(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117619
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】子宮体癌患者の予後を予測するための情報提供方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20240822BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
G01N33/574 A
C07K14/47 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023818
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】510126379
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立病院機構
(71)【出願人】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮城 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小井詰 史朗
(72)【発明者】
【氏名】横瀬 智之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久盛
(72)【発明者】
【氏名】太田 幸秀
(72)【発明者】
【氏名】宮城 悦子
(72)【発明者】
【氏名】明庭 昇平
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA50
4H045EA51
(57)【要約】
【課題】本発明は、子宮体癌患者の予後を予測するための情報を提供する方法、及び前記方法に利用できる試薬を提供することを課題とする。
【解決手段】子宮体癌患者の予後を予測するための情報を提供する方法であって、前記患者由来の検体中のTFPI2量を測定すること、及び前記TFPI2量の測定値と前記患者の予後との関連付けをすること、を含む方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮体癌患者の予後を予測するための情報を提供する方法であって、
前記患者由来の検体中のTFPI2量を測定すること、及び
前記TFPI2量の測定値と前記患者の予後との関連付けをすること、を含む方法。
【請求項2】
前記関連付けにおいて、前記TFPI2量の測定値が、予め設定した基準値を超えた場合に、当該患者に予後不良の可能性があると関連付ける、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TFPI2量が、TFPI2プロセシングポリペプチド量及びインタクトTFPI2量の合計である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記TFPI2量の測定が、配列番号1のアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体を用いた抗原抗体反応により行われるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体が、TFPI2のクニッツドメイン1を認識する抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
質量分析法を用いて測定を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
配列番号1に示すアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体を含む、子宮体癌患者の予後を予測するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織因子経路インヒビター2(Tissue Factor Pathway Inhibitor 2;TFPI2)を測定対象として子宮体癌患者の予後を予測するための情報提供方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮体癌は先進国で最もよく見られる婦人科悪性腫瘍の1つであり、閉経後に発症することが多いとされるが近年では40歳以下の若年層で発症が増加している。
子宮体癌は、臨床的・病理組織学的・分子生物学的な特徴から、タイプ1とタイプ2の2種類に分類される。タイプ1は、最も頻度の高い組織型である類内膜癌が主であり、プ
ロゲステロンによる拮抗作用のないエストロゲン過剰の環境下において、初期段階でDNA
ミスマッチ修復遺伝子の機能異常及び癌抑制遺伝子であるPTEN、癌原遺伝子であるKRASの変異が加わり、前癌病変である子宮内膜増殖症を経て発症するものと考えられている。タイプ2は、周囲に内膜増殖症を伴わず、初期段階で高率に認められるp53の変異が萎縮内膜内に子宮内膜上皮内癌を誘導し、癌が発生する。病理学的形態からタイプ1のうちグレー
ド1及び2は比較的悪性度が低いと考えられているが、しばしば原発巣の病態に依らずリンパ節転移や遠隔転移、あるいは再発をきたす症例が存在し、臨床的に問題となっている。しかしながら現在、術前に子宮体癌のグレード1及び2の悪性度を的確に予測できる臨床的に有効なパラメーターはない。
子宮体癌の治療は外科手術が一般的であるが、将来の妊娠を希望する若年の患者に対しては、外科的閉経を避けるため妊孕性温存療法が選択されることがある。ただし、妊孕性温存療法は外科的療法と比較して再発リスクが高いことが報告されている(非特許文献1)。そのため、妊孕性温存療法の適用においては、患者の希望だけでなく癌のステージや再発リスクを考慮して、適合性を慎重に見極める必要がある。
【0003】
