(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117104
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】薄膜形成用原料、薄膜及び薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20240822BHJP
C07F 11/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C23C16/18
C07F11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022991
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】畑▲瀬▼ 雅子
(72)【発明者】
【氏名】石橋 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】武田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】満井 千瑛
【テーマコード(参考)】
4H050
4K030
【Fターム(参考)】
4H050AA03
4H050AB78
4H050WB11
4H050WB14
4H050WB21
4K030AA02
4K030AA11
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA12
4K030BA42
4K030CA02
4K030CA05
4K030CA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱安定性及び蒸気性に優れ、且つ、残留炭素が少ない高品質な薄膜を製造することができる、薄膜形成用原料及びそれを用いた薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を含有する薄膜形成用原料。
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、脂肪族炭化水素基又は置換脂肪族炭化水素基を表し、R
3、R
4、R
5、R
6及びR
7は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基等を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を含有する薄膜形成用原料。
【化1】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、各々独立して、脂肪族炭化水素基又は置換脂肪族炭化水素基を表し、R
3、R
4、R
5、R
6及びR
7は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基、又は、下記一般式(2)で表される基を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Aは、直接結合、又は、炭素原子数1以上5以下のアルカンジイル基を表し、Lは、下記一般式(L-1)又は(L-2)で表される基を表し、*は、結合手を表す。)
【化3】
(一般式(L-1)及び一般式(L-2)中、R
8、R
9及びR
10は、各々独立して、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数1以上5以下の置換アルキル基を表し、*は、結合手を表す。)
【請求項2】
R1及びR2が、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基又は炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【請求項3】
R1が、炭素原子数3以上5以下の脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【請求項4】
前記一般式(1)中のR1及びR2の少なくとも1つが、tert-ブチル基である、請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【請求項5】
前記一般式(1)中のR3、R4、R5、R6及びR7の少なくとも1つが、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基又は炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【請求項6】
前記薄膜形成用原料が、原子層堆積法用薄膜形成用原料である、請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜。
【請求項8】
請求項1~6の何れか一項に記載の薄膜形成用原料を用いて、モリブデン原子を含有する薄膜を形成する、薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記薄膜形成用原料を気化させて得られる原料ガス中のモリブデン化合物を分解するか、又は該モリブデン化合物と反応性ガスとを反応させて、モリブデン原子を含有する薄膜を形成する、請求項8に記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記薄膜形成用原料を気化させて得られる原料ガスを成膜チャンバー内に導入し、前記原料ガス中のモリブデン化合物を基体の表面に堆積させて、前駆体薄膜を形成する工程と、
反応性ガスを成膜チャンバー内に導入し、前記前駆体薄膜と前記反応性ガスとを反応させて、モリブデン原子を含有する薄膜を形成する工程と、
を含む、請求項8に記載の薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のモリブデン化合物を含有する薄膜形成用原料、薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜及び薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデン原子を含有する薄膜(以下、「モリブデン含有薄膜」と称する場合がある)は、有機発光ダイオード、液晶ディスプレイ、プラズマデイスプレイパネル、電界放出ディスプレイ、薄膜太陽電池、半導体デバイス、被覆材、耐熱材、合金、航空機の部材等に使用されている。
【0003】
モリブデン含有薄膜の製造方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、化学気相成長法等が挙げられる。これらの中で、組成制御性、段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition,以下、「CVD法」と称する場合がある)及び原子層堆積法(Atomic Layer Deposition,以下、「ALD法」と称する場合がある)法を含む化学気相成長法が最適な製造プロセスである。
【0004】
モリブデン含有薄膜を形成する薄膜形成用原料として、様々な化合物が知られている。例えば、特許文献1には、トリカルボニル(エチルベンゼン)モリブデン酸を用いて薄膜を形成することが開示されている。特許文献2には、モリブデンヘキサカルボニル[Mo(CO)6]を用いて薄膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2022-510566号公報
【特許文献2】特開2005-29851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のモリブデン化合物は、熱安定性が不十分であり、蒸気性が良好ではなかった。また、ALD法等の化学気相成長法により薄膜を形成した場合、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を得ることが困難であった。
【0007】
