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特開2024-116851有機半導体インク、光電変換層及び有機光電変換素子
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  • 特開-有機半導体インク、光電変換層及び有機光電変換素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116851
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】有機半導体インク、光電変換層及び有機光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20240821BHJP
   H10K 30/30 20230101ALI20240821BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20240821BHJP
   C07D 495/04 20060101ALN20240821BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/30
C09D11/52
C07D495/04 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022672
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中林 千浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸江
(72)【発明者】
【氏名】中山 英典
【テーマコード(参考)】
4C071
4J039
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
4C071AA01
4C071AA08
4C071BB01
4C071BB05
4C071CC22
4C071EE13
4C071FF23
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4C071GG04
4C071JJ07
4C071LL05
4J039BA02
4J039BE12
4J039BE29
4J039EA24
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5F849CB06
5F849CB15
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5F849XA47
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5F849XA63
(57)【要約】
【課題】新たな有機半導体を開発、有機半導体の選択の制限を行うことなく、また、外部エネルギーを加えなくとも、有機光電変換素子の耐熱性を高めることができる有機半導体インクを提供する。
【解決手段】p型有機半導体、n型有機半導体、及び溶媒を含有する有機半導体インクであって、ナフタレン系化合物を含有することを特徴とする有機半導体インク。この有機半導体インクを塗布してなる光電変換層。この光電変換層を含む有機光電変換素子。この有機光電変換素子を有する光センサー。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型有機半導体、n型有機半導体、及び溶媒を含有する有機半導体インクであって、
ナフタレン系化合物を含有することを特徴とする有機半導体インク。
【請求項2】
前記ナフタレン系化合物が溶媒として含有されている、請求項1に記載の有機半導体インク。
【請求項3】
前記ナフタレン系化合物が、少なくとも1つの置換基を有するナフタレンである、請求項1に記載の有機半導体インク。
【請求項4】
前記溶媒が、ハロゲン元素を含まない非ナフタレン系溶媒と、溶媒としての前記ナフタレン系化合物とを含む、請求項2に記載の有機半導体インク。
【請求項5】
前記溶媒中の前記ナフタレン系化合物の含有率が0.1~30体積%である、請求項4に記載の有機半導体インク。
【請求項6】
前記n型有機半導体が、フラーレン骨格非含有半導体である、請求項1に記載の有機半導体インク。
【請求項7】
前記n型有機半導体が、電子受容性骨格(A)と電子供与性骨格(D)を有する芳香族化合物である、請求項1に記載の有機半導体インク。
【請求項8】
前記n型有機半導体が、下記式(I)で表される化合物及び/又は下記式(I)で表される化合物の2以上の多量体である、請求項7に記載の有機半導体インク。
【化1】
(式(I)中、Aは周期表第14族から選ばれる原子を表し、X~Xは、それぞれ独立して、水素原子又はハロゲン原子を表し、R1a及びR1bは、それぞれ独立して、鎖状のアルキル基を表し、R~Rは、それぞれ独立して、鎖状のアルキル基、鎖状のアルコキシ基、鎖状のチオアルキル基、或いは水素原子を表す。)
【請求項9】
前記p型有機半導体が、電子受容性骨格(A)と電子供与性骨格(D)を含むドナー性の共役系高分子である、請求項1に記載の有機半導体インク。
【請求項10】
前記p型有機半導体と前記n型有機半導体の合計の固形分濃度が5~40mg/mLである、請求項1に記載の有機半導体インク。
【請求項11】
前記p型有機半導体と前記n型有機半導体の含有質量比(n型有機半導体/p型有機半導体)が0.1~3.0である、請求項1に記載の有機半導体インク。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の有機半導体インクを塗布してなる光電変換層。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の有機半導体インクを塗布する工程を有する光電変換層の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の光電変換層を含む有機光電変換素子。
【請求項15】
請求項14に記載の有機光電変換素子を有する光センサー。
【請求項16】
近赤外光領域に吸収波長を有する、請求項15に記載の光センサー。
【請求項17】
請求項14に記載の有機光電変換素子を有する撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体インクと、この有機半導体インクを用いて形成された光電変換層及びこの光電変換層を有する有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
入射された光のエネルギーを電気エネルギーに変換する有機光電変換膜は、太陽電池や光センサなどの有機光電変換素子への適応が期待されている。
有機光電変換膜については、従来、電子ドナー性半導体(p型有機半導体)である共役系ポリマーと、電子アクセプター性半導体(n型有機半導体)となるPCBM([6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester)に代表されるフラーレン誘導体との混合物からなるバルクへテロジャンクション(BHJ)構造を膜中に形成させることが、高性能な有機光電変換膜を得ることに有望とされ、最大で11%程度の光電変換効率(PCE)を持つ有機太陽電池が報告されている。近年では、フラーレン誘導体に代わって、非フラーレン型アクセプターと呼ばれる低分子アクセプターを用いることにより、更なるPCEの向上が可能であることが報告され、例えば、太陽光からのエネルギー変換効率が18%を超えるものも報告されている。
