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特開2024-115174顔料組成物、カラーフィルタ、及び顔料組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115174
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】顔料組成物、カラーフィルタ、及び顔料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20240819BHJP
   C09B 47/04 20060101ALI20240819BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C09B67/20 G
C09B47/04
G02B5/20 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020714
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】横山 渉
(72)【発明者】
【氏名】浅見 亮介
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148BE13
2H148BE15
2H148BG02
2H148BH03
2H148BH17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性に優れ、且つカラーフィルタとしたときの輝度およびコントラストにも優れ、顔料を分散液とした際の初期粘度と経時粘度を低減することができる顔料組成物を提供することである。
【解決手段】顔料組成物は、ε型銅フタロシアニン(B15:6)と、下記一般式(1)で表される顔料誘導体と、特定のナフチルウレア誘導体と、を含む。

(一般式(1)中、Zは置換基を有してもよいフタルイミドアルキル基を表し、n、n、n、及びnは、置換基Zの数を表し、各々独立に0から4の整数である。但しn、n、n、及びnは何れも0とはならない。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ε型銅フタロシアニン(B15:6)と、下記一般式(1)で表す顔料誘導体と、下記一般式(2)で表す化合物と、を含む顔料組成物。
【化1】
(一般式(1)中、Zは置換基を有してもよいフタルイミドアルキル基を表し、n、n、n、及びnは、置換基Zの数を表し、各々独立に0から4の整数である。但しn、n、n、及びnは何れも0とはならない)
【化2】
(一般式(2)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~22のアルキル基、又は炭素数2~22のアルケニル基である。ただし、当該アルキル基およびアルケニル基の炭素鎖には、-O-、-S-、-NR-、-CO-若しくは-SO-を連結基として1つまたは複数有していても良い。)
【請求項2】
ε型銅フタロシアニン(B15:6)と、下記一般式(1)で表す顔料誘導体と、下記一般式(2)で表す化合物と、スルホン酸誘導体と、を含む顔料組成物。
【化3】
(一般式(1)中、Zは置換基を有してもよいフタルイミドアルキル基を表し、n、n、n、及びnは、置換基Zの数を表し、各々独立に0から4の整数である。但しn、n、n、及びnは何れも0とはならない)
【化4】
(一般式(2)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~22のアルキル基、又は炭素数2~22のアルケニル基である。ただし、当該アルキル基およびアルケニル基の炭素鎖には、-O-、-S-、-NR-、-CO-若しくは-SO-を連結基として1つまたは複数有していても良い。)
【請求項3】
ε型銅フタロシアニン(B15:6)と、下記一般式(1)で表す顔料誘導体と、下記一般式(2)で表す化合物と、スルホン酸誘導体と、アクリル樹脂と、を含む顔料組成物。
【化5】
(一般式(1)中、Zは置換基を有してもよいフタルイミドアルキル基を表し、n、n、n、及びnは、置換基Zの数を表し、各々独立に0から4の整数である。但しn、n、n、及びnは何れも0とはならない)
【化6】
(一般式(2)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~22のアルキル基、又は炭素数2~22のアルケニル基である。ただし、当該アルキル基およびアルケニル基の炭素鎖には、-O-、-S-、-NR-、-CO-若しくは-SO-を連結基として1つまたは複数有していても良い。)
【請求項4】
前記の一般式(2)で表す化合物の含有量が0.5~10重量%である請求項1から3のいずれか1項に記載の顔料組成物。
【請求項5】
前記の一般式(2)で表す化合物の含有量が0.5~10重量%であり、前記の一般式(1)で表す顔料誘導体の含有量が1~15重量%である請求項1から3のいずれか1項に記載の顔料組成物。
【請求項6】
前記の一般式(2)で表す化合物が、R、R、RおよびRが水素原子、且つ、RおよびRが炭素鎖に連結基として-O-を少なくとも1つ有する炭素数4~20のアルキル基である請求項1から3のいずれか1項に記載の顔料組成物。
【請求項7】
前記の一般式(2)で表す化合物が、下記式(2-1)で表す化合物である請求項1から3のいずれか1項に記載の顔料組成物。
【化7】
【請求項8】
