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特開2024-117654ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物、ベーカリー食品、複合ベーカリー食品、およびベーカリー食品への水分移行抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117654
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物、ベーカリー食品、複合ベーカリー食品、およびベーカリー食品への水分移行抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240822BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20240822BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20240822BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20240822BHJP
   A21D 13/10 20170101ALI20240822BHJP
   A21D 13/33 20170101ALI20240822BHJP
   A23G 9/50 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/16
A23D9/007
A21D13/80
A21D13/10
A21D13/33
A23G9/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023867
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原 歩
(72)【発明者】
【氏名】小堀 悟
(72)【発明者】
【氏名】土屋 喬比古
(72)【発明者】
【氏名】川原 隆
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 陽加
(72)【発明者】
【氏名】柏原 湧太
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GB18
4B014GE13
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH01
4B026DK01
4B026DK02
4B026DX03
4B032DB13
4B032DB22
4B032DB26
4B032DE05
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK09
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK47
4B032DP08
4B032DP24
4B032DP29
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】高水分食品からベーカリー食品への水分移行を抑制し、水分移行によるベーカリー食品の食感の悪化を防止すること。
【解決手段】飽和脂肪酸モノグリセリドを0.5~99.5質量%含有する、ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物を用いる。当該組成物が、下記条件(A)または条件(B)を満たすことが好ましい。
条件(A):水相を連続相とし、20℃においてゲル状またはペースト状の組成物である。
条件(B):油相を連続相とする組成物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和脂肪酸モノグリセリドを0.5~99.5質量%含有する、ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物。
【請求項2】
下記条件(A)または条件(B)を満たす、請求項1に記載のベーカリー食品への水分移行抑制用組成物。
条件(A):水相を連続相とし、20℃においてゲル状またはペースト状の組成物である。
条件(B):油相を連続相とする組成物である。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のベーカリー食品への水分移行抑制用組成物を含有する生地の加熱品である、ベーカリー食品。
【請求項4】
ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対し、飽和脂肪酸モノグリセリドを1.5~10.0質量部含有する生地の加熱品である、請求項3に記載のベーカリー食品。
【請求項5】
ベーカリー食品が焼菓子である、請求項3に記載のベーカリー食品。
【請求項6】
ベーカリー食品が焼菓子である、請求項4に記載のベーカリー食品。
【請求項7】
請求項5に記載のベーカリー食品と、高水分食品とを含む、複合ベーカリー食品。
【請求項8】
請求項6に記載のベーカリー食品と、高水分食品とを含む、複合ベーカリー食品。
【請求項9】
ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対して、飽和脂肪酸モノグリセリドを1.5~10.0質量部含有させる、ベーカリー食品への水分移行抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物、ベーカリー食品、複合ベーカリー食品、およびベーカリー食品への水分移行抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類や焼菓子類などのベーカリー食品の中には、パイ、メロンパンの上掛け、クッキー、ラングドシャをはじめとした、歯ごたえのある良好な食感を有するベーカリー食品がある。これらのベーカリー食品は、そのまま喫食されるほか、クリームやジャムといったフィリング材、フルーツ、アイスクリーム、果物など、水分含有量の高い食品(以下、単に「高水分食品」と記載する。)と組み合わせられて喫食されることも多い。
