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特開2024-117354ゲルマニウム半導体装置及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117354
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ゲルマニウム半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/144 20060101AFI20240822BHJP
   C30B 25/04 20060101ALI20240822BHJP
   C30B 29/08 20060101ALI20240822BHJP
   C23C 16/28 20060101ALI20240822BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240822BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240822BHJP
   H01L 29/161 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H01L27/144 J
C30B25/04
C30B29/08
C23C16/28
H01L21/205
H01L21/20
H01L29/161
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023410
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】中井 哲弥
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
4M118
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BA05
4G077DB04
4G077ED05
4G077ED06
4G077HA01
4K030AA05
4K030BA09
4K030BB02
4K030CA04
4K030CA12
4K030DA05
4K030LA16
4M118AA01
4M118AB05
4M118BA06
4M118CA03
4M118CB01
4M118EA01
4M118EA14
5F045AA07
5F045AF03
5F045AF13
5F045AF20
5F045BB19
5F045CA13
5F045DB02
5F045DB04
5F152LL03
5F152LM02
5F152LM04
5F152LM05
5F152LN32
5F152LN34
5F152LN35
5F152LN36
5F152MM11
5F152NN03
5F152NP13
5F152NQ04
(57)【要約】
【課題】Ge結晶層が厚く且つその占有面積が大きなゲルマニウム半導体装置を提供する。
【解決手段】本発明によるゲルマニウム半導体装置1は、{100}面方位を有し、主面10aにトレンチアレイ11Aが形成されたSi基板10と、トレンチアレイ11Aの内部を含むSi基板10の主面10aに形成されたGe結晶層20とを備えている。トレンチアレイ11Aは<010>方向と平行に形成されており、トレンチアレイ11Aのトレンチ幅は0.8μm以下であり、隣接するトレンチ間のSiフィン部12の幅は0.6μm以上7.2μm以下である。Ge結晶層20はトレンチアレイ11Aの内部からSiフィン部12の上端面にかけて連続的に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
{100}面方位を有し、主面にトレンチアレイが形成されたSi基板と、
前記トレンチアレイの内部を含む前記Si基板の前記主面に形成されたGe結晶層とを備え、
前記トレンチアレイは<010>方向と平行に形成されており、
前記トレンチアレイのトレンチ幅は0.8μm以下であり、
隣接するトレンチ間のSiフィン部の幅が0.6μm以上7.2μm以下であり、
前記Ge結晶層は前記トレンチの内部から前記Siフィン部の上端面にかけて連続的に形成されていることを特徴とするゲルマニウム半導体装置。
【請求項2】
