(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114516
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】シリコン単結晶ウェーハ及びシリコン単結晶ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240816BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020330
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】水澤 康
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB06
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077EH05
4G077EH06
4G077FE00
4G077HA12
4G077PB05
4G077PB14
4G077PF55
(57)【要約】
【課題】
P型のドーパント及び窒素がドープされたシリコン単結晶ウェーハにおいて、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できるものとなるシリコン単結晶ウェーハを提供すること目的とする。
【解決手段】
P型のドーパント及び窒素がドープされ、P型で抵抗率が1000Ω・cm以上の熱処理ウェーハであるシリコン単結晶ウェーハであって、窒素の一部がドナー化しており、前記P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素で補償しているものであることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型のドーパント及び窒素がドープされ、P型で抵抗率が1000Ω・cm以上の熱処理ウェーハであるシリコン単結晶ウェーハであって、
窒素の一部がドナー化しており、前記P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素で補償しているものであることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ。
【請求項2】
前記P型のドーパントがボロンであることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶ウェーハ。
【請求項3】
P型のドーパント及び窒素がドープされ、P型で抵抗率が1000Ω・cm以上のシリコン単結晶ウェーハの製造方法であって、
シリコン単結晶ウェーハを製造する際の条件を決定する準備工程と、前記準備工程で決定した条件で前記シリコン単結晶ウェーハを製造する製品製造工程からなり、
前記準備工程は、
前記シリコン単結晶ウェーハの目標の抵抗率を決定する目標抵抗率決定ステップと、
予備試験用シリコン単結晶を製造してデバイスプロセスにおける最高温度以上の処理温度の熱処理を行ったときの窒素ドナー濃度の減少量を定量して、残留する窒素ドナー濃度を算出する算出ステップと、
前記目標の抵抗率と、前記残留する窒素ドナー濃度を考慮して、シリコン単結晶製造時における狙い抵抗率を決定する狙い抵抗率決定ステップと、
を含み、
前記製品製造工程は、
前記準備工程で製造した前記予備試験用シリコン単結晶の製造条件と同じ窒素濃度、酸素濃度とし、かつ前記狙い抵抗率決定ステップで決定した狙い抵抗率になるように前記P型のドーパントを調整してシリコン単結晶を製造する単結晶製造ステップと、
製造した前記シリコン単結晶に前記処理温度で熱処理を行う熱処理ステップと、
を含むことを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記P型のドーパントをボロンとすることを特徴とする請求項3に記載のシリコン単結晶ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶ウェーハ及びシリコン単結晶ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路を作製するための基板として、主にCZ(Czochra1ski)法によって作製されたシリコンウェーハが用いられている。特に、通信機器内の集積回路も高機能化、小型化の要求が強い。
【0003】
通信機器内の集積回路では、トランジスタなどの能動素子やインダクター等の受動素子が組み合わされている。それらの素子が扱う信号のレベルは大信号から微弱な信号まで非常に広い範囲である。
【0004】
そのため、半導体基板上で別々の集積回路の信号がお互いに干渉することを少なくしなければならない。また、能動素子および受動素子ともに、抵抗損失成分や浮遊容量成分を小さくしないと、消費電流が増加し、通信機器の動作時間が短くなってしまうことから、高調波レベルは極めて小さな値であることが望ましい。
【0005】
これらの高周波用集積回路には、P型のシリコンウェーハが用いられている場合がある。使用されるシリコンウェーハは、抵抗損失を低減するため抵抗率を高くする必要がある。抵抗率は高いほど、高周波特性が向上することがわかっている。
【0006】
さらに特性を改善するために、トラップリッチ層を用いたウェーハが多く使用されている(特許文献1、特許文献2)。具体的には、トラップリッチ層としてポリシリコン層(多結晶シリコン層)が多く用いられている。
【0007】
高抵抗率基板に高周波信号が入力されると反転層が形成されることで基板の抵抗率が変わってしまう。そこでトラップリッチ層中の深い準位でキャリアを捕獲することで、抵抗率を高い状態に保つことができ、良好な高周波特性を得ることができる。
【0008】