従って、本発明は、熱安定性及び蒸気性に優れ、且つ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成することができる、薄膜形成用原料及びそれを用いた薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するモリブデン化合物を含有する薄膜形成用原料を用いることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本開示は、下記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を含有する薄膜形成用原料を提供する。
【0010】
【0011】
上記一般式(1)中、R1及びR2は、各々独立して、脂肪族炭化水素基又は置換脂肪族炭化水素基を表し、R3、R4、R5、R6及びR7は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基、又は、下記一般式(2)で表される基を表す。
【0012】
【0013】
上記一般式(2)中、Aは、直接結合、又は、炭素原子数1以上5以下のアルカンジイル基を表し、Lは、下記一般式(L-1)又は(L-2)で表される基を表し、*は、結合手を表す。
【0014】
【0015】
上記一般式(L-1)及び上記一般式(L-2)中、R8、R9及びR10は、各々独立して、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数1以上5以下の置換アルキル基を表し、*は、結合手を表す。
【0016】
本開示は、上述の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜を提供する。
【0017】
本開示は、上記薄膜形成用原料を用いて、モリブデン原子を含有する薄膜を形成する、薄膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、熱安定性及び蒸気性に優れ、且つ、残留炭素が少ないモリブデン含有薄膜を形成することができる薄膜形成用原料及びそれを用いた薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられるALD装置の一例を示す概要図である。
【
図2】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられるALD装置の別の例を示す概要図である。
【
図3】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられるALD装置の別の例を示す概要図である。
【
図4】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられるALD装置の別の例を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.薄膜形成用原料
本開示の薄膜形成用原料について説明する。
【0021】
A1.一般式(1)で表される化合物
本開示の薄膜形成用原料は、下記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を含有するものである。本開示の薄膜形成用原料は、下記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を少なくとも1種を含有すればよく、2種以上を含有してもよい。
【0022】
【0023】
上記一般式(1)中、R1及びR2は、各々独立して、脂肪族炭化水素基又は置換脂肪族炭化水素基を表し、R3、R4、R5、R6及びR7は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基、又は、下記一般式(2)で表される基を表す。
【0024】
【0025】
上記一般式(2)中、Aは、直接結合、又は、炭素原子数1以上5以下のアルカンジイル基を表し、Lは、下記一般式(L-1)又は(L-2)で表される基を表し、*は、結合手を表す。
【0026】
【0027】
上記一般式(L-1)及び上記一般式(L-2)中、R8、R9及びR10は、各々独立して、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数1以上5以下の置換アルキル基を表し、*は、結合手を表す。
【0028】
上記一般式(1)中、R1及びR2で表される脂肪族炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。
上記飽和脂肪族炭化水素基としては、鎖状飽和脂肪族炭化水素基、脂肪族炭化水素環を有する脂肪族環含有飽和脂肪族炭化水素基、が挙げられ、鎖状飽和脂肪族炭化水素基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、例えば、アルキル基等が挙げられる。
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0029】
上記脂肪族環含有飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;上述のアルキル基の一部の水素原子がシクロアルキル基で置換されたシクロアルキルアルキル基等が挙げられる。
【0030】
上記不飽和脂肪族炭化水素基は、上記飽和脂肪族炭化水素基において、一部の炭素-炭素原子間に、不飽和結合(二重結合又は三重結合をいう)を有する基が挙げられる。
上記不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0031】
また、上記一般式(1)中、R1及びR2で表される置換脂肪族炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基の少なくとも1つの水素原子が、ハロゲン原子によって置換されたもの、脂肪族炭化水素基の一部のメチレン基が、酸素原子、硫黄原子で置換されたものが挙げられる。
【0032】
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0033】
例えば、置換脂肪族炭化水素基が置換アルキル基である場合、上記アルキル基の一部又は全部の水素原子が上記ハロゲン原子で置換されたアルキル基が挙げられ、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、フルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、フルオロペンチル基、ウンデシルフルオロペンチル基等が挙げられる。
【0034】
本開示においては、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、R1が、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1以上5以下の飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、炭素原子数1以上5以下の鎖状飽和脂肪族炭化水素基であることが更に好ましく、炭素原子数1以上5以下のアルキル基であることが更により好ましい。また、炭素原子数1以上5以下のアルキル基のなかでも、炭素原子数3以上5以下のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数3以上4以下のアルキル基であることがより好ましく、tert-ブチル基であることが更に好ましい。
【0035】
また、本開示においては、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、R2が、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1以上5以下の飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、炭素原子数1以上5以下の鎖状飽和脂肪族炭化水素基であることが更に好ましく、炭素原子数1以上5以下のアルキル基であることが更により好ましい。また、炭素原子数1以上5以下のアルキル基のなかでも、炭素原子数1以上4以下のアルキル基であることが好ましく、メチル基又はtert-ブチル基であることがより好ましい。