【0003】
しかし、ベーカリー食品と高水分食品とを組み合わせた場合、高水分食品の水分が、経時的に歯ごたえのあるベーカリー食品へ移行して、しっとりとしたり、柔らかくなったりしてしまい、歯ごたえのある食感が失われ、食感が悪化するという問題があった。
【0004】
そこで、ベーカリー食品への水分移行によって生じる食感の悪化を解決するために、種々の検討が行われてきた。その検討の一つとして、ベーカリー食品への水分移行を抑制するための組成物あるいは該組成物を用いた方法が報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、低水分食品と高水分食品が、少なくともその一部が近接した状態で同時に加熱される菓子の製造方法であって、融点35℃以上の油脂、および糖を主成分とし、かつ、粒径50μm以上の糖を組成物中に10重量%以上含む食品内水分移行防止用組成物を、低水分食品と高水分食品の界面に介在させた状態で加熱することを特徴とする、菓子の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、油相の固体脂含量が25℃で55%以上、35℃で60%以下であることを特徴とするベーカリー食品内水分移行抑制油脂組成物が開示されている。
【0007】
また、ベーカリー食品への水分移行によって生じる食感の悪化を解決するための別の検討として、ベーカリー食品の配合を工夫したものも報告されている。
【0008】
例えば、特許文献3には、融点50~70℃の油脂を対粉で1~6重量%及び増粘安定剤を含有するクッキー又はタルト生地が開示されており、該生地を用いたクッキー又はタルトが開示されている。
【0009】
特許文献4には、穀粉及び澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種とケイ素化合物を含み、前記ケイ素化合物がケイ酸カルシウム、二酸化ケイ酸及び珪藻土からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ケイ素化合物が焼菓子固形分の0.01~5質量%の割合で含まれる、焼菓子が開示されている。
【0010】
ところで、ベーカリー食品に歯ごたえのある食感を与え、ベーカリー食品の食感を改良する方法としては、特定の乳化剤を用いた方法が検討されている。
例えば、特許文献5には、HLBが8以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする製菓、製パン用品質改良剤が開示されている。
【0011】
特許文献6には、加工澱粉を10~30質量%、有機酸モノグリセリドを0.1~4質量%含有し、油分が25~70質量%であることを特徴とする製菓練り込み用油中水型乳化物が開示されている。
特許文献7には、特定の圧縮試験方法による破断応力が50g以上のグルテン及びグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルを有効成分とすることを特徴とする焼き菓子用改良剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013-201985号公報
【特許文献2】特開2009-039076号公報
【特許文献3】特開2019-154384号公報
【特許文献4】特開2019-047753号公報
【特許文献5】特開2013-183667号公報
【特許文献6】特開2014-050351号公報
【特許文献7】特開2018-038294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従前より検討され、開示されてきた特許文献1~7に記載の発明には、以下のような問題があった。
特許文献1および特許文献2の発明は、ベーカリー食品と高水分食品との間に、水分移行を抑制するための組成物を存在させる必要があり、適用できるベーカリー食品に制限があった。
特許文献3の発明は、融点の高い油脂に加えて、増粘安定剤をクッキー又はタルト生地に含有させるため製造時の作業性が悪く、特許文献4の発明は、ケイ素化合物を含有させなければならないため、ベーカリー食品の種類によっては適用できないという問題があった。
また、特許文献1~4の発明は、ベーカリー食品への水分移行を抑制する効果についてまだ検討の余地があった。
特許文献5~7の発明は、特定の乳化剤を用いることで、ベーカリー食品に歯ごたえのある食感を与えることはできるが、ベーカリー食品への水分移行を抑制することはできず、結果として、特許文献5~7の発明で得られたベーカリー食品と高水分食品とを複合させた場合、食感が悪化してしまうという問題があった。
【0014】
従って、本発明の課題は、高水分食品からベーカリー食品への水分移行を抑制し、水分移行による食感の悪化を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、乳化剤の中でも飽和脂肪酸モノグリセリドを高含有させたベーカリー食品は、高水分食品からベーカリー食品への水分移行が抑制され、水分移行による食感の悪化が防止されることを知見し、本発明を完成するに至った。本発明は、下記の構成を有するものである。
【0016】
(1)飽和脂肪酸モノグリセリドを0.5~99.5質量%含有する、ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物。
【0017】
(2)下記条件(A)または条件(B)を満たす、(1)に記載のベーカリー食品への水分移行抑制用組成物。
条件(A):水相を連続相とし、20℃においてゲル状またはペースト状の組成物である。
条件(B):油相を連続相とする組成物である。
【0018】
(3)(1)または(2)に記載のベーカリー食品への水分移行抑制用組成物を含有する生地の加熱品である、ベーカリー食品。
