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  • 特開-抗体又はその抗原結合性断片 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011573
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】抗体又はその抗原結合性断片
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240118BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240118BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240118BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240118BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240118BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/30
A61P35/00
A61P35/04
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61K51/10 200
A61K49/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113671
(22)【出願日】2022-07-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506286928
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪府立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 清史
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大川 和良
(72)【発明者】
【氏名】池澤 賢治
(72)【発明者】
【氏名】三吉 範克
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀典
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA14
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB43
4C085BB44
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085HH01
4C085HH03
4C085JJ02
4C085KA04
4C085KA29
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】がん、特に初期がんの検査に有用な抗体又はその抗原結合性断片を提供すること。
【解決手段】配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、SASで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む、抗体又はその抗原結合性断片。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
SASで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む、抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項3】
前記抗体がIgGである、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
前記抗原結合性断片がFab、F(ab’)2、ミニボディ、scFv‐Fc、Fv、scFv、ディアボディ、トリアボディ、又はテトラボディである、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片のコード配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する、がんの検査薬。
【請求項8】
前記がんが転移がんである、請求項7に記載の検査薬。
【請求項9】
前記がんが膵臓がんである、請求項7に記載の検査薬。
【請求項10】
前記がんが初期膵臓がんである、請求項7に記載の検査薬。
【請求項11】
診断剤で標識された、請求項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含む、がんを診断するための医薬組成物。
【請求項12】
前記診断剤が放射性物質である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記がんが膵臓がんである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含む、がんを治療するための医薬組成物。
【請求項15】
前記がんが膵臓がんである、請求項14に記載のがんを治療するための医薬組成物。
【請求項16】
請求項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含む、がんの転移を抑制するための医薬組成物。
【請求項17】
前記がんが膵臓がんである、請求項16に記載のがんの転移を抑制するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗体又はその抗原結合性断片等に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは日本における死亡原因の第1位で、平均寿命の延びに伴って死亡者数は年々増加している。がんによる死亡者数の減少のためには早期診断が最も重要とされているが、初期に特徴的な症状が無い場合が多く、診断されたときには既にがんが進行して治療が困難となっている。また、膵臓がん等のがんでは、手術によってがん組織の切除できても術後の再発率が高く、術後のモニタリングが欠かせない。したがって、血液検査など簡便ながんの検査方法は、適切な実施により確実な効果が得られることから重要な役割を担っている。
【0003】
これまで、がん抗原に対する抗体が多く作製されており、特に、モノクローナル抗体は感度及び特異度が高くて半永久的に使用できるため、一般的に用いられている。早期診断が最も困難な膵臓がんの場合、CA19-9モノクローナル抗体を用いる検査方法が報告されている(非特許文献1)。また、がん細胞が分泌する細胞外小胞が、がんの生成、進展、薬剤耐性、転移に関与していることが示されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Erxi W. Shuang Z. Kruttika B. Qingyong M. :CA19-9 and pancreatic cancer. Clin Adv Hematol Oncol. 2013 11(1):53-55.
【非特許文献2】Sunami Y. Haubler J. Zourelidis A. Kleef J. :Cancer-associated fibroblasts and tumor cells in pancreatic cancer microenvironment and metastasis: Paracrine regulators, reciprocation and exosome. Cancers. 2022 14(3):744.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、がん、特に初期がんの検査に有用な抗体又はその抗原結合性断片を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、SASで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む、抗体又はその抗原結合性断片、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は上記知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. 配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
SASで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む、抗体又はその抗原結合性断片。
【0008】
項2. 前記抗体がモノクローナル抗体である、項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0009】
項3. 前記抗体がIgGである、項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0010】
項4. 前記抗原結合性断片がFab、F(ab’)2、ミニボディ、scFv‐Fc、Fv、scFv、ディアボディ、トリアボディ、又はテトラボディである、項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0011】
項5. 項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片のコード配列を含む、ポリヌクレオチド。
【0012】
項6. 項5に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【0013】
