(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011574
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240118BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240118BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240118BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240118BHJP
C12N 9/48 20060101ALI20240118BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20240118BHJP
【FI】
C07K16/28
C12Q1/04 ZNA
C07K16/30
C07K16/18
C12N9/48
C12N5/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113672
(22)【出願日】2022-07-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506286928
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪府立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 清史
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大川 和良
(72)【発明者】
【氏名】池澤 賢治
(72)【発明者】
【氏名】三吉 範克
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀典
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B050LL05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ79
4B063QR77
4B063QS33
4B063QX01
4B065AA90X
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA11
4H045AA20
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA72
(57)【要約】
【課題】抗体の新たな製造方法を提供すること。
【解決手段】(1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び
(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、
を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)が、
(1a)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養する工程、及び
(1b)前記工程(1a)の培養後の培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、固相上に固定化された前記細胞外小胞と液相中の前記被検抗体とを接触させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記生体試料が前記生体組織の酵素処理物である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記酵素がコラゲナーゼを含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記生体試料の培養を成長因子を含む培地で行う、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記生体組織がヒト生体組織である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記生体組織が腫瘍組織である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記細胞外小胞がエクソソームである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記被検抗体が、生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料、並びに前記生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞からなる群より選択される少なくとも1種が免疫された動物由来の抗体である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
(1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び
(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、
を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の選別方法。
【請求項12】
(1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び
(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、
を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体を含む検査薬の製造方法。
【請求項13】
