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特開2024-117566高強度繊維補強コンクリートの施工方法
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  • 特開-高強度繊維補強コンクリートの施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117566
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】高強度繊維補強コンクリートの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 11/18 20060101AFI20240822BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20240822BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240822BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240822BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240822BHJP
   C04B 14/48 20060101ALI20240822BHJP
   E01C 23/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
E01C11/18
E04G21/02 101
C04B28/02
C04B22/14 C
C04B24/26 F
C04B14/48 Z
E01C23/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023727
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】太田 健司
(72)【発明者】
【氏名】川西 貴士
(72)【発明者】
【氏名】白井 聡
(72)【発明者】
【氏名】玉滝 浩司
(72)【発明者】
【氏名】藤野 由隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆紘
【テーマコード(参考)】
2D051
2D053
2E172
4G112
【Fターム(参考)】
2D051AF01
2D051AF02
2D051AF17
2D051AG11
2D051AH01
2D051CA01
2D051EA03
2D053AA14
2D053AA32
2D053AD01
2D053FA01
2E172AA05
2E172AA09
2E172AA11
4G112MD01
4G112PA19
4G112PB31
4G112PC03
4G112PC06
(57)【要約】
【課題】高強度繊維補強コンクリートの施工を円滑に行って工期を短縮することが可能な施工方法を提供すること。
【解決手段】高張力繊維を含むモルタル組成物を打設する打設工程を有する高強度繊維補強コンクリートの施工方法であって、施工環境において、打設後40分間以内に山中式土壌硬度計で測定される支持強度が1N/mmに到達する高強度繊維補強コンクリートの施工方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力繊維を含むモルタル組成物を打設する打設工程を有する高強度繊維補強コンクリートの施工方法であって、
施工環境において、打設後40分間以内に山中式土壌硬度計で測定される支持強度が1N/mmに到達する高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
【請求項2】
前記打設工程の後、前記支持強度が1N/mmに到達した後に、前記高強度繊維補強コンクリートの表面上をアスファルト舗装する舗装工程を有する、請求項1に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
【請求項3】
施工環境の気温が10℃未満のときに、前記打設工程では、10℃以上の温度に調整された前記モルタル組成物を打設する、請求項1又は2に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
【請求項4】
前記モルタル組成物は、セメント、急硬材、遅延剤、及び減水剤を含み、
前記モルタル組成物1m当たりの前記急硬材の単位量をA[kg/m]、前記遅延剤の単位量をB[kg/m]、前記減水剤の単位量をC[kg/m]としたとき、
Aは100kg/m以上180kg/m以下、Bは0より大きく4kg/m以下、Cは5kg/m以上35kg/m以下であり、
A/Bは36.0以上100.0以下であり、
C/Bは3.6以上10.0以下である、請求項1又は2に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
【請求項5】
前記モルタル組成物におけるA/Cは4.0以上20.0以下である、請求項4に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
【請求項6】
前記セメントの鉱物組成は、CS含有量が25.0~75.0質量%、及びCA含有量が4.0質量%未満である、請求項4又は5に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
【請求項7】
前記モルタル組成物は結合材及び水を含み、水/結合材比が10~30質量%である、請求項1又は2に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度繊維補強コンクリートの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路や構造物の補修材として、補強用繊維を含むセメント複合材料が知られている。例えば、特許文献1では、補強用繊維、細骨材、減水剤、収縮低減剤、消泡剤及び水を混錬して生成された超高強度繊維補強コンクリートを打ち継ぎ面に打設する施工方法が提案されている。この施工方法によれば、従来の補修材に比べて硬化体の強度が高いため薄肉化を図ることができる旨が述べられている。
