(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117273
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】光路長差計測装置、光路長差計測方法、光路長差算出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 9/02002 20220101AFI20240822BHJP
【FI】
G01B9/02002
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023282
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】並木 一
(72)【発明者】
【氏名】金堂 晃久
【テーマコード(参考)】
2F064
【Fターム(参考)】
2F064AA01
2F064CC04
2F064EE01
2F064FF01
2F064GG02
2F064GG24
2F064GG52
(57)【要約】
【課題】使用する複数のレーザ光のそれぞれの絶対的な波長精度によらず光路長差の計測精度を高めること。
【解決手段】被測定物に関する光路長差を計測する光路長差計測装置であって、互いに波長が異なる複数のレーザ光のそれぞれから、光路長差に対応した位相の干渉成分を含む複数の干渉光を生成する干渉光生成部と、複数の干渉光をレーザ光の波長に応じて分光する分光部と、分光した干渉光のそれぞれから位相を検出する位相検出部と、検出した位相に基づいて光路長差を算出する処理部とを備え、検出した位相に基づいて波長ごとに第1光路長差を算出し、複数の第1光路長差から複数のアンラップ位相を算出し、複数のアンラップ位相のそれぞれと、複数のアンラップ位相のそれぞれに対応した波長から計算された波数とが成す二次元データをデータ処理し、波数に対するアンラップ位相の比としての第2光路長差を算出し、第2光路長差に基づいて光路長差を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物に関する光路長差を計測する光路長差計測装置であって、
互いに波長が異なる複数のレーザ光のそれぞれから、前記光路長差に対応した位相の干渉成分を含む複数の干渉光を生成する干渉光生成部と、
前記複数の干渉光を前記レーザ光の波長に応じて分光する分光部と、
分光した前記干渉光のそれぞれから前記位相を検出する位相検出部と、
検出した前記位相に基づいて前記光路長差を算出する処理部と、
を備え、
前記処理部は、
前記検出した前記位相に基づいて前記波長ごとに第1光路長差を算出し、
複数の前記第1光路長差から複数のアンラップされた位相であるアンラップ位相を算出し、
複数の前記アンラップ位相のそれぞれと、前記複数の前記アンラップ位相のそれぞれに対応した前記波長から計算される波数とが成す二次元データをデータ処理し、前記波数に対する前記アンラップ位相の比としての第2光路長差を算出し、
前記第2光路長差に基づいて前記光路長差を算出する
光路長差計測装置。
【請求項2】
前記干渉光生成部は、
前記複数のレーザ光のそれぞれを測定光と参照光とに分岐する分岐部と、
前記分岐部から出力された前記参照光を反射する基準ミラーと、
前記分岐部と前記基準ミラーとの間の光路長を変更する光路長変更部と、
前記測定光を前記被測定物に対して出力するとともに、前記測定光が前記被測定物で反射されて入力される光入出力部と、
前記基準ミラーで反射された前記参照光と前記被測定物で反射された前記測定光とを干渉させ、前記干渉光を生成して出力する干渉部と、
を備える
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記位相と前記波長とに基づいて合成波長と合成位相とを算出し、算出した前記合成波長と前記合成位相とを用いて第3光路長差を算出し、前記第3光路長差と前記位相と前記波長とに基づいて前記波長ごとに前記第1光路長差を算出する
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記データ処理として最小二乗法、総最小二乗法または最尤法に基づくデータ処理を行う
請求項1に記載の光路長差計測装置。
【請求項5】
前記光路長差に基づいて前記被測定物までの距離を計測する測距装置として構成されている
請求項1~4のいずれか一つに記載の光路長差計測装置。
【請求項6】
