(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114189
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】絶縁構造体、静電レンズおよび荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/12 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
H01J37/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019784
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】當間 康
(72)【発明者】
【氏名】狩俣 努
(72)【発明者】
【氏名】青田 佐多司
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 新雪
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101AA04
5C101AA22
5C101AA23
5C101AA27
5C101AA32
5C101BB02
5C101EE03
5C101EE13
5C101EE14
5C101EE15
5C101EE17
5C101EE38
5C101EE65
5C101EE66
5C101EE69
5C101GG34
5C101GG37
(57)【要約】
【課題】絶縁構造体における放電を抑制する。
【解決手段】荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体であって、陽極と、前記陽極と対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される絶縁体と、を備え、前記絶縁体は、絶縁体平坦面と、前記絶縁体平坦面から突出した絶縁体凸部と、を有し、前記陰極は、陰極平坦面と、前記陰極平坦面から窪んでおり前記絶縁体凸部が嵌まる陰極凹部と、を有し、前記絶縁体平坦面と前記陰極平坦面は接しておらず、前記絶縁体凸部の外面と、前記陰極凹部の内面は接していない、絶縁構造体が提供される。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体であって、
陽極と、前記陽極と対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される絶縁体と、を備え、
前記陽極は、前記絶縁体と接する陽極平坦面を有し、
前記陰極は、
前記陽極平坦面とほぼ平行であり、前記陽極平坦面からの距離が第1距離である第1陰極平坦面と、
前記陽極平坦面とほぼ平行であり、前記陽極平坦面からの距離が前記第1距離より小さい第2距離である第2陰極平坦面と、
前記第1陰極平坦面と前記第2陰極平坦面とを接続する陰極接続面と、を有し、
前記絶縁体は、
前記陽極平坦面と接する第1絶縁体平坦面と、
前記陽極平坦面と前記第1陰極平坦面の間において、前記第1陰極平坦面に接する第2絶縁体平坦面と、
前記陽極平坦面と前記第2陰極平坦面の間において、前記陽極平坦面からの距離が前記第2距離より小さく、前記第2陰極平坦面には接しない第3絶縁体平坦面と、
前記第2絶縁体平坦面と前記第3絶縁体平坦面とを接続するが、前記陰極とは接しない第1絶縁体接続面と、
前記陽極の外周端部および前記陰極の外周端部より内側に位置し、前記第1絶縁体平坦面と前記第3絶縁体平坦面とを接続する第2絶縁体接続面と、を有する、絶縁構造体。
【請求項2】
前記第3絶縁体平坦面は、前記第1絶縁体接続面から前記第2絶縁体接続面まで平坦である、請求項1に記載の絶縁構造体。
【請求項3】
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体であって、
陽極と、前記陽極と対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される絶縁体と、を備え、
前記絶縁体は、
絶縁体平坦面と、
前記絶縁体平坦面から突出した絶縁体凸部と、を有し、
前記陰極は、
陰極平坦面と、
前記陰極平坦面から窪んでおり前記絶縁体凸部が嵌まる陰極凹部と、を有し、
前記絶縁体平坦面と前記陰極平坦面は接しておらず、
前記絶縁体凸部の外面と、前記陰極凹部の内面は接していない、絶縁構造体。
【請求項4】
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体であって、
陽極と、前記陽極と対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される絶縁体と、を備え、
前記陽極は、前記絶縁体と接する陽極平坦面を有し、
前記陰極は、
前記陽極平坦面とほぼ平行であり、前記陽極平坦面からの距離が第1距離である第1陰極平坦面と、
前記陽極平坦面とほぼ平行であり、前記陽極平坦面からの距離が前記第1距離より小さい第2距離である第2陰極平坦面と、
前記陽極平坦面とほぼ平行であり、前記陽極平坦面からの距離が前記第1距離より小さく、前記第2距離より大きい第3距離である第3陰極平坦面と、
前記第1陰極平坦面と前記第2陰極平坦面とを接続する第1陰極接続面と、
前記第2陰極平坦面と前記第3陰極平坦面とを接続する第2陰極接続面と、を有し、
前記絶縁体は、
前記陽極平坦面と接する第1絶縁体平坦面と、
前記陽極平坦面と前記第1陰極平坦面の間において、前記第1陰極平坦面に接する第2絶縁体平坦面と、
前記陽極平坦面と前記第2陰極平坦面の間において、前記陽極平坦面からの距離が前記第前記第2距離より小さく、前記第2陰極平坦面には接しない第3絶縁体平坦面と、
前記陽極平坦面と前記第3陰極平坦面の間において、前記陽極平坦面からの距離が前記第前記第3距離より小さく、前記第3陰極平坦面には接しない第4絶縁体平坦面と、
前記第2絶縁体平坦面と前記第3絶縁体平坦面とを接続するが、前記陰極とは接しない第1絶縁体接続面と、
前記第3絶縁体平坦面と前記第4絶縁体平坦面とを接続するが、前記陰極とは接しない第2絶縁体接続面と、
前記陽極の外周端部および前記陰極の外周端部より内側に位置し、前記第1絶縁体平坦面と前記第4絶縁体平坦面とを接続する第3絶縁体接続面と、を有する、絶縁構造体。
【請求項5】