受動素子では、高抵抗率基板の上にトラップリッチ層としてポリシリコン層を形成したウェーハが多く用いられる。
【0009】
他方、能動素子にはトラップリッチ層を使ったSOIウェーハが多く使用されている。具体的な構造は、高抵抗率基板上にトラップリッチ層としてポリシリコン層、その上に熱酸化膜層としての酸化膜層、その上にシリコン単結晶層である。
【0010】
これらの高周波通信用のSOIウェーハの基板の抵抗率は高い方がよい。その理由は、電極に入力された高周波信号が基板側を通ってしまうことで、入力信号の整数倍の周波数を持つ高調波が発生してしまい、ノイズやエネルギーロスとなってしまうからである。
【0011】
一方、高抵抗率の直径300mmシリコンウェーハを作製するのは、極低濃度のドーパント濃度を制御する必要があり、非常に難しい。例えば、P型で抵抗率が5000Ω・cmではボロン濃度は、3×1012atoms/cm3にする必要があり、クリーンルーム内のフィルターや部材などのボロン濃度を厳密に管理し、ボロン汚染を抑制する必要がある。
【0012】
この対策として、酸素が複数個凝集したサーマルドナーでボロンによるアクセプターを補償することで抵抗率を上げる技術がある。
例えば特許文献3には、サーマルドナーによりボロンによるアクセプターを補償させることで、抵抗率を上げる技術が開示されている。
【0013】
類似した技術に、特許文献4で、窒素ドープされたFZ結晶をウェーハ加工し、900~1250℃の熱処理をすることで窒素ドナーを消滅させて、デバイスプロセスでの熱処理が加わった場合に、抵抗率の変化が小さくなるようにするという方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2015-503853号公報
【特許文献2】特開2019-129195号公報
【特許文献3】特開2005-294694号公報
【特許文献4】国際公開第2005/010243号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献3のようにサーマルドナーでボロンによるアクセプターを補償する技術では、デバイスプロセスの詳細な熱処理条件によりサーマルドナーの発生や消滅を計算する必要がある。
【0016】
一方で特許文献4の技術では、N型では窒素ドナーを消滅させることで抵抗率は上がるが、P型では窒素ドナーを消滅させることで抵抗率が下がる。そのため、P型で抵抗率を上げたい場合はボロンなどによるP型のドーパントのアクセプターをドナーで補償する必要があるが、特許文献4の技術では窒素ドナーを消滅させてしまうため、窒素ドナーによる補償ができないという問題があった。
【0017】
また、N型では窒素ドナーが残存することで抵抗率は下がり、P型では窒素ドナーが残存することで抵抗率が上がる。そのため、P型で抵抗率を上げたい場合はボロンなどによるアクセプターを残存する窒素ドナーで補償する必要があるが、施すべき熱処理の温度が明らかではない。また、窒素ドナーが残存する量も明確でなく、熱処理後の抵抗率が狙い通りにはならないという問題があった。
【0018】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、P型のドーパント及び窒素がドープされたシリコン単結晶ウェーハにおいて、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できるものとなるシリコン単結晶ウェーハを提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明はP型のドーパント及び窒素がドープされたシリコン単結晶ウェーハの製造方法において、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できるシリコン単結晶ウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、P型のドーパント及び窒素がドープされ、P型で抵抗率が1000Ω・cm以上の熱処理ウェーハであるシリコン単結晶ウェーハであって、窒素の一部がドナー化しており、前記P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素で補償しているものであることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハを提供する。
【0021】
このようなシリコン単結晶ウェーハによれば、P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素、具体的には酸素と複数個の窒素が凝集した複合体である窒素ドナーで補償しているため、P型のドーパントだけでなくドナー化した窒素も抵抗率に寄与する。そのため、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率にできるものとなる。
【0022】
また、熱処理を行っていないシリコン単結晶ウェーハの窒素ドナー濃度は熱処理によって減少するが、本発明のシリコン単結晶ウェーハは熱処理ウェーハであり、既に熱処理済みであるため、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、窒素ドナー濃度が変化せず、抵抗率が下がることもない。そのため、本発明のシリコン単結晶ウェーハは高い抵抗率を維持できるものとなる。
【0023】
このような窒素ドナーでP型のドーパントによるアクセプターを補償して高抵抗率化したシリコン単結晶ウェーハは、Trap-rich SOI用の基板として使用でき、高調波レベルを低減できる。この理由は、基板の抵抗率が高いことで、高周波の信号が基板側に流れず、高調波の発生が抑制されるためである。
