(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114116
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】酵母培養培地および酵母の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
C12N1/16 D
C12N1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019599
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼城 博也
(72)【発明者】
【氏名】三根 健太郎
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA72X
4B065AC14
4B065BB02
4B065BB27
4B065CA13
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】入手しやすく、価格も安く、酵母エキスで培養した場合と同等もしくはそれ以上の増殖能や産生能が担保された代替品を用いることで、酵母の大量培養を可能とし、ひいては工業化への道筋をつけることを目的とする。
【解決手段】酵母培養培地であって、酵母エキスの代わりにおから又はおから抽出液を用いることを特徴とする、酵母培養培地を提供する。また、酵母の培養方法であって、酵母エキスの代わりにおからの入った培地で前培養する工程と、前記前培養した酵母を、酵母エキスの代わりにおからの入った培地で本培養する工程と、本培養培地からおからを除去する工程と、からなる酵母の培養方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母培養培地であって、酵母エキスの代わりにおから又はおから抽出液を用いることを特徴とする、酵母培養培地。
【請求項2】
おから抽出液が、おから乾燥重量に対して15-40倍の重量の水を添加後に酵素処理したものであることを特徴とする、請求項1記載の酵母培養培地。
【請求項3】
さらに硫酸アンモニウムを添加することを特徴とする、請求項1又は2に記載の酵母培養培地。
【請求項4】
酵母の培養方法であって、
酵母エキスの代わりにおからの入った培地で前培養する工程と、
前記前培養した酵母を、酵母エキスの代わりにおからの入った培地で本培養する工程と、
本培養培地からおからを除去する工程と、
からなる酵母の培養方法。
【請求項5】
酵母の培養方法であって、
酵母エキスの代わりにおから抽出液の入った培地で前培養する工程と、
前記前培養した酵母を、酵母エキスの代わりにおから抽出液の入った培地で本培養する工程と、
からなる酵母の培養方法。
【請求項6】
培地にさらに硫酸アンモニウムを添加することを特徴とする、請求項4又は5に記載の酵母の培養方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母の培養に関するものである。詳しくは、酵母培養培地および酵母の培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2015年9月の国連サミットにおいて、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標としてSDGsが設定された。SDGsは17のゴール・169のターゲットから構成されており、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組む普遍的なものとして現在多くの企業が取り組んでいる。食品業界におけるSDGsへの取り組みの一例として、パーム油に対する取り組みが挙げられる。
【0003】
パーム油は、アブラヤシの果実から得られる常温で固体の植物油であり、世界で最も生産されている植物油である。パーム油の用途としては、食用油以外に、マーガリン、ショートニング又は石鹸の原料が知られている。また、パーム油は、即席フライ麺又はポテトチップスのようなスナック菓子の揚げ油としても利用されている。
【0004】
