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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115198
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】スラリー抜出用受け装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/02 20060101AFI20240819BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20240819BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240819BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C22B3/02
C22B3/22
C22B3/44 101B
C22B23/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020760
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣好
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA02
4K001CA05
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB16
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】有害ガスを安全に除害しながら、スラリー固形分によるポンプ設備内部の閉塞を防止し、効率的にスラリー抜出作業を行うことができるスラリー抜出用受け装置を提供する。
【解決手段】有害ガスを含む固体混合スラリーを反応槽から抜き出すためのスラリー抜出用受け装置50であって、内部にスラリーの固形分分離設備51を備える本体部52と、一端が反応槽の排出口に接続され、他端が本体部52の固形分分離設備51へ送られる位置に接続されるスラリー抜出用配管53(53A,53B)と、本体部52から有害ガスを処理する除害塔へと接続された有害ガス送気用配管54と、固形分分離設備51により、所定の大きさ以上の固形分が除かれたスラリーが排出されるスラリー排出口55と、本体部52の内部の圧力を微負圧に保つための大気導入口56を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害ガスを含む固体混合スラリーを反応槽から抜き出すためのスラリー抜出用受け装置であって、
内部にスラリーの固形分分離設備を備える本体部と、
一端が前記反応槽の排出口に接続され、他端が前記本体部の前記固形分分離設備へ送られる位置に接続されるスラリー抜出用配管と、
前記本体部から前記有害ガスを処理する除害塔へと接続された有害ガス送気用配管と、
前記固形分分離設備により、所定の大きさ以上の固形分が除かれたスラリーが排出されるスラリー排出口と、
前記本体部の内部の圧力を微負圧に保つための大気導入口
を備えることを特徴とする、スラリー抜出用受け装置。
【請求項2】
前記固形分分離設備は、かご型多孔板で形成されるストレーナーで構成されている、請求項1記載のスラリー抜出用受け装置。
【請求項3】
前記反応槽は多段に構成され、
前記スラリー抜出用配管は、複数の反応槽と接続されるように設けられていることを特徴する、請求項1記載のスラリー抜出用受け装置。
【請求項4】
前記本体部に設置される前記ストレーナー上部に、天板としての半割れ扉が備えられていることを特徴とする、請求項2に記載のスラリー抜出用受け装置。
【請求項5】
前記有害ガスは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法においてニッケル硫化物を生成させる硫化処理で用いられる硫化水素ガスであることを特徴とする、請求項1記載のスラリー抜出用受け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害ガスを含む固体混合スラリーを反応槽から安全にかつ効率的に抜き出すためのスラリー抜出用受け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching)法が用いられている。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50質量%程度まで向上させたニッケルコバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
【0003】
高圧酸浸出法は、鉱石のスラリーに硫酸を添加し、220~280℃の温度条件で撹拌処理して、浸出スラリーを形成する浸出工程、浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣を得る固液分離工程、浸出液の酸化を抑制しながら炭酸カルシウムを添加し、3価の鉄を含む中和澱物スラリーとニッケル回収用母液を形成する中和工程、及び、母液に硫化水素ガスを吹きこみ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物と貧液を形成する硫化工程、などを有する。
【0004】
