(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115567
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】銀粉、銀粉の製造方法および銀粉の製造装置、導電性ペースト、導電膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240820BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20240820BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240820BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20240820BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240820BHJP
B22F 1/068 20220101ALI20240820BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F1/06
B22F1/052
B22F9/24 E
B22F9/00 B
B22F1/068
H01B1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021217
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】佐野 和司
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA03
4K017CA07
4K017DA01
4K017DA07
4K017EJ01
4K017FA29
4K017FB11
4K018BA01
4K018BB01
4K018BB04
4K018BD04
4K018KA33
5G301DA03
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】デンドライト状銀粉と比較して印刷性が良く、ペーストに用いたときに低温でも焼成が可能で低抵抗となる銀粉を得ることを目的とする。
【解決手段】(111)面の結晶子径(D
111)が50nm以上であり、TMA測定での1%収縮開始温度が230℃以下である銀粉およびその関連技術を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(111)面の結晶子径(D111)が50nm以上であり、TMA測定での1%収縮開始温度が230℃以下である、銀粉。
【請求項2】
300個以上の銀粒子の形状測定による平均のアスペクト比が1.5~2.0であり、平均の形状係数が1.7~2.2の粒状である、請求項1に記載の銀粉。
【請求項3】
300個以上の銀粒子の形状測定による平均のアスペクト比が1.5~2.0であり、平均の円形度係数が0.5~0.7の粒状である、請求項1に記載の銀粉。
【請求項4】
レーザー回折式による体積基準の累積50%径(D50)が0.5~1.6μm、BET一点法による比表面積(BET)が1.0cm2/g以上である、請求項1に記載の銀粉。
【請求項5】
カソードを高周波振動させながら、アノードとカソードの間に銀を含む電解液を供給し、アノードとカソードの間に通電し、カソード上から脱離した銀粒子を前記電解液の流れによって回収する、銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記高周波振動は、カソードの面積10cm2当たりの出力100~600Wである、請求項5に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記電解液が表面処理剤を含有する、請求項5に記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
前記アノードが銀であり、前記アノードと前記カソードとの間隔が一定になるように調整を行う、請求項5に記載の銀粉の製造方法。
【請求項9】
銀を含む前記電解液中の銀濃度は3~20g/Lである、請求項5に記載の銀粉の製造方法。
【請求項10】
カソードを高周波振動させる機構と、
アノードと前記カソードの間に銀を含む電解液を供給する機構と、
前記アノードと前記カソードの間に通電するための電源と、
を有し、
高周波振動した前記カソード上に析出した銀粒子を前記電解液の流れによって回収する、銀粉の製造装置。
【請求項11】
請求項1に記載の銀粉を含む導電性ペースト。
【請求項12】
請求項11に記載の導電性ペーストを塗布し、焼成する導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉、銀粉の製造方法および製造装置に関し、特に、積層コンデンサの内部電極や回路基板の導体パターン、ディスプレイパネルや太陽電池の基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペースト用の銀粉、銀粉の製造方法および製造装置、導電性ペースト、導電膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やディスプレイパネル用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペーストとして、銀粉をガラスフリットとともに有機ビヒクル中に加えて混練することによって製造される導電性ペーストが使用されている。
【0003】
