(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116018
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】重水素化化合物の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C07B 59/00 20060101AFI20240820BHJP
C07D 209/88 20060101ALI20240820BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
C07B59/00
C07D209/88
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021993
(22)【出願日】2023-02-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】染谷 巧
(72)【発明者】
【氏名】並木 航太
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC84
4H006AD16
4H006BA09
4H006BA17
4H006BA30
4H006BD33
4H006BD52
4H006BD84
4H006CN10
4H006CN20
4H039CD10
4H039CL60
(57)【要約】
【課題】芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造を有する化合物を重水素化してなる重水素化化合物を連続的かつ効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を重水素化して重水素化化合物を連続的に製造する方法であって、遷移金属触媒が存在する反応器を使用し、化合物を含む原料に対して水素同位体交換反応を1回以上行って重水素化化合物を含む生成物を得る工程(A)と、工程(A)における水素同位体交換反応の終了後に反応器を洗浄する工程(B)とを含み、工程(A)の水素同位体交換反応は、被重水素化物と重水とを反応器へ連続的に供給することにより行い、工程(B)の洗浄は、洗浄溶液、或いは、洗浄溶液と被重水素化物および重水の少なくとも一方との混合液を反応器に流通させることにより行う、重水素化化合物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を重水素化して重水素化化合物を連続的に製造する方法であって、
遷移金属触媒が存在する反応器を使用し、前記化合物を含む原料に対して水素同位体交換反応を1回以上行って前記重水素化化合物を含む生成物を得る工程(A)と、
前記工程(A)における水素同位体交換反応の終了後に、前記反応器を洗浄する工程(B)と、
を含み、
前記工程(A)の水素同位体交換反応は、被重水素化物と重水とを含む流体を前記反応器へ連続的に供給することにより行い、
前記工程(B)の洗浄は、洗浄溶液、或いは、洗浄溶液と前記被重水素化物および重水の少なくとも一方との混合液を前記反応器に流通させることにより行う、重水素化化合物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)では、前記化合物を含む原料に対して水素同位体交換反応を複数回行って前記重水素化化合物を含む生成物を得る、請求項1に記載の重水素化化合物の製造方法。
【請求項3】
前記複数回の水素同位体交換反応を、前記反応器を備える反応ユニットを複数直列接続してなる装置を用いて行う、請求項2に記載の重水素化化合物の製造方法。
【請求項4】
前記複数回の水素同位体交換反応を、前記反応器で得られた反応生成物の少なくとも一部を反応器入口側へと戻す循環流路を備える装置を用いて行う、請求項2に記載の重水素化化合物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(B)において前記洗浄溶液または前記混合液を前記反応器に流通させる際の流量を、前記工程(A)において前記反応器に流入させた前記流体の流量の0.8倍以上1.2倍以下とする、請求項1に記載の重水素化化合物の製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)では、前記混合液を前記反応器に流通させた後、前記洗浄溶液のみを前記反応器に流通させて前記洗浄を行う、請求項1~5の何れかに記載の重水素化化合物の製造方法。
【請求項7】
前記混合液が、前記洗浄溶液と前記重水との混合液である、請求項6に記載の重水素化化合物の製造方法。
【請求項8】
軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を重水素化して重水素化化合物を連続的に製造する装置であって、
内部に遷移金属触媒が存在する反応器と、前記反応器に被重水素化物を供給する被重水素化物供給源と、前記反応器に重水を供給する重水供給源と、前記反応器の洗浄に用いられる洗浄溶液を供給する洗浄溶液供給源とを有する反応ユニットを備える、重水素化化合物の製造装置。
【請求項9】
前記反応ユニットが、前記反応器の前段に設けられて前記被重水素化物供給源から供給された前記被重水素化物と前記重水供給源から供給された重水とを混合する混合器を更に備え、
前記洗浄溶液供給源は、前記被重水素化物供給源と前記混合器とを接続する流路に接続されている、請求項8に記載の重水素化化合物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重水素化化合物の製造方法および重水素化化合物の製造装置に関し、特には、芳香環および/または複素環を有する化合物を重水素化して重水素化化合物を製造する方法並びに装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重水素原子は、水素原子の安定同位体の一種であり、水素原子とは異なる物理的性質を有している。従って、重水素化された化合物は、通常の化合物とは物性が異なるだけなく、異なる化学反応性を示すことがある。このような特徴から、化合物を重水素化することにより、これまでにない機能を付与できる可能性がある。そのため、重水素化化合物には、電子材料、有機EL材料等をはじめとする様々な機能性材料への応用が期待されている。
【0003】
また、重水素化化合物は、質量分析等の化学物質の微量分析における内部標準物質、並びに、反応機構や物質代謝などの解明に用いる標識化合物として広く利用されている。
【0004】
中でも、医薬や農薬などの様々な分野で分析対象となる化学物質には、芳香環や複素環を有するものが多いため、芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造を有する化合物を重水素化してなる重水素化化合物は、有用な物質として注目されている。
【0005】
そして、従来、芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造を有する化合物を重水素化してなる重水素化化合物の製造方法としては、例えば、予め水素ガスで還元したパラジウム触媒を用いて加熱条件下で芳香族化合物を重水素化する方法(非特許文献1参照)、2-プロパノールなどの2級アルコールと白金触媒の共存下で芳香族化合物を重水素化する方法(特許文献1参照)、および、白金触媒とアルミニウム粉末の存在下で加熱により芳香族化合物を重水素化する方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6191325号公報
【特許文献2】特開2009-184928号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Christopher Hardacre, John D.Holbrey and S.E.Jane McMath,Chem.Commun.,2001,367-378
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、重水素化化合物を大量かつ効率的に生産するためには、連続式の反応器を用いて原料化合物を重水素化することが好ましい。しかし、本発明者らが芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造を有する化合物の重水素化を連続式の反応器を備える装置で行ったところ、重水素化反応の終了後すぐに装置を停止した場合には析出物等によって反応器や配管等の流路に閉塞や汚れ(以下、「閉塞等」と称する。)が生じ、閉塞等の解消に多大な労力が必要になることが明らかとなった。
【0009】
そこで、本発明は、芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造を有する化合物を重水素化してなる重水素化化合物を連続的かつ効率的に製造する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明の重水素化化合物の製造方法は、軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を重水素化して重水素化化合物を連続的に製造する方法であって、遷移金属触媒が存在する反応器を使用し、前記化合物を含む原料に対して水素同位体交換反応を1回以上行って前記重水素化化合物を含む生成物を得る工程(A)と、前記工程(A)における水素同位体交換反応の終了後に、前記反応器を洗浄する工程(B)とを含み、前記工程(A)の水素同位体交換反応は、被重水素化物と重水とを含む流体を前記反応器へ連続的に供給することにより行い、前記工程(B)の洗浄は、洗浄溶液、或いは、洗浄溶液と前記被重水素化物および重水の少なくとも一方との混合液を前記反応器に流通させることにより行うことを特徴とする。このように、工程(A)における水素同位体交換反応の終了後に洗浄溶液または混合液を用いた反応器の洗浄を行えば、析出物等により反応器等に閉塞等が生じるのを抑制し、重水素化化合物を連続的かつ効率的に大量生産することができる。
【0011】