【0036】
本開示においては、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、R1及びR2の少なくとも1つが、tert-ブチル基であることが好ましく、R1及びR2の両方がtert-ブチル基であることがより好ましい。
【0037】
上記一般式(1)中、R3、R4、R5、R6及びR7で表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0038】
また、上記一般式(1)中、R3、R4、R5、R6及びR7で表される炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基としては、上記R1及びR2で表される脂肪族炭化水素基又は置換脂肪族炭化水素基において例示された基のうち、炭素原子数1以上5以下の基が挙げられる。
【0039】
また、上記一般式(1)中、R3、R4、R5、R6及びR7で表される、上記一般式(2)において、Aで表される、炭素原子数1以上5以下のアルカンジイル基としては、例えば、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。
【0040】
更に、上記一般式(2)中、Lで表される一般式(L-1)及び一般式(L-2)で表される基において、R8、R9及びR10で表される炭素原子数1以上5以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0041】
また、上記一般式(L-1)及び上記一般式(L-2)中、R8、R9及びR10で表される炭素原子数1以上5以下の置換アルキル基としては、上記アルキル基の一部又は全部の水素原子が上記ハロゲン原子で置換された基が挙げられ、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、フルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、フルオロペンチル基、ウンデシルフルオロペンチル基等が挙げられる。
【0042】
本開示においては、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、R3、R4、R5、R6及びR7が、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基及び炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基から選択される基であることがより好ましく、水素原子及び炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基から選択される基であることが更に好ましく、水素原子及びメチル基から選択される基であることが更により好ましい。
【0043】
本開示においては、低融点で、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、R3、R4、R5、R6及びR7の少なくとも1つが、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基又は炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
また、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、R3、R4、R5、R6及びR7の少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、2つが水素原子であることがより好ましく、3つが水素原子であることが更に好ましく、4つ又は全てが水素原子であることが更により好ましい。
【0044】
上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物の形態は、常圧25℃で固体であっても液体であってもよいが、配管内の輸送性を確保するため、常圧25℃で液体である方が好ましい。
【0045】
上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物の好ましい具体例としては、下記No.1~No.52の化合物が挙げられる。但し、本発明はこれらの化合物によって限定されるものではない。なお、下記化学式中の「Me」は、メチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「nPr」は、n-プロピル基を表し、「iPr」はイソプロピル基を表し、「nBu」は、n-ブチル基を表し、「sBu」は、sec-ブチル基を表し、「tBu」はtert-ブチル基を表す。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の合成方法で製造することができる。上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物は、例えば、溶媒存在下、トリカルボニルシクロペンタジエニルモリブデンクロリド[MoCl(Cp)(CO)3]とリチウムケチミド[Li(N=CR2)]とを混合して撹拌し、反応させることで製造することができる。
【0060】
A2.他の成分
本開示の薄膜形成用原料は、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を、薄膜のプリカーサとして含有するものであればよく、目的とする薄膜の種類に応じて、他の成分を含むことができる。
上記他の成分としては、例えば、他のプリカーサ、有機溶剤、求核試薬等が挙げられる。
【0061】
(1)他のプリカーサ
上記他のプリカ―サとは、金属原子及び/又は半金属を含む化合物であって、上記一般式(1)で表される化合物を除くものである。
金属としてモリブデン原子のみを含有する薄膜を製造する場合、本開示の薄膜形成用原料は、他のプリカーサとして、金属原子としてモリブデンのみを含む、金属化合物及び半金属化合物を含むことができる。
金属としてモリブデン原子以外の金属原子を含む薄膜を製造する場合、本開示の薄膜形成用原料は、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物に加えて、所望の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物を含むことができる。
【0062】
本開示においては、上記他のプリカーサは、特に制限を受けず、ALD法、CVD法等の薄膜形成用原料に用いられる周知一般のプリカーサを用いることができる。
上記他のプリカーサとしては、例えば、アルコール化合物、グリコール化合物、β-ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される1種又は2種以上と、珪素や金属との反応物が挙げられる。また、プリカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、オスミウム、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、ラジウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又はルテチウムが挙げられる。
【0063】
上記他のプリカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-メトキシ-1-メチルエタノール、2-メトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-エトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-イソプロポキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-ブトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)-1,1-ジメチルエタノール、2-プロポキシ-1,1-ジエチルエタノール、2-sec-ブトキシ-1,1-ジエチルエタノール、3-メトキシ-1,1-ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;ジメチルアミノエタノール、エチルメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノ-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-ペンタノール、ジメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、ジエチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール等のジアルキルアミノアルコール類等が挙げられる。
