(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011494
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】造形液、及び造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/14 20210101AFI20240118BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20240118BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240118BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240118BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20240118BHJP
【FI】
B22F10/14
B22F1/10
B33Y10/00
B33Y70/00
B29C64/165
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113504
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】新谷 祐樹
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AR17
4F213WA22
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4K018AA13
4K018BA08
4K018BA10
(57)【要約】
【課題】バインダージェッティング方式において、吐出性に優れ、ガラス転移点が低いバインダー樹脂を含む造形液を用いた場合でも、得られるグリーン体における樹脂のガラス転移点を高めることができ、グリーン体の強度に優れ、変形を抑えることができる造形液の提供。
【解決手段】金属粒子を含む粉体の層に対して付与される造形液であって、
数平均分子量3,000以下の環構造を有するオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、
実質的に水を含有しない造形液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子を含む粉体の層に対して付与される造形液であって、
数平均分子量3,000以下の環構造を有するオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、
実質的に水を含有しないことを特徴とする造形液。
【請求項2】
前記環構造を有するオリゴマーが、芳香環を有する共重合体、水素添加された芳香環を有する共重合体、ポリテルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、及びアルキルフェノール樹脂から選択される請求項1に記載の造形液。
【請求項3】
前記環構造を有するオリゴマーが、環構造中に不飽和結合を有する熱可塑性オリゴマーを含む請求項1に記載の造形液。
【請求項4】
下記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂を更に含有する請求項1に記載の造形液。
【化1】
【請求項5】
前記金属粒子が、アルミニウム、亜鉛、及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の造形液。
【請求項6】
前記金属粒子が、樹脂により表面が被覆されていない請求項1に記載の造形液。
【請求項7】
25℃における粘度が5mPa・s以上50mPa・s以下である請求項1に記載の造形液。
【請求項8】
金属粒子を含む粉体の層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体の層に対して造形液を付与する造形液付与工程と、
前記粉体層形成工程及び前記造形液付与工程を順次繰り返すことで積層物を形成する積層工程と、を含み、
前記造形液が、数平均分子量3,000以下の環構造を有するオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、且つ実質的に水を含有しないことを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項9】
前記造形液付与工程が、前記粉体の層に対して前記造形液をインクジェット方式で吐出する工程である請求項8に記載の造形物の製造方法。
【請求項10】
前記積層物を加熱することで固化物を形成する加熱工程と、
前記固化物に付着している前記粉体である余剰粉体を除去してグリーン体を得る余剰粉体除去工程と、を更に有する請求項8に記載の造形物の製造方法。
【請求項11】
前記グリーン体を加熱することで前記環構造を有するオリゴマーが除去された脱脂体を形成する脱脂工程と、
前記脱脂体を加熱することで焼結体を形成する焼結工程と、を更に有する請求項10に記載の造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形液、及び造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属などからなる複雑で微細な造形物を生産するニーズが高まってきている。このニーズに対応するための技術として、特に高生産性の観点から、バインダージェッティング方式で造形した焼結前駆体を粉末冶金法によって焼結し、緻密化する方式がある。
【0003】
金属としては、アルミ合金を始めとして多種多様な金属が検討されつつある。これらの中でも、アルミ合金に適したバインダージェッティング用のインクとしては、アルミ粉末への安全性や取り扱いの観点からも、溶剤系インクが検討されている。樹脂としては、溶剤への溶解性が高く、脱脂性の良いバインダー樹脂として、疎水官能基を多く含んだ樹脂が検討されている。
【0004】
無機粉末を含む3次元プリンタ用組成物としては、例えば、無機粉末、有機バインダー及び分子量又は重量平均分子量が2,000以下の有機化合物を含有する3次元プリンタ用組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、バインダージェッティング方式において、吐出性に優れ、ガラス転移点が低いバインダー樹脂を含む造形液を用いた場合でも、得られるグリーン体における樹脂のガラス転移点を高めることができ、グリーン体の強度に優れ、変形を抑えることができる造形液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の造形液は、金属粒子を含む粉体の層に対して付与される造形液であって、環構造を有する数平均分子量3,000以下のオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、実質的に水を含有しない。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バインダージェッティング方式において、吐出性に優れ、ガラス転移点が低いバインダー樹脂を含む造形液を用いた場合でも得られるグリーン体における樹脂のガラス転移点を高めることができ、グリーン体の強度に優れ、変形を抑えることができる造形液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、立体造形物の製造装置の動作の一例を示す概略図である。
【
図1B】
図1Bは、立体造形物の製造装置の動作の他の一例を示す概略図である。
【
図1C】
図1Cは、立体造形物の製造装置の動作の他の一例を示す概略図である。
【
図1D】
図1Dは、立体造形物の製造装置の動作の他の一例を示す概略図である。
【
図1E】
図1Eは、立体造形物の製造装置の動作の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(造形液)
本発明の造形液は、金属粒子を含む粉体の層に対して付与される造形液であって、
環構造を有する数平均分子量3,000以下のオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、
実質的に水を含有しない。
【0010】
本発明の造形液は、先行技術における問題点、すなわち、バインダージェッティング方式用の樹脂が多様化してくる中で、有機溶剤への溶解性が高くジェッティングに優れたポリ酢酸ビニル系の樹脂は、ガラス転移点(Tg)が比較的低いという特徴があり、Tgが比較的低い樹脂で固化させたグリーン体は吸湿や保管温度等の影響で長期保管時に変形するリスクが有るという問題点を本発明者が見出したことに基づくものである。
また、先行技術文献である特開2020-015848号公報に記載された3次元プリンタ用組成物は、3D造形用材料として有機バインダーとオリゴマーを含有するが、インクではなく、熱溶融積層方式(FDM)であるため、バインダージェッティング方式におけるインクとして適さないという問題がある。
【0011】
本発明の「造形液」は、造形物の製造に用いられ、金属粒子を含む粉体の層に対して付与される液体組成物である。
本発明の造形液は、環構造を有するオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、実質的に水を含有せず、更に必要に応じて、樹脂、界面活性剤等の添加剤などを含有する。
造形物の製造は、金属粒子を含む粉体の層を形成する粉体層形成工程と、造形液を粉体の層に対して付与する造形液付与工程と、粉体層形成工程及び造形液付与工程を順次繰り返すことで積層物を形成する積層工程と、を含む製造方法により実施される。
また、造形物の製造は、上記の積層工程に加えて、積層物を加熱することで固化物を形成する加熱工程、固化物に付着している粉体である余剰粉体を除去してグリーン体を得る余剰粉体除去工程、グリーン体を乾燥させてグリーン体中に残存する液体成分を除去する乾燥工程、グリーン体を加熱して付与された造形液に由来する樹脂等を除去することで脱脂体を得る脱脂工程、脱脂体を加熱して焼結体を得る焼結工程、及び焼結体に対して後処理を行う後処理工程などを有する製造方法により実行されることが好ましい。
なお、本開示において「造形物」とは、一定の立体形状が保たれている立体物の総称を表し、例えば、固化物又は固化物に由来する構造体であり、具体的には、固化物、グリーン体、脱脂体、及び焼結体などを表す概念である。
なお、加熱工程後の造形物を「グリーン体(未焼結体)」と称してもよく、脱脂工程後の造形物を「脱脂体」と称してもよく、焼結工程後の造形物を「焼結体」と称する場合がある。
【0012】
<環構造を有するオリゴマー>
前記環構造を有するオリゴマーは、環構造を有し、数平均分子量3,000以下のオリゴマーである。
