(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116375
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 3/349 20060101AFI20240820BHJP
A23L 3/3499 20060101ALI20240820BHJP
A23L 3/3544 20060101ALI20240820BHJP
A23L 27/50 20160101ALI20240820BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20240820BHJP
【FI】
A23L3/349
A23L3/3499
A23L3/3544
A23L27/50 A
A23L27/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024097472
(22)【出願日】2024-06-17
(62)【分割の表示】P 2022541532の分割
【原出願日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2020135109
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】島辺 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】内田 理一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 沙稚子
(72)【発明者】
【氏名】丸島 和也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 良知
(72)【発明者】
【氏名】大平 琢哉
(57)【要約】 (修正有)
【課題】減塩しょうゆ、ストレートつゆなどの塩分含有量が少なく、防黴性の低い飲食品において、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌汚染による飲食品の品質低下を抑制するための抗菌剤を提供する。
【解決手段】リコリシジン、8-(γ,γ-ジメチルアリル)-ウィグテオン、グリアスペリンC、イソアングストンA及びリコアリルクマリンからなる群より選択される化合物を有効成分として含有する、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対する抗菌剤とする。また、飲食品中における乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の増殖を抑制する方法であって、飲食品中における前記化合物の濃度の合計を1ppm以上に調整することを含む、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リコリシジン、8-(γ,γ-ジメチルアリル)-ウィグテオン、グリアスペリンC、イソアングストンA及びリコアリルクマリンからなる群より選択される化合物を有効成分として含有する、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対する抗菌剤。
【請求項2】
飲食品中における乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の増殖を抑制する方法であって、前記飲食品中におけるリコリシジン、8-(γ,γ-ジメチルアリル)-ウィグテオン、グリアスペリンC、イソアングストンA及びリコアリルクマリンからなる群より選択される化合物の濃度の合計を1ppm以上に調整することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含酸素複素環式化合物を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康志向の高まりなどから、減塩しょうゆ、ストレートつゆなどの塩分含有量が少なく、防黴性の低い飲食品が流通するようになってきている。このような防黴性の低い飲食品に乳酸菌が混入すると変敗が生じ、乳酸の生成やアミノ酸の脱炭酸によるpHの変化、炭酸ガスの発生による容器の変形等により、製品の品質が著しく損なわれるという問題がある(例えば、非特許文献1)。また、防黴性の低い飲食品にフラットサワー菌が混入すると酸の産生により内容物が酸っぱさを呈し、製品の品質が著しく損なわれるという問題がある(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本醸造協会誌、2008年、第103巻、第2号、p.94-99
【非特許文献2】B.coagulans、藤井健夫編、食品微生物学の基礎、(株)講談社、2015年、p.15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳酸菌及び/又はフラットサワー菌汚染による飲食品の品質低下を抑制する手段として、例えば、合成保存料の添加、食塩及び/又はアルコールの増量、pHを下げることによる酸性化が挙げられる。しかしながら、上記したいずれの方法も健康志向の観点、食品の呈味の観点等から望ましいとはいえない。
【0005】