従来、全血、血球、血清、血漿などの血液成分から子宮体癌を検出する方法として、糖鎖抗原125(Carbohydrate Antigen 125、CA125)や糖鎖抗原19-9(Carbohydrate Antigen 19-9、CA19-9)が有用とされ、スクリーニング検査等の補助的な指標として利用されているが、子宮体癌患者の予後との関係性については明らかとなっていない。
【0004】
組織因子経路インヒビター2(TFPI2)は、胎盤タンパク質5(Placental Protein 5;PP5)と同一のタンパク質であり、3つのクニッツ型プロテアーゼインヒビタードメインを含む胎盤由来セリンプロテアーゼインヒビターである。TFPI2は本発明者の宮城悦子らにより胎盤の分泌型セリンプロテアーゼインヒビターとして報告され(非特許文献2)、ヘパリン結合性を有し胎盤で発現亢進することから周産期における血液凝固系への関与が考察されている(非特許文献3)。TFPI2は卵巣癌において、明細胞癌細胞株から特異的に産生されること、卵巣癌患者組織における遺伝子発現は明細胞癌患者のみで特異的に向上することが明らかとなっており(特許文献1、非特許文献4)、血中TFPI2濃度は健常人及び子宮内膜症例と比較して卵巣明細胞癌で有意に向上する(特許文献2、非特許文献5)。TFPI2の測定を行うことにより卵巣明細胞癌を検出する方法も開示されており(特許文献3、非特許文献6)、卵巣がん診断における有用性(非特許文献7)や予後・がん関連血栓症(Cancer Asosiated Thrombosis:CAT)との関連も確認されている(特許文献4~5、非特許文献8)。他にも、腎がんや膵がんにおいて健常人と比較して血中TFPI2濃度が上昇傾向にあることが確認されており(特許文献6~7)、一方で複数の癌種においてTFPI2遺伝子プロモーターがメチル化修飾を受けていることから、メチル化修飾を指
標とした遺伝子診断ターゲットとしてリキッドバイオプシー分野で臨床研究が盛んに進められている(非特許文献9~12)。
しかし今日まで、TFPI2と子宮体癌との関連については不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5224309号公報
【特許文献2】特許第6074676号公報
【特許文献3】特許第6737504号公報
【特許文献4】特許第6760562号公報
【特許文献5】特開2021-36227号公報
【特許文献6】国際公開第2019/142636号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2021/246153号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Gynecol.Oncol.,29:e21(2018)
【非特許文献2】J.Biochem.,116,939(1994)
【非特許文献3】Placenta,23(2),145(2002).
【非特許文献4】J. Proteome Res.,12,4340(2013)
【非特許文献5】PLoS ONE,11:e0165609(2016)
【非特許文献6】Int. J.Clin. Oncol.,26(7),1336(2021)
【非特許文献7】J.Obstet. Gynaecol. Res.,48(9),2442(2022)
【非特許文献8】Gynecol. Obstet. Invest.,87(2),13(2022)
【非特許文献9】Cancer Genet. Cytogenet.,197,16(2010)
【非特許文献10】Anticancer Res.,30,1205(2010)
【非特許文献11】Digestive dis.,58,1010(2013)
【非特許文献12】J.Invest., 133,1278(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、子宮体癌患者の予後を予測するための情報を提供する方法、及び前記方法に利用できる試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討し、TFPI2と子宮体癌患者の生存期間を含む臨床情報を照合した結果、両者に一定の相関関係があることを見出し、TFPI2が子宮体癌患者の予後を予測するための情報を提供しうることに想到し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]子宮体癌患者の予後を予測するための情報を提供する方法であって、
前記患者由来の検体中のTFPI2量を測定すること、及び
前記TFPI2量の測定値と前記患者の予後との関連付けをすること、を含む方法。
[2]前記関連付けにおいて、前記TFPI2量の測定値が、予め設定した基準値を超えた場合に、当該患者に予後不良の可能性があると関連付ける、[1]に記載の方法。
[3]前記TFPI2量が、TFPI2プロセシングポリペプチド量及びインタクトTFPI2量の合計である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記TFPI2量の測定が、配列番号1のアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体を用いた抗原抗体反応により行われるものである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記抗体が、TFPI2のクニッツドメイン1を認識する抗体である、[4]に記載の方法。
