(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116438
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】部分放電検出装置および部分放電検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240821BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022056
(22)【出願日】2023-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名 2022年CIGREパリ大会 B1委員会グループディスカッションミーティング 開催日 令和4年8月31日 ウェブサイトのアドレス https://registrations.cigre.org/ https://e-cigre.org/publication/session2022b1-session-2022-sc-b1-package ウェブサイトの掲載日 令和4年8月31日 集会名 IEEE International Conference on Big Data Workshop BTSD,2022 開催日 令和4年12月17日 ウェブサイトのアドレス https://ieeexplore.ieee.org/document/10020673 ウェブサイトの掲載日 令和5年1月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】弁理士法人ワンディ-IPパ-トナ-ズ
(72)【発明者】
【氏名】下口 剛史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲生
(72)【発明者】
【氏名】横山 大
(72)【発明者】
【氏名】森村 皓之
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 公裕
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】栗原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 望
(72)【発明者】
【氏名】田邉 昭博
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 保志
(72)【発明者】
【氏名】櫻井(松原) 靖子
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA27
2G015BA04
2G015CA01
(57)【要約】
【課題】簡易な処理および構成でケーブルにおける部分放電を検出する。
【解決手段】部分放電検出装置は、遮蔽層を通して流れる電流の位相と電荷量との対応関係を示す1または複数の参照データを取得する取得部と、前記遮蔽層を通して流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部により検出された電流の位相と電荷量との対応関係を示す検出データを生成する生成部と、前記取得部により取得された前記参照データに乗ずる係数値であって、前記参照データに乗じて前記検出データに近似する再現データを生成するための前記係数値を算出する算出部と、前記算出部により算出された前記係数値に基づいて、前記部分放電を検出する検出処理を行う検出部とを備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電力を伝送する線状の導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁層と、前記絶縁層の周囲を覆う導体である遮蔽層とを有するケーブルにおける部分放電を検出する部分放電検出装置であって、
前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す1または複数の参照データを取得する取得部と、
前記遮蔽層を通して流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記電流検出部により検出された電流の電荷量との対応関係を示す検出データを生成する生成部と、
前記取得部により取得された前記参照データに乗ずる係数値であって、前記参照データに乗じて前記検出データに近似する再現データを生成するための前記係数値を算出する算出部と、
前記算出部により算出された前記係数値に基づいて、前記部分放電を検出する検出処理を行う検出部とを備える、部分放電検出装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記算出部により算出された前記係数値および前記参照データを用いて生成される前記再現データと、前記検出データとの乖離度を示す値が所定値未満である場合、前記係数値に基づいて前記部分放電を検出し、
前記検出部は、前記乖離度を示す値が前記所定値以上である場合、前記検出データにおける前記電荷量の周期性を判定し、判定結果に基づいて前記部分放電を検出する、請求項1に記載の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記参照データを記憶する記憶部から前記参照データを取得し、
前記部分放電検出装置は、さらに、
前記乖離度を示す値が前記所定値以上である場合、新たな前記参照データを前記記憶部に保存する参照データ処理部を備える、請求項2に記載の部分放電検出装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記記憶部から前記複数の参照データを取得し、
前記算出部は、前記複数の参照データにそれぞれ対応する複数の前記係数値を算出し、
前記参照データ処理部は、前記複数の参照データのうちの少なくともいずれか1つの前記参照データに対応する前記係数値が所定条件を満たす場合、前記所定条件を満たす前記係数値に対応する前記参照データを前記記憶部から消去する、請求項3に記載の部分放電検出装置。
【請求項5】
前記部分放電検出装置は、さらに、
NMF(Non-negative Matrix Factorization)に従って、前記参照データを算出する参照データ算出部を備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の部分放電検出装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記検出処理において、前記係数値と所定の閾値との比較結果に基づいて、前記部分放電を検出する、請求項5に記載の部分放電検出装置。
【請求項7】
前記所定の閾値は、前記参照データ算出部により前記参照データが算出された際の、前記参照データに乗じる係数値の最小値に基づいて設定される、請求項6に記載の部分放電検出装置。
【請求項8】
前記部分放電検出装置は、さらに、
前記算出部により算出された前記係数値を表示する処理を行う表示処理部を備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の部分放電検出装置。
【請求項9】
前記取得部は、複数の前記参照データを取得し、
前記算出部は、前記複数の参照データにそれぞれ対応する複数の前記係数値を算出し、
前記表示処理部は、前記参照データごとに前記係数値を表示する処理を行う、請求項8に記載の部分放電検出装置。
【請求項10】
前記取得部は、前記電流検出部による電流の検出位置とは異なる他の検出位置において検出された電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記他の検出位置において検出された電流の電荷量との対応関係を示す前記参照データを取得する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の部分放電検出装置。
【請求項11】
前記部分放電検出装置は、さらに、
前記検出データにおける背景ノイズを除去する前処理を行うノイズ除去部を備え、
前記算出部は、前記ノイズ除去部による前記前処理後の前記検出データを用いて前記係数値を算出する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の部分放電検出装置。
【請求項12】
前記部分放電検出装置は、さらに、
発生要因が既知の部分放電が発生したときの、前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す要因検証用データ、および前記検出データに基づいて、前記部分放電の発生要因を分析する分析部を備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の部分放電検出装置。
【請求項13】
商用交流電力を伝送する線状の導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁層と、前記絶縁層の周囲を覆う導体である遮蔽層とを有するケーブルにおける部分放電を検出する部分放電検出装置における部分放電検出であって、
前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す1または複数の参照データを取得するステップと、
前記遮蔽層を通して流れる電流を検出するステップと、
検出した電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、検出した電流の電荷量との対応関係を示す検出データを生成するステップと、
取得した前記参照データに乗ずる係数値であって、前記参照データに乗じて前記検出データに近似する再現データを生成するための前記係数値を算出するステップと、
算出した前記係数値に基づいて、前記部分放電を検出する検出処理を行うステップとを含む、部分放電検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、部分放電検出装置および部分放電検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中ケーブルにおける部分放電を検出し、部分放電の検出結果に基づいて絶縁層の劣化を早期に発見する技術が提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1(特開平10-78471号公報)には、以下のような部分放電測定方法が開示されている。すなわち、部分放電測定方法は、電力ケーブルの部分放電を測定する方法において、測定された信号の発生位相角度φと放電電荷量の大きさqを、課電位相サイクルt毎に時系列的に羅列させたφ-q-tパターンを作成し、予め部分放電信号のφ-q-tパターンを学習させたニューラルネットワークに上記測定信号より得たφ-q-tパターンを入力し、部分放電信号の有無を判断させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-78471号公報
【特許文献2】国際公開第2020/161966号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術を超えて、簡易な処理および構成でケーブルにおける部分放電を検出することが可能な技術が望まれる。
【0006】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、簡易な処理および構成でケーブルにおける部分放電を検出することが可能な部分放電検出装置および部分放電検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の部分放電検出装置は、商用交流電力を伝送する線状の導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁層と、前記絶縁層の周囲を覆う導体である遮蔽層とを有するケーブルにおける部分放電を検出する部分放電検出装置であって、前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す1または複数の参照データを取得する取得部と、前記遮蔽層を通して流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部により検出された電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記電流検出部により検出された電流の電荷量との対応関係を示す検出データを生成する生成部と、前記取得部により取得された前記参照データに乗ずる係数値であって、前記参照データに乗じて前記検出データに近似する再現データを生成するための前記係数値を算出する算出部と、前記算出部により算出された前記係数値に基づいて、前記部分放電を検出する検出処理を行う検出部とを備える。