本発明は、これらの方法によらずに乳酸菌及び/又はフラットサワー菌汚染による品質低下を抑制することのできる飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、リコリシジンなどの下記一般式(I)で表される含酸素複素環式化合物が乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対して抗菌活性を示すことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(I):
【化1】
[式中、R
1及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又はC
2-6アルケニル基を示し、R
2及びR
4はそれぞれ独立して水素原子又はC
1-4アルキル基を示し、R
5及びR
7はそれぞれ独立して水素原子又は水酸基を示し、R
6は水素原子又はC
2-6アルケニル基を示し、Xは結合手、-CH
2-、-CH=、又は-C(=O)-を示し、Yは、-CH
2-、-CH=又は-C(=O)-を示し、
【化2】
で示される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物(以下、「化合物(I)」ともいう)を1種又は2種以上含有し、該化合物の濃度の合計が1ppm以上である飲食品を提供する。本発明の飲食品は化合物(I)を1ppm以上含有するため、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対して抗菌活性を示し、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の混入による飲食品の品質低下を抑制することができる。
【0008】
化合物(I)は、リコリシジン、ガンカオニンI、8-(γ,γ-ジメチルアリル)-ウィグテオン、グリシクマリン、グリアスペリンC、グリシリン、イソアングストンA及びリコアリルクマリンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
本発明の飲食品は、液体調味料又は食品であってもよい。また、上記液体調味料は、しょうゆ、だし、つゆ、たれ、ドレッシング又は調理酢であってもよく、上記食品は、浅漬けであってもよい。
【0010】
また、本発明は、化合物(I)を有効成分として含有する、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対する抗菌剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、飲食品中における乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の増殖を抑制する方法であって、前記飲食品中における化合物(I)の濃度の合計を1ppm以上に調整することを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の混入による品質低下を抑制することのできる飲食品を提供することができる。また本発明によれば、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対する新規な抗菌剤を提供することができる。また本発明によれば、飲食品中における乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の増殖を抑制する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る飲食品は、下記一般式(I):
【化3】
[式中、R
1及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又はC
3-6アルケニル基を示し、R
2及びR
4はそれぞれ独立して水素原子又はC
1-4アルキル基を示し、R
5及びR
7はそれぞれ独立して水素原子又は水酸基を示し、R
6は水素原子又はC
2-6アルケニル基を示し、Xは結合手、-CH
2-、-CH=又は-C(=O)-を示し、Yは-CH
2-、-CH=又は-C(=O)-を示し、
【化4】
で示される結合は単結合又は二重結合を示す。]
で表される化合物を1ppm以上含有する。
【0015】
本明細書において「C1-4アルキル基」とは、炭素数1~4の直鎖又は分枝鎖のアルキル基を意味する。C1-4アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
【0016】
本明細書において「C2-6アルケニル基」とは、炭素数2~6の直鎖又は分枝鎖のアルケニル基を意味する。C2-6アルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペン-1-イル基、プロペン-2-イル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ペンテニル基、1-メチル-1-ブテニル基、2-メチル-1-ブテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、4-メチル-1-ブテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、4-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、4-メチル-3-ブテニル基、1,2-ジメチル-1-プロペニル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、6-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0017】