[6]質量分析法を用いて測定を行う、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[7]配列番号1に示すアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体を含む、子宮体癌患者の予後を予測するための試薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、検体中のTFPI2量から子宮体癌患者の予後を予測するための情報が提供され、術前に悪性度や再発リスクを考慮でき、妊孕性温存療法を検討する際の指標となり得る等、子宮体癌のより的確な管理ができるようになると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】子宮体癌の臨床病期(FIGO分類)とTFPI2、CA125、CA19-9、又はCEAのボックスプロット(Box Plot)を示した図。横軸は臨床病期(FIGO分類)、縦軸は血中量を表す。
【
図2】TFPI2とCA125、CA19-9、又はCEAとの相関を示した図。横軸はTFPI2量、縦軸はCA125、又はCA19-9、CEAの量を表す。
【
図3】子宮体癌の生存群または死亡群における、TFPI2、CA125、CA19-9、又はCEAのボックスプロット(Box Plot)を示した図。縦軸は血中量を表す。
【
図4】TFPI2、CA125、CA19-9、又はCEAによる、子宮体癌の生存群と死亡群のROC曲線を示した図。縦軸は感度、横軸は100%-特異度を表す。
【
図5】術後生存日数とTFPI2、CA125、CA19-9、又はCEAとの相関を示した図。縦軸は血中量、横軸は術後生存日数を表す。
【
図6】TFPI2、CA125、CA19-9、又はCEAの生存曲線を示した図。縦軸は生存率、横軸は術後月数を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1>本発明の子宮体癌患者の予後を予測するための情報を提供する方法
本発明の子宮体癌患者の予後を予測するための情報を提供する方法は、前記患者由来の検体中のTFPI2量を測定すること、及び前記TFPI2量の測定値と前記患者の予後との関連付けをすること、を含む。
これは、TFPI2量と子宮体癌患者の予後との間に相関関係があることに基づく方法である。
本発明の方法により、後述する実施例が示すように、従来知られた腫瘍マーカーであるCA125、CA19-9、又はCEAを測定した場合に比べて、子宮体癌患者の予後をより的確に予測するための情報が提供される。医師は、提供された情報等を参照して、子宮体癌患者の予後を予測する。すなわち、本発明の方法自体は、予後の予測に関する最終的な判断行為は含まず、医師に判断材料を提供する段階までを含む。
なお、本明細書において「予後」とは、例えば患者の今後の生存期間(日数)、生存率や、生存/死亡の見通しの鑑別などをいう。
【0013】
本発明において測定されるTFPI2は、特に限定はなく、例えばインタクトTFPI2(以降、「I-TFPI2」とも記す)、TFPI2プロセシングポリペプチド(以降、「NT-TFPI2」とも記す)、又はそれらの両方であってもよい。
【0014】
配列番号1に、ヒトTFPI2のcDNAに基づくアミノ酸配列を示す。配列番号1において、開始メチオニンから22残基目のグリシンまではシグナルペプチドである。
「インタクトTFPI2」とは、配列番号1のアミノ酸配列の23残基目から235残基目で表されるペプチドをいう。
また、「NT-TFPI2」は、特許文献3に記載されるように、インタクトTFPI2のN末端側に位置するクニッツドメイン1を含むペプチド断片をいう。より具体的には、NT-TFPI2は、配列番号1のアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの配列を少なくとも含むペプチド、または、前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドである。前記同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。また、このポリペプチドは、前記配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。なお、数個とは、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、さらに好ましくは2~5個をいう。また、前記配列の両側に他のペプチドフラグメントを有していてもよいが、TFPI2のクニッツドメイン3を認識する抗体の抗原決定基を有しないことが好ましい。
【0015】
本発明における患者由来の検体(被検試料)は、全血、血球、血清、血漿などの血液成分、細胞または組織の抽出液、尿、脳脊髄液などが挙げられる。また、子宮組織生検を検査対象としてもよいが、その場合は生検試料の培養上清を検体とする。血液成分や尿などの体液を検体として用いると、簡便かつ非侵襲的に行うことができるため好ましく、検体採取の容易性、他の検査項目への汎用性を考慮すると、血液成分を検体として用いるのが特に好ましい。検体の希釈倍率は無希釈から100倍希釈の中から使用する検体の種類や状態に応じて適宜選択すればよい。
【0016】
また、本発明における検体の採取時期は、特に限定されない。例えば、画像診断等で子宮体癌疑いとなって精密検査が施行される術前時から、術後の病理検査により子宮体癌と確定診断後の経過観察時にかけていつでもよく、確定診断前後、治療開始前後など、いずれの段階で採取した検体であっても、本発明の方法に供することができる。これは、後述する実施例で示すように、血中TFPI2量が、患者の予後と一定の相関関係を有するのに対し、患者における癌の進行度とは明確な関係が認められなかったことによって支持される。
【0017】
測定されたTFPI2量と患者の予後との関連付けは、例えば、インタクトTFPI2量、NT-TFPI2量、又はインタクトTFPI2量及びNT-TFPI2量の合計が、予め設定した基準値を超えた場合に、患者に予後不良の可能性があると関連付けることによって行われる。関連付けによって示された予後の可能性は、通常、医師に予後を予測するための判断材料となり得る情報として提供される。
判定に用いる基準値は、測定値もしくは換算濃度値のいずれでもよい。なお、換算濃度値は、TFPI2を標準試料として作成された検量線に基づいて測定値から換算される値をいう。
