(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115237
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】光路長差計測装置および振動計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 9/02002 20220101AFI20240819BHJP
G01B 9/02015 20220101ALI20240819BHJP
G01H 9/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G01B9/02002
G01B9/02015
G01H9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020836
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 賢宜
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 玲
【テーマコード(参考)】
2F064
2G064
【Fターム(参考)】
2F064AA01
2F064FF08
2F064GG12
2F064GG21
2F064GG41
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BC06
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】簡易な構成かつ小型の光路長差計測装置を提供する。
【解決手段】距離計測装置は、波長が互いに異なる複数の光が入力され、当該複数の光を測定光と参照光とに分岐する第1光分岐部と、測定光を被測定物に対して出力し、測定光が被測定物で反射された反射光が入力される光入出力部と、参照光を第1参照光と第2参照光とに分岐する第2分岐部と、反射光を第1反射光と第2反射光とに分岐する第3分岐部と、第1参照光と第1反射光とを干渉させ第1干渉光を出力する第1干渉部と、第2参照光および第2反射光のいずれか一方に遅延を与える遅延部と、第2参照光と第2反射光とを干渉させ第2干渉光を出力する第2干渉部と、第1干渉光を分光する第1分光部と、第2干渉光を分光する第2分光部と、を備え、第1干渉光の第1位相情報または第2干渉光の第2位相情報に基づいて光入出力部と被測定物との光路長差を計測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が互いに異なる複数の光が入力され、当該複数の光を測定光と参照光とに分岐する第1光分岐部と、
前記測定光を被測定物に対して出力するとともに、前記測定光が被測定物で反射された反射光が入力される光入出力部と、
前記参照光を第1参照光と第2参照光とに分岐する第2分岐部と、
前記反射光を第1反射光と第2反射光とに分岐する第3分岐部と、
前記第1参照光と前記第1反射光とを干渉させ、干渉成分を含む第1干渉光を出力する第1干渉部と、
前記第2参照光および前記第2反射光のいずれか一方に60度以上120度以下の位相差だけ遅延を与える遅延部と、
前記遅延部によっていずれか一方が遅延を与えられた前記第2参照光と前記第2反射光とを干渉させ、干渉成分を含む第2干渉光を出力する第2干渉部と、
前記第1干渉光を前記複数の光の波長ごとに分光する第1分光部と、
前記第2干渉光を前記複数の光の波長ごとに分光する第2分光部と、
を備え、
分光された前記第1干渉光の第1位相情報または分光された前記第2干渉光の第2位相情報に基づいて、前記光入出力部と前記被測定物との光路長差を計測する
光路長差計測装置。
【請求項2】
前記複数の光を出力する多波長光源を備え、
前記多波長光源は、波長が互いに異なる光を出力する複数の発光素子を有し、
前記発光素子の少なくとも2つが集積されている
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項3】
前記光路長差を計測する演算処理を行う処理部を備える
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項4】
前記複数の光の波長から求められる合成波長と、前記複数の光に関する前記第1位相情報および前記第2位相情報から求められる合成位相情報とに基づいて、前記光路長差を計測する
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項5】
前記第1位相情報および前記第2位相情報は、前記第1光分岐部、前記第2分岐部、前記第3分岐部、前記第1干渉部、および前記第2干渉部のそれぞれにおける波長ごとの分岐比または合波比に関する比情報に基づいて補正され、補正された前記第1位相情報および前記第2位相情報に基づいて、前記光路長差を計測する
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項6】
前記比情報を記憶する記憶部を備える
請求項5に記載の光路長差計測装置。
【請求項7】
前記第1位相情報および前記第2位相情報は、前記遅延部における波長ごとの遅延情報に基づいて補正され、補正された前記第1位相情報および前記第2位相情報に基づいて、前記光路長差を計測する
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項8】
前記遅延情報を記憶する記憶部を備える
請求項7に記載の光路長差計測装置。
【請求項9】
前記遅延情報は、前記反射光および前記参照光の少なくとも一方の光路長を既知の量だけ変化させた場合の前記第1位相情報および前記第2位相情報の変化に基づいて決定される
請求項7に記載の光路長差計測装置。
【請求項10】
前記複数の光の波長をモニタする波長モニタ部を備え、
前記波長モニタ部は、光の周波数的に周期的な透過特性を有するフィルタを有しており、前記フィルタの周期は、1MHzよりも大きく5GHzよりも小さい
