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特開2024-115698光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115698
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/80 20130101AFI20240820BHJP
   H04J 14/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
H04B10/80 160
H04J14/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021488
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】和田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】飯田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】黒河 賢二
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AD01
5K102AK05
5K102AN03
5K102PA11
5K102PB02
5K102PB14
5K102PH31
5K102PH47
5K102PH48
5K102PH49
5K102PH50
(57)【要約】
【課題】光ファイバの設計変更を行うことなく誘導ラマン散乱閾値を向上させて、既に設置された、又は、信号の伝送用に最適化された、種々の光ファイバの給電性能を向上させることができる、光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法は、光源と、光源からの給電光を一端から他端に伝搬する光ファイバと、他端に設けられた反射抑制器と、反射抑制器を介して他端から出力される給電光を受光する受光素子と、を備える光ファイバ給電システムに係り、反射抑制器の反射減衰量が、光ファイバの長さによって定められる閾値以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの給電光を一端から他端に伝搬する光ファイバと、
前記他端に設けられた反射抑制器と、
前記反射抑制器を介して前記他端から出力される前記給電光を受光する受光素子と、
を備える光ファイバ給電システムであって、
前記反射抑制器の反射減衰量が、前記光ファイバの長さによって定められる閾値以上である、光ファイバ給電システム。
【請求項2】
送信機と、受信機と、を更に備え、
前記送信機は、前記給電光とは異なる波長の信号光を出力し、
前記光ファイバは、前記信号光を前記一端から前記他端に伝搬し、
前記受信機は、前記他端から出力される前記信号光を受光する、請求項1に記載の光ファイバ給電システム。
【請求項3】
送信側光カプラと、受信側光カプラと、を更に備え、
前記送信側光カプラは、前記光源からの前記給電光と、前記送信機からの前記信号光を合波した光を前記一端に入力し、
前記受信側光カプラは、前記他端から出力される光を、前記受光素子に向かう前記給電光と、前記受信機に向かう前記信号光に分波する、請求項2に記載の光ファイバ給電システム。
【請求項4】
前記光ファイバの長さをL(単位km)とし、
前記反射減衰量をR(単位db)として、
【数1】
を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の光ファイバ給電システム。
【請求項5】
光源と、
前記光源からの給電光を一端から他端に伝搬する光ファイバと、
前記他端に設けられた反射抑制器と、
前記反射抑制器を介して前記他端から出力される前記給電光を受光する受光素子と、
を備える光ファイバ給電システムに係る光ファイバ給電方法であって、
前記反射抑制器の反射減衰量を、前記光ファイバの長さによって定められる閾値以上に設定する、光ファイバ給電方法。
【請求項6】
送信機を用いて、前記給電光とは異なる波長の信号光を出力させ、
前記信号光を、前記光ファイバの前記一端から前記他端に伝搬させ、
受信機を用いて、前記他端から出力される前記信号光を受光する、請求項5に記載の光ファイバ給電方法。
【請求項7】
送信側光カプラを用いて、前記光源からの前記給電光と、前記送信機からの前記信号光を合波した光を前記一端に入力し、
受信側光カプラを用いて、前記他端から出力される光を、前記受光素子に向かう前記給電光と、前記受信機に向かう前記信号光に分波する、請求項6に記載の光ファイバ給電方法。
【請求項8】
前記光ファイバの長さをL(単位km)とし、
前記反射減衰量をR(単位db)として、
【数2】
を満たす、請求項5~7のいずれか一項に記載の光ファイバ給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、光ファイバのコア部の実効断面積を拡大することで、コア部によって伝搬される給電光の強度の制限となる、誘導ラマン散乱(SRS)閾値を向上させる技術が開示されている。
【0003】
非特許文献2には、光ファイバにフォトニックバンドギャップ構造を設けることで、ラマン散乱によって生じるストークス光を抑制する技術が開示されている。
【0004】
非特許文献3には、数十mの長さを有する光ファイバ共振器において、SRS閾値によって光ファイバに入力する光の強度が制限されることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Matsuura, H. Nomoto, H. Mamiya, T. Higuchi, D. Maason, and S. Fafard, “Over 40-W electric power and optical data transmission using an optical fiber,” IEEE Trans. Power Electron., vol. 36, no. 4, pp. 4532-4539, Apr. 2021.