【0064】
上記他のプリカーサの有機配位子として用いられるシクロペンタジエン化合物としては、例えば、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、sec-ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、tert-ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0065】
上記他のプリカーサの有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0066】
上記他のプリカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いる場合には、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プリカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、例えば、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができる。アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0067】
本開示の薄膜形成用原料を、後述する「C.薄膜の製造方法」に記載の「シングルソース法」を用いて薄膜を形成する場合、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、上記他のプリカーサとしては、熱分解及び/又は酸化分解の挙動が上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物と類似している化合物であることが好ましい。
本開示の薄膜形成用原料を、後述する「C.薄膜の製造方法」に記載の「カクテルソース法」を用いて薄膜を形成する場合、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、上記他のプリカーサは、熱分解及び/又は酸化分解の挙動が上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物と類似していることに加え、混合時に化学反応等による変質を起こさない化合物であることが好ましい。
【0068】
本開示においては、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、上記他のプリカ―サの含有量は、薄膜形成用原料100質量部に対し、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましく、特に、5質量部以下であることが更により好ましく、0質量部、すなわち他のプリカーサを含まないことが最も好ましい。
【0069】
(2)有機溶剤
本開示の薄膜形成用原料は、上記一般式(1)で表される化合物、又は、上記他のプリカーサを溶解するために、有機溶剤を含むことができる。
上記有機溶剤は、特に制限を受けることなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。上記有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1-シアノプロパン、1-シアノブタン、1-シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,4-ジシアノシクロヘキサン、1,4-ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
本開示の薄膜形成用原料が上記有機溶剤を含む場合、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、薄膜形成用原料中におけるプリカーサ全体の量が0.01モル/リットル以上2.0モル/リットル以下となるように調整することが好ましく、0.03モル/リットル以上1.5モル/リットル以下となるように調整することがより好ましく、0.05モル/リットル以上1.0モル/リットル以下となるように調整することが更に好ましい。
【0071】
ここで、プリカーサ全体の量とは、薄膜形成用原料が、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物以外のプリカーサを含有しない場合、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物の量を表す。薄膜形成用原料が、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物に加えて、他のプリカーサを含有する場合、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物と、他のプリカーサとの合計量を表す。
【0072】
(3)求核性試薬
本開示の薄膜形成用原料は、求核性試薬を含むことができる。
上記求核性試薬としては、例えば、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、ジベンゾ-24-クラウン-8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸-2-メトキシエチル等のβ-ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ-ジケトン類が挙げられる。
【0073】
本開示の薄膜形成用原料が上記求核性試薬を含む場合、上記求核性試薬の含有量は、プリカーサ全体の量1モルに対して、0.1モル以上10モル以下の範囲であることが好ましく、0.5モル以上8モル以下の範囲であることがより好ましく、1モル以上4モル以下の範囲であることが更に好ましい。
【0074】
(4)不純物
本開示の薄膜形成用原料には、上記の構成成分、すなわち、薄膜形成用原料を構成する、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物、上記他のプリカーサ、上記有機溶剤、上記求核性試薬を除き、不純物を極力含まないようにすることが望ましい。上記不純物としては、例えば、不純物金属元素分、不純物ハロゲン分、不純物有機分及び水分等が挙げられる。
【0075】
上記不純物金属元素分は、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を構成する金属元素とは異なる金属元素が挙げられる。上記不純物金属元素分の含有量は、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、本開示の薄膜形成用原料中、上記不純物金属元素分の元素分が、1ppm以下であることが好ましく、100ppb以下であることがより好ましく、10ppb以下であることが更に好ましく、1ppb以下であることが最も好ましい。
【0076】
上記不純物ハロゲン分とは、塩素、フッ素等のハロゲン化合物が挙げられる。不純物ハロゲン分の含有量は、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、本開示の薄膜形成用原料中、100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが更に好ましい。
