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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115908
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】冷菓用のコク増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240820BHJP
   A23G 9/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
A23D9/00 512
A23G9/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021810
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 喬比古
(72)【発明者】
【氏名】井上 慶太
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
【Fターム(参考)】
4B014GB18
4B014GG06
4B014GG11
4B014GG14
4B014GK07
4B014GK12
4B014GL02
4B014GL10
4B014GP02
4B014GP13
4B014GP14
4B014GP26
4B026DC01
4B026DG01
4B026DG02
4B026DG04
4B026DG07
4B026DG10
4B026DH02
4B026DH05
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
(57)【要約】
【課題】本発明は、含有される乳原料を低減した場合であってもコクを有する冷菓を提供することを目的とする。また、乳原料の含量を低減しない場合には、強いコクを有する冷菓を提供することを目的とする。
【解決手段】次の(A)~(C)のいずれか一つ以上の油脂を含有し、好ましくは、脂肪酸残基組成が次の条件(i)及び(ii)のいずれか1つ以上を満たす、冷菓用のコク増強剤。
(A)ココアバター
(B)シアバター
(C)シアバターの分別油
条件(i):脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量が25質量%以下である
条件(ii):脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量が0.5~45質量%である
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)~(C)のいずれか一つ以上の油脂を含有する、冷菓用のコク増強剤。
(A)ココアバター
(B)シアバター
(C)シアバターの分別油
【請求項2】
脂肪酸残基組成が次の条件(i)及び(ii)のいずれか1つ以上を満たす請求項1記載の、冷菓用のコク増強剤。
条件(i):脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量が15質量%以下である
条件(ii):脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量が5~45質量%である
【請求項3】
上記(A)~(C)の油脂の合計含量が20~80質量%である請求項1又は2記載の、冷菓用のコク増強剤。
【請求項4】
次の(D)~(G)のいずれか一つ以上の油脂を含有する、請求項1又は2記載の冷菓用のコク増強剤。
(D)綿実油、米油、菜種油から選ばれる一つ以上
(E)パーム油
(F)パーム系油脂
(G)オリーブ油
【請求項5】
次の(D)~(G)のいずれか一つ以上の油脂を含有する、請求項3記載の冷菓用のコク増強剤。
(D)綿実油、米油、菜種油から選ばれる一つ以上
(E)パーム油
(F)パーム系油脂
(G)オリーブ油
【請求項6】
連続相が油相である、請求項1又は2記載の冷菓用のコク増強剤。
【請求項7】
請求項1又は2記載の冷菓用のコク増強剤を含有する、冷菓用ミックス液。
【請求項8】
請求項1又は2記載の冷菓用のコク増強剤を含有する、冷菓。
【請求項9】
冷菓用のコク増強剤の含量が0.1~5質量%である、請求項8記載の冷菓。
【請求項10】
乳固形分が12質量%以下である、請求項8記載の冷菓。
【請求項11】
乳固形分が3質量%未満であり、果物、野菜、豆類、穀物類、種実類及びこれらの加工品からなる群のうち、いずれか1つ以上を含有する、請求項8記載の冷菓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷菓のコク増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
牛乳、生クリーム、全脂粉乳、脱脂粉乳、チーズなどの乳製品を含有する、アイスクリームやアイスミルク、ラクトアイス(以下これらを総称してアイスクリーム類と記載)や氷菓(以下、アイスクリーム類と氷菓を総称して冷菓と記載)は良好なコクを有している。
【0003】
冷菓のコクは、通常、含有される乳製品の量に依存するが、乳製品の価格高騰や供給の不安定性から、近年では、冷菓を製造する際に使用される乳製品の量の低減が行われる場合がある。また、自然環境への配慮や健康意識の高まりから、乳製品を使用せずに、植物性原料(例えば豆乳やオーツミルク等の植物性ミルクやその加工品)を使用して製造されたいわゆるプラントベースアイスが消費者に選択されることが増加してきている。
他方、冷菓においては、物性改良や酸化安定性の向上、又はコストダウンの目的から、冷菓に含有される油脂分の一部又は全部として、植物性油脂を用いて製造する場合がある。
【0004】
しかし、配合中の乳製品の量を単に低減したり、植物性油脂の使用量を高めるのみでは、冷菓のコクが低下することから、このコクを補ったり増強したりする手法が従前検討されてきた(例えば特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-028238号公報
【特許文献2】特開2018-134032号公報
【特許文献3】特開2015-188367号公報
【特許文献4】特開2022-133155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、含有される乳原料を低減した場合であってもコクを有する冷菓を提供することにある。また、乳原料の含量を低減しない場合には、強いコクを有する冷菓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、ココアバター、シアバター、シアバターの分別油のいずれか1つ以上を含む、冷菓用のコク増強剤を冷菓に含有させることにより、上記課題を解決しうることを知見した。
【0008】
本発明はこの知見に基づくものであり、具体的には以下の発明を開示する。
<1>
次の(A)~(C)のいずれか一つ以上の油脂を含有する、冷菓用のコク増強剤。
(A)ココアバター
(B)シアバター
(C)シアバターの分別油
<2>
脂肪酸残基組成が次の条件(i)及び(ii)のいずれか1つ以上を満たす<1>記載の、冷菓用のコク増強剤。
条件(i):脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量が15質量%以下である
条件(ii):脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量が5~45質量%である
<3>
上記(A)~(C)の油脂の合計含量が20~80質量%である<1>又は<2>記載の、冷菓用のコク増強剤。
<4>
次の(D)~(G)のいずれか一つ以上の油脂を含有する、<1>又は<2>記載の冷菓用のコク増強剤。
(D)綿実油、米油、菜種油から選ばれる一つ以上
(E)パーム油
(F)パーム系油脂
(G)オリーブ油
<5>
次の(D)~(G)のいずれか一つ以上の油脂を含有する、<3>記載の冷菓用のコク増強剤。
(D)綿実油、米油、菜種油から選ばれる一つ以上
(E)パーム油
(F)パーム系油脂
(G)オリーブ油
<6>
連続相が油相である、<1>~<5>の何れかに記載の冷菓用のコク増強剤。
<7>
<1>~<6>の何れかに記載の冷菓用のコク増強剤を含有する、冷菓用ミックス液。
<8>
<1>~<6>の何れかに記載の冷菓用のコク増強剤を含有する、冷菓。
<9>
冷菓用のコク増強剤の含量が0.1~5質量%である、<8>記載の冷菓。
<10>
乳固形分が12質量%以下である、<8>又は<9>記載の冷菓。
<11>
乳固形分が3質量%未満であり、果物、野菜、豆類、穀物類、種実類及びこれらの加工品からなる群のうち、いずれか1つ以上を含有する、<8>~<10>の何れかに記載の冷菓。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、含有される乳原料を低減した場合であってもコクを有する冷菓を提供することができる。また、乳原料の含量を低減しない場合には、強いコクを有する冷菓を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0011】
[冷菓用のコク増強剤]
以下、本発明の冷菓用のコク増強剤について詳述する。なお、本発明の冷菓用のコク増強剤を含有する冷菓を、以下単に「本発明の冷菓」と記載する。
【0012】
本発明の冷菓用のコク増強剤は、次の(A)~(C)のいずれか1つ以上の油脂を含有することを特徴とする。
(A)ココアバター
(B)シアバター
(C)シアバターの分別油
以下、上記(A)の油脂を単に「油脂A」と記載する場合があり、その他の油脂も同様である。
【0013】
まず、本発明の冷菓用のコク増強剤に用いられる油脂A~Cについて述べる。
【0014】
<(A)ココアバターについて>
本発明において、ココアバターとは、カカオ豆、カカオニブ、及びカカオマスから得られる油脂で、一般にチョコレート原料として用いられるものである。
【0015】
その製法や産地によっても脂肪酸残基組成が異なるが、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、その上限は好ましくは40質量%以下である。したがって一実施形態において、同ステアリン酸残基含量は好ましくは20~40質量%であり、より好ましくは25~40質量%であり、さらに好ましくは30~40質量%である。
【0016】
また、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるオレイン酸残基含量は好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上、又は30質量%以上であり、その上限は好ましくは40質量%以下である。したがって一実施形態において、同オレイン酸残基含量は好ましくは20~40質量%であり、より好ましくは25~40質量%又は30~40質量%である。
【0017】
また、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上である。その上限は、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。したがって一実施形態において、リノール酸残基含量は、好ましくは0.05~3質量%であり、より好ましくは0.1~2質量%であり、さらに好ましくは0.5~1質量%である。
【0018】
油脂Aが上記脂肪酸組成を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0019】
なお、本発明に用いられる油脂の脂肪酸残基組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。本発明において示す脂肪酸残基組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した値に基づく。
【0020】
油脂Aのヨウ素価は、好ましくは20~40であり、より好ましくは25~40であり、さらに好ましくは30~40である。これにより、本発明の効果を好適に得ることができる。
【0021】