アブラヤシは、1年を通して実をつけるので単位面積当たりの収穫量が他の植物油原料よりはるかに高く、大豆油又は菜種油と比べて8~10倍もの生産が可能である。そのため、パーム油は他の植物油脂よりも安価である。また、安定供給が可能なため、多くの国々がパーム油を輸入している。しかし、アブラヤシが育つのは赤道直下の高温多湿の熱帯地方のみであり、生育条件が熱帯雨林の分布と重なっている。そのため、アブラヤシプランテーションを開発するためには、熱帯雨林を伐採する他なく、毎年多くの熱帯雨林が伐採によって消失している。また、プランテーション開発時には大規模な森林火災も発生している。このような熱帯雨林の消失によって、そこに住む希少な野生動物が絶滅の危機に瀕している。さらに、急速なパーム油需要の拡大に伴い、労働者が劣悪な労働環境におかれたり、土地開発において地域住民と開発業者との衝突を生じたりするなどの問題も生じている。
【0005】
そこで、アブラヤシに代わってLipomyces属酵母に注目が集まっている。Lipomyces属酵母は油脂産生酵母であり、パーム油の脂肪酸組成に近似した油脂を産生することが知られている。また、Lipomyces属酵母は通常の酵母と同じく培養が比較的簡単であり、アブラヤシと比べても単位面積当たりの油脂回収量が高いことが魅力である。
【0006】
一方で、酵母を培養するためには酵母エキスが必須であるが、酵母エキスは他の培地素材と比べて高価である。そのため、酵母を大量培養するにはコストの増加が避けられず、工業化への課題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kyle, V. Probst, et al., Evaluation of Green Solvents; Oil Extraction from Oleaginous Yeast Lipomyces starkeyi Using Cyclopentyl Methyl Ether (CPME). Biotechnology Progress. 2017; 33:1096-1103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものである。具体的には、入手しやすく、価格も安く、酵母エキスで培養した場合と同等もしくはそれ以上の増殖能や産生能が担保された代替品を用いることで、酵母の大量培養を可能とし、ひいては工業化への道筋をつけることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題に対して酵母エキスの代替となる物質について鋭意検討を重ねた。そして、豆腐や油揚げ等の製造時に大量に発生・廃棄されているおからを酵母エキスの代わりに用いることで、食品ロスを減らしつつ、酵母を培養することができることを見出した。また、おからを用いて油脂産生酵母を培養した場合には、油脂産生酵母が産生した油脂をその他の生産に活用することでき、循環型の持続可能な開発が達成できることを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、酵母培養培地であって、酵母エキスの代わりにおから又はおから抽出液を用いることを特徴とする。
【0011】
上記構成において、おから抽出液は、おから乾燥重量に対して15-40倍の重量の水を添加後に酵素処理したものであることが好ましい。また、硫酸アンモニウムをさらに添加することが好ましい。
【0012】
また、上記課題解決のため、本発明は酵母エキスの代わりにおからの入った培地で前培養する工程と、前記前培養した酵母を、酵母エキスの代わりにおからの入った培地で本培養する工程と、本培養培地からおからを除去する工程と、からなる培養方法あることを特徴とする。
【0013】
さらに、上記構成において、酵母エキスの代わりにおから抽出液の入った培地で前培養する工程と、前記前培養した酵母を、酵母エキスの代わりにおから抽出液の入った培地で本培養する工程と、からなる培養方法であることを特徴とする。
【0014】
上記構成において、培地にさらに硫酸アンモニウムを添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、排出されるうちの多くが産業廃棄物として廃棄されてしまうおからを利用するため、入手しやすく、価格も安く抑えることができる。また、酵母エキスを用いた場合と同等もしくはそれ以上の増殖能や産生能を担保することができるため、工業化への道筋をつけることができる。さらに、油脂産生酵母の培養に用いた場合には、油脂産生酵母が産生した油脂をパーム油の代替としてその他の製品に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明に係る培地と酵母エキスを用いた培地とにおける、培養後の菌数(cells/mL)及び培地当たりのTAG濃度(mg/mL)を比較した図である。
