(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115909
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用のコク増強剤
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240820BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20240820BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20240820BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/16
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021811
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 喬比古
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平松 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】井上 慶太
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DG01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DH02
4B026DH05
4B026DP01
4B026DP03
4B032DB13
4B032DB21
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK18
4B032DK32
4B032DK33
4B032DK47
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】本発明は、含有される乳原料や卵原料の量を低減した場合であってもコクを有するベーカリー食品を提供することができる。また、乳原料や卵原料の含量を低減しない場合には、より強いコクを有するベーカリー食品を提供することを課題とする。
【解決手段】次の(A)及び(B)の油脂を含有し、且つ条件(I)及び条件(II)を満たす、ベーカリー食品用のコク増強剤。
(A)シアバターの分別油
(B)オリーブ油
条件(I):
35℃における固体脂含量SFC-35(%)に対する25℃における固体脂含量SFC-25(%)の比SFC-25/SFC-35が2.2~8.0である。
条件(II):
脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基含量に対する飽和脂肪酸残基の含量の質量比(S/U)が0.50~1.8である。ただし、Sは炭素数12~20の飽和脂肪酸残基を意味し、Uは炭素数12~20の不飽和脂肪酸残基を意味する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)及び(B)の油脂を含有し、且つ条件(I)及び条件(II)を満たす、ベーカリー食品用のコク増強剤。
(A)シアバターの分別油
(B)オリーブ油
条件(I):
35℃における固体脂含量SFC-35(%)に対する25℃における固体脂含量SFC-25(%)の比SFC-25/SFC-35が2.2~8.0である。
条件(II):
脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基含量に対する飽和脂肪酸残基の含量の質量比(S/U)が0.50~1.8である。ただし、Sは炭素数12~20の飽和脂肪酸残基を意味し、Uは炭素数12~20の不飽和脂肪酸残基を意味する。
【請求項2】
脂肪酸残基組成が次の条件(III)及び(IV)のいずれか1つ以上を満たす、請求項1記載のコク増強剤。
条件(III):
脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量が15質量%以下である。
条件(IV):
脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量が5~45質量%である。
【請求項3】
次の(C)及び(D)のいずれか1つ以上の油脂を含有する、請求項1又は2記載のコク増強剤。
(C)パーム油
(D)パーム系油脂
【請求項4】
連続相が油相である、請求項1又は2記載のコク増強剤。
【請求項5】
請求項1又は2記載のコク増強剤を含有する、ベーカリー生地。
【請求項6】
穀粉類又は低糖質食品原料のいずれか一つ以上を含有するベーカリー生地であって、ベーカリー生地中の穀粉類と低糖質食品原料の含量の総和100質量部に対する請求項1又は2記載のコク増強剤の含量が、1~15質量部である請求項5記載のベーカリー生地。
【請求項7】
請求項5記載のベーカリー生地を加熱してなる、ベーカリー食品。
【請求項8】
請求項6記載のベーカリー生地を加熱してなる、ベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベーカリー食品用のコク増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クッキーやビスケット、パイ等のベーカリー食品は、通常、牛乳や生クリーム、バター等の乳原料や卵原料を用いて製造される。ベーカリー食品のコクは、通常、製造に用いられた乳原料や鶏卵の量に比例するが、これらの原料の価格高騰や供給の不安定性から、近年では、ベーカリー食品を製造する際に使用される乳原料や卵原料の量の低減が行われる場合がある。
【0003】
また、自然環境への配慮や健康意識の高まりの観点、アレルギー反応への配慮の観点から、近年では、乳原料や卵原料を使用せずに、植物性原料(例えば豆乳やオーツミルク等の植物性ミルクやその加工品)を使用して製造されたいわゆるプラントベースのベーカリー食品が消費者に選択されることが増加してきている。同様の観点から、近年では小麦粉を使用せず、低糖質食品原料を使用して製造される、いわゆる低糖質ベーカリー食品が消費者に選択されることも増加してきている。
【0004】
他方、ベーカリー食品においては、食感の改良や製造における作業性の向上、又はコストダウンの目的から、ベーカリー食品の製造に用いられる油脂分の一部又は全部として、植物性油脂を用いて製造する場合がある。
しかし、配合中の乳原料や卵原料の量を単に低減したり、植物性油脂の使用量を高めるのみでは、ベーカリー食品のコクや風味が低下することから、このコクや風味を補ったり増強したりする手法が従前検討されてきた(例えば特許文献1~4)。
【0005】
また、配合中の低糖質食品原料の含量を高める場合にも同様の問題が生じることが知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-176114号公報
【特許文献2】特開2006-094809号公報
【特許文献3】特開2005-328804号公報
【特許文献4】特開2021-132616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、含有される乳原料や卵原料の量を低減した場合であってもコクを有するベーカリー食品を提供することにある。また、低糖質食品原料を使用して製造された低糖質ベーカリー食品を提供することにある。さらに、乳原料や卵原料の含量を低減しない場合、又は低糖質食品原料を使用しない場合には、より強いコクを有するベーカリー食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、シアバターの分別油及びオリーブ油を含有し、特定のSFC条件と脂肪酸組成を満たすベーカリー食品用のコク増強剤を用いてベーカリー食品を製造することにより、上記課題を解決しうることを知見した。
【0009】
本発明はこの知見に基づくものであり、具体的には以下の発明を開示する。
<1>
次の(A)及び(B)の油脂を含有し、且つ条件(I)及び条件(II)を満たす、ベーカリー食品用のコク増強剤。
(A)シアバターの分別油
(B)オリーブ油
条件(I):
35℃における固体脂含量SFC-35(%)に対する25℃における固体脂含量SFC-25(%)の比SFC-25/SFC-35が2.2~8.0である。
条件(II):
脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基含量に対する飽和脂肪酸残基の含量の質量比(S/U)が0.50~1.8である。ただし、Sは炭素数12~20の飽和脂肪酸残基を意味し、Uは炭素数12~20の不飽和脂肪酸残基を意味する。
<2>
脂肪酸残基組成が次の条件(III)及び(IV)のいずれか1つ以上を満たす、<1>記載のコク増強剤。
条件(III):
脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量が15質量%以下である。
条件(IV):
脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量が5~45質量%である。
<3>
次の(C)及び(D)のいずれか1つ以上の油脂を含有する、<1>又は<2>記載のコク増強剤。
(C)パーム油
(D)パーム系油脂
<4>
連続相が油相である、<1>~<3>の何れかに記載のコク増強剤。
<5>
<1>~<4>の何れかに記載のコク増強剤を含有する、ベーカリー生地。
<6>
穀粉類又は低糖質食品原料のいずれか一つ以上を含有するベーカリー生地であって、ベーカリー生地中の穀粉類と低糖質食品原料の含量の総和100質量部に対する<1>~<4>の何れかに記載のコク増強剤の含量が、1~15質量部である<5>記載のベーカリー生地。