なお、油脂のヨウ素価の測定は常法に基づいて行うことができるが、例えば基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」により実施することができる。
【0022】
油脂Aは、常法により精製されていてもよく、未精製であってもよいが、好ましくは未脱臭のものを用いることで、本発明の冷菓用のコク増強剤を用いて製造された、本発明の冷菓のコクが向上する。
【0023】
本発明における、油脂Aの25℃における固体脂含量SFC-25は、好ましくは20%以上であり、より好ましくは25%以上であり、さらに好ましくは30%以上である。また、その上限は、好ましくは90%以下、又は85%以下、より好ましくは45%以下である。したがって、一実施形態において、油脂AのSFC-25は、好ましくは20~90%、より好ましくは20~45%であり、さらに好ましくは25~45%であり、さらにより好ましくは30~45%である。
また油脂Aの35℃における固体脂含量SFC-35は、好ましくは0~15%であり、より好ましくは0~10%であり、さらに好ましくは0~5%である。
油脂Aの固体脂含量が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0024】
固体脂含量(SFC、Solid Fat Contents)の値は、所定温度における油脂中の固体脂の含量を示すもので、常法により測定することが可能である。本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。
即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値が固体脂含量となる。
【0025】
本発明において示す25℃における固体脂含量SFC-25は、25℃に設定された恒温槽にて30分静置した試料(冷菓用のコク増強剤又は油脂A~C)について上記パルスNMR(ダイレクト法)により測定した値(油相換算)に基づく。また、本発明において示す35℃における固体脂含量SFC-35は、35℃に設定された恒温槽にて30分静置した試料について上記パルスNMR(ダイレクト法)により測定した値(油相換算)に基づくものであり、以下同様である。
【0026】
<(B)シアバターについて>
本発明において、シアバターとは、アカテツ科のシアーバターノキの種子の胚から得られる植物性油脂のことであり、その脂肪酸残基組成が、ステアリン酸残基及びオレイン酸残基を主成分とするもの(ステアリン酸残基及びオレイン酸残基の合計含量が80質量%以上であるもの)を指す。
【0027】
その製法や産地によっても脂肪酸残基組成が異なるが、油脂Bの脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。その上限は好ましくは50質量%以下又は45質量%以下である。したがって一実施形態において、同ステアリン酸残基含量は好ましくは30~50質量%であり、より好ましくは30~45質量%であり、さらに好ましくは35~45質量%である。
【0028】
また油脂Bの脂肪酸残基組成におけるオレイン酸残基含量は好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上又は42質量%以上である。その上限は好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは58質量%以下であり、さらに好ましくは56質量%以下、54質量%以下、52質量%以下又は50質量%以下である。したがって一実施形態において、同オレイン酸残基含量は好ましくは40~60質量%であり、より好ましくは40~58質量%であり、さらに好ましくは42~56質量%である。
【0029】
油脂Bが上記脂肪酸組成を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0030】
油脂Bのヨウ素価は、好ましくは50~70であり、より好ましくは55~70であり、さらに好ましくは60~70である。これにより、本発明の効果を好適に得ることができる。
【0031】
油脂Bは、常法により精製されていてもよく、未精製であってもよいが、好ましくは脱臭したものを用いることで、本発明の冷菓用のコク増強剤を用いて製造された、本発明の冷菓のコクが向上する。
【0032】
油脂Bの25℃における固体脂含量SFC-25は、好ましくは25~50%であり、より好ましくは30~50%であり、さらに好ましくは35~50%である。油脂Bの35℃における固体脂含量SFC-35は、好ましくは5~25%であり、より好ましくは5~20%であり、さらに好ましくは5~15%である。
油脂Bの固体脂含量が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0033】
<(C)シアバターの分別油について>
本発明において、シアバターの分別油とは、上記シアバターの分別軟部油、分別中部油、分別硬部油、又はシアバターの分別油に対して更に1回以上分別を施して得られる分別油を指し、いわゆるダブルオレインやダブルステアリン等を含むものである。
【0034】
「分別軟部油」とは、分別により高融点部を分離除去して得られた低融点部を意味し、「分別硬部油」とは、分別により低融点部を分離除去して得られた高融点部を意味する。また、「分別中部油」とは、分別軟部油又は分別硬部油をさらに分別に供して得られる、分別軟部油の高融点部、又は分別硬部油の低融点部を意味する。
【0035】
油脂Cは、これらのうち、1種のみからなる油脂でもよく、2種以上の混合油脂でもよい。本発明の冷菓のコクを好ましく改善する観点からは、油脂Cは、好ましくはシアバターの分別軟部油、分別中部油、又はこれらの油脂に対して更に分別を施して得られる分別油であり、より好ましくはシアバターの分別軟部油、又はシアバターの分別軟部油に対してさらに分別を施して得られる分別油であり、さらに好ましくはシアバターの分別軟部油である。
【0036】
シアバターの分別油を得る際の分別方法は、特に限定されず、公知の方法が使用できる。そのような方法としては、例えば、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、及び、晶析等の無溶剤分別がある。分別は必要に応じて複数回行ってもよく、各回の分別条件を変えてもよい。また、溶剤分別と無溶剤分別を組み合わせてもよい。
【0037】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Cの脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。その上限は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下である。したがって一実施形態において、ステアリン酸残基含量は、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは25~35質量%である。
シアバターの分別硬部油としての、油脂Cの脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは55質量%以上である。その上限は、好ましくは75質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下であり、さらに好ましくは65質量%以下である。したがって一実施形態において、ステアリン酸残基含量は、好ましくは45~75質量%であり、より好ましくは50~70質量%であり、さらに好ましくは55~65質量%である。
【0038】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Cの脂肪酸残基組成におけるオレイン酸残基含量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上である。その上限は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。したがって一実施形態において、オレイン酸残基含量は、好ましくは5~30質量%であり、より好ましくは10~25質量%であり、さらに好ましくは15~20質量%である。
シアバターの分別硬部油としての、油脂Cの脂肪酸残基組成におけるオレイン酸残基含量は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。その上限は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下である。したがって一実施形態において、オレイン酸残基含量は、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは25~35質量%である。
【0039】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Cの脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。その上限は、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。したがって一実施形態において、ラウリン酸残基含量は、好ましくは0.01~3質量%であり、より好ましくは0.05~2質量%であり、さらに好ましくは0.1~1質量%である。
【0040】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Cの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは5質量%以上である。その上限は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以下である。したがって一実施形態において、リノール酸残基含量は、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは3~20質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
シアバターの分別硬部油としての、油脂Cの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは2質量%以上である。その上限は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。したがって一実施形態において、リノール酸残基含量は、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、さらに好ましくは2~5質量%である。
【0041】
油脂Cの脂肪酸残基組成が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0042】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Cのヨウ素価は、好ましくは45以上であり、より好ましくは50以上であり、さらに好ましくは50~75である。
シアバターの分別硬部油としての、油脂Cのヨウ素価は、好ましくは45未満であり、より好ましくは44以下であり、さらに好ましくは40以下である、さらにより好ましくは25~40である。
油脂Cのヨウ素価が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0043】
本発明における、シアバターの分別軟部油としての、油脂Cの25℃における固体脂含量SFC-25は、好ましくは0~20%であり、より好ましくは0~15%であり、さらに好ましくは0~10%である。シアバターの分別軟部油としての、油脂Cの35℃における固体脂含量SFC-35は、好ましくは0~15%であり、より好ましくは0~10%であり、さらに好ましくは0~5%である。
また、シアバターの分別硬部油としての、油脂Cの25℃における固体脂含量SFC-25は、好ましくは55~85%であり、より好ましくは60~80%であり、さらに好ましくは65~75%である。シアバターの分別硬部油としての、油脂Cの35℃における固体脂含量SFC-35は、好ましくは0~20%であり、より好ましくは0~15%であり、さらに好ましくは0~10%である。