【0018】
予後を判定する基準値は、例えば、初回手術後に再発せずに生存している子宮体癌患者由来の検体と、初回手術後に死亡した子宮体癌患者由来の検体とをそれぞれ測定し、受信者動作特性(ROC)曲線解析を行うことによって最適な感度と特異度を示す値に適宜設定することができる。例えば、具体的にはNT-TFPI2量とインタクトTFPI2量の合計の基準値(Cutoff値)は270pg/mLと設定してもよく、また後述の実施例で示すように191pg/mLと設定してもよい。
【0019】
以降、TFPI2の測定方法について説明する。
本発明において、検体中のNT-TFPI2量又はインタクトTFPI2量を個別に測定してもよく、またその値を合計して合計量としてもよい。また、検体中のNT-TFPI2とインタクトTFPI2の合計量を1度に測定できる測定系で測定してもよい。あるいは、後述するように、両方の測定による合計量とインタクトTFPI2単独の測定量とから間接的にNT-TFPI2量を測定してもよい。
本発明の方法において、NT-TFPI2量及び/又はインタクトTFPI2量を測定する方法は特に制限されない。例えば、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体を用いる抗原抗体反応を利用した方法や、質量分析法を利用した方法が例示できる。
【0020】
NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体を用いる抗原抗体反応を利用した測定方法として、例えば特許文献3に記載の方法が挙げられ、具体的には、以下のものが挙げられる。
(a)標識した測定対象及び測定対象を認識する抗体を用い、標識した測定対象及び検体に含まれる測定対象が、前記抗体に競合的に結合することを利用した競合法。
(b)測定対象を認識する抗体を固定化したチップに検体を接触させ、当該抗体と測定対象との結合に依存したシグナルを検出する表面プラズモン共鳴を用いた方法。
(c)蛍光標識した測定対象を認識する抗体を用い、当該抗体と測定対象とが結合することで蛍光偏光度が上昇することを利用した蛍光偏光免疫測定法。
(d)エピトープの異なる2種類の、測定対象を認識する抗体(うち1つは標識した抗体)を用い、当該2つの抗体と測定対象との3者の複合体を形成させるサンドイッチ法。
(e)前処理として測定対象を認識する抗体により検体中の測定対象を濃縮後、その結合タンパクのポリペプチドを質量分析装置等により検出する方法。
(d)、(e)の方法が簡便かつ汎用性が高いが、多検体を処理する上では(d)の方法が試薬及び装置に関する技術が十分確立されている点でより好ましい。
【0021】
抗原抗体反応を利用してNT-TFPI2量及び/又はインタクトTFPI2量を測定する方法は、具体的に以下のものが挙げられる。
(A)NT-TFPI2とインタクトTFPI2の両方を認識する抗体を用いて、NT-TFPI2及びインタクトTFPI2の合計量を測定する方法(NT+I-TFPI2測定系)。なお、前記NT-TFPI2とインタクトTFPI2の両方を認識する抗体は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の23残基目のアスパラギン酸から131残基目のヒスチジン又は130残基目のシステインまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体であることが好ましく、TFPI2のクニッツドメイン1に抗原決定基を有する抗体であることがさらに好ましい。また、この方法で前述したサンドイッチ法を用いる場合は、通常、前記抗体はエピトープの異なる2種類を用いる。
【0022】
(B)NT-TFPI2を認識せずインタクトTFPI2を認識する抗体を用いて、インタクトTFPI2単独の量を測定する方法(I-TFPI2測定系)。なお、前記NT-TFPI2を認識せずインタクトTFPI2を認識する抗体は、TFPI2のクニッツドメイン3に抗原決定基を有する抗体であること好ましい。また、この方法で前述したサンドイッチ法を用いる場合は、通常、前記抗体はエピトープの異なる2種類を用い、うち少なくとも1種類はNT-TFPI2を認識せずインタクトTFPI2を認識する抗体を用い、もう1種類はNT-TFPI2を認識せずインタクトTFPI2を認識する抗体であってもNT-TFPI2とインタクトTFPI2の両方を認識する抗体であってもよい。
【0023】
(C)(A)のNT+I-TFPI2測定系で測定したNT-TFPI2及びインタクトTFPI2の合計量から、(B)のI-TFPI2測定系で測定したインタクトTFPI2単独量を減じることにより、NT-TFPI2単独の量を算出する方法。
(D)インタクトTFPI2を認識せずNT-TFPI2を認識する抗体を用いて、NT
-TFPI2単独の量を測定する方法。なお、前記インタクトTFPI2を認識せずNT-TFPI2を認識する抗体は、例えば、NT-TFPI2のC末端部分のペプチド配列を特異的に認識する抗体が挙げられる。前述したサンドイッチ法を用いる場合は、例えば、当該抗体を固相抗体とし、クニッツドメイン1に抗原決定基を有する抗体を検出抗体とする。
【0024】
本発明においては、前述した(C)や(D)の方法で測定したNT-TFPI2単独の量を判定の基準に用いてもよいが、(A)の方法で測定したNT-TFPI2及びインタクトTFPI2の合計量を判定の基準に用いても十分な感度と特異度が得られるうえ、抗体の取得しやすさや測定が一段階で簡便なことから、後者がより好ましい。
【0025】
NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体は、NT-TFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質そのもの、NT-TFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質の部分領域からなるオリゴペプチド、NT-TFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質のインタクトまたは部分領域をコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として、動物に免疫することで得ることができる。
免疫に用いる動物は、抗体産生能を有するものであれば特に限定はなく、マウス、ラット、ウサギなど通常免疫に用いる哺乳動物でもよいし、ニワトリなど鳥類を用いてもよい。
【0026】
なお、免疫原として、NT-TFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質そのもの、またはNT-TFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質の部分領域からなるオリゴペプチドを用いることができる。しかし、前記タンパク質または前記オリゴペプチドは生体内のTFPI2の立体構造を反映していない、あるいは調製する過程でその構造が変化する可能性がある。そのため、得られた抗体が、所望の生体内のTFPI2に対して高い特異性や結合力を有さない可能性があり、本抗体を用いて測定系を構築しても結果として検体中に含まれるTFPI2濃度を正確に定量できなくなる可能性がある。一方、免疫原として、NT-TFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質のインタクトまたは部分領域をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いると、免疫された動物の体内で構造変化を受けない導入した通りのNT-TFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2タンパク質のインタクトまたは部分領域が発現されるため、検体中のNT-TFPI2ポリペプチド又はインタクトTFPI2に対し、高い特異性及び結合力(すなわち高親和性)を有した抗体が得られるため好ましい。
【0027】
更に、血中にはTFPI2の相同体として知られるTFPI1も存在する。従って、TFPI1と交叉せずTFPI2のみを特異的に認識する抗体を用いることが望ましい。
【0028】
TFPI2を認識する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であるのが好ましい。
NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体を産生するハイブリドーマ細胞の樹立は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で免疫した動物からB細胞を採取し、前記B細胞とミエローマ細胞とを電気的にまたはポリエチレングリコール存在下で融合させ、HAT培地により所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択を行い、選択したハイブリドーマ細胞を限界希釈法によりモノクローン化を行うことで、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を樹立することができる。
【0029】
本発明で用いる、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識する抗体、
例えば、NT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2を認識するモノクローナル抗体の選定は、宿主発現系に由来する、GPI(glycosylphosphatidylinositol)アンカー型TFPI2または分泌型TFPI2に対する親和性に基づいて行えばよい。
なお、前記宿主としては特に限定はなく、当業者がタンパク質の発現に通常用いる、大腸菌や酵母などの微生物細胞、昆虫細胞、動物細胞の中から適宜選択すればよいが、ジスルフィド結合もしくは糖鎖付加といった翻訳後修飾により、天然型のNT-TFPI2及び/又はインタクトTFPI2に近い構造を有するタンパク質の発現が可能な、哺乳細胞を宿主として用いると好ましい。哺乳細胞の一例としては、従来用いられている、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK)293T細胞株、サル腎臓細胞COS7株、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはヒトから単離された癌細胞などが挙げられる。
【0030】
本発明で用いられる抗体の精製は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で樹立した、抗体を産生するハイブリドーマ細胞を培養後、その培養上清を回収し、必要に応じ硫酸アンモニウム沈殿による抗体濃縮後、プロテインA、プロテインG、またはプロテインLなどを固定化した担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー及び/またはイオン交換クロマトグラフィーにより、抗体の精製が可能である。
【0031】
なお、前述したサンドイッチ法で抗原抗体反応を行う際に用いる標識した抗体は、前述した方法で精製した抗体をペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼなどの酵素で標識すればよく、その標識も技術が十分確立された方法を用いて行えばよい。
【0032】
本発明の方法において、質量分析法を利用してNT-TFPI2量及び/又はインタクトTFPI2量を測定する方法について、以下に具体的に説明する。