そのため、本発明のシリコン単結晶ウェーハは、高周波デバイス用ウェーハとしても適している。
【0024】
このとき、前記P型のドーパントがボロンであることが好ましい。
【0025】
これにより、本発明のシリコン単結晶ウェーハは、P型のドーパントとして制御が容易なボロンで抵抗率を高くすることができるものとなる。
【0026】
また本発明は、P型のドーパント及び窒素がドープされ、P型で抵抗率が1000Ω・cm以上のシリコン単結晶ウェーハの製造方法であって、シリコン単結晶ウェーハを製造する際の条件を決定する準備工程と、前記準備工程で決定した条件で前記シリコン単結晶ウェーハを製造する製品製造工程からなり、前記準備工程は、前記シリコン単結晶ウェーハの目標の抵抗率を決定する目標抵抗率決定ステップと、予備試験用シリコン単結晶を製造してデバイスプロセスにおける最高温度以上の処理温度の熱処理を行ったときの窒素ドナー濃度の減少量を定量して、残留する窒素ドナー濃度を算出する算出ステップと、前記目標の抵抗率と、前記残留する窒素ドナー濃度を考慮して、シリコン単結晶製造時における狙い抵抗率を決定する狙い抵抗率決定ステップと、を含み、前記製品製造工程は、前記準備工程で製造した前記予備試験用シリコン単結晶の製造条件と同じ窒素濃度、酸素濃度とし、かつ前記狙い抵抗率決定ステップで決定した狙い抵抗率になるように前記P型のドーパントを調整してシリコン単結晶を製造する単結晶製造ステップと、製造した前記シリコン単結晶に前記処理温度で熱処理を行う熱処理ステップと、を含むことを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの製造方法を提供する。
【0027】
これにより、P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素で補償しているため、P型のドーパントだけでなくドナー化した窒素も抵抗率に寄与する。そのため、製造されたシリコン単結晶ウェーハを、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率にできる。
【0028】
また、熱処理を行っていないシリコン単結晶ウェーハの窒素ドナー濃度は熱処理によって減少するが、本発明では、デバイスプロセスでの熱処理の後に残存する窒素ドナー濃度を考慮した狙い抵抗率に対応したP型のドーパント濃度でシリコン単結晶を製造してから、デバイスプロセスの最高温度以上の熱処理を加えることで、窒素ドナー濃度をデバイスプロセスでの熱処理後に残存する窒素ドナー濃度と同程度にする。一度デバイスプロセスにおける最高温度以上の温度で熱処理を行ったシリコン単結晶ウェーハは、該熱処理時の熱処理温度以下で再度の熱処理を行っても窒素ドナー濃度が減少しない。そのため、本発明の製造方法で製造されたシリコン単結晶ウェーハはデバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、窒素ドナー濃度が変化せず、抵抗率が下がることもない。
【0029】
つまり本発明では窒素ドナーをデバイスプロセスの最高温度以上の熱処理でも残存させて、P型のドーパントによるアクセプターを補償させることで、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、窒素ドナー濃度が変化しない、高抵抗率のシリコン単結晶ウェーハを提供することができる。
【0030】
そのため、製造後のシリコン単結晶ウェーハは高い抵抗率を維持でき、デバイスプロセス後の抵抗率をデバイスプロセス前の抵抗率より下げないことが可能となる。さらに、本発明をTrap-rich SOIの基板として使用することで、高周波用のデバイスを作製するプロセスを通した場合でも抵抗率が高い状態を保持することで、高調波を低減してノイズやエネルギーロスの低いデバイスを作製することができる。
【0031】
このとき、前記P型のドーパントをボロンとすることができる。
【0032】
これにより、P型のドーパントとして制御が容易なボロンで抵抗率を高くすることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明のシリコン単結晶ウェーハによれば、P型のドーパント及び窒素がドープされたシリコン単結晶ウェーハにおいて、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できるものとなる。
【0034】
また、本発明のシリコン単結晶ウェーハの製造方法によれば、P型のドーパント及び窒素がドープされたシリコン単結晶ウェーハの製造方法において、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できるウェーハを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶ウェーハの概略図を示す。
【
図2】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶ウェーハの製造方法の実施フローを示す。
【
図3】予備試験用シリコン単結晶の熱処理温度と熱処理後の残留窒素ドナー濃度の関係を示す図であって、縦軸を対数表示としたものを示す。
【
図4】予備試験用シリコン単結晶の熱処理温度と熱処理後の残留窒素ドナー濃度の関係を示す図であって、縦軸を線形表示としたものを示す。
【
図5】ボロン濃度から変換した抵抗率と熱処理後の残留窒素ドナー濃度でボロンによるアクセプター濃度を補償した結果としての抵抗率の関係を熱処理温度毎に示す。
【
図6】比較例のシリコン単結晶ウェーハの製造方法の実施フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
