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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116355
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/58 20100101AFI20240820BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240820BHJP
【FI】
H01L33/58
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096474
(22)【出願日】2024-06-14
(62)【分割の表示】P 2023141496の分割
【原出願日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2023013314
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】野網 俊介
(72)【発明者】
【氏名】井上 翔
(57)【要約】
【課題】広い配光特性を持つ発光装置を提供すること。
【解決手段】発光装置は、素子部と、素子部の下面に配置された電極とを有する発光素子と、素子部の上面及び側面に配置された波長変換部材と、波長変換部材の上面に配置された透光性部材と、素子部の下面及び波長変換部材の下面に配置された光反射性部材と、を備える。波長変換部材の側面の全面は、透光性部材から露出する。透光性部材の厚さは、波長変換部材の厚さよりも厚い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子部と、前記素子部の下面に配置された電極とを有する発光素子と、
前記素子部の上面及び側面に配置された波長変換部材と、
前記波長変換部材の上面に配置された透光性部材と、
前記素子部の前記下面及び前記波長変換部材の下面に配置された光反射性部材と、
を備え、
前記波長変換部材の側面の全面は、前記透光性部材から露出し、
前記透光性部材の厚さは、前記波長変換部材の厚さよりも厚い、発光装置。
【請求項2】
前記透光性部材の厚さをx1[μm]、前記波長変換部材の厚さをx2[μm]とすると、
y=1.02+(-0.0000270×x1)+(-1.73×10-5×x2)が、0.99以上1.01以下を満たす、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
上面視において正方形の外縁を有し、
前記正方形の外縁の1辺に対する全体の厚さの比が、1.01以上1.24以下である、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
配光角が0°から-90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第1の光度ピークを有し、配光角が0°から90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第2の光度ピークを有する配光特性を持つ、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項5】
前記素子部の前記上面と前記波長変換部材の前記上面との間の距離は、前記素子部の前記側面と前記波長変換部材の前記側面との間の距離よりも長い、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項6】
素子部と、前記素子部の下面に配置された電極とを有する発光素子と、
前記素子部の上面及び側面に配置された波長変換部材と、
前記波長変換部材の上面に配置され、光拡散材を含む透光性部材と、
を備え、
前記波長変換部材の側面と、前記透光性部材の側面とを含む装置側面を有し、
前記波長変換部材の前記側面の全面は、前記透光性部材から露出し、
前記透光性部材の厚さは、前記波長変換部材の厚さよりも厚く、
配光角が0°から-90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第1の光度ピークを有し、配光角が0°から90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第2の光度ピークを有する配光特性を持つ、発光装置。
【請求項7】
前記透光性部材における前記光拡散材の濃度は、13wt%以上40wt%以下である、請求項6に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、バットウイング型の配光特性を持つ発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-154204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、広い配光特性を持つ発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、発光装置は、素子部と、前記素子部の下面に配置された電極とを有する発光素子と、前記素子部の上面及び側面に配置された波長変換部材と、前記波長変換部材の上面に配置された透光性部材と、前記素子部の前記下面及び前記波長変換部材の下面に配置された光反射性部材と、を備え、前記波長変換部材の側面の全面は、前記透光性部材から露出し、前記透光性部材の厚さは、前記波長変換部材の厚さよりも厚い。
