(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117384
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】回折格子及びそれを用いた分析装置、回折格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240822BHJP
G01J 3/18 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
G02B5/18
G01J3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023453
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青野 宇紀
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 健太
(72)【発明者】
【氏名】江畠 佳定
(72)【発明者】
【氏名】内田 功
【テーマコード(参考)】
2G020
2H249
【Fターム(参考)】
2G020CC04
2G020CC05
2G020CC11
2H249AA03
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA18
2H249AA43
2H249AA51
2H249AA58
(57)【要約】
【課題】
既存の半導体プロセスや機械加工の加工限界よりも微細な格子溝を有する回折格子を提供する。
【解決手段】
分析装置に搭載する回折格子であって、基板上に形成した回折格子パターンを熱収縮樹脂へ転写し、前記熱収縮樹脂を加熱して収縮させ、当該収縮させた熱収縮樹脂上の回折格子パターンを透明樹脂もしくは金属膜へ転写することを特徴とする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析装置に搭載する回折格子であって、
基板上に形成した回折格子パターンを熱収縮樹脂へ転写し、前記熱収縮樹脂を加熱して収縮させ、当該収縮させた熱収縮樹脂上の回折格子パターンを透明樹脂もしくは金属膜へ転写することを特徴とする回折格子。
【請求項2】
請求項1に記載の回折格子であって、
前記熱収縮樹脂は、1軸延伸で形成された樹脂であることを特徴とする回折格子。
【請求項3】
請求項1に記載の回折格子であって、
前記基板上の回折格子パターンに溶剤を塗布し、前記熱収縮樹脂を接触させて荷重を加えることで、前記基板上の回折格子パターンを前記熱収縮樹脂へ転写することを特徴とする回折格子。
【請求項4】
請求項1に記載の回折格子であって、
前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンに溶剤を塗布し、前記透明樹脂を接触させて荷重を加えることで、前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンを前記透明樹脂へ転写することを特徴とする回折格子。
【請求項5】
請求項1に記載の回折格子であって、
前記回折格子パターンが転写された金属膜と、前記回折格子パターンが転写された金属膜を支持するベースと、前記回折格子パターンが転写された金属膜と前記ベースとを固定する樹脂とで構成されることを特徴とする回折格子。
【請求項6】
請求項1に記載の回折格子であって、
40nm以下の格子幅を含むことを特徴とする回折格子。
【請求項7】
請求項1に記載の回折格子であって、
格子形状が略長円形状、略矩形形状、鋸歯形状のいずれかであることを特徴とする回折格子。
【請求項8】
分析装置に搭載する回折格子であって、
基板上に形成した回折格子パターンを熱収縮樹脂へ転写し、前記熱収縮樹脂を加熱して収縮させ、当該収縮させた熱収縮樹脂上の回折格子パターンを金属へ転写して型を形成し、前記型の回折格子パターンを透明樹脂もしくは金属膜へ転写することを特徴とする回折格子。
【請求項9】
請求項8に記載の回折格子であって、
前記熱収縮樹脂は、1軸延伸で形成された樹脂であることを特徴とする回折格子。
【請求項10】
請求項8に記載の回折格子であって、
前記金属の型に溶剤を塗布し、前記透明樹脂を接触させて荷重を加えることで、もしくは、前記透明樹脂の表面を加熱して軟化させ、前記金属の型を接触させて荷重を加えることで、前記型の回折格子パターンを前記透明樹脂へ転写することを特徴とする回折格子。
【請求項11】
請求項8に記載の回折格子であって、
前記回折格子パターンが転写された金属膜と、前記回折格子パターンが転写された金属膜を支持するベースと、前記回折格子パターンが転写された金属膜と前記ベースとを固定する樹脂とで構成されることを特徴とする回折格子。
【請求項12】
請求項8に記載の回折格子であって、
