IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニ・チャーム株式会社の特許一覧

特開2024-115408リサイクルパルプ繊維を製造する方法、及び高吸水性ポリマーを分解する方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115408
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】リサイクルパルプ繊維を製造する方法、及び高吸水性ポリマーを分解する方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 5/02 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
D21C5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021088
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝義
(72)【発明者】
【氏名】市浦 英明
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA11
4L055AC09
4L055AG03
4L055AH50
4L055EA19
4L055EA30
(57)【要約】
【課題】高吸水性ポリマーを簡易に分解して除去し、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる、衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプ繊維を製造する方法を提供すること。
【解決手段】衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプ繊維を製造する方法であって、上記混合物を準備する準備ステップ、上記混合物を含む水溶液に、還元剤を添加せず、遷移金属イオンを生成する化合物を添加することにより、上記高吸水性ポリマーを分解して、上記パルプ繊維から上記リサイクルパルプ繊維を形成する高吸水性ポリマー分解ステップ、上記リサイクルパルプ繊維を回収するリサイクルパルプ繊維回収ステップ、を含むことを特徴とする方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプ繊維を製造する方法であって、
前記混合物を準備する準備ステップ、
前記混合物を含む水溶液に、還元剤を添加せず、遷移金属イオンを生成する化合物を添加することにより、前記高吸水性ポリマーを分解して、前記パルプ繊維から前記リサイクルパルプ繊維を形成する高吸水性ポリマー分解ステップ、
前記リサイクルパルプ繊維を回収するリサイクルパルプ繊維回収ステップ、
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記準備ステップにおいて、前記混合物が、前記高吸水性ポリマーとして、複数種の高吸水性ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、前記混合物を含む水溶液に、酸化剤を添加しない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、前記混合物を含む水溶液に、酸化剤を、1.0g/L以下の比率で添加する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、前記混合物を含む水溶液に、540nm以下の波長を含む光を照射する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、前記混合物を含む水溶液に、540nm以下の波長を含む光を照射しない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記リサイクルパルプ繊維回収ステップの後に、前記リサイクルパルプ繊維をキレート剤で処理し、前記リサイクルパルプ繊維に残存する前記遷移金属イオンを低減するリサイクルパルプ洗浄ステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記リサイクルパルプ繊維が、300以上の重合度を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記リサイクルパルプ繊維が、前記パルプ繊維を基準として、300以下の重合度の低下量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記リサイクルパルプ繊維回収ステップにおいて、分解された前記高吸水性ポリマーをさらに回収する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記リサイクルパルプ繊維回収ステップにおいて、前記リサイクルパルプ繊維及び分解された前記高吸水性ポリマーを含む前記水溶液を固液分離することにより、分解された前記高吸水性ポリマーをさらに回収する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶液から、分解された前記高吸水性ポリマーを、その分子量に応じて回収する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
分解された前記高吸水性ポリマーを、接着用途、コーティング用途、衣類の仕上げ用途、水処理用途、腐食抑制用途、又は高吸水性ポリマー用途に再利用する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーの混合物中の前記高吸水性ポリマーを分解する方法であって、
前記混合物を含む水溶液に、還元剤を添加せず、遷移金属イオンを生成する化合物を添加することにより、前記高吸水性ポリマーを分解する高吸水性ポリマー分解ステップ、
を含むことを特徴とする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプ繊維を製造する方法、及び衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーの混合物中の高吸水性ポリマーを分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済みの衛生用品からリサイクルパルプ繊維を回収する検討が行われている。
例えば、特許文献1には、使用後の衛生用品の素材の分離回収が容易で、かつ、安全性の高い衛生用品の処理方法を提供することを目的とする衛生用品の処理方法が開示されている。特許文献1に開示される衛生用品の処理方法は、パルプ繊維及び吸水性樹脂粒子を含む衛生用品の処理方法であって、前記吸水性樹脂粒子を水溶性還元剤と鉄イオン及び/又は銅イオンとを含有する処理液により可溶化処理する工程、及び前記の可溶化処理で得られた組成物から不溶解分を分離する工程を含み、吸水性樹脂粒子の可溶化率が80%以上である。
【0003】
特許文献2には、短時間の常温処理で吸水性ポリマーを分解することができる、生産性およびリサイクル性に優れた吸水性ポリマーの分解方法が開示されている。特許文献2に開示される吸水性ポリマーの分解方法は、吸水性ポリマーと、水、還元剤、および、遷移金属イオンを生成する化合物と、が存在する条件下で吸水性ポリマーを分解する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-116569号公報
【特許文献2】特開2019-131789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される衛生用品の処理方法では、吸水性樹脂粒子を水溶性還元剤の存在下で分解させるものであり、特許文献2に開示される吸水性ポリマーの分解方法においても、吸水性ポリマーを還元剤の存在下で分解させるものである。
特許文献1では、「使用後の衛生用品の素材の分離回収」を目的としているものの、使用後の衛生用品に水溶性還元剤を新たに添加するとともに、分離回収された素材を利用するに当たっては、水溶性還元剤を除去する必要があり、生産性の観点から改良の余地がある。
特許文献2に開示される吸水性ポリマーの分解方法も、特許文献1と同様の問題がある。
【0006】