【0019】
(4)ベーカリー食品中の澱粉類100質量部に対し、飽和脂肪酸モノグリセリドを1.5~10.0質量部含有する生地の加熱品である、(3)に記載のベーカリー食品。
【0020】
(5)ベーカリー食品が焼菓子である、(3)に記載のベーカリー食品。
【0021】
(6)ベーカリー食品が焼菓子である、(4)に記載のベーカリー食品。
(7)(5)に記載のベーカリー食品と、高水分食品とを含む、複合ベーカリー食品。
【0022】
(8)(6)に記載のベーカリー食品と、高水分食品とを含む、複合ベーカリー食品。
【0023】
(9)ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対して、飽和脂肪酸モノグリセリドを1.5~10.0質量部含有させる、ベーカリー食品への水分移行抑制方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高水分食品からベーカリー食品への水分移行を抑制し、水分移行による食感の悪化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施様態について説明する。本発明は、以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。
【0026】
[ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物]
まず、本発明のベーカリー食品への水分移行抑制用組成物(以下、単に「本発明の水分移行抑制用組成物」と記載する。)について述べる。
本発明の水分移行抑制用組成物は、高水分食品からベーカリー食品への水分移行を抑制し、水分移行による食感の悪化を防止することができる。
ここで、本発明における高水分食品とは、ベーカリー食品と比較して水分含有量が高い食材を指し、ベーカリー食品の種類によっても異なるが、具体的には水分含有量が10質量%以上の食品を指す。高水分食品は、水分含有量が好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上である。
また、本発明における歯ごたえとは、ベーカリー食品を噛んだ際に硬度を感じることのできる食感を指し、本発明における水分移行による食感の悪化とは、水分移行により、ベーカリー食品がしっとりとしたり、柔らかくなったりすることによって、ベーカリー食品の歯ごたえのある食感が失われることを指す。ベーカリー食品の種類によっては、しっとりとした食感が好ましいとされることもあるが、歯ごたえのある食感が求められるベーカリー食品においては、しっとりとした食感となることは好ましくない。本発明の水分移行抑制用組成物は、ベーカリー食品への水分移行を抑制し、水分移行によるベーカリー食品の食感の悪化を好ましく防止することができるという特徴を有する。
【0027】
<飽和脂肪酸モノグリセリド>
まず、本発明の水分移行抑制用組成物に用いられる飽和脂肪酸モノグリセリドについて述べる。
本発明に用いられる飽和脂肪酸モノグリセリドとは、グリセリン分子が有する3つのヒドロキシ基のうち1つに、1分子の飽和脂肪酸残基がエステル結合した構造を有するものである。
飽和脂肪酸モノグリセリドには、グリセリン分子の1位(または3位)に飽和脂肪酸残基がエステル結合したα体と、グリセリン分子の2位に飽和脂肪酸残基がエステル結合したβ体とがあるが、本発明においては、α体とβ体のどちらかを一方を用いることができ、両方を用いることもできる。
【0028】
飽和脂肪酸モノグリセリドを構成する飽和脂肪酸残基としては、特に制限されず、例えば、カプリル酸残基、カプリン酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、アラキジン酸残基、ベヘン酸残基等の炭素数8~22の飽和脂肪酸残基が挙げられる。本発明においては、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化を防止できるという観点から、飽和脂肪酸モノグリセリドを構成する飽和脂肪酸残基は、炭素数12~22の飽和脂肪酸残基であることが好ましく、炭素数16~22の飽和脂肪酸残基であることがより好ましく、炭素数16~18の飽和脂肪酸モノグリセリドであることがさらに好ましい。
【0029】
また、本発明に用いられる飽和脂肪酸モノグリセリドは、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制し、水分移行による食感の悪化を防止できるという観点から、HLB(Hydrophile Lipophile Balance)が1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、2~6であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の水分移行抑制用組成物は、上記の各条件を好ましく満たす飽和脂肪酸モノグリセリドとして、市販品を用いることができる。飽和脂肪酸モノグリセリドの市販品としては、例えば、エマルジーMP、エマルジーMS(ともに、理研ビタミン株式会社製)等が挙げられる。
本発明の水分移行抑制用組成物においては、1種または2種以上の飽和脂肪酸モノグリセリドを含有することができる。
本発明の水分移行抑制用組成物中の飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量は、0.5~99.5質量%である。本発明の水分移行抑制用組成物をベーカリー生地に含有させやすくなり、本発明の効果が得られやすくなるという観点や、得られるベーカリー食品の食感が硬くなりすぎることを防止できるという観点から、飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量は、本発明の水分移行抑制用組成物中2.5~50.0質量%であることが好ましく、4.0~35.0質量%であることがより好ましく、5.0~25.0質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