前記トレンチアレイの深さが2μm以上である、請求項1に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項3】
{100}面方位を有するSi基板の主面に<010>方向と平行なトレンチアレイを形成する工程と、
化学気相成長により前記トレンチアレイの内部を含む前記Si基板の前記主面にGe結晶層を形成する工程とを備え、
前記化学気相成長は、原料ガスが分子流として供給される圧力条件下で行い、
前記トレンチアレイのトレンチ幅は0.8μm以下であり、
隣接するトレンチ間のSiフィン部の幅が0.6μm以上7.2μm以下であり、
前記Ge結晶層は、前記トレンチの内部から前記Siフィン部の上端面にかけて連続的に形成されることを特徴とするゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記トレンチアレイの深さが2μm以上である、請求項3に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記トレンチアレイを形成する工程は、
前記Si基板の前記主面に前記トレンチアレイに対応するSiOマスクを形成する工程と、
前記SiOマスクを用いたドライエッチングにより前記Si基板の前記主面に前記トレンチアレイを形成する工程と、
前記SiOマスクを除去して前記Siフィン部の前記上端面を露出させる工程を含む、請求項3に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウム半導体装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光半導体デバイスとしてGe(ゲルマニウム)を利用した光デバイスの開発が進んでいる。シリコンフォトニクスの基本光部品は、Si(シリコン)系光導波路とGe受光器であり、これらを同一基板上にモノリシック集積させた小型光モジュールは通信システムに応用されている。
【0003】
Ge受光器の基礎材料であるGe単結晶膜の製造方法に関し、例えば特許文献1には、サブミクロン幅のSiOマスクが繰り返されたSi基板の表面にGeのエピタキシャル成長を行う方法が記載されている。図8に示すように、SiOマスク31が繰り返されたSi基板30の表面にGeのエピタキシャル成長を行うと、Si基板30の露出面からGeが選択的に成長する。結晶成長を継続すると、SiOマスク31上に空洞33を残してGeが横方向に成長し、隣接したGe選択成長層と一体化して連続膜が形成される。この手法を用いると、Si基板30上に貫通転位密度を低減させたGe単結晶薄膜32を熱処理なく形成できる。
【0004】
また特許文献2には、Si基板の主面に形成されたトレンチ内に埋め込まれたGe結晶層を用いたゲルマニウム半導体装置が記載されている。トレンチはSi基板の<010>方向と平行に形成され、化学気相成長によるGeのトレンチ内への埋め込みは、原料ガスが分子流として供給される圧力条件下で行われる。また受光面積が大きなGe受光器を実現するためトレンチをアレイ化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-98493号公報
【特許文献2】特開2022-120811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近赤外光を受光するゲルマニウム受光器が、光導波路を伝搬する光ではなく自由空間を伝搬する光を受光するためには、高い受光感度が必要であり、そのためには数ミクロン程度の十分な厚さのゲルマニウム結晶層が必要である。同時に、Ge結晶層の占有面積を大きくして受光面のサイズを拡大する必要がある。
【0007】
トレンチ内にGeを埋め込む場合、トレンチ幅が広すぎると埋め込み効率が悪くなるが、トレンチ幅が狭すぎるとGeの占有面積が小さくなり、Ge受光器の受光効率が低下する。Geの占有面積を大きくするためには、トレンチをアレイ化し、できるだけ狭いピッチでトレンチを形成することが望ましい。