(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114944
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】気圧低下に起因する不調(気象病の症状)の改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/076 20060101AFI20240816BHJP
A61K 36/884 20060101ALI20240816BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20240816BHJP
A61K 36/284 20060101ALI20240816BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20240816BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A61K36/076
A61K36/884
A61K36/54
A61K36/284
A61P3/02
A61P25/04
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024105894
(22)【出願日】2024-07-01
(62)【分割の表示】P 2019197504の分割
【原出願日】2019-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2019141734
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】戸田 雅人
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、気圧低下に起因する不調(気象病の症状)を改善できる製剤を提供することである。
【解決手段】五苓散及び/又はそのエキスには、気圧低下に起因するだるさを改善する効果がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
五苓散及び/又はそのエキスを有効成分として含み、気圧低下に起因するだるさを改善するために使用される、製剤。
【請求項2】
12時間以内に2.7hPa以上の気圧低下が認められる際に服用される、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
気圧低下に起因するだるさ及び頭痛の双方を改善するために使用される、請求項1又は2に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気圧低下に起因する不調(気象病の症状)を改善できる製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
気象病(天気痛と称されることもある)は、気圧、温度、湿度、雨天等の気象条件の変化によって、だるさ、頭痛、めまい、神経痛、古傷の痛み等の症状が出現又は悪化する疾患である。特に、近年、梅雨の時期や雨の日の気圧低下に伴って、体のだるさを感じる人は増加傾向にある。このような気圧低下に起因するだるさ及び頭痛は、日常生活に重篤な支障を与えるほどの症状ではないとはいえ、QOLを低下させる要因になっている。そこで、気圧低下に起因して生じるだるさを改善できる医薬の開発が望まれているが、そのような医薬については、従来殆ど検討なされていない。
【0003】
一方、五苓散は、タクシャ、チョレイ、ブクリョウ、ビャクジュツ、及びケイヒからなる漢方薬であり、「のどが渇いて、尿量が少なく、吐き気、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症:水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、頭痛、むくみ」に有効であることが知られており、五苓散を使用した様々な漢方処方が提案されている(例えば、特許文献1参照)。但し、五苓散については、気圧低下に起因するだるさに対する効能については一切検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、気圧低下に起因するだるさを改善できる製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、五苓散及び/又はそのエキスには、気圧低下に起因するだるさを改善する効果があることを見出した。更に、本発明者は、五苓散及び/又はそのエキスには、気圧低下に起因するだるさだけでなく、気圧低下に起因する頭痛も改善する効果があることをも見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 五苓散及び/又はそのエキスを有効成分として含み、気圧低下に起因するだるさを改善するために使用される、製剤。
項2. 12時間以内に2.7hPa以上の気圧低下が認められる際に服用される、項1に記載の製剤。
項3. 気圧低下に起因するだるさ及び頭痛の双方を改善するために使用される、請求項1又は2に記載の製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、気圧低下に起因するだるさを改善でき、更には気圧低下に起因するだるさと共に頭痛も改善できるので、気象条件に左右される体質の人のQOLの向上に寄与できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製剤は、五苓散及び/又はそのエキスを有効成分として含み、気圧低下に起因するだるさを改善するために使用されることを特徴とする。以下、本発明の製剤について詳述する。
【0010】
[有効成分]
本発明の製剤は、有効成分として五苓散及び/又はそのエキスを含有する。
【0011】
五苓散とは、タクシャ、チョレイ、ブクリョウ、ビャクジュツ、及びケイヒからなる漢方処方である。五苓散を構成する各生薬の分量は、一般的には、タクシャ5質量部、チョレイ3質量部、ブクリョウ3質量部、ビャクジュツ3質量部、及びケイヒ2質量部である。
【0012】
五苓散のエキスは、五苓散(生薬調合物)を公知の手法で抽出することによって得ることができる。五苓散を抽出する方法については、従来の漢方エキスの抽出法と同様の方法で行えばよく、例えば、五苓散に対して、約5~30倍量の水を加え、80~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。抽出後に、遠心分離、濾過等の固液分離に供して固形分を除去し、必要に応じて、濃縮処理や乾燥処理に供することによって五苓散のエキスが得られる。
【0013】
