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特開2024-11665設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011665
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20240118BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240118BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20240118BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20240118BHJP
   G06F 111/08 20200101ALN20240118BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/10 200
G06F30/27
G06Q50/04
G06F111:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113868
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100153040
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】花岡 恭平
【テーマコード(参考)】
5B146
5L049
【Fターム(参考)】
5B146DC01
5B146DC03
5B146DC04
5B146DL08
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】製品等の設計プロセスにおいて目的変数を構成する製品等の特性及び設計変数の最適化を効率的に実現する。
【解決手段】設計支援装置10は、特性項目の観測値を予測する予測モデルを用いて構築された目標指向獲得関数の最適化により推奨設計パラメータ群を取得し、第n(nは1~(K-1)の整数)の推奨設計パラメータ群を予測モデルに入力することにより第nの観測値確率分布を取得し、第nの観測値確率分布に基づいて、第nの条件付き期待値を取得し、第1~nの推奨設計パラメータ群及び条件付き期待値からなる第1~nの予測実績データに基づいて各予測モデルを再構築し、予測モデルに基づいて目標指向獲得関数を再構築し、目標指向獲得関数の最適化により第(n+1)の推奨設計パラメータ群を取得し、順次に取得された第1~第Kの推奨設計パラメータ群を出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の前記設計パラメータ群を求める設計支援装置であって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部と、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築部と、
前記設計パラメータ群を入力とし全ての前記特性項目に示される特性の向上に関する前記設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部と、
前記目標指向獲得関数の最適化により得られる前記設計パラメータ群を、推奨設計パラメータ群として取得する設計パラメータ群取得部であって、前記実績データに基づいて構築された前記予測モデルを用いて構築された前記目標指向獲得関数の最適化により得られた前記推奨設計パラメータ群を第1の推奨設計パラメータ群として取得する、設計パラメータ群取得部と、
前記設計パラメータ群取得部により取得された前記推奨設計パラメータ群を出力する出力部と、
前記目標指向獲得関数の最適化により取得された第n(n=1,2,・・・,K-1、(Kは2以上の所与の整数))の前記推奨設計パラメータ群を前記予測モデルに入力することにより得られる各特性項目の観測値の確率分布を、第nの観測値確率分布として取得する観測値確率分布取得部と、
前記第nの観測値確率分布に基づいて、観測値に関する所与の条件が与えられた条件付き期待値を、第nの条件付き期待値として取得する条件付き期待値取得部と、
を備え、
前記モデル構築部は、前記実績データ、及び、第1~nの予測実績データに基づいて各特性項目の前記予測モデルを再構築し、前記第l(l=1,2,・・・,n)の予測実績データは、第lの前記推奨設計パラメータ群と各特性項目の第lの前記条件付き期待値とからなり、
前記獲得関数構築部は、前記モデル構築部により再構築された前記予測モデルに基づいて、前記目標指向獲得関数を再構築し、
前記設計パラメータ群取得部は、前記獲得関数構築部により再構築された前記目標指向獲得関数の最適化により得られる前記推奨設計パラメータ群を、第(n+1)の推奨設計パラメータ群として取得し、
前記出力部は、前記観測値確率分布の取得、前記条件付き期待値の取得、前記予測モデルの再構築、前記目標指向獲得関数の再構築、及び、前記推奨設計パラメータ群の取得の(K-1)回の繰り返しにより、前記設計パラメータ群取得部により順次に取得された第1~第Kの前記推奨設計パラメータ群を出力する、
設計支援装置。
【請求項2】
前記条件付き期待値における前記条件は、少なくとも一つの前記特性項目が目標値を満たさないことである、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記目標指向獲得関数は、全ての前記特性項目の前記目標値が達成される確率であって前記予測モデルに基づいて前記設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含む、
請求項1または2に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記全体達成確率は、各特性項目の前記目標値に対する達成確率の総乗であり、
各特性項目の前記目標値に対する達成確率は、前記設計パラメータ群を各特性項目の前記予測モデルに入力することにより得られる前記観測値の確率分布に基づく、
請求項3に記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記目標達成確率項は、前記全体達成確率、または、前記全体達成確率の対数からなる、
請求項4に記載の設計支援装置。
【請求項6】
前記第1~第Kの推奨設計パラメータ群のうちの、j個(jは1以上の整数)の前記推奨設計パラメータ群を不採用とすることの指定を受け付ける指定受付部、を更に備え、
前記出力部は、前記観測値確率分布の取得、前記条件付き期待値の取得、前記予測モデルの再構築、前記目標指向獲得関数の再構築、及び、前記推奨設計パラメータ群の取得の更なるj回の繰り返しにより、前記設計パラメータ群取得部により順次に取得された第(K+1)~第(K+j)の前記推奨設計パラメータ群を更に出力する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項7】
前記予測モデルは、前記設計パラメータ群を入力とし、前記観測値の確率分布を出力とする回帰モデルまたは分類モデルであり、
前記モデル構築部は、前記実績データを少なくとも用いた機械学習により、前記予測モデルを構築する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項8】
前記予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて前記観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルである、
請求項7に記載の設計支援装置。
【請求項9】
複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の前記設計パラメータ群を求める設計支援装置における設計支援方法であって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得ステップと、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築ステップと、
前記設計パラメータ群を入力とし全ての前記特性項目に示される特性の向上に関する前記設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築ステップと、
前記目標指向獲得関数の最適化により得られる前記設計パラメータ群を、推奨設計パラメータ群として取得する設計パラメータ群取得ステップであって、前記実績データに基づいて構築された前記予測モデルを用いて構築された前記目標指向獲得関数の最適化により得られた前記推奨設計パラメータ群を第1の推奨設計パラメータ群として取得する、設計パラメータ群取得ステップと、