そのような導電性ペーストに使用される銀粉の製造方法としては、硝酸銀溶液とアンモニア水などによる銀錯体水溶液に還元剤を添加する湿式還元法が知られている。他の製造方法により得られる銀粉としては、アトマイズ法により得られる銀粉(アトマイズ銀粉ともいう)や、銀イオンを含む電解液を電解して銀粒子を電極に析出させる電解法により得られる銀粉(電解銀粉ともいう)が知られている。
【0004】
特許文献1では、アトマイズ法と湿式還元法により得られた銀粉の(111)面の結晶子径(Dx)と熱機械的分析(TMA)の評価結果が記載されている。
【0005】
特許文献2では、銀アンミン錯塩水溶液を電解液として用いて、電極上にデンドライト状の銀粉を電析させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-82327号公報
【特許文献2】特開2007-204795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、低温でも焼成が可能で低抵抗となる低温焼結性の良好な導電性ペーストの要望が増加している。特許文献1からは、湿式還元法により製造された銀粉では、Dxが40.7nmと小さい場合に熱機械的分析(TMA)測定での収縮率が1%となる温度(1%収縮開始温度とする)は低いことが図示されている。一方、アトマイズ法により製造された銀粉は、Dxの値に関わらず、TMA測定での1%収縮開始温度は400℃以上の高温であることが図示されている。
【0008】
そして、250℃程度の低温でも焼成を可能とするには、1%収縮開始温度は当該焼成温度よりも低いことが好ましいと考えられる。しかしながら、湿式還元法により製造された銀粉を用いたペーストでは、1%収縮開始温度が当該焼成温度より低くても低温での焼成では高抵抗となり、低温焼結性は不十分であった。
【0009】
特許文献2の方法は、電析した銀粒子をスクレーバにより極板から掻き落として得る銀粉であり、生産性が低いという問題がある。また、デンドライト状の形状はペースト化したときに目詰まりしやすく、印刷性が悪くなる恐れがある。
【0010】
そこで、デンドライト状銀粉と比較して印刷性が良く、ペーストに用いたときに低温でも焼成が可能で低抵抗となる銀粉を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上述の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者等は、以下に述べる本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、上述の課題を達成するために本発明の態様は以下の通りである。
【0013】
第1の態様は、
(111)面の結晶子径(D111)が50nm以上であり、TMA測定での1%収縮開始温度が230℃以下である、銀粉である。
【0014】
第2の態様は、
300個以上の銀粒子の形状測定による平均のアスペクト比が1.5~2.0であり、平均の形状係数が1.7~2.2の粒状である、第1の態様に記載の銀粉である。
【0015】
第3の態様は、
300個以上の銀粒子の形状測定による平均のアスペクト比が1.5~2.0であり、平均の円形度係数が0.5~0.7の粒状である、第1の態様に記載の銀粉である。
【0016】
第4の態様は、
レーザー回折式による体積基準の累積50%径(D50)が0.5~1.6μm、BET一点法による比表面積(BET)が1.0cm2/g以上である、第1の態様に記載の銀粉である。
【0017】
第5の態様は、
カソードを高周波振動させながら、アノードとカソードの間に銀を含む電解液を供給し、アノードとカソードの間に通電し、カソード上から脱離した銀粒子を前記電解液の流れによって回収する、銀粉の製造方法である。
【0018】
第6の態様は、
前記高周波振動は、カソードの面積10cm2当たりの出力100W~600Wである、第5の態様に記載の銀粉の製造方法である。
【0019】
第7の態様は、
前記電解液が表面処理剤を含有する、第5の態様に記載の銀粉の製造方法である。
【0020】
第8の態様は、
前記アノードが銀であり、前記アノードと前記カソードとの間隔が一定になるように調整を行う、第5の態様に記載の銀粉の製造方法である。
【0021】
第9の態様は、
銀を含む前記電解液中の銀濃度は3g/L~20g/Lである、第5の態様に記載の銀粉の製造方法である。
【0022】
第10の態様は、
カソードを高周波振動させる機構と、
アノードと前記カソードの間に銀を含む電解液を供給する機構と、
前記アノードと前記カソードの間に通電するための電源と、
を有し、
高周波振動した前記カソード上に析出した銀粒子を前記電解液の流れによって回収する、銀粉の製造装置である。
【0023】
第11の態様は、
第1の態様に記載の銀粉を含む導電性ペーストである。
【0024】
第12の態様は、
第11の態様に記載の導電性ペーストを塗布し、焼成する導電膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、デンドライト状銀粉と比較して印刷性が良く、ペーストに用いたときに低温でも焼成が可能で低抵抗となる銀粉が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る銀粉の製造装置の概略断面側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の実施形態に係る銀粉の製造装置の概略断面側面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の銀粉に対する倍率2万倍のSEM写真である。
【
図4】
図4は、実施例1の銀粉の形状測定時の、倍率3万倍のSEM写真である。
【
図5】
図5は、実施例2の銀粉の形状測定時の、倍率3万倍のSEM写真である。
【
図6】