【0003】
このような超高強度繊維補強コンクリートは、使用される環境温度によってその硬化速度が大きく変化する。このため、特許文献2では、山中式土壌硬度計を用いて超高強度繊維補強コンクリートの硬度から貫入抵抗値を算出し、この値を超高強度繊維補強コンクリートの表面仕上げを行うタイミングの指標とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-133344号公報
【特許文献2】特開2015-142964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、高速道路の床版及び護岸設備等の各種インフラ設備の補修の需要が増大している。補修期間中は各種インフラ設備の運用を停止する必要があるため、早期に補修を完了することが求められる。例えば、高速道路の補修プロセスは、床版の劣化部を除去した後、補修材として高強度繊維補強コンクリートを打設し、その上にアスファルトを舗装することによって行われる場合がある。アスファルトを舗装する際には舗装面が振動及び加圧によって平坦化される。この際、容易に変形しない程度の強度を極力早期に発現できるような高強度繊維補強コンクリートがあれば、工期を短縮することができると考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、工期を短縮することが可能な高強度繊維補強コンクリートの施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高張力繊維を含むモルタル組成物を打設する打設工程を有する高強度繊維補強コンクリートの施工方法であって、施工環境において、打設後40分間以内に山中式土壌硬度計で測定される支持強度が1N/mmに到達する高強度繊維補強コンクリートの施工方法を提供する。上記モルタル組成物は、施工環境において、打設後40分間以内に山中式土壌硬度計で測定される支持強度が1N/mm以上に到達する。このようなモルタル組成物を打設して得られる高強度繊維補強コンクリートは、速やかに表面仕上げ及びアスファルトの舗装等の次の作業を行うことができる。このため、工期を短縮することができる。
【0008】
上記施工方法では、打設工程の後、支持強度が1N/mmに到達した後に、高強度繊維補強コンクリートの表面上をアスファルト舗装する舗装工程を有することが好ましい。アスファルト舗装する舗装工程では、アスファルトを敷設後、アスファルトが熱いうちにアスファルトに振動及び加重を与えて平坦にする作業が行われる。上記施工方法では支持強度が1N/mmに到達した後にアスファルト舗装を行うため、舗装工程において高強度繊維補強コンクリートの表面が変形することを十分に抑制できる。したがって、この施工方法では、円滑に道路の補修作業を行うことができる。この施工方法は、工期の短縮が強く要請される高速道路等の補修に特に好適である。
【0009】
施工環境の気温が10℃未満のときに、上記打設工程では、10℃以上の温度に調整されたモルタル組成物を打設することが好ましい。これによって、気温が低くても、作業性を良好にしつつ速やかに高強度繊維補強コンクリートの表面仕上げやアスファルト舗装を行うことができる。
【0010】
モルタル組成物は、セメント、急硬材、遅延剤、及び減水剤を含み、モルタル組成物1m当たりの急硬材の単位量をA[kg/m]、遅延剤の単位量をB[kg/m]、減水剤の単位量をC[kg/m]としたとき、Aは100kg/m以上180kg/m以下、Bは0より大きく4kg/m以下、Cは5kg/m以上35kg/m以下であり、A/Bは36.0以上100.0以下であり、C/Bは3.6以上10.0以下であることが好ましい。
【0011】
このモルタル組成物は、高張力繊維とともに、急硬材、遅延剤、及び減水剤を含む。そして、急硬材、遅延剤、及び減水剤を所定量含み、遅延剤に対する急硬材の比(A/B)及び遅延剤に対する減水剤の比(C/B)が、それぞれ所定の範囲にある。このモルタル組成物は、急硬材、遅延剤、及び減水剤をバランスよく含むため、施工の際の流動性を適度な範囲にしつつ、短時間での強度発現性に優れ山中式土壌硬度計で測定される支持強度を早期に高くすることができる。このため、例えば道路の補修材として用いられたときに、アスファルトが熱いうちに振動及び加重を与えても、補修面が変形することを十分に抑制できる。したがって、円滑に道路の補修作業を行うことが可能となり工期を短縮することができる。このモルタル組成物が硬化して得られる高強度繊維補強コンクリートは圧縮強度が高く耐久性にも優れる。このため、道路のみならず、護岸設備などの種々のインフラ設備の補修に好適に用いることができる。
【0012】
モルタル組成物におけるA/Cは4.0以上20.0以下であることが好ましい。これによって、モルタル組成物が急速に硬化することを抑制し、流動性を確保して施工性を向上することができる。また、短時間での強度発現性に優れ支持強度を十分早期に高くすることができる。耐久性も十分に高くすることができる。
【0013】
セメントの鉱物組成は、CS含有量が25.0~75.0質量%、及びCA含有量が4.0質量%未満であることが好ましい。これによって、流動性と短時間での強度発現性とを、一層高い水準で両立することができる。
【0014】
モルタル組成物は結合材及び水を含み、水/結合材比が10~30質量%であることが好ましい。これによって、適度な流動性を有しつつ強度発現性及び耐久性を十分に高くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、工期を短縮することが可能な高強度繊維補強コンクリートの施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例で用いた消泡剤のH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、上限値と下限値の間が「~」で示される数値範囲は、上限値及び下限値を含む数値範囲である。