前記目標指向獲得関数の最適化により取得された第n(n=1,2,・・・,K-1、(Kは2以上の所与の整数))の前記推奨設計パラメータ群を前記予測モデルに入力することにより得られる各特性項目の観測値の確率分布を、第nの観測値確率分布として取得する観測値確率分布取得ステップと、
前記第nの観測値確率分布に基づいて、観測値に関する所与の条件が与えられた条件付き期待値を、第nの条件付き期待値として取得する条件付き期待値取得ステップと、
前記実績データ、及び、第1~nの予測実績データに基づいて、各特性項目の前記予測モデルを再構築するモデル再構築ステップであって、前記第l(l=1,2,・・・,n)の予測実績データは、第lの前記推奨設計パラメータ群と各特性項目の第lの前記条件付き期待値とからなる、モデル再構築ステップと、
前記モデル再構築ステップにおいて再構築された前記予測モデルに基づいて、前記目標指向獲得関数を再構築する獲得関数再構築ステップと、
前記獲得関数再構築ステップにおいて再構築された前記目標指向獲得関数の最適化により得られる前記推奨設計パラメータ群を、第(n+1)の推奨設計パラメータ群として取得する設計パラメータ群再取得ステップと、
前記観測値確率分布取得ステップ、前記条件付き期待値取得ステップ、前記モデル再構築ステップ、前記獲得関数再構築ステップ、及び、前記設計パラメータ群再取得ステップを(K-1)回繰り返す繰り返しステップと、
前記設計パラメータ群取得ステップ及び前記繰り返しステップにおいて順次に取得された第1~第Kの前記推奨設計パラメータ群を出力する出力ステップと、
を有する設計支援方法。
【請求項10】
コンピュータを、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の前記設計パラメータ群を求める設計支援装置として機能させるための設計支援プログラムであって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得機能と、
前記設計パラメータ群に基づいて前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築機能と、
前記設計パラメータ群を入力とし全ての前記特性項目に示される特性の向上に関する前記設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築機能と、
前記目標指向獲得関数の最適化により得られる前記設計パラメータ群を、推奨設計パラメータ群として取得する設計パラメータ群取得機能であって、前記実績データに基づいて構築された前記予測モデルを用いて構築された前記目標指向獲得関数の最適化により得られた前記推奨設計パラメータ群を第1の推奨設計パラメータ群として取得する、設計パラメータ群取得機能と、
前記設計パラメータ群取得機能により取得された前記推奨設計パラメータ群を出力する出力機能と、
前記目標指向獲得関数の最適化により取得された第n(n=1,2,・・・,K-1、(Kは2以上の所与の整数))の前記推奨設計パラメータ群を前記予測モデルに入力することにより得られる各特性項目の観測値の確率分布を、第nの観測値確率分布として取得する観測値確率分布取得機能と、
前記第nの観測値確率分布に基づいて、観測値に関する所与の条件が与えられた条件付き期待値を、第nの条件付き期待値として取得する条件付き期待値取得機能と、
を実現させ、
前記モデル構築機能は、前記実績データ、及び、第1~nの予測実績データに基づいて各特性項目の前記予測モデルを再構築し、前記第l(l=1,2,・・・,n)の予測実績データは、第lの前記推奨設計パラメータ群と各特性項目の第lの前記条件付き期待値とからなり、
前記獲得関数構築機能は、前記モデル構築機能により再構築された前記予測モデルに基づいて、前記目標指向獲得関数を再構築し、
前記設計パラメータ群取得機能は、前記獲得関数構築機能により再構築された前記目標指向獲得関数の最適化により得られる前記推奨設計パラメータ群を、第(n+1)の推奨設計パラメータ群として取得し、
前記出力機能は、前記観測値確率分布の取得、前記条件付き期待値の取得、前記予測モデルの再構築、前記目標指向獲得関数の再構築、及び、前記推奨設計パラメータ群の取得の(K-1)回の繰り返しにより、前記設計パラメータ群取得部により順次に取得された第1~第Kの前記推奨設計パラメータ群を出力する、
設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習を活用した製品設計方法が研究されている。製品設計の一分野として、例えば、機能性材料の設計においては、例えば、実験及び作製済みの材料に関する原材料配合比と特性とのペアからなる学習データを用いた機械学習により材料の特性を推定するモデルを構築し、未実験の原材料配合比に対する特性の予測が行われている。このような特性の予測により実験計画を立てることにより、効率的に材料の特性及び原材料配合比等のパラメータを最適化することが可能となり、開発効率の向上が図られている。また、このような最適化の手法として、ベイズ最適化が有効であることが知られており、ベイズ最適化を用いて設計値を出力する設計装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-52737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、材料等の製品開発においては、複数の目的変数(特性)が与えられた状況で、設計変数に応じて変化する複数の特性を向上させるために、複数の目的変数の最適化が行われる。これを多目的最適化といい、例えば多目的ベイズ最適化といった手法が適用される。特に製品設計の分野では各目的変数の目標値達成を意図した目標指向型多目的ベイズ最適化が有用である。この最適化のプロセスでは、レコメンドされた設計変数を用いて実験を行い、その実験の結果を評価し、評価結果をフィードバックすることを繰り返すことにより、各目的変数の目標値の達成に向けた説明変数及び目的変数の最適化が図られる。このような最適化では、1回の実験のための設計変数のレコメンドが得られるので、そのレコメンドに基づく実験及び評価が実施されなければ、次の実験のためのレコメンドが得られない。最適化のプロセスにおいて、目的変数が目標値に達するまで、レコメンドの取得、実験及び評価のプロセスの多くの繰り返しを要する場合には、レコメンドが得られるごとに、その都度に実験及び評価をしなければならず、非効率であった。このような問題は、材料設計に限られず、製品設計全般に共通のものである。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製プロセスにおいて目的変数を構成する製品等の特性及び設計変数の最適化を、効率的に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の一側面に係る設計支援装置は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータ群を求める設計支援装置であって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部と、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築部と、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築部と、目標指向獲得関数の最適化により得られる設計パラメータ群を、推奨設計パラメータ群として取得する設計パラメータ群取得部であって、実績データに基づいて構築された予測モデルを用いて構築された目標指向獲得関数の最適化により得られた推奨設計パラメータ群を第1の推奨設計パラメータ群として取得する、設計パラメータ群取得部と、設計パラメータ群取得部により取得された推奨設計パラメータ群を出力する出力部と、目標指向獲得関数の最適化により取得された第n(n=1,2,・・・,K-1、(Kは2以上の所与の整数))の推奨設計パラメータ群を予測モデルに入力することにより得られる各特性項目の観測値の確率分布を、第nの観測値確率分布として取得する観測値確率分布取得部と、第nの観測値確率分布に基づいて、観測値に関する所与の条件が与えられた条件付き期待値を、第nの条件付き期待値として取得する条件付き期待値取得部と、を備え、モデル構築部は、実績データ、及び、第1~nの予測実績データに基づいて各特性項目の予測モデルを再構築し、第l(l=1,2,・・・,n)の予測実績データは、第lの推奨設計パラメータ群と各特性項目の第lの条件付き期待値とからなり、獲得関数構築部は、モデル構築部により再構築された予測モデルに基づいて、目標指向獲得関数を再構築し、設計パラメータ群取得部は、獲得関数構築部により再構築された目標指向獲得関数の最適化により得られる推奨設計パラメータ群を、第(n+1)の推奨設計パラメータ群として取得し、出力部は、観測値確率分布の取得、条件付き期待値の取得、予測モデルの再構築、目標指向獲得関数の再構築、及び、推奨設計パラメータ群の取得の(K-1)回の繰り返しにより、設計パラメータ群取得部により順次に取得された第1~第Kの推奨設計パラメータ群を出力する。