従って、本開示は、高吸水性ポリマーを簡易に分解して除去することができ、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる、衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプ繊維を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示者らは、衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプ繊維を製造する方法であって、上記混合物を準備する準備ステップ、上記混合物を含む水溶液に、還元剤を添加せず、遷移金属イオンを生成する化合物を添加することにより、上記高吸水性ポリマーを分解して、上記パルプ繊維から上記リサイクルパルプ繊維を形成する高吸水性ポリマー分解ステップ、上記リサイクルパルプ繊維を回収するリサイクルパルプ繊維回収ステップ、を含むことを特徴とする方法を見出した。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る、衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプ繊維を製造する方法は、高吸水性ポリマーを簡易に分解して除去し、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
具体的には、本開示は以下の態様に関する。
[態様1]
衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物からリサイクルパルプ繊維を製造する方法であって、
上記混合物を準備する準備ステップ、
上記混合物を含む水溶液に、還元剤を添加せず、遷移金属イオンを生成する化合物を添加することにより、上記高吸水性ポリマーを分解して、上記パルプ繊維から上記リサイクルパルプ繊維を形成する高吸水性ポリマー分解ステップ、
上記リサイクルパルプ繊維を回収するリサイクルパルプ繊維回収ステップ、
を含むことを特徴とする、上記方法。
【0010】
上記製造方法では、後述するメカニズムにより、還元剤を添加せず、フェントン反応により高吸水性ポリマーを分解することができると考えられる。従って、上記製造方法は、特許文献1及び特許文献2に開示される方法と比較して、高吸水性ポリマーを簡易に分解して除去することができ、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる。
【0011】
[態様2]
上記準備ステップにおいて、上記混合物が、上記高吸水性ポリマーとして、複数種の高吸水性ポリマーを含む、態様1に記載の方法。
【0012】
上記製造方法では、上記混合物が、複数種の高吸水性ポリマーを含む。従って、複数種の高吸水性ポリマーのそれぞれに残存している複数種のラジカル重合開始剤が、フェントン反応における還元剤、酸化剤等として機能することができる。それにより、上記製造方法では、還元剤を添加しなくとも、高吸水性ポリマーを簡易に分解し、除去することができ、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる。
【0013】
[態様3]
上記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、上記混合物を含む水溶液に、酸化剤を添加しない、態様1又は2に記載の方法。
【0014】
上記製造方法では、高吸水性ポリマー中に残存するラジカル重合開始剤が、酸化剤の代替触媒として機能し、例えば、レドックス開始剤における還元剤が過酸化水素を発生させることができると考えられる。その結果、高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、酸化剤を新たに添加する場合には、酸化剤が過剰に存在することに繋がり、分解した高吸水性ポリマーの再重合が発生し、高吸水性ポリマーの分解が阻害されると考えられる。
【0015】
本願発明者が確認したところ、高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、酸化剤を新たに添加した場合には、高吸水性ポリマーの分解が阻害されることが分かった。
以上より、上記製造方法では、上記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、混合物を含む水溶液に酸化剤を添加しないことから、分解した高吸水性ポリマーの再重合が生じ難く、高吸水性ポリマーを簡易に分解し、除去することができ、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる。
【0016】
[態様4]
上記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、上記混合物を含む水溶液に、酸化剤を、1.0g/L以下の比率で添加する、態様1又は2に記載の方法。
【0017】
上記製造方法では、上記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、上記混合物を含む水溶液に酸化剤を所定の比率で添加する。従って、上記方法は、所定の比率における酸化剤が、分解した高吸水性ポリマーの再重合を抑制しつつ、フェントン反応を促進することができる。以上より、上記製造方法は、高吸水性ポリマーを簡易に分解し、除去することができ、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる。
【0018】
[態様5]
上記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、上記混合物を含む水溶液に、540nm以下の波長を含む光を照射する、態様1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
上記製造方法では、高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、上記混合物を含む水溶液に所定の光を照射することから、フェントン反応を促進し、高吸水性ポリマーを簡易に分解し、除去することができ、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる。
【0020】
[態様6]
上記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、上記混合物を含む水溶液に、540nm以下の波長を含む光を照射しない、態様1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0021】
上記製造方法では、高吸水性ポリマー中に残存するラジカル重合開始剤、例えば、レドックス開始剤における還元剤(例えば、アスコルビン酸)が、フェントン反応における還元剤として機能するため、高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、上記混合物を含む水溶液に所定の光を照射しなくとも、フェントンライク反応が進行し、高吸水性ポリマーを分解することができる。従って、上記製造方法は、高吸水性ポリマーを簡易に分解し、除去することができ、リサイクルパルプ繊維の生産性に優れる。
【0022】
[態様7]
上記リサイクルパルプ繊維回収ステップの後に、上記リサイクルパルプ繊維をキレート剤で処理し、上記リサイクルパルプ繊維に残存する上記遷移金属イオンを低減するリサイクルパルプ洗浄ステップをさらに含む、態様1~6のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
上記製造方法は、所定のリサイクルパルプ洗浄ステップをさらに含むことから、形成されるリサイクルパルプ繊維は、灰分率が低くなり、灰分率の制限がある用途、例えば、衛生用品への利用がしやすくなる。
また、上記製造方法に用いられる遷移金属(遷移金属イオン)がリサイクルパルプ繊維を着色させるものである場合には、上記製造方法は、所定のリサイクルパルプ洗浄ステップをさらに含むことから、上記リサイクルパルプ繊維が、白さに優れる傾向にある。
【0024】
[態様8]
上記リサイクルパルプ繊維が、300以上の重合度を有する、態様1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
上記方法では、リサイクルパルプ繊維が所定の重合度を有するので、リサイクルパルプ繊維の変質が少なく、リサイクルパルプ繊維が、パルプ繊維の特性を利用する用途における高い利用価値を有する。
【0026】
[態様9]
上記リサイクルパルプ繊維が、上記パルプ繊維を基準として、300以下の重合度の低下量を有する、態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
上記方法では、リサイクルパルプ繊維が、パルプ繊維を基準として、所定の重合度の低下量を有するので、リサイクルパルプ繊維の変質が少なく、リサイクルパルプ繊維が、パルプ繊維の特性を利用する用途における高い利用価値を有する。
【0028】
[態様10]
上記リサイクルパルプ繊維回収ステップにおいて、分解された上記高吸水性ポリマーをさらに回収する、態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