【
図2】
図2は添加量を変えて直接おからを添加した培地と酵母エキスを用いた培地とにおける、培養後の菌数(cells/mL)及び培地当たりのTAG濃度(mg/mL)を比較した図である。
【
図3】
図3は培地に硫酸アンモニウムと直接おからを添加した場合の組み合わせであり、培養後の菌数(cells/mL)及び培地当たりのTAG濃度(mg/mL)を比較した図である。
【
図4】
図4は添加量を変えて抽出おから液を添加した培地と酵母エキスを用いた培地とにおける、培養後の菌数(cells/mL)及び培地当たりのTAG濃度(mg/mL)を比較した図である。
【
図5】
図5は培地に硫酸アンモニウムとおから抽出液を添加した場合の組み合わせであり、培養後の菌数(cells/mL)及び培地当たりのTAG濃度(mg/mL)を比較した図である。
【
図6】
図6は硫酸アンモニウムのみを添加した培地と酵母エキスを用いた培地とにおける、培養後の菌数(cells/mL)及び培地当たりのTAG濃度(mg/mL)を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
<酵母>
本発明でいう酵母とは、真核単細胞であり、運動性はなく、細胞壁を持っている微生物をいい、より詳しくは、子嚢菌門または担子菌門に属している酵母をいう。本発明においては、培養する際に酵母エキス入りの培地で増殖する酵母であれば特に限定されないが、循環型の持続可能な開発を目的とした場合には油脂産生能力を有するリポミセス属の種(Lipomyces sp.)であることが好ましい。
【0019】
<おから>
本発明でいうおからとは、大豆から豆乳を搾った際に残る『かす』をいい、水分含量は特に限定されない。
【0020】
<おから抽出液>
本発明でいうおから抽出液とは、おからの含水量からおから乾燥重量を算出し、算出したおから乾燥重量に対して15-40倍重量の水を添加後に酵素処理したものをいう。ここで、本発明に用いる酵素としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼなどタンパク質をアミノ酸及びペプタイドに分解する酵素が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良い。
【0021】
酵素処理としては、200~10,000Unit/mLの濃度で添加し、45~55℃で2~24時間処理すればよい。また、酵素処理後、90℃で30分程度失活処理を行えばよい。これらはあくまで一例であり、適宜変更可能である。失活処理後、おからの不溶性固形分を5Aろ紙を用いて吸引ろ過し、ろ液を抽出液とした。なお、酵素の由来は特に制限されない。
【実施例0022】
次に、油脂産生酵母としてLipomyces sp.を用いた場合を例に本発明を更に詳細に説明する。
【0023】
1.おから及びおから抽出液の調整
本実施形態に用いるおからは、市販のおからを用いた。購入おからの水分含量は78%であった。購入したおから15gに対して、乾燥重量(換算値)の18倍重量の水60mLを添加した。おからと添加した水の総重量に対して1%相当量のプロテアーゼ(三菱ケミカル社製:商品名『精製パパイン』)を添加し、55℃で2時間酵素処理を行った。酵素処理後、90℃で30分失活処理を行った。失活処理を行った後、5Aろ紙を用いて吸引ろ過を行い、60mLの抽出液を得た。
【0024】
「参考例」
酵母エキスBSP-570(オリエンタル酵母工業社製) 5 重量%, D+-グルコース(富士フイルム和光純薬社製) 10 重量%の培地50mLを加えたものを参考例とした。
【0025】
「実験例1」
培養液中の窒素濃度が同等となるように、酵母エキスに代えておからを5.7重量%直接添加したこと以外は、参考例と同じである。
【0026】
「実験例2」
硫酸アンモニウムをさらに0.9重量%(酵母エキス5重量%に含まれる窒素量の40%に相当)添加した上で培養した以外は、実験例1と同じである。
【0027】
「実験例3」
培養液中の窒素濃度が同等となるように、酵母エキスに代えておから抽出液を28.4重量%直接添加したこと以外は、参考例と同じである。
