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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114350
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】カヌレ用小麦粉組成物
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20240816BHJP
   A23L 7/10 20160101ALN20240816BHJP
【FI】
A21D6/00
A23L7/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020057
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 早苗
(72)【発明者】
【氏名】田端 大
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
【Fターム(参考)】
4B023LE26
4B023LP07
4B032DB05
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK42
4B032DK48
4B032DK70
4B032DL20
4B032DP02
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP36
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】本発明は、効率的にカヌレを製造することができる、カヌレ用小麦粉組成物を提供することことを課題とする。
【解決手段】カヌレ原料の小麦粉として熱処理小麦粉を使用することにより上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理小麦粉を含み、小麦粉からなる、カヌレ用小麦粉組成物。
【請求項2】
前記熱処理小麦粉のグルテンインデックスAの、相当する非熱処理小麦粉のグルテンインデックスBに対する比A/Bが、0.98以下であるか、又は、前記熱処理小麦粉が、ウェットグルテンが形成されない程度に熱処理を受けている、請求項1に記載のカヌレ用小麦粉組成物。
【請求項3】
前記熱処理小麦粉の含有量が、前記小麦粉組成物全量に対して10質量%以上である、請求項1に記載のカヌレ用小麦粉組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のカヌレ用小麦粉組成物を含有する、カヌレ用ミックス粉。
【請求項5】
工程1:畜乳と、請求項1~3のいずれか1項に記載のカヌレ用小麦粉組成物または請求項4に記載のカヌレ用ミックス粉と、を混合してカヌレ生地を得る工程
工程2:工程1で得たカヌレ生地を焼き型に充填する工程
工程3:工程2で焼き型に充填したカヌレ生地を加熱する工程
を含む、カヌレの製造方法。
【請求項6】
工程A:工程1の前に、畜乳を加熱して乳清タンパク質を変性させる工程、及び
工程B:工程1で得たカヌレ生地を低温下で10時間以上保持する工程、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項5に記載のカヌレの製造方法。
【請求項7】
工程A:工程1の前に、畜乳を加熱して乳清タンパク質を変性させる工程、及び
工程B:工程1で得たカヌレ生地を低温下で10時間以上保持する工程、
のうちの少なくとも1つを含まない、請求項5に記載のカヌレの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カヌレ用小麦粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カヌレはフランスの伝統菓子であり、日本にも古くから伝わり、店舗でも販売されている人気の菓子であり、バリッとした食感の外層と独特のもっちりとした食感の内層を有している。このようなカヌレは、沸騰させた後に冷ました牛乳と小麦粉やその他の原料とを用いて生地を作製し、この生地を型入れし、1晩寝かせてから焼成することにより得ることができる。牛乳を沸騰させないと、牛乳中のホエータンパクが変性せず、焼成中に不要な膨張をすることになる。また、生地を一晩寝かせないと、焼成時に生地が膨らみすぎて型からせり上がることになる。そのような膨張とせり上がりは焼きムラを引き起こし、カヌレの外観と食感を損なう原因となる。このように、カヌレの製造には手間がかかり、製造効率が悪いという問題があった。
【0003】
このような問題を解決する試みはこれまで為されてこなかった。一方で、熱処理小麦粉を菓子類の製造に利用する技術はこれまで多々検討されてきた。しかしながら、熱処理小麦粉をカヌレの製造に利用する技術は知られていない。
