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特開2024-116719化合物、組成物、膜、積層体および表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116719
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】化合物、組成物、膜、積層体および表示装置
(51)【国際特許分類】
   C07D 513/04 20060101AFI20240821BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240821BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240821BHJP
   C08K 5/46 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C07D513/04 301
C07D513/04 CSP
G02B5/30
C08L33/04
C08K5/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022496
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】淺野(大瀧) 雅士
(72)【発明者】
【氏名】吉川 栄二
【テーマコード(参考)】
2H149
4C072
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AA19
2H149AB04
2H149AB13
2H149BA02
2H149BA12
2H149FA02X
2H149FA03W
2H149FA28W
2H149FA42Z
2H149FA58W
4C072AA01
4C072BB02
4C072CC01
4C072CC17
4C072EE13
4C072FF19
4C072GG08
4C072HH02
4C072UU05
4J002BG03W
4J002EV316
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】波長460nm付近における偏光膜の透過率の経時的な低下を抑制でき、耐熱性が高い化合物を提供する。
【解決手段】LUMOのエネルギー準位が-2.64eV以上-2.20eV以下であり、550nm以上650nm以下の波長範囲に溶液中における吸収極大波長を有し、前記吸収極大波長における吸光度で規格化された波長425nmにおける相対吸光度が0.1以下である化合物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LUMOのエネルギー準位が-2.64eV以上-2.20eV以下であり、550nm以上650nm以下の波長範囲に溶液中における吸収極大波長を有し、前記吸収極大波長における吸光度で規格化された波長425nmにおける相対吸光度が0.1以下である化合物。
【請求項2】
LUMOのエネルギー準位が-2.63eV以上-2.30eV以下である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
3または4個の芳香環基が、少なくとも1つのアゾ基を含む2価の連結基および1以下の単結合で連結される直鎖状構造を有し、両末端の芳香環基の少なくとも一方は置換基を有してもよいアミノ基で置換され、前記芳香環基の少なくとも1つは2個の含硫黄芳香環が縮合してなる構造を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
下記式(1)で表される構造を有する請求項1に記載の化合物。
【化1】
[式(1)中、Ar、ArおよびArは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基または2価の複素環基を表し、Ar、ArおよびArのうち少なくとも1つは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなり、置換基を有していてもよい2価の複素環基を表す。Xは、-CH=CH-、-C≡C-、-N=N-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-N=CH-、および-CH=N-からなる群から選択される少なくとも1種の2価の連結基、または単結合を表す。Rは、メチレン基(-CH-)、酸素原子(-O-)、硫黄原子(-S-)およびカルボニル基(-C(=O)-)からなる群から選択される少なくとも1種から形成される2価の基の一端にRもしくは水素原子が結合してなる1価の基、またはRおよびRが結合したアミノ基を表す。R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Rを置換基として有してもよい脂肪族基もしくはアリール基、または水素原子を表し、RとRの組合せ、およびRとRの組合せの少なくとも一方の組合せは、互いに連結して脂肪族環を形成していてもよく、R、R、RまたはRで表されるアルキル基を構成するメチレン基の一部が酸素原子またはカルボニル基に置換されていてもよい。RおよびRは、それぞれ独立に、重合性基を有していてもよいオルガノシリルオキシ基または重合性基を表す。kは1または2を表し、kが2の場合、2つのArはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。]
【請求項5】
前記式(1)中、ArおよびArは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、1,4-フェニレン基または2価の複素環基を表し、ArおよびArのうち少なくとも1つは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなり、置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、Arは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基を表す請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記式(1)中、Xは、-CH=CH-、-C≡C-または-N=N-を表す請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
前記式(1)中、Arは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、Arは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなり、置換基を有していてもよい2価の複素環基を表す請求項4に記載の化合物。
【請求項8】
前記式(1)中、Arは、置換基を有していてもよいチエノ[3,2-d]チアゾールジイル基またはチエノ[3,2-d]チオフェンジイル基を表す、請求項4に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の化合物と、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の少なくとも1種を含む液晶性化合物と、を含む組成物。
【請求項10】
前記液晶性化合物がスメクチック液晶性化合物である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項9に記載の組成物を形成材料とする膜。
【請求項12】
請求項11に記載の膜を備える積層体。
【請求項13】
請求項12に記載の積層体を備える表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、組成物、膜、積層体および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などに用いられる偏光膜(光学フィルム)として、二色性色素を含む組成物からなる偏光膜が知られている。このような二色性色素として例えば、特許文献1にはチエノチアゾールジイル基を含むアゾ色素が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-048311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるような二色性色素を用いて作製した偏光膜を100℃程度の高温環境下で使用すると、二色性色素の最大吸収波長における吸光度が経時的に低下する場合があった。また特定の二色性色素を用いて作製した偏光膜は、波長460nm付近における透過率が低い場合があった。本発明の目的は、耐熱性が高く、波長460nm付近における偏光膜の透過率を高くすることができる化合物、それを含む組成物、その組成物から形成される膜、その膜を備える積層体およびその積層体を備える表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は下記[1]から[10]を提供する。
[1] LUMOのエネルギー準位が-2.64eV以上-2.20eV以下であり、550nm以上650nm以下の波長範囲に溶液中における吸収極大波長を有し、前記吸収極大波長における吸光度で規格化された波長425nmにおける相対吸光度が0.1以下である化合物。
[2] LUMOのエネルギー準位が-2.63eV以上-2.30eV以下である[1]に記載の化合物。
