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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011610
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20240118BHJP
   C07C 49/14 20060101ALI20240118BHJP
   C07D 221/18 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C07F15/00 E CSP
C07C49/14
C07D221/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113766
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
【テーマコード(参考)】
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB92
4H050AA01
4H050AB92
4H050AC90
4H050WA01
4H050WA11
4H050WA26
4H050WA27
(57)【要約】
【課題】近赤外領域に吸収・発光特性を有する新規化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。イソキノリン骨格に、電子吸引性と一重項→三重項遷移を促進するカルボニル基を介して共役系を連結することにより課題を解決する。
[式(1)において、Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、Lは2座配位子を表し、m及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、m+n=3である。]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)において、
Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、
Lは2座配位子を表し、
m及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、m+n=3である。]
【請求項2】
前記Lが下記式(2)で表されるものである、請求項1に記載の化合物。
【化2】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【請求項3】
前記式(2)が、下記式(3)又は下記式(4)で表される、請求項2に記載の化合物。
【化3】
[式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、又はアリール基を表す。]
【化4】
[式(4)において、Rは重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシル基、又はフェニル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
は重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、又はフェニル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~5の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
、Rがそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項4】
前記Aが、置換基としてアルキル基、ハロアルキル基、又はフッ素原子を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記Aが、置換基を有していてもよい、ベンゼン環又はナフタレン環である、請求項1に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化合物に関するものである。
本発明の化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有するものであり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、選別・認識対象物の選別、認識等は目視によることが主流であったが、科学技術の発展とともに、高齢化や少子化に伴う労働力の減少への対策も相重なって、近年はロボットを利用した選別・認識へとシフトしつつある。目視による選別・認識では可視光の利用に限定されるが、ロボットを利用した場合には目視では捉えられない近赤外発光も利用することが可能となり、選別・識別精度の向上が期待できる。さらに近赤外光は細胞を透過するので、バイオイメージングやバイオセンサー、医療診断薬、光線力学療法(PDT)などへの展開も期待できる。なかでもIr、Pt、Osなどの金属錯体は燐光発光を示すことから、特に注目を集めている。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐熱性と溶解性の改善を目的とし、イソキノリン骨格を配位子に有するイリジウム錯体が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007-507448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の実施例の化合物は、赤色OLED用途を目的としたものであり、特許文献1には近赤外発光について記載されていない。
【0006】
本発明は、近赤外領域に吸収・発光特性を有する新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、イソキノリン骨格に、電子吸引性と一重項→三重項遷移を促進するカルボニル基を介して共役系を連結することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【0009】
【化1】
【0010】
[式(1)において、
Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、
Lは2座配位子を表し、
m及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、m+n=3である。]
【0011】