前記金属の型を曲面基板上に接着し、前記透明樹脂もしくは前記金属膜へ転写することを特徴とする回折格子。
【請求項13】
請求項8に記載の回折格子であって、
40nm以下の格子幅を含むことを特徴とする回折格子。
【請求項14】
請求項8に記載の回折格子であって、
格子形状が略長円形状、略矩形形状、鋸歯形状のいずれかであることを特徴とする回折格子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の回折格子を搭載した分析装置。
【請求項16】
以下のステップを含む回折格子の製造方法:
(a)基板上に回折格子パターンを形成するステップ、
(b)熱収縮樹脂の表面を第1の溶剤で溶かし、当該溶かした熱収縮樹脂の表面に前記基板上の回折格子パターンを接触させて荷重を加え、前記基板上の回折格子パターンを前記熱収縮樹脂の表面に転写するステップ、
(c)前記熱収縮樹脂の表面から前記基板上の回折格子パターンを剥離するステップ、
(d)表面に前記基板上の回折格子パターンが転写された熱収縮樹脂を加熱し収縮させるステップ、
(e)透明樹脂の表面を第2の溶剤で溶かし、当該溶かした透明樹脂の表面に前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンを接触させて荷重を加え、前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンを前記透明樹脂の表面に転写するステップ、
(f)前記透明樹脂の表面から前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンを剥離するステップ。
【請求項17】
以下のステップを含む回折格子の製造方法:
(a)基板上に回折格子パターンを形成するステップ、
(b)熱収縮樹脂の表面を第1の溶剤で溶かし、当該溶かした熱収縮樹脂の表面に前記基板上の回折格子パターンを接触させて荷重を加え、前記基板上の回折格子パターンを前記熱収縮樹脂の表面に転写するステップ、
(c)前記熱収縮樹脂の表面から前記基板上の回折格子パターンを剥離するステップ、
(d)表面に前記基板上の回折格子パターンが転写された熱収縮樹脂を加熱し収縮させるステップ、
(e)前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンにめっき処理を施すステップ、
(f)前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンから、前記(e)ステップで形成された金属の型を剥離するステップ、
(g)透明樹脂の表面を第2の溶剤で溶かし、当該溶かした透明樹脂の表面に前記金属の型の回折格子パターンを接触させて荷重を加え、前記金属の型の回折格子パターンを前記透明樹脂の表面に転写するステップ、
(h)前記透明樹脂の表面から前記金属の型の回折格子パターンを剥離するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子の構造とその製造方法に係り、特に、光の波長より細かい微細構造を有する回折格子に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
軟X線から遠赤外線の領域まで、さまざまな光を分光する回折格子は、分光機器に欠かすことのできない光学素子として多くの分野で利用されている。例えば、分光分析装置に搭載される回折格子は、特定の波長の光を分光して検出器に導入する。光源から試料に光を照射した後、回折格子において波長毎の光に分光し、試料における光の吸収を強度により検出する。従来、このような回折格子は、機械刻線やホログラフィック露光で作製した型を、樹脂や金属に転写して製造していた。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「大面積の回折格子型偏光素子が安定的に容易に得られる回折格子型偏光素子の製造方法」が開示されている。
【0004】
特許文献1では、更に微細な格子を作製するために、微小ピッチの平行な溝を周期的に設けてなる光透過性樹脂フィルムに外力を加えて、溝のピッチを狭小化させている。回折格子型偏光素子の裏面に熱収縮樹脂を貼り付け、熱収縮樹脂を収縮させることで、回折格子型偏光素子に外力を加え、溝のピッチを狭小化させる。
【0005】
また、特許文献2には、「型取りや成型加工が容易で、微細加工を可能とする、吸水性高分子樹脂を含む体積変化率の大きい体積変化樹脂成形体の製造方法」が開示されている。
【0006】
特許文献2では、吸水性高分子樹脂に光学素子パターンを形成し、水分を揮発させて収縮させることで微小化して型を作製する。この型を熱硬化型樹脂に転写して微細な光学素子パターンを有する光学素子を作製している。
【0007】