カラーフィルタ用である請求項1から3のいずれか1項に記載の顔料組成物。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか1項に記載の有機顔料組成物を含有するカラーフィルタ。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか1項に記載の顔料組成物、水溶性無機塩、及び水溶性有機溶剤からなる混合物をソルベントソルトミリングする工程を含む有機顔料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料組成物、当該顔料組成物を含有するカラーフィルタ、及び顔料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のカラーフィルタは、赤色画素部、緑色画素部及び青色画素部を有する。これらの各画素部は、いずれも有機顔料が分散した合成樹脂の薄膜が基板上に設けられた構造であり、有機顔料としては、赤、緑及び青の各色の有機顔料が用いられている。
【0003】
これら画素部のうち、青色画素部を形成するための青色有機顔料としては、一般に、ε型銅フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:6、以下「B15:6」と称する)が用いられており、必要に応じて調色のために、これに紫色有機顔料のジオキサジンバイオレット顔料(C.I.ピグメントバイオレット23)や、紫色染料が少量併用されている。
【0004】
カラーフィルタを作製する際の有機顔料は、従来の汎用用途とは全く異なる特性、具体的には、液晶表示装置の表示画面がより明るくなる様にする(高輝度化)、或いは、同じく表示画面がよりハッキリ見える様にする(高コントラスト化)等が要求され、さらに、カラーフィルタ作製後の工程で、透明電極の膜付けや、ポリイミドの配向膜付けで200℃以上にカラーフィルタがさらされるため、耐熱性に優れて且つこれらの特性を満足する顔料の検討がなされている。
【0005】
ε型銅フタロシアニン顔料(B15:6)に関しては、例えば以下の先行技術文献が知られている。特許文献1には、フタロシアニン顔料と一般式(1)で表される顔料誘導体を含むカラーフィルタ用有機顔料組成物が記載されている。また、特許文献2には、フタロシアニン顔料と一般式(1)で表される顔料誘導体を含むカラーフィルタ用有機顔料組成物が記載されている。有機顔料と樹脂とを含むカラーフィルタ用顔料組成物において、樹脂として一般式1~一般式4で示される群から選ばれる少なくとも1種の固形エポキシ樹脂を含有し、更に有機顔料誘導体をも含有するカラーフィルタ用顔料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6197964号公報
【特許文献2】特開2012-36325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記特許文献1及び2について検討をしたところ、特許文献1及び2における顔料組成物では、現在の市場の要求スペック(輝度・コントラスト・粘度)を満たすことができず、更なるスペック向上が求められていることが分かった。
【0008】
本発明の課題は、耐熱性に優れ、且つカラーフィルタとしたときの輝度およびコントラストにも優れ、顔料を分散液とした際の初期粘度と経時粘度を低減することができる顔料組成物を提供することである。また、当該有機顔料組成物を含有するカラーフィルタ、及び顔料組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討をしたところ、ε型銅フタロシアニン(B15:6)に対して、特定のフタルイミドメチル構造を有する顔料誘導体とナフチルウレア誘導体を組合わせて用いることで、上記の課題を解決できることが分かった。また、上記2つの誘導体に加えてスルホン酸誘導体を用いることや、上記3つの誘導体に更にアクリル樹脂を用いることでも上記の課題を解決できることが分かった。
【0010】
本発明のメカニズムは、以下のとおりと考えられる。ε型銅フタロシアニン(B15:6)とその顔料誘導体に、特定のナフチルウレア誘導体を添加することで、熱履歴を受けた際にも顔料や樹脂と、このナフチルウレア誘導体に強い分子間相互作用が働き、結晶成長抑制作用が発揮される。また、このナフチルウレア誘導体は、流動性の良好なアルキル鎖を有するため顔料の粘性を低減することができ、このナフチルウレア誘導体におけるウレア基とアルキル鎖骨格が分散剤や樹脂との相溶性をアップさせている。更にこのナフチルウレア誘導体は、顔料組成物の極性基部分と特に相互作用が強く働くため、イミド骨格を有するフタルイミドメチル誘導体やスルホニル基を有するスルホン酸誘導体が一定の割合で含有しているとその効果が大きく作用する。
【0011】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]ε型銅フタロシアニン(B15:6)と、下記一般式(1)で表す顔料誘導体と、下記一般式(2)で表す化合物と、を含む顔料組成物(以下、「本発明の態様1」と称する)。
【化1】
(一般式(1)中、Zは置換基を有してもよいフタルイミドアルキル基を表し、n、n、n、及びnは、置換基Zの数を表し、各々独立に0から4の整数である。但しn、n、n、及びnは何れも0とはならない)
【化2】
(一般式(2)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~22のアルキル基、又は炭素数2~22のアルケニル基である。ただし、当該アルキル基およびアルケニル基の炭素鎖には、-O-、-S-、-NR-、-CO-若しくは-SO-を連結基として1つまたは複数有していても良い。)
[2] ε型銅フタロシアニン(B15:6)と、下記一般式(1)で表す顔料誘導体と、下記一般式(2)で表す化合物と、スルホン酸誘導体と、を含む顔料組成物(以下、「本発明の態様2」と称する)。