[2] 前記Lが下記式(2)で表されるものである、[1]に記載の化合物。
【0012】
【化2】
【0013】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0014】
[3] 前記式(2)が、下記式(3)又は下記式(4)で表される、[2]に記載の化合物。
【0015】
【化3】
【0016】
[式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、又はアリール基を表す。]
【0017】
【化4】
【0018】
[式(4)において、Rは重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシル基、又はフェニル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
は重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、又はフェニル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~5の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
、Rがそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0019】
[4] 前記Aが、置換基としてアルキル基、ハロアルキル基、又はフッ素原子を有する[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
【0020】
[5] 前記Aが、置換基を有していてもよい、ベンゼン環又はナフタレン環である、[1]~[4]のいずれかに記載の化合物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定の構造を有することにより、近赤外領域に吸収・発光特性を有する新規化合物が提供される。
本発明の化合物は、近赤外光を利用した選別・認識手段に有用であり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1で得られた化合物の吸収スペクトルを表すチャートである。
図2】実施例1で得られた化合物の発光スペクトルを表すチャートである。
図3】実施例2で得られた化合物の吸収スペクトルを表すチャートである。
図4】実施例2で得られた化合物の発光スペクトルを表すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0024】
本発明の化合物は、下記式(1)で表される新規化合物である。
【0025】
【化5】
【0026】
[式(1)において、
Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、
Lは2座配位子を表し、
m及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、m+n=3である。]
【0027】
式(1)で表される化合物が本発明の効果を奏する理由は定かではないが、以下が考えられる。
即ち、式(1)の環Aとイソキノリン環とをカルボニル基(-C(=O)-)で架橋することにより、配位子の振動伸縮による熱失活が抑制され発光しやすくなったこと;カルボニル基(-C(=O)-)の電子吸引効果により長波長化すること;カルボニル基(-C(=O)-)はn-π最低励起一重項状態(S1)からn-π最低励起三重項状態(T1)の系間交差の効率が極めて大きく、1に近い値をもっているので、強い燐光を出しやすくなること;が考えられる。
【0028】
[A]
式(1)において、環Aはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。これらの環は単一又は複数の置換基を有していてもよい。
芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。
芳香族複素環としては、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、チオフェン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、チアゾール環、チアジアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環等が挙げられる。
これらの中でも、Aは電子供与性の環が好ましく、なかでもベンゼン環、ナフタレン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環が好ましく、発光効率の観点から、ベンゼン環又はナフタレン環がより好ましい。
これらの環であることで、配位子としてのバンドギャップが小さくなり、近赤外発光が得られる傾向にある。
【0029】
環Aが有してもよい置換基は、それぞれ独立して、重水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基等が挙げられる。これらの中でも重水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、ハロゲン、シアノ基が、立体障害が小さくなるため好ましく、CH結合の振動伸縮による効率低下の抑制の観点から、アルキル基、ハロアルキル基、フッ素原子が好ましい。なお、ここで、アルキル基の炭素数は1~18であることが好ましく、ハロアルキル基としては、炭素数1~12のパーフルオロアルキル基が好ましいものとして挙げられる。
【0030】
環Aが有する置換基の数及び位置は特に限定されないが、Irとの結合位置から離れた位置に置換する方が、式(1)で表される化合物の安定性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0031】
[L]
Lは2座配位子を表し、本発明の特性を損なわない限り特に制限は無い。同一分子内にLが複数ある場合、複数のLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0032】
Lとしては、下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0033】
【化6】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0034】