【0007】
本開示の第1の一側面に係る設計支援方法は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータ群を求める設計支援装置における設計支援方法であって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得ステップと、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築ステップと、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築ステップと、目標指向獲得関数の最適化により得られる設計パラメータ群を、推奨設計パラメータ群として取得する設計パラメータ群取得ステップであって、実績データに基づいて構築された予測モデルを用いて構築された目標指向獲得関数の最適化により得られた推奨設計パラメータ群を第1の推奨設計パラメータ群として取得する、設計パラメータ群取得ステップと、目標指向獲得関数の最適化により取得された第n(n=1,2,・・・,K-1、(Kは2以上の所与の整数))の推奨設計パラメータ群を予測モデルに入力することにより得られる各特性項目の観測値の確率分布を、第nの観測値確率分布として取得する観測値確率分布取得ステップと、第nの観測値確率分布に基づいて、観測値に関する所与の条件が与えられた条件付き期待値を、第nの条件付き期待値として取得する条件付き期待値取得ステップと、実績データ、及び、第1~nの予測実績データに基づいて、各特性項目の予測モデルを再構築するモデル再構築ステップであって、第l(l=1,2,・・・,n)の予測実績データは、第lの推奨設計パラメータ群と各特性項目の第lの条件付き期待値とからなる、モデル再構築ステップと、モデル再構築ステップにおいて再構築された予測モデルに基づいて、目標指向獲得関数を再構築する獲得関数再構築ステップと、獲得関数再構築ステップにおいて再構築された目標指向獲得関数の最適化により得られる推奨設計パラメータ群を、第(n+1)の推奨設計パラメータ群として取得する設計パラメータ群再取得ステップと、観測値確率分布取得ステップ、条件付き期待値取得ステップ、モデル再構築ステップ、獲得関数再構築ステップ、及び、設計パラメータ群再取得ステップを(K-1)回繰り返す繰り返しステップと、設計パラメータ群取得ステップ及び繰り返しステップにおいて順次に取得された第1~第Kの推奨設計パラメータ群を出力する出力ステップと、を有する。
【0008】
本開示の第1の一側面に係る設計支援プログラムは、コンピュータを、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータ群を求める設計支援装置として機能させるための設計支援プログラムであって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得機能と、設計パラメータ群に基づいて特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築機能と、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する獲得関数構築機能と、目標指向獲得関数の最適化により得られる設計パラメータ群を、推奨設計パラメータ群として取得する設計パラメータ群取得機能であって、実績データに基づいて構築された予測モデルを用いて構築された目標指向獲得関数の最適化により得られた推奨設計パラメータ群を第1の推奨設計パラメータ群として取得する、設計パラメータ群取得機能と、設計パラメータ群取得機能により取得された推奨設計パラメータ群を出力する出力機能と、目標指向獲得関数の最適化により取得された第n(n=1,2,・・・,K-1、(Kは2以上の所与の整数))の推奨設計パラメータ群を予測モデルに入力することにより得られる各特性項目の観測値の確率分布を、第nの観測値確率分布として取得する観測値確率分布取得機能と、第nの観測値確率分布に基づいて、観測値に関する所与の条件が与えられた条件付き期待値を、第nの条件付き期待値として取得する条件付き期待値取得機能と、を実現させ、モデル構築機能は、実績データ、及び、第1~nの予測実績データに基づいて各特性項目の予測モデルを再構築し、第l(l=1,2,・・・,n)の予測実績データは、第lの推奨設計パラメータ群と各特性項目の第lの条件付き期待値とからなり、獲得関数構築機能は、モデル構築機能により再構築された予測モデルに基づいて、目標指向獲得関数を再構築し、設計パラメータ群取得機能は、獲得関数構築機能により再構築された目標指向獲得関数の最適化により得られる推奨設計パラメータ群を、第(n+1)の推奨設計パラメータ群として取得し、出力機能は、観測値確率分布の取得、条件付き期待値の取得、予測モデルの再構築、目標指向獲得関数の再構築、及び、推奨設計パラメータ群の取得の(K-1)回の繰り返しにより、設計パラメータ群取得部により順次に取得された第1~第Kの推奨設計パラメータ群を出力する。
【0009】
このような側面によれば、実績データに基づいて予測モデル及び目標指向獲得関数が構築され、目標指向獲得関数の最適化により、推奨設計パラメータ群を得ることができる。第nの推奨設計パラメータ群を予測モデルに入力することにより、各特性項目の観測値の確率分布が得られるので、製品等の作製及び特性の評価を行うことなく、第nの推奨設計パラメータ群に基づいて作製される製品等の特性の分布を予測できる。従って、製品等の特性の分布の条件付き期待値を、推奨設計パラメータ群に基づく製品等の特性の観測値とみなすことができる。そして、推奨設計パラメータと条件付き期待値とのペアにより構成される予測実績データを実績データと併せ用いて、予測モデル及び目標指向獲得関数を構築し、目標指向獲得関数の最適化により第(n+1)の推奨設計パラメータ群を得ることが可能となる。従って、推奨設計パラメータ群の取得から目標指向獲得関数の最適化に至るプロセスの所望の回数の繰り返しにより、製品等の作製及び特性の評価を経ずに、所望の数の推奨設計パラメータ群を得ることが可能となる。
【0010】
第2の側面に係る設計支援装置では、第1の側面に係る設計支援装置において、条件付き期待値における条件は、少なくとも一つの特性項目が目標値を満たさないことであることとしてもよい。
【0011】
このような側面によれば、第nの推奨設計パラメータ群に基づいて作製される製品等における予測された特性の分布のうちの、目標値を満たしていない特性の分布に基づく期待値が、当該製品等の観測値とみなされるので、第nの設計パラメータ群に基づいて作製された製品等が、特性項目における目標未達であったという仮定のもとに、第(n+1)の設計パラメータ群のレコメンドを得ることができる。
【0012】
第3の側面に係る設計支援装置では、第1又は第2の側面に係る設計支援装置において、目標指向獲得関数は、全ての特性項目の目標値が達成される確率であって予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出される確率である全体達成確率を表す目標達成確率項を少なくとも含むこととしてもよい。
【0013】
このような側面によれば、目標指向獲得関数から出力される指標値には、全体達成確率が反映されるので、目標指向獲得関数から出力される指標値を目的変数とする最適化により、特性項目に関する目標が達成される可能性が高い設計パラメータ群を得ることができる。
【0014】
第4の側面に係る設計支援装置では、第3の側面に係る設計支援装置において、全体達成確率は、各特性項目の目標値に対する達成確率の総乗であり、各特性項目の目標値に対する達成確率は、設計パラメータ群を各特性項目の予測モデルに入力することにより得られる観測値の確率分布に基づくこととしてもよい。
【0015】
このような側面によれば、観測値の確率分布を出力するように予測モデルが構成されるので、設計パラメータ群に応じた各特性項目の目標値の達成確率を得ることができる。そして、各特性項目の目標値の達成確率の総乗により算出される全体達成確率が、目標指向獲得関数の目標達成確率項に含まれるので、目標指向獲得関数からの指標値に全体達成確率が適切に反映される。
【0016】