請求項1~3のいずれかに記載の製造方法で得られ得る、抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年における日本人の死因となる疾患は、がん、心疾患、脳血管疾患、肺炎の順に多く、特にがんは、平均寿命の延びに伴って死亡者数は年々増加している。疾患による死亡者数の減少のためには早期診断や早期治療が重要とされているが、初期に特徴的な症状が無い場合が多く、診断されたときには既に疾患が進行して治療が困難となる。したがって、血液検査などの簡便な疾患の検査方法や治療法は、適切な実施により確実な効果が得られることから重要な役割を担っている。
【0003】
これまで、血液検査に抗体が使用されているものもあり、特に、モノクローナル抗体は感度及び特異度が高くて半永久的に使用できるため、一般的に用いられている。しかしながら、疾患の診断や治療(特に、がんの早期診断や早期治療)のために使用される抗体はほとんどないのが現状である。
【0004】
細胞外小胞は、ほとんどの細胞から分泌される直径20~1,000nm程度の、脂質二重膜に覆われた小胞である。細胞外小胞の例として、エクソソームやマイクロベシクル等が知られている。細胞外小胞の内部には、マイクロRNA等の核酸やタンパク質等、分泌元の細胞固有の情報が高度に保存されている。細胞外小胞は多くの細胞種において、近接または遠距離細胞間のコミュニケーションに関与することが知られており、がん等の様々な疾患に関与する細胞からも分泌されている。近年、がん細胞が分泌する細胞外小胞が、がんの生成、進展、薬剤耐性、転移に関与していることが示されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sunami Y. Haubler J. Zourelidis A. Kleef J. :Cancer-associated fibroblasts and tumor cells in pancreatic cancer microenvironment and metastasis: Paracrine regulators, reciprocation and exosome. Cancers. 2022 14(3):744.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、抗体の新たな製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、(1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の製造方法、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は上記知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成させた。即ち、本開示は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. (1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び
(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、
を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の製造方法。
【0009】
項2. 前記工程(1)が、
(1a)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養する工程、及び
(1b)前記工程(1a)の培養後の培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、
を含む、項1に記載の製造方法。
【0010】
項3. 前記工程(1)において、固相上に固定化された前記細胞外小胞と液相中の前記被検抗体とを接触させる、項1に記載の製造方法。
【0011】
項4. 前記生体試料が前記生体組織の酵素処理物である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0012】
項5. 前記酵素がコラゲナーゼを含む、項4に記載の製造方法。
【0013】
項6. 前記生体試料の培養を成長因子を含む培地で行う、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
項7. 前記生体組織がヒト生体組織である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
項8. 前記生体組織が腫瘍組織である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
項9. 前記細胞外小胞がエクソソームである、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
項10. 前記被検抗体が、生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料、並びに前記生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞からなる群より選択される少なくとも1種が免疫された動物由来の抗体である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
項11. (1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び
(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、
を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の選別方法。
【0019】
項12. (1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び
(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、
を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体を含む検査薬の製造方法。