また、特許文献3には、「簡単な工程でモールドの微細構造を樹脂基材に転写可能な微細構造転写方法」が開示されている。
【0008】
特許文献3では、微細構造を有するモールドの表面に溶剤を塗付し、モールド上の溶剤に樹脂基材を接触させた後、モールドから樹脂基材を剥離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-160534号公報
【特許文献2】特開2003-161813号公報
【特許文献3】特開2007-125799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような回折格子において、半導体プロセスのフォトリソグラフィやエッチング、機械刻線では、解像限界、加工限界により微細な格子の作製は困難である。
【0011】
光の波長より細かいサブ波長構造(Sub Wavelength Structure:SWS)を用いた回折格子は高い回折効率が期待されているが、非常に微細な構造が必要であり、特に、医用・バイオ分析に使用される可視領域を分光させるSWSの作製には、最先端の半導体プロセスを適用しても、分解能が不足する。
【0012】
上記特許文献1の技術では、光学素子を形成した樹脂に熱収縮樹脂を貼り付け、収縮させることで、微細な光学素子を形成できる。しかしながら、光学素子を形成した樹脂と熱収縮樹脂との収縮率の差により、光学素子に反りが発生しやすい。
【0013】
上記特許文献2の技術では、光学素子を形成した吸水性高分子樹脂から水分を揮発させることで、微細な光学素子を形成できる。しかしながら、揮発させる水分量の調整により収縮率が変化するため、光学素子の寸法にばらつきが発生しやすい。
【0014】
上記特許文献3の技術では、モールドの微細構造よりも更に細かい構造を作製するのは困難である。
【0015】
そこで、本発明の目的は、既存の半導体プロセスや機械加工の加工限界よりも微細な格子溝を有する回折格子及びそれを用いた分析装置、回折格子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、分析装置に搭載する回折格子であって、基板上に形成した回折格子パターンを熱収縮樹脂へ転写し、前記熱収縮樹脂を加熱して収縮させ、当該収縮させた熱収縮樹脂上の回折格子パターンを透明樹脂もしくは金属膜へ転写することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、分析装置に搭載する回折格子であって、基板上に形成した回折格子パターンを熱収縮樹脂へ転写し、前記熱収縮樹脂を加熱して収縮させ、当該収縮させた熱収縮樹脂上の回折格子パターンを金属へ転写して型を形成し、前記型の回折格子パターンを透明樹脂もしくは金属膜へ転写することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、(a)基板上に回折格子パターンを形成するステップ、(b)熱収縮樹脂の表面を第1の溶剤で溶かし、当該溶かした熱収縮樹脂の表面に前記基板上の回折格子パターンを接触させて荷重を加え、前記基板上の回折格子パターンを前記熱収縮樹脂の表面に転写するステップ、(c)前記熱収縮樹脂の表面から前記基板上の回折格子パターンを剥離するステップ、(d)表面に前記基板上の回折格子パターンが転写された熱収縮樹脂を加熱し収縮させるステップ、(e)透明樹脂の表面を第2の溶剤で溶かし、当該溶かした透明樹脂の表面に前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンを接触させて荷重を加え、前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンを前記透明樹脂の表面に転写するステップ、(f)前記透明樹脂の表面から前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンを剥離するステップ、を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、(a)基板上に回折格子パターンを形成するステップ、(b)熱収縮樹脂の表面を第1の溶剤で溶かし、当該溶かした熱収縮樹脂の表面に前記基板上の回折格子パターンを接触させて荷重を加え、前記基板上の回折格子パターンを前記熱収縮樹脂の表面に転写するステップ、(c)前記熱収縮樹脂の表面から前記基板上の回折格子パターンを剥離するステップ、(d)表面に前記基板上の回折格子パターンが転写された熱収縮樹脂を加熱し収縮させるステップ、(e)前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンにめっき処理を施すステップ、(f)前記熱収縮樹脂上の回折格子パターンから、前記(e)ステップで形成された金属の型を剥離するステップ、(g)透明樹脂の表面を第2の溶剤で溶かし、当該溶かした透明樹脂の表面に前記金属の型の回折格子パターンを接触させて荷重を加え、前記金属の型の回折格子パターンを前記透明樹脂の表面に転写するステップ、(h)前記透明樹脂の表面から前記金属の型の回折格子パターンを剥離するステップ、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、既存の半導体プロセスや機械加工の加工限界よりも微細な格子溝を有する回折格子及びそれを用いた分析装置、回折格子の製造方法を実現することができる。
