(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114441
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20240816BHJP
C23C 16/507 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23C16/507
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020219
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 崇央
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA05
2G084AA13
2G084BB02
2G084BB05
2G084BB14
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD03
2G084DD13
2G084DD55
2G084FF15
2G084FF20
4K030FA04
4K030KA02
4K030KA30
(57)【要約】
【課題】誘導結合プラズマにより形成されるプラズマの電子密度分布を調節して、基板に対して均一にラジカルを供給すること。
【解決手段】プラズマ処理装置は、処理容器内に設けられ、基板を載置するための載置台と、前記載置台側に向けて開口する内部空間を備え、当該内部空間を仕切板で仕切ることで前記載置台に沿って複数の区画空間が形成された放電容器と、前記区画空間に連通するように前記放電容器に取り付けられ、前記区画空間と共にループ状のプラズマ流路を構成する放電管と、前記プラズマ流路に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、高周波電源から電力が供給されて磁場を生成させるコイルを含み、前記磁場の電磁誘導により、前記プラズマ流路にて前記処理ガスをプラズマ化するように構成されたプラズマ形成機構と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマにより活性化した処理ガスを処理容器内の基板に供給してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、
前記処理容器内に設けられ、前記基板を載置するための載置台と、
前記載置台に対向して配置され、前記載置台側に向けて開口する内部空間を備え、当該内部空間を仕切板で仕切ることにより、前記載置台に沿って複数の区画空間が形成された放電容器と、
前記区画空間に連通するように前記放電容器に取り付けられ、前記区画空間と共にプラズマ化した処理ガスが流通するループ状のプラズマ流路を構成する少なくとも1つの放電管と、
前記プラズマ流路に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、
高周波電源から電力が供給されて磁場を生成させるコイルを含み、前記磁場の電磁誘導により、前記プラズマ流路にて前記処理ガスをプラズマ化するように構成されたプラズマ形成機構と、
を備える、プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記複数の区画空間は、各々、前記載置台側から見て細長い矩形状に形成されると共に、これらの区画空間の長辺方向と交差する方向に向けて互いに隣り合うように配列され、
前記放電管が複数、設けられると共に、これらの放電管は、各々、前記複数の区画空間に対し、前記長辺方向の一端側に設けられた一端部と、前記一端側とは反対の他端部側に設けられた他端部とを連通させるように取り付けられることにより前記ループ状のプラズマ流路が構成された、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
複数の前記放電管は、前記仕切り板を介して互いに隣り合って横並びに配置された2つの区画空間のうちの一方側の前記一端部と、他方側の前記他端部とを連通させるように取り付けられ、さらに、前記横並び配列の両端に位置する2つの区画空間の一方側の前記一端部と他方側の前記他端部とを連通させるように取り付けられた放電管を備える、請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
複数の前記放電管は、同一の前記区画空間の前記一端部と前記他端部とを連通させるように、複数の前記区画空間の各々に設けられている、請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記複数の区画空間及び前記少なくとも1つの前記放電管は、前記ループ状のプラズマ流路にてプラズマ化した前記処理ガスを流れるプラズマ電流の方向が、前記コイルの磁場による電磁誘導の向きに沿った方向となるように設けられている、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記プラズマ形成機構は、前記放電管を囲むように設けられた前記コイルによって構成される、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記プラズマ形成機構は、前記放電管を囲むように環状に形成され、前記コイルが巻き付けられた磁性部材を含む、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記放電管が複数、設けられている場合に、前記磁性部材は、複数の前記放電管を一括して囲む枠状体として形成され、
前記コイルは、その軸心方向が、前記枠状体による、前記放電管の囲み方向に沿うように設けられている、請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記放電容器及び前記放電管の少なくとも一方には、前記ループ状のプラズマ流路に形成されたプラズマ電流が管壁を伝って散逸することを防ぐための誘電体部が設けられている、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記放電容器には、前記区画空間を排気するための排気ポートが形成されている、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記放電容器の前記開口側には、イオントラップ部材及びシャワーヘッドの少なくとも一方が設けられている、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