【0004】
特許文献1では、穀粉類を含有し、該穀粉類に、グルテンバイタリティ30~52%の熱処理小麦粉と非熱処理国内産麦小麦粉とが含まれ、且つ該熱処理小麦粉の含有量が、該非熱処理国内産麦小麦粉の20~500質量%であるミックス組成物が開示されており、国内産麦小麦粉を用いながらも、外国産麦小麦粉を用いた場合と同等以上の品質のマフィンやスポンジケーキ、クッキー等のベーカリー食品が得られることが記載されている。
【0005】
特許文献2では、穀粉類を含有し、該穀粉類に、グルテンバイタリティ30~47%の熱処理国内産麦小麦粉と非熱処理国内産麦小麦粉とが含まれており、前記穀粉類における前記熱処理国内産麦小麦粉の含有率が20~80質量%である、ケーキ用ミックスが開示されており、国内産麦小麦粉を用いながらも、外国産麦小麦粉を用いた場合と同等以上の高品質のケーキ類が得られることが記載されている。
【0006】
特許文献3では、灰分が1.0~4.0質量%のフランス産小麦粉(全粒粉を除く)を、品温100~150℃で10~60分間、乾熱加熱処理することを特徴とする熱処理小麦粉の製造方法が開示されており、本発明による熱処理小麦粉又は小麦粉組成物によれば、小麦の表皮部分に含まれる栄養成分を豊富に含む、灰分含有量が高い小麦粉を配合する場合であっても、製パン適性などの二次加工適性に悪影響を与えずに、食味や風味の良いパンや焼菓子を製造することができることが記載されている。
【0007】
特許文献4では、小麦を品温60~125℃の範囲で4~70分間乾熱処理する工程、前記乾熱処理を行った小麦に小麦の最終含水率が14~16%になるよう加水することを含む小麦の水分量を調整する工程及び前記水分量を調整した小麦(加水後に加熱したものを除く)を粉砕して小麦粉を得る工程を含む、小麦粉又はそれを含む小麦粉組成物の製造方法が開示されており、本発明の小麦粉又はそれを含む小麦粉組成物を使用することにより、弾力性のある触感を有すると同時に歯切れがよく、口溶けが良い食感を有するケーキ類を提供することができることが記載されている。
【0008】
特許文献5では、小麦粉45~70重量部、α化小麦粉および/またはα化澱粉10~30重量部、エーテル化澱粉10~30重量部からなる澱粉系原料100重量部に対し、砂糖50~280重量部、食用油脂10~50重量部および膨剤5~10重量部を加えた混合物からなることを特徴とする焼菓子用プレミックスが開示されており、小麦粉を主材とする原料にα化小麦粉、α化澱粉及びエーテル化澱粉の適量を混合したので、しっとりとして、しかももちもちした新規な焼菓子のミックスを得る効果があること、このミックスを利用すればしっとりとして、しかももちもちした新規な焼菓子を製造できる効果があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-170173
【特許文献2】特許第7067995号
【特許文献3】特許第6831629号
【特許文献4】特許第6543836号
【特許文献5】特許第3385546号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、効率的にカヌレを製造することができる、カヌレ用小麦粉組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、カヌレ原料の小麦粉として熱処理小麦粉を使用することで、カヌレ用生地を寝かせなくとも及び/又は沸騰させてタンパク質を変性させた牛乳を使用しなくとも、焼成時におけるカヌレ生地の焼き型からのせり上がりを抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
〔1〕熱処理小麦粉を含み、小麦粉からなる、カヌレ用小麦粉組成物。
〔2〕前記熱処理小麦粉のグルテンインデックスAの、相当する非熱処理小麦粉のグルテンインデックスBに対する比A/Bが、0.98以下であるか、又は、前記熱処理小麦粉が、ウェットグルテンが形成されない程度に熱処理を受けている、〔1〕記載のカヌレ用小麦粉組成物。
〔3〕前記熱処理小麦粉の含有量が、前記小麦粉組成物全量に対して10質量%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のカヌレ用小麦粉組成物。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のカヌレ用小麦粉組成物を含有する、カヌレ用ミックス粉。
〔5〕工程1:畜乳と、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のカヌレ用小麦粉組成物または〔4〕記載のカヌレ用ミックス粉と、を混合してカヌレ生地を得る工程