図6は、比較例1の銀粉に対する倍率2万倍のSEM写真である。
【
図7】
図7は、比較例2の銀粉に対する倍率2万倍のSEM写真である。
【
図8】
図8は、実施例1、2および比較例1の銀粉を用いた導電性ペーストの焼成温度と体積抵抗率の図である。
【
図9】
図9は、ピーク温度を250℃とした場合の、実施例1の銀粉の焼成時の温度プロファイルである。
【
図10】
図10は、実施例1の銀粉のTMA測定プロファイルである。
【
図11】
図11は、比較例1の銀粉のTMA測定プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。「~」は所定の数値以上且つ所定の数値以下を示す。
【0028】
<銀粉>
本発明による銀粉は(111)面の結晶子径(D111)が50nm以上である。上限値には限定はないが、上限値としては例えば200nmが好ましく、100nmがより好ましい。
【0029】
結晶子径は、粉末X線回折装置により測定を行い、このX線回折測定により得られたX線回折パターンから、Scherrerの式(Dhkl=Kλ/βcosθ)によって結晶子径(Dhkl)を求めた値である。この式中、Dhklは結晶子径の大きさ(hklに垂直な方向の結晶子の大きさ)、λは測定X線の波長(Cuターゲット使用時0.15405nm)、βは結晶子の大きさによる回折線の広がり(rad)(半価幅を用いて表す)、θは回折角のブラッグ角(rad)(入射角と反射角が等しいときの角度であり、ピークトップの角度を使用する)、KはScherrer定数(K=0.94)である。なお、計算には(111)面および(200)面のピークデータを使用した。
【0030】
本発明による銀粉は、TMA測定での1%収縮開始温度が230℃以下であり、好ましくは140℃以下である。下限値には限定はないが、下限値としては例えば70℃が挙げられる。
【0031】
TMA測定は、最初に銀粉0.3gにペレット成形機により荷重50kgfを1分間加えて、直径5mmの円柱形のペレットを作製し、このペレットを熱機械的分析(TMA)装置にセットし、常温から昇温速度10℃/分で900℃まで昇温して、ペレットの収縮率の温度依存性を測定したものである。
【0032】
1%収縮開始温度とは以下の通りである。ペレットの収縮率(常温のときのペレットの長さaと最も収縮したときのペレットの長さbとの差(a-b)に対するペレットの長さの減少量cの割合)(=c×100/(a-b))を測定し、収縮率が1%に達した温度を焼結開始温度とし、1%収縮開始温度とする。
【0033】
上記の結晶子径は、銀粒子内の粒界の大きさと考えることができるため、一般に、結晶子径が小さい方が、温度が上昇した際の粒界の移動を伴う反応が早く、TMA測定での1%収縮開始温度は小さいと考えられていた。しかしながら、本発明での銀粉は、湿式還元法による銀粉に比べて結晶子径が大きいにもかかわらず、TMA測定での1%収縮開始温度は小さい。その理由は定かではないが、湿式還元法に比べて銀粉は銀粒子内の結晶方位が揃いやすいために結晶子径が大きくなるが、温度上昇時の粒子表面の反応性は湿式還元法よりも高くなっている可能性がある。
【0034】
本発明による銀粉の形状は、粒状であることが好ましい。粒状とは、300個以上の銀粒子の形状測定による平均のアスペクト比が1.5~2.0であり、平均の形状係数が1.7~2.2であることをいい、または、300個以上の銀粒子の形状測定による平均のアスペクト比が1.5~2.0であり、平均の円形度係数が0.5~0.7であることをいう。なお、球状とは上述の形状測定による平均のアスペクト比が1.5未満であるものとし、上述の粒状とは平均のアスペクト比を用いて区別する。
【0035】
本発明による銀粒子の形状測定には、例えば走査型電子顕微鏡(JEOL JSM-IT300LV、日本電子株式会社製)により各銀粒子を3万倍で観察し、視野内において輪郭全体をとらえることができる銀粒子を選択して合計300個以上の銀粒子について、画像解析ソフト(株式会社マウンテック製、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMacView)を用いて銀粒子外周をなぞることで、各銀粒子について、
面積が最小となる外接する四角形の長辺と短辺の長さである長径と短径
外接する四角形の辺の長さの最大値である最大径(dmax)
周囲長(L)
銀粒子の面積(S)
が自動計測され、
アスペクト比:長径/短径
形状係数:πdmax
2/4S
円形度係数:4πS/L2
によりアスペクト比と形状係数と円形度係数が算出される。そして、300個以上の銀粒子の平均値を計算する。
本明細書における形状係数は、最大径を直径とした仮想的な円の面積と銀粒子の粒子面積との比であり、当該仮想的な円の面積を粒子面積で除した値である。
本明細書における円形度係数は、形状が円から離れるほど小さくなる値である。
【0036】
本発明による銀粉は粒状の形状であるため、導電性ペーストとして用いた場合に細線を引こうとした場合であっても印刷性を悪化させる恐れは少ない。球状銀粉を用いたペーストでの球状銀粉の一部または全部を本発明の銀粉に置き換えることも容易であり、本発明の形状の銀粉を用いる場合に、ノズルを詰まらせる恐れや、目の細いスクリーンを詰まらせる恐れも少ない点で有利である。
【0037】
本発明による銀粉は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えばマイクロトラックMT3000の使用)による体積基準の累積50%径(D50)が0.1~2.0μmであることが好ましく、0.5~1.6μmであることがより好ましく、0.6~1.4μmであることがさらに好ましい。また、BET一点法による比表面積(BET)が1.0cm2/g以上であることが好ましい。また、BETが7.4cm2/g以下であることが好ましく、2.0cm2/g以下であることがより好ましい。