[3] 3または4個の芳香環基が、少なくとも1つのアゾ基を含む2価の連結基および1以下の単結合で連結される直鎖状構造を有し、両末端の芳香環基の少なくとも一方は置換基を有してもよいアミノ基で置換され、前記芳香環基の少なくとも1つは2個の含硫黄芳香環が縮合してなる構造を有する[1]または[2]に記載の化合物。
[4] 下記式(1)で表される構造を有する[1]から[3]のいずれかに記載の化合物。
【化1】
[式(1)中、Ar、ArおよびArは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基または2価の複素環基を表し、Ar、ArおよびArのうち少なくとも1つは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなり、置換基を有していてもよい2価の複素環基を表す。Xは、-CH=CH-、-C≡C-、-N=N-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-N=CH-および-CH=N-からなる群から選択される少なくとも1種の2価の連結基、または単結合を表す。Rは、アルキレン基、酸素原子(-O-)、硫黄原子(-S-)およびカルボニル基(-C(=O)-)からなる群から選択される少なくとも1種から形成される2価の基の一端にRもしくは水素原子が結合してなる1価の基、またはRおよびRが結合したアミノ基を表す。R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Rを置換基として有してもよい脂肪族基もしくはアリール基、または水素原子を表し、RとRの組合せ、およびRとRの組合せの少なくとも一方の組合せは、互いに連結して脂肪族環を形成していてもよく、R、R、RまたはRで表されるアルキル基を構成するメチレン基の一部が酸素原子またはカルボニル基に置換されていてもよい。RおよびRは、それぞれ独立に、重合性基を有していてもよいオルガノシリルオキシ基または重合性基を表す。kは1または2を表し、kが2の場合、2つのArはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。]
[5] 前記式(1)中、ArおよびArは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、1,4-フェニレン基または2価の複素環基を表し、ArおよびArのうち少なくとも1つは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなり、置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、Arは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基を表す[[4]に記載の化合物。
[6] 前記式(1)中、Xは、-CH=CH-、-C≡C-または-N=N-を表す[4]または[5]に記載の化合物。
[7] 前記式(1)中、Arは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、Arは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなり、置換基を有していてもよい2価の複素環基を表す[4]から[6]のいずれかに記載の化合物。
[8] 前記式(1)中、Arは、置換基を有していてもよいチエノ[3,2-d]チアゾールジイル基またはチエノ[3,2-d]チオフェンジイル基を表し、kが1である[4]から[7]のいずれかに記載の化合物。
[9] [1]から[8]のいずれかに記載の化合物と、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の少なくとも1種を含む液晶性化合物と、を含む組成物。
[10] 前記液晶性化合物がスメクチック液晶性化合物である[9]に記載の組成物。
[11] [9]又は[10]に記載の組成物を形成材料とする膜。
[12] [11]に記載の膜を備える積層体。
[13] [12]に記載の積層体を備える表示装置。
【発明の効果】
【0006】
発明によれば、耐熱性が高く、波長460nm付近における偏光膜の透過率を高くすることができる化合物、それを含む組成物、その組成物から形成される膜、その膜を備える積層体およびその積層体を備える表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0008】
化合物
本発明の一実施形態にかかる化合物は、LUMOのエネルギー準位が-2.64eV以上-2.20eV以下であり、550nm以上650nm以下の波長範囲に溶液中における吸収極大波長を有し、前記吸収極大波長における吸光度で規格化された波長425nmにおける相対吸光度が0.1以下である。化合物の溶液中における吸収極大波長の波長範囲は、例えば550nm以上559nm以下でもよく、560nm以上579nm以下でもよく、580nm以上599nm以下でもよく、600nm以上619nm以下でもよく、620nm以上639nm以下でもよく、640nm以上650nm以下でもよい。この数値範囲内の全ての値もサポートされている。化合物は、例えば二色性色素化合物であってよく、偏光膜の形成材料として用いられてよい。化合物は、LUMOのエネルギー準位が特定の範囲であって、波長425nmにおける吸光度が小さくなるように構成されていることで、耐熱性が高く、また当該化合物を含む偏光膜は、波長460nm付近における透過率が高い。これは例えば以下のように考えることができる。化合物はLUMOのエネルギー準位が特定の範囲であることで、100℃程度の環境下において、高い耐熱性を示すことができる。これは例えば、100℃程度の環境下における化合物の分解反応が還元的であると推定されるところ、化合物のLUMOのエネルギー準位が特定の範囲にあることで、還元的な分解反応が抑制されるためと考えることができる。また、化合物は波長425nmにおける吸光度が小さくなるように構成されていることで、当該化合物を用いて作製した偏光膜は、吸収スペクトルにおいて波長460nm付近にサブピークを示さないため、結果的に460nm付近における透過率が高い偏光膜を得ることができると考えることができる。
【0009】
化合物のLUMOのエネルギー準位は、好ましくは-2.63eV以上、-2.60eV以上、または-2.55eV以上であってよく、また好ましくは-2.25eV以下、または-2.30eV以下であってよい。ここでLUMOのエネルギー準位は、密度汎関数法(DFT法)によって算出される。具体的には、ソフトウェアGaussian16を用い、汎関数としてB3LYP、規定関数として6-31G(d)を用いる密度汎関数法によってLUMOのエネルギー準位が算出される。は、LUMOのエネルギー準位が-2.64eV以上-2.20eV以下であってよい。式(1)で表される化合物は、2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基を分子内に有し、LUMOのエネルギー準位が特定の範囲にあることで、
【0010】
また、一実施形態において化合物は、3または4個の芳香環基が、少なくとも1つのアゾ基を含む2価の連結基および1以下の単結合で連結される直鎖状構造を有していてよい。化合物は、好ましくは芳香環基の少なくとも1つが2個の含硫黄芳香環が縮合してなる構造を有していてよく、両末端の芳香環基の少なくとも一方は置換基を有してもよいアミノ基で置換されていてよい。
【0011】
化合物において、芳香環基は、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、置換基を有していてもよい1,4-ナフチレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基であってよい。複素環基の詳細については後述する。芳香環基を連結する連結基は、少なくとも1つのアゾ基(-N=N-)を含み、-CH=CH-、-C≡C-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-N=CH-および-CH=N-からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでいてよく、好ましくは-CH=CH-または-C≡C-を含んでいてよい。
【0012】
化合物を構成する芳香環基のうち、末端に位置するアミノ基が置換する芳香環基は1,4-フェニレン基であってよい。アミノ基が置換する芳香環基はアゾ基を介して、2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基と結合していてよい。複素環基は、連結基、好ましくは-CH=CH-または-C≡C-を介して1,4-フェニレン基または複素環基と結合していてよい。アミノ基が置換する芳香環基とは反対側の末端の芳香環基は、アミノ基またはアミノ基以外の置換基を有していてよい。アミノ基以外の置換基は、メチレン基、酸素原子、硫黄原子およびカルボニル基からなる群から選択される少なくとも1種から形成される2価の基の一端に水素原子、重合性基または重合性基で置換されてもよいオルガノシリル基が結合してなる置換基であってよい。
【0013】