【化3】
(一般式(1)中、Zは置換基を有してもよいフタルイミドアルキル基を表し、n、n、n、及びnは、置換基Zの数を表し、各々独立に0から4の整数である。但しn、n、n、及びnは何れも0とはならない)
【化4】
(一般式(2)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~22のアルキル基、又は炭素数2~22のアルケニル基である。ただし、当該アルキル基およびアルケニル基の炭素鎖には、-O-、-S-、-NR-、-CO-若しくは-SO-を連結基として1つまたは複数有していても良い。)
[3] ε型銅フタロシアニン(B15:6)と、下記一般式(1)で表す顔料誘導体と、下記一般式(2)で表す化合物と、スルホン酸誘導体と、アクリル樹脂と、を含む顔料組成物(以下、「本発明の態様3」と称する)。
【化5】
(一般式(1)中、Zは置換基を有してもよいフタルイミドアルキル基を表し、n、n、n、及びnは、置換基Zの数を表し、各々独立に0から4の整数である。但しn、n、n、及びnは何れも0とはならない)
【化6】
(一般式(2)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~22のアルキル基、又は炭素数2~22のアルケニル基である。ただし、当該アルキル基およびアルケニル基の炭素鎖には、-O-、-S-、-NR-、-CO-若しくは-SO-を連結基として1つまたは複数有していても良い。)
[4] 前記の一般式(2)で表す化合物の含有量が0.5~10重量%である[1]~[3]のいずれか1項に記載の顔料組成物。
[5] 前記の一般式(2)で表す化合物の含有量が0.5~10重量%であり、前記の一般式(1)で表す顔料誘導体の含有量が1~15重量%である[1]~[3]のいずれか1項に記載の顔料組成物。
[6] 前記の一般式(2)で表す化合物が、R、R、RおよびRが水素原子、且つ、RおよびRが炭素鎖に連結基として-O-を少なくとも1つ有する炭素数4~20のアルキル基である[1]~[5]のいずれか1項に記載の顔料組成物。
[7] 前記の一般式(2)で表す化合物が、下記式(2-1)で表す化合物である[1]~[6]のいずれか1項に記載の顔料組成物。
【化7】
[8] カラーフィルタ用である[1]~[7]のいずれか1項記載の顔料組成物。
[9] [1]~[8]のいずれか1項記載の有機顔料組成物を含有するカラーフィルタ。
[10] [1]~[8]のいずれか1項記載の顔料組成物、水溶性無機塩、及び水溶性有機溶剤からなる混合物をソルベントソルトミリングする工程を含む有機顔料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機顔料組成物は、耐熱性に優れ、且つ、特にカラーフィルタとしたときの輝度およびコントラストにも優れ、顔料を分散液とした際の初期粘度と経時粘度を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[有機顔料組成物]
本発明の有機顔料組成物における本発明の態様1は、ε型銅フタロシアニン(B15:6)と、下記一般式(1)で表す顔料誘導体と、下記一般式(2)で表す化合物と、を含む。
【化8】
(一般式(1)中、Zは置換基を有してもよいフタルイミドアルキル基を表し、n、n、n、及びnは、置換基Zの数を表し、各々独立に0から4の整数である。但しn、n、n、及びnは何れも0とはならない)
【化9】
(一般式(2)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~22のアルキル基、又は炭素数2~22のアルケニル基である。ただし、当該アルキル基およびアルケニル基の炭素鎖には、-O-、-S-、-NR-、-CO-若しくは-SO-を連結基として1つまたは複数有していても良い。)
なお、本発明の態様1~3における含有量は、特段の事情がない限り、溶媒などの揮発成分を除いた不揮発成分の含有量とする。
【0014】
本発明の有機顔料組成物における本発明の態様2は、上記の本発明の態様1に更にスルホン酸誘導体を含む。また、本発明の有機顔料組成物における本発明の態様3は、上記の本発明の態様2に更にアクリル樹脂を含む。
【0015】
本発明の態様1~3におけるε型銅フタロシアニン(B15:6)としては、通常公知のε型フタロシアニン顔料を用いることができる。フタロシアニン顔料には、α型、β型、γ型、ε型、δ型、π型、ρ型、χ型、R型等の結晶多形が存在することが知られているが、特にカラーフィルタ用の顔料としては、耐熱性に優れ、色調の好ましいε型である銅フタロシアニン顔料が好適である。ε型である割合は高い方が、耐熱性に優れ、色調の好ましいカラーフィルタとすることができるため、結晶多形に占めるε型である割合は、高いほど好ましく、その割合は、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは、78%以上である。65%以上の ε型銅フタロシアニンの含有率を有するフタロシアニン顔料は、一般式(2)で表す化合物(ナフチルウレア誘導体)や一般式(1)で表す顔料誘導体およびスルホン酸誘導体と相互作用を及ぼしやすい結晶構造となるため、有機顔料組成物として、好ましい分散状態を発現でき、耐熱性、輝度、コントラスト、粘度に優れる。ε型銅フタロシアニン(B15:6)としては、FASTOGEN Blue AE-8(DIC株式会社製)などの市販の顔料をそのまま用いてもよく、FASTOGEN Blue RF(DIC株式会社製)などのα型銅フタロシアニン顔料に対して磨砕処理をすることによりε型に結晶変換させて用いてもよい。
【0016】
