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特開2024-115688食品の塩味増強剤、食品の塩味増強用組成物、食品の塩味増強方法、及び食品の塩味増強剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115688
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】食品の塩味増強剤、食品の塩味増強用組成物、食品の塩味増強方法、及び食品の塩味増強剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240820BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20240820BHJP
   A23D 7/005 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L23/00
A23D7/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021472
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】境野 眞善
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 里菜
【テーマコード(参考)】
4B026
4B036
4B047
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG02
4B026DL05
4B026DX05
4B036LC01
4B036LF01
4B036LH29
4B036LK01
4B036LP07
4B047LB03
4B047LE01
4B047LE05
4B047LF06
4B047LF08
4B047LG10
4B047LG38
4B047LP01
(57)【要約】
【課題】オリーブ由来の抽出物を利用して、食品の塩味を増強する効果に優れた新たな素材を提供する。
【解決手段】オリーブ抽出物を有効成分として含有する食品の塩味増強剤である。また、オリーブ抽出物と水及び/又は油脂とを含有する食品の塩味増強用組成物である。また、オリーブ抽出物を食品に含有せしめる食品の塩味増強方法である。また、オリーブ果実の搾りかすを抽出溶媒で抽出する工程を含む食品の塩味増強剤の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ抽出物を有効成分として含有する食品の塩味増強剤。
【請求項2】
前記オリーブ抽出物は、オリーブ搾油残渣のエタノール含有溶媒による抽出物である、請求項1に記載の食品の塩味増強剤。
【請求項3】
前記エタノール含有溶媒は、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールである、請求項2に記載の食品の塩味増強剤。
【請求項4】
オリーブ抽出物と水及び/又は油脂とを含有する食品の塩味増強用組成物。
【請求項5】
前記オリーブ抽出物は、オリーブ搾油残渣のエタノール含有溶媒による抽出物である、請求項4に記載の食品の塩味増強用組成物。
【請求項6】
前記エタノール含有溶媒は、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールである、請求項5に記載の食品の塩味増強用組成物。
【請求項7】
オリーブ抽出物を食品に含有せしめる食品の塩味増強方法。
【請求項8】
前記オリーブ抽出物は、該オリーブ抽出物と水及び/又は油脂とを含有する組成物の形態で前記食品に含有せしめる、請求項7記載の食品の塩味増強方法。
【請求項9】
前記オリーブ抽出物は、オリーブ搾油残渣のエタノール含有溶媒による抽出物である、請求項7又は8に記載の食品の塩味増強方法。
【請求項10】
前記エタノール含有溶媒は、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールである、請求項9に記載の食品の塩味増強方法。
【請求項11】
オリーブ果実の搾りかすを抽出溶媒で抽出する工程を含む食品の塩味増強剤の製造方法。
【請求項12】
前記抽出溶媒は、エタノール含有溶媒である、請求項11に記載の食品の塩味増強剤の製造方法。
【請求項13】