項7. 項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する、がんの検査薬。
【0014】
項8. 前記がんが転移がんである、項7に記載の検査薬。
【0015】
項9. 前記がんが膵臓がんである、項7に記載の検査薬。
【0016】
項10. 前記がんが初期膵臓がんである、項7に記載の検査薬。
【0017】
項11. 診断剤で標識された、項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含む、がんを診断するための医薬組成物。
【0018】
項12. 前記診断剤が放射性物質である、項11に記載の医薬組成物。
【0019】
項13. 前記がんが膵臓がんである、項11に記載の医薬組成物。
【0020】
項14. 項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含む、がんを治療するための医薬組成物。
【0021】
項15. 前記がんが膵臓がんである、項14に記載のがんを治療するための医薬組成物。
【0022】
項16. 項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含む、がんの転移を抑制するための医薬組成物。
【0023】
項17. 前記がんが膵臓がんである、項16に記載のがんの転移を抑制するための医薬組成物。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、がん、特に初期がんの検査に有用な抗体又はその抗原結合性断片を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1で行われた、細胞外小胞に反応する抗体を産生するクローンPEMb14を示す。左図は、透過光観察により、リンパ球1ヶの存在を示す。右図は、免疫蛍光染色観察により、リンパ球由来の抗体が細胞外小胞に反応したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0027】
本明細書において、アミノ酸配列は一文字表記で表す。
【0028】
1.抗体又はその抗原結合性断片
本開示は、その一態様において、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、SASで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む、抗体又はその抗原結合性断片(本明細書において、「本開示の抗体又はその断片」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0029】
本開示の抗体又はその断片は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む。重鎖可変領域は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む。軽鎖可変領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、SASで示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む。
【0030】
「重鎖」とは、アミノ末端部分が約120~130又はそれ以上のアミノ酸の可変領域を含み、カルボキシ末端部分が定常領域を含む、約50~70kDaのポリペプチド鎖を意味する。定常領域は、重鎖定常領域のアミノ酸配列に基づいて、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)及びミュー(μ)と称される5種の別個の型のうちの1種であり得る。別個の重鎖は、サイズが異なり、α、δ及びγはおよそ450アミノ酸を含有し、μ及びεはおよそ550アミノ酸を含有する。これらの別個の型の重鎖を軽鎖と組み合わせると、IgGの4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)を含め、5つの周知のクラスの抗体、それぞれIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが生じる。
【0031】
「軽鎖」とは、アミノ末端部分が約100~約110又はそれ以上のアミノ酸の可変領域を含み、カルボキシ末端部分が定常領域を含む、約25kDaのポリペプチド鎖を意味する。軽鎖のおおよその長さは211~217アミノ酸である。定常ドメインのアミノ酸配列に基づいてカッパ(κ)又はラムダ(λ)と称される2種の別個の型が存在する。
【0032】
「可変領域」とは、一般に軽鎖又は重鎖のアミノ末端に位置し、長さが重鎖では約120~130残基、軽鎖では約100~110残基であり、特定の抗原に対する結合及び特異性に関与する、抗体の軽鎖又は重鎖の一部である。可変領域は異なる抗体の間で配列が広範囲にわたって異なり、配列の変動性は可変領域に存在するCDR (complementary determining region:相補性決定領域)に集中し、可変領域内の変動性の低い部分はフレームワーク領域と称される。軽鎖及び重鎖のCDRは、抗体と抗原との相互作用に主に関与する。
【0033】
「CDR」とは、抗体重鎖(H)可変領域β-シートフレームワークの非フレームワーク領域内の3つの超可変領域(H1、H2又はH3)のうちの1つ、又は抗体軽鎖(L)可変領域β-シートフレームワークの非フレームワーク領域内の3つの超可変領域(L1、L2又はL3)のうちの1つを意味する。CDRは、フレームワーク領域配列内に散在する超可変領域配列である。
【0034】
本開示の抗体又はその断片は、好ましくは、
(a)配列番号13に示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号13に示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含む重鎖可変領域、及び/又は
(c)配列番号14に示されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号14に示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含む軽鎖可変領域、を含むことができる。
【0035】
アミノ酸配列(b)においては、アミノ酸配列(a)に対してアミノ酸変異を有する。また、アミノ酸配列(d)においては、アミノ酸配列(c)に対してアミノ酸変異を有する。
【0036】
アミノ酸変異としては、例えば置換、欠失、付加、挿入等が挙げられる。本開示の抗体又はその断片の抗原結合性がより損なわれ難いという観点から、アミノ酸変異は、置換であることが好ましく、保存的置換であることがより好ましい。
【0037】
「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0038】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0039】
アミノ酸配列(b)及び(d)それぞれにおいて、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、よりさらに好ましくは99%以上であることができる。
【0040】
アミノ酸配列(b)の一例としては、例えば
(b’)配列番号13に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入(好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)されたアミノ酸配列、
が挙げられる。
【0041】
アミノ酸配列(d)の一例としては、例えば
(d’)配列番号14に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入(好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)されたアミノ酸配列
が挙げられる。
【0042】
アミノ酸配列(b’)及び(d’)それぞれにおいて、複数個とは、例えば2~20個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0043】
抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を包含する意味で用いる。抗体は、任意のアイソタイプ、例えばIgG(例:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA(例:IgA1、IgA2)、IgD、IgE、IgM等であることができる。抗体は、ヒト抗体であっても非ヒト抗体であってもよい。非ヒト抗体としては、例えばマウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、サル抗体、チンパンジー抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、マウス-ヒトキメラ抗体等のキメラ抗体であってもよい。抗体は、部分又は完全ヒト化抗体であることができる。本開示の抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0044】
本明細書において、抗体の抗原結合断片としては、重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を含む限り、特に制限されず、例えばFab、F(ab’)2、ミニボディ(minibody)、scFv‐Fc、Fv、scFv、ディアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。