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体であって、
陽極と、前記陽極と対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される絶縁体と、を備え、
前記陰極は、
陰極凹部と、
前記陰極凹部の外側に設けられた陰極凸部と、を有し、
前記絶縁体は、
絶縁体凸部と、
前記絶縁体凸部の外側に設けられた絶縁体凹部と、
前記絶縁体凹部の外側に設けられた絶縁体突出部と、を有し、
前記絶縁体凸部は、前記陰極凹部に向かって突出し、前記絶縁体凸部の頂面が前記陰極凹部の底面に接しており、
前記陰極凸部は、前記絶縁体凹部に向かって突出しているが、前記絶縁体には接しておらず、
前記絶縁体凸部は、前記陰極に向かって突出しているが、前記陰極には接していない、絶縁構造体。
【請求項6】
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体であって、
陽極と、前記陽極と対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される絶縁体と、を備え、
前記陽極は、前記絶縁体と接する陽極平坦面を有し、
前記陰極は、
前記陽極平坦面とほぼ平行であり、前記陽極平坦面からの距離が第1距離である第1陰極平坦面と、
前記陽極平坦面とほぼ平行であり、前記陽極平坦面からの距離が前記第1距離より大きい第2距離である第2陰極平坦面と、
前記第1陰極平坦面と前記第2陰極平坦面とを接続する陰極接続面と、を有し、
前記絶縁体は、
前記陽極平坦面と接する第1絶縁体平坦面と、
前記陽極平坦面と前記第1陰極平坦面の間において、前記第1陰極平坦面に接する第2絶縁体平坦面と、
前記陽極平坦面と前記第2陰極平坦面の間において、前記陽極平坦面からの距離が前記第1距離より大きく前記第2距離より小さく、前記第2陰極平坦面には接しない第3絶縁体平坦面と、
前記第2絶縁体平坦面と前記第3絶縁体平坦面とを接続するが、前記陰極とは接しない第1絶縁体接続面と、
前記陽極の外周端部および前記陰極の外周端部より内側に位置し、前記第1絶縁体平坦面と前記第3絶縁体平坦面とを接続する第2絶縁体接続面と、を有する、絶縁構造体。
【請求項7】
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体であって、
陽極と、前記陽極と対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される絶縁体と、を備え、
前記陰極は、
陰極平坦面と、
前記陰極平坦面から突出した陰極凸部と、を有し、
前記絶縁体は、
絶縁体平坦面と、
前記絶縁体平坦面から窪んでおり前記陰極凸部が嵌まる絶縁凹部と、を有し、
前記陰極平坦面と前記絶縁体平坦面は接しておらず、
前記陰極凸部の外面と、前記絶縁凹部の内面は接していない、絶縁構造体。
【請求項8】
前記絶縁体は、PEEK製である、請求項1乃至7のいずれかに記載の絶縁構造体。
【請求項9】
前記絶縁体における前記陽極と接する面の少なくとも一部は、メタライズされている、請求項1乃至7のいずれかに記載の絶縁構造体。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載の絶縁構造体を含む静電レンズ。
【請求項11】
請求項10に記載の静電レンズを備える荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁構造体、静電レンズおよび荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置は、真空中で荷電粒子の軌道を制御するために、高電圧が印加される静電レンズを備えている。静電レンズは、陽極と陰極との間に絶縁体を配置した絶縁構造体を有している。陽極と陰極との間に高電圧を印加した際に放電が発生すると、所望の性能が得られないことがある。
【0003】
放電の発生に起因して問題が発生し得ることは、荷電粒子線装置における静電レンズに限らず、絶縁構造体全般にも当てはまることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、絶縁構造体における放電を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の一態様によれば、
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体(300)であって、
陽極(310)と、前記陽極(310)と対向する陰極(320)と、前記陽極(310)と前記陰極(320)との間に配置される絶縁体(330)と、を備え、
前記陽極(310)は、前記絶縁体(330)と接する陽極平坦面(311)を有し、
前記陰極(320)は、
前記陽極平坦面(311)とほぼ平行であり、前記陽極平坦面(311)からの距離が第1距離である第1陰極平坦面(322)と、
前記陽極平坦面(311)とほぼ平行であり、前記陽極平坦面(311)からの距離が前記第1距離より小さい第2距離である第2陰極平坦面(321)と、
前記第1陰極平坦面(322)と前記第2陰極平坦面(321)とを接続する陰極接続面(323)と、を有し、
前記絶縁体(330)は、
前記陽極平坦面(311)と接する第1絶縁体平坦面(331)と、
前記陽極平坦面(311)と前記第1陰極平坦面(322)の間において、前記第1陰極平坦面(322)に接する第2絶縁体平坦面(332)と、
前記陽極平坦面(311)と前記第2陰極平坦面(321)の間において、前記陽極平坦面(311)からの距離が前記第2距離より小さく、前記第2陰極平坦面(321)には接しない第3絶縁体平坦面(333)と、
前記第2絶縁体平坦面(332)と前記第3絶縁体平坦面(333)とを接続するが、前記陰極(320)とは接しない第1絶縁体接続面(334)と、
前記陽極(310)の外周端部および前記陰極(320)の外周端部より内側に位置し、前記第1絶縁体平坦面(331)と前記第3絶縁体平坦面(333)とを接続する第2絶縁体接続面(335)と、を有する、絶縁構造体(300)が提供される。
【0007】
[2]
[1]に記載の絶縁構造体(300)において、
前記第3絶縁体平坦面(333)は、前記第1絶縁体接続面(334)から前記第2絶縁体接続面(335)まで平坦であってもよい。
【0008】