本発明の一態様によれば、発光装置は、素子部と、前記素子部の下面に配置された電極とを有する発光素子と、前記素子部の上面及び側面に配置された波長変換部材と、前記波長変換部材の上面に配置され、光拡散材を含む透光性部材と、を備え、前記波長変換部材の側面と、前記透光性部材の側面とを含む装置側面を有し、前記波長変換部材の前記側面の全面は、前記透光性部材から露出し、前記透光性部材の厚さは、前記波長変換部材の厚さよりも厚く、配光角が0°から-90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第1の光度ピークを有し、配光角が0°から90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第2の光度ピークを有する配光特性を持つ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、広い配光特性を持つ発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の発光装置の模式上面図である。
図2図1のII-II線における模式断面図である。
図3】実施形態の発光装置の模式下面図である。
図4】実施形態の発光装置の配光特性図である。
図5】重回帰分析における目的変数(むら値)を説明するための模式図である。
図6】むら値の予測値と実測値との関係を示す表である。
図7】むら値の予測値と実測値との関係を示す散布図である。
図8】他の実施形態の発光装置を説明する模式断面図である。
図9】実施形態の発光装置及び比較例の発光装置の模式上面図である。
図10】ランバーシャン配光特性図である。
図11】比較例の発光装置の模式断面図である。
図12A】実施形態の発光装置の配光特性図である。
図12B】比較例の発光装置の配光特性図である。
図13A】実施形態の発光装置のx座標における配光色度特性図である。
図13B】比較例の発光装置のx座標における配光色度特性図である。
図14A】実施形態の発光装置のy座標における配光色度特性図である。
図14B】比較例の発光装置のy座標における配光色度特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照し、実施形態の発光装置について説明する。実施形態に記載されている構成部の寸法、材料、形状、相対的配置などは、特定的な記載がない限り、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさ、位置関係などは、説明を明確にするため誇張していることがある。また、以下の説明において、同一の名称、符号については、同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。また、断面図として、切断面のみを示す端面図を示す場合がある。
【0009】
以下の説明において、特定の方向又は位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いる場合がある。しかしながら、それらの用語は、参照した図面における相対的な方向又は位置を分かり易さのために用いているに過ぎない。参照した図面における「上」、「下」等の用語による相対的な方向又は位置の関係が同一であれば、本開示以外の図面、実際の製品等において、参照した図面と同一の配置でなくてもよい。本明細書において「上(又は下)」と表現する位置関係は、例えば、2つの部材があると仮定した場合に、2つの部材が接している場合と、2つの部材が接しておらず一方の部材が他方の部材の上方(又は下方)に位置している場合を含む。また、特定的な記載がない限り、部材が被覆対象を覆うとは、部材が被覆対象に接して被覆対象を直接覆う場合と、部材が被覆対象に非接触で被覆対象を間接的に覆う場合を含む。
【0010】
図1図4を参照して、実施形態の発光装置1について説明する。
【0011】
図1に示すように、発光装置1は、上面視において正方形の外縁1eを有する。発光装置1の外縁1eの1辺の長さは、例えば、1.0mm以上2.0mm以下である。
【0012】
図2は、図1のII-II線における模式断面図である。発光装置1は、発光素子10と、波長変換部材20と、透光性部材30と、光反射性部材40とを備える。
【0013】