【0003】
有機光電変換素子の光電変換特性には、p型有機半導体とn型有機半導体とからなるBHJ型光電変換層の相分離構造(p型有機半導体とn型有機半導体との相溶性)が重要な役割を担っている。BHJ構造では膜中に概ね10~100nmサイズでp型有機半導体とn型有機半導体がそれぞれ共連続のドメインを有することが効率的な光電変換プロセスに理想的とされている。これは、有機半導体における励起子の拡散長によって主に決定される。
【0004】
有機光電変換素子のBHJ型光電変換層には、使用環境や製造環境に適した安定性が求められる。その要求特性として、例えば、素子製造におけるリフロー工程時などの加熱環境に耐えうる耐熱性が挙げられる。
しかしながら、一般的に、BHJ型光電変換層は、素子製造時に想定される加熱環境に耐えうる十分な耐熱性を有していない。加熱環境において、BHJ型光電変換層内ではp型有機半導体とn型有機半導体それぞれの分子拡散により光電変換プロセスに理想的なサイズよりも大きなドメインが形成されうる。マイクロメートルサイズにまで成長し得るこのような相分離は、光電変換特性の低下、光センサの画素間の特性バラツキ等の実用上の問題を引き起こす。このような背景のもと、BHJ型光電変換層の安定性改善の達成に向けて様々な検討がなされてきた。
【0005】
非特許文献1では、架橋基を導入したp型半導体を用いて光電変換層に架橋構造を形成することでBHJ構造の耐熱性を改善する方法が示されている。
【0006】
非特許文献2では、P3HT(poly(3-hexylthiophene))とPCBMから成る光電変換層に熱架橋性モノマーOBOCO(octane-1,8-diylbis(1,4-dihydrobenzo[d][1,2]oxathiine-6-carboxylate-3-oxide))を添加し光電変換層を熱硬化させることで、光電変換層の耐熱性を改善することが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Materials.Today.2015,18,425-435
【非特許文献2】J.Mater.Chem.A,2013,1,4589-4594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、架橋基を有する有機半導体を新たに開発する必要がある。
非特許文献2の熱硬化性モノマーOBOCOの硬化反応にはフラーレン誘導体が必須であり、本手法を用いる場合、光電変換層の半導体材料の選択に制限が生じる。また、外部エネルギー(熱)を加えることによってp型有機半導体とn型有機半導体のドメインサイズが成長する恐れもある。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであって、新たな有機半導体を開発、有機半導体の選択の制限を行うことなく、また、外部エネルギーを加えなくとも、有機光電変換素子の耐熱性を高めることができる有機半導体インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、p型有機半導体及びn型有機半導体を溶解するための溶媒として、ナフタレン系溶媒を含む有機半導体インクを用いて光電変換層を作製することで、得られる有機光電変換素子の耐熱性を向上できることを見出した。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] p型有機半導体、n型有機半導体、及び溶媒を含有する有機半導体インクであって、ナフタレン系化合物を含有することを特徴とする有機半導体インク。
【0013】
[2] 前記ナフタレン系化合物が溶媒として含有されている、[1]に記載の有機半導体インク。
【0014】
[3] 前記ナフタレン系化合物が、少なくとも1つの置換基を有するナフタレンである、[1]又は[2]に記載の有機半導体インク。
【0015】
[4] 前記溶媒が、ハロゲン元素を含まない非ナフタレン系溶媒と、溶媒としてのナフタレン系化合物とを含む、[2]又は[3]に記載の有機半導体インク。
【0016】
[5] 前記溶媒中の前記ナフタレン系化合物の含有率が0.1~30体積%である、[4]に記載の有機半導体インク。
【0017】
[6] 前記n型有機半導体が、フラーレン骨格非含有半導体である、[1]~[5]のいずれかに記載の有機半導体インク。
【0018】
[7] 前記n型有機半導体が、電子受容性骨格(A)と電子供与性骨格(D)を有する芳香族化合物である、[1]~[6]のいずれかに記載の有機半導体インク。
【0019】
[8] 前記n型有機半導体が、下記式(I)で表される化合物及び/又は下記式(I)で表される化合物の2以上の多量体である、[7]に記載の有機半導体インク。
【0020】
【化1】
【0021】
(式(I)中、Aは周期表第14族から選ばれる原子を表し、X~Xは、それぞれ独立して、水素原子又はハロゲン原子を表し、R1a及びR1bは、それぞれ独立して、鎖状のアルキル基を表し、R~Rは、それぞれ独立して、鎖状のアルキル基、鎖状のアルコキシ基、鎖状のチオアルキル基、或いは水素原子を表す。)
【0022】
[9] 前記p型有機半導体が、電子受容性骨格(A)と電子供与性骨格(D)を含むドナー性の共役系高分子である、[1]~[8]のいずれかに記載の有機半導体インク。
【0023】
[10] 前記p型有機半導体と前記n型有機半導体の合計の固形分濃度が5~40mg/mLである、[1]~[9]のいずれかに記載の有機半導体インク。
【0024】
[11] 前記p型有機半導体と前記n型有機半導体の含有質量比(n型有機半導体/p型有機半導体)が0.1~3.0である、[1]~[10]のいずれかに記載の有機半導体インク。
【0025】
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の有機半導体インクを塗布してなる光電変換層。
【0026】
[13] [1]~[11]のいずれかに記載の有機半導体インクを塗布する工程を有する光電変換層の製造方法。
【0027】
[14] [12]に記載の光電変換層を含む有機光電変換素子。
【0028】
[15] [14]に記載の有機光電変換素子を有する光センサー。
【0029】
[16] 近赤外光領域に吸収波長を有する、[15]に記載の光センサー。
【0030】
[17] [14]に記載の有機光電変換素子を有する撮像素子。
【発明の効果】
【0031】
本発明の有機半導体インクによれば、新たな有機半導体を開発、有機半導体の選択の制限を行うことなく、また、外部エネルギーを加えなくとも、耐熱性に優れた有機光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の有機光電変換素子の実施形態の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0034】
[有機半導体インク]
本発明の有機半導体インクは、p型有機半導体、n型有機半導体、及び溶媒を含有する有機半導体インクであって、ナフタレン系化合物を含有することを特徴とする。
【0035】
<メカニズム>