本発明の態様1~3においては、ε型銅フタロシアニン(B15:6)以外の顔料を調色のために用いてもよい。調色用の顔料としては、紫色有機顔料のジオキサジンバイオレット顔料(C.I.ピグメントバイオレット23)などが挙げられる。本発明の態様1~3における顔料全体に対するε型銅フタロシアニン(B15:6)の割合は、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。顔料以外に青色や紫色などの染料を色材として含んでいてもい。
【0017】
本発明の態様1~3においてε型銅フタロシアニン(B15:6)の割合は、有機顔料組成物全量に対して、例えば50~95重量%、好ましくは60~92重量%、より好ましくは70~90重量%である。また、ε型銅フタロシアニン(B15:6)を含む顔料の割合は、有機顔料組成物全量に対して、例えば55~95重量%、好ましくは65~92重量%、より好ましくは75~90重量%である。ε型銅フタロシアニン(B15:6)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の態様1~3の一般式(1)で表す顔料誘導体は、フタロシアニン骨格の外郭のベンゼン環にフタルイミドアルキル基を導入した顔料誘導体である。この顔料誘導体においてZと表したフタルイミドアルキル基は、例えば炭素数1~8のアルキル基にフタルイミド構造が接合した置換基である。このアルキル基は、顔料の分散性に影響を与え、結果としてカラーフィルタでの輝度、コントラストの光学特性を左右するものである。本発明の態様1~3では、分散性、光学特性の観点から、アルキル基の炭素数は1~4が好ましく、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
【0019】
上記顔料誘導体の外郭ベンゼン環それぞれには、4個のフタルイミドアルキル基を導入することができるため、最大で16個の置換が可能である。置換基Zの数であるn、n、n、及びnは、各々独立に0から4の整数であるが、0から3が好ましく、0から2がより好ましい。また、n、n、n、及びnの合計は、例えば1から8、2から6が好ましく、2から4がより好ましい。このフタルイミドアルキル基数(平均置換基数)は、電解脱離イオン化質量分析によって測定することができる。具体的には、置換基Zがフタルイミドメチル基のとき、分子イオンピーク159(m/z)のフタルイミドメチル基の置換基数1とし、その倍数のイオンピークを基に置換基数を強度比から算出することができる。
【0020】
上記顔料誘導体は、例えば、特許第6197964号公報の合成例1([0076])に記載の方法で得られる。
【0021】
上記顔料誘導体の割合は、ε型銅フタロシアニン(B15:6)100重量部に対して、例えば0.1~50重量部、好ましくは1.0~30重量部、より好ましくは2.0~20重量部である。また、上記顔料誘導体の割合は、有機顔料組成物全量に対して、例えば0.1~50重量%、好ましくは0.5~30重量%、より好ましくは1.0~20重量%、特に好ましくは1.0~15重量%である。顔料誘導体の割合が上記範囲であると、色相変化、色純度のバランスが良く、顔料誘導体の結晶成長抑制作用による耐熱性が期待できる。
【0022】
本発明の態様1~3の一般式(2)で表す化合物(ナフチルウレア誘導体)におけるR、R、R、R、R、及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~22のアルキル基、又は炭素数2~22のアルケニル基であるが、R~Rのうち少なくとも1つの基が上記のアルキル基又はアルケニル基を有することが好ましく、R~Rのうち少なくとも1つの基が上記のアルキル基又はアルケニル基を有することが特に好ましい。上記のアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状であってもよく、一部に分岐鎖を有していてもよい。また、上記のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、適度なアルキル鎖を有することが好ましい点から1~5が好ましく、2~4がより好ましい。上記の水素原子の数は、1~5が好ましく、2~4がより好ましい。
【0023】
上記のアルキル基又はアルケニル基における炭素数は、適度なアルキル鎖を有することが好ましい点から4~20が好ましく、6~18がより好ましい。上記のアルキル基およびアルケニル基の炭素鎖には、-O-を連結基として1つ以上有することが好ましく、2つ以上有することがより好ましい。
【0024】
上記の一般式(2)で表す化合物は、適度なアルキル鎖を有することが好ましい点からR、R、R、およびRが水素原子、且つR、およびRが炭素鎖に連結基として-O-を少なくとも1つ有する炭素数4~20のアルキル基であることが好ましい。
【0025】
上記の一般式(2)で表す化合物は、下記式(2-1)で表す化合物であることが特に好ましい。
【化10】
【0026】
上記の一般式(2)で表す化合物としては、市販品をそのまま使用することができる。このような市販品としては、例えばN,N’’-ナフタレン-1,5-ジイルビス[N’-[3-[(2-エチルヘキシル)オキシ]プロピル]尿素](BOCサイエンス社製;Cas. No.71216-01-8)を使用することができる。
【0027】
上記の一般式(2)で表す化合物の割合は、ε型銅フタロシアニン(B15:6)100重量部に対して、例えば0.1~20重量部、好ましくは0.2~15重量部、より好ましくは0.5~10重量部である。また、上記顔料誘導体の割合は、有機顔料組成物全量に対して、例えば0.1~20重量%、好ましくは0.2~15重量%、より好ましくは0.5~10重量%である。ナフチルウレア誘導体の割合が上記範囲であると、色相変化、色純度のバランスが良く、ナフチルウレア誘導体の分子間相互作用が働き、結晶成長抑制作用が発揮される。