さらに一実施形態において化合物は、下記式(1)で表される構造を有していてよい。式(1)で表される化合物は、2個の含硫黄芳香環が縮合してなる2価の芳香族縮合複素環基を分子内に有し、Xが特定の連結基又は単結合であることで、当該化合物を含む偏光膜において、波長460nm付近における透過率を高くすることができる。これは例えば、当該化合物は、耐熱性が高く、さらに偏光膜を形成する場合に、吸収スペクトルにおいて波長460nm付近にサブピークを示さないためと考えることができる。
【0014】
【化2】
【0015】
式(1)中、Ar、ArおよびArは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、置換基を有していてもよい1,4-ナフチレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表す。Ar、ArまたはArで表される2価の複素環基は、例えば含硫黄複素環基を含んでいてよく、含硫黄複素環を含む縮合複素環基を含んでいてよい。また、2価の複素環基は2個の含硫黄芳香環が縮合してなる2価の複素環基であってもよい。Ar、ArまたはArで表される2価の複素環基は、複素環化合物から2個の水素原子を取り除いて構成される。複素環化合物としては、例えばチオフェン、チアゾール、フラン等の5員の芳香族複素環化合物、該芳香族複素環化合物が他の芳香族複素環化合物又は芳香族炭化水素化合物と縮合して形成される芳香族縮合複素環化合物等が挙げられる。複素環化合物として具体的には、チオフェン、チアゾール、フラン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、チエノチアゾール、チアゾロチアゾール、フラノチアゾール、ベンゾチアゾール等が挙げられる。ArまたはArで表される2価の複素環基として具体的には、チオフェンジイル基、チアゾールジイル基、ジチエノ[3,2-b;2’,3’-d]チオフェンジイル基、チエノ[3,2-d]チアゾールジイル基、チエノ[3,2-d]チオフェンジイル基、チアゾロ[5,4-d]チアゾールジイル基、フラノ[3,2-d]チアゾールジイル基、ベンゾチアゾールジイル基等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0016】
Ar、ArおよびArのうち少なくとも1つは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基であって、置換基を有していてもよい2価の複素環基を表す。2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基は、例えば5員の含硫黄芳香族複素環化合物が2個縮合した芳香族縮合複素環化合物から2個の水素原子を取り除いて構成されてよい。5員の含硫黄芳香族複素環化合物としては、例えばチオフェン、チアゾール等が挙げられる。2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基として具体的には、例えばチエノ[3,2-d]チアゾールジイル基、チエノ[3,2-d]チオフェンジイル基、チアゾロ[5,4-d]チアゾールジイル基等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基は、好ましくはチエノ[3,2-d]チアゾールジイル基およびチエノ[3,2-d]チオフェンジイル基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0017】
ArおよびArは好ましくは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表してよい。ArおよびArのうち少なくとも1つは、置換基を有していてもよい2価の複素環基であってよく、2個の含硫黄芳香環が縮合してなり、置換基を有していてもよい2価の複素環基であってよい。Arはより好ましくは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなり、置換基を有していてもよい2価の複素環基であってよく、置換基を有していてもよいチエノ[3,2-d]チアゾールジイル基、置換基を有していてもよいチエノ[3,2-d]チオフェンジイル基、または置換基を有していてもよいチアゾロ[5,4-d]チアゾールジイル基であってよく、置換基を有していてもよいチエノ[3,2-d]チアゾールジイル基、または置換基を有していてもよいチエノ[3,2-d]チオフェンジイル基であってよい。
【0018】
Arは好ましくは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、または置換基を有していてもよい1,4-ナフチレン基であってよく、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基であってよい。
【0019】
Ar、ArおよびArにおける置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1から3のアルキル基および炭素数1から3のアルコキシ基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、好ましくはハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基およびメトキシ基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、より好ましくはフッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、メチル基およびメトキシ基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。Ar、ArおよびArにおける置換基数は、それぞれ独立に、例えば0、1または2であってよく、好ましくは0または1であってよい。
【0020】
kは1または2であり、好ましくは1であってよい。kが2の場合、2つのArはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0021】
Xは、-CH=CH-、-C≡C-、-N=N-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-N=CH-、および-CH=N-からなる群から選択される少なくとも1種の連結基、または単結合を表す。Xは、好ましくは-CH=CH-、-C≡C-または-N=N-を表してよい。Xが幾何異性を形成する連結基である場合、Xが形成する幾何異性はE型であってよい。Xが特定の構造を有する連結基であるか、または単結合であることで、化合物として優れた二色性を維持しつつ、耐熱性に優れ、偏光膜を形成する場合に波長460nm付近における吸収が抑制される色素とすることができる。
【0022】
は、アルキレン基、酸素原子(-O-)、硫黄原子(-S-)およびカルボニル基(-C(=O)-)からなる群から選択される少なくとも1種から形成される2価の基Lの一端にRもしくは水素原子が結合してなる1価の基、またはRおよびRが結合したアミノ基を表す。すなわちRは下記式(2a)、(2b)または(3)で表される1価の基であってよい。
【0023】
【化3】
【0024】
Lで表される2価の基は、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子およびカルボニル基からなる群から選択される少なくとも1種から形成される。Lで表される2価の基は、化合物の安定性の観点から、酸素-酸素結合、硫黄-硫黄結合または酸素-硫黄結合を含まないように選択されることが好ましい。Lを構成するアルキレン基は、炭素数が例えば1から20であってよく、好ましくは16以下であってよい。また、Lを構成するアルキレン基は、直鎖状または分岐鎖状であってよく、環状アルキレン基と直鎖状または分岐鎖状アルキレン基との組合せであってもよい。Lが複数のアルキレン基を含む場合、それらは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。Lで表される2価の基として具体的には、炭素数1から20のアルキレン基、炭素数1から20のアルキレンオキシ基、炭素数1から20のアルキレンオキシカルボニル基、炭素数1から20のアルキレンカルボニルオキシ基、炭素数1から20のアルキレンカルボニル基等が挙げられる。
【0025】
は、重合性基を有していてもよいオルガノシリルオキシ基または重合性基を表す。重合性基として具体的には、(メタ)アクリレート基((メタ)アクリロイルオキシ基)、(メタ)アクリロイル基、ビニルフェニル基、ビニル基、エポキシ基等を挙げることができる。重合性基は、例えばラジカル重合性基であってよく、好ましくは(メタ)アクリレート基であってよい。
【0026】
オルガノシリルオキシ基には、例えばトリアルキルシリルオキシ基、ジアルキルアリールシリルオキシ基、アルキルジアリールシリルオキシ基等が含まれる。
【0027】
オルガノシリルオキシ基におけるアルキル基の炭素数は、例えば1から12であってよく、好ましくは1から6であってよい。オルガノシリルオキシ基におけるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、t-ブチル基、ジメチルプロピル基、2,3-ジメチルブタン-2-イル基等が挙げられる。オルガノシリルオキシ基におけるアリール基の炭素数は、例えば6から18であってよく、好ましくは6から10、または6であってよい。オルガノシリルオキシ基におけるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。Rで表されるオルガノシリルオキシ基は重合性基を有していてよい。Rで表されるオルガノシリルオキシ基が重合性基を有する場合、重合性基の総数は、例えば1または2であってよく、好ましくは1であってよい。
