(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114196
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】カソード仕上げ機とカソードの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20240816BHJP
B21D 22/08 20060101ALI20240816BHJP
C25C 1/12 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
C25C7/02 304
B21D22/08
C25C1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019797
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 範幸
(72)【発明者】
【氏名】中井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】青木 英和
【テーマコード(参考)】
4E137
4K058
【Fターム(参考)】
4E137AA01
4E137AA11
4E137BA04
4E137BB01
4E137CA03
4E137EA14
4E137GA15
4E137GB20
4K058AA13
4K058BA21
4K058BB03
4K058CA03
4K058CA13
4K058EB02
4K058EB14
4K058FA10
(57)【要約】
【課題】種板表面から極端に突出した溝の形成が抑制されるカソード仕上機を提供する。
【解決手段】溝gが幅方向に沿って複数本設けられ、隣り合う溝が表面から裏面に向け互いに逆方向に凹むように加工された種板Sを有するカソードの仕上機であって、種板を搬送する搬送手段と、種板を挟んで溝を形成する鍔部を備えた一対の溝付けローラを有する溝付けローラ対を複数備える溝付け手段を有し、該溝付け手段が、種板の表面から裏面に向けて突出する溝を形成する山鍔部55bからなる第1鍔部で構成された第1鍔部群のみが軸方向の所定位置に配置された第1溝付けローラ対51と、該ローラ対51よりも搬送方向下流側に設けられ種板の裏面から表面に向けて突出する溝を形成する谷鍔部56aからなる第2鍔部で構成された第2鍔部群のみが軸方向の所定位置に配置された第2溝付けローラ対52を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に伸びる帯状の溝が幅方向に沿って複数本設けられ、かつ、隣り合う溝が表面から裏面に向けて互いに逆方向に凹むように加工された種板を有するカソードを形成するカソード仕上機において、
搬送路に沿って上記種板を水平に搬送する搬送手段と、
上記搬送路の途中に設けられ、上記種板を挟んで溝を形成する鍔部を備えた一対の溝付けローラを有する溝付けローラ対を複数備える溝付け手段を有し、
上記溝付け手段が、種板の表面から裏面若しくは裏面から表面に向けて凹んだ溝を形成する複数の第1鍔部で構成された第1鍔部群のみが軸方向の所定位置に配置されている第1溝付けローラ対と、該第1溝付けローラ対よりも搬送方向下流側に設けられかつ上記種板の裏面から表面若しくは表面から裏面に向けて凹んだ溝を形成する複数の第2鍔部で構成された第2鍔部群のみが軸方向の所定位置に配置されている第2溝付けローラ対と、を備えることを特徴とするカソード仕上機。
【請求項2】
上記第2溝付けローラ対よりも搬送方向下流側に設けられ、上記第1溝付けローラ対における単数若しくは複数の第1鍔部に対応した軸方向の位置に配置されて上記第1鍔部で形成された溝の深さを増加させる単数若しくは複数の第3鍔部と、上記第2溝付けローラ対における単数若しくは複数の第2鍔部に対応した軸方向の位置に配置されて上記第2鍔部で形成された溝の深さを増加させる単数若しくは複数の第3鍔部とで構成される第3鍔部群を有する第3溝付けローラ対を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のカソード仕上機。
【請求項3】
カソード仕上機を用いて、上下方向に伸びる帯状の溝が幅方向に沿って複数本設けられ、かつ、隣り合う溝が表面から裏面に向けて互いに逆方向に凹むように加工された種板を有するカソードを製造する方法において、
上記カソード仕上機が請求項1に記載のカソード仕上機で構成され、
上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群により種板の表面から裏面若しくは裏面から表面に向けて凹んだ溝を形成し、
上記第2溝付けローラ対の第2鍔部群により種板の裏面から表面若しくは表面から裏面に向けて凹んだ溝を形成して、
上記種板を有するカソードを製造することを特徴とするカソードの製造方法。
【請求項4】
カソード仕上機を用いて、上下方向に伸びる帯状の溝が幅方向に沿って複数本設けられ、かつ、隣り合う溝が表面から裏面に向けて互いに逆方向に凹むように加工された種板を有するカソードを製造する方法において、
上記カソード仕上機が請求項2に記載のカソード仕上機で構成され、
上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群により種板の表面から裏面若しくは裏面から表面に向けて凹んだ溝を形成し、
上記第2溝付けローラ対の第2鍔部群により種板の裏面から表面若しくは表面から裏面に向けて凹んだ溝を形成すると共に、
上記第3溝付けローラ対の第3鍔部群により上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群と第2溝付けローラ対の第2鍔部群で形成した各溝の深さを増加させて、
上記種板を有するカソードを製造することを特徴とするカソードの製造方法。
【請求項5】
上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群で形成した溝の深さと第2溝付けローラ対の第2鍔部群で形成した溝の深さを調整して、上記種板の幅方向断面形状が略円弧となるように該種板を湾曲させることを特徴とする請求項3または4に記載のカソードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属などの電解精製に使用するカソードの種板を仕上げるカソード仕上げ機とカソードの製造方法に係り、特に、帯状の溝を種板に複数本形成するカソード仕上げ機における溝付け手段の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の電解精製あるいは電解採取に代表される金属電解においては、アノードとなる母板(粗金属板)とカソードを交互に並べて電解槽に供給して電解操業を行っている。例えば、銅の電解精製であれば、カソードと精製粗銅鋳造アノードとを電解槽に交互に並ぶように装入して通電する。すると、電解の進行につれアノードから銅が溶け出し、この溶け出した銅がカソード上に電着して製品となる電気銅が得られる。