工程2:工程1で得たカヌレ生地を焼き型に充填する工程
工程3:工程2で焼き型に充填したカヌレ生地を加熱する工程
を含む、カヌレの製造方法。
〔6〕工程A:工程1の前に、畜乳を加熱して乳清タンパク質を変性させる工程、及び
工程B:工程1で得たカヌレ生地を低温下で10時間以上保持する工程、
のうちの少なくとも1つを含む、〔5〕に記載のカヌレの製造方法。
〔7〕工程A:工程1の前に、畜乳を加熱して乳清タンパク質を変性させる工程、及び
工程B:工程1で得たカヌレ生地を低温下で10時間以上保持する工程、
のうちの少なくとも1つを含まない、〔5〕に記載のカヌレの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カヌレ用生地を寝かせなくとも及び/又は沸騰させてタンパク質を変性させた牛乳を使用しなくとも、焼成時におけるカヌレ生地の焼き型からのせり上がりを抑制することができるため、効率的にカヌレを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、熱処理小麦粉を含み、小麦粉からなる、カヌレ用小麦粉組成物に関する。
【0015】
(1)カヌレ用小麦粉組成物
(1-1)熱処理小麦粉
熱処理小麦粉とは、その製造過程において熱処理が施された小麦粉を言う。熱処理は、原料の小麦穀粒又は製粉後の小麦粉のいずれに対して行ってもよい。原料の小麦穀粒を熱処理した場合であっても、製粉方法に特に制限は無く、例えばロール製粉など従来公知の製粉方法にて製粉し、粉末化すれば良い。熱処理する手法は特に限定されないが、乾熱処理又は湿熱処理が好ましい
【0016】
乾熱処理は、水分や水蒸気を加えずに対象物を加熱する方法で、対象物中の水分の蒸発を積極的に行う熱処理である。例えば、気体又は固体媒介の伝導熱、放射熱、反射熱、熱風、電磁波(マイクロ波)などに曝して加熱する熱処理法が挙げられる。
【0017】
湿熱処理は、飽和水蒸気、熱水又は過熱蒸気等を熱媒体として高湿度雰囲気で対象物を加熱する方法である。熱媒体を直接加熱対象物に接触させても良く、また対象物を高湿度雰囲気下において間接的に加熱しても良い。オートクレーブやスチームオーブン等の装置で実施可能であるが、これに限られない。
【0018】
(1-2)非熱処理小麦粉
非熱処理小麦粉とは、その製造過程において、原料の小麦粉穀粒に対しても製粉後の小麦粉に対しても熱処理が施されていない小麦粉を言う。すなわち、原料の小麦穀粒を熱処理工程に供さず、例えばロール製粉など従来公知の製粉方法にて製粉し、粉末化したものである。
【0019】
(1-3)グルテンインデックス
グルテンインデックスとは、グルテンの質を評価するための指標の一つであり、AACC Internationalの定める公定法(Approved Method 38-12)により求めることができる。具体的には、Perten社 製 The Glutomatic System等を用いてウェットグルテンを採取し、専用の篩カセットに入れて遠心脱水し、篩上に残ったウェットグルテン(a)および篩い抜けのウェットグルテン(b)の質量を測定し、総ウェットグルテン量に占める篩上に残ったウェットグルテン量の割合(a/(a+b)×100)がグルテンインデックスである。ウェットグルテンの弾力が強いほど、篩を通過しないウェットグルテンが多くなるため、グルテンインデックスは大きな値となる。また、熱処理によって小麦穀粒又は小麦粉の蛋白質がダメージを受けるとウェットグルテンの弾力が弱まるため、熱処理の程度が大きくなるほど、グルテンインデックスの値は小さくなる。ウェットグルテンが形成されない程度にまで熱処理を行うと、グルテンインデックスの分母である総ウェットグルテン量(a+b)の値は0になる。本明細書において、この場合のグルテンインデックスは「測定不可」として表される。
本明細書では、熱処理小麦粉のグルテンインデックスをAとし、相当する非熱処理小麦粉のグルテンインデックスをBとして、比A/Bを熱処理の程度の指標として用いる。
【0020】
(1-4)カヌレ用小麦粉組成物
本発明のカヌレ用小麦粉組成物は、熱処理小麦粉を含み、小麦粉からなる。
【0021】
熱処理小麦粉における熱処理の程度は、熱処理小麦粉のグルテンインデックスAの、相当する非熱処理小麦粉のグルテンインデックスBに対する比A/Bが、好ましくは0.98以下、さらに好ましくは0.82以下、さらにより好ましくは0.78以下となる程度である。あるいは熱処理の程度は、グルテンインデックスの測定において、ウェットグルテンが形成されない程度である(グルテンインデックスAが「測定不可」であり、比A/Bとしては表現できない)。「相当する非熱処理小麦粉」とは、グルテンインデックスAを有する熱処理小麦粉と、同じ種類の原料小麦穀粒から、熱処理を行っていないこと以外は同じ製造方法により得られる非熱処理小麦粉を意味する。A/Bの値が上記範囲内となるように熱処理を行うことによって、焼成時におけるカヌレ生地の焼き型からのせり上がりをより抑制することができる。