前記環構造を有するオリゴマーの数平均分子量としては、3,000以下であり、造形液(インク)粘度の上昇が緩やかであり脱脂性が良好である点で、2,500以下が好ましく、2,000以下がより好ましい。前記環構造を有するオリゴマーの数平均分子量としては、500以上が好ましい。
前記数平均分子量の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー法によって測定することができる。
【0013】
前記環構造を有するオリゴマーのガラス転移点(Tg)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択できるが、55℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。また、110℃以下が好ましく、105℃以下がより好ましく、100℃以下が更に好ましい。
【0014】
前記ガラス転移温度(Tg)は、例えば、DSCシステム(示差走査熱量計)(DSC2500、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて測定することができる。
具体的には、対象試料のガラス転移点(Tg)は、以下の手順により測定できる。
まず、対象試料5mgをアルミナ製の試料容器に入れ、試料容器をホルダーユニットに載せ、電気炉中にセットする。次いで、窒素雰囲気下、-30℃から昇温速度10℃/minにて200℃まで加熱する。その後、200℃から降温速度10℃/minにて-30℃まで冷却させ、更に昇温速度10℃/minにて200℃まで加熱し、示差走査熱量計を用いてDSC曲線を計測する。
得られるDSC曲線から、DSCシステム中の解析プログラム『吸熱ショルダー温度』を用いて、一回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、対象試料の昇温一回目におけるガラス転移温度を求めることができる。また、『吸熱ショルダー温度』を用いて、二回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、対象試料の昇温二回目におけるガラス転移温度を求めることができる。
【0015】
前記環構造を有するオリゴマーの軟化点としては、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましい。また、180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましく、160℃以下が更に好ましい。
前記軟化点は、微量融点装置(例えば、МP-S3、株式会社ヤナコ機器開発研究所製)により測定することができる。対象試料を2℃/分間で昇温させ、対象試料の状態を観察することで軟化点を測定する。
【0016】
前記環構造を有するオリゴマーは、環構造を有する炭化水素化合物であるため、密度が高く、分子量対比で高いTgを有する点で有利である。
また、前記環構造を有するオリゴマーは、数平均分子量が低く、軟化点以上の高温域では流動性が良く被着体に濡れやすく接着性を発現しやすい特性を有し、冷却すると凝集力を発揮する特性を有する点で有利である。また、前記環構造を有するオリゴマーは、バインダー樹脂の疎水部分との相溶性も高い点で有利である。
そのため、前記造形液が前記環構造を有するオリゴマーを含有することにより、前記環構造を有するオリゴマーと、酢酸ビニル等のバインダー樹脂とが相溶して、金属粒子界面でしっかりと濡れて接着しつつ、冷却した後に高いTgを有するバインダー構造を取ることができる。したがって、ガラス転移点が低いバインダー樹脂を含む造形液を用いた場合でも、得られるグリーン体における樹脂のガラス転移点を高めることができ、グリーン体の強度に優れ、変形を抑えることができる造形液を提供することができる。
【0017】
前記環構造を有するオリゴマーとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香環を有する共重合体、水素添加された芳香環を有する共重合体等の芳香族系オリゴマー;ポリテルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等のテルペン系樹脂;ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂等のロジン系樹脂;アルキルフェノール樹脂などが挙げられる。
前記環構造を有するオリゴマーとしては、環構造中に不飽和結合を有することが好ましく、環構造中に不飽和結合を有する熱可塑性オリゴマーを含むことがより好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
ここで、「熱可塑性オリゴマー」とは、ガラス転移点(Tg)及び軟化点の少なくともいずれかを有するオリゴマーを意味する。
【0018】
<<芳香族系オリゴマー>>
前記芳香族系オリゴマーとしては、例えば、芳香環を有する共重合体、水素添加された芳香環を有する共重合体などが挙げられる。
前記芳香環を有する共重合体は、芳香環を有する繰り返し構造単位、及びその他の繰り返し構造単位を有する共重合体であり、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。
前記水素添加された芳香環を有する共重合体は、水素添加された芳香環を有する繰り返し構造単位、及びその他の繰り返し構造単位を有する共重合体であり、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。
ここで、「水素添加された」又は「水素添加」とは、芳香環の不飽和結合に水素を付加することにより還元された環構造を意味する。
前記芳香族系オリゴマーのガラス転移点(Tg)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、80℃~100℃が好ましい。
【0019】
前記芳香環、及び前記水素添加された芳香環としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族炭化水素、これらが縮合した縮合環などが挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。これらの中でも、5員環又は6員環の芳香族炭化水素、これらが縮合した縮合環が好ましく、これらは置換基を有していてもよい。
前記芳香環を有する繰り返し構造単位、及び前記水素添加された芳香環を有する繰り返し構造単位としては、前記テルペン系樹脂、前記ロジン系樹脂、及び前記アルキルフェノール樹脂のいずれかを構成する、環構造を有する繰り返し構造単位であってもよい。
前記その他の繰り返し構造単位としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アリル化合物、ビニル化合物などが挙げられる。
【0020】
前記芳香環を有する共重合体の一例としては、以下の構造式で示す、スチレンに由来する繰り返し構造単位(繰り返し構造単位数:x)、及びアリルアルコールに由来する繰り返し構造単位(繰り返し構造単位数:y)を有する共重合体である、ポリ(スチレン-co-アリルアルコール)が挙げられる。
【化1】
【0021】
前記芳香族系オリゴマーとしては、合成したものであってもよく、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、TEGO Vari Plus SK(ポリスチレンを含むポリオール樹脂、エボニック社製、例えば、数平均分子量(Mn):2,500、Tg:94℃)、ポリ(スチレン-co-アリルアルコール)(芳香環を有する共重合体、シグマアルドリッチ合同会社製、例えば、数平均分子量(Mn):1,200、Tg:92℃)、ポリ(スチレン-co-マレイン酸無水物)(シグマアルドリッチ合同会社製、例えば、数平均分子量(Mn):1,900、Tg:71℃)などが挙げられる。
【0022】
前記芳香族系オリゴマーのTgとしては、60℃~140℃が好ましく、80℃~120℃がより好ましい。
前記芳香族系オリゴマーは、その芳香環骨格が疎水性であるため、吸湿しにくく高湿下でのTg低下を起こしにくい点で有利である。
【0023】
<<テルペン系樹脂>>
前記テルペン系樹脂としては、例えば、ポリテルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂などが挙げられる。
前記テルペン系樹脂の原料であるテルペンとしては、特に制限はなく目的に応じて、環構造を有するテルペンを適宜選択することができ、例えば、以下の構造式で表される、αピネン、βピネン、ジペンテン(リモネン)、αテルピネン、βテルピネン、ターピノーレン、カンフェン、Δ3カレンなどが挙げられる。
これらの中でも、αピネン、βピネン、ジペンテン(リモネン)が好ましい。
【0024】
【0025】
前記テルペン系樹脂としては、例えば、原料であるテルペンがαピネン、βピネン、及びジペンテン(リモネン)のいずれかである場合、以下の構造式で表される、ポリテルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、及びテルペンフェノール樹脂などが挙げられる。
【化3】
【0026】
前記テルペン系樹脂としては、合成したものであってもよく、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、YSポリスターG150(テルペンフェノール樹脂、ヤスハラケミカル株式会社製、数平均分子量(Mn):700、Tg:92℃)、YSレジンPX1250(ポリテルペン樹脂、ヤスハラケミカル株式会社製、数平均分子量(Mn):1,100、Tg:69℃)、クリアロンP125(水素添加テルペン樹脂、ヤスハラケミカル株式会社製、例えば、数平均分子量(Mn):700、Tg:68℃)、YSレジンTO125(芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル株式会社製、例えば、数平均分子量(Mn):800、Tg:64℃)などが挙げられる。
【0027】
前記テルペン系樹脂のTgとしては、55℃~105℃が好ましく、60℃~120℃がより好ましい。
前記テルペン系樹脂は、そのテルペン骨格が疎水性であるため、吸湿しにくく高湿下でのTg低下を起こしにくい点で有利である。
【0028】
<<ロジン系樹脂>>
前記ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂などが挙げられる。
前記ロジン系樹脂の原料であるロジンとしては、特に制限はなく目的に応じて、ロジンを適宜選択することができ、例えば、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマールなどが挙げられる。
【0029】
前記ロジン系樹脂としては、合成したものであってもよく、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、タマノル135(ロジン変性フェノール樹脂、荒川化学工業株式会社製、例えば、Tg:70℃~80℃)、ペンセルD-135(ロジンエステル樹脂、荒川化学工業株式会社製、例えば、Tg:70℃~80℃)などが挙げられる。
