(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114500
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】予兆検出装置、予兆検出方法、予兆検出プログラム、及び予兆検出システム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240816BHJP
F24F 11/49 20180101ALI20240816BHJP
F24F 11/38 20180101ALI20240816BHJP
【FI】
G05B23/02 R
F24F11/49
F24F11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020304
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朱牟田 善治
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 潔
【テーマコード(参考)】
3C223
3L260
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223BA03
3C223CC02
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF35
3C223FF46
3C223FF52
3C223GG01
3C223HH02
3L260BA54
3L260CB18
3L260CB19
3L260CB79
3L260EA07
3L260EA19
(57)【要約】
【課題】設備の不具合を早期に検出すること。
【解決手段】取得部は、監視対象の設備に設置されたセンサにより周期的に検出されたデータを取得する。抽出部は、取得部により取得されたデータを状態空間モデルを用いて解析し、当該データから設備の不具合の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出する。判定部は、抽出部により抽出された不規則成分のデータの分析を行い、設備に不具合が発生したかを判定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象の設備に設置されたセンサにより周期的に検出されたデータを取得する取得部と、
前記取得部により取得されたデータを状態空間モデルを用いて解析し、当該データから前記設備の不具合の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された不規則成分のデータの分析を行い、前記設備に不具合が発生したかを判定する判定部と、
を有することを特徴とする予兆検出装置。
【請求項2】
前記抽出部は、前記データを前記状態空間モデルを用いて経年変動成分、季節変動成分、日変動成分、レベル成分、不規則成分、個体差変動成分に分解して、前記不規則成分のデータを抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載の予兆検出装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記不規則成分のデータについて一日ずつずらしながら一定期間分のデータを取り出して並べてベクトルを作成し、作成した前記ベクトルをサポートベクターマシンに学習させ、前記サポートベクターマシンにより未知の異常なパターンを検出することで、前記設備に不具合が発生したかを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の予兆検出装置。
【請求項4】
前記設備は、空調設備であり、
前記取得部は、前記センサにより周期的に検出された前記空調設備の主電源での電流、前記空調設備の冷凍サイクルの高圧側の冷媒の圧力、前記冷凍サイクルの低圧側の冷媒の圧力を含む前記空調設備の状態を示す複数の物理量のデータを取得し、
前記判定部は、前記空調設備に不具合が発生したと判定した場合でも、不具合が発生したと判定したデータの日時を起点として、過去30日の電流が平均して2アンペア未満である、過去30日分のデータが欠損している、データの欠損が100時間以上である、前記センサによる観測開始から1000時間未満である、及び、低圧側の冷媒の圧力と高圧側の冷媒の圧力が均圧の状態が100時間以上継続している、の何れかの条件を満たす場合、不具合ではないと判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の予兆検出装置。
【請求項5】
前記空調設備の不具合の種類ごとに、前記複数の物理量の変化パターンを示すパターン情報を記憶する記憶部と、
前記判定部により不具合が発生したと判定された場合、前記記憶部に記憶された前記パターン情報に基づき、前記取得部により取得される前記複数の物理量の変化パターンから、前記空調設備に発生した不具合の種類を特定する特定部と、
をさらに有する請求項4に記載の予兆検出装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記設備に不具合が発生したと判定した場合、故障状態の可能性の高さを示す指標を算出し、
前記判定部により不具合が発生したと判定された前記設備及び前記指標を報知する報知部をさらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載の予兆検出装置。
【請求項7】
監視対象の設備に設置されたセンサにより周期的に検出されたデータを取得し、
取得されたデータを状態空間モデルを用いて解析し、当該データから前記設備の不具合の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出し、
抽出された不規則成分のデータの分析を行い、前記設備に不具合が発生したかを判定する
処理をコンピュータが実行することを特徴とする予兆検出方法。
【請求項8】
監視対象の設備に設置されたセンサにより周期的に検出されたデータを取得し、
取得されたデータを状態空間モデルを用いて解析し、当該データから前記設備の不具合の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出し、
抽出された不規則成分のデータの分析を行い、前記設備に不具合が発生したかを判定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする予兆検出プログラム。
【請求項9】
監視対象の設備の状態を示すデータをセンサにより周期的に検出するセンサ装置と、
前記センサ装置から前記データを取得する取得部、前記取得部により取得されたデータを状態空間モデルを用いて解析し、当該データから前記設備の不具合の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出する抽出部、及び、前記抽出部により抽出された不規則成分のデータの分析を行い、前記設備に不具合が発生したかを判定する判定部を有する予兆検出装置と、
を有することを特徴とする予兆検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予兆検出装置、予兆検出方法、予兆検出プログラム、及び予兆検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、設備の老朽化が、社会問題となっている。設備を運用・管理する事業者では、老朽設備の安定稼働とメンテナンスコストの削減とが重要な経営課題となっている。例えば、電力会社などの電気事業者は、大規模な施設・資産を所有し、設備の維持費がコストの多くを占めるため、設備の維持費の削減及び耐用年数延伸に資する保全方式の変革が大きな課題となっている。
【0003】
特許文献1には、機械設備に設けた複数のセンサにより検出した正常稼働時のセンサデータから機械学習を実行して正常モデルを複数生成する。そして、複数のセンサにより検出した評価時のセンサデータを対応する正常モデルへ入力して機械設備の正常状態からの乖離度を運転モードごとに算出し、乖離度を統合した統合結果に基づいて機械設備の故障予兆を判定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、設備は、経年変動、季節変化、日変動などの様々な要因により変化が生じる。評価時にセンサにより検出される評価時のセンサデータには、様々な要因によるノイズ成分が含まれる。このため、評価時のセンサデータを正常モデルと比較しても、ノイズの影響により正常な状態を異常と誤って検出してしまう場合がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、設備の不具合を早期に検出できる予兆検出装置、予兆検出方法、予兆検出プログラム、及び予兆検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の予兆検出装置は、取得部と、抽出部と、判定部とを有する。取得部は、監視対象の設備に設置されたセンサにより周期的に検出されたデータを取得する。抽出部は、取得部により取得されたデータを状態空間モデルを用いて解析し、当該データから設備の不具合の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出する。判定部は、抽出部により抽出された不規則成分のデータの分析を行い、設備に不具合が発生したかを判定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、設備の不具合を早期に検出できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例に係る予兆検出システムの構成の一例を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、冷凍サイクルでの冷媒の圧力と温度の変化の一例を示した図である。