【0020】
項13. 項1~3のいずれかに記載の製造方法で得られ得る、抗体。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、抗体の新たな製造方法を提供することができる。本開示の製造方法によれば、生体内の目的の組織が産生する細胞外小胞に対して結合性を有する抗体を、簡便且つ効率的に製造することができる。また、近年の細胞外小胞に関する知見に基づいて、疾患の診断や治療(特に、がんの早期診断、早期治療、転移抑制)等に使用するための抗体を製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1で行われた、細胞外小胞に反応する抗体を産生するクローンPEMb14を示す。左図は、透過光観察により、リンパ球1ヶの存在を示す。右図は、免疫蛍光染色観察により、リンパ球由来の抗体が細胞外小胞に反応したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0024】
本明細書において、アミノ酸配列は一文字表記で表す。
【0025】
本開示は、その一態様において、(1)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、及び(2)前記細胞外小胞に結合した前記被検抗体を、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する工程、を含む、細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の製造又は選別方法(本明細書において、「本開示の方法」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0026】
工程(1)は、
(1a)生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養する工程、及び
(1b)前記工程(1a)の培養後の培地由来の細胞外小胞と被検抗体とを接触させる工程、
を含むことが好ましい。
【0027】
生体組織は、生物から分離された、生物を構成する一部であって、形態又は機能が同一又は類似の細胞の集合体或いは複数種の集合体の組合せであり、その限りにおいて特に制限されない。
【0028】
生物としては、例えば、ヒト、サル、ウサギ、マウス、ラット、イヌ、ネコなどの種々の哺乳類動物が挙げられ、好ましくはヒトが挙げられる。
【0029】
生体組織として、具体的には、例えば上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織、皮膚、舌、食道、胃、膵臓、肝臓、肺、十二指腸、小腸、大腸、腎臓、副腎、膀胱、子宮、卵巣、乳房、前立腺、精巣、陰茎、甲状腺、腹膜、骨髄等が挙げられる。生体組織は腫瘍組織であることができる。腫瘍組織としては、具体的には例えば上記組織のがん(特に原発がん)が挙げられる。細胞外小胞はがん細胞から分泌されてがんの悪性化および転移に深く関わっていることから、生体組織として腫瘍組織を採用することにより、がんの早期診断、早期治療、転移抑制等に使用するための抗体を製造することも可能である。
【0030】
生体組織は、好ましくは膵臓がんの腫瘍組織であり、より好ましくは初期膵臓がんの腫瘍組織であることができる。本明細書において、初期膵臓がんとは、ステージ0又はステージ1の膵臓がんである。また、本明細書において、がんのステージは、UICC(国際対がん連合)による分類である。
【0031】
生体組織を得る方法は特に制限されず、例えば手術等により(例えばメス、ナイフ、ハサミ、眼科尖刀等を用いて)摘出する方法、注射針や内視鏡で組織検査用としてインビトロで取り扱い可能なように取得する方法などが挙げられる。
【0032】
生体組織から分離された細胞は、生体組織の全部又は一部から分離された細胞である限り、特に制限されない。当該細胞には、細胞株は包含されない。この観点から、工程(1)の培養開始時点の当該細胞は、培養継代数が、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、又は0であることが好ましい。細胞は、単一の細胞であることもできるし、細胞塊であることもできる。細胞塊を構成する細胞数としては、例えば2~1000、3~500、8~500、10~500、20~500、50~500であることができる。
【0033】
生体試料として、好ましくは生体組織の酵素処理物が挙げられる。
【0034】
生体組織は、酵素処理の前に細断して小片とすることが好ましい。細断は、生体組織を、ナイフ、はさみ、カッター(手動、自動)などで分割することによって行うことができる。小片のサイズや形は特に限定されず、ランダムに行い得るが、好ましくは、1mm~5mm角、より好ましくは1mm~2mm角の均一なサイズとする。
【0035】
酵素処理に使用する酵素としては、生体組織から細胞を分離可能なものである限り特に制限されず、例えばコラゲナーゼ、トリプシン、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、dispase等が挙げられる。酵素としては、コラゲナーゼを含むことが好ましい。酵素処理条件は、生理学的に許容されるpH、例えば約6~8、好ましくは約7.2~7.6に緩衝された等張の塩溶液、例えば基礎培地(例えばαMEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、Fischer’s培地等)、PBS、ハンクスのバランス塩溶液中で、例えば約20~40℃、好ましくは約25~39℃で、結合組織を分解するために十分な時間、例えば約1~180分間、好ましくは5~30分間で、そのために十分な濃度、例えば約0.0001~5%w/v、好ましくは約0.0005%~0.005%w/vであり得る。
【0036】