<7>
<5>記載のベーカリー生地を加熱してなる、ベーカリー食品。
<8>
<6>記載のベーカリー生地を加熱してなる、ベーカリー食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、含有される乳原料や卵原料の量を低減した場合であってもコクを有するベーカリー食品を提供することができる。また、乳原料や卵原料の含量を低減しない場合には、より強いコクを有するベーカリー食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0012】
[ベーカリー食品用のコク増強剤]
以下、本発明のベーカリー食品用のコク増強剤について詳述する。なお、本発明のベーカリー食品用のコク増強剤を、以下単に「本発明のコク増強剤」と記載し、本発明のコク増強剤を用いてなるベーカリー食品を「本発明のベーカリー食品」と記載する。
【0013】
本発明のコク増強剤は、次の(A)及び(B)を含有し、且つ条件(I)及び条件(II)を満たすことを特徴とする。
(A)シアバターの分別油
(B)オリーブ油
条件(I):
35℃における固体脂含量SFC-35(%)に対する25℃における固体脂含量SFC-25(%)の比SFC-25/SFC-35が2.2~8.0である。
条件(II):
脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基含量に対する飽和脂肪酸残基の含量の質量比(S/U)が0.50~1.8である。
【0014】
以下、上記(A)の油脂を単に「油脂A」と記載する場合があり、上記(B)の油脂や、後述する油脂(C)及び油脂(D)も同様である。
【0015】
<(A)シアバターの分別油について>
本発明において、シアバターの分別油とは、上記シアバターの分別軟部油、分別中部油、分別硬部油、又はシアバターの分別油に対して更に1回以上分別を施して得られる分別油を指し、いわゆるダブルオレインやダブルステアリン等を含むものである。
【0016】
「分別軟部油」とは、分別により高融点部を分離除去して得られた低融点部を意味する。「分別硬部油」とは、分別により低融点部を分離除去して得られた高融点部を意味する。また、「分別中部油」とは、分別軟部油又は分別硬部油をさらに分別に供して得られる、分別軟部油の高融点部、又は分別硬部油の低融点部を意味する。
【0017】
油脂Aは、これらのうち、1種のみからなる油脂でもよく、2種以上の混合油脂でもよい。本発明のベーカリー食品のコクを好ましく改善する観点からは、油脂Aは、好ましくはシアバターの分別軟部油、シアバターの分別硬部油、分別中部油、又はこれらの油脂に対して更に分別を施して得られる分別油であり、より好ましくはシアバターの分別軟部油、シアバターの分別硬部油、又はシアバターの分別軟部油に対してさらに分別を施して得られる分別油であり、さらに好ましくはシアバターの分別軟部油である。
【0018】
シアバターの分別油を得る際の分別方法は、特に限定されず、公知の方法が使用できる。そのような方法としては、例えば、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、及び、晶析等の無溶剤分別がある。分別は必要に応じて複数回行ってもよく、各回の分別条件を変えてもよい。また、溶剤分別と無溶剤分別を組み合わせてもよい。
【0019】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Aのヨウ素価は、好ましくは45~75であり、より好ましくは50~75であり、さらに好ましくは55~75である。
シアバターの分別硬部油としての、油脂Aのヨウ素価は、好ましくは45未満であり、より好ましくは25~44であり、さらにより好ましくは25~40である。
油脂Aのヨウ素価が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0020】
なお、油脂のヨウ素価の測定は常法に基づいて行うことができるが、例えば「基準油脂分析試験法」(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」により実施することができる。
【0021】
本発明における、シアバターの分別軟部油としての油脂Aの25℃における固体脂含量SFC-25は、好ましくは0~20%であり、より好ましくは0~15%であり、さらに好ましくは0~10%である。シアバターの分別軟部油の35℃における固体脂含量SFC-35は、好ましくは0~15%であり、より好ましくは0~10%であり、さらに好ましくは0~5%である。
【0022】
また、シアバターの分別硬部油としての油脂Aの25℃における固体脂含量SFC-25は、好ましくは55~85%であり、より好ましくは60~80%であり、さらに好ましくは65~75%である。シアバターの分別硬部油の35℃における固体脂含量SFC-35は、好ましくは0~20%であり、より好ましくは0~15%であり、さらに好ましくは0~10%である。
【0023】
油脂Aの固体脂含量が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0024】
固体脂含量(SFC、Solid Fat Contents)の値は、所定温度における油脂中の固体脂の含量を示すもので、常法により測定することが可能である。本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。
即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値が固体脂含量となる。
【0025】
本発明において示す25℃における固体脂含量SFC-25は、25℃に設定された恒温槽にて30分静置した試料(ベーカリー食品用のコク増強剤又は油脂A、B)について上記パルスNMR(ダイレクト法)により測定した値(油相換算)に基づく。また、本発明において示す35℃における固体脂含量SFC-35は、35℃に設定された恒温槽にて30分静置した上記試料について上記パルスNMR(ダイレクト法)により測定した値(油相換算)に基づくものであり、以下同様である。
【0026】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。その上限は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下である。したがって一実施形態において、ステアリン酸残基含量は、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは25~35質量%である。
シアバターの分別硬部油としての、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは55質量%以上である。その上限は、好ましくは75質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下であり、さらに好ましくは65質量%以下である。したがって一実施形態において、ステアリン酸残基含量は、好ましくは45~75質量%であり、より好ましくは50~70質量%であり、さらに好ましくは55~65質量%である。
【0027】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるオレイン酸残基含量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上である。その上限は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。したがって一実施形態において、オレイン酸残基含量は、好ましくは5~30質量%であり、より好ましくは10~25質量%であり、さらに好ましくは15~20質量%である。
シアバターの分別硬部油としての、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるオレイン酸残基含量は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。その上限は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下である。したがって一実施形態において、オレイン酸残基含量は、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは25~35質量%である。
【0028】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。その上限は、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。したがって一実施形態において、ラウリン酸残基含量は、好ましくは0.01~3質量%であり、より好ましくは0.05~2質量%であり、さらに好ましくは0.1~1質量%である。
【0029】
シアバターの分別軟部油としての、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは5質量%以上である。その上限は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以下である。したがって一実施形態において、リノール酸残基含量は、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは3~20質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