【0044】
油脂Cの固体脂含量が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0045】
<本発明における油脂A~Cの組み合わせ、及び油脂A~Cの含量について>
本発明の冷菓用のコク増強剤は、上記の油脂A~Cのいずれか1つ以上を含有するものであり、その組合せは任意であるが、本発明の効果を向上させる観点からは、少なくとも油脂B又は油脂Cのいずれか1つ以上を含有することが好ましく、少なくとも油脂Cを含有することがより好ましく、油脂Cとしてシアバターの分別軟部油を含有することがさらに好ましい。
【0046】
上記油脂A~Cのそれぞれの含量については、求める作業性や、付与・増強される冷菓のコクの強度への要望によっても異なるため特に制限されない。後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし本発明の効果を向上させる観点から、例えば、上記油脂Aの含量は好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上であり、その上限は、好ましくは25質量%以下又は20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下であり、16質量%以下又は15質量%以下であり、さらに好ましくは13質量%以下又は12質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Aの含量は、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは1~18質量%であり、さらに好ましくは1~13質量%である。
【0047】
また、上記油脂Bの含量は好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上であり、2質量%以上であり、4質量%以上又は5質量%以上である。その上限は好ましくは25質量%以下又は20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下であり、16質量%以下又は15質量%以下であり、さらに好ましくは13質量%以下又は12質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Bの含量は好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは1~18質量%であり、さらに好ましくは5~13質量%である。
【0048】
上記油脂Cの含量は好ましくは1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上又は8質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。その上限は、好ましくは70質量%以下、65質量%以下又は60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下又は40質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下又は30質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Cの含量は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは10~55質量%であり、さらに好ましくは10~35質量%である。油脂Cの含量が上記数値範囲を満たすことにより、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0049】
また、本発明の冷菓用のコク増強剤中の、上記油脂A~Cの合計含量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意に決定してよい。作業性を保ちながらいっそう良好なコクを有する冷菓用のコク増強剤を製造することを容易とする観点から、上記油脂A~Cの合計含量は好ましくは10質量%以上又は15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。その上限は特に限定されず、100質量%であってもよいが、好ましくは80質量%以下、75質量%以下又は70質量%以下であり、より好ましくは65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下又は40質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下、34質量%以下、32質量%以下又は30質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂A~Cの合計含量は好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは20~65質量%であり、さらに好ましくは20~35質量%である。
【0050】
上記の油脂A~Cを上記範囲で含有させることにより、本発明の冷菓用のコク増強剤を用いて製造された、後述する本発明の冷菓のコクがいっそう向上する理由については、現段階では不明であるが、これらの油脂由来のフィトステロールが、一定量、冷菓に含まれることによりコクが向上するものと本発明者は考えている。
【0051】
<本発明に使用することができるその他油脂>
上記の油脂A~Cの他に、本発明の冷菓用のコク増強剤に用いることのできるその他油脂について述べる。本発明の冷菓用のコク増強剤に上記の油脂A~C以外のその他油脂を含有させるか否かについては任意であり、斯かる油脂としては、例えば、綿実油、米油、菜種油、パーム油、パーム系油脂、オリーブ油、大豆油、コーン油、落花生油、紅花油、ひまわり油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。これらその他油脂は、1種単独で使用してもよく、これらから選択された2種以上の油脂の混合物を使用してもよい。
【0052】
本発明の冷菓用のコク増強剤では、これらの油脂の中から、後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たすように、上記の油脂A~Cの他に、1種又は2種以上のその他油脂が選択され適宜含有される。
【0053】
本発明の効果をより高める観点から、本発明の冷菓用のコク増強剤は、その目的に合わせて、次の(D)~(G)のいずれか一つ以上の油脂をさらに含有することが好ましい。
(D)綿実油、米油、菜種油から選ばれる一つ以上
(E)パーム油
(F)パーム系油脂
(G)オリーブ油
【0054】
<(D)綿実油、米油、菜種油について>
本発明において、油脂Dは、得られる冷菓のコクをいっそう高める観点から、好ましく選択される油脂である。
【0055】
本発明に用いられる油脂Dの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは10~75質量%であり、より好ましくは50~70質量%であり、さらに好ましくは55~65質量%である。
【0056】
なお、本発明に用いられる油脂Dのヨウ素価は好ましくは90~130であり、より好ましくは100~120である。
【0057】
また、油脂Dの不けん化物の含量は好ましくは5質量%以下、4質量%以下、2質量%以下又は1.5質量%以下である。これにより、本発明の効果を好適に得ることができる。
油脂Dの不けん化物の含量の測定は、常法によって行うことができ、例えば、JISK0070(化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法)に準拠して測定することができる。
【0058】
本発明において、油脂Dとして綿実油や米油、菜種油を用いた場合に、本発明の効果がより好ましく得られる理由は定かではないが、これらの油脂中のポリフェノールやフィトステロール等の成分を含有することが、本発明の効果に好ましく寄与していると、本発明者らは推測している。
【0059】
本発明の冷菓用のコク増強剤における油脂Dの含量は、冷菓を製造する際の作業性が低下しない範囲で任意に設定することができるが、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上である。その上限は好ましくは80質量%以下であり、75質量%以下又は70質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Dの含量は、好ましくは5~80質量%であり、より好ましくは10~80質量%であり、さらに好ましくは15~80質量%である。
【0060】
<(E)パーム油について>
本発明において、油脂Eは、本発明が適用される冷菓を調製する際の作業性をいっそう良好なものとする観点から、特に好ましく選択される油脂である。
【0061】
本発明に用いられる油脂Eの脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0062】
本発明に用いられる油脂Eの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3~15質量%であり、さらに好ましくは5~10質量%である。
【0063】
なお、本発明に用いられる油脂Eのヨウ素価は好ましくは45以上であり、より好ましくは50以上であり、その上限は好ましくは55以下であり、より好ましくは53以下である。したがって一実施形態において、油脂Eのヨウ素価は好ましくは45~55であり、より好ましくは50~55である。
【0064】
本発明の冷菓用のコク増強剤における油脂Eの含量は、得られる冷菓のコクや風味を損ねない範囲で任意に設定することができるが、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは45質量%以上である。その上限は好ましくは85質量%以下又は80質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Eの含量は、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは30~80質量%であり、さらに好ましくは45~80質量%である。
【0065】
<(F)パーム系油脂について>
本発明において、油脂Fは、本発明が適用される冷菓を調製する際の作業性をいっそう良好なものとする観点から、特に好ましく選択される油脂である。本発明におけるパーム系油脂とは、パーム油を原料の一つとして水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を指す。
【0066】
本発明に用いられる油脂Fとしては、具体的には、分別油である分別軟部油、分別硬部油を選択することができ、該分別軟部油としては、例えば、パームオレイン、パームスーパーオレイン、ソフトパームミッドフラクション、トップオレイン、ハードパームミッドフラクションが挙げられ、また、該分別硬部油としては、例えば、ハードステアリン(パームステアリン)、ソフトステアリン、スーパーステアリンが挙げられる。ソフトパームミッドフラクションやハードパームミッドフラクションなどを単に「パームミッドフラクション」(パーム中融点部)ともいう。中でも、良好なコクを有する冷菓を得る観点から、油脂Fとしては、パーム分別軟部油が好ましく、パームミッドフラクション、パームスーパーオレインがより好ましく、パームスーパーオレインがさらに好ましい。
【0067】
油脂Fとしてはまた、これらの油脂やパーム油から選択される1種以上の油脂に対して、エステル交換や水素添加を施した油脂を挙げることができる。
【0068】
本発明に用いられる油脂Fの脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0069】
本発明に用いられる油脂Fの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは2~15質量%であり、さらに好ましくは3~10質量%である。