前記エタノール含有溶媒は、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールである、請求項12に記載の食品の塩味増強剤の製造方法。
【請求項14】
前記抽出溶媒で抽出する工程を経て得た抽出物について、更に、該抽出物から溶媒を除去する工程を含む、請求項11又は12に記載の食品の塩味増強剤の製造方法。
【請求項15】
前記抽出物から溶媒を除去する工程を経て得た溶媒除去抽出物について、更に、該溶媒除去抽出物を水及び/又は油脂に溶解又は分散させる工程を含む、請求項14に記載の食品の塩味増強剤の製造方法。
【請求項16】
前記溶媒除去抽出物を水及び/又は油脂に溶解又は分散させる工程を経て得た溶解物又は分散物について、更に、該溶解物又は分散物から不溶解物及び/又は固形分を除去する工程を含む、請求項15に記載の食品の塩味増強剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の塩味を増強する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩は食品に塩味を付与してその美味しさを増強してくれる調味料であるとともに、身体を正常に機能させるために重要な役割を担う栄養素でもある。一方で、食塩の過剰摂取は、高血圧、心疾患、脳卒中、胃がん等を誘発する原因になると考えられている。そこで、食塩の使用量を低減しつつ塩味を損なわない減塩食品や減塩調味料の開発が進められている。例えば、特許文献1には、アルギニン及び/又はその塩、乳酸及び/又はその塩、並びにグルコン酸及び/又はその塩を原料に所定量添加する、塩味の増強された飲食品の製造方法が開示されている。
【0003】
一方、オリーブオイルは食用油として広く用いられており、オリーブ果実から搾油し、必要に応じて精製工程等を経ることで製造されている。通常、オリーブオイルを回収した後の搾りかす(搾油残渣)は飼料や肥料に活用されることもあるが、そのまま廃棄されることも多かった。近年には、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、資源を無駄なく利用することが求められている。
【0004】
オリーブオイルを回収した後の搾油残渣については、例えば、特許文献2には、オリーブの搾汁残渣から得られる抽出物を、抗酸化効果、美肌効果、抗腫瘍効果を有する飲食物に配合して利用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-208057号公報
【特許文献2】特開2002-186453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、オリーブ由来の抽出物を利用して、食品の塩味を増強する効果に優れた新たな素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意検討の結果、食品にオリーブ由来の抽出物を含有せしめることで塩味が増強することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、その第1の観点においては、オリーブ抽出物を有効成分として含有する食品の塩味増強剤を提供するものである。
【0009】
上記の食品の塩味増強剤においては、前記オリーブ抽出物は、オリーブ搾油残渣のエタノール含有溶媒による抽出物であることが好ましい。
【0010】
また、上記の食品の塩味増強剤においては、前記エタノール含有溶媒は、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールであることが好ましい。
【0011】
本発明は、その第2の観点においては、オリーブ抽出物と水及び/又は油脂とを含有する食品の塩味増強用組成物を提供するものである。
【0012】
上記の食品の塩味増強用組成物においては、前記オリーブ抽出物は、オリーブ搾油残渣のエタノール含有溶媒による抽出物であることが好ましい。
【0013】
また、上記の食品の塩味増強用組成物においては、前記エタノール含有溶媒は、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールであることが好ましい。
【0014】
本発明は、その第3の観点においては、オリーブ抽出物を食品に含有せしめる食品の塩味増強方法を提供するものである。
