(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115397
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】睡眠判定システムおよび睡眠判定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
A61B5/16 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021073
(22)【出願日】2023-02-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年2月22日 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」「食によるヘルスケア産業創出コンソーシアム」(共催:農研機構生研支援センター)の研究成果セミナーにて発表。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】520412431
【氏名又は名称】PGV株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】河合 崇行
(72)【発明者】
【氏名】山本 万里
(72)【発明者】
【氏名】吉本 秀輔
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP05
4C038PQ06
4C038PS00
4C038PS03
(57)【要約】
【課題】睡眠の質の良否をより正確に判定することで、心身の不調を推定することのできる睡眠判定システムを提供する。
【解決手段】就寝後の入眠から起床の直前の覚醒までの間の睡眠の状態である睡眠状態を取得する睡眠状態取得部10と、睡眠状態取得部10によって取得した睡眠状態における睡眠の深さを取得する睡眠深度取得部31と、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態における、睡眠深度取得部31によって取得した所定以上の睡眠の深さである深睡眠の状態を抽出する深睡眠状態抽出部32と、睡眠状態取得部において取得した睡眠状態の全体における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態の後半における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する睡眠判定部33と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
就寝後の入眠から起床の直前の覚醒までの間の睡眠の状態である睡眠状態を取得する睡眠状態取得部と、
前記睡眠状態取得部によって取得した睡眠状態における睡眠の深さを取得する睡眠深度取得部と、
前記睡眠状態取得部において取得した睡眠状態における、前記睡眠深度取得部によって取得した所定以上の睡眠の深さである深睡眠の状態を抽出する深睡眠状態抽出部と、
前記睡眠状態取得部において取得した睡眠状態の全体における、前記深睡眠状態抽出部によって抽出した深睡眠となる時間と、前記睡眠状態取得部において取得した睡眠状態の後半における、前記深睡眠状態抽出部によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する睡眠判定部と、を備えた
睡眠判定システム。
【請求項2】
前記睡眠判定部は、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒状態となる時間を除いた時間の36%未満の場合に、睡眠の質が良好であると判定する
請求項1に記載の睡眠判定システム。
【請求項3】
前記睡眠判定部は、睡眠の質を判定する基準として、睡眠状態の全体における深睡眠の割合を含む
請求項1に記載の睡眠判定システム。
【請求項4】
前記睡眠状態取得部は、就寝している対象者の心拍数および身体の動きを検出することによって就寝している対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得する
請求項1に記載の睡眠判定システム。
【請求項5】
就寝後の入眠から起床の直前の覚醒までの間の睡眠の状態である睡眠状態を取得する睡眠状態取得工程と、
前記睡眠状態取得工程によって取得した睡眠状態における睡眠の深さを取得する睡眠深度取得工程と、
前記睡眠状態取得工程において取得した睡眠状態における、前記睡眠深度取得工程によって取得した所定以上の睡眠の深さである深睡眠の状態を抽出する深睡眠状態抽出工程と、
前記睡眠状態取得工程において取得した睡眠状態の全体における、前記深睡眠状態抽出工程によって抽出した深睡眠となる時間と、前記睡眠状態取得工程によって取得した睡眠状態の後半部分における、前記深睡眠状態抽出工程によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する睡眠判定工程と、を備えた
睡眠判定方法。
【請求項6】
前記睡眠判定工程は、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒を除く睡眠状態の時間の36%未満の場合に、睡眠の質が良好であると判定する
請求項5に記載の睡眠判定方法。