【0030】
<<アルキルフェノール樹脂>>
前記アルキルフェノール樹脂としては、合成したものであってもよく、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、タマノル200N(アルキルフェノール樹脂、荒川化学工業株式会社製、例えば、Tg:70℃~80℃)が挙げられる。
【0031】
前記環構造を有するオリゴマーの含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、造形液の質量に対して、2質量%以上45質量%以下が好ましく、3質量%以上7質量%以下がより好ましい。前記含有量が、45質量%以下であると、造形液の粘度を低く維持することができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。前記含有量が2質量%以上であると、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度がより向上する。
【0032】
<樹脂>
前記造形液は、下記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂を更に含有することが好ましい。なお、「樹脂」をバインダー樹脂と称する場合がある。
前記構造式(1)で表される構造単位は、ポリ酢酸ビニルの構造単位である。
【化4】
【0033】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、造形液が金属粒子を含む粉体の層に対して付与されることで粉体の層中に配置され、樹脂の軟化点に応じた適切な加熱工程を経ることで、造形液が付与された領域における金属粒子同士を結着させるバインダーとして機能し、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物を形成させる。これらの焼結前の造形物は、柔軟性を付与する構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂により形成されるため、曲げ強度が向上する。
【0034】
また、前記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、熱分解性に優れるため、脱脂工程で適切に除去され、これに続く焼結工程を経て作製された焼結体における密度が向上する。
したがって、造形物を形成する材料として、焼結を前提とした又は焼結されることが好ましい材料である金属粒子を用いた場合、得られる効果が顕著になる。
具体的には、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、30℃から550℃まで昇温した場合に95質量%以上熱分解されることが好ましく、97質量%以上熱分解されることがより好ましい。
ここで、「樹脂が熱分解する」とは、主鎖のランダム分解又は分子鎖末端での解重合等が起き、気化、酸化分解、燃焼などによって樹脂が除去されることを表す。また、熱分解性はTG-DTA(示差熱・熱重量同時測定装置)を用いることで測定する。具体的には、大気又は窒素雰囲気中で30℃から550℃までを10℃/分で昇温させ、更に550℃到達後2時間温度保持した時において、昇温前後の重量減少率を求める。
【0035】
更に、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、構造式(1)で表される構造単位が疎水性を有することにより、樹脂の有機溶剤に対する溶解性が向上する。そのため、造形液が有機溶剤を含む場合、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性が向上し、これに伴って造形液の粘度を低下させることができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
なお、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、造形液の有機溶剤に可溶であり、水に不溶であることが好ましい。
【0036】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂のTgとしては、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が更に好ましい。また、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0037】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の軟化点としては、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が更に好ましい。また、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下が更に好ましい。
【0038】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の数平均分子量(Mn)としては、5,000以上50,000以下が好ましく、10,000以上30,000以下がより好ましい。数平均分子量(Mn)が上記範囲であることで、強度及び造形精度の向上と、造形液の粘度低下及び造形液中の樹脂濃度の向上と、を両立することができる。
【0039】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂は、構造式(1)以外で表される構造単位を有する樹脂であってもよく、構造式(1)で表される構造単位のみからなる樹脂であってもよい。
構造式(1)以外で表される構造単位としては、例えば、下記構造式(2)で表される構造単位及び下記構造式(3)で表される構造単位などが好ましい。
【化5】
【化6】
【0040】
構造式(1)で表される構造単位に加えて構造式(2)で表される構造単位を有する樹脂は、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度を向上させる。
また、構造式(2)で表される構造単位も、構造式(1)で表される構造単位と同様に疎水性を有することにより、樹脂の有機溶剤に対する溶解性が向上する。
これらの観点から、樹脂において、構造式(1)で表される構造単位及び構造式(2)で表される構造単位の合計量としては、構造式(1)で表される構造単位、構造式(2)で表される構造単位、及び構造式(3)で表される構造単位の合計量に対して60mol%以上が好ましく、65mol%以上がより好ましく、70mol%以上が更に好ましく、75mol%以上がより更に好ましく、80mol%以上が特に好ましい。
なお、樹脂が構造式(2)又は構造式(3)で表される構造単位を有さない場合も同様であり、有さない構造単位の量を0として上記割合を算出すればよい。
【0041】
構造式(1)で表される構造単位に加えて構造式(3)で表される構造単位を有する樹脂は、構造式(3)で表される構造単位における水酸基により、造形液が付与される粉体の層における金属粒子との親和性を向上させる。これにより、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度がより向上し、焼結前の造形物における密度及び焼結後の造形物における密度もより向上する。
これらの観点から、樹脂において、構造式(3)で表される構造単位の量としては、構造式(1)で表される構造単位、構造式(2)で表される構造単位、及び構造式(3)で表される構造単位の合計量に対して5mol%以上が好ましく、15mol%以上がより好ましく、25mol%以上が更に好ましい。
しかし、構造式(3)で表される構造単位は親水性を有するため、構造式(3)で表される構造単位の割合が増加すると、造形液が有機溶剤を含む場合において、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性の向上が抑制され、これに伴って造形液の粘度低下が抑制される。
この観点から、樹脂において、構造式(3)で表される構造単位の量は、構造式(1)で表される構造単位、構造式(2)で表される構造単位、及び構造式(3)で表される構造単位の合計量に対して40mol%以下が好ましく、35mol%以下がより好ましく、30mol%以下が更に好ましく、25mol%以下がより更に好ましく、20mol%以下が特に好ましい。
なお、樹脂が構造式(2)で表される構造単位を有さない場合も同様であり、有さない構造単位の量を0として上記割合を算出すればよい。
【0042】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂、部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂、及びポリビニルブチラール樹脂などが挙げられる。
これらの中でも造形液の粘度を低下させることができる点から、ポリ酢酸ビニル樹脂及び所定の部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂が好ましい。
ここで、所定の部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂とは、構造式(1)で表される構造単位の量が、構造式(1)で表される構造単位及び構造式(3)で表される構造単位の合計量に対して、75mol%以上である部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂を表し、80mol%以上である部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂であることが好ましい。
なお、これら樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、市販品及び合成品のいずれも使用することができる。
【0043】
前記ポリ酢酸ビニル樹脂は、構造式(1)で表される構造単位を有し、構造式(2)で表される構造単位及び構造式(3)で表される構造単位を実質的に有さない樹脂である。
部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂は、構造式(1)で表される構造単位と構造式(3)で表される構造単位とを有し、構造式(2)で表される構造単位を実質的に有さない樹脂である。
ポリビニルブチラール樹脂は、構造式(1)で表される構造単位と構造式(2)で表される構造単位とを有する樹脂、又は構造式(1)で表される構造単位と構造式(2)で表される構造単位と構造式(3)で表される構造単位とを有する樹脂である。