【0003】
このような金属電解においては、生産性向上のため、アノードとカソードは可及的に小さい間隔をもって電解槽内に装入され、また不利益を生じない限り高い電流密度において電解される。このため、カソードにおける種板の形状が不整な場合、例えば、種板が曲がっているような場合には、アノードとカソードの間隔を狭くし過ぎると、両極の接触、すなわちショートを起こして電解に寄与しない電流が流れることとなり、電解効率を悪化させることになる。また、アノードとカソードが接触しない場合でも、電解槽内のアノードとカソードに流れる電流にばらつきが生じる可能性がある。例えば、カソードの種板において突起や曲がりが生じている箇所には電流が集中し、アノードとカソードが接触していなくてもショートが発生する可能性がある。したがって、電解槽に供給されるカソードの種板には、その形状(平坦度など)が整ったものが求められる。
【0004】
金属電解に用いるカソードの種板は、電解精製などの方法でステンレス板などの母板に金属を電着させたのち、その母板から剥ぎ取った金属の薄板を使用するのが一般的である。しかし、電着によって作られる金属の薄板からなる種板は、電着歪みや母板から剥ぎ取る時に歪が生じ易い。また、種板は薄いので、運搬時やハンドリング時においても非常に曲がり易い。このように、種板は、その平坦度などの形状を整った状態に維持することが困難であるため、カソード仕上げ機において、カソードを作製する際に矯正や溝付け処理などが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、カソード仕上げ機により、カソードの種板形状(平坦度など)を整える技術が開示されている。具体的には、千鳥状に配置されたローラを有するレベラーによって種板を矯正(内部応力を除去)するとともに、上下一対の溝付けローラにより上下方向に伸びる帯状の溝を種板に形成することによって、種板の形状を整えている。かかる種板を使用して製造されたカソードは、カソード歪[
図5(A)に示す種板Sを上下方向の端縁からみたときにおける、種板Sの厚さXを意味する。]を小さくすることができる。
【0006】
上記のような方法で製造されたカソードは、電解槽に装入されている複数のアノード間に装入される。そして、アノードとカソードが装入された電解槽では、隣接するアノードが互いに平行になった状態に近づくように、アノードの傾きの調整が行われる。アノードの傾きを調整した後には、アノードとカソードの間隔や両者の平行度を調整するためにカソードの曲がりの修正が行われる。つまり、隣接するアノードとカソードとがほぼ同じ傾きになるように「カソードの曲がり修正」が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のカソード仕上げ機において、種板の溝付け処理は、
図2(A)および
図4(A)に示すように、種板の搬送方向に沿って設けられた、例えば、3対の溝付けローラ対11~13[上流側に溝付けローラ対11が配置されている:
図2(A)参照]によって行われている。また、3対の溝付けローラ対11~13は、いずれも上下一対の溝付けローラ11A~13Aおよび11B~13Bを備えている[
図4(C)参照]。
【0009】
図4(A)(C)に示すように、各溝付けローラ対11~13の溝付けローラ11A~13Aおよび11B~13Bは、その軸方向の所定の位置に鍔部15~17が設けられたものである。鍔部15~17は、溝付けローラ対11~13ごとに設けられる位置が異なるが、対となる溝付けローラ(例えば溝付けローラ11A,11B)では同じ位置に設けられる。また、対となる溝付けローラ11A~13Aおよび11B~13Bでは、一方には谷鍔部が設けられ、他方には山鍔部が設けられる。例えば、対となる溝付けローラ11A,11Bでは、溝付けローラ11Aの軸方向中心部に鍔部15a(谷鍔部)が設けられ、溝付けローラ11Bの上記鍔部15a(谷鍔部)に対応する位置に鍔部15b(山鍔部)が設けられている[
図4(C)参照]。このため、対となる溝付けローラ11A~13Aおよび11B~13B間に種板Sが通されると、種板Sには、鍔部15~17に挟まれた部分に谷鍔部側に凹んだ帯状の溝gが形成される[
図4(B)参照]。
【0010】
ここで、鍔部15~17は、同一の溝付けローラであれば、隣り合う鍔部の山谷の関係が交互に現れるような態様で、各溝付けローラ上に配置されている。すなわち、種板の一方の面(表面)から他方の面(裏面)に向けて突出する溝を形成する鍔部(例えば、山鍔部)の隣に、その突出方向とは反対側に突出する溝(すなわち、上記裏面から上記表面に向けて突出する溝)を形成する鍔部(例えば、谷鍔部)が配置されている。しかも、各溝付けローラ対による矯正範囲が互いに重複しないように配置されている。
【0011】
具体的に説明すると、溝付けローラ11Aであれば、その軸方向の中心部に鍔部15a(谷鍔部)が配置され、その両隣に鍔部15b(山鍔部)が配置されている。そして、溝付けローラ12Aであれば、上記鍔部15b(山鍔部)の外側となる領域に、鍔部16a(谷鍔部)が配置され、その外側に鍔部16b(山鍔部)が配置されている。溝付けローラ13Aについても同様な態様で配置がされている。このように、各溝付けローラ対による矯正範囲が互いに重複しないように、山鍔部と谷鍔部とが交互に配置されている。
【0012】
かかる構成を有しているので、従来のカソード仕上げ機では、溝付けローラの送り方向から種板をみたときに、ジグザク形状(すなわち、隣り合う溝が表面から裏面に向けて互いに逆方向へ凹んだジグザク形状)となるような溝付け加工を行うことが可能になっている。なお、種板に上記ジグザク形状の溝が複数本形成されることで、種板の上下方向の反りや曲がりを抑制することが可能となる。
【0013】
ところで、電解槽にカソードを装入した後に行う上述の「カソードの曲がり修正」は、基本的に人手で行われている。人手での修正が不足すると、陽極であるアノードと接触し、ショートの原因となり生産性が低下する。こうした不都合を回避するため、金属電解においては、カソードのショートの発生しやすい箇所に対して、予め極間距離を確保する方向に変位させる変位加工処理を施すようにしていた。
【0014】
このような変位加工処理は、具体的には、上記溝付け処理において種板の表面に形成される各溝の深さ(すなわち、塑性変形の大きさ)が、カソードに所望の変位を生じさせるうえで必要な深さとなるように、溝付けローラ対11~13の上下方向のクリアランスを調整することで、塑性変形の大きさを最適化することにより行われている。
【0015】
例えば、