上記製造方法では、リサイクルパルプ繊維回収ステップにおいて、リサイクルパルプ繊維と、分解された高吸水性ポリマーとの両方を回収する。それにより、上記製造方法は、高吸水性ポリマーを簡易に分解し、除去することができるとともに、リサイクルパルプ繊維を効率よく形成することができることに加えて、分解された高吸水性ポリマーをもリサイクルすることが可能となり、持続可能な開発目標(SDGs)の達成により貢献することができる。
【0030】
[態様11]
上記リサイクルパルプ繊維回収ステップにおいて、上記リサイクルパルプ繊維及び分解された上記高吸水性ポリマーを含む上記水溶液を固液分離することにより、分解された上記高吸水性ポリマーをさらに回収する、態様10に記載の方法。
【0031】
上記方法では、高吸水性ポリマー分解ステップを経た水溶液を固液分離し、リサイクルパルプ繊維と、分解された高吸水性ポリマーとを回収することから、リサイクルパルプ繊維と、分解された高吸水性ポリマーとを効率よく回収することができる。
【0032】
[態様12]
上記水溶液から、分解された上記高吸水性ポリマーを、その分子量に応じて回収する、態様10又は11に記載の方法。
上記方法では、分解された高吸水性ポリマーを、分子量に応じて回収することから、分解された高吸水性ポリマーを、分解された高吸水性ポリマーの分子量に応じて適切な用途にリサイクルすることができる。
【0033】
[態様13]
分解された上記高吸水性ポリマーを、接着用途、コーティング用途、衣類の仕上げ用途、水処理用途、腐食抑制用途、又は高吸水性ポリマー用途に再利用する、態様10~12のいずれか一項に記載の方法。
上記方法では、分解された高吸水性ポリマーを所定の用途に再利用することから、持続可能な開発目標(SDGs)の達成により貢献することができる。
【0034】
[態様14]
衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーの混合物中の上記高吸水性ポリマーを分解する方法であって、
上記混合物を含む水溶液に、還元剤を添加せず、遷移金属イオンを生成する化合物を添加することにより、上記高吸水性ポリマーを分解する高吸水性ポリマー分解ステップ、
を含むことを特徴とする、上記方法。
上記方法は、態様1と同様の効果を有する。
【0035】
本開示に係る、(i)衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物から、リサイクルパルプ繊維を製造する方法(以下、単に「リサイクルパルプ繊維の製造方法」及び「製造方法」と称する場合がある)、及び(ii)高吸水性ポリマーを分解する方法(以下、単に「高吸水性ポリマーの分解方法」と称する場合がある)について、以下、詳細に説明する。なお、高吸水性ポリマーの分解方法は、リサイクルパルプ繊維の製造方法の箇所にて合わせて説明する。
【0036】
[リサイクルパルプ繊維の製造方法]
本開示に係るリサイクルパルプ繊維の製造方法は、以下のステップを含む。
-上記混合物を準備する準備ステップ(以下、「準備ステップ」と称する場合がある)
-上記混合物を含む水溶液に、還元剤を添加せず、遷移金属イオンを生成する化合物を添加することにより、上記高吸水性ポリマーを分解して、上記パルプ繊維から上記リサイクルパルプ繊維を形成する高吸水性ポリマー分解ステップ(以下、「高吸水性ポリマー分解ステップ」と称する場合がある)
-上記リサイクルパルプ繊維を回収するリサイクルパルプ繊維回収ステップ(以下、「リサイクルパルプ繊維回収ステップ」と称する場合がある)
【0037】
本開示に係るリサイクルパルプ繊維の製造方法は、任意ステップとして、以下のステップをさらに含むことができる。
-上記リサイクルパルプ繊維回収ステップの後に、上記リサイクルパルプ繊維をキレート剤で処理し、上記リサイクルパルプ繊維に残存する上記遷移金属イオンを低減するリサイクルパルプ洗浄ステップ(以下、「リサイクルパルプ洗浄ステップ」と称する場合がある)
-上記高吸水性ポリマー分解ステップの前に、高吸水性ポリマーを脱水する脱水ステップ(以下、「脱水ステップ」と称する場合がある)
【0038】
<準備ステップ>
準備ステップでは、衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物を準備する。
上記衛生用品としては、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含むものであれば、特に制限されず、例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む吸収体を備えている衛生用品、例えば、紙おむつ、尿取りパッド、失禁パッド、生理用ナプキン、パンティーライナー、生理用ショーツ、ペットシート等が挙げられる。上記衛生用品は、使用者によって使用された衛生用品であって、使用者の排泄物を吸収した衛生用品、使用者によって使用された衛生用品であって、使用者の排泄物を吸収していない衛生用品、未使用で廃棄された衛生用品、衛生用品製造時の不良品等を含む。
【0039】
また、上記混合物は、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む限り、例えば、パルプ繊維を含むが、高吸水性ポリマーを含まない衛生用品に由来するパルプ繊維を含むことができる。そのような衛生用品として、例えば、生理用ナプキン、生理用ショーツ、パンティーライナー、ベッドシート等が挙げられる。
【0040】
上記パルプ繊維としては、衛生用品に用いられるものであれば特に制限されず、例えば、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、架橋パルプ、非木材パルプ等が挙げられる。
【0041】
上記高吸水性ポリマーとしては、衛生用品に用いられるものであれば特に制限されず、例えば、デンプン系、セルロース系、合成ポリマー系の高吸水性ポリマーが挙げられる。デンプン系又はセルロース系の高吸水性ポリマーとしては、例えば、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、デンプン-アクリロニトリル共重合体のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物等が挙げられる。合成ポリマー系の高吸水性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、無水マレイン酸塩系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレンオキシド系、ポリアスパラギン酸塩系、ポリグルタミン酸塩系、ポリアルギン酸塩系、デンプン系、セルロース系等の高吸水性ポリマー(SAP,Super Absorbent Polymer)等が挙げられる。
【0042】
準備ステップでは、上記混合物が、上記高吸水性ポリマーとして、複数種の高吸水性ポリマーを含むことが好ましく、そして複数種の高級水性ポリマーが、残存している、複数種のラジカル重合開始剤を含むことがより好ましい。それにより、複数種の高吸水性ポリマーのそれぞれに残存している複数種のラジカル重合開始剤が、フェントン反応における還元剤、酸化剤等として機能することができる。それにより、上記製造方法において、還元剤を添加しなくとも、高吸水性ポリマーを簡易に分解し、除去しやすくなる。
【0043】
上記複数種の高吸水性ポリマーは、複数種の衛生用品、例えば、同一サプライヤーの異種の衛生用品の組み合わせ(例えば、サプライヤーAの幼児用おむつ及びサプライヤーAの大人用おむつ)、異なるサプライヤーの同一種の衛生用品(例えば、サプライヤーA及びBの幼児用おむつ、サプライヤーA及びBの大人用おむつ)等に由来することができる。
また、本開示に係る製造方法のスケールを大きくすることにより、例えば、地方公共団体が衛生用品のリサイクルを大規模に進めることにより、上記混合物が、複数種の高吸水性ポリマーを含みやすくなる。
【0044】
上記衛生用品から、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物を得る方法としては、特に制限されず、例えば、衛生用品(例えば、使用済みの衛生用品)を切断し、吸収体から、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物を取得することにより得ることができる。上記混合物は、次いで、水に分散させることにより水溶液とすることができる。
また、例えば、衛生用品(例えば、使用済みの衛生用品)を水中で切断し、吸収体内の、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物を含む水溶液を得ることができる。
【0045】
上記水溶液では、高吸水性ポリマーは、脱水剤を用いて脱水されていても、そして脱水剤を用いて脱水されていなくともよい。高吸水性ポリマーが脱水されていない場合には、高吸水性ポリマーの脱水ステップを省略することができるとともに、得られるリサイクルパルプ繊維が、高吸水性ポリマー及びその残渣、並びに脱水剤及びその残渣を含みにくい。高吸水性ポリマーが脱水されている場合には、上記水溶液を所定の水分率まで下げることができ、水溶液の濃度を高く保持しつつ、高吸水性ポリマーを効率的に分解し、除去することができる。
