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特開2024-116429組織の老化を予防または治療するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116429
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】組織の老化を予防または治療するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240821BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240821BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240821BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240821BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20240821BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240821BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240821BHJP
   C12Q 1/25 20060101ALI20240821BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240821BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240821BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20240821BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 105
A61P25/00
A61P17/00
A61P15/00
A61K31/519
A61K48/00
A61K31/7105
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/115 Z
C12N15/85 Z
C12Q1/02
C12Q1/25
C12N5/071
G01N33/15 Z
G01N33/02
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112261
(22)【出願日】2021-07-06
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】波平 昌一
(72)【発明者】
【氏名】林 良樹
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045BB20
2G045DA35
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ80
4B063QR48
4B063QS10
4B063QS33
4B063QS39
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065BA21
4B065CA23
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB211
4C084ZB212
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB06
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZB21
(57)【要約】
【課題】 生殖組織または神経組織の老化を予防または治療するための組成物を提供する。また、抗老化物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】 S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤を含んでなる、組織の老化を予防または治療するための組成物。(1)候補化合物の存在下で線維芽細胞を培養するステップと、(2)前記線維芽細胞の増殖能を評価するステップと、(3)前記線維芽細胞におけるS-アデノシルメチオニンを定量するステップとを含む、抗老化物質のスクリーニング方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤を含んでなる、組織の老化を予防または治療するための組成物。
【請求項2】
前記組織が、皮膚組織、生殖組織および神経組織からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記S-アデノシルメチオニン合成酵素がメチオニンアデノシルトランスフェラーゼ2である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤が、6-(2-メチルベンゾ[d]チアゾール-6-イル)-2,3-ジフェニル-5-(ピリジン-2-イルアミノ)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7(4H)-オン(E)-4-(2-クロロ-6-フルオロスチリル)-N-メチルアニリン、および3-(サイクロヘクス-1-エン-1-イル)-6-(4-メトキシフェニル)-2-フェニル-5-(ピリジン-2-イラミノ)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7(4H)-オンからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤が、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ2遺伝子の発現を阻害するRNAまたはそれをコードする核酸を含む発現ベクターである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が医薬品である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が飲食品である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