【0070】
後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、且つ冷菓の製造を行う際の作業性を高める観点から、油脂Fのヨウ素価は好ましくは25以上、より好ましくは28以上であり、さらに好ましくは29以上又は30以上である。その上限は好ましくは75以下、70以下、65以下又は50以下であり、より好ましくは48以下であり、さらに好ましくは45以下、44以下、42以下、40以下又は39以下である。したがって一実施形態において、同ヨウ素価は好ましくは25~75であり、より好ましくは28~70であり、さらに好ましくは29~65又は29~39である。
【0071】
上記範囲のヨウ素価を好ましく満たし、本発明に用いることができるパーム系油脂としては、例えばパームオレイン、パームスーパーオレイン、ハードステアリン、ソフトステアリン、パームミッドフラクション、及びこれらに対してエステル交換や水素添加を施した油脂が挙げられ、好ましくはパームスーパーオレイン、ハードステアリン、パームミッドフラクションであり、より好ましくは、パームミッドフラクション、パームスーパーオレインである。
【0072】
本発明の冷菓用のコク増強剤における油脂Fの含量は、得られる冷菓のコクや風味が低下しない範囲で任意に設定することができるが、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは6質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。その上限は好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Fの含量は好ましくは3~45質量%であり、より好ましくは6~40質量%であり、さらに好ましくは10~35質量%である。
【0073】
<(G)オリーブ油について>
本発明において、油脂Gは、本発明が適用される冷菓のコクや風味をいっそう良好なものとする観点から、特に好ましく選択される油脂である。
【0074】
本発明の冷菓用のコク増強剤における油脂Gの含量は、得られる冷菓のコクや風味を損ねない範囲で任意に設定することができるが、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、その上限は好ましくは0.6質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Gの含量は、好ましくは0.05~0.6質量%であり、より好ましくは0.1~0.6質量%であり、さらに好ましくは0.2~0.6質量%である。
【0075】
本発明に用いられる油脂Gの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは5~20質量%であり、さらに好ましくは10~15質量%である。これにより、本発明の効果を好適に得ることができる。
【0076】
なお、本発明に用いられる油脂Gのヨウ素価は好ましくは70以上であり、より好ましくは75以上であり、その上限は好ましくは99以下であり、より好ましくは96以下、又は94以下である。したがって一実施形態において、油脂Gのヨウ素価は好ましくは70~99であり、より好ましくは75~96又は75~94である。
【0077】
本発明に好ましく用いられるオリーブ油について、さらに詳述する。本発明におけるオリーブ油とは、オリーブ油以外のものを使用していない(他の種類の油脂が混入していない)油脂である。
【0078】
油脂Gとして用いられるオリーブ油は、JASによって定められている、酸価が2.0以下であるオリーブ油であってもよく、0.60以下である精製オリーブ油であってもよく、酸価が2.0以下であるオリーブ油と精製オリーブ油とを混合したものであってもよいが、好ましくは酸価が、0.6超であり2.0以下であるオリーブ油(すなわち精製処理を施していないオリーブ油)である。
【0079】
酸価とは、油脂中の遊離脂肪酸を中和するために必要な水酸化カリウム量(mg)を指した値であり、酸価の測定方法は、従前知られた方法を用いて測定することができる。例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.1(2013)」に記載の方法で測定することができる。
【0080】
なお、オリーブ油の酸価が上記範囲から逸脱している場合、例えば、オリーブ油に精製処理を施すことにより上記範囲内のものとすることができる。
【0081】
精製処理としては、例えば、脱ガム、脱酸、脱臭、脱色等の、通常食用油脂に施される精製処理が挙げられ、これらの中からいずれか1種以上を行う。なお、上記精製処理は、従前知られた方法により行うことができる。
【0082】
本発明において、油脂Gとしてオリーブ油を用いた場合に、本発明の効果がより好ましく得られる理由は定かではないが、オリーブ油中のポリフェノールやフィトステロール等の成分を含有することが、本発明の効果に好ましく寄与していると、本発明者らは推測しており、このため精製処理を施さないオリーブ油を用いることが好ましいものと考えている。
【0083】
<油脂D~Gの含量について>
本発明の冷菓用のコク増強剤における油脂D~Gの合計含量は、特に制限はなく、目的の冷菓に応じて適宜調整可能である。例えば、0質量%(すなわち、含有しない)でもよいが、冷菓を調製する際の作業性をいっそう良好なものとしつつ、コク増強剤の効果を好適に発揮させる観点から、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上又は60質量%以上であり、さらに好ましくは77質量%以上である。上限は、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。したがって、一実施形態において、油脂D~Gの合計含量は、好ましくは0~90質量%であり、より好ましくは15~90質量%であり、さらに好ましくは35~90質量%又は60~80質量%であり、さらに好ましくは77~80質量%である。
【0084】
<油脂D~G以外のその他の油脂について>
本発明の冷菓用のコク増強剤には、その他の油脂として、油脂D~G以外の油脂を含有してもよい。油脂D~G以外のその他の油脂としては、上述の油脂から選択すればよく、特に制限はないが、パーム核油、ヤシ油等の、油脂を構成する脂肪酸残基中ラウリン酸残基が35質量%以上である油脂が好ましく、パーム核油がより好ましい。
【0085】
油脂D~G以外のその他の油脂を含有する場合、その含量は特に制限はなく、適宜調整可能である。例えば、0質量%以上でもよく、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である。上限は、好ましくは90質量%以下又は、80質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。したがって、一実施形態において、油脂D~G以外のその他の油脂の含量は、好ましくは0~90質量%又は、10~80質量%であり、より好ましくは30~60質量%である。
【0086】
<冷菓用のコク増強剤の固体脂含量について>
次に本発明の冷菓用のコク増強剤における固体脂含量、SFC-25及びSFC-35について述べる。
【0087】
本発明の冷菓用のコク増強剤を用いて冷菓を製造する際に、良好な作業性を得る観点からは、本発明の冷菓用のコク増強剤のSFC-25は好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上である。上限は、好ましくは40%以下、又は30%以下であり、より好ましくは24%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。したがって、一実施形態において、SFC-25は、好ましくは1~40%、又は5~30%であり、より好ましくは5~24%であり、さらに好ましくは5~20%である。
【0088】
また、本発明の冷菓用のコク増強剤を用いて冷菓を製造した後、喫食時のコク(ないしは油性感)を改善する観点からは、本発明の冷菓用のコク増強剤のSFC-35は好ましくは12%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。下限は、0%である。したがって、一実施形態において、SFC-35は、好ましくは0~12%であり、より好ましくは0~10%であり、さらに好ましくは0~8%である。
【0089】
<固体脂含量の比SFC-25/SFC-35について>
次に本発明の冷菓用のコク増強剤における固体脂含量の比SFC-25/SFC-35について述べる。
【0090】
冷菓の食感を損ねない観点や、冷菓中に均一に分散させる観点から、本発明の冷菓用のコク増強剤におけるSFC-25/SFC-35は、好ましくは2.2~85、より好ましくは2.2~80である。
【0091】
本発明の冷菓用のコク増強剤におけるSFC-25/SFC-35の下限は好ましくは2.3以上であり、より好ましくは2.4以上であり、さらに好ましくは2.6以上である。その上限は400以下、200以下、又は100以下でもよいが、好ましくは70以下であり、より好ましくは65以下、60以下又は55以下であり、さらに好ましくは50以下、40以下又は30以下であり、さらにより好ましくは25以下、24以下、22以下又は20以下である。したがって一実施形態において、該SFC-25/SFC-35は、より好ましくは2.3~65であり、さらに好ましくは2.4~50、2.6~25である。
本発明の冷菓用のコク増強剤のSFC-25/SFC-35が2.2~80の範囲にあることで、良好なコクや風味を有する冷菓が得られやすくなり、冷菓中に均一に分散しやすくなる。また、既に製造された冷菓に対して本発明の冷菓用のコク増強剤を混練して含有させて本発明の冷菓を製造する場合の作業性が向上しやすくなる。
【0092】
<脂肪酸残基組成について>
本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は、好ましくは25質量%以下、又は15質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以下である。脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量が、上記範囲を満たすことで、得られる冷菓のコクをより感じやすくなる。
【0093】
また、本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは6.0質量%以上であり、さらに好ましくは7.0質量%以上である。その上限は好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下、30質量%以下又は25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。したがって一実施形態において、脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは5.0~45質量%であり、より好ましくは7.0~35質量%であり、さらに好ましくは7.0~20質量%である。
【0094】
脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基の含量が、上記範囲を満たすことで、得られる冷菓のコクをより感じやすくなる。
【0095】
本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は、好ましくは2~50質量%であり、より好ましくは5~45質量%であり、さらに好ましくは8~40質量%である。脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量が、上記範囲を満たすことで、本発明の効果が好適に得られる。
【0096】
本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成におけるオレイン酸残基含量は、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~40質量%であり、さらに好ましくは15~35質量%である。脂肪酸残基組成におけるオレイン酸残基含量が、上記範囲を満たすことで、本発明の効果が好適に得られる。