式(2)において、C原子、N原子及びO原子は環又は基の一部であり、X及びYをそれぞれ含む環又は基が、結合しているものである。C原子、N原子及びO原子を含む環又は基は特に限定されないが、安定性の観点からIr、X及びYを含む環が5員環又は6員環となることが好ましい。このようなものとして、具体的には、下記の構造が挙げられる。
【0035】
【化7】
【0036】
式(1)におけるIrとLとの結合様式には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、Lの窒素原子及び炭素原子で結合する様式、Lの2つの窒素原子で結合する様式、Lの2つの炭素原子で結合する様式、Lの炭素原子及び酸素原子で結合する様式、Lの2つの酸素原子で結合する様式、Lの窒素原子及び酸素原子で結合する様式などが挙げられる。
【0037】
Lの好ましい構造を以下の式(2A)~(2F)に例示するが、この限りではない。これらはその構造を保ち得る限りにおいて、骨格の炭素原子が窒素原子など他の原子に置き換わっていてもよいし、さらに置換基を有していてもよい。
【0038】
Lが置換基を有する場合、その置換基としては、-F、-CN、-CF、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族炭化水素基また炭素数2以上60以下の芳香族複素環基等が挙げられる。
ここで、アリールオキシ基、アリールチオ基のアリール基には、芳香族炭化水素基と芳香族複素環基が含まれる。
また、Lが有する置換基のうち、隣接する置換基同士が結合して環を形成してもよい。
Lが有していてもよい置換基としては、-F、-CN、-CF、アルキル基、アラルキル基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が特に好ましく、-F、-CN、-CF、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が最も好ましい。
【0039】
【化8】
【0040】
上記Lの例示式の中でも、式(2A)又は式(2F)が、式(1)で表される化合物の安定性が向上することから好ましい。
即ち、Lは下記式(3)又は下記式(4)で表される配位子であることが好ましい。
【0041】
【化9】
[式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、又はアリール基を表す。]
【化10】
[式(4)において、Rは重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシル基、又はフェニル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
は重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、又はフェニル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。pは0~5の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
、Rがそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0042】
上記式(3)におけるR、R、Rのアルキル基は、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分岐アルキル基である。また、ハロアルキル基は、好ましくは炭素数1~8のパーフルオロアルキル基である。また、アリール基は、好ましくはフェニル基、チエニル基、ピリジル基である。
は水素原子であることが好ましく、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、フルオロアルキル基、アリール基であることが好ましい。
【0043】
上記式(4)におけるR、Rのより具体的な例は、Lが有していてもよい置換基として例示したものが挙げられ、好ましいものも同じである。
式(4)における置換基数であるp,qは、溶解性の観点から1~4であることが好ましく、昇華性向上の観点から0であることが好ましい。
【0044】
[m及びn]
式(1)におけるm及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、n+m=3である。
【0045】
[式(1)で表される化合物の製造方法]
式(1)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば以下スキームが挙げられる。
【0046】
【化11】
【0047】
上記スキームにおけるIrはIrCl/xHOの例であるが、その他、Ir(acac)(イリジウムアセチルアセトナート)、[Ir(cod)Cl](シクロオクタジエンイリジウム塩化物二量体)などを用いることもできる。
【0048】
[式(1)で表される化合物の物性]
式(1)で表される本発明の化合物の重量減少極大温度は特に限定されないが、化合物が熱分解しやすいことから445℃以下であることが好ましく、440℃以下であることがより好ましい。重量減少極大温度が上記上限以下であることで、昇華性が高く、昇華精製により高純度化できる傾向にあり、真空蒸着等のデバイスへの適合性が向上する。なお、本発明の化合物の重量減少極大温度の下限には特に制限はないが、耐熱性の観点から通常150℃以上である。
本発明の化合物の重量減少極大温度は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0049】
式(1)で表される本発明の化合物の発光極大波長は、好ましくは740nm以上、より好ましくは750nm以上である。発光極大波長が800nm以上であることで、近赤外光を利用した選別・識別手段に有効に利用することが可能となる。
外部量子収率について1%以上、好ましくは5%以上、5%以上であることで消費電力を抑えることが可能となる。
【0050】
[式(1)で表される化合物の具体例]
以下に、式(1)で表される本発明の化合物の具体例を示すが、本発明の化合物はこれに限定されるものではない。
【0051】
【化12】
【0052】
【化13】
【0053】
【化14】
【0054】
[部材]
式(1)で表される本発明の化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有するものであり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、OLED、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