【
図3】
図3は、実施例に係る判定結果の分類を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例に係るセンサ装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例に係る予兆検出装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例に係るチャンネルごとのデータの変化を判定する条件の一例を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、実施例に係るパターン情報のデータ構成の一例を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、実施例に係るパターン情報のデータ構成の他の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、検証対象とした測定データの基本統計量を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例に係る測定期間中に発生した故障事例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例に係る各手法の異常標本の検出精度を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例に係る標本精度の比較結果例を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例に係る予兆検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、予兆検出プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る予兆検出装置、予兆検出方法、予兆検出プログラム、及び予兆検出システムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例0011】
実施例では、設備として、空調設備の不具合を検出する場合を例に説明する。空調設備は、家庭・業務・産業など多様な施設に設置され、冷却に使用されている。例えば、電力会社では、電力施設を配置した室内に空調設備を設け、空調設備により電力施設を冷却する。空調設備は、故障などの不具合の発生する頻度が比較的高い機器として位置付けられる。そして、空調設備に不具合が発生すると、業務に支障を及ぼす場合がある。例えば、電力会社では、電力施設等の重要機器の冷却を担っている空調設備が不意に停止すると、室温上昇に伴い、重要機器に不具合が発生し、業務に多大な支障を及ぼすリスクがある。このため、空調設備の不具合を早期に発見する技術が求められている。
【0012】
以下では、IoT技術を活用して空調設備の遠隔監視を基本として、空調設備の不具合を早期に検出し、不具合を検出したらメンテナンスを行って部品を取り換えるという空調設備の予知保全を実現する予兆検出システムを実施例として説明する。
【0013】
[予兆検出システムの代表的な構成]
本実施例に係る予兆検出システムの代表的な構成を説明する。
図1は、実施例に係る予兆検出システムの構成の一例を示す図である。予兆検出システム10は、センサ装置11と、ゲートウェイ12と、予兆検出装置15とを有する。
【0014】
センサ装置11は、空調設備の監視を行う装置である。予兆検出システム10では、センサ装置11を複数設けてもよい。
図1の例では、センサ装置11を3つ図示したが、センサ装置11は任意の数とすることができる。センサ装置11は、それぞれ故障などの不具合の発生を監視する監視対象の空調設備にそれぞれ設置される。
【0015】
センサ装置11は、無線通信によりゲートウェイ12と通信可能とされている。無線通信の方式としては、例えば、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、無線LAN、315MHz帯、400MHz帯、920MHz帯等の特定小電力無線などが挙げられる。センサ装置11は、所定の計測時期ごとに、空調設備の状態を検出し、検出した測定データをゲートウェイ12へ送信する。
【0016】
ゲートウェイ12は、センサ装置11と予兆検出装置15との通信を中継する装置である。ゲートウェイ12は、無線通信によりセンサ装置11と通信可能とされている。また、ゲートウェイ12は、例えば、3G、LTE(Long Term Evolution)等の移動体通信に対応しており、移動体通信の基地局13と通信可能とされている。ゲートウェイ12は、基地局13を介してネットワークNに通信可能とされている。かかるネットワークNには、有線又は無線を問わず、移動体通信網、インターネット(Internet)を始め、LAN(Local Area Network)やVPN(Virtual Private Network)などの任意の種類の通信網を採用できる。ネットワークNには、予兆検出装置15が通信可能に接続されている。ゲートウェイ12は、各センサ装置11から受信した測定データを予兆検出装置15へ送信する。
【0017】
予兆検出装置15は、監視対象の空調設備の故障などの不具合の予兆の検出を行う装置である。予兆検出装置15は、例えば、パーソナルコンピュータやサーバコンピュータなどのコンピュータである。予兆検出装置15は、1台のコンピュータとして実装してもよく、また、複数台のコンピュータによるコンピュータシステムとして実装してもよい。なお、本実施例では、予兆検出装置15を1台のコンピュータとした場合を例として説明する。
【0018】
予兆検出装置15は、ゲートウェイ12を介して、センサ装置11から受信した測定データの分析を行い、分析結果に基づき、監視対象の不具合の発生を検出する。
【0019】
ここで、空調設備について簡単に説明する。空調設備は、一般に、冷凍サイクル(圧縮→凝縮→膨張→蒸発→圧縮)を繰り返すことにより、冷却を実現している。
図2Aは、冷凍サイクルを概略的に示した図である。冷凍サイクルでは、圧縮器、凝縮器、膨張弁、蒸発器の間を冷媒が循環している。
図2Bは、冷凍サイクルでの冷媒の圧力と温度の変化の一例を示した図である。
図2Bには、冷媒をR22とした場合、圧力と温度の変化が示されている。
【0020】
圧縮器は、冷媒を圧縮する。例えば、圧縮器は、R22の冷媒を1.64MPaに圧縮する。これにより、冷媒は、圧縮されると温度が上昇し、常温の空気や水に対して熱を排熱できるようなる。
【0021】
凝縮器は、温度が上昇した冷媒の熱を外部に放熱して冷媒を凝縮(液化)させる。例えば、凝縮器は、冷媒が流れるパイプに対して、ファンF1で空気を当てて冷媒の熱を放熱して冷媒を凝縮させる。例えば、R22の冷媒は、1.64MPaに圧縮した場合、45℃で凝縮する。
【0022】
膨張弁は、冷媒の圧力を低下させる。例えば、膨張弁は、R22の冷媒の圧力を0.49MPaに低下させる。これにより、冷媒は、温度が低下する。また、冷媒は、圧力が低下したことで、低い温度でも蒸発しやすくなる。例えば、R22の冷媒は、0.49MPaの圧力の場合、5℃で蒸発するようになる。
【0023】
蒸発器は、周囲の熱を冷媒に吸熱させて、冷媒を蒸発(気化)させる。例えば、蒸発器は、冷媒が流れるパイプに対して、ファンF2で空気を当てて冷媒に熱を吸熱させる。冷媒は、吸熱により温度が上昇して蒸発する。
【0024】
冷凍サイクルでは、圧縮器から膨張弁の間が冷媒の圧力が高い高圧側となり、膨張弁から圧縮器の間が冷媒の圧力が低い低圧側となる。
【0025】
例えば、空調設備では、電力施設を配置した室内を冷却する場合、蒸発器を室内に配置して室内の熱を冷媒に移動させ、凝縮器を外部(室外)に配置して冷媒の熱を外部に放出する。凝縮器及び蒸発器は、ともに熱交換器とも呼ばれる。例えば、エアコンの場合、蒸発器は、室内機に設けられた熱交換器が該当する。凝縮器は、室外機に設けられた熱交換器が該当する。
【0026】
空調設備の予知保全を実現するには、空調設備の状態を把握する必要がある。空調設備は、一般に、冷凍サイクルを繰り返すことにより冷却を実現している。空調設備の状態を把握するには、冷凍サイクルに不具合事象が発生しているかを把握すればよい。例えば、冷媒漏れの不具合が発生した場合、空調設備は、冷媒の圧力が低下し、冷媒吐出・吸入温度が上昇する。空調設備では、このような変化の兆候を、複数センサを適切な箇所に設置してモニタリングできれば、故障が発生する予兆をとらえることが可能となる。本願の発明者は、センサの数を抑えつつ、空調設備の状態を把握するには、以下の9つの物理量が有効であることを見出した。
【0027】
(1)空調設備の主電源での電圧(以下、「主電源電圧」とも称する。)
(2)空調設備の主電源での電流(以下、「主電源電流」とも称する。)
(3)冷凍サイクルの高圧側の冷媒の圧力(以下、「高圧圧力」とも称する。)