酵素処理の後は、サイズを振り分けることが好ましい。その方法としては、簡便な方法としては、目視、位相差顕微鏡による分別、あるいは篩によるが、当業者に利用可能な粒子径による分別法であれば特に限定されない。例えば、100~500μm、好ましくは150~250μmのメッシュサイズの篩を通して、通過したものを「生体組織の酵素処理物」として使用することができる。
【0037】
生体試料は、生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種である。生体試料は、1種単独であることもできるし、2種以上の組合せであることもできる。
【0038】
生体試料の培養は、液体培地中で行われる。培地を構成する基礎培地としては、例えば、αMEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、Fischer’s培地等が挙げられる。培地は、血清が添加されていない無血清培地、又は添加される血清が少ない(例えば血清濃度が5v/v%以下、2 v/v%以下、又は1 v/v%以下の)減血清培地であることが好ましく、無血清培地であることが好ましい。このような培地を使用する場合、培地は、成長因子を含むことが好ましい。成長因子としては、例えばEGF: 上皮成長因子(Epidermal growth factor)、IGF: インスリン様成長因子(Insulin-like growth factor)、TGF: トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor)、bFGFまたはFGF2: 塩基性線維芽細胞増殖因子 (basic fibroblast growth factor)、NGF: 神経成長因子(英語版) (Nerve growth factor)、BDNF: 脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor)、VEGF: 血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor)、G-CSF: 顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-colony stimulating factor)、GM-CSF: 顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (Granulocyte-macrophage-colony stimulating factor)、PDGF 血小板由来成長因子 (Platelet-derived growth factor)、EPO: エリスロポエチン(Erythropoietin)、TPO: トロンボポエチン (Thrombopoietin)、HGF: 肝細胞増殖因子 (Hepatocyte growth factor)等が挙げられ、これらの中でもTGF(特にTGF-β)とbFGFとの組合せが特に好ましい。培地が成長因子を含む場合、その濃度は、例えば1~50ng/mL、好ましくは5~20ng/mLである。
【0039】
培養器は、一般的に動物細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。
【0040】
培養方法としては、Isolated tumor-derived cancer cells(iCC)法(Fujino S. et al. Biochem Biophys Res Commun 513, 332-339 (2019))、Cancer tissue-originated spheroid(CTOS)法(Endo H. et al. J Thorac Oncol 8, 131-139 (2013))やオルガノイド法(上野康晴他、胆と膵 2018年4月号)などがあり、本開示の培養方法としてはマトリゲルやコラーゲンなどを用いた三次元培養ではなく、細胞外小胞の回収率のより高いiCC法が好ましい。
【0041】
培養条件は、適宜設定でき、例えば、培養温度は、限定されるものではないが好ましくは、約30~40℃である。最も好ましくは37℃である。CO2濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約2~5%である。
【0042】
培養期間は、生体試料から細胞外小胞が放出される限りにおいて、特に制限されない。培養期間は、例えば1~21日間であることができる。
【0043】
培養終了後の培地には、生体試料から放出された細胞外小胞が含まれる。
【0044】
細胞外小胞は、生体試料の生物種由来であれば別段限定されない。国際細胞外小胞学会(International Society for Extracellular Vesicles; ISEV)は 、“細胞から放出される核を持たない(複製できない)脂質二重膜で囲まれた粒子” を細胞外小胞と定義している。細胞外小胞は産生機構の違いから(1)エクソソーム(直径50~150nm)、(2)マイクロベシクル(直径100~1000nm)、(3)アポトーシス小胞(直径5μm)に分類されている。細胞外小胞の構成タンパク質成分として、CD9、CD63、CD81のテトラスパニン、ALIX、Tsg101、Hsp70、Hsp90、各種インテグリン、各種セレクチン、CD40、Annexin Vなどが知られている。本開示の方法で使用する細胞外小胞は、エクソソームであることが特に好ましい。
【0045】
本開示の方法では、培養終了後の培地から精製した細胞外小胞を使用することが好ましい。細胞外小胞を精製する方法として、例えば、超遠心機を用いた超遠心法、細胞外小胞マーカーに対する抗体を用いて沈降させる抗体法、ポリエチレングリコール等のポリマーを用いて細胞外小胞を沈降させる沈降法や細胞外小胞の細胞膜に存在するホスファチジルセリン(PS)に特異的に結合するタンパク質を用いたPSアフィニティー法などが知られている。疾患の初期は疾患特異的な細胞外小胞は極少量しか分泌されないと推察されることから、本開示においては、PSアフィニティー法などによって分離される純度の高い細胞外小胞を使用するのが望ましい。
【0046】