【0028】
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Rを置換基として有してもよい脂肪族基もしくはアリール基、または水素原子を表す。R、R、RまたはRで表される脂肪族基の炭素数は、例えば1から20であってよく、好ましくは1から12、または1から6であってよい。脂肪族基はアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基であってよく、好ましくはアルキル基であってよい。脂肪族基は、直鎖状または分岐鎖状であってよく、環状脂肪族基と直鎖状または分岐鎖状脂肪族基との組合せであってもよい。R、R、RまたはRで表されるアルキル基の炭素数は、例えば1から20であってよく、好ましくは1から12、または1から6であってよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、エチルブチル基、エチルへキシル基、へキシルドデシル基等が挙げられる。R、R、RまたはRで表されるアリール基の炭素数は6から10であってよく、好ましくは6であってよい。
【0029】
は、重合性基を有していてもよいオルガノシリルオキシ基または重合性基を表す。Rの詳細はRと同様である。R、R、RまたはRが、Rを置換基として有する場合、Rの置換数は、例えば1または2であってよく、好ましくは1であってよい。
【0030】
とRの組合せ、およびRとRの組合せの少なくとも一方の組合せは、互いに連結して窒素原子と共に環状アミノ基を形成してもよく、形成される環状アミノ基は脂環式アミノ基であってよい。また形成される環状アミノ基を構成するメチレン基の少なくとも1つは酸素原子またはカルボニル基に置換されていてもよい。形成される環状アミノ基の員数は、例えば5員または6員であってよい。Rと窒素原子とR、またはRと窒素原子とRとから形成される環状アミノ基の具体例としては、ピロリジル基、ピペリジル基、モルホリニル基、オキサゾリジニル基、ピペラジル基、N-メチルピペラジニル基、2―オキソ‐3-オキサゾリジニル基等が挙げられる。
【0031】
、Rおよび窒素原子から形成されるアミノ基、並びにR、Rおよび窒素原子から形成されるアミノ基のうち少なくとも一方は、アルキルアミノ基であってよい。アルキルアミノ基は、モノアルキルアミノ基またはジアルキルアミノ基であってよく、好ましくはジアルキルアミノ基であってよい。ジアルキルアミノ基は、好ましくは、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ブチルメチル基、ブチルエチル基、ピロリジル基、ピペリジル基、モルホリニル基、オキサゾリジニル基、ピペラジル基、N-メチルピペラジニル基および2―オキソ‐3-オキサゾリジニル基からなる群から選択される少なくとも1種であってよく、またはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ブチルメチル基、ブチルエチル基、ピロリジル基、ピペリジル基、モルホリニル基およびオキサゾリジニル基からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0032】
およびRで表される2つの基の組み合わせと、RおよびRで表される2つの基の組み合わせは同一であっても異なっていてもよく、好ましくは異なっていてよい。すなわち、R、Rおよび窒素原子から形成されるアミノ基、並びにR、Rおよび窒素原子から形成されるアミノ基は、同一であっても異なっていてもよく、好ましくは異なっていてよい。式(1)で表される化合物の両端に位置する2個のアミノ基が非対称であることで、優れた二色比(DR)と優れた溶解性を両立することができる。
【0033】
式(1)で表される化合物の具体例としては、以下の式(1-1)から式(1-49)で表される化合物を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
【化4】
【0035】
【化5】
【0036】
式(1)で表される化合物は、二色性の観点から、式(1-1)から式(1-45)のいずれかで表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、式(1-1)から式(1―22)、式(1-26)から式(1-42)のいずれかで表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、式(1-1)から式(1―14)、式(1-26)から式(1-34)のいずれかで表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0037】
化合物の製造方法
式(1)で表される化合物は、従来公知の合成方法を適宜適用することで製造することができる。具体的に、式(1)で表される化合物の原料となり得る2-アミノチオフェンは文献記載(Journal of Medicinal Chemistry、2005年、第48巻、5794ページ)の方法に従い、2-ニトロチオフェン(和光純薬製)より合成することができる(反応a)。
【0038】
式(1)で表される化合物における、2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基の1例であるチアゾール環を有する2価の5員環縮合部位は、アミノ基を有する前駆体(例えば前記2-アミノチオフェン)と、チオシアン酸塩、および臭素を用いて、酢酸等の溶媒下、一般的なチアゾール環化反応の条件を適用することで合成することができる(反応b)。チアゾール環化反応の条件は、例えば、国際公開第2017/090668号の第0065段落から第0076段落の製造例の記載、Stuckwisch、C.g.;J. Am. Chem. Soc. 1949、71、3417、Ismail、i.A.;Sharp、d.E.;Chedekel、M.R.;J.Org.Chem.1980、45、2243等を参照することができる。
【0039】
式(1)で表される化合物における、2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基の1例であるチアゾール環を有する2価の5員環縮合部位に対するブロモ化は、アミノ基を有する前駆体と、N-ブロモスクシンイミドを用いて、酸等の溶媒下、一般的なブロモ化反応の条件を適用することで合成することができる(反応c)。ブロモ化反応の条件は、例えば、国際公開第2022/006543号の351ページの製造例49の記載等を参照することができる。
【0040】
式(1)で表される化合物におけるアゾ構造(-N=N-)は、1級アミノ基を有する芳香族アミン化合物を亜硝酸ナトリウム、ニトロシル硫酸などでジアゾニウム塩に変換(反応d-1)し、芳香族化合物とジアゾカップリングさせることで構築することができる(反応d-2)。ここで、亜硝酸ナトリウムによるジアゾニウム塩への変換は、例えば、国際公開第2016/136561号の第0220段落から第0268段落の製造例の記載等を参考にすることができる。また、ニトロシル硫酸によるジアゾニウム塩への変換は、例えば、特開2009-215442号公報の第0017段落から第0034段落の製造例の記載等を参考にすることができる。
【0041】
式(1)で表される化合物におけるアセチレン構造(-C≡C-)は、アセチレン基を有する芳香族化合物と、例えばブロモ基などのハロゲン基を有する芳香族化合物に、触媒として0価のパラジウム錯体、助触媒として銅(I)のハロゲン化物、および塩基性化合物を用いて、テトラヒドロフラン等の溶媒下、一般的な薗頭・萩原クロスカップリング法の条件を適用することで合成できる(反応e)。薗頭・萩原クロスカップリング法の条件は、Li、C.C.;J. Org. Chem. 2003、68、8500-8504、Chinchilla、R. ;Chem. Soc. Rev. 2011、40、5084-5121等を参照することができる。
【0042】
式(1)で表される化合物におけるビニレン構造(-C=C-)は、ビニレン基を有する芳香族化合物と、例えばブロモ基などのハロゲン基を有する芳香族化合物に、触媒として0価のパラジウム錯体、ホスフィン配位子、および塩基性化合物を用いて、テトラヒドロフラン等の溶媒下、一般的な溝呂木・ヘック反応の条件を適用することで合成できる(反応f)。溝呂木・ヘック反応の条件は、Dieck、H.A.;J. Org. Chem. 1975、40、1083、Fox、M.E.;J. Am. Chem. Soc. 1999、121、5467等を参照することができる。
【0043】
式(1)で表される化合物の具体的な製造方法について説明する。以下の化学式におけるAr、Ar、Ar、R、RおよびRの定義は、式(1)におけるAr、Ar、Ar、R、RおよびRとそれぞれと同義である。また、Ar2aは、5員の含硫黄芳香族複素環の1例であるチエニル基を表し、Arは、2個の含硫黄芳香環が縮合してなる複素環基の1例であるチエノチアゾールジイル基を表す。まず、式(1T)で表される化合物(以下、化合物(1T)ともいう)から、反応aによって式(1U)で表されるアミノ基を有する化合物(以下、化合物(1U)ともいう)を合成する。
【0044】
【化6】
【0045】
続いて、化合物(1U)から、反応bによって式(1V)で表されるアミノ基を有する化合物(以下、化合物(1V)ともいう)を合成する。