【0018】
一実施形態に係る高強度繊維補強コンクリートの施工方法は、高張力繊維を含むモルタル組成物を打設する打設工程を有しており、施工環境において、打設後40分間以内に山中式土壌硬度計で測定される支持強度(以下、単に「支持強度」という場合もある。)が1N/mmに到達する。
【0019】
山中式土壌硬度計は、貫入部位が円錐形のため高強度繊維補強コンクリートに含まれる高張力繊維の影響を受け難くすることができる。このため、測定箇所によるばらつきを十分に小さくすることができる。したがって、高張力繊維を含む高強度繊維補強コンクリートの硬化特性の評価方法に適している。山中式土壌硬度計による支持強度の測定は、実施例に記載の方法で行うことができる。
【0020】
支持強度は、好ましくは打設後38分間以内に、より好ましくは打設後35分間以内に、さらに好ましくは打設後33分間以内に1N/mm以上に到達する。このような高強度繊維補強コンクリートは、表面仕上げ及びアスファルト舗装等の次の工程を早期に行うことができる。また、上記高強度繊維補強コンクリートは、アスファルトが熱いうちに振動及び加重を与えた場合に、補修面が変形することを十分に抑制できる。これによって速やかにアスファルト舗装を行うことができることから、道路の補修材として好適に用いることできる。支持強度が1N/mm以上に到達するまでの時間は、表面仕上げ等の時間を確保する観点から、好ましくは打設後10分間以上であり、より好ましくは打設後15分間以上であり、さらに好ましくは打設後20分間以上である。
【0021】
モルタル組成物は、高張力繊維の他に、セメント、急硬材、遅延剤、及び減水剤を含むことが好ましい。以下、モルタル組成物の好ましい例を説明する。
【0022】
セメントの鉱物組成は、例えば、CS含有量が25.0~75.0質量%であり、CA含有量が4.0質量%未満であってよい。CS含有量は、好ましくは40.0~73.0質量%、より好ましくは48.0~70.0質量%であり、さらに好ましくは50.0~68.0質量%である。CA含有量は好ましくは2.7質量%未満であり、より好ましくは2.3質量%未満である。なお、CA含有量の下限は特に限定されず、例えば、0.1質量%であってよい。このような鉱物組成を有することによって、流動性を十分に高くしつつ、高強度繊維補強コンクリートの圧縮強度を十分に高くすることができる。
【0023】
S含有量は、好ましくは9.5~40.0質量%であり、より好ましくは10.0~35.0質量%であり、さらに好ましくは12.0~30.0質量%である。CAF含有量は好ましくは9.0~18.0質量%であり、より好ましくは10.0~15.0質量%であり、さらに好ましくは11.0~15.0質量%である。このような鉱物組成を有することによって、流動性を十分に高くしつつ、高強度繊維補強コンクリートの圧縮強度を十分に高くすることができる。
【0024】
上述の鉱物組成は、下記のボーグ式により算出される値である。ボーグ式に用いられるセメントの各化学成分は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。
【0025】
S含有量=(4.07×CaO)-(7.60×SiO)-(6.72×Al)-(1.43×Fe)-(2.85×SO
S含有量=(2.87×SiO)-(0.754×CS)
A含有量=(2.65×Al)-(1.69×Fe
AF含有量=3.04×Fe
【0026】
セメントのブレーン比表面積は、好ましくは2500~4800cm/g、より好ましくは2800~4000cm/g、さらに好ましくは3000~3600cm/gであり、特に好ましくは3100~3500cm/gである。セメントのブレーン比表面積が過小になるとモルタル組成物の強度が低くなる傾向があり、過大になると低水セメント比での流動性が低下する傾向がある。セメントのブレーン比表面積は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
【0027】
モルタル組成物1m当たりのセメントの単位量は、700~1100kg/mであってよく、750~1000kg/mであってもよい。
【0028】
高張力繊維は、金属繊維、炭素繊維、アラミド繊維、PP(ポリプロピレン)繊維、PVA(ポリビニルアルコール)繊維、PE(ポリエチレン)繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維及びPBO(ポリパラフェニレン・ベンゾビズ・オキサゾール)繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の繊維を含むことが好ましい。これによって、十分に高い強度と耐久性を有する高強度繊維補強コンクリートを形成することができる。金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、及びアモルファス合金繊維等が挙げられる。
【0029】
高張力繊維の引張強度は、好ましくは100~10000N/mmであり、より好ましくは500~5000N/mmであり、さらに好ましくは2000~3000N/mmであり、特に好ましくは2000~2500N/mmである。高張力繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、好ましくは40~250であり、より好ましくは50~200であり、さらに好ましくは60~170である。このような高張力繊維を含むことによって、高強度繊維補強コンクリートの靭性及び引張強度を十分に高くすることができる。
【0030】
高張力繊維の繊維径は、例えば0.05~1.20mmであってよい。高張力繊維の繊維長は3~60mmであってよい。高張力繊維の単位量は、好ましくは10~500kg/mであり、より好ましくは50~300kg/mであり、さらに好ましくは100~200kg/mであり、一層好ましくは120~180kg/mであってよい。