【0045】
Fabとは、重鎖可変領域及び重鎖定常領域中のCH1を含む重鎖の断片と、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖とを含み、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが上述する非共有結合性の分子間相互作用によって会合するか、またはジスルフィド結合によって結合してなる構造を有する。Fabにおいて、CH1とCLとは、それぞれに存在するシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合していてもよい。
【0046】
F(ab’)2とは、2対の上記Fabを有し、CH1同士がこれらに含まれるシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合してなる構造である。
【0047】
ミニボディとは、下記scFVを構成する重鎖可変領域にCH3が結合した断片2つが、CH3同士で非共有結合性の分子間相互作用によって会合した構造である。
【0048】
scFv‐Fcとは、下記scFv、CH2、およびCH3を含む抗体断片2つが、上記ミニボディと同様にCH3同士で非共有結合性の分子間相互作用によって会合し、それぞれのCH3に含まれるシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合した構造である。
【0049】
Fvとは、抗体の最小構造単位ともいわれ、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが非共有結合性の分子間相互作用によって会合した構造である。Fvにおいて、重鎖可変領域および軽鎖可変領域内に存在するシステイン残基のチオール基同士がジスルフィド結合していても良い。
【0050】
scFvとは、重鎖可変領域のC末端と軽鎖可変領域のN末端がリンカーで繋がれた構造、又は重鎖可変領域のN末端と軽鎖可変領域のC末端とがリンカーで繋がれた構造であり、単鎖抗体とも呼ばれる。
【0051】
ディアボディ、トリアボディ、およびテトラボディとは、それぞれ上記scFvが2量体、3量体および4量体を形成し、Fvなどと同様に可変領域同士の非共有結合性の分子間相互作用等により、構造的に安定な状態で会合した構造である。
【0052】
本開示の抗体又はその断片は、細胞外小胞に対して結合性(好ましくは、特異的結合性)を有する。国際細胞外小胞学会(International Society for Extracellular Vesicles; ISEV)は、“細胞から放出される核を持たない(複製できない)脂質二重膜で囲まれた粒子” を細胞外小胞と定義している。細胞外小胞は産生機構の違いから(1)エクソソーム(直径50~150nm)、(2)マイクロベシクル(直径100~1000nm)、(3)アポトーシス小胞(直径5μm)に分類されている。細胞外小胞の構成タンパク質成分として、CD9、CD63、CD81のテトラスパニン、ALIX、Tsg101、Hsp70、Hsp90、各種インテグリン、各種セレクチン、CD40、Annexin Vなどが知られている。本開示の抗体又はその断片が結合性を有する細胞外小胞は、好ましくはがん細胞から放出される細胞外小胞、より好ましくは膵臓がん細胞から放出される細胞外小胞、さらに好ましくは初期膵臓がん細胞から放出される細胞外小胞であることができる。
【0053】
本明細書において、初期膵臓がんとは、ステージ0又はステージ1の膵臓がんである。また、本明細書において、がんのステージは、UICC第8版による分類である。
【0054】
本開示の抗体又はその断片は、他のペプチド、オリゴペプチド、又はタンパク質と結合又は融合していてもよい。他のペプチド、オリゴペプチド、又はタンパク質としては、例えばアルブミン(例:血清アルブミン)、タンパク質タグ(例:ビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ)、蛍光タンパク質(例:GFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum)、発光タンパク質(例:ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ)、分泌シグナル配列(例:Igκシグナル配列)、プロテアーゼ認識配列(例:TEVプロテアーゼ認識配列)、発現増強配列、可溶化配列、多量体化ドメイン(例:軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質ドメイン、ロイシンジッパードメイン、コラーゲン様ドメイン、コレラトキシンBサブユニットドメイン、テトラブラキオンコイルドコアドメイン、レオウイルスσ1タンパク質ドメイン、ヘパチチスデルタ抗原ドメイン)等が挙げられる。本開示の抗体又はその断片が多量体化ドメインと結合又は融合したものである場合、当該多量体化ドメインに、さらに本開示の抗体又はその断片と同種又は異種の抗体又はその抗原結合断片が結合又は融合し、多量体(ホモ多量体又はヘテロ多量体)を形成してもよい。
【0055】
本開示の抗体又はその断片は、抗原に対する結合性が著しく損なわれない限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0056】
本開示の抗体又はその断片は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド基(-CONH)、エステル基(-COOQ)の何れであってもよい。ここでエステル基におけるQとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0057】
本開示の抗体又はその断片は、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記C末端のエステルなどが用いられる。
【0058】
本開示の抗体又はその断片は、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども包含される。
【0059】
本開示の抗体又はその断片は、例えば、本開示の抗体又はその断片のコード配列を含むポリヌクレオチド(本開示のポリヌクレオチド)により形質転換させた宿主を培養し、本開示の抗体を含む画分を回収する工程を含む方法によって、製造することができる。
【0060】
「ポリヌクレオチド」とは、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチドのいずれか又はその類似体の、任意の長さのポリマーの形態のヌクレオチドであることができる。ポリヌクレオチドの配列は、4種のヌクレオチド塩基:アデニン(A);シトシン(C);グアニン(G);チミン(T);及びポリヌクレオチドがRNAの場合にはチミンの代わりにウラシル(U)で構成される。ポリヌクレオチドは、遺伝子、遺伝子断片、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA (mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチドなどを含み得る。ポリヌクレオチドはまた、二本鎖分子と一本鎖分子の両方を意味する。また、ポリヌクレオチドには、次に例示するような化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼ等の加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えばホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えば-CH3、-CH2CH2OCH3、-CH2CH2NHC(NH)NH2、-CH2CONHCH3、-CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換等が挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えばビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたもの等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0061】
本開示のポリヌクレオチドは、本開示の抗体又はその断片のコード配列を含む限り、特に制限されない。好ましくは、本開示のポリヌクレオチドは、上記コード配列を、本開示の抗体又はその断片を発現可能な状態で含む。本開示のポリヌクレオチドは、上記コード配列以外に、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、本開示の抗体コード配列に隣接して配置される分泌シグナルペプチドコード配列、プロモーター配列、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、複製基点、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。また、本開示のポリヌクレオチドは、直鎖状のポリヌクレオチドであってもよいし、環状のポリヌクレオチド(ベクターなど)であってもよい。
【0062】
本開示のポリヌクレオチドの具体例としては、(I)本開示の抗体又はその断片の重鎖、重鎖可変領域、及び重鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、(II)本開示の抗体又はその断片の軽鎖、軽鎖可変領域、及び軽鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、(III)本開示の抗体又はその断片の重鎖、重鎖可変領域、及び重鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと、本開示の抗体又はその断片の軽鎖、軽鎖可変領域、及び軽鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとの組合せ、などが挙げられる。