上記一般式(I)において、R1は、好ましくは水素原子、3-メチル-2-ブテニル基又は1,1-ジメチル-2-プロペニル基である。
【0018】
上記一般式(I)において、R2は、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0019】
上記一般式(I)において、R3は、好ましくは水素原子又は3-メチル-2-ブテニル基である。
【0020】
上記一般式(I)において、R4は、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0021】
上記一般式(I)において、R6は、好ましくは水素原子又は3-メチル-2-ブテニル基である。
【0022】
化合物(I)には立体異性体、互変異性体等の異性体が存在しうる。それらの異性体も本発明の範囲に包含される。
【0023】
化合物(I)の具体例としては、リコリシジン、ガンカオニンI、8-(γ,γ-ジメチルアリル)-ウィグテオン、グリシクマリン、グリアスペリンC、グリシリン、イソアングストンA、リコアリルクマリンが挙げられる。
【0024】
リコリシジンは、4-[(R)-7-ヒドロキシ-5-メトキシ-6-(3-メチル-2-ブテニル)クロマン-3-イル]-2-(3-メチル-2-ブテニル)-1,3-ベンゼンジオールとも称され、以下の式:
【化5】
で表される公知の化合物である。
【0025】
ガンカオニンIは、5-(3-メチル-2-ブテニル)-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ジメトキシベンゾフランとも称され、以下の式:
【化6】
で表される公知の化合物である。
【0026】
8-(γ,γ-ジメチルアリル)-ウィグテオンは、6,8ビス(3-メチル-2-ブテニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジヒドロキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンとも称され、以下の式:
【化7】
で表される公知の化合物である。
【0027】
グリシクマリンは、3-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-7-ヒドロキシ-5-メトキシ-6-(3-メチル-2-ブテニル)-2H-1-ベンゾピラン-2-オンとも称され、以下の式:
【化8】
で表される公知の化合物である。
【0028】
グリアスペリンCは、(3R)-3β(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5-メトキシ-6-(3-メチル-2-ブテニル)-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピラン-7-オールとも称され、以下の式:
【化9】
で表される公知の化合物である。
【0029】
グリシリンは、3-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-6-(3-メチル-2-ブテニル)-2H-1-ベンゾピラン-2-オンとも称され、以下の式:
【化10】
で表される公知の化合物である。
【0030】
イソアングストンAは、3-[3,4-ジヒドロキシ-5-(3-メチル-2-ブテニル)フェニル]-5,7-ジヒドロキシ-6-(3-メチル-2-ブテニル)-4H-クロメン-4-オンとも称され、以下の式:
【化11】
で表される公知の化合物である。
【0031】
リコアリルクマリンは、3-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-7-ヒドロキシ-5-メトキシ-8-(2-メチル-3-ブテン-2-イル)クマリンとも称され、以下の式:
【化12】
で表される公知の化合物である。
【0032】
化合物(I)は、当業者に公知の方法で合成したものであってもよく、市販品であってもよい。なお、リコリシジン、ガンカオニンI、8-(γ,γ-ジメチルアリル)-ウィグテオン、グリシクマリン、グリアスペリンC、グリシリン、イソアングストンA及びリコアリルクマリンは甘草油性抽出物に含まれる化合物であることが知られている。したがって、本実施形態に係る飲食品においては、化合物(I)を含有する甘草油性抽出物をそのまま用いることもでき、甘草油性抽出物に含まれる化合物(I)を単離したものを用いることもできる。
【0033】
本実施形態に係る飲食品は、化合物(I)を1種のみ含有してもよく、2種以上を含有してもよい。なお、本実施形態に係る飲食品が化合物(I)を2種以上含有する場合、化合物(I)の濃度は各化合物の濃度を合計した濃度を意味する。
【0034】