【0046】
高吸水性ポリマーが脱水剤により脱水されている場合には、上記高吸水性ポリマーは、好ましくは50倍以下、より好ましくは30倍以下、さらに好ましくは25倍以下、そしてさらにいっそう好ましくは20倍以下の吸水倍率を有するように脱水されていることが好ましい。また、高吸水性ポリマーが脱水されている場合には、上記高吸水性ポリマーは、好ましくは1倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上、そしてさらにいっそう好ましくは4倍以上の吸水倍率を有するように脱水されていることが好ましい。それにより、水溶液の濃度を高く保持しつつ、高吸水性ポリマーを効率的に分解し、除去することができる。
なお、脱水剤については、所望による脱水ステップの箇所で説明する。
【0047】
高吸水性ポリマーが脱水剤により脱水されている場合には、上記水溶液は、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、そしてさらに好ましくは3.0質量%以下の固形分濃度を有する。また、上記水溶液は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、そしてさらに好ましくは1.0質量%以上の固形分濃度を有する。それにより、上記水溶液の濃度を高く保持しつつ、高吸水性ポリマーを効率的に分解し、除去することができる。なお、上記固形分濃度は、上記水溶液を撹拌し続ける場合に特に好ましい。
【0048】
高吸水性ポリマーが脱水剤により脱水されていない場合には、上記水溶液は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.075質量%以下、そしてさらに好ましくは0.05質量%以下の固形分濃度を有する。また、上記水溶液は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、そしてさらに好ましくは0.03質量%以上の固形分濃度を有する。それにより、高吸水性ポリマーを効率よく分解し、除去することができる。なお、上記固形分濃度は、上記水溶液を撹拌し続ける場合に特に好ましい。
【0049】
本明細書では、上記固形分濃度(質量%)は、100から水分率(質量%)をマイナスすることにより算出する。
水分率は、ケット社の赤外線水分計FD-720を用いて測定する。具体的には、FD-720の試料皿に約5gの試料を置き、設定温度を150℃とし、自動停止モードを選択して、試料の水分率(質量%)を測定する。
【0050】
<高吸水性ポリマー分解ステップ>
高吸水性ポリマー分解ステップでは、上記混合物を含む水溶液に、還元剤を添加せず、遷移金属イオンを生成する化合物を添加することにより、上記高吸水性ポリマーを分解して、上記パルプ繊維から上記リサイクルパルプ繊維を形成する。
【0051】
上記水溶液中における上記混合物の比率は、本開示の効果を有する限り、特に制限されるものではないが、高吸水性ポリマーの分解性、リサイクルパルプ繊維の形成性等の観点から、好ましくは1.0~10.0g/L、より好ましくは2.0~8.0g/L、そしてさらに好ましくは3.0~6.0g/L(乾燥状態における混合物の質量/水溶液の体積)である。
なお、乾燥状態における混合物の質量は、混合物を110℃で3時間乾燥させたものを意味する。
【0052】
上記遷移金属イオンとしては、フェントン反応を進行させることが知られているものを制限なく採用することができ,例えば、Fe2+、Fe3+、Cu1+、Cu2+、Ag+、Al3+、Ni2+、Mn2+等が挙げられる。
上記遷移金属イオンを生成する化合物としては、フェントン反応を進行させることが知られているものを特に制限なく採用することができ、例えば、上述の遷移金属イオンを生成することができる化合物、特に、鉄イオンを生成する化合物、銅イオンを生成させる化合物等が挙げられる。
【0053】
上記鉄イオンを生成する化合物としては、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、乳酸鉄(II)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、リン酸鉄(II)、リン酸鉄(III)、ヨウ化鉄(II)、ヨウ素酸鉄、フェリシサン化カリウム、フェリシサン化ナトリウム、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、シアン化鉄(II)、シュウ酸鉄、臭化鉄、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(II及び水酸化鉄(III)等が挙げられる。上記鉄イオンを生成する化合物は、非水和物又は水和物(例えば、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物、五水和物、六水和物、七水和物、八水和物若しくは九水和物)であることができる。
【0054】
上記銅イオンを生成させる化合物としては、例えば、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、塩化銅(II)、塩化銅(III)、硫酸銅(I)及び硫酸銅(II)等が挙げられる。上記銅イオンを生成させる化合物は、非水和物又は水和物(例えば、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物、五水和物、六水和物、七水和物、八水和物又は九水和物)であることができる。
【0055】
上記遷移金属イオンを生成する化合物は、高吸水性ポリマーを分解させる観点から、乾燥状態における高吸水性ポリマー100質量部に対し、好ましくは0.0005質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上、さらに好ましくは0.015質量部以上、そしてさらにいっそう好ましくは0.03質量部以上の比率で用いられる。
なお、乾燥状態における高吸水性ポリマーは、高吸水性ポリマーを110℃で3時間乾燥させることにより得ることができる。
【0056】
また、上記遷移金属イオンを生成する化合物は、高吸水性ポリマーを効率よく分解させるとともに、回収されるリサイクルパルプ繊維の灰分を下げる観点、着色を抑制する観点等から、高吸水性ポリマー100質量部に対し、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、そしてさらにいっそう好ましくは10質量部以下の比率で用いられる。
【0057】
高吸水性ポリマー分解ステップにおいて添加されない上記還元剤としては、フェントン反応を進行させることが知られている還元剤が挙げられ、例えば、亜硫酸及びその塩、亜硫酸水素及びその塩、亜リン酸及びその塩、次亜リン酸及びその塩、チオ硫酸及びその塩、ギ酸、シュウ酸、エリトルビン酸、アミン、アスコルビン酸及びその塩、並びにその誘導体(例えば、L-アスコルビン酸及びその塩、イソアスコルビン酸及びその塩、アスコルビン酸のアルキルエステル等)、リン酸エステル、硫酸エステル等が挙げられる。
なお、上述のフェントン反応を進行させることが知られている還元剤は、上記準備ステップにおいても添加されないことが好ましい。
【0058】
本開示において、還元剤を添加せずに、遷移金属イオンを生成する化合物のみで高吸水性ポリマーが分解されるメカニズムは、以下の通りと考えられる。
高吸水性ポリマーは、高吸水性ポリマーを製造する際に、ラジカル重合開始剤(例えば、ジハロゲン、アゾ化合物、過硫酸塩、有機過酸化物、レドックス開始剤等)を使用した上で製造されることが一般的であり、製造された高吸水性ポリマー中に、当該ラジカル重合開始剤の一部が残存していると考えられる。
高吸水性ポリマーに残存しているラジカル重合開始剤のうち、過硫酸塩、有機過酸化物、アゾ化合物等が、フェントン反応における酸化剤(例えば、過酸化水素)の代替触媒として機能すると考えられる。
【0059】
また、高吸水性ポリマーに残存しているラジカル重合開始剤がレドックス開始剤である場合には、レドックス開始剤における還元剤(例えば、アスコルビン酸)が、フェントン反応における還元剤として機能すると考えられる。なお、フェントン反応における還元剤は、特許文献1の段落[0030]に記載されるように、過酸化水素を生成し、当該過酸化水素は、フェントン反応においてヒドロキシラジカルを生成させることが知られている。フェントン反応により生成したヒドロキシラジカルが、高吸水性ポリマーを酸化分解し、水溶液中に可溶化させることができる。
【0060】
上記高吸水性ポリマー分解ステップでは、上記混合物を含む水溶液に、酸化剤を添加しないことが好ましい。それにより、酸化剤が過剰に存在することにより、分解した高吸水性ポリマーの再重合が発生し、高吸水性ポリマーの分解が阻害されることを抑制することができる。