【0031】
急硬材は、モルタル組成物の強度発現を促進する混和剤であり、例えば、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩の混合物が挙げられる。このような急硬材は、化学成分として、Al、CaO及びSOを含有する。市販品としては、例えば、デンカ株式会社製のビフォーム(登録商標)等を用いることができる。
【0032】
急硬材は、含有量が過小であるとモルタル組成物が短時間で十分な強度発現をすることができない。また、山中式土壌硬度計で測定される支持強度(貫入抵抗値)が1N/mmに到達するまでに所要する時間が長くなる傾向にある。一方、含有量が過剰であると短時間で硬化が進行し過ぎて充填性が低下し十分な強度発現をすることができない。また、流動性が低下して施工性も悪化する。そこで、低温環境下においても適度な流動性を有し、短時間での強度発現性に優れ、山中式土壌硬度計で測定される支持強度(以下、単に「支持強度」という場合もある。)が1N/mmに到達するまでに所要する時間を十分に短くする観点から、モルタル組成物1m当たりの急硬材の単位量A[kg/m]は、100~180kg/mである。急硬材の単位量A[kg/m]の下限は、好ましくは110kg/mであり、より好ましくは120kg/mであり、さらに好ましくは125kg/mである。急硬材の単位量A[kg/m]の上限は、好ましくは170kg/mであり、より好ましくは160kg/mであり、さらに好ましくは150kg/mである。
【0033】
遅延剤は、凝結調整剤又は凝結遅延剤とも称される混和剤であり、モルタル組成物の初期硬化を遅延する作用を有する。遅延剤としては、例えば、リグニンスルホン酸、珪弗化物、又は、アルカリ炭酸塩及びクエン酸を主体とするものが挙げられる。市販品としては、例えば、デンカ株式会社製のセッターD-300(商品名)等を用いることができる。
【0034】
遅延剤は含有量が過小であると、短時間で硬化が促進し過ぎて充填性が低下し十分な強度発現をすることができない。また、流動性が低下して施工性も悪化する。一方、遅延剤の含有量が過剰になると、フローが小さくなり施工性が低下する傾向、及び、短時間で目標強度が得られ難くなる傾向にある。低温環境下において適度な流動性を有し、短時間での強度発現性に優れるモルタル組成物とする観点から、モルタル組成物1m当たりの遅延剤の単位量B[kg/m]は、0より大きく4kg/m以下である。遅延剤の単位量B[kg/m]の下限は、好ましくは1kg/mであり、より好ましくは2kg/mである。遅延剤の単位量B[kg/m]の上限は、好ましくは3.5kg/mであり、より好ましくは3.3kg/mである。
【0035】
減水剤としては、モルタル組成物の流動性を向上する作用を有するものであり、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、アミノスルホン酸系、ポリカルボン酸系の減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤等を使用することができる。モルタル組成物の流動性向上の観点から、減水剤は、ポリカルボン酸系であることが好ましい。このような減水剤は、セメントクリンカ間の立体障害を形成して、モルタル組成物の流動性を向上することができる。
【0036】
減水剤は含有量が過小であると、モルタル組成物の流動性が低下し施工性が悪化する。一方、減水剤の含有量が過剰になると、材料分離が生じる易くなる傾向及び強度が十分に強度し難くなる傾向にある。低温環境下において適度な流動性を有し、早期に高い支持強度を有する高強度繊維補強コンクリートを形成することが可能なモルタル組成物とする観点から、モルタル組成物1m当たりの減水剤の単位量C[kg/m]は、5~35kg/mである。モルタル組成物1m当たりの減水剤の単位量C[kg/m]の下限は、好ましくは7kg/mであり、より好ましくは8kg/mであり、さらに好ましくは9kg/mである。減水剤の単位量C[kg/m]の上限は、好ましくは25kg/mであり、より好ましくは20kg/mであり、さらに好ましくは18kg/mである。
【0037】
上述のとおり、モルタル組成物は、混和剤として、急硬材、遅延剤及び減水剤を含む。遅延剤の単位量Bに対する急硬材の単位量Aの比(A/B)は、36.0~100.0である。上記比(A/B)の上限は、好ましくは80.0であり、より好ましくは65.0であり、さらに好ましくは60.0であり、特に好ましくは55.0である。これによって、モルタル組成物が急速に硬化することを抑制し、施工性を向上することができる。上記比(A/B)の下限は、好ましくは38.0であり、より好ましくは40.0であり、さらに好ましくは41.0であり、特に好ましくは42.0である。これによって、の短時間での強度発現性を十分に高くすることができ、支持強度が1N/mmに到達するまでに所要する時間を十分に短くすることができる。
【0038】
遅延剤の単位量Bに対する減水剤の単位量Cの比(C/B)は、3.6~10.0である。上記比(C/B)の上限は、好ましくは8.0であり、より好ましくは6.0である。これによって、モルタル組成物の流動性を十分に確保することができる。上記比(C/B)の下限は、好ましくは3.7であり、より好ましくは3.8であり、さらに好ましくは3.9である。これによって、モルタル組成物の優れた流動性を十分に維持するとともに、横断勾配及び/又は縦断勾配を有する道路等に打設したときに、モルタル組成物が流動し過ぎることを十分に抑制できる。
【0039】
減水剤の単位量Cに対する急硬材の単位量Aの比(A/C)は、好ましくは4.0~20.0である。これによって、モルタル組成物が急速に硬化することを抑制し、流動性を確保して施工性を向上することができる。また、モルタル組成物の短時間での強度発現性と耐久性を十分に高くすることができる。上記比(A/C)の上限は、好ましくは16.0であり、より好ましくは15.0であり、さらに好ましくは14.0、特に好ましくは13.0である。これによって、可使時間を長くして施工性を一層向上することができる。上記比(A/C)の下限は、好ましくは6.0であり、より好ましくは7.0であり、さらに好ましくは8.0である。これによって、高強度繊維補強コンクリートの支持強度が1N/mmに到達するまでに所要する時間を十分に短くすることができる。