【請求項7】
前記睡眠判定工程は、睡眠の質を判定する基準として、睡眠状態の全体における深睡眠の割合を含む
請求項5に記載の睡眠判定方法。
【請求項8】
前記睡眠状態取得工程は、就寝している対象者の心拍数および身体の動きを検出することによって就寝している対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得する
請求項5に記載の睡眠判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の質の良否を判定するための睡眠判定システムおよび睡眠判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、睡眠の質を判定する睡眠判定方法として、睡眠中の人に対して、身体の動き、体温、心拍数、呼吸数、脳波のうち、少なくとも1つを検出することによって、就寝時刻、起床時刻、睡眠時間、睡眠の深さ、睡眠の深さが変化する周期等の睡眠情報を取得し、睡眠情報に基づいて、睡眠の質の良否の判定を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
人の睡眠時には、レム睡眠とノンレム睡眠を周期的に繰り返している。また、ノンレム睡眠は、深さの程度に応じてステージ1からステージ3に分けた場合に、ステージ1を浅睡眠、ステージ2および3を深睡眠と定義することができる。
【0004】
前記睡眠判定方法は、就寝時刻、起床時刻、睡眠時間、浅睡眠の時間および割合、および、レム睡眠の周期等から睡眠の良否の判定を行うが、特に、睡眠全体に占める浅睡眠が多い場合に、起床後の活動時における疲労の程度が高くなる、という判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記睡眠判定方法において、疲労の程度が同程度と判定された複数の人に対して心身の調子の良否についてアンケート調査を行った場合に、それぞれのアンケート結果が必ずしも同様の結果とならないことが判明している。
【0007】
本発明の目的とするところは、睡眠の質の良否をより正確に判定することで、心身の不調を推定することのできる睡眠判定システム及び睡眠判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の睡眠判定システムは、就寝後の入眠から起床の直前の覚醒までの間の睡眠の状態である睡眠状態を取得する睡眠状態取得部と、前記睡眠状態取得部によって取得した睡眠状態における睡眠の深さを取得する睡眠深度取得部と、前記睡眠状態取得部において取得した睡眠状態における、前記睡眠深度取得部によって取得した所定以上の睡眠の深さである深睡眠の状態を抽出する深睡眠状態抽出部と、前記睡眠状態取得部において取得した睡眠状態の全体における、前記深睡眠状態抽出部によって抽出した深睡眠となる時間と、前記睡眠状態取得部において取得した睡眠状態の後半における、前記深睡眠状態抽出部によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する睡眠判定部と、を備えている。
【0009】
また、本発明の睡眠判定システムは、前記睡眠判定部が、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒状態となる時間を除いた時間の36%未満の場合に、睡眠の質が良好であると判定する、ことが好ましい。
【0010】
また、本発明の睡眠判定システムは、前記睡眠判定部が、睡眠の質を判定する基準として、睡眠状態の全体における深睡眠の割合を含む、ことが好ましい。
【0011】
また、本発明の睡眠判定システムは、前記睡眠状態取得部が、就寝している対象者の心拍数および身体の動きを検出することによって就寝している対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得する、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明の睡眠判定方法は、就寝後の入眠から起床の直前の覚醒までの間の睡眠の状態である睡眠状態を取得する睡眠状態取得工程と、前記睡眠状態取得工程によって取得した睡眠状態における睡眠の深さを取得する睡眠深度取得工程と、前記睡眠状態取得工程において取得した睡眠状態における、前記睡眠深度取得工程によって取得した所定以上の睡眠の深さである深睡眠の状態を抽出する深睡眠状態抽出工程と、前記睡眠状態取得工程において取得した睡眠状態の全体における、前記深睡眠状態抽出工程によって抽出した深睡眠となる時間と、前記睡眠状態取得工程によって取得した睡眠状態の後半部分における、前記深睡眠状態抽出工程によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する睡眠判定工程と、を備えている。
【0013】
また、本発明の睡眠判定方法は、前記睡眠判定工程が、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒を除く睡眠状態の時間の36%未満の場合に、睡眠の質が良好であると判定する、ことが好ましい。
【0014】
また、本発明の睡眠判定方法は、前記睡眠判定工程が、睡眠の質を判定する基準として、睡眠状態の全体における深睡眠の割合を含む、ことが好ましい。
【0015】