被検抗体の由来は特に制限されない。被検抗体は、ヒト、サル、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、モルモット等の脊椎動物由来のものであることが好ましい。また、被検抗体のアイソタイプは、特に制限されない。該アイソタイプとしては、例えば、IgG (IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA、IgD、IgE、IgM等が挙げられる。また、被検抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
【0047】
被検抗体の取得方法は、特に制限されない。本開示の方法においては、各種由来の被検抗体を使用することができる。細胞外小胞に対して結合性を有する抗体をより多く含み得るという観点から、被検抗体は、生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料、並びに前記生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞からなる群より選択される少なくとも1種が免疫された動物由来の抗体であることが好ましい。ここで使用される免疫原は、被検抗体と接触させる細胞外小胞の由来する生体組織と同じ生体組織に由来するものであることが好ましい。
【0048】
免疫対象の動物としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、モルモット等の脊椎動物が挙げられる。免疫は1回のみであってもよいし、複数回であってもよい。
【0049】
免疫された動物由来の抗体とは、当該動物が産生する抗体又は当該抗体と遺伝子が同じ抗体である限り特に制限されず、例えば、免疫された動物の体液(例えば血清)から得られる抗体、免疫された動物のリンパ球が産生する抗体、免疫された動物のリンパ球から調製されたハイブリドーマが産生する抗体であることができる。本開示の方法においては、好ましくは免疫された動物のリンパ球が産生する抗体、免疫された動物のリンパ球から調製されたハイブリドーマが産生する抗体、より好ましくは免疫された動物のリンパ球が産生する抗体を被検抗体として使用することができる。
【0050】
リンパ球又は血清の回収のタイミングは、免疫した抗原に対する抗体が動物内で産生されている又は産生可能である限り特に制限されず、例えば、初回免疫後又は最終免疫後1~12週間後であることができる。
【0051】
細胞外小胞と被検抗体との接触の態様は、特に制限されず、被検抗体と細胞外小胞との結合の有無又は結合量を測定する方法(例えば、各種イムノアッセイなど)の種類に応じて、適切な態様を選択することができる。イムノアッセイは、直接法、関節法、均一法、不均一法、競合法、非競合法などを問わず、広く採用することができる。イムノアッセイとして、より具体的には、例えば、ELISA (例えば、直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法など)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、サンドイッチEIA、イムノクロマト、ウェスタンブロット、免疫沈降、スロット或いはドットブロットアッセイ、免疫組織染色、蛍光イムノアッセイ、アビジン-ビオチン又はストレプトアビジン-ビオチン系を用いるイムノアッセイ、表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いるイムノアッセイなどが挙げられる。
【0052】
接触態様としては、例えば、被検抗体及び細胞外小胞のいずれか一方のみを固相に固定した状態で接触させる態様、これらの両方とも固相に固定しない状態で接触させる態様などが挙げられる。これらの中でも、効率性などの観点から、好ましくは細胞外小胞のみを固相に固定した状態で接触させる態様、すなわち固相上に固定化された細胞外小胞と液相中の前記被検抗体とを接触させる態様が挙げられる。
【0053】
被検抗体及び細胞外小胞のいずれか一方のみを固相に固定する場合、固定後に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)及び/又はエーテル型非イオン界面活性剤を含む溶液で固相を洗浄することが好ましい。
【0054】
固相としては、被検抗体及び細胞外小胞を固定可能なものである限り特に制限されない。該固相としては、例えば、ポリスチレン、ガラス、ニトロセルロースなどを主成分として含むプレート、スライド、膜などが挙げられる。固相は、本開示の抗体又はその断片及び生体試料をより容易に固定させるための成分、例えば、易反応性化合物(例えば、易反応性基を有する化合物、金コロイドなど)でコーティングされたものであってもよい。易反応性基を有する化合物としては、糖鎖又は糖鎖誘導体と共有結合を形成し得る基であって、例えば、(1H-イミダゾール-1-イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アジド基、シアノ基、活性エステル基(1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシカルボニル基、ペンタフルオロフェニルオキシカルボニル基、パラニトロフェニルオキシカルボニル基等)、又はハロゲン化カルボニル基(塩化カルボニル基、フッ化カルボニル基、臭化カルボニル基、ヨウ化カルボニル基)等を有する化合物が挙げられる。
【0055】
易反応性基を有する化合物としては、例えば、エポキシシラン、ポリリジン等が挙げられる。
【0056】
易反応性化合物でコーティングされた固相を用いる場合、ウシ血清アルブミン(BSA)等を含む緩衝液を用いて易反応性化合物をブロッキングすることが好ましく、ブロッキング時間は、60分間以上であることが好ましい。また、ブロッキング液には、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)及び/又はエーテル型非イオン界面活性剤を含むことが好ましい。
【0057】