【0028】
よって、上記の一般式(2)で表す化合物と一般式(1)で表す顔料誘導体の割合は、有機顔料組成物全量に対して、例えば0.1~20重量%と0.1~50重量%、好ましくは0.2~15重量%と1.0~30重量%、より好ましくは0.5~10重量%と1.0~15重量%である。一般式(2)で表す化合物(ナフチルウレア誘導体)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明の態様2及び3におけるスルホン酸誘導体としては、例えばベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、o-キシレン-4-スルホン酸、o-ベンゼンジスルホン酸、m-ベンゼンジスルホン酸、p-ベンゼンジスルホン酸、ベンゼンスルホンアミドおよびこれらの誘導体、銅フタロシアニンのスルホン酸もしくはその塩を有する誘導体が挙げられる。なかでもベンゼンスルホン酸が好ましい。スルホン酸誘導体としては、市販品を用いることができ、例えば水素[29H,31H-フタロシアニンスルホナト(3-)-N29,N30,N31,N32]銅酸塩(1-)(BOCサイエンス社製;Cas. No.28901-96-4)を使用することができる。
【0030】
スルホン酸誘導体の割合は、ε型銅フタロシアニン(B15:6)100重量部に対して、例えば1.0~30重量部、好ましくは2.0~25重量部、より好ましくは3.0~15重量部である。また、スルホン酸誘導体の割合は、有機顔料組成物全量に対して、例えば1.0~20重量%、好ましくは2.0~15重量%、より好ましくは3.0~10重量%である。スルホン酸誘導体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明の態様3におけるアクリル樹脂としては、構造中に(メタ)アクリル酸エステルを少なくとも1つ含む樹脂が好ましく、なかでも側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の共重合体を有する樹脂が好ましい。このようなアクリル樹脂を含む場合、顔料分子の再凝集を防ぎ、顔料分散液の流動性、貯蔵安定性がより優れる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステルとは、(メタ)アクリル酸とその他の各種アルコールとから形成される様なエステル結合を含有する化合物であり、上記アルコールに由来する、エステル結合COOの末端に炭素原子鎖を含有するものを言う。典型的には、前記炭素鎖がアルキル基であるものが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと称されている。(メタ)アクリル酸アルキルエステルで言えば、側鎖はアルキル基を意味する。当業界では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルばかりでなく、上記炭素鎖がアルキル基以外の化合物もよく知られていることから、本発明においては(メタ)アクリル酸アルキルエステルだけでなく、炭素鎖が、アルキル基以外の化合物を含めて、(メタ)アクリル酸エステルと称するものとする。
【0033】
これらの(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート〔ラウリル(メタ)アクリレート〕、オクタデシル(メタ)アクリレート〔ステアリル(メタ)アクリレート〕等のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、p-ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、p-ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエーテル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環を含有する(メタ)アクリル酸エステル;などが挙げられる。
【0034】
アクリル樹脂は、上記の(メタ)アクリル酸エステル以外にエポキシ基を有する単量体を含んでいるエポキシアクリレートであってもよい。エポキシ基を有する単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体が挙げられる。エポキシ基を有する単量体は、アクリル樹脂を構成する全単量体に対して、例えば3~35重量%含むことが好ましい。
【0035】
アクリル樹脂は、上記の側鎖の炭素原子数が異なる(メタ)アクリル酸エステル2種以上の単量体やエポキシ基やウレタン結合を有する単量体を2種以上選択して組み合わせて共重合させることにより得られる。単量体として、上記以外のその他の共単量体を併用して共重合させても良い。この様な共単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、第3級カルボン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有単量体;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン等のビニルケトン類;エチレン、プロピレン等のα オレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類;スチレン、ビニルトルエン、α メチルスチレン、ジメチルスチレン、tert ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