【0022】
本発明のカヌレ用小麦粉組成物は、熱処理小麦粉を含んでいれば、非熱処理小麦粉を含んでもよく、含まなくてもよい。カヌレ用小麦粉組成物に含まれる熱処理小麦粉の量は、熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉との合計に対して好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらにより好ましくは75質量%であり、特に好ましくは100質量%である。この範囲であれば、焼成時におけるカヌレ生地の焼き型からのせり上がりをより抑制することができる。
【0023】
(2)カヌレ用ミックス粉
本発明のカヌレ用ミックス粉は、上記の小麦粉組成物を含有する。一般に、ミックス粉は、小麦粉等の澱粉質原料と各種の副原料とを含有するものである。本発明のカヌレ用ミックス粉に使用できる副原料としては、一般にベーカリー食品の製造に使用される副原料であれば何れも適用することができる。そのような副原料としては、ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、麦芽糖、粉末はちみつ、デキストリン、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵を粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、オリーブ油、ダイズ油等の固形状あるいは液状の油脂類;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、サポニン、カゼインナトリウム等の乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;香料;色素;香辛料;ビタミン;ラム酒、ブランデーなどの酒類粉末;カルシウム等の強化剤等を挙げることができる。本発明のカヌレ用ミックス粉に含まれる澱粉質原料としては、小麦粉のみであることが好ましいが、食感改良や作業性改善あるいは風味や栄養成分等の付与の目的として米、ライ麦、大麦、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の穀物由来の穀粉;馬鈴薯、里芋、キャッサバあるいは甘藷、山芋等の穀物に準ずる主食となる農作物である塊茎粉あるいは塊根粉;穀物、塊茎、塊根、樹幹等及びそれらのワキシー種又はハイアミロース種から分離精製された澱粉(小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、及びそれらのワキシー澱粉並びにハイアミロース澱粉)、及び、前記澱粉をエーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理、熱処理、酵素処理等並びにそれらを組合せて処理を行った変性澱粉などを使用してもよい。小麦粉以外の澱粉質原料を使用する場合、小麦粉以外の澱粉質原料の量は、小麦粉100質量部に対して30質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下であればよい。
【0024】
(3)カヌレの製造方法
本発明のカヌレ用小麦粉組成物またはカヌレ用ミックス粉を使用することにより、生地を寝かせなくとも及び/又は沸騰させてタンパク質を変性させた牛乳を使用しなくとも、焼成時におけるカヌレ生地の焼き型からのせり上がりを抑制することができる。したがって、本発明の製造方法においては、従来の製造方法で行われている畜乳の加熱変性工程及びカヌレ生地を低温下で保持する(寝かせる)工程を省略することができ、効率的にカヌレを製造することができる。すなわち、本発明のカヌレの製造方法は、以下の工程1~3を含み、任意に、工程A及び/又は工程Bを含んでもよい。
【0025】
(3-1)工程1:カヌレ生地を得る工程
カヌレ生地を得る工程1では、牛乳等の畜乳と、本発明のカヌレ用小麦粉組成物またはカヌレ用ミックス粉とを混合する。混合手段としては公知の手段を特に制限はなく使用することができる。例えば、本発明のカヌレ用小麦粉組成物と、グラニュー糖等の甘味性糖類、食塩等の塩類、ショートニング等の油脂類、グアガム等の増粘多糖類などの穀粉以外の粉末原料と、畜乳と、全卵液等の卵原料などの畜乳以外の液体原料とを汎用的なミキサーに投入して混合することによりカヌレ生地を得ることができる。ないしは、本発明のカヌレ用ミックス粉に卵原料、畜乳を混合してカヌレ生地を得てもよい。具体的には、前記材料をミキサーボールに投入し、ホイッパーを用いて低速で1分間攪拌し、かき落とししてさらに低速で1分間攪拌し、目開き2mmメッシュで濾してカヌレ生地を得ることができる。