【0063】
本開示のポリヌクレオチドは、化学的に合成することもでき、又は適切な供給源(例えば、抗体を発現させるために選択されたハイブリドーマ細胞等の抗体を発現する細胞から単離したcDNA)から、配列の3'及び5'末端とハイブリダイズ可能な合成プライマーを使用したPCR増幅によって、若しくは特定の核酸配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを使用したクローニングによって得ることもできる。次いで、PCRによって生成した増幅核酸を、当技術分野で周知の任意の方法を使用して、複製可能なクローニングベクターにクローニングすることができる。
【0064】
本開示のポリヌクレオチドが得られたら、当技術分野で周知の方法を使用した組換えDNA技術によって、抗体又はその断片を産生させるためのベクターを作製することができ、更に周知の方法を使用して、抗体又はその断片のコード配列並びに適切な転写及び翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築することができる。また、定常領域はヒト、ウサギ等の種間で大きく異なるが、同一種の抗体間の定常領域は極めて類似しているため、それぞれの種の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含むベクターにクローニングすることによって、ヒト、ウサギ等の抗体が作製できる。
【0065】
発現ベクターは従来の方法によって宿主細胞に導入することができ、次いで、トランスフェクトされた細胞を従来の方法によって培養して本開示の抗体又はその断片を産生させることができる。免疫グロブリン分子全体を発現させるためには、重鎖及び軽鎖を両方コードするベクターを宿主細胞において同時発現させればよい。
【0066】
本開示の抗体又はその断片を発現させるために、種々の宿主-発現ベクター系を利用することができる。例えば、抗体コード配列を含有する組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA若しくはコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換した細菌(例えば、大腸菌、古草菌)、抗体コード配列を含有する組換え酵母発現ベクターを用いて形質転換した酵母(例えば、サッカロマイセス・ピキア)などの微生物、抗体コード配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)を感染させた昆虫細胞系、組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、TMV)を感染させた若しくは抗体コード配列を含有する組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)を用いて形質転換した植物細胞系、又は哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)若しくは哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター)を含有する組換え発現構築物を有する哺乳動物細胞系(例えば、COS、CHO、HEK293、3T3細胞)が挙げられる。
【0067】
本開示の抗体又はその断片が組換え発現によって産生されたら、それを、免疫グロブリン分子を精製するための当技術分野で公知の方法によって、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー)、遠心分離、塩析等によって精製することができる 。さらに、本開示の抗体又はその断片は、精製を容易にするために公知の異種ポリペプチド配列と融合することができる。例えば、本開示の抗体又はその断片は、ポリ-ヒスチジンタグ(Hisタグ)、FLAGタグ、赤血球凝集素タグ(HAタグ)又はmycタグを組換えによって付加することによって精製することができる。
【0068】
2.細胞
本開示は、その一態様において、本開示のポリヌクレオチドを含有する、細胞、に関する。
【0069】
前記細胞は、例えば本開示のポリヌクレオチドを形質導入した細胞を包含する。
【0070】
前記細胞は単離された細胞であることが好ましい。前記細胞は培養細胞であってもよく、初代培養細胞であっても継代培養細胞であってもよい。前記細胞は株化細胞であってもよい。前記細胞はiPS細胞であってもよい。
【0071】
前記細胞の例としては、Escherichia coli K12等の大腸菌、Bacillus subtilis MI114等のバチルス属細菌、Saccharomyces cerevisiae AH22等の酵母、Spodoptera frugiperda 由来のSf細胞系又はTrichoplusia ni由来のHighFive細胞系、嗅神経細胞等の昆虫細胞、動物細胞等を挙げることができる。動物細胞としては、好ましくは、哺乳動物由来の培養細胞、具体的には、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293FT細胞、Hela細胞、PC12細胞、N1E-115細胞、SH-SY5Y細胞等が挙げられる。
【0072】
3.疾患の検査薬
本開示の疾患の検査薬は、本開示の抗体又はその断片を含むことを特徴とする。本開示の検査薬は、がん、特に初期がんの罹患の可能性を検査する薬である。
【0073】
本開示の疾患の検査薬は、がん、特に初期がんの罹患の可能性を検査(又は判定)する方法であって、被検体から採取された生体試料における、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度を測定する工程を含む方法に用いることができる(本明細書において、「本開示の検査方法」と称することもある。)。以下、これについて説明する。
【0074】
検査対象であるがんは特に制限されず、あらゆる種類、ステージなどのがんを包含する。がんの種類としては、好ましくは膵臓がんであり、特に好ましくは初期膵臓がん(ステージ0又はステージ1)である。膵臓がんの種類としては、例えば、膵管がん、膵内分泌腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、腺房細胞がんなどが挙げられ、好ましくは膵管がんである。また、検査対象のがんは転移がんであることができる。転移先としては、原発がんが膵臓がんである場合は、例えば肝臓、腹膜、肺、リンパ節、骨等が挙げられる。
【0075】
被検体は、本開示の検査方法の対象生物であり、その生物種は特に制限されない。被検体の生物種としては、例えば、ヒト、サル、ウサギ、マウス、ラット、イヌ、ネコなどの種々の哺乳類動物が挙げられ、好ましくはヒトが挙げられる。
【0076】
被検体のがんに関する状態は、特に制限されない。被検体としては、例えば、がんに罹患しているかどうか不明な検体、がん罹患歴の無い検体、がん罹患歴があり且つがん治療を受けた検体、他の判定方法によってがんに罹患している(或いは罹患していない)と既に判定されている検体などが挙げられる。
【0077】
生体試料は、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原を含有し得るものであれば特に制限されない。生体試料としては、例えば、全血、血清、血漿、唾液、髄液、関節液、尿、組織液、汗、涙、唾液などの体液、これらの体液由来の試料が挙げられる。体液由来の試料としては、体液から調製される試料である限り特に制限されず、例えば、体液から本開示の抗体又はその断片が結合する抗原を濃縮、精製などして得られる試料などが挙げられる。体液としては、好ましくは全血、血清、血漿などが挙げられる。生体試料は、1種単独で採用してもよいし、2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0078】
生体試料は、当業者に公知の方法で被検体から採取することができる。例えば、全血は、注射器などを用いた採血によって採取することができる。なお、採血は、医師、看護師などの医療従事者が行うことが望ましい。血清は、血液から血球及び特定の血液凝固因子を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させた後の上澄みとして得ることができる。血漿は、血液から血球を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させない条件下で遠心分離に供した際の上澄みとして得ることができる。
【0079】
本開示の検査方法は、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度を測定する工程を含み、その方法は特に制限されない。該方法としては、例えば、イムノアッセイが挙げられる。イムノアッセイは、直接法、関節法、均一法、不均一法、競合法、非競合法などを問わず、広く採用することができる。イムノアッセイとして、より具体的には、例えば、ELISA (例えば、直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法など)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、サンドイッチEIA、イムノクロマト、ウェスタンブロット、免疫沈降、スロット或いはドットブロットアッセイ、免疫組織染色、蛍光イムノアッセイ、アビジン-ビオチン又はストレプトアビジン-ビオチン系を用いるイムノアッセイ、表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いるイムノアッセイなどが挙げられる。