被測定物に関する光路長差を計測する光路長差計測方法であって、
互いに波長が異なる複数のレーザ光のそれぞれから、前記光路長差に対応した位相の干渉成分を含む複数の干渉光を生成する干渉光生成ステップと、
前記複数の干渉光を前記レーザ光の波長に応じて分光する分光ステップと、
分光した前記干渉光のそれぞれから前記位相を検出する位相検出ステップと、
検出した前記位相に基づいて前記光路長差を算出する処理ステップと、
を備え、
前記処理ステップは、
前記検出した前記位相に基づいて前記波長ごとに第1光路長差を算出する第1光路長差算出ステップと、
複数の前記第1光路長差から複数のアンラップされた位相であるアンラップ位相を算出するアンラップ位相算出ステップと、
複数の前記アンラップ位相のそれぞれと、前記複数の前記アンラップ位相のそれぞれに対応した前記波長から計算される波数とが成す二次元データをデータ処理し、前記波数に対する前記アンラップ位相の比としての第2光路長差を算出する第2光路長差算出ステップと、
前記第2光路長差に基づいて前記光路長差を算出する光路長差算出ステップと、
を含む
光路長差計測方法。
【請求項7】
被測定物に関する光路長差を計測する光路長差を計測する際に、互いに波長が異なる複数のレーザ光のそれぞれから、前記光路長差に対応した位相の干渉成分を含む複数の干渉光を生成する干渉光生成ステップと、前記干渉光のそれぞれから前記位相を検出する位相検出ステップと、によって得られた前記位相から、前記光路長差を算出する光路長差算出方法であって、
検出した前記位相に基づいて前記波長ごとに第1光路長差を算出する第1光路長差算出ステップと、
複数の前記第1光路長差から複数のアンラップされた位相であるアンラップ位相を算出するアンラップ位相算出ステップと、
複数の前記アンラップ位相のそれぞれと、前記複数の前記アンラップ位相のそれぞれに対応した前記波長から計算される波数とが成す二次元データをデータ処理し、前記波数に対する前記アンラップ位相の比としての第2光路長差を算出する第2光路長差算出ステップと、
前記第2光路長差に基づいて前記光路長差を算出する光路長差算出ステップと、
を含む
光路長差算出方法。
【請求項8】
請求項7に記載の光路長差算出方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光路長差計測装置、光路長差計測方法、光路長差算出方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の干渉を利用して光路長差を計測し、これにより被測定物までの距離を計測する測距技術が開示されている(特許文献1~5、非特許文献1)。特許文献1~4では、合成波長を用いる技術を適用して、光路長差の計測可能レンジであるUMR(Unambiguous Measurement Range)を広くしている。また、特許文献2では、互いに波長が異なる複数のレーザ光を出力する多波長光源装置として、光学的に接続された複数の光源を備える構成を採用している。特許文献2では、この構成によって、複数のレーザ光の相対的な波長差の精度が向上して合成波長の値を安定化するので、測距精度が高まるとされている。また、非特許文献1では、合致法を用いて測距を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5282929号公報
【特許文献2】特許第4000195号公報
【特許文献3】特許第5580718号公報
【特許文献4】特開2014-174120号公報
【特許文献5】特表2002―505414号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】北川克一 他、“多波長ワンショット干渉計測技術の開発と実用化”、精密工学会誌 Vol. 78,No. 2,2012 