【0038】
<銀粉の製造方法>
図1は、本発明の実施形態に係る銀粉の製造装置の概略断面側面図である。白抜き矢印は液体の流れを示す(以降同様)。
図2は、本発明の別の実施形態に係る銀粉の製造装置の概略断面側面図である。
【0039】
本発明による銀粉の製造方法は、カソード2を高周波振動させ、アノード3とカソード2の間に銀を含む電解液Eを供給し、アノード3とカソード2の間に通電し、カソード2上から脱離した銀粒子を前記電解液Eの流れ(
図1、
図2中の白抜き矢印)によって回収する銀粉の製造方法である。
【0040】
カソード2とアノード3の間に銀を含む電解液Eを介して通電することでカソード2上に銀が電析する。電析した銀は粒成長する。この粒成長を継続すると、引用文献2に記載のデンドライト状などの種々の形状をもつ銀粒子が生成する。
【0041】
その一方、本発明ではカソード2を高周波振動して振動を与えることで、粒成長途中で特定の大きさに成長した銀粒子がカソード2表面から脱離する。カソード2上に生成した銀粒子の自動的な脱離が行われるため、電析を中断して掻き取るような作業を行う必要がない。また、高周波振動によって脱離した銀粒子は、他の方法で引き剥がす場合に比べて形や大きさが揃っており、導電性ペーストに用いる銀粉として好適に使用することが可能となる。
【0042】
(カソード)
カソード2は、電解液Eに対して耐酸性があり、銀が電析可能かつ脱離可能な金属であればよく、電析が生じる表面部分(陰極)を例えばチタン製やSUS製とすることができる。カソード2は、カソード2表面に高周波振動を与える必要があり、高周波振動子(図示せず)と接している、または、振動子から振動が表面に伝播される構造となっていることが好ましい。また、カソード2は、高周波振動子に駆動電力を供給すると共に高周波振動子が熱暴走しないように冷却する冷却システムを備える高周波振動発生装置(図示せず)と接続している。
【0043】
高周波振動は、カソード2におけるアノード3と対向する面の面積10cm2当たりの出力が100W~600Wであることが好ましい。すなわち、10~60W/cm2であることが好ましい。面積10cm2当たりの出力が100W以上だと、銀粒子の脱離がスムーズに行われ、また、600W以下だと、過度な発熱が生じることなく、ひいては冷却システムのスペースや、冷却のためのエネルギー消費が抑えられ、コスト面で有利である。
【0044】
高周波振動は、周波数を10~40kHzとすることが好ましく、20kHz未満とすることがより好ましい。
【0045】
なお、本発明の銀粉の成分は、ほとんどが銀であるが、カソード2を構成する金属元素が不純物として含まれていても良い。銀が90wt%以上であり、95wt%以上が好ましく、99wt%以上がより好ましい。
【0046】
(アノード)
アノード3は、電解液Eにおいて陽極として使用できるものであり、例えば銀製や、DSE(登録商標)極板とすることができる。
【0047】
安定的に銀粒子を生成させ脱離させるために、アノード3とカソード2との間の間隔を一定に保つことが好ましい。例えば、銀製のアノード3を用いた場合に、電解液Eへの銀の供給によってアノード3が減肉していく。そのため、アノード3とカソード2との間の間隔が一定になるように調整を行うことが好ましい。
【0048】
調整方法は任意であるが、例えば、アノード3の重量を測定したり、レーザー等で間隔を測定したりしながら、アノード3(もしくはカソード2)をジャッキ4Aによりジャッキアップする(
図1の黒塗り矢印)または吊り下げ部材4Bにより降下させる(
図2の黒塗り矢印)方法が考えられる。当該間隔は、電極間に印加する電圧にも拠って適宜設定されるが、例えば2~5mmの範囲内とすることができる。
【0049】
(電極用電源)
アノード3とカソード2の間に通電するための電源5は、定電流の電源5でも定電圧の電源5でもよい。電源5は、交流電源またはバイポーラ電源を使用してもよい。
図1、
図2の点線は電気的な接続を表す。電解条件には限定が無いが、一例は以下のとおりである。
【0050】
電流密度は10~1000A/m2が好ましく、より好ましくは30~800A/m2であり、さらに好ましくは50~500A/m2である。10A/m2以上であれば、銀の析出速度が上がり、粒子の粗大化を抑制できる。また1000A/m2以下であれば、溶液内の温度が過度には上昇せず、銀粉の形状が安定する。また、下段落に記載のように電解液Eにアンモニア水が含まれる場合、アンモニアの揮発が抑えられ、ランニングコストという点で経済的である。
【0051】
(電解液)
電解液Eは、銀を含む電解液Eである。銀を硝酸や塩酸などの無機酸に溶解した液とすることができ、または、アンモニア水やクエン酸などの錯化剤を添加した銀錯体溶液とすることもできる。
【0052】
電解液E中の銀濃度は、3~20g/Lとすることが好ましく、5~18g/Lに調整することがより好ましい。
【0053】
また、電解液Eが硝酸銀である場合、電析した銀粉が再溶解しないようにフリー硝酸の濃度は12g/L以下とすることが好ましい。例えば、フリー硝酸の濃度は8~10g/Lとすることができる。
【0054】
なお、アノード3が銀の場合は、電析に使用されて銀濃度が低下してもアノード3から銀が供給されて電解液E中の銀濃度は保たれるが、アノード3に銀以外を使用する場合は、別途、銀を供給して電解液E中の銀濃度を保つことが好ましい
【0055】