【0046】
【化7】
【0047】
続いて、化合物(1V)から、反応cによって式(1W)で表されるブロモ化した化合物(以下、化合物(1W)ともいう)を合成する。
【0048】
【化8】
【0049】
続いて、化合物(1W)から、反応d-1によって式(1X)で表されるジアゾニウム塩(以下、化合物(1X)ともいう)を合成する。
【0050】
【化9】
【0051】
化合物(1X)と芳香族アミン化合物とを、反応d-2を経由して反応させることでアゾ構造が形成される。すなわち、化合物(1X)から、反応d-2を経由して式(1Y)で表される化合物(以下、化合物(1Y)ともいう)を合成する。
【0052】
【化10】
【0053】
化合物(1W)から化合物(1Y)への合成工程と同様の合成工程は、二回繰り返してもよい。これにより式(1Y’)で表される化合物(以下、化合物(1Y’)ともいう)のうち、p=1である化合物(1Y)もしくは、p=2である化合物を製造することができる。なお、化合物(1Y’)において、Arが複数存在する場合、Arは同一でも異なっていてもよい。
【0054】
具体的には、化合物(1X)に対して、Arを有する芳香族第一級アミン化合物を、反応d-2を経由して反応させて、アゾ構造を形成する。すなわち、化合物(1X)から、反応d-2を経由して式(1Z)で表される化合物(以下、化合物(1Z)ともいう)を合成する。さらに、化合物(1Z)のジアゾニウム塩を反応d-1によって調製し、Ar3を有する芳香族アミン化合物を、もう一度反応d-2を経由して反応させて、ビスアゾ構造を形成する。すなわち、化合物(1Z)から反応d-1および反応d-2を経由して化合物(1Y’)を合成する
【0055】
【化11】
【0056】
化合物(1Y’)とアセチレン基を有する芳香族化合物から、反応eを経由することで、式(1a)で表される化合物(以下、化合物(1a)ともいう)を製造することができる。化合物(1a)は、式(1)で表される化合物のうち、Xがアセチレン基(―C≡C―)である構造である。製造された式(1a)で表される化合物に対しては、R、RまたはRにさらに置換基を導入することができる。
【0057】
【化12】
【0058】
化合物(1Y’)とビニレン基を有する芳香族化合物から、反応fを経由することで、式(1b)で表される化合物(以下、化合物(1b)ともいう)を製造することができる。化合物(1b)は、式(1)で表される化合物のうち、Xがビニレン基(―C=C―)で置換された構造である。製造された式(1b)で表される化合物に対しては、R、RまたはRにさらに置換基を導入することができる。
【0059】
【化13】
【0060】
式(1)で表される化合物の製造方法における反応時間は、反応途中の反応混合物を適宜サンプリングし、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどの公知の分析手段により、原料化合物の消失の度合い、式(1)で表される化合物の生成の度合いなどを確認して定めることもできる。
【0061】
反応後の反応混合物からは、再結晶、再沈殿、抽出および各種クロマトグラフィーといった公知の方法により、或いはこれらの操作を適宜組み合わせることにより、式(1)で表される化合物を取り出すことができる。
【0062】
二色性色素
二色性色素は、式(1)で表される化合物を有効成分として含む。二色性色素は式(1)で表される化合物を含むことで、耐熱性に優れ、かつ青色光源波長460nmにおける透過率の高い偏光膜を形成することができる。二色性色素は、式(1)で表される化合物のうち、構造の異なる2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。二色性色素が2種以上の式(1)で表される化合物を含む場合、それらは互いに異なる極大吸収波長を有していてもよい。また、二色性色素は、式(1)で表される化合物に加えてそれ以外のその他の色素化合物を含んでいてもよい。
【0063】
組成物
本実施形態の組成物は、式(1)で表される化合物の少なくとも1種と、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の少なくとも1種を含む液晶性化合物と、を含む。組成物は、例えば偏光膜の形成材料として用いられる。すなわち組成物は、偏光膜形成用組成物であってよい。組成物を形成材料として得られる偏光膜は、耐熱性に優れ、かつ青色光源波長460nmにおける透過率の高い高品質な偏光膜である。組成物は二色性色素として式(1)で表される化合物を含むことで、耐熱性に優れ、かつ青色光源波長460nmにおける透過率の高い偏光膜を形成することができる。
【0064】
組成物における、式(1)で表される化合物の含有量は、組成物の固形分100質量部に対して、例えば50質量部以下であってよく、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下、または0.1質量部以上5質量部以下であってよい。上記範囲内であれば、式(1)で表される化合物の分散が十分に可能になる。なお、本明細書において、固形分とは、組成物から溶剤等の揮発性成分を除いた成分の合計量をいう。組成物は、式(1)で表される化合物を1種のみで含んでいてもよく、構造の異なる2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。組成物が2種以上の化合物を含む場合、それらは互いに異なる極大吸収波長を有していてもよい。
【0065】
組成物は、式(1)で表される化合物以外のその他の色素化合物、例えば二色性色素の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。その他の色素化合物としては、例えば、モノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素、テトラキスアゾ色素、スチルベンアゾ色素などのアゾ色素を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。組成物は、その他の色素化合物を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。例えば塗布型偏光板材料として用いる場合では、組成物が含むその他の色素化合物は、式(1)で表される化合物とは異なる波長範囲に極大吸収波長を有することが好ましい。例えば塗布型偏光板材料として用いる場合では、組成物は、式(1)で表される化合物を含めて、3種類以上の二色性色素を組み合わせて含むことが好ましく、3種類以上のアゾ色素を組み合わせて含むことがより好ましい。組成物が極大吸収波長の異なる3種以上の色素化合物を組み合わせて含むことで、例えば、組成物から形成される膜によって可視光全域で吸収を得ることができる。
【0066】
組成物が、その他の色素化合物を含む場合、その含有量は、組成物の固形分100質量部に対して、例えば50質量部以下であってよく、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下、または0.1質量部以上5質量部以下であってよい。上記範囲内であれば、その他の色素化合物の分散が十分に可能になる。
【0067】
組成物は、式(1)で表される化合物に加えて、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の少なくとも1種を含む液晶性化合物を含む。組成物は、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の両方を含んでいてもよく、組成物に含まれる重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物は、それぞれ2種以上であってもよい。組成物が重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の少なくとも1種を含むことで、式(1)で表される化合物が液晶性化合物に分散した組成物を構成することができる。
【0068】
液晶性の高分子化合物は、サーモトロピック液晶型ポリマーを構成するものであってもよいし、リオトロピック液晶型ポリマーを構成するものであってもよい。液晶性の高分子化合物は、緻密な膜厚制御が可能な点で、サーモトロピック液晶型ポリマーを構成するものであることが好ましい。
【0069】
液晶の分類としては、液晶状態での分子配列の構造により、スメクチック液晶、ネマチック液晶、コレステリック液晶に分類される。なかでも偏光膜用途においてはスメクチック液晶が好ましく用いられる。したがって、重合性液晶化合物は、重合性スメクチック液晶化合物であることが好ましく、液晶性の高分子化合物は、スメクチック液晶性の高分子化合物であることが好ましい。
【0070】
スメクチック液晶性を示す重合性液晶化合物およびスメクチック液晶性を示す高分子化合物を用いることにより、配向秩序度の高い偏光膜を形成することができる。重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の示す液晶状態は、好ましくはスメクチック相(スメクチック液晶状態)であり、より高い配向秩序度を実現し得る観点から、高次スメクチック相(高次スメクチック液晶状態)であることがより好ましい。ここで、高次スメクチック相とは、スメクチックB相、スメクチックD相、スメクチックE相、スメクチックF相、スメクチックG相、スメクチックH相、スメクチックI相、スメクチックJ相、スメクチックK相およびスメクチックL相を意味し、これらの中でも、スメクチックB相、スメクチックF相およびスメクチックI相がより好ましい。配向秩序度の高い偏光膜は、X線回折測定においてヘキサチック相、クリスタル相といった高次構造由来のブラッグピークが得られる。ブラッグピークとは、分子配向の面周期構造に由来するピークを意味する。組成物から得られる偏光膜が有する周期間隔(秩序周期)は、好ましくは0.3nm以上0.6nm以下である。重合性液晶化合物または液晶性の高分子化合物は、X線回折測定において高次構造由来のブラッグピークを示す、重合性スメクチック液晶化合物またはスメクチック液晶性の高分子化合物であってよい。
