYP21A2の生成は改良され、したがって有益となりうる。したがって本発明の第1の態様の方法の一実施形態においては、1種またはそれ以上のシャペロンは、組換えで発現されるシャペロンである。特に、1種またはそれ以上のシャペロンは異種シャペロンとしてもよい。例示的なシャペロンは、大腸菌シャペロンGroELおよびGroES、またはDnaK、DnaJ、GrpE、およびClpBのような他のシャペロン、ならびにIbpAおよびIbpB(IbpAB)などの低分子量熱ショックタンパク質(sHSP)である。
【0029】
場合により、同じシャペロン、または細胞において発現される1つもしくはそれ以上のさらなるシャペロンが、上記の電子伝達タンパク質のうち1つまたはそれ以上を折りたたむことができる。
【0030】
組換え発現は、組換え遺伝子の発現を指す。このような遺伝子は、遺伝子工学の方法によって細胞に導入された任意の遺伝子とすることができ、通常は異種遺伝子であり、かつ/または存在しうる対応する内在性遺伝子とは発現に関して異なって制御されている遺伝子である。一実施形態においては、組換え発現は誘導可能である。
【0031】
本発明の第1の態様の方法の一実施形態においては、この方法は、例えば工程b)の後に、細胞懸濁液に1種またはそれ以上の細胞透過剤を添加することをさらに含む。細胞透過剤は、膜の透過性を増加させる試薬である。例としては、メタノール、アセトン、またはDMSOなどの有機溶媒、サポニン、Triton X-100、またはTween-20などの界面活性剤、およびEDTAである。特に、ポリミキシンBを細胞透過剤として使用することができる。この薬剤は、本発明の方法において特に良好に作用することがわかった。
【0032】
本発明の第1の態様の方法の別の実施形態においては、この方法は、細胞および/また
は細胞の上清(すなわち、細胞が含まれているバッファーもしくは培地)、例えば全細胞懸濁液から、21-ヒドロキシル化ステロイドを抽出するする工程c)をさらに含む。この抽出は、溶解していない化合物を抽出するための当技術分野で公知の任意の溶媒または抽出方法を用いて行うことができる。例えば1-ブタノール、2-ブタノン、またはクロロホルムなどの溶媒を使用してもよい。
【0033】
本発明の第1の態様の方法の特定の実施形態においては、少なくとも1つのトリプトファナーゼ遺伝子の発現が細胞において低減または消失している。トリプトファナーゼ、すなわちL-トリプトファンインドール-リアーゼ(EC番号4.1.99.1.)は、L-トリプトファン+H2O=インドール+ピルビン酸+NH3の反応を触媒する酵素である。したがって、発現を低減または消失させることにより、細胞によるインドールの生成が減少する。インドールは、CYP21A2などのCYP酵素の阻害剤であるので、これにより当該方法を改良することができる。トリプトファナーゼ遺伝子は概して(しかし限定するわけではなく)原核生物、例えば大腸菌において見出されるので、この特定の実施形態は、細胞が原核生物細胞である本発明の第1の態様の方法の実施形態に特に適合する。一実施形態においては、トリプトファナーゼ遺伝子を発現する細胞の種は、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、バチルス属種(Bacillus sp.)、バクテロイデス属種(Bacteroides sp.)、コリネバクテリウム属種(Corynebacterium sp.)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)SM-18、エンテロバクター属種(Enterobacter sp.)、エルウィニア属種(Erwinia
sp.)、エシェリキア・アウレッセンス(Escherichia aurescens)、大腸菌(Escherichia coli)、フソバクテリウム・ネクロホラム亜種ファンデュリフォルメ(Fusobacterium necrophorum subsp. Funduliforme)、クライベラ属種(Kluyvera sp.)、ミクロコッカス・エロゲネス(Micrococcus aerogenes)、モルガネラ・モルガニー(Morganella morganii)、パエニバチルス・アルベイ(Paenibacillus alvei)、パラコロバクトラム・コリフォルメ(Paracolobactrum coliforme)、パラコロバクトラム属種(Paracolobactrum sp.)、パスツレラ属種(Pasteurella sp.)、フォトバクテリウム・プロファンダム(Photobacterium profundum)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella
intermedia)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロビデンシア・レットゲリ(Providencia rettgeri)、シゲラ・アルカレッセンス(Shigella alkalescens)、スフェロフォルス属種(Sphaerophorus sp.)、シムビオバクテリウム・サーモフィラム(Symbiobacterium thermophilum)、ビブリオ属種(Vibrio sp.)、ならびにヒト(Homo sapiens)およびラット(Rattus norvegicus)などの哺乳類種からなる群から選択される。
【0034】