また、本発明の睡眠判定方法は、前記睡眠状態取得工程が、就寝している対象者の心拍数および身体の動きを検出することによって就寝している対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、睡眠の質が良好でないと判定された場合に、職業上のストレス等、対象者の自覚がない心身の軽度の不調を推定することが可能となり、心身の軽度の不調が推定された対象者に対して生活様式および食生活等の心身の不調の回復を促す情報を提供することが可能となり、対象者の健康の促進を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る睡眠判定システムのブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る睡眠の質が良好な場合の睡眠の深さの変化を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る睡眠の質が不良な場合の睡眠の深さの変化を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る同一の人(女性)における睡眠の質が良好な場合および不良な場合の睡眠の深さの変化を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る同一の人(男性)における睡眠の質が良好な場合および不良な場合の睡眠の深さの変化を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る職業性ストレスについての簡易調査票の設問を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る簡易調査票の設問に対する回答に基づく評価点の換算表である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態に係る軽度不調項目数と睡眠後期に現れる深睡眠の割合との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態に係る睡眠状態と軽度不調項目数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1乃至
図9は、本発明の一実施形態について示すものである。
図1は睡眠判定システムのブロック図であり、
図2は睡眠の質が良好な場合の睡眠の深さの変化を示す図であり、
図3は睡眠の質が不良な場合の睡眠の深さの変化を示す図であり、
図4は同一の人(女性)における睡眠の質が良好な場合および不良な場合の睡眠の深さの変化を示す図であり、
図5は同一の人(男性)における睡眠の質が良好な場合および不良な場合の睡眠の深さの変化を示す図であり、
図6は職業性ストレスについての簡易調査票の設問を示す図であり、
図7は簡易調査票の設問に対する回答に基づく評価点の換算表であり、
図8は軽度不調項目数と睡眠後期に現れる深睡眠の割合との関係を示すグラフであり、
図9は睡眠状態と軽度不調項目数との関係を示すグラフである。
【0019】
本実施形態の睡眠判定システム1は、対象者の睡眠状態を取得し、取得した睡眠状態に基づいて睡眠の質を判定することによって、対象者の心身の状態を推定するものである。
【0020】
睡眠判定システム1は、対象者の睡眠状態を取得するための睡眠状態取得部10と、対象者の属性情報を入力するための属性情報入力部20と、睡眠状態取得部10の取得情報および属性情報入力部20の入力された属性情報に基づいて演算を行う制御部30と、対象者の睡眠状態を格納するための記憶部40と、制御部30において演算結果を出力するための出力部50と、を備えている。
【0021】
睡眠状態取得部10は、例えば、対象者の心拍数を検出するための光学式心拍計と、身体の動きを検出するための加速度センサを備え、対象者の腕に取り付けた状態で使用される所謂ウェアラブル端末である。睡眠状態取得部10は、就寝している人の心拍数および身体の動きを検出することによって対象者の入眠および覚醒を取得するとともに、対象者の睡眠の深さを取得する。
【0022】
属性情報入力部20は、睡眠状態を取得する対象者の年齢および性別等の属性情報を入力するために用いられる、例えば、キーボード等の入力装置である。
【0023】
制御部30は、CPU、ROM、RAMを有し、入力側に接続された機器からの入力信号を受信すると、CPUが、入力信号に基づいてROMに記憶されたプログラムを読み出すとともに、入力信号によって検出された状態をRAMに記憶したり、出力側に接続された機器に出力信号を送信したりする。制御部30は、例えば、サーバであり、睡眠状態取得部10によって取得した対象者の睡眠状態が無線通信によって入力される。
【0024】
制御部30は、睡眠状態取得部10によって取得した睡眠状態における睡眠の深さを取得する睡眠深度取得部31と、睡眠状態取得部10によって取得した睡眠状態における、睡眠深度取得部31によって取得した所定以上の睡眠の深さである深睡眠の状態を抽出する深睡眠状態抽出部32と、睡眠の質を判定するための睡眠判定部33と、を有している。
【0025】