【0097】
他方、健康リスクが懸念されるトランス脂肪酸残基の含量は少ないほど好ましい。本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成における、トランス脂肪酸残基の含量は好ましくは5質量%未満であり、より好ましくは3質量%未満であり、さらに好ましくは2質量%未満である。
【0098】
なお、本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量の要件を以下単に「条件(i)」と記載し、リノール酸残基含量の要件を以下単に「条件(ii)」と記載する場合がある。本発明の冷菓用のコク増強剤は、脂肪酸残基組成が次の条件(i)及び(ii)のいずれか1つ以上を満たすことが好ましい。
【0099】
<油脂の含量について>
本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂の量は、本発明の効果を損ねない範囲で任意に設定することが出来るが、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、その上限は100質量%である。本発明の冷菓用のコク増強剤に含有しうる油脂の種類は上述の通りであるが、好ましくは油脂A~Gのうちから選択される油脂のみからなることが好ましい。
【0100】
<その他原材料>
本発明の冷菓用のコク増強剤は、上記の油脂A~Cから選択された一つ以上の油脂と、好ましくはさらに上記油脂D~Gから選択された一つ以上の油脂とからなってよい。すなわち油脂のみからなってよいが、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、水やその他の原材料を含有してもよい。
【0101】
本発明の冷菓用のコク増強剤が水を含有する場合、前記水としては、例えば、後述するミックス液に含有し得る水と同様のものが挙げられる。冷菓用のコク増強剤中の水の含量は、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは1~15質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%である。後述するその他の原材料が水分を含む場合には、その水分も含めた水の含量が、上記範囲にあることが好ましい。
【0102】
本発明の冷菓用のコク増強剤に含有しうるその他の原材料としては、例えば、糖類、乳化剤、澱粉類、デキストリン、食物繊維、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、脱脂粉乳・カゼイン・ホエイパウダー・脱脂濃縮乳・蛋白質濃縮ホエイ等の乳や乳製品、ステビア、アスパルテーム等の高甘味度甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、安定剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、全卵・卵黄・酵素処理卵黄・卵白・卵蛋白質等の卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、酵母エキス、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、コーヒー、果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びこれらの加工品、香辛料、カカオマス、チョコレート、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0103】
上記その他の原材料は、本発明の目的を損なわない範囲で任意に含有させ、使用してよい。その他の原材料の含量は、本発明の冷菓用のコク増強剤中、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0104】
その他の原材料において、乳化剤としては、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウムが挙げられる。これらの乳化剤は一種単独で用いてもよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
乳化剤を含有する場合、その含量は、冷菓の風味発現やコクを損ねない観点から、本発明の冷菓用のコク増強剤中、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0106】
<本発明の冷菓用のコク増強剤の連続相について>
本発明の冷菓用のコク増強剤は、油脂を含有する食品、例えばマーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、流動ショートニング、流動マーガリン、粉末油脂、ホイップクリーム等の任意形態をとることができる。
【0107】
本発明の冷菓用のコク増強剤の連続相は、油相であってもよく、水相であってもよい。本発明の冷菓用のコク増強剤の効果を十分に得るためには、水相成分が少ないことが好ましいことから、連続相は油相であることが好ましい。
【0108】
本発明においては、とりわけショートニングや流動ショートニング等の水相を含まず、連続相を油相とする冷菓用のコク増強剤の形態をとることが、比較的少ない量で所望の効果が得られるため好ましい。
【0109】
本発明の冷菓用のコク増強剤が乳化物である場合、その乳化形態は特に問われず、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。本発明の冷菓用のコク増強剤は、油中水型乳化物、及び、油中水中油型乳化物のような連続相が油相である多重乳化物であることが好ましく、簡便に製造できる点から、とりわけ油中水型乳化物であることが好ましい。本発明の冷菓用のコク増強剤が油中水中油型乳化物の形態をとる場合には、上記の油脂A~Cは外油相に含有されてもよく、内油相に含有されてもよい。
【0110】
なお、本発明の冷菓用のコク増強剤は、とりわけ本発明の冷菓を製造する際の作業性を向上する観点から、可塑性を有していてもよい。冷菓用のコク増強剤が可塑性を有することで、既に製造された冷菓に対して本発明の冷菓用のコク増強剤を混練して含有させることにより、本発明の冷菓を製造する場合において、冷菓用のコク増強剤が均一に分散しやすくなるため、作業時間を短くすることができるという利点がある。
【0111】
[本発明の冷菓用のコク増強剤の製造方法]
本発明の冷菓用のコク増強剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、上記油脂A~Cのうちいずれか1つ以上の油脂を含有する冷菓用のコク増強剤を製造し得る限りにおいて公知の方法を採用できる。
【0112】
例えば、本発明の冷菓用のコク増強剤が可塑性を有する油脂組成物(以下単に可塑性油脂組成物と記載)の形態をとる場合は、可塑性油脂組成物の製造の過程で、油相中に上記油脂A~Cのいずれか1つ以上を含有させ、急冷可塑化することで可塑性油脂組成物を製造することができる。
【0113】
本発明の冷菓用のコク増強剤が水相を含有する場合には、油相に上記油脂A~Cのいずれか1つ以上を混合・分散させてから、水相と共に急冷可塑化することにより、可塑性油脂組成物を製造することができる。
【0114】
以下、本発明の好ましい態様に基づき、連続相が油相の、可塑性油脂組成物であるショートニングである、冷菓用のコク増強剤の製造方法について述べる。
【0115】
連続相が油相の、可塑性油脂組成物であるショートニングである冷菓用のコク増強剤を製造するには、上記油脂A~Cのいずれか1つ以上を好ましくは上記の含量の範囲内となるような量で、必要に応じて他の食用油脂、好ましくは油脂D~Gのいずれか1つ以上と混合して、連続相となる油相を作製する。このとき、必要に応じて、油溶性のその他の原材料を油相に混合してよい。
【0116】
上記で得られた油相は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でもよく、プレート式熱交換器や掻き取り式熱交換器を用いた連続方式でもよい。また殺菌温度は、好ましくは80~100℃であり、より好ましくは80~95℃であり、さらに好ましくは80~90℃である。殺菌時間は、例えば掻き取り式熱交換器を用いて85℃で連続殺菌する場合、好ましくは30~300秒間であり、より好ましくは40~285秒間であり、さらに好ましくは50~260秒間である。その後、必要に応じ、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行う。予備冷却の温度は、好ましくは40~60℃であり、より好ましくは40~55℃であり、さらに好ましくは40~50℃とする。
【0117】
次に、必要に応じて、予備冷却した油相を冷却する。好ましくは急冷可塑化を行う。この急冷可塑化は、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター及びケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート式熱交換器、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組み合わせを用いて行うことができる。急冷を行うことにより、油相が可塑性を有する油脂組成物となる。急冷可塑化の際に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0118】
予備冷却の終点温度は、特に限定されず、20℃以下となるまで冷却すればよく、好ましくは15℃以下であり、より好ましくは12℃以下である。冷却速度は、前記終点温度に冷却できればよく、特に限定されないが、通常、5~25℃/分であり、急冷可塑化の場合、好ましくは15~25℃/分である。
【0119】
なお、本発明の冷菓用のコク増強剤の製造工程において、窒素、空気等を含気させてもよく、含気させなくてもよい。
【0120】
[本発明の冷菓用ミックス液]
次に、本発明の冷菓用ミックス液(以下、「本発明のミックス液」ともいう。)について説明する。
【0121】
本発明のミックス液は、本発明の冷菓用のコク増強剤を含有する。その他、本発明の冷菓用のコク増強剤以外の油脂、水、その他原料を含有し、必要に応じて混練しながら、凍結させることで冷菓を得ることができる混合物である。
【0122】
本発明のミックス液に含有される、本発明の冷菓用のコク増強剤の量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上である。上限は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下、又は0.8質量%以下である。したがって、一実施形態において、本発明のミックス液に含有される、本発明の冷菓用のコク増強剤の量は、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.2~3質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.5質量%、又は0.3~0.8質量%である。本発明の冷菓用のコク増強剤の量が上記数値範囲を満たすことにより、本発明の効果を好適に発揮することができる。
【0123】
次に本発明のミックス液に含有される油脂について述べる。本発明のミックス液には、本発明の冷菓用のコク増強剤以外に、好ましくは油脂が含有される。
【0124】
本発明のミックス液に含有される、油脂としては特に制限がないが、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、コーン油、オリーブ油、落花生油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、紅花油、亜麻仁油、グレープシードオイル、チアシードオイル、マカダミアナッツ油、アーモンド油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、マンゴー脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、ココアバター、シアバター等の植物油脂や、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することができる。