発光素子10は、例えば、LED(Light Emitting Diode)である。発光素子10は、素子部11を有する。図1に示すように、素子部11は、上面視において正方形の外縁11eを有する。素子部11の外縁11eの1辺の長さは、例えば、640μm以上1300μm以下である。上面視において、素子部11の外縁11eは、発光装置1の外縁1eに沿って延びている。素子部11の厚さt1は、例えば、130μm以上280μm以下である。素子部11の厚さt1は、素子部11の上面11aと下面11bとの間の最短距離を表す。
【0014】
素子部11は、半導体構造体を有する。素子部11は、さらにサファイアなどの基板を有してもよい。半導体構造体は、n型半導体層と、p型半導体層と、これらに挟まれた発光層とを含む。発光層は、ダブルヘテロ接合または単一量子井戸(SQW)等の構造を有していてもよいし、多重量子井戸(MQW)のようにひとかたまりの活性層群をもつ構造を有していてもよい。半導体構造体は、可視光または紫外光を発する。このような発光層を含む半導体構造体は、例えばInAlGa1-x-yN(0≦x、0≦y、x+y≦1)を含むことができる。
【0015】
半導体構造体は、n型半導体層とp型半導体層との間に1つ以上の発光層を含む構造を有していてもよいし、n型半導体層と発光層とp型半導体層とを順に含む構造が複数回繰り返された構造を有していてもよい。半導体構造体が複数の発光層を含む場合、半導体構造体は発光ピーク波長が異なる発光層を含んでいてもよいし、発光ピーク波長が同じ発光層を含んでいてもよい。なお、発光ピーク波長が同じとは、数nm程度のばらつきがある場合も含む。複数の発光層の間の発光ピーク波長の組み合わせは、適宜選択することができる。例えば半導体構造体が2つの発光層を含む場合、青色光と青色光、緑色光と緑色光、赤色光と赤色光、紫外光と紫外光、青色光と緑色光、青色光と赤色光、または、緑色光と赤色光などの組み合わせで発光層を選択することができる。各発光層は、発光ピーク波長が異なる複数の活性層を含んでいてもよいし、発光ピーク波長が同じ複数の活性層を含んでいてもよい。
【0016】
図2に示すように、発光素子10は、素子部11の下面11bに配置された2つの電極12をさらに有する。2つの電極12のうちの一方はアノード電極、他方はカソード電極として機能する。電極12は、例えば、Cu、Ni、Ru、Au、Ag、Pt、Fe、Su等を含むことができる。
【0017】
波長変換部材20は、素子部11の上面11a及び側面11cに配置され、素子部11の上面11a及び側面11cを覆っている。素子部11の発光層が発する光は、素子部11の上面11a及び側面11cから波長変換部材20に入射する。波長変換部材20は、第1母材と蛍光体とを含む。蛍光体は、発光素子10が発する光を波長変換する。
【0018】
蛍光体としては、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(例えば、Y(Al,Ga)12:Ce)、ルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(例えば、Lu(Al,Ga)12:Ce)、テルビウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(例えば、Tb(Al,Ga)12:Ce)、CCA系蛍光体(例えば、Ca10(POCl:Eu)、SAE系蛍光体(例えば、SrAl1425:Eu)、クロロシリケート系蛍光体(例えば、CaMgSi16Cl:Eu)、βサイアロン系蛍光体(例えば、(Si,Al)(O,N):Eu)、α系サイアロン蛍光体(例えば、Ca(Si,Al)12(O,N)16:Eu)、SLA系蛍光体(例えば、SrLiAl:Eu)、CASN系蛍光体(例えば、CaAlSiN:Eu)若しくはSCASN系蛍光体(例えば、(Sr,Ca)AlSiN:Eu)等の窒化物系蛍光体、KSF系蛍光体(例えば、KSiF:Mn)、KSAF系蛍光体(例えば、K(Si,Al)F:Mn)若しくはMGF系蛍光体(例えば、3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mn)等のフッ化物系蛍光体、ペロブスカイト構造を有する蛍光体(例えば、CsPb(F,Cl,Br,I))、又は、量子ドット蛍光体(例えば、CdSe、InP、AgInS又はAgInSe)等を用いることができる。
【0019】
波長変換部材20の第1母材は、発光素子10が発する光に対する透過性を有する。第1母材は、例えば、耐熱性、耐候性、及び耐光性に優れた樹脂を含む。このような樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂もしくはフッ素樹脂、又は、これらの樹脂の2種以上を含む樹脂が挙げられる。
【0020】
透光性部材30は、波長変換部材20の上面20aに配置される。波長変換部材20の側面20cは、透光性部材30から露出している。波長変換部材20の側面20cと、透光性部材30の側面30cとは、同一面内で連続している。
【0021】