なお、部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂とは、ポリ酢酸ビニル樹脂を部分的にけん化することで得られる樹脂である。また、本開示における部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂は、構造式(3)で表される構造単位の量が、構造式(1)で表される構造単位及び構造式(3)で表される構造単位の合計量に対して、40mol%以下であり、35mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることがより好ましく、25mol%以下であることが更に好ましく、20mol%以下であることがより更に好ましい。言い換えると、本開示における部分けん化ポリ酢酸ビニル樹脂のけん化度としては、40以下であり、35以下が好ましく、30以下がより好ましく、25以下が更に好ましく、20以下がより更に好ましい。
【0044】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の含有量としては、造形液の質量に対して、5.0質量%以上が好ましく、7.0質量%以上がより好ましく、10.0質量%以上が更に好ましく、11.0質量%以上が特に好ましい。また、30.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以下が更に好ましい。含有量が5.0質量%以上であると、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度がより向上する。また、含有量が30.0質量%以下であると、造形液の粘度がより低下し、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
なお、構造式(1)で表される構造単位及び構造式(2)で表される構造単位の合計量が、構造式(1)で表される構造単位、構造式(2)で表される構造単位、及び構造式(3)で表される構造単位の合計量に対して95mol%以上である樹脂は、樹脂の有機溶剤に対する溶解性が向上し、造形液の粘度が低下するため、高質量(造形液の質量に対して例えば、15.0質量%以上又は20.0質量%以上)含有させることもできる。これにより固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度が更に向上する。
【0045】
なお、樹脂中の各構造式で表される構造単位の量(mol%)は、例えば、JIS-K6276-1994に記載のポリビニルアルコール試験方法などによって求めることができる。
【0046】
<有機溶剤>
前記造形液は、有機溶剤を含有する。有機溶剤は、造形液を常温において液体の状態とするために用いられる液体成分である。
また、造形液は、有機溶剤を含有することにより、非水系の造形液であることが好ましい。
ここで、「非水系の造形液」とは、造形液の液体成分として有機溶剤を含み、かつ液体成分において最大の質量を有する成分が有機溶剤であるものを表し、更に、造形液中の液体成分の含有量に対する有機溶剤の含有量としては、90.0質量%以上が好ましく、95.0質量%以上がより好ましい。
非水系の造形液であると、特に、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂において溶解性が向上し、造形液の粘度が低下する点で有利である。
また、非水系の造形液は、例えば、実質的に水を含有しない造形液と言い換えることができる場合がある。これにより、金属粒子を構成する材料が高活性金属、言い換えると禁水材料(例えば、アルミニウム、亜鉛、及びマグネシウムなど)であっても造形液を適用することができる。一例として、アルミニウムは、水と接触することで水酸化アルミニウムの皮膜を形成するため、造形液中における水の含有量が多いと焼結体の焼結密度が低下する課題があるが、水を含有しない造形液を用いることで本課題は抑制される。別の例として、アルミニウムは、水と接触することで水素を発生させるため取り扱いが困難な課題があるが、水を含有しない造形液を用いることで本課題も抑制される。
【0047】
有機溶剤としては、例えば、n-オクタン、m-キシレン、ソルベントナフサ、ジイソブチルケトン、3-ヘプタノン、2-オクタノン、アセチルアセトン、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸n-ヘキシル、酢酸n-オクチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、カプリル酸エチル、オクタン酸エチル、アセト酢酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、マレイン酸ビス2-エチルヘキシル、トリアセチン、トリブチリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシベンゼン、1,4-ジメトキシベンゼン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、α-ターピオネール、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、シクロヘキサノン、及びブチルセロソルブなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂を用いる場合、併用する有機溶剤としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、アルコキシ基、エーテル結合、及びエステル結合からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する有機溶剤が好ましく、エーテル結合を有する有機溶剤がより好ましく、アルキレングリコールジアルキルエーテル類が特に好ましい。これら有機溶剤を用いた場合、構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
ここで、「アルキレングリコールジアルキルエーテル類」とは、R1-(O-R2)m-OR3で表され、R1及びR3は、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下のアルキル基であり、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数1又は2であることが好ましい。R2は炭素数2以上5以下のアルキレン基であり、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数2又は3であることがより好ましい。mは1以上5以下の整数を示し、2又は3であることがより好ましい。
アルキレングリコールジアルキルエーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、及びジエチレングリコールブチルメチルエーテルなどが挙げられる。
これらの中でも、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルが好ましく、トリエチレングリコールジメチルエーテルがより好ましい。
【0049】
有機溶剤の含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、造形液の質量に対して、60.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、70.0質量%以上95.0質量%以下がより好ましい。60.0質量%以上95.0質量%以下であると、樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。また、造形液付与手段において造形液が乾燥することが抑制され、吐出安定性に優れた造形液を提供できる。
【0050】
有機溶剤の粘度は、低粘度であることが好ましく、具体的には、25℃で、5.0mPa・s以上50.0mPa・s以下が好ましく、8.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましい。有機溶剤の粘度が、前記範囲であると、有機溶剤を含有する造形液の粘度も低粘度化しやすく、これによりインクジェットヘッドなどの造形液付与手段からの吐出が安定化し、正確な造形液の吐出により、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度がより向上し、更に、寸法精度も向上する。
なお、粘度は、例えば、JIS K7117に準拠して測定することができる。
【0051】
有機溶剤の沸点は、高沸点であることが好ましく、具体的には、150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。造形液をインクジェット方式などで吐出する場合に有機溶剤の沸点が高沸点であると、ノズル又はノズル近傍において造形液が乾燥することが抑制され、析出した樹脂によってノズル詰まりが生じることを抑制できるためである。
高沸点の有機溶剤としては特に限定されないが、上記のγ-ブチロラクトン(沸点:204℃)、炭酸プロピレン(沸点:242℃)、シクロヘキサノン(沸点:155.6℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:162℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:216℃)、α-ターピオネール(沸点:217~218℃)、などが挙げられる。
【0052】
前記造形液が前記樹脂を含む場合、環構造を有するオリゴマーの含有量、及び樹脂の含有量の合計としては、2質量%以上45質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましい。
環構造を有するオリゴマーの含有量及び樹脂の含有量の合計が25質量%以下であると、造形液の粘度を低く維持することができ、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。環構造を有するオリゴマーの含有量及び樹脂の含有量の合計が5質量%以上であると、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度がより向上する。
なお、前記造形液が樹脂を含有しない場合、造形液の粘度上昇が抑えられるため、環構造を有するオリゴマーの含有量が45質量%以下であるとインクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
【0053】
有機溶剤の含有量、及び環構造を有するオリゴマーの含有量の合計量としては、造形液の質量に対して、90.0質量%以上が好ましく、95.0質量%以上がより好ましく、99.0質量%以上がより好ましく、99.5質量%以上が更に好ましい。また、有機溶剤及び環構造を有するオリゴマー以外の成分を実質的に含有しなくてもよい。