第5の側面に係る設計支援装置では、第4の側面に係る設計支援装置において、目標達成確率項は、全体達成確率、または、全体達成確率の対数からなることとしてもよい。
【0017】
このような側面によれば、目標達成確率項が、全体達成確率または全体達成確率の対数からなるので、目標指向獲得関数からの指標値に全体達成確率が適切に反映される。
【0018】
第6の側面に係る設計支援装置では、第1~5の側面のいずれか一つに係る設計支援装置において、第1~第Kの推奨設計パラメータ群のうちの、j個(jは1以上の整数)の前記推奨設計パラメータ群を不採用とすることの指定を受け付ける指定受付部、を更に備え、出力部は、観測値確率分布の取得、条件付き期待値の取得、予測モデルの再構築、目標指向獲得関数の再構築、及び、推奨設計パラメータ群の取得の更なるj回の繰り返しにより、設計パラメータ群取得部により順次に取得された第(K+1)~第(K+j)の推奨設計パラメータ群を更に出力することとしてもよい。
【0019】
このような側面によれば、取得された第1~第Kの推奨設計パラメータ群のうちの、製品等の作製において明らかに好適でないj個の設計パラメータ群に対して、例えば当該製品等の技術分野の熟練者による指定を受け付けることができる。指定の受け付けに応じて、観測値確率分布の取得から目標指向獲得関数の最適化に至るプロセスが更にj回繰り返されることにより、予測モデル及び目標指向獲得関数に、製品等の作製及び特性に関する熟練者等のノウハウを反映させながら、所望の数の推奨設計パラメータ群を得ることができる。
【0020】
第7の側面に係る設計支援装置では、第1~6の側面のいずれか一つに係る設計支援装置において、予測モデルは、設計パラメータ群を入力とし、観測値の確率分布を出力とする回帰モデルまたは分類モデルであり、モデル構築部は、実績データを少なくとも用いた機械学習により、予測モデルを構築することとしてもよい。
【0021】
このような側面によれば、予測モデルが所定の回帰モデルまたは分類モデルとして構築されるので、特性項目の観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標の取得が可能な予測モデル得られる。
【0022】
第8の側面に係る設計支援装置では、第7の側面に係る設計支援装置において、予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルであることとしてもよい。
【0023】
このような側面によれば、設計パラメータ群に基づく特性項目の観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標としての予測が可能な予測モデルが構築される。
【発明の効果】
【0024】
本開示の一側面によれば、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製プロセスにおいて目的変数を構成する製品等の特性及び設計変数の最適化を、効率的に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係る設計支援装置が適用される材料設計のプロセスの概要を示す図である。
図2】実施形態に係る設計支援装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る設計支援装置のハードブロック図である。
図4】作製済みの材料に関する設計パラメータ群の例を示す図である。
図5】作製済みの材料に関する観測値の例を示す図である。
図6】材料設計における特性項目及び設計パラメータの最適化のプロセスを示すフローチャートである。
図7】実施形態に係る設計支援装置における設計支援方法の内容の一例を示すフローチャートである。
図8】設計支援処理の各段階において取得されるデータの流れを模式的に示す図である。
図9】条件付き期待値の取得処理を説明するための図である。
図10】設計支援プログラムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
図1は、実施形態に係る設計支援装置が適用される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計のプロセスの一例である材料設計のプロセスの概要を示す図である。なお、以下において、「製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品」を「製品等」と記載する。本実施形態の設計支援装置10は、当該製品等の特性を示す複数の特性項目及び各特性項目の目標値を有するあらゆる製品等の設計のプロセスに適用できる。設計支援装置10は、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより製品等の設計パラメータ(設計変数)及び特性(目的変数)の最適化を図る手法に適用されることができる。具体的には、設計支援装置10は、材料の開発・設計の他に、例えば、自動車及び薬品等の製品の設計、薬品の分子構造の最適化等に適用できる。本実施形態では、上述のとおり、製品等の設計の一例としての材料設計の例により、設計支援装置10による設計支援処理を説明する。
【0028】
図1に示されるように、設計支援装置10による設計支援処理は、一例として、プラント及び実験室A等における材料の作製及び実験に適用される。即ち、設定された設計パラメータ群xにより、プラント及び実験室A等において材料が作製され、作製された材料に基づいて、材料の特性を示す複数の特性項目の観測値yが取得される。なお、プラント及び実験室Aにおける材料作製及び実験は、シミュレーションであってもよい。この場合には、設計支援装置10は、次のシミュレーションの実行のための設計パラメータ群xを提供する。
【0029】
設計支援装置10は、設計パラメータ群x及び設計パラメータ群xに基づいて作製された材料の複数の特性項目の観測値yからなる実績データに基づいて、複数の特性項目及び設計パラメータの最適化を行う。具体的には、設計支援装置10は、作製済みの材料に関する設計パラメータ群x及び観測値yに基づいて、次の作製及び実験のための、より好適な特性を得られる可能性がある設計パラメータ群xを出力する。
【0030】
例えば、本実施形態の設計支援装置10は、材料製品の設計において、複数の設計変数をチューニングして、複数の目標特性を達成するという目的のために適用される。材料製品の設計の一例として、ある材料を複数のポリマー及び添加剤を混ぜて作製する場合において、設計支援装置10は、各ポリマー及び添加剤の配合量等の設計パラメータ群を設計変数とし、特性項目である弾性率、熱膨張率の観測値を目的変数として、複数の特性項目の目標値を達成するような設計パラメータ群のチューニングに用いられる。
【0031】
図2は、実施形態に係る設計支援装置の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の設計支援装置10は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される材料の設計において、材料の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータを求める装置である。図2に示すように、設計支援装置10は、プロセッサ101に構成された機能部、設計パラメータ記憶部21及び観測値記憶部22を含み得る。各機能部については後述する。
【0032】
図3は、実施形態に係る設計支援装置10を構成するコンピュータ100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、コンピュータ100は、設計支援装置10を構成しうる。
【0033】
一例として、コンピュータ100はハードウェア構成要素として、プロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、および通信制御装置104を備える。設計支援装置10を構成するコンピュータ100は、入力デバイスであるキーボード、タッチパネル、マウス等の入力装置105及びディスプレイ等の出力装置106をさらに含むこととしてもよい。
【0034】
プロセッサ101は、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する演算装置である。プロセッサの例としてCPU(Central Processing Unit)およびGPU(Graphics Processing Unit)が挙げられるが、プロセッサ101の種類はこれらに限定されない。例えば、プロセッサ101はセンサおよび専用回路の組合せでもよい。専用回路はFPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラム可能な回路でもよいし、他の種類の回路でもよい。