【0026】
(3-2)工程2:カヌレ生地を焼き型に充填する工程
工程2では、工程1で得たカヌレ生地を焼き型に充填する。焼き型の内側には、あらかじめ蜜蝋やバターなどの油脂を塗っておくことが好ましい。充填方法には特に制限は無く、例えば、焼き型に生地を注ぎ入れてもよい。
【0027】
(3-3)工程3:カヌレ生地を加熱する工程
焼き型に充填したカヌレ生地を加熱する方法は特に制限されるものではなく、一般的なベーカリー食品の加熱方法に倣えばよい。具体的には、カヌレ生地を充填した焼き型ごと予熱したオーブンに投入し、200~250℃で30~90分間加熱する。オーブンから焼き型ごと取り出し、室温等で10分間以上放冷し、焼き型から取り出してカヌレを得ることができる。
【0028】
(3-4)任意工程A:畜乳の加熱変性工程
本発明の製造方法は、工程1の前に、畜乳の加熱変性工程Aを含んでもよい。工程Aでは、例えば、鍋に分量の畜乳を入れ攪拌しながらふつふつ泡が出てくるまで加熱沸騰させ、火からおろし、40~60℃くらいまで冷ます。または溶かしバターを加えた後に40~60℃くらいまで冷ます。畜乳を沸騰させることで、畜乳中のホエータンパクが変性し、工程3における加熱中の生地の膨張をより抑制することができる。畜乳が熱いままでは後に工程1で混合する卵や小麦粉が煮えて固まりダマができるので、冷ましてから工程1に使用する。
【0029】
(3-5)任意工程B:カヌレ生地を低温下で保持する工程
本発明の製造方法は、工程2の前に、工程1で得たカヌレ生地を低温下で保持する工程Bを含んでもよい。工程Bでは、例えば、生地を容器に入れて蓋をし、冷蔵庫で少なくとも10時間、好ましくは24時間寝かせる。生地の保持温度は、グルテンの形成を抑制するため、15℃以下、生地が凍結しない温度であればよく、通常の冷蔵庫を使用できる。寝かし時間を10時間以上にすることにより、工程3における加熱中の生地の膨張をより抑制することができる。
【実施例0030】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0031】
<製造例1 熱処理小麦粉の製造>
(a)原料となる小麦穀粒(軟質小麦:アメリカ産Western White)を函体に投入し、撹拌しながら、約100℃の水蒸気を吹き込んで処理時間を調節して湿熱処理を行い、湿熱処理後、開放系で自然冷却した。この湿熱処理した小麦穀粒をロール製粉で歩留50%になるよう粉砕し、熱処理時間の異なる湿熱処理粉を得た(原料熱処理粉ア~エ)。
(b)小麦粉(株式会社ニップン製、ハート)を庫内温度(雰囲気温度)110℃に設定したパドルドライヤー(株式会社奈良機械製作所)に投入し、10分間乾熱処理した。乾熱処理後、開放系で自然冷却して乾熱処理小麦粉を得た。(乾熱処理粉オ)。
(c)小麦粉(株式会社ニップン製、ハート)を函体に投入し、撹拌しながら、約100℃の水蒸気を吹き込んで5分間の湿熱処理を行い、湿熱処理後、開放系で自然冷却した。得られた粉粒体をピンミルで粉砕し、湿熱処理粉を作製した(湿熱処理粉カ)。
(d)原料となる小麦穀粒(軟質小麦:アメリカ産Western White)を加熱せず、ロール製粉で歩留50%になるよう粉砕し、非加熱の小麦粉を得た(非熱処理粉ア)(「株式会社ニップン製、ハート」に相当)。
(e)ロール製粉で歩留75%になるよう粉砕した以外は非熱処理粉アと同様にして、非加熱の小麦粉を得た(非熱処理粉イ)。
【0032】
<製造例2 カヌレの製造>
下記配合表の原料を用いてカヌレを製造した。すなわち、
(1)鍋に牛乳を入れて沸騰させ、40℃まで冷ました。
(2)全てのカヌレ生地原材料をミキサーに投入し、ホイッパーを用いて低速1分混合した。
(3)かき落としを行い、再度低速1分混合し、出来上がった生地をこし器で丁寧にこした。
(4)こした生地を冷蔵庫(5℃)で一晩(12時間)休ませた。
(5)カヌレ型の内側に油を塗り、前記生地を75g充填した。
(6)予め予熱した230℃のオーブンで1時間焼成した。
【0033】
配合表
【表1】
【0034】
<評価例1 カヌレの目視評価>
焼成後のカヌレについて、型に入った状態で型からせり上がり、はみ出ている部分の高さを定規による目視で測定し、焼成後のカヌレ全体の高さに対するせり上がり部分の高さの割合(%)で表した。評価方法は、下記評価基準表に従って行い、10個の平均値を算出した。
【0035】
評価基準表
【表2】
【0036】
<試験例1 グルテンインデックス測定>