【0080】
本開示の抗体又はその断片は細胞外小胞に結合することから、細胞外小胞の構成成分に対する抗体又はその断片と組み合わせることによって、本開示の抗体の抗原を構成する細胞外小胞の量又は濃度を測定することができる。その検査方法の1例としてサンドイッチ法、ExoCounterやエクソソームセンシングチップ等が挙げられる。また、検出方法は、1種単独で採用してもよいし、2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0081】
本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度を測定する工程において、抗原を検出する際に用いられる標識物(例えば、標識抗体など)における標識の種類は特に制限されない。標識としては、例えば、蛍光物質、発光物質、色素、酵素、金コロイド、放射性同位体などが挙げられる。これらの中でも、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素標識は、安全性、経済性、検出感度などの観点からより好ましい。
【0082】
本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度を測定、算出する方法の詳細について説明する。
【0083】
その一態様としては、本開示の抗体又はその断片と、被検体から採取された生体試料とを接触させる工程、並びに本開示の抗体又はその断片に結合した抗原量を測定する工程を例示することができる。
【0084】
被検体から採取された生体試料との接触の態様は、特に制限されず、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度を測定する方法(例えば、各種イムノアッセイなど)の種類に応じて、適切な態様を選択することができる。
【0085】
接触態様としては、例えば、本開示の抗体又はその断片及び生体試料のいずれか一方のみを固相に固定した状態で接触させる態様、これらの両方とも固相に固定しない状態で接触させる態様などが挙げられる。これらの中でも、効率性などの観点から、好ましくは本開示の抗体又はその断片のみを固相に固定した状態で接触させる態様が挙げられる。
【0086】
本開示の抗体又はその断片及び生体試料のいずれか一方のみを固相に固定する場合、固定後に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)及び/又はエーテル型非イオン界面活性剤を含む溶液で固相を洗浄することが好ましい。
【0087】
固相としては、本開示の抗体又はその断片及び生体試料を固定可能なものである限り特に制限されない。該固相としては、例えば、ポリスチレン、ガラス、ニトロセルロースなどを主成分として含むプレート、スライド、膜などが挙げられる。固相は、本開示の抗体又はその断片及び生体試料をより容易に固定させるための成分、例えば、易反応性化合物(例えば、易反応性基を有する化合物、金コロイドなど)でコーティングされたものであってもよい。易反応性基を有する化合物としては、糖鎖又は糖鎖誘導体と共有結合を形成し得る基であって、例えば、(1H-イミダゾール-1-イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アジド基、シアノ基、活性エステル基(1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシカルボニル基、ペンタフルオロフェニルオキシカルボニル基、パラニトロフェニルオキシカルボニル基等)、又はハロゲン化カルボニル基(塩化カルボニル基、フッ化カルボニル基、臭化カルボニル基、ヨウ化カルボニル基)等を有する化合物が挙げられる。
【0088】
易反応性基を有する化合物としては、例えば、エポキシシラン、ポリリジン等が挙げられる。
【0089】
易反応性化合物でコーティングされた固相を用いる場合、ウシ血清アルブミン(BSA)等を含む緩衝液を用いて易反応性化合物をブロッキングすることが好ましく、ブロッキング時間は、60分間以上であることが好ましい。また、ブロッキング液には、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)及び/又はエーテル型非イオン界面活性剤を含むことが好ましい。
【0090】
本開示の抗体又はその断片に結合した抗原量を測定する態様は、特に制限されず、上述した本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度を測定する方法(例えば、各種イムノアッセイなど)の種類に応じて、適切な態様を選択することができる。該測定は、例えば、用いられた標識物の標識に由来するシグナルを定量することによって行うことができる。より具体的な態様としては、例えば、本開示の抗体又はその断片に結合した抗原に対し、標識した本開示の抗体又はその断片、又は抗原に対する標識した抗体を接触させ、結合した標識抗体の標識に由来するシグナルを定量することによって行うことができる。
【0091】
得られたシグナル量に基づいて、本開示の抗体又はその断片に結合した抗原量を算出することができる。例えば、非競合法の場合であれば、得られたシグナル量をそのまま本開示の抗体又はその断片に結合した抗原量とすることができる。また、別の例として、競合法の場合であれば、得られたシグナル量と本開示の抗体又はその断片に結合した抗原量とは、反比例の関係にあるので、この関係に基づいて得られたシグナル量から本開示の抗体又はその断片に結合した抗原量を算出することができる。
【0092】
本開示の検査方法によれば、膵臓がん等のがんの罹患の検出指標である本開示の抗体又はその断片に結合する抗原値を提供することができ、これにより膵臓がん等のがんの罹患の可能性の判定などを補助することができる。
【0093】
本開示の検査方法は、一態様として、更に、測定された本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度の値が、予め設定されたカットオフ値以上である場合に、前記被検体が膵臓がん等のがんに罹患している可能性が高いと判定する工程を含むことが好ましい。ここで、「膵臓がん等のがんに罹患している可能性」とは、「生体試料採取時に膵臓がん等のがんに罹患している可能性」を意味する。
【0094】
本開示の検査方法によれば、がんに罹患している可能性を判定することが可能となる。また、本開示の検査方法は、より高い感度でがんに罹患している可能性を判定できるので、本開示の検査方法により、真にがんに罹患している被検体を、より確実に「がんに罹患している」と判定できる(すなわち、「がんに罹患していない」と誤判定する可能性をより低減することができる)。
【0095】
カットオフ値は、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などの観点から当業者が適宜設定することができ、例えば、がんに罹患していない被検体から採取された生体試料における本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度の値の平均値、パーセンタイル値、又は最大値とすることができる。より具体的には、例えば、がんに罹患していない被検体及び膵臓がん等のがんに罹患している被検体からそれぞれ採取された生体試料における、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度を測定し、該測定値を用いて、受信者操作特性(Receiver Operating Characteristic, ROC)曲線の解析などに基づいた統計解析を行うことにより、カットオフ値を設定することができる(より具体的には、Youden indexを用いた方法が例示される。)。
【0096】
また、同一の被検体から一定期間前に採取された生体試料における本開示の抗体又はその断片に結合する抗原量又は濃度の値をカットオフ値とすることもできる。「一定期間」とは、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度が同一被検体内で変化し得る程度の期間であれば特に制限されない。例えば、1か月~10年、2か月~5年、3か月~2年、4か月~1年程度の期間が挙げられる。
【0097】
本開示の検査方法の変法として、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度の値が、同一の被検体から一定期間前に採取された生体試料における本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度の値よりも高い場合に、前記被検体が将来膵臓がん等のがんに罹患する可能性が高いと判定する工程を含む方法が挙げられる。該工程を含む検査方法により、将来におけるがん罹患リスクを判定する。
【0098】
「一定期間」とは、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度が同一被検体内で変化し得る程度の期間であれば特に制限されない。例えば、1か月~10年、2か月~5年、3か月~2年、4か月~1年程度の期間が挙げられる。
【0099】
「高い」程度は、特に制限されず、本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度の値が、同一の被検体から一定期間前に採取された生体試料における本開示の抗体又はその断片に結合する抗原の量又は濃度の値の2倍以上、4倍以上、8倍以上、20倍以上であることが例示される。