【0125】
本発明においては、これらの油脂を、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0126】
本発明のミックス液を用いて製造した冷菓の口どけを良好にする点や、良好なコクを有する冷菓が得られやすい点から、ヤシ油、パーム核油、パーム油、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することが好ましい。これらの中でも、油脂を構成する脂肪酸残基中ラウリン酸残基が35質量%以上である油脂、例えば、ヤシ油やパーム核油、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することがさらに好ましく、ヤシ油を使用することがさらにより好ましい。
【0127】
ラウリン酸残基が35質量%以上である油脂を使用する場合、その使用量の下限は、本発明のミックス液の製造に用いられるその他の油脂中好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上である。その上限は、本発明のミックス液の製造に用いられる油脂中(本発明の冷菓用のコク増強剤を除く)、100質量%である。
【0128】
なお、本発明のミックス液から製造された冷菓のコクを向上させつつも、油脂由来の風味が得られる冷菓において強く発現することを防ぐ観点から、本発明のミックス液に含有される、本発明の冷菓用のコク増強剤以外の油脂として、ココアバターやシアバター、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を含有させないことが好ましい。
【0129】
ココアバターやシアバター、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を本発明の冷菓用のコク増強剤以外の油脂として、含有させる場合、その量は、冷菓のコクを向上させつつも、油脂由来の風味が冷菓において強く発現することを防ぐ点から、本発明のミックス液の油脂の含量中、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0130】
本発明のミックス液の油脂の含量は、本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂分及び後述のその他原料中の油脂の量も含めて、ミックス液中好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは1~17質量%である。油脂の含量が上記の範囲内であると、ミックス液の乳化が安定しやすく、また、風味が良好なものとなる。
【0131】
本発明のミックス液に用いられる水は、通常のミックス液を製造する際に用いられる水を使用することができる。例えば、水道水やミネラルウォーターが挙げられる。上記本発明のミックス液の水の含量には、後述のその他原料に含まれる水分も含み、その一部又は全部がその他原料に含まれる水分から構成されていてもよい。
【0132】
本発明のミックス液の水の含量は、好ましくは50~85質量%であり、より好ましくは55~80質量%である。
【0133】
本発明のミックス液に用いられる、本発明の冷菓用のコク増強剤、本発明の冷菓用のコク増強剤以外の油脂、水以外のその他原料は、特に制限されず、通常のミックス液を製造する際に用いられる原料を用いることができる。
【0134】
例えば、乳や乳製品、糖類、高甘味度甘味料、果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びそれらの加工品、卵類及びその加工品、乳化剤、酸化防止剤、安定剤、着色料、カラメル、チョコレート、ココアパウダー、香料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、食品添加物、その他食品素材が挙げられる。これらの中から1種又は2種以上を用いることができる。
【0135】
上記乳は、例えば、牛乳、ヤギや羊等の動物から得られる動物乳、脱脂乳が挙げられる。上記乳製品は、例えば、脱脂粉乳、全脂粉乳、発酵乳、生クリーム、コンパウンドクリーム、バター、チーズ、ヨーグルト、練乳、加糖練乳、濃縮乳、ホエイ(乳清)、ホエイパウダー、乳清ミネラル、乳脂肪球被膜が挙げられる。そのほか、上述の、本発明の冷菓用のコク増強剤における、乳や乳製品としてのその他原料を用いてもよい。
【0136】
本発明の冷菓用のコク増強剤は、冷菓中の乳や乳製品の量が少なくても、冷菓のコクを向上させることができるという特徴を有している。そのため、本発明の冷菓に用いられる、本発明のミックス液における乳や乳製品の含有量は、乳固形分として15質量%未満であってもよく、12質量%以下であってもよい。
【0137】
また、乳脂肪分としての乳製品の含量は、8質量%未満であってもよく、6質量%以下であってもよい。
【0138】
上記糖類は、例えば、上白糖、ショ糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、グラニュー糖、黒糖、麦芽糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、還元澱粉糖化物、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の糖類、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール等の糖アルコールが挙げられる。本発明のミックス液の糖類の含量には、他のその他原料に含まれる糖類も含まれる。
【0139】
本発明のミックス液の糖類の含量は、本発明のミックス液中、固形分で好ましくは5~30質量%であり、より好ましくは10~25質量%である。
【0140】
上記高甘味度甘味料は、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリンが挙げられる。
【0141】
上記果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びそれらの加工品は、例えば、果物や野菜の果実、果肉、果汁、大豆やえんどう豆等の豆類、小麦や大麦、米等の穀物類、アーモンドやマカダミアナッツ、ココナッツ等の種実類、豆乳やアーモンドミルク、オーツミルク、ココナッツミルク等の豆類、穀物類、種実類由来の植物性ミルク、及びこれらを加工して製造されたジャムやペースト、粉末、乾燥物が挙げられる。
【0142】
なお、本発明のミックス液中の乳固形分が3質量%未満である場合には、本発明のミックス液は、果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びこれらの加工品を含有することが好ましく、種実類、豆乳やアーモンドミルク、オーツミルク、ココナッツミルク等の豆類、穀物類、種実類由来の植物性ミルク、及びこれらを加工して製造されたジャムやペースト、粉末、乾燥物を含有することがより好ましく、良好な風味と良好な作業性を両立する観点から、豆類・穀物類・種実類由来の植物性ミルク又はペーストを含有することがさらに好ましく、植物性ミルクとして豆乳を含有することがさらにより好ましい。
【0143】
本発明のミックス液中の乳固形分が3質量%未満である場合における、本発明のミックス液中の果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びこれらの加工品の含量は、本発明のミックス液を用いて製造される冷菓の食感やコク、甘味等の風味を良好なものにする観点から、固形分として、好ましくは1~15質量%であり、より好ましくは1~12質量%であり、さらに好ましくは1~9質量%である。
また、本発明のミックス液が植物性ミルクを含む場合、その含量は、固形分としての上記含量を満たしていればよいが、例えば、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは30~70質量%であり、さらに好ましくは45~55質量%である。
【0144】
上記卵類及びその加工品は、例えば、全卵、卵黄、卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白等、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄が挙げられる。その他、上述の本発明の冷菓用のコク増強剤における、卵類及びその加工品としてのその他原料を用いてもよい。
【0145】
上記乳化剤は、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等の有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、蔗糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、レシチン、リゾレシチン、乳脂肪球皮膜が挙げられる。
【0146】
本発明のミックス液における乳化剤の含量は、ミックス液中0.05~0.5質量%であることが好ましい。
【0147】
上記酸化防止剤は、例えば、トコフェロールや茶抽出物が挙げられる。
【0148】
上記安定剤は、例えば、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、キサンタンガム、グルコマンナン、タラガム、グアーガム、ジェランガム、アラビアガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム等の増粘多糖類や、澱粉類及び加工澱粉類が挙げられる。
本発明のミックス液が安定剤を含有する場合、その含量は、好ましくは0.1~2.0質量%であり、より好ましくは0.3~1.5質量%である。
【0149】
上記着色料は、例えば、β-カロチン、カラメル、紅麹色素が挙げられる。
【0150】
上記風味材料は、例えば、チョコレートやココアパウダー、カカオマス、抹茶・紅茶・緑茶等の茶葉やその粉末、はちみつ、甘酒や洋酒等の、風味成分を有する材料が挙げられる。
【0151】
上記調味料は、例えば、塩化カリウムや塩化ナトリウム、食塩、香辛料が挙げられる。
【0152】
本発明の冷菓用のコク増強剤、本発明の冷菓用のコク増強剤以外の油脂、水以外のその他原料の含量は、本発明のミックス液中、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは15~77質量%である。
【0153】
<本発明のミックス液の連続相について>
本発明のミックス液は油相を連続相とするものであってもよく、水相を連続相とするものであってもよいが、良好な口溶けを有する冷菓を得る観点から、本発明のミックス液は連続相が水相であることが好ましく、本発明のミックス液が水中油型乳化物であることが好ましい。なお、本発明において、水中油型乳化物には、水中油中水型などの多重乳化型を含むものとする。
【0154】
[本発明のミックス液の製造方法について]
次に、本発明のミックス液の製造方法に関し、好ましい態様の一つである、水中油型乳化物であるミックス液の製造方法について詳述する。
【0155】
本発明の冷菓用のコク増強剤を含有させる工程は、製造のどの段階でもよいが、後述する水相と油相とを混合して水中油型の予備乳化物を得るより前であることが本発明の効果を高く得られる点で好ましい。その際には、油相を得る段階で本発明の冷菓用のコク増強剤とその他油脂とを混合することが最も好ましい。
【0156】
本発明のミックス液の製造方法は、本発明の冷菓用のコク増強剤を含有させる以外は、任意の工程をとることもできるが、好ましくは以下のとおり製造される。
【0157】
本発明の冷菓用のコク増強剤とその他油脂を加温(好ましくは50~75℃)して融解させ、混合し、ここに必要に応じて油溶性のその他原料を加えて撹拌し、これらを分散・溶解させた油相を得る。