本発明の第1の態様の方法のさらなる実施形態においては、細胞は、ヘムの生合成経路における工程を触媒する酵素をコードする異種または組換え遺伝子、特に異種hemA(グルタミルtRNAレダクターゼ)遺伝子をさらに発現する。このような細胞の例は大腸菌である。これにより、ヘム前駆体δ-アミノレブリン酸などの、CYPヘム合成用の前駆体を供給する必要性が有利に減り、このような細胞におけるステロイドの生体内変換のコストが減る。
【0035】
本発明の第1の態様の方法の特定の実施形態においては、(i)異種CYP21A2タ
ンパク質またはその機能的バリアント、(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系、および場合により(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロンをコードする核酸は、細胞、特に細胞のゲノムに組み込まれる1つまたはそれ以上の発現カセットに含まれる。「発現カセット」という用語は、遺伝子発現に必要なプロモーターなどの調節配列に、作動可能に連結した遺伝子を含むDNA断片を指す。「作動可能に連結した」は、ヌクレオチド領域が近接し、その領域の機能性が保存され、かつ機能単位の一部として他の領域と関連して働くような、特定の遺伝情報をコードするヌクレオチド領域の連結を指す。核酸(i)、(ii)、および場合により(iii)を、それぞれ個々の発現カセットが含んでもよく、または1つもしくはそれ以上の多シストロン性発現カセットが含んでもよい。本明細書で使用する場合、「多シストロン性」という用語は、複数のシストロン、すなわち複数の核酸または遺伝子が、例えばプロモーターなどの同じ調節配列に、作動可能に連結していることを意味する。
【0036】
一実施形態においては、(i)異種CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアント、(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系、および場合により(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロンをコードする核酸は、細胞に含まれた発現ベクターに含まれる。「発現ベクター」は媒体であり、この媒体により、タンパク質をコードする核酸を含有するDNA断片を宿主細胞に導入することができ、宿主細胞では、宿主細胞が核酸を発現することができる。核酸(i)、(ii)、および場合により(iii)を、それぞれ個々の発現ベクターが含んでもよく、または1つもしくはそれ以上の多シストロン性発現ベクターが含んでもよい。
【0037】
また、核酸(i)、(ii)、および場合により(iii)のうちの1つまたはそれ以上を、細胞のゲノムに組み込まれる発現カセットが含んでもよく、残りの核酸(i)、(ii)、または場合により(iii)を発現ベクターが含み、両方とも上記で述べたとおりである。
【0038】
第2の態様においては、本発明は、細胞であって、
(i)異種CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアント、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系、および
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロン
を発現する細胞に関する。
【0039】
本発明の第1の態様の方法の細胞と同様に、この細胞もまた、
(i)異種CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアント、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系、および
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロン
をコードする1種またはそれ以上の核酸
を含む細胞として記載することができる。
【0040】
特定の実施形態においては、これらの核酸を、1つまたはそれ以上の発現カセットが含む。
【0041】
第2の態様の細胞は本質的に、本発明の第1の態様の方法で使用する細胞であり、したがって本発明の第2の態様の細胞のさらなる実施形態は、第1の態様の方法に関して上で説明したとおりである。
【0042】
第3の態様においては、本発明は、多シストロン性の発現ベクターであって、
(i)CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアントをコードする核酸、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系をコードする1種またはそれ以上の核酸、および場合により
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進するシャペロンをコードする1種またはそれ以上の核酸
を含む、多シストロン性発現ベクターに関する。
【0043】
第4の態様においては、本発明は、キットであって、
・第2の態様の細胞、
・第3の態様の多シストロン性発現ベクター、または
・(i)CYP21A2タンパク質またはその機能的バリアントをコードする核酸を含む発現ベクター、(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系をコードする1種またはそれ以上の核酸を含む1つまたはそれ以上の発現ベクター、および場合により(iii)CYP21A2の折りたたみを促進するシャペロンをコードする1種またはそれ以上の核酸を含む1つまたはそれ以上の発現ベクター
を含む、キットに関する。
【0044】