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項11】
前記波長モニタ部による波長のモニタ結果に基づいて前記複数の光の波長を制御する制御部を備える
請求項10に記載の光路長差計測装置。
【請求項12】
異なる時間に取得された複数の前記第1位相情報および複数の前記第2位相情報を平均化処理し、平均化処理によって求められた情報に基づいて前記光路長差を計測する
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項13】
前記反射光の強度をモニタする強度モニタ部と、前記強度モニタ部によるモニタ結果に基づいて前記反射光の強度を調整する光強度調整部とを備える
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項14】
前記光路長差計測装置は、前記光路長差に基づいて前記被測定物までの距離を計測する測距装置として構成されている
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項15】
波長が互いに異なる複数の光が入力され、当該複数の光を測定光と参照光とに分岐する第1光分岐部と、
前記測定光を被測定物に対して出力するとともに、前記測定光が被測定物で反射された反射光が入力される入出力部と、
前記参照光を第1参照光と第2参照光とに分岐する第2分岐部と、
前記反射光を第1反射光と第2反射光とに分岐する第3分岐部と、
前記第1参照光と前記第1反射光とを干渉させ、干渉成分を含む第1干渉光を出力する第1干渉部と、
前記第2参照光および前記第2反射光のいずれか一方に60度以上120度以下の位相差だけ遅延を与える遅延部と、
前記遅延部によっていずれか一方が遅延を与えられた前記第2参照光と前記第2反射光とを干渉させ、干渉成分を含む第2干渉光を出力する第2干渉部と、
前記第1干渉光を前記複数の光の波長ごとに分光する第1分光部と、
前記第2干渉光を前記複数の光の波長ごとに分光する第2分光部と、
を備え、
分光された前記第1干渉光の第1位相情報または分光された前記第2干渉光の第2位相情報に基づいて、前記被測定物の振動の振幅および周波数を計測する
振動計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光路長差計測装置および振動計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の干渉を用いて光路長差を計測する光路長差計測装置、および計測した光路長差により被測定物までの距離を計測する距離計測装置が知られている。距離計測装置において、位相分離干渉回路を用いた技術が開示されている(特許文献1)。このような距離計測装置によれば、たとえば被測定物の位置および移動方向が検出可能とされている。また、距離計測装置において計測できる距離の範囲を広くする技術として、多波長光源を用いる技術が開示されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6204272号公報
【特許文献2】特許第5580718号公報
【特許文献3】特開2014-174120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、位相分離干渉回路を、多波長光源を用いる光路長差計測装置に適用する場合、波長ごとに位相分離干渉回路を設けると、複数の位相分離干渉回路が必要になる。そのため、光学系が複雑になったり、装置が大型化したりするなどの問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成かつ小型の光路長差計測装置および振動計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、波長が互いに異なる複数の光が入力され、当該複数の光を測定光と参照光とに分岐する第1光分岐部と、前記測定光を被測定物に対して出力するとともに、前記測定光が被測定物で反射された反射光が入力される光入出力部と、前記参照光を第1参照光と第2参照光とに分岐する第2分岐部と、前記反射光を第1反射光と第2反射光とに分岐する第3分岐部と、前記第1参照光と前記第1反射光とを干渉させ、干渉成分を含む第1干渉光を出力する第1干渉部と、前記第2参照光および前記第2反射光のいずれか一方に60度以上120度以下の位相差だけ遅延を与える遅延部と、前記遅延部によっていずれか一方が遅延を与えられた前記第2参照光と前記第2反射光とを干渉させ、干渉成分を含む第2干渉光を出力する第2干渉部と、前記第1干渉光を前記複数の光の波長ごとに分光する第1分光部と、前記第2干渉光を前記複数の光の波長ごとに分光する第2分光部と、を備え、分光された前記第1干渉光の第1位相情報または分光された前記第2干渉光の第2位相情報に基づいて、前記光入出力部と前記被測定物との光路長差を計測する光路長差計測装置である。
【0007】
前記光路長差計測装置は、前記複数の光を出力する多波長光源を備え、前記多波長光源は、波長が互いに異なる光を出力する複数の発光素子を有し、前記発光素子の少なくとも2つが集積されていてもよい。
【0008】
前記光路長差計測装置は、前記光路長差を計測する演算処理を行う処理部を備えてもよい。
【0009】
前記光路長差計測装置は、前記複数の光の波長から求められる合成波長と、前記複数の光に関する前記第1位相情報および前記第2位相情報から求められる合成位相情報とに基づいて、前記光路長差を計測してもよい。
【0010】
前記第1位相情報および前記第2位相情報は、前記第1光分岐部、前記第2分岐部、前記第3分岐部、前記第1干渉部、および前記第2干渉部のそれぞれにおける波長ごとの分岐比または合波比に関する比情報に基づいて補正され、前記光路長差計測装置は、補正された前記第1位相情報および前記第2位相情報に基づいて、前記光路長差を計測してもよい。