硫化工程においては、多段に構成された各反応槽(硫化反応槽)の気相部に吹き込んだ硫化水素ガスとニッケル回収用母液との気液接触による連続硫化反応によって、ニッケルを含む硫化物(ニッケル硫化物)を析出させる。析出したニッケル硫化物を含むスラリーが固液分離処理の前に曝気されることにより、溶液中に溶存した硫化水素ガスが回収され、リサイクルガスとして硫化反応に再利用される。(例えば、特許文献1参照)
【0005】
硫化工程で用いている硫化水素ガスは非常に毒性が強く、高濃度になると致命的な急性中毒を引き起こす危険がある有害ガスである。そのため例えば、硫化反応槽からガスが漏れたり、補修等で槽内へ入槽する必要が有る場合は、水酸化ナトリウム溶液による除害処理が可能な除害設備へ、槽内部のガスを吸引させ完全に除害する必要がある。
【0006】
一方、反応槽内部には生成したニッケル硫化物および壁面等から剥離したスケール片を含むスラリーが残存している。硫化水素ガスは水に可溶なため、スラリー液中には溶存ガスが多量に含まれており、除害中に気相中の硫化水素分圧低下に伴い徐々に揮発する。そのため、反応槽内部の硫化水素ガス濃度を効率的に低下させるには、内部の残存スラリーを抜き出す必要がある。
【0007】
スラリーを抜き出す際、反応槽の排出口からそのまま抜き出すと、大気中に有害ガス(硫化水素ガス)を放出してしまうため、通常は硫化反応槽の排出口にフレキシブルホースを接続し、ホース出口を揚液ポンプ地下ピットに繋げ、ピットをナイロン製のシートで覆い、除害設備に接続されたダクトホースを設置して発生する有害ガスを除害しながら揚液ポンプを用いてスラリーを抜き出している。抜き出したスラリーは揚液ポンプ等を用いて送液し処理している。
【0008】
しかしながら、スラリー液中にはニッケル硫化物粒子のほかに大きなスケール片も含まれているため、抜出中にスケール片が揚液ポンプの吸引配管側やポンプ内部に詰まり、ポンプ揚液能力が低下してしまい、さらにポンプ内部等が完全に閉塞しポンプが揚液できなった際は、一度抜出作業を停止して閉塞したスケール片等の除去作業をする必要があった。また、ポンプの揚液ができなくなった際には、処理しきれなくなったスラリーが排出口から溢れて、大気中に硫化水素ガスが排気される危険性があった。これらのリスクを最小化するため、複数の反応槽から同時にスラリーを抜き出して作業を行うことができなかった。また、上記閉塞解消作業の頻発も相まって抜出作業には多大な時間を要していた。
【0009】
したがって、固体混合スラリーを抜出す際に、粗大粒子やスケール片といった固形分を除去しつつ、スラリー液中に含まれる有害ガスを除害し、揚液ポンプを閉塞させずに効率的且つ安全にスラリー抜出作業を行う方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-160526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、有害ガスを安全に除害しながら、スラリー固形分によるポンプ設備内部の閉塞を防止し、効率的にスラリー抜出作業を行うことができるスラリー抜出用受け装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、有害ガスを含む固体混合スラリーをタンクから抜き出す際に、装置の天板に複数のスラリー抜出用配管と除害塔に接続したダクトホース配管とを備え、装置内部にスラリーに含まれる固形分を分離する固形分分離設備と除害塔へ接続された配管と装置内部の圧力を微負圧に保つための内部側壁に大気導入口を備えた、スラリー抜出用受け装置を作成し、この装置を用いて安全に且つ効率的に抜き出し作業を実施することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の一態様は、有害ガスを含む固体混合スラリーを反応槽から抜き出すためのスラリー抜出用受け装置であって、内部にスラリーの固形分分離設備を備える本体部と、一端が反応槽の排出口に接続され、他端が本体部の固形分分離設備へ送られる位置に接続されるスラリー抜出用配管と、本体部から有害ガスを処理する除害塔へと接続された有害ガス送気用配管と、固形分分離設備により、所定の大きさ以上の固形分が除かれたスラリーが排出されるスラリー排出口と、本体部の内部の圧力を微負圧に保つための大気導入口を備える。
【0014】
本発明の一態様によれば、スラリー抜き出し時に生じる有害ガスは有害ガス送気用配管を通じて除害塔へと送られ、所定の大きさ以上のスラリーやスケール片はスラリー抜出用受け装置に設けられた固形分分離設備により分離することができるため、有害ガスを安全に除害しながら、スラリー固形分によるポンプ設備内部の閉塞を防止し、効率的にスラリー抜出作業を行うことができる。
【0015】
このとき、本発明の一態様は、固形分分離設備は、かご型多孔板で形成されるストレーナーで構成されているとしてもよい。
【0016】
かご型多孔板で形成されるストレーナーとすることで、スラリー抜出用受け装置の設置と取出しが容易に行え、利便性が向上する。
【0017】
また、本発明の一態様では、反応槽は多段に構成され、スラリー抜出用配管は、複数の反応槽と接続されるように設けられているとしてもよい。
【0018】
このようにすることで、複数の反応槽のスラリー抜き出し作業を並行して行うことができ、効率的にスラリー抜出作業を行うことができる。
【0019】
また、本発明の一態様では、本体部に設置されるストレーナー上部に、天板としての半割れ扉が備えられているとしてもよい。
【0020】
このようにすることで、本体部からストレーナーのみを容易に抜き出すことができる。
【0021】