【非特許文献2】T. Taru, J. Hou, and J. C. Knight, “Raman gain suppression in all-solid photonic bandgap fiber,” in European Conference and Exhibition on Optical Communication 2007, Berlin, paper 7.1.1, Sep. 2007.
【非特許文献3】K. Vilhelmsson et al., “Simultaneous forward and backward Raman scattering in low-attenuation single-mode fibers,” J. Lightw. Technol. 4, 400-404, 1986.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1,2に記載された技術によれば、光ファイバによって伝搬される光(給電光又は信号光)の強度を向上させるためには、光ファイバの設計変更を行う必要がある。そのため、非特許文献1,2に記載された技術を、既設の光ファイバ、又は、伝送用に最適化された光ファイバに対して適用することができないという問題がある。
【0007】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものである。その目的とするところは、光ファイバの設計変更を行うことなく誘導ラマン散乱閾値を向上させて、既に設置された、又は、信号の伝送用に最適化された、種々の光ファイバの給電性能を向上させることができる、光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本開示の一態様に係る光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法は、光源と、光源からの給電光を一端から他端に伝搬する光ファイバと、他端に設けられた反射抑制器と、反射抑制器を介して他端から出力される給電光を受光する受光素子と、を備える光ファイバ給電システムに係り、反射抑制器の反射減衰量が、光ファイバの長さによって定められる閾値以上である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、光ファイバの設計変更を行うことなく誘導ラマン散乱閾値を向上させて、既に設置された、又は、信号の伝送用に最適化された、種々の光ファイバの給電性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の実施形態に係る光ファイバ給電システムの構成を示す模式図である。
図2図2は、第1変形例に係る光ファイバ給電システムの構成を示す模式図である。
図3図3は、第2変形例に係る光ファイバ給電システムの構成を示す模式図である。
図4図4は、反射減衰量を測定する際の実験系を示す模式図である。
図5図5は、反射率と誘導ラマン散乱閾値の関係を示す図である。
図6図6は、規格化された反射率と規格化された誘導ラマン散乱閾値の関係を示す図である。
図7図7は、光ファイバの長さと規格化された反射減衰量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本開示の実施の形態を詳細に説明する。説明において、同一のものには同一符号を付して重複説明を省略する。
【0012】
[光ファイバ給電システムの構成]
図1は、本開示の実施形態に係る光ファイバ給電システムの構成を示す模式図である。光ファイバ給電システムは、光源10と、光ファイバFBと、反射抑制器20と、受光素子30と、を備える。
【0013】
光源10は、光給電もしくは通信用の光源であり、給電光を出力する。例えば、光源10は、LED(発光ダイオード)、VCSEL(垂直発光セミコンダクターレーザ)、DPL(ダブルパスレーザ)などであってもよい。LEDは低コストで耐久性が高く、VCSELは高出力で精度が高いため、データ伝送の用途などで使用される。DPLは高効率かつ高出力で、高速なデータ伝送や高精度の距離測定の用途で使用される。その他、光源10は、ファイバレーザであってもよいし、上述した光源からの光を増幅器によって増幅して出力するものであってもよい。なお、光源10の線幅が短いと誘導ブリルアン散乱などの影響を受け、入力強度限界が下がる可能性がある。そのため、光源10の線幅は1nm以上であることが望ましい。
【0014】
光ファイバFBは、光源10からの給電光を一端から他端に伝搬する。図1では、光源10からの給電光が進む向きが矢印R1で示されている。
【0015】