本発明の有機半導体インクがナフタレン系化合物を含むことで、この有機半導体インクを用いて形成された光電変換層を有する有機光電変換素子の耐熱性を向上させることができる効果が奏されるメカニズムについては、以下のように考えられる。
【0036】
有機半導体インクの耐熱性の問題は、p型有機半導体とn型有機半導体とからなるBHJ型光電変換層の相分離構造におけるp型有機半導体とn型有機半導体による共連続のドメインが、外部から加えられる熱により粗大化し、理想的なドメインサイズ(概ね10~100nm)から外れてしまうことによると考えられる。
本発明で用いるナフタレン系化合物は、p型有機半導体とn型有機半導体の双方への相互作用が強く、p型有機半導体とn型有機半導体の両方に優れた相溶性を示すため、光電変換層形成時において、ナフタレン系化合物がモルフォロジー調整剤として機能し、p型有機半導体とn型有機半導体とが高度に相溶し、初期ドメインサイズとしてサイズの小さいBHJ構造を形成することができる。その結果、有機光電変換素子に熱が加えられて、ドメインサイズが粗大化しても、粗大化したドメインサイズが、理想的なドメインサイズ(概ね10~100nm)から大きく外れることはなく、光電変換特性の低下は抑制される。
このようなことから、本発明によれば、耐熱性に優れた有機光電変換素子を提供することができる。
【0037】
本発明の有機半導体インクにおいて、ナフタレン系化合物は溶媒として含まれていることが、有機半導体インクの調液性および有機光電変換素子の光電変換特性において好ましいことがある。
ここで、ナフタレン系化合物が溶媒として含まれているということは、当該ナフタレン系化合物が、後述の光電変換層の形成工程において、他の溶媒と共に揮散し、形成された光電変換層中には殆ど残存しないこと、具体的には、有機半導体インク中のナフタレン系化合物の95質量%以上が揮散して形成された光電変換層中に存在しないことを意味し、通常、後述のような沸点を有するものをさす。
【0038】
<ナフタレン系化合物>
本発明の有機半導体インクは、ナフタレン系化合物を含むことを特徴とする。
【0039】
本発明で用いるナフタレン系化合物としては、p型有機半導体及びn型有機半導体に対する相溶性の効果の観点から、少なくとも1つの置換基を有するナフタレンであることが好ましい。
【0040】
ナフタレン系化合物が、少なくとも1つの置換基を有するナフタレンである場合、該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基等の炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子等が挙げられる。
これらのうち、p型有機半導体及びn型有機半導体に対する相溶性の効果の観点から、フェニル基等のアリール基が好ましい。
これらの置換基の数は1以上であり、その上限については4以下、特に2以下が好ましい。モルフォロジー調整の観点から置換基の数は1つであることが好ましい。
【0041】
ナフタレンへの置換基の置換位置には特に制限はないが、モルフォロジー調整の観点から、少なくともナフタレンの1位に上記置換基を有することが好ましい。
【0042】
本発明の有機半導体インクは、ナフタレン系化合物を溶媒として含むものであってもよく、添加剤として含むものであってもよい。
ナフタレン系化合物を、有機半導体インクの溶媒として用いる場合、有機半導体インクの溶媒としての機能性から、ナフタレン系化合物の沸点は400℃以下、特に390℃以下で、380℃以上、特に350℃以上であることが好ましい。
【0043】
ナフタレン系化合物としては、特に制限されるものではないが、具体的には、1-フェニルナフタレン(沸点:320℃)、1-メチルナフタレン(沸点:241℃)、1-エチルナフタレン(沸点:260℃)、1-クロロナフタレン(沸点:263℃)、1-ブロモナフタレン(沸点:282℃)、1-フルオロナフタレン(沸点:212℃)等が挙げられる。
【0044】
本発明の有機半導体インクには、このようなナフタレン系化合物の1種類のみが含まれていてもよく、置換基の種類や置換位置の異なる2種類以上が含まれていてもよい。
【0045】
<溶媒>
本発明の有機半導体インクは、溶媒を含むことにより、塗布液として用いることができる。前述の通り、本発明の有機半導体インクは、ナフタレン系化合物を溶媒として含んでいてもよい。以下において、本発明の有機半導体インクがナフタレン系化合物を溶媒として含む場合を例示して、本発明の有機半導体インクを説明するが、本発明の有機半導体インクはナフタレン系化合物を添加剤として含んでいてもよい。
【0046】
本発明の有機半導体インクに含まれる溶媒は、ナフタレン系化合物(以下「ナフタレン系溶媒」と称す場合がある。)のみであってもよいが、p型有機半導体及びn型有機半導体に対する溶解性や成膜性、モルフォロジー調整等の観点から、ナフタレン系溶媒以外の溶媒(以下、「非ナフタレン系溶媒」と称す場合がある。)とナフタレン系溶媒の混合溶媒であることが好ましい。
この場合において、非ナフタレン系溶媒はハロゲン元素を含まない溶媒(以下、「非ハロゲン系溶媒」と称す場合がある。)であることが好ましい。
【0047】
湿式成膜法で用いられるp型有機半導体とn型有機半導体を有機溶媒に溶解させた有機半導体インクにおいては、従来、有機半導体材料への高い溶解性からハロゲン系溶媒(クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)が一般的に使用されてきた。
しかし、近年、ハロゲン系溶媒の健康リスク、発がん性、環境リスク、金属腐食性などが問題となっており、それらの問題を回避した有機半導体インク開発のために、非ハロゲン系溶媒への溶媒代替が望まれている。
【0048】
非ハロゲン系溶媒はハロゲン系溶媒に比べてp型有機半導体及びn型有機半導体の溶解性は若干劣るものであるが、本発明の有機半導体インクは、ナフタレン系溶媒を含むことにより非ハロゲン系溶媒へのp型有機半導体及びn型有機半導体の溶解性を高めることができる。
【0049】
なお、本発明で用いる非ハロゲン系溶媒とは、溶媒である化合物の構成元素としてハロゲン元素を含まないものであり、当該溶媒の製造過程や取り扱い過程において不純物として微量のハロゲン元素が混入したものを排除するものではない。
【0050】
非ハロゲン系溶媒に、不純物としてのハロゲン元素が混入している場合、非ハロゲン系溶媒中のハロゲン元素の含有量は好ましくは10000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、特に100ppm以下である。
【0051】
本発明で用いる非ハロゲン系非ナフタレン系溶媒としては、具体的には、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル系溶媒;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル系溶媒及び酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル系溶媒などが挙げられる。
これらの非ハロゲン系非ナフタレン系溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
これらの非ハロゲン系非ナフタレン系溶媒のうち、p型有機半導体およびp型有機半導体の溶解性の観点から、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系非ハロゲン系溶媒が特に好ましい。