[3]本発明の一態様によれば、
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体(300)であって、
陽極(310)と、前記陽極(310)と対向する陰極(320)と、前記陽極(310)と前記陰極(320)との間に配置される絶縁体(330)と、を備え、
前記絶縁体(330)は、
絶縁体平坦面(333)と、
前記絶縁体平坦面(333)から突出した絶縁体凸部(330A)と、を有し、
前記陰極(320)は、
陰極平坦面(321)と、
前記陰極平坦面(321)から窪んでおり前記絶縁体凸部(330A)が嵌まる陰極凹部(320A)と、を有し、
前記絶縁体平坦面(333)と前記陰極平坦面(321)は接しておらず、
前記絶縁体凸部(330A)の外面と、前記陰極凹部(330A)の内面は接していない、絶縁構造体(300)が提供される。
【0009】
[4]本発明の一態様によれば、
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体(400)であって、
陽極(410)と、前記陽極(410)と対向する陰極(420)と、前記陽極(410)と前記陰極(420)との間に配置される絶縁体(430)と、を備え、
前記陽極(410)は、前記絶縁体(430)と接する陽極平坦面(411)を有し、
前記陰極(420)は、
前記陽極平坦面(411)とほぼ平行であり、前記陽極平坦面(411)からの距離が第1距離である第1陰極平坦面(423)と、
前記陽極平坦面(411)とほぼ平行であり、前記陽極平坦面(411)からの距離が前記第1距離より小さい第2距離である第2陰極平坦面(422)と、
前記陽極平坦面(411)とほぼ平行であり、前記陽極平坦面(411)からの距離が前記第1距離より小さく、前記第2距離より大きい第3距離である第3陰極平坦面(421)と、
前記第1陰極平坦面(423)と前記第2陰極平坦面(422)とを接続する第1陰極接続面(425)と、
前記第2陰極平坦面(422)と前記第3陰極平坦面(421)とを接続する第2陰極接続面(424)と、を有し、
前記絶縁体(430)は、
前記陽極平坦面(411)と接する第1絶縁体平坦面(431)と、
前記陽極平坦面(411)と前記第1陰極平坦面(423)の間において、前記第1陰極平坦面(423)に接する第2絶縁体平坦面(432)と、
前記陽極平坦面(411)と前記第2陰極平坦面(422)の間において、前記陽極平坦面(411)からの距離が前記第前記第2距離より小さく、前記第2陰極平坦面(422)には接しない第3絶縁体平坦面(433)と、
前記陽極平坦面(411)と前記第3陰極平坦面(421)の間において、前記陽極平坦面(411)からの距離が前記第前記第3距離より小さく、前記第3陰極平坦面(421)には接しない第4絶縁体平坦面(434)と、
前記第2絶縁体平坦面(432)と前記第3絶縁体平坦面(433)とを接続するが、前記陰極(420)とは接しない第1絶縁体接続面(435)と、
前記第3絶縁体平坦面(433)と前記第4絶縁体平坦面(434)とを接続するが、前記陰極(420)とは接しない第2絶縁体接続面(436)と、
前記陽極(410)の外周端部および前記陰極(420)の外周端部より内側に位置し、前記第1絶縁体平坦面(431)と前記第4絶縁体平坦面(434)とを接続する第3絶縁体接続面(437)と、を有する、絶縁構造体(400)が提供される。
【0010】
[5]本発明の一態様によれば、
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体(400)であって、
陽極(410)と、前記陽極(410)と対向する陰極(420)と、前記陽極(410)と前記陰極(420)との間に配置される絶縁体(430)と、を備え、
前記陰極(420)は、
陰極凹部(420A)と、
前記陰極凹部(420A)の外側に設けられた陰極凸部(420B)と、を有し、
前記絶縁体(430)は、
絶縁体凸部(430A)と、
前記絶縁体凸部(430A)の外側に設けられた絶縁体凹部(430B)と、
前記絶縁体凹部(430B)の外側に設けられた絶縁体突出部(430C)と、を有し、
前記絶縁体凸部(430A)は、前記陰極凹部(420A)に向かって突出し、前記絶縁体凸部(430A)の頂面が前記陰極凹部(420)の底面に接しており、
前記陰極凸部(420B)は、前記絶縁体凹部(430B)に向かって突出しているが、前記絶縁体(430)には接しておらず、
前記絶縁体凸部(430C)は、前記陰極(420)に向かって突出しているが、前記陰極(420)には接していない、絶縁構造体(400)が提供される。
【0011】
[6]本発明の一態様によれば、
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体(200)であって、
陽極(210)と、前記陽極(210)と対向する陰極(220)と、前記陽極(210)と前記陰極(220)との間に配置される絶縁体(230)と、を備え、
前記陽極(210)は、前記絶縁体(230)と接する陽極平坦面(211)を有し、
前記陰極(220)は、
前記陽極平坦面(211)とほぼ平行であり、前記陽極平坦面(211)からの距離が第1距離である第1陰極平坦面(222)と、
前記陽極平坦面(211)とほぼ平行であり、前記陽極平坦面(211)からの距離が前記第1距離より大きい第2距離である第2陰極平坦面(221)と、
前記第1陰極平坦面(222)と前記第2陰極平坦面(221)とを接続する陰極接続面(223)と、を有し、
前記絶縁体(230)は、
前記陽極平坦面(211)と接する第1絶縁体平坦面(231)と、
前記陽極平坦面(211)と前記第1陰極平坦面(222)の間において、前記第1陰極平坦面(222)に接する第2絶縁体平坦面(232)と、
前記陽極平坦面(211)と前記第2陰極平坦面(221)の間において、前記陽極平坦面(211)からの距離が前記第1距離より大きく前記第2距離より小さく、前記第2陰極平坦面(221)には接しない第3絶縁体平坦面(233)と、
前記第2絶縁体平坦面(232)と前記第3絶縁体平坦面(233)とを接続するが、前記陰極とは接しない第1絶縁体接続面(234)と、
前記陽極(210)の外周端部および前記陰極(220)の外周端部より内側に位置し、前記第1絶縁体平坦面(231)と前記第3絶縁体平坦面(233)とを接続する第2絶縁体接続面(235)と、を有する、絶縁構造体(200)が提供される。