pp.112-116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、公知の技術においては、使用する複数のレーザ光のそれぞれの絶対的な波長精度が光路長差の計測精度を低下させる要因となっている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、使用する複数のレーザ光のそれぞれの絶対的な波長精度によらず光路長差の計測精度を高めることができる光路長差計測装置、光路長差計測方法、光路長差算出方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、被測定物に関する光路長差を計測する光路長差計測装置であって、互いに波長が異なる複数のレーザ光のそれぞれから、前記光路長差に対応した位相の干渉成分を含む複数の干渉光を生成する干渉光生成部と、前記複数の干渉光を前記レーザ光の波長に応じて分光する分光部と、分光した前記干渉光のそれぞれから前記位相を検出する位相検出部と、検出した前記位相に基づいて前記光路長差を算出する処理部と、を備え、前記処理部は、前記検出した前記位相に基づいて前記波長ごとに第1光路長差を算出し、複数の前記第1光路長差から複数のアンラップされた位相であるアンラップ位相を算出し、複数の前記アンラップ位相のそれぞれと、前記複数の前記アンラップ位相のそれぞれに対応した前記波長から計算される波数とが成す二次元データをデータ処理し、前記波数に対する前記アンラップ位相の比としての第2光路長差を算出し、前記第2光路長差に基づいて前記光路長差を算出する。
【0008】
前記干渉光生成部は、前記複数のレーザ光のそれぞれを測定光と参照光とに分岐する分岐部と、前記分岐部から出力された前記参照光を反射する基準ミラーと、前記分岐部と前記基準ミラーとの間の光路長を変更する光路長変更部と、前記測定光を前記被測定物に対して出力するとともに、前記測定光が前記被測定物で反射されて入力される光入出力部と、前記基準ミラーで反射された前記参照光と前記被測定物で反射された前記測定光とを干渉させ、前記干渉光を生成して出力する干渉部と、を備えてもよい。
【0009】
前記処理部は、前記位相と前記波長とに基づいて合成波長と合成位相とを算出し、算出した前記合成波長と前記合成位相とを用いて第3光路長差を算出し、前記第3光路長差と前記位相と前記波長とに基づいて前記波長ごとに前記第1光路長差を算出してもよい。
【0010】
前記処理部は、前記データ処理として最小二乗法、総最小二乗法または最尤法に基づくデータ処理を行ってもよい。
【0011】
前記光路長差計測装置は、前記光路長差に基づいて前記被測定物までの距離を計測する測距装置として構成されていてもよい。
【0012】
本発明の一態様は、被測定物に関する光路長差を計測する光路長差計測方法であって、互いに波長が異なる複数のレーザ光のそれぞれから、前記光路長差に対応した位相の干渉成分を含む複数の干渉光を生成する干渉光生成ステップと、前記複数の干渉光を前記レーザ光の波長に応じて分光する分光ステップと、分光した前記干渉光のそれぞれから前記位相を検出する位相検出ステップと、検出した前記位相に基づいて前記光路長差を算出する処理ステップと、を備え、前記処理ステップは、前記検出した前記位相に基づいて前記波長ごとに第1光路長差を算出する第1光路長差算出ステップと、複数の前記第1光路長差から複数のアンラップされた位相であるアンラップ位相を算出するアンラップ位相算出ステップと、複数の前記アンラップ位相のそれぞれと、前記複数の前記アンラップ位相のそれぞれに対応した前記波長から計算される波数とが成す二次元データをデータ処理し、前記波数に対する前記アンラップ位相の比としての第2光路長差を算出する第2光路長差算出ステップと、前記第2光路長差に基づいて前記光路長差を算出する光路長差算出ステップと、を含む。
【0013】
本発明の一態様は、被測定物に関する光路長差を計測する光路長差を計測する際に、互いに波長が異なる複数のレーザ光のそれぞれから、前記光路長差に対応した位相の干渉成分を含む複数の干渉光を生成する干渉光生成ステップと、前記干渉光のそれぞれから前記位相を検出する位相検出ステップと、によって得られた前記位相から、前記光路長差を算出する光路長差算出方法であって、検出した前記位相に基づいて前記波長ごとに第1光路長差を算出する第1光路長差算出ステップと、複数の前記第1光路長差から複数のアンラップされた位相であるアンラップ位相を算出するアンラップ位相算出ステップと、複数の前記アンラップ位相のそれぞれと、前記複数の前記アンラップ位相のそれぞれに対応した前記波長から計算される波数とが成す二次元データをデータ処理し、前記波数に対する前記アンラップ位相の比としての第2光路長差を算出する第2光路長差算出ステップと、前記第2光路長差に基づいて前記光路長差を算出する光路長差算出ステップと、を含む。
【0014】