【0053】
本発明の有機半導体インクが、溶媒としてナフタレン系溶媒と非ハロゲン系非ナフタレン系溶媒とを含有する場合、ナフタレン系溶媒を含有することによる耐熱性の向上効果と非ハロゲン系非ナフタレン系溶媒を併用することによる成膜性等の改善効果を共に有効に得る観点から、全溶媒中のナフタレン系溶媒の含有率は0.1~30体積%、特に0.5~20体積%であることが好ましい。
なお、本発明の有機半導体インクがナフタレン系化合物を添加剤として含む場合であっても、ナフタレン系化合物と溶媒との合計に対するナフタレン系化合物の含有率が上記の含有率であることが好ましい。
【0054】
<p型有機半導体>
p型有機半導体は、特に限定されず公知の化合物が用いられ得るが、好ましくは電子受容性骨格(A)と電子供与性骨格(D)を含むドナー性の共役系高分子(D-A型ポリマー)である。このうち、特に後述のn型有機半導体と混合して塗布により膜を形成できるものであることが好ましい。D-A型ポリマーの利点は、D骨格とA骨格の組み合わせにより材料物性の調節、例えば吸収波長の調節やエネルギー準位の調節、が容易に行える点である。
【0055】
電子供与性骨格(D)としては、具体的には、カルバゾール構造、チオフェン構造、ベンゾジチオフェン構造、シクロペタジチオフェン構造、チエノチオフェン構造、ジベンゾフラン構造、トリアリールアミン構造、ナフタレン構造、フェナントレン構造又はピレン構造等が挙げられる。
【0056】
電子受容性骨格(A)としては、具体的には、チアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ナフトビスチアジアゾール構造、ジケトピロロピロール構造、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド構造又は3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジイミド構造等が挙げられる。
【0057】
本発明におけるp型有機半導体としては、下記式(II)で表されるものも挙げられる。式(II)中、nは正の数である。
【0058】
【化2】
【0059】
以下に、本発明で用いるp型有機半導体の他の具体的な化合物を例示するが、本発明で用いるp型有機半導体は、以下の例示化合物に限定されるものではない。以下において、nは正の整数である。
【0060】
【化3】
【0061】
本発明で用いるp型有機半導体は、p型半導体としての特性を向上させるためには、重量平均分子量が10000以上であることが好ましく、50000以上であることがさらに好ましい。また上限は溶媒への溶解性の面から、400000以下が好ましく、300000以下がさらに好ましい。
ここで、p型有機半導体の重量平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィーにより求めた値である。
【0062】
<n型有機半導体>
n型半導体は、アクセプター性半導体であり、主に電子輸送性化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある化合物をいう。さらに詳しくは2つの化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の化合物をいう。したがって、アクセプター性化合物は、電子受容性のある化合物であればいずれの化合物も使用可能である。
【0063】
本発明で用いるn型有機半導体の構造は、長波長光の吸収性向上やエネルギー準位調節の点で、電子受容性骨格(A)と電子供与性骨格(D)を有する芳香族化合物であることが好ましく、A-D-A型構造を含む芳香族化合物であることがより好ましい。
【0064】
電子受容性骨格(A)は、電子供与性骨格(D)よりも電子親和力の大きい骨格である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有するヘテロ環化合物(例えばチオフェン、ベンゾジチオフェン、シクロペタジチオフェン、チエノチオフェン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン、ナフトビスチアジアゾール、ジケトピロロピロール、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などの中から、電子受容性骨格(A)と電子供与性骨格(D)を任意に選択し、組み合わせることができる。
これに限らず、上記したように、ドナー性半導体として用いた化合物よりも電子親和力の大きな化合物であればアクセプター性半導体として用いてよい。
【0065】
n型半導体としてフラーレン骨格を有するものを用いると、光電変換効率を高めるために、バルクヘテロ接合構造としても、嵩高いフラーレン骨格の存在でn型半導体とp型半導体との距離が離れてしまい、光電変換効率が低下してしまう。
【0066】
従って、本発明では、n型半導体中にフラーレン骨格を有するものが実質的に含まれていないフラーレン骨格非含有n型有機半導体を用いることが好ましい。
ここで、「フラーレン骨格を実質的に含まない」とは、光電変換層において発生した電荷の内、電子の輸送を非フラーレン型のn型半導体が担うという意味であり、光電変換層のモルフォロジーの改善のために少量含有することはあり得る。そのような目的においては、通常フラーレン骨格を含むn型半導体は、フラーレン骨格を有さない非フラーレン型のn型半導体に対して5質量%以下で含有されており、好ましくはこの割合は2質量%以下である。
【0067】
本発明で用いるn型有機半導体は、特に溶媒として用いる非ハロゲン系溶媒及びp型有機半導体との相溶性および(BHJ)型光電変換層形成能の観点から、下記式(I)で表される化合物及び/又は下記式(I)で表される化合物の2以上の多量体であることが好ましい。
【0068】
【化4】
【0069】
(式(I)中、Aは周期表第14族から選ばれる原子を表し、X~Xは、それぞれ独立して、水素原子又はハロゲン原子を表し、R1a及びR1bは、それぞれ独立して、鎖状のアルキル基を表し、R~Rは、それぞれ独立して、鎖状のアルキル基、鎖状のアルコキシ基、鎖状のチオアルキル基、或いは水素原子を表す。)
【0070】
Aは、周期表第14族から選ばれる原子を表す。Aは、化合物の安定性の点から炭素原子及びケイ素原子が好ましい。
~Xは、それぞれ独立して、水素原子又はハロゲン原子を表す。X~Xは、n型有機半導体のHOMO/LUMOを制御しやすい点からハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子が好ましい。
1a及びR1bは、それぞれ独立して、鎖状のアルキル基を表す。R1a及びR1bの炭素数は、n型有機半導体の溶解性を高める点では多いことが好ましく、また、一方で、p型有機半導体とのBHJ型光電変換層の形成し易さの観点からは少ないことが好ましい。そこで、R1a及びR1bの炭素数は8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、12以上であることがさらに好ましく、また、一方で、24以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましい。
【0071】