ポンプ63等を用いて対向するアノード3とカソード2の間を電解液Eが流れるように供給する。この電解液Eの流れによって、カソード2上に生成し脱離した銀粒子は回収される。電解液Eの流れの方向に垂直な電極間の断面積における電解液Eの流速は、アノード3とカソード2の間においてカソード2から脱離した銀粒子がその場にとどまらない大きさであればよく、そのような流速となるようにポンプ63の流量や、電解液供給口64での電解液Eの流速と給液方向を調整することが好ましい。
【0056】
アノード3とカソード2の間を流れたあとの電解液Eは、電解液E中に含まれる銀粒子を、ろ過器61を用いて回収した後、再び、ポンプ63等を用いてアノード3とカソード2の間に供給されるようにして良い。
【0057】
電解液Eの供給に用いられる配管62、ポンプ63、ろ過器61等は、電解液Eを供給する機構と称してもよい。
【0058】
(表面処理剤)
電解液Eは、表面処理剤を含むようにすることが好ましい。表面処理剤は、電析した銀粒子がカソード2から剥がれるのを助け、また、電析中および剥がれたあとに、銀粒子同士が凝集して粗大化することを抑制することができる。
【0059】
表面処理剤は銀粉の表面に付着して銀粉と共に回収装置(ろ過器61)に回収される。その銀粉の回収によって回収装置後の電解液中の表面処理剤の量は減少するため、アノード3とカソード2の間において電解液Eに表面処理剤が供給されるように、表面処理剤の供給位置(すなわち表面処理剤供給口74)を調整することが好ましい。
【0060】
表面処理剤はポンプ73を用いて表面処理剤貯留槽71から電解槽8内に供給される。表面処理剤の供給に用いられる配管72、ポンプ73、表面処理剤貯留槽71等は、表面処理剤を供給する機構と称してもよい。
【0061】
表面処理剤の供給量の合計は、得られる銀粉の銀量に対して0.4~2.2wt%の範囲内とすることが好ましい。
【0062】
使用する表面処理剤としては、銀粉に用いられる公知の表面処理剤とすることができ、例えば、例としては、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などを挙げることができる。脂肪酸塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、コバルト、マンガン、鉛、亜鉛、スズ、ストロンチウム、ジルコニウム、銀、銅などの金属と脂肪酸が塩を形成したものを挙げることができる。界面活性剤の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩やポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などの陰イオン界面活性剤、脂肪族4級アンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤、イミダゾリニウムベタインなどの両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤などを挙げることができる。有機金属化合物の例としては、アセチルアセトントリブトキシジルコニウム、クエン酸マグネシウム、ジエチル亜鉛、ジブチルスズオキサイド、ジメチル亜鉛、テトラ-n-ブトキシジルコニウム、トリエチルインジウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメチルガリウム、モノブチルスズオキサイド、テトライソシアネートシラン、テトラメチルシラン、テトラメトキシシラン、ポリメトキシシロキサン、モノメチルトリイソシアネートシラン、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などを挙げることができる。キレート剤の例としては、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、1H-1,2,3-トリアゾール、2H-1,2,3-トリアゾール、1H-1,2,4-トリアゾール、4H-1,2,4-トリアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、1,2,5-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,5-チアジアゾール、1,3,4-チアジアゾール、1H-1,2,3,4-テトラゾール、1,2,3,4-オキサトリアゾール、1,2,3,4-チアトリアゾール、2H-1,2,3,4-テトラゾール、1,2,3,5-オキサトリアゾール、1,2,3,5-チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾールおよびベンゾトリアゾールとこれらの塩、あるいは、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、ヒドロアクリル酸、マンデル酸、クエン酸、アスコルビン酸などを挙げることができる。高分子分散剤の例としては、ペプチド、ゼラチン、コラーゲンペプチド、アルブミン、アラビアゴム、プロタルビン酸、リサルビン酸などを挙げることができる。
【0063】
<銀粉の製造装置>
上記の製造方法による発明の効果を達成できる装置であれば、製造装置1は任意の形状とすることができる。
【0064】
本発明における銀粉の製造装置1は、カソード2を高周波振動させ、アノード3とカソード2の間に銀を含む電解液Eを供給する機構と、アノード3とカソード2の間に電圧を印加する電源5と、を有し、カソード2上の銀粉を前記電解液Eの流れによって回収する銀粉の製造装置1であればよい。
【0065】
以下、本発明の銀粉の製造装置1の実施形態について、
図1を用いて説明する。以下に述べる製造装置1を構成する各構成の詳細は、銀粉の製造方法において述べた内容と同様であり、以下では記載を省略する。
【0066】