ここで、[2]上記[1]の重水素化化合物の製造方法において、前記工程(A)では、前記化合物を含む原料に対して水素同位体交換反応を複数回行って前記重水素化化合物を含む生成物を得ることが好ましい。化合物の重水素化を複数回の水素同位体交換反応により行えば、反応効率を高めることができる。
【0012】
また、[3]上記[2]の重水素化化合物の製造方法では、前記複数回の水素同位体交換反応を、前記反応器を備える反応ユニットを複数直列接続してなる装置を用いて行い得る。
【0013】
更に、[4]上記[2]の重水素化化合物の製造方法では、前記複数回の水素同位体交換反応を、前記反応器で得られた反応生成物の少なくとも一部を反応器入口側へと戻す循環流路を備える装置を用いて行い得る。
【0014】
また、[5]上記[1]~[4]の何れかの重水素化化合物の製造方法では、前記工程(B)において前記洗浄溶液または前記混合液を前記反応器に流通させる際の流量を、前記工程(A)において前記反応器に流入させた前記流体の流量の0.8倍以上1.2倍以下とすることが好ましい。工程(B)において洗浄溶液または混合液を反応器に流通させる際の流量を上記範囲内にすれば、析出物等の発生を更に抑制することができる。
【0015】
そして、[6]上記[1]~[5]の何れかの重水素化化合物の製造方法では、前記工程(B)では、前記混合液を前記反応器に流通させた後、前記洗浄溶液のみを前記反応器に流通させて前記洗浄を行うことが好ましい。工程(B)において混合液を流通させた後に洗浄溶液を流通させれば、洗浄溶液のみを流通させて洗浄を行う場合と比較し、析出物等の発生を更に抑制することができる。
【0016】
なお、[7]上記[6]の重水素化化合物の製造方法では、前記混合液が、前記洗浄溶液と前記重水との混合液であることが好ましい。洗浄溶液と重水との混合液を用いれば、被重水素化物を含む混合液を用いる場合と比較し、低コストで洗浄を行うことができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[8]本発明の重水素化化合物の製造装置は、軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を重水素化して重水素化化合物を連続的に製造する装置であって、内部に遷移金属触媒が存在する反応器と、前記反応器に被重水素化物を供給する被重水素化物供給源と、前記反応器に重水を供給する重水供給源と、前記反応器の洗浄に用いられる洗浄溶液を供給する洗浄溶液供給源とを有する反応ユニットを備えることを特徴とする。このように、洗浄溶液供給源を設ければ、洗浄溶液、或いは、洗浄溶液と被重水素化物および重水の少なくとも一方との混合液を用いて反応器を洗浄することができるので、析出物等により反応器等に閉塞等が生じるのを抑制し、重水素化化合物を連続的かつ効率的に大量生産することができる。
【0018】
ここで、[9]上記[8]の重水素化化合物の製造装置は、前記反応ユニットが、前記反応器の前段に設けられて前記被重水素化物供給源から供給された前記被重水素化物と前記重水供給源から供給された重水とを混合する混合器を更に備え、前記洗浄溶液供給源は、前記被重水素化物供給源と前記混合器とを接続する流路に接続されていることが好ましい。洗浄溶液供給源が被重水素化物供給源と混合器とを接続する流路に接続されていれば、析出物等により混合器が閉塞等するのを抑制することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造を有する化合物を重水素化してなる重水素化化合物を連続的かつ効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】重水素化化合物の製造装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図2】重水素化化合物の製造装置の他の例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
ここで、本発明の重水素化化合物の製造方法および重水素化化合物の製造装置は、軽水素と、芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を重水素化してなる重水素化化合物を連続的に製造する際に用いられる。
【0022】
なお、本発明において、「重水素化」とは、化合物に重水素原子を結合させることを指す。ここでいう「重水素原子」とは、ジュウテリウム(D,2H)またはトリチウム(T,3H) のことを指し、「重水素化」とは、ジュウテリウム化および/またはトリチウム化のことを指す。また、「結合」とは、共有結合等の化学結合を意味する。重水素化の具体例としては、特に限定されることなく、化合物に含まれる芳香環や複素環の環骨格を構成する炭素原子やヘテロ原子に結合している水素原子を重水素原子で置換すること、並びに、化合物に含まれる芳香環や複素環の環骨格に結合している基がある場合には、この基を構成する水素原子を重水素原子で置換することが挙げられる。
【0023】
(重水素化化合物の製造方法)
本発明の重水素化化合物の製造方法は、遷移金属触媒が存在する反応器を使用し、軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を含む原料に対して水素同位体交換反応を1回以上行って重水素化化合物を含む生成物を得る工程(A)と、水素同位体交換反応の終了後に反応器を洗浄する工程(B)とを含み、任意に、生成物を後処理する工程等のその他の工程を更に含んでいてもよい。
【0024】
<工程(A)>
工程(A)では、軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を含む原料に対して水素同位体交換反応をn回(但し、nは1以上の整数)行い、重水素化化合物を含む生成物を得る。そして、工程(A)において、n回の水素同位体交換反応は、それぞれ、被重水素化物と重水とを含む流体を遷移金属触媒が存在する反応器へ連続的に供給することにより行う。
【0025】
[原料]
ここで、水素同位体交換反応に供される原料は、軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物のみで構成されていてもよいし、該化合物と有機溶媒との混合物であってもよい。
【0026】
-化合物-
上記化合物は、軽水素と、芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物である限り特に限定されず、芳香環および複素環の何れか一方のみを有する化合物であってもよいし、芳香環および複素環の双方を有する化合物であってもよい。また、化合物中に含まれる環構造の数は、1つでもあってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0027】
ここで、化合物が有する芳香環は、単環式および多環式のいずれでもよいが、単環式であることが好ましい。また、多環式である場合には、二環式であることが好ましい。
また、化合物が有する芳香環において、一つの環骨格を構成する炭素原子の数は、特に限定されないが、5以上7以下であることが好ましく、5または6であることがより好ましく、6であることが特に好ましい。
【0028】
そして、軽水素と芳香環とを有する化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、ピロカテコール、レソルシノール、ハイドロキノン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、1-ナフトール、2-ナフトール、ビフェニル、アズレン、1-アントロール、2-アントロール、9-アントロール、1-フェナントロール、2-フェナントロール、3-フェナントロール、4-フェナントロール、9-フェナントロール、アニリン、ジフェニルアミン、2,6-ジメチルアニリン、ベンジジン、安息香酸、サリチル酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ベンズアルデヒド、サリチル酸、1-ナフトアルデヒド、2 - ナフトアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が例示できる。
中でも、ベンゼン、トルエン、フェノール、アニリン、1-ナフトールが好ましい。
【0029】
化合物が有する複素環とは、環骨格中にヘテロ原子を有するものであり、ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子またはケイ素原子が好ましく、窒素原子または硫黄原子がより好ましい。複素環は、芳香族性を示すものであっても、芳香族性を示さないものであってもよいが、芳香族性を示すものが好ましい。
また、化合物が有する複素環において、一つの環骨格中のヘテロ原子の数は、該環骨格を構成する原子の総数にもより、特に限定されないが、1以上3以下であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。一つの環骨格中のヘテロ原子の数が複数である場合には、これら複数のヘテロ原子は、すべて同一種類でもよいし、一部が同一種類でもよいし、すべて異なる種類でもよい。一つの環骨格中に複数種類のヘテロ原子を含む場合には、その組み合わせは特に限定されないが、窒素原子および硫黄原子の組み合わせが好ましい。
なお、化合物が有する複素環は、単環式および多環式のいずれでもよいが、多環式である場合には、二環式または三環式であることが好ましい。
【0030】
そして、軽水素と複素環とを有する化合物としては、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-メチル-5-ニトロイミダゾール、1,2-ジメチル-5-ニトロイミダゾール、2-メチル-5-ニトロイミダゾール-1- エタノール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、2H-ピラン、4H-ピラン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キノリン、イソキノリン、プリン、インドール、ベンゾイミダゾール、2-ヒドロキシベンゾイミダゾール、2-アミノベンゾイミダゾール、ベンゾチオフェン、フェナジン、フェノチアジン、ニコチン酸、イソニコチン酸、ニコチンアルデヒド、イソニコチンアルデヒド等が例示できる。