【0015】
上記の食品の塩味増強方法においては、前記オリーブ抽出物は、該オリーブ抽出物と水及び/又は油脂とを含有する組成物の形態で前記食品に含有せしめることが好ましい。
【0016】
また、上記の食品の塩味増強方法においては、前記オリーブ抽出物は、オリーブ搾油残渣のエタノール含有溶媒による抽出物であることが好ましい。
【0017】
また、上記の食品の塩味増強方法においては、前記エタノール含有溶媒は、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールであることが好ましい。
【0018】
本発明は、その第4の観点においては、オリーブ果実の搾りかすを抽出溶媒で抽出する工程を含む食品の塩味増強剤の製造方法を提供するものである。
【0019】
上記の食品の塩味増強剤の製造方法においては、前記抽出溶媒は、エタノール含有溶媒であることが好ましい。
【0020】
また、上記の食品の塩味増強剤の製造方法においては、前記エタノール含有溶媒は、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールであることが好ましい。
【0021】
また、上記の食品の塩味増強剤の製造方法においては、前記抽出溶媒で抽出する工程を経て得た抽出物について、更に、該抽出物から溶媒を除去する工程を含むことが好ましい。
【0022】
また、上記の食品の塩味増強剤の製造方法においては、前記抽出溶媒で抽出する工程を経て得た抽出物から溶媒を除去する工程を経て得た溶媒除去抽出物について、更に、該溶媒除去抽出物を水及び/又は油脂に溶解又は分散させる工程を含むことが好ましい。
【0023】
また、上記の食品の塩味増強剤の製造方法においては、前記溶媒除去抽出物を水及び/又は油脂に溶解又は分散させる工程を経て得た溶解物又は分散物について、更に、該溶解物又は分散物から不溶解物及び/又は固形分を除去する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、オリーブ由来の抽出物を利用して、食品の塩味を増強する効果に優れた新たな素材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、オリーブ由来の抽出物を利用するものである。抽出の基原とするオリーブとしては、品種等に特に制限はなく、例えば、ミッション、マンザニロ、ルッカ、ネバディロ・ブランコ、アルベキーナ、ピクアル、アルボサーナ、コロネイキ、オヒブランカ、コラティーナ、レッチーノ、デル・べリーチェ、アスコラーノ、コルニカブラ、フラントイオ、タジャスカ、マウリーノ、シプレッシーノ、ペンドリーノゴルダル、モロイオロなどの品種が挙げられる。オリーブは、日本国産であってもよく、外国産であってもよい。また、1種類の品種を単独で用いてもよく、2種以上の品種を併用してもよい。
【0026】
オリーブ由来の抽出物の基原となすオリーブの部位としては、特に制限はなく、例えば、果実、果肉、果皮、種子、葉、枝葉、枝、幹、幹枝、樹皮、根、根茎、根皮、茎、花、地上部、地下部、全木などが挙げられる。これらのなかでも、特に果実が好ましい。
【0027】
本発明においては、オリーブ由来の抽出物の基原(オリーブ由来基原)として、オリーブオイルの製造工程で排出される搾油残渣を用いてもよい。より具体的には、オリーブオイルの製造工程においては、オリーブ果実を選別、洗浄した後、粉砕、攪拌したうえ、圧搾、遠心分離等により、油と搾りかすとに分離する。これにより生じるオリーブ果実の搾りかす(搾油残渣)は、通常、廃棄されることも多いが、本発明においては、これをオリーブ由来の抽出物の基原として用い得る。なお、上記搾油残渣は、湿潤状態のものを用いてもよく、乾燥状態のものを用いてもよいが、湿潤状態の搾油残渣は腐敗の恐れがあることから、搾油残渣の保存性の観点から乾燥状態のものを用いることが好ましい。また、オリーブ搾油残渣は、肥料や飼料に資源化されることもあるが、オリーブ由来基原としては、そのように肥料や飼料に資源化される目的で調製された素材を利用してもよい。
【0028】