シアバターの分別硬部油としての、油脂Aの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは2質量%以上である。その上限は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。したがって一実施形態において、リノール酸残基含量は、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、さらに好ましくは2~5質量%である。
【0030】
油脂Aの脂肪酸残基組成が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0031】
油脂Aの含量は、付与・増強されるベーカリー食品のコクの強度や、製造時の作業性に対する要望によっても異なるため特に制限されないが、後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし本発明の効果を向上させる観点から、油脂Aの含量は好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上であり、さらに好ましくは18質量%以上である。その上限は好ましくは70質量%以下、65質量%以下又は60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下又は40質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下又は30質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Aの含量は好ましくは8~70質量%、より好ましくは12~55質量%、さらに好ましくは18~35質量%である。
【0032】
<(B)オリーブ油について>
本発明において、ベーカリー食品のコクや風味をいっそう良好なものとする観点から、本発明のコク増強剤は油脂Bを含有する。
【0033】
本発明に好ましく用いられるオリーブ油について、さらに詳述する。本発明におけるオリーブ油とは、オリーブ油以外のものを使用していない(他の種類の油脂が混入していない)油脂である。
【0034】
油脂Bとして用いられるオリーブ油は、JASによって定められている、酸価が2.0以下であるオリーブ油であってもよく、0.60以下である精製オリーブ油であってもよく、酸価が2.0以下であるオリーブ油と精製オリーブ油とを混合したものであってもよいが、好ましくは酸価が0.6超であり2.0以下であるオリーブ油(すなわち精製処理を施していないオリーブ油)である。
【0035】
本発明において、油脂Bとして精製処理を施していないオリーブ油を用いた場合に、本発明の効果がより好ましく得られる理由は定かではないが、オリーブ油中のポリフェノールやフィトステロール等の成分を含有することが、本発明の効果に好ましく寄与していると、本発明者らは推測しており、このため精製処理を施さないオリーブ油を用いることが好ましいものと考えている。
【0036】
酸価とは、油脂中の遊離脂肪酸を中和するために必要な水酸化カリウム量(mg)を指した値であり、酸価の測定方法は、従前知られた方法を用いて測定することができる。例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.1(2013)」に記載の方法で測定することができる。
【0037】
なお、オリーブ油の酸価が上記範囲から逸脱している場合、例えば、オリーブ油に精製処理を施すことにより上記範囲内のものとすることができる。
【0038】
精製処理としては、例えば、脱ガム、脱酸、脱臭、脱色等の、通常食用油脂に施される精製処理が挙げられ、これらの中からいずれか1種以上を行う。なお、上記精製処理は、従前知られた方法により行うことができる。
【0039】
なお、本発明に用いられる油脂Bのヨウ素価は好ましくは70以上、より好ましくは75以上であり、その上限は好ましくは99以下、より好ましくは96以下又は94以下である。したがって一実施形態において、油脂Bのヨウ素価は70~99であることが好ましく、75~96又は75~94であることがより好ましい。油脂Bのヨウ素価が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0040】
油脂Bの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは5~20質量%であり、さらに好ましくは10~15質量%である。
油脂Bの脂肪酸残基組成が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明の効果を向上させることができる。
【0041】
本発明のコク増強剤における油脂Bの含量は、得られるベーカリー食品のコクや風味を損ねない範囲で任意に設定することができるが、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上である。その上限は好ましくは0.9質量%以下又は0.7質量%以下であり、より好ましくは0.6質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Bの含量は、好ましくは0.05~0.7質量%であり、より好ましくは0.1~0.6質量%であり、さらに好ましくは0.2~0.5質量%である。油脂Bの含量が上記数値範囲を満たすことにより、本発明のコク増強剤が後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たし、本発明のベーカリー食品のコクを向上させることができる。
【0042】
<油脂A及びBの合計含量>
また、本発明のコク増強剤中の、上記油脂A及びBの合計含量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意に決定してよい。作業性を保ちながらいっそう良好なコクを有するベーカリー生地用のコク増強剤を製造することを容易とする観点から、上記油脂A及びBの合計含量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。その上限は、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。したがって、一実施形態において、上記油脂A及びBの合計含量は、好ましくは5~60質量%であり、より好ましくは8~40質量%であり、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0043】
<本発明に使用することができるその他油脂>
上記の油脂A及び油脂Bの他に、本発明のコク増強剤に用いることのできるその他油脂について述べる。本発明のコク増強剤に上記の油脂A及び油脂B以外のその他油脂を含有させるか否かについては任意であり、斯かる油脂としては、例えば、パーム油、パーム系油脂、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、米油、紅花油、ひまわり油、サル脂、マンゴー脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。これらその他油脂は、1種単独で使用してもよく、これらから選択された2種以上の油脂の混合物を使用してもよい。
【0044】
本発明のコク増強剤では、これらの油脂の中から、後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たすように、上記の油脂A及び油脂Bの他に、1種又は2種以上のその他油脂が選択され適宜含有される。なお、本発明によれば乳脂や牛脂、豚脂等の動物油脂を含まずとも、ベーカリー食品のコクを付与・増強することができる。上記動物油脂を含有する場合にあっては、その含量は10質量%以下又は7質量%以下とすることができ、好ましくは5質量%未満、4質量%以下、又は3質量%以下である。
【0045】
本発明の効果をより高め、本発明のベーカリー生地中にコク増強剤を均一に分散させる観点から、本発明のコク増強剤は、次の油脂C及び油脂Dのいずれか一つ以上の油脂を含有することが好ましく、いずれも含有することが好ましい。
(C)パーム油
(D)パーム系油脂
【0046】
<(C)パーム油について>
本発明において、油脂Cは、本発明が適用されるベーカリー食品を調製する際の作業性をいっそう良好なものとする観点から、特に好ましく選択される油脂である。
【0047】
なお、本発明に用いられる油脂Cのヨウ素価は好ましくは45以上、より好ましくは50以上であり、その上限は好ましくは55以下である。したがって一実施形態において、油脂Cのヨウ素価は45~55であることが好ましく、50~55であることがより好ましい。
【0048】
油脂Cの脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0049】
油脂Cの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3~15質量%であり、さらに好ましくは5~10質量%である。
【0050】
本発明のコク増強剤における油脂Cの含量は、得られるベーカリー食品のコクや風味を損ねない範囲で任意に設定することができるが、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上、55質量%以上又は60質量%以上である。その上限は好ましくは85質量%以下又は80質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Cの含量は、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは30~80質量%であり、さらに好ましくは50~80質量%である。