(1)候補化合物の存在下で線維芽細胞を培養するステップと、
(2)前記線維芽細胞の増殖能を評価するステップと、
(3)前記線維芽細胞におけるS-アデノシルメチオニンを定量するステップと
を含む、抗老化物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
(4)前記候補化合物の存在下で神経幹細胞を培養するステップと、
(5)前記神経幹細胞の増殖能および/または分化能を評価するステップと、
(6)前記神経幹細胞におけるS-アデノシルメチオニンを定量するステップと
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
(7)ショウジョウバエに前記候補化合物を投与するステップと、
(8)前記ショウジョウバエの生殖組織を解析するステップと
をさらに含む、請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚組織、生殖組織および神経組織などの種々の組織の老化を予防または治療するための組成物、およびS-アデノシルメチオニンを指標とした抗老化物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少子高齢化が進む社会において、加齢に伴う組織の機能低下(老化)の克服は喫緊の課題である。とりわけ、晩婚化による出産年齢の上昇や、高齢化に伴う認知症患者の増加は大きな問題となっており、生殖機能および脳機能の老化を抑制することが、少子化に歯止めをかけ、健康長寿を達成する上で極めて重要である。しかし、特定の疾患を対象とした従来の創薬アプローチによっては抗老化に十分に対処することは困難であり、異なった視点からの抗老化アプローチが求められている。
【0003】
近年、メチオニンの代謝産物であるS-アデノシルメチオニン(SAM)がショウジョウバエ個体の寿命に影響を及ぼすことが報告された(非特許文献1)。この報告によれば、ショウジョウバエ体内のSAM量が加齢に伴って増加する一方、SAM量の増加を抑制するとショウジョウバエの寿命が延長される。しかし、ショウジョウバエの各組織の老化に対するSAMの影響は不明である。さらに、ショウジョウバエ以外の動物における老化とSAMの関連性は、一切明らかにされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Obata,F.& Miura,M.,Nature Communications,Vol.6,Article number:8332(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加齢に伴う種々の組織の機能低下を予防または治療するための組成物ならびにそのスクリーニング方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、鋭意研究の結果、ショウジョウバエにおいてSAM量の増加が生殖組織の老化を促進すること、マウスにおいても加齢に伴い生殖組織および脳組織におけるSAM量が増加すること、SAMがヒト線維芽細胞の増殖能やヒト神経幹細胞の増殖能および分化能に影響することを初めて確認した。本発明者らは、この新規な発見に基づき、SAMの生合成を低減する物質が、皮膚組織、生殖組織および神経組織を含む種々の組織の老化の予防または治療に有用であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤を含んでなる、組織の老化を予防または治療するための組成物を提供するものである。
【0008】
前記組織は、皮膚組織、生殖組織および神経組織からなる群から選択されることが好ましい。
【0009】
前記S-アデノシルメチオニン合成酵素は、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ2であることが好ましい。
【0010】
前記S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤は、6-(2-メチルベンゾ[d]チアゾール-6-イル)-2,3-ジフェニル-5-(ピリジン-2-イルアミノ)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7(4H)-オン(E)-4-(2-クロロ-6-フルオロスチリル)-N-メチルアニリン、および3-(サイクロヘクス-1-エン-1-イル)-6-(4-メトキシフェニル)-2-フェニル-5-(ピリジン-2-イラミノ)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7(4H)-オンからなる群から選択されることが好ましい。
【0011】
あるいは、前記S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤は、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ2遺伝子の発現を阻害するRNAまたはそれをコードする核酸を含む発現ベクターであることが好ましい。
【0012】
前記組成物は、医薬品であることが好ましい。
【0013】
あるいは、前記組成物は、飲食品であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、一実施形態によれば、(1)候補化合物の存在下で線維芽細胞を培養するステップと、(2)前記線維芽細胞の増殖能を評価するステップと、(3)前記線維芽細胞におけるS-アデノシルメチオニンを定量するステップとを含む、抗老化物質のスクリーニング方法を提供するものである。
【0015】
上記方法は、(4)前記候補化合物の存在下で神経幹細胞を培養するステップと、(5)前記神経幹細胞の増殖能および/または分化能を評価するステップと、(6)前記神経幹細胞におけるS-アデノシルメチオニンを定量するステップとをさらに含むことが好ましい。
【0016】
上記方法は、(7)ショウジョウバエに前記候補化合物を投与するステップと、(8)前記ショウジョウバエの生殖組織を解析するステップとをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る組成物は、加齢に伴う種々の組織の機能低下を予防または治療するために有用である。また、本発明に係るスクリーニング方法は、細胞または組織におけるSAMの生合成を低減することにより、皮膚組織、生殖組織および神経組織を含む種々の組織の老化を抑制し得る化合物を取得することができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、若齢および老齢の対照ショウジョウバエの卵巣小管の免疫組織染色像である。