【0035】
主記憶装置102は、設計支援装置10等を実現するためのプログラム、プロセッサ101から出力された演算結果などを記憶する装置である。主記憶装置102は例えばROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)のうちの少なくとも一つにより構成される。
【0036】
補助記憶装置103は、一般に主記憶装置102よりも大量のデータを記憶することが可能な装置である。補助記憶装置103は例えばハードディスク、フラッシュメモリなどの不揮発性記憶媒体によって構成される。補助記憶装置103は、コンピュータ100を設計支援装置10等として機能させるための設計支援プログラムP1と各種のデータとを記憶する。
【0037】
通信制御装置104は、通信ネットワークを介して他のコンピュータとの間でデータ通信を実行する装置である。通信制御装置104は例えばネットワークカードまたは無線通信モジュールにより構成される。
【0038】
設計支援装置10の各機能要素は、プロセッサ101または主記憶装置102の上に、対応するプログラムP1を読み込ませてプロセッサ101にそのプログラムを実行させることで実現される。プログラムP1は、対応するサーバの各機能要素を実現するためのコードを含む。プロセッサ101はプログラムP1に従って通信制御装置104を動作させ、主記憶装置102または補助記憶装置103におけるデータの読み出しおよび書き込みを実行する。このような処理により、対応するサーバの各機能要素が実現される。
【0039】
プログラムP1は、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、これらのプログラムの少なくとも一つは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0040】
再び図2を参照して、設計支援装置10は、データ取得部11、モデル構築部12、獲得関数構築部13、設計パラメータ群取得部14、出力部15、観測値確率分布取得部16、条件付き期待値取得部17及び指定受付部18を備える。設計パラメータ記憶部21及び観測値記憶部22は、図2に示されるように、設計支援装置10に構成されてもよいし、設計支援装置10からアクセス可能な他の装置として構成されてもよい。
【0041】
データ取得部11は、作製済みの材料に関しての実績データを複数取得する。実績データは、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とのペアからなる。設計パラメータ記憶部21は、実績データにおける設計パラメータ群を記憶している記憶手段であって、例えば主記憶装置102及び補助記憶装置103等に構成されてもよい。観測値記憶部22は、実績データにおける観測値を記憶している記憶手段である。
【0042】
図4は、設計パラメータ記憶部21に記憶されている設計パラメータ群の例を示す図である。図4に示されるように、設計パラメータ記憶部21は、1回目(t=1)からT回目(t=T)の材料作製における設計パラメータ群xを記憶している。設計パラメータ群xは、例えば、P個の設計パラメータp(p=1~P)からなる。設計パラメータ群xは、一例として、原材料Aの配合量、原材料Bの配合量及び設計パラメータPを含んでもよく、設計パラメータの数に応じた次元数Pのベクトルデータを構成しうる。設計パラメータは、例示したものの他、例えば、分子構造及び画像等の非ベクトルデータ等であってもよい。また、複数の分子の種類から最適な分子を選ぶ問題を扱う場合には、設計パラメータは、複数の分子のうちの選択肢を示すデータであってもよい。
【0043】
図5は、観測値記憶部22に記憶されている観測値yの例を示す図である。図5に示されるように、観測値記憶部22は、1回目(t=1)からT回目(t=T)の材料作製において作製された材料の特性を示す複数の特性項目m(m=1~M)の観測値ym,tを記憶している。特性項目mは、一例として、ガラス転移温度、接着力及び特性項目Mを含んでもよい。また、各特性項目mには、目標値ym(target)が設定されている。設計パラメータ群xと観測値ym,tとのペアが実績データを構成する。
【0044】
設計支援装置10は、1回目(t=1)からT回目(t=T)の材料作製における実績データに基づいて、T+1回目の材料作製のための推奨設計パラメータ群Xを求める(なお、実績データにおける設計パラメータ群を小文字xで表記し、推奨設計パラメータ群を大文字Xで表記する)。推奨設計パラメータ群Xは、各特性項目mの観測値がそれぞれの目標値ym(target)を満足するようなパラメータ群、又は、各特性項目の観測値がそれぞれの目標値ym(target)により近付くようなパラメータ群である。
【0045】
モデル構築部12は、実績データに基づいて予測モデルを構築する。予測モデルは、設計パラメータ群xに基づいて、特性項目mの観測値yを確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するモデルである。予測モデルを構成するモデルは、観測値yを確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測可能なモデルであればよく、その種類は限定されない。観測値yを確率分布の代替指標として予測する予測モデルは、例えば、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布(ランダムフォレスト)、モンテカルロドロップアウトにより得られる分布(ニューラルネットワーク)、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布(任意の機械学習手法)等を代替指標として、観測値の確率分布を予測する。
【0046】
例えば、予測モデルは、設計パラメータxを入力とし、観測値yの確率分布を出力とする回帰モデルであってもよい。予測モデルが回帰モデルである場合には、予測モデルは、例えば、ガウス過程回帰、ランダムフォレスト及びニューラルネットワークといった回帰モデルのうちのいずれか一つにより構成されてもよい。モデル構築部12は、実績データを用いた周知の機械学習の手法により、予測モデルを構築してもよい。モデル構築部12は、実績データを予測モデルに適用して当該予測モデルのパラメータを更新する機械学習の手法により、予測モデルを構築してもよい。
【0047】
また、予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルであってもよい。観測値の確率分布、又はその代替指標の予測は、モデル固有の手法によって得ることができる。観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標は、ガウス過程回帰及びベイジアンニューラルネットワークであれば予測値の事後分布に基づいて、ランダムフォレストであれば、アンサンブルを構成する予測器の予測の分布に基づいて、線形回帰であれば予測区間及び信頼区間に基づいて、及び、ニューラルネットワークであればモンテカルロドロップアウトに基づいて得ることができる。但し、各機械学習モデルに対する観測値の分布またはその代替指標の算出方法は上記手法に限定されない。
【0048】
また、任意のモデルは、観測値の確率分布またはその代替指標を予測できるモデルに拡張されてもよい。例えば、ブートストラップ法等で複数個のデータセットを構築し、それぞれに対して予測モデルを構築することで得られる、各モデルの予測値の分布を、観測値の確率分布の代替指標として用いるモデルが、その例として挙げられる。但し、機械学習モデルを観測値の確率分布またはその代替指標を予測できるモデルに拡張する方法は、上記手法に限定されない。
【0049】
また、予測モデルは、線形回帰、PLS回帰、ガウス過程回帰、ランダムフォレストなどのバギングアンサンブル学習、勾配ブースティングなどのブースティングアンサンブル学習、サポートベクターマシーン、及びニューラルネットワーク等により構築されてもよい。
【0050】
ガウス過程回帰として構築される予測モデルでは、教師データの説明変数を構成する実績データにおける設計パラメータ群x及び目的変数を構成する観測値y並びに予測対象の設計パラメータxをモデルに入力することにより、観測値の確率分布が予測される。
【0051】
また、モデル構築部12は、予測モデルのハイパーパラメータを周知のハイパーパラメータチューニングの手法により、チューニングしてもよい。即ち、モデル構築部12は、実績データにおける説明変数である設計パラメータ群xを表すベクトルと、目的変数である観測値yを用いた最尤推定により、ガウス過程回帰により構築される予測モデルのハイパーパラメータを更新してもよい。