【0158】
次に、加温した水(好ましくは50~75℃)に、水溶性のその他原料を加えて撹拌し、これらを分散・溶解させた水相を得る。そして、水相に油相を加え、混合、撹拌することによって乳化させ、水中油型の予備乳化物を得る。
【0159】
次いで、得られた上記予備乳化物を、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により均質化する。均質化圧力は特に制限がないが、0~200MPaであることが好ましい。2段式ホモジナイザーを用いて均質化を行う場合は、例えば、1段目を3~150MPa、2段目を15~200MPaで行うことが好ましい。また、均質化後に、必要に応じてその他原料をさらに追加して混合してもよい。
【0160】
上記予備乳化物を均質化後、必要によりインジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌又は加熱殺菌処理を施してもよく、直火等の加熱調理により加熱殺菌してもよい。さらに、加熱殺菌後に必要に応じて再度均質化してもよい。
【0161】
加熱殺菌の条件は、殺菌の効果が得られる条件の範囲内であれば特に制限がないが、60~100℃で5秒~60分間加熱殺菌することが好ましい。
【0162】
上記予備乳化物を均質化後、好ましくは0~10℃まで冷却する。冷却は、徐冷又は急冷のいずれでもよいが、急冷により行うことが好ましい。ここで急冷とは、-0.5℃/分以上、好ましくは-1.0℃/分以上の冷却速度で冷却を行うことを指す。
【0163】
冷却後、エージングを行う。エージングの温度は、0~10℃であることが好ましい。また、エージングを行う時間は特に制限されないが、好ましくは1~48時間であり、より好ましくは5~36時間である。また、必要に応じてエージング後に、0~10℃で本発明のミックス液を保存することができる。
【0164】
なお、上記の製造方法によって得られた本発明のミックス液と、その他の冷菓用のミックス液を混合したものを用いて、本発明の冷菓を製造することもできる。
【0165】
[本発明の冷菓]
次に、本発明の冷菓について述べる。
【0166】
本発明の冷菓は、本発明の冷菓用のコク増強剤を含有するものである。
【0167】
なお、本発明における冷菓は、冷凍状態で喫食される菓子の総称であり、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(いわゆる乳等省令)において、冷菓はアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓に分類されるものである。
【0168】
本発明の冷菓における本発明の冷菓用のコク増強剤の含量は、良好なコクを有する冷菓を得る観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上である。上限は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下である。したがって、一実施形態において、冷菓用のコク増強剤の含量は、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.2~3質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.5質量%である。
【0169】
本発明の冷菓の製造に用いられる、本発明の冷菓用のコク増強剤以外のその他の原料は、特に制限されず、通常の冷菓を製造する際に用いられる原料を用いることができる。
【0170】
例えば、水、食用油脂、乳や乳製品、糖類、高甘味度甘味料、果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びそれらの加工品、卵類及びその加工品、乳化剤、酸化防止剤、安定剤、着色料、果汁、果実、ナッツペースト、カラメル、チョコレート、ココアパウダー、焼菓子の破砕物、香料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、食品添加物、その他食品素材が挙げられる。これらの中から1種又は2種以上を用いることができる。その他、より具体的には、上述の本発明の冷菓用のコク増強剤、及び本発明のミックス液におけるその他原料として例示されるものを用いてもよい。
【0171】
本発明の冷菓が乳や乳製品を含有する場合には、その含量は、上述の冷菓の種類によって異なり、目的に応じて適宜調整可能である。なお、乳等省令においては、アイスクリームは乳固形分が15質量%以上で、そのうち乳脂肪分が8質量%以上であるものを指し、アイスミルクは乳固形分が10質量%以上で、そのうち乳脂肪分が3質量%以上であるものを指し、ラクトアイスは乳固形分が3質量%以上であるものを指す。
【0172】
本発明の冷菓は、本発明の冷菓用のコク増強剤により、冷菓中の乳製品の量が少なくても、良好なコクを有するという特徴を有しているため、本発明の冷菓における乳固形分の含量は15質量%未満であってもよく、12質量%以下であってもよい。
【0173】
また、本発明の冷菓の乳脂肪分の含量においても、8質量%未満であってもよく、6質量%以下であってもよい。
【0174】
本発明の冷菓が食用油脂を含有する場合には、冷菓中に含有されるココアバターの総量(本発明のコク増強剤が油脂Aを含む場合、油脂Aと、その他の油脂としてのココアバターの総量)は好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0175】
また、本発明の冷菓の乳固形分が3質量%未満である場合、例えば乳等省令における氷菓に該当するような場合には、本発明の冷菓を良好なコクを有するものとする観点から、果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びこれらの加工品を含有することが好ましく、種実類、豆乳やアーモンドミルク、オーツミルク、ココナッツミルク等の豆類、穀物類、種実類由来の植物性ミルク、及びこれらを加工して製造されたジャムやペースト、粉末、乾燥物を含有することがより好ましく、良好な風味と良好な作業性を両立する観点から、豆類・穀物類・種実類由来の植物性ミルク又はペーストを含有することがさらに好ましく、植物性ミルクとして豆乳を含有することがさらにより好ましい。
【0176】
本発明の冷菓の乳固形分が3質量%未満である場合における、本発明の冷菓の果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びこれらの加工品の含量は、本発明の冷菓の食感やコク、風味を良好なものにする観点から、固形分として、好ましくは1~15質量%であり、より好ましくは1~12質量%であり、さらに好ましくは1~9質量%である。
また、本発明のミックス液が植物性ミルクを含む場合、その含量は、固形分としての上記含量を満たしていればよいが、例えば、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは30~70質量%であり、さらに好ましくは45~55質量%である。
【0177】
上記、その他の原料の含量は特に限定されず、目的の冷菓、又はその製造方法に応じて適宜調整可能である。
本発明のコク増強剤に、上記その他の原料を加えて本発明の冷菓を製造する場合、その他の原料の含量は、本発明の冷菓中、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは15~77質量%である。
【0178】
なお、本発明のミックス液を用いる場合においては、本発明のミックス液に上記、本発明の冷菓用のコク増強剤以外の原料を加えて、本発明の冷菓を製造することもできる。追加される原料は、本発明のミックス液に加えても良く、凍結して冷菓とした後に加えてもよい。この追加される原料の使用量は、本発明のミックス液100質量部に対し、好ましくは25質量部以下であり、より好ましくは15質量部以下である。
【0179】
本発明の冷菓の油脂分は、本発明の冷菓用のコク増強剤に含有される油脂分及び上述のその他原料中の油脂の量も含めて、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは1~15質量%である。本発明の冷菓の水分は50~85質量%であり、より好ましくは55~80質量%である。
【0180】
なお、本発明の冷菓に用いられる上記原料の条件は、本発明のミックス液の条件と同様である。
【0181】
[本発明の冷菓の製造方法について]
本発明の冷菓を製造する好ましい一様態を以下に示す。
【0182】
本発明の冷菓は、本発明の冷菓用のコク増強剤を、本発明の冷菓の製造から喫食まで任意の時点で添加・混合することで製造することが出来る。
【0183】
例えば、(1)冷菓の製造時に本発明の冷菓用のコク増強剤を添加・混合して含有させることにより本発明の冷菓を得てもよく、(2)既に製造された冷菓に対して本発明の冷菓用のコク増強剤を混練して含有させることにより本発明の冷菓を得てもよく、(3)本発明の冷菓用のコク増強剤を必要に応じて加熱して液状としたものを既に製造された冷菓に対してかけることにより本発明の冷菓を得てもよい。
【0184】
本発明の冷菓は、均一にコクが感じられるような冷菓とする観点から、上記(1)の手法により得られる冷菓であることが好ましい。上記(1)の手法としては、原料ミックスとして本発明のミックス液を用いて製造する方法、若しくは、上述の本発明の冷菓用のコク増強剤以外の原料を用いて調製された原料ミックス、又は該原料ミックスを用いて製造された冷菓に対し、本発明の冷菓用のコク増強剤を添加して製造する方法が好ましく、これらのうち、前者の方法がより好ましい。
【0185】
本発明の冷菓は、本発明の冷菓用のコク増強剤を含む水中油型乳化物、好ましくは本発明のミックス液を、フリーザーを用いて撹拌しながら冷却し、好ましくは含気させながら凍結させることで製造することができる。
【0186】
上記フリーザーとしては、冷菓を製造するためのものであれば特に制限はなく、任意のものを用いることができる。
【0187】
本発明の冷菓を製造する際の冷却温度は、好ましくは-10~-30℃である。また、本発明の冷菓を含気させながら凍結させて製造する際、その凍結温度は、好ましくは-10~-30℃である。
【0188】
また、本発明の冷菓のオーバーランは、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60~150%又は70~150%である。冷菓のオーバーランとは、冷菓中の含気量の指標であり、オーバーランの値は、原料ミックスの体積に対する含有空気体積の百分率であり、下記の計算式によりオーバーランを求めることができる。
オーバーラン(%)=((体積)×(比重)/(重量)-1)×100
【0189】
例えば、オーバーラン100%の冷菓は、原料ミックスと同体積の空気が含まれていることを意味する。
【0190】
冷菓のオーバーランは、冷菓の食感や口中溶解性を左右する数値であり、一般的にオーバーランが低いと口中溶解性が低く重たい口当たりとなり、オーバーランが高いと口中溶解性が高く軽い口当たりとなる。冷菓のオーバーランが上記範囲であると、口当たりが良好でありながら、コクが良好な冷菓となりやすいため好ましい。
【0191】
なお、上記のようにして得られた本発明の冷菓に対して、例えばチョコレートでコーティングしたりする等の追加の加工を行ってもよい。
【実施例0192】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0193】
実施例及び比較例において冷菓用のコク増強剤の製造・検討に使用した油脂の詳細は、次のとおりである。なお、本検討に使用した油脂のうち、コーン油、ヤシ油、及びパーム核油(PKO)はそれぞれ、上記油脂A~Fのいずれにも該当しないその他の油脂である。
【0194】
・ココアバター:脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は37.4質量%、オレイン酸残基含量は25.4質量%、ラウリン酸残基含量は未検出(N.D.)、リノール酸残基含量は0.7質量%であり、ヨウ素価は36である。またSFC-25は35.0%であり、SFC-35は0.1%である。本油脂は上記「油脂A」に該当する。