<飽和脂肪酸モノグリセリド以外の乳化剤>
本発明の水分移行抑制用組成物は、飽和脂肪酸モノグリセリド以外の乳化剤(以下、単に「その他の乳化剤」と記載する。)を含有してもよい。
本発明の水分移行抑制用組成物に用いることのできるその他の乳化剤としては、例えば、不飽和脂肪酸モノグリセリド、飽和脂肪酸ジグリセリド、不飽和脂肪酸ジグリセリド、モノ飽和モノ不飽和ジグリセリド、有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、レシチン、リゾレシチン等が挙げられる。
【0032】
本発明の水分移行抑制用組成物にその他の乳化剤を用いる場合は、本発明の水分移行抑制用組成物の形態によっても異なるが、本発明の効果を得ながら、得られるベーカリー食品の食感が硬くなりすぎることを防止できるという観点から、その他の乳化剤の中でも、不飽和脂肪酸モノグリセリド、飽和脂肪酸ジグリセリド、不飽和脂肪酸ジグリセリド、モノ飽和モノ不飽和ジグリセリド、有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、レシチンから選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、特に、本発明の水分移行抑制用組成物が油相を連続相とする組成物である場合、さらに本発明の水分移行抑制用組成物のクリーミング性が向上し、ベーカリー生地に含有させやすくなって、本発明の効果がより好ましく得られやすくなるという観点から、不飽和脂肪酸モノグリセリドを用いることがより好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物がその他の乳化剤を含有する場合、その含有量は、0.1~15.0質量%であることが好ましく、0.5~12.0質量%であることがより好ましく、1.0~10.0質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の効果を得ながら、得られるベーカリー食品の食感が硬くなりすぎることを防止するという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物中のその他の乳化剤の含有量は、飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量1質量部に対して1.0質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましい。なお、その他の乳化剤の含有量の下限値は0質量部である。
【0034】
ここで不飽和脂肪酸モノグリセリドとは、グリセリン分子が有する3つのヒドロキシ基のうち1つに、1分子の不飽和脂肪酸残基がエステル結合した構造を有するものである。
不飽和脂肪酸モノグリセリドにおいてもα体とβ体とがあるが、本発明においてはどちらか一方を用いることもでき、両方を用いることもできる。
不飽和脂肪酸モノグリセリドを構成する不飽和脂肪酸残基としては、特に制限されず、例えば、ミリストレイン酸残基、パルミトオレイン酸残基、オレイン酸残基、リノール酸残基、リノレン酸残基、イコセン酸残基、エイコサジエン酸残基、アラキドン酸残基、エルカ酸残基等の炭素数14~22の不飽和脂肪酸残基が挙げられる。
【0035】
本発明の効果を得ながら、得られるベーカリー食品の食感が硬くなりすぎることを防止できるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物が不飽和脂肪酸モノグリセリドを含有する場合、不飽和脂肪酸モノグリセリドを構成する不飽和脂肪酸残基は、炭素数が14~18の不飽和脂肪酸残基であることが好ましく、16~18の不飽和脂肪酸残基であることがより好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物が不飽和脂肪酸モノグリセリドを含有する場合、不飽和脂肪酸モノグリセリドのHLBは、1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、2~6であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の水分移行抑制用組成物は、上記の各条件を好ましく満たす不飽和脂肪酸モノグリセリドとして、市販品を用いることができる。市販品の不飽和脂肪酸モノグリセリドとしては、例えば、エマルジーMO、エマルジーMU(ともに、理研ビタミン株式会社製)等が挙げられる。
特に本発明の水分移行抑制用組成物が、油相を連続相とする組成物である場合は、本発明の効果を得ながら、クリーミング性が向上して、ベーカリー生地に含有させやすくなるという観点や、得られるベーカリー食品の食感が硬くなりすぎることを抑制できるという観点から、不飽和脂肪酸モノグリセリドを、飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量1質量部に対して、0.5質量部以下含有することが好ましく、0.4質量部以下含有することがより好ましく、0.3質量部以下含有することがさらに好ましい。また、不飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量の下限値は、飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量1質量部に対して0質量部であり、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。
【0037】
<油脂>