発光素子10が発する光及び蛍光体で波長変換された光が、波長変換部材20の上面20aから透光性部材30に入射する。透光性部材30は、波長変換部材20の上面20aから入射した光を拡散させる。透光性部材30は、第2母材と、光を拡散させる第1添加物とを含む。第1添加物は、光拡散材である。
【0022】
第1添加物(光拡散材)としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム等を用いることができる。透光性部材30は、これら光拡散材以外に、粘度調整のためのフィラーを含んでもよい。
【0023】
第2母材は、発光素子10が発する光及び蛍光体で波長変換された光に対する透過性を有する。第2母材の材料は、例えば、波長変換部材20の第1母材と同じ材料を用いることができる。第1母材の屈折率と第2母材の屈折率とを実質的に同じにすることで、波長変換部材20と透光性部材30との界面での屈折及び反射を低減することができる。これにより、発光装置1の配光特性を、蛍光体の濃度及び/又は透光性部材30に含まれる第1添加物の濃度で容易に調整することができ、所望の配光特性を得やすくできる。第1母材の屈折率と第2母材の屈折率とが実質的に同じとは、第1母材の屈折率と第2母材の屈折率との差が0.3以内であることを言う。
【0024】
波長変換部材20の第1母材の屈折率が、透光性部材30の第2母材の屈折率よりも高くてもよい。または、波長変換部材20の第1母材の屈折率が、透光性部材30の第2母材の屈折率よりも低くてもよい。第1母材の屈折率が第2母材の屈折率よりも高い場合には、第1母材の屈折率が第2母材の屈折率よりも低い場合に比べて、発光装置1の装置側面から出射する光の光度を高くしやすい。第1母材の屈折率が第2母材の屈折率よりも低い場合には、第1母材の屈折率が第2母材の屈折率よりも高い場合に比べて、第1母材と第2母材との界面での反射を低減して、発光装置1の上面から出射する光の光度を高くしやすい。
【0025】
発光装置1の光出射面は、透光性部材30の上面30a、透光性部材30の側面30c、及び波長変換部材20の側面20cを含む。発光装置1の装置側面は、波長変換部材20の側面20cと、透光性部材30の側面30cとを含む。
【0026】
光反射性部材40は、素子部11の下面11b及び波長変換部材20の下面20bに配置され、素子部11の下面11b及び波長変換部材20の下面20bを覆っている。光反射性部材40は、発光素子10が発する光及び蛍光体で波長変換された光に対する反射性を有する。光反射性部材40は、発光素子10及び波長変換部材20から下方に向かった光を、光反射性部材40の上方の発光装置1の光出射面(透光性部材30の上面30a、透光性部材30の側面30c、及び波長変換部材20の側面20c)に向けて反射させる。これにより、発光装置1の光出射面からの光量を増大できる。発光装置1の装置側面は、光反射性部材40の側面をさらに含む。
【0027】
光反射性部材40は、第3母材と第2添加物とを含む。第3母材の材料は、上記第1母材と同じ材料を用いることができる。第2添加物の材料は、上記第1添加物と同じ材料を用いることができる。
【0028】
また、光反射性部材40は、電極12の側面を覆って保護できる。電極12の下面は、光反射性部材40から露出している。
【0029】
光反射性部材40の厚さは、波長変換部材の厚さx2及び透光性部材30の厚さx1よりも薄くすることができる。光反射性部材40の厚さは、例えば、0.015mm以上0.06mm以下である。
【0030】
発光装置1は、金属膜50をさらに備えることができる。金属膜50は、電極12の下面及び光反射性部材40の下面40bに連続して配置され、電極12と電気的に接続されている。アノード側とカソード側の2つの電極12に対応して、2つの金属膜50が互いに離隔して配置されている。図3に示すように、金属膜50の下面50bの面積は、電極12の下面12bの面積よりも大きい。これにより、発光装置1と外部回路(例えば、配線基板)との接合面積を大きくすることができ、信頼性を向上できる。金属膜50は、例えば、Cu、Ni、Ru、Au、Ag、Pt、Fe、Su等を含むことができる。
【0031】
透光性部材30の厚さx1は、波長変換部材20の厚さx2よりも厚い。透光性部材30の厚さx1は、透光性部材30の上面30aと下面30bとの間の最短距離を表す。波長変換部材20の厚さx2は、波長変換部材20の上面20aと下面20bとの間の最短距離を表す。透光性部材30の厚さx1は、例えば、0.63mm以上1.460mm以下である。波長変換部材20の厚さx2は、例えば、0.36mm以上0.91mm以下である。波長変換部材20の厚さx2に対する透光性部材30の厚さx1の比(x1/x2)は、例えば、1.1以上2.0以下である。
【0032】
波長変換部材20の上面20aに配置される透光性部材30の厚さx1を、波長変換部材20の厚さx2よりも厚くすることで、発光装置1の配光特性を、図10に示すランバーシャン配光特性よりも広配光にすることができる。本明細書において、広配光とは、配光角が0°と±90°との間の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい光度ピークを有する配光特性を表す。