睡眠深度取得部31は、睡眠状態取得部10によって取得した対象者の睡眠状態から時間経過と睡眠の深さとの関係を取得する。睡眠深度取得部31は、対象者の睡眠状態において、覚醒状態、睡眠状態におけるレム睡眠およびノンレム睡眠、ノンレム睡眠における睡眠の深さの段階としてステージ1~3を取得する。本実施形態の睡眠深度取得部31は、ノンレム睡眠におけるステージ1を浅い睡眠である浅睡眠と、ノンレム睡眠におけるステージ2および3を深い睡眠である深睡眠と、分類する。
【0026】
ここで、睡眠深度取得部31は、脳波のα波と、ノンレム睡眠と比較して低振幅で周波数が大きい種々の波と、が混在しており、急速眼球運動が有り、筋活動が高い状態を取得した場合に、覚醒状態と識別する。
【0027】
また、睡眠深度取得部31は、低振幅で周波数が大きい種々の脳波が混在しており、急速眼球運動が有り、筋活動が低下した状態を取得した場合に、レム睡眠と識別する。
【0028】
また、睡眠深度取得部31は、脳波が低振幅となるとともに、α波の活動が50%未満となり、緩徐眼球運動があり、筋活動が低下した状態を取得した場合に、ノンレム睡眠のステージ1と識別する。
【0029】
また、睡眠深度取得部31は、睡眠紡錘波およびK複合波が現れ、除波活動が20%未満であり、筋活動が低下した状態を取得した場合に、ノンレム睡眠のステージ2と識別する。
【0030】
また、睡眠深度取得部31は、徐波活動が20%より大きく、筋活動が低下した状態を取得した場合に、ノンレム睡眠のステージ3と識別する。
【0031】
睡眠状態取得部10がウェアラブル端末である場合には、対象者の心拍数、心拍数の変化、身体の動きに基づいて、覚醒状態、睡眠状態におけるレム睡眠、ノンレム睡眠、ノンレム睡眠における睡眠の深さの段階を取得する。例えば、心拍数が小さく、心拍数の変動が小さく、身体の動きが少ない場合には、ノンレム睡眠のステージ2および3の深睡眠と識別し、深睡眠と比較して心拍数および心拍数の変動が大きく、身体の動きが少ない場合には、ノンレム睡眠のステージ1の浅睡眠と識別する。
【0032】
深睡眠状態抽出部32は、睡眠状態取得部10によって取得した睡眠状態における、睡眠深度取得部31において取得した睡眠の深さのうち深睡眠となる発生時間を抽出する。
【0033】
睡眠判定部33は、属性情報入力部20によって入力された対象者の属性情報と、睡眠状態取得部10によって取得した睡眠状態の全体における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態の後半における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する。また、睡眠判定部33は、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態の全体における深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間の割合の大きさを、睡眠の質の良否の程度を判定する基準として含んでいる。
【0034】
記憶部40は、睡眠深度取得部31によって取得された睡眠情報および深睡眠状態抽出部32によって抽出された深睡眠の発生時期の情報を記憶する。また、記憶部40に記憶された情報は、必要に応じて睡眠判定部33における睡眠の質の判定に用いられる。
【0035】
出力部50は、睡眠判定部33において判定された睡眠の質に関する情報を対象者に対して出力するものである。出力部50は、例えば、睡眠状態取得部10を備えた前述のウェアラブル端末、スマートフォン等の携帯端末が考えられる。
【0036】
以上のように構成された睡眠判定システム1においては、対象者の就寝後の入眠から起床の直前までの間の睡眠状態を、睡眠状態取得部10によって取得する(睡眠状態取得工程)。また、睡眠判定システム1の制御部30には、睡眠状態取得部10によって睡眠状態を取得する対象者の属性情報が属性情報入力部20を介して入力される。
【0037】
これにより、制御部30は、睡眠状態取得部10によって取得した対象者の睡眠状態における時間経過と睡眠の深さとの関係を睡眠深度取得部31において取得する(睡眠深度取得工程)。また、制御部30は、睡眠深度取得部31によって取得した時間経過と睡眠の深さとの関係に基づいて、深睡眠状態抽出部32において睡眠状態における深睡眠の発生時期を抽出する(深睡眠状態取得工程)。さらに、制御部30は、睡眠深度取得部31によって取得した睡眠状態の全体における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態の後半における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する(睡眠判定工程)。
【0038】
詳細に説明すると、睡眠判定部33は、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒状態となる時間を除いた時間の36%未満の場合に、睡眠の質が良好であると判定する。
【0039】
また、睡眠判定部33は、睡眠の質の判定する際に、属性情報入力部20を介して入力された対象者の性別および年齢等の属性情報、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態の全体における深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間の割合の大きさ、を基準として睡眠の質の良否の程度を判定する。