本発明の水分移行抑制用組成物は、油脂を含有することが好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物に用いることのできる油脂としては、食用油脂であれば特に制限がなく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、米油、ごま油、落花生油、キャノーラ油、カポック油、月見草油、オリーブ油、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂、カカオ脂等の植物油脂や、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂、ならびにこれら植物油脂および動物油脂に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。本発明の水分移行抑制用組成物においては、これらの中から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることができる。
【0038】
以下、本発明においては「植物油脂および動物油脂に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂」を、単に「加工油脂」と記載する。
上記加工油脂を製造するための水素添加、分別およびエステル交換は、従前知られた方法により行うことができ、これらの処理の後、精製を行ってもよい。
なお、分別については溶剤分別であってもよく、ドライ分別であってもよい。
エステル交換についてはリパーゼ等の酵素触媒を用いてもよく、ナトリウムメトキシド等の化学的触媒を用いてもよい。また、本発明においては、高水分食品からベーカリー食品への水分移行を抑制する効果が好ましく得られるという観点から、ランダムエステル交換であることが好ましい。
以下、本発明における加工油脂を製造するための水素添加、分別およびエステル交換についても同様である。
【0039】
本発明の水分移行抑制用組成物が油脂を含有する場合、水分移行抑制用組成物の形態によっても異なるが、油脂の含有量は0.5~99.5質量%であることが好ましく、1.0~97.5質量%であることがより好ましく、2.0~95.0質量%であることがさらに好ましい。
なお、上記油脂の含有量は、後述の本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料が油脂を含有する場合、その量も加算した値とする。
【0040】
本発明の水分移行抑制用組成物が油脂を含有する場合、水分移行抑制用組成物の形態によっても異なるが、本発明の水分移行抑制用組成物をベーカリー生地に含有させやすくなり、本発明の効果がより好ましく得られやすくなるという観点から、油脂として、エステル交換油脂を含有することが好ましく、特に、下記エステル交換油脂(I)、エステル交換油脂(II)から選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましい。上記観点から、エステル交換油脂の割合は、本発明の水分移行抑制用組成物が含有する油脂中10~100質量%であることが好ましく、15~100質量%であることがより好ましい。
【0041】
<<エステル交換油脂(I)>>
本発明の水分移行抑制用組成物に好ましく用いられるエステル交換油脂(I)(以下、単に「本発明のエステル交換油脂(I)」と記載する。)は、パーム分別軟部油のエステル交換油脂である。
本発明におけるパーム分別軟部油としては、例えば、パーム油を分別して得られる低融点部であるパームオレインや、パームオレインをさらに分別して得られる低融点部であるパームスーパーオレインが挙げられ、パーム分別軟部油のエステル交換油脂とは、これら1種または2種以上のパーム分別軟部油からなる油脂配合物をエステル交換することにより得られるものである。油脂配合物のヨウ素価は52~70であることが好ましく、55~70であることがより好ましく、58~70であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の水分移行抑制用組成物に用いられるパーム分別軟部油のエステル交換油脂は、ヨウ素価が52~70であることが好ましく、55~70であることがより好ましく、58~70であることがさらに好ましい。
油脂のヨウ素価の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができ、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.4.1(2013)」に記載の方法で測定することができる。
本発明における油脂のヨウ素価の測定方法について同様である。
【0043】
本発明のエステル交換油脂(I)の好ましい一様態としては、パームスーパーオレインのエステル交換油脂が挙げられる。
本発明の水分移行抑制用組成物が、本発明のエステル交換油脂(I)を含有する場合、その含有量は、水分移行抑制用組成物の形態によっても異なるが、本発明の水分移行抑制用組成物が含有する油脂中5~100質量%であることが好ましく、10~100質量%であることがより好ましい。
水分移行抑制用組成物の形態によっても異なるが、エステル交換油脂(I)を含有すると、本発明の水分移行抑制用組成物が適度な硬さを有し、クリーミング性が向上するため、本発明の効果をより良好に得ることができる。加えて、得られるベーカリー食品が硬くなりすぎず、良好な食感とすることができる。
【0044】
<<エステル交換油脂(II)>>
本発明の水分移行抑制用組成物に好ましく用いられるエステル交換油脂(II)(以下、単に「本発明のエステル交換油脂(II)」と記載する。)は、パーム系油脂とラウリン系油脂とを含む油脂配合物のエステル交換油脂である。
【0045】
本発明におけるパーム系油脂とは、パーム由来の油脂およびその加工油脂を指し、例えば、パーム油、パーム分別軟部油、パーム分別中部油、パーム分別硬部油、パーム部分硬化油、パーム極度硬化油等が挙げられる。
また、本発明におけるラウリン系油脂とは、油脂の脂肪酸残基組成中に、ラウリン酸残基を15質量%以上、好ましくは25~70質量%含有する油脂を指し、例えば、パーム核油、パーム核油の分別軟部油、パーム核油の分別硬部油、パーム核油の部分硬化油、パーム核油の極度硬化油、ヤシ油、ヤシ油の分別軟部油、ヤシ油の分別硬部油、ヤシ油の部分硬化油、ヤシ油の極度硬化油等が挙げられる。