【0008】
本開示の一態様は、このような特徴的な処理部を備える部分放電検出装置として実現され得るだけでなく、かかる特徴的な処理のステップをコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現され得る。また、本開示の一態様は、部分放電検出装置の一部または全部を実現する半導体集積回路として実現され得たり、部分放電検出装置を含む検出システムとして実現され得る。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、簡易な処理および構成でケーブルにおける部分放電を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係る送電システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施の形態に係る送電システムに用いられる地中ケーブルの構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施の形態に係る送電システムに用いられる普通接続部における地中ケーブルの接続方法の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施の形態に係る送電システムに用いられる絶縁接続部における地中ケーブルの接続方法の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態に係る送電システムに用いられる絶縁接続部における地中ケーブルの接続方法の他の例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出システムの構成を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置におけるCTの構成を示す図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施の形態の変形例に係る部分放電検出装置の構成を示す図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における金属箔電極の取り付け例を示す図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における処理部の構成を示す図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置におけるデータ生成部により生成されるデータDの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における基底処理部による基底データDbの生成方法を示す図である。
【
図14】
図14は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における基底処理部により生成される基底データDbの一例を示す図である。
【
図15】
図15は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における判定部による係数ベクトルCMVの算出方法を示す図である。
【
図16】
図16は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における判定部により表示される表示画面の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、本開示の実施の形態の変形例に係る部分放電検出装置における記憶部が記憶する分析用行列Hxに含まれる分析用データDbaの一例を示す図である。
【
図18】
図18は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置が基底行列Hの生成を行う際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
【
図19】
図19は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置が係数ベクトルCMVの算出を行う際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
【
図20】
図20は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置が検出処理を行う際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
【
図21】
図21は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における基底処理部による基底データDbの生成方法の他の例を示す図である。
【
図22】
図22は、本開示の実施の形態の変形例に係る部分放電検出装置における記憶部が記憶する基底行列Hに含まれる基底データDbの一例を示す図である。
【
図23】
図23は、本開示の実施の形態の変形例に係る部分放電検出装置における判定部により表示される表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の実施の形態に係る部分放電装置は、商用交流電力を伝送する線状の導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁層と、前記絶縁層の周囲を覆う導体である遮蔽層とを有するケーブルにおける部分放電を検出する部分放電検出装置であって、前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す1または複数の参照データを取得する取得部と、前記遮蔽層を通して流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部により検出された電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記電流検出部により検出された電流の電荷量との対応関係を示す検出データを生成する生成部と、前記取得部により取得された前記参照データに乗ずる係数値であって、前記参照データに乗じて前記検出データに近似する再現データを生成するための前記係数値を算出する算出部と、前記算出部により算出された前記係数値に基づいて、前記部分放電を検出する検出処理を行う検出部とを備える。
【0013】
このように、参照データに乗じて検出データに近似する再現データを生成するための係数値を算出し、算出した係数値に基づいて検出処理を行う構成により、部分放電が発生したときの多数の検出データのパターンを予め学習することなく、生成した検出データと、予め生成された参照データとの類似度を示す係数値の大きさ、および係数値を用いて算出される再現データと検出データとの乖離度等に基づいて、部分放電を検出することができる。したがって、簡易な処理および構成でケーブルにおける部分放電を検出することができる。
【0014】
(2)上記(1)において、前記検出部は、前記算出部により算出された前記係数値および前記参照データを用いて生成される前記再現データと、前記検出データとの乖離度を示す値が所定値未満である場合、前記係数値に基づいて前記部分放電を検出してもよく、前記検出部は、前記乖離度を示す値が前記所定値以上である場合、前記検出データにおける前記電荷量の周期性を判定し、判定結果に基づいて前記部分放電を検出してもよい。
【0015】
このような構成により、たとえば検出データの特徴が変化することにより、予め生成された参照データおよび係数値を用いて近似できない新たな特徴を有する検出データが得られた場合において、当該検出データにおける電荷量の周期性に基づいて、周期性を有しないノイズと区別して部分放電を検出することができる。
【0016】
(3)上記(2)において、前記取得部は、前記参照データを記憶する記憶部から前記参照データを取得してもよく、前記部分放電検出装置は、さらに、前記乖離度を示す値が前記所定値以上である場合、新たな前記参照データを前記記憶部に保存する参照データ処理部を備えてもよい。
【0017】
このような構成により、新たな特徴を有する検出データが得られた場合において、当該検出データを用いて参照データを更新することができるので、更新された参照データを用いることにより、再現データと検出データとの乖離度を低減し、検出データにおける電荷量の周期性を判定することなく、部分放電をより簡易な処理で検出することができる。
【0018】
(4)上記(3)において、前記取得部は、複数の前記参照データを記憶する前記記憶部から前記複数の参照データを取得してもよく、前記算出部は、前記複数の参照データにそれぞれ対応する複数の前記係数値を算出してもよく、前記参照データ処理部は、前記複数の参照データのうちの少なくともいずれか1つの前記参照データに対応する前記係数値が所定条件を満たす場合、前記所定条件を満たす前記係数値に対応する前記参照データを前記記憶部から消去してもよい。
【0019】
このような構成により、たとえば、参照データに対応して算出される係数値が所定値未満である状態が継続する場合において、当該参照データを消去し、残りの参照データに対応して算出される係数値の大きさ等に基づいて、部分放電をより簡易な処理で検出することができる。
【0020】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記部分放電検出装置は、さらに、NMF(Non-negative Matrix Factorization)に従って、前記参照データを算出する参照データ算出部を備えてもよい。
【0021】
このような構成により、参照データ、係数値、再現データおよび再現データと検出データとの乖離度を簡易な処理で算出することができる。また、生成される検出データにおける電荷量および位相の分解能等に依らず係数値を算出することができるので、検出データの生成方法の変更に柔軟に対応することができる。
【0022】
(6)上記(5)において、前記検出部は、前記検出処理において、前記係数値と所定の閾値との比較結果に基づいて、前記部分放電を検出してもよい。
【0023】
このような構成により、検出データと、たとえば部分放電が発生したときの参照データとの類似度を示す係数値の大きさに基づいて、簡易な処理で部分放電が発生していると判定することができる。
【0024】
(7)上記(6)において、前記所定の閾値は、前記参照データ算出部により前記参照データが算出された際の、前記参照データに乗じる係数値の最小値に基づいて設定されてもよい。
【0025】
このような構成により、算出された参照データに応じて決定されたより適切な閾値を用いて、部分放電をより正確に検出することができる。
【0026】
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、前記部分放電検出装置は、さらに、前記算出部により算出された前記係数値を表示する処理を行う表示処理部を備えてもよい。
【0027】
このような構成により、検出データと参照データとの類似度を示す指標値を用いて、検出データが有する特徴を可視化することができる。
【0028】
(9)上記(8)において、前記取得部は、複数の前記参照データを取得してもよく、前記算出部は、前記複数の参照データにそれぞれ対応する複数の前記係数値を算出してもよく、前記表示処理部は、前記参照データごとに前記係数値を表示する処理を行ってもよい。
【0029】
このような構成により、検出データと、複数の参照データとの類似度をそれぞれ示す複数の係数値を用いて、検出データが有する特徴をより細かく可視化することができる。さらに、係数値の時系列変化を用いて、地中ケーブルの劣化の進行を可視化することができる。
【0030】
(10)上記(1)から(9)のいずれかにおいて、前記取得部は、前記電流検出部による電流の検出位置とは異なる他の検出位置において検出された電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記他の検出位置において検出された電流の電荷量との対応関係を示す前記参照データを取得してもよい。
【0031】
このような構成により、たとえば特徴的な参照データを用いて係数値を算出し、算出した係数値を用いて検出データを分析することができるので、多相の送電システムにおける部分放電をより少数の装置を用いて検出することができる。
【0032】