例えば、光ファイバFBは、シングルモードまたはマルチモードの光ファイバである。また、光ファイバFBは、シングルコアまたはマルチコアの光ファイバであってもよい。その他、光ファイバFBは、フォトニック結晶ファイバ、空孔アシストファイバ、バンドギャップファイバ、中空コアファイバであってもよい。光ファイバFBは、ここに挙げた例の組み合わせであってもよい。
【0016】
反射抑制器20は、光ファイバFBの他端に設けられる。すなわち、反射抑制器20は、光ファイバFBの端部のうち、光源10からの給電光が入力される一端とは異なる他端に設けられる。後述するように、反射抑制器20の反射減衰量は、光ファイバFBの長さによって定められる閾値以上に設定される。
【0017】
反射抑制器20は、光ファイバFBの端面の斜めカット、端面の研磨、光アイソレータなどで構成される。ここで、「斜めカット」とは、光ファイバFBの中心軸に垂直な面から傾斜した面で光ファイバFBを切断することを意味する。
【0018】
なお、反射抑制器20は、光源10から、後述する受光素子30に至るまでの給電光の光路上のいずれかに配置されるものであってもよい。例えば、反射抑制器20は、光源10の後段(光源10と光ファイバFBの一端の間)に配置されてもよい。
【0019】
受光素子30は、反射抑制器20を介して、光ファイバFBの他端から出力される給電光を受光する。例えば、受光素子30は、フォトダイオード又はフォトトランジスタである。フォトダイオードは、光によって電流を発生する素子で、高感度かつ低ノイズ性を有する。フォトトランジスタは、光によって電流が流れるトランジスタの一種で、光から電気エネルギーを変換するために使用される。光ファイバ給電においては、受光素子30は、光エネルギーを電気エネルギーに変換し、デバイスに給電するために使用される。
【0020】
図2は、第1変形例に係る光ファイバ給電システムの構成を示す模式図である。図1に示す光ファイバ給電システムとは異なり、図2に示す光ファイバ給電システムは、更に、送信機50及び受信機60を備える。
【0021】
送信機50は、光源10の給電光とは異なる波長の信号光を出力する。送信機50から出力された信号光は、光ファイバFBによって一端から他端に伝搬される。送信機50は、光源10と同様に、LED(発光ダイオード)、VCSEL(垂直発光セミコンダクターレーザ)、DPL(ダブルパスレーザ)などであってもよい。
【0022】
受信機60は、光ファイバFBの他端から出力される信号光を受光する。例えば、受信機60は、フォトダイオード又はフォトトランジスタである。
【0023】
なお、送信機50から出力される信号光を光ファイバFBの一端に入力するため、光ファイバ給電システムは、送信側光カプラCP1を備えていてもよい。送信側光カプラCP1は、光源10から出力される給電光、及び、送信機50から出力される信号光を合波し、光ファイバFBの一端に入力する。
【0024】
また、光ファイバFBの他端から出力される信号光を受信機60に入力するため、光ファイバ給電システムは、受信側光カプラCP2を備えていてもよい。受信側光カプラCP2は、光ファイバFBの他端から出力される光を、受光素子30に向かう給電光と、受信機60に向かう信号光に分波する。
【0025】
光源10、送信機50、送信側光カプラCP1は、送信側ユニットSTを構成し、反射抑制器20、受光素子30、受信側光カプラCP2は、受信側ユニットSRを構成する。
【0026】
なお、反射抑制器20は、光源10から後述する受光素子30に至るまでの給電光の光路上のいずれかに配置されるものであってもよい。例えば、反射抑制器20は、光源10の後段(光源10と光ファイバFBの一端の間)に配置されてもよい。反射抑制器20は、受信側光カプラCP2の前段(光ファイバFBの他端と受信側光カプラCP2の間)に配置されてもよい。
【0027】
図3は、第2変形例に係る光ファイバ給電システムの構成を示す模式図である。図2に示す光ファイバ給電システムとは異なり、図3に示す光ファイバ給電システムは、複数の送信側ユニットST1、及び、複数の受信側ユニットSRを備える。ここで、光ファイバFBは、空間チャネルを利用できるマルチコアファイバもしくはマルチモードファイバでもよい。なお、送信側ユニットST1のうち光源10は共通化されて、1つの光源10から分岐させて給電光を供給するものであってもよい。
【0028】
各送信側ユニットSTからの光(給電光、信号光)を、光ファイバFBの各コア又は各モードに導入するため、光ファイバFBの一端に、分岐部FIを設けてもよい。そして、分岐部FIを介して、複数の光源10と光ファイバFBを接続してもよい。分岐部FIを介して、複数の送信機50と光ファイバFBを接続してもよい。例えば、光ファイバFBがマルチコアファイバである場合には、分岐部FIとしてFan-inデバイスを用い、光ファイバFBがマルチモードファイバである場合には、分岐部FIとしてモードMUX(Multiplexer)を用いてもよい。