【0046】
本発明のエステル交換油脂(II)の製造に用いられるパーム系油脂としては、上記パーム系油脂の中でも、パーム油、パーム分別軟部油から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【0047】
また、本発明のエステル交換油脂(II)の製造に用いられるラウリン系油脂としては、上記ラウリン系油脂の中でも、パーム核油、ヤシ油から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
本発明のエステル交換油脂(II)の製造に用いられる油脂配合物は、パーム系油脂とラウリン系油脂とを含むものであり、好ましくは、パーム系油脂を油脂配合物中20~90質量%、ラウリン系油脂を油脂配合物中10~80質量%含むものである。
【0048】
本発明のエステル交換油脂(II)の製造に用いられる油脂配合物は、必要に応じて、本発明の水分移行抑制用組成物に用いることのできる油脂のうち、パーム系油脂とラウリン系油脂以外の油脂を含有してもよい。
【0049】
本発明の効果がより好ましく得られるという観点に加え、ベーカリー食品の食感が、適度な硬さを有した歯ごたえのある良好なものになるという観点から、ベヘン系油脂を油脂配合物中2~30質量%、好ましくは4~25質量%含有することが好ましい。
本発明におけるベヘン系油脂とは、油脂の脂肪酸残基組成中に、ラウリン酸残基を15質量%未満、かつベヘン酸残基を15質量%以上、好ましくは20~70質量%、より好ましくは30~60質量%含有する油脂を指し、例えば、魚油極度硬化油、ハイエルシン菜種極度硬化油等が挙げられる。
本発明のエステル交換油脂(II)の製造に用いられるベヘン系油脂としては、これらの中でも、ハイエルシン菜種極度硬化油であることが好ましい。
【0050】
本発明の水分移行抑制用組成物が、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制し、水分移行による食感の悪化を防止できるという観点や、ベーカリー食品の食感が適度な硬さを有した良好なものとなるという観点から、本発明のエステル交換油脂(II)は、脂肪酸残基組成中に、ラウリン酸残基を5~40質量%含有することが好ましく、5~30質量%含有することがより好ましい。また、ベヘン酸残基を1~15質量%含有することが好ましく、2~10質量%含有することがより好ましい。
【0051】
本発明のエステル交換油脂(II)の好ましい一様態としては、パーム系油脂を45~80質量%と、ラウリン系油脂を15~40質量%と、ベヘン系油脂を5~25質量%とを合わせて100質量%とした油脂配合物のエステル交換油脂を挙げることができる。
【0052】
本発明の水分移行抑制用組成物が、本発明のエステル交換油脂(II)を含有する場合、その含有量は、本発明の水分移行抑制用組成物の形態によっても異なるが、本発明の水分移行抑制用組成物が含有する油脂中5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0053】
エステル交換油脂(II)は、構成脂肪酸残基組成中に炭素鎖長の異なる脂肪酸残基を多く含有するため、本発明の水分移行抑制用組成物がエステル交換油脂(II)を含有すると、クリーミング性が向上し、本発明の効果をより好ましく得ながら、ベーカリー食品が硬くなりすぎず、良好な食感とすることができる。
【0054】
<水分>
本発明の水分移行抑制用組成物は、水分を含有することができる。
水分としては、例えば、水道水やミネラルウォーター等の水や、飽和脂肪酸モノグリセリド、その他の乳化剤、油脂、後述の澱粉類、本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料に含有される水分等が挙げられる。
本発明の水分移行抑制用組成物が水分を含有する場合、水分移行抑制用組成物の形態によっても異なるが、水分含有量は、0.5~99.5質量%であることが好ましく、1.0~96.5質量%であることがより好ましく、5.0~92.5質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
<澱粉類>
本発明の水分移行抑制用組成物は、澱粉類を含有することができる。
本発明における澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、ヘーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉類、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などの澱粉、これらの澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理などから選ばれた1種または2種以上の処理を施した加工澱粉等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0056】
本発明の水分移行抑制用組成物が澱粉類を含有する場合、水分移行抑制用組成物の形態によっても異なるが、澱粉類の含有量は0.5~30.0質量%であることが好ましく、1.0~20.0質量%であることがより好ましい。
【0057】
<ベーカリー用水分移行抑制用組成物の形態>
好適な水分移行抑制用組成物は、飽和脂肪酸モノグリセリドと、上記その他の乳化剤、油脂、水分、澱粉類、および後述の本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料から選ばれる1種または2種以上とからなる組成物である。
【0058】
本発明の水分移行抑制用組成物の形態は特に制限されず、例えば、20℃において、固形状、ゲル状、ペースト状、液状等であってもよい。