なお、造形液が実質的に有機溶剤及び環構造を有するオリゴマー以外の成分を含有しないとは、造形液の製造時における材料として積極的に有機溶剤及び環構造を有するオリゴマー以外の成分を用いていないこと又は造形液における有機溶剤及び環構造を有するオリゴマー以外の成分の含有量が公知かつ技術常識の手法を用いた場合において検出限界以下であることを表す。
【0054】
また、前記造形液が前記樹脂を含む場合には、前記合計量を、有機溶剤の含有量、環構造を有するオリゴマーの含有量、及び樹脂の含有量の合計量に置き換える。
前記合計量が、造形液の質量に対して90.0質量%以上であることで、造形液に含まれる環構造を有するオリゴマーの含有量が多くなり、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度がより向上する。また、有機溶剤及び環構造を有するオリゴマー以外の成分(例えば、金属微粒子などの造形液中において非溶解性の材料)の含有量が少なくなる又は実質的に含有しなくなることで、造形液の粘度が低下し、造形液の吐出安定性が向上し、造形液の保存安定性も向上する。
【0055】
<添加剤>
造形液は、特に制限はなく目的に応じて、界面活性剤、乾燥防止剤、粘度調整剤、浸透剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、着色剤、保存剤、安定化剤などを適宜含有してもよい。これら従来公知の材料を用いることができる。
【0056】
<その他成分>
<<水>>
前記造形液は、実質的に水を含有しない。
ここで、「実質的に水を含有しない」とは、水の含有量が造形液の質量に対して10.0質量%以下であることを表し、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、造形液が水を含有しないことが特に好ましい。造形液が水を実質的に含有しないことで、上記樹脂の溶解性がより向上し、これに伴って造形液の粘度をより低下させることができる。また、樹脂の周囲に多くの水を包含したヒドロゲルの形成が抑制され、これに伴う造形液の粘度の増大が抑制される。このため、例えば、インクジェット方式で造形液を適切に吐出することができる。
なお、「造形液が実質的に水を含有しない」とは、造形液の製造時における材料として積極的に水を用いていないこと、乃至造形液における水の含有量が公知かつ技術常識の手法を用いた場合において検出限界以下であることを表す。
また、造形液が水を実質的に含有しないことで、金属粒子を構成する材料が高活性金属、言い換えると禁水材料(例えば、アルミニウム、亜鉛、及びマグネシウムなど)であっても造形液を適用することができる。一例として、アルミニウムは、水と接触することで水酸化アルミニウムの皮膜を形成するため、造形液中における水の含有量が多いと焼結体の焼結密度が低下する課題があるが、造形液が水を含有しないことで本課題は抑制される。別の例として、アルミニウムは、水と接触することで水素を発生させるため取り扱いが困難な課題があるが、造形液が水を含有しないことで本課題も抑制される。
【0057】
[造形液の製造方法]
造形液の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記材料を混合撹拌する方法が挙げられる。
【0058】
造形液の粘度は、上記の通り低粘度であることが好ましく、具体的には、25℃で、5mPa・s以上50mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上40mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以上30mPa・s以下が更に好ましい。造形液の粘度が、上記範囲であると、インクジェットヘッドなどの造形液付与手段からの吐出が安定化し、正確な造形液の吐出により、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度がより向上し、更に、寸法精度も向上する。
なお、粘度は、例えば、JIS K7117に準拠して測定することができる。
【0059】
造形液の表面張力は、25℃で、40mN/m以下が好ましく、10mN/m以上30mN/m以下がより好ましい。表面張力が、40mN/m以下であると、インクジェットヘッドなどの造形液付与手段からの吐出が安定化し、正確な造形液の吐出により、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物における曲げ強度がより向上し、更に、寸法精度も向上する。
なお、表面張力は、例えば、協和界面科学株式会社製DY-300により測定することができる。
【0060】
<金属粒子を含む粉体>
前記粉体は、金属粒子を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
金属粒子は、複数の金属粒子を含む集合体である粉体として用いられ、当該粉体の層に対して造形液が付与されることで造形物が製造される。
【0061】
<<金属粒子>>
前記金属粒子は、造形物の製造に用いられ、構成材料として金属を含有する粒子である。なお、金属粒子の構成材料は、金属を含有する限り特に限定されず、金属以外の材料を含んでいてもよいが、主材料が金属であることが好ましい。主材料が金属であるとは、金属粒子に含まれる前記金属の含有量が、金属粒子の総量に対して50.0質量%以上であることを表し、60.0質量%以上が好ましく、70.0質量%以上がより好ましく、80.0質量%以上が更に好ましく、90.0質量%以上が特に好ましい。
【0062】
金属粒子における構成材料である金属としては、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、鉛(Pd)、銀(Ag)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ネオジウム(Nd)、及びこれら金属の合金などが挙げられる。
これらの中でも、ステンレス(SUS)鋼、鉄(Fe)、銅(Cu)、銀(Ag)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、及びこれら金属の合金などが好適に用いられる。
アルミニウム合金としては、例えば、AlSi10Mg、AlSi12、AlSi7Mg0.6、AlSi3Mg、AlSi9Cu3、Scalmalloy、ADC12、AlSi3などが挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
金属粒子は、従来公知の方法を用いて製造することができる。金属粒子を製造する方法としては、例えば、固体に圧縮、衝撃、摩擦等を加えて細分化する粉砕法、溶湯を噴霧して急冷粉体を得るアトマイズ法、液体に溶解した成分を沈殿させる析出法、気化させて晶出させる気相反応法などが挙げられる。これらの中でも、球状の形状が得られ、粒径のバラツキが少ない点からアトマイズ法が好ましい。アトマイズ法としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、遠心アトマイズ法、プラズマアトマイズ法などが挙げられ、いずれも好適に用いられる。
【0064】
金属粒子は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、AlSi10Mg(東洋アルミニウム株式会社製、Si10MgBB)、純Al(東洋アルミニウム株式会社製、A1070-30BB)、純Ti(大阪チタニウムテクノロジーズ社製)、SUS316L(山陽特殊製鋼株式会社製、商品名:PSS316L)、SiO2(株式会社トクヤマ製、商品名:エクセリカSE-15K)、AlO2(大明化学工業株式会社製、商品名:タイミクロンTM-5D)、ZrO2(東ソー株式会社製、商品名:TZ-B53)などが挙げられる。
【0065】
金属粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、2μm以上100μm以下が好ましく、8μm以上50μm以下がより好ましい。金属粒子の体積平均粒径が2μm以上であると、金属粒子の凝集が抑制され、造形物の製造効率の低下、及び金属粒子の取扱性の低下を抑制することができる。また、金属粒子の体積平均粒径が100μm以下であると、金属粒子同士の接点の減少や空隙の増加を抑制することができ、造形物の強度が低下することを抑制することができる。
金属粒子の粒度分布としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、粒度分布はよりシャープである方が好ましい。
金属粒子の体積平均粒径及び粒度分布は、公知の粒径測定装置を用いて測定することができ、例えば、粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3000IIシリーズ(マイクロトラックベル製)などが挙げられる。
【0066】
なお、金属の基材及び当該基材を被覆する被覆樹脂を有する金属粒子を用い、金属粒子に液体を付与することで被覆樹脂におけるバインダー機能を発揮させて造形物を製造する方法が従来から知られているが、本開示においては、造形液にバインダー機能を有する樹脂が含有されている。したがって、前記金属粒子は、樹脂により表面が被覆されていなくてもよい。樹脂により表面が被覆されてない金属粒子を用いることで、例えば、液体を付与されていない粉体の領域(言い換えると、非造形領域)であるにも関わらず、加熱工程を経ることで被覆樹脂が金属粒子同士を結着させ、意図しない固化物が形成されてしまうことを抑制することができる。ここで、樹脂により表面が被覆されていないとは、例えば、金属粒子の表面積に対する樹脂の表面積の割合(表面被覆率)が15%未満であることを表し、0%であってもよい。
前記表面被覆率は、例えば、金属粒子の写真を取得し、二次元の写真に写る範囲において、金属粒子の表面の全面積に対する、樹脂で被覆された部分の面積の割合(%)を測定することで求める。なお、樹脂で被覆された部分の判断においては、例えば、SEM-EDS等のエネルギー分散型X線分光法による元素マッピングの手法等を用いることができる。
【0067】
--その他の成分--
その他成分としては、例えば、フィラー、レベリング剤、焼結助剤、及び高分子樹脂粒子などが挙げられる。
フィラーは、金属粒子の表面に付着させたり、金属粒子間の空隙に充填させたりするのに有効な材料である。フィラーを用いることで、例えば、粉体の流動性を向上させることができ、また、金属粒子同士の接点が増え、空隙を低減できることから、造形物の強度や寸法精度を高めることができる。
レベリング剤は、粉体の層の表面における濡れ性を制御するのに有効な材料である。レベリング剤を用いることで、例えば、粉体の層への造形液の浸透性が高まり、造形物の強度を高めることができる。
焼結助剤は、造形物を焼結させる際、焼結効率を高める上で有効な材料である。焼結助剤を用いることで、例えば、造形物の強度を向上でき、焼結温度を低温化でき、焼結時間を短縮できる。