【0100】
本開示の検査方法により、被検体が膵臓がん等のがんに罹患している可能性が高いと判定された場合、本開示の検査方法に、さらに別の診断方法を組み合わせることによって、より高い精度で膵臓がん等のがんの罹患を診断することができる。別の診断方法としては、特に制限されず、公知の診断方法を各種採用することができる。該診断方法としては、例えば生検法、PET検査法、CT検査法、超音波検査法、腫瘍マーカー検査法などが挙げられる。これらの中でも、より高い精度で膵臓がんを診断できるという観点から、好ましくは生検法、PET検査法、CT検査法、超音波検査法などが挙げられる。診断方法は、1種単独で採用してもよいし、2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0101】
本開示の検査薬は、本開示の抗体又はその断片を含む組成物の形態であってもよい。該組成物には、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0102】
本開示の検査薬は、本開示の抗体又はその断片を含むキットの形態であってもよい。該キットには、本開示の検査方法の実施に用いられ得る器具、試薬などが含まれていてもよい。
【0103】
器具としては、例えば、試験管、マイクロタイタープレート、アガロース粒子、ラテックス粒子、精製用カラム、エポキシコーティングスライドガラス、金コロイドコーティングスライドガラスなどが挙げられる。
【0104】
試薬としては、例えば、本開示の抗体又はその断片の抗原に対する抗体、若しくはその標識抗体、標準試料(陽性対照、陰性対照)などが挙げられる。
【0105】
本開示の抗体又はその断片の抗原に対する抗体としては、本開示の抗体が結合する分子(例えば、タンパク質)に対する抗体を用いることができる。
【0106】
標識抗体を作製するための標識物の種類は、特に制限されない。標識物としては、例えば、蛍光物質、発光物質、色素、酵素、金コロイド、放射性同位体などが挙げられる。これらの中でも、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素標識は、安全性、経済性、検出感度などの観点から好ましい。
【0107】
標準試料としては、本開示の抗体又はその断片の抗原が用いられる。本開示の抗体又はその断片の抗原は、例えば、本開示の抗体又はその断片を用いてがん細胞が分泌する細胞外小胞などの生体試料から免疫沈降法により分離及び精製できる。
【0108】
また、本発明は、診断剤で標識された本開示の抗体又はその断片を含む、膵臓がん等のがんを診断するための医薬組成物も提供する。本開示の検査方法により、被検体が膵臓がん等のがんに罹患している可能性が高いと判定された場合、診断剤で標識された本開示の抗体又はその断片を含む医薬組成物を、例えば、血管内、筋肉内、皮下又は腹腔内に投与し全身を検査することにより、より高い精度で膵臓がん等のがんの罹患を診断することができる。
【0109】
本開示の疾患を診断するための医薬組成物は、薬学的に許容され得る担体を更に含み得る。使用することができる薬学的に許容され得る担体としては、リン酸緩衝食塩水溶液、水、油・水エマルションなどのエマルション、種々の型の湿潤剤などの当技術分野で公知の標準の医薬担体が挙げられる。また、本開示の疾患を診断するための医薬組成物において、他の成分、例えば、医薬品グレードの安定剤、緩衝剤、防腐剤、賦形剤なども使用することができ、pH、等張性、安定性などを考慮する医薬組成物の調製は公知の方法により実施することができる。
【0110】
本開示の抗体又はその断片を標識する診断剤としては、放射性物質、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、光音響イメージング材料等が挙げられる。放射性物質としては、ジルコニウム(89Zr)、ヨウ素(131I、125I、124I、123I、及び121I)、インジウム(115In、113In、112In、及び111In)、テクネチウム(99Tc)、タリウム(201Ti)、ガリウム(68Ga、67Ga)等及び種々の陽電子放出性金属、蛍光材料としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート等、発光材料としては、ルミノール等、生物発光材料としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等、光音響イメージング材料としては、金ナノ粒子、単層カーボンナノチューブ、インドシアニングリーン、メチレンブルー等が挙げられる。
【0111】
本開示の抗体又はその断片を標識する方法としては、ポリエチレングリコール等のリンカーを用いて間接的に化合物を結合させる方法、及び抗体又その断片のシステイン残基にジスルフィド結合を形成させることによって化合物を直接結合させる方法を挙げることができる。また、N-サクシニル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネートなどの異種二官能性架橋剤を使用して抗体又その断片に化合物を直接結合させることも可能である。さらには、抗体のFc領域の糖鎖を酸化して化合物を結合することもできる。
【0112】
本開示の膵臓がん等のがんを診断するための医薬組成物に含まれる、診断剤で標識された抗体又はその断片の投与量は、薬理学的に有効な量であれば特に限定されず、人種、性別、年齢、がんの種類等に応じて適宜決定することができ、通常0.01~1,000 mg/kg、好適には0.1~100 mg/kgである。本開示の診断剤で標識された抗体又はその断片を被験体における結合部位に優先的に集中させるため及び結合部位に結合していない抗体又はその断片をバックグラウンドレベルまで除くための時間は、使用する診断剤の種類、投与方法などに応じて適宜決定でき、例えば、投与後6~48時間程度である。また、疾患をモニタリングする場合、例えば、投与後の時間間隔は5~20日で、最初の診断から1~12か月繰り返すことによって行う。
【0113】
本開示の疾患を診断するための医薬組成物に含まれる、診断剤で標識された抗体又はその断片の存在は、公知の方法を使用して被験体の全身を検査することで検出することができる。当該検出方法は、使用する診断剤の種類に依存するものであり、本発明において使用することができる方法としては、コンピュータ断層撮影法、陽電子放出断層撮影法、磁気共鳴画像法、超音波検査、光音響イメージング法などが挙げられる。
【0114】
本開示の医薬組成物を使用して診断することができる疾患としては、上記の膵臓がん等のがんが挙げられ、本開示の医薬組成物は、特に本開示の抗体又はその断片の抗原を高発現するがんを診断するために有用である。すなわち、本開示の検査方法により、被検体が膵臓がん等のがんに罹患している可能性が高いと判定された場合、本開示の医薬組成物を投与することで被検体の膵臓がん等のがんをより高い精度で診断することが可能となる。
【0115】
4.がんの治療
本開示の検査方法により、被検体が膵臓がん等のがんに罹患している可能性が高いと判定された場合、又は別の診断方法を組み合わせて被検体が膵臓がん等のがんであると診断された場合、被験者に対してがん治療を行うことによって、被検体のがんを治療することが可能となる。また、本開示の検査方法はより高い感度で膵臓がん等のがんに罹患している可能性を判断できるので、本開示の検査方法又は別の診断方法と組み合わせによって、真にがんに罹患している被検体を、より確実に治療できる(すなわち、真にがんに罹患している被検体を治療対象から除外する可能性をより低減することができる)。
【0116】
がん治療の方法としては、特に制限されず、公知の治療方法を各種採用することができる。治療方法としては、例えば化学療法、外科治療法、放射線治療法、免疫療法などが挙げられる。これらは公知の方法に従って実施することができる。
【0117】
化学療法に用いられる治療薬としては、特に制限されず、各種抗がん剤を用いることができる。抗がん剤としては、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管阻害剤、抗生物質抗がん剤、トポイソメラーゼ阻害剤、白金製剤、分子標的薬、ホルモン剤、生物製剤などが挙げられる。アルキル化剤としては、例えばシクロホスファミド、イホスファミド、ニトロソウレア、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、メルファラン、プロカルバジン、ラニムスチンなどが挙げられる。代謝拮抗剤としては、例えば、エノシタビン、カルモフール、カペシタビン、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、クラドリビン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、メルカプトプリンなどが挙げられる。微小管阻害剤としては、例えば、ビンクリスチンなどのアルカロイド系抗がん剤、ドセタキセル、パクリタキセルなどのタキサン系抗がん剤が挙げられる。抗生物質抗がん剤としては、例えば、マイトマイシンC、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシンD、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、アムルビシン、ジノスタチンスチマラマーなどが挙げられる。トポイソメラーゼ阻害剤としては、例えば、トポイソメラーゼI阻害作用を有するCPT-11、イリノテカン、ノギテカン、トポイソメラーゼII阻害作用をもつエトポシド、ソブゾキサンなどが挙げられる。