図4(D)は、従来の変位加工処理を施して種板Sを湾曲させたときの一態様を示している。溝付けローラ対を構成する各溝付けローラには、上述したように、種板の一方の面(表面)から他方の面(裏面)に向けて突出する溝を形成する鍔部(例えば、山鍔部)の隣に、その突出方向とは反対側に突出する溝(すなわち、上記裏面から上記表面に向けて突出する溝)を形成する鍔部(例えば、谷鍔部)が設けられており、なお且つ、各溝付けローラ対による矯正範囲が互いに重複しないように各鍔部が配置されている。
【0016】
かかる構成を有する溝付けローラ対において、溝付けローラの送り方向からみて、種板Sを下向きに湾曲(すなわち、種板Sの幅方向断面形状が下向きに凸となる円弧状)させたいときは、例えば、中央部付近の各溝(鍔部15a~15bにより形成される各溝)の深さが他の領域の溝の深さより大きくなるように、溝付けローラ対11のクリアランスが、溝付けローラ対12および13に対して狭くなるように調整する。すると、種板Sは、
図4(D)に示すように溝付けローラの送り方向からみて下向きに湾曲するが、この場合、中央部付近に形成される各溝(〇印参照)の深さは、他の領域に形成される溝(△印参照)の深さよりも深くなり、なお且つ、種板Sの表面および裏面でほぼ同一深さとなる。そして、溝付けローラの送り方向からみて略V字形状に形成される溝の頂角が、中央部付近の各溝(〇印参照)においては、他の領域の溝(△印参照)よりもより小さくなる。
【0017】
このため、湾曲させることを優先して、溝付けローラ対11のクリアランスを狭くし過ぎてしまうと、
図4(D)に示すように中央部付近の各溝(鍔部15a~15bによって形成された各溝:〇印参照)が他の領域に形成される溝(△印参照)よりも極端に突出してしまうことがあった。その理由は、溝付けローラ対11のクリアランスを狭くし過ぎてしまうと、そのようにしない場合と比べて、中央部付近に形成される各溝の塑性変形の大きさが、他の領域に形成される溝の塑性変形の大きさよりも大きくなるからである。
【0018】
しかも、このような極端に突出する溝がある場合、その溝の頂角は、通常、突出していない溝の頂角と比べて小さくなっているため、このような溝が形成された種板を有するカソードを用いて金属電解を行ったとき、突出した溝の先端に電流が集中しやすくなることに起因し、先端近傍において電着物が粒状になるといった異常な電着形態が進行する不都合が発生してしまう問題があった。
【0019】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、上記不都合を抑制できるカソード仕上げ機とカソードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
上下方向に伸びる帯状の溝が幅方向に沿って複数本設けられ、かつ、隣り合う溝が表面から裏面に向けて互いに逆方向に凹むように加工された種板を有するカソードを形成するカソード仕上機において、
搬送路に沿って上記種板を水平に搬送する搬送手段と、
上記搬送路の途中に設けられ、上記種板を挟んで溝を形成する鍔部を備えた一対の溝付けローラを有する溝付けローラ対を複数備える溝付け手段を有し、
上記溝付け手段が、種板の表面から裏面若しくは裏面から表面に向けて凹んだ溝を形成する複数の第1鍔部で構成された第1鍔部群のみが軸方向の所定位置に配置されている第1溝付けローラ対と、該第1溝付けローラ対よりも搬送方向下流側に設けられかつ上記種板の裏面から表面若しくは表面から裏面に向けて凹んだ溝を形成する複数の第2鍔部で構成された第2鍔部群のみが軸方向の所定位置に配置されている第2溝付けローラ対と、を備えることを特徴とし、
第2の発明は、
第1の発明に記載のカソード仕上機において、
上記第2溝付けローラ対よりも搬送方向下流側に設けられ、上記第1溝付けローラ対における単数若しくは複数の第1鍔部に対応した軸方向の位置に配置されて上記第1鍔部で形成された溝の深さを増加させる単数若しくは複数の第3鍔部と、上記第2溝付けローラ対における単数若しくは複数の第2鍔部に対応した軸方向の位置に配置されて上記第2鍔部で形成された溝の深さを増加させる単数若しくは複数の第3鍔部とで構成される第3鍔部群を有する第3溝付けローラ対を更に備えることを特徴とする。
【0021】
次に、本発明に係る第3の発明は、
カソード仕上機を用いて、上下方向に伸びる帯状の溝が幅方向に沿って複数本設けられ、かつ、隣り合う溝が表面から裏面に向けて互いに逆方向に凹むように加工された種板を有するカソードを製造する方法において、
上記カソード仕上機が第1の発明に記載のカソード仕上機で構成され、
上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群により種板の表面から裏面若しくは裏面から表面に向けて凹んだ溝を形成し、
上記第2溝付けローラ対の第2鍔部群により種板の裏面から表面若しくは表面から裏面に向けて凹んだ溝を形成して、
上記種板を有するカソードを製造することを特徴とし、
第4の発明は、
カソード仕上機を用いて、上下方向に伸びる帯状の溝が幅方向に沿って複数本設けられ、かつ、隣り合う溝が表面から裏面に向けて互いに逆方向に凹むように加工された種板を有するカソードを製造する方法において、
上記カソード仕上機が第2の発明に記載のカソード仕上機で構成され、
上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群により種板の表面から裏面若しくは裏面から表面に向けて凹んだ溝を形成し、
上記第2溝付けローラ対の第2鍔部群により種板の裏面から表面若しくは表面から裏面に向けて凹んだ溝を形成すると共に、
上記第3溝付けローラ対の第3鍔部群により上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群と第2溝付けローラ対の第2鍔部群で形成した各溝の深さを増加させて、
上記種板を有するカソードを製造することを特徴とし、
また、第5の発明は、
第3の発明または第4の発明に記載のカソードの製造方法において、
上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群で形成した溝の深さと第2溝付けローラ対の第2鍔部群で形成した溝の深さを調整して、上記種板の幅方向断面形状が略円弧となるように該種板を湾曲させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明に係るカソード仕上機の溝付け手段は、
種板の表面から裏面(若しくは裏面から表面)に向けて凹んだ溝を形成する第1鍔部群のみが配置されている第1溝付けローラ対と、
この第1溝付けローラ対よりも搬送方向下流側に設けられ、かつ、
種板の裏面から表面(若しくは表面から裏面)に向けて凹んだ溝を形成する第2鍔部群のみが配置されている第2溝付けローラ対と、を備えることを特徴とし、