【0051】
<(D)パーム系油脂について>
本発明において、油脂Dは、本発明が適用されるベーカリー食品を調製する際の作業性をいっそう良好なものとする観点から、特に好ましく選択される油脂である。本発明におけるパーム系油脂とは、パーム油を原料の一つとして水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を指す。
【0052】
本発明に用いられる油脂Dとしては、具体的には、分別油である分別軟部油、分別硬部油を選択することができ、該分別軟部油としては、例えば、パームオレイン、パームスーパーオレイン、ソフトパームミッドフラクション、トップオレイン、ハードパームミッドフラクションが挙げられ、また、該分別硬部油としては、例えば、ハードステアリン(パームステアリン)、ソフトステアリン、スーパーステアリンが挙げられる。ソフトパームミッドフラクションやハードパームミッドフラクションなどを単に「パームミッドフラクション」(パーム中融点部)ともいう。中でも、良好なコクを有するベーカリー食品を得る観点から、油脂Dとしては、パーム分別軟部油が好ましく、パームミッドフラクション、パームオレイン、パームスーパーオレインがより好ましく、パームスーパーオレインがさらに好ましい。
油脂Dとしてはまた、これらの油脂やパーム油から選択される1種以上の油脂に対して、エステル交換や水素添加を施した油脂を挙げることができる。
【0053】
油脂Dとしては、上記の油脂からいずれか一つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0054】
後述する固体脂含量や脂肪酸残基組成を好ましく満たす観点から、油脂Dのヨウ素価は、油脂Dがパームミッドフラクションである場合には好ましくは25以上であり、より好ましくは28以上であり、さらに好ましくは29以上である。その上限は好ましくは50以下であり、より好ましくは48以下であり、さらに好ましくは39以下である。したがって一実施形態において、同ヨウ素価は25~50であることが好ましく、28~48であることがより好ましく、29~39であることがさらに好ましい。
【0055】
また、油脂Dがパーム分別軟部油である場合には、好ましくは51以上であり、より好ましくは53以上であり、さらに好ましくは55以上である。その上限は好ましくは70以下であり、より好ましくは68以下であり、さらに好ましくは67以下である。したがって、一実施形態において、同ヨウ素価は、好ましくは51~70であり、より好ましくは53~68であり、さらに好ましくは55~67である。
【0056】
本発明に用いられる油脂Dの脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0057】
本発明に用いられる油脂Dの脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは2~15質量%であり、さらに好ましくは3~10質量%である。
【0058】
本発明のコク増強剤における油脂Dの含量は、得られるベーカリー食品のコクや風味が低下しない範囲で任意に設定することができるが、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは6質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上である。その上限は好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下、35質量%以下又は30質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以下である。したがって一実施形態において、油脂Dの含量は好ましくは3~45質量%であり、より好ましくは6~40質量%であり、さらに好ましくは15~30質量%である。
【0059】
<油脂C及びDの含量について>
本発明のコク増強剤における油脂C及びDの合計含量は、特に制限はなく、目的のベーカリー生地に応じて適宜調整可能である。本発明のベーカリー食品を調製する際の作業性をいっそう良好なものとしつつ、コク増強剤の効果を好適に発揮させる観点から、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。その上限は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは92質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。したがって、一実施形態において、油脂C及びDの合計含量好ましくは40~95質量%であり、より好ましくは60~92質量%であり、さらに好ましくは70~90質量%である。
【0060】
<条件(I):固体脂含量の比SFC-25/SFC-35について>
次に本発明のコク増強剤における固体脂含量の比SFC-25/SFC-35について述べる。
【0061】
ベーカリー食品の食感を損ねない観点や、ベーカリー生地中に本発明のコク増強剤を均一に分散させる観点から、本発明のコク増強剤におけるSFC-25/SFC-35は2.2~8.0である。
【0062】
その下限は好ましくは2.3以上、より好ましくは2.4以上、さらに好ましくは2.6以上であり、その上限は好ましくは7.0以下、より好ましくは6.5以下、6.0以下又は5.5以下、さらに好ましくは5.0以下である。したがって一実施形態において、該SFC-25/SFC-35は、好ましくは2.3~7.0、より好ましくは2.4~6.5、さらに好ましくは2.6~5.0である。
【0063】
本発明のコク増強剤のSFC-25/SFC-35が2.2~8.0の範囲にあることで、ベーカリー食品を製造する際の良好な作業性と、良好なコクや風味を有するベーカリー食品の製造とを両立することができる。
【0064】
本発明のコク増強剤を用いてベーカリー食品を製造する際に、良好な作業性を得る観点からは、本発明のコク増強剤のSFC-25は好ましくは30%以下であり、より好ましくは24%以下であり、さらに好ましくは20%以下又は10%以下である。その下限は、5%以上である。したがって、一実施形態において、本発明のコク増強剤のSFC-25は好ましくは5~30%であり、より好ましくは5~24%であり、さらに好ましくは5~20%又は5~10%である。
【0065】
また、本発明のコク増強剤を用いてベーカリー食品を製造した後、喫食時のコク(ないしは油性感)を増強する観点からは、本発明のコク増強剤のSFC-35は好ましくは12%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは8%である。その下限は、0%である。したがって、一実施形態において、本発明のコク増強剤のSFC-35は好ましくは0~12%であり、より好ましくは0~10%であり、さらに好ましくは0~8%である。
【0066】
なお、本発明のコク増強剤におけるSFC-25/SFC-35の要件を、以下単に「条件(I)」と記載する場合がある。
【0067】
<条件(II)、(III)、(IV):脂肪酸残基組成について>
本発明のコク増強剤は、その脂肪酸残基組成が以下に示す条件(II)を満たすものである。好ましくは、以下に示す条件(II)に加えて、以下に示す条件(III)及び(IV)のいずれか1つ以上を満たす。
なお、それぞれの条件を、以下単に条件(II)、条件(III)、条件(IV)と記載する場合がある。
条件(II):脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基含量に対する飽和脂肪酸残基の含量の質量比(S/U)が0.50~1.8である。ただし、Sは炭素数12~20の飽和脂肪酸残基を意味し、Uは炭素数12~20の不飽和脂肪酸残基を意味する。
条件(III):脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量が15質量%以下である。
条件(IV):脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量が5~45質量%である。
【0068】
まず、条件(II)について述べる。
【0069】
本発明のコク増強剤の脂肪酸残基組成における、不飽和脂肪酸残基含量に対する飽和脂肪酸残基含量の質量比(S/U)は0.50以上であり、好ましくは0.75以上であり、より好ましくは0.85以上であり、さらに好ましくは0.95以上である。その上限は、1.8以下であり、好ましくは1.6以下であり、より好ましくは1.35以下であり、さらに好ましくは1.2以下である。したがって、一実施形態において、本発明のコク増強剤の脂肪酸残基組成におけるS/Uは、0.50~1.8であり、好ましくは0.75~1.6であり、より好ましくは0.85~1.35であり、さらに好ましくは0.95~1.2である。
【0070】
本発明のコク増強剤が上記のS/Uの範囲を満たすことで、本発明のコク増強剤を用いて製造されたベーカリー食品のコクが増強され、あるいはコクが付与されると共に、口溶けが良好なベーカリー食品が得られるようになる。
【0071】
また、後述する本発明のベーカリー生地を製造する際に、本発明のコク増強剤が練りこまれやすくなる。
【0072】
本発明のコク増強剤の脂肪酸残基組成における、飽和脂肪酸残基含量Sは、好ましくは35.0質量%以上であり、より好ましくは40.0質量%以上であり、さらに好ましくは42.0質量%以上である。その上限は、好ましくは60.0質量%以下であり、より好ましくは55.0質量%以下であり、さらに好ましくは50.0質量%以下である。したがって、一実施形態において、飽和脂肪酸残基含量Sは、好ましくは35.0~60.0質量%であり、より好ましくは40.0~55.0質量%であり、さらに好ましくは42.0~50.0質量%である。これにより、質量比S/Uが上述の数値範囲を満たすことができ、本発明の効果を好適に発揮することができる。