【0028】
「実験例4」
硫酸アンモニウムをさらに0.9重量%(酵母エキス5重量%に含まれる窒素量の40%に相当)添加した上で培養した以外は、実験例3と同じである。
【0029】
<油脂産生能評価試験>
油脂産生能を評価するために、in vitro試験を行った。まず、各培地50mLが入った200 ml容バッフル付き三角フラスコにLipomyces sp.を植菌した。植菌後、30℃、120 rpmの条件下で168時間培養した。培養後、培養液中の菌数を、粒子計数分析装置CDA-1000B(シスメックス社製)を用いて測定した。
【0030】
次に、培養液を回収した。ここで、実験例1と実験例2については、1分間静置した後、底に沈んだおからを回収しないように気を付けながら培養液を回収した。回収した培養液1mLを0.45μmフィルターにて吸引ろ過し、上清を除去した。フィルター上の菌体を1mL PBSに懸濁し0.3mLの菌体を回収した。そして、回収した菌体を真空凍結乾燥することにより、乾燥菌体を得た。次に、乾燥菌体に滅菌水0.5mLを添加し、ボルテックスで懸濁した。それから、0.5mmガラスビーズ1g添加、回転数2,500rpm、On time 900secの条件で、マルチビーズショッカー(安井器械社製)を用いて沈殿を破砕した。破砕物に滅菌水0.5mLを添加し、MicroMixer E-36(タイテック社製)で37℃、10分間振とうを行った。LabAssay Triglyceride(富士フイルムワコーシバヤギ社製)を使用してTAGを測定した。なお、本実施形態では、実験例1と実験例2は静置しておからと培養液を分離したが、200~1,000rpm、1分間程度の低速遠心分離をしても良い。
【0031】
参考例の菌数及びTAGをそれぞれ100とした場合の各実験例における菌数及びTAG濃度の相対値結果を
図1に示す。
【0032】
まず、菌数について見てみると、おからを直接添加した実験例1のみ菌数が半分に減っていることが分かる。これに対して、実験例2~4の菌数は参考例とほぼ同じであった。次に、TAG濃度について見てみると、実験例1のTAG濃度は参考例のTAG濃度に比べて約2.5倍に増加していることが分かる。また、実験例2では、TAG濃度は約1.5倍に増加していることが分かる。これに対して、おから抽出液を用いた実験例3,4のTAG濃度は参考例とほぼ同じであることが分かる。以上のことから、本発明は、酵母エキスと略同等の増殖能を備える代替品、または、酵母エキス以上の油脂を産生させ得る代替品であることが示唆された。
【0033】
続いて、各実験例について添加量を振ってより詳細に検討を行った。検討は上記実験例と同様にして行った。まず、直接おからを添加する場合について検討を行った。本実験例では、直接添加する量を、参考例における培養液中の窒素濃度の0.1倍量(実験例5)、0.2倍量(実験例6)、0.5倍量(実験例7)、1.0倍量(実験例1)、1.5倍量(実験例8)となるように、酵母エキスに代えておからを直接添加した。結果を
図2に示す。
【0034】
まず、菌数について見てみると、いずれの実験例においても菌数が減少していることが分かる。特に、参考例における培養液中の窒素濃度の0.2倍量(実験例6)、0.5倍量(実験例7)、1.0倍量(実験例1)、1.5倍量(実験例8)においては、菌数が半分程度に減っていることが分かる。一方で、0.2倍量以降は菌数にほとんど変動がないことが分かる。次に、TAG濃度について見てみると、実験例5のみ参考例よりも低いが、実験例6では参考例とほぼ同じであり、実験例1,7,8ではTAG濃度が増加していることが分かる。特に、実験例1,8は参考例のTAG濃度に比べて約2.5倍に増加していることが分かる。以上のことから、本発明は、参考例における培養液中の窒素濃度と同じかそれ以上の量を添加することで、参考例以上の油脂を産生させることができることが明らかとなった。
【0035】
次に、おからの直接添加と硫酸アンモニウムとの組み合わせについて検討を行った。本実験例では、硫酸アンモニウム添加量を0.9重量%(参考例に含まれる窒素量の40%に相当)に固定した状態で、直接添加するおからの量を変化させた。具体的には、参考例における培養液中の窒素濃度の0.5倍量(実験例9)、1.0倍量(実験例2)、1.5倍量(実験例10)となるように、酵母エキスに代えておからを直接添加した。結果を