【0033】
このような配光特性をもつ発光装置1を、例えば灯具の光源として用いることで、灯具の薄型化に伴って発光装置1から灯具の発光面までの距離が短い場合でも、灯具の発光面における輝度むらを低減できる。また、灯具の発光面を視界に入れた人が発光装置1を点状にまぶしく感じにくくできる。結果として、発光装置1を備えた灯具の薄型化、また灯具の薄型化に伴う軽量化が可能となる。
【0034】
図4は、1つの発光装置1を発光させたときの配光特性の一例を示す図である。図4に示す配光特性は、図9に示す発光装置1の上面視における中心Oを通る少なくとも任意の1つの直線、好ましくはどの直線に沿った断面においても満たす。発光装置1は、配光角が0°から-90°の範囲(0°及び-90°は含まない)に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第1の光度ピークを有し、配光角が0°から90°の範囲(0°及び90°は含まない)に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第2の光度ピークを有する配光特性(いわゆるバットウイング型の配光特性)を持つ。発光装置1は、配光角が20°から50°の範囲に上記第1の光度ピークを有し、配光角が-20°から-50°の範囲に上記第2の光度ピークを有することが好ましい。
【0035】
発光装置の配光特性を広配光とするための構成の他の形態として、図8に示すように、発光素子10と、発光素子10の上面及び側面を覆う波長変換部材20と、波長変換部材20の上面及び側面を覆う透光性部材30とを備えた発光装置500が考えられる。実施形態の発光装置1と他の形態の発光装置500とを比較して、実施形態の発光装置1は、波長変換部材20の側面20cが透光性部材30から露出されていることで、配光特性を広配光にしつつ、発光装置1の光束を向上させることができる。また、実施形態の発光装置1と他の形態の発光装置500とで、外形サイズを同じとした場合、透光性部材30で波長変換部材20の側面を覆う他の形態の発光装置500では、実施形態の発光装置1に比べて、発光素子10の素子部11の側面11cと波長変換部材20の側面20cとの間の距離が短くなるため、波長変換部材20に対する発光素子10の位置ずれの余裕度が小さくなる。これに対して、波長変換部材20の側面20cを透光性部材30から露出させる実施形態の発光装置1では、他の形態の発光装置500に比べて、素子部11の側面11cと波長変換部材20の側面20cとの間の距離d2を長くでき、波長変換部材20に対する発光素子10の位置ずれを低減できる。これにより、実施形態の発光装置1では、発光素子10の位置ずれによる発光装置1の配光色度のずれを低減できる。
【0036】
ここで配光色度について説明する。一般に広く使われている「配光」および「配光特性」は、光源から各方向への光度分布を表すものと、その特性である。これに対し、「配光色度」および「配光色度特性」は、光源から各方向への色度分布を表すものと、その特性である。近年、照明用途として用いられる発光装置や複数の発光装置を備えた面状光源の特性として、所望の配光特性を有することが求められている。しかしながら、所望の配光特性を有するだけでは、色度むらや色度ずれは考慮されておらず、色度むらや色度ずれが低減される、より高品位の発光装置または面状光源を得るためには、配光色度も考慮する必要がある。
【0037】
透光性部材30の4つの側面30c及び波長変換部材20の4つの側面20cの合計面積は、透光性部材30の上面30aの面積よりも大きくすることができる。これにより、発光装置1の全側面から出射する光量を、上面から出射する光量よりも多くすることができ、発光装置1の配光特性を広配光にしやすくなる。
【0038】
また、y=1.02+(-0.0000270×x1)+(-1.73×10-5×x2)…(1)が、0.99以上1.01以下を満たすことが好ましい。yは、透光性部材30の厚さx1と波長変換部材20の厚さx2を説明変数とした重回帰式における目的変数であり、むら値を表す。
【0039】
むら値は、発光装置1の直上の輝度に対する発光装置間の輝度の比を表す。図5は、基板上に、正方格子の格子点状に複数の発光装置1を配置した面状光源の一部を上方から見た図である。それぞれの発光装置間の輝度は、図5に示すように、互いに直交する第1方向X及び第2方向Yにおいて等間隔に配置された4つの発光装置1の間の領域の中心Cの輝度を表す。発光装置1の直上の輝度と、発光装置間の輝度とが同じ場合に、むら値は1となる。むら値が1に近いほど、発光装置1の直上の輝度と、発光装置間の輝度との差が小さい。むら値は、発光装置1の配光特性と相関する。発光装置1の配光特性が広くなると、発光装置1の直上の輝度と、発光装置間の輝度との差が小さくなりやすい。
【0040】