【0061】
高吸水性ポリマー分解ステップにおいて添加されないことが好ましい上記酸化剤としては、フェントン反応を進行させることが知られている酸化剤が挙げられ、例えば、過硫酸塩(例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等)、過酸化物(例えば、過酸化水素、アルキルハイドロパーオキサイド、過エステル等)、過塩素酸塩(例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、過ヨウ素酸塩(例えば、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム等)、過炭酸塩、過硼酸塩、過酢酸等が挙げられる。
【0062】
上記高吸水性ポリマー分解ステップでは、上記混合物を含む水溶液に、分解した高吸水性ポリマーの再重合が発生しにくく且つフェントン反応を促進させる比率で、上述のフェントン反応を進行させることが知られている酸化剤を添加してもよい。そのような酸化剤の比率としては、好ましくは0.0g/L超且つ1.0g/L以下、より好ましくは0.0g/L超且つ0.5g/L以下、そしてさらに好ましくは0.0g/L超且つ0.2g/L以下(酸化剤/水溶液)が挙げられる。
なお、上記酸化剤の比率は、例えば、1.0g/Lの場合、混合物を含む水溶液1.0L当たり、酸化剤1.0gを添加することを意味する。
【0063】
なお、上記フェントン反応を進行させることが知られている酸化剤は、上記準備ステップにおいても添加されないか、又は添加される場合には、高吸水性ポリマー分解ステップの開始時点において、好ましくは1.0g/L以下、より好ましくは0.5g/L以下、そしてさらに好ましくは0.2g/L以下(酸化剤/水溶液)の濃度になっていることが好ましい。分解した高吸水性ポリマーの再重合を抑制しつつ、フェントン反応を促進させる観点からである。
【0064】
上記高吸水性ポリマー分解ステップでは、混合物を含む水溶液に、540nm以下の波長を含む光を照射することができる。それにより、フェントン反応、特に、遷移金属イオンの還元を促進することができ、ひいては高吸水性ポリマーを簡易に分解し、除去することができる。
【0065】
上記光は、可視光線と、紫外線とを含むことができる。上記可視光線は、380nm超の波長を有する。上記紫外線としては、380nm以下の波長を含み、好ましくは100nm以上、より好ましくは150nm以上、そしてさらに好ましくは160nm以上のものを含む。
【0066】
上記光は、回収されるリサイクルパルプ繊維の変質、例えば、重合度の低下を抑制する観点からは、可視光線であることが好ましい。上記光が紫外線を含む場合には、紫外線によりヒドロキシラジカルが発生して、パルプ繊維(ひいてはリサイクルパルプ繊維)の重合度等が低下するからである。
【0067】
上記光は、回収されるリサイクルパルプを変質、例えば、重合度を低下させる場合には、可視光線及び紫外線を含むことが好ましい。上記光が紫外線を含む場合には、紫外線によりヒドロキシラジカルが発生して、パルプ繊維(ひいてはリサイクルパルプ繊維)の重合度等を低下させることができるからである。
【0068】
上記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、混合物を含む水溶液に光を照射する場合には、フェントン反応を進行させる観点から、高吸水性ポリマー分解ステップにおける積算光強度は、好ましくは2.0kJ/L以上、そしてより好ましくは5.0kJ/L以上(積算光強度/水溶液)である。
上記高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、混合物を含む水溶液に光を照射する場合には、効率の観点から、高吸水性ポリマー分解ステップにおける積算光強度は、好ましくは10.0kJ/L以下(積算光強度/水溶液)である。
【0069】
上記高吸水性ポリマー分解ステップでは、上記混合物を含む水溶液に、540nm以下の波長を含む光を照射しなくともよい。本開示に係る製造方法では、レドックス開始剤における還元剤(例えば、アスコルビン酸)が、フェントン反応における還元剤として機能するため、高吸水性ポリマー分解ステップにおいて、上記混合物を含む水溶液に所定の光を照射しなくとも、フェントンライク反応が進行し、高吸水性ポリマーを分解することができるためである。
【0070】
なお、本明細書において、光を照射しないとは、高吸水性ポリマー分解ステップにおける積算光強度が、好ましくは2.0kJ/L未満、そしてより好ましくは1.0kJ/L未満(積算光強度/水溶液)であることを意味する。
【0071】
上記高吸水性ポリマー分解ステップは、好ましくは、0.5~3.0時間、そして好ましくは0.5~1.0時間の間実施することができる。また、上記高吸水性ポリマー分解ステップは、加温せず、例えば、室温、外気温下等で実施することができ、そしてフェントン反応を促進するため、加温して、例えば、40~60℃に加温して実施してもよい。
【0072】
<リサイクルパルプ繊維回収ステップ>
リサイクルパルプ繊維回収ステップでは、リサイクルパルプ繊維を回収する。
リサイクルパルプ繊維回収ステップでは、例えば、上記高吸水性ポリマー分解ステップを経た水溶液、すなわち、分解された高吸水性ポリマー及びリサイクルパルプ繊維を含む水溶液から、例えば、複数の開口を有するスクリーンを用いて、リサイクルパルプ繊維を回収することができる。
【0073】
上記リサイクルパルプ繊維は、好ましくは300以上、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上、さらにいっそう好ましくは450以上、そしてさらにいっそう好ましくは500以上の重合度を有する。それにより、リサイクルパルプ繊維の変質が少なく、リサイクルパルプ繊維が、パルプ繊維の特性を利用する用途における高い利用価値を有する。
【0074】
上記リサイクルパルプ繊維は、高吸水性ポリマー分解ステップ前のパルプ繊維を基準として、好ましくは300以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは200以下、そしてさらにいっそう好ましくは150以下の重合度の低下量を有する。それにより、リサイクルパルプ繊維の変質が少なく、リサイクルパルプ繊維が、パルプ繊維の特性を利用する用途における高い利用価値を有する。
【0075】
なお、本明細書では、パルプ繊維及びリサイクルパルプ繊維(以下、単に「パルプ繊維」と称する場合がある)の重合度:DPは、以下の通り測定する。
(1)JIS 8215:1998に規定される「セルロース希薄溶液-極限粘度数測定方法-銅エチレンジアミン法」の「6.4.1 粘度比」に従って、パルプ繊維の粘度比ηr(=η/η0)を測定する。
【0076】
(2)以下の式を用いて、パルプ繊維の重合度:DPを算出する。
比粘度:ηsp=ηr-1
固有粘度:[η]=ηsp/(100×c(1+0.28ηsp))
重合度:DP=175×[η]
なお、上述の式は、木質科学実験マニュアル(日本木材学会編、文永堂出版、2000年)第101ページの記載に基づくものであり、cは、セルロース濃度(g/mL)を意味する。
【0077】
上記リサイクルパルプ繊維は、好ましくは0.075mmol/g以下、より好ましくは0.070mmol/g以下、さらに好ましくは0.065mmol/g以下、そしてさらにいっそう好ましくは0.060mmol/g以下のカルボキシル基量を有する。それにより、リサイクルパルプ繊維の変質が少なく、リサイクルパルプ繊維が、パルプ繊維の特性を利用する用途における高い利用価値を有する。
【0078】
上記リサイクルパルプ繊維は、高吸水性ポリマー分解ステップ前のパルプ繊維を基準として、好ましくは0.035mmol/g以下、より好ましくは0.030mmol/g以下、さらに好ましくは0.025mmol/g以下、そしてさらにいっそう好ましくは0.020mmol/g以下のカルボキシル基の増加量を有する。それにより、リサイクルパルプ繊維の変質が少なく、リサイクルパルプ繊維が、パルプ繊維の特性を利用する用途における高い利用価値を有する。
【0079】
なお、本明細書では、パルプ繊維及びリサイクルパルプ繊維(以下、単に「パルプ繊維」と称する場合がある)のカルボキシル基量:C(mmol/g)は、以下の通り測定する。
(1)脱イオン水170mLを充填した容器に、パルプ繊維約0.4gを添加し、パルプ繊維を脱イオン水に分散させる。
(2)容器に、0.01M NaCl 10mLを加える。
(3)容器に、0.1M HClを添加し、pH2.8に調整する。
【0080】
(4)容器に、0.05M NaOHを、0.1mL/分~0.2mL/分の速度で、pH11になるまで添加し、容器の内容物の電気伝導度を追跡する。