高分子樹脂粒子は、金属粒子の表面に付着させるのに有効な材料であり、有機物外添剤とも称する。高分子樹脂粒子の平均粒径としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択できるが、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.1μm以上1μmがより好ましい。
【0068】
粉体の安息角は、60°以下が好ましく、50°以下がより好ましく、40°以下が更に好ましい。60°以下であると、粉体を支持体上の所望の場所に効率よく安定して配置させることができる。
前記安息角は、例えば、粉体特性測定装置(パウダテスタPT-N型、ホソカワミクロン株式会社製)などを用いて測定することができる。
【0069】
(造形物製造用のキット)
本発明の造形物製造用のキットは、本発明の造形液、及び前記金属粒子を含む粉体を有し、必要に応じて、後述する除去液等のその他の構成を有してもよい。また、造形物製造用のキットは、造形液、及び金属粒子を含む粉体がそれぞれ独立した状態で存在していればよく、造形液が収容されている造形液収容部、及び粉体が収容されている粉体収容部が一体化している場合などに限られない。例えば、造形液、及び粉体がそれぞれ独立した収容部に収容されていたとしても、粉体、及び造形液が併用されることを前提としている場合、粉体、及び造形液が併用されることを実質的に誘導している場合などは造形物製造用のキットに含まれる。
【0070】
(造形物の製造方法)
本発明の造形物の製造方法は、金属粒子を含む粉体の層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体の層に対して造形液を付与する造形液付与工程と、
前記粉体層形成工程及び前記造形液付与工程を順次繰り返すことで積層物を形成する積層工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記造形物の製造方法は、更に、積層物を加熱することで固化物を形成する加熱工程、固化物に付着している粉体である余剰粉体を除去してグリーン体を得る余剰粉体除去工程、グリーン体を乾燥させてグリーン体中に残存する液体成分を除去する乾燥工程、グリーン体を加熱して付与された造形液に由来する樹脂等を除去することで脱脂体を得る脱脂工程、脱脂体を加熱して焼結体を得る焼結工程、及び焼結体に対して後処理を行う後処理工程などを含んでもよい。
【0071】
<粉体層形成工程>
前記粉体層形成工程は、金属粒子を含む粉体の層を形成する工程である。
粉体の層は、支持体上(造形ステージ上)に形成される。
粉体を支持体上に配置させて粉体の薄層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特許第3607300号公報に記載の選択的レーザー焼結方法に用いられる公知のカウンター回転機構(カウンターローラー)などを用いる方法、粉体をブラシ、ローラ、ブレード等の部材を用いて拡げる方法、粉体の表面を押圧部材により押圧して拡げる方法、及び公知の積層造形装置を用いる方法などが挙げられる。
【0072】
カウンター回転機構(カウンターローラー)、ブラシ、ブレード、押圧部材などの粉体層形成手段を用いて、粉体の層を形成する場合、例えば、以下のよう方法で実行できる。
即ち、外枠(「型」、「中空シリンダー」、「筒状構造体」などと称されることもある)の内壁に摺動しながら昇降可能に配置された支持体上にカウンター回転機構(カウンターローラー)、ブラシ、ローラ、ブレード、又は押圧部材を用いて粉体を載置する。このとき、支持体として外枠内を昇降可能なものを用いる場合、支持体を外枠の上端開口部よりも少し下方の位置に配し(言い換えると、粉体の層の一層分の厚みだけ下方に位置させておき)、支持体上に粉体を載置する。以上により、支持体上に粉体の薄層を載置させることができる。
【0073】
粉体の層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、一層当たりの平均厚みで、30μm以上500μm以下が好ましく、60μm以上300μm以下がより好ましい。
平均厚みが、30μm以上であると、粉体に造形液を付与することで形成される固化物の強度が向上し、焼結工程等のその後の工程において生じ得る型崩れ等を抑制することができる。また、平均厚みが、500μm以下であると、粉体に造形液を付与することで形成される固化物に由来する造形物の寸法精度が向上する。
平均厚みは、特に制限はなく、公知の方法に従って測定することができる。
【0074】
粉体層形成手段で供給される粉体は、粉体収容部に収容されていてもよい。粉体収容部は粉体が収容されている容器等の部材であり、例えば、貯留槽、袋、カートリッジ、タンクなどが挙げられる。
【0075】
<造形液付与工程>
前記造形液付与工程は、前記粉体の層に対して造形液を付与する工程である。
前記造形液は、数平均分子量3,000以下の環構造を有するオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、且つ実質的に水を含有しない。前記造形液として、本発明の造形液として説明した事項を適宜選択することができる。
粉体の層に造形液を付与する方法としては、造形液を吐出する方法が好ましい。造形液を吐出する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディスペンサ方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられる。これらの中でも、ディスペンサ方式は、液滴の定量性に優れるが、塗布面積が狭くなる。また、スプレー方式は、簡便に微細な吐出物を形成でき、塗布面積が広く、塗布性に優れるが、液滴の定量性が悪く、スプレー流による造形液の飛散が発生する。このため、インクジェット方式であることが好ましい。インクジェット方式は、スプレー方式に比べ、液滴の定量性が良く、ディスペンサ方式に比べ、塗布面積が広くできる利点があり、複雑な造形物を精度良くかつ効率的に形成し得る点で好ましい。
【0076】
インクジェット法を用いる場合、造形液を吐出することで付与する造形液付与手段は、造形液を吐出するノズルを有するインクジェットヘッドである。インクジェットヘッドとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるインクジェットヘッドを好適に使用することができる。なお、インクジェットプリンターにおけるインクジェットヘッドとしては、例えば、株式会社リコー製の産業用インクジェットRICOH MH/GH SERIESなどが挙げられる。また、インクジェットプリンターとしては、例えば、株式会社リコー製のSG7100などが挙げられる。
【0077】
造形液付与手段に供給される造形液は、造形液収容部に収容されていてもよい。造形液収容部は造形液が収容されている容器等の部材であり、例えば、貯留槽、袋、カートリッジ、タンクなどが挙げられる。
【0078】
<積層工程>
前記積層工程は、前記粉体層形成工程及び前記造形液付与工程を順次繰り返すことで積層物を形成する工程である。
「積層物」とは、造形液が付与された領域を有する粉体の層が複数積層された構造体である。このとき、構造体は、内部に一定の立体的形状が保たれている立体物を含まないものであってもよいし、内部に一定の立体的形状が保たれている立体物が含まれているものであってもよい。
【0079】
積層工程は、粉体を薄層に載置させる工程(粉体層形成工程)と、薄層上に造形液を付与する工程(造形液付与工程)と、を有し、これにより粉体の層のうち造形液が付与された領域を形成させる。更に、積層工程は、造形液が付与された領域を有する粉体の層である薄層上に、上記と同様にして、粉体を薄層に載置(積層)させる工程(粉体層形成工程)と、薄層上に造形液を付与する工程(造形液付与工程)と、を有し、これにより新たに積層させた粉体の層において造形液が付与された領域を形成させる。なお、このとき、最上部の積層した粉体の薄層において生じる造形液が付与された領域は、その下に存在する粉体の薄層における造形液が付与された領域と連続する。その結果、粉体の層の二層分の厚みを有する造形液が付与された領域が得られる。
【0080】
<加熱工程>
造形物の製造方法は、積層物を加熱することで固化物を形成する加熱工程を含むことが好ましい。
「固化」とは、一定の形状が保たれるようになることを表す。「固化物」とは、一定の立体形状が保たれている立体物を有する構造体である。また、固化物は、立体物を構成しない粉体である余剰粉体を除去する余剰粉体除去工程を経ていないものを表す。
【0081】
加熱工程における加熱温度は、環構造を有するオリゴマーの軟化点(樹脂を含有する場合は、環構造を有するオリゴマー及び樹脂の軟化点)より高いことが好ましい。これにより、軟化点以上にすることでオリゴマーと相溶している残溶媒成分の揮発を促すことができ、固化物及び固化物に由来するグリーン体等の焼結前の造形物を好適に形成できる。一方、乾燥工程で溶媒の残存が起こると、グリーン体強度の低下につながる。
なお、加熱手段としては特に限定されないが、例えば、乾燥機、恒温恒湿槽などを用いることができる。
【0082】
<余剰粉体除去工程>
造形物の製造方法は、固化物に付着している粉体である余剰粉体を除去してグリーン体を得る余剰粉体除去工程を含むことが好ましい。
「グリーン体」とは、一定の立体形状が保たれている立体物であって、固化物を構成しない粉体である余剰粉体を除去する余剰粉体除去工程を経たものを表し、好ましくは余剰粉体が実質的に付着していない立体物を表す。なお、加熱工程後の造形物を「グリーン体(未焼結体)」と称してもよく、脱脂工程後の造形物を「脱脂体」と称してもよく、焼結工程後の造形物を「焼結体」と称してもよい。
また、余剰粉体除去工程は、エアーブローにより固化物から余剰粉体を除去する工程と、除去液に浸漬させることにより固化物から余剰粉体を除去する工程と、から選ばれる少なくとも1つの工程を含むことが好ましく、両方の工程を含むことがより好ましい。
【0083】
加熱工程後の固化物は、造形液が付与されていない粉体である余剰粉体に埋没した状態である。この埋没した状態から固化物を取り出すと、固化物の表面や内部には余剰粉体が付着しており、簡便にこれらを除去することは困難である。また、固化物の表面形状が複雑な場合や、固化物の内部構造が流路のようなものである場合は一層困難である。一般的なバインダージェッティング方式で造形された焼結前の造形物は強度が高くないため、送風手段によるエアーブローの圧力を高くすると、当該造形物が崩壊する恐れがある。
一方で、本開示の造形液を用いて形成された固化物は、前記樹脂により形成されるため、曲げ強度が向上し、エアーブローの圧力に耐えうる強度を有する。
このとき、固化物の強度としては、3点曲げ応力で、4.0MPa以上が好ましく、5.0MPa以上がより好ましく、6.0MPa以上が更に好ましい。
【0084】
-除去液-
除去液は、有機溶剤を含み、更に必要に応じて、その他成分を含む。なお、造形液に含まれる有機溶剤と除去液に含まれる有機溶剤を区別するために、造形液に含まれる有機溶剤を第一の有機溶剤と称し、除去液に含まれる有機溶剤を第二の有機溶剤と称してもよい。