「キット」という用語は、本明細書においては、第1の態様の方法を実施するのに必要な試薬、材料、および説明書のうちの全てまたは一部の集合体を意味する。このキットは、細胞培養培地またはバッファー(乾燥もしくは液体形態の両方)、1種またはそれ以上の細胞透過剤、ステロイド抽出用の溶媒、ならびに、特に、ヒドロキシル化するステロイド、特に3-ケトステロイド、例えばメドラン、デルタメドラン、プロゲステロン、17OH-プロゲステロン、メドロキシプロゲステロン、または5α-ジヒドロプロゲステロンのうちの1つまたはそれ以上を含む。さらに、第1の態様の方法に関連して本明細書で説明した全ての試薬または材料は、第4の態様のキットの一部分とすることができることが意図される。
【0045】
特定の実施形態においては、第1の態様の方法、第2の態様の細胞、第3の態様の発現ベクター、および第4の態様のキットは、適用できる場合は、さらなる工程または成分を含まず、特に異種遺伝子またはタンパク質、特に本明細書で説明したステロイドの21-ヒドロキシル化に関連しないステロイド変換またはステロイド生成のための異種遺伝子またはタンパク質を含まない。場合により、これの例外は、21-ヒドロキシル化ステロイドのさらなるプロセシングに関連する下流の工程もしくは成分(プレメドロールからメドロールへの変換など)、または21-ヒドロキシル化するステロイドの生成に関連する上流の工程または成分(メドランの生成など)としてもよい。
【0046】
以下の図面および実施例においては、本発明の一部の特定の実施形態をより詳細に説明する。しかし特定の実施形態の詳細によって、本発明を限定することは意図しない。対照的に、本発明は、本明細書の実施形態で明示的に述べられていないが、当業者によって過度の労力なく見出される詳細を含む任意の実施形態に関する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】ステロイド(ここではプロゲステロン)の炭素原子21でのヒドロキシル化を示す図である。
図2】大腸菌における、CYP21A2および必要とされる電子伝達タンパク質によるステロイドの全細胞生体内変換のスキームを示す図である。
図3】左:精製したウシCYP21のCO差スペクトルを示す図である。右:示している精製工程(IMAC/DEAE/SP)後に取ったbCYP21試料のSDS-PAGEを示す図である。
図4】ヒトCYP21および記載した電子伝達タンパク質、ここではAdRおよびAdx(系2)による、メドランからプレメドロールへのインビトロ21-ヒドロキシル化のHPLCクロマトグラムを示す図である。
図5-1】ヒトまたはウシCYP21を使用し、異なる電子伝達タンパク質を用いて構築した、全細胞生体内変換用ベクターを示す図である。
図5-2】図5-1の続き。
図6-1】ウシCYP21および記載した電子伝達タンパク質、ここではFprおよびAdxによる、メドランからプレメドロール(A)、デルタメドランからメドロール(B)、メドロキシプロゲステロンから21OH-メドロキシプロゲステロン(C)、および17OH-プロゲステロンから11-デオキシコルチゾール(D)への、全細胞21-ヒドロキシル化のHPLCクロマトグラムを示す図である。
図6-2】図6-1の続き。
図7】ウシCYP21および記載した電子伝達タンパク質、ここではFprおよびAdxによる、メドランからプレメドロールへの全細胞変換の時間依存性を示す図である。
図8-1】野生型および改変したヒト(A)およびウシ(B)のCYP21A2のアミノ酸配列を示す図である。
図8-2】図8-1の続き。
【発明を実施するための形態】
【0048】
〔実施例1〕
インビトロヒドロキシル化
1.1 hCYP21/bCYP21の発現/精製
ヒトおよびウシCYP21の両方が、ステロイドを21位でヒドロキシル化できることを示すため、両方の酵素を用いたインビトロ研究を行った。例示的な21-ヒドロキシル化方法として、メドランをプレメドロールに変換した。
【化1】
【0049】
プレメドロール(メチルヒドロコルチゾン)は、有効性の高い医薬品ステロイドのメドロール(メチルプレドニゾロン)の前駆体である。メドロールは、自己免疫疾患、多発性硬化症の療法における重要な薬物であり、一般に炎症の局所治療用および全身治療用である。
【0050】
両方の酵素を、ベクターpGro12にコードされた大腸菌シャペロンGroEL/GroESの同時発現により、大腸菌株C43(DE3)において発現させた。これらのシャペロンにより、正確なタンパク質折りたたみが確実に行われ、これはヘム補欠分子族の取込みに重要である。図3において、精製したウシCYP21のSDS-PAGEおよびCO差スペクトルを示している。CO差スペクトルが示すように、酵素は活性型で精製された。両方のアイソザイムへのメドランの結合を決定するため、結合定数(K値)を決定した。
【0051】
1.2 電子送達(electron delivering)酸化還元パートナーの発現
効率的な基質変換のため、両方のアイソフォームは、2つの部分からなる電子伝達系を必要とする。その2つの部分は、ヒドロキシル化反応に不可欠な、チトクロムP450酵素自体と、1種または2種の電子伝達タンパク質とである。これらの伝達タンパク質なしでは反応は起こらない。例えば表2に列挙した6つの電子伝達系が、電子をCYP21に伝達することができる。
【0052】
【表2】
【0053】
インビトロ研究および基質変換の検証のため、全ての酸化還元パートナーを精製した。
【0054】
1.3 インビトロでのチトクロムP450系の再構成