処理容器内に設けられ、基板を載置するための載置台と、前記載置台に対向して配置され、前記載置台側に向けて開口する内部空間を備え、当該内部空間を仕切板で仕切ることにより、前記載置台に沿って複数の区画空間が形成された放電容器と、前記区画空間に連通するように前記放電容器に取り付けられ、前記区画空間と共にプラズマ化した処理ガスが流通するループ状のプラズマ流路を構成する少なくとも1つの放電管と、前記プラズマ流路に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、高周波電源から電力が供給されて磁場を生成させるコイルを含み、前記磁場の電磁誘導により、前記プラズマ流路にて前記処理ガスをプラズマ化するように構成されたプラズマ形成機構と、を用い、
前記処理ガス供給部により前記処理ガスを供給する工程と、
前記プラズマ形成機構により前記処理ガスをプラズマ化する工程と、
前記プラズマ流路のプラズマ化した前記処理ガスを前記開口から放出し、前記載置台に載置された前記基板に供給してプラズマ処理を行う工程と、
を含む、プラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細パターンの成膜に適する原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)においては、反応ガスなどの処理ガスの反応性を向上させ、かつプロセス温度を低下させるため、プラズマを利用する場合がある。このようなプラズマALD法(PEALD)では、処理空間から離れた位置にプラズマ形成機構及びプラズマ形成空間を設けるリモートプラズマ方式を採用することがある。このリモートプラズマ方式によれば、放電やイオンによる基板や処理容器内等の損傷を抑制しながら処理ガスのプラズマに含まれるラジカルを供給できる。
【0003】
プラズマ形成手段は、様々な手法があり、その一例として、高周波電力が供給されることにより磁場を生じるコイルを備え、磁場による電磁誘導で処理ガスをプラズマ化する誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma、ICP)がある。特許文献1には、プラズマ形成空間を構成するプラズマドームの上部に配置された高周波コイルで第1プロセスガスをプラズマ化し、プラズマドーム下方に設けられたチャンバー内のウエハに供給する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0301013号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、誘導結合プラズマにより形成されるプラズマの電子密度分布を調節して、基板に対して均一にラジカルを供給する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のプラズマ処理装置は、
プラズマにより活性化した処理ガスを処理容器内の基板に供給してプラズマ処理を行い、
前記処理容器内に設けられ、前記基板を載置するための載置台と、
前記載置台に対向して配置され、前記載置台側に向けて開口する内部空間を備え、当該内部空間を仕切板で仕切ることにより、前記載置台に沿って複数の区画空間が形成された放電容器と、
前記区画空間に連通するように前記放電容器に取り付けられ、前記区画空間と共にプラズマ化した処理ガスが流通するループ状のプラズマ流路を構成する少なくとも1つの放電管と、
前記プラズマ流路に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、
高周波電源から電力が供給されて磁場を生成させるコイルを含み、前記磁場の電磁誘導により、前記プラズマ流路にて前記処理ガスをプラズマ化するように構成されたプラズマ形成機構と、
を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、誘導結合プラズマにより形成されるプラズマの電子密度分布を調節して、基板に対して均一にラジカルを供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る成膜装置を示す縦断側面図である。
【
図2A】第1実施形態における放電容器2及び放電管10を示す上方斜視図である。
【
図2B】第1実施形態における放電容器2及び放電管10を示す下方斜視図である。
【
図2C】第1実施形態における放電容器2、放電管10、及びプラズマ形成機構3を示す上方斜視図である。
【
図3】第1実施形態のプラズマ流路P1における反応ガス供給時の作用を示す図である。
【
図4】第1実施形態のプラズマ流路P1における反応ガス供給時の作用を示す図である。
【
図5A】第1実施形態のプラズマ流路P1における反応ガス供給時の作用を示す図である。
【
図5B】第1実施形態のプラズマ流路P1における反応ガス供給時の作用を示す図である。
【
図6】第1実施形態のプラズマ流路P1の残留ガス排気時の作用を示す図である。
【
図7A】放電容器2及び放電管10の他の接続例を示す平面図である。
【
図7B】放電容器2及び放電管10の他の接続例を示す平面図である。
【
図7C】放電容器2及び放電管10の他の接続例を示す平面図である。
【
図8】第2実施形態の放電容器2、放電管10、及びプラズマ形成機構3Aを示す平面図である。
【
図10】第3実施形態の放電容器2、放電管10、及びプラズマ形成機構3Bを示す上方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本開示に係るプラズマ処理装置の第1の実施形態として、基板である半導体ウエハW(以後、基板Wという)に対し、処理ガスの誘導結合プラズマを用いて成膜を行う成膜装置1について
図1を参照して説明する。
図1は本実施形態に係る成膜装置1を示す縦断側面図である。
【0010】
成膜装置1は、基板Wが配置された処理容器5と、処理ガス供給機構7(原料ガス供給部71、反応ガス供給部72)と、処理容器5の上に配置されて、処理ガスである反応ガスが供給されるプラズマ流路P1と、プラズマ流路P1に供給された反応ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構3と、を備えている。成膜装置1は、プラズマにより活性化された反応ガスを処理容器5内に供給し、もう一方の処理ガスである原料ガスと反応させて基板Wに成膜処理を行う。
【0011】
処理容器5は、上面側が開口し、側壁には、基板Wの搬入出を行うための搬入出口53と、この搬入出口53を開閉するゲートバルブ54と、が設けられている。処理容器5内には、基板Wを水平に載置するための金属製の載置台8が設けられている。載置台8には基板用ヒータ81が埋設され、基板用ヒータ81は、不図示の電源から給電されることにより基板Wを予め設定された温度に加熱する。
【0012】