上述のように、P型のドーパント及び窒素がドープされたシリコン単結晶ウェーハにおいて、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できるものとなるシリコン単結晶ウェーハが求められていた。
【0038】
また、P型のドーパント及び窒素がドープされたシリコン単結晶ウェーハの製造方法において、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できるシリコン単結晶ウェーハの製造方法が求められていた。
【0039】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、P型のドーパント及び窒素がドープされ、P型で抵抗率が1000Ω・cm以上の熱処理ウェーハであるシリコン単結晶ウェーハであって、窒素の一部がドナー化しており、前記P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素で補償しているものであることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハにより、P型のドーパント及び窒素がドープされたシリコン単結晶ウェーハにおいて、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できるものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0040】
また本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、P型のドーパント及び窒素がドープされ、P型で抵抗率が1000Ω・cm以上のシリコン単結晶ウェーハの製造方法であって、シリコン単結晶ウェーハを製造する際の条件を決定する準備工程と、前記準備工程で決定した条件で前記シリコン単結晶ウェーハを製造する製品製造工程からなり、前記準備工程は、前記シリコン単結晶ウェーハの目標の抵抗率を決定する目標抵抗率決定ステップと、予備試験用シリコン単結晶を製造してデバイスプロセスにおける最高温度以上の処理温度の熱処理を行ったときの窒素ドナー濃度の減少量を定量して、残留する窒素ドナー濃度を算出する算出ステップと、前記目標の抵抗率と、前記残留する窒素ドナー濃度を考慮して、シリコン単結晶製造時における狙い抵抗率を決定する狙い抵抗率決定ステップと、を含み、前記製品製造工程は、前記準備工程で製造した前記予備試験用シリコン単結晶の製造条件と同じ窒素濃度、酸素濃度とし、かつ前記狙い抵抗率決定ステップで決定した狙い抵抗率になるように前記P型のドーパントを調整してシリコン単結晶を製造する単結晶製造ステップと、製造した前記シリコン単結晶に前記処理温度で熱処理を行う熱処理ステップと、を含むことを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの製造方法により、得られたシリコン単結晶ウェーハにデバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、P型のドーパントによるアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できることを見出し、本発明を完成した。
【0041】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
まず本発明のシリコン単結晶ウェーハ及びシリコン単結晶ウェーハの製造方法に本発明者が想到するに至った経緯について説明する。
【0042】
上記のように、高周波用デバイスでは、さらなる高調波を低減するために、デバイスプロセスで熱処理を施しても安定して抵抗率が高いシリコン単結晶ウェーハが求められている。
【0043】
本発明者らは、この課題について鋭意検討した。実験の一つとして、P型で抵抗率が2000Ω・cm狙いで、窒素ドープの直径300mmのシリコン単結晶をCZ法で引き上げた。
【0044】
その後、引き上げたシリコン単結晶をウェーハ加工して、窒素ドナー濃度を低温のFT-IR法で実測した。そのウェーハを用いて、750~1200℃/30分、アルゴン雰囲気で熱処理をし、熱処理後の窒素ドナー濃度を低温のFT-IR法で実測した。
【0045】
その結果、熱処理温度によって残留する窒素ドナー濃度が異なることや、ボロンによるアクセプターを残留した窒素ドナーで補償することで、P型で抵抗率が高くなること、さらには、熱処理した後に、さらに処理した温度以下の熱処理を行っても抵抗率が変化しないことを見出した。
【0046】
以上の知見から、本発明者らは、本発明を為すに至った。すなわち、本発明は、残留窒素ドナーによって、P型のドーパントによるアクセプターを補償することで抵抗率が高くなっていることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハおよびその製造方法である。
以上が本発明のシリコン単結晶ウェーハ及びシリコン単結晶ウェーハの製造方法に本発明者が想到するに至った経緯についての説明である。
【0047】
次に
図1を参照しながら本発明の実施形態に係る熱処理ウェーハであるシリコン単結晶ウェーハ1について説明する。
【0048】
図1に示されるシリコン単結晶ウェーハ1はP型のドーパント及び窒素がドープされ、P型で抵抗率が1000Ω・cm以上の熱処理ウェーハである。
抵抗率を1000Ω・cm以上とすることで、シリコン単結晶ウェーハ1に形成するデバイスに要求される特性、例えばTrap-rich SOI用の基板に対応するためのシリコン単結晶の抵抗率の要件を満たしやすくなる。
【0049】
なお、シリコン単結晶ウェーハ1の抵抗率の上限は、シリコン単結晶ウェーハ1に形成するデバイスに要求される特性に応じて適宜選択されるが、例えば製造可能な真性シリコン単結晶半導体の抵抗率(50kΩ・cm程度)を上限として例示できる。