しかし、トレンチアレイのピッチが狭すぎると、トレンチ内壁面が荒れてGe結晶層が成長しにくくなり、Geの埋め込み効率が低下するという問題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、Ge結晶層が厚く且つその占有面積が大きなゲルマニウム半導体装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によるゲルマニウム半導体装置は、{100}面方位を有し、主面にトレンチアレイが形成されたSi基板と、前記トレンチアレイの内部を含む前記Si基板の前記主面に形成されたGe結晶層とを備え、前記トレンチアレイは<010>方向と平行に形成されており、前記トレンチアレイのトレンチ幅は0.8μm以下であり、隣接するトレンチ間のSiフィン部の幅が0.6μm以上7.2μm以下であり、前記Ge結晶層は前記トレンチの内部から前記Siフィン部の上端面にかけて連続的に形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明によるゲルマニウム半導体装置の製造方法は、{100}面方位を有するSi基板の主面に<010>方向と平行なトレンチアレイを形成する工程と、化学気相成長により前記トレンチアレイの内部を含む前記Si基板の前記主面にGe結晶層を形成する工程とを備え、前記化学気相成長は、原料ガスが分子流として供給される圧力条件下で行い、前記トレンチアレイのトレンチ幅は0.8μm以下であり、隣接するトレンチ間のSiフィン部の幅が0.6μm以上7.2μm以下であり、前記Ge結晶層は、前記トレンチの内部から前記Siフィン部の上端面にかけて連続的に形成されることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ゲルマニウムをトレンチ内に埋め込むことで十分な厚さのGe結晶層の生産性を向上できる。特に、トレンチ幅を0.8μm以下とすることで、トレンチの上部までゲルマニウムを埋め込むことができる。さらに隣接するトレンチ間のSiフィン部の幅を0.6~7.2μmとし、Siフィン部の上端面にもGe結晶層を形成することで、トレンチの上部までGeを効率よく埋め込むことができ、さらにGe結晶層の占有面積を大きくすることができる。
【0012】
本発明において、前記トレンチアレイを形成する工程は、前記Si基板の前記主面に前記トレンチアレイに対応するSiOマスクを形成する工程と、前記SiOマスクを用いたドライエッチングにより前記Si基板の前記主面に前記トレンチアレイを形成する工程と、前記SiOマスクを除去して前記Siフィン部の前記上端面を露出させる工程を含むことが好ましい。これにより、トレンチ内でのGeの結晶成長を促進させてトレンチ内に十分な厚さのGe結晶層を形成することができる。
【0013】
前記トレンチアレイの深さは2μm以上であることが好ましい。これによりトレンチアレイ内に埋め込まれた2μm以上の厚さを有するGe結晶層を形成することができ、Ge受光器の受光効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Ge結晶層が厚く且つその占有面積が大きなゲルマニウム半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)及び(b)は、本発明の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す図であって、(a)は略平面図、(b)は(a)のX-X線に沿った略断面図である。
図2図2 は、トレンチの構成を示す略斜視図である。
図3図3(a)~(d)は、ゲルマニウム半導体装置の製造方法を示す模式図である。
図4図4(a)及び(b)は、トレンチ内でのGeの結晶成長メカニズムを説明するための模式図である。
図5図5は、トレンチアレイ内へのGeの埋め込み状態を示すTEM画像である。
図6図6は、トレンチアレイ内へのGeの埋め込み状態を示すTEM画像であって、上段はSiOマスクを残した状態、下段はSiOマスクが除去された状態をそれぞれ示している。
図7図7は、トレンチアレイ内へのGeの埋め込み状態を示すSEM画像であって、上段はGeを埋め込む前、中段は通常の平坦面で100nmの膜厚に相当するGeを成長させた状態、下段は通常の平坦面で300nmの膜厚に相当するGeを成長させた状態をそれぞれ示している。
図8図8は、従来のGe単結晶膜の製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1(a)及び(b)は、本発明の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す図であって、(a)は略平面図、(b)は(a)のX-X線に沿った略断面図である。