(11)上記(1)から(10)のいずれかにおいて、前記部分放電検出装置は、さらに、前記検出データにおける背景ノイズを除去する前処理を行うノイズ除去部を備えてもよく、前記算出部は、前記ノイズ除去部による前記前処理後の前記検出データを用いて前記係数値を算出してもよい。
【0033】
このような構成により、ノイズが検出処理に与える影響を低減し、部分放電をより正確に検出することができる。
【0034】
(12)上記(1)から(11)のいずれかにおいて、前記部分放電検出装置は、さらに、発生要因が既知の部分放電が発生したときの、前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す要因検証用データ、および前記検出データに基づいて、前記部分放電の発生要因を分析する分析部を備えてもよい。
【0035】
このような構成により、ケーブルにおいて部分放電が発生した箇所の修理等の保守計画を効率的に行うことができる。
【0036】
(13)本開示の実施の形態に係る部分放電方法は、商用交流電力を伝送する線状の導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁層と、前記絶縁層の周囲を覆う導体である遮蔽層とを有するケーブルにおける部分放電を検出する部分放電検出装置における部分放電検出であって、前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す1または複数の参照データを取得するステップと、前記遮蔽層を通して流れる電流を検出するステップと、検出した電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、検出した電流の電荷量との対応関係を示す検出データを生成するステップと、取得した前記参照データに乗ずる係数値であって、前記参照データに乗じて前記検出データに近似する再現データを生成するための前記係数値を算出するステップと、算出した前記係数値に基づいて、前記部分放電を検出する検出処理を行うステップとを含む。
【0037】
このように、参照データに乗じて検出データに近似する再現データを生成するための係数値を算出し、算出した係数値に基づいて検出処理を行う方法により、部分放電が発生したときの多数の検出データのパターンを予め学習することなく、生成した検出データと、予め生成された参照データとの類似度を示す係数値の大きさ、および係数値を用いて算出される再現データと検出データとの乖離度等に基づいて、部分放電を検出することができる。したがって、簡易な処理および構成でケーブルにおける部分放電を検出することができる。
【0038】
以下、本開示の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、以下に記載する実施の形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0039】
[構成および基本動作]
図1は、本開示の実施の形態に係る送電システムの構成を示す図である。
図1を参照して、送電システム502は、地中ケーブル10A,10B,10Cと、普通接続部41A,41Bと、絶縁接続部42A,42Bと、地上接続部43A,43Bとを備える。各接続部において、実際には、3相の地中ケーブル10A,10B,10Cの各々に対応する3つの接続部が設けられているが、
図1では簡略化して1つの接続部を記載している。以下、地中ケーブル10A,10B,10Cの各々を地中ケーブル10とも称し、普通接続部41A,41Bの各々を普通接続部41とも称し、絶縁接続部42A,42Bの各々を絶縁接続部42とも称し、地上接続部43A,43Bの各々を地上接続部43とも称する。送電システム502の少なくとも一部分は、たとえば電力系統における地中部分に設けられる。
【0040】
地上接続部43は、ケーブル端末11A,11B,11Cを含む。地中ケーブル10は、地上接続部43において、ケーブル端末11A,11B,11Cに接続されている。より詳細には、地中ケーブル10Aはケーブル端末11Aに接続され、地中ケーブル10Bはケーブル端末11Bに接続され、地中ケーブル10Cはケーブル端末11Cに接続されている。以下、ケーブル端末11A,11B,11Cの各々をケーブル端末11とも称する。
【0041】
地上接続部43は、たとえば、変電所内において、地中ケーブル10が地上に現れる部分に設けられる。普通接続部41および絶縁接続部42は、マンホール31の内部に設けられる。
【0042】
図2は、本開示の実施の形態に係る送電システムに用いられる地中ケーブルの構成の一例を示す図である。
図2は、地中ケーブル10の断面図を示している。
図2を参照して、地中ケーブル10は、中心部から順に、商用交流電力を伝送する線状の導体71と、内部半導電層72と、絶縁層である架橋ポリエチレン製の絶縁体73と、半導電テープである外部半導電層74と、導電性の遮蔽層75と、ビニル製のシース76とから構成される。すなわち、内部半導電層72が導体71の周囲を覆い、絶縁体73が内部半導電層72の周囲を覆い、外部半導電層74が絶縁体73の周囲を覆い、導体である遮蔽層75が外部半導電層74の周囲を覆い、シース76が遮蔽層75の周囲を覆っている。
【0043】
地中ケーブル10における導体71は、送電に用いられ、高圧電圧が印加されている。遮蔽層75は、導電性である一方、地中ケーブル10の途中で接地されている。このため、遮蔽層75の電圧は、導体71と比べて低い。
【0044】
送電システム502では、一例として、配電方式として3相3線式が用いられる。送電システム502では、3相の地中ケーブル10として、地中ケーブル10A,10B,10Cが設けられる。以下では、各部の構成を簡略化して説明を行う。
【0045】
再び
図1を参照して、ケーブル端末11A,11B,11Cにおいて、地中ケーブル10A,10B,10Cの各々の遮蔽層75が露出している。これらの遮蔽層75と接地用ケーブル14等との接続部分に、それぞれ端子が設けられる。
【0046】
地中ケーブル10A,10B,10Cは、それぞれ、ケーブル端末11A,11B,11Cにおいて接地ノード15に接続されている。より詳細には、地中ケーブル10A,10B,10Cの各々に設けられた端子が接地ノード15に接地用ケーブル14等を介して接続されることにより、各地中ケーブル10の遮蔽層75が接地される。
【0047】
たとえば、地中ケーブル10は、普通接続部41および絶縁接続部42において端部同士が接続された複数のケーブルにより構成される。
【0048】
図3は、本開示の実施の形態に係る送電システムに用いられる普通接続部における地中ケーブルの接続方法の一例を示す図である。
図3では、説明を容易にするために、地中ケーブル10Aのうちの導体71および遮蔽層75を主に示している。以下で説明する内容は、地中ケーブル10Bおよび地中ケーブル10Cについても同様である。
【0049】
図3を参照して、普通接続部41において、地中ケーブル10A1,10A2が接続されている。普通接続部41において、たとえば、地中ケーブル10A1,10A2の導体71同士の接続部分において地中ケーブル10A1,10A2の遮蔽層75が露出する。普通接続部41では、地中ケーブル10A1の遮蔽層75および地中ケーブル10A2の遮蔽層75をたとえば接続用のケーブル12を用いて結線する。
【0050】
そして、地中ケーブル10A1の遮蔽層75および地中ケーブル10A2の遮蔽層75が接続される場合、たとえば地中ケーブル10A2の遮蔽層75における露出部分に端子81が設けられる。なお、端子81は、地中ケーブル10A1の遮蔽層75における露出部分に設けられてもよい。そして、端子81が接地ノード13に接地用ケーブル14を介して接続されることにより、地中ケーブル10Aの遮蔽層75が接地される。
【0051】
図4は、本開示の実施の形態に係る送電システムに用いられる絶縁接続部における地中ケーブルの接続方法の一例を示す図である。
図4では、説明を容易にするために、地中ケーブル10Aの構成のうちの導体71および遮蔽層75を主に示している。以下で説明する内容は、地中ケーブル10Bおよび地中ケーブル10Cについても同様である。
【0052】
図4を参照して、絶縁接続部42において、地中ケーブル10A1,10A2が接続されている。絶縁接続部42において、たとえば、地中ケーブル10A1,10A2の導体71同士の接続部分において地中ケーブル10A1,10A2の遮蔽層75が露出し、露出部分に端子81等がそれぞれ設けられる。
【0053】
絶縁接続部42では、地中ケーブル10A1の導体71および地中ケーブル10A2の導体71が接続される場合、たとえば地中ケーブル10A1における端子81と地中ケーブル10A2における端子81とをケーブル12を用いて結線することにより、地中ケーブル10A1の遮蔽層75および地中ケーブル10A2の遮蔽層75が接続されることで、普通接続部41と同等の機能を有する。
【0054】
図5は、本開示の実施の形態に係る送電システムに用いられる絶縁接続部における地中ケーブルの接続方法の他の例を示す図である。
図5を参照して、絶縁接続部42において、地中ケーブル10A1,10A2が接続され、地中ケーブル10B1,10B2が接続され、地中ケーブル10C1,10C2が接続されている。絶縁接続部42において、たとえば、地中ケーブル10A1,10A2の導体71同士の接続部分において地中ケーブル10A1,10A2の遮蔽層75が露出し、地中ケーブル10B1,10B2の導体71同士の接続部分において地中ケーブル10B1,10B2の遮蔽層75が露出し、地中ケーブル10C1,10C2の導体71同士の接続部分において地中ケーブル10C1,10C2の遮蔽層75が露出し、露出部分に端子81等がそれぞれ設けられる。
【0055】
絶縁接続部42では、たとえば、地中ケーブル10A1における端子81と地中ケーブル10B2における端子81とをケーブル12を用いて結線することにより、地中ケーブル10A1の遮蔽層75および地中ケーブル10B2の遮蔽層75が接続され、地中ケーブル10B1における端子81と地中ケーブル10C2における端子81とをケーブル12を用いて結線することにより、地中ケーブル10B1の遮蔽層75および地中ケーブル10C2の遮蔽層75が接続され、上記地中ケーブル10C1における端子81と地中ケーブル10A2における端子81とをケーブル12を用いて結線することにより、地中ケーブル10C1の遮蔽層75および地中ケーブル10A2の遮蔽層75が接続される。
【0056】
このように、送電システム502では、絶縁接続部42において、地中ケーブル10がクロスボンド接続されてもよい。
【0057】
[部分放電検出装置]
図6は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出システムの構成を示す図である。
図6では、説明を容易にするために、地中ケーブル10のうちの地中ケーブル10Aを主に示している。以下で説明する内容は、地中ケーブル10Bおよび地中ケーブル10Cについても同様である。
【0058】
図6を参照して、部分放電検出システム501は、部分放電検出装置500A,500B,500Cを備える。以下、部分放電検出装置500A,500B,500Cの各々を、部分放電検出装置500とも称する。部分放電検出システム501は、送電システム502において用いられる。
【0059】
部分放電検出装置500は、たとえば普通接続部41、絶縁接続部42および地上接続部43に対応して設けられる。
図6に示す例では、部分放電検出装置500Aは、普通接続部41Aに対応して設けられており、部分放電検出装置500Bは、絶縁接続部42Bに対応して設けられており、部分放電検出装置500Cは、地上接続部43Aに対応して設けられている。
【0060】
たとえば、地中ケーブル10Aには電源コイルが取り付けられる。電源コイルには、地中ケーブル10の導体71を通して流れる電流による誘導電流が流れる。これにより、電源コイルは、電流を取り出すことができる。部分放電検出装置500は、たとえば電源コイルによって得られた電力により動作する。
【0061】
部分放電検出装置500は、地中ケーブル10Aにおける部分放電を検出する。なお、部分放電検出装置500は、たとえば橋梁に敷設されたケーブルなどの、地中ケーブル以外のケーブルにおける部分放電を検出する構成であってもよい。
【0062】
[部分放電検出装置の構成]
図7は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置の構成を示す図である。