中でも、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、ピリジンが好ましい。
【0031】
なお、軽水素と芳香環とを有する化合物および軽水素と複素環とを有する化合物は、上記で具体的に例示した化合物の少なくとも一つの水素原子が置換基で置換されたものでもよい。置換基で置換される水素原子の数は、芳香環または複素環の種類にもよるが、1以上3以下であることが好ましい。
【0032】
ここで、上述した置換基は、本発明の効果を妨げないものであれば特に限定さない。具体的には、置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアリール基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子が例示できる。
【0033】
置換基としてのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれでもよい。直鎖状および分岐鎖状のアルキル基は、炭素数が1以上5以下であることが好ましい。直鎖状および分岐鎖状のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基が例示できる。中でも、炭素数が1以上3以下であるものがより好ましく、メチル基が特に好ましい。環状のアルキル基は、単環式および多環式のいずれでもよく、また、炭素数が5以上10以下であることが好ましく、炭素数が5以上7以下であることがより好ましい。
【0034】
置換基としてのアルケニル基およびアルキニル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれでもよい。直鎖状および分岐鎖状のものは、炭素数が2以上4以下であることが好ましい。環状のものは、単環式および多環式のいずれでもよく、また、炭素数が5以上10以下であることが好ましく、炭素数が5以上7以下であることがより好ましい。
【0035】
置換基としてのアリール基は、単環式および多環式のいずれでもよいが、単環式のものが好ましく、フェニル基またはトリル基が特に好ましい。
【0036】
置換基としてのアリールアルキル基としては、アルキル基の少なくとも一つの水素原子が上述したアリール基で置換されたものが例示できる。アリール基で置換される水素原子の数は、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0037】
置換基としてのアルコキシ基としては、上述したアルキル基の炭素原子が酸素原子に結合したものが例示できる。
【0038】
置換基としてのアリールオキシ基としては、上述したアルコキシ基の酸素原子に結合しているアルキル基が上述したアリール基で置換されたものが例示できる。
【0039】
置換基としてのアルコキシアルキル基としては、上述したアルキル基の少なくとも一つの水素原子が上述したアルコキシ基で置換されたものが例示できる。上述したアルコキシ基で置換される水素原子の数は、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0040】
置換基としてのアリールオキシアルキル基としては、上述したアルコキシアルキル基の酸素原子に結合しているアルキル基が上述したアリール基で置換されたものが例示できる。
【0041】
置換基としてのアルコキシカルボニルアルキル基としては、上述したアルコキシアルキル基の「-O-」が「-O-C(=O)-(但し、炭素原子に単結合で結合している酸素原子はアルキル基に、炭素原子はアルキレン基にそれぞれ結合する)」で置換されたものが例示できる。
【0042】
置換基としてのアルコキシカルボニル基としては、上述したアルコキシ基の酸素原子がカルボニル基に結合したものが例示できる。
【0043】
置換基としてのアリールオキシカルボニル基としては、前記アルコキシカルボニル基のアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
【0044】
置換基としてのアルキルカルボニルオキシアルキル基としては、上述したアルコキシカルボニルアルキル基の「-O-C(=O)-」が「-C(=O)-O-」で置換されたものが例示できる。
【0045】
置換基としてのアルキルカルボニルオキシ基としては、上述したアルコキシカルボニル基の「-O-C(=O)-」が「-C(=O)-O-」で置換されたものが例示できる。
【0046】
置換基としてのアリールカルボニルオキシ基としては、上述したアルキルカルボニルオキシ基のアルキル基が上述したアリール基で置換されたものが例示できる。
【0047】
置換基としてのヒドロキシアルキル基としては、上述したアルキル基の少なくとも一つの水素原子が水酸基で置換されたものが例示できる。水酸基で置換される水素原子の数は、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。中でも、炭素数が1以上3以下であるものが好ましく、ヒドロキシエチル基が特に好ましい。
【0048】
置換基としてのヒドロキシアリール基としては、上述したヒドロキシアルキル基のアルキレン基が、上述したアリール基から水素原子を一つ除いたアリーレン基で置換されたものが例示できる。
【0049】
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が例示できる。
【0050】
また、軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物としては、例えば、上記で具体的に例示した軽水素と芳香環とを有する化合物および/または軽水素と複素環とを有する化合物から水素原子を除いたもの同士が、水素原子が除かれた原子間で互いに結合した構造を有するものでも良い。この時の互いに結合しているものの組み合わせは特に限定されず、例えば、芳香環のみを有する化合物、複素環のみを有する化合物、芳香環および複素環を有する化合物からなる群から選択される。また、結合している上記化合物の数は特に限定されないが、2または3であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0051】
このような化合物としては、好ましくは、2-(4-チアゾイル)ベンゾイミダゾール、1-フェニルイソキノリン、1-フェニルピラゾール、p-トリルピリジン、フェニルピリジンが例示できる。
【0052】
-有機溶媒-
有機溶媒は、上述した化合物を溶解でき、かつ、上述した化合物を溶解させた溶液が水と混和しないものであればよく、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のアルコール;n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン等のアルカン化合物;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル化合物;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられ、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピルが好ましく、酢酸エチルがより好ましい。
有機溶媒を使用すれば、上述した化合物が固体化合物である場合であっても、原料をポンプなどで送液することが可能になる。
【0053】
[水素同位体交換反応]
n回の水素同位体交換反応は、それぞれ、被重水素化物と重水とを含む流体を遷移金属触媒が存在する反応器へ連続的に供給することにより行う。
なお、水素同位体交換反応は、流体として水素などのガスも供給し、被重水素化物や重水と、水素などのガスとを混合・共存させた状態で行ってもよい。
そして、水素同位体交換反応において重水素原子で置換され得る水素原子としては、基質が芳香環および複素環のいずれか一方のみを有するものである場合には、その芳香環または複素環の環骨格を構成する炭素原子やヘテロ原子に結合している水素原子と、該環骨格に結合している基を構成する水素原子が挙げられ、基質が芳香環および複素環の双方を有するものである場合には、その芳香環および複素環の環骨格を構成する炭素原子やヘテロ原子に結合している水素原子と、該環骨格に結合している基を構成する水素原子が挙げられる。
【0054】
-被重水素化物-
ここで、工程(A)において原料に対して行う水素同位体交換反応の回数が1回(n=1)の場合は、被重水素化物は基質として上述した化合物を含む原料である。
また、工程(A)において原料に対して水素同位体交換反応を複数回行う場合(即ち、nが2以上の場合)は、1回目の水素同位体交換反応では、被重水素化物は基質として上述した化合物を含む原料であり、2回目以降の水素同位体交換反応(α回目の水素同位体交換反応)では、被重水素化物は前段(α-1回目)の水素同位体交換反応で得られた生成物に由来する中間生成物である。
【0055】
そして、中間生成物としては、原料に含まれていた化合物が一部重水素化されてなる化合物を基質として含むものであれば特に限定されることなく、例えば前段(α-1回目)の水素同位体交換反応で得られた生成物から既知の手法を用いて水層を分離して得られる有機層や、該有機層と上述した有機溶媒との混合物などが挙げられる。
【0056】
なお、被重水素化物中の基質の濃度は、所望の重水素化化合物量および重水素化率、並びに、水素同位体交換反の反応条件などに応じて適宜に設定することができる。
【0057】
-重水-
重水としては、特に限定されることなく、純度が、好ましくは90atom%以上、より好ましくは95atom%以上、特に好ましくは99atom%以上のものを使用し得る。
【0058】
-遷移金属触媒-