なお、本発明におけるゲル状とは、固体成分が三次元的なネットワーク構造を形成し、連続相である液体成分を包含することで構成されたものであり、高い粘性と高い弾性を有するものを指す。
また、本発明におけるペースト状とは、連続相である液体成分中に固体成分が懸濁されることで構成されたものであり、粘度を有して、外力によって変形し、外力を取り除いても元の形状には戻らないような、低い弾性を有するものを指す。なお、流動性は有していてもよく、有していなくてもよい。
【0059】
高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化を防止できるという効果に加えて、ベーカリー食品の食感が、適度な硬さを有した良好なものになるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物は、下記条件(A)または条件(B)を満たすことが好ましい。
条件(A):水相を連続相とし、20℃においてゲル状またはペースト状の組成物である。
条件(B):油相を連続相とする組成物である。
上記条件(A)または条件(B)を満たすことで、水分移行抑制作用の効果が高い理由は定かではないが、本発明者らは次のように推測している。
本発明の水分移行抑制用組成物が条件(A)を満たす場合、水相を連続相とし、ゲル状やペースト状であることで、本発明の水分移行抑制用組成物がベーカリー生地になじみやすくなる。また、本発明の水分移行抑制用組成物が条件(B)を満たす場合、油脂のように、本発明の水分移行抑制用組成物が分散して、ベーカリー生地のグルテン網に入り込みやすくなる。これらにより、本発明の水分移行抑制用組成物中の飽和脂肪酸モノグリセリドが、ベーカリー生地中の澱粉類によく作用し、水分移行抑制作用の効果が高まっていると考えられる。条件(B)の組成物は20℃で可塑性を有する固形状であることが好適である。
【0060】
<<条件(A)を満たす水分移行抑制用組成物>>
本発明の水分移行抑制用組成物は、下記条件(A)を満たす水分移行抑制用組成物(以下、単に「本発明の水分移行抑制用組成物(A)」と記載する。)であることを、好ましい形態の一つとする。
【0061】
条件(A):水相を連続相とし、20℃においてゲル状またはペースト状の組成物である。
【0062】
本発明の水分移行抑制用組成物(A)においては、飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量が、0.5~30.0質量%であることが好ましく、1.0~25.0質量%であることがより好ましく、2.5~20.0質量%であることがさらに好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(A)は、水相を連続相とし、20℃においてゲル状またはペースト状の組成物である。本発明の効果を得ながら、ベーカリー食品の食感が硬くなりすぎず、適度な硬さを有した良好なものにすることができるという観点から、20℃においてゲル状であることが好ましい。
【0063】
本発明の水分移行抑制用組成物(A)は水分を含有し、その含有量は、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制し、水分移行による食感の悪化を防止できるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物(A)中40.0~99.5質量%であることが好ましく、50.0~96.5質量%であることがより好ましく、60.0~92.5質量%であることがさらに好ましく、60.0~90質量%であることが特に好ましい。
なお、上記水分含有量は、後述のその他の原材料が水分を含有する場合、その量も加算した値とする。
【0064】
本発明の水分移行抑制用組成物(A)は、水相を連続相とし、20℃においてゲル状またはペースト状の組成物であることで、水分移行抑制用組成物(A)がベーカリー生地中に分散しやすく、効率よく飽和脂肪酸モノグリセリドをベーカリー生地中の澱粉類に作用させることができる。その結果、本発明の効果がより好ましく得られ、さらにベーカリー食品が硬くなりすぎず、適度な硬さを有した良好な食感を得ることができる。
【0065】
本発明の水分移行抑制用組成物(A)は、澱粉類を含有することが好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(A)に用いることのできる澱粉類については、上述の通りである。
本発明の水分移行抑制用組成物(A)においては、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化を防止できるという観点に加え、ベーカリー食品の食感が適度な硬さを有した良好なものになるという観点から、これら澱粉類の中でも、澱粉、加工澱粉から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(A)の澱粉類の含有量は、1.0~30.0質量%であることが好ましく、2.5~25.0質量%であることがより好ましく、5.0~20.0質量%であることがさらに好ましい。
【0066】
さらに、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化を防止できるという観点に加え、適度な硬さを有した良好な食感になるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物(A)は、飽和脂肪酸モノグリセリドの好ましい含有量および澱粉類の好ましい含有量を満たしたうえで、本発明の水分移行抑制用組成物(A)中の飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量1質量部に対する、澱粉類の含有量が、0.2~2.0質量部であることが好ましく、0.3~1.8質量部であることがより好ましく、0.4~1.5質量部であることがさらに好ましい。
【0067】