【0050】
シリコン単結晶ウェーハ1は窒素の一部がドナー化しており、P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素で補償しているものである。
【0051】
P型のドーパントはシリコン単結晶ウェーハ1の導電型をP型にするものであり、かつシリコン単結晶ウェーハ1の抵抗率を所望の値に制御するものである。
P型のドーパントのドープ量はシリコン単結晶ウェーハ1にP型半導体として必要な特性を付与し、かつ必要な抵抗率を得られる範囲で適宜選択すればよい。
【0052】
P型のドーパントは、ボロン、インジウム、ガリウム、アルミニウム等を例示できるが、ボロンであることが好ましい。これにより、本発明のシリコン単結晶ウェーハ1は、P型のドーパントとして制御が容易なボロンで抵抗率を高くすることができるものとなる。以下の説明では特に断りがない限り、P型のドーパントとしてボロンを用いる場合を例に説明する。
【0053】
窒素はシリコン単結晶ウェーハ1の抵抗率を高くするためにドープするものであり、その一部がドナー化しており、P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素で補償することで抵抗率を高くするものとなる。ドナー化した窒素とは、例えば酸素と複数個の窒素が凝集した複合体である窒素ドナーである。
【0054】
なお、予め熱処理を行っていないシリコン単結晶ウェーハに熱処理を行うと、窒素ドナー濃度は減少するが、本発明のシリコン単結晶ウェーハ1は、予め熱処理を行った熱処理ウェーハであり、既に熱処理済みであるため、デバイスを形成する後工程であるデバイスプロセスで熱処理が施された場合であっても、予め行った熱処理の温度以下の熱処理であれば、窒素ドナー濃度が変化せず、抵抗率が下がることもない。従って、熱処理ウェーハは、デバイスプロセスにおける最高温度以上の温度で熱処理したものが好ましい。
【0055】
よって、本発明のシリコン単結晶ウェーハ1は高い抵抗率を維持できるものとなる。なお、熱処理後にシリコン単結晶ウェーハ1内に残留する窒素ドナーを以下の説明では残留窒素ドナーともいい、熱処理後に残留する窒素ドナー濃度を残留窒素ドナー濃度ともいう。またデバイスプロセスとは、シリコン単結晶ウェーハに対して能動素子等の素子や、素子同士を接続する配線等を形成するプロセスを意味する。
【0056】
シリコン単結晶ウェーハ1内のドナー化した窒素、つまり残留窒素ドナー濃度は、シリコン単結晶ウェーハ1の抵抗率である1000Ω・cm以上の抵抗率が得られる濃度とする。具体的には、ドープしたボロンのアクセプター濃度で得られる抵抗率+残留窒素ドナー濃度で得られる抵抗率=シリコン単結晶ウェーハ1の抵抗率、となる濃度である。
【0057】
P型のドーパントのアクセプター濃度のみでシリコン単結晶ウェーハ1の抵抗率を制御しようとすると、アクセプター濃度を極端に低くしなければならない。一方で、シリコン単結晶ウェーハ1のように、P型のドーパントによるアクセプターを、ドナー化した窒素で補償することで、P型のドーパントだけでなくドナー化した窒素も抵抗率に寄与する。
【0058】
そのため、シリコン単結晶ウェーハ1はボロンなどによるP型のドーパントのアクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率にできるものとなる。よって、P型のドーパントのみでシリコン単結晶ウェーハ1の抵抗率を制御する場合と比べてアクセプター濃度が高くても抵抗率を確実に高くできるものとなる。
【0059】
次に、
図2~
図5を参照して、本発明のシリコン単結晶ウェーハの製造方法について説明する。
【0060】
まず、
図2を参照して本発明のシリコン単結晶ウェーハの製造方法の概要を説明する。
図2に示すシリコン単結晶ウェーハの製造方法は、シリコン単結晶ウェーハを製造する際の条件を決定する準備工程と、準備工程で決定した条件でシリコン単結晶ウェーハを製造する製品製造工程からなる。
【0061】
本発明の準備工程は、目標となる抵抗率を決定し、窒素がドープされたP型のシリコン結晶を引き上げ、その後ウェーハ加工を行い、結晶成長中に形成された窒素ドナー濃度を定量する。その定量方法は、低温FT-IR法を用いてもいいし、実測した抵抗率とウェーハ中のボロン濃度から見積もった抵抗率の差から定量してもよい。以下の説明では特に断りがない限りは低温FT-IR法を用いる場合を例に説明する。
【0062】
準備工程では、その後、このウェーハに対して、デバイスプロセスの熱処理工程の最高温度以上での熱処理を施し、窒素ドナー濃度がどの程度減少するかを定量する。
【0063】
熱処理の温度をデバイスプロセスの最高温度以上とする理由は、窒素ドナー濃度は熱処理温度が高いほど減少する量が多いため、最高温度未満の温度で熱処理をしてしまうと、デバイスプロセスで、最高温度で熱処理された場合に、窒素ドナーがさらに減少し、抵抗率が下がってしまうためである。そして、残存する窒素ドナーを算出し、この残存する窒素ドナーを考慮して、単結晶製造時における狙い抵抗率を決定する。以上で準備工程は終了する。
【0064】
準備工程に続く製品製造工程は、準備工程で製造した単結晶製造条件と同じ窒素濃度、酸素濃度とし、かつ、準備工程で決定した単結晶製造時における狙い抵抗率になるようにP型のドーパントを調整して単結晶を製造する。
【0065】
その後、前述した熱処理温度で熱処理を施すことで、ボロンのアクセプターを窒素ドナーで補償し、抵抗率が高く、さらにデバイスプロセスの熱処理でも窒素ドナーが減少せず、高い抵抗率を保ったままのP型のシリコン単結晶ウェーハが提供できる。
以上が本発明のシリコン単結晶ウェーハの製造方法の概要の説明である。
【0066】
次に
図2~