五苓散のエキスをエキス末として得るには、固形分を除去した抽出液を、必要に応じて濃縮した後に、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理に供すればよい。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際に、必要に応じて抽出液に、デキストリン等の賦形剤を添加してもよい。このように賦形剤を添加することにより、乾燥時間を短縮することが可能になる。添加される賦形剤の種類や添加量については、一般的な漢方エキス末を製造する場合と同様である。
【0014】
また、五苓散のエキスを軟エキスとして得るには、固形分を除去した抽出液を、減圧濃縮等によって濃縮すればよい。また、軟エキスに、適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末としてもよい。
【0015】
五苓散のエキスは、エキス末又は軟エキスのいずれであってもよい。
【0016】
また、本発明で使用される五苓散のエキスの好適な例として、エキス成分総量に対して、グアノシンが0.015~0.045重量%含まれているものが挙げられる。ここで、「エキス成分の総量」とは、五苓散(生薬調合物)から抽出された全成分量を指す。
【0017】
本発明の製剤では、五苓散及びそのエキスの内、いずれか一方を単独で使用してもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明の製剤において、五苓散及び/又はそのエキスの含有量については、1日当たりの服用量、剤型等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、本発明の製剤2.3g当たり、五苓散の原生薬換算量で8.0~16.0g、好ましくは11.2~16.0gが挙げられる。なお、本発明において、「五苓散の原生薬換算量」は五苓散自体を使用する場合であれば、配合する五苓散の重量が原生薬換算量になり、五苓散のエキスの場合であれば、配合される五苓散のエキスの量を得るために必要な生薬調合物の総量の乾燥重量が原生薬換算量になる。
【0019】
[その他の含有成分]
本発明の製剤には、五苓散及び/又はそのエキス以外に、必要に応じて、他の薬理成分を含んでいてもよい。
【0020】
更に、本発明の製剤には、所望の剤型に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの基剤や添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する添加成分の種類や製剤の剤型等に応じて適宜設定すればよい。
【0021】
[剤型]
本発明の製剤の剤型については、特に制限されず、固体状製剤、半固体状製剤、又は液体状製剤のいずれであってもよい。
【0022】
固体状製剤としては、具体的には、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、散剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)等が挙げられる。半固体状製剤としては、具体的には、ゼリー剤等が挙げられる。液体状製剤としては、具体的には、液剤、懸濁剤、シロップ剤等が挙げられる。
【0023】
これらの剤型の中でも、含有成分の安定性や携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
【0024】
[用法・用量]
本発明の製剤は、気圧低下に起因するだるさの予防又は緩和目的で内服投与される。また、本発明の製剤は、気圧低下に起因する頭痛を予防又は緩和する効果もあるので、気圧低下に起因するだるさと頭痛の双方の改善目的で使用することもできる。
【0025】
本発明の製剤の改善対象となる「気圧低下に起因するだるさ、又はだるさと頭痛」において、要因となる気圧の低下幅については特に制限されないが、本発明の製剤の改善対象となるだるさ、又はだるさと頭痛として、例えば、12時間以内に気圧が2.7以上、好ましくは2.7~40.5hPa、より好ましくは7.3~40.5hPa、更に好ましくは15.8~40.5hPa低下することにより生じる症状が挙げられる。
【0026】
本発明の製剤を、気圧低下が予想される際(即ち、気圧低下の前)に服用すると、当該気圧低下に起因するだるさ、又はだるさと頭痛を予防又は緩和することができる。また、本発明の製剤を、気圧低下が生じた後(当該気圧低下の後)に服用すると、当該気圧低下に起因して生じただるさ、又はだるさと頭痛を緩和することができる。
【0027】
気圧低下が認められるか否かは、服用者の居住地に応じて、気象庁や民間の気象予報会社から提供される気圧の測定値又は予想値に基づいて確認することができる。
【0028】
本発明の製剤の用量については、服用対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、1日当たり、五苓散の原生薬換算量で8.0~16.0g、好ましくは11.2~16.0gが挙げられる。
【0029】
本発明の製剤は、前述する服用量を1日1~3回に分けて、好ましくは2又は3回に分けて服用すればよい。
【実施例0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
試験例1
表1に示す組成の製剤A及びBを調製した。
【表1】
【0032】
気圧の低下によって不調を感じることがある被験者(男女15名)を対象として、前記製剤について、気圧低下により生じる「だるさ」及び「頭痛」の改善効果を評価した。具体的には、気圧の低下が認められた際に、15名の被験者に、「だるさ」又は「頭痛」について自覚症状の有無を調査した。これらの自覚症状が認められた被験者(自覚症状有訴者)に対して製剤を服用させ、服用2時間後に当該自覚症状の程度を「改善」、「やや改善」、「不変」、「やや悪化」及び「悪化」の5段階で評価した。「改善」又は「やや改善」と評価した自覚症状有訴者を効果自覚者としてカウントし、自覚症状有訴者の総数に対する効果自覚者の総数の割合を有効率(%)として算出した。なお、製剤の服用時の気圧と製剤の服用前12時間以内の気圧の最高値は、気象庁の公表データから取得した。本試験は、製剤Aについては日を変えて4回実施し、製剤Bについては1回実施した。
【0033】
得られた結果を表2に示す。この結果、消炎鎮痛薬であるイブプロフェンでは、気圧低下により生じるだるさに対する有効率は低かったが(比較例1)、五苓散エキスでは、気圧低下により生じるだるさに対する有効率が高かった(実施例1~4)。更に、五苓散エキスでは、気圧低下により生じる頭痛に対する改善効果も認められた(実施例1~4)。特に、五苓散エキスは、15.8~40.5hPaの気圧低下時に認められただるさ及び頭痛に対して、格段に高い有効率を示した(実施例3及び4)。
【0034】