本発明の一態様は、前記光路長差算出方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、使用する複数のレーザ光のそれぞれの絶対的な波長精度によらず光路長差の計測精度を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る測距装置の模式的な構成図である。
【
図2】
図2は、処理部が実行する処理ステップの一例を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、二次元データをプロットした例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る測距装置の模式的な構成図である。測距装置100は、測距装置として構成されている光路長差計測装置の一例であって、被測定物Oに関する光路長差を計測するとともに、当該光路長差に基づいて被測定物Oまでの距離を計測する。
【0019】
測距装置100は、多波長光源装置10と、干渉光生成部20と、分光部30と、位相検出部40と、処理部50と、を備えている。
【0020】
多波長光源装置10は、複数の光源111~11nと、合波部12とを備えている。ここで、nは2以上の整数であり、たとえば16である。
【0021】
光源111~11nは、たとえば分布帰還型レーザなどの半導体レーザ素子である。多波長光源装置10において光源111~11nのそれぞれは、互いに波長が異なるレーザ光L11~L1nのそれぞれを出力する(レーザ光出力ステップ)。合波部12は、光源111~11nと光ファイバなどで光学的に接続されており、レーザ光L11~L1nが入力されると、これらを合波してレーザ光L1として出力する。したがって、レーザ光L1は、レーザ光L11~L1nを含んでいる。合波部12は、たとえばAWG(Arrayed Waveguide Gratings)やバルク型の回折格子を有している。
【0022】
干渉光生成部20は、光カプラ21と、基準ミラー22と、光路長変更部23と、レンズ24と、を備えている。
【0023】
光カプラ21は、たとえば2入力2出力の光カプラであり、2入力ポートのそれぞれが光ファイバで合波部12と分光部30とのそれぞれに光学的に接続されている。光カプラ21の2出力ポートのそれぞれは光ファイバで基準ミラー22とレンズ24とのそれぞれに光学的に接続されている。
【0024】
光カプラ21は、合波部12から入力されたレーザ光L1を参照光L2と測定光L3とに分岐する。これにより、レーザ光L1に含まれるレーザ光L11~L1nのそれぞれも測定光と参照光とに分岐される。すなわち、光カプラ2は分岐部の一例である。
【0025】
基準ミラー22は、光カプラ21から出力され光ファイバを伝搬した参照光L2を反射する。基準ミラー22は、光路長差計測および測距における基準位置となるミラーである。反射された参照光L2は光ファイバを伝搬して光カプラ21に入力される。
【0026】
光路長変更部23は、光カプラ21と基準ミラー22とを光学的に接続する光ファイバに設けられており、当該光ファイバの長さを変更することによって、光カプラ21と基準ミラー22との間の光路長を変更する。その結果、参照光L2の光路の光路長も変更される。光路長変更部23は、たとえば光ファイバと接触しているピエゾ素子を有しており、ピエゾ素子に印加する電圧を変更することで、光ファイバに側圧を与えて当該光ファイバの長さを変更することができる。光路長変更部23は、レーザ光L11~L1nのうち最も長い波長の1波長分以上を光路長変更できることが好ましい。光路長変更部23は、たとえば処理部50によってその動作を制御される。
【0027】
レンズ24は、光カプラ21から光ファイバを伝搬して入力された測定光L3を平行光にして、被測定物Oに対して出力する。また、レンズ24には、測定光L3が被測定物Oで反射されて入力される。レンズ24は反射された測定光L3を集光して光ファイバに結合させる。測定光L32は当該光ファイバを伝搬して光カプラ21に入力される。レンズ24は光入出力部の一例である。
【0028】
ここで、干渉光生成部20から被測定物Oに向かう方向にz軸を取る。レンズ24における測定光L31の出射面のz座標をz=0とすると、基準ミラー22の反射面22aのz座標もz=0である。また、被測定物Oの測定光L31を反射する面のz座標をz=z0/2とする。
【0029】