第1鍔部群のみが配置されている第1溝付けローラ対による溝の形成方向(表面から裏面に向け凹んだ方向)と、第2鍔部群のみが配置されている第2溝付けローラ対による溝の形成方向(裏面から表面に向け凹んだ方向)が互いに反対方向に設定されている。
【0023】
このため、第1溝付けローラ対と第2溝付けローラ対のクリアランスを個別に調整することで、種板の表面と裏面に形成される溝の深さ(凹んだ量若しくは突出した量)を異なった大きさに設定できることから、種板における湾曲の向きやその大きさを容易に調整できる効果を有する。
【0024】
また、従来のカソード仕上機では、山鍔部と谷鍔部が隣接して配置された溝付けローラ対を用いて溝付け処理がなされる関係上、種板の中央部付近に形成される溝の頂角が他の領域に形成される溝の頂角よりも小さくなるように調整して種板を湾曲させるため、頂角の小さい溝の先端近傍において電着物が粒状になる異常電着の問題が存在したが、
第1の発明に係るカソード仕上機においては、上述したように第1溝付けローラ対と第2溝付けローラ対のクリアランスを個別に調整することで種板を湾曲させることができるため、上記異常電着を防止できる効果を有する。
【0025】
次に、第2の発明に係るカソード仕上機の溝付け手段は、
上記第2溝付けローラ対よりも搬送方向下流側に、
上記第1溝付けローラ対の第1鍔部群と第2溝付けローラ対の第2鍔部群で形成した各溝の深さを増加させる第3鍔部群を有する第3溝付けローラ対を更に備えるため、
種板における湾曲の向きやその大きさを高精度で容易に調整することが可能となる。
【0026】
更に、第3の発明および第5の発明に係るカソードの製造方法は、
第1の発明に記載のカソード仕上機を用いているため、
種板における湾曲の向きやその大きさが調整されたカソードを容易に製造できる効果を有しており、
また、第4の発明および第5の発明に係るカソードの製造方法においても、
第2の発明に記載のカソード仕上機を用いているため、
種板における湾曲の向きやその大きさが高精度で調整されたカソードを容易に製造できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1(A)はカソード仕上機の溝付け部に採用される本実施形態に係る第1溝付けローラ対、第2溝付けローラ対および第3溝付けローラ対の説明図、
図1(B)はカソード仕上機により帯状の溝が複数本形成された種板の概略平面図、
図1(C)は本実施形態に係る第1溝付けローラ対と第2溝付けローラ対の鍔部の説明図、
図1(D)は本実施形態に係る溝付け部で溝を形成した種板を溝付けローラの送り方向からみた説明図。
【
図2】
図2(A)はカソード仕上げ機の概略説明図、
図2(B)は内部応力除去部におけるレベラーの概略説明図。
【
図3】
図3(A)~(E)は吊り手形成部の作動状態の説明図、
図3(F)はカソードをカソードビームによって吊り下げた状態の概略説明図。
【
図4】
図4(A)はカソード仕上機の溝付け部に採用される従来例に係る溝付けローラ対の説明図、
図4(B)はカソード仕上機により帯状の溝が複数本形成された種板の概略平面図、
図4(C)は従来例に係る溝付けローラ対における鍔部の説明図、
図4(D)は従来例に係る溝付けローラ対で溝を形成した種板を溝付けローラの送り方向からみた説明図。
【
図5】
図5(A)はカソードとカソード歪の概略説明図、
図5(B)はカソード上部における基準面からの変位量の説明図、
図5(C)は上記変位量の測定位置を表した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明に係るカソード仕上げ機は、種板の溝付け加工において、種板の表面から極端に突出してしまう溝の形成を抑制することで、異常な電着形態が進行する不都合を効果的に回避できることを特徴としている。
【0030】
また、本発明に係るカソードの製造方法は、電解槽に装入した後では矯正が難しいカソードの上部を、カソードを製造する際に矯正するようにしたことに特徴を有している。
【0031】
なお、本発明に係るカソードの製造方法は、電解精製による電気銅の製造に使用されるカソードの上部の矯正に適しているが、本発明方法によって製造されるカソードはかかるカソードに限られない。例えば、電気ニッケル電解製錬による電気ニッケルの製造に使用されるカソードなどのように、アノードとの距離を適切に維持することが求められるカソードの製造に本発明に係るカソードの製造方法を使用することができる。
【0032】
<カソードC>
まず、本発明に係るカソードの製造方法によって製造されるカソードCの概略を説明する。
【0033】
図5に示すように、カソードCは、種板Sを吊り手shでカソードビームBから吊り下げたものである。種板Sは、例えば、縦幅が約1000~1100mm、横幅が約1000~1100mm、厚さが約0.6~1.0mmの金属板である。電気銅の製造に使用される場合には、種板Sには、純度が99.99%の電気銅が使用される。
【0034】
なお、後述するカソード仕上げ機1では、図示しない種板電解工程において製造された種板Sを収容した種板パレットをカソード仕上げ機1の供給口に移送すれば、種板Sに吊り手shとカソードビームBが取り付けられた状態のカソードCが製造される。
【0035】
ここで、種板電解工程とは、例えば、電気銅を製造する場合であれば、純度が99.99%の電気銅の種板を得る工程を意味している。この種板電解工程では、純度98%程度の粗銅であるアノード(陽極)とステンレス製やチタン製の母板(陰極)とを、電解液を満たした電解槽に交互に装入した状態で種板の製造が実施される。この状態で、電解槽に対する電解液の給液を行いつつ、例えば、電流密度250A/m2程度となるように両電極間に電流を供給すれば、純度が99.99%の電気銅の種板を得ることができる。この種板電解工程で使用される電解液は特に限定されないが、例えば、膠、アビトンなどが添加された銅の硫酸溶液が好ましい。
【0036】
そして、
図5に示すように、カソードCの種板Sには、その上下方向[カソードCを吊り下げたときに鉛直方向となる方向、
図4(B)、
図5(A)、(C)では上下方向]に沿って延びる溝gが複数本形成されている。この複数本の溝gは、以下に説明するカソード仕上げ機1によって形成される。
【0037】
この複数本の溝gを形成することによって、カソードCの種板Sの上下方向における種板Sの凹凸が小さくなり、カソード歪を抑制することができる。したがって、かかるカソードCを使用すれば、電解槽にカソードCとアノードAとを浸漬した状態においてアノードAとの距離を適切に維持することができるので、通電工程における電力量の消費を抑えることができ、電解精製の生産効率を向上することができる。
【0038】