図7を参照して、部分放電検出装置500は、信号検出部100と、処理部200とを備える。信号検出部100は、電流検出部の一例である。信号検出部100は、カレントトランス110と、信号出力部120とを含む。以下、カレントトランス110をCT110とも称する。
【0063】
信号検出部100は、地中ケーブル10Aの遮蔽層75を通して流れる電流を検出する。より詳細には、信号検出部100は、たとえば、地中ケーブル10Aの普通接続部41、絶縁接続部42または地上接続部43において遮蔽層75と電磁結合する。信号検出部100は、地中ケーブル10Aの遮蔽層75を通して流れる電流の誘導電流に応じたアナログ信号である検出信号を処理部200へ出力する。
【0064】
処理部200は、信号検出部100から受けた検出信号に基づいて、地中ケーブル10Aにおける部分放電を検出する。なお、処理部200は、絶縁接続部42において地中ケーブル10がクロスボンド接続されている場合、地中ケーブル10Aの遮蔽層75を通して流れる電流の誘導電流に応じた検出信号に基づいて、地中ケーブル10Bおよび地中ケーブル10Cの少なくともいずれか一方における部分放電を検出する構成であってもよい。
【0065】
[信号検出部]
図8は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置におけるCTの構成を示す図である。
図8を参照して、CT110は、リングコア101と、巻線102とを含む。リングコア101には、巻線102が巻かれている。巻線102は、信号出力部120に接続されている。リングコア101における巻線102の巻き数は、たとえば1ターンから7ターンである。
【0066】
CT110は、たとえば、導電ケーブル53がリングコア101を貫通するように取り付けられる。導電ケーブル53は、たとえばケーブル12または接地用ケーブル14である。より詳細には、再び
図6を参照して、普通接続部41Aにおける部分放電検出装置500AのCT110は、接地用ケーブル14がリングコア101を貫通するように取り付けられる。また、絶縁接続部42Bにおける部分放電検出装置500BのCT110は、地中ケーブル10A1の遮蔽層75および地中ケーブル10A2の遮蔽層75を接続するケーブル12がリングコア101を貫通するように取り付けられる。また、地上接続部43Aにおける部分放電検出装置500CのCT110は、接地用ケーブル14がリングコア101を貫通するように取り付けられる。遮蔽層75および導電ケーブル53を通して電流が流れると、誘導結合により、巻線102を通して誘導電流が流れる。信号出力部120は、巻線102を通して流れる当該誘導電流に応じた検出信号を処理部200へ出力する。信号出力部120は、増幅器を備え、検出信号を当該増幅器により増幅して処理部200へ出力する構成であってもよい。
【0067】
なお、信号検出部100は、CT110の代わりに、遮蔽層75を通して電流が流れることにより発生する電磁波を検出する電磁波センサを備える構成であってもよい。この場合、信号出力部120は、当該電磁波センサにより検出された電磁波に応じた検出信号を処理部200へ出力する。
【0068】
また、信号検出部100は、CT110の代わりに、遮蔽層75を通して電流が流れることにより発生する音波を検出する音波センサを備える構成であってもよい。この場合、信号出力部120は、当該音波センサにより検出された音波に応じた検出信号を処理部200へ出力する。
【0069】
図9は、本開示の実施の形態の変形例に係る部分放電検出装置の構成を示す図である。
図9を参照して、部分放電検出装置510は、信号検出部100Aと、処理部200とを備える。信号検出部100Aは、金属箔電極105,106と、信号出力部120Aとを含む。部分放電検出システム501は、部分放電検出装置500の代わりに部分放電検出装置510を備える構成であってもよい。
【0070】
信号検出部100Aは、地中ケーブル10の遮蔽層75の電位の変化を検出する。より詳細には、信号検出部100Aは、たとえば、地中ケーブル10の接続部である絶縁接続部42において遮蔽層75と静電結合する。
【0071】
図10は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における金属箔電極の取り付け例を示す図である。
図9および
図10を参照して、金属箔電極105,106は、信号出力部120Aに接続されている。
【0072】
金属箔電極105,106は、たとえば、絶縁接続部42における絶縁筒77を介して互いに反対側において、地中ケーブル10のシース76の表面に貼り付けられる。より詳細には、たとえば地中ケーブル10A1,10A2が接続される絶縁接続部42において、金属箔電極105は、地中ケーブル10A1のシース76の表面に貼り付けられ、金属箔電極106は、地中ケーブル10A2のシース76の表面に貼り付けられる。なお、金属箔電極105,106は、地中ケーブル10A2のシース76の外周を覆うように貼り付けられてもよい。また、各金属箔電極が貼り付けられる位置および金属箔電極の個数は限定されず、3つ以上の金属箔電極が貼り付けられてもよい。
【0073】
遮蔽層75および導電ケーブル53の電位が変化すると、電界結合により、金属箔電極105,106において電位の変化が生じる。信号出力部120Aは、当該電位の変化に基づく、遮蔽層75の電位の変化に応じた検出信号を処理部200へ出力する。
【0074】
[処理部]
図11は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における処理部の構成を示す図である。
図11を参照して、処理部200は、ADC(Analog Digital Converer)230と、データ生成部250と、基底処理部260と、判定部270と、記憶部280とを含む。データ生成部250は、生成部の一例であり、かつノイズ除去部の一例である。基底処理部260は、参照データ処理部の一例であり、かつ参照データ算出部の一例である。判定部270は、取得部の一例であり、算出部の一例であり、検出部の一例であり、表示処理部の一例であり、かつ分析部の一例である。データ生成部250、基底処理部260および判定部270の一部または全部は、たとえば、1または複数のプロセッサを含む処理回路(Circuitry)により実現される。記憶部280は、たとえば上記処理回路に含まれる不揮発性メモリである。
【0075】
記憶部280は、ADC230から出力されるデジタル信号のサンプル値と、遮蔽層75を通して流れる電流の電荷量Qとの対応関係を示す対応テーブルTb1を記憶している。
【0076】
ADC230は、信号検出部100または100Aから検出信号を受ける。ADC230は、受けた検出信号をデジタル信号に変換してデータ生成部250へ出力する。
【0077】
(データDの生成)
データ生成部250は、信号検出部100または100Aにより検出された電流の、商用交流電力の交流電圧に対する位相Φと、当該電流の電荷量Qとの対応関係を示すデータDを生成する。データDは、検出データの一例である。
【0078】
より詳細には、データ生成部250は、信号検出部100または100Aから検出信号を受けて、受けた検出信号から商用交流電力の周波数成分を抽出し、抽出した検出信号に基づいて、商用交流電力の交流電圧がゼロボルトとなるタイミングであるゼロクロス点を検出する。なお、データ生成部250は、信号検出部100または100Aから検出信号を受ける代わりに、商用交流電力の交流電圧を計測する専用のセンサから、当該交流電圧に応じたアナログ信号を受けて、受けたアナログ信号に基づいてゼロクロス点を検出する構成であってもよい。
【0079】
データ生成部250は、検出したゼロクロス点を基準とする、ADC230から受けたデジタル信号の各サンプル値のサンプリングタイミングを位相Φとして算出する。また、データ生成部250は、記憶部280における対応テーブルTb1から各サンプル値に対応する電荷量Qを取得する。
【0080】
たとえば、データ生成部250は、商用交流電力の交流電圧の周期の2倍以上である生成周期T1に従うタイミングにおいて、位相Φに対する電荷量Qの分布を示すデータDを生成する。より詳細には、データ生成部250は、生成周期T1に従うタイミングにおいて、位相Φおよび電荷量Qの値域を細分化したC個の区画Sごとに、出現頻度である度数Nを表した2次元データであるデータDを生成する。生成周期T1は、たとえば10秒である。ここで、Cは2以上の整数である。
【0081】
図12は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置におけるデータ生成部により生成されるデータDの一例を示す図である。
図12は、位相Φおよび電荷量Qを座標軸として直交座標表示されたデータDを示している。
図12において、横軸は位相Φ[degree]であり、縦軸は電荷量Q[pC]である。
図12では、位相Φおよび電荷量Qの2次元座標において、位相Φがゼロ°から360°であり、かつ電荷量Qが-96pCから96pCである対象領域がA行×B列のC個の区画Sに分割され、各区画SがデータDの度数Nに応じて階調表示されている。ここで、AおよびBは2以上の整数である。一例として、Aは64であり、Bは72であり、Cは4608である。なお、
図12では、便宜上、度数Nがゼロの区画Sは白色で表示し、度数Nが1以上の区画Sは黒色で表示している。以降の図においても同様である。
【0082】
データ生成部250は、データDを生成すると、生成したデータDにおける背景ノイズを除去する前処理を行う。より詳細には、データ生成部250は、データDの前処理として、当該データDにおいて、電荷量Qがゼロ付近の所定領域に含まれる区画Sの度数Nをゼロに置換する。なお、データ生成部250は、前処理後のデータDにおける各区画Sの度数Nの合計値が所定値未満となる場合、当該合計値が所定値以上となるように生成周期T1をより長い期間に変更してもよい。また、データ生成部250は、前処理に加えて、または前処理の代わりに、2以上の度数Nの値を「1」に置換する2値化処理を行ってもよい。
【0083】
データ生成部250は、前処理後のデータDと、当該データDの生成元となった検出信号の検出時刻または検出期間とを記憶部280に保存する。
【0084】
(基底行列Hの生成)
基底処理部260は、遮蔽層75を通して流れる電流の、商用交流電力の交流電圧に対する位相Φと、遮蔽層75を通して流れる電流の電荷量Qとの対応関係を示す1または複数の基底データDbを含む基底行列Hを生成する。基底データDbは、参照データの一例である。
【0085】
たとえば、基底処理部260は、学習期間TLにおいてデータ生成部250により生成されて前処理されたデータDである学習用データDtを記憶部280から取得する。学習期間TLは、たとえば、部分放電検出装置500の運用により部分放電の検出処理が開始される前の期間である。
【0086】
基底処理部260は、学習期間TLにおいて、データ生成部250により記憶部280に保存された学習用データDtの数がM個に到達すると、記憶部280からM個の学習用データDtを取得し、取得したM個の学習用データDtに基づいて、R個の基底データDbを含む基底行列Hを生成する。ここで、MおよびRは、1以上の整数である。RおよびMの値は、部分放電検出装置500の管理者により予め設定される。
【0087】
より詳細には、基底処理部260は、学習用データDtごとに、2次元に配列されたC個の区画Sの度数Nを、所定の配列変換則ALに従って1次元の配列に変換することにより、当該学習用データDtを示す行ベクトルRVTを生成する。そして、基底処理部260は、各学習用データDtを示す行ベクトルRVTを、たとえば当該学習用データDtが生成された順に従って順次配列することにより、M個の学習用データDtを示すM行C列の行列Xを生成する。行列Xの成分は、度数Nであるので、非負値である。
【0088】
図13は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における基底処理部による基底データDbの生成方法を示す図である。
図13を参照して、基底処理部260は、生成した行列Xを、NMFに従って、M行R列の係数行列Wと、R行C列の基底行列Hとの積で近似する。
【0089】
より詳細には、基底処理部260は、以下の式(1)により表される再現誤差Y1が最小値をとることができる基底行列Hを算出する。
【0090】
【0091】
ここで、Xmcは、行列Xにおける第m行第c列の値である。また、Wmrは、係数行列Wにおける第m行第r列の値である。また、Hrcは、基底行列Hにおける第r行第c列の値である。再現誤差Y1は、行列Xから、係数行列Wと基底行列Hとの積WHを差し引いた差分行列のフロベニウスノルムである。
【0092】