【0011】
前記光路長差計測装置は、前記比情報を記憶する記憶部を備えてもよい。
【0012】
前記第1位相情報および前記第2位相情報は、前記遅延部における波長ごとの遅延情報に基づいて補正され、前記光路長差計測装置は、補正された前記第1位相情報および前記第2位相情報に基づいて、前記光路長差を計測してもよい。
【0013】
前記光路長差計測装置は、前記遅延情報を記憶する記憶部を備えてもよい。
【0014】
前記遅延情報は、前記反射光および前記参照光の少なくとも一方の光路長を既知の量だけ変化させた場合の前記第1位相情報および前記第2位相情報の変化に基づいて決定されてもよい。
【0015】
前記光路長差計測装置は、前記複数の光の波長をモニタする波長モニタ部を備え、前記波長モニタ部は、光の周波数的に周期的な透過特性を有するフィルタを有しており、前記フィルタの周期は、1MHzよりも大きく5GHzよりも小さくてもよい。
【0016】
前記光路長差計測装置は、前記波長モニタ部による波長のモニタ結果に基づいて前記複数の光の波長を制御する制御部を備えてもよい。
【0017】
前記光路長差計測装置は、異なる時間に取得された複数の前記第1位相情報および複数の前記第2位相情報を平均化処理し、平均化処理によって求められた情報に基づいて前記光路長差を計測してもよい。
【0018】
前記光路長差計測装置は、前記反射光の強度をモニタする強度モニタ部と、前記強度モニタ部によるモニタ結果に基づいて前記反射光の強度を調整する光強度調整部とを備えてもよい。
【0019】
前記光路長差計測装置は、前記光路長差に基づいて前記被測定物までの距離を計測する測距装置として構成されてもよい。
【0020】
本発明の一態様は、波長が互いに異なる複数の光が入力され、当該複数の光を測定光と参照光とに分岐する第1光分岐部と、前記測定光を被測定物に対して出力するとともに、前記測定光が被測定物で反射された反射光が入力される入出力部と、前記参照光を第1参照光と第2参照光とに分岐する第2分岐部と、前記反射光を第1反射光と第2反射光とに分岐する第3分岐部と、前記第1参照光と前記第1反射光とを干渉させ、干渉成分を含む第1干渉光を出力する第1干渉部と、前記第2参照光および前記第2反射光のいずれか一方に60度以上120度以下の位相差だけ遅延を与える遅延部と、前記遅延部によっていずれか一方が遅延を与えられた前記第2参照光と前記第2反射光とを干渉させ、干渉成分を含む第2干渉光を出力する第2干渉部と、前記第1干渉光を前記複数の光の波長ごとに分光する第1分光部と、前記第2干渉光を前記複数の光の波長ごとに分光する第2分光部と、を備え、分光された前記第1干渉光の第1位相情報または分光された前記第2干渉光の第2位相情報に基づいて、前記被測定物の振動の振幅および周波数を計測する振動計測装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡易な構成かつ小型の光路長差計測装置および振動計測装置を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る距離計測装置の模式的な構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す多波長光源の模式的な構成図である。
【
図3】
図3は、ミラーの相対位置と第1電流信号および第2電流信号の電流値との関係の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態2に係る距離計測装置の模式的な構成図である。
【
図5】
図5は、フィルタの透過スペクトルの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係る距離計測装置の模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0024】
(実施形態1)
[距離計測装置の構成]
図1は、実施形態1に係る距離計測装置の模式的な構成図である。距離計測装置100は、測距装置として構成されている光路長差計測装置の一例であって、被測定物Oまでの光路長差を計測するとともに、当該光路長差に基づいて被測定物Oまでの距離を計測する。
【0025】
距離計測装置100は、多波長光源1と、第1光分岐部2と、光サーキュレータ3と、光入出力部4と、第2分岐部5と、第3分岐部6と、第1干渉部7と、遅延部8と、第2干渉部9と、第1分光部10と、第2分光部11と、第1位相検出部12と、第2位相検出部13と、処理部14と、を備える。
【0026】
図2は、多波長光源1の模式的な構成図である。多波長光源1は、nを2以上の整数とすると、波長が互いに異なる複数の光l1~lnを出力する複数の発光素子1a1~1anを有しており、発光素子1a1~1anは一つの集積素子1aとして集積されている。発光素子1a1~1anはたとえば半導体レーザ素子である。多波長光源1は、発光素子の少なくとも2つが集積されている多波長光源の一例である。ただし、多波長光源1の形態はこれに限られず、複数の発光素子は集積されていなくてもよい。
【0027】
多波長光源1は、合波部1bを有している。合波部1bは、入力された複数の光l1~lnを合波して出力する。したがって、光lは、複数の光l1~lnを含んでいる。合波部1bは、たとえばAWG(Arrayed Waveguide Gratings)やバルク型の回折格子を有している。
【0028】
図1に戻って、第1光分岐部2は、多波長光源1と光ファイバにて接続されている。第1光分岐部2は、多波長光源1から入力された光lを測定光と参照光とに分岐する。第1光分岐部2はたとえば光カプラを含んでいる。
【0029】
光サーキュレータ3は、第1光分岐部2と光ファイバにて接続されている。光サーキュレータ3は、第1光分岐部2から入力された測定光を光入出力部4に出力する。
【0030】