本明細書において、遷移金属とは、第3族~第11族に属する金属のことを指し、重水素化反応の触媒機能を有する公知のものが例示できる。中でも、プラチナ、パラジウムおよびルテニウムが好ましい。そして、遷移金属触媒としては、遷移金属を活性アルミナなどの担体の表面に担持してなる既知の遷移金属担持固体触媒が使用できる。具体的には、遷移金属担持固体触媒としては、プラチナ-活性アルミナ(プラチナアルミナ)、パラジウム-活性アルミナ(パラジウムアルミナ)、ルテニウム-活性アルミナ(ルテニウムアルミナ)およびロジウム-活性アルミナ(ロジウムアルミナ) が好ましく、プラチナ-活性アルミナおよびパラジウム-活性アルミナがより好ましい。
なお、遷移金属は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせおよび比率は目的に応じて適宜選択し得る。
【0059】
-反応器-
反応器としては、特に限定されることなく、遷移金属触媒を充填した反応管などの内部に遷移金属触媒が存在する既知の連続式反応器を用いることができる。なお、反応器は、通常、供給された被重水素化物および重水を含む流体を加熱して水素同位体交換反応を進行させるための加熱源を備えている。
【0060】
中でも、反応器としては、バッチ式反応器のような分子拡散に至るまでの積極的な攪拌(滞留渦拡散)が不要であり、高収量化および低コスト化が容易であると共に安全性が高いフロー式反応器を用いることが好ましい。なお、フロー式反応器とは、材料となる化学物質を連続的に混合場へ供給して混合し、後続の反応場にて化学反応を完結するものであり、極端な反応条件(例えば高温、高圧)を設定し易い、製造の停止ならびに再開が容易である、災害発生時のスケールが小さい、スケールアップが容易である、熱的な効率に優れる、設備費用が小額である等の利点を有する反応器である。
【0061】
なお、工程(A)において原料に対して水素同位体交換反応を複数回行う場合(即ち、nが2以上の場合)には、工程(A)では、特に限定されることなく、例えば反応器を備える反応ユニットをn個直列接続してなる装置を用いてn回の水素同位体交換反応を行ってもよいし、反応器で得られた反応生成物の少なくとも一部を反応器入口側へと戻す循環流路を備える装置を使用し、中間生成物を循環させてn回の水素同位体交換反応を行ってもよい。
【0062】
-反応条件-
水素同位体交換反応は、反応器に供給された被重水素化物および重水を含む流体を加熱することにより進行させることができる。そして、反応温度は、被重水素化物に含まれている基質の種類や濃度等を考慮して適宜調整し得るが、100℃以上250℃以下であることが好ましく、120℃以上240℃以下であることがより好ましく、140℃以上230℃以下であることが特に好ましい。
なお、加熱方法は、加熱時の温度を所望の範囲に設定できるものであればいずれでもよく、例えば、オイルバスを使用する加熱、管状炉による加熱、マイクロ波の照射による加熱等の方法を使用し得る。これらのなかでも、短時間での昇温が可能であり所望の温度に到達するまでの時間およびコストが低減できると共に水素同位体交換反応の反応促進効果が高いことから、マイクロ波の照射による加熱が好ましい。
【0063】
また、反応時の圧力は、0.5MPaG以上3MPaG以下であることが好ましく、1MPaG以上2.8MPaG以下であることがより好ましく、1.5MPaG以上2.5 MPaG以下であることが特に好ましい。圧力を上記下限値以上にすることで、高い反応促進効果が得られる。また、圧力を上限値以下にすることで、基質や目的物の分解を抑制する高い効果が得られる。更に、圧力が上記上限値以下であれば、耐圧性が高い反応器が不要であり、低コストで目的物を製造できる。
【0064】
更に、反応器内での被重水素化物および重水を含む流体の滞留時間は、基質の種類や濃度、反応温度など考慮して適宜調整し得るが、10秒以上600秒以下であることが好ましく、60秒以上300秒以下であることがより好ましく、100秒以上200秒以下であることが特に好ましい。
【0065】
また、水素同位体交換反応において、反応器への被重水素化物および重水を含む流体の供給量は、基質の種類や目標重水素化率等を考慮して適宜調整すれば良い。例えば、重水の供給量は、基質も含めた反応系内における重水素および水素の総量に占める重水素量の割合が目標重水素化率と同等以上になる量とすることができる。
【0066】
なお、重水素化率は、基質における重水素原子で置換され得る水素原子の数に対する、重水素化された化合物における重水素原子で置換された水素原子の数の割合(%)を指し、基質中の重水素原子で置換され得る水素原子の数をA、重水素化された目的物における重水素原子で置換された水素原子の数をBとすると、B/A×100 (atom%)となる。そして、結合させる重水素原子の数は、重水の使用量で調整できる。
【0067】
ここで、重水で重水素化反応を行うと仮定した場合、反応系内の体積に対する重水の体積の割合が通常の範囲内であれば、反応系内の水素原子は、基質と、重水中に混入している水(H2O) に由来するものが大半を占める。なお、通常の範囲内とは、基質と重水の供給量に対して重水の体積が著しく小さい場合を除いた場合であり、具体的には、例えば、前記割合が5%以上である場合を指す。
一方、反応系内の重水素原子は、重水に由来するものが大半を占める。基質、並びに、空気中の水素ガスおよび水にも重水素原子が混入している可能性があるが、その量は極微量であるため無視できる。
【0068】
そのため、水素同位体交換反応において、基質の供給量をW(mol/mL)、基質の重水素濃縮度(基質中の重水素原子および水素原子の総量に占める重水素の割合)をX(atom%)、重水の供給量をY(mol/mL)、重水の重水素濃縮度(重水中の重水素原子および水素原子の総量に占める重水素の割合)をZ(atom%)とすると、反応系内における水素原子の量I(mol/mL)は、
I= W×A×(100-X)/100+Y×2×(100-Z)/100
と近似できる。
一方、反応系内における重水素原子の量II(mol/mL)は、
II=W×A×X/100+Y×2×Z/100
と近似できる。
従って、反応系内における重水素および水素の総量に占める重水素量の割合III(%)は、
III=II/(I+II)×100
となる。
【0069】
即ち、例えば、基質として重水素濃縮度Xが0.0atom%でA=6であるベンゼンを供給量W=0.01mol/mL、重水素濃縮度Zが99.8atom%の重水を供給量Y=0.03mol/mLで供給した場合であれば、
I=0.01×6×(100 - 0.0)/100+0.03×2×(100-99.8)/100=0.063
II=0.01×6×0.0+0.03×2×99.8=0.062
III=0.062/(0.063+0.062)=49.5(atom%)
となる。
上述したように、本発明においては、重水素量の割合IIIが、目的物の目標重水素化率「B/A×100」よりも同じか大きくなるように、水素同位体交換反応において前記X、YおよびZ のいずれか一つ以上を調整することが好ましい。
【0070】
また、水素同位体交換反応の回数は、目的とする重水素化化合物の重水素化率(最終目標重水素化率)等を考慮して適宜調整すればよいが、反応効率を高める観点からは、複数回であることが好ましい。例えば、原料中に含まれている化合物(基質)中の重水素原子で置換され得る水素原子の数Aが6で、最終目標重水素化率が95atom%の場合には、水素同位体交換反応を3回行い、1回目の目的物の目標重水素化率を49.5atom%超、2回目の目的物の目標重水素化率を84.5atom%超、3回目の目的物の目標重水素化率を95atom%となるようにすることができる。ただし、前記反応回数と各反応ごとの目的物の目標重水素化率は、最終目標重水素化率に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0071】
中でも、重水素化化合物を効率的に生産する観点から、水素同位体交換反応の回数は、2回以上10回以下とすることが好ましく、2回以上5回以下とすることがより好ましい。
【0072】
[生成物]
工程(A)で得られる生成物は、n回の水素同位体交換反応を経て回収されたものであり、目的の重水素化化合物を含み、任意に有機溶媒などのその他の成分を更に含み得る。
なお、重水素化化合物を含む生成物は、目的に応じてそのまま使用してもよいし、適宜必要に応じて後処理を行い、重水素化化合物を取り出して使用してもよい。重水素化化合物を取り出す方法としては、周知の方法を適用すればよく、例えば、反応液やその後処理物から結晶を析出させてこれをろ過する方法や、カラムクロマトグラフィーを用いて分取する方法を用い得る。
【0073】
<工程(B)>
工程(B)では、工程(A)における水素同位体交換反応が終了した反応器を洗浄する。具体的には、工程(B)では、洗浄溶液、或いは、洗浄溶液と上述した被重水素化物および重水の少なくとも一方との混合液を反応器に流通させ、反応器を洗浄する。
このように、反応器を洗浄することで、析出物等による反応器や流路の閉塞等の発生を抑制することができる。
なお、工程(A)において複数の反応器を使用する場合、反応器の洗浄は、工程(A)において水素同位体交換反応が終了した反応器から順次行ってもよいし、全ての反応器で水素同位体交換反応が終わってから行ってもよい。
【0074】
[洗浄溶液]
洗浄溶液としては、特に限定されることなく、有機溶媒を用いることができる。洗浄用有機溶媒としては、水素同位体交換反応の基質が液体であった場合は基質と混和するもの、水素同位体交換反応の基質が固体であった場合は当該基質を溶解でき、且つ、基質を溶解させた溶液が水と混和しないものであればよい。具体的には、洗浄用有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のアルコール;n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン等のアルカン化合物;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル化合物;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられ、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピルが好ましく、酢酸エチルがより好ましい。