【0018】
図1(a)及び(b)に示すように、ゲルマニウム半導体装置1は、(001)面又はこれと等価な結晶面を主面10aとするSi基板10と、Si基板10の主面10aに形成された複数のトレンチ11からなるトレンチアレイ11Aと、トレンチアレイ11Aの内部を含むSi基板10の主面10aに形成されたGe結晶層20とを備えている。Si基板10の(001)面と等価な結晶面は、一般的に{100}面と表記される。
【0019】
Si基板10は例えばn型Si単結晶基板であり、トレンチアレイ11AはSi基板10の[010]方向と平行に形成されている。そのため、図2に示すように、トレンチ11の側壁面11aの面方位は(100)面又は(-100)面であり、主面10aと結晶学的に等価な結晶面を有している。トレンチ11の底面11bの面方位はSi基板10の主面10aと同様に(001)面である。トレンチ11はSi基板10の[100]方向と平行に形成されてもよい。この場合、トレンチ11の側壁面11aの面方位は(010)面又は(0-10)面となり、主面10aと結晶学的に等価な結晶面となる。すなわち、[100]方向と平行なトレンチ11は、[010]方向と平行なトレンチ11と等価である。
【0020】
トレンチ11の長さLはできるだけ長いことが好ましい。これによりGe結晶層20の面積をできるだけ大きくしてGe受光器の受光面積を稼ぐことができる。
【0021】
トレンチ11の深さDは2μm以上であることが好ましく、3μm以上がさらに好ましい。これにより、トレンチ11内に十分な厚さのGe結晶層20を形成することができ、自由空間を伝搬する光を受光可能な受光感度が高いGe受光器を実現することができる。例えば、トレンチ11の深さDを2μm以上とすることにより、波長約1.55μmの近赤外光の光吸収率を50%以上にすることができる。さらに、トレンチ11の深さDを3μm以上とすることにより、波長約1.55μmの近赤外光の光吸収率を70%以上にすることができる。
【0022】
トレンチ11の幅Wtは0.8μm以下であることが好ましい。トレンチ幅Wtが広すぎるとトレンチ11内へのGe結晶層20の埋め込みに長時間を必要とするからである。一方、トレンチ幅Wtが狭すぎるとトレンチ11の形成及びトレンチ11内へのGe結晶層20の埋め込みが困難となる。そのため、トレンチ幅Wtは0.1μm以上であることが好ましい。このように、トレンチ幅Wtが0.1μm以上0.8μm以下であればトレンチ11の側壁面11aからの結晶成長によってトレンチ11内へのGe結晶層20の埋め込み時間を短くすることができる。
【0023】
トレンチ11の側壁面11aはわずかに傾斜していることが好ましく、垂直面に対する傾斜面の角度は0.3~10度であることが好ましい。側壁面11aが少し傾斜している場合には、ゲルマニウムの埋め込み時に空洞が発生しにくく、Ge結晶層20の品質を高めることができる。傾斜角度が0.3度よりも小さい場合には側壁面11aを傾斜させることによる効果が得られない。また側壁面11aの傾斜角度が10度よりも大きい場合には、(100)面又は(-100)面に対する側壁面11aの面方位のずれが大きくなり、側壁面11aからのゲルマニウムの結晶成長促進効果が小さくなると共に、ゲルマニウムの埋め込み量が不足して十分な厚さのGe結晶層20が得られないおそれがある。
【0024】
隣接する2本のトレンチ11,11間のSiフィン部12の幅Ws(トレンチ分離幅)は0.6μm以上であることが好ましい。Siフィン部12の幅Wsが狭すぎるとトレンチ11の側壁面に凹凸が発生し、トレンチ11内でのゲルマニウムの結晶成長に悪影響を及ぼす。しかし、Siフィン部12の幅Wsが0.6μm以上であれば、Siフィン部12の強度が向上してGe結晶成長初期の応力耐性が高まるため、トレンチ11の側壁面の荒れを防止することができる。
【0025】
Siフィン部12の幅Wsは7.2μm以下、或いはトレンチ幅Wtの9倍以下(Ws≦9Wt)であることが好ましい。Siフィン部12の幅Wsを広くするとトレンチ11内に埋め込まれたGe結晶層20の占有面積が小さくなり、Ge受光器の受光効率が低下する。しかし、Siフィン部12の幅Wsを7.2μm以下又はトレンチ11の幅Wtの9倍以下(Ws≦9Wt)とすることにより、Ge結晶層20の占有面積を大きくすることができ、特にゲルマニウム形成領域における占有率を10%以上にすることができる。したがって、Ge受光器の10%以上の受光効率を確保することができる。