基底処理部260は、算出した基底行列Hの各行の行ベクトルRVHを、上述した配列変換則ALに従って2次元の配列に逆変換することにより、基底行列Hから、A行×B列のC個の区画Sごとに度数Nを表した2次元データであるR個の基底データDbを取得する。以下では、Rの値は「4」であるものとする。
【0093】
図14は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における基底処理部により生成される基底データDbの一例を示す図である。
図14は、位相Φおよび電荷量Qを座標軸として直交座標表示された基底データDbを示している。
【0094】
図14を参照して、たとえば、基底処理部260は、4行C列の基底行列Hから、基底データDbである基底データDb1,Db2,Db3,Db4を取得する。より詳細には、基底処理部260は、基底行列Hから、第1行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb1と、第2行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb2と、第3行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb3と、第4行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb4とを取得する。
【0095】
基底処理部260は、基底データDbを取得すると、各基底データDbの電荷量Qの位相周期性に基づいて、各基底データDbを、電荷量Qが180°の周期性を有する基底データDbであるPD基底データDbpd、または電荷量Qが180°の周期性を有しない基底データDbであるノイズ基底データDbnsに分類する。PD基底データDbpdは、部分放電が発生しているときの基底データDbとみなすことができる。ノイズ基底データDbnsは、部分放電が発生していないときの基底データDbとみなすことができる。
【0096】
より詳細には、基底処理部260は、基底データDbにおける位相Φごとの電荷量Qの絶対値の最大値の近似曲線が2つの極大値を有し、かつ当該2つの極大値の位相差がたとえば170°から190°の間の値である場合、当該基底データDbをPD基底データDbpdに分類する。一方、基底処理部260は、基底データDbにおける位相Φごとの電荷量Qの絶対値の最大値の近似曲線が2つの極大値を有しないか、または当該2つの極大値の位相差が170°から190°の間の値ではない場合、当該基底データDbをノイズ基底データDbnsに分類する。
【0097】
一例として、基底処理部260は、基底データDb1,Db2をPD基底データDbpdに分類し、基底データDb3,Db4をノイズ基底データDbnsに分類する。そして、基底処理部260は、基底データDbの分類結果を示す分類情報および基底行列Hを記憶部280に保存する。
【0098】
(係数ベクトルCMVの算出)
判定部270は、学習期間TLよりも後の検出期間TDにおいて、データ生成部250により生成されて前処理されたデータDを用いて、基底データDbに乗ずる係数値Vであって、基底データDbに乗じて当該データDに最も近似する再現データを生成するための係数値Vを算出する。たとえば、検出期間TDの長さは、生成周期T1と同じである。なお、検出期間TDの長さは、生成周期T1より短くてもよいし、生成周期T1より長くてもよい。
【0099】
より詳細には、判定部270は、検出期間TDにおいて、データ生成部250により記憶部280にデータDが保存されるたびに、記憶部280から当該データDおよび基底行列Hを取得する。判定部270は、取得したデータDにおいて2次元に配列されたC個すなわち4608個の区画Sの度数Nを、上述した配列変換則ALに従って1次元の配列に変換することにより、当該データDを示す検出対象ベクトルRVSを生成する。
【0100】
図15は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における判定部による係数ベクトルCMVの算出方法を示す図である。
図15を参照して、判定部270は、基底行列Hに乗ずる係数ベクトルCMVであって、基底行列Hに乗じて検出対象ベクトルRVSに最も近似する再現データを生成するための係数ベクトルCMVを算出する。
【0101】
より詳細には、判定部270は、以下の式(2)により表される再現誤差Y2が最小値となるときの係数ベクトルCMVを算出する。
【0102】
【0103】
ここで、RVScは、検出対象ベクトルRVSにおける第c列の値である。また、CMVは、係数ベクトルCMVにおける第r列の値である。再現誤差Y2は、検出対象ベクトルRVSから、係数ベクトルCMVと基底行列Hとの積CMVHを差し引いた差分行列のフロベニウスノルムである。再現誤差Y2は、係数ベクトルCMVおよび基底行列Hを用いて算出される積CMVHと、データDを示す検出対象ベクトルRVSとの乖離度を示す。積CMVHは、再現データの一例である。
【0104】
係数ベクトルCMVは、基底行列Hに含まれるR個の基底データDbにそれぞれ対応するR個の係数値Vからなる行ベクトルである。より詳細には、係数ベクトルCMVにおける第1列の係数値V1は、基底行列Hにおける第1行の行ベクトルRVHを示す基底データDb1に対応する係数値Vである。また、係数ベクトルCMVにおける第2列の係数値V2は、基底行列Hにおける第2行の行ベクトルRVHを示す基底データDb2に対応する係数値Vである。また、係数ベクトルCMVにおける第3列の係数値V3は、基底行列Hにおける第3行の行ベクトルRVHを示す基底データDb3に対応する係数値Vである。また、係数ベクトルCMVにおける第4列の係数値V4は、基底行列Hにおける第4行の行ベクトルRVHを示す基底データDb4に対応する係数値Vである。
【0105】
(表示処理)
図16は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における判定部により表示される表示画面の一例を示す図である。
図16を参照して、判定部270は、算出した係数値Vを表示する処理を行う。
【0106】
たとえば、判定部270は、基底データDbごとに係数値Vを表示する処理を行う。より詳細には、判定部270は、係数値V1,V2,V3,V4の時系列変化をそれぞれ示すグラフG1,G2,G3,G4を含む画面DS1を図示しない表示装置に表示する処理を行う。一例として、判定部270は、検出期間TDごとに1つの係数値V1,V2,V3,V4のサンプルをそれぞれグラフG1,G2,G3,G4に追加して画面DS1を更新する。当該サンプルは、検出期間TDにおいて算出した複数の係数ベクトルCMVのうちのいずれか1つの係数ベクトルCMVを構成する係数値V1,V2,V3,V4であってもよいし、当該検出期間TDにおいて算出した各係数ベクトルCMVを構成する係数値V1,V2,V3,V4の各々の平均値であってもよい。
【0107】
なお、判定部270は、係数値Vのサンプルを表示する一方で、サンプル間を繋ぐ線の表示は行わなくてもよい。また、判定部270は、検出期間TDにおいて、係数ベクトルCMVを算出するたびに、算出した係数ベクトルCMVを構成する係数値V1,V2,V3,V4のサンプルをそれぞれグラフG1,G2,G3,G4に追加して画面DS1を更新してもよい。
【0108】
たとえば、判定部270は、係数値V1,V2,V3,V4にそれぞれ対応する基底データDb1,Db2,Db3,Db4をさらに表示する処理を行う。あるいは、判定部270は、基底データDb1,Db2,Db3,Db4のうち、PD基底データDbpdに分類された基底データDb1,Db2をさらに表示する処理を行う。
【0109】
部分放電検出装置500の管理者は、グラフG1,G2,G3,G4が示す係数値V1,V2,V3,V4の時系列変化に基づいて、地中ケーブル10の劣化の進行を把握したり、部分放電の発生要因を推定したり、地中ケーブル10A,10B,10Cのうちの部分放電が発生している地中ケーブル10を推定したりすることができる。
【0110】
(検出処理)
判定部270は、算出した係数ベクトルCMVに基づいて、部分放電を検出する検出処理を行う。
【0111】
(検出例1)
判定部270は、検出処理において、係数ベクトルCMVを算出すると、上述した式(2)に従って算出される再現誤差Y2と、所定の閾値Th1とを比較する。たとえば、閾値Th1は、予め、過去に算出された再現誤差Y2の平均値に、再現誤差Y2の分散の2倍を加えた値に設定される。なお、閾値Th1は、基底処理部260により基底行列Hが算出された際の再現誤差Y1の最小値に基づいて設定されてもよい。
【0112】
たとえば、判定部270は、再現誤差Y2が閾値Th1未満である場合、データDを用いて算出した係数ベクトルCMVを構成する係数値Vと、所定の閾値との比較結果に基づいて、部分放電を検出する。
【0113】
より詳細には、判定部270は、記憶部280における分類情報を参照し、PD基底データDbpdに分類された基底データDb1,Db2にそれぞれ対応する係数値V1,V2と、閾値ThA1,ThA2とをそれぞれ比較する。
【0114】
たとえば、閾値ThA1,ThA2は、基底行列Hが算出された際の、基底行列Hに乗じる係数行列Wの最小値に基づいて設定される。具体的には、閾値ThA1,ThA2は、再現誤差Y1が最小値をとるときの係数行列Wに基づいて設定される。一例として、閾値ThA1は、再現誤差Y1が最小値をとるときの係数行列Wを構成するR個の列ベクトルのうちの、基底行列Hにおける基底データDb1を示す第1行の行ベクトルRVHに対応する第1列の列ベクトル内の最大値に、所定の係数X1を乗算した値に設定される。また、閾値ThA2は、再現誤差Y1が最小値をとるときの係数行列Wを構成するR個の列ベクトルのうちの、基底行列Hにおける基底データDb2を示す第2行の行ベクトルRVHに対応する第2列の列ベクトル内の最大値に、所定の係数X2を乗算した値に設定される。係数X1,X2は、たとえば、1以下の値であり、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。
【0115】
判定部270は、係数値V1が閾値ThA1以上である場合、PD基底データDbpdである基底データDb1の特徴が当該データDに多く含まれることから、部分放電が発生していると判断する。同様に、判定部270は、係数値V2が閾値ThA2以上である場合、PD基底データDbpdである基底データDb2の特徴が当該データDに多く含まれることから、部分放電が発生していると判断する。この場合、判定部270は、当該データDをPDデータDpdとして記憶部280に保存する。
【0116】
一方、判定部270は、係数値V1が閾値ThA1未満であり、かつ係数値V2が閾値ThA2未満である場合、部分放電は発生していないと判断する。
【0117】
(検出例2)
判定部270は、検出処理において、データDを用いて算出される再現誤差Y2と閾値Th1とを比較し、再現誤差Y2が閾値Th1以上である場合、当該データDにおける電荷量Qの位相周期性を判定し、判定結果に基づいて部分放電を検出する。
【0118】
より詳細には、判定部270は、当該データDにおける位相Φごとの電荷量Qの絶対値の最大値の近似曲線が2つの極大値を有しないか、または当該2つの極大値の位相差が170°から190°の間の値ではない場合、当該データDはノイズを示すものであり、部分放電は発生していないと判断する。
【0119】
一方、判定部270は、当該データDにおける位相Φごとの電荷量Qの絶対値の最大値の近似曲線が2つの極大値を有し、かつ当該2つの極大値の位相差がたとえば170°から190°の間の値である場合、当該データDは部分放電の発生を示すものであり、部分放電が発生していると判断する。この場合、判定部270は、当該データDをPDデータDpdとして記憶部280に保存する。
【0120】
(基底行列Hの更新例1)
判定部270は、データDについて算出した再現誤差Y2が閾値Th1以上である場合、当該データDおよび基底生成指示を基底処理部260へ出力する。
【0121】
基底処理部260は、判定部270から基底生成指示を受けた場合、新たな基底データDbを生成して記憶部280に保存する。より詳細には、基底処理部260は、記憶部280からM個の学習用データDtを取得し、取得した学習用データDtおよび判定部270から受けたデータDに基づいて、上述した手順により、(R+1)行C列すなわち5行C列の新たな基底行列Hを算出する。基底処理部260は、記憶部280における基底行列Hを、新たに算出した基底行列Hに更新する。
【0122】