規定したバッファー中で、精製した酵素を用い、かつNADPH再生系を用いてインビトロ基質変換をすることにより、両方のアイソフォームは、本明細書に列挙した電子伝達タンパク質と共に、非常に効率的にメドランをプレメドロールに変換することができることが明らかとなった。図4には、ヒトCYP21と電子伝達系2とによるメドランインビトロ変換を示している。この結果は、CYP21が、例えば表2に示した好適な酸化還元系と共に、プレメドロールによって例示されるステロイドを酵素的に生成することができることを示している。
【0055】
〔実施例2〕
全細胞系
ステロイドのインビトロ変換の成功を考慮し、全細胞における生体内変換を開発した。
【0056】
概して、全細胞におけるヒドロキシル化を行うために、大腸菌株C43(DE3)において、CYP21および必要な電子伝達タンパク質を異種発現させた。発現およびその後
の変換のため、プラスミドpET17bをベースとする2シストロン性または3シストロン性のベクターを構築した。このベクターが特定のCYP21および特定の酸化還元系の遺伝子を運ぶ。図5には、全ての構築したベクターを示している。正確なタンパク質折りたたみを促進するため、大腸菌シャペロンGroELおよびGroESを第2のベクターで同時発現させた。形質転換した大腸菌細胞は、CYP21酵素および必要とされる酸化還元パートナーを生成することができた。タンパク質の発現後、ヒドロキシル化するステロイド(メドランによって例示される)を基質として添加することによって開始した基質変換が起こった。
【0057】
特に、全細胞生体触媒作用のためのベクター(例えば、p21b_ArET)、およびシャペロンGroEL/GroESをコードするpGro12で、大腸菌株C43(DE3)を形質転換した。培養物は、2L三角フラスコ中で、種培養2mLを播種したTB培地200mL(+抗生物質アンピシリンおよびカナマイシン)を含んだ。この培養物を37℃で増殖させた。OD0.5にて、1mM IPTG、1mM δ-アミノレブリン酸、4mg/mLアラビノースを添加することにより発現を誘導し、27℃で28時間維持した。全細胞生体内変換のため、遠心分離によって細胞を収集し、50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.4)で洗浄した。基質変換は、300mLのバッフル付きフラスコ中の2%グリセリン、1mM IPTG、1mM δ-アミノレブリン酸、4mg/mLアラビノースを含むリン酸カリウムバッファー(50mM)25mLに、静止細胞と共に400μMの基質を添加して開始し、細胞密度約24g/L(湿重量)で24時間行った。例えば24時間後に試料を取り、クロロホルムを用いてステロイドを抽出後、RP-HPLCによって測定を行った。
【0058】
図6では、ステロイドがその21-ヒドロキシル化誘導体に変換されたこと、また化学合成とは対照的に、副生成物の出現は観測されなかったことが示されている。6つの酸化還元系を有する全細胞において、各CYP21アイソフォームに対し生成物形成の時間依存性を検討して、終点収率だけでなく、バイオテクノロジー方法に関して非常に興味深い反応速度も決定した(図7)。
【0059】
メドランからプレメドロールへの変換に次いで、ヒトおよびウシCYP21の両方は、試験した全ての、21位がまだヒドロキシル化されていない3-ケトステロイドをヒドロキシル化することができた。特に、以下のステロイド変換を示すことができた。
・メドランからプレメドロール(非天然基質)
・デルタメドランからメドロール(非天然基質)
・プロゲステロンから11-デオキシコルチコステロン(天然基質)
・17OH-プロゲステロンから11-デオキシコルチゾール(天然基質)
・メドロキシプロゲステロンから21OH-メドロキシプロゲステロン(非天然基質)
・5α-ジヒドロプロゲステロンから21OH-(5α-ジヒドロプロゲステロン)
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7
図8-1】
図8-2】
【配列表】
2024001138000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロイドの炭素原子21をヒドロキシル化する方法であって、
a)(i)異種CYP21A2タンパク質または無改変の異種CYP21A2タンパク質のステロイドを21-ヒドロキシル化する能力の少なくとも20%を有するその機能的バリアント、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系であって、
- フラボドキシンレダクターゼ(Fpr)とアドレノドキシンとの組合せ、
- Fprと電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etpfd)との組合せ、
- アドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh)とアドレノドキシンとの組合せ、および
- Arhとetpfdとの組合せ、
からなる群から選択される異種電子伝達系、ならびに
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロン、を発現する細胞を用意する工程;ならびに
b)該細胞にステロイドを添加する工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
細胞の上清から21-ヒドロキシル化ステロイドを抽出する工程c)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)の後に、細胞に1種またはそれ以上の細胞透過剤を添加することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステロイドが3-ケトステロイドである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