載置台8は、円筒形状の支柱86に支えられ、支柱86は処理容器5の底部に取り付けられている。載置台8には、基板Wを支持して昇降させるための3本(2本のみ図示)の基板支持ピン84が載置台8の表面に対して突没可能に設けられ、これら基板支持ピン84は支持板83に固定されている。そして、基板支持ピン84は、エアシリンダ等の不図示の駆動機構により支持板83を介して昇降される。
【0013】
処理容器5は、図示しない加熱機構を有し、これらは図示しない電源から給電されることにより予め設定された温度に加熱される。処理容器5の底部の開口部56には排気管87が接続され、この排気管87には、処理容器側排気機構89が接続されている。処理容器5の底部の開口部56及び排気管87は、処理容器5内の処理ガスを排気するように排気流路を形成している。そしてこの処理容器側排気機構89は、処理容器5内を予め設定された真空度まで減圧するように動作する。
【0014】
処理ガス供給機構7は、PEALD成膜を行う際に用いる処理ガスとして、基板Wに形成しようとする膜の構成元素を含む原料ガス、原料ガスと反応する反応ガス、及びパージガス等を供給する。原料ガスおよび反応ガスは、成膜しようとする膜に応じて種々のものを用いることができる。パージガスとしては、不活性ガス、例えばAr(アルゴン)ガス、He(ヘリウム)ガス等の希ガスや、N2(窒素)ガスを用いることができる。
【0015】
処理ガス供給機構7は、原料ガス及びパージガスを供給するための原料ガス供給部71と、反応ガス及びパージガスを供給するための反応ガス供給部72と、によって構成されている。PEALDを実施して成膜を行う場合、原料ガス供給部71及び反応ガス供給部72は、パージガスの供給を継続したまま、原料ガスと反応ガスとを交互にかつ間欠的に供給する。
【0016】
原料ガス供給部71には、原料ガス供給路73の上流端が接続され、反応ガス供給部72には、反応ガス供給路74の上流端が接続されている。原料ガス供給部71及び反応ガス供給部72は、これら供給路73、74を介して各種処理ガスを供給する。原料ガス供給路73及び反応ガス供給路74には、それぞれバルブ類および、例えばマスフローコントローラにより構成される流量制御器が設けられている。以下、原料ガス供給部71による原料ガス及びパージガスの供給を単に原料ガスの供給ということもあり、反応ガス供給部72による反応ガス及びパージガスの供給を単に反応ガスの供給ということもある。
【0017】
プラズマ流路P1は、放電容器2内に形成された複数の区画空間24と、各区画空間24に接続された複数の放電管10と、によって構成され、後述するようなループ状の流路になっている。放電容器2は、処理容器5の上面側の開口を塞ぐように載置台8の上方に対向して配置される。例えば放電容器2は、直方体形状に構成され、載置台8に向けて開口する内部空間を含んでいる。
図2A、
図2Bは、放電容器2及び放電管10を示す上方側及び下方側から見た斜視図であり、プラズマ形成機構3など他の構成の図示を省略している。
【0018】
放電容器2は、金属製であり、内部空間を囲むように設けられた矩形状の上壁部21と、上壁部21の四辺に沿うように設けられた4つの側壁部22と、によって既述の直方体形状を構成している。以下、説明の便宜上、4つの側壁部22のうち、平面視した際にX方向に沿って延在する2つの側壁部22をX側壁部22a、Y方向に沿って延在する2つの側壁部22をY側壁部22bとも呼ぶ。
【0019】
放電容器2には、載置台8に沿って内部空間を仕切るように配置された8枚の仕切板23が形成されている。これら仕切板23は、それぞれY側壁部22bに沿って配置された板状体であり、X側壁部22aに沿って相互に離間して配列されている。これらの仕切板23により、本例の内部空間は載置台8に沿って9個の区画空間24に分割され、各区画空間24の下面側には区画開口25が形成された構成となっている。
【0020】
上述の構成により各区画空間24は、Y方向に沿って長い直方体状の空間に形成されている。以後、Y方向において、各図に併記したY軸の矢印に沿って先端側(+Y側)を手前側、基端側(―Y側)を奥手側ともいうことがある。同じくX軸の矢印に沿って、先端側(+X側)を右側、基端側(―X側)を左側といい、X方向を左右方向ということもある。
図1に示すように各区画空間24は、詳細には、伸長方向に直交する断面視において概ね正方形状になるように形成されている。また各区画空間24は、載置台8側から見て、Y方向に沿って細長く伸びるような矩形状に形成され、各区画開口25の形状は、当該矩形に一致する。これらの区画空間24は、載置台8に沿うように面状に配置されている。詳細には、これらの区画空間24は、当該矩形の長辺方向と交差する方向に向けて、仕切板23を介して互いに隣り合うように横並びに配列されている。
【0021】
放電容器2には、各区画空間24を排気するための複数の排気ポート26と、放電管10を接続するための複数の接続口27と、が形成されている。接続口27は、区画空間24に連通し、かつ区画空間24から上方に向かって開口するように上壁部21に形成されている。そしてこれらの接続口27は、各区画空間24の伸長方向における端部を構成する手前側端部24a及び奥手側端部24bにそれぞれ配置されている。
【0022】
排気ポート26は、区画空間24毎に対応して、手前側のX側壁部22aに9個設けられている。各排気ポート26は、それぞれ区画空間24の手前側端部24aに連通するように形成されている。
図1に示すように各排気ポート26には、排気路76の上流端がそれぞれ接続され、これらの排気路76は下流側にて合流した後、下流端にて排気機構77に接続されている。排気機構77は、排気路76及び排気ポート26を介して各区画空間24を排気するように動作する。
【0023】
図2Aに示すように、複数の放電管10は、Y方向に沿って伸びる伸長部11と、伸長部11の両端を下方に向けて屈曲させるように形成された2つの屈曲端部12と、をそれぞれ備えた細長い金属製の配管である。各放電管10は、伸長部11及び2つの屈曲端部12に沿って形成され、かつ分岐が無い1本の流路を構成する。当該流路は、各屈曲端部12の先端で開口している。各放電管10には、ループ状のプラズマ流路P1に形成されたプラズマ電流が管壁を伝って散逸することを防ぐように構成された環状の誘電体部14が設けられている。
【0024】
さらに各放電管10には、流路に反応ガスを供給するための給気ポート15が形成されている。これらの給気ポート15は、伸長部11の手前側端部において流路に連通するように形成され、反応ガス供給路74の下流端がそれぞれ接続されている。これらの反応ガス供給路74は、上流側にて合流した後、反応ガス供給部72に接続されている。反応ガス供給部72は、これらの反応ガス供給部72及び給気ポート15を介して各流路に反応ガスを供給する。