・シアオレイン:脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は27.9質量%、オレイン酸残基含量は15.8質量%、ラウリン酸残基含量は0.5質量%、リノール酸残基含量は9.1質量%であり、ヨウ素価は66である。またSFC-25は1.9%であり、SFC-35は0.3%である。本油脂はシアバターの分別軟部油であり、上記「油脂C」に該当する。
・シアステアリン:脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は59.8質量%、オレイン酸残基含量は33.7質量%、ラウリン酸残基含量はN.D.、リノール酸残基含量は2.4質量%であり、ヨウ素価は37である。またSFC-25は70.7%であり、SFC-35は6.4%である。本油脂はシアバターの分別硬部油であり、上記「油脂C」に該当する。
・綿実油:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量はN.D.、リノール酸残基含量は57.9質量%であり、ヨウ素価が111であり、不けん化物の含量が1.0質量%である。本油脂は上記「油脂D」に該当する。
・パーム油:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は0.3質量%、リノール酸残基含量は8.2質量%であり、ヨウ素価が52である。本油脂は、上記「油脂E」に該当する。
・パーム中融点部:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は0.3質量%、リノール酸残基含量は3.3質量%であり、ヨウ素価が34である。本油脂は上記「油脂F」に該当する。
・パームスーパーオレイン:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は0.3質量%、リノール酸残基含量は8.2質量%であり、ヨウ素価が64である。本油脂は上記「油脂F」に該当する。
・パームステアリン:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は0.4質量%、リノール酸残基含量は5.0質量%であり、ヨウ素価が33である。本油脂は上記「油脂F」に該当する。
・オリーブ油:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量はN.D.、リノール酸残基含量は13.0質量%であり、ヨウ素価が94、酸価1.0である。本油脂は上記「油脂G」に該当する。
【0195】
<検討1:冷菓用のコク増強剤の組成について>
<実施例1-1~1-8、比較例1-1~1-3の冷菓用のコク増強剤の製造方法>
表1の配合にしたがって、各油脂を65℃で加熱溶解後に混合し、急冷可塑化(冷却速度20℃/分以上、終点温度10℃)させ、実施例1-1~1-8の冷菓用のコク増強剤(連続相が油相である)、及び比較例1-1~1-3の冷菓用のコク増強剤を製造した。
【0196】
なお、以下、実施例1-1の冷菓用のコク増強剤を「ex-1-1」と記載し、比較例1の冷菓用のコク増強剤を「cex-1-1」と記載する。その他の実施例及び比較例も同様である。
【0197】
【表1】
【0198】
<冷菓用ミックス液の製造>
表2の配合にしたがって、以下の手順で冷菓用ミックスを製造した。
【0199】
まず、ヤシ油、冷菓用のコク増強剤ex-1-1~ex-1-8、冷菓用のコク増強剤cex-1-1~cex-1-3を55℃に加温して溶解させて混合し、混合油脂を得た。ここに乳化剤(理研ビタミン株式会社製「エマルジーMIF-20」)を加えてさらに撹拌し、分散・溶解させて油相を得た。
【0200】
次に、水を55℃に加温し、グラニュー糖、水あめ(加藤化学株式会社製「マルトップ75」)、脱脂粉乳、及び冷菓用安定剤(住友ファーマフード&ケミカル株式会社製「アイスターCW」)を加えて撹拌し、分散・溶解させて水相を得た。
【0201】
水相に油相を加えて撹拌し、混合し、乳化させて予備乳化物を得た後に、均質化し、加熱滅菌し、急冷し、24時間4℃でエージングして、冷菓用ミックス液ex-1-1~ex-1-8、冷菓用ミックス液cex-1-1~cex-1-3を得た。
なお、冷菓用のコク増強剤を用いない他は同様に製造された冷菓用ミックス液を、後述する風味評価のコントロールとして設定した。
【0202】
【表2】
【0203】
<冷菓用ミックス液の風味評価>
4℃で保管していた、上記の本発明の冷菓用ミックス液を12人のパネラーが試飲し、コントロールと比較して「コク」及び「乳風味」の2項目について風味評価した。評価は下記の基準に沿って採点し、その合計点を評価結果とした。なお、事前にパネラーの評価基準はすり合わせを行っている。
【0204】
得られた評点の合計を、54~60点:+++、44~53点:++、36~43点:+、30~35:±、18~29点:-、0~17点:--として表3に表記した。
コクについて、「+」以上の評価を得たものを合格品とした。
【0205】
<<評価基準:コク>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、又はコントロールと比較して弱い。
【0206】
<<評価基準:乳風味>>
5点:コントロールと比較して、非常に向上している。
3点:コントロールと比較して、向上している。
1点:コントロールと比較して、やや向上している。
0点:コントロールと同等である、又はコントロールと比較して弱い。
【0207】
【表3】
【0208】
評価の結果、油脂A~Cのいずれか一つ以上を含有する、冷菓用のコク増強剤を用いて製造された冷菓用ミックス液は、コントロールと比較してコクが増強していることが確認された。
【0209】
一方で、ex-1-1の結果から分かる通り、コクを増強するものであっても、冷菓用のコク増強剤の配合によっては、目的とする風味よりも油脂由来の風味を強く呈する場合があることが知見された。
とりわけex-1-1では、冷菓の乳風味が向上しつつも、油脂A由来のカカオ様の風味がより強く感じられた。
また、ex-1-3~1-7の結果から分かる通り、ex-1-1が含有する油脂Aであっても、油脂Cとの配合によっては、冷菓用のコク増強剤が、冷菓の乳風味を良好に呈することが知見された。
【0210】
<冷菓の製造>
冷菓用ミックス液ex-1-1、ex-1-3、ex-1-6、ex-1-8、cex-1-3、及びコントロールの冷菓用ミックス液を用いて、フリーザー(カルピジャーニ社、「ソフトフリーザー191BAR/PSP」)を用いて撹拌しながら-20℃で凍結し、オーバーランが70%の冷菓を製造した。
この冷菓を、冷菓用ミックス液と同じ評価基準で評価した結果を(表4)に示す。
【0211】
【表4】
【0212】
<検討2:冷菓用のコク増強剤の含量について>
検討1の結果から、とりわけ評価が良好であったex-1-8の冷菓用のコク増強剤を用いて、表5の配合に基づいて冷菓用ミックス液を調製し、該冷菓用ミックス液を用いて冷菓を製造した。
【0213】
なお、冷菓用ミックス液の調製及び冷菓の製造の方法は検討1と同様である。また、使用する原料は検討1で使用したものと同じものである。製造された冷菓ex-2-1~ex-2-3を、検討1と同様に風味評価を行い、その結果を表6に記載した。
【0214】
【表5】
【0215】
【表6】
【0216】
<検討3:冷菓中の乳原料の量について>
検討2の結果から、とりわけ評価が良好であったex-2-2の冷菓用ミックス液の配合を基に、表7の配合に基づいて冷菓用ミックス液を調製し、該冷菓用ミックス液を用いて冷菓を製造した。
【0217】
なお、冷菓用ミックス液の調製及び冷菓の製造の方法は検討1及び検討2と同様である。また、使用する原料は検討1及び検討2で使用したものと同じものである。
【0218】
製造された冷菓は、評価対象の冷菓を喫食したのち、Cont.3-1、Cont.3-2、Cont.3-3を順に喫食し、評価対象の冷菓の「コク」及び「乳風味」の相対的な強度について、各コントロールと比較しながら評価を行った。評価した結果は、以下の評価基準に則り、表8に示した。
【0219】
<<評価基準:コクの相対評価>>
A:Cont.3-1と同等以上。
B:Cont.3-1より弱いが、Cont.3-2と同等以上である。
C:Cont.3-2より弱いが、Cont.3-3と同等以上である。
D:Cont.3-3より弱い。
【0220】
<<評価基準:乳風味の相対評価>>
A:Cont.3-1と同等以上。
B:Cont.3-1より弱いが、Cont.3-2と同等以上である。
C:Cont.3-2より弱いが、Cont.3-3と同等以上である。
D:Cont.3-3より弱い。
【0221】
【表7】
【0222】
【表8】
【0223】
この検討から、本発明の冷菓用のコク増強剤を含有することにより、本発明の冷菓は含有される乳原料の量以上のコクや乳風味を有するものとなることが知見された。具体的には、同等以上のコクを有する冷菓を製造する観点から、本発明の冷菓用のコク増強剤を含有させることにより、概ね25質量%程度、乳原料を低減させることが可能であることが知見された。
【0224】
<検討4:植物性原料を用いた冷菓について>
検討4では、乳原料を使用せず、植物性原料を用いて、冷菓用ミックス液及び冷菓を製造し評価を行った。具体的には、検討1において、とりわけ評価が良好であったex-1-8の冷菓用のコク増強剤を用いて、表9の配合に基づいて冷菓用ミックス液を調製し、該冷菓用ミックス液を用いて冷菓を製造した。
【0225】
検討4で使用した冷菓用ミックス液の調製は以下の通り行った。
まず、70℃の水に豆乳(キッコーマン(株)製「無調整豆乳」)、グラニュー糖、液糖(加藤化学(株)製「ハイマルトップ75」)、塩、を加えてよく撹拌したのち、この水溶液に対して、均質化を行って水相を得た。次に、加熱溶解された70℃のヤシ油に、ex-1-8のコク増強剤、乳化剤(理研ビタミン(株)製「エマルジーMIF-20」)を加えてよく撹拌して、これを油相とした。
【0226】
水相に油相を加えて撹拌し、混合し、乳化させて予備乳化物を得た後に、均質化し、加熱滅菌し、急冷し、24時間4℃でエージングして、冷菓用ミックス液ex-4-1~ex-4-3を調製した。なお、使用する原料は、特記したもの以外は検討1~3で使用したものと同じものである。
【0227】
フリーザーを用いて撹拌しながら-20℃で凍結し、オーバーランが70%の冷菓を製造した。製造された冷菓は、12人のパネラーで喫食し、コントロールと比較して「コク」及び「甘味」の2項目について風味評価した。評価は下記の基準に沿って採点し、その合計点を評価結果とした。なお、事前にパネラーの評価基準はすり合わせを行っている。
【0228】
得られた評点の合計を、54~60点:+++、44~53点:++、36~43点:+、30~35:±、18~29点:-、0~17点:--として表10に表記した。コクについて、「+」以上の評価を得たものを合格品とした。
【0229】
<<評価基準:コク>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、又はコントロールと比較して弱い。
【0230】
<<評価基準:甘味>>
5点:コントロールと比較して、非常に向上している。
3点:コントロールと比較して、向上している。
1点:コントロールと比較して、やや向上している。
0点:コントロールと同等である、又はコントロールと比較して弱い。
【0231】
【表9】
【0232】
【表10】
【0233】
上記の実施例においては、油脂A(ココアバター)及び/又は油脂C(シアバターの分別油)を含むコク味増強用油脂組成物について検討した結果を示したが、油脂B(シアバター)を含むコク味増強用油脂組成物も本発明の課題を達成することを確認している。すなわち、油脂Bを含むコク味増強用油脂組成物も、含有される乳原料を低減した場合であってもコクを有する冷菓を提供することができる。また、乳原料の含量を低減しない場合には、強いコクを有する冷菓を提供することができる。