【0071】
式(1)で表される化合物は、スメクチック液晶性の重合性液晶化合物およびスメクチック液晶性の高分子化合物の少なくとも1種の化合物から形成された、密な分子鎖間に分散した状態であっても、高い二色性を示すことができる。従って、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の少なくとも1種を含む液晶性化合物、特にスメクチック液晶性の重合性液晶化合物およびスメクチック液晶性の高分子化合物の少なくとも1種を含む液晶性化合物と、式(1)で表される化合物を含む組成物は、耐熱性に優れ、青色光源波長460nmにおける透過率が高く、かつ二色比の高い偏光膜を与えることができる。
【0072】
重合性液晶化合物とは、分子内に少なくとも1つの重合性基を有し、配向することによって液晶相を示すことができる化合物である。重合性液晶化合物は、好ましくは単独で配向することによって液晶相を示すことができる化合物である。重合性基とは、重合反応に関与し得る官能基を意味し、ラジカル重合性基であることが好ましい。重合性液晶化合物として具体的には、例えば特開2022-088325号公報の第0062段落から第0079段落に記載の重合性液晶化合物を用いることができる。
【0073】
また、液晶性の高分子化合物としては、例えば特開2022-088325号公報の第0080段落から第0085段落に記載の液晶性の高分子化合物を用いることができる。
【0074】
組成物における重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の合計含有割合は、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の配向性を高くするという観点から、組成物の固形分100質量部に対して、例えば50質量部以上であってよく、好ましくは70質量部以上99.9質量部以下、70質量部以上99.5質量部以下、80質量部以上99質量部以下、80質量部以上94質量部以下、または80質量部以上90質量部以下であってよい。
【0075】
組成物における式(1)で表される化合物の含有量は、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の合計量100質量部に対して、例えば0.1質量部以上50質量部以下であってよく、好ましくは0.1質量部以上20質量部以下、0.1質量部以上10質量部以下、または0.1質量部以上、5質量部以下であってよい。重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の合計量に対する式(1)で表される化合物の含有量が50質量部以下であると、重合性液晶化合物、液晶性の高分子化合物および式(1)で表される化合物の配向の乱れが少なく、高い配向秩序度を有する偏光膜を得ることができる傾向がある。
【0076】
組成物は、式(1)で表される化合物および液晶性化合物に加えて、高分子化合物を更に含んでいてもよい。高分子化合物としては、例えば特開2022-088325号公報の第0089段落から第0090段落に記載の高分子化合物を用いることができる。
【0077】
組成物は、溶剤等の液媒体および重合開始剤をさらに含み、必要に応じて光増感剤、重合禁止剤、レベリング剤等をさらに含んでいてもよい。溶剤としては、例えば特開2022-088325号公報の第0092段落から第0094段落に記載の溶剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば同公報の第0095段落から第0097段落に記載の重合開始剤を、記載された組成物に対する含有量で用いることができる。光増感剤としては、例えば同号公報の第0098から第0099段落に記載の光増感剤を、記載された組成物に対する含有量で用いることができる。重合禁止剤としては、例えば同公報の第0100段落から第0101段落に記載の重合禁止剤を、記載された組成物に対する含有量で用いることができる。レベリング剤としては、例えば同公報の第0102段落から第0104段落に記載のレベリング剤を、記載された液晶性化合物の合計量に対する含有量で用いることができる。酸化防止剤としては、例えば同公報の第0105段落から第0106段落に記載の酸化防止剤を、記載された組成物に対する含有量で用いることができる。
【0078】
組成物は、上記以外の他の添加剤を含有してよい。他の添加剤としては、例えば、離型剤、安定剤、ブルーイング剤等の着色剤、難燃剤および滑剤などが挙げられる。組成物が他の添加剤を含有する場合、他の添加剤の含有量は、組成物の固形分に対して、0%を超えて20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0%を超えて10質量%以下である。
【0079】
組成物は、従来公知の組成物の調製方法により製造することができる。例えば、式(1)で表される化合物と、液晶性化合物と、必要に応じて酸化防止剤、レベリング剤などの添加剤とを混合、撹拌することにより調製することができる。
【0080】

本実施形態にかかる膜は、式(1)で表される化合物を形成材料として含む膜であってもよく、式(1)で表される化合物と液晶性化合物とを含む組成物を形成材料として得られる膜であってもよい。組成物からなる膜は、組成物を基材に付与し、成膜することで形成されてよい。また、組成物が、重合性液晶化合物を含む場合、該重合性液晶化合物を重合させて得られる硬化物を含む膜は、組成物を基材に付与し、成膜した後に該重合性液晶化合物を重合し、硬化させることで形成されてよい。
【0081】
組成物は、配向秩序度が高く、耐熱性に優れ、青色光源波長460nmの透過率の高い膜、例えば偏光膜を形成することができる。したがって、本実施形態にかかる膜は、式(1)で表される化合物と液晶性化合物とを含んでなる組成物から形成される偏光膜であって、配向秩序度が高く、耐熱性に優れ、青色光源波長460nmにおける透過率の高い偏光膜を包含する。
【0082】
配向秩序度の高い偏光膜では、X線回折測定においてヘキサチック相、クリスタル相といった高次構造由来のブラッグピークが得られる。したがって、組成物から形成される偏光膜は、液晶性化合物がX線回折測定においてブラッグピークを示すように配向していることが好ましく、光を吸収する方向に液晶性化合物の分子が配向する「水平配向」であることがより好ましい。ブラッグピークを示すような高い配向秩序度は、用いる液晶性化合物の種類、式(1)で表される化合物の量等を制御することにより実現し得る。
【0083】
膜を形成するために用いる組成物を構成する式(1)で表される化合物および液晶性化合物については、既述の通りである。
【0084】
膜は、例えば、以下の工程を含む方法により製造することができる。
工程A:式(1)で表される化合物と液晶性化合物と溶剤とを含む組成物の塗膜を形成すること、
工程B:前記塗膜から溶剤の少なくとも一部を除去すること、
工程C:液晶性化合物が液体相に相転移する温度以上まで昇温した後、降温して、該液晶性化合物をスメクチック相(スメクチック液晶状態)に相転移させること、および
工程D:必要に応じて、前記スメクチック相(スメクチック液晶状態)を保持したまま、重合性液晶化合物を重合させること。
【0085】
組成物の塗膜の形成は、例えば、基材、後述する配向膜などの上に組成物を塗布することにより行うことができる。また、偏光板を構成する位相差フィルム、その他の層上に組成物を直接塗布してもよい。
【0086】
基材としては、例えば特開2022-088325号公報の第0115段落から第0118段落に記載の基材を用いることができる。組成物を基材等に塗布する方法としては、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、アプリケータ法などの塗布法、フレキソ法などの印刷法などの公知の方法が挙げられる。
【0087】
次いで、組成物から得られた塗膜に含まれる溶剤の少なくとも一部を乾燥等により除去することにより乾燥塗膜が形成される。また、該塗膜中に重合性液晶化合物が含まれる場合、該重合性液晶化合物が重合しない条件で、乾燥をおこなうことにより乾燥塗膜が形成される。前記塗膜の乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥、減圧乾燥法等が挙げられる。
【0088】
さらに、液晶性化合物を液体相に相転移させるため、液晶性化合物が液体相に相転移する温度以上まで昇温した後、降温して液晶性化合物をスメクチック相(スメクチック液晶状態)に相転移させる。かかる相転移は、塗膜中の溶剤除去後に行ってもよいし、溶剤の除去と同時に行ってもよい。
【0089】