図2図2は、若齢および老齢の対照ショウジョウバエにおけるSAM-Sの発現量を示すグラフである。
図3図3は、若齢ならびに老齢の対照およびSam-S(-)ショウジョウバエ卵巣におけるSAM-Sの発現量を示すグラフである。
図4図4は、各ショウジョウバエ系統における卵巣小管あたりの生殖幹細胞の数の加齢に伴う変化を示すグラフである。
図5図5は、対照およびSam-S(++)ショウジョウバエにおける異常卵巣の出現頻度を示すグラフである。
図6図6は、対照およびSam-S(-)ショウジョウバエにおける異常卵巣の出現頻度を示すグラフである。
図7図7は、若齢ならびに老齢のマウス生殖組織および脳組織におけるSAM量を示すプロットである。
図8図8は、SAM合成酵素阻害剤の存在下における、細胞増殖マーカー陽性のヒト神経幹細胞の割合を示すグラフである。
図9図9は、SAM合成酵素阻害剤の存在下における、神経分化マーカー陽性のヒト神経幹細胞の割合を示すグラフである。
図10図10は、SAM合成酵素阻害剤の存在下における、細胞増殖マーカー陽性のヒト皮膚線維芽細胞の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明は、第一の実施形態によれば、S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤を含んでなる、組織の老化を予防または治療するための組成物である。
【0021】
本実施形態において、「予防する」とは、生殖組織または神経組織が老化するおそれのある対象において、それを未然に防ぐことのみならず、そのリスクを低減することや、事前の処置により、生殖組織または神経組織の老化を遅延または軽減することをも含む。
【0022】
本実施形態において、「治療する」とは、生殖組織または神経組織の老化を完全に治癒することのみならず、それを寛解または緩和することや、その進行を遅延または停止させることをも含む。
【0023】
本実施形態における「組織」は、任意の脊椎動物におけるものであってよく、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヤギ、サル、ヒトなどの哺乳動物の組織であり、特に好ましくはヒトの組織である。また、組織の種類も特に限定されず、例えば、皮膚組織、生殖組織、神経組織、筋組織、骨および軟骨組織、免疫系組織などであってよい。
【0024】
本実施形態における組織は、好ましくは、皮膚組織、生殖組織または神経組織である。本実施形態における「皮膚組織」には、皮膚を構成するすべての組織、すなわち、表皮、真皮および皮下組織が含まれてよい。本実施形態における「生殖組織」には、卵巣および精巣が含まれてよい。本実施形態における「神経組織」には、中枢神経組織および末梢神経組織が含まれてよい。
【0025】
本実施形態において、組織の「老化」とは、その組織を構成する細胞が加齢により減少または劣化することをいう。ここで、細胞の「劣化」とは、細胞の分化能、増殖能および/または機能が低下または消失することを意味する。
【0026】
皮膚組織を構成する細胞には、例えば、線維芽細胞、表皮幹細胞、真皮幹細胞、毛包幹細胞、角化細胞、色素細胞、ランゲルハンス細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。生殖組織を構成する細胞には、生殖細胞への分化が決定づけられた細胞全般が含まれてよく、例えば、卵子幹細胞(卵原細胞)、一次卵母細胞、二次卵母細胞、卵細胞、精子幹細胞(精原細胞)、一次精母細胞、二次精母細胞および精細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。神経組織を構成する細胞には、神経細胞への分化が決定づけられた細胞全般が含まれてよく、例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
S-アデノシルメチオニン(以下、「SAM」とも記載する)は、メチオニンとATPを基質として、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(以下、「MAT」とも記載する)により生成される。したがって、本実施形態における「S-アデノシルメチオニン(SAM)合成酵素」は、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(MAT)と同義である。MATには複数のアイソザイムが存在し、本実施形態におけるSAM合成酵素は、いずれのアイソザイムであってもよい。例えば、哺乳動物にはMAT1およびMAT2の2種類のアイソザイムが存在し、いずれも本実施形態におけるSAM合成酵素に含まれてよい。本実施形態におけるSAM合成酵素は、好ましくはMAT2である。
【0028】
本実施形態における「S-アデノシルメチオニン合成酵素阻害剤」は、MATの発現および/または活性を直接的または間接的に減少させることができる任意の物質であってよい。したがって、本実施形態におけるSAM合成酵素阻害剤としては、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、低分子化合物などを用いることができるが、これらに限定されない。また、そのような物質は、公知のものであってもよいし、新規のものであってもよい。
【0029】
本実施形態における好ましいSAM合成酵素阻害剤としては、例えば、6-(2-メチルベンゾ[d]チアゾール-6-イル)-2,3-ジフェニル-5-(ピリジン-2-イルアミノ)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7(4H)-オン、(E)-4-(2-クロロ-6-フルオロスチリル)-N-メチルアニリン、および3-(サイクロヘクス-1-エン-1-イル)-6-(4-メトキシフェニル)-2-フェニル-5-(ピリジン-2-イラミノ)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7(4H)-オンなどが挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態におけるSAM合成酵素阻害剤としては、好ましくは6-(2-メチルベンゾ[d]チアゾール-6-イル)-2,3-ジフェニル-5-(ピリジン-2-イルアミノ)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7(4H)-オンを用いることができる。