図1に示すように、本発明の銀粉の製造装置1の実施形態では、カソード2を上側、アノード3を下側としつつ、カソード2とアノード3が上下方向に離間して対向するように配置される。内側電解槽81の内部にカソード2の少なくとも底面とアノード3が収容される。そして、外側電解槽82の内部に内側電解槽81が収容される。
【0067】
図1ではカソード2およびアノード3は円柱状であるが、本発明はこの形状には限定されない。
【0068】
カソード2は天井部(不図示)から吊り下げられる。カソード2の側面には樹脂2aがコーティングされる。つまり、内側電解槽81が電解液Eで満たされたとき、アノード3と、カソード2の少なくとも底面が電解液E中に浸漬し、通電するとアノード3と対向するカソード2の底面(陰極)に銀が析出する。本発明の製造装置1では、カソード2を高周波振動させる機構を採用する。そして、カソード2を高周波振動させながら、カソード2の底面に銀を析出させる。
【0069】
電解析出の時間が経過すると、アノード3のカソード2と対向する面(アノード3の上面、陽極)が減肉していき、カソード2とアノード3の離間距離が大きくなる。この距離を一定(例えば電解析出開始時の離間距離からの変動幅50%以内、好ましくは10%以内)にすべく、アノード3とカソード2の離間距離を調節する機構を備えるのが好ましい。この機構の具体的な構成には限定はないが、例えば外側電解槽82の下方に設けられるジャッキ4Aであってもよいし、別実施形態として後掲するようにカソード2を吊り下げる吊り下げ部材4Bを上下させる構成を採用してもよい。
【0070】
アノード3とカソード2の離間距離(極間距離とも記載する)の調節は、離間距離を直接計測しながら調整する方法のほか、アノード3の重量減少や銀粒子の回収量等と離間距離との相関関係や、電源5の投入電力(定電流の場合は電圧変化)と離間距離の相関関係などを用いて、手動または自動で行っても構わない。
【0071】
上記ろ過器61は、電解液Eの供給機構でもある。本実施形態では、ろ過器61を通過したあとの電解液Eを電解槽に再び供給するための電解液供給口64を、カソード2と内側電解槽81の内側側壁との間に、配置する。本発明はこの態様には限定されず、電解液供給口64の位置は、カソード2とアノード3の間に流れを生じさせる位置であれば、どのような形態でも良い。
【0072】
上記表面処理剤を供給する機構における表面処理剤供給口74は、
図1に示されているようにカソード2と電解液供給口64との間に配置してもよい。ただし、本発明はこの態様には限定されず、ろ過器61からカソード2とアノード3の間に至る電解液の流路のいずれかの場所において表面処理剤を供給できる位置であれば良い。
【0073】
最初に内側電解槽81を電解液Eで満たす。高周波振動と電解析出を開始し、電解液Eを内側電解槽81内に供給し続けることにより、電解液Eは内側電解槽81から溢れる(オーバーフローする)。溢れた電解液Eには、高周波振動するカソード2の底面で析出し脱離した銀粒子が含まれる。溢れたその電解液Eは、内側電解槽81と外側電解槽82との間に溜まる。そして、外側電解槽82の側壁に設けられた電解液回収口65からポンプ63により電解液Eがろ過器61へと回収される。そして、電解液Eに含まれる銀粒子は、ろ過器61内のフィルターにより回収され、洗浄、乾燥処理等を経て銀粉となる。フィルターを通過した電解液Eは、再び電解液供給口64を介して内側電解槽81内に供給される。
【0074】
なお、電解液Eをオーバーフローさせない構成を採用しても構わない。その場合、外側電解槽82は不要となり、内側電解槽81の側壁に電解液回収口65を設ければよい。
【0075】
電解液回収口65の配置についてであるが、特に限定はない。例えば俯瞰した平面視において電解液供給口64が3時方向にあるとき電解液回収口65も3時方向にあってもよく、9時方向にあってもよい。
【0076】
本発明の銀粉の製造装置1の別実施形態を示したのが
図2である。
図2に記載の別実施形態は、以下の点で上記の実施形態と異なる。
・アノード3を上方に配置し、カソード2を下方に配置する。
・アノード3とカソード2の離間距離の調節は、吊り下げ部材4Bにより吊り下げたアノード3を上下させることにより行う。
・電解槽の底面をカソード2が貫通しつつ(またはカソード2の上面が電解槽の底面を兼ねつつ)両者の間はシーリングする構造(不図示)を採用する。
【0077】
アノード3とカソード2の間で電析ができるだけの電解液Eの滞留時間と、電析後に脱離した銀粉が移動できるだけの電解液Eの流れが確保できればよい。そのため、上記の実施形態や他の実施形態のように容器に電解液Eを一時的に貯めてアノード3とカソード2間での電析ができる形態に限定されない。斜面に電解液Eを流して斜面に設けた堰の上下(または左右)にカソード2とアノード3を対向配置させるようにしても良い。または、電解液Eを流す配管の、上下、左右または同心円状に、アノード3とカソード2を対向配置させるようにしても良い。
【0078】
製造装置1は、例えば、カソード2やアノード3の形状を円柱状から板状やリング状などに変化させたり、電解液Eの流し方を変化させたり、表面処理剤の添加位置を調整したり、など、発明の効果を有する範囲で適宜変形しても良い。
【0079】
本発明の導電性ペーストは、上記に記載の銀粉を含む導電性ペーストである。導電性ペーストは銀粉以外に溶剤を含み、さらに、ガラスフリット、ビヒクル、樹脂を含むことが好ましい。さらに公知の分散剤、界面活性剤、粘度調整剤を含んでも良い。導電性ペーストに含まれる銀量は70~95wt%であることが好ましい。溶剤は、例えばテルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール、各種アルコールなどが挙げられる。
【0080】