(4)冷凍サイクルの低圧側の冷媒の圧力(以下、「低圧圧力」とも称する。)
(5)冷凍サイクルの圧縮器に吸入される冷媒の温度(以下、「冷媒吸入温度」とも称する。)
(6)冷凍サイクルの圧縮機から吐出される冷媒の吐出温度(以下、「冷媒吐出温度」とも称する。)
(7)冷凍サイクルの凝縮器で液体に凝縮した冷媒液の温度(以下、「冷媒液温度」とも称する。)
(8)冷媒との熱交換のために蒸発器に吸い込まれる空気の温度(以下、「吸込空気温度」とも称する。)
(9)冷媒との熱交換後に蒸発器から吹出される空気の温度(以下、「吹出空気温度」とも称する。)
【0028】
空調設備では、冷凍サイクルに不具合が発生すると、冷却機能が低下する。冷凍サイクルでは、凝縮器や蒸発器での熱交換により冷媒の圧力及び温度が連続的に変化するが、蒸発器で熱交換する室内温度や凝縮器で熱交換する外気温度が変化すれば、凝縮器や蒸発器での冷媒の圧力及び温度も変化する。このため、空調設備では、冷凍サイクルでの冷媒の圧力や温度を計測することで、空調設備の状態を把握することが可能となる。また、空調設備では、ファンF1、F2や、圧縮器などで不具合が発生した場合、ファンF1、F2や、圧縮器を動作させるモータに供給する電力が変化する。空調設備では、主電源を設け、モータなどの内部の電気部品に主電源から必要な電力を供給している。このため、空調設備では、主電源の電圧や電流を計測することで、内部の電気部品の状態を把握することが可能となる。また、蒸発器での吸込空気温度は、空調設備が配置された室内の温度である。蒸発器での吹出空気温度は、空調設備により冷却された空気の温度である。空調設備では、冷凍サイクルに不具合が発生して冷却機能が低下すると、吸込空気温度や吹出空気温度が変化する。このため、空調設備では、吸込空気温度や吹出空気温度を計測することで、冷凍サイクルの状態を把握することが可能となる。
【0029】
空調設備の不具合の検出は、冷凍サイクルに関連する温度や圧力といったセンサデータにおける異常を検出し、分類する問題と捉えることができる。異常の検出は、正常か異常かを判定する二値判定問題と、空調設備が実際に正常状態か異常状態かの事実の関係から、
図3に示す4つのタイプに分類できる。
図3は、実施例に係る判定結果の分類を示す図である。
【0030】
ここで、
TP(True Positive)は、異常を異常と判定した数である。
FP(False Positive)は、正常を異常と判定した数である。
TN(True Negative)は、正常を正常と判定した数である。
FN(False Negative)は、異常を正常と判定した数である。
【0031】
FPと判定するケース、すなわち、正常状態を異常状態と判定するケースが多いと、空調設備の確認作業が多くなり、業務効率化につながらなくなることが懸念される。これに対して、FNは、異常データを正常と間違うケースであり、実用上問題となる場合がほとんどで、異常を確実にとらえられることが通常求められる。空調設備の不具合の検出では、故障の前兆を漏れがなく確実に捕えることが重要である。この場合、もっとも重要視すべき制約条件を以下の式(1)に示す。
【0032】
FN = 0 (1)
【0033】
本実施例では、式(1)の制約条件のもと、保守点検の負担を最小限にするためにFPの数をできるだけ小さくする予兆検出アルゴリズムを説明する。本実施例では、以下の式(2)~式(4)の評価指標により、異常の検出性能を評価する。
【0034】
Precision = TP/(TP+FP) (2)
Recall = True Positive Ratio = TP/(TP+FN) (3)
False Positive Ratio = FP/(FP+TN) (4)
【0035】
[センサ装置の構成]
次に、センサ装置11の構成について説明する。
図4は、実施例に係るセンサ装置の機能的な構成の一例を示す図である。センサ装置11は、空調設備の状態を検出する装置である。センサ装置11は、複数のセンサ20と、メモリ21と、マイコン22と、無線通信部23とを有する。
【0036】
センサ20は、空調設備の状態の把握に用いる電圧、電流、圧力、温度などの各種の物理量を計測するデバイスである。例えば、センサ20は、電圧センサ、電流センサ、圧力センサ、温度センサなどのデバイスである。センサ装置11は、上述した(1)~(9)の物理量を計測する。例えば、センサ20は、空調設備の主電源に設けられ、主電源での電圧を主電源電圧として計測し、主電源での電流を主電源電流として計測する。また、センサ20は、空調設備の冷凍サイクルの圧縮器と凝縮器の間に設けられ、圧縮器から凝縮器へ流れる冷媒の圧力を高圧圧力として計測する。また、センサ20は、空調設備の冷凍サイクルの膨張弁と蒸発器との間に設けられ、膨張弁から蒸発器へ流れる冷媒の圧力を低圧圧力として計測する。また、センサ20は、空調設備の冷凍サイクルの圧縮器に設けられ、圧縮器に吸入される冷媒の温度を冷媒吸入温度として計測する。センサ20は、空調設備の冷凍サイクルの圧縮機に設けられ、圧縮機から吐出される冷媒の温度を冷媒吐出温度として計測する。また、センサ20は、空調設備の凝縮器に設けられ、凝縮器で液体に凝縮した冷媒液の温度を冷媒液温度として計測する。また、センサ20は、空調設備の蒸発器の空気の吸収口に設けられ、蒸発器に吸い込まれる空気の温度を吸込空気温度として計測する。また、センサ20は、空調設備の蒸発器の空気の吹出口に設けられ、蒸発器から吹出される空気の温度を吹出空気温度として計測する。
【0037】
マイコン22は、センサ装置11を制御するデバイスである。マイコン22は、各センサ20により、所定の計測時期ごとに、主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度の計測を行う。計測時期は、例えば、1時間ごと、1日ごとなど、一定の期間ごとのタイミングであってもよい。また、計測時期は、例えば、9時、12時、17時、21時など所定の時刻となったタイミングであってもよい。
【0038】
メモリ21は、各種のデータを記憶するデバイスである。メモリ21は、各センサ20により測定された主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度の測定データを記憶する。
【0039】
無線通信部23は、無線により他の装置と各種の情報の送受信を行うデバイスである。無線通信部23は、マイコン22の制御の元、メモリ21に記憶された測定データをゲートウェイ12へ送信する。この測定データは、ゲートウェイ12により、予兆検出装置15へ送信される。
【0040】
[予兆検出装置の構成]
次に、予兆検出装置15の構成について説明する。
図5は、実施例に係る予兆検出装置の機能的な構成の一例を示す図である。予兆検出装置15は、通信部30と、操作部31と、表示部32と、記憶部33と、制御部34とを有する。
【0041】
通信部30は、他の装置と各種の情報を送受信するインタフェースである。通信部30は、ネットワークNに接続され、各種の情報を送受信する。例えば、通信部30は、ネットワークNを介して各センサ装置11により計測された測定データを受信する。
【0042】
操作部31は、各種の操作の入力を受け付ける入力デバイスである。操作部31としては、マウスやキーボードなどの操作の入力を受け付ける入力デバイスが挙げられる。操作部31は、各種の情報の入力を受付ける。操作部31は、ユーザからの操作入力を受け付け、受け付けた操作内容を示す操作情報を制御部34に入力する。
【0043】
表示部32は、各種情報を表示する表示デバイスである。表示部32としては、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などの表示デバイスが挙げられる。表示部32は、各種情報を表示する。例えば、表示部32は、操作画面など各種の画面を表示する。なお、予兆検出装置15は、管理者等が使用する外部の端末装置からアクセスを受付け、操作画面など各種の画面を端末装置に表示し、各種の画面から操作入力を受け付けるものとしてもよい。
【0044】
記憶部33は、各種のデータを記憶する記憶デバイスである。例えば、記憶部33は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、光ディスクなどの記憶装置である。なお、記憶部33は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、NVSRAM(Non Volatile Static Random Access Memory)などのデータを書き換え可能な半導体メモリであってもよい。
【0045】
記憶部33は、制御部34で実行されるOS(Operating System)や各種プログラムを記憶する。例えば、記憶部33は、後述する予兆検出処理を実行する予兆検出プログラムを含む各種のプログラムを記憶する。さらに、記憶部33は、制御部34で実行されるプログラムで用いられる各種データを記憶する。例えば、記憶部33は、測定データ40と、パターン情報41とを記憶する。
【0046】
測定データ40は、監視対象に空調設置された各センサ装置11により計測された観測値のデータである。例えば、測定データ40には、各計測時期の主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度のデータが記憶される。さらに、測定データ40には、各計測時期のSC(Sub Cool:過冷却度)、SH(Super Heat:過熱度)のデータが記憶される。SC、SHは、以下の式(5)、式(6)から算出する。