組成物が、重合性液晶化合物を含む場合、重合性液晶化合物のスメクチック液晶状態を保持したまま、重合性液晶化合物を重合させることにより、重合性液晶化合物の硬化物を含む膜が形成される。重合方法としては光重合法が好ましい。光重合において、乾燥塗膜に照射する光としては、乾燥塗膜に含まれる光重合開始剤の種類、重合性液晶化合物の種類(特に、重合性液晶化合物が有する重合性基の種類)およびその量に応じて適宜選択される。その具体例としては、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線およびγ線からなる群から選択される1種以上の光、活性電子線等が挙げられる。中でも、重合反応の進行を制御し易い点や、光重合装置として当分野で広範に用いられているものが使用できるという点で、紫外光が好ましく、紫外光によって、光重合可能なように、組成物に含有される重合性液晶化合物、光重合開始剤の種類等を選択しておくことが好ましい。また、重合時に、適切な冷却手段により乾燥塗膜を冷却しながら、光照射することで、重合温度を制御することもできる。このような冷却手段の採用により、より低温で重合性液晶化合物の重合を実施すれば、基材が比較的耐熱性が低いものを用いたとしても、適切に膜を形成できる。光重合の際、マスキングや現像を行うなどによって、パターニングされた膜を得ることもできる。ここで、活性エネルギー線の光源、紫外線照射強度については、例えば特開2022-088325号公報の第0123段落から第0124段落の記載を参照することができる。
【0090】
光重合を行うことにより、重合性液晶化合物は、スメクチック相、好ましくは高次のスメクチック相の液晶状態を保持したまま重合し、膜が形成される。重合性液晶化合物がスメクチック相の液晶状態を保持したまま重合して得られる膜は、二色性色素の作用にも伴い、従来のホストゲスト型偏光フィルム、すなわち、ネマチック相の液晶状態からなる膜と比較して、偏光性能が高いという利点がある。さらに、二色性色素、またはリオトロピック液晶のみを塗布したものと比較して、強度に優れるという利点もある。
【0091】
膜の厚みは、適用される表示装置等に応じて適宜選択でき、例えば0.5μm以上10μm以下であってよく、好ましくは1μm以上5μm以下、または1μm以上3μm以下であってよい。
【0092】
膜が、偏光膜として使用される場合、配向膜上に形成されることが好ましい。配向膜は、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物を所望の方向に液晶配向させる、配向規制力を有するものである。配向膜としては、重合性液晶化合物および液晶性の高分子化合物の少なくとも1種を含む液晶性化合物を含有する組成物の塗布等により溶解しない溶剤耐性を有し、また、溶剤の除去や重合性液晶化合物の配向のための加熱処理における耐熱性を有するものが好ましい。かかる配向膜としては、配向性ポリマーを含む配向膜、光配向膜および表面に凹凸パターンや複数の溝を有するグルブ配向膜等が挙げられ、配向角の精度および品質の観点から、光配向膜が好ましい。
【0093】
積層体
本実施形態にかかる積層体は、式(1)で表される化合物を形成材料として含む膜を備えていてもよく、式(1)で表される化合物と液晶性化合物とを含む組成物を形成材料とする膜を備えていてもよい。積層体は、基材と、基材上に配置される式(1)で表される化合物を形成材料として含む膜とを備えていてよく、基材と、基材上に配置される配向膜と、配向膜上に配置される式(1)で表される化合物を形成材料とする膜とを備えていてよい。式(1)で表される化合物を形成材料として含む膜は、偏光膜を構成してよい。また、基材は位相差フィルムであってもよい。積層体は、例えば、偏光板を構成することができる。積層体は、例えば、上述した膜の製造方法に準じて、基材上に膜を形成することで製造することができる。
【0094】
積層体の厚みは、表示装置の屈曲性や視認性の観点から、例えば10μm以上300μm以下であってよく、好ましくは20μm以上200μm以下、または25μm以上100μm以下であってよい。なお、積層体が基材として位相差フィルムを備える場合、位相差フィルムの厚みは、適用される表示装置に応じて適宜選択できる。
【0095】
表示装置
本実施形態の表示装置は、前記積層体を備え、積層体は偏光板であってよい。表示装置は、例えば、粘接着剤層を介して、偏光板としての積層体を表示装置の表面に貼合することにより得ることができる。表示装置とは、表示素子を有する装置であり、発光源として発光素子または発光装置を含む装置である。表示装置としては、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、電子放出表示装置(例えば、電場放出表示装置(FED)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インク、電気泳動素子等を用いた表示装置)、プラズマ表示装置、投射型表示装置(例えば、グレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置)、および圧電セラミックディスプレイ等が挙げられる。液晶表示装置は、透過型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置、直視型液晶表示装置、および投写型液晶表示装置等のいずれも包含する。これらの表示装置は、2次元画像を表示する表示装置であってもよいし、3次元画像を表示する立体表示装置であってもよい。特に、表示装置としては、有機EL表示装置およびタッチパネル表示装置が好ましく、特に有機EL表示装置が好ましい。
【実施例0096】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
以下の実施例においてLUMOのエネルギー準位は、密度汎関数法(DFT法)によって算出した。具体的には、ソフトウェアGaussian16を用い、汎関数としてB3LYP、基底関数として6-31G(d)を用いる密度汎関数法によってLUMOのエネルギー準位を算出した。
【0098】
実施例1
下記化合物1-1-dをジアゾカップリング法によって合成し、アセチレン基を有する下記化合物1-1-eとの薗頭・萩原クロスカップリングで化合物1-1を合成した。
【0099】
化合物1-1-aの合成
化合物1-1-aは、文献(Journal of Medicinal Chemistry, 2005, Vol48, 5794)に記載の方法に従い、2―ニトロチオフェンより合成した。
【0100】
【化14】
【0101】
化合物1-1-bの合成
化合物1-1-a(5.0g、37.0mmol)を酢酸100mLに溶解させ、室温下でチオシアン酸カリウム(3.1g、37.0mmol)を加えた。上記溶液に臭素(3.0g、18.5mmol)の酢酸溶液60mLを2時間程かけて滴下した。室温で1時間撹拌後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、析出した固体を濾別、乾燥させて目的物6.0gを得た。精製せずに次のステップに使用した。
【0102】
【化15】
【0103】
化合物1-1-cの合成
化合物1-1-b(1.0g、6.3mmol)を酢酸30mLに溶解させ、N-ブロモスクシンイミド(1.1g、6.3mmol)を室温のまま少しずつ加えた。室温で2時間撹拌後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてpHを7から8に調整し、酢酸エチルを用いて目的物を抽出した。その有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、濾別し、溶媒を除去して濃縮した。得られた粗生成物を、ヘキサン:酢酸エチル=1:1を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製し、化合物1-1―cを得た(0.78g、収率53%)。
【0104】
【化16】
【0105】
化合物1-1-dの合成
化合物1-1-c(0.5g、1.9mmol)を硫酸6mL、水6mLおよび酢酸6mLに添加し、内温3℃以下になるように冷却し、ニトロシル硫酸(40wt%硫酸中:0.9g、2.9mmol)を、内温3℃を超えないように少しずつ滴下した。内温3℃以下で30分間撹拌し、ジアゾニウム溶液を調製した。次に、N,N―ジエチルアニリン(0.44g、2.9mmol)のメタノール溶液60mL中に、酢酸ナトリウム(19g、234mmol)水溶液40mLを加えて内温3℃以下に冷却し、上記で調製したジアゾニウム溶液を、内温3℃を超えないように少しずつ滴下した。反応液を室温まで上昇させて1時間撹拌した。その後、水300mL加え、析出した固体を濾別、乾燥させて黒紫色固体の目的物0.73gを得た。精製せずに次のステップに使用した。
【0106】
【化17】
【0107】
化合物1-1-eの合成
4-エチニル安息香酸メチル(1.0g、6.2mmol)を1-ヘキサノール(41.0g、401mmol)に添加し内温90℃になるように昇温し、p-トルエンスルホン酸一水和物(1.2g、6.2mmol)を随時添加した。内温90℃のまま24時間撹拌後、酢酸エチルを用いて目的物を抽出した。その有機層を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、濾別し、溶媒を濃縮させた。得られた粗生成物を、ヘキサン:クロロホルム=7:3を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製し、化合物1-1―eを得た(1.38g、収率94%)。
【0108】
【化18】
【0109】
化合物1-1の合成