【0077】
上記不純物有機分は、上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を構成する有機物とは異なる有機分が挙げられる。上記不純物有機分の含有量は、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、本開示の薄膜形成用原料中、総量で、500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましい。
【0078】
上記水分は、薄膜形成用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるため、上記薄膜形成用原料の各成分は、使用の際にあらかじめ水分を取り除くことが望ましい。
上記一般式(1)で表されるモリブデン化合物、上記他のプリカーサ、上記有機溶剤、上記求核性試薬における水分の含有量は、熱安定性及び蒸気性に優れ、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが更に好ましい。
【0079】
また、本開示の薄膜形成用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにすることが好ましい。具体的には、均一なモリブデン含有薄膜が得られやすいという観点から、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きいパーティクルの数が薄膜形成用原料1mL中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きいパーティクルの数が薄膜形成用原料1mL中に100個以下であることがより好ましい。
【0080】
B.薄膜
次に、本開示の薄膜について説明する。
本開示の薄膜は、上述の薄膜形成用原料を用いて製造されるため、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を提供することができる。
本開示の薄膜の製造方法としては、本開示の薄膜形成用原料を用いて、モリブデン含有薄膜を製造する方法であればよく、特に、限定されるものではないが、後述する「C.薄膜の製造方法」に記載の方法を用いて製造することができる。
【0081】
本開示の薄膜は、金属モリブデン、モリブデン酸化物、モリブデン窒化物、モリブデン硫化物等の薄膜が挙げられるが、上述した薄膜は、他のプリカーサ、反応性ガス及び後述する薄膜の製造方法の製造条件を適宜選択することによって、所望の種類の薄膜とすることができる。
本開示の薄膜は、電気特性及び光学特性に優れるため、例えば、DRAM素子に代表されるメモリー素子の電極材料、ロジック素子等の半導体素子に用いられる配線材料、ハードディスクの記録層に用いられる反磁性膜及び固体高分子形燃料電池用の触媒材料等の製造に広く用いることが可能である。
【0082】
C.薄膜の製造方法
次に、本開示の薄膜の製造方法について説明する。
本開示の薄膜の製造方法は、上記薄膜形成用原料を用いて、モリブデン含有薄膜を製造するものである。
【0083】
本開示においては、残留炭素の少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、CVD法、ALD法等の化学気相成長法により薄膜を製造する方法が好ましい。
CVD法によりモリブデン含有薄膜を製造する方法は、上記薄膜形成用原料を気化させて得られる原料ガス中のモリブデン化合物を分解するか、又はモリブデン化合物と反応性ガスとを反応させて、モリブデン含有薄膜を製造する。
【0084】
特に、残留炭素の少ないモリブデン含有薄膜が得られやすいという観点から、上記薄膜形成用原料を用いて、ALD法により薄膜を製造する方法が好ましい。ALD法によりモリブデン含有薄膜を製造する方法は、上記薄膜形成用原料を気化させて得られる原料ガスを成膜チャンバー内に導入し、原料ガス中のモリブデン化合物を基体の表面に堆積させて、前駆体薄膜を形成する工程と、反応性ガスを成膜チャンバー内に導入し、前駆体薄膜と反応性ガスとを反応させて、モリブデン含有薄膜を形成する工程とを含む。
薄膜形成用原料及び反応性ガスの輸送供給方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の方法、条件及び装置を用いることができる。
【0085】
本開示の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する装置は、周知のALD装置を用いることができる。具体的な装置の例としては、
図1及び
図3のようなプリカーサをバブリング供給することのできる装置や、
図2及び
図4のように気化室を有する装置が挙げられる。また、
図3及び
図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。なお、
図1~
図4のような成膜チャンバーを備えた枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。なお、これらはCVD装置としても用いることができる。
【0086】
以下、薄膜の製造方法について、ALD法により薄膜を製造する方法を例にとり、各工程について説明する。
なお、本開示の薄膜の製造方法に用いられる薄膜形成用原料は、上記「A.薄膜形成用原料」の項で説明したものと同様であるため、説明を省略する。
【0087】
C1.前駆体薄膜形成工程
上記前駆体薄膜形成工程では、薄膜形成用原料を気化させて得られる原料ガスを成膜チャンバー内に導入し、原料ガス中のモリブデン化合物を基体の表面に堆積させて、前駆体薄膜を形成する。
【0088】
(1)原料ガスの導入
上記薄膜形成用原料を気化させて得られる原料ガスを、成膜チャンバー内に導入する方法としては、気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0089】
上記気体輸送法としては、例えば、
図1及び
図3に示すように、薄膜形成用原料が貯蔵される原料容器中で、薄膜形成用原料を加熱及び/又は気化することで原料ガスとし、必要に応じてアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該原料ガスを成膜チャンバー内へと導入する方法が挙げられる。
キャリアガスと共に導入する際の原料ガスの濃度は、一般式(1)で表されるモリブデン化合物を90体積%以上含むことが好ましく、99体積%以上であることがより好ましい。
上記液体輸送法としては、例えば、
図2及び
図4に示すように、薄膜形成用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室中で、薄膜形成用原料を加熱及び/又は気化することで原料ガスとし、該原料ガスを成膜チャンバー内へと導入する方法が挙げられる。
【0090】
上記シングルソース法及び上記カクテルソース法は、多成分のプリカーサを含む薄膜形成用原料の輸送供給方法である。
上記シングルソース法は、各成分のプリカーサを独立して、気化、供給する方法であり、上記カクテルソース法は、多成分のプリカーサを予め混合した混合原料を、気化、供給する方法である。なお、多成分のプリカーサを含む薄膜形成用原料においては、上述した求核性試薬等を含んでいてもよい。
【0091】
上記薄膜形成用原料を気化させて原料ガスとする工程は、ALD装置の原料容器内で行ってもよく、気化室内で行ってもよい。いずれにおいても、残留炭素の少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすくなるという観点から、薄膜形成用原料は、0℃以上300℃以下で気化させることが好ましく、0℃以上250℃以下で気化させることがより好ましく、30℃以上200℃以下で気化させることが更に好ましい。
【0092】
原料容器内又は気化室内で薄膜形成用原料を気化させて原料ガスとする場合、原料容器内の圧力又は気化室内の圧力は、薄膜形成用原料の気化が良好になるという観点から、1Pa以上10,000Pa以下の範囲内であることが好ましく、10Pa以上5,000Pa以下の範囲内であることがより好ましく、20Pa以上1,000Pa以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0093】