【0030】
本実施形態において使用できるSAM合成酵素阻害剤は市販されており、市販品を使用することもできる。好ましい市販品としては、例えば、MAT2A inhibitor 1(MedChemExpress)、MAT2A Inhibitor 2(FIDAS-5)(MedChemExpress)、MAT2A Inhibitor(AG-270)(MedChemExpress)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
あるいは、本実施形態における好ましいSAM合成酵素阻害剤として、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ2遺伝子の発現を阻害するRNAを用いてもよい。「遺伝子の発現を阻害するRNA」には、siRNA、shRNA、dsRNAなどのRNA干渉作用を有するRNA分子の他、標的遺伝子(メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ2遺伝子)由来のmRNAに作用してその発現を制御すると考えられるmiRNAなどが挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態における好ましいRNAは、siRNAまたはshRNAである。
【0032】
本実施形態におけるRNAは、当分野において十分に確立されたsiRNAまたはshRNAの設計方法にしたがって設計することができる。メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ2遺伝子の核酸配列情報は、所定のデータベースから入手することができる。例えば、ヒトMAT2Aであれば、NCBI Reference Sequence(RefSeq)ID:NM_005911.6が利用可能である。本実施形態におけるRNAは、MAT2A遺伝子のコード配列から選択される任意の領域に対して相補的な17~30ヌクレオチドからなる配列を含むものであってよく、好ましくはヒトMAT2A遺伝子のコード配列のヌクレオチド121~1308から選択される領域に対して相補的な17~30ヌクレオチド、より好ましくは19~25ヌクレオチドからなる配列を含むものであってよく、例えば、AAGGAGAAAGUCAUCAAAGCA(配列番号8)を含むことが特に好ましい。
【0033】
なお、本実施形態におけるRNAは、すべてRNAから構成されてもよいし、その一部に修飾RNAが含まれてもよい。修飾RNAとしては、例えば、ホスホロチオエート化RNA、ボラノホスフェート化RNA、2’-O-メチル化RNA、2’-F化RNA、2’,4’-BNA(別名LNA(Locked Nucleic Acid))、などが挙げられる。
【0034】
本実施形態におけるRNAは、上記RNAをコードする核酸を含む発現ベクターを用いることにより、細胞内で発現させてもよい。したがって、本実施形態の組成物は、SAM合成酵素阻害剤として、上記RNAをコードする核酸を含む発現ベクターを含むものであってもよい。発現ベクターは、RNAアプタマーを導入する細胞の種類に応じて、適切なウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを選択して用いることができる。
【0035】
本実施形態の組成物は、上記から選択される1または複数のSAM合成酵素阻害剤を有効成分として含むことができる。本実施形態の組成物において、SAM合成酵素阻害剤は、対象において適切な摂取量となるように含有されればよい。例えば、SAM合成酵素阻害剤として6-(2-メチルベンゾ[d]チアゾール-6-イル)-2,3-ジフェニル-5-(ピリジン-2-イルアミノ)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7(4H)-オンを用いる場合であれば、SAM合成酵素阻害剤は、その摂取量が、成人1日当たり、例えば10~200mg/kg(体重)、好ましくは 100~200mg/kg(体重)となるように組成物中に含有されてよいが、かかる範囲には限定されず、組成物の形態、対象の状態、年齢、性別などにより適宜調整され得る。
【0036】
本実施形態の組成物は、有効成分のみから構成されてもよいが、一般的には、さらに任意の成分として、薬学的に許容される公知の担体および添加物を含んでもよい。
【0037】
本実施形態の組成物は、例えば医薬品として製造することができる。この場合、本実施形態の組成物は、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ゼリー剤、シロップ剤、注射剤などの、種々の剤型に製剤化することができる。したがって、本実施形態の組成物は、経口投与、腹腔内投与、静脈内投与、経皮投与、標的組織への直接注射など、種々の方法により投与することができる。本実施形態の組成物は、経口用製剤とすることが好ましく、したがって、経口投与されることが好ましい。
【0038】
本実施形態の医薬品を経口用製剤とする場合には、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤などの固形剤とすることができる。この場合には、適切な添加物、例えば、デンプン、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などの添加剤や、さらに所望により結合剤、崩壊剤、滑沢剤などを配合することができる。本実施形態の医薬品を錠剤とする場合には、所望によりショ糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースなどにより組成物を被覆してもよい。本実施形態の医薬品をシロップ剤などの液剤とする場合には、滅菌水、生理食塩水、エタノールなどを担体として使用でき、さらに所望により、懸濁剤などの補助剤を添加してもよい。
【0039】