白金製剤としては、例えば、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチンなどが挙げられる。ホルモン剤としては、例えば、デキサメタゾン、フィナステリド、タモキシフェン、アストロゾール、エキセメスタン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、ビカルタミド、フルタミド、ブレドニゾロン、リュープロレリン、レトロゾール、エストラムスチン、トレミフェン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタンなどが挙げられる。生物製剤としては、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤、インターフェロンα、β及びγ、インターロイキン2、ウベニメクス、乾燥BCGなどが挙げられる。分子標的薬としては、例えば、リツキシマブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、テムシロリムス、ベバシズマブ、VEGF trap、スニチニブ、ソラフェニブ、トシツズマブ、ボルテゾミブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、タミバロテン、トレチノインなどが挙げられる。ここに特定する分子標的薬以外にも、ヒト上皮性増殖因子受容体2阻害剤、上皮性増殖因子受容体阻害剤、Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤、上皮性増殖因子チロシンキナーゼ阻害剤、mTOR阻害剤、血管内皮増殖因子受容体2阻害剤(α-VEGFR-2抗体)などの血管新生を標的にした阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤などの各種チロシンキナーゼ阻害剤、サイトカインを標的とした阻害剤、プロテアソーム阻害剤、抗体-抗がん剤配合体などの分子標的薬なども含めることができる。これら阻害剤には抗体も含まれる。
【0118】
代表的な膵臓がん治療薬としては、ゲムシタビン、TS-1、エルロチニブ、ゲムシタビンとエルロチニブとの併用薬、ゲムシタビンとアルブミン結合型パクリタキセルとの併用薬、4種の薬剤(オキサリプラチン、レボホリナート、イリノテカン、及びフルオロウラシル)の併用薬などが挙げられる。
【0119】
また、本発明は、本開示の抗体又はその断片を含む、疾患を治療するための医薬組成物も提供する。具体的には、例えば、各種抗がん剤、リシン等の毒素化合物、放射性物質放射活性金属イオン(例えば、アルファーエミッター等の放射活性を有する化合物)等の放射性物質などで標識された本開示の抗体又はその断片を含む、疾患を治療するための医薬組成物も提供する。その標識法としては、ポリエチレングリコール等のリンカーを用いて間接的に化合物を結合させる方法、及び抗体又その断片のシステイン残基にジスルフィド結合を形成させることによって化合物を直接結合させる方法を挙げることができる。また、N-サクシニル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネートなどの異種二官能性架橋剤を使用して抗体又その断片に化合物を直接結合させることも可能である。さらには、抗体のFc領域の糖鎖を酸化して化合物を結合することもできる。
【0120】
本開示の疾患を治療するための医薬組成物は、薬学的に許容され得る担体を更に含み得る。使用することができる薬学的に許容され得る担体としては、リン酸緩衝食塩水溶液、水、油・水エマルションなどのエマルション、種々の型の湿潤剤などの当技術分野で公知の標準の医薬担体が挙げられる。また、本開示の疾患を治療するための医薬組成物には、他の成分、例えば、医薬品グレードの安定剤、緩衝剤、防腐剤、賦形剤なども使用することができ、pH、等張性、安定性などを考慮する医薬組成物の調製は公知の方法により実施することができる。
【0121】
本開示の疾患を治療するための医薬組成物に含まれる抗体又はその断片、及び治療剤で標識された抗体又はその断片の投与量は、薬理学的に有効な量であれば特に限定されず、人種、性別、年齢、がんの種類等に応じて適宜決定することができ、通常0.01~1,000 mg/kg、好適には0.1~100 mg/kgを、1~180日間に1回、又は1日2回若しくは3回以上投与することができる。
【0122】
本開示の医薬組成物を使用して治療することができる疾患としては、上記の膵臓がん等のがんが挙げられ、本開示の医薬組成物は、本開示の抗体又はその断片が結合する分子を高発現しているがんを治療するために有用である。すなわち、本開示の検査方法により、被検体が膵臓がん等のがんに罹患している可能性が高いと判定された場合、本開示の医薬組成物を投与することで被検体の膵臓がん等のがんを治療することが可能となる。
【0123】
また、本開示は、本開示の抗体又はその断片を含む、がんの転移を抑制するための医薬組成物も提供する。当該医薬組成物の構成及び用途については、上記した医薬組成物と同様である。
【実施例0124】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0125】
実施例1.膵臓がん細胞由来の細胞外小胞に結合するウサギモノクローナル抗体の製造
(a)リンパ球の調製
凍結ヒト初期膵臓がん組織(Proteogenex社製、ステージ1、腫瘍占有率85%、55歳、女性)を細断しPBSで0.06mg/mLに懸濁し免疫抗原とした。JW/CSKウサギ(13週齢、雌)に免疫抗原とFCAを混合した抗原溶液を免疫し、3週間後に肥大化したリンパ節を回収し、ホモゲナイズ及び溶血剤処理を行って得たリンパ球を凍結保護培地(日本全薬工業製、セルバンカー1)中で凍結した。
【0126】
(b)細胞外小胞の調製
大阪国際がんセンターにて、2cm以下の腫瘍を有する初期膵臓がん患者から手術により腫瘍組織を切除した。腫瘍組織を抗生物質含有生理食塩水で洗浄後、1mm程度に細断して細断小片とし、これに1mg/mLコラゲナーゼ(シグマアルドリッチ製、カタログ番号:044-29765)を含むDMEM培地を加えて振とう処理(200rpm、37℃、15分)した後、200μmのメッシュを通して腫瘍組織由来の腫瘍細胞を回収した。腫瘍細胞を10ng/mL basic FGF、2ng/mL TGF-βを含むDMEM培地で培養し、2~4日ごとに培養上清を回収して-80℃に保存し、一方、腫瘍細胞には新鮮培地を添加して培養を継続した。
【0127】
-80℃に保存した培養上清を解凍後、遠心分離(300xg、4℃、5分;1,200xg、4℃、20分;10,000xg、4℃、30分)して上清を回収した。回収した上清から、MagCapture Exosome Isolation Kit PS(富士フィルム和光純薬製、カタログ番号:290-84103)を用いて、プロトコルに従って細胞外小胞を分離した。細胞外小胞のタンパク質濃度は、BSA溶液を標準としてBCAタンパク質アッセイキット(ThermoFisher製、カタログ番号:23225)を用いて定量した。
【0128】
(c)細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球の選別
1ウエルが直径20μmで196,000ウエルのマイクロチャンバーに(b)の細胞外小胞を固相化して洗浄後、1% BSA溶液を加えて室温、30分ブロッキングした。ブロッキング溶液を除去後、(a)のリンパ球(2x105細胞)及びCy3標識ロバ抗ウサギIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch製、カタログ番号:711-165-152)の混合溶液を添加して45分間培養後、マイクロチャンバーをAS ONE Cell Picking System(アズワン社製)に設置し、細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球を選別した。その結果、図1に示すように、初期膵臓がん患者の膵臓がん細胞が分泌する細胞外小胞に反応する抗体を産生するクローンPEMb14が得られた。
【0129】
(d)PEMb14抗体遺伝子の決定
AS ONE Cell Picking SystemでクローンPEMb14を単離後、Single cell PCR法(Invitrogen製、カタログ番号:12574-035) によりリンパ球の抗体遺伝子を増幅した。増幅した重鎖及び軽鎖のそれぞれの遺伝子断片をベクターpCEC3.2 rabbit(細胞工学研究所製)に挿入してクローニングを行った。
【0130】
DNAシークエンサーによりPEMb14抗体の重鎖及び軽鎖のCDR塩基配列を決定し、表1に示される重鎖及び軽鎖のCDR1~3のアミノ酸配列、及び表2に示される重鎖及び軽鎖のCDR1~3の塩基配列が同定された。また、以下に重鎖可変領域及び軽鎖可変領域全体のアミノ酸配列及び塩基配列を示す。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
重鎖可変領域(アミノ酸配列)
METGLRWLLLVAVLKGVQCEQLEESGGDLVKPGASLTLTCTASEFSFSSSYYMCWVRQAPGKGLEWIACLYAGSGGVTYYASWAKGRFTISKTSSTTVTLQMTSLTAADTATYFCAREVPADAAYGYFNL(配列番号13)。
【0134】
軽鎖可変領域(アミノ酸配列)
MDTRAPTQLLGLLLLWLPGATIAQVLTQTPSPVSAAVGGTVTINCQASQSVYNNNNLAWFQQKPGQPPKQLIYSASTLASGVSSRFKGSGSGTQFTLTISGVQCDDAATYYCLGDFGGGIRA(配列番号14)。