上記オリーブ由来基原からの抽出に用いられる抽出溶媒としては、適宜適当なものを用いればよいが、典型的には水又は含水有機溶媒が挙げられる。含水有機溶媒の有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、酢酸エチル、アセトン、n-ヘキサン、クロロホルムなどが挙げられる。これら有機溶媒は二種以上を混合して用いることもできる。また、その抽出に用いられる含水有機溶媒の有機溶媒含量としては、特に制限はないが、典型的に例えば、0体積%超100体積%未満であってよく、10体積%以上95体積%以下であってよく、30体積%以上95体積%以下であってよく、40体積%以上95体積%以下であってよい。特に、含水エタノールの場合には、エタノール含量40体積%以上95体積%以下の含水エタノールが好ましく、エタノール含量50体積%以上95体積%以下の含水エタノールがより好ましく、エタノール含量60体積%以上95体積%以下の含水エタノールが更により好ましく、エタノール含量70体積%以上95体積%以下の含水エタノールが最も好ましい。抽出に用いられる抽出溶媒としては、特には、水であってもよい。
【0029】
抽出物を調製する方法としては、当業者に周知の方法で行うことができる。限定されないが、例えば、上記オリーブ由来基原に上記抽出溶媒を加える工程と、これを所定時間維持する工程と、上記オリーブ由来基原に上記抽出溶媒を加えて所定時間維持した後に固液分離する工程と、必要に応じて溶媒を除去する工程とによって行われ得る。
【0030】
上記オリーブ由来基原に上記抽出溶媒を加える工程において、それらの重量比は特に限定されないが、典型的に例えば、上記オリーブ由来基原の重量の1質量部に対し、上記抽出溶媒の重量が1.0質量部以上12質量部以下であってよく、1.2質量部以上10質量部以下であってよく、1.5質量部以上8質量部以下であってよく、2.0質量部以上6質量部以下であってよい。
【0031】
上記所定時間維持する工程は、これにより、上記オリーブ由来基原から上記抽出溶媒中に、食品の塩味を増強する機能性を発揮させる成分を移行させることができる。この工程では、上記オリーブ由来基原と上記抽出溶媒とを均一に混合するため、必要に応じて、例えば、攪拌機、アジテーター、ミキサー等の手段により撹拌を行ってもよい。また、維持する時間は、特に限定されないが、典型的に例えば、0.25時間以上6時間以下であってよく、0.25時間以上4時間以下であってよく、0.5時間以上3時間以下であってよく、0.75時間以上1.5時間以下であってよい。また、この工程においては、必要に応じて、例えば、蒸気加熱、温水加熱、熱交換、マイクロ波等の手段により加温してもよい。加温条件としては、特に限定されないが、典型的に例えば、20℃以上80℃以下であってよく、25℃以上75℃以下であってよく、30℃以上70℃以下であってよく、35℃以上65℃以下であってよい。
【0032】
上記固液分離する工程は、これにより、上記オリーブ由来基原から上記抽出溶媒中に食品の塩味を増強する機能性を発揮させる成分を移行させたうえ、これを上記オリーブ由来基原の抽出後の残渣から分離して、回収することができる。すなわち、例えば、オリーブ果実等に由来する不溶性の繊維成分などの不溶解物や固形物を除去することができる。固液分離は、当業者に周知の方法で行うことができる。例えば、ろ過、フィルタープレス、静置分離、遠心分離、脱水等の手段により行うことができる。
【0033】
上記溶媒を除去する工程は、上記固液分離する工程によって得られた液部から溶媒を除去する工程である。溶媒除去は、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、蒸気乾燥、スピン乾燥、低温乾燥、真空凍結乾燥、ドラムドライ、スプレードライ、エバポレーター等の手段により行うことができる。
【0034】
後述する実施例において示されるように、オリーブ由来の抽出物(オリーブ抽出物)は、食品の塩味を増強する効果を奏し得る。よって、本発明はこれを食品の塩味増強剤の有効成分として利用するものである。また、本発明は、食品にオリーブ抽出物を含有せしめることによる、該食品の塩味を増強する方法を提供するものである。
【0035】
本発明により提供される食品の塩味増強剤において、オリーブ抽出物の含有量としては特に限定されず、オリーブ抽出物自体が、上記塩味増強剤を構成してもよい。
【0036】