また、本発明の一態様では、有害ガスは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法においてニッケル硫化物を生成させる硫化処理で用いられる硫化水素ガスであるとしてもよい。
【0022】
後述するように、本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における硫化工程で生成する硫化水素ガスを適切に除害しながらスラリー抜き出し作業を行うのに適したスラリー抜出用受け装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、有害ガスを含む固体混合スラリーをタンクから抜き出す際に、スラリー液中の固形分を分離しながら、同時に、発生する有害ガスを除害することができ、抜き出したスラリーを揚液ポンプで排出する際の閉塞を防止しつつ大気中への有害ガスの排出リスクを低減しながら効率的にスラリーを抜き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法のプロセスを示す工程図である。
図2】本発明の一実施形態に関する硫化工程における各装置の構成を説明するための概略図である。
図3】(A)は、本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置を示した正面図であり、(B)は、本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置を示した背面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置の内部を示す一部透視図である。
図5】本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置と反応槽との接続形態を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るスラリー抜出用受け装置について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
2.硫化工程
3.スラリー抜出用受け装置
【0026】
<1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
先ず、スラリー抜出用受け装置のより具体的な説明に先立ち、本発明に係るスラリー抜出用受け装置が適用されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について簡単に説明する。なお、本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置は、一例として、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法におけるスラリーの抜き出しを対象としているが、必ずしもこの場合のみに限定されるわけではなく、これら以外の工業プロセスにおいても、タンク内のスラリー状物を抜き出す作業の際に、有害ガスが同時に発生するような場合に適用することも可能である。図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。
【0027】
スラリー調製工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を用いて、数種類のニッケル酸化鉱石を所定のNi品位、不純物品位となるように混合し、それらを水と混合してスラリー化し、篩にかけて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを使用する。
【0028】
浸出工程S2では、スラリー調製工程S1で得られたニッケル酸化鉱石のスラリーに対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を混合等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば耐熱耐圧容器(オートクレーブ)を用いて、220~280℃の高い温度条件下で3~5MPaに加圧することによって鉱石からニッケル、コバルト等を浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
【0029】
浸出工程S2では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が含まれていて、そのpHは非常に低い。
【0030】
このことから、予備中和工程S3では、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出工程S2にて得られた浸出スラリーのpHを高めて所定の範囲に調整する。pHの調整方法としては、例えば石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲のpHに調整する。
【0031】
固液分離工程S4では、予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
【0032】
中和工程S5では、固液分離工程S4にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。浸出液のpHは、石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することで調整される。
【0033】