光入出力部4は、光サーキュレータ3と光ファイバにて接続されている。光入出力部4は、レンズを有しており、光サーキュレータ3から入力された測定光lmをレンズによってコリメートして被測定物Oに対して出力する。また、光入出力部4は、測定光lmが被測定物Oで反射された光である反射光lrが入力される。光入出力部4は、レンズによって反射光lrを集光して光ファイバを経由して光サーキュレータ3に出力する。
【0031】
光サーキュレータ3は、第3分岐部6と光ファイバにて接続されている。光サーキュレータ3は、反射光lrを第3分岐部6に出力する。
【0032】
第3分岐部6は、光サーキュレータ3から入力された反射光を第1反射光と第2反射光とに分岐する。第3分岐部6はたとえば光カプラを含んでいる。
【0033】
第2分岐部5は、第1光分岐部2と光ファイバにて接続されている。第2分岐部5は、第1光分岐部2から入力された参照光を第1参照光と第2参照光とに分岐する。第2分岐部5はたとえば光カプラを含んでいる。
【0034】
第1干渉部7は、第2分岐部5および第3分岐部6と光ファイバにて接続されている。第1干渉部7は、第3分岐部6からの第1反射光と第2分岐部5からの第1参照光とを干渉させ、干渉成分を含む第1干渉光を出力する。第1干渉部7はたとえば光カプラを含んでいる。
【0035】
遅延部8は、第2分岐部5と光ファイバにて接続されている。遅延部8は、第2分岐部5からの第2参照光に60度以上120度の位相差だけ遅延を与えて出力する。具体的には、遅延部8は、第2参照光についての第2分岐部5から第2干渉部9までの光路長と、第1参照光についての第2分岐部5から第1干渉部7までの光路長との光路長差が、第2参照光のうちの所定波長の1/4だけ違えるように、第2参照光に60度以上120度の位相差だけ遅延を与えて出力する。なお、第2参照光のうちの所定波長は、たとえば、光l1~lnの波長のうちの中心波長とするのが好ましい。遅延部8は、たとえば光ファイバで構成された遅延線を含んでいる。
【0036】
第2干渉部9は、遅延部8および第3分岐部6と光ファイバにて接続されている。第2干渉部9は、第3分岐部6からの第2反射光と遅延部8からの第2参照光(遅延を与えられた第2参照光)とを干渉させ、干渉成分を含む第2干渉光を出力する。第2干渉部9はたとえば光カプラを含んでいる。
【0037】
第1分光部10は、第1干渉部7と光ファイバにて接続されている。第1分光部10は、入力された光を、多波長光源1が出力する複数の光の波長ごとに分光して出力する。第1分光部10は、多波長光源1が上述した光lを出力した場合、第1干渉光を光l1~lnの波長の光に分光して出力する。第1分光部10はたとえばAWGやバルク型の回折格子を含んでいる。
【0038】
第2分光部11は、第2干渉部9と光ファイバにて接続されている。第2分光部11は、入力された光を、多波長光源1が出力する複数の光の波長ごとに分光して出力する。第2分光部11は、多波長光源1が上述した光lを出力した場合、第2干渉光を光l1~lnの波長の光に分光して出力する。第2分光部11はたとえばAWGやバルク型の回折格子を含んでいる。
【0039】
第1位相検出部12は、第1分光部10と光ファイバアレイにて接続されている。第1位相検出部12は、特許文献3に示されるような、偏光素子と受光素子アレイとを用いる構成などの公知の構成を有している。受光素子アレイには、第1分光部10が分光した光が入力される。多波長光源1が上述した光lを出力した場合、分光した光である第1干渉光は光l1~lnの波長のそれぞれに対応した受光素子に入力される。光が入力された受光素子はその受光強度に応じた電流信号を処理部14に出力する。受光素子アレイはたとえばフォトダイオードアレイである。
【0040】
第2位相検出部13は、第2分光部11と光ファイバアレイにて接続されている。第2位相検出部13は、特許文献3に示されるような、偏光素子と受光素子アレイとを用いる構成などの公知の構成を有している。受光素子アレイには、第2分光部11が分光した光が入力される。多波長光源1が上述した光lを出力した場合、分光した光である第2干渉光は光l1~lnの波長のそれぞれに対応した受光素子に入力される。光が入力された受光素子はその受光強度に応じた電流信号を処理部14に出力する。受光素子アレイはたとえばフォトダイオードアレイである。
【0041】
処理部14は、演算部14aと、記憶部14bと、入出力部14cと、表示部14dとを備えている。演算部14aは、処理部14が実行する処理や処理部14の機能の実現のための各種演算処理を行うものであり、たとえばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)で構成される。記憶部14bは、演算部14aが演算処理を行うために使用する各種プログラムやデータなどが格納される、たとえばROM(Read Only Memory)で構成される部分を備えている。また、記憶部14bは、演算部14aが演算処理を行う際の作業スペースや演算部14aの演算処理の結果などを記憶するなどのために使用される、たとえばRAM(Random Access Memory)で構成される部分を備えている。入出力部14cは、第1位相検出部12および第2位相検出部13からの電流信号や、ユーザの操作に基づく操作信号の入力を受け付け、アナログ/デジタル変換して演算部14a等に出力する。また、入出力部14cは、演算部14aからのデジタル信号を受け付けデジタル/アナログ変換し、制御信号として多波長光源1や光入出力部4に出力する。表示部14dは、各種情報を報知するための文字や記号などの表示を行う。
【0042】
[距離計測装置の動作]
つぎに、光入出力部4(より詳しくは、光入出力部4におけるレンズ表面などの光lの出射面)と被測定物Oとの距離を計測する際の距離計測装置100の動作の一例について説明する。距離計測装置100は、たとえばユーザの操作に基づき動作を開始する。
【0043】
まず、多波長光源1は、光l1~lnを含む光lを出力する。
【0044】