一方、本発明の限定されない任意の態様においては、オリーブ抽出物は、上記オリーブ由来基原からの一次抽出物(例えば、溶媒を除去してなる溶媒除去抽出物を含む。)に、更に水及び/又は油脂を加えてなる組成物の形態で用いてもよい。また、限定されないが、例えば、上記オリーブ由来基原からの一次抽出物(例えば、溶媒を除去してなる溶媒除去抽出物を含む。)を水及び/又は油脂に加えて溶解又は分散させてなる溶解物又は分散物の形態で用いてもよく、あるいはその溶解物又は分散物から不溶解物及び/又は固形分を除去してなる上清の形態で用いてもよい。不溶解物及び/又は固形分の除去は、例えば、ろ過、フィルタープレス、静置分離、遠心分離等の手段により行うことができる。あるいは、混合、撹拌後に静置分離して得られた上清を用いてもよい。
【0037】
上記のような塩味増強用組成物の形態とするための水としては、食用可能な水であればよい。
【0038】
上記のような塩味増強用組成物の形態とするための油脂としては、食用可能な油脂であればよく、例えば、菜種油(高オレイン酸タイプを含む)、大豆油、パーム油、パーム核油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油、米油、落花生油、ヤシ油、カカオ脂等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。加えて、これらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の軟質分別油、パーム油の硬質分別油等)、エステル交換油、水素添加油等の加工油脂等が挙げられる。油脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
上記のような塩味増強用組成物の形態とするための水及び/又は油脂の用量としては、特に限定されないが、上記オリーブ由来基原からの抽出物から溶媒を除いた乾固物又はオイル状物の重量の1質量部に対し、0.5質量部以上2000質量部以下であってよく、1.0質量部以上1500質量部以下であってよく、1.5質量部以上1000質量部以下であってよく、2.0質量部以上500質量部以下であってよい。
【0040】
上記のような塩味増強用組成物の形態においては、更に、必要に応じて任意に賦形剤、補助剤、乳化剤、pH調整剤等を配合して、公知の手法により、液体状、粉末状、ペースト状等の任意の形態となし得る。すなわち、例えば、通常当業者に周知の製剤的技術により、油脂成分を主体とした、液体油脂、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、粉末油脂等に調製されてもよく、あるいは、油脂成分の配合量が少ない溶液状、粉末状、ゲル状、顆粒状等に調製されてもよく、それら形態は任意に採用し得る。また、例えば、粉末化する場合には、コーンシロップ等の補助剤を使用することができ、更に、乳化剤を添加して乳化原料を調製したうえ、これを粉末化してもよい。粉末化の手段としては、スプレードライ、フリーズドライ等が挙げられる。
【0041】
上記のような塩味増強用組成物の形態において、その組成物中のオリーブ抽出物の含有量としては、特に限定されないが、好ましくは0.05質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.15質量%以上8.5質量%以下であり、更に好ましくは0.25質量%以上7.5質量%以下である。なお、ここでいうオリーブ抽出物の含有量は、上記オリーブ由来基原から抽出溶媒で抽出することにより調製した一次抽出物から溶媒を除いた溶媒除去抽出物(例えば、乾固物又はオイル状物であってよい。)の重量に換算して、オリーブ抽出物が用いられた用量から相当される含有量を意味するものとする。
【0042】
本発明により提供される食品の塩味増強剤又は食品の塩味増強用組成物には、所望する塩味増強の機能性を損なわない範囲で、食用に通常添加される助剤が適宜配合されていてもよい。助剤としては、酸化防止剤、消泡剤、乳化剤、香料、風味付与剤、色素、生理活性物質等が挙げられる。具体的には、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロール、遊離脂肪酸、シリコーン等が挙げられる。
【0043】