図5を参照して本発明のシリコン単結晶ウェーハ1の製造方法の詳細を説明する。
【0067】
(準備工程)
まず製造するシリコン単結晶ウェーハ1の目標の抵抗率を決定する(
図2のS0、目標抵抗率決定ステップ)。
目標の抵抗率は、特に限定しないが、この後の製品製造工程の場合と同程度とすることが好ましい。具体的には目標の抵抗率の下限は、1000Ω・cmである。上限はシリコン単結晶ウェーハ1に形成するデバイスに要求される特性に応じて適宜選択されるが、製造可能な真性シリコン単結晶半導体の抵抗率(50kΩ・cm程度)を上限として例示できる。
【0068】
次に、P型で窒素ドープのシリコン単結晶をCZ法で引き上げる等して予備試験用シリコン単結晶を製造する(
図2のS1)。このとき、窒素濃度は例えば1×10
15atoms/cm
3程度で、酸素濃度は例えば4ppma(JEITA)程度である。
【0069】
なお窒素濃度は1×1014~5×1015atoms/cm3、酸素濃度は0.1ppma~20ppma(JEITA)とするのが好ましい。この濃度範囲であれば、CZ法で予備試験用シリコン単結晶を製造した段階で窒素ドナーが形成されているためである。なお、製造するシリコン単結晶の直径は特に限定しないが、例えば直径が300mm程度である。また、引き上げるシリコン単結晶の長さも後工程で所望の枚数のウェーハが得られるのであれば特に限定しない。
【0070】
その後、予備試験用シリコン単結晶をワイヤソーで切断する等してウェーハ加工(
図2のS2)し、窒素ドナー濃度を低温のFT-IR法等で定量する(
図2のS3)。そのウェーハに対して、デバイスプロセスの最高温度以上の処理温度の熱処理を施す(
図2のS4)。
【0071】
なお、熱処理の際の処理温度の上限は特に限定しないが、熱処理温度が高くなるほど窒素ドナー濃度は低くなるため、熱処理後の窒素ドナー濃度が必要以上に低くならない程度の熱処理温度を上限とするのが好ましい。
【0072】
熱処理の時間も特に限定しないが、10分以上とするのが好ましい。
【0073】
熱処理の時間を10分以上とするのが好ましい理由は以下の通りである。熱処理で窒素ドナー濃度が減少する理由の1つは熱処理で窒素が外方拡散することであるが、この外方拡散にはある程度の時間を要するため、熱処理で窒素ドナー濃度が減少するのもある程度の時間、例えば10分程度を要する。そのため、10分以上の時間、熱処理を行う方が、該熱処理後の残留窒素ドナー濃度を、より正確に求められる。
また、この時の熱処理時間は窒素ドナーが乖離してドナーとして作用しなくなればよく、必要以上に長くする必要はない。例えば30分以下とすることができる。
【0074】
なお、熱処理の際の雰囲気はArのような不活性ガス雰囲気であると、熱処理中に意図しない反応が生じるのを防ぐことができるため、好ましい。
【0075】
次に、熱処理後の窒素ドナー濃度を低温のFT-IR法等で測定し、熱処理後の窒素ドナー濃度の減少量を定量する。さらに求めた窒素ドナー濃度の減少量から残留窒素ドナー濃度を算出する(
図2のS5)。
S3~S5を算出ステップともいう。
【0076】
次に、準備段階の最後として、目標の抵抗率と、残留窒素ドナー濃度を考慮して、シリコン単結晶製造時における狙い抵抗率を設定する(
図2のS6、狙い抵抗率決定ステップ)。狙い抵抗率とは、製品製造工程での単結晶製造時のP型のドーパント濃度、ここではボロンのアクセプター濃度を抵抗率に換算した値である。つまり狙い抵抗率は、P型のドーパントと窒素ドナーから最終的に得られる抵抗率から窒素ドナーの寄与分を除いた抵抗率である。
【0077】
具体的にはS6では、狙い抵抗率をボロン濃度に換算した値を算出する。より具体的には、狙い抵抗率をボロン濃度(アクセプター濃度)に換算した値と残留窒素ドナー濃度(残留窒素ドナー濃度)の差の値が設計ボロン濃度となるような条件で狙い抵抗率に対応するボロン濃度を求める。ここで設計ボロン濃度とは、目標の抵抗率をボロン濃度に換算したものであり、具体的には窒素ドナーを利用せずに目標の抵抗率をボロンドープで制御すると仮定した場合に必要なボロン濃度である。
【0078】
このように狙い抵抗率を設定することで、狙い抵抗率のボロン濃度よりも設計ボロン濃度の方が低くなり、ボロンによるアクセプターを残留窒素ドナーで補償したときの抵抗率を求めることができる。これにより、デバイスプロセス後に設計ボロン濃度(目的の抵抗率)となるように、単結晶製造段階で制御すべきボロン濃度(狙い抵抗値)を求めることができる。
【0079】
(製品製造工程)
製品製造工程ではまず、準備工程で製造した予備試験用シリコン単結晶の製造条件、具体的には
図2のS1と同じホットゾーン(炉内構造)、酸素濃度、窒素濃度の条件で、
図2のS6で決定した狙い抵抗率に対応したボロン濃度となるようにP型のドーパントであるボロンを調整して製品のシリコン単結晶を製造する(
図2のS7)。
【0080】
その後、製造した製品のシリコン単結晶にS2と同様のウェーハ加工を行う(
図2のS8)。なお、S7とS8を単結晶製造ステップともいう。
さらに
図2のS4で実施した熱処理と同じ処理温度の熱処理を施す(
図2のS9、熱処理ステップ)。なお熱処理時間や熱処理雰囲気もS4と同じ条件であることが好ましい。
【0081】
結果として、ボロンによるアクセプターを残留窒素ドナーが補償することで、ボロン濃度だけで決まる抵抗率(狙い抵抗率)よりも高い抵抗率のシリコン単結晶ウェーハ1を得ることができる。
【0082】
さらに、熱処理温度をデバイスプロセスの最高温度以上とすることで、製造したシリコン単結晶ウェーハ1をデバイスプロセスに投入した場合でも窒素ドナー濃度は減少することなく、シリコン単結晶ウェーハ1は安定して高い抵抗率を保ったままとなる。
【0083】