なお、カソード歪とは、上述したように種板Sを上下方向の端縁からみたときにおける、種板Sの厚さを意味している[
図5(A)のX参照]。
【0039】
<カソード仕上げ機>
次に、本発明に係るカソード仕上げ機の一例を説明する。
【0040】
図2(A)に示すように、カソード仕上げ機1は、厚さ測定部、内部応力除去部2、溝付け部10、吊り手形成部20を備えている。なお、
図2(A)では、厚さ測定部は記載を省略している。
【0041】
また、カソード仕上げ機1は、上記以外にも、種板の裁断、表面付着物の除去、カソード歪の測定などを行う機能を有していてもよい。
【0042】
カソード仕上げ機1には、高純度の金属板を所定の寸法(例えば、縦幅が約1000~1100mm、横幅が約1000~1100mm)に裁断などの加工を施した種板Sと、金属板を所定の寸法(例えば、縦約100mm×横約30mm)に加工した吊り手shとなる板状の部材PRと、が供給される。
【0043】
なお、高純度の金属板を裁断して所定の寸法の種板Sや板状の部材PRを製作する方法は、バリが少なく平滑な板となった種板Sや板状の部材PRが得られる方法であればよく、特に限定されない。
【0044】
(厚さ測定部)
厚さ測定部は、内部応力除去部2へ供給する種板Sの厚さを測定するものである。厚さ測定部を設ければ、所定の範囲の厚さから外れた種板Sを検出することができるので、その種板Sを、内部応力除去部2などに供給する前に予め除去しておくことができる。
【0045】
厚さ測定部における種板Sの厚さを測定する方法は特に限定されない。例えば、ノギスによって種板Sの厚さを直接測定してもよいし、レーザー光、放射線、超音波などを使用した機器によって非接触で厚さを測定してもよい。レーザー変位計などのレーザー光などを使用した機器によって種板Sの厚さを測定する場合には、種板Sの板厚方向において対向する位置に機器を設置し、種板Sの表面までの距離を種板Sの板厚方向(例えば上下方向)から測定することによって、種板Sの厚さを求めることができる。
【0046】
(内部応力除去部)
内部応力除去部2は、ローラによって種板Sを挟んで、種板Sの内部応力を除去するものである。具体的には、内部応力除去部2はレベラーを備えている[
図2(B)参照]。
【0047】
図2(B)に示すように、レベラーは、種板Sに直接接触するワークローラ2A,2Bを備えたものである。ワークローラ2A,2Bは、上下に千鳥状に配置されており、上下のワークローラ2A,2B間に内部応力を除去する種板Sが送り込まれる。送り込まれた種板Sは多数のワークローラ2A,2Bで繰り返し板厚方向に曲げられるので、搬送方向における種板Sの反りや凹凸幅を小さくすることができる。なお、内部応力除去部2のレベラーにおける種板Sの搬送方向は、種板Sの上下方向と一致している。
【0048】
レベラーにおいて、種板Sに対して板厚方向から変形を加える量、つまり、ローラ押込み量は特に限定されないが、ローラ押込み量は、入口側が大きく出口側が小さくなるように調整することが好ましい。ここで、ローラ押し込み量とは、上段の各ワークローラ2Aと種板Sが接触する点を繋いで形成される第1接触面A1と、下段の各ワークローラ2Bと種板Sが接触する点を繋いで形成される第2接触面A2と、の距離Wのことである[
図2(B)参照]。第1接触面A1と第2接触面A2が一致する場合を基準、つまり、距離W=0とする。すると、第1接触面A1に対して第2接触面A2が下方に位置する場合には、距離Wはプラス量として規定され[
図2(B)の状態]、第1接触面A1に対して第2接触面A2が上方に位置する場合には、距離Wはマイナス量として規定される。つまり、この距離Wを調整することによって、種板Sに対して板厚方向から変形を加える力を調整できるので、種板Sの内部応力を効果的に除去することが可能である。例えば、種板Sの基準板厚が0.5~1.0mmの範囲である場合には、入り口側で-2.0~0.0mm、出口側で0.5~1.5mmの範囲となるようにローラ押し込み量Wを設定すれば、種板Sの内部応力を効果的に除去することができる。
【0049】
レベラー間を種板Sが搬送される搬送速度は特に限定されない。希望する処理量(つまりカソードCの製造量)に応じて都度設定すればよい。レベラー間を種板Sが搬送される搬送速度は、例えば、25~35m/分の範囲に設定することができる。
【0050】
なお、レベラーは、ワークローラを支えるバックアップローラを備えていることが望ましい。
【0051】
(溝付け部)
溝付け部10は、内部応力除去部2によって内部応力を除去された種板Sに溝gを形成するものである。具体的には、溝付け部10では、種板Sを搬送しながら、内部応力除去部2における種板Sの搬送方向と平行な複数本の溝gを種板Sに形成する。
【0052】
(1)溝付けローラ対
図2(A)および
図4(A)に示した従前の溝付けローラ対11、12、13に代えて、本実施形態に係る溝付け部10は、種板の搬送方向に沿って順に配置された第1溝付けローラ対51、第2溝付けローラ対52、および、第3溝付けローラ対53を備えており[
図1(A)参照]、かつ、上記第1溝付けローラ対51は上下一対の第1溝付けローラ51A、51Bを備え[
図1(C)参照]、第2溝付けローラ対52も上下一対の第2溝付けローラ52A、52Bを備えており[
図1(C)参照]、第3溝付けローラ対53も上下一対の第3溝付けローラ53A、53B(図示せず)を備えている。
【0053】
また、
図1(A)、(C)に示すように、上記第1溝付けローラ対51、第2溝付けローラ対52、第3溝付けローラ対53の各溝付けローラ51A~53A、51B~53B(53Aと53Bは図示せず)は、その軸方向の所定の位置に鍔部55~57が設けられたものである。鍔部55~57は、第1溝付けローラ対51、第2溝付けローラ対52、第3溝付けローラ対53ごとに設けられる位置が異なるが、対となる溝付けローラ(例えば、第1溝付けローラ51A、51B)では同じ位置に設けられる。また、対となる、例えば、第1溝付けローラ51A、51Bと第2溝付けローラ52A、52Bでは、一方には谷鍔部が設けられ、他方には山鍔部が設けられる[
図1(C)参照]。このため、対となる、例えば、第1溝付けローラ51A、51Bと第2溝付けローラ52A、52B間に種板Sが通されると、種板Sには、鍔部55~56に挟まれた部分に谷鍔部側に凹んだ溝gが形成される。
【0054】
なお、溝付け部10において種板Sを搬送する搬送速度は特に限定されない。カソードCの製造量に応じて適宜設定すればよく、例えば、25~35m/分に設定することができる。
【0055】
(2)隙間調整部
カソード仕上げ機1は、第1溝付けローラ対51、第2溝付けローラ対52、第3溝付けローラ対53の鍔部55~57同士の隙間[クリアランスCL、