炭素数8~24の鎖状のアルキル基としては、n-オクチル基、n-デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等の直鎖アルキル基;2-エチルヘキシル基、2-ブチルオクチル基等の分岐を有する1級アルキル基及び2-オクチル基、2-ノニル基、2-デシル基等の2級アルキル基等が挙げられる。これらのうち、直鎖アルキル基又は分岐を有する1級アルキル基が好ましく、2-エチルヘキシル基又は2-ブチルオクチル基がとりわけ好ましい。
【0072】
~Rは、それぞれ独立して、鎖状のアルキル基、鎖状のアルコキシ基、鎖状のチオアルキル基、或いは水素原子を表す。R~Rは、n型有機半導体の溶解性を高める点では、鎖状のアルキル基、鎖状のアルコキシ基及び鎖状のチオアルキル基が好ましい。R~Rがアルキル基、アルコキシ基又はチオアルキル基である場合の炭素数は、n型有機半導体の溶解性を高める点では多いことが好ましく、また、一方で、p型有機半導体とのBHJ型光電変換層の形成し易さの観点からは少ないことが好ましい。そこで、R1a及びR1bの炭素数は8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、12以上であることがさらに好ましく、また、一方で、24以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましい。
~Rは、アルコキシ基であることが好ましく、炭素数8~24のアルコキシ基であることがより好ましく、具体的には、2-エチルヘキシルオキシ基又はパルミチルオキシ基が挙げられる。
【0073】
p型有機半導体及び非ハロゲン系溶媒との相溶性およびBHJ型光電変換層形成能の観点からR1aとR1bは同じ基であることが好ましい。R~Rは2種類以上の異なる基で構成されることが好ましい。
【0074】
以下に、本発明で用いるn型有機半導体の具体的な化合物を例示するが、本発明で用いるn型有機半導体は、以下の例示化合物に限定されるものではない。
【0075】
【化5】
【0076】
<p型有機半導体及びn型有機半導体の含有割合>
本発明の有機半導体インクに含まれるp型有機半導体とn型有機半導体の割合は、p型有機半導体に対するn型有機半導体の質量比率(n型有機半導体/p型有機半導体質量比)で0.1~3.0、特に0.5~2.5、とりわけ1.0~2.0倍であることが好ましい。上記範囲よりもn型有機半導体が多くp型有機半導体が少ないと、近赤外領域における感度が低下する傾向がある。逆に上記範囲よりもp型有機半導体が多くn型有機半導体が少ないと、暗電流が発生し易い傾向にある。
【0077】
<p型有機半導体とn型有機半導体の合計の固形分濃度>
本発明の有機半導体インクに含まれるp型有機半導体とn型有機半導体の合計の固形分濃度、即ち、有機半導体インク中のp型有機半導体及びn型有機半導体の合計の含有量は、5~40mg/mLであることが好ましく、20~30mg/mLであることがより好ましい。
有機半導体インク中のp型有機半導体とn型有機半導体の合計の固形分濃度が上記下限以上であれば光電変換層の形成効率に優れる。有機半導体インク中のp型有機半導体とn型有機半導体の合計の固形分濃度が上記上限以下であれば有機半導体インクを容易に調製することができ、また、その取り扱い性に優れる。
【0078】
<その他の成分>
本発明の有機半導体インクには、前述のp型有機半導体、n型有機半導体、及び溶媒の他に、必要に応じて安定剤や増粘剤等の成分が含まれていてもよい。
【0079】
<固形分濃度>
本発明の有機半導体インクの固形分濃度(p型有機半導体、n型有機半導体及び必要に応じて含有されるその他の成分の合計濃度)、即ち、有機半導体インク中の溶媒以外の成分の含有量は、光電変換層の形成効率に優れる点では多いことが好ましい。また、一方で、均一で安定性が高く、塗布性に優れるインクを得やすい点では少ないことが好ましい。そこで、具体的には、有機半導体インクに含有される固形分濃度は、10mg/mL以上であることが好ましく、15mg/mL以上であることがより好ましく、また、一方で、150mg/mL以下であることが好ましく、60mg/mL以下であることがより好ましい。
【0080】
<有機半導体インクの製造方法>
本発明の有機半導体インクは、溶媒に上記のp型有機半導体、n型有機半導体、及び必要に応じて含まれるその他の成分を所定の濃度となるように混合することにより製造することができる。
その際の各成分の添加順には、均一なインクを得られれば特に制限はない。
【0081】
なお、各成分を混合する工程においては、より短時間で均一組成の液を得やすい点では加熱することも好ましい。加熱する場合の温度は、各成分の溶解性を向上させる点では高温であることが好ましく、また、各成分の変質や溶媒の揮発等が起こり難い点では、低温であることが好ましい。そこで、具体的には、60~120℃程度で行うことが好ましい。また、混合する際は、撹拌することが好ましい。また、混合後に溶解しきらなかった成分をフィルター濾過等で除去してもよい。混合に際して加熱する場合、フィルター濾過は、混合液を室温(25℃)に戻してから行ってもよい。混合後の液は、インクの安定性の点から室温(25℃)で1分間~24時間程度放置しておくことが好ましい。
【0082】
<有機半導体インクの用途>
本発明の有機半導体インクは、ナフタレン系溶媒を含有することにより、新たな有機半導体を開発、有機半導体の選択の制限を行うことなく、また、外部エネルギーを加えなくとも、有機光電変換素子の耐熱性を高めることができ、有機光電変換素子の光電変換層の形成に好適に用いることができる。
【0083】
[光電変換層]
本発明の光電変換層は、本発明の有機半導体インクを塗布してなるものである。
【0084】
本発明の光電変換層は、光電変換層を形成する面(通常は、後述の本発明の有機光電変換素子の電極面上、或いは電極上に形成された正孔輸送層等の他の層上)に、本発明の有機半導体インクを湿式成膜法により成膜し、形成された塗膜を必要に応じて加熱乾燥させることにより製造することができる。
【0085】
湿式成膜法としては特に制限はないが、具体的にはスピンコート法などが挙げられる。この場合、スピンコートの条件は、有機半導体インクの粘度等を考慮して、定法に従い適宜決定すればよい。成膜時の温度も特に限定されないが、通常100℃以下、例えば20~80℃程度である。
【0086】
成膜された塗膜の加熱乾燥の際の加熱条件としては、有機半導体インクに用いた溶媒を乾燥除去し得る温度であり、用いた溶媒の種類によっても異なるが、50~250℃が好ましく、より好ましくは80~230℃、特に100℃~200℃が好ましい。
【0087】
乾燥時間についても、溶媒を十分に除去し得る時間であればよく、溶媒の種類、加熱温度によっても異なるが、通常1~60分程度である。
【0088】
このようにして形成される本発明の光電変換層の膜厚は、光電変換層の構成や有機光電変換素子の用途に応じて任意に設計することができる。光電変換層の膜厚は、薄過ぎると光吸収が不十分で効率が低下し、厚過ぎると内部抵抗が増大して損失が大きくなることから、通常10nm~1μm程度とされる。
【0089】
[有機光電変換素子]
本発明の有機光電変換素子は、上述の本発明の光電変換層を有するものである。
【0090】
本発明の有機光電変換素子の構造は、例えば特開2007-324587号公報の記載などを参照することができ、特段限定されない。本発明の有機光電変換素子の構造は、例えば、透明基板上に、透明電極、電子輸送層、光電変換層、正孔輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってよく、透明基板上に、透明電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってもよい。