【0052】
また、予測モデルは、分類モデルにより構築されてもよい。予測モデルが分類モデルである場合には、モデル構築部12は、実績データを用いた周知の確率分布の評価が可能な機械学習の手法により予測モデルを構築できる。
【0053】
このように、モデル構築部12が所定の回帰モデルまたは分類モデルにより予測モデルを構築することにより、任意の設計パラメータ群xに基づいて、特性項目の観測値の確率分布の取得が可能となる。
【0054】
また、予測モデルは、一の特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するシングルタスクモデル、または、複数の特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するマルチタスクモデルであってもよい。このように、特性項目の性質に応じて適宜に構成されたマルチタスクモデルまたはシングルタスクモデルにより予測モデルを構築することにより、予測モデルによる観測値の予測の精度を向上できる。
【0055】
獲得関数構築部13は、設計パラメータ群を入力とし全ての特性項目に示される特性の向上に関する設計パラメータ群の指標値を出力とする単一の獲得関数である目標指向獲得関数を構築する。目標指向獲得関数は、設計パラメータ群及び特性項目の最適化のための指標値を出力する関数であれば、その構成は限定されない。
【0056】
本実施形態における目標指向獲得関数は、少なくとも目標達成確率項を含んでもよい。目標達成確率項は、全ての特性項目の目標値が達成される確率である全体達成確率を表す。全体達成確率は、予測モデルに基づいて設計パラメータ群を変数として算出される。
【0057】
具体的には、獲得関数構築部13は、以下の式(1)に示すような目標指向獲得関数A(x)を構築する。
A(x)=g(P(x)) ・・・(1)
式(1)において、g(P(x))は、目標達成確率項である。即ち、目標指向獲得関数A(x)は、少なくとも目標達成確率項g(P(x))を含む。なお、式(1)の目標指向獲得関数は一例であって、目標指向獲得関数は目標達成確率項以外の項を含んでもよい。
【0058】
目標達成確率項は、全体達成確率P(x)を含む。例えば、全体達成確率P(x)は、各特性項目の目標達成事象が互いに独立であるとすると、以下の式(2)にように定義されてもよい。
P(x)=Π1<=m<=MPm(x) ・・・(2)
即ち、全体達成確率P(x)は、各特性項目m(m=1~M)の達成確率Pm(x)の総乗である。予測モデルが、設計パラメータ群xに基づいて特性項目の観測値の確率分布を予測できるので、各特性項目の達成確率Pm(x)は、各特性項目の予測モデルを用いた設計パラメータ群xを入力変数とする関数として表現できる。また、全体達成確率P(x)は、各特性項目の達成確率の算出を経ないで、全ての特性項目の予測モデルに基づいた設計パラメータ群xを入力変数とする関数として表現されてもよい。
【0059】
目標達成確率項g(P(x))は、全体達成確率P(x)を含んで構成される。例えば、目標達成確率項g(P(x))は、式(3)に示されるように全体達成確率P(x)からなることとしてもよいし、式(4)に示されるように、全体達成確率P(x)の対数からなることとしてもよい。
g(P(x))=P(x) ・・・(3)
g(P(x))=log(P(x)) ・・・(4)
また、目標達成確率項は、全体達成確率P(x)または全体達成確率P(x)の対数にさらに係数が乗じられた項であってもよいし、さらに他の要素が加算されるための項を含んでもよい。このように構築された目標指向獲得関数の一例では、その最適化は、最大化問題として扱われることができる。
【0060】
このように本実施形態の一例では、観測値の確率分布を出力するように予測モデルが構成されるので、設計パラメータ群に応じた各特性項目mの目標値の達成確率Pm(x)を得ることができる。そして、各特性項目mの目標値の達成確率Pm(x)の総乗により算出される全体達成確率が、目標指向獲得関数の目標達成確率項に含まれるので、目標指向獲得関数からの指標値に全体達成確率が適切に反映される。
【0061】
設計パラメータ群取得部14は、目標指向獲得関数の最適化により得られる設計パラメータ群を取得する。具体的には、一例として、設計パラメータ群取得部14は、目標指向獲得関数の出力を最適化(例えば、最大化)する少なくとも一つの設計パラメータ群を取得してもよい。具体的には、設計パラメータ群取得部14は、獲得関数構築部13により構築された目標指向獲得関数A(x)から出力される指標値を目的変数とする最適化を実施し、最適解として設計パラメータ群xを取得する。
【0062】
出力部15は、設計パラメータ群取得部14により取得された設計パラメータ群を出力する。即ち、出力部15は、1回目(t=1)からT回目(t=T)の材料作製における実績データに基づいて得られた設計パラメータ群を、(T+1)回目の材料の作製のための設計パラメータ群xとして出力することができる。
【0063】
出力の態様は限定されないが、出力部15は、例えば、所定の表示装置に表示させたり所定の記憶手段に記憶させたりすることにより、設計パラメータ群候補を出力する。
【0064】
図6は、材料設計における特性項目及び設計パラメータ群の最適化のプロセスを示すフローチャートである。
【0065】
ステップS1において、設計パラメータ群が取得される。ここで取得される設計パラメータ群は、初期の材料作製(実験)のためのものであって、任意に設定された設計パラメータ群であってもよいし、既に行われた実験等に基づいて設定された設計パラメータ群であってもよい。
【0066】
ステップS2において、材料作製が行われる。ステップS3において、作製された材料の特性項目の観測値が取得される。ステップS2における作製条件としての設計パラメータ群とステップS3において取得された各特性項目の観測値とのペアは、実績データを構成する。
【0067】
ステップS4において、所定の終了条件が充足されたか否かが判定される。所定の終了条件は、設計パラメータ群及び特性項目の観測値の最適化のための条件であって任意に設定されてもよい。最適化のための終了条件は、例えば、作製(実験)及び観測値の取得の所定回数への到達、観測値の目標値への到達及び最適化の収束等であってもよい。所定の終了条件が充足されたと判定された場合には、最適化のプロセスが終了される。所定の終了条件が充足されたと判定されなかった場合には、プロセスは、ステップS5に進む。
【0068】
ステップS5において、設計支援装置10による設計支援処理が行われる。設計支援処理は、次の材料作製のための設計パラメータ群を出力する処理である。そして、プロセスは、再びステップS1に戻る。
【0069】
なお、ステップS1~S5により構成される処理サイクルの1サイクル目において、設計パラメータ群及び特性項目の観測値のペアが初期データとして複数得られる場合には、ステップS1~S4の処理は省略される。初期データが得られない場合には、ステップS1において、例えば実験計画法及びランダムサーチ等の任意の方法で得られた設計パラメータ群が取得される。処理サイクルの2サイクル目以降では、ステップS1において、ステップS5において出力された設計パラメータ群が取得される。
【0070】
続いて、図1図7図9を参照して、本実施形態における設計支援装置10による設計支援処理を詳細に説明する。図7は、実施形態に係る設計支援装置における設計支援方法の内容の一例を示すフローチャートであって、図6におけるステップS5の処理を示す。設計支援方法は、プロセッサ101に設計支援プログラムP1が読み込まれて、そのプログラムが実行されることにより、各機能部11~18が実現されることにより実行される。図8は、設計支援処理の各段階において取得されるデータの流れを模式的に示す図である。図9は、条件付き期待値の取得処理を説明するための図である。
【0071】
本実施形態の設計支援装置10は、実績データに基づいて、複数の設計パラメータ群を求める。具体的には、設計支援装置10は、一例として、1回目(t=1)からT回目(t=T)の材料作製における実績データd,d,…,dに基づいて、(T+1)回目以降の複数回(K回)の材料作製のための、K組(Kは2以上の所与の整数)の推奨設計パラメータ群X,X,…Xを求める。なお、本実施形態の設計支援装置10が適用される最適化のプロセスにおいて、Kが1となることは除外されない。
【0072】
ステップS11において、データ取得部11は、符号v11に示されるように、設計パラメータ群x(tは1~Tの整数)と各特性項目の観測値ym,tとのペアからなる実績データd(実績データd,d,…,d)を取得する。
【0073】
ステップS12において、モデル構築部12は、実績データdに基づいて、特性項目mのそれぞれの予測モデルを構築する。