【0025】
このような構成の放電管10は、放電容器2の上壁部21に9本設けられ、それぞれの流路を介して2つの区画空間24を連通するように放電容器2に取り付けられている。9本の放電管10は、8本の隣接放電管10Cと、1本のループ放電管10Lと、によって構成されている。隣接放電管10Cは、隣り合う2つの区画空間24を接続する役割を果たす。またループ放電管10Lは、放電容器2の左端に位置する区画空間24と、右端に位置する区画空間24とを接続することにより、プラズマ流路P1のループを形成する役割を果たす。
【0026】
隣接放電管10Cは、仕切板23を介して左右に隣り合って配置された2つの区画空間24を連通させるように設けられている。具体的には
図2A及び
図3に示すように、各隣接放電管10Cの手前側の屈曲端部12は、右側に位置する一方側の区画空間24の手前側端部24a上に取り付けられている。また、各隣接放電管10Cの奥手側の屈曲端部12は、左側に位置する他方側の区画空間24の奥手側端部24b上に取り付けられている。上述の構成により8本の隣接放電管10Cは、9個の区画空間24を右端から左端に向かって順に繋いでいる。
【0027】
図3に示すように放電容器2を上面側から平面視したとき、8本の隣接放電管10Cは、伸長方向に交差する方向に向けて横並びに配列されている。但し既述のように、各隣接放電管10Cは隣り合う2つの区画空間24を接続する構成となっていることから、各区画空間24の伸長方向(Y方向)に対し、各隣接放電管10Cは鋭角を成すように、奥手側の端部を左側に傾けて配置されている。なおこれらの隣接放電管10Cは互いに同一形状に構成され、2つの屈曲端部12のZ方向の長さ、伸長部11の長さ、及び流路の断面積が一様である。
【0028】
既述のようにループ放電管10Lは、9個の区画空間24において横並びの両端に位置する2つの区画空間24を連通させるように設けられている。具体的にはループ放電管10Lの手前側の屈曲端部12は、放電容器2の左端側に位置する区画空間24の手前側端部24a上に取り付けられている。また、ループ放電管10Lの奥側の屈曲端部12は、放電容器2の右端に位置する区画空間24の奥手側端部24b上に取り付けられている。上記の構成によりループ放電管10Lの内部の流路は、放電容器2の各接続口27を介して左右端に位置する区画空間24を繋いでいる。このように、9個の区画空間24は、8本の隣接放電管10Cと1本のループ放電管10Lとによりループ状に繋がれている。
【0029】
図2A、
図3に示すようにループ放電管10Lは、隣接放電管10Cと比較して屈曲端部の高さ寸法及び伸長部11の長さ寸法が大きく形成されている。一方、流路の断面積が一様になるように形成されている点は、各隣接放電管10Cと同様である。そしてループ放電管10Lは、既述の区画空間24の並びをまたぐように配置されている。そして、既述のように左端側の区画空間24の手前側端部24aと右端側の区画空間24の奥手側端部24bとを繋ぐように取り付けられていることにより、ループ放電管10Lは、各区画空間24の伸長方向(Y方向)に対し、鋭角を成すように、奥手側の端部を右側に向けて傾斜するように配置されている。
【0030】
以上に説明したように、プラズマ流路P1は、9本の放電管10と9個の区画空間24とが交互に繋がれて、1つのループ状の流路に形成されている。そして既述のように、このプラズマ流路P1には、各放電管10に設けられた給気ポート15が合計9個配置されている。これらの給気ポート15は、プラズマ流路P1に概ね一定の間隔で配置された構成となっている。このため、プラズマ流路P1内にこれらの給気ポート15から反応ガスが供給されるため、放電管10から各区画空間24に流れ込む反応ガスの濃度を概ね均一にできる。そして後述するように、当該プラズマ流路P1においては、放電管10に設けられたプラズマ形成機構3によって反応ガスをプラズマ化するため、各区画空間24に流れ込む反応ガスのプラズマ密度(電子密度)も均一化できる。
【0031】
放電管10内で形成された反応ガスのプラズマは、給気ポート15から供給されたパージガスと共にプラズマ流路P1内を流れて拡散し、プラズマ流路P1の出口に向かって流れる。本例において、プラズマ流路P1の出口は、各区画空間24の区画開口25によって構成され、反応ガスのプラズマはこれらの区画開口25を介して処理容器5側へ供給される。なお、反応ガスの供給を終了する際には、排気機構77を稼働させることにより、各区画空間24内の反応ガスを排気ポート26側へも排出することができる。
【0032】
プラズマ流路P1は、区画空間24の矩形状の下面全体を区画開口25として構成されているため、各区画空間24に流れ込んだ反応ガスのプラズマを一様に排出することができる。そしてループ状のプラズマ流路P1に沿って見たとき、反応ガスのプラズマが形成される放電管10と区画空間24とが交互に配置されている。このため、各区画空間24には概ね同濃度かつ同量のプラズマが供給され、これらの区画空間24から区画開口25を介して処理容器5に向けて処理ガスのプラズマを一様に排出される。そして既述の複数の区画空間24の配置に対応して、これらの区画開口25についても、Y方向に沿って伸長するように形成されると共に左右方向に並べて配置されているため、載置台8の上面側を複数の区画開口25で覆った構成とすることができる。そして、各区画空間24から反応ガスのプラズマを一様に排出することにより、基板Wの処理面に向けて、当該反応ガスのプラズマを高密度且つ均一に供給し、基板Wの成膜処理を均一化できる。
【0033】
また給気ポート15と同様に、プラズマ流路P1内に残存した反応ガスを排出する9個の排気ポート26は、一定間隔で区画空間24に配置されている。このため、反応ガス供給終了時には、各区画空間24内に残存する処理ガスのプラズマを速やかに排出することにより、区画開口25から処理容器5内へ向けてのプラズマの放出を速やかに停止できる。
【0034】
図1に示すように、放電容器2の下方側(各区画開口25の出口側)には、イオントラップ部材61及びシャワーヘッド62が配置されている。イオントラップ部材61は、各区画開口25の一部を塞ぐように設けられたイオントラップ領域61aを含んでいる。
図1においてイオントラップ領域61aには、クロスハッチングを付して示してある。当該イオントラップ領域61aには、イオントラップ部材61を上下に貫通する不図示の孔部が多数形成されている。このイオントラップ領域61aにおいては、処理ガスのプラズマに含まれるイオンをイオントラップ部材61に衝突させることにより、これらのイオンが処理容器5内へ向けて通過することを抑制する。一方、処理ガスのプラズマに含まれるラジカルは、多数の孔部を通過して下方側に放出される。