【0091】
図1は、本発明の有機光電変換素子の一例を示す模式的断面図である。この有機光電変換素子10は、第1電極11、正孔輸送層12、光電変換層13、電子輸送層14、及び下部電極としての第2電極15がこの順で積層されている。正孔輸送層12、光電変換層13及び電子輸送層14で有機光電膜20を形成する。通常、第1電極11の正孔輸送層12とは反対側には基板が設けられる。
【0092】
<基板>
有機光電変換素子は、第1電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層及び第2電極等を支持するために、基板を備えていてもよい。基板は、第1電極側、第2電極側のいずれに設けられていてもよく、両側に設けられてもよいが、少なくとも、第1電極側に設けられていることが好ましい。
基板は、任意の材料により形成することが可能であるが、光を基板側から入射する場合は、透明性の高い材料で形成する必要がある。
【0093】
基板の構成材料の例を挙げると、ガラス、サファイア、チタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン等の有機材料;紙、合成紙等の紙材料;ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート或いはラミネートしたもの等の複合材料;などが挙げられる。なお、基板の構成材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0094】
基板の形状及び寸法に制限はなく、任意に設定することができる。
【0095】
基板には、ガスバリア性の付与や表面状態の制御のために、別の層を積層してもよい。
【0096】
基板の厚さは、有機光電変換素子の用途、構成材料等に応じて任意に設計可能である。基板の厚さは、過度に薄いと、強度が不足して支持部材としての機能を果たし得ず、過度に厚いとコストアップとなる。このため、基板は、通常10μm~50mm程度のフィルム状、ないし板状とされる。
【0097】
<電極>
電極(第1電極、第2電極)は、導電性を有する任意の材料により形成することが可能である。
【0098】
電極の構成材料の例を挙げると、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属あるいはそれらの合金;酸化インジウムや酸化錫等の金属酸化物、あるいはその複合酸化物(例えばITO、IZO);ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記導電性高分子に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを添加したもの;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。
電極の構成材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0099】
有機光電変換素子において、電極は少なくとも一対(2個)設けられ、この一対の電極の間に光電変換層が設けられる。この際、一対の電極のうち、少なくとも一方は透明(即ち、発電のために光電変換層が吸収する光を透過させる)であることが好ましい。
【0100】
透明な電極の材料を挙げると、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の複合酸化物;金属薄膜などが挙げられる。
透明電極における光の透過率の具体的範囲に制限は無いが、有機光電変換素子の光電変換効率を考慮すると、80%以上が好ましい。光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能できる。
【0101】
電極は、光電変換層内に生じた正孔及び電子を捕集する機能を有するものである。従って、電極の構成材料としては、上述した材料のうち、正孔及び電子を捕集するのに適した構成材料を用いることが好ましい。正孔の捕集に適した電極の材料を挙げると、例えば、Au、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。一方、電子の捕集に適した電極の材料を挙げると、例えば、Alのような低い仕事関数を有する材料が挙げられる。
【0102】
電極の厚さには特に制限はなく、用いた材料と、必要とされる導電性、透明性等を考慮して適宜決定される。電極の厚さは、通常10nm~100μm程度である。
【0103】
電極の形成方法に制限はないが、例えば、真空蒸着、スパッタ等のドライプロセスにより形成することができる。また、例えば、導電性インク等を用いたウェットプロセスにより形成することもできる。導電性インクとしては任意のものを使用することができ、例えば、導電性高分子、金属粒子分散液等を用いることができる。
電極は2層以上積層してもよく、特性(電気特性やぬれ特性等)改良のための表面処理を施してもよい。
【0104】
<正孔輸送層>
正孔輸送層には、公知の正孔輸送物質を用いることができる。具体的なものとしては、例えば以下に例示されるポリトリアリールアミン化合物等の正孔輸送性高分子が用いられる。その他、例えば、特開2019-173032号公報に記載の2,7-ビス(4-ブロモフェニル)-9,9-ジヘキシルフルオレン、2-アミノ-9,9-ジヘキシルフルオレン、4-(4-(1,1-ビス(4'-ブロモ-[1,1'-ビフェニル]-4-イル)エチル)フェニル)-1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレンから合成したポリトリルアリールアミン化合物、4,4’-ジブロモビフェニル、2-アミノ-9,9-ジヘキシルフルオレン、3-(1,2-ジヒドロキシシクロブタ[a]ナフタレン-4-イル)アニリンから合成したポリトリアリールアミン化合物、4,4’-ジブロモビフェニル、4-(3,5-ジブロモフェニル)-1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレン、2-アミノ-9,9-ジヘキシルフルオレンから合成したポリトリアリールアミン化合物などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
【化6】
【0106】
【化7】
【0107】
【化8】
【0108】
正孔輸送層の製膜方法も特に限定されないが、好ましくは正孔輸送性高分子を用い、湿式成膜法により形成される。
湿式成膜法による正孔輸送層の形成には、正孔輸送性高分子と溶剤とを含む正孔輸送層形成用組成物が用いられる。
【0109】
該溶剤は、正孔輸送性高分子を溶解すればよく、通常正孔輸送性高分子を常温で0.05質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上溶解する溶剤である。
溶剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが好ましい。