【0036】
アクリル樹脂としては、上記の(メタ)アクリル酸エステル以外にウレタン結合を有するウレタンアクリレートであってもよい。ウレタン結合は、イソシアネート化合物、ポリオール化合物、水酸基含有アクリル化合物を単量体として共重合した後にこれをウレタン化することにより得られる。ウレタン結合は、アクリル樹脂を構成する全構成ユニットに対して、例えば3~35重量%含むことが好ましい。
【0037】
アクリル樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)が出来るだけ高い方が、それ自体の耐熱性に優れるものの、顔料と併用した際に、相互作用により優れた耐熱性を発揮できる点で、Tg0~150℃であることが好ましい。また、アクリル樹脂としては、どの様な分子量のものでも用いることは出来るが、具体的には、重量平均分子量5,000~100,000であることが、顔料に対する親和性が大きく、耐熱性の向上効果もより大きいことから好ましい。
【0038】
アクリル樹脂としては、上述のように(メタ)アクリル酸エステルとその他の共単量体を塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知慣用の方法で共重合させたものを用いても良いが、市販品をそのまま用いてもよい。この様な市販品として、例えばウレタンアクリレートとしてはルクシディアLUXYDIR、LUXYDIR EPICLONシリーズ(DIC株式会社製)、エポキシアクリレートとしてはファインディックA-254、A-702、A-703、A-705、A-707(DIC株式会社製)などが使用できる。
【0039】
アクリル樹脂の割合は、ε型銅フタロシアニン(B15:6)100重量部に対して、例えば2.0~40重量部、好ましくは3.0~30重量部、より好ましくは4.0~20重量部である。また、アクリル樹脂の割合は、有機顔料組成物全量に対して、例えば2.0~35重量%、好ましくは2.5~30重量%、より好ましくは3.0~25重量%である。アクリル樹脂の割合が上記範囲であると、顔料への分散安定性を向上させることができる。アクリル樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明の態様1~3においては、上述のε型銅フタロシアニン(B15:6)などの顔料、一般式(1)で表す顔料誘導体、一般式(2)で表す化合物、スルホン酸誘導体及びアクリル樹脂以外に、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、一般式(1)で表す顔料誘導体以外の顔料誘導体、顔料の分散に必要な分散剤、添加剤などが挙げられる。
【0041】
本発明の有機顔料組成物は、特にカラーフィルタ用として有用であり、特に従来公知の方法で主にカラーフィルタの青色画素部に好ましく使用することができる。また、カラーフィルタを構成する他の赤色画素部、緑色画素部、ブラックマトリックス部や、ディスプレイを構成するカラムスペーサーの着色にも使用することが可能である。
【0042】
本発明の有機顔料組成物は、カラーフィルタ用以外にも各種印刷インキ、塗料、プラスチック着色、繊維着色、インクジェットインキ、トナー、化粧品などの用途に使用することができる。
【0043】
[有機顔料組成物の製造方法]
本発明の有機顔料組成物の製造方法は、上述の顔料組成物、水溶性無機塩、及び水溶性有機溶剤からなる混合物をソルベントソルトミリングする工程を含む。本発明の有機顔料組成物の製造方法は、更に本発明の態様1~3の有機顔料組成物の製造する場合は、一般式(2)で表す化合物(ナフチルウレア誘導体)を加える工程を含む。また、更に本発明の態様2又は3の有機顔料組成物の製造する場合は、スルホン酸誘導体を加える工程を含む。また、更に本発明の態様3の有機顔料組成物の製造する場合は、アクリル樹脂を加える工程を含む。
【0044】
上記ソルベントソルトミリングする工程で用いる水溶性無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の無機塩を用いることが好ましい。また、水溶性無機塩の平均粒子径は0.5~50μm程が好ましい。この様な水溶性無機塩は、通常の無機塩を微粉砕することにより容易に得られる。水溶性無機塩の使用量は、顔料1重量部に対して3~20重量部が好ましく、5~15重量部がより好ましい。
【0045】
上記ソルベントソルトミリングする工程で用いる水溶性有機溶剤としては、結晶成長を抑制し得るものが好適に使用できる。水溶性有機溶剤としては、例えばジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングルコール、液体ポリプロピレングリコール、2 (メトキシメトキシ)エタノール、2-ブトキシエタノール、2 (イソペンチルオキシ)エタノール、2 (ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1-メトキシ-2-プロパノール等を用いることができるが、エチレングリコール又はジエチレングリコールが好ましい。水溶性有機溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、顔料1重量部に対して0.01~5重量部が好ましい。
【0046】
上記混合物をソルベントソルトミリングする工程では、具体的には、ε型銅フタロシアニン(B15:6)を含む顔料と、水溶性無機塩と、それを溶解しない親水性有機溶剤とを混練機に仕込み、その中で混練摩砕が行われる。上記混合物の割合は、上述の有機顔料組成物で述べたとおりである。顔料としてε型銅フタロシアニン(B15:6)を用いるのではなく、α型銅フタロシアニンを用いて、これを混練磨砕することにより結晶変換してε型銅フタロシアニン(B15:6)としてもよい。