(5)0.05M NaOHの添加量をX軸にプロットし、電気伝導度をY軸にプロットし、電気伝導度が一定となる点の0.05M NaOHの添加量:V(mL)を求める。
(6)パルプ繊維をろ過により回収し、その絶乾質量:m1(g)を測定する。
【0081】
(7)パルプ繊維のカルボキシル基量:C(mmol/g)を、次の式:
C(mmol/g)=(V×0.05/1000)/m1
により算出する。
なお、pHは、アズワン株式会社製、pHashion(ファシオン)pHメーター,C-62を用いて測定する。また、電気伝導度は、東亜ディーケーケー株式会社製、ポータブル電気伝導度計(CM-31P型)を用いて測定する。
【0082】
本開示に係る製造方法では、リサイクルパルプ繊維回収ステップにおいて、リサイクルパルプ繊維に加えて、分解された高吸水性ポリマーをさらに回収することができる。それにより、分解された高吸水性ポリマーをリサイクルすることが可能となり、持続可能な開発目標(SDGs)の達成により貢献することができる。
なお、当該製造方法は、「衛生用品を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物から、リサイクルパルプ繊維及び分解された高吸水性ポリマーを製造(回収)する方法」とも称することができる。
【0083】
上記分解された高吸水性ポリマーの回収は、当技術分野で公知の方法により実施することができ、例えば、高吸水性ポリマー分解ステップを経た水溶液を固液分離し、リサイクルパルプ繊維を含む固形成分と、分解された高吸水性ポリマーを含む液体成分とに分離することにより行うことができる。
また、分解された高吸水性ポリマーを含む液体成分から、分解された高吸水性ポリマーを回収する方法としては、水分の蒸発、ろ過、水抽出等が挙げられる。
【0084】
また、高吸水性ポリマー分解ステップを経た水溶液、又は分解された高吸水性ポリマーを含む液体成分から、分解された高吸水性ポリマーを回収するに当たって、分解された高吸水性ポリマーを、その分子量に応じて回収することもできる。それにより、分解された高吸水性ポリマーを、分子量に応じて適切な用途にリサイクルすることができる。
【0085】
分子量に応じた回収としては、公知の技術を制限なく採用することができ、例えば、精密濾過膜を用いた回収が挙げられる。また、分子量に応じた回収としては、分別沈殿法(例えば、非溶剤添加法)、分別溶解法(例えば、カラム法)、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)、溶解測度法、超遠心法、吸着法、分子蒸留法、拡散法、熱拡散法等が挙げられる。
なお、上記分子量としては、数平均分子量、重量平均分子量等が挙げられる。
【0086】
上記分解された高吸水性ポリマーは、例えば、接着用途、コーティング用途、衣類の仕上げ用途、水処理用途、腐食抑制用途、又は高吸水性ポリマー用途に再利用することができる。
上記接着用途としては、例えば、紙、ペーパータオル、トイレットペーパー等のプライを接着するための接着剤が挙げられる。また、上記接着用途としては、ペーパーコアと、紙、ペーパータオル、トイレットペーパー等との接着剤が挙げられる。
【0087】
上記コーティング用途としては、コーティングの原料が挙げられる。
上記高吸水性ポリマー用途としては、上記分解された高吸水性ポリマーを、他のアクリルモノマー、ヒドロキシル基を含有するアクリルモノマー等とともに再重合し、高吸水性ポリマーを形成することが挙げられる。また、上記高吸水性ポリマー用途において形成された高吸水性ポリマーは、高吸水性ポリマーが通常用いられる分野、例えば、吸収性物品に使用することができる。
【0088】
分解された高吸水性ポリマーの回収及び再利用等については、US2021/053028A、WO2021/042118A、WO2021/257431A、WO2021/257432A、WO2022/081523A、WO2022/081451A、WO2022/093672A等に開示されている。
【0089】
<リサイクルパルプ洗浄ステップ>
本開示に係る製造方法は、任意ステップとして、上記リサイクルパルプ繊維回収ステップの後に、上記リサイクルパルプ繊維をキレート剤で処理し、上記リサイクルパルプ繊維に残存する遷移金属(遷移金属イオン)を低減するリサイクルパルプ洗浄ステップを含むことができる。それにより、形成されるリサイクルパルプ繊維は、灰分率が低くなる傾向があることから、灰分率の制限がある用途、例えば、衛生用品への利用がしやすくなる。また、上記製造方法に用いられる遷移金属(遷移金属イオン)がリサイクルパルプ繊維を着色させるものである場合には、形成されるリサイクルパルプ繊維が、遷移金属イオンに由来する着色を含みにくくなり、ひいては白さに優れる傾向がある。
【0090】
上記キレート剤としては、遷移金属イオンを捕捉することができるものであれば特に制限されず、例えば、カルボキシ基又はその塩を含むキレート剤、ホスホン酸基若しくはその塩又はリン酸基若しくはその塩を含むキレート剤等が挙げられる。
【0091】
カルボキシ基又はその塩を含むキレート剤としては、水酸基を有するヒドロキシカルボン酸又はその塩、水酸基を有しないカルボン酸又はその塩が挙げられる。
水酸基を有するヒドロキシカルボン酸又はその塩としては、クエン酸又はその塩、乳酸又はその塩、没食子酸又はその塩、酒石酸又はその塩等が挙げられる。
【0092】
水酸基を有しないカルボン酸又はその塩としては、エチレンジアミンテトラ酢酸又はその塩、ジエチレントリアミンペンタ酢酸又はその塩、ヒドロキシエチル-イミノ二酢酸又はその塩、1,2-ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸又はその塩、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸又はその塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、β-アラニンジ酢酸又はその塩、アスパラギン酸ジ酢酸又はその塩、メチルグリシンジ酢酸又はその塩、イミノジコハク酸又はその塩、セリンジ酢酸又はその塩、アスパラギン酸又はその塩、グルタミン酸又はその塩、ピロメリット酸又はその塩、ベンゾポリカルボン酸又はその塩、シクロペンタンテトラカルボン酸又はその塩、カルボキシメチルオキシサクシネート、オキシジサクシネート、マレイン酸誘導体、シュウ酸又はその塩、マロン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、グルタル酸又はその塩、アジピン酸又はその塩等が挙げられる。
【0093】
ホスホン酸基若しくはその塩又はリン酸基若しくはその塩を含むキレート剤としては、メチルジホスホン酸又はその塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)又はその塩、1-ヒドロキシエチリデン-1、1-ジホスホン酸又はその塩、ニトリロトリスメチレンホスホン酸又はその塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)又はその塩、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)又はその塩、プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)又はその塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)又はその塩、トリエチレンテトラミンヘキサ(メチレンホスホン酸)又はその塩、トリアミノトリエチルアミンヘキサ(メチレンホスホン酸)又はその塩、トランス-1、2-シクロヘキサンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)又はその塩、グリコールエーテルジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)又はその塩、テトラエチレンペンタミンヘプタ(メチレンホスホン酸)又はその塩、メタリン酸又はその塩、ピロリン酸又はその塩、トリポリリン酸又はその塩、ヘキサメタリン酸又はその塩等が挙げられる。
【0094】
上記リサイクルパルプ洗浄ステップにおいて、キレート剤は、絶乾状態におけるリサイクルパルプ繊維に対して、好ましくは0.1~15.0倍量(質量比)、より好ましくは0.5~10.0倍量(質量比)、そしてさらに好ましくは1.0~8.0倍量(質量比)添加される。
【0095】
上記リサイクルパルプ洗浄ステップは、水溶液中で、リサイクルパルプ繊維と、キレート剤とを、所望により撹拌しながら接触させることにより実施することができる。上記接触は、例えば、5分~10時間、好ましくは30分~5時間の間実施することができる。
また、上記リサイクルパルプ洗浄ステップは、加温せず、例えば、室温、外気温下で実施することができ、そしてリサイクルパルプ繊維の洗浄を促進するため、加温して、例えば、40~60℃に加温して実施してもよい。