【実施例0055】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0056】
[合成例1]
European Journal of Medicinal Chemistry 43(2008)973-980の処方を基に、以下の反応で合成を行って、目的の化合物2を合成した。
【0057】
【化15】
【0058】
<化合物1の合成>
【化16】
【0059】
2-フェネチルアミン(43.0g,0.355mol)、無水フタル酸(52.6g,1.0eq.)をエタノール(440mL)中で9時間還流撹拌した。熱時濾過により不溶物を除去し、濾液を一夜室温熟成した。結晶を濾取し、少量のエタノールでリンス後、真空乾燥し、白色結晶の化合物1(59.9g,収率67.2%)を得た。
【0060】
<化合物2の合成>
【化17】
【0061】
1L容四頸反応器にアルゴン雰囲気下、室温でNaCl(16.7g,1.2equiv.)とAlCl(84.7g,2.66equiv.)を加えた。メカニカル撹拌下、140℃設定にした油浴中で33分間昇温撹拌した。ここへ、化合物1(60.0g,239mmol)を25分間かけて分割添加した後、油浴を180℃に設定して4時間撹拌した。その後、加熱を止め、一夜室温で静置した後、油浴を90℃に設定して濃硫酸(450mL)を15分間かけて滴下し、そのまま47分撹拌した。次いで、油浴を230℃に設定して2時間50分撹拌した。
その後、室温へ放冷後、48%苛性曹達水(1050mL)と氷(1.5kg)の混合浴中に反応液を1時間20分かけて滴下した。滴下開始から1時間後に氷500gを追加した。その後、CHCl(1.0L×5回)で抽出した。3つの有機層を合わせ、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、濾液を濃縮して黄色固体(15.6g)を得た。得られた固体をショートカラム(関東化学,シリカゲル60N,球状中性,63-210μm,100gをCHCl充填、CHCl溶離)で濃縮し、黄色固体の化合物2(12.6g,収率23%)を得た。
【0062】
[実施例1]
<イリジウム二核錯体中間体の合成>
【化18】
【0063】
窒素雰囲気下、クロロ-1,5-シクロオクタジエンイリジウム(I)二量体(999mg、1.4873mmol)と化合物2(1.415g、4equiv.)及び、o-ジクロロベンゼン(30mL)を混合し、125℃で24時間撹拌した。
放冷後、反応液をメタノール(180mL)に注ぎこんで固体を析出させ、吸引濾過し、濾取物をメタノール(30mL×3回)で洗浄した後、真空乾燥して黒紫粉末のイリジウム二核錯体中間体である化合物3(1.8354g、粗収率89.7%)を得た。
【0064】
<化合物Iの合成>
【化19】
【0065】
窒素雰囲気下、イリジウム二核錯体中間体である化合物3(828.4mg、0.602mmol)、炭酸カリウム(376.1mg、4.5equiv.)及びアセチルアセトン(298.0mg、4.5equiv.)を混合し、2-エトキシエタノール(8.6mL)を加えて80℃で15時間撹拌した。
放冷後、反応液を水-メタノール混合溶液(水:メタノール=1:1、250mL)に注ぎ込んで固体を析出させ、吸引濾過し、濾取物を水:メタノール=1:1、次いでメタノール100%で洗浄し、真空乾燥した。その後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製を行い、溶離フラクションを濃縮後、メタノールで懸洗、濾過して、本発明の化合物である化合物Iを黒紫粉末として得た(73.2mg、収率8.1%)。
【0066】
[実施例2]
【化20】
【0067】
窒素雰囲気下、イリジウム二核錯体中間体である化合物3(313.6mg、0.228mmol)、炭酸カリウム(142.9mg、4.5equiv.)及びジピバロイルメタン(194.6mg、4.5equiv.)を混合し、2-エトキシエタノール(3.3mL)を加えて80℃で21時間撹拌した。
放冷後、反応液を水-メタノール混合溶液(水:メタノール=1:1、110mL)に注ぎ込んで固体を析出させ、吸引濾過し、残渣をジクロロメタンに溶解させて回収し、水、brineの順に洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒を除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製を行い、溶離フラクションを濃縮後、アセトニトリルで懸洗、濾過して、本発明の化合物である化合物IIを黒紫粉末として得た(90.0mg、収率23.6%)。
【0068】
[吸収スペクトルと発光スペクトルの測定]
得られた化合物I及び化合物IIの吸収スペクトルと発光スペクトルを測定した。なお、吸収スペクトルは、日立製作所のU3900分光光度計を用い、10-5mol/Lの脱気した塩化メチレン溶液を調液して測定した。発光スペクトルは、日本分光株式会社の紫外可視近赤外分光光度計V-7200を用い、10-5mol/Lの脱気したトルエン溶液を調液して測定した。
測定結果を図1~4に示す。
【0069】
[発光極大波長の測定]
上記発光スペクトルの測定結果(図2図4)から、化合物I,IIの発光極大波長(トルエン)を求めた。
また、トルエンの代りに塩化メチレンを用いて、上記と同様に化合物I,IIの発光スペクトルをそれぞれ測定し、その測定結果から、化合物I,IIの発光極大波長(塩化メチレン)を求めた。
これらの結果を表1に示す。
【0070】
[重量減少極大温度の測定]
化合物I及び化合物IIについて、TG-DTAにより重量減少極大温度の測定を行った。重量減少極大温度は、SII社製示差走査熱量計「EXSTAR6000」を用いて、N流量200mL/minにてAl容器を使用し、40℃から600℃まで10℃/minで昇温して測定した。結果を表1に示す。
【0071】
[外部量子収率の測定]
化合物I及び化合物IIについて、トルエン溶液(濃度10μM)を調製後、窒素バブリングした後、浜松フォトニクス社製絶対PL量子収率測定装置を用いて、励起波長535nm、測定範囲650nm~950nmで外部量子収率の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1より、本発明の化合物は、波長800nm程度の近赤外領域に発光特性を有し、近赤外発光を利用した選別・認識手段への応用が可能であることが分かる。
図1
図2
図3
図4