【0074】
ステップS13において、獲得関数構築部13は、ステップS12において構築された予測モデルに基づいて、目標指向獲得関数を構築する。
【0075】
ステップS14において、設計パラメータ群取得部14は、ステップS13において構築された目標指向獲得関数の最適化により推奨設計パラメータ群を取得する。ここでは、設計パラメータ群取得部14は、符号pr11に示されるように、実績データdに基づいて構築された予測モデルを用いて構築された目的指向獲得関数の最適化により得られた推奨設計パラメータ群を、符号v12に示されるように、第1の推奨設計パラメータ群Xとして取得する。
【0076】
ステップS15において、変数nに1を設定する。そして、ステップS16において、観測値確率分布取得部16は、目標指向獲得関数の最適化により取得された第n(n=1,2,・・・,K-1)の推奨設計パラメータ群を各特性項目mの予測モデルに入力することにより得られる各特性項目mの観測値の確率分布を、第nの観測値確率分布fとして取得する。
【0077】
ここでは、変数nが1であるので、観測値確率分布取得部16は、符号pr12に示されるように、第1の推奨設計パラメータ群Xを各特性項目mの予測モデルに入力することにより、第1の観測値確率分布fを取得する。第1の観測値確率分布fは、特性項目mの全ての同時分布であり、第1の推奨設計パラメータ群Xに基づいて行われる材料の作製及び実験等の結果の予測を表す。また、第1の観測値確率分布fは、特性項目mのそれぞれの確率分布から成ってもよい。即ち、第1の観測値確率分布fは、第1の推奨設計パラメータ群Xに基づく疑似的な実験結果とみなすことができる。
【0078】
ステップS17において、条件付き期待値取得部17は、第nの観測値確率分布に基づいて、観測値に関する所与の条件が与えられた条件付き期待値を、第nの条件付き期待値として取得する。ここで、図9を更に参照して第nの条件付き期待値について説明する。図9では、説明の便宜のため、仮に特性項目が特性項目A及びBの2つであるとして、第nの観測値確率分布fが模式的に示されている。また、第nの観測値確率分布fに対応する確率密度関数は領域Yの外側では0、内側では0以上の有限値であるとする。即ち、領域Yは、第nの観測値確率分布fを模式的に可視化したものであって、特性項目Aの観測値である確率変数yと特性項目Bの観測値である確率変数yとの組合せの確率分布が示されている。
【0079】
ここで、確率変数y及びyの目標値がそれぞれ、yA(TARGET)以下であること及びyB(TARGET)以下であることであるとすると、確率変数yと確率変数yとの組合せの確率分布に相当する領域Yは、目標達成された観測値に対応する領域Yn(OK)及び目標未達の観測値に対応する領域Yn(NG)に分割されることができる。即ち、領域Yn(NG)は、領域Yにおける少なくとも一つの特性項目が目標値を満たさない領域である。
【0080】
条件付き期待値における所与の条件が、少なくとも一つの特性項目が目標値を満たさないことであるとすると、条件付き期待値取得部17は、領域Yn(NG)のみを考慮することにより、第nの条件付き期待値Y’を得る。具体的には、条件付き期待値取得部17は、領域Yn(NG)における確率分布fの積分値が1になるように確率分布fを規格化して、規格化済みの確率分布fを用いて領域Y(NG)における確率変数y及び確率変数yの期待値を算出することにより、第nの条件付き期待値Y’を得る。
【0081】
再び図8を参照して、図9に示した確率分布の下では、符号v13に示されるように、第1の観測値確率分布fに対応する領域Yは、目標達成された観測値に対応する領域Y1(OK)及び目標未達の観測値に対応する領域Y1(NG)に分割される。条件付き期待値取得部17は、符号pr13に示されるように、領域Yのうちの領域Y1(NG)を考慮して、符号v14に示されるように、第1の観測値確率分布fにおける確率変数の期待値を算出することにより、第1の条件付き期待値Y’を取得する。なお、説明の便宜上、領域Yのみで0以上の有限値を持つ確率分布を仮定したが、多変量正規分布等の他の確率分布を仮定する場合、領域Y、領域Y1(OK)及び領域Y1(NG)を得ることなく、直接、目標値を満たさない全領域での条件付き期待値を評価して第1の条件付き期待値Y’を得てもよい。
【0082】
ステップS18において、モデル構築部12は、実績データ、及び、第1~nの予測実績データに基づいて、各特性項目の予測モデルを再構築する。ここで、第l(l=1,2,・・・,n)の予測実績データは、第lの推奨設計パラメータ群と各特性項目の第lの条件付き期待値とからなる。
【0083】
具体的には、モデル構築部12は、符号v15に示されるように、第1の推奨設計パラメータ群X及び第1の条件付き期待値Y’に基づいて、第1の予測実績データDを得る。即ち、第1の予測実績データDは、T回目の次回の材料作製により得られた実績データとみなすことができる。このように、実際の材料作製を経ることなく、実績データを得ることができる。
【0084】
モデル構築部12は、符号v21に示されるように、実績データd(実績データd,d,…,d)及び第1の予測実績データDに基づいて、特性項目mのそれぞれの予測モデルを再構築する。
【0085】
ステップS19において、獲得関数構築部13は、ステップS18において再構築された予測モデルに基づいて、目標指向獲得関数を再構築する。
【0086】
ステップS20において、設計パラメータ群取得部14は、ステップS19において再構築された目標指向獲得関数の最適化により第(n+1)の推奨設計パラメータ群Xn+1を取得する。ここでは、設計パラメータ群取得部14は、符号pr21に示されるように、実績データd及び第1の予測実績データDに基づいて構築された予測モデルを用いて構築された目的指向獲得関数の最適化により得られた推奨設計パラメータ群を、符号v22に示されるように、第2の推奨設計パラメータ群Xとして取得する。
【0087】
本実施形態の設計支援処理では、K個の推奨設計パラメータ群を得ることが目的であるので、ステップS21において、変数(n+1)が、所定の数Kに等しいか否かが判定される。変数(n+1)が、所定の数Kに等しいと判定された場合には、処理はステップS23に進む。一方、変数(n+1)が、所定の数Kに等しいと判定されなかった場合には、処理はステップS22に進む。
【0088】
ステップS22において、変数nの値が1インクリメントされ、処理はステップS16に戻る。図8を引き続き参照して、処理がステップS16に戻った場合の処理を説明する。
【0089】
ステップS16において、変数nが2であるので、観測値確率分布取得部16は、符号pr22に示されるように、第2の推奨設計パラメータ群Xを各特性項目mの予測モデルに入力することにより、第2の観測値確率分布fを取得する。第2の観測値確率分布fは、特性項目mの全ての同時分布であり、第2の推奨設計パラメータ群Xに基づいて行われる材料の作製及び実験等の結果の予測を表す。即ち、第2の観測値確率分布fは、第2の推奨設計パラメータ群Xに基づく疑似的な実験結果とみなすことができる。
【0090】
ステップS17において、符号v23に示されるように、第2の観測値確率分布fに対応する領域Yは、目標達成された観測値に対応する領域Y2(OK)及び目標未達の観測値に対応する領域Y2(NG)に分割される。条件付き期待値取得部17は、符号pr23に示されるように、領域Yのうちの領域Y2(NG)を考慮して、符号v24に示されるように、第2の観測値確率分布fにおける確率変数の期待値を算出することにより、第2の条件付き期待値Y’を取得する。
【0091】
ステップS18において、モデル構築部12は、符号v25に示されるように、第2の推奨設計パラメータ群X及び第2の条件付き期待値Y’に基づいて、第2の予測実績データDを得る。そして、モデル構築部12は、実績データd(実績データd,d,…,d)、第1の予測実績データD及び第2の予測実績データDに基づいて、特性項目mのそれぞれの予測モデルを再構築する。
【0092】
そして、ステップS19において、獲得関数構築部13は、ステップS18において再構築された予測モデルに基づいて、目標指向獲得関数を再構築する。続いて、ステップS20において、設計パラメータ群取得部14は、実績データd、第1の予測実績データD及び第2の予測実績データDに基づいて構築された予測モデルを用いて構築された目的指向獲得関数の最適化により得られた推奨設計パラメータ群を、第3の推奨設計パラメータ群Xとして取得する。
【0093】
このように、ステップS16~S20の処理を繰り返すたびに、推奨設計パラメータ群Xを取得することができる。そして、K-1回のステップS16~S20の処理の繰り返しの後において(n=K-1)、符号vK5に示されるように、第(K-1)の推奨設計パラメータ群XK-1及び第(K-1)の条件付き期待値Y’K-1に基づいて、第(K-1)の予測実績データDK-1が得られる。