図6に示す28個のモデルの説明変数x1、x2及びむら値の実測値から重回帰分析により式(1)を求めた。式(1)の係数は偏回帰係数である。なお、重回帰分析においてx1及びx2以外にもむら値に影響があると思われる説明変数を用いてむら値に対する影響度を検証した。ステップワイズ法により、説明変数の係数の有意確率を表すp値が低い因子を抽出した。その結果、p値が低い順に、透光性部材30の厚さx1と、波長変換部材20の厚さx2とが算出された。すなわち、むら値と高い相関を持つ説明変数としては、透光性部材30の厚さx1と波長変換部材20の厚さx2を用いれば十分であるとの結論に至った。
【0041】
図7は、図6に示すむら値の予測値と実測値とをプロットした散布図である。横軸はむら値の予測値を表し、縦軸はむら値の実測値を表す。むら値の実測値は、シミュレーションにより求めた値である。むら値の予測値は、式(1)により求めた値である。この散布図において、太実線は、むら値の予測値と実測値とが一致する直線を示す。
【0042】
図7の結果は、式(1)から実測値に対して十分な精度でむら値を予測できることを示す。したがって、式(1)が0.99以上1.01以下を満たすように透光性部材30の厚さx1と波長変換部材20の厚さx2を調整することで、発光装置1の配光特性を広くして、発光装置1の直上の輝度と、発光装置間の輝度との差を小さくしやすくできる。
【0043】
素子部11の上面11aと波長変換部材20の上面20aとの間の距離d1は、素子部11の側面11cと波長変換部材20の側面20cとの間の距離d2よりも長くすることができる。距離d1は、素子部11の上面11aと波長変換部材20の上面20aとの間の最短距離を表す。距離d2は、素子部11の側面11cと波長変換部材20の側面20cとの間の最短距離を表す。距離d1は、例えば、220μm以上640μm以下である。距離d2は、例えば、170μm以上360μm以下である。素子部11から出射する光は、上面11aから出射する直上光成分と、側面11cから出射する側面光成分とを有する。直上光成分は側面光成分よりも多いため、距離d1>距離d2とすることで、発光装置1の直上と側方とにおける色度配光特性のばらつきを低減しやすくできる。
【0044】
発光装置1の外縁1eの1辺に対する全体の厚さの比は、1.01以上1.24以下にすることができる。発光装置1の全体の厚さは、透光性部材20の厚さx1と、波長変換部材20の厚さx2と、光反射性部材40の厚さと、の和である。発光装置1が金属膜50を備える場合には、発光装置1の全体の厚さは、透光性部材20の厚さx1と、波長変換部材20の厚さx2と、光反射性部材40の厚さと、金属膜50の厚さと、の和である。
【0045】
上記距離d1は、素子部11の厚さt1よりも大きくすることができる。また、距離d1は、素子部11の厚さt1以下であってもよい。この場合においても、d1>d2とすることで、発光装置1の直上と側方とにおける色度配光特性のばらつきを低減することができる。
【0046】
ランバーシャン配光特性よりも広配光を実現可能な発光装置として、図11に示す比較例の発光装置700が挙げられる。比較例の発光装置700は、実施形態の発光装置1と同様の部材(発光素子10、波長変換部材20、及び光反射性部材40)と、波長変換部材20の上面20aに配置された光調整部材600と、を備える。光調整部材600は、透光性樹脂と光拡散材とを含み、素子部11からの上方向への光を実質的に遮光する役割を果たす。光調整部材600の厚さは、波長変換部材20の厚さ(光反射性部材40の上面と波長変換部材20の上面との間の最短距離)よりも薄い。
【0047】
以下、図12A図14Bを参照して、実施形態の発光装置1及び比較例の発光装置700のそれぞれについて、配光特性と配光色度特性とを測定した結果について説明する。なお、図12A図14Bにおいて、実線は、図9に示すA-A線に沿った断面における配光特性または配光色度特性を示し、破線は、図9に示すB-B線に沿った断面における配光特性または配光色度特性を示し、1点鎖線は、図9に示すC-C線に沿った断面における配光特性または配光色度特性を示す。
【0048】
図12Aは、実施形態の発光装置1の配光特性を示す。図12Bは、比較例の発光装置700の配光特性を示す。発光装置700において、バットウィング配光を得るために、素子部11からの上方向への光を実質的に遮光してしまうように、光調整部材600に含まれる光拡散材の濃度などを調整した。比較例の発光装置700における光調整部材600に含まれる光拡散材の濃度は、実施形態の発光装置1における透光性部材30に含まれる光拡散材の濃度よりも大幅に高い。このように構成される比較例の発光装置700においては、発光素子10が発する光が光調整部材600で反射して波長変換部材20内に戻る光(戻り光)Lが多くなる。戻り光Lは、再び波長変換部材20内を通過して、波長変換部材20の側面20cから発光装置700の外部に取り出され得る。戻り光Lが波長変換部材20内を進む距離が長くなると、発光素子10が発する光のうち波長変換される光が多くなり、色度むらが生じ得る。
【0049】