本実施形態の医薬品を非経口用製剤とする場合には、例えば注射剤などの液剤とすることができる。この場合には、有効成分を注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ポリエチレングリコールなどの希釈剤に溶解または懸濁させ、必要に応じ、殺菌剤、等張化剤、無痛化剤などを加えることにより調製することができる。
【0040】
本実施形態の医薬品には、さらに所望により、保存料や安定化剤などの薬学的に許容される添加物や、他の治療薬を配合することができる。
【0041】
あるいは、本実施形態の組成物は、飲食品として製造することができる。この場合、本実施形態の組成物は、例えば、一般用加工食品とすることができる。一般用加工食品には、例えば、パン類、麺類、菓子類、食用油脂、調味料、飲料類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
また、本実施形態の組成物は、例えば、栄養補助食品とすることができる。栄養補助食品には、例えば、サプリメント、栄養補助飲料、特定保健用食品、栄養機能食品などが含まれてよい。本実施形態の栄養補助食品は、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ゼリー剤、液剤として調製されてよく、さらに所望により、香料、着色料、甘味料、保存料などの添加物や、他の栄養成分を配合することができる。
【0043】
本実施形態の組成物は、加齢に伴う生殖機能および/もしくは神経機能の低下を予防または治療するために有用である。
【0044】
本発明は、第二の実施形態によれば、(1)候補化合物の存在下で線維芽細胞を培養するステップと、(2)前記線維芽細胞の増殖能を評価するステップと、(3)前記線維芽細胞におけるS-アデノシルメチオニンを定量するステップとを含む、抗老化物質のスクリーニング方法である。なお、ステップの番号は、各ステップの実施の順番を限定するものではなく、例えば、ステップ(3)を実施した後に、ステップ(2)を実施してもよい。
【0045】
候補化合物は、低分子化合物、核酸、タンパク質、ペプチド、抗体、脂質、動物組織または細胞抽出物、植物抽出物などであってよく、これらの候補化合物は、新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
【0046】
本実施形態における線維芽細胞は、任意の脊椎動物から採取された細胞を用いることができる。本実施形態における線維芽細胞は、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヤギ、サル、ヒトなどの哺乳動物由来であり、特に好ましくはヒト由来である。あるいは、本実施形態の方法では、すでに確立された線維芽細胞株を用いてもよい。そのような細胞株は、例えば理化学研究所バイオリソース研究センター(RIKEN BRC)、ATCC(American Type Culture Collection)などから入手することができる。
【0047】
線維芽細胞の増殖能を評価するためには、線維芽細胞を、候補化合物を添加したまたは添加していない培地中で一定期間培養すればよい。添加される候補化合物の濃度は、化合物の種類により異なるが、例えば、1nM~1mMの範囲で適宜選択することができる。培養期間は、例えば、8時間~4日であってよい。培地は、線維芽細胞を培養するために通常用いられているものを使用でき、例えば、DMEMやRPMI1640などの基礎培地であってよく、これらから選択される単独または2種類以上を混合して用いることができる。また、線維芽細胞用の培地が市販されており、それら市販品を用いてもよい。
【0048】
線維芽細胞の増殖能は、当分野において周知の方法により、倍加時間、継代数および/または比増殖速度を計測することにより評価することができる。
【0049】
線維芽細胞におけるS-アデノシルメチオニンの定量は、当分野において周知の方法により実施すればよく、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)や質量顕微鏡法などによる質量分析や、ELISAなどにより実施することができる。
【0050】
候補化合物により線維芽細胞の増殖能が変化したかどうかを判定するためには、候補化合物の存在下または非存在下での培養を並行して実施して比較してもよいし、過去に実施した候補化合物の非存在下での培養についての解析結果と比較してもよい。本実施形態のスクリーニング方法において、候補化合物の存在下で培養された線維芽細胞が、候補化合物の非存在下で培養された線維芽細胞と比較して、有意に改善した増殖能を示した場合には、当該候補化合物は、抗老化物質として有望であると評価することができる。一方、候補化合物の存在下で培養された線維芽細胞が、候補化合物の非存在下で培養された線維芽細胞と比較して、低下した増殖能を示した場合、または両者の増殖能に有意な差が見られなかった場合には、当該候補化合物は、抗老化物質として有望ではないと評価することができる。
【0051】
本実施形態のスクリーニング方法は、(4)前記候補化合物の存在下で神経幹細胞を培養するステップと、(5)前記神経幹細胞の増殖能および/または分化能を評価するステップと、(6)前記神経幹細胞におけるS-アデノシルメチオニンを定量するステップとをさらに含んでもよく、かつ/または、(7)ショウジョウバエに前記候補化合物を投与するステップと、(8)前記ショウジョウバエの生殖組織を解析するステップとをさらに含んでもよい。ステップ(4)~(8)は、ステップ(1)~(3)の結果から抗老化物質として有望であると評価された候補化合物について実施することが好ましい。なお、ステップ(4)~(8)の番号は、各ステップの実施の順番を限定するものではなく、例えば、ステップ(7)および(8)を実施した後に、ステップ(4)~(6)を実施してもよい。
【0052】
ステップ(4)~(6)で用いられる神経幹細胞は、後述する分化誘導手順により神経系列細胞に分化する能力を獲得し得る幹細胞であれば、任意のものであってよい。本実施形態の方法において用いることができる神経幹細胞は、任意の脊椎動物由来のものであってよいが、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヤギ、サル、ヒトなどの哺乳動物由来であり、特に好ましくはヒト由来である。本実施形態の方法において用いることができる神経幹細胞は、胎児または成体の神経組織から調製されたものであってもよいし、ES細胞やiPS細胞から調製されたものであってもよい。あるいは、本実施形態の方法では、すでに確立された神経幹細胞株を用いてもよい。そのような細胞株は、例えば理化学研究所バイオリソース研究センター(RIKEN BRC)、ATCC(American Type Culture Collection)などから入手することができる。