【0035】
シャワーヘッド62は、イオントラップ部材61の下方側に配置され、かつ処理容器5の上面側の開口を塞ぐように配置されている。シャワーヘッド62には、イオントラップ部材61を通過したラジカルを豊富に含む反応ガスのプラズマを処理容器5内に供給するための複数の反応ガス供給孔63が形成されている。
【0036】
さらにシャワーヘッド62には、原料ガスを処理容器5内に供給するための複数の原料ガス供給孔64が形成されている。これらの原料ガス供給孔64は、既述の反応ガス供給孔63とは離間して設けられ、載置台8に向けて複数開口している。これらの原料ガス供給孔64は、例えば
図1中に破線で示すように、原料ガス供給路73に接続されている。この構成により、原料ガス供給部71から供給された原料ガスは、原料ガス供給路73及び原料ガス供給孔64を通過して処理容器5内に分散して放出される。
【0037】
一方、複数の反応ガス供給孔63は、上下方向に向けてシャワーヘッド62を貫通するように設けられ、放電容器2側の区画開口25の直下領域において相互に離間して均一に配置されている。この構成により、プラズマ流路P1内にて形成された処理ガスのプラズマ(既述のようにパージガスを含んでもよい)は、各区画開口25、イオントラップ領域61a、及び反応ガス供給孔63を順に通過して処理容器5内に供給される。
【0038】
図2Cは、放電容器2、放電管10、及びプラズマ形成機構3を上方側から見た斜視図である。プラズマ形成機構3は、高周波電源31と、高周波電力が供給されることで磁場を発生するコイル32と、コイル32が巻き付けられた磁性体から成る枠体(磁性部材、枠状体)33と、を備えている。このプラズマ形成機構3は、コイル32に高周波電力を印加して形成される磁場の電磁誘導によって誘導結合プラズマを形成する。詳細には、プラズマ形成機構3は、磁性体で強化された磁場によってプラズマ化された強磁性誘導結合プラズマ(Ferro Magnetic ICP、FMICP)を形成するように構成されている。
【0039】
枠体33は、上下方向で対向する2つの水平部33aと、これらの水平部33aを繋ぐようにそれぞれ設けられ、かつ相互に対向して配置された2つの側部33bと、によって、側面(
図2Cに示す例では手前側)から見て矩形環状に構成されている。枠体33は、下側の水平部33aが放電容器2の上壁部21に接するように上壁部21上に配置されている。そして枠体33は、9本の放電管10の伸長部11を一括して囲むように配置されている。枠体33による放電管10の囲み方向、つまり既述の矩形環の周方向は、放電管10の伸長方向と交差している。これらの放電管10は、枠体33の手前側周縁と奥手側周縁とによって構成された2つの開口から各屈曲端部12を延出させて放電容器2に取り付けられている。枠体33は、例えばフェライトで形成されている。
【0040】
コイル32は、上側の水平部33aに巻き付けられ、軸心方向が枠体33による放電管10の囲み方向と沿うように設けられている。コイル32の一端には、整合器31aを介して高周波電源31が接続され、他端が接地されている。このような構成のプラズマ形成機構3によれば、高周波電力が供給されたコイル32の軸心側において発生した磁界を枠体33内で枠体33の周方向に沿うように増強する。この増強された磁界は、電磁誘導によりプラズマ流路P1内の反応ガスをプラズマ化する。
【0041】
反応ガスのプラズマに含まれる電子は、電磁誘導によってプラズマ流路P1内を移動する。このとき、区画空間24及び放電管10は、後述するような電磁誘導の向きに沿った方向に向けて設けられているため、ループ状のプラズマ流路P1を循環するようにプラズマ電流が流れる。このプラズマ電流は、反応ガスのプラズマ化を促進し、かつプラズマ流路P1内のプラズマ密度を概ね均一に向上する。また、当該プラズマ流路P1は、9個の区画空間24と9本の放電管10とを上下に重ねて配置した構造となっている。この結果、処理ガスのプラズマが形成されて流れる空間であるプラズマ流路P1自体を低容積化し、かつ低背化できる。このように低容積化されたプラズマ流路P1を用いることにより、反応ガスのプラズマの給排気を高速化できる。
【0042】
図1に示すように成膜装置1には、コンピュータによって構成される制御部100が設けられており、制御部100はプログラムを備えている。このプログラムには、制御部100から成膜装置1の各部に制御信号を送り、後述する処理を実行することができるように命令が組み込まれている。制御部100は、各工程に合わせて処理ガス供給機構7、高周波電源31、排気機構77、及び処理容器側排気機構89等の各種動作を上記プログラムによって制御する。このプログラムは例えば、コンパクトディスク、ハードディスク、メモリーカード、DVDなどの記憶媒体に格納されて制御部100にインストールされる。
【0043】
ここで誘導結合プラズマは、コイルの形状によってラジカルの濃度分布に偏りが起き易いため、処理ガスのプラズマを形成する空間では、濃度が均一になるように当該プラズマの流れを形成し、基板Wに供給することが求められる。この点、本実施の形態の成膜装置1は、既述のようにプラズマ形成機構3が設けられた放電管10と、区画空間24とにより構成されたループ状のプラズマ流路P1を用いることにより、載置台8上の基板Wに対し処理ガスのプラズマを均一に供給する構成となっている。
【0044】
以上に説明した構成を備える成膜装置1を用い、処理ガスのプラズマを用いて基板Wへの成膜処理を実行する動作について説明する。
【0045】
処理対象の基板Wが搬送されてきたら、ゲートバルブ54を開き、搬入出口53を介して、基板Wを保持した搬送機構(不図示)を処理容器5内に進入させる。そして、載置台8に対し、基板支持ピン84を用いて基板Wの受け渡しを行う。
【0046】
しかる後、処理容器5から搬送機構を退出させ、ゲートバルブ54を閉じると共に、処理容器5内の圧力調節、基板Wの温度調節を行う。次いで、各種処理ガスを予め設定されたタイミングで供給していく。初めに反応ガスの供給工程においては、反応ガス供給部72によりプラズマ流路P1に向けて反応ガスの供給を行う(処理ガスを供給する工程)と共に、高周波電源31からコイル32に高周波電力を印加する。コイル32への高周波電力の印加によってプラズマ流路P1に反応ガスの強磁性誘導結合プラズマが生成される(処理ガスをプラズマ化する工程)。なお、プラズマ化する反応ガスにはArガスなどの補助ガスを同時に供給してもよい。
【0047】
このようにプラズマ流路P1でプラズマ化された反応ガスは、区画開口25から放出され、イオントラップ部材61及びシャワーヘッド62を介して処理容器5内に供給されて基板Wに供給される(プラズマにより活性化した処理ガスを基板に供給する工程)。以上のような反応ガス供給工程におけるプラズマ形成機構3及びプラズマ流路P1の作用について以下に説明する。