(2)前駆体薄膜の形成
上記前駆体薄膜形成工程では、上述したように成膜チャンバー内に導入した原料ガス中のモリブデン化合物を、予め成膜チャンバー内に設置した基体上に堆積又は吸着することで前駆体薄膜を形成する。
なお、本開示において「堆積」とは、基体の表面に化合物が化学的に吸着していることを含む概念を示すこととする。
なお、上記基体上とは、基体の表面又は後述する薄膜の製造方法のサイクルで形成されたモリブデン含有薄膜、すなわち、本開示の薄膜の製造方法によって成長したモリブデン含有薄膜の表面を指すこととする。
【0094】
上記基体の材質としては、例えば、シリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属コバルト、金属モリブデン、硫化モリブデン、セレン化モリブデン、硫化タングステン、セレン化タングステン等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状、平板や円盤状等の板状、繊維状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状、トレンチ構造等の三次元構造等が挙げられる。
【0095】
本工程においては、成膜チャンバー内及び基体の何れかを加熱することが好ましく、加熱する温度としては、残留炭素の少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、室温以上500℃以下の範囲であればよく、100℃以上450℃以下の範囲であることが好ましく、130℃以上400℃以下の範囲であることがより好ましく、150℃以上300℃以下の範囲であることが更に好ましい。
【0096】
本工程における成膜チャンバー内の圧力(系圧力)は、1Pa以上10,000Pa以下が好ましく、均一な前駆体薄膜が得られやすい観点から、10Pa以上1,000Pa以下がより好ましい。
【0097】
C2.薄膜形成工程
上記薄膜形成工程では、反応性ガスを成膜チャンバー内に導入し、上記前駆体薄膜と反応性ガスとを反応させて、モリブデン含有薄膜を形成する。
【0098】
上記反応性ガスとしては、例えば、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等の酸化性ガス;水素等の還元性ガス;モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物;ヒドラジン、アンモニア等の窒化性ガス;硫黄、硫化水素、ジメチルサルファイド、ジエチルサルファイド、ジイソプロピルサルファイド等のジアルキルサルファイド等の硫化性ガス等が挙げられる。これらの反応性ガスは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
本開示においては、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、反応性ガスとして、水素、酸素、オゾン、水蒸気、アンモニア及びジアルキルサルファイドからなる群から選択される少なくとも1種以上を含むことが好ましく、水素、酸素、オゾン、水蒸気及びアンモニアから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、酸素、オゾン及び水蒸気から選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましい。
【0099】
本工程において反応性ガスとしての水蒸気は、水蒸気のみからなるガスであってもよく、アルゴン、窒素、酸素、水素等のガスとの混合ガスであってもよい。反応性ガスが上記混合ガスである場合、混合ガス中の水蒸気の濃度は、0.001体積%以上99体積%以下の範囲内が好ましく、前駆体薄膜と反応性ガスとの反応が良好となるという観点から、0.001体積%以上50体積%以下の範囲内がより好ましく、0.001体積%以上10体積%以下の範囲内が更に好ましい。
【0100】
本工程では、反応性ガスを成膜チャンバー内に導入するとき、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすくするという観点から、成膜チャンバー内又は基体を加熱することが好ましい。
本工程における加熱温度としては、残留炭素が少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、室温以上500℃以下の範囲であればよく、100℃以上450℃以下の範囲であることが好ましく、130℃以上400℃以下の範囲であることがより好ましく、150℃以上300℃以下の範囲であることが好ましい。
【0101】
本工程における成膜チャンバー内の圧力(系圧力)は、1Pa以上10,000Pa以下が好ましく、前駆体薄膜と反応性ガスとの反応が良好となるという観点から、10Pa以上1,000Pa以下がより好ましい。
【0102】
C3.その他の工程
本開示の薄膜の製造方法は、その他の工程として、排気工程、プラズマ処理工程、アニール処理工程、リフロー工程等を含むことができる。
【0103】
(1)排気工程
本開示の薄膜の製造方法は、上記前駆体薄膜形成工程の後又はモリブデン含有薄膜形成工程の後に、前駆体薄膜若しくは薄膜の形成に関与しなかった原料ガス、反応性ガス、前駆体薄膜若しくは薄膜の形成時に生じた副生ガスを成膜チャンバー内から排気する排気工程を含むことができる。
上記排気工程では、原料ガス、反応性ガス及び副生ガスが成膜チャンバー内から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気する必要はない。排気方法としては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガスにより成膜チャンバーの系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、及びこれらを組み合わせた方法が挙げられる。
系内を減圧する場合の減圧度としては、原料ガス、反応性ガス及び副生ガスの排気が充分で、残留炭素の少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、例えば、0.01Pa以上300Pa以下の範囲内であることが好ましく、0.05Pa以上200Pa以下の範囲内であることがより好ましく、0.1Pa以上100Pa以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0104】
(2)プラズマ処理工程
本開示の薄膜の製造方法は、原料ガス中のモリブデン化合物の基体の表面への堆積(吸着)若しくは前駆体薄膜と反応性ガスとの反応を促進するために、原料ガス中のモリブデン化合物若しくは前駆体薄膜に電圧を印加してプラズマ化するプラズマ処理工程を含むことができる。
本工程では、電圧を印加するときの電力が大きすぎると基体へのダメージが大きくなるため、10W以上1,500W以下の範囲の電力であることが好ましく、30W以上1,000W以下の範囲の電力であることがより好ましく、50W以上600W以下の範囲の電力であることが更に好ましい。
【0105】
(3)アニール処理工程
本開示の薄膜の製造方法は、モリブデン含有薄膜を形成後、モリブデン含有薄膜の電気特性を良好なものにするために、モリブデン含有薄膜をアニール処理する工程を含むことができる。
上記アニール処理工程では、不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下若しくは還元性雰囲気下で、モリブデン含有薄膜に対してアニール処理を行うことができる。上記アニール処理における温度としては、残留炭素の少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、例えば、200℃以上600℃以下の範囲内であることが好ましく、230℃以上550℃以下の範囲内であることがより好ましく、250℃以上500℃以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0106】