その後、第1光分岐部2、光サーキュレータ3、光入出力部4、第2分岐部5、第3分岐部6、第1干渉部7、遅延部8、および第2干渉部9の作用によって、第1干渉光と第2干渉光とが生成される。
【0045】
第1分光部10は第1干渉光を分光して出力する。第1位相検出部12は、第1分光部10から入力された第1干渉光のそれぞれの波長成分から、干渉成分の位相を検出する。そして、第1位相検出部12は、各位相の情報を含む位相情報信号を処理部14に出力する。第2分光部11は第2干渉光を分光して出力する。第2位相検出部13は、第2分光部11から入力された第2干渉光のそれぞれの波長成分から、干渉成分の位相を検出する。そして、第2位相検出部13は、各位相の情報を含む位相情報信号を処理部14に出力する。
【0046】
処理部14は、第1位相検出部12および第2位相検出部13から入力された位相情報信号に基づき、光入出力部4と被測定物Oとの距離を計測する演算処理を行う。
【0047】
処理部14における距離を計測する演算処理について説明する。まず、処理部14は、上述した複数の第1干渉光における光強度変化から、第1反射光と第1参照光との位相差である第1位相差を算出する。第1位相差は第1干渉部7における位相差である。第1位相差は第1位相情報の一例である。また、処理部14は、上述した複数の第2干渉光における光強度変化から、第2反射光と第2参照光との位相差である第2位相差を算出する。第2位相差は第2干渉部9における位相差である。第2位相差は第2位相情報の一例である。
【0048】
処理部14は、光l1~lnのそれぞれの波長に対する第1位相差および第2位相差を算出する。
【0049】
本実施形態では、処理部14は、以下に説明するように合成波長および合成位相を用いて距離を計測する。合成波長および合成位相を用いることによって、計測可能な距離範囲を拡張することができる。計測可能な距離範囲はUMR(Unambiguous Measurement Range)とも呼ばれる。合成位相は合成位相情報の一例である。
【0050】
すなわち、処理部14は、光l1~lnの各波長から、合成波長を算出する。合成波長は、光l1~lnから複数の光を選択し、選択した光の波長を組み合わせることによって得られることが知られている。nが2である場合は、合成波長Λ12は、以下の式(1)で定義される。
Λ12=(λ1・λ2)/(λ2-λ1) ・・・ (1)
ここで、λ1は光l1の波長であり、λ2は光l2の波長である。ただし、λ1<λ2であるとする。
【0051】
なお、二つの光の合成波長は、nが3以上の場合にも、式(1)で定義される。合成波長は、組み合わせる波長よりも長くなる。
【0052】
つぎに、処理部14は、光l1~lnの波長に対する第1位相差および第2位相差から、各波長の干渉成分の位相差を算出する。第1位相差および第2位相差からの、各波長の干渉成分の位相差の算出については後に詳述する。処理部14は、算出した位相差から、さらに合成位相を算出する。合成位相は、光l1~lnから複数の光を選択し、選択した光の各波長の干渉成分の位相差を組み合わせることによって得られることが知られている。nが2である場合は、合成位相φ12は、以下の式(2)で定義される。
φ12=φ1-φ2 ・・・ (2)
ここで、φ1は光l1の波長の干渉成分の位相差であり、φ2は光l2の波長の干渉成分の位相差である。
【0053】
なお、二つの光の合成位相は、nが3以上の場合にも、式(2)のように定義される。
【0054】
つぎに、処理部14は、合成波長と合成位相とから反射光と参照光との光路長差L1を算出する。光路長差L1は第1干渉部7までの光路長差である。L1はたとえば以下の式(3)を用いて算出できる。
L1=(m1+φ12/2π)Λ12 ・・・ (3)
ここで、m1は干渉の次数である。また、Λ12は合成波長であり、φ12はΛ12に対応する合成位相であるが、合成波長が複数ある場合はm1がよりゼロに近くなるような合成波長を用いる。なお、m1は数値の丸め処理をして整数としてもよい。
【0055】
処理部14は、式(3)において、m1をゼロとして、一次計測値としての一次光路長差を算出する。
【0056】
一次光路長差は、合成波長と合成位相とを用いて算出したので、各波長や各位相の誤差を累積的に含む。そこで、処理部14は、一次光路長差に基づいてより正確な計測値としての二次光路長差を算出する。二次光路長差Lは以下の式(4)を用いて算出できる。
L=(m+φi/2π)λi ・・・ (4)
ここで、mは干渉の次数である。iは1~nまでのいずれかの整数である。したがって、φiは光l1~lnのうちいずれかの波長の干渉成分の位相差である。λiは光l1~lnのうちいずれかの波長である。ここで、次数mは、Lが一次光路長差に最も近い値になるように一意に決定することができる。
【0057】
距離計測装置100の内部での第1反射光と第1参照光との光路長差(内部光路長差)は既知であり、処理部14の記憶部14bに記憶されている。そこで、処理部14は、二次光路長差から内部光路長差を減算して、光入出力部4と被測定物Oとの距離の計測値として算出する。処理部14は、表示部14dに計測値を表示してもよい。
【0058】
以上のように構成された距離計測装置100によれば、第1干渉光の第1位相情報または第2干渉光の第2位相情報に基づいて、光入出力部4と被測定物Oとの距離を計測することができる。特に、距離計測装置100では、第1位相差および第2位相差から位相差を算出する。仮に、第1位相差をそのまま位相差とする場合、干渉強度を示す正弦波曲線において、同じ干渉強度を取り得る位相差は1波長分(たとえば-π~+π)の間に2つ存在する。したがって、第1位相差をそのまま位相差とする場合、2つの位相差のうちどちらが正しいかは判別できない。したがって、この場合はUMRが0.5波長分に制限される。これは第2位相差をそのまま位相差とする場合も同様である。これに対して、第1位相差と第2位相差とを用いれば、位相が1/4波長分(すなわちπ/2)だけ異なる2つの正弦波曲線を使用して位相差を特定できるので、1波長分(たとえば-π~+π)の範囲に対して、正しい位相を判定できる。したがって、UMRも1波長分に拡張される。なお、正しい位相差を判別する方法としては、測定光または参照光の光路をアクチュエータ等で変動させて、その変動に応じた干渉強度の変動から判別する方法(3(4)点法や3(4)ステップ法とも呼ばれる)もある。距離計測装置100は、光路変動のために掛かる構成や時間も不要であるため、測距を簡易化・高速化できる。