基底処理部260は、基底データDbとして、基底行列Hにおける第1行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb1と、基底行列Hにおける第2行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb2と、基底行列Hにおける第3行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb3と、基底行列Hにおける第4行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb4と、基底行列Hにおける第5行の行ベクトルRVHを配列変換することにより得られる基底データDb5とを生成する。
【0123】
基底処理部260は、基底データDbを生成すると、上述した手順により、各基底データDbを、PD基底データDbpd、またはノイズ基底データDbnsに分類する。一例として、基底処理部260は、基底データDb1,Db2,Db5をPD基底データDbpdに分類し、基底データDb3,Db4をノイズ基底データDbnsに分類する。そして、基底処理部260は、基底データDbの分類結果を示す分類情報を記憶部280に保存する。
【0124】
その後、判定部270は、検出期間TDにおいて、データ生成部250により生成されて前処理された新たなデータDが記憶部280に保存されると、記憶部280から当該データD、および基底処理部260により更新された基底行列Hを取得する。そして、判定部270は、取得したデータDおよび基底行列Hを用いて、上述した手順により、基底行列Hに含まれる5個の基底データDbにそれぞれ対応する5個の係数値Vからなる係数ベクトルCMVを算出し、上述した検出処理を行う。
【0125】
なお、閾値Th1は、再現誤差Y2の平均値に分散の2倍を加えた値に設定される構成であるとしたが、これに限定するものではない。閾値Th1をより低い値に設定することにより、地中ケーブル10Aの環境変化等に応じて柔軟に基底行列Hを更新することができる。一方、閾値Th1をより高い値に設定することにより、ロバスト性を高めることができる。また、基底処理部260は、M個の学習用データDtおよび判定部270から受けたデータDに基づいて、上述した手順により、5行C列の新たな基底行列Hを算出する構成であるとしたが、これに限定するものではない。基底処理部260は、判定部270から受けたデータDを、第5行の行ベクトルRVHとして4行C列の基底行列Hに追加することにより、5行C列の新たな基底行列Hを生成してもよい。
【0126】
(基底行列Hの更新例2)
判定部270は、基底行列Hに含まれる少なくともいずれか1つの基底データDbに対応する係数値Vが、たとえば所定長の期間に亘って所定値未満である条件C1を満たす場合、条件C1を満たす係数値Vを示す係数情報および基底削除指示を基底処理部260へ出力する。
【0127】
基底処理部260は、判定部270から係数情報および基底削除指示を受けた場合、受けた係数情報が示す係数値Vに対応する基底データDbを記憶部280から削除する。より詳細には、基底処理部260は、記憶部280から基底行列Hを取得し、取得した基底行列Hから、判定部270から受けた係数情報が示す係数値Vに対応する基底データDbの行ベクトルRVHを削除することにより、(R-1)行C列すなわち3行C列の新たな基底行列Hを生成する。基底処理部260は、記憶部280における基底行列Hを、新たに生成した基底行列Hに更新する。
【0128】
その後、判定部270は、検出期間TDにおいて、データ生成部250により生成されて前処理された新たなデータDが記憶部280に保存されると、記憶部280から当該データD、および基底処理部260により更新された基底行列Hを取得する。そして、判定部270は、取得したデータDおよび基底行列Hを用いて、上述した手順により、基底行列Hに含まれる3個の基底データDbにそれぞれ対応する3個の係数値Vからなる係数ベクトルCMVを算出し、上述した検出処理を行う。
【0129】
(分析処理)
判定部270は、発生要因が既知の部分放電が発生したときの位相Φと電荷量Qとの対応関係を示すデータDである分析用データDba、およびデータDに基づいて、部分放電の発生要因を分析する分析処理を行う。分析用データDbaは、要因検証用データの一例である。
【0130】
たとえば、記憶部280は、上述した配列変換則ALに従って1次元の配列に変換された複数の分析用データDbaからなる分析用行列Hxを記憶している。
【0131】
図17は、本開示の実施の形態の変形例に係る部分放電検出装置における記憶部が記憶する分析用行列Hxに含まれる分析用データDbaの一例を示す図である。
図17は、位相Φおよび電荷量Qを座標軸として直交座標表示された分析用データDbaを示している。
図17を参照して、記憶部280は、沿面放電が発生したときの分析用データDba1と、コロナ放電が発生しときの分析用データDba2と、部分放電が発生したときの分析用データDba3とからなる分析用行列Hxを記憶している。
【0132】
判定部270は、分析用行列Hxに乗ずる係数ベクトルCMVxであって、分析用行列Hxに乗じてPDデータDpdが示す検出対象ベクトルRVSに近似する係数ベクトルCMVxを算出する。係数ベクトルCMVxは、分析用行列Hxに含まれる分析用データDba1,Dba2,Dba3にそれぞれ対応するの係数値Vxからなる行ベクトルである。判定部270は、算出した係数ベクトルCMVxに基づいて、部分放電の発生要因を推定する。
【0133】
より詳細には、係数ベクトルCMVxにおける第1列の係数値Vx1は、分析用データDba1に対応する係数値Vxである。また、係数ベクトルCMVxにおける第2列の係数値Vx2は、分析用データDba2に対応する係数値Vxである。また、係数ベクトルCMVxにおける第3列の係数値Vx3は、分析用データDba3に対応する係数値Vxである。
【0134】
判定部270は、係数値Vx1,Vx2,Vx3のうち、最も大きい値が係数値Vx1である場合、PDデータDpdの生成時において沿面放電が発生していたと判断する。一方、判定部270は、係数値Vx1,Vx2,Vx3のうち、最も大きい値が係数値Vx2である場合、PDデータDpdの生成時においてコロナ放電が発生していたと判断する。一方、判定部270は、係数値Vx1,Vx2,Vx3のうち、最も大きい値が係数値Vx3である場合、PDデータDpdの生成時において部分放電が発生していたと判断する。
【0135】
[動作の流れ]
図18は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置が基底行列Hの生成を行う際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
【0136】
図18を参照して、まず、部分放電検出装置500は、学習期間TLにおいて、地中ケーブル10Aの遮蔽層75を通して流れる電流の検出を開始する。より詳細には、部分放電検出装置500は、遮蔽層75を通して流れる電流に基づく検出信号の生成を開始する(ステップS11)。
【0137】
次に、部分放電検出装置500は、生成周期T1に従うタイミングを待ち受け(ステップS12でNO)、生成周期T1に従うタイミングにおいて(ステップS12でYES)、生成した検出信号に基づいて、データDを生成する(ステップS13)。
【0138】
次に、部分放電検出装置500は、生成したデータDにおける背景ノイズを除去する前処理を行い、前処理後のデータDと、当該データDの生成元となった検出信号の検出時刻または検出期間とを記憶部280に保存する(ステップS14)。
【0139】
次に、部分放電検出装置500は、学習期間TLにおいて記憶部280に保存したデータDがM個に到達するまで(ステップS15でNO)、生成周期T1ごとにデータDの生成および前処理を繰り返し(ステップS13,S14)、記憶部280に保存したデータDがM個に到達すると(ステップS15でYES)、学習期間TLにおいて生成したM個のデータDであるM個の学習用データDtに基づいて、上述した式(1)により表される再現誤差Y1が最小値をとることができる基底行列Hを生成する(ステップS16)。
【0140】
次に、部分放電検出装置500は、生成した基底行列HからR個の基底データDbを取得し、各基底データDbの電荷量Qの位相周期性に基づいて、各基底データDbをPD基底データDbpdまたはノイズ基底データDbnsに分類する(ステップS17)。
【0141】
次に、部分放電検出装置500は、基底データDbの分類結果を示す分類情報および基底行列Hを記憶部280に保存する(ステップS18)。
【0142】
図19は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置が係数ベクトルCMVの算出を行う際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
【0143】
図19を参照して、まず、部分放電検出装置500は、検出期間TDにおいて、地中ケーブル10Aの遮蔽層75を通して流れる電流の検出を開始する。より詳細には、部分放電検出装置500は、遮蔽層75を通して流れる電流に基づく検出信号の生成を開始する(ステップS21)。
【0144】
次に、部分放電検出装置500は、生成周期T1に従うタイミングを待ち受け(ステップS22でNO)、生成周期T1に従うタイミングにおいて(ステップS22でYES)、生成した検出信号に基づいて、データDを生成する(ステップS23)。
【0145】
次に、部分放電検出装置500は、生成したデータDにおける背景ノイズを除去する前処理を行う(ステップS24)。
【0146】
次に、部分放電検出装置500は、前処理後のデータDにおいて2次元に配列されたC個の区画Sの度数Nを、上述した配列変換則ALに従って1次元の配列に変換することにより、当該データDを示す検出対象ベクトルRVSを生成する(ステップS25)。
【0147】
次に、部分放電検出装置500は、基底行列Hに乗ずる係数ベクトルCMVであって、上述した式(2)により表される再現誤差Y2が最小値となるときの係数ベクトルCMVを算出する(ステップS26)。
【0148】
次に、部分放電検出装置500は、算出した係数ベクトルCMVを構成する係数値Vを表示する処理を行う。より詳細には、部分放電検出装置500は、4つの基底データDbを含む4行C列の基底行列Hを用いて係数ベクトルCMVを算出し、算出した係数ベクトルCMVを構成する係数値V1,V2,V3,V4をグラフG1,G2,G3,G4に追加して画面DS1を更新する(ステップS27)。
【0149】
次に、部分放電検出装置500は、係数ベクトルCMVに基づいて、部分放電を検出する検出処理を行う(ステップS28)。
【0150】
次に、部分放電検出装置500は、係数ベクトルCMVを構成する係数値Vが、所定長の期間に亘って所定値未満である条件C1を満たさない場合(ステップS29でNO)、生成周期T1に従う新たなタイミングを待ち受ける(ステップS22でNO)。
【0151】
一方、部分放電検出装置500は、係数ベクトルCMVを構成する係数値Vが、所定長の期間に亘って所定値未満である条件C1を満たす場合(ステップS29でYES)、基底行列Hから当該係数値Vに対応する基底データDbの行ベクトルRVHを削除することにより新たな基底行列Hを生成し、記憶部280における基底行列Hを、新たに生成した基底行列Hに更新する(ステップS30)。
【0152】
次に、部分放電検出装置500は、生成周期T1に従う新たなタイミングを待ち受ける(ステップS22でNO)。
【0153】
図20は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置が検出処理を行う際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
図20は、
図19におけるステップS28の詳細を示している。
【0154】
図20を参照して、まず、部分放電検出装置500は、式(2)に従って算出される再現誤差Y2と、閾値Th1とを比較する(ステップS31)。
【0155】
次に、部分放電検出装置500は、再現誤差Y2が閾値Th1未満である場合(ステップS32でYES)、PD基底データDbpdに分類された基底データDb1,Db2にそれぞれ対応する係数値V1,V2と、閾値ThA1,ThA2とをそれぞれ比較する(ステップS33)。
【0156】
次に、部分放電検出装置500は、係数値V1が閾値ThA1未満であり、かつ係数値V2が閾値ThA2未満である場合(ステップS34でYES)、部分放電は発生していないと判断する(ステップS35)。