図3に示す。
【0036】
まず、菌数について見てみると、硫酸アンモニウム0.9重量%と参考例における培養液中の窒素濃度の0.5倍量のおからを組み合わせた実験例9において、菌数が減っていることが分かる。しかし、おからの添加量を1.0倍以上にした実験例2,10では菌数は参考例とほぼ同じかそれ以上となった。この結果は、硫酸アンモニウムを添加していない実験例1,8とは異なるものであった。このことから、硫酸アンモニウムは、菌数増加に効果があることが示唆された。次に、TAG濃度について見てみると、実験例9は参考例とほぼ同じであったが、実験例2,10では参考例よりもTAG濃度が高いことが分かる。この結果は、硫酸アンモニウムを添加していない実験例1,8と比べても高いことが分かる。以上のことから、硫酸アンモニウムを組み合わせて用いることで、おから単独で添加するよりも菌数、油脂産生量を増加できることが明らかとなった。これは、培地におからを直接添加した場合、培養初期に菌体の増殖に使える窒素源が少ないが、硫酸アンモニウムを添加することで不足している窒素源を補うことができたためだと考えられる。
【0037】
次に、おから抽出液を添加する場合について検討を行った。本実験例では、直接添加する量を、参考例における培養液中の窒素濃度の1.0倍量(実験例3)、3.0倍量(実験例11)となるように、酵母エキスに代えておからを直接添加した。結果を
図4に示す。
【0038】
まず、菌数について見てみると、いずれの実験例においても菌数が減っているが、添加量に応じて菌数が増加していることが分かる。次に、TAG濃度について見てみると、いずれの実験例においてもTAG濃度が低いことが分かるが、こちらも添加量に応じてTAG濃度が増加していることが分かる。以上のことから、おから抽出液を多めに用いることで、参考例と同等の菌数及びTAG濃度にできることが明らかとなった。なお、おから抽出液は、おからを直接添加する場合よりも抽出液の作成に手間や時間はかかるが、元々おからは安価であり、また直接添加した場合と比べて培養後におからの分離が必要とならないため有用である。
【0039】
次に、おから抽出液と硫酸アンモニウムとの組み合わせについて検討を行った。本実験例では、硫酸アンモニウム添加量を0.9重量%(参考例に含まれる窒素量の40%に相当)に固定した状態で、添加するおから抽出液量を変化させた。具体的には、参考例における培養液中の窒素濃度の1.0倍量(実験例4)、1.5倍量(実験例12)となるように、酵母エキスに代えておから抽出液を添加した。結果を
図5に示す。
【0040】
まず、菌数について見てみると、おから抽出液の添加量に従って菌数が減少しているが、実験例4と実験例12との菌数の差は僅かであることが分かる。一方、おから抽出液のみの場合と比較して、抽出液の添加量が実験例11の半分量であっても、実験例12は菌数が増えていることが分かる。このことから、硫酸アンモニウムは、菌数増加に効果があることが示唆された。次に、TAG濃度について見てみると、参考例よりもTAG濃度が高いことが分かる。この結果は、硫酸アンモニウムを添加していない実験例11と比べても高いことが分かる。以上のことから、おから抽出液においても、硫酸アンモニウムを組み合わせて用いることで、おから抽出液単独で添加するよりも菌数、油脂産生量を増加できることが明らかとなった。
【0041】
最後に、硫酸アンモニウムのみを用いた場合について検討を行った。本実験例では、添加する量を、参考例における培養液中の窒素濃度の0.4倍量(実験例13)、1.0倍量(実験例14)となるように、酵母エキスに代えて硫酸アンモニウムを直接添加した。結果を
図6に示す。
【0042】
図6から明らかなように、酵母エキスに代えて硫酸アンモニウムのみの添加では、菌数及びTAG濃度が著しく減少していることが分かる。したがって、硫酸アンモニウムのみでは酵母エキスの代替にならないことが明らかとなった。
【0043】
以上説明したように、本発明は酵母エキスに代えておから又はおから抽出液を用いることで、酵母エキスを用いた場合と同等もしくはそれ以上の増殖能や産生能を担保した培地として使用することができる。また、さらに硫酸アンモニウムを加えることで、増殖能や産生能を向上させることができる。さらに、廃棄されてしまうおからを有効利用することができるため、産業上の利用性に秀でたものである。