【0053】
神経幹細胞の増殖能を評価するためには、神経幹細胞を、候補化合物を添加したまたは添加していない維持培地中で一定期間培養すればよい。添加される候補化合物の濃度は、化合物の種類により異なるが、例えば、1nM~1mMの範囲で適宜選択することができる。培養期間は、例えば、8時間~7日であってよい。神経幹細胞のための維持培地は公知であり(Hirano K and Namihira M、FEBS Open bio., 7(12):1932-1942, 2017)、例えば、DMEM/F12などを基本培地として、N2サプリメント、B27サプリメント、塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子などを添加することにより調製することができる。また、神経幹細胞のための維持培地が市販されており、それら市販品を用いてもよい。
【0054】
神経幹細胞の増殖能は、当分野において周知の方法により、倍加時間、継代数および/または比増殖速度を計測することにより評価することができる。
【0055】
神経幹細胞の分化能を評価するためには、神経幹細胞を、候補化合物を添加したまたは添加していない分化誘導培地中で一定期間培養すればよい。添加される候補化合物の濃度は、化合物の種類により異なるが、例えば、1nM~1mMの範囲で適宜選択することができる。培養期間は、例えば、8時間~7日であってよい。
【0056】
神経幹細胞のための分化誘導培地は公知であり(Hirano K and Namihira M、FEBS Open bio., 7(12):1932-1942, 2017)例えば、Neurobasal培地などを基本培地として、B27サプリメント、L-グルタミンなどを添加することにより調製することができる。また、神経幹細胞のための分化誘導培地が市販されており、それら市販品を用いてもよい。
【0057】
神経幹細胞の分化能は、当分野においてすでに確立された分化誘導条件下で神経幹細胞を培養し、公知の分化マーカーを検出することにより評価することができる。神経分化マーカーには、例えば、ダブルコルチン(DCX)、βIIIチューブリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、神経分化マーカーの検出は、免疫細胞染色やフローサイトメトリーなどにより行うことができる。
【0058】
候補化合物により神経幹細胞の分化能が変化したかどうかを判定するためには、候補化合物の存在下または非存在下での培養を並行して実施して比較してもよいし、過去に実施した候補化合物の非存在下での培養についての解析結果と比較してもよい。候補化合物の存在下で培養された神経幹細胞が、候補化合物の非存在下で培養された神経幹細胞と比較して、有意に改善した増殖能および/または分化能を示した場合には、当該候補化合物は、特に神経組織に対する抗老化物質として有望であると評価することができる。一方、候補化合物の存在下で培養された神経幹細胞が、候補化合物の非存在下で培養された神経幹細胞と比較して、低下した増殖能および/または分化能を示した場合、または両者の増殖能および/または分化能に有意な差が見られなかった場合には、当該候補化合物は、神経組織に対する抗老化物質としては有望ではないと評価することができる。
【0059】
ステップ(7)および(8)で用いられるショウジョウバエは、ショウジョウバエ属(Drosophila)の任意のハエであってよいが、好ましくはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)である。
【0060】
候補化合物をショウジョウバエに投与するには、種々の濃度の候補化合物を、餌に添加して摂取させればよい。餌に添加される候補化合物の濃度は、化合物の種類により異なるが、例えば、0.1mM~100mMの範囲で適宜選択することができる。候補化合物の投与は、例えば、1日~2ヶ月間にわたって行うことができる。
【0061】
ショウジョウバエの生殖組織の解析は、当分野において周知の方法により、例えば免疫組織染色などにより、生殖系列細胞の数を計測および/または生殖組織の形成を観察することにより行うことができる。
【0062】
候補化合物によりショウジョウバエの生殖系列細胞の数または生殖組織の形成が変化したかどうかを判定するためには、候補化合物を投与しなかったショウジョウバエの生殖組織を並行して解析して比較してもよいし、過去に実施した候補化合物を投与しなかったショウジョウバエの生殖組織についての解析結果と比較してもよい。候補化合物の投与により、候補化合物を投与しなかったショウジョウバエの生殖組織と比較して、生殖系列細胞の数が増加および/または生殖組織の形成異常が減少した場合には、当該候補化合物は、特に生殖組織に対する抗老化物質として有望であると評価することができる。一方、候補化合物の投与により、候補化合物を投与しなかったショウジョウバエと比較して、生殖系列細胞の数に変化が見られないもしくは減少した場合、かつ/または生殖組織の形成異常に変化が見られないもしくは増加した場合には、当該候補化合物は、生殖組織に対する抗老化物質として有望ではないと評価することができる。
【0063】
本実施形態の方法によれば、神経組織や生殖組織を含む種々の組織の加齢に伴う機能低下を予防または治療し得る抗老化物質をスクリーニングすることが可能である。
【実施例0064】
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0065】
<1.ショウジョウバエ卵巣の老化とSAMの生合成との相関>
発明者らはこれまで、ショウジョウバエの生殖細胞の老化について研究を行い、ショウジョウバエの卵巣において、老化に伴って生殖幹細胞の数が減少するとともに、異常卵室の形成が増加することを明らかにしている。Sam-S遺伝子の発現に関して改変されていない対照ショウジョウバエ(ZH-86Fa系統(#24486、Bloomington Drosophila Stock Center)またはp(CaryP)attP2系統(#36303、Bloomington Drosophila Stock Center;以下「対照ショウジョウバエ」または単に「対照」と記載する)の卵巣小管の免疫組織染色像が示すように、老齢(8週齢)個体では、若齢(2~3日齢)個体における正常な卵室(図1左)と異なる、16個を超える生殖細胞シストを含む異常卵室が観察される(図1右)。そこで、このような異常卵室形成とSAM量との間に相関が見られるかどうかについて試験した。