【0029】
同様に、光ファイバFBの各コア又は各モードからの光を、各受信側ユニットSRに導入するため、光ファイバFBの他端に分岐部FOを設けてもよい。そして、分岐部FOを介して、複数の反射抑制器20、受光素子30と、光ファイバFBを接続してもよい。分岐部FOを介して、複数の受信機60と光ファイバFBを接続してもよい。例えば、光ファイバFBがマルチコアファイバである場合には、分岐部FOとしてFan-outデバイスを用い、光ファイバFBがマルチモードファイバである場合には、分岐部FOとしてモードDEMUX(Demultiplexer)を用いてもよい。
【0030】
モードMUXとは、複数の入力信号を直交している異なる伝搬モードに変換しマルチモードファイバに合波する回路である。モードMUXは、選択信号と呼ばれる制御信号に基づいて、複数の入力信号のうち一つだけを選択して出力信号とする。
【0031】
モードDEMUXは、モードMUXの逆の機能を持ち、一つの入力信号を複数の出力信号に分配する回路である。モードDEMUXは、入力信号を、選択信号に応じて複数の出力に分配する。
【0032】
[反射抑制器の反射減衰量]
次に、反射抑制器20の反射減衰量について説明する。図4は、反射減衰量を測定する際の実験系を示す模式図である。図4では、光ファイバFBの他端の端面が「斜めカット」によって形成され、「斜めカット」によって反射抑制器20が形成されている例が示されている。
【0033】
反射抑制器20の反射減衰量を測定する際、光ファイバFBの一端から測定用の光を矢印R1で進む向きで入力する。そして、測定用の光が反射抑制器20で反射されて生じる、矢印R2で進む反射光を、光ファイバFBの一端に設置した、OTDR(optical time-domain reflectometer、光時間領域反射率計)によって検出する。
【0034】
また、光ファイバFBの一端から入力する測定用の光の強度を増加させながら、光ファイバFBの他端から出力される出力光を、パワーメータPMを用いて測定する。そして、パワーメータPMによって、出力光強度を測定する。なお、パワーメータPMは、光励起スペクトロメーターであってもよい。
【0035】
ここで、誘導ラマン散乱(SRS)とは、非線形媒質にある閾値(誘導ラマン散乱閾値)を超えるような強いポンプ光が入射されると、ストークス光と呼ばれるより低い周波数を持つ成分が急に成長し、ポンプエネルギーの大部分がストークス光になる現象をいう。このポンプ光とストークス光の周波数差はラマンシフトまたはストークスシフトと呼ばれる。測定用の光の強度変化から、光ファイバFBの誘導ラマン散乱閾値を計測する。
【0036】
図5は、反射率と誘導ラマン散乱閾値(SRS閾値)の関係を示す図である。図5では、光ファイバFBの一例として、シングルモードであるG.654Eファイバにおける、反射率とSRS閾値の関係を示している。
【0037】
黒丸は、7.5kmの長さの光ファイバについての測定結果を示す。黒四角形は、13.1kmの長さの光ファイバについての測定結果を示す。上向き黒三角形は、21.2kmの長さの光ファイバについての測定結果を示す。下向き黒三角形は、34.3kmの長さの光ファイバについての測定結果を示す。
【0038】
図4を参照すると、光ファイバの長さによらずに、反射率が低下する(反射減衰量が上昇する)のに伴ってSRS閾値が増加する様子が分かる。
【0039】
また、図4において実線は、黒丸、黒四角形、上向き黒三角形、下向き黒三角形のそれぞれの測定結果をフィッティングする曲線である。曲線は、次の数式1によって表される。
【0040】
【数1】
【0041】
ここで、G.654Eファイバでは、「C=1.34」である。「PSRS_RL」は反射を考慮した光ファイバのSRS閾値(単位W)、「PSRS」は従来知られている光ファイバのSRS閾値(単位W)である。「Leff」は光ファイバの実効長(単位km)、「RL」は光ファイバの他端での反射率、「Aeff」は、光ファイバの実効断面積(単位μm)、「g」は、光ファイバのラマン利得係数(単位m/W)である。
【0042】
数式1は、光ファイバの他端において反射率が低下(反射減衰量が上昇)することでSRS閾値が増加する様子を表す経験式であるといえる。当該経験式を用いることで、設定すべき、反射抑制器20の反射減衰量の値を得ることができる。
【0043】
図6は、規格化された反射率と規格化された誘導ラマン散乱閾値(SRS閾値)の関係を示す図である。図6では、劈開時の反射率(反射減衰量=13db)によって規格化された反射率と、劈開時のSRS閾値によって規格化されたSRS閾値の関係を示している。その他、図7は、光ファイバの長さと規格化された反射減衰量の関係を示す図である。
【0044】