【0040】
このようなモルタル組成物は、混和剤として、急硬材、遅延剤及び減水剤を、バランスよく含有する。したがって、施工時に適切な流動性を有しつつ、短時間での強度発現性に優れている。また、支持強度が1N/mmに到達するまでに所要する時間が十分に短い。したがって、高速道路の補修材として用いれば、表面仕上げ及びアスファルトの舗装を早期に行い、道路の補修期間を短縮することができる。
【0041】
モルタル組成物は、上述の混和剤に加えて、無機質微粉末及び細骨材を含んでよい。無機質微粉末としては、石灰石粉、珪石粉、及び砕石粉等を例示できる。無機質微粉末は、石灰石粉、珪石粉、砕石粉等を、粉砕及び/又は分級した微粉末であってよい。無機質微粉末は、細骨材の微粒分を補う目的で配合されてよい。無機質微粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3000~5000cm/gであり、より好ましくは3200~4700cm/gであり、さらに好ましくは3400~4600cm/gである。このような無機質微粉末を含有することによって、モルタル組成物の流動性をさらに向上することができる。モルタル組成物1m当たりの無機質微粉末の単位量は、好ましくは100~300kg/m、より好ましくは150~250kg/mである。
【0042】
細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、石灰石骨材、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、銅スラグ細骨材、及び電気炉酸化スラグ細骨材等を例示できる。細骨材は、10mmふるいを全部通過し、5mmふるいを85質量%以上通過する粒度を有するものであってよい。JIS A 1102:2014に準拠して測定される細骨材の粒子径は好ましくは5.0mm以下であり、粗粒率は好ましくは2.0~2.5である。JIS A 1103:2014に準拠して測定される細骨材の微粒分量は好ましくは9%以下である。モルタル組成物1m当たりの細骨材の単位量は、好ましくは600~1050kg/m、より好ましくは700~950kg/mであり、さらに好ましくは800~900kg/mである。細骨材は、粒度が異なる複数の細骨材を混合して調製してもよい。
【0043】
モルタル組成物1m当たりの細骨材及び無機質微粉末の合計の単位量は、好ましくは800~1200kg/mであり、より好ましくは900~1150kg/mであり、さらに好ましくは1000~1100kg/mである。
【0044】
モルタル組成物は、シリカフュームを含んでよい。シリカフュームは、金属シリコン、フェロシリコン、又は電融ジルコニア等を製造する際に、発生する排ガス中のダストを集塵して得られる副産物である。シリカフュームは、主成分として、アルカリ溶液中で溶解する非晶質のSiOを含む。シリカフュームの平均粒子径は、好ましくは0.05~2.0μmであり、より好ましくは0.10~1.5μmであり、さらに好ましくは0.18~0.28μmである。このようなシリカフュームを用いることで、モルタル組成物の高い流動性を維持しつつ、高強度繊維補強コンクリートの圧縮強度を十分に高くすることができる。
【0045】
セメントを基準とするシリカフュームの含有量は、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは5~20質量%であり、さらに好ましくは8~18質量%である。また、モルタル組成物1m当たりのシリカフュームの単位量は、好ましくは30~350kg/mであり、より好ましくは50~250kg/mであり、さらに好ましくは100~130kg/mである。
【0046】
モルタル組成物は、水を含んでもよい。モルタル組成物1m当たりの単位水量は、好ましくは150~280kg/mであり、より好ましくは180~250kg/mであり、さらに好ましくは190~230kg/mである。水/結合材比は、適度な流動性を有しつつ強度発現性及び耐久性を十分に高くする観点から、好ましくは10~30質量%であり、より好ましくは15~25質量%である。モルタル組成物に含まれる成分のうち、セメント、シリカフューム、及び急硬材が、結合材に含まれる。
【0047】
モルタル組成物は、必要に応じて、上述の成分に加えて、膨張材、消泡剤、収縮低減剤、増粘剤、ガラス繊維、有機繊維、合成樹脂粉末、ポリマーエマルジョン及びポリマーディスパージョンから選ばれる少なくとも一種を含有していてもよい。膨張材は、市販品として入手可能であり、例えばエトリンガイト・石灰複合系又は石灰系のものを用いることができる。モルタル組成物1m当たりの膨張材の単位量は、好ましくは1~50kg/m、より好ましくは2~40kg/m、より好ましくは5~30kg/mである。
【0048】
消泡剤としては、特殊非イオン配合型界面活性剤、ポリアルキレン誘導体、疎水性シリカ、ポリエーテル系等が挙げられる。モルタル組成物1m当たりの消泡剤の単位量は、好ましくは0.1~20kg/m、より好ましくは0.5~10kg/m、より好ましくは1~5kg/mである。
【0049】
モルタル組成物は、施工環境において適度な流動性を有することが好ましい。モルタル組成物の流動性はモルタル0打フローで評価することができる。施工環境におけるモルタル組成物の練り混ぜ直後のモルタル0打フローは、好ましくは130mm以上であり、より好ましくは140mm以上であり、さらに好ましくは160mm以上である。このようなモルタル組成物は打設時の充填性に優れるため、作業性に優れ、また、圧縮強度及び支持強度を早期に高くすることができる。モルタル組成物の練り混ぜ直後のモルタル0打フローは、好ましくは300mm以下であり、より好ましくは250mm以下であり、さらに好ましくは221mm以下である。このようなモルタル組成物であれば、例えば打設箇所に横断勾配及び/又は縦断勾配がある場合に、モルタル組成物が下方に直ぐに流下することを抑制できる。したがって、作業性に優れる。なお、本明細書のモルタル0打フローは、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準拠して、落下無しの条件で測定される値である。