検体が血液である場合は、前処理工程として血液に多く含まれるアルブミン、イムノグロブリン、トランスフェリン等の主要タンパク質をAgilent Human 14等で除去した後、イオン交換、ゲル濾過または逆相HPLC等でさらに分画することが好ましい。または、抗TFPI2抗体を用いた免疫的手法によりTFPI2のみを特異的に回収することも可能である。
【0033】
測定は、タンデム質量分析(MS/MS)、液体クロマトグラフィ・タンデム質量分析(LC/MS/MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry、MALDI-TOF/MS)、表面増強レーザーイオン化質量分析(surface enhanced laser desorption ionization mass spectrometry、SELDI-MS)等により行うことができる。
【0034】
<2>本発明の子宮体癌患者の予後を予測するための試薬
本発明の子宮体癌患者の予後を予測するための試薬、配列番号1で表されるアミノ酸配列TFPI2の23残基目のアミノ酸から131残基目又は130残基目のアミノ酸までの領域内の抗原決定基に結合する抗体を含む。前記抗体は好ましくは、TFPI2のクニッツドメイン1を認識する抗体である。これらの抗体はNT-TFPI2及びインタクトTFPI2の両方を認識することができる。
【0035】
本発明の試薬を前述したサンドイッチ法に利用する場合は、前記抗体としてエピトープの異なる2種類の抗体を含むことが好ましい。
本発明の試薬に含まれる抗体は、抗体そのものであってもよく、標識されていてもよく、固相に固定化されていてもよい。
【0036】
本発明の試薬のうち、前述したサンドイッチ法の一態様である2ステップサンドイッチ法に利用する場合について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、本発明の試薬は、以下の(I)から(III)に示す方法で作製することができる。
(I)まず、サンドイッチ法で用いる、NT-TFPI2及びインタクトTFPI2を認識する、エピトープの異なる2種類の抗体(以下、「抗体1」及び「抗体2」とする)のうち、抗体1をイムノプレートや磁性粒子等のB/F(Bound/Free)分離可能な担体に結合させる。結合方法は、疎水結合を利用した物理的結合であってもよいし、2物質間を架橋可能なリンカー試薬などを用いた化学的結合であってもよい。
(II)担体に前記抗体1を結合させた後、非特異的結合を避けるため、担体表面を牛血清アルブミン、スキムミルク、市販のイムノアッセイ用ブロッキング剤などでブロッキング処理を行い1次試薬とする。
(III)他方の抗体2を標識し、得られた標識抗体を含む溶液を2次試薬として準備する。抗体2に標識する物質としては、ペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼといった酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープなどの検出装置で検出可能な物質、又はビオチンに対するアビジンなど特異的に結合する相手が存在する物質等が好ましい。また、2次試薬の溶液としては、抗原抗体反応が良好に行える緩衝液、例えばリン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液などが好ましい。このようにして作製した本発明の試薬は必要に応じ凍結乾燥させてもよい。
【0037】
なお、1ステップサンドイッチ法の場合は、前述した(I)~(II)同様に担体に抗体1を結合させブロッキング処理を行ったものを作製し、前記抗体固定化担体に、標識した抗体2を含む緩衝液をさらに添加して試薬を作製すればよい。
次に、前述した方法で得られた試薬を用いて、2ステップサンドイッチ法でNT-TFPI2及びインタクトTFPI2を検出し測定するには、以下の(IV)から(VI)に示す方法で行えばよい。
(IV)(II)で作製した1次試薬と検体とを一定時間、一定温度のもと接触させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
(V)未反応物質をB/F分離により除去し、続いて(III)で作製した2次試薬と一定時間、一定温度のもと接触させ、サンドイッチ複合体を形成させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
(VI)未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体の標識物質を定量し、既知濃度のTFPI2溶液を標準とし作成した検量線により、検体中のヒトNT-TFPI2及びインタクトTFPI2を定量する。
【0038】
本発明の試薬に含まれる抗体等の試薬成分の量は、検体量、検体の種類、試薬の種類、測定の手法等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば、後述するように検体として血清や血漿を20μL使用して、サンドイッチ法によりNT-TFPI2量及びインタクトTFPI2量の測定を行う場合、当該検体20μLを抗体と反応させる反応系当たり、担体へ結合させる抗体量が100ngから1000μgであってよく、標識抗体量が2ngから20μgであってよい。
【0039】
本発明の試薬は、用手法での測定にも利用可能であり、自動免疫診断装置を用いた測定にも利用可能である。特に自動免疫診断装置を用いた測定は、検体中に含まれる内在性の測定妨害因子や競合酵素の影響を受けることなく測定が可能で、かつ短時間に検体中のNT-TFPI2及びインタクトTFPI2が定量可能であるため、好ましい。
【実施例0040】
以下に本発明を具体的に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1> DNA免疫用のTFPI2発現プラスミドの構築
特許文献2の方法に従い、DNA免疫用のTFPI2発現プラスミドを構築した。
(1)下記(a)のプライマーを用いて、TFPI2 cDNA(GenBank No.NM_006528)の73から705塩基からなるポリヌクレオチドを、常法に従いRT-PCR法により増幅した。