【0047】
SC = 高圧圧力の飽和温度-冷媒液温度 (5)
SH = 冷媒吸入温度-低圧圧力の飽和温度 (6)
【0048】
SHとSCは、上述した式(5)、式(6)から求まり、一般的に正の値をとる指標である。高圧圧力(低圧圧力)の飽和温度は、係数a、b、cを用いて、以下の式(7)から算出する。
【0049】
高圧圧力(低圧圧力)の飽和温度 = a×高圧圧力(又は低圧圧力)b+c (7)
ここで、a、b、cは、回帰係数を意味し、以下の範囲の値に設定する。
a:29~150
b:0.23~0.25
c:120~140
【0050】
測定データ40には、各計測時期の主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度、SC、SHの11種類の物理量のデータが記憶される。以下では、各物理量をチャンネル(CH)とも称する。
【0051】
パターン情報41は、空調設備に発生する不具合の種類ごとの各チャンネルの変化パターンを記憶したデータである。例えば、パターン情報41は、空調設備の不具合の種類ごとに、主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度、SC、SHの変化パターンを記憶する。パターン情報41の詳細は、後述する。
【0052】
制御部34は、予兆検出装置15を制御するデバイスである。制御部34としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の電子回路や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路を採用できる。制御部34は、各種の処理手順を規定したプログラムや制御データを格納するための内部メモリを有し、これらによって種々の処理を実行する。制御部34は、各種のプログラムが動作することにより各種の処理部として機能する。例えば、制御部34は、取得部50と、抽出部51と、判定部52と、特定部53と、報知部54とを有する。
【0053】
取得部50は、監視対象の設備に設置されたセンサにより周期的に検出されたデータを取得する。本実施例では、取得部50は、監視対象の空調設備の主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度を所定のサイクルで取得する。例えば、取得部50は、通信部30により受信した各センサ装置11の測定データを取得する。取得部50は、取得した測定データからSC、SHを算出する。例えば、取得した測定データの高圧圧力、低圧圧力、冷媒液温度、冷媒吸入温度から、上述した式(5)~(7)によりSC、SHを算出する。取得部50は、取得した各センサ装置11の測定データ、及び算出したSC、SHを測定データ40として記憶部33に格納する。測定データ40には、各計測時期の主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度、SC、SHの11チャンネルのデータが記憶される。なお、SC、SHは、センサ装置11が算出し、測定データに格納して送信してもよい。
【0054】
ここで、センサにより設備の状態を計測する場合、センサにより計測される観測値は、設備の異常だけではない様々な要因により影響される。例えば、センサ装置11を空調設備に設置した場合、センサ20の観測値には、空調設備の個体差(personal)よる成分が周期的に存在する。また、センサ装置11を空調設備に設置した場合、センサ20の観測値には、季節や朝夕の違いによって、季節変動(seasonal)の成分や日変動(daily)の成分が周期的に存在する。特に、温度は、季節や時間の影響を強く受け、さらに冷房運転と暖房運転の切り替えによる変動も大きい。また、センサの観測値は、設備の稼働時間(経年)など経年変動(trend)によっても左右される。例えば、センサ装置11を空調設備に設置した場合、センサ20の観測値は、空調設備の稼働時間など経年変動によっても変動する。本実施例では、これら設備の不具合以外の様々な要因をノイズと呼ぶ。
【0055】
本実施例では、測定データ40を、支配的なノイズ要因をできるだけ取り除いた状態のデータにクレンジングして、故障予兆診断精度を高めることを試みる。測定データ40は、計測時期毎の各チャンネルのデータが記憶された時系列データである。以下、測定データ40のような時系列データをクレンジングするために補正・作成するモデル化を提示し、故障予兆診断精度を改善する方法論を提示する。
【0056】
抽出部51は、取得部50により取得され、記憶部33に格納された測定データ40からノイズを取り除いたデータを抽出する。例えば、抽出部51は、記憶部33に格納された測定データ40を、以下に説明する状態空間モデルを用いて解析し、測定データ40から空調設備の不具合の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出する。
【0057】
判定部52は、抽出部51により抽出された不規則成分のデータの分析を行い、空調設備に不具合が発生したかを判定する。
【0058】
(状態空間モデルの定式)
ここで、状態空間モデルについて説明する。tを時刻とし、xtを確率的な分布をもつ確率変数(状態推定値)とし、ytをたまたま観測された観測値とし、Ytを観測値ベクトル(観測値)とする。このとき、状態推定値ベクトルXtは、以下の式(8-1)のように表せる。また、観測値ベクトルYtは、以下の式(8-2)のように表せる。
【0059】
Xt = (x1,x2,・・・xt) (8-1)
Yt = (y1,y2,・・・yt) (8-2)
ここで、
tは、時刻である。
xtは、時刻tでの確率的な分布をもつ確率変数(状態推定値)である。
Xtは、時刻tまでの状態推定値xtであり、状態推定値ベクトルである。
ytは、時刻tでのセンサ20により計測される観測値である。
Ytは、時刻tまでの観測値ytであり、観測値ベクトルである。
【0060】
観測値ベクトルYtを用いて、状態推定値ベクトルXtを求めることとする。ただし、ここで求める確率分布は、マルコフ性を仮定する。マルコフ性とは、未来の挙動が現在の値だけで決定され、過去の挙動と無関係であるという性質を持つ確率過程を意味する。
【0061】
状態推定値ベクトルXtと観測値ベクトルYtの確率分布をp(Xt)、p(Yt)と表記する。このとき、ベイズ推定により、状態推定値ベクトルXtの確率分布を観測値ベクトルYtが与えれたという条件下での条件付き確率分布として、一期先予測分布(p(Xt|yt・・・yt-1)=p(Xt|Yt-1))を用いて、以下の式(9)により評価する。なお、以下のイメージ(画像)により示す式(9)、(10)、(12)、(13)、(14)では、状態推定値ベクトルXtや観測値ベクトルYtなどのベクトルを太字の小文字により表記する。
【0062】
【0063】
ここで、p(yt|Yt-1)を一期先予測尤度と呼ぶ。
p(Yt|Xt)は、時刻1~tまでの状態推定値ベクトルXtが与えられた条件下における観測値ベクトルYtの確率分布を示す。
p(Xt|Yt-1)は、時刻1~t-1までの観測値ベクトルYt-1が与えられた条件下における状態推定値ベクトルXtの確率分布を示す。
【0064】
この一期先予測尤度の同時確率からt=1からnまでの全時間の尤度L(Yn)を以下の式(10)で求める。
【0065】
【0066】
推定値xtの予測誤差をεt(xt)で示し、以下の式(11)により評価する。
【0067】
εt(xt) = yt-xt (11)
【0068】
ここで、一期先予測尤度が正規分布に従うとすると、一期先予測尤度は、以下の式(12)のように表せる。
【0069】
【0070】
ここで、
σt
2は、1期先予測尤度分布の分散を示す。
【0071】
次に、対数尤度分布logL(Yn)を以下の式(13)により評価する。
【0072】
【0073】
式(13)に式(12)を代入すると、以下の式(14)のように表せる。
【0074】
【0075】
式(14)に示したσt
2は、未知であるものとして、式(14)の対数尤度を最大にするようにσt
2を決定すれば、観測値が与えられたという条件のもと、式(9)の推定値(平均値)としてxtを逐次的に求めることが可能となる。以上の計算をセンサ20により計測される9チャンネルと、それに基づいて計算されるSH、SCの計、11チャンネルのデータを対象として、観測開始からの全期間に対して、状態推定量xtを逐次的に求めていく。すなわち、測定データ40に記憶された11チャンネルのデータについて、状態推定量xtを逐次的に求める。
【0076】
このように求めた11チャンネルの状態推定量xtに状態空間モデルを用いて、状態推定量xtからノイズの成分を分解する。具体的には、状態推定量xtは、1次元の確率変数であり、以下の式(15)の状態方程式と、以下の式(16)の観測方程式を基本式として仮定する。
【0077】
xt = xt+ξt (15)
yt = xt+κt (16)
ここで、
ξtは、状態雑音である。
κtは、観測雑音である。
【0078】
次に、状態推定量xtを複数の成分から多次元の状態ベクトルx→
tとして、以下の式(17-1)のように拡張する。なお、xに付した「→」は、ベクトルであることを表す。
【0079】
x→
t = [μt,νt,γt,сt,it]T (17-1)