【0050】
高強度繊維補強コンクリートの短時間での強度発現性は、例えば、材齢3時間の圧縮強度で評価することができる。高強度繊維補強コンクリートの材齢3時間の圧縮強度は、好ましくは20N/mm以上であり、より好ましくは23N/mm以上である。圧縮強度は、JIS A 1132:2020「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」に参考にして5cm×10cmの円柱供試体を作製し、JIS A 1118:2006「コンクリートの圧縮強度試験方法」に参考にして圧縮強度試験を行って測定できる。
【0051】
高強度繊維補強コンクリートの耐久性は、例えば、材齢28日の圧縮強度で評価することができる。高強度繊維補強コンクリートの材齢28日の圧縮強度は、好ましくは130N/mm以上であり、より好ましくは140N/mm以上である。圧縮強度の測定方法は上述したとおりである。
【0052】
材齢28日の圧縮強度に対する材齢3時間の圧縮強度の比は、好ましくは0.20以上であり、より好ましくは0.21以上であり、さらに好ましくは0.22以上である。このようなモルタル組成物は、早期の強度発現性に優れる。このため、打設工程によって得られる高強度繊維補強コンクリートの上に速やかにアスファルトを舗装したり、表面仕上げをしたりすることができる。このため、道路等の各種構造物の補修期間を一層短縮することできる。材齢28日の圧縮強度に対する材齢3時間の圧縮強度の比の上限は、例えば0.25であってよい。これによって、高強度繊維補強コンクリートの耐久性を十分に高くすることができる。
【0053】
高強度繊維補強コンクリートは、アスファルト舗装がなされる補修面を形成する補修材として好適に用いることができる。すなわち、高強度繊維補強コンクリートは、アスファルトが舗装される道路(高速道路)及び橋梁等の補修材又は被覆材として用いてもよい。この高強度繊維補強コンクリートは作業性に優れるとともに、初期の強度発現性と耐久性に優れることから、短期間での施工と耐久性が求められる高速道路の補修に好適に使用することができる。ただし、高強度繊維補強コンクリートは道路の補修用途に限定されず、護岸設備等の各種構造物の設置及び補修に好適に用いることができる。例えば、新設される建築物に用いても工期を短縮することができる。
【0054】
高強度繊維補強コンクリートの施工に用いられるモルタル組成物は、全ての原材料を同時に配合して混合し調製してもよいし、一部の原材料のみを予め混合し、その後、残りの原材料を同時に又は順次に配合して混合し調製してもよい。例えば、水以外の原材料を配合して混合し、粉末状の混合物に水を添加してミキサに入れて練り混ぜて、モルタル組成物を調製してもよい。練り混ぜに使用するミキサとしては、モルタル用ミキサ、強制練りミキサ、パン型ミキサ、グラウトミキサ等を使用することができる。モルタル組成物の流動性、強度発現性及び支持強度が1N/mmに到達するまでに所要する時間は、気温によって変動する。このため、気温によって、急硬材、遅延剤、及び減水剤の配合割合を調整してもよい。なお、上述の調製方法は例示であり、上述以外の調製方法で製造してもよい。
【0055】
高強度繊維補強コンクリートの施工方法は、打設工程の後、モルタル組成物の硬化物の表面にアスファルトを舗装する舗装工程を有していてもよい。舗装工程では、アスファルトを敷設後、アスファルトが熱いうちに振動及び加重を与えて平坦にする。上記モルタル組成物は、施工の際の流動性が適度な範囲であることから作業性に優れる。打設された高強度繊維補強コンクリートは、支持強度を早期に高くすることができる。このため、アスファルトが熱いうちに振動及び加重を与えても、高強度繊維補強コンクリートで形成される補修面が変形することを十分に抑制できる。このため、円滑に道路の補修作業を行って補修工期を短縮することができる。
【0056】
上記実施形態の変形例では、打設工程の前に、気温に応じて、急硬材、遅延剤、及び減水剤からなる群より選ばれる少なくとも一つの配合割合を調節する工程を有していてもよい。これによって、気温変動の影響を低減することができる。別の変形例では、気温が10℃未満のときに、打設工程の前に、モルタル組成物の温度が10℃以上になるように温度調整し、打設工程では10℃以上に調整されたモルタル組成物を打設してもよい。これによって、気温が低い場合であっても、初期の強度発現性を十分に高くすることができる。また、支持強度が1N/mmに到達するまでに所要する時間を、十分に短くすることができる。モルタル組成物の温度調整は、ミキサで攪拌する際に調整してもよいし、予め温度調整された原材料を配合することでモルタル組成物の温度調整を行ってもよい。さらに別の変形例では、モルタル組成物の温度調整の代わりに又は温度調整とともに、高強度繊維補強コンクリートを、施工環境の温度よりも高い温度で養生する養生工程を有していてもよい。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、以下の実施形態であってよい。
【0058】
[1]高張力繊維を含むモルタル組成物を打設する打設工程を有する高強度繊維補強コンクリートの施工方法であって、
施工環境において、打設後40分間以内に山中式土壌硬度計で測定される支持強度が1N/mmに到達する高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