本実施形態に係る飲食品において、化合物(I)の濃度の下限は1ppm以上であればよい。これにより、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の混入による飲食品の品質低下を抑制することが可能となる。なお、化合物(I)の濃度は、飲食品の用途、食塩濃度、アルコール濃度、pH等に応じて、1ppm以上の範囲で適宜設定することができるが、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対する抗菌活性を一層高める観点から、例えば、5ppm以上であってもよく、10ppm以上であってもよく、25ppm以上であってもよく、50ppm以上であってもよい。
【0035】
本実施形態に係る飲食品において、化合物(I)の濃度の上限は特に制限されないが、対象となる飲食品中に十分に溶解させる観点から、例えば、10000ppm以下であってもよい。
【0036】
化合物(I)の濃度は、例えば、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC/MS/MS)によって測定することができる。
【0037】
本実施形態に係る飲食品は、化合物(I)を1ppm以上含有する飲食品であれば特に制限なく任意の飲食品であってよい。本実施形態に係る飲食品としては、例えば、しょうゆ、だし、つゆ、たれ、スープ、ソース、ドレッシング等の液体調味料;味噌、マヨネーズ等の半固体状調味料;梅干、漬物、惣菜等が挙げられる。本実施形態に係る飲食品は、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌汚染による品質低下をより一層抑制できる観点から、液体調味料又は食品が好ましい。液体調味料ではしょうゆ、だし、つゆ、たれ、ドレッシング又は調理酢が好ましい。食品では浅漬けが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る飲食品の食塩濃度は特に制限されないが、食塩を増量することなく乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対する抗菌活性を高める観点から、例えば、食塩濃度が12%(w/v)以下、8%(w/v)以下、4%(w/v)以下、又は0%(w/v)(無塩)であってもよい。
【0039】
食塩濃度は、例えば、電位差滴定法、モール法、原子吸光光度法等の公知の方法で測定することができる。
【0040】
本実施形態に係る飲食品のアルコール濃度は特に制限されないが、アルコールを増量することなく乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対する抗菌活性を高める観点から、例えば、10%(v/v)以下、5%(v/v)以下、又は0%(v/v)であってもよい。
【0041】
アルコール濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィーによって測定することができる。
【0042】
本実施形態に係る飲食品のpHは特に制限されないが、飲食品の呈味を良好なものとする観点から、例えば、3.0以上、4.0以上、又は4.2以上であってもよく、7.0以下、6.0以下、又は5.8以下であってもよい。
【0043】
本実施形態に係る飲食品は、例えば、ベースとなる飲食品(好ましくは液体調味料又は食品)に、化合物(I)を含む甘草油性抽出物又は化合物(I)を1ppm以上の濃度となるように添加し、必要に応じて、希釈、濃縮(脱気、加熱、乾燥、減圧下での加熱・脱気等)、各種添加物の添加等を行うことで製造することができる。
【0044】
以下の実施例において確認されているように、化合物(I)は乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対して抗菌作用を示す。よって、本発明の一実施形態として、化合物(I)を有効成分として含有する、乳酸菌及び/又はフラットサワー菌に対する抗菌剤が提供される。
【0045】
本実施形態に係る抗菌剤は、種々の危害乳酸菌(例えば、ラクトバチラス属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属等に含まれる乳酸菌)、フラットサワー菌(例えば、バチルス コアグランス等)に対して用いることができる。
【0046】
本実施形態に係る抗菌剤は、固体(例えば、粉末)、液体(例えば、溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形態であってもよい。また、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等のいずれの剤形であってもよい。なお、上述の各種製剤は、リコリシジンと、添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)とを混和し、必要に応じて成形することによって調製することができる。
【0047】
本実施形態に係る抗菌剤は、任意の飲食品に添加して用いることができる。このような飲食品としては、例えば、しょうゆ、だし、つゆ、たれ、スープ、ソース、ドレッシング、調理酢等の液体調味料;味噌、マヨネーズ等の半固体状調味料;梅干、漬物、惣菜等が挙げられる。
【0048】