【0012】
[7]本発明の一態様によれば、
荷電粒子線装置用の真空中で用いられる絶縁構造体(200)であって、
陽極(210)と、前記陽極(210)と対向する陰極(220)と、前記陽極(210)と前記陰極(220)との間に配置される絶縁体(230)と、を備え、
前記陰極(220)は、
陰極平坦面(221)と、
前記陰極平坦面(221)から突出した陰極凸部(220A)と、を有し、
前記絶縁体(230)は、
絶縁体平坦面(233)と、
前記絶縁体平坦面(233)から窪んでおり前記陰極凸部(220A)が嵌まる絶縁体凹部(230A)と、を有し、
前記陰極平坦面(221)と前記絶縁体平坦面(233)は接しておらず、
前記陰極凸部(220A)の外面と、前記絶縁体凹部(230A)の内面は接していない、絶縁構造体(200)が提供される。
【0013】
[8]
[1]乃至[7]のいずれかに記載の絶縁体構造において、
前記絶縁体は、PEEK製であってもよい。
【0014】
[9]
[1]乃至[8]のいずれかに記載の絶縁体構造において、
前記絶縁体における前記陽極と接する面の少なくとも一部は、メタライズされていてもよい。
【0015】
[10]本発明の一態様によれば、
[1]乃至[9]のいずれかに記載の絶縁構造体を含む静電レンズが提供される。
【0016】
[11]本発明の一態様によれば、
[10]に記載の静電レンズを備える荷電粒子線装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
絶縁構造体における放電を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】荷電粒子線装置の一例である走査電子顕微鏡の模式図。
【
図2】陽極、陰極および絶縁体から構成される絶縁構造体において、沿面放電が起こるメカニズムを説明する図。
【
図7】第1絶縁構造体100~第4絶縁構造体400の初回放電電圧を示すグラフ。
【
図8】第1絶縁構造体100~第4絶縁構造体400のCTJ電界強度を示すグラフ。
【
図9】第1絶縁構造体100~第4絶縁構造体400の35kV定常電流を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0020】
図1Aは、荷電粒子線装置の一例である走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)の模式図である。この走査電子顕微鏡は、1次光学系1(照射系)と、2次光学系2(結像系)とを備えており、これらは図示しない真空コラム内に配置される。
【0021】
1次光学系1はステージ16に載置された試料の複数箇所に複数の1次電子から構成される1次電子ビーム(荷電粒子)を集束して照射するものであり、電子源11、マルチビーム発生機構12、転送レンズ13、ビーム分離器14、対物レンズ15、ステージ16、スキャン偏向器17などから構成される。
【0022】
電子源11から放出された電子ビームは、適宜、加速器(不図示)によって加速されるとともにレンズ(不図示)によって拡げられ、マルチビーム発生機構12に入射する。マルチビーム発生機構12は複数の開口を有しており、これらの開口を電子源11からの電子ビームが通過することで、複数の1次電子から構成される1次電子ビームが生成される。生成された1次電子ビームは転送レンズ13、ビーム分離器14および対物レンズ15によって個々に集束され、ステージ16に載置された試料の複数の箇所に等間隔に離散して照射される。
【0023】
また、1次電子ビームはスキャン偏向器17によって2次元的に試料上を走査するよう偏向される。これにより、離散的に照射される1次電子ビームが試料上に万遍なく照射される。
【0024】
2次光学系2は、1次電子ビームが照射された試料から放射される複数の2次電子から構成される2次電子ビームを検出器28で検出するものであり、対物レンズ15、ビーム分離器14、ビームベンダ21、投影レンズ27、開口絞り26、検出器28などから構成される。なお、対物レンズ15およびビーム分離器14は1次光学系1と共用される。
【0025】
試料からの2次電子ビームは対物レンズ15によって集束される。そして、電界と磁界の重畳界を形成するビーム分離器14により、2次電子ビームは1次光学系1とは異なる方向に曲げられる。2次電子ビームはビームベンダ21によってさらに曲げられる。
【0026】
2次電子ビームは投影レンズ27によって光軸付近に近づけられる。開口絞り26は、複数の2次電子が光軸中心で最も互いに近接する位置に配置される。
【0027】
開口絞り26は開口部を有しており、開口部を通過した2次電子ビームのみが投影レンズ27に到達する。これにより、2次電子ビームの開き角が規定される。
【0028】
検出器28は、
図1Bに示すように、例えばシンチレータ281、光増幅器282、イメージセンサ283(例えばCMOSイメージセンサ)、拡大レンズ284、ハーフミラー285を有する。
【0029】
試料上の複数箇所から放出された2次電子はシンチレータ281上で結像し、シンチレータ281に到達した2次電子ビームの多寡に応じた光がシンチレータ281から生じる。生じた光は発散光であるので、光路に配置された拡大レンズ284を用いて拡大投影される。拡大レンズ284を通過した光は、その一部がハーフミラー285を通過して光ファイバの束を介して光増幅器282に向かい、また、その一部がハーフミラー285によって反射されてイメージセンサ283に向かう。前者の光は光増幅器282によって電気信号に変換され、2次電子ビームの多寡に応じたビーム本数の走査画像(SEM像)が形成される。後者の光はイメージセンサ283上に結像し、2次電子ビームによる画像が得られる。
【0030】
このような走査電子顕微鏡等の荷電粒子線装置では、転送レンズ13、対物レンズ15、投影レンズ27、拡大レンズ284等として静電レンズが用いられる。静電レンズは、陽極と陰極との間に絶縁体を配置した絶縁構造体を有しているが、高電圧を印加した際に放電が発生すると、電子像や分析の分解能が低下することがある。
【0031】
また、絶縁体として、アルミナやガラスよりも安価であり、誘電率が低い有機材料(例えばPEEK(Poly Ether Ether Ketone)等のエンジニアリングプラスチック)を用いることもある。その場合、放電が発生すると、放電に起因して発生する電流によって有機材料の絶縁特性が劣化してしまうことがある。