脱亜鉛工程S6では、中和工程S5から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。脱亜鉛工程S6では、微加圧された反応槽にて粗硫酸ニッケル溶液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで含まれる亜鉛を硫化し、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを生成する。
【0034】
その後、硫化工程S7では、脱亜鉛工程S6後のニッケル回収用母液である脱亜鉛終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。本発明に係るスラリー抜出用受け装置は、主にこの硫化工程S7において適用される。詳細については後述する。
【0035】
最終中和工程S8は、上述した固液分離工程S4から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、硫化工程S7から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液(貧液)の中和を行う。浸出残渣やろ液は、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
【0036】
<2.硫化工程>
これまで、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のフローを一通り説明してきたが、本発明に係るスラリー抜出用受け装置は、主に、硫化工程S7において反応槽の壁面等から剥離したスケール片や大粒径の硫化物などの残存物を反応槽から抜き出す際に用いられる。ここでは、硫化工程S7における具体的なプロセスについて説明する。
【0037】
図2は、本発明の一実施形態に関する硫化工程における各装置の構成を説明するための概略図である。なお、図2では説明のために第1反応槽11を大きく表示しているが、実際の各設備の大きさを反映しているわけではない。また、図2は、4段の反応槽(第1反応槽11~第4反応槽14)を記載しているが、この段数に限定されるわけではなく、1段のみであってもよいし、2段以上の複数の反応槽から構成されていてもよい。
【0038】
硫化工程S7における硫化処理では、主に硫化水素ガス(HS)を硫化剤として用い、硫化反応によって硫化物を生成させるための必要理論当量よりも多い量(過剰量)の硫化水素ガスを、硫化反応始液であるニッケルを含む硫酸酸性溶液(反応始液)に添加する。
【0039】
一方で、硫化工程S7における硫化処理では、過剰量の硫化水素ガスを添加しているため、硫化反応に関与しなかった未反応のガスが反応槽内に残存するようになる。そのため、硫化工程S7では、添加した硫化水素ガスのうちの未反応のガスを除害ファン22等を介して除害塔21(ガス洗浄塔)へと送って回収し、回収した硫化水素ガス(HS)に水酸化ナトリウム(NaOH)を添加して水硫化ナトリウム(NaHS)溶液を生成させる。そして、得られた水硫化ナトリウム溶液を硫化剤として硫化水素ガスと共に各反応槽の硫酸酸性溶液に添加している。
【0040】
硫化工程S7では、反応式1に示すような硫化水素ガスによる硫化反応に加えて、反応式2で示されるような水硫化ナトリウムによる硫化反応が生じている。なお、式中のMはNiやCoを表す。したがって、硫化工程S7では、ニッケルを含む金属の硫酸溶液からニッケルコバルト混合硫化物を得ることができる。
MSO+HS→MS+HSO ・・・(反応式1)
2NaHS+MSO→NaSO+MS+HS ・・・(反応式2)
【0041】
一例として、図2に示すように、第1反応槽11~第4反応槽14の4段で構成された反応槽において、最も上流側の第1反応槽11に、硫化反応始液(ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける脱亜鉛処理後の浄液後液)が装入されると、硫化剤である硫化水素ガスが吹き込み添加されて硫化反応が生じる。硫化反応により生成したニッケル硫化物を含むスラリーは、第1反応槽11に続く第2反応槽12に移送され、第2反応槽12においても同様に硫化水素ガスが吹き込み添加されてニッケル硫化物が生成する硫化反応が生じる。そして同様に、ニッケル硫化物を含むスラリーが第3反応槽13、第4反応槽14へと順次移送され、各反応槽にて硫化反応が生じる。これにより、ニッケル硫化物を含むスラリーが徐々に濃縮され、固液分離処理を経てニッケル硫化物が回収される。
【0042】
なお、硫化剤である硫化水素ガスについては、2基以上の多段に構成された反応槽の全てに添加してもよいが、第1反応槽11のみに添加するようにしてもよい。例えば、硫化水素ガスを第1反応槽11のみに添加することで、最もニッケル濃度が高い第1反応槽11における硫化反応速度を最大化させて、より効果的にニッケル硫化物の生成させることができ、ニッケルの収率を向上させることができる。
【0043】
また、第1反応槽11からは、硫化反応に関与しなかった未反応の硫化水素ガスが回収されて除害塔21(ガス洗浄塔)へと移送される。除害塔21では、回収した硫化水素ガスに水酸化ナトリウム溶液を添加して水硫化ナトリウムを生成させる除害処理が行われる。除害塔21での除害処理により無害化されたガス成分は大気へ放出され、また除害処理により生成した水硫化ナトリウム溶液は、送液ポンプ23等により硫化処理が行われる反応槽に繰り返され添加される。これにより、反応槽では、硫化水素ガスと共に水硫化ナトリウム溶液が添加されて、硫化反応が生じる。
【0044】