【0096】
<脱水ステップ>
本開示に係る製造方法は、任意ステップとして、上記高吸水性ポリマー分解ステップの前に、高吸水性ポリマーを脱水する脱水ステップをさらに含むことができる。それにより、高吸水性ポリマーに含まれる排泄物の量を低減することができるとともに、高吸水性ポリマーの粘度、ひいてはパルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物を含む水溶液の粘度を下げることができ、例えば、当該水溶液の水分率が低い状態(固形分が高い状態)において上記高吸水性ポリマー分解ステップを実施することができる。
【0097】
脱水ステップは、例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む混合物を含む水溶液に脱水剤を添加する、脱水剤を含む水溶液に、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー(又は衛生用品そのもの)を浸漬することにより実施することができる。
【0098】
上記脱水剤としては、酸(例えば、無機酸及び有機酸)、石灰、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。上記酸は、リサイクルパルプ繊維に灰分を残留させにくいことから好ましい。上記脱水剤として酸を用いる場合は、上記水溶液は、好ましくは2.5以下、そしてより好ましくは1.3~2.4のpHを有する。それにより、高吸水性ポリマーの吸水能力を十分に低下させることができ、設備の腐食のおそれが少なく、そして排水処理時の中和処理に多くのアルカリ薬品が必要となりにくくなる。
【0099】
上記無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸が挙げられるが、塩素を含まないこと、コスト等の観点から硫酸が好ましい。上記有機酸としては、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、アスコルビン酸等が挙げられるが、排泄物に含まれる金属イオンと錯体を形成可能な酸、例えば、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシカーボネート系有機酸が特に好ましい。なお、排泄物に含まれる金属イオンとしては、カルシウムイオンが挙げられる。排泄物に含まれる金属イオンと錯体を形成可能な酸のキレート効果により、排泄物中の金属イオンがトラップされ、除去可能であるためである。また、クエン酸は、その洗浄効果により、高い汚れ成分除去効果が期待できる。
【0100】
脱水ステップでは、高吸水性ポリマーが、好ましくは50倍以下、より好ましくは30倍以下、さらに好ましくは25倍以下、そしてさらにいっそう好ましくは20倍以下の吸水倍率を有するように、そして好ましくは1倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上、そしてさらにいっそう好ましくは4倍以上の吸水倍率を有するように、高吸水性ポリマーを脱水する。そうすることにより、水溶液の粘度を所定の範囲に保持するとともに、高吸水性ポリマーを効率よく分解することができる。
【0101】
上記吸水倍率は、以下の通り測定される。
(1)高吸水性ポリマーを、メッシュに入れて5分間吊るし、それらの表面に付着した水分を除去し、その乾燥前質量:m2(g)を測定する。
(2)高吸水性ポリマーを、120℃で10分間乾燥し、その乾燥後質量:m3(g)を測定する。
(3)吸水倍率(g/g)を、次の式:
吸水倍率(g/g)=100×m2/m3
により算出する。
【0102】
なお、所望による脱水ステップは、上記準備ステップの前、上記準備ステップと同時、又は上記準備ステップの後に実施することもできる。それにより、本開示に係る方法を効率よく実施することができる。
【実施例0103】
以下、例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
[例1]
高吸水性ポリマー(住友精化株式会社製,アクアキープ(登録商標),SA60S)2.64gと、バージンパルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)2.64gとに、脱イオン水400mLを吸収させて混合物を形成した。その後、光化学反応装置に、脱イオン水600mLと、上記混合物と、硫酸鉄(II)七水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製,試薬特級)42mg(42mg/L)とを充填した。なお、上記高吸水性ポリマーを、表中では「SAP」と表記する。
なお、光化学反応装置は暗室に設置し、光化学反応装置には、フェントン反応における還元剤及び酸化剤を添加しなかった。
【0104】
植物育成用クリップランプ(株式会社富士倉製,8W,KY-08W-SC)を用いて、積算光強度が10kJ(10kJ/L)となるように、光化学反応装置の内容物に光を照射しながら、2.5時間かけて高吸水性ポリマーを分解させた。
なお、上記植物育成用クリップランプは、450nmにピークを有し、概ね400nm~780nmの波長の光を含んでいる。
光の照射後、光化学反応装置の内容物をステンレス製ふるい(目開き75μm)を用いてろ過し、ろ過物を脱イオン水で洗浄し、ふるい上の内容物を全て回収した。
【0105】
高吸水性ポリマーの残存率:R(質量%)を、次の式:
R(質量%)=100×(n1-n2)/(n3-n4
により算出した。
なお、n1は、フェントン反応後のふるいの内容物の湿潤質量であり、n3は、フェントン反応前の混合物の湿潤質量である。また、n2は、フェントン反応後のパルプ繊維(リサイクルパルプ繊維)の湿潤質量であり、n4は、フェントン反応前のパルプ繊維(バージンパルプ繊維)の湿潤重量である。n2及びn4については、高吸水性ポリマーを除外し、バージンパルプ繊維を用いて上述の例1の工程を行うことにより、それらの湿潤質量を求めた。
また、湿潤質量は、ステンレス製ふるい(目開き75μm)の上に対象物を15分間静置し、水分を除去した質量を意味する。
なお、湿潤質量を測定した理由は、硫酸鉄(II)七水和物に由来する鉄の影響を少なくするためである。
高吸水性ポリマーの残存率を表1に示す。
【0106】
[例2~例9]
パルプ繊維の量、高吸水性ポリマーの量、硫酸鉄(II)七水和物の量及び光の有無を表1に示すとおりにして、高吸水性ポリマーを分解させ、高吸水性ポリマーの残存率を測定した。結果を表1に示す。
なお、例3及び例7については、フェントン反応の前後でパルプ繊維(バージンパルプ繊維,リサイクルパルプ繊維)の質量が実質的に変化していないことから、残存率を100%とし、パルプ繊維の残存率が100質量%であることを意味する。
【0107】
【表1】
【0108】
表1より、酸化剤及び還元剤を添加しなくとも、高吸水性ポリマーの分解が進行することが分かる。また、表1より、高吸水性ポリマーの分解は、光を照射しない状況下でも進行することが分かる。さらに、表1より、パルプ繊維は、その質量が変化しないことが分かる。
【0109】
[例10]
高吸水性ポリマー(住友精化株式会社製,アクアキープ(登録商標),SA60S)2.64gと、バージンパルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)2.64gとに、脱イオン水400mLを吸収させて混合物を形成した。その後、光化学反応装置に、脱イオン水600mLと、上記混合物と、過酸化水素(富士フイルム和光純薬株式会社製,試薬特級,質量分率:30.0~35.5%)1.0g(1.0g/L)とを充填した。なお、過酸化水素を、表中ではH22と表記する。
光化学反応装置は暗室に設置し、光化学反応装置には、フェントン反応における還元剤を添加しなかった。
【0110】
植物育成用クリップランプ(株式会社富士倉製,8W,KY-08W-SC)を用いて、積算光強度が10kJ(10kJ/L)となるように、光化学反応装置の内容物に光を照射しながら、2.0時間かけて高吸水性ポリマーを分解させた。
光の照射後、光化学反応装置の内容物をろ過し、ろ過物を脱イオン水で洗浄し、例1と同様にして高吸水性ポリマーの残存率を測定した。結果を表2に示す。
【0111】
[例11~14]
過酸化水素の量及び硫酸鉄(II)七水和物の量を表2に示すとおりとした以外は、例10と同様にして、高吸水性ポリマーを分解させ、高吸水性ポリマーの残存率を測定した。結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2より、過酸化水素を添加しない例14が、高吸水性ポリマーの分解性に最も優れることが分かる。また、過酸化水素が存在する例10~例13は、例14よりも高吸水性ポリマーの残存率が高く、高吸水性ポリマーの分解が阻害されていることが示唆される。