また、以下の実施例において確認されているように、化合物(I)は乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の増殖を抑制する作用を示す。よって、本発明の一実施形態として、飲食品中における乳酸菌及び/又はフラットサワー菌の増殖を抑制する方法であって、前記飲食品中における化合物(I)の濃度の合計を1ppm以上に調整することを含む方法が提供される。
【実施例0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0050】
〔試験例1:乳酸菌に対する食用植物抽出エキスの抗菌作用〕
(抽出エキスの調製)
市販の食用植物(表1及び2に記載)の葉、茎又は根を粉砕したものに、粉砕物と等量の滅菌水を加えボルテクスにて撹拌混合し、室温で1時間静置した。この混合物に滅菌水の3倍量のエタノールを添加し、インキュベーターで50℃、120rpm(往復振盪)の条件で3時間抽出し、75%エタノール抽出液を得た。この抽出液を3000rpmで10分間遠心処理し、各抽出エキスを得た。
(しょうゆの調製)
市販減塩しょうゆ(キッコーマン社製)を滅菌水で2倍希釈し、水酸化ナトリウムでpH4.8に調整し、加熱殺菌を行って、試験用減塩しょうゆを調製した。
(抗菌作用の評価)
試験管に試験用減塩しょうゆ11.3mL、各抽出エキス0.7mL及び乳酸菌(Lactobacillus rennini及びLactobacillus acidipiscis)を終濃度105cfu/mL程度となるように添加し、シリコ栓をし、30℃で静置して嫌気培養を行った。乳酸菌が増殖すると菌体の沈殿が生じることから、経時的に試験管の底に生じる沈殿を観察し、コントロール(抽出物の代わりに75%エタノール水溶液を加えたもの)と各抽出エキスを添加した試験との沈殿が生じるまでの日数を比較し、抗菌作用の評価を実施した。結果を表1及び2に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
〔試験例2:官能評価〕
試験例1において抗菌作用(増殖までの日数がコントロールと比較して7日以上の差)が認められた抽出エキス19種の香りと味の観点から素材として適しているかについて、訓練されたパネル1名により以下の評価基準で官能評価を実施した。結果を表3に示す。なお、表中において使用部位については、1は種子(種皮)又は果実(果皮)、2は葉、茎、花又は幹、3は根をそれぞれ示す。
評価基準
○:素材として適している
△:素材としてあまり適していない
×:素材として明らかに適していない
-:未評価
【0054】
【0055】
表3より、カンゾウ末の抽出エキスが総合評価において素材として最も適していると評価された。また、市販減塩しょうゆ(キッコーマン社製)に該抽出エキスを100ppmとなるように添加し、訓練されたパネル5名により香りと味について官能評価を実施した結果、減塩しょうゆの風味を損なうことがなく、素材として適していることを確認した。
【0056】
〔試験例3:乳酸菌に対して抗菌作用を有するカンゾウ末中の物質の同定〕
(抽出エキスの調製)
カンゾウ末(日本粉末薬品株式会社)1kgにクロロホルム(関東化学特級)5Lを加えて室温で2時間攪拌した後、ひだ付きろ紙(5C)を用いてろ過を行った。このろ液をエバポレーターを用いて濃縮乾固し、11gの抽出エキスを得た。
(抗菌作用を有する物質の分画)
シリカゲル(Disogel IR-60-40/63A Cat.1002A)をカラム(3L)に充填し、上記得られた抽出エキス約11gをクロロホルム約30mlに溶解させ、以下の溶媒を順に用い、流速40ml/分、220nmでのTLC分析でモニタリングしながら13のフラクション(溶出順にA~M)に分画した。
1)ヘキサン(6L)
2)ヘキサン:酢酸エチル=4:1(10L)
3)ヘキサン:酢酸エチル=3:1(12L)
4)へキサン:酢酸エチル=2:1(10L)
(各フラクションの抗菌作用の評価)
BCP加プレートカウントアガール(ニッスイ)に、200μg/mL、67μg/mL、22μg/mL又は7μg/mLとなるように各フラクションを添加した。乳酸菌(Lactobacillus rennini及びLactobacillus acidipiscis;106~107cfu/mL)の菌液を1白金耳塗布し、30℃で8日間嫌気培養し、乳酸菌の増殖抑制効果を評価した。評価は、各フラクションの抗菌性ユニットを以下の式(1)を用いて算出し、求めた各フラクションの抗菌性ユニットから以下の式(2)を用いて抗菌作用に対する寄与率を算出した。結果を表4に示す。
式(1):各フラクションの抗菌性ユニット=100/抗菌作用を発揮した濃度×分画量
式(2)抗菌作用に対する寄与率(%)=(各フラクションの抗菌性ユニット/全フラクションの抗菌性ユニット)×100
【0057】
【0058】
表4より、フラクションF及びIに強い抗菌作用が認められ、特にフラクションIにカンゾウ末中の主要な抗菌成分が含有されていると強く推定された。そこで、フラクションIに含まれる抗菌成分を同定するため、13C-NMRスペクトル測定を実施した。その結果、当該抗菌成分はリコリシジンと推定され、標品(ChemFaces社製)の13C-NMRスペクトルと比較した結果、両者が一致することを確認した。また、当該抗菌成分についてTOF(飛行時間型)質量分析を実施したところ、リコリシジンと同じくm/z 425に[M+H]+のピークを示すことを確認した。