【0110】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、及び1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0111】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
【0112】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0113】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
これらの他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0114】
正孔輸送層形成用組成物における正孔輸送性高分子の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。正孔輸送層形成用組成物における正孔輸送性高分子の濃度は、膜厚の均一性の点では低い方が好ましく、正孔輸送層に欠陥が生じ難い点では高い方が好ましい。正孔輸送層形成用組成物における正孔輸送性高分子の濃度は、具体的には、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることが更に好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0115】
正孔輸送層形成用組成物中の溶剤の濃度は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0116】
正孔輸送層形成用組成物を用いて正孔輸送層を成膜する場合、正孔輸送層形成用組成物の塗布後、通常加熱を行う。
【0117】
正孔輸送層形成用組成物を用いて形成された層の加熱の手法は特に限定されないが、加熱乾燥の場合の温度条件としては、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上で、通常400℃以下、好ましくは350℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。
加熱手段としては特に限定されないが、形成された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0118】
正孔輸送層の膜厚は、一実施形態では50nm以上100nm以下であり、別の実施形態では100nmより大きく400nm以下、好ましくは350nm以下である。すなわち、正孔輸送層の膜厚は、通常50nm以上400nm以下、好ましくは350nm以下である。
正孔輸送層の膜厚が上記下限以上であれば、ブロッキング層として正孔輸送層を設けたことによる暗電流の低減効果を有効に得ることができる。正孔輸送層の膜厚が上記上限以下であれば、有機光電変換素子を利用したCMOSイメージセンサにおいて光の入射角を広くとることが可能であり、また、有機光電変換素子の薄膜化を図ることができる。
【0119】
暗電流を効果的に低減するために、正孔輸送層は光電変換層のn型有機半導体に対して0.3eV以上浅いLUMOを有していることが好ましく、0.5eV以上浅いLUMOを有していることが好ましく、1.0eV以上浅いLUMOを有することがさらに好ましい。また、正孔輸送層は光電変換層で発生した正孔を効率よく第1電極へと運ぶ役割を果たすことから、光電変換層のp型有機半導体とのHOMOの差が0.5eV以内であることが好ましく、0.3eV以内であることが好ましい。
【0120】
<光電変換層>
光電変換層は、光を吸収して電荷を分離する層である。本発明の有機光電変換素子の光電変換層は、前述の本発明の有機半導体インクにより形成された前述の本発明の光電変換層である。
【0121】
<電子輸送層>
電子輸送層は、有機光電変換素子に必ずしも必要とされるものではないが、光電変換層と第2電極との間に電子輸送層を設けることで、光電変換効率を高めたり、暗電流を低減したりすることができる。
【0122】
電子輸送層は、光電変換層で生成した電子を効率よく第2電極に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、光電変換層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0123】
このために、電子輸送層は光電変換層のn型半導体とのLUMOの差が1.5eV以下であることが好ましく、1.0eVであることが好ましい。また、電子輸送層によって暗電流を低減させる場合、電子輸送層は光電変換層のp型半導体に対して0.3eV以上深いHOMOを有していることが好ましく、0.5eV以上深いHOMOを有していることが好ましく、1.0eV以上深いHOMOを有していることがさらに好ましい。
【0124】
電子輸送層に用いる電子輸送性化合物としては、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0125】
電子輸送層の形成材料として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウムなどの金属酸化物を用いることもできる。その場合、電子輸送層の成膜方法としては、金属酸化物のナノ粒子を湿式成膜して乾燥して金属酸化物層とする方法や、前駆体を湿式成膜して加熱変換する方法を用いることができる。
【0126】
電子輸送層の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0127】
電子輸送層は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により形成することができるが、通常、真空蒸着法が用いられる。
【0128】
<その他の構成層>
有機光電変換素子は、本発明の効果を著しく損なわなければ、上述した基板、第1及び第2電極、正孔輸送層、光電変換層及び電子輸送層以外の構成層を備えていてもよい。
例えば、有機光電変換素子は、外気の影響を最小限にするために、光電変換層部分、更には電極部分を含めて覆うように保護膜を備えていてもよい。保護層は、例えば、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンポリビニルアルコール共重合体等のポリマー膜;酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜;あるいはこれらの積層膜などにより構成することができる。
【0129】
前記の保護膜の形成方法に制限はない。例えば、保護膜をポリマー膜とする場合には、ポリマー溶液の塗布乾燥による形成方法、モノマーを塗布或いは蒸着して重合する形成方法などが挙げられる。ポリマー膜の形成に際しては、さらに架橋処理を行なったり、多層膜を形成したりすることも可能である。
保護膜を無機酸化膜や窒化膜等の無機物膜とする場合には、例えば、スパッタ法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法などを用いることができる。
【0130】
光電変換層で発生した電荷を効率よく電極に捕集させるために、第1電極と正孔輸送層との間、あるいは電子輸送層と第2電極との間に電荷注入層を備えていてもよい。
【0131】
有機光電変換素子は、例えば紫外線を透過させない光学フィルタを光の入射側に備えていてもよい。紫外線は一般に有機光電変換素子の劣化を促進することが多いため、この紫外線を遮断することにより、有機光電変換素子を長寿命化させることができるからである。