図1(C)参照]を調整する隙間調整部を備えている。この隙間調整部は、各溝付けローラ対51~53において、対になる溝付けローラ間の距離を調整する調整機構を有している。例えば、調整機構は、シリンダ機構やネジ機構などによって構成することができる。この場合、第1溝付けローラ対51、第2溝付けローラ対52、第3溝付けローラ対53の各溝付けローラ51A~53A、51B~53B(53Aと53Bは図示せず)を回転可能に保持する軸受を調整機構に連結する。すると、調整機構によって軸受を移動させれば、軸受に保持されている溝付けローラ51A~53A、51B~53Bを移動させて、対になる溝付けローラ間の距離、つまり、クリアランスCLを調整することができる。
【0056】
この隙間調整部には、溝付けを行う種板Sの基準板厚が入力されている。そして、基準板厚の種板Sを用いてカソードCを製造する際には、通常、クリアランスCLが基準クリアランスになるように隙間調整部がクリアランスCLを調整する。基準クリアランスとは、基準板厚の種板Sに対して、適切な力で溝を形成できるクリアランスCLのことである。例えば、基準クリアランスは、種板Sの基準板厚が0.5~1.0mmの範囲である場合には、通常、1.3~2.0mmの範囲に設定される。
【0057】
このように、基準クリアランスを基準板厚の種板Sに対応した値に設定することは、さまざまな種板Sに対応した値に設定するよりも、設定時の板厚のばらつきの影響を受けにくく、信頼性の高いクリアランスが得られる利点がある。
【0058】
なお、種板Sの基準板厚には、種板Sの精製条件から決まる標準的な種板Sの厚みを用いるのが好ましい。例えば、電解精製による電気銅の精製に使用されるカソードの種板Sを精製する場合には、0.5~1.0mmの範囲における任意の値を種板Sの基準板厚とすることができる。
【0059】
(3)第1鍔部群と第2鍔部群
本発明に係るカソード仕上げ機では、例えば、第1溝付けローラ51A[
図1(C)参照]において、その軸方向の所定位置に配置される複数の第1鍔部は、何れも、種板の一方の面(表面)から他方の面(裏面)に向けて突出する溝[裏面に向けて「突出する溝」とは種板に形成された溝を裏面側からみたときの表現で、種板に形成された溝を表面側からみたときは裏面に向けて「凹んだ溝」と表現される]を形成するための鍔部55b(山鍔部)のみで構成されている。複数の第1鍔部で構成され、一方向にのみに突出する溝を種板に形成するための鍔部群のことを本明細書においては「第1鍔部群」と称している。なお、
図1(C)に示すように第1溝付けローラ51Bの上記鍔部55b(山鍔部)に対応する位置には鍔部55a(谷鍔部)が設けられている。
【0060】
また、第2溝付けローラ52A[
図1(C)参照]において、その軸方向の所定位置に配置される複数の第2鍔部は、何れも、上記第1鍔部での突出する方向とは逆の方向(すなわち、種板の上記裏面から上記表面に向けて突出する方向)に溝を形成するための鍔部56a(谷鍔部)のみで構成されている。複数の第2鍔部で構成され、上記第1鍔部による突出方向とは逆方向にのみに突出する溝を形成するための鍔部群のことを本明細書においては「第2鍔部群」と称している。なお、
図1(C)に示すように第2溝付けローラ52Bの上記鍔部56a(谷鍔部)に対応する位置にも鍔部56b(山鍔部)が設けられている。
【0061】
(4)変位加工処理
(4-1)本発明に係るカソード仕上げ機
図1(D)は、「第1鍔部群」を有する第1溝付けローラ対51と「第2鍔部群」を有する第2溝付けローラ対52を備えた本発明に係るカソード仕上げ機を用いて変位加工処理を施し、湾曲させた種板Sを溝付けローラの送り方向からみた断面形状の説明図である。
【0062】
上記カソード仕上げ機は第1溝付けローラ対51と第2溝付けローラ対52を備えているので、溝付けローラの送り方向からみて種板Sを下向きに湾曲(すなわち、種板Sの幅方向断面形状が下向きに凸となる円弧状)させたいときは、第1溝付けローラ対51のクリアランスCLを第2溝付けローラ対52のクリアランスCLに対して狭くなるように調整する。すなわち、鍔部55b(山鍔部)によって形成される溝の深さが、鍔部56a(谷鍔部)によって形成される溝の深さよりも深くなるように調整する。すると、溝付けローラの送り方向からみて下向きに種板を湾曲させることができる。
【0063】
一方、溝付けローラの送り方向からみて種板を上向きに湾曲(すなわち、種板Sの幅方向断面形状が上向きに凸となる円弧状)させたいときは、第2溝付けローラ対52のクリアランスCLを第1溝付けローラ対51のクリアランスCLに対して狭くなるように調整する。すなわち、鍔部56a(谷鍔部)によって形成される溝の深さが、鍔部55b(山鍔部)によって形成される溝の深さよりも深くなるように調整する。すると、溝付けローラの送り方向からみて上向きに種板を湾曲させることができる。
【0064】
(4-2)従来のカソード仕上げ機
従来のカソード仕上げ機では、種板の一方の面(表面)から他方の面(裏面)に向けて突出する溝を形成する鍔部(例えば、山鍔部)の隣に、その突出方向とは反対側に突出する溝(すなわち、上記裏面から上記表面に向けて突出する溝)を形成する鍔部(例えば、谷鍔部)が設定されており、なお且つ、各溝付けローラ対による矯正範囲が互いに重複しないように各鍔部が配置され、しかも、鍔部そのものの形状を変更することは困難であった。
【0065】
このため、例えば、従来のカソード仕上げ機を用い、溝付けローラの送り方向からみて種板を上向き(あるいは下向き)に湾曲させ、かつ、その湾曲の大きさを強めたいときは、中央部付近に形成される各溝の深さを、他の領域に形成される溝の深さよりも深くなるように各溝付けローラのクリアランスCLを設定する必要があった。この理由は、従来のカソード仕上げ機では、山鍔部と谷鍔部が同一のローラに隣接して配置された溝付けローラ対を用いて溝付け処理がなされる関係上、本発明に係るカソード仕上げ機のように種板の表面と裏面とで異なる溝の深さに調整することができないため、湾曲を強めたいときは、局部的に塑性変形量が大きい溝を形成する必要があるからであり、種板の幅方向縁部領域においてより大きな塑性変形が加えられた溝を形成するよりも、中央部領域においてより大きな塑性変形が加えられた溝を形成する方が種板の幅方向全体への曲げ効果が大きいからである。
【0066】
かかる構成を有する従来のカソード仕上げ機を用いた溝付け加工では、上記塑性変形量が大きな溝が形成された数が少ない側の面を凸にして種板は湾曲する。
【0067】
これに対し、本発明に係るカソード仕上げ機においては、「第1鍔部群」による溝の形成方向と「第2鍔部群」による溝の形成方向が互いに反対方向になるよう設定され、なお且つ、上記「第1鍔部群」と「第2鍔部群」は夫々異なる溝付けローラ対に配置されている。
【0068】