化合物1-1-d(0.1g、0.24mmol)、化合物1-1-e(0.06g、0.24mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(0.009g、0.012mmol)およびヨウ化銅(I)(0.003g、0.012mmol)をテトラヒドロフラン1.5mLに添加した。次に、トリエチルアミン0.3mLを添加し、内温60℃に上昇させて5時間攪拌した。その後、水300mL加え、析出した固体を濾別し、得られた固体を、クロロホルムを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製し、化合物1-1を得た(0.09g、収率66%)。
【0110】
LUMO=2.61eV。
H-NMR(400MHz、CDCl):δ(ppm)=8.03(d、2H)、7.92(d、2H)、7.58(d、2H)、7.41(s、1H)、6.73(d、2H)、4.32(t、2H)、3.50(quart、4H)、1.77(quint、2H)、1.62(quint、2H)、1.45(m、2H)、1.34(m、4H)、1.26(t、6H)、0.90(t、3H)
【0111】
【化19】
【0112】
実施例2
前記化合物1-1-dをジアゾカップリング法によって合成し、ビニレン基を有する下記化合物1-2-aとの溝呂木・ヘック反応で化合物1-2を合成した。
【0113】
化合物1-2-aの合成
4-ビニル安息香酸(1.0g、6.5mmol)、3,7-ジメチル-1-オクタノール(1.2g、7.9mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(0.081g、0.65mmol)および2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(0.015g、0.07mmol)をクロロホルム10mLに添加し、内温5℃に冷却し、0.5時間攪拌した。内温5℃のまま、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(0.93g、7.2mmol)を少しずつ添加し、室温に戻しながら2時間攪拌した。得られた粗生成物を、ヘキサン:クロロホルム=7:3を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製し、化合物(1-2-a)を得た(1.6g、収率82%)。
【0114】
【化20】
【0115】
化合物1-2の合成
化合物1-1-d(0.10g、0.24mmol)、化合物1-2-a(0.07g、0.24mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(0.015g、0.012mmol)およびトリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(0.004g、0.012mmol)をテトラヒドロフラン1.5mLに添加した。次に、トリエチルアミン0.3mLを添加し、内温60℃に上昇させて5時間攪拌した。その後、水50mL加え、得られた固体を、クロロホルムを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製し、化合物(1-2)を得た(0.030g、収率21%)。
【0116】
LUMO=2.59eV。
H-NMR(400MHz、CDCl):δ(ppm)=8.01(d、2H)、7.91(d、2H)、7.52(d、2H)、7.34(d、1H)、7.20(s、1H)、6.98(d、1H)、6.72(d、2H)、4.35(m、2H)、3.49(quart、4H)、1.82(m、1H)、1.60(m、3H)、1.40-1.10(m、12H)、0.95(d、3H)、0.86(d、6H)
【0117】
【化21】
【0118】
合成例1
下記化合物C-1を、公知のジアゾカップリング法によって合成した。
【0119】
【化22】
【0120】
合成例2
下記化合物C-2を、公知のジアゾカップリング法によって合成した。
【0121】
【化23】
【0122】
実施例3:組成物E1の調製
下記の成分を混合し、80℃で1時間攪拌することで、組成物E1を得た。
・重合性液晶化合物A-6 75質量部
・重合性液晶化合物A-7 25質量部
・化合物1-1 4質量部
・重合開始剤: 2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(イルガキュア369;BASFジャパン社製)
6質量部
・レベリング剤:ポリアクリレート化合物(BYK-361N;BYK-Chemie社製) 1.2質量部
・溶剤:o-キシレン 250質量部
【0123】
重合性液晶化合物A-6および重合性液晶化合物A-7
【化24】
【0124】
なお、重合性液晶化合物A-6は、Lub et al. Recl. Trav. Chim. Pays-Bas, 115, 321-328 (1996)に記載の方法で合成した。また、この方法に準拠して、重合性液晶化合物A-7を製造した。
【0125】
実施例4:組成物E2の調製
化合物1-1の代わりに、化合物1-2を用いたこと以外は実施例3と同様にして、実施例2の組成物E2を得た。
【0126】
比較例1:組成物C1の調製
化合物1-1の代わりに、合成例1で得られた化合物C-1を用いたこと以外は実施例3と同様にして、比較例1の組成物C1を得た。
【0127】
比較例2:組成物C2の調製
化合物1-1の代わりに、合成例2で得られた化合物C-2を用いたこと以外は実施例3と同様にして、比較例2の組成物C2を得た。
【0128】
偏光板の製造
1.配向膜の形成
透明基材としてガラス基板を用いた。ガラス基板上に、ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型、富士フイルム和光純薬株式会社製)の2質量%水溶液(配向層形成用組成物)をスピンコート法により塗布し、乾燥後、厚さ100nmの膜を形成した。続いて、得られた膜の表面にラビング処理を施すことにより配向膜を形成し、ガラス基板上に配向膜が形成された基材を得た。
【0129】
2.偏光膜の形成
上記で得られた基材の配向膜上に、上記で得られた組成物をスピンコート法により塗布し、120℃のホットプレート上で3分間加熱乾燥した後、速やかに70℃(降温時にスメクチック液晶相を示す温度)以下に冷却して、配向膜上に乾燥皮膜が形成された積層体を得た。
【0130】
次いで、UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用い、紫外線を、露光量2400mJ/cm(365nm基準)で乾燥皮膜に照射することにより、乾燥皮膜に含まれる重合性液晶化合物を、組成物の液晶状態を保持したまま重合させ、乾燥皮膜から偏光膜を形成して偏光板を得た。
【0131】
評価
上記で得られた偏光膜の表面に保護フィルム(40μmTAC(コニカミノルタ株式会社製「KC4UY」))を配置し、下記条件でオーブン槽にて指定の時間だけ加温することによって耐熱性試験を実施し、偏光膜の耐熱性を評価した。耐熱性試験前の偏光膜の極大吸収波長において、耐熱性試験前の偏光膜の吸収軸方向の吸光度(A1)、および耐熱性試験後の偏光膜の吸収軸方向の吸光度(A2)を、分光光度計(島津製作所株式会社製「UV-3150」)に、偏光板を備えるフォルダーをセットした装置を用いて、ダブルビーム法で測定した。耐熱性試験後の偏光膜の吸収軸方向の吸光度(A2)を耐熱性試験前の偏光膜の吸収軸方向の吸光度(A1)で除した百分率を求めて吸光度維持率(%)とした。結果を表1に示す。なお、吸光度維持率が75%を超える場合、偏光膜として良好と判断される。
【0132】
耐熱性試験における加温条件は以下の通りである。
使用機器:ヤマト科学株式会社製DN411I
試験時間:240時間
温度:105℃
【0133】
【表1】
【0134】
表1から、化合物1-1または化合物1-2を含む組成物を形成材料とする膜を備える偏光板は耐熱性が高いことがわかる。
【0135】
上記で得られた化合物1-1、1-2およびC-2について、溶液中での吸光度と偏光膜としての吸光度の関係を評価した。クロロホルム溶液中の極大吸収波長における吸光度(a1)、および波長425nmにおける吸光度(a2)を、分光光度計(島津製作所株式会社製「UV-3000」)で測定した。a2をa1で除した値を「パラメータ1」とした。また、上記で得られた偏光膜について、波長460nmにおける偏光膜の透過軸方向の吸光度(A3)と、偏光膜の極大吸収波長における偏光膜の吸収軸方向の吸光度(A1)を測定した。A3をA1で除して「パラメータ2」とした。結果を表2に示す。パラメータ1の値が0.1以下の場合、パラメータ2の値が0.015以下となり、青色光源波長460nmにおける透過率の高い偏光膜と判断される。
【0136】
【表2】
【0137】
式(1)で表される化合物において、左端の置換基Rをドナー性の高い基で置換すると、化合物に由来するサブピークが長波長化する。この現象は、特に式(1)で表される化合物の置換基Rがアミノ基、かつ連結基Xがアゾ基の場合に顕著であり、サブピークが青色光源波長460nmまでシフトすることで、青色光源波長域における透過率が低下してしまう。したがって、置換基Rがアミノ基、かつ連結基Xがアゾ基の構造である比較例2の化合物C-2におけるパラメータ1、および化合物C-2を含む組成物を形成材料とする膜を備える偏光板におけるパラメータ2の値は、実施例3と実施例4における値よりも高く、青色光源波長460nmの透過率が低い膜であることがわかる。