【0094】
モデル構築部12は、符号vK1に示されるように、実績データd(実績データd,d,…,d)、及び第1~(K-1)の予測実績データD,D,…DK-1に基づいて、特性項目mのそれぞれの予測モデルを再構築する(ステップS18)。
【0095】
獲得関数構築部13は、再構築された予測モデルに基づいて、目標指向獲得関数を再構築する(ステップS19)。続いて、設計パラメータ群取得部14は、符号vK2に示されるように、再構築された目的指向獲得関数の最適化により得られた推奨設計パラメータ群を、第Kの推奨設計パラメータ群Xとして取得する(ステップS20)。
【0096】
この段階においては、変数nは(K-1)であるので、ステップS21において、変数(n+1)が、所定の数Kに等しいと判定される。従って、処理はステップS23に進む。
【0097】
ステップS23において、出力部15は、設計パラメータ群取得部14により順次に取得された第1~第Kの推奨設計パラメータ群X,X,…,Xを出力する。
【0098】
このように、推奨設計パラメータ群の取得から目標指向獲得関数の最適化に至るプロセスの所望の回数の繰り返しにより、製品等の作製及び特性の評価を経ずに、所望の数Kの推奨設計パラメータ群を得ることが可能となる。
【0099】
従来の、実験、評価結果のフィードバックの繰り返しによる説明変数及び目的変数の最適化のプロセスでは、1回の実験のための設計変数のレコメンドが得られるので、そのレコメンドに基づく実験及び評価が実施されなければ、次の実験のためのレコメンドが得られない。最適化のプロセスにおいて、目的変数が目標値に達するまで、レコメンドの取得、実験及び評価のプロセスの多くの繰り返しを要する場合には、レコメンドが得られるごとに、その都度に実験及び評価をしなければならず、非効率であった。本実施形態の設計支援処理では、1回の実験及び評価に対して、所与の数Kの推奨設計パラメータ群のレコメンドが得られるので、例えば、K回分の実験を同時に又は並列的に実施できる。従って、説明変数及び目的変数の最適化を効率的に実施できる。
【0100】
再び図2を参照して、設計支援装置10は、指定受付部18を更に備えてもよい。指定受付部18は、第1~第Kの推奨設計パラメータ群のうちの、j個(jは1以上の整数)の前記推奨設計パラメータ群を不採用とすることの指定を受け付ける。具体的には、指定受付部18は、第1~第Kの推奨設計パラメータ群のうちの、不採用とする推奨設計パラメータ群の個数(j個(jは1以上の整数))を受け付けてもよい。また、指定受付部18は、第1~第Kの推奨設計パラメータ群のうちの、不採用とする推奨設計パラメータ群に対する指定入力を受け付けてもよい。
【0101】
指定受付部18は、例えば表示装置への表示等の態様により出力部15により出力された第1~第Kの推奨設計パラメータ群X,X,…,Xに対しての、ユーザによる不採用の指定入力を受け付ける。
【0102】
例えば、ユーザ(例えば、当該材料等作製に関する熟練者)は、提示された第1~第Kの推奨設計パラメータ群X,X,…,Xを参照し、各推奨設計パラメータ群に基づいて作製された材料が、特性項目の目標値を達成しないであろうことを判断した場合に、当該推奨設計パラメータ群を、次回の材料作製において採用しないことを示す指定入力をすることができる。
【0103】
j個の推奨設計パラメータ群を不採用とすることの指定が受け付けられた場合に、設計支援装置10は、不採用とされた推奨設計パラメータ群を含む第1~第Kの推奨設計パラメータ群に基づいて、観測値確率分布の取得、条件付き期待値の取得、予測モデルの再構築、目標指向獲得関数の再構築、及び、推奨設計パラメータ群の取得を更にj回繰り返し実施する。
【0104】
出力部15は、設計パラメータ群取得部14により順次に取得されたj個の推奨設計パラメータ群を第(K+1)~第(K+j)の推奨設計パラメータ群として更に出力する。
【0105】
取得された第1~第Kの推奨設計パラメータ群のうちの、製品等の作製において明らかに好適でない設計パラメータ群の個数(j個)を、例えば当該製品等の技術分野の熟練者による指定で受け付けることができる。指定の受け付けに応じて、観測値確率分布の取得から目標指向獲得関数の最適化に至るプロセスが更にj回繰り返される。そして、得られたK+j個の推奨設計パラメータ群のうち明らかに好適でないj個の設計パラメータ群を除いたK個の設計パラメータ群が次の作製等に採用される。この最適化のプロセスは、明らかに好適でないj個の設計パラメータ群を含むK個の推奨設計パラメータ群のいずれもが目標を達成しなかったという仮定が、再構築される予測モデル及び目標指向獲得関数に反映されるので、特別な処理をすることなく、熟練者等のユーザの知見が反映されることとなる。そして、最適化のプロセスの繰り返しにより、予測モデル及び目標指向獲得関数に、製品等の作製及び特性の評価のノウハウを反映させながら、所望の数の推奨設計パラメータ群を得ることが可能となる。
【0106】
次に、コンピュータを、本実施形態の設計支援装置10として機能させるための設計支援プログラムについて説明する。図10は、設計支援プログラムの構成を示す図である。
【0107】
設計支援プログラムP1は、設計支援装置10における設計支援処理を統括的に制御するメインモジュールm10、データ取得モジュールm11、モデル構築モジュールm12、獲得関数構築モジュールm13、設計パラメータ群取得モジュールm14、出力モジュールm15、観測値確率分布取得モジュールm16、条件付き期待値取得モジュールm17及び指定受付モジュールm18を備えて構成される。そして、各モジュールm11~m18により、データ取得部11、モデル構築部12、獲得関数構築部13、設計パラメータ群取得部14、出力部15、観測値確率分布取得部16、条件付き期待値取得部17及び指定受付部18のための各機能が実現される。
【0108】
なお、設計支援プログラムP1は、通信回線等の伝送媒体を介して伝送される態様であってもよいし、図10に示されるように、記録媒体M1に記憶される態様であってもよい。
【0109】
以上説明した本実施形態の設計支援装置10、設計支援方法及び設計支援プログラムP1によれば、実績データに基づいて予測モデル及び目標指向獲得関数が構築され、目標指向獲得関数の最適化により、推奨設計パラメータ群を得ることができる。第1~nの推奨設計パラメータ群を予測モデルに入力することにより、各特性項目の観測値の確率分布が得られるので、製品等の作製及び特性の評価を行うことなく、第nの推奨設計パラメータ群に基づいて作製される製品等の特性の分布を予測できる。従って、製品等の特性の分布の条件付き期待値を、推奨設計パラメータ群に基づく製品等の特性の観測値とみなすことができる。そして、推奨設計パラメータと条件付き期待値とのペアにより構成される予測実績データを実績データと併せ用いて、予測モデル及び目標指向獲得関数を構築し、目標指向獲得関数の最適化により第(n+1)の推奨設計パラメータ群を得ることが可能となる。従って、推奨設計パラメータ群の取得から目標指向獲得関数の最適化に至るプロセスの所望の回数の繰り返しにより、製品等の作製及び特性の評価を経ずに、所望の数の推奨設計パラメータ群を得ることが可能となる。
【0110】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0111】
本実施形態の設計支援装置10では、条件付き期待値における条件は、少なくとも一つの特性項目が目標値を満たさないことであるとされたが、より詳細に条件が設定されてもよい。例えば、条件付き期待値における条件は、全ての特性項目が目標値を満たさないことであるとされてもよい。また、例えば、条件付き期待値における条件は、特性項目のうちの一部の特性項目が目標値を満たし、残余の特性項目が目標値を満たさないことであるとされてもよい。
【符号の説明】
【0112】
P1…設計支援プログラム、m10…メインモジュール、m11…データ取得モジュール、m12…モデル構築モジュール、m13…獲得関数構築モジュール、m14…設計パラメータ群取得モジュール、m15…出力モジュール、m16…観測値確率分布取得モジュール、m17…条件付き期待値取得モジュール、m18…指定受付モジュール、10…設計支援装置、11…データ取得部、12…モデル構築部、13…獲得関数構築部、14…設計パラメータ群取得部、15…出力部、16…観測値確率分布取得部、17…条件付き期待値取得部、18…指定受付部、21…設計パラメータ記憶部、22…観測値記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10