光カプラ21は、基準ミラー22で反射された参照光L2と被測定物Oで反射された測定光L3とを干渉させ、干渉光L4を生成して出力する(干渉光生成ステップ)。すなわち、光カプラ21は干渉部の一例である。この干渉光L4は、被測定物Oに関する光路長差(参照光L2と測定光L3との光路長差)に対応した位相の干渉成分を含む。また、干渉光L4は、レーザ光L11~L1nから生成した干渉光L41~L4nを含んでいる。
【0030】
分光部30は、光カプラ21から入力された干渉光L4をレーザ光L11~L1nの波長に応じて分光して出力する(分光ステップ)。分光部30は、たとえばAWGやバルク型の回折格子を有している。
【0031】
位相検出部40は、分光部30から入力された干渉光L41~L4nのそれぞれから、干渉成分の位相を検出する(位相検出ステップ)。位相を検出する際には、光路長変更部23によってたとえば3または4段階で光路長を変更し、変更した光路長に対応する3つまたは4つの位相の値から、3(4)点法(3(4)ステップ法とも呼ばれる)を用いて位相を検出する。そして、位相検出部40は、各位相の情報を含む位相情報信号を処理部50に出力する。位相検出部40は、特許文献4に示されるような、偏光素子とフォトダイオードとを用いる構成などの公知の構成を有している。
【0032】
処理部50は、たとえばプロセッサとメモリとを備えるコンピュータ、およびその周辺機器を備えている。処理部50は、位相検出部40を制御するとともに、位相検出部40から位相情報信号が入力される。処理部50は、位相情報信号から得られた、位相検出部40が検出した位相に基づいて、被測定物Oに関する光路長差を算出する(処理ステップ)。さらに、処理部50は、算出した光路長差に基づいて被測定物Oまでの距離を算出する。処理部50は、たとえば算出した距離を計測値としてディスプレイなどの表示部に表示する。
【0033】
処理部50の機能は、たとえばプロセッサがメモリから読み出したプログラムを実行することによってハードウェアとソフトウェアとが協働して実現される。プログラムは、光路長差算出方法をコンピュータに実行させるプログラムを含む。
【0034】
処理部50が光路長差を算出する方法は、特に限定されないが、たとえば合成波長および合成位相を用いる方法である。合成波長および合成位相を用いる方法であれば、UMRを広くすることができる。
【0035】
処理部50が実行する処理ステップの一例について、
図2のフロー図を参照して詳述する。はじめに、処理部50は、ステップS101において、合成波長および合成位相を算出する。合成波長Λsは、レーザ光L11~L1nから複数を選択し、選択したレーザ光の波長を組み合わせることによって得られることが知られている。選択するレーザ光の数が2である場合、合成波長ΛsをΛijとすると、Λijは、以下の式(1)で定義される。
Λij=(λi・λj)/(λj-λi) ・・・ (1)
ここで、i、jは1以上n以下の互いに異なる整数である。また、λi、λjは、レーザ光L1i、L1jの波長である。ただし、λi<λjであるとする。
【0036】
合成位相φsは、干渉光L41~L4nから複数を選択し、選択したレーザ光の位相を組み合わせることによって得られることが知られている。選択するレーザ光の数が2である場合は、合成位相φsをφijとすると、φijは、以下の式(2)で定義される。
φij=φi-φj ・・・ (2)
ここで、φi、φjは干渉光L4i、L4jの位相である。
【0037】
つづいて、処理部50は、ステップS102において、合成波長および合成位相から第3光路長差を算出する。第3光路長差Lo3は以下の式(3)を用いて算出できる。
Lo3=(Ns+φs/2π)λs ・・・ (3)
ここで、Nsは干渉の次数である。また、λsは合成波長であるが、合成波長が複数ある場合はNsがよりゼロに近くなるような合成波長を用いる。なお、Nsは数値の丸め処理をして整数としてもよい。処理部50は、式(3)においてNsをゼロとして、第3光路長差を算出する。
【0038】
つづいて、処理部50は、ステップS103において、第3光路長差と位相と波長とに基づいて波長ごとに第1光路長差を算出する(第1光路長差算出ステップ)。第3光路長差は、合成波長と合成位相とを用いて算出したので、各波長や各位相の誤差を累積的に含む。これに対して、第1光路長差は、累積的な誤差は含まないので、第3光路長差よりも正確な値である。第1光路長差Lo1は以下の式(4)を用いて算出できる。
Lo1=(Ni+φi/2π)λi ・・・ (4)
ここで、Niは干渉の次数である。φiは干渉光L41~L4nのうちいずれかの位相である。λiはレーザ光L1~L1nのうちいずれかの波長である。ここで、次数Niは、Lo1が第3光路長差に最も近い値になるように一意に決定することができる。