なおS7で酸素濃度と窒素濃度をS1と同じとするのは、窒素ドナーは酸素と窒素の複合体であることから、単結晶製造後の窒素ドナー濃度をS1の場合と同程度にするためである。
【0084】
図2のS4の熱処理温度とS5で定量した予備試験用シリコン単結晶の残留窒素ドナー濃度の関係の一例を
図3と
図4に示す。
図3と
図4では、熱処理温度を750~1200℃とした場合を示す。ウェーハの窒素濃度は1×10
15atoms/cm
3で酸素濃度は4ppma(JEITA)である。
図3は縦軸が対数表示で
図4は縦軸が線形表示である。
【0085】
図3と
図4から、熱処理を施すことで、窒素ドナー濃度は大きく減少するが、特に1150℃での熱処理よりも低い温度では熱処理後も窒素ドナーが残留し、残留窒素ドナー濃度は熱処理の温度が高いほど低くなることがわかる。
【0086】
図5に、抵抗率をボロン濃度(アクセプター濃度)に変換した値を横軸にして、縦軸は熱処理後の残留窒素ドナー濃度でボロンによるアクセプター濃度を補償した結果としての抵抗率の関係を示す。
【0087】
なお、
図5は熱処理前の窒素ドナー濃度は1×10
14/cm
3であるとし、
図3もしくは
図4から算出した、窒素ドナー濃度の減少割合から、各熱処理温度での残留窒素ドナー濃度を算出した。
【0088】
図5に示すように熱処理温度により残留窒素ドナー濃度が異なるために、求めた関係は熱処理温度によって異なる線となる。
図5の縦軸が
図2のS6におけるデバイスプロセス後の目標抵抗率となり、横軸が
図2のS6で決定したボロン濃度から換算される単結晶製造段階での狙い抵抗率となる。各熱処理温度が各デバイスプロセスの最高温度である。
【実施例0089】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
本発明のシリコン単結晶ウェーハの製造方法に基づき目標抵抗率と残留窒素ドナー濃度を考慮して決定した狙い抵抗率でシリコン単結晶ウェーハを製造し、残留窒素ドナー濃度を考慮せずに決定した抵抗率で熱処理もせずにシリコン単結晶ウェーハを製造した場合と、デバイスプロセス後の抵抗率を比較した。具体的な手順は以下の通りである。
【0090】
[実施例1]
図2のフローに沿って、本発明のシリコン単結晶ウェーハ1を製造した。
準備工程として、目標とする抵抗率を5000Ω・cmとし(
図2のS0)、直径300mmのP型で抵抗率が10Ω・cmの予備試験用シリコン単結晶をCZ法で引き上げることで製造した(
図2のS1)。窒素濃度は1×10
15atoms/cm
3で酸素濃度は4ppma(JEITA)であった。
【0091】
次に引き上げた予備試験用シリコン単結晶をウェーハ加工し(
図2のS2)、低温FT-IR法により窒素ドナー濃度を定量した(
図2のS3)。定量は非特許文献(J. Appl. Phys., Vol. 89, No. 8, 15 April 2001)を参考にした。
【0092】
その結果、窒素ドナー濃度は2×10
14/cm
3であることがわかった。そこで、このウェーハをデバイスプロセスの最高温度である1050℃で熱処理して(
図2のS4)窒素ドナー濃度の減少量を定量し、それから残留窒素ドナー濃度を算出した結果(
図2のS5)、残留窒素ドナー濃度は3.7×10
12/cm
3であることがわかった。なお、熱処理の時間は30分で雰囲気はAr雰囲気とした。
【0093】
次に目標とする抵抗率を5000Ω・cmとして、ボロン濃度(アクセプター濃度)に換算すると2.7×10
12atoms/cm
3となった。また、この残留窒素ドナーでボロンによるアクセプターを補償することを考慮すると、製品製造工程におけるシリコン単結晶製造時の狙い抵抗率は、1700Ω・cmとなった(
図2のS6)。
【0094】
次に製品製造工程として、ボロンのドーパント量を、窒素ドナーを勘案しなければ抵抗率が1700Ω・cmとなる量として、準備工程と同じ製造条件(窒素濃度、酸素濃度、ホットゾーン)でシリコン単結晶をCZ法で引き上げることで製造した(
図2のS7)。その後に、ウェーハ加工を行い(
図2のS8)、デバイスプロセスの最高温度である1050℃で30分、Ar雰囲気下で熱処理した(
図2のS9)。
【0095】
その結果、熱処理したウェーハの抵抗率は目標とする5000Ω・cmとなった。また、この熱処理したウェーハに対して、さらにデバイスプロセスを模した熱処理(1050℃/10min)に投入した後に抵抗率を四探針法で測定した結果、抵抗率はデバイスプロセスを模した場合の熱処理前と変化しないことを確認した。
【0096】
[実施例2]
図2のフローに沿って、本発明のシリコン単結晶ウェーハ1を製造した。
準備工程として、目標とする抵抗率を3000Ω・cmとし(
図2のS0)、直径300mmのP型で抵抗率が10Ω・cmの予備試験用シリコン単結晶をCZ法で引き上げることで製造した(
図2のS1)。窒素濃度は1×10
15atoms/cm
3で酸素濃度は10ppma(JEITA)であった。
【0097】
次に引き上げた予備試験用シリコン単結晶をウェーハ加工し(
図2のS2)、低温FT-IR法により窒素ドナー濃度を定量した(
図2のS3)。定量は非特許文献(J. Appl. Phys., Vol. 89, No. 8, 15 April 2001)を参考にした。
【0098】
その結果、窒素ドナー濃度は5×10
14/cm
3であることがわかった。そこで、このウェーハをデバイスプロセスの最高温度である750℃で熱処理して(
図2のS4)窒素ドナー濃度の減少量を定量し、それから残留窒素ドナー濃度を算出した結果(
図2のS5)、残留窒素ドナー濃度は1.3×10
13/cm
3であることがわかった。なお、熱処理の時間は30分で雰囲気はAr雰囲気とした。
【0099】
次に目標とする抵抗率を3000Ω・cmとして、ボロン濃度(アクセプター濃度)に換算すると4.4×10