【0066】
(1-1)ショウジョウバエ系統の作製および飼育
ショウジョウバエは、通常の餌を用いて25℃で飼育した。生殖系列特異的に発現するGal4系統であるnanos-Gal4系統と、UAS-Sam-S RNAi系統(#36306、Bloomington Drosophila Stock Center)を交配することにより、生殖系列特異的にSAM合成酵素(Sam-S)遺伝子の発現をノックダウンした系統(以下、「Sam-S(-)」と記載する)を得た。Sam-S(-)ショウジョウバエ系統は、Sam-S遺伝子中の配列:5’-ATGGAGAAAGTTGTTAAAGTA-3’(配列番号7)を標的とするshRNAを生殖系列特異的に発現する。
【0067】
一方、Sam-S遺伝子をコードするDNA断片を挿入したpUASp-K10attBベクターを、attPサイトをもつショウジョウバエ系統(#24486系統、Bloomington Drosophila Stock Center)に導入し、得られたショウジョウバエ系統をさらにnanos-Gal4系統と交配することにより、生殖系列特異的にSam-S遺伝子を過剰発現する系統(以下、「Sam-S(++)」と記載する)を得た。Sam-S遺伝子をコードするDNA断片は、GH08738(Drosophila Genomics Resource Center)を鋳型とし、以下のプライマーを用いたPCRにより調製した。フォワードプライマー:5’-CGGGGTACCTTCAAACTTCGAGTTACATATTAC-3’(配列番号1)、リバースプライマー:5’-CGGTCTAGATCAGTTGTCAATCTCCAGAGGCTTG-3’(配列番号2)。
【0068】
(1-2)ショウジョウバエ卵巣におけるSAM-Sの発現の定量
羽化後2~3日齢および4週齢の雌の対照ショウジョウバエ(20匹)より卵巣を摘出し、液体窒素にて凍結後、TRIzol(商標)Reagent(Thermo Fisher Scientific)中でビーズ破砕機により破砕した。TRIzol(商標)ReagentおよびSuperScript(商標)III First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Thermo Fisher Scientific)を用い、付属のプロトコールに従って、SAM合成酵素(Sam-S)についてqPCRを実施した。使用したプライマーは以下の通りである:5’-ACAAAATGTGCGACCAAATCAGC-3’(配列番号3)および5’-CAATCTTTTCGTTTAGTTTGTGAGC-3’(配列番号4)。また、内部標準(rp49)の検出のために、以下のプライマーを用いた:5’-CACGATAGCATACAGGCCCAAGATCGG-3’(配列番号5)および5’-GCCATTTGTGCGACAGCTTAG-3’(配列番号6)。
【0069】
結果を図2に示す。対照ショウジョウバエでは、加齢に伴ってSam-Sの発現量が増加していることが確認された。
【0070】
(1-3)ショウジョウバエ卵巣におけるSAM量の計測
羽化後2~3日齢および4週齢の雌(対照およびSam-S(-)、各20匹)より卵巣を摘出し、液体窒素にて凍結後、50%メタノール溶液中でビーズ破砕機により破砕した。50%アセトニトリル溶液によりタンパク質を除去して得られた溶液を遠心濃縮機(TOMY精工)により濃縮し、10mM HCl溶液により溶出した。溶出液を0.22μmPVDFフィルターにより濾過し、濾液と等量の100μMジチオスレイトール(DTT)/50mM Tris-HCl(pH8.8)と混合し、分析試料とした。分析試料をUPLC-MS/MS分析計(Waters)に供し、SAMを検出した。上記過程により除去されたタンパク質をBCA法により定量し、検出されたSAM量をタンパク質量で補正した。
【0071】
結果を図3に示す。対照ショウジョウバエの卵巣では、加齢に伴ってSAM量が増加しており(対照、図3左)、この結果は、上記(1-1)の結果と整合するものであった。これに対し、Sam-S(-)ショウジョウバエの卵巣では、加齢に伴うSAM量の有意な増加はみられなかった(図3右)。これらの結果から、Sam-Sの発現量を低下させることにより、加齢に伴うSAM量の増加を緩和できることが明らかになった。
【0072】
(1-4)ショウジョウバエ卵巣の免疫組織染色
羽化後2~3日齢、2週齢、4週齢および8週齢の雌(対照、Sam-S(++)およびSam-S(-))より卵巣を摘出し、4%パラホルムアルデヒド/PBSにて15分間固定した後、通常の蛍光免疫化学染色を行った。一次抗体には、chick anti-VASA抗体(1:2000)およびmouse anti-Hts抗体(1:5)(いずれもDevelopmental Studies Hybridoma Bank(DSHB))、二次抗体には、goat anti-Chick IgY Alexa Fluor 488抗体およびgoat anti-mouse IgG Alexa Fluor 546抗体(いずれもThermo Fisher Scientific)を用いた。形成細胞層前端のCap細胞に接するVASA陽性の球形細胞のうち、スペクトロゾーム(Htsにより染色される)を有するものを、生殖幹細胞として観察した。また、形成細胞層の領域3以降に存在する卵室(通常は16細胞からなる生殖細胞シストを有する)において、16細胞以上の生殖細胞シストを含む卵室を異常卵室として観察した。
【0073】
結果を図4~6に示す。図5および6中、バーの黒い領域が正常な卵室を含む卵巣小管を、白い領域が異常卵室を含む卵巣小管の出現頻度を示す。Sam-S(++)では、加齢に伴う生殖幹細胞の減少が促進されたのに対し、Sam-S(-)では、加齢に伴う生殖幹細胞の減少が緩和された(図4)。また、Sam-S(++)では、加齢に伴う異常卵室の増加が促進されたのに対し(図5)、Sam-S(-)では、加齢に伴う異常卵室の増加が大幅に緩和された(図6)。これらの結果から、加齢に伴いSAM合成酵素の発現が上昇し、SAM量が増加することが、卵巣の老化の主要因であることが示された。さらに、Sam-S(-)の結果から、SAM合成酵素を阻害することにより、卵巣の老化を緩和することが可能であることが示された。