【0048】
図3~
図5Bは、プラズマ流路P1における反応ガス供給時の作用を示す図である。具体的に、
図3は、放電管10の横断平面図であり、放電管10の管壁や仕切板23の厚みを簡略化して実線や破線のみで示している。
図4は、
図3に示したA-B-Cの位置における縦断側面図であり、磁界の向きが紙面を貫通する方向となるように図示されている。なお、これらの図においては、コイル32及びイオントラップ領域61aのハッチングを省略している。
図5A及び
図5Bは、放電管10の部分横断面を含む平面図である。
図3~
図5Bでは、放電管10における反応ガスの流れを破線の矢印、区画空間24における反応ガスの流れを一点鎖線の矢印で示し、プラズマ電流の流れを実線の矢印でそれぞれ示している。
【0049】
図3、
図4に示すように、先ず、反応ガス供給部72によって反応ガスが、給気ポート15からプラズマ流路P1に供給される。各放電管10の給気ポート15から流入する反応ガスは、主に2つの方向F1、F2に分かれて流れる。即ち給気ポート15から流入し、方向F1に向けて流れる反応ガスは、隣接放電管10Cの伸長部11内を手前側(+Y側)から奥手側(-Y側)に向けて流れる。そして反応ガスは、奥手側の屈曲端部12に到達し、当該屈曲端部12内を下方側に向けて通過した後、当該反応ガスが供給された給気ポート15から見て、左側(-X側)に位置する区画空間24の奥手側端部24bに対し、接続口27を介して流入する。そしてこの反応ガスは、前記左側の区画空間24を奥手側端部24bから手前側端部24aに向けて流れる。
【0050】
他方、給気ポート15から流入し、方向F2に向けて流れる反応ガスは、当該隣接放電管10Cの手前側の屈曲端部12内を下方側に向けて通過した後、反応ガスが供給された給気ポート15から見て、直下に位置する区画空間24の手前側端部24aに対し、接続口27を介して流入する。そして、この反応ガスは、給気ポート15の直下の区画空間24を手前側端部24aから奥手側端部24bに向けて流れる。
【0051】
以上のように、2つの区画空間24を繋ぐ各放電管10の給気ポート15に反応ガスが供給されると、反応ガスは放電管10内を2つの方向F1、F2に流れ、各区画空間24で合流する。このように反応ガスは、プラズマ流路P1内を流れる過程で濃度が均一化する。
【0052】
次に、高周波電源31から高周波電力が供給されたコイル32は、軸心方向に沿って磁場を発生する。
図4に示すように、この磁場は、枠体33の囲み方向に沿うように枠体33内で概ね一様に増強される。増強された磁場は、電磁誘導により枠体33の内側においてY方向に沿った内部電場を発生し、枠体33の下側の水平部33aの下方側の領域に、内部電場の向きとは反対方向に向かう外部電場を形成する。特に本例においては、内部電場が励起される枠体33の内側に、各放電管10の大部分を占める伸長部11が配置されている。また、外部電場が形成される枠体33(下側の水平部33a)の下方側には、各区画空間24が配置されている。このためプラズマ形成機構3は、ループ状のプラズマ流路P1内に電場を発生させて、高密度かつ密度分布が均一化された反応ガスのプラズマを形成することができる。
【0053】
プラズマ流路P1内にプラズマが形成されると、各放電管10内では、内部電場によって奥手側に向かうようなプラズマ電流Ipがそれぞれ流れる。また各区画空間24では、外部電場によって手前側に向かうようなプラズマ電流Isがそれぞれ流れる。このため
図5Aに示すように、8本の隣接放電管10C及び9つの区画空間24においては、右端の区画空間24から左端の区画空間24まで各区画空間24を流れるプラズマ電流Isと各隣接放電管10Cを流れるプラズマ電流Ipとが交互かつ連続的に流れる。
【0054】
さらに
図5Bに示すように、左端の区画空間24及び右端の区画空間24においては手前側に向かうようなプラズマ電流Isがそれぞれ流れる。また左右両端の2つの区画空間24を繋ぐループ放電管10Lにおいては、奥手側に向かうようなプラズマ電流Ipが流れる。このため左端の区画空間24、ループ放電管10L、右端の区画空間24へとプラズマ電流Is、Ip、Isが連続的に流れる。
【0055】
以上、
図5A、
図5Bを用いて説明したように、プラズマ形成機構3による内部電場及び外部電場の形成により、各放電管10を流れるプラズマ電流Ipと各区画空間24を流れるプラズマ電流Isとが、プラズマ流路P1内を循環するように流れる。そしてプラズマ流路P1を循環するように流れるプラズマ電流Ip、Isによって、更に高密度かつ密度分布が均一化されたプラズマを形成できる。
【0056】
ここで
図4に示すように、プラズマ流路P1では、反応ガスが合流する各区画空間24の下面全体が区画開口25となっており、反応ガスのプラズマを大量に排出することができる。このように、プラズマ流路P1では、プラズマ電流Isが流れる各区画空間24の下面を構成する区画開口25からプラズマを排出するため、失活を抑えてラジカルを排出できる。このように高密度かつ密度分布が均一化されたラジカルを含むプラズマが、イオントラップ部材61及びシャワーヘッド62を介して載置台8に向けて放出されるため、基板Wの成膜処理を効率的かつ面均一化できる。
【0057】
反応ガスの供給工程が終了すると、反応ガス供給部72による反応ガスの供給及び高周波電源31による高周波電力の供給を停止する。
図1に示すように、処理容器5側については、処理容器側排気機構89を用いて開口部56を介して排気を行う。さらにプラズマ流路P1については、各区画空間24に設けられた排気ポート26を介して、排気機構77による排気も行う。
図6は、プラズマ流路P1の排気時の作用を示す図であり、放電管10または放電容器2の部分横断面を含む平面図である。
図6では、放電管10における反応ガスの流れを破線の矢印で示し、区画空間24における反応ガスの流れを一点鎖線の矢印で示している。
【0058】
プラズマ流路P1側の排気機構77を作動させると、区画空間24毎に設けられた9個の排気ポート26からプラズマ流路P1内の残留ガスである反応ガス及びそのプラズマを効果的に排出することができる。
図6に示す例によれば、各隣接放電管10C内の残留ガスは、奥手側及び手前側の屈曲端部12に向けて二手に分かれた後、各区画空間24内に流れ込む。
【0059】