【0114】
[例15~例19]
高吸水性ポリマー(住友精化株式会社製,アクアキープ(登録商標),SA60S)2.64gと、バージンパルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)2.64gとに、脱イオン水400mLを吸収させて混合物を形成した。その後、光化学反応装置に、脱イオン水600mLと、上記混合物と、表3に示す通りの量の硫酸鉄(II)七水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製,試薬特級)とを充填した。なお、光化学反応装置は暗室に設置し、光化学反応装置には、フェントン反応における還元剤及び酸化剤を添加しなかった。
【0115】
植物育成用クリップランプ(株式会社富士倉製,8W,KY-08W-SC)を用いて、積算光強度が5kJ(5kJ/L)となるように、光化学反応装置の内容物に光を照射しながら、2.5時間かけて高吸水性ポリマーを分解させた。
光の照射後、光化学反応装置の内容物をろ過し、ろ過物を脱イオン水で洗浄し、例1と同様にして高吸水性ポリマーの残存率を測定した。結果を表3に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
[例20~例22]
高吸水性ポリマー(住友精化株式会社製,アクアキープ(登録商標),SA60S)2.64gと、バージンパルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)2.64gとに、脱イオン水400mLを吸収させて混合物を形成した。その後、光化学反応装置に、脱イオン水600mLと、上記混合物と、表4に示す通りの量の硫酸鉄(II)七水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製,試薬特級)とを充填した。なお、光化学反応装置は暗室に設置し、光化学反応装置には、フェントン反応における還元剤及び酸化剤を添加しなかった。
【0118】
植物育成用クリップランプ(株式会社富士倉製,KY-08W-SC,8W光源)又は植物育成用クリップランプ(株式会社富士倉製,15W,KY-15W-SC,15W光源)を用いて、光化学反応装置の内容物に光を照射しながら、2時間かけて高吸水性ポリマーを分解させた。
光の照射後、光化学反応装置の内容物をろ過し、ろ過物を脱イオン水で洗浄してリサイクルパルプ繊維を回収し、リサイクルパルプ繊維の重合度を、本明細書に記載される方法に従って測定した。結果を表4に示す。なお、当初のバージンパルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)の重合度は、668であった。
【0119】
[例23]
例20と同一のバージンパルプ繊維を脱イオン水に分散させ、0.25質量%のパルプ繊維の分散水溶液600mLを形成した。上記分散水溶液600mLを、低圧水銀ランプ(セン特殊光源株式会社製,UVL20PH-6,発光管電力:0.05W/cm2)をセットしたグローバルトップケミカル株式会社製の光化学反応装置(GT500,容器容量:500mL)に充填し、分散水溶液をスターラーで攪拌し続けた。
低圧水銀ランプから、上記分散水溶液に紫外線を2時間照射した後、分散水溶液をろ過し、ろ過物を脱イオン水で洗浄してリサイクルパルプ繊維を回収し、リサイクルパルプ繊維の重合度を測定した。結果を表4に示す。
【0120】
[例24]
分散水溶液に、過酸化水素30mmol/g(過酸化水素/脱イオンに分散させる前のバージンパルプ繊維)をさらに追加した以外は、例23と同様にして、リサイクルパルプ繊維の重合度を測定した。結果を表4に示す。
【0121】
[例25]
低圧水銀ランプを、高圧水銀ランプ(セン特殊光源株式会社製,HL100GL-1,発光管電力:8W/cm2)に変更した以外は、例23と同様にして、リサイクルパルプ繊維の重合度を測定した。結果を表4に示す。
【0122】
[例26]
低圧水銀ランプを、高圧水銀ランプ(セン特殊光源株式会社製,HL100GL-1,発光管電力:8W/cm2)に変更した以外は、例24と同様にして、リサイクルパルプ繊維の重合度を測定した。結果を表4に示す。
【0123】
[例27]
容積2Lのオゾンガス曝露槽に、パルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)と、脱イオン水とを投入し、0.25質量%の固形分濃度を有するパルプ繊維の分散水溶液600mLを形成した。オゾン発生装置(エコデザイン株式会社製,オゾンガス曝露試験機:ED-OWX-2)から、オゾン濃度:50g/m3且つ流量:1L/minとなるように調整したオゾン含有気体(オゾン以外の気体は乾燥空気である)を、オゾンガス曝露槽の上記分散水溶液内に2時間吹き込んだ。上記分散水溶液中のオゾン濃度は、約6ppmであった。オゾン含有気体の吹き込み完了後、分散水溶液をろ過し、ろ過物を脱イオン水で洗浄してリサイクルパルプ繊維を回収し、リサイクルパルプ繊維の重合度を測定した。結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
[例28]
暗室内に設置した光化学反応装置に、脱イオン水1Lと、パルプ繊維(針葉樹パルプ繊維)2.64gと、表5に示す通りの量の硫酸鉄(II)七水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製,試薬特級)と、過酸化水素(富士フイルム和光純薬株式会社製,試薬特級,質量分率:30.0~35.5%)1.0g(1.0g/L)とを充填した。なお、過酸化水素は、フェントン反応の酸化剤として添加したものである。
植物育成用クリップランプ(株式会社富士倉製,KY-08W-SC,8W光源)を用いて、光化学反応装置の内容物に30分間光を照射した。
光の照射後、光化学反応装置の内容物をろ過し、ろ過物を脱イオン水で洗浄してリサイクルパルプ繊維を回収して、リサイクルパルプ繊維No.1~No.4を形成した。
【0126】
【表5】
【0127】
[例29]
脱イオン水200mLに、リサイクルパルプ繊維No.1を1.0g(絶乾質量)と、クエン酸一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製,和光一級)10.0gとを投入し、所定時間(60分、120分、180分又は300分間)、室温で攪拌した。攪拌後のリサイクルパルプ繊維No.1を、70℃で3時間送風乾燥した。乾燥後のリサイクルパルプ繊維No.1の白度をポータブル白度計(オガワ精機株式会社製,OSK97BX216)を用いて計測した。白度は、乾燥後のリサイクルパルプ繊維No.1の異なる点で計4点測定し、その平均値を採用した。結果を表6に示す。なお、フェントン反応に処する前のパルプ繊維の白度は、95.8であった。
【0128】
乾燥後のリサイクルパルプ繊維No.1の灰分率を測定した。結果を表6に示す。なお、フェントン反応に処する前のパルプ繊維の灰分率は、0.05質量%であった。
なお、灰分率は、生理処理用品材料規格の「2.一般試験法」の「5.灰分試験法」に従って測定した。具体的には、灰分率は、以下の通り測定した。
(1)あらかじめ白金製、石英製又は磁製のるつぼを、500~550℃で1時間強熱し、放冷後、その質量を精密に量る。
(2)120℃で60分乾燥したパルプ繊維原料2~4gを採取し、るつぼに入れ、その質量を精密に量り、必要ならばるつぼのふたをとるか、またはずらし、初めは弱く加熱し、徐々に温度を上げて500~550℃で4時間以上強熱して、炭化物が残らなくなるまで灰化する。
(3)放冷後、その質量を精密に量る。再び残留物を恒量になるまで灰化し、放冷後、その質量を精密に量り、灰分率(質量%)とする。
【0129】
リサイクルパルプ繊維No.2~No.4のそれぞれについて、リサイクルパルプ繊維No.1と同様にして、白度及び灰分率を測定した。結果を表6に示す。
【0130】
【表6】
【0131】
表6より、60分以上の処理時間により、白度が向上し、灰分が減少することが分かる。
【0132】
[例30]
脱イオン水200mLに、リサイクルパルプ繊維No.2を1.0g(絶乾質量)と、所定量(2.0g、10.0g又は20.0g)のクエン酸一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製,和光一級)とを投入し、所定時間(60分、120分、180分又は300分間)、室温で攪拌した。攪拌後のリサイクルパルプ繊維No.2を、70℃で3時間送風乾燥した。乾燥後のリサイクルパルプ繊維No.2の白度及び灰分率を、例29と同様に測定した。結果を表7に示す。
【0133】
【表7】
【0134】
表7より、クエン酸の量が多いほど白度が向上するものの、クエン酸20.0gで白度が一定の値となることが分かる。
また、表7より、クエン酸の量が多いほど、灰分率の低下が早いことが分かる。