【0032】
真空中の放電で特に問題となるのは、絶縁体の表面を電子が伝わる沿面放電である。
図2を用いて、陽極、陰極および絶縁体から構成される絶縁構造体において、沿面放電が起こるメカニズムを説明する。
【0033】
陰極、絶縁体および真空が重なる領域(カソードトリプルジャンクション(Cathode Triple Junction、以下「CTJ」という。)において電界が強められると、電界電子放出によって1次電子が放出される(開始段階)。放出された1次電子が絶縁体の表面で衝突することで2次電子が生成される。2次電子がさらに絶縁体の表面で衝突することで、2次電子は増倍する。このような2次電子が陰極から陽極に移動する。それにより、絶縁体の表面の吸着ガスの脱離が促進される(進展段階)。そして、絶縁体の表面から脱離した吸着ガス中で放電が発生することとなる(破壊段階)。
【0034】
このような沿面放電を抑制すべく、発明者らは以下の4つの絶縁構造体について、電界解析を行った。
【0035】
図3Aおよび
図3Bは、それぞれ第1絶縁構造体100の断面図と、その一点鎖線部内の拡大図である。第1絶縁構造体100は基準となる構造であり、陽極110と、陽極110と対向する陰極120と、陽極110と陰極120との間に配置されるPEEK製の絶縁体130とを備える。
【0036】
図3Bに示すように、陽極110は平坦面111を有する。平坦面111は円形であり、その直径は絶縁体130よりも十分に大きい。そのため、陽極110における絶縁体130と接する部分は平坦である。
【0037】
陰極120は平坦面121を有する。平坦面121は円形であり、その直径は絶縁体130よりも十分に大きい。そのため、陰極120における絶縁体130と接する部分は平坦である。陽極110と陰極120の距離は3mmである。
【0038】
絶縁体130は円柱状であり、陽極110の平坦面111と接する平坦面131と、陰極120の平坦面121と接する平坦面132と、平坦面131,132を接続する接続面133とを有する。なお、接続面133は、概ね鉛直方向に延びる円筒状であるが、陽極110および陰極120と接する近傍では内側に傾斜している。接続面133は絶縁体130の外縁を画定しており、絶縁体130は半径(絶縁体130の中心軸から接続面133までの長さ)7mmの円形である。
【0039】
なお、絶縁体130における陰極120と接触する面はメタライズされている。詳細には、PEEK製の絶縁体130の表面にニッケルメッキ130’が施されている。これにより、陰極120と絶縁体130との電気接触を確実にするとともに、CTJをニッケルメッキ130’の端面に固定することができる。ニッケルメッキ130’は、厚さ20nm程度であり、絶縁体130の外周端部(接続面133)から0.5mm程度内側まで施されている。
【0040】
絶縁体130の接続面133は真空部分と接している。そのため、星印で示す位置が陰極120、絶縁体130および真空が重なるCTJとなる。
【0041】
図4Aおよび
図4Bは、それぞれ第2絶縁構造体200の断面図と、その一点鎖線部内の拡大図である。第2絶縁構造体200は、陽極210と、陽極210と対向する陰極220と、陽極210と陰極220との間に配置されるPEEK製の絶縁体230とを備える。第1絶縁構造体100との主な違いとして、第2絶縁構造体200は、陰極220が直径11mmの円形の凸部220Aを有し、絶縁体230が直径12mmの円形の凹部230Aを有し、これらが嵌合している点である。なお、凸部220Aの外面と凹部230Aの内面は接していない。以下、詳細に説明する。
【0042】
図4Bに示すように、陽極210は平坦面211を有する。平坦面211は円形であり、その直径は絶縁体230よりも十分に大きい。そのため、陽極210における絶縁体230と接する部分は平坦である。
【0043】
陰極220は、陽極210の平坦面211とほぼ平行な平坦面221,222と、平坦面221,222を接続する接続面223とを有する。平坦面221は陰極220の外縁側にある環状であり、平坦面222はその内側にある円形である。陽極210の平坦面211と平坦面221,222との距離をそれぞれd21,d22とすると、d21=3mm、d22=2mmであり、d21>d21である。
【0044】
凸部220Aは平坦面221から陽極210に向かって突出したものであり、凸部220Aの頂面が平坦面222であるともいえる。
【0045】
絶縁体230は、平坦面231~233と、接続面234,235とを有する。平坦面231は陽極210の平坦面211と接する。平坦面232は、陽極210の平坦面211と陰極220の平坦面222の間において、平坦面222に接する。平坦面233は、陽極210の平坦面211と陰極210の平坦面221の間にあるが、平坦面221には接しない。すなわち、陽極210の平坦面211と絶縁体230の平坦面233との距離をd23とすると、d23=2.5mmであって、d22<d23<d21である。
【0046】
凹部230Aは平坦面233から窪んだものであり、凹部230Aの底面が平坦面232であるともいえる。また、凹部230Aの外側において、接続面234、平坦面233および接続面235によって構成され、陰極220に向かって突出する円環状の突出部230Bがあるともいえる。
【0047】
接続面234は平坦面232と平坦面233とを接続する。ただし、接続面234は陰極220とは接していない。これにより、凸部220Aの外面(すなわち接続面223)と凹部230Aの内面(すなわち接続面234)は接しない。接続面235は、陽極210の外周端部および陰極220の外周端部より内側に位置し、平坦面231と平坦面233とを接続する。なお、接続面235は、概ね鉛直方向に延びる円筒状であるが、陽極210および陰極220と接する近傍では傾斜している。接続面235は絶縁体230の外縁を画定しており、絶縁体230は半径(絶縁体230の中心軸から接続面235までの長さ)7mmの円形である。
【0048】
なお、絶縁体230における陰極220と接する面はメタライズされている。詳細には、絶縁体230の平坦面232のうち、外周端部から0.5mm程度内側まで、ニッケルメッキ230’が施されている。
【0049】