【0073】
本発明のコク増強剤の脂肪酸残基組成における、不飽和脂肪酸残基含量Uは、好ましくは30.0質量%以上であり、より好ましくは35.0質量%以上であり、さらに好ましくは37.0質量%以上である。その上限は、好ましくは55.0質量%以下であり、より好ましくは50.0質量%以下であり、さらに好ましくは48.0質量%以下である。好ましくは30.0~55.0質量%であり、より好ましくは35.0~50.0質量%であり、さらに好ましくは37.0~48.0質量%である。これにより、質量比S/Uが上述の数値範囲を満たすことができ、本発明の効果を好適に発揮することができる。
【0074】
次に条件(III)について述べる。
【0075】
本発明のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以下である。なお、下限は0質量%である。
【0076】
脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量が、上記範囲を満たすことで、得られるベーカリー食品のコクをより感じやすくなる。
【0077】
次に条件(IV)について述べる。
【0078】
本発明のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は、好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは6.0質量%以上であり、さらに好ましくは7.0質量%以上である。その上限は好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下、30質量%以下又は25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。したがって一実施形態において、脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基含量は好ましくは5.0~45質量%であり、より好ましくは6.0~35質量%であり、さらに好ましくは7.0~20質量%である。
【0079】
脂肪酸残基組成におけるリノール酸残基の含量が、上記範囲を満たすことで、得られるベーカリー食品のコクをより感じやすくなる。
【0080】
他方、健康リスクが懸念されるトランス脂肪酸残基の含量は少ないほど好ましい。本発明のコク増強剤に含有される油脂の脂肪酸残基組成における、トランス脂肪酸残基の含量は好ましくは5質量%未満であり、より好ましくは3質量%未満であり、さらに好ましくは2質量%未満である。
【0081】
<油脂の含量について>
本発明のコク増強剤に含有される油脂の量は、本発明の効果を損ねない範囲で任意に設定することが出来るが、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、その上限は100質量%である。これにより、比較的少ない量で本発明のコク増強剤の効果を十分に得ることができる。
【0082】
<その他原材料>
本発明のコク増強剤は、上記の油脂Aと油脂Bとを混合した混合油脂からなってよく、好ましくは油脂A及び油脂Bに上記油脂C及び油脂Dのいずれか一つ以上の油脂を加えた混合油脂であり、より好ましくは油脂A及び油脂Bに上記油脂C及び油脂Dを加えた混合油脂である。すなわち油脂のみからなってよいが、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、水やその他の原材料を含有してもよい。
【0083】
本発明のコク増強剤が水を含有する場合、本発明のコク増強剤中の水の含量は、好ましくは0.1~40質量%であり、より好ましくは0.1~30質量%である。後述するその他の原材料が水分を含む場合には、その水分も含めた水の含量が、上記範囲にあることが好ましい。
【0084】
本発明のコク増強剤に含有しうるその他の原材料としては、例えば、水、穀粉類、イースト、酵素、糖類、乳化剤、澱粉類、デキストリン、食物繊維、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、乳や乳製品等の乳原料、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵類及びその加工品等の卵原料、着香料、調味料、酵母エキス、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、コーヒー、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、豆腐、黄な粉等の食品素材、高甘味度甘味料、果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びそれらの加工品、ハーブ、肉類、魚介類、酸化剤、還元剤、イーストフード、保存料を適宜含有しうる。
【0085】
上記その他の原材料は、本発明の目的を損なわない範囲で任意に含有させ、使用してよい。その他の原材料の含量は、本発明のコク増強剤中、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0086】
乳化剤を含有する場合、その含量は、得られるベーカリー食品の風味発現やコクを損ねない観点から、本発明のコク増強剤中、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0087】
<本発明のコク増強剤の連続相について>
本発明のコク増強剤は、油脂を含有する食品、例えばマーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、流動ショートニング、流動マーガリン、粉末油脂、ホイップクリーム等の任意形態をとることができる。
【0088】
本発明のコク増強剤の連続相は、油相であってもよく、水相であってもよい。本発明のコク増強剤の効果を十分に得るためには、水相成分が少ないことが好ましいことから、連続相は油相であることが好ましい。
【0089】
本発明においては、とりわけショートニングや流動ショートニング等の水相を含まない、連続相を油相とするコク増強剤の形態をとることが、比較的少ない量で所望の効果が得られるため好ましい。
【0090】
本発明のコク増強剤が乳化物である場合、その乳化形態は特に問われず、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。本発明のコク増強剤は、油中水型乳化物、及び、油中水中油型乳化物のような連続相が油相である多重乳化物であることが好ましく、簡便に製造できる点から、油中水型乳化物であることがより好ましい。本発明のコク増強剤が油中水中油型乳化物の形態をとる場合には、上記の油脂A及び油脂Bは外油相に含有されてもよく、内油相に含有されてもよい。
【0091】
なお、本発明のコク増強剤は、とりわけ本発明のベーカリー食品を製造する際の作業性を向上する観点から、可塑性を有していてもよい。可塑性を有することで、本発明のコク増強剤が本発明のベーカリー生地中に均一に分散しやすくなるため、作業時間を短くすることができるという利点がある。
【0092】
<本発明のコク増強剤の製造方法>
本発明のコク増強剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、上記油脂A及び油脂Bを含有するコク増強剤を製造し得る限りにおいて公知の方法を採用できる。
【0093】
例えば、本発明のコク増強剤が可塑性を有する油脂組成物(以下単に可塑性油脂組成物と記載)の形態をとる場合は、可塑性油脂組成物の製造の過程で、油相中に上記の油脂A及び油脂Bを含有させ、急冷可塑化することで可塑性油脂組成物を製造することができる。
【0094】
本発明のコク増強剤が水相を含有する場合には、油相に上記油脂A及び油脂Bを混合・分散させてから、水相と共に急冷可塑化することにより、可塑性油脂組成物を製造することができる。
【0095】
以下、本発明の好ましい態様に基づき、連続相が油相の、可塑性油脂組成物であるショートニングである、コク増強剤の製造方法について述べる。
【0096】
連続相が油相の、可塑性油脂組成物であるショートニングであるコク増強剤を製造するには、上記油脂A及び油脂Bを好ましくは上記の含量の範囲内となるような量で、必要に応じて他の食用油脂、好ましくは油脂C及び油脂Dのいずれか1つ以上と混合して、連続相となる油相を作製する。このとき、必要に応じて、油溶性のその他の原材料を油相に混合してよい。
【0097】
上記で得られた油相は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でもよく、プレート式熱交換器や掻き取り式熱交換器を用いた連続方式でもよい。また殺菌温度は、好ましくは80~100℃であり、より好ましくは80~95℃であり、さらに好ましくは80~90℃である。殺菌時間は、例えば掻き取り式熱交換器を用いて85℃で連続殺菌する場合、好ましくは30~300秒間であり、より好ましくは40~285秒間であり、さらに好ましくは50~260秒間である。その後、必要に応じ、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行う。予備冷却の温度は、好ましくは40~60℃であり、より好ましくは40~55℃であり、さらに好ましくは40~50℃とする。
【0098】