【0059】
〔試験例4:液体調味料中の乳酸菌に対するリコリシジンの抗菌作用(1)〕
(1)各液体調味料の製造
(しょうゆの製造)
市販の丸大豆しょうゆ(キッコーマン社製)を電気透析した後、減圧濃縮を行うことにより、食塩濃度0%(w/v)かつアルコール濃度0%(v/v)のしょうゆを製造した。次に、上記得られたしょうゆに食塩及び/又はアルコールを添加した後、加熱処理し、下記表5に示す食塩濃度及びアルコール濃度の各しょうゆを製造した。なお、各しょうゆのpHは4.9~5.0であった。
【0060】
【0061】
(鰹だしの製造)
下記表6に示す材料を用いて鰹だしを製造した。具体的には、かつお節に含まれる成分をアルコール及び水で抽出し、得られた抽出液に砂糖、食塩及び調味料を配合し加熱することで鰹だしを製造した。なお、得られた鰹だしの食塩濃度は0.2%(w/v)、アルコール濃度は0.15%(v/v)、pHは6.1であった。
【0062】
【0063】
(たれの製造)
下記表7に示す材料を用いてたれを製造した。具体的には、下記表7に示す量の濃口しょうゆ(キッコーマン社製)、グラニュー糖、片栗粉及び水を配合し、加熱することでたれを製造した。なお、得られたたれの食塩濃度は5.3%(w/v)、アルコール濃度は0.8%(v/v)、pHは5.0であった。
【0064】
【0065】
(つゆの製造)
下記表8に示す材料を用いてつゆを製造した。具体的には、かつお節に含まれる成分を水で抽出し、得られた抽出液に濃口しょうゆ(キッコーマン社製)、砂糖及び食塩を配合し加熱することでつゆを製造した。なお、得られたつゆの食塩濃度は3%(w/v)、アルコール濃度は0.4%(v/v)、pHは5.5であった。
【0066】
【0067】
(2)抗菌作用の評価
上記(1)で製造した各液体調味料に、リコリシジン(ChemFaces社製)を1ppm、5ppm、10ppm、25ppm及び50ppmの濃度となるように添加した後、下記表9に記載の乳酸菌を106~107個/mLとなるようにそれぞれ添加し、30℃で7日間培養した。培養後、GAM寒天培地「ニッスイ」を用いて乳酸菌数を測定し、リコリシジンを添加しない液体調味料を対照群とし、当該対照群における乳酸菌数と比較することで抗菌活性を評価した。なお、評価は以下に示す基準を用いて行った。結果を表10~16に示す。
(評価基準)
A:菌数が対照群の10%未満に減少
B:菌数が対照群の10%以上50%未満に減少
C:菌数が対照群の50%以上100%未満に減少
D:菌数が対照群と同じ
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
リコリシジンは各種の乳酸菌に対し、種々の食塩濃度及びアルコール濃度の条件下において抗菌活性を示すことが確認された。
【0077】
〔試験例5:液体調味料中の乳酸菌に対するリコリシジンの抗菌作用(2)〕
(しょうゆの製造)
市販の丸大豆しょうゆ(キッコーマン社製)を電気透析した後、減圧濃縮を行うことにより、食塩濃度0%(w/v)かつアルコール濃度0%(v/v)のしょうゆを製造した。次に、上記得られたしょうゆに食塩及び/又はアルコールを添加した後、塩酸又は水酸化ナトリウム水溶液を加えて所望のpHに調整した。無菌精製水を添加した後、加熱処理し、下記表17に示す食塩濃度、アルコール濃度及びpHの各しょうゆを製造した。
(抗菌作用の評価)
得られた各しょうゆにリコリシジン(ChemFaces社製)を1ppm、5ppm、10ppm、25ppm及び50ppmの濃度となるように添加した後、乳酸菌(Lactobacillus rennini(DSM 20253))を106~107個/mLとなるようにそれぞれ添加し、30℃で7日間培養した。培養後、GAM寒天培地「ニッスイ」を用いて乳酸菌数を測定し、リコリシジンを添加しないしょうゆを対照群とし、当該対照群における乳酸菌数と比較することで抗菌活性を評価した。なお、評価は試験例4と同様の基準を用いて行った。結果を表18及び19に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
〔試験例6:液体調味料中の乳酸菌に対する含酸素複素環式化合物の抗菌作用(1)〕
(しょうゆの製造)
市販の丸大豆しょうゆ(キッコーマン社製)を電気透析した後、減圧濃縮を行うことにより、食塩濃度0%(w/v)かつアルコール濃度0%(v/v)のしょうゆを製造した。次に、上記得られたしょうゆに食塩及びアルコールを添加した後、加熱処理し、食塩濃度4%(w/v)かつアルコール濃度5%(v/v)のしょうゆを製造した。
(抗菌作用の評価)
上記製造したしょうゆに、表20に記載の各試験物質を1~100ppmの濃度となるように添加した後、乳酸菌(Lactobacillus rennini(DSM 20253))を106~107個/mLとなるようにそれぞれ添加し、30℃で7日間培養した。培養後、GAM寒天培地「ニッスイ」を用いて乳酸菌数を測定し、試験物質を添加しないしょうゆを対照群とし、当該対照群における乳酸菌数と比較することで抗菌活性を評価した。なお、評価は以下に示す基準を用いて行った。結果を表20に示す。
(評価基準)
A:菌数が対照群の10%未満に減少