【0026】
Ge結晶層20はSiフィン部12の上端面にも形成されていることが好ましい。この場合において、Siフィン部12の上端面に形成されたGe結晶層20の表層部20aは、トレンチ11内に埋め込まれたGe結晶層20の埋込部20bの上部と繋がっていることが好ましい。これにより、トレンチ11内でのGe結晶成長を促進させることができ、トレンチ11内に十分な厚さの埋込部20bを形成することができる。
【0027】
Ge結晶層20はSi基板10と逆の導電型を有し、Si基板10との間でpn接合を構成している。例えば、Si基板10がn型半導体である場合、Ge結晶層20はp型半導体である。この場合において、Ge結晶層はp-型ゲルマニウム層及びp+型ゲルマニウム層を順に積層したものであることが好ましい。Si基板10をp型半導体とし、Ge結晶層20をn型半導体とすることも可能である。Ge結晶層20は真性であってもよく、p+型あるいはn+型ゲルマニウム層を積層してpn接合を構成する。
【0028】
Ge結晶層20がトレンチ11内に埋め込まれている場合、その底面のみならず側面もシリコンに束縛されるので、ゲルマニウムとシリコンとの熱膨張係数の違いからGe結晶層20には引張歪みが生じる。ゲルマニウム結晶中の格子歪みが大きくなると、ゲルマニウムのバンドギャップエネルギーが小さくなる。その結果、ゲルマニウムの光吸収波長の長波長化を図ることができ、Lバンドの波長もカバーする広帯域な受光器を実現できる。
【0029】
図3(a)~(d)は、ゲルマニウム半導体装置の製造方法を示す模式図である。
【0030】
図3(a)に示すように、ゲルマニウム半導体装置1の製造では、面方位が{100}面であるSi基板10を用意する。Si基板10はバルクシリコンウェーハであってもよく、エピタキシャルシリコンウェーハやSOI(Silicon On Insulator)ウェーハであってもよい。
【0031】
次に、図3(b)に示すように、Si基板10の主面10aに2μm以上の深さを有するトレンチアレイ11Aを形成する。トレンチアレイ11Aの形成では、Si基板10の主面10aにSiO膜を形成した後、フォトリソグラフィ及びドライエッチングによりSiO膜をパターニングしてSiOマスク22を形成する。これにより、Si基板10の主面10aのトレンチ形成領域を露出させる。次に、SiOマスク22を用いた異方性ドライエッチングによりSi基板10の主面10aに複数本のトレンチ11からなるトレンチアレイ11Aを形成する。
【0032】
通常、シリコンウェーハからのSi基板(シリコンチップ)の切り出し方向やSi基板10上の配線方向はSi基板10の<110>方向に設定されることが多い。(001)面からなるSi基板10の主面10aに<110>方向と平行なトレンチ11を形成した場合、トレンチ11の側壁面11aの面方位は(1-10)面又は(-110)面となり、主面10aと等価な結晶面とはならない。しかし、本実施形態においては<110>方向から45度傾けた<010>方向と平行にトレンチ11を形成するので、トレンチ11の側壁面11aの面方位を(100)面又は(-100)面とすることができ、主面10aと等価な結晶面を形成することができる。
【0033】
次に、図3(c)に示すように、SiOマスク22をウェットエッチング又はドライエッチングにより除去してSiフィン部12の上端面を露出させる。
【0034】
その後、図3(d)に示すように、トレンチアレイ11Aの内部を含むSi基板10の全面にGe結晶層20を形成する。Ge結晶層20は結晶成長中の炉内圧を100Pa以下の低圧とするUHVCVD法(Ultra-High Vacuum CVD)により形成することが好ましい。このとき、Ge結晶層20はトレンチ11内のみならずSiフィン部12の上端面にも堆積するが、その堆積量はわずかであり、Siフィン部12の上端面にはGe結晶層20が薄く形成される。一方、トレンチ11の内部には十分な厚さのGe結晶層20が形成され、トレンチ11内のGe結晶層20の上面の高さはSiフィン部12の上端面12aの高さとほぼ等しくなる。
【0035】
その後、Si基板10及びGe結晶層20にそれぞれ接続された一対の電極パターン(不図示)を形成することにより、トレンチ埋め込み型のゲルマニウム半導体装置1が完成する。