絶縁体230の接続面234が真空部分と接している。そのため、星印で示す位置が陰極220、絶縁体230および真空が重なるCTJとなる。そして、CTJ近傍で生じた電子は、接続面223,234の間を通り、突出部230Bを経由し、接続面235に沿って移動する。
【0050】
図5Aおよび
図5Bは、それぞれ第3絶縁構造体300の断面図と、その一点鎖線部内の拡大図である。第3絶縁構造体300は、陽極310と、陽極310と対向する陰極320と、陽極310と陰極320との間に配置されるPEEK製の絶縁体330とを備える。第1絶縁構造体100との主な違いとして、第3絶縁構造体300は、絶縁体330が直径10mmの円形の凸部330Aを有し、陰極320が直径12mmの円形の凹部320Aを有し、これらが嵌合している点である。なお、凸部330Aの外面と凹部320Aの内面は接していない。以下、詳細に説明する。
【0051】
図5Bに示すように、陽極310は平坦面311を有する。平坦面311は円形であり、その直径は絶縁体330よりも十分に大きい。そのため、陽極310における絶縁体330と接する部分は平坦である。
【0052】
陰極320は、陽極310の平坦面311とほぼ平行な平坦面321,322と、平坦面321,322を接続する接続面323とを有する。平坦面321は陰極320の外縁側にある環状であり、平坦面322はその内側にある円形である。陽極310の平坦面311と平坦面321,322との距離をそれぞれd31,d32とすると、d31=3mm、d32=4mmであり、d31<d32である。
【0053】
凹部320Aは平坦面321から窪んだものであり、凹部320Aの底面が平坦面322であるともいえる。また、凹部320Aの外側において、接続面323、平坦面321および陰極320の外周面によって構成され、陽310に向かって突出する円環状の突出部320Bがあるともいえる。
【0054】
絶縁体330は、平坦面331~333と、接続面334,335とを有する。平坦面331は陽極310の平坦面311と接する。平坦面332は、陽極310の平坦面311と陰極320の平坦面322の間において、平坦面322に接する。平坦面333は、陽極310の平坦面311と陰極320の平坦面321の間にあるが、平坦面321には接しない。すなわち、陽極310の平坦面311と絶縁体330の平坦面333との距離をd33とすると、d33=2.5mmであって、d33<d31<d32である。
【0055】
凸部330Aは平坦面333から陰極320に向かって突出したものであり、凸部330Aの頂面が平坦面332であるともいえる。
【0056】
接続面334は平坦面332と平坦面333とを接続する。ただし、接続面334は陰極320とは接していない。これにより、凸部330Aの外面(すなわち接続面334)と凹部320Aの内面(すなわち接続面323)は接しない。接続面335は、陽極310の外周端部および陰極320の外周端部より内側に位置し、平坦面331と平坦面333とを接続する。なお、接続面335は、概ね鉛直方向に延びる円筒状であるが、陽極310および陰極320と接する近傍では傾斜している。接続面335は絶縁体330の外縁を画定しており、絶縁体330は半径(絶縁体330の中心軸から接続面335までの長さ)7mmの円形である。また、平坦面333は、内縁(接続面334)から外縁(接続面335)まで平坦であり、凸部は設けられない。
【0057】
なお、絶縁体330における陰極320と接する面はメタライズされている。詳細には、絶縁体330の平坦面332のうち、外周端部から0.5mm程度内側まで、ニッケルメッキ330’が施されている。
【0058】
絶縁体330の接続面334が真空部分と接している。そのため、星印で示す位置が陰極320、絶縁体330および真空が重なるCTJとなる。そして、CTJ近傍で生じた電子は、接続面323,234の間を通り、平坦面333および接続面335に沿って移動する。平坦面333が平坦であるため、電子の移動経路に凸部はない。
【0059】
図6Aおよび
図6Bは、それぞれ第4絶縁構造体400の断面図と、その一点鎖線部内の拡大図である。第4絶縁構造体400は、陽極410と、陽極410と対向する陰極420と、陽極410と陰極420との間に配置されるPEEK製の絶縁体430とを備える。
【0060】
第1絶縁構造体100との主な違いとして、第4絶縁構造体400の陰極420は、直径9mmの円形の凹部420Aと、その外側に設けられた外側直径11mmの環状の凸部420Bと、その外側に設けられた環状の凹部420Cとを有する。また、絶縁体430は、直径7mmの円形の凸部430Aと、その外側に設けられた外側直径12mmの環状の凹部430Bと、その外側に設けられた突出部430Cとを有する。
【0061】
そして、絶縁体430の凸部430Aは、陰極420の凹部420Aに向かって突出し、その頂面が凹部420Aの底面に接している。陰極420の凸部420Bは、絶縁体430の凹部430Bに向かって突出しているが、絶縁体430には接していない。絶縁体430の突出部430Cは、陰極420の凹部420Cに向かって突出しているが、陰極420には接していない。以下、詳細に説明する。
【0062】
図6Bに示すように、陽極410は平坦面411を有する。平坦面411は円形であり、その直径は絶縁体430よりも十分に大きい。そのため、陽極410における絶縁体430と接する部分は平坦である。
【0063】
陰極420は、陽極410の平坦面411とほぼ平行な平坦面421~423と、平坦面421,422を接続する接続面424と、平坦面422,423を接続する接続面425とを有する。平坦面421は陰極420の外縁側にある環状であり、平坦面422はその内側にある環状であり、平坦面423はその内側にある円形である。平坦面411と平坦面421,422,423との距離をそれぞれd1,d2,d3とすると、d1=3mm、d2=2.5mm、3.5mmであり、d2<d1<d3である。
【0064】
凹部420Aは平坦面422から窪んだものであり、その底面が平坦面423であるともいえる。凸部420Bは平坦面423および/または平坦面421から陽極410に向かって突出したものであり、その頂面が平坦面422であるともいえる。凹部420Cは平坦面422から窪んだものであり、その底面が平坦面421であるともいえる。
絶縁体430は、平坦面431~434と、接続面435~437とを有する。
【0065】