ここで、
μtは、レベル(level)成分を意味する。
νtは、経年変動(trend)成分を意味する。
γtは、季節変動(seasonal)成分を意味する。
сtは、日変動(daily)成分を意味する。
itは、不規則成分を意味する。
【0080】
個体差(personal)の成分は、後述する観測雑音κtに暗に含まれているものとして扱うものとする。式(17-1)を具体的に、以下の式(17-2)により多項式モデルによるモデル化する。
【0081】
xt = μt+νt+γt+сt+it (17-2)
【0082】
ただし、wtは、平均0、標準偏差σwtの正規分布に従う誤差の確率変数である。
【0083】
レベル成分μtは、以下の式(18)により評価する。
【0084】
μt = μt-1+w(μ)
t w(μ)
t~N(0,σw
(μ)
t
2) (18)
ここで、
w(μ)
tは、平均0、標準偏差σnの正規分布に従う誤差の確率変数である。
σw
(μ)
t
2は、確率変数w(μ)
tの分散である。
【0085】
経年変動成分νtは、以下の式(19)により評価する。
【0086】
νt = νt-1+w(v)
t w(v)
t~N(0,σw
(v)
t
2) (19)
ここで、
w(v)
tは、平均0、標準偏差σζの正規分布に従う誤差の確率変数である。
σw
(v)
t
2は、確率変数w(v)
tの分散である。
【0087】
季節変動成分γtは、以下の式(20)により評価する。主に月次で変動する周期性のある季節変動成分γtは、同じパターンを繰り返すため、周期をsとした場合、1周期成分の合計TSは、どの周期でも変わらない値になると仮定すると、以下の式(20)が成立する。
【0088】
【0089】
式(20)が周期性に関する拘束条件となる。式(20)の拘束条件をベースとして、任意の時刻tの季節変動成分γ(1)
tは、1周期前の季節変動成分γ(j)
t-1(j=1,2,..s-1)から、以下の式(21)のように評価する。
【0090】
【0091】
ここで、
sは、月次の周期(1~12か月)を示す。
w(γ)
tは、平均0、標準偏差σnの正規分布に従う誤差の確率変数である。
σw
(γ)
t
2は、確率変数w(γ)
tの分散である。
【0092】
日変動成分は、周波数領域に着目する。基本角周波数ω0=2π/sとし、sを周期とすると、時刻tの日変動成分Ctは、以下の式(22)と表せる。
【0093】
【0094】
ここで、周波数nに対するに日変動成分Ct
(n)の時間遷移は、以下の式(23)で評価する。
【0095】
【0096】
最終的に周波数成分nに対する日変動成分Ct
(n)は、式(24-1)、(24-2)以下により評価する。
【0097】
【0098】
ここで、(1.5≦2π/nω0≦12を目安とする。
【0099】
不規則成分itは、以下の式(25)により評価する。
【0100】
it = it-1+τt τt~N(0,σt
2) (25)
ここで、
τtは、平均0、標準偏差στの正規分布に従う誤差の確率変数である。
στ
2は、確率変数σtの分散である。
【0101】
式(16)に式(17-2)を代入すると,観測方程式は,以下の式(26)ようになる。
yt = μt+νt+γt+сt+it+κt κt~N(0,σκ
2) (26)
ここで、
μtは、レベル(level)成分を意味する。
νtは、経年変動(trend)成分を意味する。
γtは、季節変動(seasonal)成分を意味する。
сtは、日変動(daily)成分を意味する。
itは、不規則成分を意味する。
κtは、観測雑音を意味する。
【0102】
式(26)は、上記の成分をもとに、一般化した行列方程式として、以下の式(27)、式(28)のように記述できる。
【0103】
Xt = GtXt+Rtwt wt~N(0,σWt) (27)
Yt = FtXt+κt κt~N(0,σκt) (28)
ここで、
Gtは、n×nの状態遷移行列(もしくはシステム行列)である。
Rtは、n×nの状態雑音行列である。
wtは、平均0、標準偏差σwτの正規分布に従う誤差の確率変数である誤差である。
Ftは、1×nの観測行列である。
Wtは、状態雑音の分散を示す。
κtは、観測雑音の分散を示す。
【0104】
以上から、各センサ20による観測値ベクトルをY、レベル成分ベクトルをL、トレンド成分ベクトルをT、季節調整成分ベクトルをS、日変動成分ベクトルをC、不規則成分ベクトルをI、個体差変動成分をεとすると、式(26)から、以下の式(29)の関係式が得られる。以下のイメージ(画像)により示した式(29)、(30)の各式では、ベクトルを太字により表記する。
【0105】
【0106】
式(29)を変形すると、不規則成分ベクトルIは、以下の式(30)のようになる。
【0107】
【0108】
抽出部51は、記憶部33に格納された測定データ40を、上述した状態空間モデルを用いて解析し、当該データから空調設備の故障の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出する。例えば、抽出部51は、記憶部33に格納された測定データ40について、チャンネルごとに、式(27)、式(28)の計算を繰り返すことで、チャンネルごとに、観測値Yから、trend成分T、seasonal成分S、daily成分C、level成分L、個体差変動成分εを分離し、式(30)により不規則成分Iを抽出する。
【0109】
不具合の判定では、不規則成分I(不規則成分it)のデータを用いる。本実施形態では、不規則成分itのデータについて、後述する不具合の判定で利用しやすいようにデータ形式を変換する。
【0110】
データ形式の変換について説明する。データ形式の変換では、まず、チャンネルごとの不規則成分itについてチャンネルごとに、以下の式(31)により正規化を行う。
【0111】
【0112】
ここで、
μ ̄は、不規則成分itの平均である。
σ ̄は、不規則成分itの標準偏差である。
【0113】
次に、式(31)で得られたZtに対してある時点tから7日分のデータ(部分時系列)を切り出し、以下の式(32)に示すように、水平に全チャンネル分の部分時系列を並べた行列Xtを、観測の始点(t=0)から終点(t=T)まで作成する。
【0114】
【0115】
ここで、
tは、時間を示す。
Wは、時系列の期間(7日間)を示す。
Tは、観測期間を示す。
Cは、チャンネル数を示す。
Dは、次元数を示す。
【0116】
以上を観測地点ごとに作成し、入力データXmとする。ただし、mは、ユニークなサンプルのIDで、以下の式(33)のように、観測地点と時間による関数で設定する。
【0117】
m=f(p,t) (33)
ここで、
pは、観測地点である。
tは、時間である。
mの総数Nは、地点pごとの観測期間Tの総和である。
【0118】
(不具合の判定手法)
次に、不具合の判定手法について説明する。測定データ40は、各計測時期のチャンネル毎のデータが記憶された時系列データである。機械学習を用いて、測定データ40のような時系列データから異常を検知する手法としては、以下の(a)、(b)の2つの手法が考えられ、いずれかを重視するかによって適用すべき手法(アルゴリズム)は異なることになる。
(a)時系列データから未知の異常なパターンを抽出する。
(b)時系列データから既知の異常なパターンを抽出する。
【0119】
(a)は、一般に教師無し学習と言われる手法が適用される。(b)は、一般に異常の標本(見本)データがあり(これを教師データないし学習データという)、これをモデルに学習させる教師有り学習が適用される。
【0120】
空調設備は、故障を観測できる事例が少なく、(b)の教師有り学習の手法を採用することができない。このため、(a)の教師無し学習の手法により空調設備の故障を検出する。
【0121】
本実施例では、(a)の教師無し学習の手法として、サポートベクターマシン(SVM)により不具合が発生したか否かを判定する。具体的には、1-Class SVMにより不具合が発生したか否かを判定する。1-Class SVMは、通常のSVMの一つのバリエーションである。本実施例のアルゴリズムでは、決定関数D(x)を以下の式(34)とする。
【0122】
D(Xm) = WT・Φ(Xm)+b (34)
ここで、
Wは、係数ベクトルである。
Wに付した「T」は、転置記号である。
Φ(Xm)は、入力データXmを特徴空間に写像する関数である。
bは、個体差を補正するバイアス項である。
【0123】
決定関数D(x)の変数である係数ベクトルWとバイアス項bは、以下の式(35)、(36)により求める。
【0124】
【0125】
ここで、
Nは、入力データXmの総数である。
ξjは、スラック変数を意味する。
νは、ハイパーパメータである。
【0126】
式(35)に示したハイパーパラメータνは、一般に小さくすればするほど過学習となる可能性が高い。本実施例では、プログラミング言語であるpythonのSVMライブラリーを用いてハイパーパラメータνを設定するための予備検討を行なった。予備検討は、式(1)の制約条件のもと、ハイパーパラメータνを0.5(デフォルト値)、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001、0.0001と変化させた結果、ν=0.01でFalse Postive Rate(誤判定率)をもっとも小さく抑えられた。本実施例では、ν=0.01とした。
【0127】