(4)リフロー工程
本開示の薄膜の製造方法は、薄膜の段差を埋め立てるためにリフロー工程を含むことができる。
上記リフロー工程は、残留炭素の少ない高品質なモリブデン含有薄膜を形成しやすいという観点から、200℃以上600℃以下の範囲で行うことが好ましく、230℃以上550℃以下の範囲であることがより好ましく、250℃以上500℃以下の範囲であることが更に好ましい。
【0107】
C4.成膜サイクル
本開示の薄膜の製造方法においては、前駆体薄膜形成工程、排気工程、薄膜形成工程及び排気工程を順に行い、一連の操作によるモリブデン含有薄膜の形成を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚のモリブデン含有薄膜が得られるまで複数回くり返すことで、所望の膜厚を有するモリブデン含有薄膜を製造することができる。
すなわち、製造されるモリブデン含有薄膜の膜厚は、サイクルの回数で制御することができる。例えば、上記サイクルを1回のみ実施して1層のモリブデン含有薄膜を製造してもよく、2回以上実施して、所望する厚みのモリブデン含有薄膜を製造してもよい。
1サイクル当たりに得られるモリブデン含有薄膜の厚みは、均一な厚みのモリブデン含有薄膜が得られやすくなるという観点から、0.01nm以上10nm以下であることが好ましく、0.03nm以上5nm以下であることがより好ましく、特に、0.05nm以上1nm以下であることが好ましい。
【0108】
C5.ALD法以外の薄膜の製造方法
本実施形態では、ALD法によりモリブデン含有薄膜を製造する方法について説明したが、本開示の薄膜を製造する方法は、上記に限定されるものではなく、例えばCVD法により、薄膜形成用原料を気化させた原料ガス中のモリブデン化合物を分解するか、又はモリブデン化合物と反応性ガスとを反応させて、モリブデン含有薄膜を製造する方法であってもよい。
さらに、本開示のモリブデン化合物は、上述したALD法及びCVD法以外に、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法による薄膜形成用原料としても用いることができる。これらの中でも、組成制御性及び段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、ALD法が好ましい。
【0109】
D.その他
本開示においては、以下の態様が挙げられる。
[1]下記一般式(1)で表されるモリブデン化合物を含有する薄膜形成用原料。
【0110】
【化20】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、各々独立して、脂肪族炭化水素基又は置換脂肪族炭化水素基を表し、R
3、R
4、R
5、R
6及びR
7は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基、又は、下記一般式(2)で表される基を表す。)
【0111】
【化21】
(一般式(2)中、Aは、直接結合、又は、炭素原子数1以上5以下のアルカンジイル基を表し、Lは、下記一般式(L-1)又は(L-2)で表される基を表し、*は、結合手を表す。)
【0112】
【化22】
(一般式(L-1)及び一般式(L-2)中、R
8、R
9及びR
10は、各々独立して、炭素原子数1以上5以下のアルキル基又は炭素原子数1以上5以下の置換アルキル基を表し、*は、結合手を表す。)
【0113】
[2]R1及びR2が、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基又は炭素原子数1以上5以下の置換脂肪族炭化水素基である、[1]に記載の薄膜形成用原料。
【0114】
[3]R1が、炭素原子数3以上5以下の脂肪族炭化水素基である、[1]又は[2]に記載の薄膜形成用原料。
【0115】
[4]R1及びR2の少なくとも1つが、tert-ブチル基である、[1]又は[2]に記載の薄膜形成用原料。
【0116】
[5]R3、R4、R5、R6及びR7の少なくとも1つが、炭素原子数1以上5以下の脂肪族炭化水素基である、[1]~[4]の何れか一項に記載の薄膜形成用原料。
【0117】
[6]薄膜形成用原料が、原子層堆積用薄膜形成用原料である、[1]~[5]の何れか一項に記載の薄膜形成用原料
【0118】
[7][1]~[6]の何れか一項に記載の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜。
【0119】
[8][1]~[6]の何れか一項に記載の薄膜形成用原料を用いて、モリブデン原子を含有する薄膜を形成する、薄膜の製造方法。
【0120】
[9]上記薄膜形成用原料を気化させて得られる原料ガス中のモリブデン化合物を分解するか、又はモリブデン化合物と反応性ガスとを反応させて、モリブデン原子を含有する薄膜を形成する、[8]に記載の薄膜の製造方法。
【0121】
[10]薄膜形成用原料を気化させて得られる原料ガスを成膜チャンバー内に導入し、原料ガス中のモリブデン化合物を基体の表面に堆積させて、前駆体薄膜を形成する工程と、反応性ガスを成膜チャンバー内に導入し、前駆体薄膜と反応性ガスとを反応させて、モリブデン原子を含有する薄膜を形成する工程と、を含む、[8]に記載の薄膜の製造方法。
【0122】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例0123】
以下、実施例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって制限を受けるものではない。
【0124】
[実施例1]No.7のモリブデン化合物の製造
アルゴン雰囲気下で、100mL3つ口フラスコに、ピバロニトリル(0.53g,6.34mmol)及びジエチルエーテル(20mL)を加え、混合して-60℃に冷却した。次に、1.18M メチルリチウム含有ジエチルエーテル溶液(5.37mL,6.34mmol)を滴下した後、室温まで昇温し5時間撹拌して、Li(N=CtBuMe)を調製した。
別の100mL3つ口フラスコに、MоCl(Cp)(CО)3(1.78g,6.34mmol)及びジエチルエーテル(30mL)を加え、混合して-60℃に冷却した。次に、上記Li(N=CtBuMe)を滴下し、室温まで昇温し17時間撹拌した。撹拌後、沈殿物を濾別して得られた有機層を脱溶媒し、残渣についてクーゲルロール蒸留装置を用い、温度123℃、圧力53Paの条件で蒸留して、深青色結晶を得た(収量0.1g、収率5%)。得られた深青色結晶について以下の分析を行い、目的物のNo.7のモリブデン化合物と同定した。
【0125】
(分析値)
(1)構造分析(1H-NMR(溶媒:重ベンゼン))
(ケミカルシフト:多重度:H数);(0.856:singlet:9),(1.749:singlet:3),(5.258:singlet:5)
【0126】
(2)構造分析(単結晶X線)
【0127】
【0128】
[実施例2]No.28のモリブデン化合物の製造
アルゴン雰囲気下で、100mL3つ口フラスコに、2,2,4,4-テトラメチル-3-ペンタノンイミン(0.785g,5.56mmol)及びジエチルエーテル(15mL)を加え、混合して-48℃に冷却した。次に、1.6M n-ブチルリチウム含有ヘキサン溶液(3.50mL,5.56mmol)を滴下した後、室温まで昇温し5時間撹拌して、Li(N=CtBu2)を調製した。
別の100mL3つ口フラスコに、MоCl(Cp)(CО)3(1.56g,5.56mmol)及びジエチルエーテル(50mL)を加え、混合して-60℃に冷却した。次に、上記Li(N=CtBu2)を滴下し、室温まで昇温し17時間撹拌した。撹拌後、沈殿物を濾別して得られた有機層を脱溶媒し、残渣についてクーゲルロール蒸留装置を用い、温度140℃、圧力51Paの条件で蒸留して、深青色結晶を得た(収量0.64g、収率32%)。得られた深青色結晶について以下の分析を行い、目的物のNo.28のモリブデン化合物と同定した。
【0129】
(分析値)
(1)構造分析(1H-NMR(溶媒:重ベンゼン))