本発明の導電膜の製造方法は、上記に記載の銀粉を含む導電性ペーストを塗布し、焼成する導電膜の製造方法である。塗布方法は、スクリーン印刷、オフセット印刷、フォトリソグラフィ法、インクジェット方式のほか、各種公知の方法を用いることができる。焼成温度は、温度プロファイルのピーク温度を200~800℃の間で設定することができる。本発明の銀粉はTMA測定での1%収縮開始温度が230℃以下であるため従来よりも低温での焼成に適しており、焼成温度は200~400℃であることが好ましい。
【実施例0081】
[実施例1]
図1に記載の装置を用いて、銀粉を製造した。まず、Ag濃度が5g/L、free硝酸(硝酸銀の化学当量を超えて含まれる硝酸イオン)の濃度が7.9g/Lである硝酸銀水溶液を電解液Eとして準備し、
図1に記載の装置に入れた。電解液E循環用のポンプ63を稼働し、電解液Eの循環を開始した。電解液Eのポンプ流量を7L/minとした。
【0082】
高周波振動子に対する冷却水の循環を開始した後、高周波振動発生装置の電源(図示せず)を入れて、電解液Eに浸漬する円柱状のカソード2(振動筒の表面がTi製、振動周波数19.5±1kHz、最大出力600W、底面の円の直径36mm(面積10.2cm2))の高周波振動の設定出力を300Wとした。円柱状の振動筒は、アノード3と対向しカソード2となる底面以外(すなわち円柱側面)を樹脂2aにより被覆した。アノード3は、円の面積8cm2(直径32mm)の円柱状の銀インゴットである。電極として、カソード2の底面とアノード3の上面とが対向している。
【0083】
表面処理剤(中京油脂株式会社製セロゾール920を水で希釈した水溶液、濃度1.55wt%)を、ポンプ73を用いて添加速度1g/minで上記電解液Eに供給した。表面処理剤の供給位置は、ろ過器61とカソード2の間における電解液Eの流路とした。表面処理剤の供給量の合計は、得られる銀粉のAg量に対して1.9wt%となるようにした。
【0084】
表面処理剤の供給開始直後に、電源5によりカソード2とアノード3の電極間に通電し、電解を開始した。カソード2の底面上に電析した銀粒子は、振動により脱離して電解液Eの流れによって電極間から移送され、表面処理剤が付着した状態で下流に設置されたろ過器61に回収された。
【0085】
電解開始から時間がたつにつれ銀のアノード3が消費され、極間距離が離れてくるので、電解用の電源5の出力が電圧16V、電流14~16Aの電流値を維持するため、極間距離を3mmに設定し、極間距離が一定になるようにアノード3をジャッキアップして調整を行った。
【0086】
所定時間(実施例1では120分)電解継続したのち、電源5、ポンプ63、73、高周波振動、冷却水を止め、電解液Eはタンクに回収した。
【0087】
電解液Eを循環していたラインに純水を流し、ろ過器61に入っている銀粉の洗浄をした。洗浄水量としては、銀粉50gに対しておよそ3L以上使用した。洗浄後にろ過器61の吸引脱水を行った後、ろ過器61から銀粉を回収して得られたケーキを真空加熱によって乾燥させた。乾燥後の銀粉50gに対し、サンプルミル(協立理工株式会社製、SK-M10)を用いて10000rpmで30秒間の攪拌を2回実施して解砕し、篩(20μm目)にかけて実施例1に係る銀粉を得た。
【0088】
[実施例2]
高周波振動発生装置の種類を変更して最大出力を600Wから1200Wとし、電解液Eに浸漬する円柱状のカソード2の底面を直径36mmから直径50mm(面積19.6cm2)に変更して、設定出力を400Wとし、アノード3を、円の面積10cm2の円柱状の銀インゴットとした以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る銀粉を得た。ジャッキアップでの極間距離の調整において、電解用の電源5出力は、電圧11.8~15.7V、電流38~50Aの間で推移した。
【0089】
[比較例1]
湿式還元法により製造された銀粉であるDOWAハイテック株式会社製のAG-2-1Cをそのまま評価に使用した。
【0090】
[比較例2]
高周波振動発生装置を用いず、カソード2をSUS円板とし、カソード2の面積を20cm
2、アノード3の面積も20cm
2とし、電解用の電源5の出力が電圧14V、電流2.5~4.6Aの間で電解を行った。電析が進むと電流値が低下し、2.5Aまで低下したところでカソード2に析出した銀粒子を樹脂製のスクレーバで掻き取ることを繰り返した。そのような電解を60分間実施し、極間間隔の調整は行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る銀粉を得た。
【表1】
【0091】
<銀粉の形状評価>
得られた銀粉をステージ上に分散するように配置して、走査型電子顕微(JEOL JSM-IT300LV、日本電子株式会社製)により撮影した3万倍のSEM像について、画像解析ソフトを用いて、粒子の外形全体が観察される300個以上の粒子を選択して大きさや形状を解析した。画像解析ソフトには、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View、株式会社マウンテック社製)を用いた。形状の解析結果を表2に示す。
【表2】
【0092】
<銀粉の測定方法>
(結晶子径)
粉末X線回折装置(株式会社リガク製のRAD-rB)により、X線回折(XRD)測定を行った。このX線回折測定により得られたX線回折パターンから、Scherrerの式(Dhkl=Kλ/βcosθ)によって結晶子径(Dx)を求めた。この式中、Dhklは結晶子径の大きさ(hklに垂直な方向の結晶子の大きさ)、λは測定X線の波長(Cuターゲット使用時0.15405nm)、βは結晶子の大きさによる回折線の広がり(rad)(半価幅を用いて表す)、θは回折角のブラッグ角(rad)(入射角と反射角が等しいときの角度であり、ピークトップの角度を使用する)、KはScherrer定数(K=0.94)である。なお、計算には(111)面および(200)面のピークデータを使用した。