【0157】
一方、部分放電検出装置500は、係数値V1が閾値ThA1以上であるか、または係数値V2が閾値ThA2以上である場合(ステップS34でNO)、部分放電が発生していると判断する(ステップS36)。
【0158】
一方、部分放電検出装置500は、再現誤差Y2が閾値Th1以上である場合(ステップS32でNO)、データDにおける電荷量Qの位相周期性を判定する(ステップS37)
【0159】
次に、部分放電検出装置500は、当該データDにおける電荷量Qの位相周期性が無い場合、具体的には、位相Φごとの電荷量Qの絶対値の最大値の近似曲線が2つの極大値を有しないか、または当該2つの極大値の位相差が170°から190°の間の値ではない場合(ステップS38でYES)、当該データDはノイズを示すものであり、部分放電は発生していないと判断する(ステップS39)。
【0160】
次に、部分放電検出装置500は、当該データDおよびM個の学習用データDtに基づいて、基底データDbが1つ増加した新たな基底行列Hを算出し、記憶部280における基底行列Hを、新たに算出した基底行列Hに更新する(ステップS40)。
【0161】
一方、部分放電検出装置500は、当該データDにおける電荷量Qの位相周期性が有る場合、具体的には、位相Φごとの電荷量Qの絶対値の最大値の近似曲線が2つの極大値を有し、かつ当該2つの極大値の位相差がたとえば170°から190°の間の値である場合(ステップS38でNO)、当該データDは部分放電の発生を示すものであり、部分放電が発生していると判断する(ステップS41)。
【0162】
次に、部分放電検出装置500は、当該データDおよびM個の学習用データDtに基づいて、基底データDbが1つ増加した新たな基底行列Hを算出し、記憶部280における基底行列Hを、新たに算出した基底行列Hに更新する(ステップS40)。
【0163】
なお、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200におけるデータ生成部250は、商用交流電力の交流電圧の周期の2倍以上である生成周期T1に従うタイミングにおいて、データDを生成する構成であるとしたが、これに限定するものではない。データ生成部250は、商用交流電力の交流電圧の1周期に従うタイミングにおいて、度数Nを2値化したデータDを生成する構成であってもよい。
【0164】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200におけるデータ生成部250は、データDの前処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。データ生成部250は、データDを生成すると、前処理を行うことなく当該データDを記憶部280に保存する構成であってもよい。
【0165】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における判定部270は、係数値Vを表示する処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。判定部270は、係数値Vを表示する処理を行わない構成であってもよい。また、判定部270は、基底データDbごとに係数値Vを表示する処理を行う代わりに、いずれか1つの基底データDbに対応する係数値Vのみを表示する処理を行う構成であってもよい。また、判定部270は、検出期間TDごとに画面DS1を更新する代わりに、部分放電検出装置500の管理者の操作に従って、不定期に画面DS1を表示してもよい。
【0166】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における判定部270は、検出例1および検出例2の両方を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。判定部270は、検出例1および検出例2のいずれか一方を行わない構成であってもよい。
【0167】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における基底処理部260は、一部の基底データDbをPD基底データDbpdに分類し、他の一部の基底データDbをノイズ基底データDbnsに分類する構成であるとしたが、これに限定するものではない。基底処理部260は、学習期間TLにおいてデータ生成部250により生成された学習用データDtに応じて、すべての基底データDbをPD基底データDbpdに分類する場合、およびすべての基底データDbをノイズ基底データDbnsに分類する場合がある。判定部270は、基底処理部260によりすべての基底データDbがノイズ基底データDbnsに分類された場合であって、再現誤差Y2が閾値Th1未満である場合、係数値Vと閾値との比較を行うことなく、部分放電は発生していないと判断する。これは、すべての基底データDbがノイズ基底データDbnsであり、かつ再現誤差Y2が閾値Th1未満である場合、検出期間TDにおいてデータ生成部250により生成されたデータDが、複数のノイズ基底データDbnsにより近似できたことを意味するからである。
【0168】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における基底処理部260は、学習期間TLにおいて、M個の学習用データDtに基づいて、4つの基底データDbを含む4行C列の基底行列Hを生成する構成であるとしたが、これに限定するものではない。基底処理部260は、1つの基底データDbからなる1行C列の基底行列Hを生成する構成であってもよい。より詳細には、基底処理部260は、学習期間TLにおいて、1個の学習用データDtを示す行ベクトルRVTを生成し、生成した行ベクトルRVTを基底データDbとして記憶部280に保存する。また、基底処理部260は、当該基底データDbの電荷量Qの位相周期性に基づいて、当該基底データDbを、たとえばノイズ基底データDbnsに分類し、分類結果を示す分類情報を記憶部280に保存する。
【0169】
この場合、判定部270は、検出期間TDにおいて、データ生成部250により生成されて前処理されたデータDを用いて、係数値Vおよび再現誤差Y2を算出し、再現誤差Y2と閾値Th1とを比較する。判定部270は、再現誤差Y2が閾値Th1未満である場合、部分放電は発生していないと判断する。一方、判定部270は、再現誤差Y2が閾値Th1以上である場合、当該データDにおける電荷量Qの位相周期性に基づいて、部分放電が発生しているか否かを判断し、上述した「基底行列Hの更新例1」に従って記憶部280における基底行列Hを更新する。このように、部分放電検出装置500では、1つの学習用データDtに基づいて検出処理を開始することができるので、学習期間TLを非常に短い期間に設定することができる。
【0170】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における基底処理部260は、上述した「基底行列Hの更新例1」および「基底行列Hの更新例2」を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。基底処理部260は、「基底行列Hの更新例1」および「基底行列Hの更新例2」のいずれか一方または両方を行わない構成であってもよい。
【0171】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における基底処理部260は、判定部270から基底生成指示を受けた場合、学習用データDtおよび判定部270から受けたデータDに基づいて、新たな基底行列Hを算出する構成であるとしたが、これに限定するものではない。基底処理部260は、学習用データDtの代わりに、検出期間TDにおいてデータ生成部250により生成されたデータDに基づいて、新たな基底行列Hを算出する構成であってもよい。
【0172】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における判定部270は、分析処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。判定部270は、検出処理を行う一方で、分析処理を行わない構成であってもよい。
【0173】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における判定部270は、地中ケーブル10A以外の、地中ケーブル10Bまたは地中ケーブル10Cにおける部分放電をさらに検出する構成であってもよい。より詳細には、判定部270は、検出期間TDにおいて、データ生成部250により記憶部280にデータDが保存されると、当該データDにおける位相Φを60°または120°シフトさせたデータDΦを生成する。判定部270は、データDの代わりにデータDΦを用いて係数ベクトルCMVを算出し、算出した係数ベクトルCMVを用いて、地中ケーブル10Bまたは地中ケーブル10Cにおいて部分放電が発生しているか否かを判断する。
【0174】
あるいは、判定部270は、データDΦを生成する代わりに、基底データDbの位相Φ60°または120°シフトさせた基底データDbΦを生成する。判定部270は、生成した基底データDbΦからなる基底行列Hを用いて係数ベクトルCMVを算出し、算出した係数ベクトルCMVを用いて、地中ケーブル10Bまたは地中ケーブル10Cにおいて部分放電が発生しているか否かを判断してもよい。
【0175】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における基底処理部260は、NMFに従って基底行列Hを算出する構成であるとしたが、これに限定するものではない。基底処理部260は、NMFを用いることなく基底行列Hを生成する構成であってもよい。
【0176】
図21は、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置における基底処理部による基底データDbの生成方法の他の例を示す図である。
図21を参照して、基底処理部260は、学習用データDtにおいて、電荷量Qがゼロ付近の所定領域に含まれる区画Sの度数Nをゼロに置換した基底データDb21と、当該所定領域以外の領域に含まれる区画Sの度数Nをゼロに置換した基底データDb22とを生成する。基底処理部260は、生成した基底データDb21,Db22からなる基底行列Hを生成して記憶部280に保存する。
【0177】
なお、基底処理部260は、1つの学習用データDtに基づいて3以上の基底データDbからなる基底行列Hを生成してもよい。また、基底処理部260は、複数の学習用データDtにおける区画Sごとの度数Nを平均化した集約データを生成し、生成した集約データにおいて、上記所定領域に含まれる区画Sの度数Nをゼロに置換した基底データDbと、当該所定領域以外の領域に含まれる区画Sの度数Nをゼロに置換した基底データDbとを生成してもよい。
【0178】
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出システム501では、部分放電検出装置500が、データDの生成、基底行列Hの生成および更新、係数ベクトルCMVの算出、表示処理、検出処理ならびに分析処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない。部分放電検出システム501では、データDの生成、基底行列Hの生成および更新、係数ベクトルCMVの算出、表示処理、検出処理ならびに分析処理の一部または全部を、部分放電検出装置500の代わりに、図示しないサーバが行う構成であってもよい。
【0179】
この場合、部分放電検出装置500における処理部200は、処理部200において生成された各種情報を直接または他の部分放電検出装置500経由で当該サーバへ送信する通信部を備える。
【0180】
より詳細には、部分放電検出装置500A,500Bの処理部200における通信部は、当該処理部200において生成された各種情報を、たとえば特許文献2(国際公開第2020/161966号)に記載されている技術を用いて、地中ケーブル10の遮蔽層75経由で地上における部分放電検出装置500Cへ送信する。部分放電検出装置500Cの処理部200における通信部は、当該処理部200において生成された各種情報、および遮蔽層75経由で他の部分放電検出装置500から受信した各種情報を、ネットワーク経由でサーバへ送信する。なお、部分放電検出装置500A,500Bの処理部200における通信部は、当該処理部200において生成された各種情報を、遮蔽層75経由で部分放電検出装置500Cへ送信する代わりに、たとえば専用の通信線を介して部分放電検出装置500Cへ送信してもよい。