製造例1で作製した熱処理粉及び非熱処理粉のグルテンインデックスを測定した。グルテンインデックスの測定は、AACC Internationalの定める公定法(Approved Method 38-12)に従い、Perten社製The Glutomatic Systemを用いてウェットグルテンを採取し、専用の篩カセットに入れて遠心脱水したのち、篩上に残ったウェットグルテンの質量を、篩上および篩い抜けのウェットグルテンの合計質量に対する割合(質量%)で表した。結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

*測定不可:熱処理の程度が大きく、ウェットグルテンが形成されなかったため、グルテンインデックスの測定が不可能であった。
【0038】
<試験例2 熱処理及び寝かしの有無の検討>
小麦粉として製造例1に従い作製した熱処理粉及び非熱処理粉を使用して、表4に記載したように牛乳の沸騰工程(工程(1))と生地の寝かし工程(工程(4))の有無を変更した以外は、製造例2に従ってカヌレを各10個製造した。製造したカヌレは評価例1の評価基準表に従って評価し、算出した平均値を表4に示す。
【0039】
【表4】
*A/B:各熱処理粉のグルテンインデックスAの、相当する非熱処理粉アのグルテンインデックスBに対する比を表す。
**測定不可:グルテンインデックスAが測定不可であったため、A/Bを算出できない。
【0040】
熱処理粉を用いた実施例1~6では、工程(1)及び(4)を実施せずとも、非熱処理粉を用いた参考例1、2よりも型からのせり上がりが改善された。熱処理粉を用いた実施例7~12では、工程(1)を実施せずとも、非熱処理粉を用いた参考例3、4よりも型からのせり上がりが改善された。熱処理の程度が弱い、原料熱処理粉ア~ウでは、工程(4)を実施しなかった実施例1~3よりも、工程(4)を実施した実施例7~9の方が、型からのせり上がりをより抑えられた。熱処理の程度が強い、熱処理粉エ~カでは、工程(4)の実施有無で結果に差が見られず(実施例4~6、10~12)、いずれも型からのせり上がりを抑えられた。
【0041】
非熱処理粉アを使用した参考例1及び3と比較して、非熱処理粉アよりもグルテンインデックスの小さい非熱処理粉イを使用した参考例2及び4では、工程(1)及び(4)を実施しなかった場合(参考例1、2)と工程(1)を実施しなかった場合(参考例3、4)のいずれも、型からのせり上がりの抑制はみられなかった。非熱処理粉イよりもグルテンインデックスの大きい原料熱処理粉アを使用した実施例1及び7では、それぞれ相当する非熱処理粉アを使用した参考例1及び3よりも型からのせり上がりが抑制えられた。このことから、型からのせり上がりの抑制効果は、単にグルテンインデックスが小さい小麦粉を使用することによるものではなく、熱処理によってグルテンインデックスが低減されている小麦粉(熱処理小麦粉)を使用することによるものであると解される。
【0042】
<試験例3 畜乳の沸騰による影響の検討>
小麦粉として製造例1に従い作製した熱処理粉及び非熱処理粉を使用して、表5に記載したように生地の寝かし工程(工程(4))を実施しなかった以外は、製造例2に従ってカヌレを各10個製造した。製造したカヌレは評価例1の評価基準表に従って評価し、算出した平均値を表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
熱処理の程度に関わらず、熱処理粉を使用した実施例13~18では、非熱処理粉を使用した参考例5、6と比較して、工程(4)を実施せずとも、型からのせり上がりが抑えられた。熱処理の程度が強い方が、型からのせり上がりがより抑えられる傾向がみられた。非熱処理粉アよりもグルテンインデックスの小さい非熱処理粉イを使用した参考例6では、非熱処理粉アを使用した参考例5と比較して、型からのせり上がりの抑制はみられなかった。
【0045】
<試験例4 熱処理小麦粉の配合割合の検討>
小麦粉として製造例1に従い作製した熱処理粉ウ及び非熱処理粉アを使用して、表6に記載したように牛乳の沸騰工程(工程(1))と生地の寝かし工程(工程(4))を実施せず、熱処理粉と非熱処理粉の配合割合を変更して、製造例2に従ってカヌレを各10個製造した。製造したカヌレは評価例1の評価基準表に従って評価し、算出した平均値を表6に示す。
【0046】
【表6】
【0047】
工程(1)及び(4)を実施せずとも、熱処理粉が含まれていれば型からのせり上がりが抑えられた。熱処理粉の割合が多いほど、型からのせり上がりがより抑えられる傾向がみられた。
【0048】
<試験例5 従来の製造方法における熱処理粉の検討>
小麦粉として製造例1に従い作製した熱処理粉及び非熱処理粉を使用して、製造例2に従ってカヌレを各10個製造した。製造したカヌレは評価例1の評価基準表に従って評価し、算出した平均値を表7に示す。
【0049】
【表7】
【0050】
従来の標準的な製造方法であっても、熱処理粉を用いることにより型からのせり上がりが抑えられた。