3-ケトステロイドが、メドラン、デルタメドラン、プロゲステロン、17OH-プロゲステロン、メドロキシプロゲステロン、および5-α-ジヒドロプロゲステロンからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞が静止細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
細胞が原核細胞または真核細胞である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
- Fprが大腸菌Fprである、
- アドレノドキシンがヒトもしくはウシAdx4-108である、
- ArhがS.ポンベアドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh1)である、および/または
- etpfdがS.ポンベ電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etp1fd)である、
、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
1種またはそれ以上のシャペロンが組換えで発現されたシャペロンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのトリプトファナーゼ遺伝子の発現が細胞において低減または消失している、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
細胞が、ヘムの生合成経路における工程を触媒する酵素をコードする異種遺伝子、特にhemA遺伝子をさらに発現する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(i)、(ii)、および場合により(iii)をコードする遺伝子が、細胞のゲノムに組み込まれる1つまたはそれ以上の発現カセットに含まれる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
細胞であって、
(i)異種CYP21A2タンパク質または無改変の異種CYP21A2タンパク質のステロイドを21-ヒドロキシル化する能力の少なくとも20%を有するその機能的バリアント、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系であって、
- フラボドキシンレダクターゼ(Fpr)とアドレノドキシンとの組合せ、
- Fprと電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etpfd)との組合せ、
- アドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh)とアドレノドキシンとの組合せ、および
- Arhとetpfdとの組合せ、
からなる群から選択される異種電子伝達系、ならびに
(iii)CYP21A2の折りたたみを促進する1種またはそれ以上のシャペロン
を発現する前記細胞。
【請求項14】
多シストロン性発現ベクターであって、
(i)CYP21A2タンパク質または無改変のCYP21A2タンパク質のステロイドを21-ヒドロキシル化する能力の少なくとも20%を有するその機能的バリアントをコードする核酸、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系であって、
- フラボドキシンレダクターゼ(Fpr)とアドレノドキシンとの組合せ、
- Fprと電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etpfd)との組合せ、
- アドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh)とアドレノドキシンとの組合せ、および
- Arhとetpfdとの組合せ、
からなる群から選択される異種電子伝達系、をコードする1種またはそれ以上の核酸
を含む、前記多シストロン性発現ベクター。
【請求項15】
CYP21A2の折りたたみを促進するシャペロンをコードする1種またはそれ以上の核酸を含む、請求項14に記載の多シストロン性発現ベクター。
【請求項16】
キットであって、
- 請求項13に記載の細胞、
- 請求項14もしくは15に記載の多シストロン性発現ベクター、または
- (i)CYP21A2タンパク質もしくは無改変のCYP21A2タンパク質のステロイドを21-ヒドロキシル化する能力の少なくとも20%を有するその機能的バリアントをコードする核酸を含む発現ベクター、
(ii)電子をCYP21A2に伝達することができる少なくとも1つの異種電子伝達系であって、
- フラボドキシンレダクターゼ(Fpr)とアドレノドキシンとの組合せ、
- Fprと電子伝達ドメインのフェレドキシンドメイン(etpfd)との組合せ、
- アドレノドキシンレダクターゼ相同体(Arh)とアドレノドキシンとの組合せ、および
- Arhとetpfdとの組合せ、
からなる群から選択される異種電子伝達系、をコードする1種もしくはそれ以上の核酸を含む1つもしくはそれ以上の発現ベクター、
を含む前記キット。
【請求項17】
CYP21A2の折りたたみを促進するシャペロンをコードする1種またはそれ以上の核酸を含む、請求項16に記載のキット。
【外国語明細書】