【0040】
睡眠判定部33が睡眠の質が良好であると判定する睡眠状態を
図2に示し、睡眠の質が良好であると判定しない睡眠状態を
図3に示す。
図2および
図3に示すように、睡眠時間、就寝から起床までの時間に対するレム睡眠およびノンレム睡眠の合計の時間の割合、就寝から起床までの時間に対する深睡眠の割合は、睡眠の質が良好な場合と良好でない場合のそれぞれにおいて、同程度である。しかし、睡眠状態の後半部における深睡眠の割合については、睡眠の質が良好な場合と良好でない場合とで異なり、睡眠の質が良好でない場合と比較して、睡眠の質が良好な場合に小さくなることを示している。このように、睡眠判定部33は、睡眠深度取得部31によって取得した睡眠状態の全体における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態の後半における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する。
【0041】
また、同一の対象者における睡眠の質が良好であると判定する睡眠状態と、良好であると判定しなかった睡眠状態と、を
図4および
図5に示す。
図4は、対象者としての57歳の女性の睡眠状態の変化を示すものであり、
図4(a)は睡眠の質が良好であると判定した睡眠状態であり、
図4(b)は睡眠の質が良好であると判定しなかった睡眠状態である。また、
図5は、対象者としての48歳の男性の睡眠状態の変化を示すものであり、
図5(a)は睡眠の質が良好であると判定した睡眠状態であり、
図5(b)は睡眠の質が良好であると判定しなかった睡眠状態である。睡眠判定部33は、同一の対象者においても、
図4および
図5に示すように、睡眠深度取得部31によって取得した睡眠状態の全体における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態の後半における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する。
【0042】
以下、上述の対象者の睡眠の質が良好であるか否かの判定の根拠となる睡眠健康関連調査について、
図6ないし
図9を用いて説明する。
【0043】
この睡眠健康関連調査は、健康上の問題を有しない1000名の職業を有する対象者に対して、夏季および冬季のそれぞれにおいて、出勤日および休日を含む7日間にわたって行った。睡眠健康関連調査では、就寝後の入眠から起床の直前の覚醒までの脳波を検出することによって睡眠状態を取得するとともに、起床後に職業性ストレスに関するアンケート調査を行い、睡眠状態とアンケート調査の結果との関連を調査した。
【0044】
アンケート調査では、
図6に示すように、厚生労働省の労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度で用いられる職業性ストレス簡易調査票における領域Bを使用した。
【0045】
また、アンケート調査の回答を、
図7に示すように、「ストレスによっておこる心身の反応」に関する素点換算表に基づいて評価点を算出し、素点換算表における活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴のそれぞれの項目について、「高い」、「やや高い」、「普通」、「やや低い」、「低い」の5段階に分類した。
【0046】
この睡眠健康関連調査では、活気の項目について、「低い」、「やや低い」に分類された場合、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴の項目について、「高い」、「やや高い」に分類された場合に、心身の状態が軽度の不調の状態である軽度不調状態と判定する。
【0047】
この睡眠健康関連調査では、
図8に示すように、調査の対象者を性別に分けて、軽度不調状態と判定される項目数と、睡眠状態の後半における深睡眠となる時間の割合と、の関係を調査した。
【0048】
図8に示すように、調査の対象者の性別を問わず、アンケート調査によって軽度不調状態と判定される項目数が多くなるにしたがって、睡眠状態の後半における深睡眠となる時間の割合が大きくなることが分かった。
【0049】
また、
図9は、性別に分けて、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒状態となる時間を除いた時間の36%未満の場合、36%以上52%未満の場合、52%以上の場合のそれぞれにおいて、アンケート調査によって軽度不調状態と判定される項目数毎の対象者の割合を示している。
【0050】
睡眠健康関連調査では、
図9に示すように、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒状態となる時間を除いた時間の36%未満の場合に、36%以上52%未満の場合、52%以上の場合と比較して軽度不調状態と判定される項目数が少なくなる傾向がる。即ち、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒状態となる時間を除いた時間の36%未満の場合には、睡眠の質が良好であるとの推定が可能である。
【0051】