次に、必要に応じて、予備冷却した油相を冷却する。好ましくは急冷可塑化を行う。この急冷可塑化は、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター及びケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート式熱交換器、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組み合わせを用いて行うことができる。急冷を行うことにより、油相が可塑性を有する油脂組成物となる。急冷可塑化の際に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0099】
予備冷却の終点温度は、特に限定されず、20℃以下となるまで冷却すればよく、好ましくは15℃以下であり、より好ましくは12℃以下である。冷却速度は、前記終点温度に冷却できればよく、特に限定されないが、通常、5~25℃/分であり、急冷可塑化の場合、好ましくは15~25℃/分である。
【0100】
なお、本発明のコク増強剤の製造工程において、窒素、空気等を含気させてもよく、含気させなくてもよい。
【0101】
<本発明のベーカリー生地>
次に、本発明のコク増強剤を用いてなるベーカリー生地(以下、「本発明のベーカリー生地」ともいう。)について述べる。
【0102】
本発明のベーカリー生地は、本発明のコク増強剤を原料の一つとして用いたものであり、本発明のコク増強剤を含有する。
【0103】
良好な風味とコクを有するベーカリー食品を製造する観点から、本発明のベーカリー生地は、好ましくは穀粉類又は低糖質食品原料のいずれか一つ以上を含有するベーカリー生地であり、本発明のベーカリー生地における本発明のコク増強剤の含量は、ベーカリー生地中に含有される穀粉類と低糖質食品原料の含量の総和100質量部に対して好ましくは15質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以下である。その下限は、好ましくは1質量部以上である。したがって、一実施形態において、本発明のコク増強剤の含量は、穀粉類と低糖質食品原料の含量の総和100質量部に対して、好ましくは1~15質量部であり、より好ましくは1~10質量部であり、さらに好ましくは1~5質量部である。
【0104】
同様の観点から、本発明のベーカリー生地における本発明のコク増強剤の含量は、好ましくは13.5質量%以下であり、より好ましくは9.5質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。その下限は、好ましくは0.5質量%以上である。したがって、一実施形態において、本発明のベーカリー生地における本発明のコク増強剤の含量は、好ましくは0.5~13.5質量%であり、より好ましくは0.5~9.5質量%であり、さらに好ましくは0.5~2質量%である。
【0105】
本発明のベーカリー生地は、穀粉類のみを用いて製造することもでき、低糖質食品原料のみを用いて製造することもでき、穀粉類と低糖質食品原料とを併用して製造することもできる。穀粉類と低糖質食品原料とを併用する場合には、それぞれの質量比は求めるベーカリー食品の食感や風味、コクによって任意に設定することができる。穀粉類及び低糖質食品原料の含量は、製造するベーカリー食品の種類等によって任意であるが、本発明のベーカリー生地中、穀粉類と低糖質食品原料とを合わせて40~85質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることがさらに好ましい。
【0106】
本発明のベーカリー生地に用いられる穀粉類について述べる。
【0107】
本発明のベーカリー生地に用いられる穀粉類としては、小麦粉(薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉)をはじめ、小麦胚芽、全粒粉、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉等を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いてよく、少なくとも小麦粉を含有することが好ましい。穀粉類中の小麦粉の含量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0108】
次に、本発明のベーカリー生地に用いられる低糖質食品原料について述べる。
【0109】
本発明において、低糖質食品原料とは、ベーカリー製品の主要成分である小麦粉の代替として使用可能な、糖質含量が50%以下の粉体食品原料をいう。ここでいう糖質とは、食物繊維を除いた炭水化物をいう。食物繊維の定量法としては、プロスキー法(No.985.29, Total Dietary Fiber in Foods, ”Official Method of Analysis”, AOAC, 15th ed., 1990, P.1105-1106)、酵素HPLC法(AOAC2001.03)、などが知られ、上記範囲を満たす食品原料であるかどうかは、それらの方法を用いて判断できる。
【0110】
本発明で使用できる低糖質食品原料の種類としては、例えば、食物繊維、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、堅果類又は豆類由来の粉末原料、穀粉類由来の粉末原料、動植物由来の蛋白質粉末原料、動植物の粉末を挙げることができる。
【0111】
食物繊維としては、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、ヘミセルロース、リグニン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリデキストロース、寒天、グルコマンナン、タラガム、カラヤガム、トラガントガム、ジェランガムなどの水溶性食物繊維又は不溶性食物繊維、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、キャロットファイバー、トマトファイバー、バンブーファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大麦ファイバー、ライ麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバー、米ぬか、キチン、キトサン等の水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を共に含有する複合型食物繊維が挙げられる。
【0112】
堅果類又は豆類由来の粉末原料としては、大豆粉、アーモンド粉末(アーモンドプードル)、マカデミアナッツ粉末、豆乳粉末、おから等が挙げられる。
【0113】
穀粉類由来の粉末原料としては、フスマ、小麦胚芽等の食物繊維を多く含有する穀粉類由来の粉末原料が挙げられる。
【0114】
動植物由来の蛋白質粉末原料としては、小麦蛋白、グルテン粉末、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、全卵蛋白、乳蛋白等が挙げられる。
【0115】
動植物の粉末としては、クロレラ粉、ミドリムシ粉、野菜粉、昆虫粉、果実粉等が挙げられる。
【0116】
本発明では、これらの低糖質食品原料から選ばれる1種又は2種以上を使用することができるが、好ましい風味とコクを有するベーカリー製品が得られる点で、少なくとも、堅果類又は豆類由来の粉末原料、難消化性デキストリン、難消化性澱粉、及び穀粉類由来の粉末原料から選ばれる1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0117】
本発明のベーカリー生地としては、パン類生地(例えば、食パン生地、菓子パン生地、バターロール生地、ハードロール生地、フランスパン生地)、ペストリー生地(例えば、デニッシュ生地、パイ生地)、バターケーキ生地(例えば、パウンドケーキ生地、フルーツケーキ生地、マドレーヌ生地、バウムクーヘン生地、カステラ生地)、クッキー生地(例えば、アイスボックスクッキー生地、ワイヤーカットクッキー生地、ロータリーモールドクッキー生地、サブレ生地、ラングドシャクッキー生地)、ビスケット生地、クラッカー生地、ウエハース生地等が挙げられる。
【0118】
特に、ベーカリー生地を製造する際に用いる油脂の量が比較的多く、本発明の効果がより得られやすい観点から、本発明のベーカリー生地は、ペストリー生地、クッキー生地やビスケット生地、クラッカー生地、ウエハース生地等であることが好ましい。
【0119】
ベーカリー生地の製造方法は特に限定されず、通常使用されている、あらゆるパン類・菓子類のための製造方法を適用することができる。
【0120】
パン類の製造方法の例としては中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法が挙げられ、菓子類の製造方法の例としてはシュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、共立て法、別立て法が挙げられ、製造するベーカリー食品の種類に応じて任意に選択される。
【0121】
また、後述する加熱処理に先立ち、上述の任意の方法により製造したパン類又は菓子類の生地に対し、必要に応じ適宜、分割、成形、ホイロ、リタード、レスト等の処理を行うことができる。これ等の処理において、温度、使用する機器、時間等の処理条件は特に制限されず、目的のベーカリー生地に応じて任意の方法により行うことができる。
【0122】
本発明のコク増強剤は、その形態やベーカリー生地の種類や製造方法に応じて、本発明のベーカリー生地の製造過程の任意の時点で含有させてよい。この際、本発明のコク増強剤はあらかじめ調温されていてもよく、15~30℃に調温されていることが好ましい。
【0123】