図13A及び図14Aは、実施形態の発光装置1の配光色度特性を示す。図13B及び図14Bは、比較例の発光装置700の配光色度特性を示す。図13A及び図13Bは、CIE色度におけるx座標の配光色度特性を示す。図14A及び図14Bは、CIE色度におけるy座標の配光色度特性を示す。比較例の発光装置700の配光色度特性(図13B及び図14B)においては、実施形態の発光装置1の配光色度特性(図13A及び図14A)よりも、配光角の違いに対する色度の変化率が大きく、色度むらが大きくなっている。
【0050】
すなわち、比較例の発光装置700においては、その配光特性(図12B)を、バットウィング型の配光特性にしても、前述した戻り光Lの影響により、色度むらが実施形態の発光装置1よりも大きくなってしまう。
【0051】
実施形態の発光装置1によれば、輝度むら及び色度むらの両方を低減することができる。
【0052】
透光性部材30の第2母材の材料としては、シリコーン樹脂として、例えばフェニルシリコーン樹脂が挙げられる。この場合において、透光性部材30に含まれる光拡散材としては、フェニルシリコーン樹脂との屈折率差が小さい酸化ケイ素などの光拡散材が好ましい。例えば光拡散材として酸化チタンを用いると、屈折率差が大きくなり、戻り光が増加してしまうので、そうならないように一定以下の屈折率差になるようにすることが好ましい。このような光拡散材として、酸化ケイ素または酸化アルミニウムが挙げられる。このうち、フェニルシリコーン樹脂との屈折率差がより小さい酸化ケイ素が好ましい。透光性部材30における第2母材と光拡散材との屈折率差を小さくすることで、第2母材と光拡散材との界面で反射して波長変換部材20内に戻る戻り光を低減できる。
【0053】
透光性部材30における光拡散材の濃度は、13wt%以上40wt%以下が好ましい。これにより、前述したむら値として1に近い値が得られ、発光装置1の直上の輝度と、発光装置間の輝度との差が小さくなりやすい。
【0054】
本発明の実施形態は、以下の発光装置を含むことができる。
【0055】
[項1]
素子部と、前記素子部の下面に配置された電極とを有する発光素子と、
前記素子部の上面及び側面に配置された波長変換部材と、
前記波長変換部材の上面に配置された透光性部材と、
前記素子部の前記下面及び前記波長変換部材の下面に配置された光反射性部材と、
を備え、
前記波長変換部材の側面は、前記透光性部材から露出し、
前記透光性部材の厚さは、前記波長変換部材の厚さよりも厚い、発光装置。
[項2]
前記素子部の前記上面と前記波長変換部材の前記上面との間の距離は、前記素子部の前記側面と前記波長変換部材の前記側面との間の距離よりも長い、上記項1に記載の発光装置。
[項3]
前記透光性部材の厚さをx1、前記波長変換部材の厚さをx2とすると、
y=1.02+(-0.0000270×x1)+(-1.73×10-5×x2)が、0.99以上1.01以下を満たす、上記項1または2に記載の発光装置。
[項4]
上面視において正方形の外縁を有し、
前記正方形の外縁の1辺に対する全体の厚さの比が、1以上2以下である、上記項1~3のいずれか1つに記載の発光装置。
[項5]
配光角が0°から-90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第1の光度ピークを有し、配光角が0°から90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第2の光度ピークを有する配光特性を持つ、上記項1~4のいずれか1つに記載の発光装置。
[項6]
素子部と、前記素子部の下面に配置された電極とを有する発光素子と、
前記素子部の上面及び側面に配置された波長変換部材と、
前記波長変換部材の上面に配置され、光拡散材を含む透光性部材と、
を備え、
前記波長変換部材の側面と、前記透光性部材の側面とを含む装置側面を有し、
前記透光性部材の厚さは、前記波長変換部材の厚さよりも厚く、
配光角が0°から-90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第1の光度ピークを有し、配光角が0°から90°の範囲に、配光角が0°のときの光度よりも大きい第2の光度ピークを有する配光特性を持つ、発光装置。
[項7]
前記透光性部材における前記光拡散材の濃度は、13wt%以上40wt%以下である、上記項6に記載の発光装置。
【0056】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。本発明の上述した実施形態を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての形態も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0057】
1…発光装置、10…発光素子、11…素子部、12…電極、20…波長変換部材、30…透光性部材、40…光反射性部材、50…金属膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B