平坦面431は陽極410の平坦面411と接する。平坦面432は、陽極410の平坦面411と陰極420の平坦面423の間において、平坦面423に接する。平坦面433は、陽極410の平坦面411と陰極420の平坦面422の間にあるが、平坦面422には接しない。平坦面434は、陽極410の平坦面411と陰極420の平坦面421の間にあるが、平坦面421には接しない。
【0066】
接続面435は平坦面432と平坦面433とを接続するが、陰極420とは接していない。接続面436は平坦面433と平坦面434とを接続するが、陰極420とは接しない。
【0067】
接続面435、平坦面433および接続面436が陰極420と接しないことにより、絶縁体430の凸部430Aの外面(すなわち接続面435)と陰極420の凹部420Aの内面(すなわち接続面425)とは接しない。また、陰極420の凸部420Bの外面(すなわち接続面424,425)と絶縁体430の凹部430Bの内面(すなわち接続面435,436)とは接しない。さらに、絶縁体430の突出部430Cの外面(すなわち接続面436)と陰極420の凹部420Cの内面(すなわち接続面424)とは接しない。
【0068】
接続面437は、陽極410の外周端部および陰極420の外周端部より内側に位置し、平坦面431と平坦面434とを接続する。なお、接続面437は、概ね鉛直方向に延びる円筒状であるが、陽極410および陰極420と接する近傍では傾斜している。接続面437は絶縁体430の外縁を画定しており、絶縁体430は半径(絶縁体430の中心軸から接続面437までの長さ)7mmの円形である。
【0069】
なお、絶縁体430における陰極420と接する面はメタライズされている。詳細には、絶縁体430の平坦面432のうち、外周端部から0.5mm程度内側まで、ニッケルメッキ430’が施されている。
【0070】
絶縁体430の接続面435が真空部分と接している。そのため、星印で示す位置が陰極420、絶縁体430および真空が重なるCTJとなる。そして、CTJ近傍で生じた電子は、接続面425,435の間を通り、さらに平坦面422,433の間を通り、突出部430Cを経由し、接続面437に沿って移動する。
【0071】
以上のような第1絶縁構造体100~第4構造体400の放電特性を解析した。
図7は、第1絶縁構造体100~第4絶縁構造体400の初回放電電圧を示すグラフである。この初回放電電圧は、陰極110~410を接地電圧とし、陽極120~420に印加する電圧を高くしていき、初めて絶縁破壊が生じた電圧である。初回放電電圧が高いほど好ましい。
【0072】
図示のように、第2絶縁構造体200、第3絶縁構造体300および第4絶縁構造体400の初回放電電圧は、基準となる第1絶縁構造体100の初回放電電圧より高い。第2絶縁構造体200,400では、電子なだれの経路に突出部230B,430Cがそれぞれあるため、電子なだれが抑制されて耐電圧が高くなったものと考えられる。また、第3絶縁構造体300では、CTJが陰極320の中に隠されるような形状であるため、耐圧性が高くなったと考えられる。
【0073】
よって、初回放電電圧に着目するのであれば、第2絶縁構造体200、第3絶縁構造体300および第4絶縁構造体400のいずれも有効である。
【0074】
図8は、第1絶縁構造体100~第4絶縁構造体400のCTJ電界強度を示すグラフである。このCTJ電界強度は、陰極110~410を接地電極とし、陽極120~420に30kVを印加したとして、数値計算による電界解析を行って得られた結果である。CTJ電界強度が低いほど好ましい。
【0075】
図示のように、第3絶縁構造体300のCTJ電界強度は基準となる第1絶縁構造体100のCTJ電界強度より低い。第3絶縁構造体300では、CTJが陰極320の中に隠されるような形状であるため、CTJ電界強度が低くなったと考えられる。なお、第2絶縁構造体200では、陰極220に凸部220Aがあるため、CTJ電界強度が高くなったものと考えられる。第4絶縁構造体400では、陰極420に凸部420Bがあるため、CTJ電界強度が高くなったものと考えられる。
【0076】
よって、CTJ電界強度に着目するのであれば、第3絶縁構造体300が有効である。
【0077】
図9は、第1絶縁構造体100~第4絶縁構造体400の35kV定常電流を示すグラフである。この35kV定常電流は、陰極110~410を接地電極とし、陽極120~420に35kVを印加した場合に、電極間を流れる電流を測定した結果である。35kV定常電流が低いほど好ましい。
【0078】
図示のように、第3絶縁構造体300および第4絶縁構造体400の35kV定常電流は基準となる第1絶縁構造体100の35kV定常電流より低い。よって、電圧印加時に電極間に流れる定常電流に着目するのであれば、第3絶縁構造体300および第4絶縁構造体400が有効である。
【0079】
以上から、陽極と陰極との絶縁構造として、上述した第2絶縁構造体200~第4絶縁構造体400が有効である。なお、陽極、陰極および絶縁体の材料、大きさ、形状等は、どれだけ放電を抑制したいかに応じ、目的を達成し得る範囲において適宜変更してもよい。特に、陽極はCTJから離れており、その形状は放電特性に大きな影響を与えなので、自由度が高い。
【0080】
以下、第2絶縁構造体200~第4絶縁構造体400を用いた静電レンズの構成例を示す。
【0081】
図10Aおよび
図10Bは、それぞれ静電レンズの概略側面図およびそのX-X断面から下方を見た図である。静電レンズは陽極10および陰極20を備えている。陽極10には相対的に高い電圧が印加され、陰極20には相対的に低い電圧が印加される。陽極10に印加される電圧と陰極20に印加される電圧との差は、例えば20kVである。これら陽極10および陰極20は荷電粒子線(例えば電子ビーム)に対して静電レンズとして作用する。
【0082】
陽極10および陰極20は直径100mm程度の円形である。そして、陽極10および陰極20のほぼ中心に直径10mm程度の孔15が形成されており、この孔15を荷電粒子線が通過する。そして、孔15を中心として、時計の0時の方向、4時の方向および8時の方向に直径10mm程度の円柱状の絶縁体30A~30Cがそれぞれ配置されている。
【0083】
陽極10、陰極20および絶縁体30Aにより、絶縁構造体が形成される。同様に、陽極10、陰極20および絶縁体30Bにより、絶縁構造体が形成される。陽極10、陰極20および絶縁体30Cにより、絶縁構造体が形成される。