(a)GPIアンカー型TFPI2発現プラスミド用プライマー
Forward:
5’-cgatgacgacaagcttgctcaggagccaaca-3’(配列番号2、3’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の73から87番目の塩基配列に相当)
Reverse:
5’-catcagtggtgaattcaaattgcttcttccg-3’(配列番号3、5’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の691から705番目の塩基配列に相当)
【0042】
(2)Placental Alkaline phosphataseのGPIアンカーのコード領域とFLAGタグのコード領域を含むプラスミドpFLAG1(SIGMA社製)のHindIII-EcoRI部位に、In-fusion(Clonetech社製)を用いて、プロトコルに従い、(1)で得られたRT-PCR増幅産物を挿入し、N末端側にFLAGタグペプチドが、C末端側にGPIアンカーがそれぞれ付加されたGPIアンカー型TFPI2の発現プラスミドを構築した。
【0043】
<実施例2> 抗血清の評価
特許文献2の方法に従い、TFPI2発現プラスミドをマウスおよびラットに免疫した。GPIアンカー型TFPI2発現CHO-K1細胞を用いた細胞酵素免疫測定法(CELISA)、並びに、分泌型TFPI2溶液を用いたELISAによりTFPI2特異的な抗体価の上昇を確認した。
【0044】
<実施例3> ハイブリドーマの選定と抗原決定基の同定
特許文献2の方法に従い、TFPI2に対する抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。各抗体の抗原決定基を、TFPI2の各クニッツドメインであるKD1、KD2及びKD3のバリアント発現細胞により同定した。各バリアント発現用プラスミドの具体的調製方法を以下に示す。
(1)下記(c)、(d)及び(e)記載のプライマーを用いて、TFPI2のKD1領域、KD2領域及びKD3からC末端領域に相当するポリヌクレオチドを、常法に従いRT-PCR法により増幅した。
(c)GPIアンカー型TFPI2-KD1用プライマー
Forward:
5’-cgatgacgacaagcttgctcaggagccaaca-3’(配列番号4、3’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の73から87番目の塩基配列に相当)
Reverse:
5’-catcagtggtgaattctttttctatcctcca-3’(配列番号5、5’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の259から273番目の塩基配列に相当)
(d)GPIアンカー型TFPI2-KD2用プライマー
Forward:
5’-cgatgacgacaagcttgttcccaaagtttgc-3’(配列番号6、3’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の274から288番目の塩基配列に相当)
Reverse:
5’-catcagtggtgaattctttctttggtgcgca-3’(配列番号7、5’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の445から459番目の塩基配列に相当)
(e)GPIアンカー型TFPI2-KD3用プライマー
Forward:
5’-cgatgacgacaagcttattccatcattttgc-3’(配列番号8、3’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の460から474番目の塩基配列に相当)
Reverse:
5’-catcagtggtgaattcaaattgcttcttccg-3’(配列番号9、5’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の691から705番目の塩基配列に相当)
【0045】
(2)実施例1(2)記載の方法でTFPI2発現プラスミドを構築した。
(3)(2)で構築した3種のGPIアンカー型TFPI2発現プラスミドに挿入されているポリヌクレオチドにより発現されるTFPI2が、想定通り細胞表面に局在していることを確認するために、一過性発現細胞である293T細胞株を用い、下記の方法で検証した。
(3-1)(2)で構築したGPI型TFPI2発現プラスミドを常法に従い293T細胞株へ導入した。
(3-2)前記発現プラスミドが導入された293T細胞株を、5%CO2インキュベータにて、10%FBS(Fetal Bovine Serum)添加D-MEM培地(和光純薬社製)を用いて、24時間・37℃で培養し、TFPI2を一過性発現させた。(3-3)(3-2)で得られた培養細胞に、FLAGタグと特異的に結合するSIGMA社製マウス抗FLAG M2抗体、または、陰性対照としてFLAGタグとは結合しないマウス抗BNC抗体を添加し、30分静置した。なお、BNCとは、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のC末端側7アミノ酸からなるペプチドである(特開2009-240300号公報)。
(3-4)静置後、蛍光標識した抗マウスIgG抗体(BECKMAN COULTER社製)を添加し、さらに30分間静置後、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)解析を行い、10種のモノクローナル抗体の抗原決定基を同定した。
FACS解析の結果から判明した各抗体の抗原決定基を表1に示す。
【0046】
【0047】
<実施例4> TFPI2測定試薬の調製