【0036】
図4(a)及び(b)は、トレンチ11内でのゲルマニウムの結晶成長メカニズムを説明するための模式図である。
【0037】
トレンチ11を例えばSi基板10の<110>方向と平行に形成する場合、Si基板10の主面10aである(001)面に垂直なトレンチ11の側壁面11aの面方位は(1-10)面又は(-110)面となる。この場合、図4(a)に示すように、側壁面11aからのゲルマニウム結晶成長が抑制され、主に底面11bからのゲルマニウム結晶成長となる。そのため、トレンチ11内をGe結晶層20で埋めるためには長時間を要する。通常、Si基板10の(001)面上へのゲルマニウム結晶成長速度の典型値は10nm/min程度であり、また成長初期には成長速度が遅い低温バッファ層を形成する必要があるため、3μm以上のGe結晶層を形成するには10時間近い成長時間が必要である。
【0038】
一方、トレンチ11をSi基板10の<110>方向から45度傾けた<010>方向と平行に形成する場合、Si基板10の主面10aである(001)面に垂直なトレンチ11の側壁面11aの面方位は(100)面又は(-100)面となる(図2参照)。ここで、原料ガス分子がトレンチ11の底部まで行き渡るように、原料ガスが分子流として供給される圧力条件下で化学気相成長を行う。トレンチ11の深さDよりも原料ガスの平均自由工程が大きく、トレンチ内部の底面や側壁面に原料ガスを供給できる。図4(b)に示すように、トレンチ11の側壁面11aからも底面11bと同様の成長速度で結晶成長が起こる。トレンチ11の幅Wtを例えば0.6μmとすると、トレンチ11の深さDに関係なく、Ge結晶層20がトレンチ11の両方の側壁面11aから0.3μm成長することでトレンチ11の内部の埋め込みが完了する。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によるゲルマニウム半導体装置1の製造方法は、{100}面方位を有するSi基板10の主面10aに<010>方向と平行なトレンチアレイ11Aを形成する工程と、トレンチアレイ11Aの内部を含むSi基板10の主面10aにGe結晶層20を化学気相成長法により形成する工程とを備え、各トレンチ11の幅は0.8μm以下であり、隣接するトレンチ11、11間のSiフィン部12の幅が0.6μm以上7.2μm以下であり、Ge結晶層20は、トレンチ11の内部からSiフィン部12の上端面12aにかけて連続的に形成されるので、各トレンチ11の底面のみならず側壁面11aからもゲルマニウムの結晶成長を促進させることができ、2μm以上の厚いGe結晶層20を短時間で形成することができる。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【実施例0041】
面方位が{100}面、オリエンテーションフラットが<110>方向である4インチのシリコンウェーハを用意し、その主面にトレンチ幅Wt及びトレンチ間のSiフィン部の幅Wsが互いに異なる種々のトレンチアレイパターンを形成した。トレンチ幅Wtは0.6μm、0.8μm、1.0μmの3通り、Siフィン部の幅Wsは0.2μm、0.4μm、0.6μmの3通りとし、それらを組み合わせて9通りのパターンを用意した。トレンチアレイはSiOマスクを用いたフォトリソグラフィ及びRIE(Reactive Ion Etching)により形成した。
【0042】
次に、SiOマスクを残した状態でトレンチアレイ内へのGeの埋め込みを行った。GeはGeHを原料ガスとするUHVCVD法により形成し、成長炉内の圧力は10Pa以下の分子流領域を用いた。具体的には、{100}面に厚さが1.0μmのGe結晶層が得られる成長条件を設定した。
【0043】
トレンチアレイ内へのGeの埋め込みが完了した後、シリコンウェーハのFIB(Focused Ion Beam)加工を行った。FIB加工では、Geの埋込部が形成されたシリコンウェーハの主面にPt保護膜を予めスパッタリングにより形成した後、トレンチアレイの延在方向と直交する方向にシリコンウェーハを切断した。その後、トレンチアレイ内のGe結晶層の断面をTEM(Transmission Electron Microscope)により観察した。
【0044】