カーネル関数は、以下の式(37)となる。
【0128】
K(Xm,Xm´) = ΦT(Xm)・Φ(Xm´) (37)
ここで、
Xm´は、Xmと対となる別の特徴空間(特徴量)を示す入力データ(ベクトル)を意味する。
【0129】
具体的に用いるカーネル関数は、ガウシアンRBFカーネルで、以下の式(38)のように表される。
【0130】
【0131】
ハイパーパラメータγは、クロスバリデーションの結果から1/Dを指定する。Dは、対象とする特徴空間の次元数を示す。
【0132】
空調設備は、故障などの不具合が発生しつつあると、センサ20の出力値が変化する。このような故障によるセンサ20の出力値は、抽出部51により不規則成分Iのデータとして抽出される。不規則成分Iのデータは、不具合の発生に応じて変化するため、不規則成分Iのデータの変化から空調設備の不具合の発生を検出できる。
【0133】
判定部52は、抽出部51により抽出された不規則成分IのデータのSVMによる分析を行い、監視対象の空調設備に不具合が発生したかを判定する。最初、判定部52は、不規則成分のデータについて一日ずつずらしながら一定期間分のデータを取り出して並べてデータXmを作成する。一定期間は、例えば7日間とする。例えば、判定部52は、チャンネルごとに、全期間の不規則成分Iのデータを正規化して全期間の入力データXmを作成する。例えば、判定部52は、チャンネルごとに、全期間の不規則成分Iのデータについて、上述した式(31)により正規化を行う。そして、判定部52は、各チャンネルの全期間の正規化した不規則成分Iのデータについて、始点から終点まで一日ずつずらしながら各チャンネルの7日間分のデータを取り出して並べて入力データXmを作成する。そして、判定部52は、作成した入力データXmをSVMに学習させ、SVMにより未知の異常なパターンを検出するで、空調設備に不具合が発生したかを判定する。例えば、判定部52は、カーネル関数として、上述の式(38)を用いたSVMに入力データXmを学習させ、SVMにより未知の異常なパターンを検出することで、空調設備に不具合が発生したか否かを判定する。
【0134】
ところで、判定部52により不具合が発生したと判定したケースを検証した結果、不具合が発生したと判定したケースには、空調設備が長期間停止していたり、データに異常があるなど、空調設備の不具合ではないケースも含まれる。そこで、本実施例では、以下に示す経験則を用いて、不具合が発生したと判定したケースを除外する。
【0135】
(1)過去30日の電流が平均して2アンペア未満(空調自体が長期間停止している)
(2)なんらかの理由で過去30日分のデータが欠損している。
(3)観測データの欠損値が100時間以上ある(7日間の部分時系列の60%以上が欠損値)。
(4)観測開始から1000時間未満である。
(5)送風運転が100時間以上(圧縮機が自動で停止し、低圧圧力と高圧圧力が均圧の状態が100時間以上継続している)
【0136】
(1)、(2)は、データにランダムな値が混じる傾向がある。(4)は、データにランダムな値が相当混入していて信頼できない。(1)、(2)、(4)は、センサの問題である。(3)もセンサの問題であるが、あまりに欠損値が多いと状態空間で補正してもおかしな状態推定値になり異常とみなされる。(5)は、空調設備固有の問題である。低圧圧力と高圧圧力が均圧になるのは空調設備がそのように設計されているためで、異常ではない。
【0137】
判定部52は、空調設備に不具合が発生したと判定した場合でも、不具合が発生したと判定したデータの日時を起点として、測定データ40が経験則の何れかの条件を満たすかを判定する。例えば、判定部52は、不具合が発生したと判定したデータの日時を起点として、過去30日の電流が平均して2アンペア未満である、過去30日分のデータが欠損している、データの欠損が100時間以上である、センサ20による観測開始から1000時間未満である、及び、低圧側の冷媒の圧力と高圧側の冷媒の圧力が均圧の状態が100時間以上継続している、の何れかの条件を満たすか判定する。判定部52は、何れかの条件を満たす場合、不具合ではないと判定して不具合が発生したケースを絞り込む。すなわち、判定部52は、SVMにより未知の異常なパターンを検出して不具合が発生したと判定した場合でも、何れかの条件を満たす場合、不具合が発生していないと判定する。
【0138】
(故障予兆状態のランク評価)
空調設備に不具合が発生したと判定した場合、故障状態の可能性の高さを定量化する目的で、以下の指標を算出する。例えば、不具合が発生したと判定された入力データXmについて、以下の統計量M(Xm)と統計量S(Xm)を用い、以下のように故障予兆状態のランク評価指標を定義する。
【0139】
統計量M(Xm)は、以下の式(39)とする。
【0140】
【0141】
ここで、
zijは、Xmのi,jの行列成分である。
【0142】
統計量M(Xm)は、入力データXmのすべての要素の二乗和を示である。このような統計量Mは、マハラノビス汎距離といわれ、自由度Dのχ2分布にしたがう。
【0143】
統計量S(Xm)は、以下の式(40)とする。
【0144】
【0145】
また、以下の式(41)より、チャンネルnごとの統計量Snが求まる。
【0146】
【0147】
ここで、
Zinは、Xmのチャンネルnのiの行列成分である。
【0148】
このような統計量S及び統計量Snは、中心極限定理により正規分布にしたがう。
【0149】
異常パターンのモード同定にはこのチャンネルごとの統計量Snを用いることもできる。例えば、故障の起こる前の予兆として、チャンネルごとの統計量Snの挙動に大きな変化が起きることが過去の故障事例から知見として得られた。そこで、チャンネルごとの統計量Snの挙動に大きな変化が起きた場合、監視対象の空調設備に不具合が発生したかを判定してもよい。例えば、判定部52は、全期間の不規則成分Iのデータについて、チャンネルごとの統計量Snを算出する。そして、判定部52は、チャンネルごとの統計量Snの値が挙動に大きな変化とみなせる変化をした場合、監視対象の空調設備に不具合が発生したかを判定してもよい。
【0150】
ランク指標(rank)は、以下の式(42)から求める。
【0151】
【0152】
ランク指標の式(42)は、異常度を示す評価関数である。αとβは、統計量Mと統計量Sのスケールを揃えて両者をバランスさせる係数である。α、βは、経験的に、以下の式(43-1)、式(43-2)のように設定した。
【0153】
【0154】
ここで、
SDMは、統計量Mの標準偏差である。
SDSは、統計量Sの標準偏差である。
【0155】
判定部52は、空調設備に不具合が発生したと判定した場合、故障予兆状態のランク評価指標を算出する。例えば、判定部52は、式(39)から統計量M(Xm)を算出し、式(40)から統計量S(Xm)を算出する。そして、判定部52は、式(42)、式(43-1)、式(43-2)からランク指標(rank)を算出する。
【0156】
特定部53は、判定部52により不具合が発生したと判定された場合、空調設備ごとに、パターン情報41に基づき、測定データ40に記憶された主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度、SC、SHの変化パターンから、空調設備に発生した不具合の種類を特定する。
【0157】
空調設備は、故障の起こる前の予兆としてチャンネルごとの統計量S
nの挙動に大きな変化が起きる。変化量は、上記の統計量S
nに対して、
図6のように定義する。
図6は、実施例に係るチャンネルごとのデータの変化を判定する条件の一例を示す図である。特定部53は、不具合が発生したと判定された空調設備について、
図6に示した条件に従い、チャンネルごとに、データが正常状態からの変化傾向が上昇、下降、変化なしの何れかであるかを特定する。すなわち、特定部53は、不具合が発生したと判定された空調設備について、主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度、SC、SHがそれぞれ上昇、下降、変化なしの何れかであるかを特定する。
【0158】
本願の発明者は、空調設備の予知保全を実現するうえで、信頼性重視保全(Reliability Centered Maintenance:RCM)を応用して検討を重ねた。そして、本願の発明者は、故障モード影響解析(Failure Mode and Effect Analysis:FMEA)を応用し、空調設備に発生する不具合の種類ごとに、各チャンネルがどのように変化するかを変化パターンとして体系的に整理した。
【0159】
パターン情報41の一例を説明する。
図7Aは、実施例に係るパターン情報41のデータ構成の一例を示す図である。
図7Aに示すように、パターン情報41は、故障モード、電圧、電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度、SC、SHの各項目を有する。なお、測定データ40は、上記以外にも各種の情報を含んでもよい。
【0160】
故障モードの項目は、発生する不具合の種類を示している。電圧、電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度、SC、SHの各項目は、故障モードの項目の不具合が発生した場合の正常状態からの値の変化を示している。電圧の項目は、主電源電圧の変化を示している。電流の項目は、主電源電流の変化を示している。高圧圧力の項目は、高圧圧力の変化を示している。低圧圧力の項目は、低圧圧力の変化を示している。冷媒吸入温度の項目は、冷媒吸入温度の変化を示している。冷媒吐出温度の項目は、冷媒吐出温度の変化を示している。吸込空気温度の項目は、吸込空気温度の変化を示している。吹出空気温度の項目は、吹出空気温度の変化を示している。SCの項目は、SCの変化を示している。SHの項目は、SHの変化を示している。