【0059】
また、距離計測装置100では、光l1~lnに基づく第2参照光に遅延部8で遅延を与えてから第2干渉光を生成し、この第2干渉光を第2分光部11にて分光している。この場合、距離計測装置100では、互いに波長の異なる第2参照光に対して1つの共通の遅延部8で遅延を与えているので、互いに波長の異なる第2参照光に個別の遅延部にて遅延を与える構成に比べて、遅延部の数が少なくてよいので、簡易な構成かつ小型になる。
【0060】
また、距離計測装置100では、発光素子1a1~1anが一つの集積素子1aに集積されている。これにより、発光素子1a1~1an同士が熱的に接続されるので、波長が互いに異なる複数の光l1~lnの波長の相対的間隔が変化しにくい。その結果、距離計測装置100は測距精度が高い。
【0061】
(実施形態1の変形例1)
実施形態1に係る距離計測装置100では、第1光分岐部2における測定光と参照光との分岐比、第2分岐部5における第1参照光と第2参照光との分岐比、第3分岐部6における第1反射光と第2反射光との分岐比、第1干渉部7における第1反射光と第1参照光との合波比、および第2干渉部9における第2反射光と第2参照光との合波比は、いずれも1:1であることが好ましい。しかし、これらの分岐比や合波比は、分岐部や干渉部の個体ばらつきや、分岐比や合波比の波長依存性に応じて、1:1からずれる場合がある。分岐比や合波比の1:1からのずれは、第1位相情報や第2位相情報の誤差となって現れるので、最終的には測距精度の低下の原因となる。
【0062】
そこで、距離計測装置100の変形例1では、第1光分岐部2、第2分岐部5、第3分岐部6、第1干渉部7、および第2干渉部9における波長ごとの分岐比または合波比に関する比情報を、処理部14の記憶部14bが記憶していてもよい。処理部14は、記憶部14bに記憶された比情報に基づいて、第1位相情報および第2位相情報を補正し、補正した第1位相情報および第2位相情報に基づいて、光入出力部4と被測定物Oとの距離を計測してもよい。比情報は、距離計測装置100の製造工程において実験的に取得されたり理論的に算出されたりして、記憶部14bに記憶させることができる。このような距離計測装置100の変形例1によれば、測距精度がより高くなる。
【0063】
(実施形態1の変形例2)
実施形態1に係る距離計測装置100では、互いに波長の異なる第2参照光に対して1つの共通の遅延部8で遅延を与えている。遅延部8は、与える遅延が所定の位相になるように構成されている。しかし、遅延部8が与える遅延は、遅延部8の個体ばらつきや、遅延部8の波長依存性に応じて、所定の位相からずれる場合がある。所定の位相からのずれは、第1位相情報や第2位相情報の誤差となって現れるので、最終的には測距精度の低下の原因となる。
【0064】
そこで、距離計測装置100の変形例2では、遅延部8における波長ごとの遅延量を、処理部14の記憶部14bが記憶していてもよい。処理部14は、記憶部14bに記憶された遅延情報に基づいて、第1位相情報および第2位相情報を補正し、補正した第1位相情報および第2位相情報に基づいて、光入出力部4と被測定物Oとの距離を計測してもよい。遅延量は、距離計測装置100の製造工程において実験的に取得されたり理論的に算出されたりして、記憶部14bに記憶させることができる。このような距離計測装置100の変形例1によれば、測距精度がより高くなる。遅延量は遅延情報の一例である。
【0065】
遅延情報を実験的に取得する方法の例について説明する。第1例としては、被測定物Oとして、光入出力部4からの距離を高精度に掃引できるミラーを準備する。そして、ミラーを光lの1波長分以上の距離だけ移動させる。そして、処理部14にて、ミラーの複数の位置において第1位相検出部12で受光した第1干渉光に基づく電流信号(第1電流信号)および第2位相検出部13で受光した第2干渉光に基づく電流信号(第2電流信号)を取得する。これを波長ごとに実行する。
【0066】
図3は、ミラーの相対位置と第1電流信号および第2電流信号の電流値との関係の一例を示す図である。
図3に示すように、或る波長における第1電流信号の電流値をミラーの相対位置に対してプロットすると、第1干渉光の干渉成分に基づく周期的なカーブC1が得られる。同様に第2電流信号の電流値をミラーの相対位置に対してプロットすると、第2干渉光の干渉成分に基づき周期的なカーブC2が得られる。
【0067】
遅延部8が与える遅延による位相差が90度の場合は、カーブC1とカーブC2との位相差は90度であるが、90度以外の場合は、カーブC1とカーブC2との位相差も90度からずれる。このような実験から、波長ごとの遅延情報を取得することができる。第1例は、遅延情報が、反射光および参照光の少なくとも一方の光路長を既知の量だけ変化させた場合の第1位相情報および第2位相情報の変化に基づいて決定される例である。
【0068】
なお、遅延部8が与える遅延による位相差が90度から角度θだけずれている場合の補正係数は、下記の行列式(6)を用いて求めることができる(たとえば米国特許第6917031号明細書参照)。
【数1】
【0069】
遅延情報を実験的に取得する方法の第2例として、被測定物Oとして位置が固定され光入出力部4からの距離が既知のミラーを用いてもよい。この場合、光lの波長を変更しながら第1電流信号および第2電流信号を取得することによって、波長ごとの遅延情報を取得することができる。
【0070】
(実施形態1の変形例3)