【0047】
上記のソルベントソルトミリングする工程の前に、一般式(2)で表す化合物(ナフチルウレア誘導体)、および必要に応じて添加するスルホン酸誘導体、アクリル樹脂を加えて調整する。一般式(2)で表す化合物(ナフチルウレア誘導体)、スルホン酸誘導体、アクリル樹脂の順で加えてもよく、異なる順序で加えてもよい。また、これらの成分は、ソルベントソルトミリングの最中、例えばα型銅フタロシアニンを混練磨砕することにより結晶変換する際に加えてもよい。これらの成分の割合は、上述の本発明の有機顔料組成物で述べたとおりである。
【0048】
上記混練磨砕の温度は、60~150℃の間で、2~24時間行うことが好ましい。この混練磨砕に用いる装置としては、ニーダー、ミックスマーラー、特開2007-100008公報に記載のプラネタリー型ミキサーである井上製作所株式会社製のトリミックス(商標名)や、特開平4-122778号公報に記載の連続式二軸押出機や、特開2006-306996号公報に記載の連続式一軸混練機である浅田鉄工株式会社製のミラクルKCK等を用いることができる。
【0049】
混練磨砕後は、例えば冷却し、そこから液媒体を除去し、必要に応じて、固形物を洗浄、濾過、乾燥、粉砕等をすることにより、顔料、顔料誘導体、一般式(2)で表す化合物などの不揮発分を含有する本発明の有機顔料組成物の粉体を得ることが出来る。洗浄としては、水洗、湯洗のいずれも採用できる。洗浄回数は、1~5回の範囲で繰り返すことも出来る。洗浄することで、顔料に吸着していないアクリル樹脂などを容易に除去することが出来る。洗浄後の乾燥としては、例えば、乾燥機に設置した加熱源による80~120℃の加熱等により、顔料の脱水及び/又は脱溶剤をする回分式あるいは連続式の乾燥等が挙げられ、乾燥機としては一般に箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライヤー等がある。特にスプレードライ乾燥はペースト作成時に易分散であるため好ましい。また、乾燥後の粉砕は、比表面積を大きくしたり、一次粒子の平均粒子径を小さくしたりするための操作ではなく、例えば箱型乾燥機、バンド乾燥機を用いた乾燥の場合のように顔料がランプ状等の塊となった際に顔料を解して粉末化するために行うものである。粉砕に用いる装置としては、例えば、乳鉢、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミルが挙げられる。なお、有機顔料組成物には、銅フタロシアニンを合成する際の残存した、または合成後の銅フタロシアニンの分解によって生成した遊離銅を含む場合がある。その場合は、塩酸や硫酸などの酸類や水で洗浄を行うことで遊離銅を除去することができる。
【0050】
[カラーフィルタ]
本発明のカラーフィルタは、上述の本発明の有機顔料組成物を含有する限り特に制限されない。カラーフィルタは、以下のとおり、顔料分散液や光硬化性組成物を作製し、フォトリソグラフィー法などにより光硬化性組成物の硬化着色皮膜を画素部に形成させることにより得られる。
【0051】
上記の光硬化性組成物は、本発明の有機顔料組成物と、分散剤と、有機溶剤とからなる顔料分散液に、更に光硬化性化合物を加え、必要に応じて熱可塑性樹脂を加えて、これらを混合することで調製することができる。光硬化性組成物の製造方法としては、有機顔料組成物と有機溶剤と分散剤とを混合し均一となる様に攪拌分散させた顔料分散液を調製してから、そこに、光硬化性化合物と、必要に応じて熱可塑性樹脂や光重合開始剤等を加えて光硬化性組成物とする方法が一般的である。上記の分散剤、光硬化性化合物、有機溶剤、熱可塑性樹脂は、一般的にカラーフィルタ作製で使用可能なもの用いることができる。
【0052】
本発明にかかる組成物の分散方法で代表的な方法としては、フォトリソグラフィー法であり、これは、上記の光硬化性組成物を、カラーフィルタ用の透明基板のブラックマトリックスを設けた側の面に塗布、加熱乾燥(プリベーク)した後、フォトマスクを介して紫外線を照射することでパターン露光を行って、画素部に対応する箇所の光硬化性化合物を硬化させた後、未露光部分を現像液で現像し、非画素部を除去して画素部を透明基板に固着させる方法である。この方法では、光硬化性組成物の硬化着色皮膜からなる画素部が透明基板上に形成される。赤色、緑色、青色の色ごとに、後記する光硬化性組成物を調製して、前記した操作を繰り返すことにより、所定の位置に赤色、緑色、青色の着色画素部を有するカラーフィルタを製造することができる。
【0053】
光硬化性組成物をガラス等の透明基板上に塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット法等が挙げられる。透明基板に塗布した光硬化性組成物の塗膜の乾燥条件は、各成分の種類、配合割合等によっても異なるが、通常、50~150℃で、1~15分間程度である。また、光硬化性組成物の光硬化に用いる光としては、200~500nmの波長範囲の紫外線、あるいは可視光を使用するのが好ましい。この波長範囲の光を発する各種光源が使用できる現像方法としては、例えば、液盛り法、ディッピング法、スプレー法等が挙げられる。光硬化性組成物の露光、現像の後に、必要な色の画素部が形成された透明基板は水洗いし乾燥させる。こうして得られたカラーフィルタは、ホットプレート、オーブン等の加熱装置により、90~280℃で、所定時間加熱処理(ポストベーク)することによって、着色塗膜中の揮発性成分を除去すると同時に、光硬化性組成物の硬化着色皮膜中に残存する未反応の光硬化性化合物が熱硬化し、カラーフィルタが完成する。