【0135】
重鎖可変領域(塩基配列配列)
ATGGAGACTGGGCTGCGCTGGCTTCTCCTGGTCGCTGTGCTCAAAGGTGTCCAGTGTGAGCAGCTGGAGGAGTCCGGGGGAGACCTGGTCAAGCCTGGGGCATCCCTGACACTCACCTGCACAGCCTCTGAATTCTCCTTCAGTAGCAGCTACTACATGTGCTGGGTCCGCCAGGCTCCAGGGAAGGGGCTGGAGTGGATCGCTTGCCTTTATGCTGGTAGTGGTGGTGTCACTTACTACGCGAGCTGGGCGAAAGGCCGATTCACCATCTCCAAAACCTCGTCGACCACGGTGACTCTGCAAATGACCAGTCTGACAGCCGCGGACACGGCCACCTATTTCTGTGCGAGAGAGGTCCCTGCTGATGCTGCTTATGGATACTTTAACTTA(配列番号15)。
【0136】
軽鎖可変領域(塩基配列配列)
ATGGACACGAGGGCCCCCACTCAGCTGCTGGGGCTCCTGCTGCTCTGGCTCCCAGGTGCCACAATTGCTCAAGTGCTGACCCAGACTCCATCCCCTGTGTCTGCCGCTGTGGGAGGCACAGTCACCATCAATTGCCAGGCCAGTCAGAGTGTTTATAATAACAACAACTTAGCCTGGTTTCAGCAGAAACCAGGGCAGCCTCCCAAGCAACTGATCTATTCTGCATCCACTCTGGCATCTGGGGTGTCATCGCGGTTCAAAGGCAGTGGATCTGGGACACAGTTCACTCTCACCATCAGCGGCGTGCAGTGTGACGATGCTGCCACTTATTACTGTCTAGGCGATTTTGGTGGTGGTATCCGGGCT(配列番号16)。
【0137】
(e)PEMb14抗体(ウサギIgG、κ)の調製
100 mm 培養プレート1枚当たり1.2×107細胞のHEK293細胞を30枚分用意し、実施例1(d)で得られたウサギ抗体(IgG)発現用ベクター2種(重鎖及び軽鎖)を、プレート1枚あたり各8.50μgにPEI (Merck製、カタログ番号:408727-100ML)を用いて遺伝子導入して7日間培養し、PEMb14抗体を含む培養上清を回収した。得られた培養上清をAb-Capcher (ProteNova製、カタログ番号:P-002-200)に供し、TBS buffer で洗浄した後、Gentle Ag/Ab Elution buffer (pH 6.6) (ThermoFisher製、カタログ番号:#21027)で溶出した。次に、0.2M アルギニンを含むTBS buffer、0.2M アルギニンを含むPBS buffer 、PBS bufferへ順に透析した。抗体濃度はBCA Protein Assay Kit (Thermo Fisher Scientific製、カタログ番号:23225)で測定した。
【0138】
実施例2.PEMb14抗体による初期膵臓がん患者の血液検査
(a)PEMb14抗体のペルオキシダーゼ標識
Ab-10 Rapid Peroxidase Labeling Kit (同仁化学研究所製、カタログ番号:LK33)を用いて、ラット抗ヒトCD63モノクローナル抗体(細胞工学研究所製、クローン名:1C8-2B11)10μgをプロトコルに従ってペルオキダーゼ標識した。
【0139】
(b)血清検体の調製
生体試料として血清を大阪国際がんセンターで採取し、CA19-9値を測定した。膵臓がんのステージは、UICC TNM 分類(第8版、2017年)に準拠した。各血清は、PBSで10倍に希釈して血清検体とした。
【0140】
(c)健常人および膵臓がん患者の血清中のPEMb14抗体の抗原値の測定
MaxiSorp 96ウエルプレートの各ウエルに10μg/mlのPEMb14抗体(ウサギIgG)を100μl加え、室温で1時間静置した。次に、各ウエルを洗浄液(0.05% Triton-X 100を含む50 mM Tris-HCl (pH8.0)、140 mM NaCl) 200μlで3回洗浄し、ブロッキング液(5% BSAを含む洗浄液)200μlを加えて室温で1時間静置した。ブロッキング液を除去し、血清検体100μl添加して室温で2時間振とう反応後、各ウエルを5回洗浄した。次に、ブロッキング液で1,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ラット抗ヒトCD63モノクローナル抗体を100μlずつ添加して室温で1時間静置した。各ウエルを5回洗浄した後に、ペルオキシダーゼ基質液(SeraCare Life Sciences製、コード番号:5120-0053)を100μlずつ添加して室温で20分間振とう反応した。反応後、2%硫酸を50μl添加して反応を停止させ、各ウエルの450 nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0141】
その結果、表3に示すように、膵臓がん、特に初期膵臓がん(ステージ0及びステージ1)患者では、血清中のPEMb14抗体の抗原値に基づく陽性率が、CA19-9陽性率に比して高かった。このことから、PEMb14抗体の抗原値を基にして、膵臓がん、特に、初期膵臓がんの罹患の可能性を判定することが可能であることが示された。
【0142】
【表3】
【0143】
比較例1.膵臓がん細胞株の培養上清由来の細胞外小胞に結合するウサギモノクローナル抗体の製造
(a)膵臓がん細胞株の培養上清由来の細胞外小胞の調製
市販のヒト膵臓がん細胞株(KP-3、KP-3L、BxPC3、Mia-PaCa2及びSUIT-2)をそれぞれ10%FBS含有RPMI 1640培地で3日間培養して培養上清を回収した。回収した上清から、MagCapture Exosome Isolation Kit PSを用いて、プロトコルに従って細胞外小胞を分離した後に、得られた5種類の細胞外小胞を混和した。細胞外小胞のタンパク質濃度は、BSA溶液を標準としてBCAタンパク質アッセイキットを用いて定量した。
【0144】
(b)細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球の選別
実施例1(c)と同様にして、マイクロチャンバーに(a)の細胞外小胞を固相化して実施例1(a)のリンパ球(2x105細胞)を添加し、細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球を選別した。その結果、膵臓がん細胞株が分泌する細胞外小胞に反応する抗体を産生するクローン6種類が得られた。次に、実施例1(e)と同様にして、各クローンから抗体(d5、d13、d15、d17、d19、d29)を調製した。
【0145】
(c)健常人および膵臓がん患者の血清中の抗原値の測定
生体試料として、血清(Proteogenex社製、健常人13名・膵臓がん(ステージ1)患者15名)をPBSで10倍に希釈して血清検体とした。実施例2(c)と同様にして、各抗原値を測定した。
【0146】
その結果、表4に示すように、初期膵臓がん(ステージ1)患者では、血清中の各抗原値に基づく陽性率はPEMb14に比して低かった。このことから、人工的に株化された細胞を培養して得られる培地由来の細胞外小胞に対して結合性を有する抗体よりも、生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の方が、有用性が高いことが示された。
【0147】
【表4】
【0148】
比較例2.膵臓がん患者血清由来の細胞外小胞に結合するウサギモノクローナル抗体の製造
(a)膵臓がん患者血清由来の細胞外小胞の調製
膵臓がん患者(ステージ1)10名分の血清(Proteogenex社製、男性3名・女性7名、40~65歳)各1mLから、MagCapture Exosome Isolation Kit PSを用いて、プロトコルに従って細胞外小胞を分離した後に、得られた10種類の細胞外小胞を混和した。細胞外小胞のタンパク質濃度は、BSA溶液を標準としてBCAタンパク質アッセイキットを用いて定量した。
【0149】
(b)細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球の選別
実施例1(c)と同様にして、マイクロチャンバーに(a)の細胞外小胞を固相化して実施例1(a)のリンパ球(2x105細胞)を添加し、細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球を選別した。その結果、初期膵臓がん(ステージ1)患者の血清中に含まれる細胞外小胞に反応する抗体を産生するクローン5種類が得られた。次に、実施例1(e)と同様にして、各クローンから抗体(hs8、hs15、hs22、hs28、hs39)を調製した。
【0150】
(c)健常人および膵臓がん患者の血清中の抗原値の測定
生体試料として、血清(Proteogenex社製、健常人13名・膵臓がん(ステージ1)患者15名)をPBSで10倍に希釈して血清検体とした。実施例2(c)と同様にして、各抗原値を測定した。
【0151】
その結果、表5に示すように、初期膵臓がん(ステージ1)患者では、血清中の各抗原値に基づく陽性率はPEMb14に比して低かった。このことから、膵臓がん患者血清由来の細胞外小胞に対して結合性を有する抗体よりも、生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の方が、有用性が高いことが示された。
【0152】
【表5】
図1
【配列表】
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