【0075】
[混合液]
混合液としては、洗浄溶液と被重水素化物との混合液、洗浄溶液と重水との混合液、洗浄溶液と被重水素化物と重水との混合液の何れを用いてもよいが、洗浄溶液と被重水素化物との混合液、または、洗浄溶液と重水との混合液が好ましい。中でも、コスト低減の観点からは、洗浄溶液と重水との混合液が特に好ましい。
【0076】
なお、各成分(洗浄溶液、被重水素化物、重水)の混合比率は特に限定されないが、洗浄効率の観点からは、混合液は洗浄溶液を5体積%以上含むことが好ましく、20体積%以上含むことがより好ましく、25体積%以上含むことが更に好ましい。
【0077】
[洗浄条件]
洗浄は、洗浄溶液または混合液を反応器に流通させることにより行うことができ、1段階で行ってもよいし、反応器に流通させる液体や流通条件を変更しつつ多段階で行ってもよい。中でも、洗浄は、反応器に流通させる液体を変更しつつ多段階で行うことが好ましく、混合液を反応器に流通させて第1段階の洗浄を行った後、洗浄溶液のみを反応器に流通させて第2段階の洗浄を行う2段階で行うことがより好ましい。反応器内に流通させる流体の組成を急に変更した場合、流体の比重の変化等に起因して析出物等が発生する可能性があるが、多段階で洗浄を行い、最初に混合液を流せば、反応器を良好に洗浄しつつ反応器等の閉塞等を更に良好に抑制することができる。
なお、反応器内に流通させる流体の組成の急激な変化に伴う析出物等の発生を抑制する観点からは、工程(A)における水素同位体交換反応は、水素等のガスを使用せずに行うことが好ましく、マイクロ波の照射により被重水素化物および重水を加熱しつつ水素等のガスを使用せずに行うことがより好ましい。反応促進効果が高いマイクロ波の照射を用いれば、水素等のガスを使用しなくても高い反応効率を達成することができる。
【0078】
また、洗浄溶液または混合液を反応器に流通させる際の流量は、特に限定されるものではないが、洗浄対象の反応器において水素同位体交換反応を行っていた際に反応器に供給されていた被重水素化物および重水を含む流体の流量の0.8倍以上1.2倍以下であることが好ましく、0.9倍以上1.1倍以下であることがより好ましく、流体の流量と同等であることが更に好ましい。水素同位体交換反応時の被重水素化物および重水を含む流体の流量の0.8倍以上1.2倍以下の流量で洗浄溶液または混合液を流通させれば、流量変化に起因した系内圧力の変動によって系内に残存している基質の有機溶媒への溶解度が下がり、析出物が発生して反応器等を閉塞させることを抑制することができる。
なお、本発明において流量が「同等」とは、例えばポンプの設定流量が同一であること等を指し、厳密な意味で流量の値が完全に一致することを指すものではない。具体的には、機械誤差や流量の制御時に不可避的に発生する定常偏差による流量の相違は「同等」の範囲に含まれるものとする。
【0079】
ここで、水素同位体交換反応を行っていた際の流体の流量とは、通常、被重水素化物および重水のみを用いて水素同位体交換反応を行っていた場合には被重水素化物の流量と重水の流量との合計流量を指し、被重水素化物および重水に加えて水素等のガスを用いて水素同位体交換反応を行っていた場合には、被重水素化物の流量と、重水の流量と、水素等のガスの流量との合計流量を指す。
【0080】
また、洗浄溶液または混合液を反応器に流通させる時間は、反応器等に閉塞等が生じるのを抑制することができれば特に限定されず、反応器で行われた水素同位体交換反応の内容および条件に応じて適宜に設定することができる。
【0081】
更に、洗浄溶液または混合液を反応器に流通させる際の温度および圧力は、特に限定されず、水素同位体交換反応において被重水素化物および重水を含む流体を反応器に供給していた際の温度および圧力と同等であってもよいし、異なっていてもよい。中でも、反応器の洗浄を多段階で行う場合には、水素同位体交換反応において被重水素化物および重水を含む流体を反応器に供給していた際の温度および圧力と同等の温度および圧力で洗浄溶液または混合液を反応器に流通させた後に、被重水素化物および重水を含む流体を反応器に供給していた際の温度および圧力よりも低い温度および圧力で洗浄溶液または混合液を反応器に流通させることが好ましい。洗浄開始時に温度および圧力を急に変更した場合、温度および圧力の変化に起因して析出物等が発生する可能性があるが、多段階で洗浄を行い、段階的に温度および圧力を低下させれば、反応器を良好に洗浄しつつ反応器等の閉塞等を更に良好に抑制することができる。
ここで、水素同位体交換反応において被重水素化物および重水を含む流体を反応器に供給していた際の温度よりも低い温度としては、例えば、10℃以上35℃以下が挙げられる。また、水素同位体交換反応において被重水素化物および重水を含む流体を反応器に供給していた際の圧力よりも低い圧力としては、0.2MPaG以上0.5MPaG以下が挙げられる。そして、本発明において温度や圧力が「同等」とは、例えば温度や圧力の設定値が同一であること等を指し、厳密な意味で温度や圧力の値が完全に一致することを指すものではない。具体的には、機械誤差や制御時に不可避的に発生する定常偏差による温度や圧力の相違は「同等」の範囲に含まれるものとする。
【0082】
中でも、工程(B)における洗浄は、水素同位体交換反応において被重水素化物および重水を含む流体を反応器に供給していた際の温度および圧力と同等の温度および圧力で混合液を流通させた後、水素同位体交換反応において被重水素化物および重水を含む流体を反応器に供給していた際の温度および圧力よりも低い温度および圧力で洗浄溶液のみを流通させることにより行うことが好ましい。水素同位体交換反応時と同等の温度および圧力で混合液を流通させれば、析出物等の発生を更に抑制することができる。また、混合液を流通させた後で温度および圧力を低下させる際に洗浄溶液のみを用いれば、析出物等の発生を抑制しつつ、混合液を使用し続けた場合と比較して洗浄に要するコストを低減することができる。
【0083】
(重水素化化合物の製造装置)
本発明の重水素化化合物の製造装置は、上述した本発明の重水素化化合物の製造方法を用いて重水素化物を連続的に製造する際に好適に用いることができる。
【0084】
ここで、本発明の重水素化化合物の製造装置は、軽水素と芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造とを有する化合物を重水素化して重水素化化合物を連続的に製造する装置であり、被重水素化物に対して水素同位体交換反応を行うと共に水素同位体交換反応後に反応器を洗浄可能な反応ユニットを有している。また、本発明の重水素化化合物の製造装置の反応ユニットは、内部に遷移金属触媒が存在する反応器と、反応器に被重水素化物を供給する被重水素化物供給源と、反応器に重水を供給する重水供給源と、反応器の洗浄に用いられる洗浄溶液を供給する洗浄溶液供給源とを有する。また、反応ユニットは、任意に、反応器の前段に設けられて被重水素化物供給源から供給された被重水素化物および重水供給源から供給された重水を混合する混合器、ポンプ、水層と有機層とを分離する水/有機層分離器、水素などのガスと混合・共存させた状態で水素同位体交換反応を行う際に用いるガスを反応器へ供給するガス供給管、圧力調整器、廃水層回収部、廃有機層回収部、生成物回収部、各機器を制御する制御盤などを更に備えていてもよい。
【0085】
以下、本発明の重水素化化合物の製造装置について、一例として
図1に示す製造装置100を用いて詳細に説明する。
【0086】
<製造装置の一例>
ここで、
図1に示す製造装置100は、n個の反応ユニットと、第n反応ユニットで得られた重水素化化合物を含む生成物を回収する生成物回収部50とを備えている。なお、図示例ではnが3以上であり、n個の反応ユニットは直列接続されている。そして、第1~第nの各反応ユニットは、それぞれ、内部に遷移金属触媒を有する反応器15,25,35と、被重水素化物を供給する被重水素化物供給源12A,22A,32Aと、重水素化物供給源12A,22A,32Aから混合器14,24,34を介して被重水素化物を反応器15,25,35へと送液する被重水素化物送液ポンプ12B,22B,32Bと、重水を供給する重水供給源13A,23A,33Aと、重水供給源13A,23A,33Aから混合器14,24,34を介して重水を反応器15,25,35へと送液する重水送液ポンプ13B,23B,33Bと、被重水素化物供給源12A,22A,32Aと混合器14,24,34とを接続する流路としての配管に洗浄溶液を供給する洗浄溶液供給源11A,21A,31Aと、洗浄溶液供給源11A,21A,31Aから混合器14,24,34を介して洗浄溶液を反応器15,25,35へと送液する洗浄溶液送液ポンプ11B,21B,31Bとを備えている。また、各反応ユニットは、反応器15,25,35の出口側に設けられた圧力調整器16,26,36と、圧力調整器16,26,36よりも下流側に設けられて反応器15,25,35の出口から流出した反応生成物を水層と有機層とに分離する水/有機層分離器17,27,37と、水/有機層分離器17,27,37で分離されたもののうち、不要な水層を回収する廃水層回収部18,28,38および不要な有機層を回収する廃有機層回収部19,29,39とを更に備えている。更に、各反応ユニットは、水素同位体交換反応の実施時と反応器の洗浄時とで流路を切り替える弁(図示せず)を複数有している。
なお、第2~第nの各反応ユニットは、前段の反応器における水素同位体交換反応で得られた生成物に由来する中間生成物を被重水素化物として被重水素化物供給源に受け入れることができるように、被重水素化物供給源22A,32Aが、前段の反応ユニットの水/有機層分離器17,27と廃有機層回収部19,29とを接続する配管に接続されている。
【0087】
洗浄溶液供給源11A,21A,31A、被重水素化物供給源12A,22A,32Aおよび重水供給源13A,23A,33Aとしては、特に限定されることなく、容器や水槽などの洗浄溶液、被重水素化物および重水を貯留し得るものを使用し得る。
なお、洗浄溶液、被重水素化物および重水としては、本発明の重水素化化合物の製造方法に関して上述したものと同様のものを用い得る。
【0088】