【0161】
図7Aでは、各項目についての正常状態からの値の変化をそれぞれ矢印により定性的に示している。下向きの矢印は、値が正常状態よりも低下していることを示し、上向きの矢印は、値が正常状態よりも上昇していることをそれぞれ示す。「-」の項目は、故障モードの項目の不具合の種類の判別に使用しない項目を示す。
【0162】
例えば、室外での熱交換不良が発生した場合は、高圧圧力が上昇し、低圧圧力が上昇し、冷媒吸入温度が上昇し、冷媒吐出温度が上昇し、冷媒液温度が上昇し、主電源電流が上昇する。
【0163】
また、例えば、熱交換の詰まり・汚れ(室内での熱交換不良)が発生した場合は、高圧圧力が低下し、低圧圧力が低下し、冷媒吸入温度が上昇し、冷媒吐出温度が上昇し、冷媒液温度が低下し、主電源電流が低下し、吹出空気温度が上昇し、吸込空気温度が上昇し、SHが低下する。
【0164】
不具合の種類及び変化パターンは、
図7Aに限定されず、その他の不具合の種類ごとに変化パターンを定めることができる。また、不具合の種類の変化パターンは、11チャンネルのうち、一部のチャンネルの変化パターンとして定めてもよい。また、不具合の種類の変化パターンは、上昇量・低下量のレベルまで定めてもよい。なお、測定データ40は、上記以外にも各種の情報を含んでもよい。
【0165】
図7Bは、実施例に係るパターン情報41のデータ構成の他の一例を示す図である。
図7Bは、センサ20により計測される9チャンネルについて、不具合の種類ごとに変化パターンを示している。
図7Bにおいても、各項目についての正常状態からの値の変化をそれぞれ矢印により定性的に示している。また、矢印の大きさは、低下量・上昇量のレベルを意味する。各項目には、上昇量・低下量のレベルに応じて値を閾値として設定する。例えば、上昇量・低下量のレベルをそれぞれ2段階とした場合、レベルに対応して段階的な閾値を定める。各項目には、低下量・上昇量のレベルに応じて定めた閾値を設定する。
【0166】
特定部53は、各チャンネルの上昇傾向、下降傾向のパターンをパターン情報41の各変化パターンと比較し、一致する変化パターンを検索する。例えば、特定部53は、主電源電圧、主電源電流、高圧圧力、低圧圧力、冷媒吸入温度、冷媒吐出温度、冷媒液温度、吸込空気温度、吹出空気温度、SC、SHの上昇傾向、下降傾向のパターンが一致する変化パターンを検索する。なお、特定部53は、上昇傾向、下降傾向のパターンが所定割合(例えば、80%)以上一致する変化パターンを一致する変化パターンとして検索してもよい。また、特定部53は、所定割合以上一致する変化パターンが複数ある場合、全て一致する変化パターンを、一致する変化パターンとしてもよい。また、特定部53は、所定割合以上一致する変化パターンが複数ある場合、一致度合いが最も高い変化パターンを、一致する変化パターンとしてもよい。
【0167】
特定部53は、一致した変化パターンの故障モードの不具合を、空調設備に発生した不具合と特定する。
【0168】
報知部54は、不具合が発生したと判定された場合、不具合が発生した空調設備、ランク評価指標、及び特定部53により特定された不具合の種類を報知する。例えば、報知部54は、不具合が発生した空調設備、ランク評価指標及び不具合の種類を報知するメッセージ等を表示部32に表示する。また、報知部54は、管理者等が使用する外部の端末装置へ、不具合が発生した空調設備、ランク評価指標及び不具合の種類を報知する情報を送信する。
【0169】
このように、予兆検出装置15は、不具合が発生した空調設備を早期に管理者等に報知する。これにより、不具合が発生した空調設備のメンテナンスを早期に実施させることができる。空調設備に不具合が発生した場合、早期にメンテナンスを行うことで空調設備の故障が軽度なうちに修理できるため、メンテナンスのコストを低減できる。また、予兆検出装置15は、ランク評価指標により故障状態の可能性の高さを管理者等に報知する。これにより、管理者等が可能性の高さから修理すべき空調設備の優先度を適切に決定できる。また、予兆検出装置15は、空調設備に発生した不具合の種類を管理者等に報知する。これにより、不具合の種類に応じて部品等を用意してメンテナンスに向かうことができ、効率的にメンテナンスを行うことができる。
【0170】
ここで、空調設備の不具合の予兆の検出について、具体的な一例を用いて説明する。実際に運用されている複数の空調設備にセンサ装置11を設置し、5分間隔で計測する実験を実施した。検証対象とした測定データ40は、2016年10月20日から2020年1月25日までの期間に、電力会社の管内の合計31地点に設置された空調設備を対象として得られたデータである。
図8は、検証対象とした測定データ40の基本統計量を示す図である。countは、データ数である。meanは、データの平均である。stdは、データの標準偏差である。minは、データの最小値である。maxは、データの最大値である。なお、検証では、測定データ40に記憶された5分間隔で得られた各チャンネルのデータのうち、欠測したデータや、空調が稼働停止した状態のデータは省いている。
【0171】
精度を検証するため、本実施例のSVMにより不具合を判定する手法と、本実施例のSVMの判定の後、経験則による除外まで実施して不具合を判定する手法と、比較例として、クラスタ分析により不具合する手法とを比較した。
【0172】
比較例としたクラスタ分析では、Paparrizos、John、Luis Gravanoによる“k-Shape: Efficient and Accurate Clustering of Time Series”SIGMOD 15, May 31 June 4, 2015 (Melbourne, Victoria, Australia)を参考にし、クラスタの重心点をクラスタの代表点とし、クラスタ間の距離の評価関数を最小化するようにk個のクラスタに分割し、距離に閾値を設定して異常の有無を判定する方法を用いた。ケーススタディでは、クラスタ数が5~8の間が最も精度が良い。クラスタ分析では、異常ケースのクラスタに含まれる件数がかなり多い。
【0173】
図9は、実施例に係る測定期間中に発生した故障事例を示す図である。
図9には、測定期間中に発生した5件の故障事例が示されている。異常と明確に把握できたのは、この5件のみである。このうち、No1とNo3の場合、センサ20の不良により、提案手法を適用することができなかった。また、No5は、センサ20による観測開始から4日後に故障が発生したため7日間の時系列の枠組みによる予測に適用することができなかった。
【0174】
検証では、それぞれの手法について、上述したTP、FP、TN、FNの数をカウントした。
図10は、実施例に係る各手法の異常標本の検出精度を示す図である。
図10には、本実施例のSVMにより不具合を判定する手法(SVM)と、本実施例のSVMの判定の後、経験則による除外まで実施して不具合を判定する手法(VM+経験則)と、クラスタ分析により不具合する手法とを比較した結果が示されている。
【0175】
異常判定件数は、TPとFPを加算した値である。異常状態件数は、TPとFNを加算した値である。全件数は、TPとFNとFPとTNを加算した値である。なお、各手法で全件数が異なるのは、欠損等により評価に有効なデータ数がそれぞれ異なるためである。異常割合は、異常判定件数(TP+FP)を全件数(TP+FN+FP+TN)で除算した値である。Precision、Recall及びFalse Positive Ratioは、上述した式(2)~(4)で算出される値である。
【0176】
図11は、実施例に係る標本精度の比較結果例を示す図である。
図11には、本実施例のSVMにより不具合を判定する手法(SVM)と、本実施例のSVMの判定の後、経験則による除外まで実施して不具合を判定する手法(SVM+経験則)と、クラスタ分析により不具合する手法について、Precision及びFalse Positive Ratioを示したグラフが示されている。Precisionとは、異常と判定した件数に対する、真に異常であった件数の割合(異常正解率)を示し、高い値であればあるほど検出精度が高いことを示す。逆に、False Positive Rateは、正常状態であった全件数に対する異常と誤判定した誤判定率を示し、低い値であればあるほど検出精度が高いことを示す。
【0177】
図11に示すように、実施例のSVM、及びSVM+経験則は、Precision及びFalse Positive Rateの関連から、いずれもクラスタ分析の手法と較べて検出性能が高いことを示している。特に、SVM+経験則は、Precisionが大きく向上しており、検出性能が最も向上している。
【0178】
[処理の流れ]
予兆検出装置15が不具合を検出する予兆検出処理の流れについて説明する。
図12は、実施例に係る予兆検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。この予兆検出処理は、所定のタイミング、例えば、各センサ装置11から測定データを受信したタイミングで実行される。
【0179】