このため、「第1鍔部群」による塑性変形を強めたいときは、例えば、第1溝付けローラ対51のクリアランスCLを第2溝付けローラ対52のクリアランスCLに対して狭くなるように調整すればよく、また、「第2鍔部群」による塑性変形を強めたいときは、例えば、第2溝付けローラ対52のクリアランスCLを第1溝付けローラ対51のクリアランスCLに対して狭くなるように調整すればよい。
【0069】
(5)本発明に係るカソード仕上機の利点
(5-1)本発明に係るカソード仕上げ機によれば、「第1鍔部群」のみが軸方向の所定位置に配置されている第1溝付けローラ対と、「第2鍔部群」のみが軸方向の所定位置に配置されている第2溝付けローラ対のクリアランスCLを調整することにより、種板の表面および裏面に形成される溝の深さを夫々異なった深さに調整できるため、湾曲の向きやその大きさを調整することが容易となる。しかも、湾曲させるための溝付け加工を種板の幅方向に分散させて行うことができるため、従来のように、中央部付近に形成される各溝の深さを他の領域に形成される溝の深さよりも深く形成して、中央部付近で大きく湾曲させるような溝付け加工を行うことは必要ない。
【0070】
すなわち、本発明に係るカソード仕上げ機では、中央部付近の各溝が他の領域の溝よりも極端に突出してしまう不都合を効果的に回避することができる。
【0071】
(5-2)更に、本発明に係るカソード仕上げ機においては、第2溝付けローラ対52よりも搬送方向下流側に設けられ、第1溝付けローラ対51および第2溝付けローラ対52でそれぞれ形成された溝の深さ(塑性変形量)を増加させる「第3鍔部群」が軸方向に取り付けられた第3溝付けローラ対53を更に有することもできる。
【0072】
上記第3溝付けローラ対53の「第3鍔部群」は軸方向の中央部領域のみに設けられており、例えば、第3溝付けローラ53A(図示せず)においては、第2溝付けローラ対52における軸方向中央の鍔部56a(谷鍔部)に対応した位置に該鍔部56aによる塑性変形量を増加させる鍔部57aが配置され、また、第1溝付けローラ対51における軸方向中央の鍔部55b(山鍔部)に対応した位置に該鍔部55bよる塑性変形量を増加させるための鍔部57bが配置されている。
【0073】
かかる構成を有しているので、第1溝付けローラ対51および第2溝付けローラ対52によって溝付け加工が施された種板、すなわち、変位加工処理が施された種板に対し、更に、第3溝付けローラ対53による溝付け加工を施すことができる。具体的には、上記第1溝付けローラ対51および第2溝付けローラ対52によって形成された中央部付近の溝に対する塑性変形の大きさを、局所的に更に増大させて種板の幅方向の曲がり(すなわち、湾曲量)を増加させることができる。
【0074】
このため、第1溝付けローラ対51および第2溝付けローラ対52によって溝付け加工を施したとしても、種板の幅方向における曲がり量が不足する懸念があるケースにおいては、第3溝付けローラ対53を備えるようにカソード仕上げ機を構成することで、上記不都合を容易に回避することが可能となる。
【0075】
なお、第3溝付けローラ対53による溝付け加工は、専ら、上記第1溝付けローラ対51および第2溝付けローラ対52による溝付け効果を補強することを目的としているため、従来のような過度な溝付け加工を行うことは不要である。このため、本発明に係るカソード仕上げ機では、極端に突出する溝を形成しなくても所望の曲がり量を得ることが可能となる。
【0076】
(吊り手形成部)
吊り手形成部20は、上記溝付け部10によって溝が付けられた種板Sに吊り手shを取り付けるものである。また、吊り手形成部20では、種板Sに吊り手shを取り付けると同時に、カソードビームBを取り付けるものである[
図5(A)参照]。
【0077】
吊り手形成部20は、上流側の溝付け部10から供給された種板Sを水平に維持した状態で搬送する搬送機能を有している。また、吊り手形成部20は、種板Sの移動方向先端の端部(以下第1端部Saという)よりも前方にカソードビームBを配置した状態、かつ、カソードビームBと種板Sの第1端部Saとの間を一定の距離に維持した状態で移動させる機能も有している(
図3参照)。
【0078】
また、カソードビームBと種板Sの第1端部Saとの間の距離は、吊り手リボンPRの長手方向の長さの半分よりも短くなるように設定される。具体的には、吊り手リボンPRと種板Sの第1端部Saとの連結部分を十分に取れる長さになるように設定される。例えば、吊り手リボンPRの長手方向の長さが、300~320mmであれば、カソードビームBと種板Sの第1端部Saとの間の距離は70~75mm程度に設定される。
【0079】
(吊り手形成作業)
まず、一対の第1折り曲げローラ22,22の上流側に吊り手リボンPRが配置された状態から[
図3(A)参照]、種板SおよびカソードビームBが第1折り曲げローラ22,22間に向かって移動される。
【0080】
種板SおよびカソードビームBが第1折り曲げローラ22,22間に向かって移動されると、カソードビームBに押されてカソードビームBとともに吊り手リボンPRが下流側に移動する。吊り手リボンPRは、カソードビームBと接触している個所の上下の部分(吊り手リボンPRの長手方向の端部という場合がある)が第1折り曲げローラ22,22に接触するので、中央部はカソードビームBとともに移動するが、その吊り手リボンPRの長手方向の端部は第1折り曲げローラ22,22によって移動が制限される。すると、カソードビームBの移動に伴って、吊り手リボンPRは中央部を屈曲部として曲げられ、長手方向の端部がカソードビームBを挟んだ状態になるように曲げられる[
図3(B)参照]。
【0081】
種板SおよびカソードビームBが更に移動すると、吊り手リボンPRは曲げられた状態で一対の第2折り曲げローラ23,23間に進入する。第1折り曲げローラ22,22は互いに接近するように付勢されているので、吊り手リボンPRの長手方向の端部は種板Sに向かって付勢される[
図3(C)参照]。すると、吊り手リボンPRは一対の第2折り曲げローラ23,23を通過するとスプリングバックするが、U字状やV字状となってカソードビームCBに巻き付いた状態となる[
図3(D)参照]。
【0082】
吊り手リボンPRの長手方向の端部、つまり、吊り手リボンPRにおいて種板Sと連結される部分がカシメ加工を行うための加圧部27に配置されるまで種板Sなどが移動すると、種板Sなどの移動が停止する。すると、加圧部27の一対の加圧部材27a,27bによって種板SとカソードビームBが挟まれて、種板SとカソードビームBとが連結される[
図3(E)参照]。すると、輪状になった吊り手shが種板Sに連結され、かつ、吊り手shにカソードビームBが取り付けられたカソードCが形成される[
図3(F)参照]。
【実施例0083】
下記実施例1に係るカソード仕上げ機によって製造されたカソードの変形量を測定し、本実施例1に係るカソード仕上げ機によってカソードを製造した場合、カソード上部の変形を低減できることを確認した。