本発明により提供される塩味増強剤又は塩味増強用組成物は、各種食品に使用可能である。限定されないが、その食品としては、例えば、炒飯、野菜炒め等の炒め物類、お好み焼き、焼そば、焼肉、焼き魚等の焼き物類、温野菜等の蒸し料理類、麻婆豆腐のソース、パスタソース、味付け肉のたれ等のソース類、ラーメンスープ、コンソメスープ、コーンスープ、ポタージュスープ、たまごスープ等のスープ類、食パン、総菜パン等のパン類、カレー、シチュー等のルウ、明太子、カズノコ等の魚卵加工品類、餃子、焼売、肉団子、中華まん、ハンバーグ、ハム、ソーセージ、魚肉ソーセージ、かまぼこ等の食肉加工品類、おにぎり、炊き込みご飯、ピラフ等の米飯類、プロセスチーズ、クリームチーズ、チーズソース等のチーズ類、アイスクリーム、ヨーグルト等の乳製品類、オムレツ、だし巻き等の卵加工品類、ポテトチップス等のスナック類、唐揚げ粉、チヂミ粉、粉末スープ等の調整粉類、シーズニングソース、ドレッシング、マヨネーズ、ポン酢、中華料理の素、鍋つゆ等の調味料類、マーガリン、ファットスプレッド等のマーガリン類、フレンチフライ、唐揚げ、イカリング、コロッケ等の油ちょう食品等であってよい。
【0044】
本発明により提供される塩味増強剤又は塩味増強用組成物を食品に適用する際、その適用の態様に特に制限はない。例えば、食品の原料や製造工程の中間物等へ、任意のタイミングで添加、混合、溶解、分散、乳化、注入すること等により、得られる食品の塩味を増強することができる。また、原料や製造工程の中間物への添加等だけでなく、食品の調理、加工、あるいは製造等の後に、ふりかけたり、塗布したりすること等により、当該食品に付与してもよい。
【0045】
本発明により提供される塩味増強剤又は塩味増強用組成物の使用形態について更に説明すると、本発明においては、その剤又は組成物に含まれるオリーブ抽出物を食品に含有せしめるようにして用いればよい。これにより、その食品の塩味を増強することができる。食品への添加量としては、適用する食品の種類に応じて適宜設定すればよいが、典型的には、例えば、本発明を適用する食品の形態中にオリーブ抽出物の量として、好ましくは25質量ppm以上10000質量ppm以下であり、より好ましくは35質量ppm以上10000質量ppm以下であり、更に好ましくは50質量ppm以上10000質量ppm以下である。なお、ここでいうオリーブ抽出物の添加量は、上記オリーブ由来基原から抽出溶媒で抽出することにより調製した一次抽出物から溶媒を除いた溶媒除去抽出物(例えば、乾固物又はオイル状物であってよい。)の重量に換算して、オリーブ抽出物が用いられた用量から相当される含有量を意味するものとする。
【0046】
本発明によって提供される塩味増強剤又は塩味増強用組成物を食品に含有せしめることによって、その食品の塩味が増強されたかどうかは、例えば、複数のパネラーによる官能評価によって、添加しない対照食品を食したときと比較するなどにより、客観的に判別することが可能である。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。但し、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0048】
〔1.使用材料〕
・オリーブ搾油残渣:乾燥オリーブ残渣(スペイン産)又は未乾燥のオリーブ搾油残渣(日本産)
・菜種油:「AJINOMOTOさらさらキャノーラ油」(製品名)、株式会社J-オイルミルズ製
・パーム油:株式会社J-オイルミルズ社内調製品
・パーム核油:株式会社J-オイルミルズ社内調製品
・パームステアリン:株式会社J-オイルミルズ社内調製品
・大豆油:「AJINOMOTO大豆の油」(製品名)、株式会社J-オイルミルズ製
・レトルトスープ:「大人向けのスープ冷たいフレンチヴィシソワーズ」(製品名)、HEINZ日本株式会社製
・クリームチーズ:「kiriクリームチーズ」(製品名)、ベルジャポン株式会社製
・パスタ乾麺:「マ・マースパゲッティ1.8mm」(製品名)、株式会社日清製粉ウェルナ製
・パスタソース:「キューピーあえるパスタソース ペペロンチーノ」(製品名)、キューピー株式会社製
〔2.オリーブ抽出物の調製〕
乾燥もしくは未乾燥のオリーブ搾油残渣にエタノール濃度の異なる含水エタノール又はエタノールを加えて1時間攪拌した後、濾紙にて濾過を行った。濾液を回収し、エバポレーターを用いて60℃の条件下で溶媒を除去することにより、各種のオリーブ抽出物を調製した。表1には、得られたオリーブ抽出物1~6の抽出条件を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
〔3.オリーブ抽出物を含有してなる組成物の調製〕
・オリーブ抽出物添加油(上清)