取得部50は、通信部30から受信した測定データを取得し、取得した測定データからSC、SHを算出する。取得部50は、測定データ、及び算出したSC、SHを測定データ40として記憶部33に格納する(ステップS10)。
【0180】
抽出部51は、空調設備ごとに、記憶部33に格納された測定データ40を状態空間モデルを用いて解析し、測定データ40のデータを経年変動成分、季節変動成分、日変動成分、レベル成分、不規則成分、個体差変動成分に分解する(ステップS11)。そして、抽出部51は、空調設備ごとに、測定データ40から不規則成分のデータを抽出する(ステップS12)。
【0181】
判定部52は、空調設備ごとに、抽出された不規則成分のデータの分析を行い、空調設備に不具合が発生したかを判定する(ステップS13)。判定部52は、不具合が発生したと判定した空調設備について、ランク評価指標を算出する。
【0182】
判定部52は、ステップS13において不具合が発生したかを判定した場合でも、不具合が発生したと判定したデータの日時を起点として、測定データ40が経験則の何れかの条件を満たすかを判定する。そして、判定部52は、何れかの条件を満たす場合、不具合ではないと判定して不具合が発生したケースを絞り込む(ステップS14)。
【0183】
特定部53は、判定部52による絞り込みの結果、不具合が発生していると判定された空調設備があるか否かを判定する(ステップS15)。不具合が発生していると判定された空調設備がない場合(ステップS15:No)、処理を終了する。
【0184】
一方、不具合が発生していると判定された空調設備がある場合(ステップS15:Yes)、特定部53は、不具合が発生していると判定された空調設備ごとに、パターン情報41に基づき、測定データ40に記憶された空調設備のデータの変化パターンから、空調設備に発生した不具合の種類を特定する(ステップS16)。
【0185】
報知部54は、不具合が発生した空調設備、ランク評価指標及び不具合の種類の報知を行い(ステップS17)、処理を終了する。
【0186】
[効果]
このように、本実施例に係る予兆検出装置15は、取得部50と、抽出部51と、判定部52とを有する。取得部50は、監視対象の空調設備に設置されたセンサ20により周期的に検出されたデータ(測定データ)を取得する。抽出部51は、取得部50により取得されたデータ(測定データ40)を状態空間モデルを用いて解析し、当該データから空調設備の不具合の発生状況を示す不規則成分のデータを抽出する。判定部52は、抽出部51により抽出された不規則成分のデータの分析を行い、空調設備に不具合が発生したかを判定する。これにより、予兆検出装置15は、空調設備の不具合を早期に検出できる。
【0187】
また、抽出部51は、データ(測定データ40)を状態空間モデルを用いて経年変動成分(trend成分T)、季節変動成分(seasonal成分S)、日変動成分(daily成分C)、レベル成分(level成分L)、不規則成分(不規則成分I)、個体差変動成分(個体差変動成分ε)に分解して、不規則成分のデータを抽出する。これにより、予兆検出装置15は、取得されたデータに、監視対象の空調設備に応じた経年変動成分、季節変動成分、日変動成分、レベル成分が含まれる場合でも、抽出した不規則成分のデータから空調設備の不具合を精度よく検出できる。
【0188】
また、判定部52は、不規則成分のデータについて一日ずつずらしながら一定期間分のデータを取り出して並べてベクトル(入力データXm)を作成し、作成したベクトルをサポートベクターマシンに学習させ、サポートベクターマシンにより未知の異常なパターンを検出することで、空調設備に不具合が発生したかを判定する。これにより、予兆検出装置15は、教師データとなる不具合のパターンが無い場合でも、空調設備の不具合を精度よく検出できる。
【0189】
また、取得部50は、センサ20により周期的に検出された空調設備の主電源での電流、空調設備の冷凍サイクルの高圧側の冷媒の圧力(高圧圧力)、冷凍サイクルの低圧側の冷媒の圧力(低圧圧力)を含む空調設備の状態を示す複数の物理量のデータを取得する。判定部52は、空調設備に不具合が発生したと判定した場合でも、不具合が発生したと判定したデータの日時を起点として、過去30日の電流が平均して2アンペア未満である、過去30日分のデータが欠損している、データの欠損が100時間以上である、センサ20による観測開始から1000時間未満である、及び、低圧側の冷媒の圧力と高圧側の冷媒の圧力が均圧の状態が100時間以上継続している、の何れかの条件を満たす場合、不具合ではないと判定する。これにより、予兆検出装置15は、空調設備に不具合が発生したと判定したケースのうち、不具合ではないケースを除外できるため、空調設備の不具合の検出精度をより向上させることができる。
【0190】
また、予兆検出装置15は、記憶部33と、特定部53とをさらに有する。記憶部33は、空調設備の不具合の種類ごとに、複数の物理量の変化パターンを示すパターン情報41を記憶する。特定部53は、判定部52により不具合が発生したと判定された場合、記憶部33に記憶されたパターン情報41に基づき、取得部50により取得される複数の物理量の変化パターンから、空調設備に発生した不具合の種類を特定する。これにより、予兆検出装置15は、どのような種類の不具合が発生したかを特定できる。
【0191】
また、予兆検出装置15は、報知部54をさらに有する。判定部52は、空調設備に不具合が発生したと判定した場合、故障状態の可能性の高さを示す指標(ランク評価指標)を算出する。報知部54は、判定部52により不具合が発生したと判定された空調設備及び指標を報知する。これにより、予兆検出装置15は、不具合が発生した空調設備を早期に報知できる。また、予兆検出装置15は、ランク評価指標により修理を優先すべき空調設備を報知できる。
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、開示の技術は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
例えば、上記の実施例では、不具合を検出する監視対象の設備として、空調設備を例に説明したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、監視対象の設備は、空調設備以外の設備であってもよい。本実施例のSVMによる不具合の検出は、空調設備以外に機械設備などの様々な設備の不具合の検出に適用できる。一方、本実施例のSVM+経験則による不具合の検出は、空調設備の不具合の検出に特化しており、空調設備の不具合の検出精度が向上する。
また、上記の実施例では、センサ装置11が、ゲートウェイ12及びネットワークNを介して予兆検出装置15と通信する場合について説明したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、センサ装置11と予兆検出装置15とが直接無線通信を行ってもよい。また、センサ装置11が、例えば、920MHz帯マルチホップ無線などのマルチホップ無線通信に対応してマルチホップ無線ネットワークを構成し、各センサ装置11が直接又は他のセンサ装置11を介して予兆検出装置15と通信を行ってもよい。
また、上記の実施例では、センサ装置11が測定データを予兆検出装置15へ送信し、予兆検出装置15が測定データから不具合を検出する場合について説明したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、センサ装置11に取得部50、抽出部51、判定部52、特定部53及び報知部54の機能を持たせて、センサ装置11が測定データから不具合の検出を行ってもよい。この場合、センサ装置11が本発明の予兆検出装置に該当する。
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的状態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、取得部50、判定部52、特定部53及び報知部54の各処理部が適宜統合されてもよい。また、各処理部の処理が適宜複数の処理部の処理に分離されてもよい。さらに、各処理部にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
HDD320には上記の取得部50、抽出部51、判定部52、特定部53及び報知部54と同様の機能を発揮する予兆検出プログラム320aが予め記憶される。なお、予兆検出プログラム320aについては、適宜分離してもよい。
そして、CPU310が、予兆検出プログラム320aをHDD320から読み出して実行することで、実施例の各処理部と同様の動作を実行する。すなわち、予兆検出プログラム320aは、取得部50、抽出部51、判定部52、特定部53及び報知部54と同様の動作を実行する。
例えば、コンピュータ300に挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」にプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
さらには、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ300に接続される「他のコンピュータ(又はサーバ)」などにプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。