【0084】
[実施例1]
実施例1に係るカソード仕上げ機に供給する種板は以下の方法で製造した。
【0085】
純度98%程度の粗銅であるアノード(陽極)とステンレス製の母板(陰極)を電解槽の電解液に供給し、24時間通電した後、母板から電着している銅を剥がして種板を製造した。使用した銅電解液は、銅濃度47±5g/l、硫酸濃度180±30g/l、膠120±60g/電着銅トン、アビトン30±15g/電着銅トン、チオ尿素60±30g/電着銅トンのものである。陽極と陰極との間に流す電流の電流密度は250A/m2であり、電解槽に供給する電解液の給液量は25L/minに調整した。
【0086】
なお、製造された種板は、いずれも純度99.99%の電気銅であり、その寸法は、縦1050mm×横1070mm×厚さ0.6~0.9mmの平板状であった。
【0087】
吊り手リボンは、純度99.99%の電気銅によって形成された板を使用した。板の寸法は、縦310mm×横95mm×厚さ0.6~0.9mmの帯状のものを使用した。
【0088】
製造された種板と吊り手リボンとを使用して、本実施例1に係るカソード仕上げ機によってカソードを製造した。
【0089】
実施例1に係るカソード仕上げ機では、内部応力除去部におけるレベラーのローラ押し込み量は、入り口側で-0.6mm、出口側で+0.8mmとし、溝付け部を構成する溝付けローラ対として2対の溝付けローラ対を設定した。
【0090】
ここで、これら溝付けローラ対の構造は、
図1に示した上述の第1溝付けローラ対51および第2溝付けローラ対52と同様な構造とした。
【0091】
そして、溝付けローラの基準クリアランスは1.3mmに設定し、溝付けローラ対の個別のクリアランスCLは、上記基準クリアランスを基準として、各測定点において目標とする変位量が得られるように調整した。なお、上記変位量の目標値に関する詳細については後述する。
【0092】
吊り手リボンは、加圧部材によるカシメ加工によって種板に取り付けた。
【0093】
カソード上部の変形量は、カソードビームを保持してカソードを吊り下げた状態で、カソード上部の基準面からの変位量を、電解用極板の平坦度測定装置(特開平7-190744)に開示されている測定装置を用いて測定した。
【0094】
変位量の測定位置は、
図5(C)に示す位置で測定した。
【0095】
具体的には、種板Sの移動方向の先端縁[第1端部Saの端縁、
図5(C)では上端縁]から80mm内側[
図5(C)では下方]に、種板の先端縁と平行に引いた線を線L1とする。また、種板の移動方向と平行な両端縁[種板の側端縁、
図5(C)では左右の端縁]から80mm内側に、種板の側端縁と平行に引いた線を線L2,L3とする。
【0096】
そして、線L1と線L2,L3との交点(上左、上右)と、種板の先端縁と平行な方向においてこの2つの交点の測定点の中間点(上中)とにおいて、基準面からの変位量を測定した。
【0097】
更に、上左、上右、上中の夫々に対して、L2方向に沿って対称となる位置に同様な測定点としての下左、下右、下中を設定し、更に、L2方向に沿った2点間の中間となる位置に同様な測定点としての中左、中右、中中を設定した。そして、設定した測定点の夫々において、基準面からの変位量を測定した。
【0098】
上記基準面は、カソードビームを保持してカソードを吊り下げた状態において、カソードビームの中心軸を含む鉛直面[
図3(F)および
図5(B)の符号CS]である。基準面CSから種板Sの表面までの距離を変位量αとし、
図5(B)において、上側への変位量をプラスとし、下側への変位量をマイナスとした。なお、上側への変位量は、吊り手形成部においてカソード形成している状態では、種板の上方への変位量に相当する。
【0099】
また、各測定点において目標とする変位量(目標歪)は表1のとおりとした。
【0100】
【0101】
上記測定を1465枚のカソードについて行い、各測定点における変位量(測定歪)の平均値を求めた。更に、各測定点における標準偏差σを求めた。
【0102】
結果を表2に示す。
【0103】
【0104】
表2に示すように、多少の左右のズレが認められたが、上部・中部は下向きに湾曲(すなわち、下向きに凸)した状態となっており、一方、下部はやや変形はあるものの真っ直ぐに近い形状になっていた。しかも、平均の変位量(測定歪)は6.96mmであり、且つ、標準偏差σは1.83mmとなっていた。これらの値は、後述の比較例1と比べても良好な値となり、更に、人手による修正も不要となった。
【0105】
そして、これらのカソードを使用して金属電解を行ったところ、ショートが生じて不良となる割合が1.28%となった。この値は、後述の比較例1と比べても良好な値であった。
【0106】
更に、得られた電着後のカソードの表面を確認したところ、電着物が粒状になるといった異常な電着形態が進行してしまうことに起因した表面不良は認められなかった。
【0107】
[比較例1]
溝付け部を構成する溝付けローラ対として、
図4に示す溝付けローラ対11~13と同様な溝付けローラ対を設定した以外は、実施例1と同様に行った。
【0108】
結果を表3に示す。
【0109】
【0110】
表3に示すように、上左および上右の変位量(測定歪)が、3.3mmおよび-1.2mmとなり、4.5mm程度捻じれた状態であることが確認された。
【0111】
また、平均の変位量(測定歪)は8.25mmであり、且つ、標準偏差σは2.59mmとなっていた。これらの値は、実施例1と比べて悪化した値であり、且つ、人手による修正が必要となった。
【0112】
そして、これらのカソードに人手による修正を施した後に、続いて上記修正後のカソードを使用して金属電解を行ったところ、ショートが生じて不良となる割合が1.51%となった。人手による修正を施したにもかかわらず、人手による修正を施していない実施例1と比べて悪化した。
【0113】
更に、得られた電着後のカソード表面を確認したところ、電着物が粒状になるといった異常な電着形態が進行したカソードが認められ、これらを含めた全体のカソードの不良割合は更に増加した。
【0114】
上記実施例1と比較例1の結果から、実施例1に係るカソード仕上げ機を用いることによって、突出した溝の先端に電流が集中しやすくなることに起因し、この先端近傍において、電着物が粒状になるといった異常な電着形態が進行してしまう不都合を抑制できることが確認できた。
【0115】
しかも、アノードとの極間距離の確保に適した形状に変位加工処理を施すことが行いやすく、なお且つ、そのようなカソードを安定して成形できることが確認された。
本発明に係るカソード仕上げ機は、種板の溝付け加工において種板表面から極端に突出してしまう溝の形成を抑制できるため、アノードとの距離を適切に維持することが求められるカソードの製造に利用される産業上の利用可能性を有している。