【0085】
有機溶剤としては、例えば、ケトン、ハロゲン、アルコール、エステル、エーテル、炭化水素、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、ピロリドン、アミド、アミン、及び炭酸エステルなどが挙げられる。
【0086】
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン、ダイアセトンアルコールなどが挙げられる。
【0087】
ハロゲンとしては、例えば、メチレンクロライド、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、HCFC141-b、HCFC-225、1-ブロモプロパン、クロロホルム、オルトジクロロベンゼンなどが挙げられる。
【0088】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ターシャリーブタノール、セカンダリーブタノール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-エチルヘキサノール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0089】
エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸secブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸3-メトキシブチル、3-メトキシ-3メチルブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、3-エトキシプロピオン酸エチル、二塩基酸エステル(DBE)などが挙げられる。
【0090】
エーテルとしては、例えば、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、フラン、ベンゾフラン、ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1,4-ジオキサン、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。
【0091】
炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘプタン、シクロペンタン、ヘプタン、ペンタメチルベンゼン、ペンタン、メチルシクロペンタン、ノルマルヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ミネラルスピリット、ジメチルスルホキシド、リニアアルキルベンゼンなどが挙げられる。
【0092】
グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジメトキシテトラエチレングリコールなどが挙げられる。
【0093】
グリコールエステルとしては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0094】
グリコールエーテルとしては、例えば、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルトリグリコールなどが挙げられる。
【0095】
ピロリドンとしては、例えば、2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。
【0096】
アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ホルムアミドなどが挙げられる。
【0097】
アミンとしては、例えば、テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、アニリン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ピロール、ピリジン、ピリダジン、オキサゾール、チアゾール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが挙げられる。
【0098】
炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸プロピレン、炭酸エチルメチルなどが挙げられる。
【0099】
その他の成分としては、更に必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤等の添加剤を添加することができる。
【0100】
<乾燥工程>
造形物の製造方法は、グリーン体を乾燥させてグリーン体中に残存する除去液等の液体成分を除去する乾燥工程を含むことが好ましい。
乾燥工程は、グリーン体中に含まれる除去液等の液体成分のみならず、有機物を除去してもよい。乾燥手段としては、例えば、公知の乾燥機、恒温恒湿槽などを用いることができる。
【0101】
<脱脂工程>
造形物の製造方法は、グリーン体を加熱して付与された造形液に由来する前記環構造を有するオリゴマー(前記樹脂を含有する場合は、前記環構造を有するオリゴマー及び前記樹脂)等を除去することで脱脂体を得る脱脂工程を含むことが好ましい。
「脱脂体」とは、グリーン体から前記環構造を有するオリゴマー(前記樹脂を含有する場合は、前記環構造を有するオリゴマー及び前記樹脂)等の有機成分を脱脂することにより得られる立体物である。
脱脂工程は、脱脂手段を用い、前記環構造を有するオリゴマー(前記樹脂を含有する場合は、前記環構造を有するオリゴマー及び前記樹脂)等の有機成分の熱分解温度以上であって且つ金属粒子を構成する材料(金属)の融点又は固相線温度(例えば、AlSi10Mgの粒子を用いる場合であれば約570℃)より低い温度でグリーン体を一定時間(例えば、1~10時間)加熱することで有機成分を分解して除去する。脱脂手段としては、例えば、公知の焼結炉や電気炉などが挙げられる。
具体的には、前記環構造を有するオリゴマー(前記樹脂を含有する場合は、前記環構造を有するオリゴマー及び前記樹脂)を、その熱分解温度より高く、かつ、前記金属粒子の融点もしくは固相線温度よりも低い温度で分解させる。用いる前記環構造を有するオリゴマー及び前記樹脂の成分によっては、加熱保持する温度を複数設定することも可能である。もしくは、加熱ではなく、グリーン体を溶媒に浸漬することで、前記環構造を有するオリゴマー(前記樹脂を含有する場合は、前記環構造を有するオリゴマー及び前記樹脂)を抽出する溶媒抽出による脱脂法も適用可能である。
【0102】
<焼結工程>
造形物の製造方法は、脱脂体を加熱して焼結体を得る焼結工程を含むことが好ましい。「焼結体」とは、金属粒子を構成する金属材料が一体化して形成される立体物であって、脱脂体を焼結することにより造形されるものである。
焼結工程は、焼結手段を用い、金属粒子を構成する金属材料の固相線温度(例えば、AlSi10Mgの粒子を用いる場合であれば約570℃)以上であって且つ液相線温度(例えば、AlSi10Mgの粒子を用いる場合であれば約600℃)以下の温度で脱脂体を一定時間(例えば、1~10時間)加熱することで金属粒子を構成する金属材料を一体化させる。焼結手段としては、例えば、公知の焼結炉などが挙げられるが、上記の脱脂手段と同一の手段であってもよい。また、脱脂工程と焼結工程は、連続して実行されてもよい。
具体的には、脱脂後のグリーン体を1℃/時間~200℃/時間で前記液相線温度と前記固相線温度との間の温度まで昇温させた後(昇温速度は工程途中で変えることも可能)、1~10時間ほど温度保持する。より具体的な最高到達温度としては、金属材料の液相を10%~50%発生させる温度であることが好ましい。これらの工程は、真空、Ar、H2、N2雰囲気などで実施することができる。加熱保持した後、炉内を冷却して、成型物を取り出す。
【0103】
<後処理工程>
造形物の製造方法は、焼結体に対して後処理を行う後処理工程を含むことが好ましい。
後処理工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、表面保護処理工程及び塗装工程などが挙げられる。
【0104】
[造形物の製造方法の実施形態]
本発明の造形物の製造方法における実施形態(造形の流れ)について
図1A~
図1Eを参照して説明する。
図1A~
図1Eは、造形物の製造装置の動作の一例を示す概略図である。
【0105】
まず、造形槽の造形ステージ上に、1層目の粉体の層(造形液被付与層30)が形成されている状態から説明する。1層目の粉体の造形液被付与層30上に次の粉体の層を形成するときには、
図1Aに示すように、供給槽の供給ステージ23を上昇させ、造形槽の造形ステージ24を下降させる。このとき、造形槽22における粉体の層の上面と平坦化ローラ12の下部(下方接線部)との間隔(積層ピッチ)がΔt1となるように造形ステージ24の下降距離を設定する。間隔Δt1は、特に制限されるものではないが、数十~100μm程度であることが好ましい。
【0106】
本開示では、平坦化ローラ12は供給槽21及び造形槽22の上端面に対してギャップが生じるように配置している。したがって、造形槽22に粉体20を移送供給して平坦化するとき、粉体の層の上面は供給槽21及び造形槽22の上端面よりも高い位置になる。これにより、平坦化ローラ12が供給槽21及び造形槽22の上端面に接触することを確実に防止できて、平坦化ローラ12の損傷が低減する。平坦化ローラ12の表面が損傷すると、造形槽22に供給した粉体の層31(
図1D参照)の表面にスジが発生して平坦性が低下しやすくなる。
【0107】
次いで、
図1Bに示すように、供給槽21の上端面よりも高い位置に配置した粉体20を、平坦化ローラ12を矢印方向に回転しながら造形槽22側に移動することで、粉体20を造形槽22へと移送供給する(粉体供給)。さらに、
図1Cに示すように、平坦化ローラ12を造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行に移動させ、造形ステージ24の造形槽22上で所定の厚さΔt1になる粉体の層31を形成する(平坦化)。このとき、粉体の層31の形成に使用されなかった余剰の粉体20は余剰粉体受け槽29に落下する。粉体の層31を形成後、平坦化ローラ12は、
図1Dに示すように、供給槽21側に移動されて初期位置(原点位置)に戻される(復帰される)。
【0108】
ここで、平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の上端面との距離を一定に保って移動できるようになっている。一定に保って移動できることで、平坦化ローラ12で粉体20を造形槽22の上へと搬送させつつ、造形槽22上又は既に形成された造形液被付与層30の上に均一厚さh(積層ピッチΔt1に相当)の粉体の層31を形成できる。なお、以下、粉体の層31の厚みhと積層ピッチΔt1とを区別せずに説明することがあるが、特に断りのない限り、同じ厚みであり、同じ意味である。また、粉体の層31の厚みhを実際に測定して求めてもよく、この場合、複数箇所の平均値とすることが好ましい。