細胞外小胞を特異的に固定する場合、細胞外小胞の公知の構成タンパク質成分に対する抗体を用いることができる。細胞外小胞がエクソソームの場合、CD9やCD63等のテトラスパニンに対する抗体を使用するのが望ましい。抗体を特異的に固定する場合、抗体のアイソタイプに対する抗体(例えば、抗ヒトIgM抗体や抗ウサギIgG抗体)や、プロテインAやプロテインGを用いることができる。
【0058】
細胞外小胞と被検抗体との接触は、マルチウェルプレートを用いて行うことが好ましい。特に、本開示の方法では、効率性等の観点から、ウェルの直径が比較的小さい(細胞1つが入る程度の大きさ、例えば5~100μm、好ましくは10~50μm、より好ましくは15~30μm)のマイクロウェルプレートを用いることが好ましい。当該マイクロウェルプレートを用いたより具体的な態様においては、細胞外小胞が固定されたウェルにリンパ球又はハイブリドーマを添加し、これらの細胞が産生する抗体と細胞外小胞とを接触させることが好ましい。この場合、本開示の方法は、Single Cell Picking法で行うことができる。
【0059】
工程(2)においては、細胞外小胞と被検抗体との結合の有無又は結合量を検出する。検出方法は、特に制限されず、例えば細胞外小胞のみを固相に固定した場合は、細胞外小胞を介して固相に結合した被検抗体を検出する。別の例として、被検抗体のみを固相に固定した場合は、被検抗体を介して固相に結合した細胞外小胞を検出する。被検抗体を検出する場合は、被検抗体のアイソタイプに対する抗体(例えば、被検抗体がウサギIgGであれば、抗ウサギIgG抗体)を用いて検出することができ、細胞外小胞を検出する場合は、CD9、CD63、インテグリン等の細胞外小胞の表面マーカーに対する抗体を使用できる。
【0060】
細胞外小胞や抗体を検出する際に用いられる標識物の種類は特に制限されない。標識としては、例えば、蛍光物質、発光物質、色素、酵素、金コロイド、放射性同位体などが挙げられる。これらの中でも、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素標識は、安全性、経済性、検出感度などの観点からより好ましい。
【0061】
検出の結果、検出シグナル量に基づいて、細胞外小胞と被検抗体との結合が検出された場合、又は細胞外小胞と被検抗体との結合量がカットオフ値以上であった場合、当該被検抗体を細胞外小胞に対して結合性を有する抗体として選別する。カットオフ値は、ネガティブコントロール(例えば被検抗体又は細胞外小胞を用いない場合)の検出シグナル量に基づいて適宜決定することができる。
【0062】
本開示の方法においては、必要に応じて、選別された抗体のアミノ酸配列を決定する。アミノ酸配列の決定方法は、特に制限されず、例えばDe novo抗体シーケンシング法、リンパ球又はハイブリドーマの抗体遺伝子のシーケンシング法等が挙げられる。決定されたアミノ酸配列に基づいて、重鎖CDR1~CDR3(好ましくは重鎖可変領域)及び軽鎖CDR1~CDR3(好ましくは軽鎖可変領域)のアミノ酸配列が選別された抗体のアミノ酸配列と同じ抗体を、公知の遺伝子組み換え技術及び抗体発現精製技術を利用して、大量調製することができる。
【0063】
本開示の方法で得られる抗体の利用方法は特に限定されず、例えば、疾患を診断する検査薬や、疾患を治療する医薬組成物などが挙げられる。検査薬及び医薬組成物としては、本開示の方法で得られる抗体又はその抗原結合性断片を含むことを特徴とする。また、医薬組成物としては、本開示の方法で得られる抗体又はその抗原結合性断片を各種抗がん剤、リシン等の毒素化合物、放射性物質放射活性金属イオン(例えば、アルファーエミッター等の放射活性を有する化合物)等の放射性物質などで標識されたものも含む。本開示の方法で得られる抗体又はその抗原結合性断片を含む医薬組成物を使用して治療することができる疾患としては、本開示の方法で得られる抗体又はその抗原結合性断片が結合する分子を高発現している疾患(特に、癌やその転移癌)が挙げられる。本開示の方法を経て上記検査薬や医薬組成物を製造する方法もまた、本開示の一態様である。
【実施例0064】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0065】
実施例1.膵臓がん細胞由来の細胞外小胞に結合するウサギモノクローナル抗体の製造
(a)リンパ球の調製
凍結ヒト初期膵臓がん組織(Proteogenex社製、ステージ1、腫瘍占有率85%、55歳、女性)を細断しPBSで0.06mg/mLに懸濁し免疫抗原とした。JW/CSKウサギ(13週齢、雌)に免疫抗原とFCAを混合した抗原溶液を免疫し、3週間後に肥大化したリンパ節を回収し、ホモゲナイズ及び溶血剤処理を行って得たリンパ球を凍結保護培地(日本全薬工業製、セルバンカー1)中で凍結した。
【0066】
(b)細胞外小胞の調製
大阪国際がんセンターにて、2cm以下の腫瘍を有する初期膵臓がん患者から手術により腫瘍組織を切除した。腫瘍組織を抗生物質含有生理食塩水で洗浄後、1mm程度に細断して細断小片とし、これに1mg/mLコラゲナーゼ(シグマアルドリッチ製、カタログ番号:044-29765)を含むDMEM培地を加えて振とう処理(200rpm、37℃、15分)した後、200μmのメッシュを通して腫瘍組織由来の腫瘍細胞を回収した。腫瘍細胞を10ng/mL basic FGF、2ng/mL TGF-βを含むDMEM培地で培養し、2~4日ごとに培養上清を回収して-80℃に保存し、一方、腫瘍細胞には新鮮培地を添加して培養を継続した。
【0067】
-80℃に保存した培養上清を解凍後、遠心分離(300xg、4℃、5分;1,200xg、4℃、20分;10,000xg、4℃、30分)して上清を回収した。回収した上清から、MagCapture Exosome Isolation Kit PS(富士フィルム和光純薬製、カタログ番号:290-84103)を用いて、プロトコルに従って細胞外小胞を分離した。細胞外小胞のタンパク質濃度は、BSA溶液を標準としてBCAタンパク質アッセイキット(ThermoFisher製、カタログ番号:23225)を用いて定量した。