[2]前記打設工程の後、前記支持強度が1N/mmに到達した後に、前記高強度繊維補強コンクリートの表面上をアスファルト舗装する舗装工程を有する、[1]に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
[3]施工環境の気温が10℃未満のときに、前記打設工程では、10℃以上の温度に調整された前記モルタル組成物を打設する、[1]又は[2]に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
[4]前記モルタル組成物は、セメント、急硬材、遅延剤、及び減水剤を含み、
前記モルタル組成物1m当たりの前記急硬材の単位量をA[kg/m]、前記遅延剤の単位量をB[kg/m]、前記減水剤の単位量をC[kg/m]としたとき、
Aは100kg/m以上180kg/m以下、Bは0より大きく4kg/m以下、Cは5kg/m以上35kg/m以下であり、
A/Bは36.0以上100.0以下であり、
C/Bは3.6以上10.0以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
[5]前記モルタル組成物におけるA/Cは4.0以上20.0以下である、[4]に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
[6]前記セメントの鉱物組成は、CS含有量が25.0~75.0質量%、及びCA含有量が4.0質量%未満である、[4]又は[5]に記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
[7]前記モルタル組成物は結合材及び水を含み、水/結合材比が10~30質量%である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の高強度繊維補強コンクリートの施工方法。
【実施例0059】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[モルタル組成物の調製]
各実施例及び各比較例の高強度繊維補強コンクリートを施工するために、以下に示す原材料を準備してモルタル組成物を調製した。
【0061】
(1)セメント
セメントの化学成分を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定し、鉱物組成を上述のボーグ式により算出した。結果は表1に示すとおりであった。
【0062】
【表1】
【0063】
(2)シリカフューム(SF)
シリカフュームを準備した。このシリカフュームの平均粒子径は0.24μmであった。この平均粒子径は、以下の手順で求めた。まず、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、商品名「LA-950V2」)を用いて、このシリカフュームの粒子径分布を測定した。測定結果に基づいて粒子径-通過分積算%曲線を算出し、粒子径-通過分積算%曲線より通過分積算が50体積%となる粒子径を求めた。この粒子径を平均粒子径とした。
【0064】
(3)細骨材
以下の2種類の細骨材を準備した。
珪砂N50:栃木県産、粒子径1.2mm以下、絶乾密度2.62g/cm
珪砂N70:栃木県産、粒子径0.6mm以下、絶乾密度2.62g/cm
【0065】
(4)無機質微粉末
石灰石微粉末(密度:2.71g/cm、ブレーン比表面積:4570cm/g)を準備した。
【0066】
(5)急硬材
急硬材として、デンカ株式会社製のビフォーム(登録商標)を準備した。この急硬材の化学成分の分析結果は表2に示すとおりであった。
【0067】
【表2】
【0068】
(6)遅延剤
遅延剤として、デンカ株式会社製のセッターD-300(商品名)を準備した。
(7)減水剤
減水剤として、ポリカルボン酸系高性能減水剤(固形分濃度:25質量%)を準備した。
(8)消泡剤
消泡剤として、特殊非イオン配合型界面活性剤を準備した。図1は、この消泡剤を重メタノールに溶解し、NMR測定装置(BRUKER製、商品名「AVANCE」)を用いて測定したH-NMRスペクトルである。上記消泡剤の構造単位である、ポリオキシプロピレン(以下、「POP」と略記する)の構造単位、ポリオキシエチレン(以下、「POE」と略記する)の構造単位及びアルキル鎖の構造単位のモル比を、POP中のメチル基に由来するシグナルの積分値を基準に算出した。この内、POPに対するPOEのモル比を、3.5ppm付近に現れるPOPのメチル基以外の炭化水素基に由来するシグナル及びPOEの炭化水素基に由来するシグナルの積分値からPOPのメチル基以外の炭化水素基に由来するシグナルの積分値を差し引くことにより算出した。消泡剤中のPOP、POE及びアルキル鎖の構造単位のモル比を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
(9)膨張材
膨張材として、デンカ株式会社製のエトリンガイト・石灰複合系膨張材を準備した。
(10)高張力繊維
高張力繊維として、鋼繊維(東京製綱株式会社製、商品名「CW9416」、密度:7.87g/cm、繊維径:0.16mm、繊維長:13mm、アスペクト比:81.25、引張強度:2200N/mm)を準備した。
(11)練混ぜ水(W)として上水道水を準備した。
【0071】
(実験例1-1~1-6)
気温30℃の環境下において、上述の原材料を表4に示す割合で配合してモルタル組成物を調製した。混合は、ホバートミキサを用いて、セメント、シリカフューム、無機質微粉末及、消泡剤、膨張材、細骨材を30秒間空練りし、水、および高性能減水剤を投入して5分間練り混ぜた。その後、遅延剤を投入し1分間練り混ぜ、鋼繊維を投入してさらに2分間練り混ぜた。さらに急硬材を投入して1分間練り混ぜた。表4の数値の単位はkg/mであり、モルタル組成物1m当たりの質量(単位量)を示している。水/結合材比は、19質量%で一定とした。
【0072】
(実験例2-1~2-5)
気温20℃の環境下において、上述の原材料を表4に示す割合で配合してモルタル組成物を調製した。混合は、実験例1-1と同様にして行った。表4の数値の単位はkg/mであり、モルタル組成物1m当たりの質量(単位量)を示している。水/結合材比は、19質量%で一定とした。