このように2つの区画空間24を繋ぐ各放電管10内の残留ガスは、各区画空間24に概ね均等に排出される。そして各区画空間24内の残留ガスは、手前側端部24aに向けて流れ、各排気ポート26から速やかに排出される。これにより、区画開口25から処理容器5に向けて残留ガスが放出されることを効果的に抑制し、処理容器5のガス置換を時短化して成膜工程を高速化できる。以上のように、ガス置換が終了した後、原料ガスなど次の処理ガスの供給工程に進み、基板Wへの成膜処理が行われる。
【0060】
本例のようなALD法により成膜処理においては、例えば原料ガス供給部71による原料ガス供給工程(基板Wへのプリカーサの吸着)→原料ガス供給部71及び反応ガス供給部72によるパージガスのみの供給工程→プラズマ流路P1によるプラズマで活性化された反応ガスの供給工程(基板Wに吸着したプリカーサとの反応)→原料ガス供給部71及び反応ガス供給部72によるパージガスのみの供給工程のサイクルが、所定回数繰り返される。尚、成膜装置1でCVD法により成膜処理を行う場合は、プラズマ流路P1によるプラズマで活性化された反応ガスの供給工程と、原料ガスを供給する原料ガス供給工程とを並行して実施してもよい。
【0061】
予め設定された期間、成膜処理を行った後、反応ガス、原料ガスの供給、及び高周波電力の供給を停止する。しかる後、搬入時とは反対の手順にて、成膜が行われた基板Wを処理容器5から搬出する。
【0062】
(変形例)
放電管10の誘電体部14は、
図2Aに示す実施形態のように各放電管10に形成される例には限らない。例えば、各区画空間24を囲むように環状の誘電体部を形成してもよい。さらに誘電体部14は、少なくともプラズマ流路P1を構成する放電管10または区画空間24の少なくともいずれかに1つ設けられていればよい。さらには放電管10または放電容器2を誘電体で形成することにより誘電体部を構成してもよい。また、
図2A等に示す例ではループ放電管10Lは、隣接放電管10Cと比べて屈曲端部12のZ方向の高さ寸法が大きくなるように形成されている。一方で、この例に限らず、当該高さ寸法を小さくして、隣接放電管10Cの下方側にループ放電管10Lを配置する構成としてもよい。
【0063】
また本実施形態においては、放電容器2の下方側にイオントラップ部材61やシャワーヘッド62を設けた例を示している。但し、これら61、62の少なくとも一方、または双方の設置を省略してもよい。また、イオントラップ部材61及びシャワーヘッド62の配置順は、
図1、
図4に示す例に限らず、シャワーヘッド62の下方側にイオントラップ部材61を配置してもよい。
【0064】
図1~
図6を用いて説明した実施形態において、コイル32、枠体33、区画空間24、及び放電管10は、基板Wの処理面に対して高濃度かつ密度分布が均一化されたラジカルを供給するための一構成例として示したものである。基板Wに対して所望のプラズマ処理を行うため、コイル32、枠体33、区画空間24、及び放電管10の形状や配置などは、適宜変更できる。
【0065】
例えば、
図2Cに示す例において、コイル32は、上側の水平部33aに巻き付けられているが、これに限られるものではない。例えば
図2Cに示す枠体33の他の部分にコイル32を巻き付けてもよい。この場合、コイル32は、プラズマ流路P1の少なくとも一部に沿って電場を発生させ、プラズマ流路P1に沿って所望する程度のプラズマ電流を循環させるように枠体33に巻き付けられていることが必要となる。
【0066】
枠体33は、矩形の枠体に限らず、放電管10を囲むように概ね環状に形成されていればよく、例えば円筒状など他の形状であってもよい。また枠体33は、複数の放電管10を一括して囲むことで各放電管10内に概ね同一の電場を与えているが、これに限らず、後述する第2実施形態のように例えば少なくとも1つの放電管10を囲むように環状に構成されていてもよい(
図8には、すべての放電管10に対し、枠体33に対応する磁性部材33Aを設けた例を示してある)。これにより、放電管10内に発生させる電場を個別に設定できる。また、本実施形態においては、9個の放電管10全てが枠体33で囲まれているが、これに限らず、プラズマ流路P1内に所望する程度のプラズマ電流を流すことができれば、一部の放電管10のみが磁性部材(枠体33や後述の磁性部材33A)で囲んでもよい。
【0067】
また給気ポート15、排気ポート26は、上述の実施形態のように全ての放電管10、区画空間24にそれぞれ1つずつ形成することは必須の要件ではない。例えば、一部の放電管10、区画空間24にのみ形成されてもよい。この場合、例えば給気ポート15については、プラズマ流路P1から処理容器5に向けて放出するプラズマの密度や流量を考慮の上、給気ポート15を形成する放電管10を選択してもよい。例えば互いに隣り合って並んだ放電管10に1つおきに給気ポート15を設ける場合を例示できる。給気ポート15と同様に、排気ポート26についても一部の区画空間24に形成する場合を否定するものではない。
【0068】
一方、これら給気ポート15、排気ポート26は、1つの放電管10、1つの区画空間24に2個以上設けられていてもよい。また、放電管10及び区画空間24の少なくともいずれか一方に、給気ポート15、排気ポート26の双方を形成してもよい。上述の実施形態では、給気ポート15、排気ポート26は、放電管10、区画空間24の手前側の部分に設けられているが、これに限らず中央側や奥側など他の部分に設けてもよい。
【0069】
この他、上述の実施形態は、隣り合って配置された2つの区画空間24を放電管10が繋ぐことで、1つのプラズマ流路P1を構成しているが、プラズマ流路P1の構成はこれに限定されない。放電容器2の内部空間内における区画空間24の数、形状、及び配置は、適宜設定できる。この場合においても各区画空間24を繋ぐ放電管10を設けることにより、プラズマ流路P1を形成することができる。
【0070】
図7Aから
図7Cは、放電容器2及び放電管10の他の接続例を示す平面図である。
図7Aに示すように、
図2A~
図6等に示す例と比較して、プラズマ流路P1を構成する放電管及び区画空間24の数を少なくしてプラズマ流路P1を短く設定してもよい。この場合、プラズマ流路P1でプラズマを着火するための電力を低減できる。
【0071】
図7Aに示す例の場合、共通の放電容器2内に相互に分離した2以上のプラズマ流路P1を形成してもよい。この場合、各プラズマ流路P1が短くなり、プラズマ流路P1毎にプラズマ密度を個別に調節することも可能となる。
【0072】
また、
図2A~
図6や
図7Aに示す実施形態においては、放電管10は2つの区画空間24を繋ぐように配置されているが、この構成には限定されない。
図7Bに例示するように、各々1つの区画空間24と放電管10(以下、「単放電管10S」ともいう)とによりプラズマ流路P1を構成してもよい。この場合、各プラズマ流路P1内をプラズマ電流Ip、Isが循環するように流れる。
【0073】