図6において点線で示した基準線(規格化されたSRS閾値の値が1.1の線)と、実線で示す曲線の交点は、光ファイバの長さにより異なる。つまり、光ファイバの劈開時(反射減衰量=13dBの時)のSRS閾値を基準に比べて、SRS閾値を10%増大させるシステムを実現するために要求される反射減衰量は、光ファイバの長さにより異なる。
【0045】
そこで、光ファイバの長さに応じて、数式2に基づいて、光ファイバの他端における反射量を抑制することで、SRS閾値を10%以上増大させることができる。
【0046】
【数2】
【0047】
ここで、「RL」は、規格化された反射減衰量(単位db)、「L」は、光ファイバの長さ(単位km)である。数式2で示す光ファイバの長さと規格化された反射減衰量の間の関係は、図7に示すように、SRS閾値を10%以上増大させる際の反射減衰量を再現している。
【0048】
図7では、劈開時の反射減衰量にて規格化されているため、実際の反射減衰量「R」(単位db)が次の数式3を満たす場合に、SRS閾値を10%以上増大させることができる。
【0049】
【数3】
【0050】
したがって、実際の光ファイバFBにおいても、数式3を満たすように、光ファイバFBの長さ「L」(単位km)に基づいて、反射抑制器20における反射減衰量「R」(単位db)を設定する。これにより、光ファイバFBでのSRS閾値を10%以上増大させることができる。
【0051】
[実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法は、光源と、光源からの給電光を一端から他端に伝搬する光ファイバと、他端に設けられた反射抑制器と、反射抑制器を介して他端から出力される給電光を受光する受光素子と、を備える光ファイバ給電システムに係り、反射抑制器の反射減衰量が、光ファイバの長さによって定められる閾値以上に設定される。
【0052】
これにより、光ファイバの設計変更を行うことなく誘導ラマン散乱閾値を向上させて、既に設置された、又は、信号の伝送用に最適化された、種々の光ファイバの給電性能を向上させることができる。
【0053】
特に、反射抑制器の反射減衰量を増加させることで、誘導ラマン散乱(SRS)閾値を増加させることができる。その結果、光ファイバに入力する光の強度に対する制限を緩めることができる。したがって、光ファイバに入力する光の強度を増加させて、光ファイバの給電性能を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法において、送信機を用いて、給電光とは異なる波長の信号光を出力させ、信号光を、光ファイバの一端から他端に伝搬させ、受信機を用いて、他端から出力される信号光を受光するものであってもよい。これにより、光ファイバの給電性能を向上させつつ、信号光による通信を行うことができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係る光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法において、送信側光カプラを用いて、光源からの給電光と、送信機からの信号光を合波した光を一端に入力し、受信側光カプラを用いて、他端から出力される光を、受光素子に向かう給電光と、受信機に向かう信号光に分波するものであってもよい。これにより、光ファイバの給電性能を向上させつつ、信号光による通信を行うことができる。
【0056】
また、本実施形態に係る光ファイバ給電システム及び光ファイバ給電方法において、光ファイバの長さをL(単位km)とし、反射減衰量をR(単位db)として、上述した数式3を満たすように、反射減衰量を設定するものであってもよい。これにより、光ファイバにおけるSRS閾値を10%以上増大させることができる。その結果、光ファイバに入力する光の強度を増加させて、光ファイバの給電性能を向上させることができる。
【0057】
以上、実施形態に沿って本開示の内容を説明したが、本開示はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。この開示の一部をなす論述および図面は本開示を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0058】
本開示はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本開示の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0059】
10 光源
20 反射抑制器
30 受光素子
50 送信機
60 受信機
CP1 送信側光カプラ
CP2 受信側光カプラ
FI,FO 分岐部
FB 光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7