洗浄溶液送液ポンプ11B,21B,31Bは、洗浄溶液供給源11A,21A,31Aと、被重水素化物供給源12A,22A,32Aと混合器14,24,34とを接続する配管とを接続する流路上に設けられており、反応器15,25,35の洗浄時に混合器14,24,34を介して反応器15,25,35へと洗浄溶液としての洗浄用有機溶媒を送液する。
【0089】
被重水素化物送液ポンプ12B,22B,32Bは、被重水素化物供給源12A,22A,32Aと混合器14,24,34とを接続する流路上に設けられており、混合器14,24,34を介して反応器15,25,35へと被重水素化物を送液する。
【0090】
重水送液ポンプ13B,23B,33Bは、重水供給源13A,23A,33Aと混合器14,24,34とを接続する流路上に設けられており、混合器14,24,34を介して反応器15,25,35へと重水を送液する。
【0091】
混合器14,24,34としては、特に限定されることなく、ラインミキサーなどの既知のミキサーを用いることができる。
【0092】
反応器15,25,35としては、例えばフロー式反応器等の、遷移金属触媒を用いた水素同位体交換反応が可能な任意の反応器を用いることができる。具体的には、反応器15,25,35としては、遷移金属触媒を充填した触媒管よりなる加熱反応部と、加熱反応部を加熱する加熱源とを備える反応器を用いることができる。なお、触媒管としては、3~4MPa程度の内圧と300℃程度の温度に耐えうるものが好ましく、例えばステンレス、石英またはパイレックス製の管などが使用できる。加熱源としては、300℃程度まで加熱できるものが好ましく、オイルバス、管状炉、マイクロ波照射装置などが使用できる。中でも、短時間での昇温が可能であり所望の温度に到達するまでの時間およびコストが低減できると共に水素同位体交換反応の反応促進効果が高いことから、マイクロ波照射装置を用いたマイクロ波の照射による加熱が好ましい。
【0093】
圧力調整器16,26,36は、洗浄溶液送液ポンプ11B,21B,31B、被重水素化物送液ポンプ12B,22B,32Bおよび重水送液ポンプ13B,23B,33Bの吐出口から圧力調整器16,26,36までの圧力を保持するためのものである。圧力調整器16,26,36としては、例えば背圧弁などが挙げられ、圧力調整器16,26,36の使用圧力上限は3~4MPa程度であることが好ましい。
【0094】
水/有機層分離器17,27,37は、反応器15,25,35から流出した反応生成物などの流出物を有機層と水層とに連続的に分離するものである。水/有機層分離器17,27,37としては既知のものが使用でき、例えば膜分離器などが使用し得る。
【0095】
廃水層回収部18,28,38および廃有機層回収部19,29,39としては、例えばガラスフラスコやステンレス製容器などの既知の容器を使用し得る。
【0096】
生成物回収部50は、第n反応ユニットの水/有機層分離器37と廃有機層回収部39とを接続する配管に接続されており、第n反応ユニットで得られた重水素化化合物を含む生成物を回収する。生成物回収部50としては、例えばガラスフラスコやステンレス製容器などの既知の容器を使用し得る。
【0097】
なお、製造装置100は、各反応ユニットのポンプ、弁、加熱源などの動作を制御する制御器としての制御盤(図示せず)を備えていてもよい。制御盤を用いれば、弁やポンプの動作を制御することにより水素同位体交換反応の実施時と反応器の洗浄時とで流路を切り替えることができる。また、制御盤を用いれば、ポンプなどの動作を制御して、反応器の洗浄時に洗浄溶液または混合液を流す流量を所望の大きさにすることができる。
【0098】
また、製造装置100において反応器15,25,35における水素同位体交換反応を水素などのガスの共存下で行う場合には、製造装置100は、反応器15,25,35にガスを供給するガス供給管を有していてもよい。なお、ガス供給管を介して水素などのガスを供給する位置は、特に限定されることなく、例えば混合器14,24,34と反応器15,25,35との間などにすることができる。
【0099】
<運転操作の一例>
そして、上述した製造装置100を用いた重水素化化合物の製造および反応器の洗浄は、例えば以下のようにして行うことができる。
なお、以下では説明の簡素化の観点から、反応ユニットの数が3つ(n=3)である場合について説明する。
【0100】
[反応前パージ]
まず、水素同位体交換反応を開始する前に、第1反応ユニット、第2反応ユニット、第3反応ユニットについて重水と洗浄溶液で系内をパージする。具体的には、洗浄溶液送液ポンプ11B,21B,31Bおよび重水送液ポンプ13B,23B,33Bを駆動し、混合器14,24,34で混合された重水と洗浄溶液との混合液を所定の流量で反応器15,25,35へと供給する。なお、供給時間は3~6分間程度とすることができる。
そして、反応器15,25,35から流出した混合液は、水/有機層分離器17,27,37で分離し、重水(水層)を廃水層回収部18,28,38に回収し、洗浄溶液(有機層)を廃有機層回収部19,29,39に回収する。
その後、所定の時間のパージが完了したら、全ての送液を停止する。
【0101】
[第1反応ユニットでの水素同位体交換反応]
反応前パージの終了後、第1反応ユニットでの水素同位体交換反応を以下のようにして行う。
まず、第1反応ユニットにて洗浄溶液送液ポンプ11Bおよび重水送液ポンプ13Bを駆動し、混合器14で混合された重水と洗浄溶液との混合液を所定の流量で反応器15へと供給する。この際、重水の流量は水素同位体交換反応を行う時と同じ流量に設定し、洗浄溶液の流量は水素同位体交換反応を行う時の被重水素化物の流量と同じ流量に設定する。そして、重水と洗浄溶液との混合液を送液しつつ圧力調整器16にて系内の圧力を2~2.5MPaG程度まで昇圧させる。その後、圧力が安定したら、加熱源を作動させて加熱を行う。加熱反応部の内部が所定の温度に到達したら、被重水素化物送液ポンプ12Bを駆動して被重水素化物としての原料を混合器14を介して反応器15へと供給するとともに洗浄溶液送液ポンプ11Bを停止して洗浄溶液の供給を停止し、3~6分程度系内パージを行う。なお、パージ終了までは、反応器15から流出した流出物は、水/有機層分離器17で分離し、水層を廃水層回収部18に回収し、有機層を廃有機層回収部19に回収する。
そして、系内パージ完了後、水/有機層分離器17にて分離された有機層(中間生成物)について、第2反応ユニットの被重水素化物供給源22Aに送り、第2反応ユニットで被重水素化物として使用される中間生成物の回収を開始する。
【0102】
[第2反応ユニットでの水素同位体交換反応]
被重水素化物送液ポンプ22Bで供給可能な量の被重水素化物(中間生成物)が第2反応ユニットの被重水素化物供給源22Aに回収されたら、第2反応ユニットでの水素同位体交換反応を以下のようにして行う。
まず、第2反応ユニットにて洗浄溶液送液ポンプ21Bおよび重水送液ポンプ23Bを駆動し、混合器24で混合された重水と洗浄溶液との混合液を所定の流量で反応器25へと供給する。この際、重水の流量は水素同位体交換反応を行う時と同じ流量に設定し、洗浄溶液の流量は水素同位体交換反応を行う時の被重水素化物の流量と同じ流量に設定する。そして、重水と洗浄溶液との混合液を送液しつつ圧力調整器26にて系内の圧力を2~2.5MPaG程度まで昇圧させる。その後、圧力が安定したら、加熱源を作動させて加熱を行う。加熱反応部の内部が所定の温度に到達したら、被重水素化物送液ポンプ22Bを駆動して被重水素化物を混合器24を介して反応器25へと供給するとともに洗浄溶液送液ポンプ21Bを停止して洗浄溶液の供給を停止し、3~6分程度系内パージを行う。なお、パージ終了までは、反応器25から流出した流出物は、水/有機層分離器27で分離し、水層を廃水層回収部28に回収し、有機層を廃有機層回収部29に回収する。
そして、系内パージ完了後、水/有機層分離器27にて分離された有機層(中間生成物)について、第3反応ユニットの被重水素化物供給源32Aに送り、第3反応ユニットで被重水素化物として使用される中間生成物の回収を開始する。
【0103】
[第3反応ユニットでの水素同位体交換反応]
被重水素化物送液ポンプ32Bで供給可能な量の被重水素化物(中間生成物)が第3反応ユニットの被重水素化物供給源32Aに回収されたら、第3反応ユニットでの水素同位体交換反応を以下のようにして行う。
まず、第3反応ユニットにて洗浄溶液送液ポンプ31Bおよび重水送液ポンプ33Bを駆動し、混合器34で混合された重水と洗浄溶液との混合液を所定の流量で反応器35へと供給する。この際、重水の流量は水素同位体交換反応を行う時と同じ流量に設定し、洗浄溶液の流量は水素同位体交換反応を行う時の被重水素化物の流量と同じ流量に設定する。そして、重水と洗浄溶液との混合液を送液しつつ圧力調整器36にて系内の圧力を2~2.5MPaG程度まで昇圧させる。その後、圧力が安定したら、加熱源を作動させて加熱を行う。加熱反応部の内部が所定の温度に到達したら、被重水素化物送液ポンプ32Bを駆動して被重水素化物を混合器34を介して反応器35へと供給するとともに洗浄溶液送液ポンプ31Bを停止して洗浄溶液の供給を停止し、3~6分程度系内パージを行う。なお、パージ終了までは、反応器35から流出した流出物は、水/有機層分離器37で分離し、水層を廃水層回収部38に回収し、有機層を廃有機層回収部39に回収する。
そして、系内パージ完了後、水/有機層分離器37にて分離された有機層(生成物)について、生成物回収部50に送り、生成物の回収を開始する。
【0104】
[各反応ユニットでの反応終了と系内洗浄]
水素同位体交換反応を終了させて洗浄を行う際の操作は、第1反応ユニット、第2反応ユニット、第3反応ユニットのいずれも同様であるので第1反応ユニットでの水素同位体交換反応を終了させる際の操作を例として以下に説明する。
第1反応ユニットにおいて水/有機層分離器17にて分離された有機層(中間生成物)を所望量回収した後、流路を切り替え、水/有機層分離器17にて分離された有機層(中間生成物)を廃有機層回収部19で回収開始する。