【0021】
これにより、回折格子の回折効率を向上でき、分析装置の感度を向上することができる。
【0022】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の略長円形状の格子を備えた回折格子の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の略矩形形状の格子を備えた回折格子の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の鋸歯形状の格子を備えた回折格子の概略構成を示す斜視図である。
【
図4】本発明の不等間隔の略矩形形状の格子を備えた回折格子の概略構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明の格子を備えた凹面回折格子の概略構成を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施例1に係る分析装置の概略構成を示す図である。
【
図7】本発明の実施例2に係る分析装置の概略構成を示す図である。
【
図8】本発明の実施例3に係る回折格子の製造方法を示す図である。
【
図9】本発明の実施例4に係る回折格子の製造方法を示す図である。
【
図10】本発明の実施例5に係る回折格子の製造方法を示す図である。
【
図11】本発明の実施例6に係る回折格子の製造方法を示す図である。
【
図12】本発明の実施例7に係る回折格子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の実施例8に係る回折格子の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0025】
先ず、
図1から
図5を参照して、本発明の回折格子の構造について説明する。
【0026】
図1は、本発明の略長円形状の格子を備えた回折格子の概略構成を示す斜視図である。
図2は、本発明の略矩形形状の格子を備えた回折格子の概略構成を示す斜視図である。
図3は、本発明の鋸歯形状の格子を備えた回折格子の概略構成を示す斜視図である。
図4は、本発明の不等間隔の略矩形形状の格子を備えた回折格子の概略構成を示す斜視図である。
図5は、本発明の格子を備えた凹面回折格子の概略構成を示す斜視図である。
【0027】
本発明の回折格子2は、略長円形状(
図1)や、略矩形形状(
図2)や、鋸歯形状(
図3)の格子21,22,23を一定間隔もしくは不等間隔(
図4)で配置して構成される。
【0028】
透過型回折格子では、ガラスやアクリル樹脂などの透明材料上に格子21~23を形成し、反射型回折格子では、アルミニウムや金などの反射率の高い金属上に格子21~23を形成する。格子サイズ、格子の角度などで分光波長を変更することが可能である。
【0029】
また、
図1から
図4に示す形状の格子21~23を凹面基板25上に格子溝24として配置することで、分光だけではなく、集光も可能な回折格子とすることができる。
【実施例0030】
図6を参照して、本発明の実施例1に係る分析装置について説明する。
図6は、本実施例の分析装置1の概略構成を示す図である。本実施例では、本発明による透過型回折格子を用いた分析装置を説明する。
【0031】
本実施例の分析装置1は、化学物質、生体物質などにおいて、特定の物質からの発光を検出することで、物質同定に使用される。
図6に示すように、分析装置1は、光源11、レンズ12a,12b,12c、試料室13、回折格子2、および複数の直線上に配置された検出器15で構成される。
【0032】
光源11からの光はレンズ12aにより集光され、試料室13の計測対象(試料)に照射される。試料から発した光はレンズ12bを通して、回折格子2に照射されて波長分散され、スペクトルを形成する。形成されたスペクトルを、レンズ12cを通して、フォトディテクタやCCD(Charge Coupled Device)などの検出器15で検出する。
光源11からの光はレンズ12aにより集光され、試料室13の計測対象に照射される。試料室13から透過してくる光はレンズ12bによりスリット14の開口部上に集光される。スリット14を通過した光は、回折格子2によって波長分散され、スペクトルを形成する。形成されたスペクトルを検出器15で検出する。