【実施例0054】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本実施例における[%]及び[部]は特段の指定がない限り「重量%」及び「重量部」を表すものとする。
【0055】
実施例1
<顔料組成物の作製>
ε型銅フタロシアニン顔料(DIC株式会社製 FASTOGEN BLUE AE-8)、銅フタロシアニンフタルイミドメチル誘導体(特許第6197964号公報の合成例1の方法で合成した)、ナフチルウレア誘導体(BOCサイエンス社製、N,N’’-ナフタレン-1,5-ジイルビス[N’-[3-[(2-エチルヘキシル)オキシ]プロピル)尿素]]、アクリル樹脂(ファインディックA-254)の含有量がそれぞれ86部、8部、1部、5部になるように配合を調整し、粉砕した塩化ナトリウム(日本食塩製造株式会社製)1000部、およびジエチレングリコール(三菱化学株式会社製)160部をニーダー中で、内容物の温度を85~90℃に保って8時間湿式摩砕(ソルベントソルトミリング)を完了した。
混練後65℃の水5000重量部に取り出し、1時間攪拌後、濾過し濾液の比電導度が原水の比電導度+20μS/cm以下となるまで水洗することによってε型銅フタロシアニン顔料組成物のウエットケーキを得た。得られたウエットケーキをビーカーに移し、65℃の水3500部を加え、攪拌分散してスラリーとした。引き続き、5部の銅フタロシアニンスルホン酸誘導体(DIC株式会社製)の水酸化ナトリウム水溶液を前記顔料スラリー中に添加し1時間攪拌後、塩酸を添加し2%塩酸水溶液にした。さらに1時間攪拌後、濾過及び水洗することによって、ε型銅フタロシアニン顔料組成物のウエットケーキを得た。得られたウエットケーキをビーカーに移し、65℃の水3500部及び水酸化ナトリウムを加え、塩基性にして2時間攪拌した。その後、塩酸を加え攪拌後、濾過、洗浄、乾燥、粉砕して青色の顔料組成物を得た。
【0056】
<顔料分散液の作製>
上記のようにして得られた青色の顔料組成物1.98gを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ダイセル化学工業株式会社製)9.79g、Disperbyk(登録商標)LPN-21116(ビックケミー株式会社製)3.13g、0.3-0.4mmφセプルビーズ(サンゴバン株式会社製)34.2gとともに、ペイントコンディショナー(東洋精機株式会社製)で4時間分散し、顔料分散液を得た。
【0057】
<評価:粘度>
R型粘度計を20℃に設定し、分散液を用いて初期粘度を測定した。また、25℃で7日間貯蔵した後、分散液を同様の条件で測定し経時粘度を測定した。
【0058】
<光硬化性組成物の作製>
この顔料分散液2.00gにルクシディア(登録商標)ZL-295 1.02g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート0.48gを加えて混合することで、カラーフィルタ用青色画素部を形成するための着色樹脂組成物を得た。
【0059】
<評価用ガラス基板の作製>
着色樹脂組成物をソーダガラス基板上にスピンコートし、90℃で3分乾燥した後に、230℃で1時間加熱した。これにより着色膜をソーダガラス基板上に有する、評価用ガラス基板を作製した。
【0060】
<評価:輝度>
230℃焼成前と230℃焼成後の評価用ガラス基板を用いて、C光源における色度y=0.110の輝度Yを、分光光度計U-3900(株式会社日立ハイテクサイエンス製)で測定した。焼成後の輝度Yから焼成前の輝度Yを差し引いて、焼成前後の輝度差ΔYを求めた。輝度差ΔYが0に近いほど輝度の低下が小さく、耐熱性に優れる。
【0061】
<評価:コントラスト>
230℃焼成前と230℃焼成後の評価用ガラス基板を2枚の偏光板の間に設置し、一方には光源を、更にその反対側には色彩輝度計を設置して輝度の測定を行った。偏光軸が平行になる時と垂直になる時との輝度(透過光強度)の比より算出した。焼成後のコントラスト値から焼成前のコントラスト値を差し引いて、焼成前後のコントラスト差Δを求めた。コントラスト差Δが0に近いほどコントラストの低下が小さく、耐熱性に優れる。
【0062】
<評価:ε化率>
Ε化率は、CuKα線により測定した粉末X線回折スペクトルにおけるブラッグ角2θ=6.8±0.1°に現れるα型銅フタロシアニンに特徴的なピークの強度とブラッグ角2θ=7.6±0.1°に現われるε型銅フタロシアニンに特徴的なピークの強度の割合をいい、ε型銅フタロシアニンに特徴的なピークの強度が大きいほど、逆にα型銅フタロシアニンに特徴的なピークの強度が小さいほどε化率が高いものとし、下記式1により算出される。
式1
【数1】
(ただしAは、ブラッグ角2θ=6.8°±0.1°におけるピークの絶対強度、Bはブラッグ角2θ=7.6°±0.1°におけるピークの絶対強度を表す。
ここでいう絶対強度とは、原点からピーク頂点までの高さとし、ブラッグ角2θ=6.8°±0.1°と、ブラッグ角2θ=7.6°±0.1°の各範囲内にある頂点をそれぞれの頂点とみなすものである。
【0063】
実施例2~9、比較例1,2
以下表1のように配合組成を変えたこと以外は同様にして、顔料組成物及び顔料分散液を作製して粘度を評価し、更に光硬化性組成物、及び評価用ガラス基板を作製し、輝度とコントラストの評価を行った。評価結果は、下記表1のとおりである。
【0064】
【表1】
【0065】
上記表1より、実施例1-6の本発明の顔料組成物は、ナフチルウレア誘導体を含まない比較例1に比べて、カラーフィルタとしたときの輝度およびコントラストが良く、顔料分散液の初期粘度と経時粘度も良いことが分かる。