B:菌数が対照群の10%以上50%未満に減少
C:菌数が対照群の50%以上100%未満に減少
D:菌数が対照群と同じ
-:未評価
【0082】
【0083】
リコリシジン以外の含酸素複素環式化合物についても、リコリシジンと同様に抗菌活性を有することが確認された。
【0084】
〔試験例7:液体調味料中の乳酸菌に対する含酸素複素環式化合物の抗菌作用(2)〕
(抗菌作用の評価)
試験例6で製造したしょうゆに、表21に記載の各試験物質を0.1ppm、0.5ppm、1ppm、5ppm、25ppm及び50ppmの濃度となるように添加した後、乳酸菌(Lactobacillus fructivores(NBRC 13954))を104~105個/mLとなるようにそれぞれ添加し、30℃で7日間培養した。培養後、Difco Lactobacilli MRS Agarを用いて乳酸菌数を測定し、試験物質を添加しないしょうゆを対照群とし、当該対照群における乳酸菌数と比較することで抗菌活性を評価した。なお、評価は以下に示す基準を用いて行った。結果を表21に示す。
(評価基準)
A:菌数が対照群の10%未満に減少
B:菌数が対照群の10%以上50%未満に減少
C:菌数が対照群の50%以上100%未満に減少
D:菌数が対照群と同じ
【0085】
【0086】
リコリシジン以外の含酸素複素環式化合物についても、リコリシジンと同様に抗菌活性を有することが確認された。
【0087】
〔試験例8:液体調味料中のフラットサワー菌に対するリコリシジンの抗菌作用〕
(つゆの製造)
下記表22に示す材料を用いてつゆを製造した。具体的には、かつお節に含まれる成分を水で抽出し、得られた抽出液に濃口しょうゆ(キッコーマン社製)、砂糖及び食塩を配合し加熱することでつゆを製造した。なお、得られたつゆの食塩濃度は3%(w/v)、アルコール濃度は0.4%(v/v)、pHは5.2であった。
【0088】
【0089】
(抗菌作用の評価)
上記製造したつゆに、リコリシジン(ChemFaces社製)を1ppm、5ppm、10ppm、25ppm及び50ppmの濃度となるように添加した後、フラットサワー菌(Bacillus coagulans(IFO12714))を104~105個/mLとなるようにそれぞれ添加し、45℃で7日間培養した。リコリシジンを添加しないつゆを対照とし、pHを比較することで抗菌活性を評価した。なお、評価は以下に示す基準を用いて行った。結果を表23に示す。
(評価基準)
A:pHが対照と比較して変化なし
B:pHが対照比較して低下
【0090】
【0091】
リコリシジンはフラットサワー菌に対して抗菌活性を示すことが確認された。
【0092】
〔試験例9:液体調味料中及び食品中の乳酸菌に対するリコリシジンの抗菌作用(3)〕
(1)各液体調味料及び食品の製造
(液状ドレッシングの製造)
下記表24に示す材料を用いて液状ドレッシングを製造した。具体的には、下記表24に示す量の濃口しょうゆ(キッコーマン社製)、食酢、みりん、グラニュー糖、昆布だし及び水を配合し、加熱することで液状ドレッシングを製造した。なお、得られた液状ドレッシングの食塩濃度は2.6%(w/v)、アルコール濃度は0.8%(v/v)、pHは4.2であった。
【0093】
【0094】
(浅漬けの製造)
下記表25に示す材料を用いて浅漬け用調味液を製造した。具体的には、下記表25に示す量の淡口しょうゆ(キッコーマン社製)、食酢、コーンシロップ、異性化糖、食塩、グラニュー糖、グルタミン酸ナトリウム(MSG)、レモン果汁、昆布だし及び水を配合し、加熱することで浅漬け用調味液を製造した。この浅漬け用調味液に、白菜を十分浸すことで浅漬けを製造した。なお、得られた浅漬け用調味液の食塩濃度は3.1%(w/v)、アルコール濃度は0.01%(v/v)、pHは4.4であった。
【0095】
【0096】
(調理酢の製造)
下記表26に示す材料を用いて調理酢を製造した。具体的には、下記表26に示す量の食酢、食塩、グラニュー糖、レモン果汁、グルタミン酸ナトリウム(MSG)及び水を配合し、加熱することで調理酢を製造した。なお、得られた調理酢の食塩濃度は1.5%(w/v)、アルコール濃度は0%(v/v)、pHは3.8であった。
【0097】
【0098】
(2)抗菌作用の評価
上記製造した液状ドレッシング、浅漬け及び調理酢に、リコリシジンを1ppm、5ppm、10ppm、25ppm及び50ppmの濃度となるように添加した後、乳酸菌(Lactobacillus rennini(DSM 20253))を106~107個/mLとなるようにそれぞれ添加し、液状ドレッシング及び浅漬けについては30℃で7日間、調理酢に潰えは30℃で3日間それぞれ培養した。培養後、GAM寒天培地「ニッスイ」を用いて乳酸菌数を測定し、リコリシジンを添加しない液状ドレッシング、浅漬け及び調理酢を対照群とし、当該対照群における乳酸菌数と比較することで抗菌活性を評価した。なお、評価は試験例4と同様の基準を用いて行った。結果を表27に示す。
(評価基準)
A:菌数が対照群の10%未満に減少
B:菌数が対照群の10%以上50%未満に減少
C:菌数が対照群の50%以上100%未満に減少
D:菌数が対照群と同じ
【0099】
【0100】
リコリシジンは各種液体調味料及び食品において、乳酸菌に対して抗菌活性を示すことが確認された。