この種の距離計測装置は、外部環境からの振動や温度変化や気圧変化を受けると測距に影響することが知られている。また、被測定物Oが振動している場合も、測距に影響することがある。
【0071】
そこで、距離計測装置100の変形例3では、異なる時間に取得された複数の第1位相情報および複数の第2位相情報を平均化処理し、平均化処理によって求められた情報に基づいて距離を計測する。これにより、外部環境の変化からの影響または自身や被測定物Oの振動の影響による測距精度の低下を抑制できる。
【0072】
この場合、平均化処理に用いる複数の第1位相情報および複数の第2位相情報は、変化や振動の周期または変化や振動の持続時間よりも十分長い時間にわたって取得することが好ましい。また、光入出力部4と被測定物Oとの距離と振動の振幅とを足し合わせた長さは、合成波長よりも短いことが好ましい。
【0073】
また、平均化処理の手法は特に限定されず、たとえば移動平均や単純平均を用いる手法でもよく、一定期間における中央値を採用する方法でもよい。
【0074】
(実施形態2)
図4は、実施形態2に係る距離計測装置の模式的な構成図である。距離計測装置100Aは、
図1に示す距離計測装置100の構成に、光スイッチ21、波長モニタ部22、および制御部23を追加した構成を有する。
【0075】
光入出力部4と被測定物Oとの距離を計測する際の距離計測装置100Aの動作は、距離計測装置100の場合と同様なので説明を省略する。以下では、追加された構成の機能について主に説明する。
【0076】
光スイッチ21は、制御部23に制御されて、多波長光源1から入力された光l1~lnの一つを選択的に出力する。
【0077】
波長モニタ部22は、フィルタ部22aと受光部22bとを有する。フィルタ部22aは、光の周波数的に周期的な透過特性を有する2つのフィルタを備えている。
図5は、フィルタの透過スペクトルの一例を示す図である。カーブC3、C4が2つのフィルタのそれぞれの透過スペクトルを示している。2つのフィルタは位相が異なっている。2つのフィルタの位相差は90度が好ましいが、これには限定されない。
【0078】
フィルタ部22aは、光スイッチ21が出力した光を2分岐し、分岐した光を2つのフィルタのそれぞれに通過させる。フィルタを透過した光は、透過したフィルタの、その光の波長での透過率に応じた強度でフィルタ部22aから出力される。したがって、フィルタ部22aから出力された光の強度はその光の波長に対応した強度となっている。
【0079】
受光部22bは、フィルタ部22aから出力された2つの光を受光し、それぞれの受光強度に応じた電流信号を制御部23に出力する。受光部22bはたとえばフォトダイオードを有する。この電流信号の値も受光した光の波長に対応している。したがって、電流信号は、波長モニタ部22による波長のモニタ結果に相当する。
【0080】
制御部23は、処理部14と同様に、演算部と、記憶部と、入出力部と、表示部とを備えている。制御部23は、受光部22bが出力した2つの電流信号を受け付け、それぞれを測定電圧信号に変換する。ここで、制御部23は、光スイッチ21が出力した光の波長が目標波長であるときの目標電圧信号の値を記憶している。制御部23は、いずれか一方の測定電圧信号を採用し、測定電圧信号が目標電圧信号に近づくように、多波長光源1に含まれる発光素子1a1~1anのうち光スイッチ21で選択した光を出力した発光素子をフィードバック制御する。これにより、制御された発光素子が出力する光の波長は目標波長に制御される。このような制御は波長ロック制御とも呼ばれる。
【0081】
制御部23は、光スイッチ21を制御して、光スイッチ21が出力する光の波長を切り換え、切り換えた光に基づいて順次波長ロック制御を実行する。これにより、多波長光源1が出力する光l1~lnの波長が、それぞれの目標波長に制御される。
【0082】
以上のように構成された距離計測装置100Aでは、距離計測装置100と同様の効果が得られる。さらに、距離計測装置100Aでは、多波長光源1が出力する光l1~lnの波長が波長ロック制御されることによって、距離計測装置100Aはより測距精度が高いものとなる。
【0083】
ここで、制御部23が採用する測定電圧信号については、波長ロック制御の制御精度の向上のため、その波長において周波数変化に対する透過率変化が大きいフィルタに対応する測定電圧信号が採用される。フィルタにおける周波数変化に対する透過率変化は、FSR(Free Spectral Range)が小さい短周期のフィルタを用いることで大きくできる。しかしながら、短周期のフィルタを用いた場合、波長ロック制御できる波長範囲が狭くなる。たとえば、好適に波長ロック制御ができる波長範囲(周波数範囲)はフィルタの1周期分程度である。したがって、多波長光源1の経年変化等によって、出力する波長がフィルタの1周期分以上変化すると、経年的に波長ロック制御ができなくなるおそれがある。このような観点からは、フィルタの周期には適切な範囲があり、たとえば1MHzよりも大きく5GHzよりも小さいことが好ましい。
【0084】
なお、上記実施形態では、フィルタ部22aは2つのフィルタを有しているが、フィルタの数はこれに限られず、1または3以上でもよい。また、実施形態2の変形例として、制御部23は測定電圧信号に基づいて波長モニタを行うが波長ロック制御を実行しなくてもよい。この場合、たとえば制御部23は波長モニタの情報を含む電気信号を処理部14に出力し、処理部14が波長モニタの情報に従って、計測の際の計算に用いる波長の数値を補正してもよい。
【0085】
(実施形態3)
図6は、実施形態3に係る距離計測装置の模式的な構成図である。距離計測装置100Bは、
図1に示す距離計測装置100の構成に、第4分岐部31、光増幅器32、フィルタ33、受光部34、および制御部35を追加した構成を有する。
【0086】
光入出力部4と被測定物Oとの距離を計測する際の距離計測装置100Bの動作は、距離計測装置100の場合と同様なので説明を省略する。以下では、追加された構成の機能について主に説明する。