次に、洗浄溶液送液ポンプ11Bを駆動し、洗浄溶液を被重水素化物と同じ流量で供給開始する。洗浄溶液の供給を開始した後すぐに被重水素化物送液ポンプ12Bを停止し、洗浄溶液と重水との混合液を反応器15へと10分以上送液する。その後、加熱源を停止した後、重水送液ポンプ13Bを停止すると共に洗浄溶液の流量を水素同位体交換反応を行っていた時の被重水素化物と重水の合計流量と等しくなるようにし(即ち、洗浄溶液の流量を重水の流量分増加させ)、洗浄溶液のみを反応器15へと供給し続ける。加熱反応部の温度が室温に下がったら圧力調整器16にて系内の圧力を0.2~0.5MPaG程度まで減圧し、その後、洗浄溶液での系内パージを10~20分程度続ける。そして、洗浄溶液送液ポンプ11Bを停止し、洗浄を終了させる。
【0105】
なお、上記では、水素同位体交換反応に水素などのガスを併用しない場合について説明したが、水素同位体交換反応に水素などのガスを併用する場合には、水素同位体交換反応時または系内洗浄時に重水と洗浄溶液との混合液を反応器に送液する際の洗浄溶液の流量を、水素同位体交換反応を行う時の被重水素化物の流量と水素などのガスの流量との合計と同じ値に設定し、系内洗浄時に洗浄溶液のみを反応器に送液する際の洗浄溶液の流量を、水素同位体交換反応を行っていた時の被重水素化物、重水および水素などのガスの合計流量と等しくなるように設定すればよい。
【0106】
以上、一例として
図1に示す製造装置100を用いて本発明の重水素化化合物の製造装置について説明したが、本発明の重水素化化合物の製造装置は
図1に示す構造に限定されるものではない。
例えば、本発明の重水素化化合物の製造装置では、重水供給源および洗浄溶液供給源は、各ユニットに個別に設けることなく全ユニットに共通するものを一つだけ設けてもよい。また、各ユニット内の反応器の個数は2つ以上であってもよい。更に、
図1では複数の反応ユニットを直列接続して水素同位体交換反応を原料に対して複数回行う場合を示したが、原料に対して水素同位体交換反応を1回のみ行って重水素化化合物を得る場合には、重水素化化合物の製造装置は、上述した第1反応ユニットのみを有するものであってもよい。
【0107】
また、本発明の重水素化化合物の製造装置は、例えば
図2に示す製造装置200のような、反応器で得られた反応生成物の少なくとも一部を反応器入口側へと戻す循環流路を備える装置であってもよい。
【0108】
ここで、
図2に示す製造装置200は、重水素化化合物を含む生成物を回収する生成物回収部50が、水/有機層分離器17と廃有機層回収部19とを接続する配管に接続されている点、水/有機層分離器17で分離されたもののうちの少なくとも一部を重水素化物供給源12Aへと返送する循環流路60を有している点、および、循環流路60の重水素化物供給源12A側の端部近傍と廃有機層回収部19とを接続して循環流路60を洗浄する際に用いられる洗浄廃液流路61を有している点以外は、
図1に示す製造装置100の第1反応ユニットと同様の構成を有している。
【0109】
なお、図示例では循環流路60は水/有機層分離器17で分離されたものを重水素化物供給源12Aへと返送しているが、本発明において返送先は反応器入口側であれば重水素化物供給源に限定されるものではなく、例えば、混合器であってもよいし、反応器に直接返送してもよい。
【0110】
そして、製造装置200を用いた重水素化化合物の製造および反応器の洗浄は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0111】
[反応前パージ]
反応前パージは、
図1に示す製造装置100と同様にして行うことができる。
【0112】
[水素同位体交換反応]
反応前パージの終了後、水素同位体交換反応を以下のようにして行う。
まず、洗浄溶液送液ポンプ11Bおよび重水送液ポンプ13Bを駆動し、混合器14で混合された重水と洗浄溶液との混合液を所定の流量で反応器15へと供給する。この際、重水の流量は水素同位体交換反応を行う時と同じ流量に設定し、洗浄溶液の流量は水素同位体交換反応を行う時の被重水素化物の流量と同じ流量に設定する。そして、重水と洗浄溶液との混合液を送液しつつ圧力調整器16にて系内の圧力を2~2.5MPaG程度まで昇圧させる。その後、圧力が安定したら、加熱源を作動させて加熱を行う。加熱反応部の内部が所定の温度に到達したら、被重水素化物送液ポンプ12Bを駆動して被重水素化物を混合器14を介して反応器15へと供給するとともに洗浄溶液送液ポンプ11Bを停止して洗浄溶液の供給を停止し、3~6分程度系内パージを行う。なお、パージ終了までは、反応器15から流出した流出物は、水/有機層分離器17で分離し、水層を廃水層回収部18に回収し、有機層を廃有機層回収部19に回収する。
そして、系内パージ完了後、水/有機層分離器17にて分離された有機層(中間生成物)について、循環流路60を介して重水素化物供給源12Aへと返送しつつ、水素同位体交換反応を行う。これにより、重水素化物供給源12Aへと返送された中間生成物は再度反応器15へと送られて水素同位体交換反応に供されることとなる。その結果、原料は複数回の水素同位体交換反応を受けることとなる。
その後、所定の時間が経過し、被重水素化物を十分に循環させたタイミングで、水/有機層分離器17にて分離された有機層(生成物)について、生成物回収部50に送り、生成物の回収を開始する。
【0113】
[各反応ユニットでの反応終了と系内洗浄]
水/有機層分離器17にて分離された有機層(生成物)を所望量回収した後、流路を切り替え、水/有機層分離器17にて分離された有機層(生成物)を廃有機層回収部19で回収開始する。
次に、洗浄溶液送液ポンプ11Bを駆動し、洗浄溶液を被重水素化物と同じ流量で供給開始する。洗浄溶液の供給を開始した後すぐに被重水素化物送液ポンプ12Bを停止し、洗浄溶液と重水との混合液を反応器15へと10分以上送液する。その後、加熱源を停止した後、重水送液ポンプ13Bを停止すると共に洗浄溶液の流量を水素同位体交換反応を行っていた時の被重水素化物と重水の合計流量と等しくなるようにし(即ち、洗浄溶液の流量を重水の流量分増加させ)、洗浄溶液のみを反応器15へと供給し続ける。加熱反応部の温度が室温に下がったら、圧力調整器16にて系内の圧力を0.2~0.5MPaG程度まで減圧する。その後、水/有機層分離器17の後段側の流路を切り替え、水/有機層分離器17にて分離した後に廃有機層回収部19へと直接流入させていた有機層を、循環流路60および洗浄廃液流路61を介して廃有機層回収部19へと流入させ、循環流路60内を洗浄する。そして、洗浄溶液送液ポンプ11Bを停止し、洗浄を終了させる。
【実施例0114】
以下、実施例を用いて本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0115】
なお、以下の実施例および比較例において使用した反応装置、分析装置および試薬は下記の通りである。
(1) 反応ユニット
・被重水素化物供給源(500mL三角フラスコ)
・被重水素化物送液ポンプ(FLOM社製、UI-22)
・重水供給源(500mL三角フラスコ)
・重水送液ポンプ(FLOM社製、UI-22)
・洗浄溶液供給源(500mL三角フラスコ)
・洗浄溶液送液ポンプ(FLOM社製、UI-22)
・加熱反応部(実施例1~6および比較例1:株式会社サイダ・FDS社製、FMR-250S/実施例7:株式会社アサヒ理化製作所社製、ARF-30K)
・水/有機層分離器(Zaiput社製、SEP-10)
・廃有機層回収部(500mL三角フラスコ)
・廃水層回収部(500mL三角フラスコ)
・生成物回収部(500mL三角フラスコ)
(2) 分析装置
・核磁気共鳴装置(NMR):日本電子株式会社製、JNM-ECS400
(3) 試薬
・重水(Deuterium Oxide,99.8atom%D):Isotec製
・上記以外の試薬:東京化成工業株式会社、純正化学株式会社、メルク社、田中貴金属工業株式会社、大陽日酸JFP株式会社
【0116】
また、実施例において化合物の同定および重水素化率の算出は、NMRを用いて測定することで行った。
NMRの測定による化合物の同定は、以下のようにして行った。即ち、重水素化されていない試料と重水素化された試料について1H-NMRを測定し、重水素化されていない試料では観測されたピークが、重水素化された試料では消失または大幅に低減していることで、重水素化が進行したことを確認した。
NMRの測定方法および重水素化率の算出方法を以下に示す。
<NMR測定による重水素化率の算出>
内部標準物質を含有したNMR溶媒を用いて試料を溶解し、1H-NMRの測定を行った。そして、内部標準物質または分子内標準部位のプロトンピークの積分値を基準として、重水素化率を算出した。
【0117】
(実施例1)
第1反応ユニットのみを有する
図1に示す装置(n=1の装置)を用いて、1-ナフトールの水素同位体交換反応を行った。1-ナフトール(東京化成工業株式会社製)を酢酸エチル(純正化学株式会社製)に溶解させた原料(1-ナフトール濃度:0.0036mol/mL)を被重水素化物(原料)供給源、重水を重水供給源、酢酸エチルを洗浄溶液供給源にそれぞれ加えた。加熱反応部にはプラチナ-活性アルミナ(田中貴金属工業株式会社製)を充填したパイレックス反応管を設置した。水素同位体交換反応は、上述した運転操作の一例に従い、下記の運転条件で行った。生成物回収部にて120分間生成物を回収した後、エバポレーターで濃縮することで1-ナフトール-d7を得た(収量:45.3g、重水素化率:71.0atom%)。また、反応ユニットの洗浄を、上述した運転操作の一例に従い、下記の洗浄条件で行った。その結果、反応終了後に装置内を閉塞させることなく運転を停止することができ、洗浄終了後に加熱反応部を目視で確認したところ、析出物等は見られなかった。
<運転条件>
・被重水素化物送液ポンプ12B:0.9 mL/min
・重水送液ポンプ13B:1.1mL/min
・加熱反応部温度:200℃
・系内圧力:2.0MPaG
<洗浄条件>
・重水送液ポンプ13B:1.1mL/min→0mL/min
・洗浄溶液送液ポンプ11B:0.9mL/min→2.0mL/min
・加熱反応部温度:200℃→室温(20℃)
・系内圧力:2.0MPaG→0.5MPaG
【0118】
(実施例2)
第1反応ユニット、第2反応ユニットを有する