【0068】
(c)細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球の選別
1ウエルが直径20μmで196,000ウエルのマイクロチャンバーに(b)の細胞外小胞を固相化して洗浄後、1% BSA溶液を加えて室温、30分ブロッキングした。ブロッキング溶液を除去後、(a)のリンパ球(2x10
5細胞)及びCy3標識ロバ抗ウサギIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch製、カタログ番号:711-165-152)の混合溶液を添加して45分間培養後、マイクロチャンバーをAS ONE Cell Picking System(アズワン社製)に設置し、細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球を選別した。その結果、
図1に示すように、初期膵臓がん患者の膵臓がん細胞が分泌する細胞外小胞に反応する抗体を産生するクローンPEMb14が得られた。
【0069】
(d)PEMb14抗体遺伝子の決定
AS ONE Cell Picking SystemでクローンPEMb14を単離後、Single cell PCR法(Invitrogen製、カタログ番号:12574-035) によりリンパ球の抗体遺伝子を増幅した。増幅した重鎖及び軽鎖のそれぞれの遺伝子断片をベクターpCEC3.2 rabbit(細胞工学研究所製)に挿入してクローニングを行った。
【0070】
DNAシークエンサーによりPEMb14抗体の重鎖及び軽鎖のCDR塩基配列を決定し、表1に示される重鎖及び軽鎖のCDR1~3のアミノ酸配列、及び表2に示される重鎖及び軽鎖のCDR1~3の塩基配列が同定された。また、以下に重鎖可変領域及び軽鎖可変領域全体のアミノ酸配列及び塩基配列を示す。
【0071】
【0072】
【0073】
重鎖可変領域(アミノ酸配列)
METGLRWLLLVAVLKGVQCEQLEESGGDLVKPGASLTLTCTASEFSFSSSYYMCWVRQAPGKGLEWIACLYAGSGGVTYYASWAKGRFTISKTSSTTVTLQMTSLTAADTATYFCAREVPADAAYGYFNL(配列番号13)。
【0074】
軽鎖可変領域(アミノ酸配列)
MDTRAPTQLLGLLLLWLPGATIAQVLTQTPSPVSAAVGGTVTINCQASQSVYNNNNLAWFQQKPGQPPKQLIYSASTLASGVSSRFKGSGSGTQFTLTISGVQCDDAATYYCLGDFGGGIRA(配列番号14)。
【0075】
重鎖可変領域(塩基配列配列)
ATGGAGACTGGGCTGCGCTGGCTTCTCCTGGTCGCTGTGCTCAAAGGTGTCCAGTGTGAGCAGCTGGAGGAGTCCGGGGGAGACCTGGTCAAGCCTGGGGCATCCCTGACACTCACCTGCACAGCCTCTGAATTCTCCTTCAGTAGCAGCTACTACATGTGCTGGGTCCGCCAGGCTCCAGGGAAGGGGCTGGAGTGGATCGCTTGCCTTTATGCTGGTAGTGGTGGTGTCACTTACTACGCGAGCTGGGCGAAAGGCCGATTCACCATCTCCAAAACCTCGTCGACCACGGTGACTCTGCAAATGACCAGTCTGACAGCCGCGGACACGGCCACCTATTTCTGTGCGAGAGAGGTCCCTGCTGATGCTGCTTATGGATACTTTAACTTA(配列番号15)。
【0076】
軽鎖可変領域(塩基配列配列)
ATGGACACGAGGGCCCCCACTCAGCTGCTGGGGCTCCTGCTGCTCTGGCTCCCAGGTGCCACAATTGCTCAAGTGCTGACCCAGACTCCATCCCCTGTGTCTGCCGCTGTGGGAGGCACAGTCACCATCAATTGCCAGGCCAGTCAGAGTGTTTATAATAACAACAACTTAGCCTGGTTTCAGCAGAAACCAGGGCAGCCTCCCAAGCAACTGATCTATTCTGCATCCACTCTGGCATCTGGGGTGTCATCGCGGTTCAAAGGCAGTGGATCTGGGACACAGTTCACTCTCACCATCAGCGGCGTGCAGTGTGACGATGCTGCCACTTATTACTGTCTAGGCGATTTTGGTGGTGGTATCCGGGCT(配列番号16)。
【0077】
(e)PEMb14抗体(ウサギIgG、κ)の調製
100 mm 培養プレート1枚当たり1.2×107細胞のHEK293細胞を30枚分用意し、実施例1(d)で得られたウサギ抗体(IgG)発現用ベクター2種(重鎖及び軽鎖)を、プレート1枚あたり各8.50μgにPEI (Merck製、カタログ番号:408727-100ML)を用いて遺伝子導入して7日間培養し、PEMb14抗体を含む培養上清を回収した。得られた培養上清をAb-Capcher (ProteNova製、カタログ番号:P-002-200)に供し、TBS buffer で洗浄した後、Gentle Ag/Ab Elution buffer (pH 6.6) (ThermoFisher製、カタログ番号:#21027)で溶出した。次に、0.2M アルギニンを含むTBS buffer、0.2M アルギニンを含むPBS buffer 、PBS bufferへ順に透析した。抗体濃度はBCA Protein Assay Kit (Thermo Fisher Scientific製、カタログ番号:23225)で測定した。
【0078】
実施例2.PEMb14抗体による初期膵臓がん患者の血液検査
(a)PEMb14抗体のペルオキシダーゼ標識
Ab-10 Rapid Peroxidase Labeling Kit (同仁化学研究所製、カタログ番号:LK33)を用いて、ラット抗ヒトCD63モノクローナル抗体(細胞工学研究所製、クローン名:1C8-2B11)10μgをプロトコルに従ってペルオキダーゼ標識した。
【0079】
(b)血清検体の調製