オリーブ抽出物を菜種油に添加し、十分に混合した後、静置分離して上清を得ることにより、オリーブ抽出物添加油(上清)を調製した。
・オリーブ抽出物添加油(混合物)
オリーブ抽出物を菜種油に添加し、静置分離せず十分に混合することにより、オリーブ抽出物添加油(混合物)を調製した。
・オリーブ抽出物添加水溶液
オリーブ抽出物を水に添加し、十分に混合することにより、オリーブ抽出物添加水溶液を調製した。
【0051】
[試験例1]
表2に示す各原材料を使用し、以下の(a)~(c)の手順に従って、スープを調製した。
(a)表2に記載の配合で、レトルトスープと水とを混合した。
(b)前述した方法で、各種のオリーブ抽出物を1質量%含有してなるオリーブ抽出物添加油(上清)を調製した。
(c)(b)で得られた1質量%オリーブ抽出物添加油(上清)又は菜種油を、表2に記載の配合で(a)で得られたレトルトスープと水との混合物に加え、十分に撹拌して、実施例1-1~1-5及び比較例1-1のスープを得た。
【0052】
評価は、専門パネラー3名が調製したスープを口に含み、オリーブ抽出物を添加しない比較例1-1を1点として5段階(1~5点)で評価し、その平均値を求めることにより行った。
【0053】
【表2】
【0054】
その結果、実施例1-1~1-5の結果にみられるように、オリーブ抽出物を含有せしめることで、オリーブ抽出物を添加しない比較例1-1と比べ、スープの塩味を増強する効果が得られることが明らかとなった。
【0055】
[試験例2]
表3に示す各原材料を使用し、試験例1と同様にして、スープを調製した。その際、オリーブ抽出物としては、前述した方法で、オリーブ抽出物5を1質量%含有してなる、オリーブ抽出物添加油(混合物)、オリーブ抽出物添加油(上清)、オリーブ抽出物添加水溶液を調製して用いた。評価は、比較例2-1を1点として、試験例1と同様にして行った。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
その結果、実施例2-1~2-3の結果にみられるように、オリーブ抽出物を含有せしめることで、オリーブ抽出物を添加しない比較例2-1と比べ、スープの塩味を増強する効果が得られることが明らかとなった。また、オリーブ抽出物を菜種油に添加して混合した後、静置分離して得られた上清を使用した実施例2-2と、オリーブ抽出物を水に添加して得られた水溶液を使用した実施例2-3とは、オリーブ抽出物を菜種油に添加して混合した後、静置分離せず十分に混合することにより得られた混合物を使用した実施例2-1と比較して、スープの塩味を増強する効果が高くなる傾向が示された。
【0058】
[試験例3]
表4に示す各原材料を使用し、試験例1と同様にして、スープを調製した。その際、オリーブ抽出物としては、前述した方法で、オリーブ抽出物5を表4に記載の添加量で菜種油に添加してなるオリーブ抽出物添加油(上清)を調製して用いた。評価は、比較例3-1を1点として、試験例1と同様にして行った。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
その結果、実施例3-1~3-6の結果にみられるように、オリーブ抽出物を含有せしめることで、オリーブ抽出物を添加しない比較例3-1と比べ、スープの塩味を増強する効果が得られることが明らかとなった。また、オリーブ抽出物の添加量の範囲としては、少なくとも50質量ppm~1500質量ppmの範囲で、上記塩味増強効果が得られることが明らかとなった。
【0061】
[試験例4]
表5に示す各原材料を使用し、以下の(a)~(e)の手順に従って、ファットスプレッドを調製した。
(a)パーム油を30質量部、パーム核油を70質量部混合した混合油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒として0.3質量部添加し、80℃かつ真空度2.7kPaの条件下で60分間攪拌しながらランダムエステル交換反応を行った。ランダムエステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、水素添加を行った。水素添加の後、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭を行ってエステル交換油脂1を得た。