また、放電管10は2以上の区画空間24を繋ぐように配置されていてもよい。一例として例えば、上述のような放電管10の1つの屈曲端部12が、隣接する2つの区画空間24において仕切板23を介して隣り合う2つの接続口27を一括で繋ぐことで、放電管10は、2以上の区画空間24を繋ぐこともできる。これによっても、プラズマ電流Ip、Isは同様な方向に流れるため、プラズマ流路P1内を循環させるように流れる。
【0074】
また、各区画空間24は相互に離隔するように仕切板23で区画されることに限られず、例えば隣接する2つの区画空間24の隣り合う一部(例えば端部24a、24b)が相互に繋がっていてもよい。この場合、隣接する2つの当該端部24a、24bに対して1つのみ接続口27が形成されてもよく、その接続口27を1つの放電管10が接続すれば、上記同様に2以上の区画空間24を繋ぐことができる。上述の構成によれば、放電管10の設置本数を区画空間24の数よりも少なくすることもできる。
【0075】
上述の各実施形態においては、複数の区画空間24は、直方体状に形成されているが、これに限らず、反応ガスの流れ方向から見た断面形状が三角形などの多角形や、円形などであってもよい。また、上述の各実施形態において、複数の区画空間24は、伸長方向が同一であり、この伸長方向と交差する方向へ向けて隣り合って配置されているが、これ以外の構成を採用してもよい。例えば
図7Cに一例を示すように、一部の区画空間24Aの伸長方向及び配列方向は、載置台8側から見て、放電容器2の内部空間の中央領域を囲むように配置してもよい。この場合においても、各区画空間24Aは、伸長方向に交差する方向に向けて配列されている。
【0076】
図7Cに示す例では、中央領域を囲んで配列され、周方向に隣り合う2つの区画空間24Aを繋ぐように、4本の放電管10Aが配置されている。この構成によっても、4本の放電管10Aと4個の区画空間24Aとが交互に繋がれ、1つのループ状のプラズマ流路P1を形成することができる。不図示の枠体33は、例えば放電管10A毎に設け、各枠体33にコイル32を設ける場合を例示できる。なおこれらの枠体33は、各区画空間24Aの上方に配置されないため、各区画空間24A内に外部電場を与え難い。このため、外部電場が区画空間24A内に作用することに伴う反応ガスのプラズマの形成の影響は小さい。
【0077】
一方で、各々、枠体33により囲まれた放電管10Aに対しては、内部磁場による電磁誘導によって反応ガスをプラズマ化できる。この結果、各放電管10A内を所定方向にプラズマ電流Ipが流れることにより、これらの放電管10Aに連通する区画空間24Aにも既述のプラズマ電流Ipの方向に沿うようにプラズマ電流Isが流れる。よって、この場合においても、ループ状のプラズマ流路P1を循環するようにプラズマ電流Ip、Isが流れる。なお、
図7Cに示す例において、4個の区画空間24Aに囲まれた中央領域については、
図2A~
図2C、
図7A、
図7Bに例示した構成の区画空間24、放電管10を設け、別のプラズマ流路P1を形成してもよい。
【0078】
(第2実施形態)
図8、
図9に基づいて、本開示の第2実施形態におけるプラズマ形成機構3Aについて説明する。尚、以降の各実施形態の説明では、第1実施形態との差異点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。また、
図8以降の各図においては、
図1~
図6を用いて説明したものと共通の構成要素には、これらの図と共通の符号を付してある。
図8は、放電容器2、放電管10、及びプラズマ形成機構3Aを示す平面図であり、
図9は、
図8に示したD-D’断面図である。
図8、
図9では、高周波電源31等の図示を省略している。
【0079】
本実施形態においては、枠体33に換えて、放電管10毎に、略円筒状の磁性部材33Aを取り付けている。磁性部材33Aには、コイル32が巻き付けられ、コイル32は軸心方向が磁性部材33Aの周方向に沿うように配置されている。これにより、各放電管10では、内部電場によって放電管10の例えば一端部から他端部に向けてプラズマ電流Ipを流すことができる(
図9)。また、磁性部材33Aは、平面視において区画空間24の両端部24a、24bを結ぶ伸長方向に対して、鋭角を成すように傾斜して配置されている。この構成においても、磁性部材33Aの直下域に配置された領域の各区画空間24では、外部電場を受けて強化されたプラズマ電流Isが流れる。これらの作用により、ループ状のプラズマ流路P1を循環するように、プラズマ電流Ip、Isを流すことができる。
【0080】
図8に示すように磁性部材33Aは、第1実施形態と同様に各放電管10の大部分を占める伸長部11の全体を覆うように配置した例を示しているが、これに限らない。例えば磁性部材33Aは、伸長部11における一部分のみを覆っていてもよく、1つの放電管10において一部分を覆う磁性部材33Aを伸長方向に沿って複数配置してもよい。また、磁性部材33A及びコイル32は、放電管10全てに取り付けることが好ましいが、これに限らず、複数の放電管10において1、2個おきに取り付けられていなくてもよい。
【0081】
(第3実施形態)
図10に基づいて、本開示の第3実施形態におけるプラズマ形成機構3Bについて説明する。
図10は、第3実施形態における放電容器2、放電管10、及びプラズマ形成機構3Bを示す上方斜視図である。
図10では、高周波電源31等の図示を省略している。
【0082】
第3実施形態におけるプラズマ形成機構3Bは、枠体33を備えず、コイル32が放電管10に直接巻き付けられている。このため、枠体33による磁場の強化をしていないが、
図4を用いて説明した例と同様に、コイル32による内部磁場が放電管10内にプラズマ電流Ipを形成し、外部磁場がコイル32の下方に配置された各区画空間24にプラズマ電流Isを形成する。第3実施形態のように枠体33を省略してもコイル32の磁場によって、ループ状のプラズマ流路P1を循環するようにプラズマ電流Ip、Isを流すことができる。
【0083】
本開示に係る基板処理装置の基板に対する処理は、成膜処理の他、エッチング処理、アッシング処理等、プラズマを用いて行う他の処理を行ってもよい。また、本開示の基板処理装置の被処理体の基板Wは、半導体ウエハに限らず、FPD(Flat Panel Display)などでもよい。
【0084】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更または組み合わせが行われてもよい。
【符号の説明】
【0085】
P1 プラズマ流路
W 基板
1 成膜装置
2 放電容器
3 プラズマ形成機構
5 処理容器
8 載置台
10 放電管
23 仕切板
24 区画空間
31 高周波電源
32 コイル
72 反応ガス供給部