【0109】
その後、
図1Eに示すように、液体吐出ユニットのヘッド52から造形液の液滴10を吐出して、次の粉体の層31に所望の形状の造形液被付与層30を積層形成する。次いで、上述した粉体層形成工程及び造形液付与工程を繰り返して新たな造形液被付与層30を形成して積層する。このとき、新たな造形液被付与層30とその下層の造形液被付与層30は一体化する。以後、更に粉体層形成工程及び造形液付与工程を繰り返し行い、積層物を完成させる。
【実施例0110】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0111】
(実施例1)
<造形液の調製>
表1に示す材料を調合し、70℃で加温しながら4時間マグネチックスターラーで撹拌し、4時間攪拌後、加温を停止してから室温になるまで攪拌を続けることで実施例1のインクを調製した。
なお、表1~2における各材料の含有量は、質量%を示す。また、樹脂、環構造を有するオリゴマー、環構造を有しないオリゴマーは、いずれも粉末、ペレット、又はブロック状であり、前記含有量は、各材料の全量を表す。
【0112】
<金属粒子を含む粉体>
金属粒子を含む粉体として、AlSi10Mg粉末(東洋アルミニウム株式会社製、Si10Mg-30BB、体積平均粒径:35μm、金属粒子表面は樹脂で被覆されていない)を用いた。
【0113】
<立体造形物(グリーン体)の造形>
粉体と、実施例1の造形液とを用い、サイズ(長さ40mm×巾10mm)の形状印刷パターンにより、固化物が積層した立体造形物(グリーン体)を以下のようにして製造した。
【0114】
1) まず、
図1A~
図1Eに示したような公知の立体造形物の製造装置を用いて、供給槽から造形槽に粉体を移送させ、造形ステージ上に平均厚み100μmの粉体による薄層を形成した。
【0115】
2) 次に、形成した粉体による薄層の表面に、造形液を、公知のインクジェット吐出ヘッドのノズルから付与(吐出)し、造形液に含まれる環構造を有するオリゴマー(樹脂を含有する場合は、環構造を有するオリゴマー及び樹脂)の作用により、金属粒子の周囲に環構造を有するオリゴマー及び樹脂を配置した。
なお、造形液の吐出領域は、長さ40mm×巾10mmの長方形形状とした。
【0116】
3) 次に、前記1)及び前記2)の操作を所定の3mmの総平均厚みになるまで繰返し、固化した粉体による薄層を順次積層して積層物を形成した。その後、乾燥機を用いて、少なくとも140℃以上で加熱工程を行い、固化物が積層した立体造形物を得た。
【0117】
4) 乾燥後の立体造形物に対し、エアーブローにより余分な粉体を除去したグリーン体を得た。
【0118】
<評価>
<<造形液の粘度>>
造形液を、コーンプレート型回転粘度計(VISCOMETER TVE-22L、東機産業株式会社製)を用いて測定した。なお、測定容器内の温度は高温循環槽を用いて25℃に固定し、ロータはコーンロータ(1°34’×R24)を使用した。結果を表1に示す。
【0119】
<<Tgの測定>>
造形液1gをアルミカップに測り取り、ホットスターラーの上で150℃、6時間加熱し、乾固した樹脂を得た。アルミカップから樹脂を一部削り取り、示差走査熱量測定(DSC)装置(DSC2500、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)で、計4回の昇温冷却を行うプロファイルで測定した。具体的には、-30℃から200℃までの範囲で200℃までの昇温(1回目)、-30℃までの冷却(2回目)、200℃までの昇温(3回目)、-30℃までの冷却(4回目)で行い、3回目の昇温時のデータをTgとして採用し、下記評価基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
[評価基準]
A:Tgが60℃以上
B:Tgが50℃以上60℃未満
C:Tgが45℃以上50℃未満
D:Tgが45℃未満
【0120】
<<グリーン体の曲げ強度>>
上記の4)で作製したグリーン体の曲げ強度を測定し、下記評価基準に基づいて評価した。曲げ強度の測定には、万能試験機(オートグラフ、型式AG-I、株式会社島津製作所製)を使用し、1kN用ロードセル、及び3点曲げ治具を用いた。また、支点間距離は24mmとし、荷重点を1mm/分間の速度で変位させた際の応力を歪量に対してプロットし、破断点の応力を最大応力とした。下記評価基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
[評価基準]
A:曲げ強度が6.0MPa以上
B:曲げ強度が5.0MPa以上6.0MPa未満
C:曲げ強度が4.0MPa以上5.0MPa未満
D:曲げ強度が4.0MPa未満
【0121】
<<造形物(グリーン体)の高温高湿下での撓み>>
小型環境試験機(SH-222、エスペック株式会社製)に長さ100mm×厚み3mm×幅10mmのグリーン体を両端部から5mmの部分を支持した両端支持の姿勢で保管し、中央部に撓みが発生するかを確認した。撓み量はグリーン体の上に直尺ステンレススケールを載せて、中央部に隙間があるか確認した。
小型環境試験機内の温度は40℃、湿度は60%の定値運転を行い、撓みの確認は保管後一日目、2週間目、4週間目、5週間目等の任意の期間で取り出し確認を行った。
[評価基準]
A:四週間以上で撓み、変形無し
B:二週間以上四週間以内で撓み、変形無し
C:二週間以内で変形有り
【0122】
<<焼結体の相対密度>>
得られたグリーン体を、環構造を有するオリゴマー及び樹脂が分解する温度以上、かつ金属粒子AlSi10Mgの固相線温度(約570℃)以下の温度で加熱して脱脂体を取得した。更に、脱脂体を、前記固相線温度(約570℃)以上、液相線温度(約600℃)以下の温度で、1時間~10時間加熱して焼結体を製造した。
焼結体を構成する金属材料の密度に対する焼結体の密度の割合を算出し、下記評価基準に基づいて評価した。
[評価基準]
A:焼結体の密度の割合が97%以上
B:焼結体の密度の割合が93%以上97%未満
C:焼結体の密度の割合が93%未満
【0123】
(実施例2~6、及び比較例1~2)
実施例1において、材料の調合を表1~2に示す通り、変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2~6、及び比較例1~2の造形液及び立体造形物を得、評価を行った。結果を表1~2に示す。
【0124】
【0125】
【0126】
なお、実施例1~6、及び比較例1~2で用いた材料名又は商品名、及び販売/製造会社名は、以下の通りである。
【0127】
【0128】
実施例1~6の結果から、環構造を有するオリゴマーを少量含有することで造形液(乾燥体)のTgを上昇させることができ、得られるグリーン体も高強度を維持することが分かった。また、低分子量のオリゴマーのため、造形液が増粘せず、インクジェット方式に適することが分かった。
一方、比較例1~2では、環構造を有しないオリゴマーを少量添加しても、造形液(乾燥体)のTgの上昇は起こらず、かえってTgを下げてしまうことが分かった。
また、実施例2及び3の比較より、環構造の中に不飽和結合を含むテルペンフェノール樹脂の方が、環構造の中に不飽和結合を含まないテルペン樹脂よりも、造形液(乾燥体)のTg上昇の効果は大きいことが分かった。
【0129】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 金属粒子を含む粉体の層に対して付与される造形液であって、
数平均分子量3,000以下の環構造を有するオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、
実質的に水を含有しないことを特徴とする造形液である。
<2> 前記環構造を有するオリゴマーが、芳香環を有する共重合体、水素添加された芳香環を有する共重合体、ポリテルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、及びアルキルフェノール樹脂から選択される前記<1>に記載の造形液である。
<3> 前記環構造を有するオリゴマーが、環構造中に不飽和結合を有する熱可塑性オリゴマーを含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の造形液である。
<4> 下記構造式(1)で表される構造単位を有する樹脂を更に含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の造形液である。
【化7】
<5> 前記金属粒子が、アルミニウム、亜鉛、及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の造形液である。
<6> 前記金属粒子が、樹脂により表面が被覆されていない前記<1>から<5>のいずれかに記載の造形液である。
<7> 25℃における粘度が5mPa・s以上50mPa・s以下である前記<1>から<6>のいずれかに記載の造形液である。
<8> 金属粒子を含む粉体の層を形成する粉体層形成工程と、
前記粉体の層に対して造形液をインクジェット方式で付与する造形液付与工程と、
前記粉体層形成工程及び前記造形液付与工程を順次繰り返すことで積層物を形成する積層工程と、を含み、
前記造形液が、環構造を有する数平均分子量3,000以下のオリゴマーと、有機溶剤とを含有し、且つ実質的に水を含有しないことを特徴とする造形物の製造方法である。
<9> 前記造形液付与工程が、前記粉体の層に対して前記造形液をインクジェット方式で吐出する工程である前記<8>に記載の造形物の製造方法である。
<10> 前記積層物を加熱することで固化物を形成する加熱工程と、
前記固化物に付着している前記粉体である余剰粉体を除去してグリーン体を得る余剰粉体除去工程と、を更に有する前記<8>から<9>のいずれかに記載の造形物の製造方法である。
<11> 前記グリーン体を加熱することで前記環構造を有するオリゴマーが除去された脱脂体を形成する脱脂工程と、
前記脱脂体を加熱することで焼結体を形成する焼結工程と、を更に有する前記<10>に記載の造形物の製造方法である。
【0130】
前記<1>から<7>のいずれかに記載の造形液は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
前記<8>から<10>のいずれかに記載の造形物の製造方法は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、前記造形物の製造方法は、バインダージェッティング方式において、吐出性に優れ、ガラス転移点が低いバインダー樹脂を含む造形液を用いた場合でも、得られるグリーン体における樹脂のガラス転移点を高めることができ、グリーン体、脱脂体、焼結体などの造形物の強度に優れる造形物の製造方法を提供することを目的とする。