生体試料として血清を大阪国際がんセンターで採取し、CA19-9値を測定した。膵臓がんのステージは、UICC TNM 分類(第8版、2017年)に準拠した。各血清は、PBSで10倍に希釈して血清検体とした。
【0080】
(c)健常人および膵臓がん患者の血清中のPEMb14抗体の抗原値の測定
MaxiSorp 96ウエルプレートの各ウエルに10μg/mlのPEMb14抗体(ウサギIgG)を100μl加え、室温で1時間静置した。次に、各ウエルを洗浄液(0.05% Triton-X 100を含む50 mM Tris-HCl (pH8.0)、140 mM NaCl) 200μlで3回洗浄し、ブロッキング液(5% BSAを含む洗浄液)200μlを加えて室温で1時間静置した。ブロッキング液を除去し、血清検体100μl添加して室温で2時間振とう反応後、各ウエルを5回洗浄した。次に、ブロッキング液で1,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ラット抗ヒトCD63モノクローナル抗体を100μlずつ添加して室温で1時間静置した。各ウエルを5回洗浄した後に、ペルオキシダーゼ基質液(SeraCare Life Sciences製、コード番号:5120-0053)を100μlずつ添加して室温で20分間振とう反応した。反応後、2%硫酸を50μl添加して反応を停止させ、各ウエルの450 nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0081】
その結果、表3に示すように、膵臓がん、特に初期膵臓がん(ステージ0及びステージ1)患者では、血清中のPEMb14抗体の抗原値に基づく陽性率が、CA19-9陽性率に比して高かった。このことから、PEMb14抗体の抗原値を基にして、膵臓がん、特に、初期膵臓がんの罹患の可能性を判定することが可能であることが示された。
【0082】
【0083】
比較例1.膵臓がん細胞株の培養上清由来の細胞外小胞に結合するウサギモノクローナル抗体の製造
(a)膵臓がん細胞株の培養上清由来の細胞外小胞の調製
市販のヒト膵臓がん細胞株(KP-3、KP-3L、BxPC3、Mia-PaCa2及びSUIT-2)をそれぞれ10%FBS含有RPMI 1640培地で3日間培養して培養上清を回収した。回収した上清から、MagCapture Exosome Isolation Kit PSを用いて、プロトコルに従って細胞外小胞を分離した後に、得られた5種類の細胞外小胞を混和した。細胞外小胞のタンパク質濃度は、BSA溶液を標準としてBCAタンパク質アッセイキットを用いて定量した。
【0084】
(b)細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球の選別
実施例1(c)と同様にして、マイクロチャンバーに(a)の細胞外小胞を固相化して実施例1(a)のリンパ球(2x105細胞)を添加し、細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球を選別した。その結果、膵臓がん細胞株が分泌する細胞外小胞に反応する抗体を産生するクローン6種類が得られた。次に、実施例1(e)と同様にして、各クローンから抗体(d5、d13、d15、d17、d19、d29)を調製した。
【0085】
(c)健常人および膵臓がん患者の血清中の抗原値の測定
生体試料として、血清(Proteogenex社製、健常人13名・膵臓がん(ステージ1)患者15名)をPBSで10倍に希釈して血清検体とした。実施例2(c)と同様にして、各抗原値を測定した。
【0086】
その結果、表4に示すように、初期膵臓がん(ステージ1)患者では、血清中の各抗原値に基づく陽性率はPEMb14に比して低かった。このことから、人工的に株化された細胞を培養して得られる培地由来の細胞外小胞に対して結合性を有する抗体よりも、生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の方が、有用性が高いことが示された。
【0087】
【0088】
比較例2.膵臓がん患者血清由来の細胞外小胞に結合するウサギモノクローナル抗体の製造
(a)膵臓がん患者血清由来の細胞外小胞の調製
膵臓がん患者(ステージ1)10名分の血清(Proteogenex社製、男性3名・女性7名、40~65歳)各1mLから、MagCapture Exosome Isolation Kit PSを用いて、プロトコルに従って細胞外小胞を分離した後に、得られた10種類の細胞外小胞を混和した。細胞外小胞のタンパク質濃度は、BSA溶液を標準としてBCAタンパク質アッセイキットを用いて定量した。
【0089】
(b)細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球の選別
実施例1(c)と同様にして、マイクロチャンバーに(a)の細胞外小胞を固相化して実施例1(a)のリンパ球(2x105細胞)を添加し、細胞外小胞に結合する抗体を産生するリンパ球を選別した。その結果、初期膵臓がん(ステージ1)患者の血清中に含まれる細胞外小胞に反応する抗体を産生するクローン5種類が得られた。次に、実施例1(e)と同様にして、各クローンから抗体(hs8、hs15、hs22、hs28、hs39)を調製した。
【0090】
(c)健常人および膵臓がん患者の血清中の抗原値の測定
生体試料として、血清(Proteogenex社製、健常人13名・膵臓がん(ステージ1)患者15名)をPBSで10倍に希釈して血清検体とした。実施例2(c)と同様にして、各抗原値を測定した。
【0091】
その結果、表5に示すように、初期膵臓がん(ステージ1)患者では、血清中の各抗原値に基づく陽性率はPEMb14に比して低かった。このことから、膵臓がん患者血清由来の細胞外小胞に対して結合性を有する抗体よりも、生体組織及び前記生体組織から分離された細胞からなる群より選択される少なくとも1種の生体試料を培養して得られる培地由来の細胞外小胞に対して結合性を有する抗体の方が、有用性が高いことが示された。
【0092】