【0074】
<2.マウス生殖組織および脳組織におけるSAM量の計測>
哺乳動物の組織の老化とSAM量との関連を調べるために、マウス生殖組織および脳組織におけるSAM量を以下の手順により定量した。若齢(生後2ヶ月齢)と老齢(生後1年6ヶ月齢)のC57BL/6マウス(各3匹)を頸椎脱臼により安楽死させ、小脳、大脳、海馬、精巣および卵巣を採取し、ドライアイス上で急速凍結後、-80℃で保存した。凍結された組織をビーズ破砕機により破砕した後、10mMの酢酸が入った50%メタノール溶液により代謝物質の抽出およびタンパク質の除去を行った。代謝物質分画を遠心濃縮機(TOMY精工)により濃縮し、超純水により溶出した。溶出液を0.22μmPVDFフィルターにより濾過し、濾液と等量の超純水と混合し、分析試料とした。分析試料をUPLC-MS/MS分析計(Waters)に供し、代謝物質を計測した。上記過程により除去されたタンパク質をBCA法により定量し、検出されたSAM量をタンパク質量で補正した。分散分析およびT検定を用いて統計処理を行った。
【0075】
結果を図7に示す(*P<0.05,**P<0.01,NS:有意差なし)。エラーバーは標準偏差を示す。ショウジョウバエと同様、加齢に伴って生殖組織におけるSAM量が増加する傾向がみられた。脳組織においても、加齢に伴ってSAM量が増加する傾向にある。これらの結果から、哺乳動物においてもSAM量の増加が組織の老化に関連する可能性が示唆された。
【0076】
<3.ヒト神経幹細胞の増殖能および分化能に対するSAMの影響>
ヒトの神経組織の老化とSAMとの関連を調べるために、SAM合成酵素阻害剤の存在下および非存在下におけるヒト神経幹細胞の増殖能および分化能を比較した。ヒト神経幹細胞(胎生14週のヒト胎児大脳皮質由来、PhoenixSongs Biologicalsから購入)を、ポリ-L-オルニチン/ラミニンコーティングディッシュに接着させ、神経幹細胞維持用培地(1×N2サプリメントおよび0.1%B27サプリメントを含むDMEM/F12に、10ng/mlヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF)および20ng/mlヒト上皮成長因子(hEGF)を加えた培地)中で維持培養した。ラミニンコートした12ウェルプレートに2×10細胞/ウェルのヒト神経幹細胞を播種し、上記培地中で2日間、80~90%コンフルエントになるまで培養した後、Neurobasal培地(Thermo Fisher Scientific)に2% B27サプリメントおよび0.5mM L-グルタミンを加えた分化誘導培地に置換することにより分化誘導を行った。ここで、対照群については0.1%DMSOを、SAM合成酵素阻害群についてはDMSOに溶解させたMAT2A inhibitor 1(MedChemExpress)を各濃度で培地に添加した。分化誘導開始から7日後、4%パラホルムアルデヒド/PBSで細胞を固定し、通常の手順により蛍光免疫染色を行った。一次抗体には、Mouse Anti-Ki-67(日本ベクトン・ディッキンソン、550609)(1:500希釈)およびRabbit Anti-Doublecortin抗体(アブカム、Ab18723)(1:500希釈)を用いた。二次抗体には、CF488 donkey anti-mouse IgG(HCL), highly cross-adsorbed(Biotium、20014)(1:500希釈)およびCF568 donkey anti-rat IgG(HCL), highly cross-adsorbed(Biotium、20092)(1:500希釈)を用いた。さらに、二次抗体とともにHoechst33342(1/2000希釈)を添加し、細胞核も同時に染色した。Hoechstで染色された全細胞数に対するKi-67陽性細胞またはダブルコルチン(DCX)陽性細胞の割合を算出した。分散分析およびT検定を用いて統計処理を行った。
【0077】
Ki-67(細胞増殖マーカー)陽性細胞の割合を図8に、DCX(神経分化マーカー)陽性細胞の割合を図9に示す(n=4,*P<0.05)。SAM合成酵素を阻害されたヒト神経幹細胞は、分化能を維持したまま(図8)増殖能の上昇を獲得した(図7)。
【0078】
<4.ヒト皮膚線維芽細胞の増殖能に対するSAMの影響>
ヒト健常者由来の皮膚線維芽細胞(SF8405、RIKEN BRCより入手)を、最終濃度15%ウシ胎児血清(FBS)を含むMEM ALPHA中で維持培養した。24ウェルプレートに1×10細胞/ウェルのヒト線維芽細胞を播種し、翌日に、各濃度のMAT2A inhibitor 1(対照には0.1%DMSO)を添加した。2日間の培養後、4%パラホルムアルデヒド/PBSで細胞を固定し、通常の手順により蛍光免疫染色を行った。一次抗体には、Mouse Anti-Ki-67(日本ベクトン・ディッキンソン、550609)(1:500希釈)を用いた。二次抗体には、CF488 donkey anti-mouse IgG(HCL), highly cross-adsorbed(Biotium、20014)(1:500希釈)を用いた。さらに、二次抗体とともにHoechst33342(1/2000希釈)を添加し、細胞核も同時に染色した。Hoechstで染色された全細胞数に対するKi-67陽性細胞の割合を算出した。分散分析およびT検定を用いて統計処理を行った。
【0079】
結果を図10に示す(n=3,*P<0.05)。エラーバーは標準偏差を示す。SAMの生合成を阻害することにより、ヒト皮膚線維芽細胞の増殖能が顕著に上昇した。以上の結果から、ヒト皮膚線維芽細胞の増殖能およびSAMの生合成を指標として、神経組織および生殖組織を含む種々の組織の老化を評価できる可能性が示された。また、SAMの生合成を阻害する物質が、皮膚組織、神経組織および生殖組織を含む種々の組織の老化を予防または治療し得ることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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