12atoms/cm
3となった。また、この残留窒素ドナーでボロンによるアクセプターを補償することを考慮すると製品製造工程におけるシリコン単結晶製造時の狙い抵抗率は、760Ω・cmとなった(
図2のS6)。
【0100】
次に製品製造工程として、ボロンのドーパント量を、窒素ドナーを勘案しなければ抵抗率が760Ω・cmとなる量として、準備工程と同じ製造条件(窒素濃度、酸素濃度、ホットゾーン)でシリコン単結晶をCZ法で引き上げることで製造した(
図2のS7)。その後に、ウェーハ加工を行い(
図2のS8)、デバイスプロセスの最高温度である750℃で30分、Ar雰囲気下で熱処理した(
図2のS9)。
【0101】
その結果、熱処理したウェーハの抵抗率は目標とする3000Ω・cmとなった。また、この熱処理したウェーハに対して、さらにデバイスプロセスを模した熱処理(750℃/2hr)に投入した後に抵抗率を四探針法で測定した結果、抵抗率はデバイス熱処理を模した場合の熱処理前と変化しないことを確認した。
【0102】
[比較例1]
デバイスプロセスの熱処理後の窒素ドナー濃度の減少量を考慮しなかったこと以外は実施例1と同様にして準備工程及び製品製造工程を行い、シリコン単結晶ウェーハを製造した。
【0103】
図6のフローに沿って、比較例1のシリコン単結晶ウェーハを製造した。
準備工程として、目標とする抵抗率を5000Ω・cmとし(
図6のS10)、直径300mmのP型で抵抗率が10Ω・cmの予備試験用シリコン単結晶をCZ法で引き上げることで製造した(
図6のS11)。窒素濃度は1×10
15atoms/cm
3で酸素濃度は4ppmaであった。
【0104】
次に引き上げたシリコン単結晶をウェーハ加工し(
図6のS12)、熱処理を行わずに低温FT-IR法により窒素ドナー濃度を定量した(
図6のS13)。定量は非特許文献(J. Appl. Phys., Vol. 89, No. 8, 15 April 2001)を参考にした。
【0105】
その結果、窒素ドナー濃度は2×10
14/cm
3であることがわかった。次に目標とする抵抗率を5000Ω・cmとして、ボロン濃度(アクセプター濃度)に換算すると2.7×10
12atoms/cm
3となった。
また、定量した窒素ドナーでボロンによるアクセプターを補償することを考慮すると製品製造工程における単結晶製造時の狙い抵抗率は、65Ω・cmとなった(
図6のS14)。
【0106】
製品製造工程として、準備工程と同じ製造条件(窒素濃度、酸素濃度、ホットゾーン)でシリコン単結晶をCZ法で引き上げて(
図6のS15)ウェーハ加工した(
図6のS16)。その後に抵抗率を四探針法で測定した結果、抵抗率は目標とする5000Ω・cmとなった。
【0107】
しかし、このウェーハに対して、デバイスプロセスを模した熱処理(1050℃/10min)に投入した後に抵抗率を四探針法で測定したところ、窒素ドナー濃度が減少していまい、抵抗率は65Ω・cmとなってしまった。
【0108】
[比較例2]
デバイスプロセスの熱処理後の窒素ドナー濃度の減少量を考慮しなかったこと以外は実施例2と同様にして準備工程及び製品製造工程を行った。
【0109】
図6のフローに沿って、比較例2のシリコン単結晶ウェーハを製造した。
準備工程として目標とする抵抗率を3000Ω・cmとし(
図6のS10)、直径300mmのP型で抵抗率が10Ω・cmの予備試験用シリコン単結晶をCZ法で引き上げることで製造した(
図6のS11)。窒素濃度は1×10
15atoms/cm
3で酸素濃度は10ppmaであった。
【0110】
次に引き上げた単結晶シリコンをウェーハ加工し(
図6のS12)、低温FT-IR法により窒素ドナー濃度を定量した(
図6のS13)。定量は非特許文献(J. Appl. Phys., Vol. 89, No. 8, 15 April 2001)を参考にした。
【0111】
その結果、窒素ドナー濃度は5×1014/cm3であることがわかった。次に目標とする抵抗率を3000Ω・cmとして、ボロン濃度(アクセプター濃度)に換算すると4.4×1012atoms/cm3となった。
【0112】
また、定量した窒素ドナーでボロンによるアクセプターを補償することを考慮すると製品製造工程におけるシリコン単結晶製造時の狙い抵抗率は、窒素ドナー濃度と目標とする抵抗率である3000Ω・cmのアクセプター濃度の和である、4.96×10
14/cm
3で抵抗率に換算すると8.7Ω・cmとなった(
図6のS14)。
【0113】
製品製造工程として、準備工程と同じ製造条件(窒素濃度、酸素濃度、ホットゾーン)でシリコン単結晶をCZ法で引き上げて(
図6のS15)ウェーハ加工した(
図6のS16)。その後に抵抗率を四探針法で測定した結果、抵抗率は目標とする3000Ω・cmとなった。
【0114】
しかし、このウェーハに対して、デバイスプロセスを模した熱処理(750℃/2hr)に投入した後に抵抗率を四探針法で測定したところ、窒素ドナー濃度が減少してしまい、抵抗率は66Ω・cmとなってしまった。
【0115】
デバイスプロセスを模した熱処理後の窒素ドナー濃度を低温FT-IR法で定量したところ、5.23×1012atoms/cm3となっており、このドナー濃度とアクセプター濃度の差から見積もられる抵抗率になったことがわかった。
【0116】
以上の結果から、本発明のシリコン単結晶ウェーハの製造方法に基づき目標抵抗率と残留窒素ドナー濃度を考慮して決定した狙い抵抗率でシリコン単結晶ウェーハを製造することで、デバイスプロセスの熱処理が施された場合であっても、アクセプター濃度から予想される抵抗率よりも高い抵抗率を維持できることが分かった。
【0117】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。