(ケミカルシフト:多重度:H数);(1.059:singlet:18),(5.238:singlet:5)
【0130】
(2)構造分析(単結晶X線)
【0131】
【0132】
[実施例3]No.36のモリブデン化合物の合成
アルゴン雰囲気下で、100mL3つ口フラスコに、2,2,4,4-テトラメチル-3-ペンタノンイミン(0.761g,5.39mmol)及びジエチルエーテル(10mL)を加え、混合して-39℃に冷却した。次に、1.6M n-ブチルリチウム含有ヘキサン溶液(3.39mL,5.39mmol)を滴下した後、室温まで昇温し3時間撹拌して、Li(N=CtBu2)を調製した。
別の100mL3つ口フラスコに、MоCl(MeCp)(CО)3(1.59g,5.39mmol)及びジエチルエーテル(30mL)を加え、混合して-25℃に冷却した。次に、上記Li(N=CtBu2)を滴下し、室温まで昇温し15時間撹拌した。撹拌後、沈殿物を濾別して得られた有機層を脱溶媒し、残渣についてクーゲルロール蒸留装置を用い、温度150℃、圧力120Paの条件で蒸留して、深青色粘性液体を得た(収量0.2g、収率10%)。得られた深青色粘性液体について以下の分析を行い、目的物のNo.36のモリブデン化合物と同定した。
【0133】
分析値
(1)構造分析(1H-NMR(溶媒:重ベンゼン))
(ケミカルシフト:多重度:H数);(1.081:singlet:18),(1.654:singlet:3)(5.118-5.130:multiplet:2),(5.234-5.245:multiplet:2)
【0134】
[評価例]化合物の物性評価
No.7、No.28、No.36のモリブデン化合物及び下記比較化合物(比較例1)を用いて、下記の評価を行った。
【0135】
【0136】
(1)常圧TG-DTA 50質量%減少時の温度(℃)
TG-DTAを用いて、760Torr、アルゴン流量:100mL/分、昇温速度:10℃/分、走査温度範囲を30℃~600℃として測定し、試験化合物の重量が50質量%減少した時の温度(℃)を「常圧TG-DTA 50質量%減少時の温度(℃)」として評価した。常圧TG-DTA 50質量%減少時の温度(℃)が低いほど、低温で蒸気が得られることを示す。この結果を表1に示す。
なお、比較化合物は約200℃で分解し、常圧TG-DTA50質量%減少時の温度を測定できなかった。
【0137】
(2)減圧TG-DTA 50質量%減少時の温度(℃)
TG-DTAを用いて、10Torr、アルゴン流量:50mL/分、昇温速度:10℃/分、走査温度範囲を30℃~600℃として測定し、試験化合物の重量が50質量%減少した時の温度(℃)を「減圧TG-DTA 50質量%減少時の温度(℃)」として評価した。減圧TG-DTA 50質量%減少時の温度(℃)が低いほど、低温で蒸気が得られることを示す。この結果を表1に示す。
【0138】
(3)融点評価(℃)
目視によって、常圧25℃における化合物の状態を観察し、固体化合物については、示差走査熱量計DSCを用いて、昇温速度:10℃/分、走査温度範囲を30℃~600℃として測定し、得られたチャートにおいて、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、吸熱反応を示すピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線の交点の温度を融点(℃)として評価した。結果を表1に示す。
【0139】
(4)熱分解開始温度(℃)
示差走査熱量計DSCを用いて、昇温速度10℃/分、走査温度範囲を30℃~600℃として測定したDSCチャートにおいて、発熱又は吸熱の開始点を熱分解開始温度(℃)として評価した。結果を表1に示す。
【0140】
【0141】
上記表1に示されるように、比較化合物の常圧TG-DTA 50%減少時の温度は、分解のため測定不可であったのに対し、実施例1~3においてそれぞれ合成された、No.7、No.28、No.36のモリブデン化合物は、いずれも常圧TG-DTA 50%減少時の温度が240℃以下であることから、低温で蒸気が得られやすいことが分かった。同様に、比較化合物の減圧TG-DTA 50%減少時の温度は、分解のため測定不可であったのに対し、No.7、No.28、No.36のモリブデン化合物は、いずれも減圧TG-DTA 50%減少時の温度が150℃以下であることから、低温で蒸気が得られやすいことが分かった。
また、比較化合物の融点は、146℃であるのに対し、No.7のモリブデン化合物の融点は81℃、No.28のモリブデン化合物の融点は117℃であり、No.36のモリブデン化合物は、液体であることが確認された。
【0142】
[ALD法による薄膜の製造]
次に、上記で評価したモリブデン化合物を薄膜形成用原料として用いて薄膜を製造した。
【0143】
[実施例4]No.7の化合物を用いて製造された薄膜の評価
No.7のモリブデン化合物を薄膜形成用原料として用い、
図1のALD装置を用い、下記の条件で、基体としてのシリコンウェハの表面にモリブデン含有薄膜を製造した。X線電子分光法を用いて薄膜の組成を分析したところ、薄膜は、モリブデン酸化物の薄膜であり、残留炭素量は、1.0atom%よりも少ないことを確認した。
【0144】
(条件)
製造方法:ALD法
反応温度(基体温度):250℃
反応性ガス:アルゴンガス:水蒸気=99.9:0.1 ~95.0:5.0(体積比)
【0145】
(工程)
下記(1)~(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、100サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:110℃、原料容器内圧力:100Paの条件で気化させて得られた薄膜形成用原料の蒸気(原料ガス)を成膜チャンバー内に導入し、系圧力:100Paで20秒間、基体の表面に原料ガス中のモリブデン化合物を堆積させて前駆体薄膜(前駆体薄膜形成工程)を形成する。
(2)15秒間のアルゴンパージにより、堆積しなかった原料ガスを系内から排気する(排気工程)。
(3)反応性ガスを成膜チャンバー内に導入し、系圧力:100Paで20秒間、前駆体薄膜と反応性ガスとを反応させる(薄膜形成工程)。
(4)15秒間のアルゴンパージにより、未反応の反応性ガス及び副生ガスを系内から排気する(排気工程)。
【0146】
[実施例5]No.28の化合物を用いて製造された薄膜の評価
No.7のモリブデン化合物の代わりにNo.28のモリブデン化合物を薄膜形成用原料として用い、原料容器温度を125℃に変更した以外は、実施例4と同様の方法で、シリコンウェハの表面に薄膜を製造した。X線電子分光法を用いて薄膜の組成を分析したところ、薄膜は、モリブデン酸化物の薄膜であり、薄膜中の残留炭素含有量は、1.0atom%よりも少ないことを確認した。
【0147】
[実施例6]No.36の化合物を用いて製造された薄膜の評価
No.7のモリブデン化合物の代わりに、No.36を薄膜形成用原料として用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、シリコンウェハの表面に薄膜を製造した。X線電子分光法を用いて薄膜の組成を分析したところ、薄膜は、モリブデン酸化物の薄膜であり、薄膜中の残留炭素含有量は、1.0atom%よりも少ないことを確認した。
【0148】
[比較例2]比較化合物を用いて製造された薄膜の評価
No.7のモリブデン化合物の代わりに、比較化合物を薄膜形成用原料として用いて、ALD法により、薄膜を製造しようとしたが、比較化合物の分解により炭化物を含む固形の残留物が生じ、前駆体薄膜が形成されず、モリブデン含有薄膜を製造することができなかった。
【0149】
以上より、本発明の薄膜形成用原料を用いて、モリブデン含有薄膜を製造した場合に、残留炭素が顕著に少ない高品質なモリブデン含有薄膜を得ることができることが示された。特に、No.7、No.28及びNo.36のモリブデン化合物を薄膜形成用原料として用いて、ALD法により薄膜を製造した場合、薄膜中の残留炭素含有量が顕著に少なく、高品質なモリブデン含有薄膜を製造することができることを確認することができた。