なお、本発明のコク増強剤が可塑性を有する場合や、連続相が油相である形態をとる場合、あるいは起泡性を有する水中油型乳化物である場合には、泡立て器やミキサー、ビーター等で撹拌(例えば、5~10分)した後に、本発明のベーカリー生地中に加えてもよい。
【0124】
本発明のベーカリー生地は、本発明のコク増強剤を含み、好ましくは本発明のコク増強剤と穀粉類又は低糖質食品原料のいずれか一つ以上とを含む他、その他原料を含むことができる。本発明におけるその他原料としては、水、ベーキングパウダー、イースト、イーストフード、酵母エキス、トランスグルタミナーゼやプロテアーゼ等の酵素、乳化剤、難消化性澱粉以外の澱粉類、デキストリン、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、乳及び乳製品等の乳原料、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵類及びその加工品等の卵原料、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、ペッパーやスパイスミックス等の香辛料、コーヒー、カカオマス、ココアパウダー、豆腐等の食品原料、糖類、高甘味度甘味料、果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びそれらの加工品、セロリやパセリ等のハーブ、肉類、魚介類、酸化剤、還元剤、保存料などを適宜用いてよい。
【0125】
良好な風味とコクを有するベーカリー食品を製造する観点から本発明のベーカリー生地においては、本発明のコク増強剤とは別に、本発明のコク増強剤以外の油脂類を含有させることが好ましい。また、本発明のコク増強剤以外の油脂類を含有させる際には、該油脂類はあらかじめ調温されていてもよく、15~30℃に調温されていることが好ましい。
【0126】
本発明のベーカリー生地に含有させることができる、本発明のコク増強剤以外のその他の油脂としては、ベーカリー食品の製造に用いることができる一般的な油脂類を用いることができ、特に制限がないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、紅花油、亜麻仁油、落花生脂、グレープシードオイル、チアシードオイル、マカダミアナッツ油、アーモンド油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、マンゴー脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、カカオバター、シアバター等の植物油脂や、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することができる。
【0127】
上記の油脂の1種又は2種以上をそのまま使用することもでき、例えばマーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、流動ショートニング、流動マーガリン、粉末油脂、ホイップクリーム等の任意の形態に調製した上で使用することもできる。
【0128】
本発明のベーカリー生地の製造に用いられる油脂類の総量(すなわち、本発明のコク増強剤と本発明のコク増強剤以外の油脂類の含量の総和)は、製造されるベーカリー食品の種類によっても異なるが、例えば本発明のベーカリー生地がクッキー生地である場合には10~30質量%であることが好ましい。また、本発明のベーカリー生地がペストリー生地である場合には25~40質量%であることが好ましい。
【0129】
本発明のベーカリー生地の製造に用いられる油脂類の総量に占める、本発明のコク増強剤の割合についても、製造されるベーカリー食品の種類によっても異なるが、例えば本発明のベーカリー生地がクッキー生地である場合には好ましくは0.5~25質量%であり、より好ましくは0.5~18質量%であり、さらに好ましくは0.5~11質量%である。
また、本発明のベーカリー生地がペストリー生地である場合には好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは1~8質量%であり、さらに好ましくは1~6質量%である。
【0130】
なお、本発明のベーカリー生地が、練込油脂だけでなく、折込油脂を用いて製造される場合には、練込油脂と折込油脂をいずれも考慮するものとする。
【0131】
上記乳は、例えば、牛乳、ヤギや羊等の動物から得られる動物乳、脱脂乳が挙げられる。上記乳製品は、例えば、脱脂粉乳、全脂粉乳、発酵乳、生クリーム、コンパウンドクリーム、バター、チーズ、ヨーグルト、練乳、加糖練乳、濃縮乳、ホエー(乳清)、ホエーパウダー、乳清ミネラル、乳脂肪球被膜が挙げられる。乳や乳製品等の乳原料としては、これらのうちいずれかを単独で用いてもよく、2以上を組み合わせてもよい。
【0132】
上記卵類及びその加工品等の卵原料は、例えば、全卵、卵黄、卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白等、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄が挙げられる。卵原料としては、これらのうちのいずれかを単独で用いてもよく、2以上を組み合わせてもよい。
【0133】
また、本発明のベーカリー生地における乳原料及び卵原料の含量は、本発明のベーカリー食品に対して求めるコクやベーカリー食品の種類、製造する製品の性質(例えばプラントベース食品やアレルゲンフリー食品、低糖質食品)によって任意に設定することができる。本発明のコク増強剤を用いることにより、得られるベーカリー食品のコクを増強し、またベーカリー食品に対してコクを付与することができるため、本発明のベーカリー生地中の含量を、それぞれ10質量%以下とする事ができ、8質量%以下とすることができ、5質量%以下とすることができ、その下限はベーカリー生地中0質量%(すなわち含有しない)である。
【0134】
上記糖類は、例えば、てんさい糖、上白糖、ショ糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、グラニュー糖、黒糖、麦芽糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、還元澱粉糖化物、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の糖類、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール等の糖アルコールが挙げられる。
【0135】
上記高甘味度甘味料は、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリンが挙げられる。
【0136】
上記果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びそれらの加工品は、例えば、果物や野菜の果実、果肉、果汁、大豆やえんどう豆等の豆類、小麦や大麦、米等の穀物類、アーモンドやマカダミアナッツ、ココナッツ等の種実類、豆乳やアーモンドミルク、ココナッツミルク等の豆類、穀物類、種実類由来の植物性ミルク、及びこれらを加工して製造されたジャムやペースト、粉末、乾燥物が挙げられる。
【0137】
上記乳化剤は、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、レシチン、リゾレシチン、乳脂肪球皮膜が挙げられる。
【0138】
上記本発明のベーカリー生地中のその他原料の含量は、本発明のベーカリー生地中5~60質量%又は5~50質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましい。
【0139】
<本発明のベーカリー食品>
本発明のベーカリー食品は、本発明のコク増強剤を含有するベーカリー生地を加熱処理することにより得られる。ベーカリー生地の加熱処理の方法は特に限定されず、例として、焼成したり、フライしたり、蒸したり、電子レンジ処理したりすることが挙げられる。
【0140】
加熱処理により得られるベーカリー製品の種類は特に限定されず、各種のパン類や菓子類でありうる。
【実施例0141】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0142】
実施例及び比較例において、本発明のコク増強剤の製造・検討に使用した油脂の詳細は、次のとおりである。
・シアオレイン:脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は27.9質量%、オレイン酸残基含量は15.8質量%、ラウリン酸残基含量は0.5質量%、リノール酸残基含量は9.1質量%であり、ヨウ素価は66である。またSFC-25は1.9%であり、SFC-35は0.3%である。本油脂はシアバターの分別軟部油であり、上記「油脂A」に該当する。
・シアステアリン:脂肪酸残基組成におけるステアリン酸残基含量は59.8質量%、オレイン酸残基含量は33.7質量%、ラウリン酸残基含量はN.D.、リノール酸残基含量は2.4質量%であり、ヨウ素価は37である。またSFC-25は70.7%であり、SFC-35は6.4%である。本油脂はシアバターの分別硬部油であり、上記「油脂A」に該当する。
・オリーブ油:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量はN.D.、リノール酸残基含量は13.0質量%であり、酸価が1.0であり、ヨウ素価が94である。本油脂は上記「油脂B」に該当する。
・パーム油:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は0.3質量%、リノール酸残基含量は8.2質量%であり、ヨウ素価が52である。本油脂は、上記「油脂C」に該当する。