このように、本実施形態の睡眠判定システムによれば、就寝後の入眠から起床の直前の覚醒までの間の睡眠の状態である睡眠状態を取得する睡眠状態取得部10と、睡眠状態取得部10によって取得した睡眠状態における睡眠の深さを取得する睡眠深度取得部31と、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態における、睡眠深度取得部31によって取得した所定以上の睡眠の深さである深睡眠の状態を抽出する深睡眠状態抽出部32と、睡眠状態取得部において取得した睡眠状態の全体における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、睡眠状態取得部10において取得した睡眠状態の後半における、深睡眠状態抽出部32によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する睡眠判定部33と、を備えている。
【0052】
また、本実施形態の睡眠判定方法によれば、就寝後の入眠から起床の直前の覚醒までの間の睡眠の状態である睡眠状態を取得する睡眠状態取得工程と、睡眠状態取得工程によって取得した睡眠状態における睡眠の深さを取得する睡眠深度取得工程と、睡眠状態取得工程において取得した睡眠状態における、睡眠深度取得工程によって取得した所定以上の睡眠の深さである深睡眠の状態を抽出する深睡眠状態抽出工程と、睡眠状態取得工程において取得した睡眠状態の全体における、深睡眠状態抽出工程によって抽出した深睡眠となる時間と、睡眠状態取得工程によって取得した睡眠状態の後半部分における、深睡眠状態抽出工程によって抽出した深睡眠となる時間と、の対比に基づいて睡眠の質を判定する睡眠判定工程と、を備えている。
【0053】
これにより、睡眠の質が良好でないと判定された場合に、職業上のストレス等、対象者の自覚がない心身の軽度の不調を推定することが可能となり、心身の軽度の不調が推定された対象者に対して生活様式および食生活等の心身の不調の回復を促す情報を提供することが可能となり、対象者の健康の促進を図ることが可能となる。
【0054】
また、睡眠判定部33は、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒状態となる時間を除いた時間の36%未満の場合に、睡眠の質が良好であると判定する、ことが好ましい。
【0055】
また、睡眠判定工程は、睡眠状態の後半部における深睡眠となる時間が、睡眠状態の後半部における中途覚醒状態となる時間を除いた時間の36%未満の場合に、睡眠の質が良好であると判定する、ことが好ましい。
【0056】
これにより、睡眠健康関連調査の結果から導き出された結果を基準として、対象者の睡眠の質を判定するため、より正確な睡眠の質の判定が可能となる。
【0057】
また、睡眠判定部33は、睡眠の質を判定する基準として、睡眠状態の全体における深睡眠の割合を含む、ことが好ましい。
【0058】
また、睡眠判定工程は、睡眠の質を判定する基準として、睡眠状態の全体における深睡眠の割合を含む、ことが好ましい。
【0059】
これにより、睡眠状態の後半部における深睡眠の割合に加えて、睡眠状態の全体における深睡眠の割合を、睡眠の判定の基準とすることで、より正確に睡眠の質の判定が可能となる。
【0060】
また、睡眠状態取得部10は、就寝している対象者の心拍数および身体の動きを検出することによって就寝している対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得する、ことが好ましい。
【0061】
また、睡眠状態取得工程は、就寝している対象者の心拍数および身体の動きを検出することによって就寝している対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得する、ことが好ましい。
【0062】
これにより、対象者が手首等の身体に取り付けるウェアラブル端末によって睡眠の質を取得することが可能となるので、対象者の睡眠の質を容易に取得することが可能となる。
【0063】
尚、前記実施形態では、睡眠状態取得部10としてのウェアラブル端末によって対象者の心拍数および身体の動きを検出することによって対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得するようにしたものを示したが、これに限られるものではない。対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得することが可能であれば、対象者の就寝後における身体の動き、体温、心拍数、呼吸数、脳波のうち、少なくとも1つを検出する機器を用いればよい。睡眠状態取得部としては、例えば、対象者の額に取り付けられた状態で使用される簡易型の脳波計であってもよく、簡易型の脳波計によって検出された脳波に基づいて、対象者の入眠、覚醒および睡眠の深さを取得するようにしてもよい。
【0064】
また、前記実施形態では、ウェアラブル端末に無線接続されたサーバにおいて、睡眠の質の判定を行うようにしたものを示したが、これに限られるものではない。例えば、睡眠状態取得部に対して無線または有線で接続された機器において、睡眠の質の判定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 睡眠判定システム
10 睡眠状態取得部
31 睡眠深度取得部
32 深睡眠状態抽出部
33 睡眠判定部