【0181】
当該サーバは、部分放電検出装置500Cから受信した各種情報を用いて、データDの生成、基底行列Hの生成および更新、係数ベクトルCMVの算出、表示処理、検出処理ならびに分析処理の一部または全部を行う。
【0182】
具体的には、たとえば、部分放電検出装置500の処理部200における通信部は、データ生成部250により生成されたデータDをサーバへ送信する。当該サーバは、受信したデータDを用いて、基底行列Hの生成および更新、係数ベクトルCMVの算出、表示処理、検出処理ならびに分析処理の一部または全部を行う。あるいは、部分放電検出装置500の処理部200における通信部は、判定部270により算出された係数値Vをサーバへ送信する。当該サーバは、受信した係数値Vを用いて、基底行列Hの更新、表示処理、検出処理および分析処理の一部または全部を行う。なお、通信部は、サーバへ係数値Vを送信する代わりに、ネットワークを介して画面DS1を表示装置に表示する処理を行ってもよい。
【0183】
<変形例>
また、本開示の実施の形態に係る部分放電検出装置500では、処理部200における基底処理部260は、学習期間TLにおいて基底行列Hを生成し、生成した基底行列Hを記憶部280に保存する構成であるとしたが、これに限定するものではない。基底処理部260は、学習期間TLにおいて基底行列Hの生成を行わない構成であってもよい。
【0184】
この場合、記憶部280は、部分放電検出装置500の外部の装置において予め生成された基底行列Hを記憶する。たとえば、記憶部280は、信号検出部100による電流の検出位置とは異なる他の検出位置において検出された電流の、位相Φと電荷量Qとの対応関係を示す1または複数の基底データDbを含む基底行列Hを記憶する。あるいは、記憶部280は、公知の基底データDbを含む基底行列Hを記憶する。
【0185】
図22は、本開示の実施の形態の変形例に係る部分放電検出装置における記憶部が記憶する基底行列Hに含まれる基底データDbの一例を示す図である。
図22は、位相Φおよび電荷量Qを座標軸として直交座標表示された基底データDbを示している。
【0186】
図22を参照して、記憶部280は、ノイズ基底データDbnsである基底データDb5と、地中ケーブル10の劣化が初期状態のときのPD基底データDbpdである基底データDb6と、地中ケーブル10の劣化が中期状態のときのPD基底データDbpdである基底データDb7と、地中ケーブル10の劣化が末期状態のときのPD基底データDbpdである基底データDb8とを含む基底行列Hを記憶している。
【0187】
判定部270は、検出期間TDにおいてデータ生成部250により記憶部280にデータDが保存されると、上述した手順により、係数ベクトルCMVであって、基底データDb5,Db6,Db7,Db8にそれぞれ対応する係数値V5,V6,V7,V8からなる係数ベクトルCMVを算出し、検出処理および表示処理を行う。判定部270は、検出処理において、係数値V6,V7,V8と、閾値ThA6,ThA7,ThA8とをそれぞれ比較することにより、部分放電が発生しているか否か、および地中ケーブル10の劣化の進行状態を判定する。
【0188】
たとえば、判定部270は、係数値V6が閾値ThA6以上である場合、地中ケーブル10の劣化が初期状態に遷移したと判定し、係数値V7が閾値ThA7以上である場合、地中ケーブル10の劣化が中期状態に遷移したと判定し、係数値V8が閾値ThA8以上である場合、地中ケーブル10の劣化が末期状態に遷移したと判定する。
【0189】
図23は、本開示の実施の形態の変形例に係る部分放電検出装置における判定部により表示される表示画面の一例を示す図である。
図23を参照して、判定部270は、係数値V5,V6,V7,V8の時系列変化をそれぞれ示すグラフG5,G6,G7,G8を含む画面DS2を図示しない表示装置に表示する処理を行う。たとえば、判定部270は、閾値ThA7,ThA8をさらに含む画面DS2を表示する処理を行う。
【0190】
なお、判定部270は、基底データDb5からなる基底行列Hを用いて検知処理を開始してもよい。この場合、判定部270は、たとえば時刻t1において、再現誤差Y2が閾値Th1以上となると、基底データDb6が追加された基底行列Hを用いた検知処理を開始する。また、判定部270は、たとえば時刻t2において、再現誤差Y2が閾値Th1以上となると、基底データDb7がさらに追加された基底行列Hを用いた検知処理を開始する。また、判定部270は、たとえば時刻t3において、再現誤差Y2が閾値Th1以上となると、基底データDb8がさらに追加された基底行列Hを用いた検知処理を開始する。
【0191】
ところで、簡易な処理および構成でケーブルにおける部分放電を検出することが可能な技術が望まれる。
【0192】
従来、位相Φと電荷量Qとの対応関係を示すデータDを用いて部分放電を検出する技術が知られている。しかしながら、部分放電が発生したときにどのようなデータDが得られるかを事前に把握し、得られたデータDを用いて部分放電を正確に検出することは容易ではない。具体的には、過去に部分放電が発生したときのデータDと、得られたデータDとを用いて部分放電を検出しようとする場合、部分放電が発生したときの不特定多数のデータDが必要となり、また、ノイズの影響により部分放電を誤検出してしまう場合がある。
【0193】
特許文献1に記載の技術では、部分放電が発生したときのデータDと、ノイズが発生したときのデータDとを深層学習を用いて区別するために、学習用のデータDが大量に必要となり、学習用のデータDのラベリング作業に専門的な知識が必要となる。また、部分放電の検出処理の運用を開始した後、ケーブルの劣化状態および環境の変化等により、部分放電のパターンと類似するノイズが発生した場合、部分放電を誤検出してしまう場合がある。
【0194】
これに対して、本開示の部分放電検出装置500では、判定部270は、遮蔽層75を通して流れる電流の、商用交流電力の交流電圧に対する位相Φと、遮蔽層75を通して流れる電流の電荷量Qとの対応関係を示す1または複数の基底データDbを含む基底行列Hを取得する。信号検出部100または100Aは、遮蔽層75を通して流れる電流を検出する。データ生成部250は、信号検出部100または100Aにより検出された電流の位相Φと電荷量Qとの対応関係を示すデータDを生成する。判定部270は、取得した基底行列Hに乗ずる係数値Vからなる係数ベクトルCMVであって、基底行列Hに乗じてデータDに近似する再現データを生成するための係数ベクトルCMVを算出する。判定部270は、算出した係数ベクトルCMVに基づいて、部分放電を検出する検出処理を行う。
【0195】
このように、基底データDbに乗じてデータDに近似する再現データを生成するための係数値Vを算出し、算出した係数値Vに基づいて検出処理を行う構成により、部分放電が発生したときの多数のデータDのパターンを学習することなく、生成したデータDと、予め生成された基底データDbとの類似度を示す係数値Vの大きさ、および再現誤差Y2等に基づいて、部分放電を検出することができる。したがって、簡易な処理および構成でケーブルにおける部分放電を検出することができる。
【0196】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0197】
上述の実施形態の各処理(各機能)は、1または複数のプロセッサを含む処理回路(Circuitry)により実現される。上記処理回路は、上記1または複数のプロセッサに加え、1または複数のメモリ、各種アナログ回路、各種デジタル回路が組み合わされた集積回路等で構成されてもよい。上記1または複数のメモリは、上記各処理を上記1または複数のプロセッサに実行させるプログラム(命令)を格納する。上記1または複数のプロセッサは、上記1または複数のメモリから読み出した上記プログラムに従い上記各処理を実行してもよいし、予め上記各処理を実行するように設計された論理回路に従って上記各処理を実行してもよい。上記プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)等、コンピュータの制御に適合する種々のプロセッサであってよい。なお、物理的に分離した上記複数のプロセッサが互いに協働して上記各処理を実行してもよい。たとえば、物理的に分離した複数のコンピュータのそれぞれに搭載された上記プロセッサがLAN(Local Area Network)、WAN (Wide Area Network)、およびインターネット等のネットワークを介して互いに協働して上記各処理を実行してもよい。上記プログラムは、外部のサーバ装置等から上記ネットワークを介して上記メモリにインストールされても構わないし、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、および半導体メモリ等の記録媒体に格納された状態で流通し、上記記録媒体から上記メモリにインストールされても構わない。
【0198】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
[付記1]
商用交流電力を伝送する線状の導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁層と、前記絶縁層の周囲を覆う導体である遮蔽層とを有するケーブルにおける部分放電を検出する部分放電検出装置であって、
前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す1または複数の参照データを取得する取得部と、
前記遮蔽層を通して流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記電流検出部により検出された電流の電荷量との対応関係を示す検出データを生成する生成部と、
前記取得部により取得された前記参照データに乗ずる係数値であって、前記参照データに乗じて前記検出データに近似する再現データを生成するための前記係数値を算出する算出部と、
前記算出部により算出された前記係数値に基づいて、前記部分放電を検出する検出処理を行う検出部とを備え、
前記生成部は、所定周期に従うタイミングにおいて前記検出データを生成し、
前記部分放電検出装置は、さらに、
前記算出部により算出された前記係数値の時系列変化を表示する処理を行う表示処理部を備える、部分放電検出装置。
【0199】
[付記2]
商用交流電力を伝送する線状の導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁層と、前記絶縁層の周囲を覆う導体である遮蔽層とを有するケーブルにおける部分放電を検出する部分放電検出装置であって、
処理回路を備え、
前記処理回路は、
前記遮蔽層を通して流れる電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、前記遮蔽層を通して流れる電流の電荷量との対応関係を示す1または複数の参照データを取得し、
前記遮蔽層を通して流れる電流を検出し、
検出した電流の、前記商用交流電力の交流電圧に対する位相と、検出した電流の電荷量との対応関係を示す検出データを生成し、
取得した前記参照データに乗ずる係数値であって、前記参照データに乗じて前記検出データに近似する再現データを生成するための前記係数値を算出し、
算出した前記係数値に基づいて、前記部分放電を検出する検出処理を行う、部分放電検出装置。
【符号の説明】
【0200】
10,10A,10A1,10A2,10B,10B1,10B2,10C,10C1,10C2 地中ケーブル
11,11A,11B,11C ケーブル端末
12 ケーブル
13,15 接地ノード
14 接地用ケーブル
31 マンホール
41,41A,41B 普通接続部
42,42A,42B 絶縁接続部
43,43A,43B 地上接続部
53 導電ケーブル
71 導体
72 内部半導電層
73 絶縁体
74 外部半導電層
75 遮蔽層
76 シース
77 絶縁筒
81 端子
100,100A 信号検出部(電流検出部)
110 CT
120,120A 信号出力部
101 リングコア
102 巻線
105,106 金属箔電極
200 処理部
230 ADC
250 データ生成部(生成部、ノイズ除去部)
260 基底処理部(参照データ処理部)
270 判定部(取得部、算出部、検出部、表示処理部)
280 記憶部
500,500A,500B,500C,510 部分放電検出装置
501 部分放電検出システム
502 送電システム
D データ
Db,Db1,Db2,Db3,Db4 基底データ
G1,G2,G3,G4 グラフ
DS1,DS2 画面