上述したように、硫化工程S7における硫化反応に伴って、各反応槽の内部には大粒径のニッケル硫化物や槽内の壁面等から剥離したスケール片を含むスラリーが残存している。硫化水素ガスは水に可溶なため、スラリー液中には溶存ガスが多量に含まれており、除害中に気相中の硫化水素分圧低下に伴い徐々に揮発する。そのため、反応槽内部の硫化水素ガス濃度を効率的に低下させるには、内部の残存スラリーを抜き出す必要がある。本発明は、このような場合に、安全に且つ効率的にスラリー抜出作業を行うために用いられる。
【0045】
<3.スラリー抜出用受け装置>
本発明に係るスラリー抜出用受け装置について説明する。図3(A)は、本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置を示した正面図であり、図3(B)は、本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置を示した背面図である。また、図4は、本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置の内部を示す一部透視図であり、図5は、本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置と反応槽との接続形態を説明するための概略図である。
【0046】
本発明の一態様は、図3(A)、(B)に示すように、有害ガスを含む固体混合スラリーを反応槽から抜き出すためのスラリー抜出用受け装置50であって、内部にスラリーの固形分分離設備51を備える本体部52と、一端が反応槽の排出口に接続され、他端が本体部52の固形分分離設備51へ送られる位置に接続されるスラリー抜出用配管53(53A,53B)と、本体部52から有害ガスを処理する除害塔へと接続された有害ガス送気用配管54と、固形分分離設備51により、所定の大きさ以上の固形分が除かれたスラリーが排出されるスラリー排出口55と、本体部52の内部の圧力を微負圧に保つための大気導入口56を備える。
【0047】
本体部52は、主にスラリー抜出用受け装置50のフレーム部分を形成し、内部に固形分分離設備51が備えられている。固形分分離設備51は、反応槽(タンク等)から抜き出したスラリーからスケール片や大粒径の粒子等を分離・除去するための設備であり、所定の目開きを有する網目状部材などから形成される。
【0048】
固形分分離設備51は、かご型多孔板で形成されるストレーナーで構成されることが好ましい。多孔板の孔径は特に限定はされないが、孔径が小さすぎると圧損となりスラリーの抜き出し速度が遅くなる可能性があるため、粒径5mm以上の粒子を取り除けるものであれば良い。また、このようなストレーナーは、一例として、本体部52の半面に収まる大きさとする。すなわち、図4に示すように、外枠としての本体部52の内部に、かご型多孔板で形成されるストレーナーを収納して、固形分分離設備51として用いることができる。
【0049】
また、本体部52に設置されるストレーナー上部には、天板としての半割れ扉61が備えられていることが好ましい。例えば、図4に示すように、スラリー抜出用受け装置50の天板に半割れ扉61を設け、この天板中の固定ボルトを半面のみを外すことで、半面のみ開放することが可能となる。このようにすることで、ストレーナー(固形分分離設備51)の本体部52への着脱が容易となり、交換することが可能となる。また、一例として、ストレーナーにはフォークリフトの爪を装入可能な取手を設けることで、固形分が溜まって固形分分離設備51全体の重量が増えた場合でもフォークリフトを用いて簡便に着脱することが可能となる。
【0050】
スラリー抜出用配管53は、一端が反応槽10の排出口15に接続され、他端が本体部52の固形分分離設備51へ送られる位置に接続される。図5に示すように、反応槽10が多段に構成されている場合、スラリー抜出用配管53は、複数の反応槽11~14と接続されるように設けられていてもよい。この場合、スラリー抜出用配管53はそれぞれの反応槽ごとに個別に本体部52と接続されていてもよいし、複数の反応槽から伸びた配管をスラリー抜出用受け装置50の手前で合流させて本体部52と接続し、開閉弁などを用いて経路を選択するようにしてもよい。
【0051】
有害ガス送気用配管54は、本体部52から有害ガスを処理する除害塔へと接続されている。有害ガス送気用配管54は、例えば、着脱可能なダクトホース配管が用いられる。スラリー抜出用受け装置50では、スラリーの抜き出し作業で生じた有害ガスは、本体部52の内部から除害ファン22等を介して除害塔21へと送られ除害されるため、作業後は安全に天板を開放してストレーナーを交換することが可能となる。
【0052】
一方、除害塔へ吸引する際、スラリー抜出用受け装置50が密閉状態となると本体部52内部の圧力が過剰に負圧となり、装置が爆縮するリスクがある。そのため、本発明では、本体部52の内部の圧力を微負圧に保つための大気導入口56を設けている。なお、本発明における微負圧は、およそ-2.0kPaG以上-0.5kPaG以下の範囲であり、通常は、約-1.0kPaGとなるように設定される。
【0053】
本発明の一実施形態に係るスラリー抜出用受け装置50は、図5に示すように、反応槽10と揚液ポンプ60との間に設置される。上述したように、反応槽10とスラリー抜出用受け装置50との間は、反応槽10の排出口15に連結されたスラリー抜出用配管53を介して接続され、スラリー抜出用受け装置50と揚液ポンプ60との間は、スラリー抜出用受け装置50のスラリー排出口55に連結された配管を介して接続される。このようにすることで、反応槽10から抜き出されたスラリー液中の粗大粒子やスケール片等は、スラリー抜出用受け装置50の固形分分離設備51(ストレーナー)により捕集されるため、揚液ポンプ60がスケール片によって閉塞することを防止できる。また、スラリー抜き出しの際に発生する有害ガス(硫化水素ガス)は、スラリー抜出用受け装置50に設けられた有害ガス送気用配管54から、除害ファン22等を介して除害塔へと送られるため、有害ガスの漏洩も防止することができる。