・パーム中融点部:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は0.3質量%、リノール酸残基含量は3.3質量%であり、ヨウ素価が34である。本油脂は上記「油脂D」に該当する。
・パームステアリン:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は0.4質量%、リノール酸残基含量は5.0質量%であり、ヨウ素価が33である。本油脂は上記「油脂D」に該当する。
・パームスーパーオレイン:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は0.3質量%、リノール酸残基含量は8.2質量%であり、ヨウ素価が64である。本油脂は上記「油脂D」に該当する。
・パーム核油:脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基含量は50.1質量%、リノール酸残基含量は2.0質量%であり、ヨウ素価が17.8である。本油脂は、上記油脂A~Dのいずれにも該当しない。
【0143】
<検討1:コク増強剤の組成について>
検討1では、ベーカリー食品の製造に用いられるコク増強剤の組成について検討を行った。具体的には表1の配合に則ってコク増強剤を製造し、このコク増強剤を用いてベーカリー食品であるワイヤーカットクッキーを製造して評価を行った。
【0144】
<実施例1~8、比較例1~5のコク増強剤の製造方法>
表1の配合にしたがって、各油脂を65℃で加熱溶解後に混合し、急冷可塑化(冷却速度20℃/分以上、終点温度10℃)させ、実施例1~8のコク増強剤、及び比較例1~5のコク増強剤を製造した。なお、以下、実施例1のコク増強剤を「ex-1」と記載し、比較例1のコク増強剤を「cex-1」と記載する。その他の実施例及び比較例も同様である。また、ex-1を使用して製造された検討1のワイヤーカットクッキーを「ex-1-1」と記載し、cex-1を使用して製造された検討1のワイヤーカットクッキーを「cex-1-1」と記載する。その他の実施例及び比較例も同様であり、検討2及び検討3においても同様である。
【0145】
【0146】
<ワイヤーカットクッキーの製造>
表2の配合にしたがって、以下の手順でワイヤーカットクッキーを製造した。
【0147】
冷蔵保管されたショートニングとex-1~8及びcex-1~5のコク増強剤を、20℃に調温した。調温が終了した後、調温済のショートニングと各ベーカリー食品用コク増強剤とてんさい糖とを軽く混合したのち、ビーターを用いて高速で7分間クリーミングした。次いで水を、撹拌しながら3回に分けて添加した。
【0148】
得られた混合物に、予め篩っておいた薄力粉とベーキングパウダーとを添加し、低速で均一になるまで混合して、ワイヤーカットクッキー生地を得た。
【0149】
得られたワイヤーカットクッキー生地を、乾燥を防ぎながら常温で30分リタードした後、ワイヤーカット成形を行い、天板を用いて上火180℃・下火170℃設定のオーブンで18分焼成してワイヤーカットクッキーを製造した。
【0150】
なお、コク増強剤を用いない他は同様に製造されたワイヤーカットクッキーを、後述する風味評価のコントロールとして設定した。
【0151】
【0152】
【0153】
<ワイヤーカットクッキーの評価>
焼成後に25℃で24時間保管していた、上記のワイヤーカットクッキーを12人のパネラーが喫食し、コントロールと比較して「コク」「甘味」の2項目について風味評価した。評価は下記の基準に沿って採点し、その合計点を評価結果とした。なお、事前にパネラーの評価基準はすり合わせを行っている。
【0154】
得られた評点の合計を、54~60点:+++、44~53点:++、36~43点:+、30~35:±、18~29点:-、0~17点:--として表3に表記した。
【0155】
コクについて、「+」以上の評価を得たものを合格品とした。
<<評価基準:コク>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、又はコントロールと比較して弱い。
<<評価基準:甘味>>
5点:コントロールと比較して、非常に向上している。
3点:コントロールと比較して、向上している。
1点:コントロールと比較して、やや向上している。
0点:コントロールと同等である、又はコントロールと比較して弱い。
【0156】
評価の結果、油脂A及び油脂Bを含有する、コク増強剤を用いて製造されたワイヤーカットクッキーは、コントロールと比較してコクが増強していることが確認された。
【0157】
一方で、コク増強剤中の油脂Bの量が多くなるほど、得られるワイヤーカットクッキーに対してコク以外の風味が付与される傾向も確認された。とりわけcex-1-3は油脂Bの風味が強く付与されており、コク増強剤の配合によっては、コクを増強するものであっても、目的とする風味が十分に得られない、ないしは阻害する場合があることが知見された。
【0158】
また、ワイヤーカットクッキーのコク以外の風味についても、本発明のコク増強剤が寄与することが伺われ、とりわけワイヤーカットクッキーの甘味が改善されることが知見された。
【0159】
<検討2:ベーカリー食品の製造に用いられる、コク増強剤の量について>
検討2では、ベーカリー食品の製造に用いられるコク増強剤の量について検討を行った。具体的には、検討1で評価が良好であったex-3のコク増強剤を用いて、表4の配合に則ってワイヤーカットクッキーを製造し、評価を行った。その評価結果を表5に示す。
【0160】
なお、ワイヤーカットクッキーの製造方法及び評価方法は、検討1と同様である。
【0161】
【0162】
【0163】
評価の結果、コク増強剤の量を問わず、製造されたワイヤーカットクッキーは、コントロールと比較してコクが増強していることが確認された。
【0164】
一方で、コク増強剤を添加するほどにコクを付与・増強することができるわけではなく、コク増強剤の量が一定量以上に高めても、コクの改善効果は頭打ちになることがうかがわれた。
【0165】
また、コク増強剤の量を適切な範囲とすることで、ベーカリー食品の甘味をより向上させることができることが知見された。
【0166】
<検討3:ベーカリー食品の種類について>
検討3では、ベーカリー食品の種類を変えて、本発明のコク増強剤の効果について検討を行った。具体的には、検討1で評価が良好であったex-3のコク増強剤を用いて、表6の配合に則ってベーカリー食品であるパイを製造し、評価を行った。その評価結果を表7に示す。
【0167】
なお、評価方法は検討1と同様である。
【0168】
<パイの製造>
表6の配合にしたがって、以下の手順でパイを製造した。
【0169】
まず、折込油脂以外のすべての原料を縦型ミキサーに投入し、低速で2分撹拌した後、中速で5分撹拌し、ドウ生地を得た。
【0170】
次いで、このドウ生地を-20℃に設定された冷凍庫で30分リタードした後、ドウ生地をシート状に圧延し折込油脂を積載して、常法により折り込み(四つ折りを4回)した後、5℃に設定された冷蔵庫で30分リタードした。
【0171】
さらに、三つ折りを1回実施し、縦55mm×横10mm×厚さ10mmに成形した。成形した生地を天板に載せ、上火220℃・下火220℃に設定されたオーブンで12分焼成し、パイを得た。
【0172】
なお、コク増強剤を用いない他は同様に製造されたパイを、検討3における風味評価のコントロールとして設定した。
【0173】
【0174】
【0175】
評価の結果、ベーカリー食品の種類を問わず、コクを付与・増強することができることが知見された。
【0176】
一方で、ワイヤーカットクッキー同様に、コク増強剤を添加するほどにコクを付与・増強することができるわけではなく、コク増強剤の量が一定量以上に高めても、コクの改善効果は頭打ちになることがうかがわれた。
【0177】
また、コク増強剤の量を適切な範囲とすることで、得られるパイの甘味をより向上させることができることが知見された。
【0178】
<検討4:ベーカリー食品の配合について>
検討4では、ベーカリー食品の糖質含量を抑えた配合により検討を行った。具体的には、穀粉類に代えて低糖質食品原料を用い、検討1で評価が良好であったex-3のコク増強剤を用いた配合により、本発明のコク増強剤の効果について検討を行った。表8の配合に則ってベーカリー食品であるクッキーを製造し、評価を行った。その評価結果を表9に示す。
【0179】
なお、評価方法は検討1と同様であり、表8中のアーモンドプードル、難消化性デキストリン、大豆粉、難消化性澱粉は、低糖質食品原料に該当するものである。
【0180】
<ワイヤーカットクッキーの製造>
表8の配合にしたがって、以下の手順でワイヤーカットクッキーを製造した。
【0181】
冷蔵保管されたショートニングとex-3のコク増強剤を、20℃に調温した。調温が終了した後、調温ショートニングとex-3のコク増強剤に対して、水と卵と塩を予め混合しておいた混合液を3回に分けて混合しながら添加した。
【0182】
得られた混合物に、上白糖、予め篩っておいたアーモンドプードル及び難消化性デキストリン、大豆粉、難消化性澱粉、ベーキングパウダーを添加し、ミキサーを用いて低速で均一になるまで混合して、ワイヤーカットクッキー生地を得た。
【0183】
得られたワイヤーカットクッキー生地を、乾燥を防ぎながら常温で1時間リタードした後、ワイヤーカット成形を行い、天板を用いて上火180℃下火170℃設定のオーブンで15分焼成してワイヤーカットクッキーを製造した。
【0184】
なお、コク増強剤を用いない他は同様に製造されたワイヤーカットクッキーを、後述する風味評価のコントロールとして設定した。
【0185】
【0186】