図1に示す装置(n=2の装置)を用いて、1-ナフトールの水素同位体交換反応を行った。1-ナフトール(東京化成工業株式会社製)を酢酸エチル(純正化学株式会社製)に溶解させた原料(1-ナフトール濃度:0.0036mol/mL)を被重水素化物(原料)供給源、重水を重水供給源、酢酸エチルを洗浄溶液供給源にそれぞれ加えた。加熱反応部にはプラチナ-活性アルミナ(田中貴金属工業株式会社製)を充填したパイレックス反応管を設置した。水素同位体交換反応は、上述した運転操作の一例に従い、下記の運転条件で行った。生成物回収部にて120分間生成物を回収した後、エバポレーターで濃縮することで1-ナフトール-d7を得た(収量:42.8g、重水素化率:94.3atom%)。また、各反応ユニットの洗浄を、上述した運転操作の一例に従い、下記の洗浄条件で行った。その結果、反応終了後に装置内を閉塞させることなく運転を停止することができ、洗浄終了後に加熱反応部を目視で確認したところ、析出物等は見られなかった。
<運転条件>
・被重水素化物送液ポンプ12B、被重水素化物送液ポンプ22B:0.9 mL/min
・重水送液ポンプ13B、重水送液ポンプ23B:1.1mL/min
・加熱反応部温度:200℃
・系内圧力:2.0MPaG
<洗浄条件>
・重水送液ポンプ13B、重水送液ポンプ23B:1.1mL/min→0mL/min
・洗浄溶液送液ポンプ11B、洗浄溶液送液ポンプ21B:0.9mL/min→2.0mL/min
・加熱反応部温度:200℃→室温(20℃)
・系内圧力:2.0MPaG→0.5MPaG
【0119】
(実施例3)
第1反応ユニット、第2反応ユニットを有する
図1に示す装置(n=2の装置)を用いて、1-ナフトールの水素同位体交換反応を行った。1-ナフトール(東京化成工業株式会社製)を酢酸エチル(純正化学株式会社製)に溶解させた原料(1-ナフトール濃度:0.0036mol/mL)を被重水素化物(原料)供給源、重水を重水供給源、酢酸エチルを洗浄溶液供給源にそれぞれ加えた。加熱反応部にはプラチナ-活性アルミナ(田中貴金属工業株式会社製)を充填したパイレックス反応管を設置した。水素同位体交換反応は、上述した運転操作の一例に従い、下記の運転条件で行った。生成物回収部にて120分間生成物を回収した後、エバポレーターで濃縮することで1-ナフトール-d7を得た(収量:108g、重水素化率:54.7atom%)。また、各反応ユニットの洗浄を、上述した運転操作の一例に従い、下記の洗浄条件で行った。その結果、反応終了後に装置内を閉塞させることなく運転を停止することができ、洗浄終了後に加熱反応部を目視で確認したところ、析出物等は見られなかった。
<運転条件>
・被重水素化物送液ポンプ12B、被重水素化物送液ポンプ22B:1.8mL/min
・重水送液ポンプ13B、重水送液ポンプ23B:2.2mL/min
・加熱反応部温度:200℃
・系内圧力:2.0MPaG
<洗浄条件>
・重水送液ポンプ13B、重水送液ポンプ23B:2.2mL/min→0mL/min
・洗浄溶液送液ポンプ11B、洗浄溶液送液ポンプ21B:1.8mL/min→4.0mL/min
・加熱反応部温度:200℃→室温(20℃)
・系内圧力:2.0MPaG→0.5MPaG
【0120】
(実施例4)
第1反応ユニット、第2反応ユニットを有する
図1に示す装置(n=2の装置)を用いて、1-ナフトールの水素同位体交換反応を行った。1-ナフトール(東京化成工業株式会社製)を酢酸エチル(純正化学株式会社製)に溶解させた原料(1-ナフトール濃度:0.0036mol/mL)を被重水素化物(原料)供給源、重水を重水供給源、酢酸エチルを洗浄溶液供給源にそれぞれ加えた。加熱反応部にはプラチナ-活性アルミナ(田中貴金属工業株式会社製)を充填したパイレックス反応管を設置した。水素同位体交換反応は、上述した運転操作の一例に従い、下記の運転条件で行った。生成物回収部にて120分間生成物を回収した後、エバポレーターで濃縮することで1-ナフトール-d7を得た(収量:20.6g、重水素化率:82.0atom%)。また、各反応ユニットの洗浄を、上述した運転操作の一例に従い、下記の洗浄条件で行った。その結果、反応終了後に装置内を閉塞させることなく運転を停止することができ、洗浄終了後に加熱反応部を目視で確認したところ、析出物等は見られなかった。
<運転条件>
・被重水素化物送液ポンプ12B、被重水素化物送液ポンプ22B:0.47mL/min
・重水送液ポンプ13B、重水送液ポンプ23B:0.54mL/min
・加熱反応部温度:200℃
・系内圧力:2.0 MPaG
<洗浄条件>
・重水送液ポンプ13B、重水送液ポンプ23B:0.54mL/min→0mL/min
・洗浄溶液送液ポンプ11B、洗浄溶液送液ポンプ21B:0.47mL/min→1.01mL/min
・加熱反応部温度:200℃→室温(20℃)
・系内圧力:2.0MPaG→0.5MPaG
【0121】
(実施例5)
第1反応ユニット、第2反応ユニットを有する
図1に示す装置(n=2の装置)を用いて、アニリンの水素同位体交換反応を行った。アニリン(純正化学株式会社製、アニリン密度:0.011mol/mL)を被重水素化物(原料)供給源、重水を重水供給源、酢酸エチルを洗浄溶液供給源にそれぞれ加えた。加熱反応部にはプラチナ-活性アルミナ(田中貴金属工業株式会社製)を充填したパイレックス反応管を設置した。水素同位体交換反応は、上述した運転操作の一例に従い、下記の運転条件で行った。生成物回収部にて120分間生成物を回収し、アニリン-d5を得た(収量:120.5g、重水素化率:95.2atom%)。また、各反応ユニットの洗浄を、上述した運転操作の一例に従い、下記の洗浄条件で行った。その結果、反応終了後に装置内を閉塞させることなく運転を停止することができ、洗浄終了後に加熱反応部を目視で確認したところ、析出物等は見られなかった。
<運転条件>
・被重水素化物送液ポンプ12B、被重水素化物送液ポンプ22B:1.0mL/min
・重水送液ポンプ13B、重水送液ポンプ23B:3.0mL/min
・加熱反応部温度:200℃
・系内圧力:2.0MPaG
<洗浄条件>
・重水送液ポンプ13B、重水送液ポンプ23B:3.0mL/min→0mL/min
・洗浄溶液送液ポンプ11B、洗浄溶液送液ポンプ21B:1.0mL/min→4.0 mL/min
・加熱反応部温度:200℃→室温(20℃)
・系内圧力:2.0MPaG→0.5MPaG
【0122】
(実施例6)
第1反応ユニットのみを有する
図1に示す装置(n=1の装置)を用いて、2-ヒドロキシカルバゾールの水素同位体交換反応を行った。2-ヒドロキシカルバゾール(メルク社製、2-ヒドロキシカルバゾール濃度:0.0001 mol/mL)を被重水素化物(原料)供給源、重水を重水供給源、酢酸エチルを洗浄溶液供給源にそれぞれ加えた。加熱反応部にはプラチナ-活性アルミナ(田中貴金属工業株式会社製)を充填したパイレックス反応管を設置した水素同位体交換反応は、上述した運転操作の一例に従い、下記の運転条件で行った。生成物回収部にて120分間生成物を回収し、2-ヒドロキシカルバゾール-d7を得た(収量:2.3g、重水素化率:96.6atom%)。また、各反応ユニットの洗浄を、上述した運転操作の一例に従い、下記の洗浄条件で行った。その結果、反応終了後に装置内を閉塞させることなく運転を停止することができ、洗浄終了後に加熱反応部を目視で確認したところ、析出物等は見られなかった。
<運転条件>
・被重水素化物送液ポンプ12B: 1.0 mL/min
・重水送液ポンプ13B: 1.0 mL/min
・加熱反応部温度:200℃
・系内圧力:2.0MPaG
<洗浄条件>
・重水送液ポンプ13B:1.0mL/min→0mL/min
・洗浄溶液送液ポンプ11B:1.0mL/min→2.0mL/min
・加熱反応部温度:200℃→室温(20℃)
・系内圧力:2.0MPaG→0.5MPaG
【0123】
(実施例7)
加熱反応部をマイクロ波加熱形式のFMR-250S(株式会社サイダ・FDS社製)からヒーター加熱形式のARF-30K(株式会社アサヒ理化製作所社製)に変更し、混合器14と反応器15との間に水素を供給するガス供給管を設けた以外は実施例1と同様の装置を使用し、1-ナフトールの水素同位体交換反応を行った。1-ナフトール(東京化成工業株式会社製)を酢酸エチル(純正化学株式会社製)に溶解させた原料(1-ナフトール濃度:0.0036mol/mL)を被重水素化物(原料)供給源、重水を重水供給源、酢酸エチルを洗浄溶液供給源にそれぞれ加えた。加熱反応部にはプラチナ-活性アルミナ(田中貴金属工業株式会社製)を充填したパイレックス反応管を設置した。水素同位体交換反応は、ガス供給管から水素(大陽日酸JFP株式会社製)を供給した以外は上述した運転操作の一例に従い、下記の運転条件で行った。生成物回収部にて120分間生成物を回収した後、エバポレーターで濃縮することで1-ナフトール-d7を得た(43.2g、重水素化率:39.2atom%)。また、反応ユニットの洗浄を、上述した運転操作の一例の水素などのガスを併用する場合に従い、下記の洗浄条件で行った。なお、反応終了後に装置内を閉塞させることなく運転を停止することができたが、洗浄終了後に加熱反応部を目視で確認したところ、反応部のデッドスペース(流れが滞留する部分)に少量の析出物が残存していた。
<運転条件>
・被重水素化物送液ポンプ12B:0.9 mL/min
・重水送液ポンプ13B:1.1mL/min
・水素供給量:0.1mL/min
・加熱反応部温度:200℃
・系内圧力:2.0MPaG
<洗浄条件>
・重水送液ポンプ13B:1.1mL/min→0mL/min
・洗浄溶液送液ポンプ11B:1.0mL/min→2.1mL/min
・加熱反応部温度:200℃→室温(20℃)
・系内圧力:2.0MPaG→0.5MPaG
【0124】
(比較例1)
実施例1と同様にして1-ナフトール-d7を得た後、反応ユニットの洗浄を実施せずにすぐに加熱を停止したところ、加熱反応部や流路の内部が析出物等で閉塞し、装置の運転が困難となった。
本発明によれば、芳香環および複素環からなる群より選択される少なくとも1種の環構造を有する化合物を重水素化してなる重水素化化合物を連続的に少ない重水使用量で製造することができる。