【0132】
<有機光電変換素子の製造方法>
有機光電変換素子は、通常、基板上に、第1電極、正孔輸送層、光電変換層、第2電極の順でこれらの層をそれぞれ前述した方法で積層形成することにより製造される。これらの層間に必要に応じて設けられる電子輸送層等の形成工程が設けられる。
【0133】
<有機光電変換素子の用途>
本実施形態の光電変換素子は、好ましくは近赤外光領域に吸収波長を有する光センサーや、撮像素子等に使用される。その場合の光センサー及び撮像素子の構成は、既知のものを適用すればよい。
【実施例0134】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0135】
<測定方法>
[耐熱性試験]
耐熱性試験は、素子製造におけるリフロー工程時などの加熱環境を想定した加熱試験であり、有機光電変換素子を200℃の温度条件に50分間保持する条件で実施した。
【0136】
[EQEの測定方法]
擬似太陽光装置・電気特性測定機器(分光計器社製)による分光感度の測定から、波長940nmの光において、耐熱性試験を行った有機光電変換素子に-5Vの電圧を印加した際の外部量子効率(EQE)の値を得た。
【0137】
<実施例1>
[正孔輸送層の形成]
ガラス基板上に電極としてインジウムスズ酸化物(ITO)の透明導電膜がパターン成膜されたITO基板の表面を、紫外線オゾン洗浄機(NL-UV253、日本レーザー電子社製)で10分間処理した後に、正孔輸送層を次のように成膜した。
【0138】
下記式(1)に示すポリトリアリールアミン化合物(正孔輸送性高分子)60mgを1mLのアニソールに溶解させ、正孔輸送層形成用組成物を調製した。この組成物を回転数1000rpmで60秒間、ITO基板の電極面にスピンコートし、240℃で30分間時間加熱乾燥して、膜厚300nmの正孔輸送層を形成した。
【0139】
【化9】
【0140】
[有機半導体インクの調製]
n型有機半導体としては、下記式(I)において、Aが炭素原子、X~Xがそれぞれ塩素原子、R1a,R1bがそれぞれ2-エチルヘキシル基、Rが2-エチルヘキシル基、Rが2-エチルヘキシルオキシ基、R,Rがそれぞれ水素原子である化合物(分子量1339)を用いた。
p型有機半導体としては、下記式(II)で表される化合物(重量平均分子量80000)を用いた。
【0141】
【化10】
【0142】
【化11】
【0143】
p型有機半導体55mg及びn型有機半導体55mgを、o-キシレン4.40mL及び1-フェニルナフタレン0.22mLの混合溶媒(1-フェニルナフタレンの含有率:4.8体積%)に溶解させて有機半導体インクを調製した。
得られた有機半導体インクにおいて、p型有機半導体とn型有機半導体の質量比(n型有機半導体/p型有機半導体質量比)は1.0であり、有機半導体インクの固形分濃度は23.8mg/mLであった。
【0144】
[有機光電変換素子の製造]
得られた有機半導体インクを用いて、正孔輸送層上に毎分1000回転でスピンコートした後、120℃で10分間加熱処理し、膜厚150nmの光電変換層を形成した。
【0145】
次いで、光電変換層上に、電子輸送材料としてC60フラーレン(フロンティアカーボン社製)を真空中で成膜し、厚さ40nmの電子輸送層を形成した。
更に、電子輸送層上に、金属電極材料としてアルミニウムを真空中で成膜し、厚さ100nmの電極層を形成して、有機光電変換素子を得た。
得られた有機光電変換素子について、上記の方法で耐熱性試験を行った後、EQEを求めた。結果を表1に示す。
【0146】
<実施例2>
実施例1において、1-フェニルナフタレンを1-クロロナフタレンに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0147】
<実施例3>
実施例1において、1-フェニルナフタレンを1-メチルナフタレンに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0148】
<実施例4>
実施例1において、1-フェニルナフタレンを2-エチルナフタレンに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0149】
<比較例1>
実施例1において、1-フェニルナフタレンを用いず、o-キシレンのみを4.62mL用いた以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0150】
<比較例2>
実施例1において、1-フェニルナフタレンを1,8-ジヨードオクタンに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0151】
<比較例3>
実施例1において、1-フェニルナフタレンをテトラリンに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0152】
<比較例4>
実施例1において、1-フェニルナフタレンをキノリンに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0153】
<比較例5>
実施例1において、1-フェニルナフタレンをβ-テトラロンに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0154】
<比較例6>
実施例1において、1-フェニルナフタレンをフェニルエーテルに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0155】
<比較例7>
実施例1において、1-フェニルナフタレンを2-メチルテトラヒドロフランに変更した以外は、同様にして有機光電変換素子を製造し、同様にEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0156】
以下の表1には、比較例1の有機光電変換素子のEQE(%)を「100」とした場合の相対値を併記した。
【0157】
【表1】
【0158】
表1より次のことが分かる。
ナフタレン系溶媒を含む溶媒を用いた実施例1~4では、比較例1(ナフタレン系溶媒非含有)と比べて、EQEが19~30%改善している。これは、ナフタレン系溶媒は、p型有機半導体とn型有機半導体の両方への相互作用が強く(相溶性が高く)、光電変換層形成時はp型有機半導体とn型有機半導体の相溶性の高いBHJ構造が形成されていると考えられる。その結果、耐熱性試験過程においてp型有機半導体とn型有機半導体のドメイン成長は起こりうるものの、耐熱性試験後も光電変換プロセスに適したBHJ構造が保持されていることによると考えられる。
実施例1~4の中で、実施例1のEQEが最も高かったのは、1-フェニルナフタレンの置換基であるフェニル基の芳香族側鎖構造がp型有機半導体とn型有機半導体への相互作用を強めたことに起因すると考えられる。
o-キシレンと組み合わせる溶媒として、ナフタレン系溶媒以外の溶媒を用いた比較例2~7では、実施例1~4に相当する効果は認められない。これは、比較例2~7ではp型有機半導体とn型有機半導体への相互作用が不十分で、耐熱性試験前にp型有機半導体とn型有機半導体の相溶性の高いBHJ構造が形成できていないことによると考えられる。
【符号の説明】
【0159】
10 有機光電変換素子
11 第1電極
12 正孔輸送層
13 光電変換層
14 電子輸送層
15 第2電極
20 有機光電膜
図1