【0054】
その他の構成として、本体部52の天板には、開放せずに内部の状態を確認できるよう、透明アクリル板が取り付けられていることが好ましい。またスラリー抜出用受け装置50にはレベルゲージ62を取り付けることが好ましく、内部レベルを目視で確認することでスラリー排出口55の閉塞有無を監視することができる。
【0055】
スラリー排出口55はストレーナー設置側と反対側に2か所設けることもでき、このようにすると、スラリーによりスラリー排出口55が閉塞して液が溢れるリスクを低減することができる。また、本体部52の底部にはフォークリフト運搬用の穴63を設けることができ、このようにすれば、必要時にスラリー抜出用受け装置50を運搬、設置することが容易になる。ストレーナーが固形分で埋まったことを確認した場合は、一度抜き出し作業を停止し、上述したようにストレーナー側の天板ボルトを外して半面だけ開放することで、装置からストレーナーのみを容易に抜き出すことが可能である。
【0056】
上述したように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であるHPAL法では、ニッケル酸化鉱石に対して高温高圧下で硫酸を用いてニッケルを浸出し、得られた浸出液からニッケル硫化物を生成させる硫化工程を有する。硫化工程における硫化処理では、例えば純度95%~99%程度の硫化水素ガスを硫化剤として使用している。生成したニッケル硫化物は固液を分離する工程に送液され、その一方で、硫化反応槽内部の壁面にはニッケル硫化物がスケールとして生成し、一部は剥離して反応槽内部に堆積する。このため、硫化反応槽は、メンテナンスのために約半年に1度、内部を開放する作業を実施する必要がある。硫化反応槽内部のスラリーを抜き出す際には、スラリー液中に上述したスケール片が含まれており、抜出配管や揚液ポンプ内部の閉塞の原因となる。本発明に係るスラリー抜出用受け装置50を適用すれば、このような閉塞を防止することができる。
【0057】
実際に、硫化水素ガスを含む固体混合スラリーの抜き出し作業は、安全に係わる有害ガスの大気放出リスク、および、固形分による閉塞頻度が多いことによる作業時間と機会損失の増大のため改善が求められていた作業であり、本発明を実現することで、安全に且つ効率的に作業を完了することが可能となった。
【実施例0058】
以下、本発明について、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
(実施例)
高圧硫酸浸出法内の硫化工程で用いている硫化反応槽のスラリー抜出作業時に、本発明の一態様に係るスラリー抜出用受け装置を適用した。硫化反応槽と揚液ポンプの間にスラリー抜出用受け装置を設置し、スラリー抜出用配管を硫化反応槽の排出口に接続するとともに、スラリー抜出用受け装置のスラリー排出口は揚液ポンプに接続し、硫化反応槽内に残留するスラリーを抜き出した(図5参照)。スラリー抜出時に発生する硫化水素ガスについては、スラリー抜出用受け装置の有害ガス送気用配管から除害ファンを介して除害塔へと送気した。
【0060】
(比較例)
本発明に係るスラリー抜出用受け装置を用いない従来の方法でスラリー抜出作業を行った。すなわち、硫化反応槽の排出口にフレキシブルホースを接続し、ホース出口を揚液ポンプ地下ピットに繋げ、ピットをナイロン製のシートで覆い、除害設備に接続されたダクトホースを設置して発生する有害ガスを除害しながら揚液ポンプを用いてスラリーを抜き出した。
【0061】
表1は、実施例と比較例の場合で、スラリーの抜き出し作業に要した作業時間と、作業中の硫化水素ガス漏れの検知の有無を示したものである。いずれの場合も作業場周辺に設置された硫化水素ガス濃度計による検知はなく、有害ガスの漏れがないように作業を行ったが、比較例の場合は35時間以上の時間を要した。これに対して、本発明を適用した実施例では、14時間以内に作業を終わらせることができ、作業時間を大幅に短縮することができた。
【0062】
【表1】
【0063】
以上より、本発明の一態様に係るスラリー抜出用受け装置を適用することにより、有害ガスを安全に除害しながら、スラリー固形分によるポンプ設備内部の閉塞を防止し、効率的にスラリー抜出作業を行えることが実証された。
【0064】
なお、上記のように本発明の一実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0065】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、スラリー抜出用受け装置の構成も本発明の一実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 反応槽、11 第1反応槽、12 第2反応槽、13 第3反応槽、14 第4反応槽、15 (反応槽の)排出口、21 除害塔、22 除害ファン、23 送液ポンプ、50 スラリー抜出用受け装置、51 固形分分離設備、52 本体部、53 スラリー抜出用配管、54 有害ガス送気用配管、55 スラリー排出口、56 大気導入口、60 揚液ポンプ、61 半割れ扉、62 レベルゲージ、63 フォークリフト運搬用の穴
図1
図2
図3
図4
図5