【0093】
(TMA測定)
銀粉0.3gにペレット成形機により荷重50kgfを1分間加えて(直径5mmの)略円柱形のペレットを作製し、このペレットを熱機械的分析(TMA)装置(株式会社リガク製のTMA8311)にセットし、常温から昇温速度10℃/分で900℃まで昇温し、ペレットの収縮率(常温のときのペレットの長さaと最も収縮したときのペレットの長さbとの差(a-b)に対するペレットの長さの減少量cの割合)(=c×100/(a-b))を測定した。収縮率が1%に達した温度を焼結開始温度とし、1%収縮開始温度とする。
【0094】
(粒度分布)
銀粉10gをイソプロピルアルコール(IPA)40mLに加えて、チップ先端直径18mmの超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製のUS-150T、19.5kHz)により2分間分散させて得られた試料について、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMICROTRAC MT3300EXII)により、全反射モードで(湿式レーザー回折・散乱式粒度分布測定による)銀粉の体積基準の粒度分布を求めた。
【0095】
(比表面積)
BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のMacsorb HM-model 1210)を使用して、測定器内に60℃で10分間Ne-N2混合ガス(窒素30%)を流して脱気した後、BET1点法により測定した。
【0096】
<ペースト評価>
銀粉:85.000質量部
701B(ガラス):2.000質量部
BS29-1.5倍ビヒクル:7.428質量部
NAMLON206T(7.5%)ワックス:1.214質量部
Tri-ethanolamine:0.240質量部
Oleic acid:0.240質量部
シリコーンオイルKF50-100:0.480質量部
4元溶剤(BCA):3.398質量部
Total:100.000質量部
を、プロペラレス自公転式攪拌脱泡装置(EME社製VMX-N360)を用いて混合し、三本ロール(EXAKT社製80-S)を用いて混錬して導電性ペーストを得た。
【0097】
得られた導電性ペーストについて、レオメーター(HAAKE MARS 60)を用いて、せん断応力をゼロから1000Paまで変化させる制御方式により、せん断ひずみを測定した。降伏値はせん断応力-せん断ひずみ曲線から、変曲点を外挿し算出した。測定したせん断ひずみから、せん断ひずみ速度を算出し、せん断ひずみ速度が0.4s-1の時と4s-1の時の粘度を測定した。
【0098】
(体積抵抗率測定)
厚み170μm、25.5mm角サイズのシリコン基板上に、スクリーン印刷機(マイクロテック社MT-320T)を用いて、得られた導電性ペーストを用いて線幅500μmのスクリーン印刷を行った。熱風式乾燥機で200℃で5分の乾燥を行った後、
図8に記載の各ピーク温度にて焼成を行った。
図9は、ピーク温度を250℃とした場合の、実施例1の銀粉の焼成時の温度プロファイルの例である。焼成にはランプアニール装置を用いた。そして、東京精密社製表面粗さ測定器SURFCOM480Bを用いて、焼成後の電極パターンの膜厚および線幅を3か所測定し、電極の断面積の平均値を算出した。
【0099】
ADCMT株式会社デジタルマルチメータ-7451Cを用いて、印刷し乾燥後に各ピーク温度にて焼成を行った電極パターンについて、測定長12.8cmにて抵抗値を測定し、体積抵抗率(μΩ・cm)=実測抵抗×断面積/測定長にて体積抵抗率を算出した。各ピーク温度にてサンプルを4つ作製し、それぞれ体積抵抗率測定を行ってそれらの平均値を算出した。
【0100】
なお、比較例1の銀粉を用いた導電性ペーストは粘度が小さかったため、粘度調整のために、信越化学工業製のシリコーンオイルKF50-100(0.480重量部)の半分を、より粘度が高いシリコーンオイルKF50-1000に置き換えて混錬した。
【0101】
各実施例と比較例の上記の測定結果を表3に示す。
【表3】
【0102】
図3は、実施例1の銀粉に対する倍率2万倍のSEM写真である。
図4は、実施例1の銀粉の形状測定時の、倍率3万倍のSEM写真である。
図5は、実施例2の銀粉の形状測定時の、倍率3万倍のSEM写真である。
図6は、比較例1の銀粉に対する倍率2万倍のSEM写真である。
図7は、比較例2の銀粉に対する倍率2万倍のSEM写真である。
図8は、実施例1、2および比較例1の銀粉を用いた導電性ペーストの焼成温度と体積抵抗率の図である。
図9は、ピーク温度を250℃とした場合の、実施例1の銀粉の焼成時の温度プロファイルである。
図10は、実施例1の銀粉のTMA測定プロファイルである。
図11は、比較例1の銀粉のTMA測定プロファイルである。
【0103】
上記の結果より、実施例に示す粒状形状の銀粉は、ペーストに用いたときに低温でも焼成が可能で低抵抗となることが分かる。
【0104】
具体的には、
図3、
図4、
図5と
図6、
図7とを対比すると、実施例の銀粉は粒状形状であり、比較例1の銀粉は球状形状であり、比較例2の銀粉はデンドライト状(樹状)である。実施例の銀粉は粒状形状であり、印刷性に優れる。
【0105】
図10と
図11とを対比すると、実施例1に示す銀粉は、比較例1に示す銀粉に比べ、ペーストに用いたときに低温でも焼成が可能となる。そして、
図8に示すように、実施例1、2に示す銀粉は、比較例1に示す銀粉に比べ、ペーストに用いて焼成を行い電極パターンとしたときに低抵抗となる。