【0087】
第4分岐部31および光増幅器32は、この順番で光サーキュレータ3と第3分岐部6との間に介挿されている。第4分岐部31は、光サーキュレータ3と光ファイバにて接続されている。第4分岐部31は、光サーキュレータ3から入力された反射光の一部をモニタ光として分岐する。第4分岐部31はたとえば光カプラを含んでいる。
【0088】
光増幅器32は、第4分岐部31と光ファイバにて接続されている。光増幅器32は、第4分岐部31から入力された反射光を光増幅して第3分岐部6に出力する。光増幅器32はたとえば半導体光増幅器や光ファイバ増幅器を含んでいる。光増幅器32は反射光の強度を調整する光強度調整部の一例である。
【0089】
フィルタ33は、モニタ光の波長(すなわち反射光の波長)の光を透過し、モニタ光の波長以外の波長の光を遮断する。フィルタ33はたとえば波長可変フィルタを含む。フィルタ33から出力された光の強度は反射光の強度に対応した強度となっている。
【0090】
受光部34は、フィルタ33から出力された光を受光し、その受光強度に応じた電流信号を制御部35に出力する。受光部34はたとえばフォトダイオードを有する。この電流信号の値も反射光の強度に対応している。したがって、電流信号は、反射光の強度のモニタ結果に相当する。フィルタ33および受光部34は、反射光の強度をモニタする強度モニタ部の一例である。
【0091】
制御部35は、処理部14と同様に、演算部と、記憶部と、入出力部と、表示部とを備えている。制御部35は、受光部34が出力した電流信号を受け付け、それを測定電圧信号に変換する。ここで、制御部35は、光増幅器32が出力する反射光の強度が目標強度であるときの目標電圧信号の値を記憶している。制御部35は、測定電圧信号が目標電圧信号に近づくように光増幅器32をフィードバック制御する。これにより、光増幅器32が出力する反射光の強度が目標強度に制御される。
【0092】
以上のように構成された距離計測装置100Bでは、距離計測装置100と同様の効果が得られる。さらに、距離計測装置100Bでは、測定光lmが被測定物Oで反射された光である反射光lrの強度が弱い場合にも、光増幅器32が出力して第3分岐部6に入力される反射光の強度が所定の強度に維持される。その結果、距離計測装置100Bは、反射光lrの強度が弱い場合や反射光lrにノイズ光が混入している場合にも測距が可能または測距精度が高いものとなる。また、距離計測装置100Bでは、フィルタ33がモニタ光の波長以外の波長の光を遮断するので、モニタ光の強度ひいては反射光の強度をより正確にモニタすることができる。
【0093】
なお、距離計測装置100Bでは光増幅器32が第4分岐部31と第3分岐部6との間に介挿されているが、光増幅器32を光サーキュレータ3と第4分岐部31との間に介挿する構成にしてもよい。このような構成によれば、フィルタ33および受光部34に入力されるモニタ光も光増幅器32によって増幅されるので、たとえば反射光lrにノイズ光が混入しても強度モニタの精度が高くなる。
【0094】
(実施形態4)
つぎに、実施形態4に係る振動計測装置について説明する。実施形態4に係る振動計測装置は、上記実施形態1~3またはその変形例に係る距離計測装置と同様の構成を有する。
【0095】
実施形態4に係る振動計測装置においては、処理部14が、実施形態1~3に係る距離計測装置と同様の動作によって得られた光入出力部4と被測定物Oとの距離および当該距離の時間変化から、被測定物Oの振動の振幅および周波数を計測することができる。なお、測定される周波数は、たとえば光入出力部4と被測定物Oとの距離のサンプリング周波数よりも十分低いものである。また、測定される振幅は、たとえが合成波長よりも十分短いものである。
【0096】
なお、上記実施形態は、遅延部8が第2参照光に60度以上120度の位相差だけ遅延を与えるように構成されているが、別の実施形態としては、第2反射光に60度以上120度の位相差だけ遅延を与えるように構成してもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、合成波長および合成位相を用いて距離計測または振動計測を行っているが、合成波長および合成位相を用いずに距離計測または振動計測を行ってもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、光学要素が光ファイバで接続または構成されているが、平面光波回路などの導波路で接続または構成されていてもよい。また、第1光分岐部2、第2分岐部5と、第3分岐部6、第1干渉部7、遅延部8、第2干渉部、第1分光部、および第2分光部の少なくとも2つが平面光波回路で構成されており、集積されていてもよい。
【0099】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。たとえば、実施形態1の変形例1~3の少なくとも一つの構成または機能を実施形態2~4のいずれかに適用してもよい。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 :多波長光源
1a :集積素子
1a1~1an:発光素子
1b :合波部
2 :第1光分岐部
3 :光サーキュレータ
4 :光入出力部
5 :第2分岐部
6 :第3分岐部
7 :第1干渉部
8 :遅延部
9 :第2干渉部
10 :第1分光部
11 :第2分光部
12 :第1位相検出部
13 :第2位相検出部
14 :処理部
14a :演算部
14b :記憶部
14c :入出力部
14d :表示部
21 :光スイッチ
22 :波長モニタ部
22a :フィルタ部
22b、34:受光部
23、35:制御部
31 :第4分岐部
32 :光増幅器
33 :フィルタ
100、100A、100B:距離計測装置
C1、C2、C3、C4:カーブ
O :被測定物
l、l1、l2~ln:光
lm :測定光
lr :反射光