【0073】
(実験例3-1~3-6)
気温10℃の環境下において、上述の原材料を表4に示す割合で配合してモルタル組成物を調製した。混合は、実験例1-1と同様にして行った。表4の数値の単位はkg/mであり、モルタル組成物1m当たりの質量(単位量)を示している。水/結合材比は、19質量%で一定とした。
【0074】
(実験例4-1~4-2)
気温0℃の環境下において、上述の原材料を表4に示す割合で配合してモルタル組成物を調製した。混合は、実験例1-1と同様にして行った。表4の数値の単位はkg/mであり、モルタル組成物1m当たりの質量(単位量)を示している。水/結合材比は、19質量%で一定とした。
【0075】
【表4】
【0076】
[モルタル組成物の評価]
(1)フレッシュ性状
各実験例で調製したモルタル組成物の各施工環境下における練り混ぜ直後のモルタル0打フローを測定した。モルタル0打フローは、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準拠し、落下無しの条件で測定した。測定結果は、表5に示すとおりであった。
【0077】
(2)強度試験
JIS A 1132:2020「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」を参考にして5cm×10cmの円柱供試体を作製し、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」を参考にして、各施工環境における圧縮強度を測定した。材齢3時間及び材齢28日の測定結果を表5に示す。
【0078】
(3)支持強度
モルタル組成物を型枠に打設して供試体を作製した。山中式土壌硬度計を用いて、供試体の表面における支持強度の測定を行った。山中式土壌硬度計とは日本道路公団規格のJHS 601「土壌硬度試験方法」に規定される土壌強度計である。具体的な測定方法は、以下のとおりである。まず、山中式土壌硬度計の指標を0に合わせて、供試体の表面に対して山中式土壌硬度計を正しく垂直に立て、突き当てツバが完全に測定面に接触するまで、徐々に円錐体を圧入した。その際、突き当てツバと測定面の間に隙間が空かないように注意した。山中式土壌硬度計の本体に表示されている硬度指数(m.m)を読み取り、山中式土壌硬度計に付属している「硬度指数と支持力強度との対照表(標準型)」を用いて、硬度指数から近似指数Pを算出した。この近似指数P(kg/cm)を単位換算して、支持強度(N/mm)を求めた。測定は10分毎に行って、支持強度が1N/mmに到達するまでの所要時間を測定した。モルタル組成物を型枠に打設してから、1N/mmに到達するまでの所要時間は、表5に示すとおりであった。
【0079】
【表5】
【0080】
表5には、遅延剤に対する急硬材の比(A/B)、遅延剤に対する減水剤の比(C/B)、減水剤に対する急硬材の比(A/C)、材齢28日の圧縮強度に対する材齢3時間の圧縮強度の比、及び実施例と比較例の区別を併せて示した。
【0081】
表5に示すとおり、実施例に相当する実験例は、いずれも、支持強度が1N/mmに到達するまでの所要時間が40分間以内であった。また、幾つかの実施例では、練り混ぜ「直後」のモルタル0打フローの値が160~221mmの範囲であり、各施工環境下においても優れた流動性を有することが確認された。
【0082】
実験例1-3(気温:30℃)と実験例2-3(気温:20℃)の配合比は同一であり、実験例3-1(気温10℃)の配合比は、これらと近似していた。これらの評価結果を比較すると、気温が高い方が、モルタル0打フローは小さく、材齢3時間の圧縮強度は大きく、支持強度が1N/mmに到達するまでの所要時間は短くなる傾向にあることが確認された。これらの結果から、施工環境の気温に応じて、配合割合を調節することが好ましいことが確認された。特に、施工環境の気温が低すぎると(例えば10℃未満)、圧縮強度は小さく且つ支持強度が1N/mmに到達するまでの所要時間は長くなる傾向にあるため、モルタル0打フローが適度な範囲を維持できる程度にモルタル組成物を温度調整することによって、材齢3時間の圧縮強度を大きく、且つ支持強度が1N/mmに到達するまでの所要時間を短くすることができる。
【0083】
[養生温度の影響]
実験例4-1及び4-2のモルタル組成物を用い、上記「(2)強度試験」の供試体を作製した。そして、表6に示すとおり20℃で養生する時間を変えたときの圧縮強度の動向を調べた。実験例4-1では、モルタル組成物を打設して材齢1日まで養生温度を気温(0℃)と同じとし、材齢1日以降は、20℃で養生した。実験例4-1aではモルタル組成物を打設して0.5時間、養生温度を20℃とし、その後材齢1日まで気温(0℃)において養生した。材齢1日以降は、20℃で養生した。
【0084】
実施例4-1bでは、モルタル組成物を打設して1時間、養生温度を20℃とし、その後材齢1日まで気温(0℃)において養生した。材齢1日以降は、20℃で養生した。実施例4-1cではモルタル組成物を打設して3時間、養生温度を20℃とし、その後材齢1日まで気温(0℃)において養生した。材齢1日以降は、20℃で養生した。実験例4-2,4-2a,4-2b,4-2cの養生条件は、実験例4-1,4-1a,4-1b,4-1cとそれぞれ同じである。それぞれにおいて、上記「(2)強度試験」の手順で供試体の圧縮強度を測定した。結果は表6に示すとおりであった。
【0085】
【表6】
【0086】
表6に示すとおり、施工環境が10℃未満といった低温の場合は、気温よりも高い温度で高強度繊維補強コンクリートを養生することで、早期に強度を発現できることが確認された。この結果からすると、打設する前にモルタル組成物を温度調整すれば、同様に早期に強度を発現することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、高強度繊維補強コンクリートの施工を円滑に行って工期を短縮することが可能な施工方法を提供することができる。
図1