図5は、トレンチアレイ内へのGeの埋め込み状態を示すTEM画像である。
【0045】
図5に示すように、トレンチ幅が0.6μmのときにはトレンチ内のGe結晶層の高さがSiフィン部の高さとほぼ等しく、トレンチ内に十分な厚さのGe結晶層が形成されている。しかし、トレンチ幅が0.8μmのときには0.4μmのときよりもトレンチ内のGe結晶層の厚さが少し薄くなり、1.0μmのときにはさらに薄くなっている。このように、トレンチ幅が狭くなるほどトレンチ内のGe結晶層の高さが高くなり、Ge結晶層を厚くできることが分かった。特に、トレンチ幅が0.8μm以下にすることにより、トレンチ上部までGeを埋め込むことができたが、1.0μmの場合にはトレンチ上部に成長速度が低い{012}面が現れてトレンチ上部でのGe成長が阻害されるため、トレンチの高さの約半分までしかGeを埋め込むことはできなかった。
【0046】
一方、トレンチ間のSiフィン部の幅を0.2μmから0.6μmまで変化させてもトレンチ内のGeの厚さはほとんど変化しなかった。これにより、トレンチ上部までのゲルマニウムの埋め込み状態はトレンチ間のフィン部の幅に依存しないことが分かった。
【0047】
次に、トレンチ間のSiフィン部の上端面を覆うSiOマスクの有無がゲルマニウムの埋め込みに与える影響を評価した。
【0048】
図6は、トレンチアレイ内へのGeの埋め込み状態を示すTEM画像であって、(a)はSiOマスクを残した状態、(b)はSiOマスクが除去された状態をそれぞれ示している。
【0049】
図6に示すように、トレンチ間のSiフィン部の上端面を覆うSiOマスクを除去した場合には、Siフィン部の上端面にGe結晶層が形成された。またSiOマスクを除去することでトレンチ内のGe結晶層をより厚く形成できることを確認できた。この理由は、Siフィン部の上端面でもGeの成長が起こり、トレンチ上部に形成される傾斜面が{012}面から傾斜の緩い{011}面に変化することにあると考えられる。SiOマスクの除去はゲルマニウムの厚膜化に効果的であり、Ge受光器の受光効率の向上に寄与できることが分かった。
【0050】
トレンチアレイ内部へのGeの埋め込みの途中過程を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。トレンチアレイのトレンチ幅は0.8μmとし、Siフィン部の幅は0.2μm、0.4μm、0.6μmの3通りとした。
【0051】
図7は、トレンチアレイ内へのGeの埋め込み状態を示すSEM画像であって、上段はGeを埋め込む前、中段は通常の平坦面で100nmの膜厚に相当するGeを成長させた状態、下段は通常の平坦面で300nmの膜厚に相当するGeを成長させた状態をそれぞれ示している。
【0052】
図7の上段に示すように、Geを埋め込む前(成長膜厚が0nm)においては、Siフィン部の幅の違いによらず、トレンチの内壁面は平滑面となっていることを確認した。
【0053】
図7の中段に示すように、通常の平坦面で100nmの膜厚に相当するGeを成長させると、Siフィン部の幅が0.2μm及び0.4μmのサンプルでは、トレンチの側壁面に凹凸が発生した。しかし、Siフィン部の幅が0.6μmのサンプルでは、トレンチの内壁面に凹凸の発生が見られなかった。Siフィン部の幅が0.4μm以下のときにはSiフィン部の強度が低下して内壁面の荒れが発生するが、Siフィン部の幅を0.6μmとすることでSiフィン部の強度が向上し、ゲルマニウムの成長初期に印加される応力への耐性が高まったためと考えられる。
【0054】
トレンチの内壁面に発生した凹凸はGe結晶中の欠陥の原因となるため、Siフィン部の幅は0.6μm以上必要であることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 ゲルマニウム半導体装置
10 Si基板
10a Si基板の主面
11 トレンチ
11A トレンチアレイ
11a トレンチの側壁面
11b トレンチの底面
12 Siフィン部
12a Siフィン部の上端面
20 Ge結晶層
20a Ge結晶層の表層部
20b Ge結晶層の埋込部
22 SiOマスク
30 Si基板
31 SiOマスク
32 Ge単結晶薄膜
33 空洞
Ws Siフィン部の幅
Wt トレンチ幅
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8