【0039】
つづいて、処理部50は、ステップS104において、複数の第1光路長差から複数のアンラップされた位相であるアンラップ位相を算出する(アンラップ位相算出ステップ)。上記で検出された位相は、0以上2π未満の範囲であるが、実際に求めたい光路長差に対応する位相は2π以上の場合がある。そこで、実際に求めたい光路長差に対応する位相としてアンラップ位相を算出する。アンラップ位相Φiは以下の式(5)を用いて算出できる。
Φi=2πNi+φi ・・・ (5)
【0040】
つづいて、処理部50は、ステップS105において、第2光路長差を算出する(第2光路長差算出ステップ)。処理部50は以下のステップにて第2光路長差を算出する。
【0041】
処理部50は、レーザ光L11~L1nのそれぞれの波長から波数kiを算出する。波数kiは以下の式(6)を用いて算出できる。
ki=2π/λi ・・・ (6)
【0042】
つづいて、処理部50は、複数のアンラップ位相のそれぞれと、複数のアンラップ位相のそれぞれに対応した波数とが成す二次元データを生成する。このような二次元データは、kiとΦiとを組み合わせたデータである。
【0043】
図3は、生成された二次元データをプロットした例を示す図である。横軸は波数であり、縦軸はアンラップ位相である。
図3においてそれぞれのデータ点DPの座標は(ki、Φi)で示される。線FLは、データ点DPに対する近似直線の一例である。
【0044】
つづいて、処理部50は、二次元データをデータ処理し、波数に対するアンラップ位相の比としての第2光路長差を算出する。
【0045】
式(4)、(5)から、波数kiとアンラップ位相Φiとは比例関係にあり、波数kiに対するアンラップ位相Φiの比であるΦi/kiが第1光路長差Lo1であるが、Φi/kiすなわち第1光路長差Lo1は各波長の絶対誤差を含んでいる。そこで、処理部50は、二次元データをデータ処理し、第1光路長差Lo1よりも正確な値としての第2光路長差を算出する。
【0046】
二次元データをデータ処理して第2光路長差を算出する方法としては特に限定されないが、たとえば、回帰分析において使用される手法である最小二乗法、総最小二乗法または最尤法に基づいてデータ処理を行うことができる。総最小二乗法は全最小二乗法とも呼ばれる。また、二次元データのデータ処理には、人工知能において用いられる手法も適用できる。たとえば、光路長差ごとのアンラップ位相と波数との関係を機械学習させた学習済モデルを用いて、第2光路長差を算出してもよい。
【0047】
つづいて、処理部50は、ステップS106において、ステップS105において算出した第2光路長差に基づいて被測定物Oに関する光路長差を算出する(光路長差算出ステップ)。算出する光路長差は、参照光L2と測定光L3との光路長差である。この光路長差は、たとえば、第2光路長差から内部光路長差を減算することで算出される。内部光路長差とは、干渉光生成部20の内部での参照光L2と測定光L3との光路長差である。内部光路長差は既知であり、処理部50の記憶部に記憶されている。ただし、本実施形態に係る測距装置100では、内部光路長差はゼロとする。この場合、算出される光路長差は2・z0/2=z0である。
【0048】
つづいて、処理部50は、ステップS107において、ステップS106において算出した光路長差に基づいて被測定物Oまでの距離を算出する。この場合、算出される距離はz0/2である。このようにして、測距装置100は、被測定物Oまでの距離をz0/2であると計測する。
【0049】
以上のように構成された測距装置100ならびに測距装置100において実行される光路長差算出方法および光路長差計測方法によれば、レーザ光L11~L1nのそれぞれの絶対的な波長精度によらず光路長差の計測精度を高めることができる。
【0050】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 :多波長光源装置
111~11n:光源
12 :合波部
20 :干渉光生成部
21 :光カプラ
22 :基準ミラー
22a :反射面
23 :光路長変更部
24 :レンズ
30 :分光部
40 :位相検出部
50 :処理部
100 :測距装置
DP :データ点
L1、L11~L1n:レーザ光
L2 :参照光
L3 :測定光
L4、L41~L4n:干渉光
O :被測定物