(b)パームステアリンを75質量部、パーム油を10質量部、大豆油を15質量部混合した混合油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒として0.3質量部添加し、80℃かつ真空度2.7kPaの条件下で60分間攪拌しながらランダムエステル交換反応を行った。ランダムエステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、水素添加を行った。水素添加の後、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭を行ってエステル交換油脂2を得た。
(c)表5に記載の配合で、菜種油と、エステル交換油脂1と、エステル交換油脂2とを60℃に加温した後、香料を添加して溶解し、混合した。
(d)表5に記載の配合で、水及び食塩と必要に応じてオリーブ抽出物5を、(c)で得られた混合油に加え、更に65℃に加熱した容器に入れてプロペラ攪拌機を用いて攪拌し、混合乳化した。
(e)(d)の乳化油を60℃まで空冷した後、パーフェクターを用いて急冷・混捏し、更に箱に充填して5℃の保温庫にて一定時間保持し、実施例4-1~4-3及び比較例4-1のファットスプレッドを得た。
【0062】
評価は、専門パネラー3名が調製したファットスプレッドを口に含み、オリーブ抽出物を添加しない比較例4-1を1点として5段階(1~5点)で評価し、その平均値を求めることにより行った。結果を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
その結果、実施例4-1~4-3の結果にみられるように、オリーブ抽出物を含有せしめることで、オリーブ抽出物を添加しない比較例4-1と比べ、ファットスプレッドの塩味を増強する効果が得られることが明らかとなった。また、オリーブ抽出物を含有する実施例4-3では、比較例4-1に対して食塩の含有量を半分に減量してもなお、オリーブ抽出物を含有せしめたことにより、オリーブ抽出物を添加しない比較例4-1と比べ、ファットスプレッドの塩味を増強する効果がみられた。
【0065】
[試験例5]
表6に記載の配合で、クリームチーズにオリーブ抽出物5を添加し、十分に混合して、実施例5-1及び5-2のクリームチーズを得た。また、オリーブ抽出物5を添加しないクリームチーズを比較例5-1のクリームチーズとした。評価は、専門パネラー3名が調製したチーズを口に含み、オリーブ抽出物を添加しない比較例5-1を1点として5段階(1~5点)で評価し、その平均値を求めることにより行った。結果を表6に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
その結果、実施例5-1及び5-2の結果にみられるように、オリーブ抽出物を含有せしめることで、オリーブ抽出物を添加しない比較例5-1と比べ、クリームチーズの塩味を増強する効果が得られることが明らかとなった。
【0068】
[試験例6]
表7に示す各材料を使用し、以下の(a)~(e)の手順に従って、調理パスタを調製した。
(a)1質量%の塩を加えたお湯でパスタ乾麺を11分間茹でた後、茹で上がったパスタを取り出し、冷水で1分間冷却した。更に、30秒間ザルに静置して湯切りを行った。
(b)前述した方法で、オリーブ抽出物6を1質量%又は3質量%含有してなるオリーブ抽出物添加油(上清)を調製した。
(c)(b)で得られたオリーブ抽出物添加油(上清)又は菜種油を、表7に記載の配合で(a)で得られた茹でたパスタに加え、30秒間よく和えた。
(d)(c)で得られたオリーブ抽出物添加油(上清)又は菜種油を和えたパスタにパスタソースを加えてよく和えた。
(e)(d)で得られたパスタソースを和えたパスタを3時間冷蔵庫で冷却した後、電子レンジを用いて800Wで50秒間加熱し、実施例6-1及び6-2、及び比較例6-1の調理パスタを得た。
【0069】
評価は、専門パネラー4名が調製した調理パスタを口に含み、オリーブ抽出物を添加しない比較例6-1を0点として9段階(-4~4点)で評価し、その平均値を求めることにより行った。結果を表7に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
その結果、実施例6-1及び6-2の結果にみられるように、オリーブ抽出物を含有せしめることで、オリーブ抽出物を添加しない比較例6-1と比べ、調理パスタの塩味を増強する効果が得られることが明らかとなった。