【0084】
図11は、
図10Aおよび
図10Bの静電レンズに第2絶縁構造体200を適用した場合のY-Y断面図である。図示のように、陰極20(220)に形成された凸部220Aが絶縁体30(230)に形成された凹部230Aに嵌合する第2絶縁構造体200(
図4Aおよび
図4B参照)が適用される。
【0085】
図12は、
図10Aおよび
図10Bの静電レンズに第3絶縁構造体300を適用した場合のY-Y断面図である。図示のように、絶縁体30(330)に形成された凸部330Aが陰極20(320)に形成された凹部320Aに嵌合する第3絶縁構造体300(
図5Aおよび
図5B参照)が適用される。
【0086】
図13は、
図10Aおよび
図10Bの静電レンズに第4絶縁構造体400を適用した場合のY-Y断面図である。図示のように、絶縁体30(430)に形成された凸部430Aが陰極20(420)に形成された凹部420Aに嵌合し、陰極20(420)に形成された凸部420Bが絶縁体30(430)に形成された凹部430Bに向かって突出する第4絶縁構造体400(
図6Aおよび
図6B)が適用される。
【0087】
なお、
図11~
図13では、各陽極10を陰極20と同じ形状(すなわち上下対称)としているが、陽極10は平坦であってもよい。
【0088】
図14Aおよび
図14Bは、それぞれ別の静電レンズの概略側面図およびそのX-X断面から下方を見た図である。以下、
図10Aおよび
図10Bの静電レンズとの違いを述べる。絶縁体30は円筒状であり、その中心軸は孔15の中心を通る位置にある。絶縁体30の外周面は直径90mm程度、内周面は直径80mm程度である。
孔15付近の真空度をよくするため、絶縁体30の側面に直径5mm~30mm程度の貫通穴を2個~100個程度あけてもよい。また、陽極10または陰極20に同様の貫通穴を設けてもよい。
【0089】
図15は、
図14Aおよび
図14Bの静電レンズに第2絶縁構造体200を適用した場合のY-Y断面図である。
図16は、
図14Aおよび
図14Bの静電レンズに第3絶縁構造体300を適用した場合のY-Y断面図である。
図17は、
図14Aおよび
図14Bの静電レンズに第4絶縁構造体400を適用した場合のY-Y断面図である。なお、
図15~
図17では、各陽極10を陰極20と同じ形状(すなわち上下対称)としているが、陽極10は平坦であってもよい。
【0090】
以上述べたような第2絶縁構造体200~第4絶縁構造体400を適用した静電レンズを荷電粒子線装置に用いることで、放電を抑制でき、電子像や分析の分解能が低下するのを抑制できる。
【0091】
なお、上述した第2絶縁構造体200~第4絶縁構造体400は他の装置にも適用可能である。また、上述した静電レンズは、任意の荷電粒子線装置(例えば、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)、電子線描画装置、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)、集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam:FIB))に適用可能であり、他の装置にも適用可能である。
【0092】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形例を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態には限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【0093】
例えば、本明細書において1つの部材として説明されるもの(図面において1つの部材として描かれているものを含む)を複数の部材によって実現してもよい。逆に、本明細書において複数の部材として説明されるもの(図面において複数の部材として描かれているものを含む)を1つの部材によって実現してもよい。
【0094】
また、本明細書に記載された事項の全てが必須の要件というわけではない。特に、本明細書に記載され、特許請求の範囲に記載されていない事項は任意の付加的事項ということができる。
【0095】
なお、本出願人は本明細書の「先行技術文献」欄の文献に記載された文献公知発明を知っているにすぎず、本発明は必ずしも同文献公知発明における課題を解決することを目的とするものではないことにも留意されたい。本発明が解決しようとする課題は本明細書全体を考慮して認定されるべきものである。例えば、本明細書において、特定の構成によって所定の効果を奏する旨の記載がある場合、当該所定の効果の裏返しとなる課題が解決されるということもできる。ただし、必ずしもそのような特定の構成を必須の要件とする趣旨ではない。
【符号の説明】
【0096】
1 1次光学系
11 電子源
12 マルチビーム発生機構
13 転送レンズ
14 ビーム分離器
15 対物レンズ
16 ステージ
17 スキャン偏向器
2 2次光学系
21 ビームベンダ
27 投影レンズ
28 検出器
281 シンチレータ
282 光増幅器
283 イメージセンサ
284 拡大レンズ
285 ハーフミラー
100 第1絶縁構造体
110 陽極
111 平坦面
120 陰極
121 平坦面
130 絶縁体
130’ ニッケルメッキ
131,132 平坦面
133 接続面
200 第2絶縁構造体
210 陽極
211 平坦面
220 陰極
220A 凸部
221,222 平坦面
223 接続面
230 絶縁体
230’ ニッケルメッキ
230A 凹部
230B 突出部
231~233 平坦面
234,235 接続面
300 第3絶縁構造体
310 陽極
311 平坦面
320 陰極
320A 凹部
320B 突出部
321,322平坦面
323 接続面
330 絶縁体
330’ ニッケルメッキ
330A 凸部
331~333 平坦面
334,335 接続面
400 第4絶縁構造体
410 陽極
411 平坦面
420 陰極
420A 凹部
420B 凸部
420C 凹部
421~423 平坦面
424,425 接続面
430 絶縁体
430’ ニッケルメッキ
430A 凸部
430B 凹部
430C 突出部
431~434 平坦面
435~437 接続面
10 陽極
20 陰極
30 絶縁体