固相側をクニッツドメイン1に抗原決定基を有するTS-TF03抗体、検出側にクニッツドメイン1に抗原決定基を有するTS-TF04抗体を用いて、インタクトTFPI2及びNT-TFPI2を包括的に測定対象とする「NT+I-TFPI2測定系」の測定試薬を以下の通り調製した。
2つのセルを有するカップを用いて、自動分析に用いる測定試薬を作製した(以下、中身に即して、カップの一方のセルを微粒子側のセル、他方のセルをコンジュゲート側のセルと呼ぶ)。
抗TFPI2モノクローナル抗体(TS-TF03)を固定化した微粒子を含む溶液に、特開2021-36227号公報を参考にキレート剤を添加し、微粒子側のセルに分注した。コンジュゲート側のセルには、アルカリホスファターゼを標識した抗TFPI2抗体(TS-TF04)を含む溶液を分注した。溶液を凍結乾燥し、アルミシールをして測定まで4℃で保管した。
【0048】
<実施例5> 臨床検体の評価
本明細書の実施例で使用した子宮体癌検体328症例は、2010年から2020年にかけて神奈川県立がんセンターにて同一プロトコルにて収集された血清検体であり、インフォームドコンセントの承諾及び同センター倫理委員会の承認を受けている。なお、当該血清は手術等の治療介入前に採取された。
【0049】
評価用装置は全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA-CL2400(東ソー社製:製造販売届出番号13B3X90002000018)を用いた。全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA-CL2400によるTFPI2の測定は、以下の手順で行った。
(1)サンプル10μLと界面活性剤を含む希釈液40μLを、実施例4で作製したTFPI2測定試薬の微粒子側のセルに自動で分注し、
(2)37℃恒温下で5分間の抗原抗体反応を行い、
(3)B/F分離後、界面活性剤を含む緩衝液にて洗浄を行い、
(4)コンジュゲート側のセルで別途溶解された酵素標識抗体を微粒子側のセルに分注し、
(5)37℃恒温下で3分間の抗原抗体反応を行い、
(6)B/F分離後、界面活性剤を含む緩衝液にて洗浄を行い、
(7)微粒子側のセルに3-(5-tert-ブチル-4,4-ジメチル-2,6,7-トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト-1-イル)フェニルリン酸エステルジナトリウム塩(DIFURAT)を添加し、
単位時間当たりのアルカリホスファターゼによるDIFURATの分解で得られる化学発光強度をもって測定値(cps)とし、市販TFPI2組み換えタンパク(R&D社)を標準品として作成した検量線を基に検体中のTFPI2濃度を算出した。
CA125、CA19-9、CEAは、表2に示す各試薬を用いて測定した。
【表2】
【0050】
<実施例6> 臨床病期(FIGO分類)との関連
実施例5で述べた子宮体癌検体の臨床病期(FIGO分類)におけるTFPI2及び各
腫瘍マーカー値を
図1に示す。TFPI2およびCA125、CA19-9の中央値は、いずれも臨床病期(FIGO分類)に伴い上昇する傾向が認められたが、症例ごとのバラつきも大きく一概にステージとの関連性を示す結果ではなかった(表3)。
また、TFPI2とCA125、CA19-9、又はCEAとの相関解析結果を
図2に示す。本解析では、TFPI2と各マーカー値には相関が認められず、TFPI2と各マーカーの血中動態に関連性はないことが示唆された。
【表3】
【0051】
<実施例7> 生存群と死亡群の比較
実施例5で述べた子宮体癌検体に対し、2022年10月の調査結果に基づいて生存群(184症例)と死亡群(30症例)に分け、双方の群における血中のTFPI2、CA125、CA19-9、CEAの測定値を
図3に示す。また、生存群と死亡群の比較におけるROC解析の結果を
図4に示す。
TFPI2とCA125は生存群に対して死亡群で有意に高値を示し、CA19-9とCEAにおいては有意差が認められなかった(マン=ホイットニーのU検定)。ROC解析で得られた曲線化面積(Area Under the Curve:AUC)の値は、TFPI2が0.7582、CA125が0.7068、CA19-9が0.5921、CEAが0.5879となり、TFPI2が最も高い判別性能を示した。TFPI2のカットオフ値を191pg/mLに設定した場合、生存群と死亡群の判別における感度は90.0%、特異度は47.3%となった(表4)。
【表4】
【0052】
<実施例8>術後生存日数との関連
実施例5で述べた子宮体癌検体における術後生存日数とTFPI2、CA125、CA
19-9、CEAの測定値との関係を
図5に示す。スピアマンの順位相関係数の結果(表5)から、TFPI2の測定値は術後生存日数に対して最も高い負の相関を示した。この結果から、子宮体癌患者において術前の血中TFPI2が高いほど術後生存日数が短い傾向にあることが示唆された。
【表5】
【0053】
<実施例9>生存曲線との関連
実施例5で述べた子宮体癌検体を対象に、血中のTFPI2、CA125、CA19-9、CEAそれぞれについて、カットオフ値未満の群とカットオフ値以上の群に分け、カプランマイヤー法により作成した手術5年後の生存曲線を
図6に示す。
TFPI2とCA125についてはカットオフ値未満の患者群と比較してカットオフ値以上の患者群において有意な生存率の低下が認められたが、CA19-9とCEAについては明瞭な差は認められなかった。TFPI2はHazard Ratioと有意差で最も生存率との関連性を示す結果となった。この結果から、術前の血中TFPI2が高い子宮体癌症例は手術後の5年生存率が低い傾向にあることが示唆された。
本発明により、血液検査で子宮体癌患者の予後を予測するための情報が提供される。これにより、術前に悪性度や再発リスクを考慮でき、妊孕性温存療法を検討する際の指標となり得る等、子宮体癌診療への貢献が期待されるため、産業上非常に有用である。