本発明の水分移行抑制用組成物(A)は、油脂を含有することが好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(A)が油脂を含有する場合、その含有量は、水分移行抑制用組成物(A)中0.5~20.0質量%であることが好ましく、1.0~16.0質量%であることがより好ましく、2.0~12.0質量%であることがさらに好ましい。
なお、上記油脂の含有量は、後述のその他の原材料が油脂を含有する場合、その量も加算した値とする。
【0068】
本発明の水分移行抑制用組成物(A)に用いることのできる油脂としては、上述の通りである。本発明の水分移行抑制用組成物(A)においては、これら油脂の中でも特に、本発明の水分移行抑制用組成物がベーカリー生地中に含有されやすくなり、本発明の効果がより好ましく得られやすくなるという観点から、上述の本発明のエステル交換油脂(I)を含有することが好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(A)が、本発明のエステル交換油脂(I)を含有する場合、その含有量は、本発明の水分移行抑制用組成物(A)が含有する油脂中25~100質量%であることが好ましく、50~100質量%であることがより好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(A)が油脂を含有する場合、本発明の水分移行抑制用組成物(A)は、乳化していてもよく、乳化していなくてもよいが、乳化していることが好ましい。
乳化している場合、その乳化形態は、水相が連続相であれば特に制限されず、例えば、水中油型、水中油中水型等の乳化形態をとることができ、水中油型の乳化形態をとることが好ましい。
【0069】
<<条件(B)を満たす水分移行抑制用組成物>>
本発明の水分移行抑制用組成物は、下記条件(B)を満たす水分移行抑制用組成物(以下、単に「本発明の水分移行抑制用組成物(B)」と記載する。)であることも、好ましい形態の一つとする。
【0070】
条件(B):油相を連続相とする組成物である。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)においては、飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量が、2.5~30.0質量%であることが好ましく、4.0~20.0質量%であることがより好ましく、5.0~15.0質量%であることがさらに好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、油相を連続相とする組成物である。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)の形状は、油相を連続相としていれば、特に制限されず、例えば、ショートニングのような、水相を有さず油相を連続相とする組成物や、マーガリンやファットスプレッドのような、水相を有し油相を連続相とする組成物、流動性のあるショートニングのような、油相を連続相とする液状の組成物、油脂ゲルのような、油相を連続相とするゲル状の組成物等が挙げられる。本発明の水分移行抑制用組成物(B)においては、これらの中でも、ショートニングのような、水相を有さず油相を連続相とする組成物、または、マーガリンやファットスプレッドのような、水相を有し油相を連続相とする組成物であることが好ましい。また、水相を有する場合は、油相と水相が乳化していてもよく、乳化していなくてもよいが、乳化していることが好ましい。もし、乳化している場合は、その乳化形態は、油中水型、油中水中油型、油中油型等の油相を連続相とする乳化形態をとることができ、好ましくは油中水型の乳化形態をとる。
【0071】
また、本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、流動性があってもよく、なくてもよい。そして、可塑性があってもよく、なくてもよいが、本発明においては、ベーカリー生地に含有させやすくなり、本発明の効果が好ましく得られやすくなるという観点から、可塑性があることが好ましい。
【0072】
本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、油脂を含有する。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)の油脂の含有量は、30.0~97.5質量%であることが好ましく、35.0~96.0質量%であることがより好ましく、40.0~95.0質量%であることがさらに好ましい。
なお、上記油脂の含有量は、後述のその他の原材料が油脂を含有する場合、その量も加算した値とする。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)に用いることのできる油脂については、上述の通りである。本発明の水分移行抑制用組成物(B)においては、これら油脂の中でも特に、本発明の効果を得ながら、本発明の水分移行抑制用組成物(B)のクリーミング性が向上し、得られるベーカリー製品の食感が適度な硬さを有した良好なものとなるという観点から、上述の本発明のエステル交換油脂(I)、上述の本発明のエステル交換油脂(II)から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)が、本発明のエステル交換油脂(I)を含有する場合、その含有量は、本発明の水分移行抑制用組成物(B)が含有する油脂中5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
また、本発明のエステル交換油脂(II)を含有する場合も同様である。
【0073】
また、本発明の効果がより好ましく得られるという観点に加え、適度な硬さを有した良好な食感になりやすくなるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、油相の脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基の含有量が20.0質量%以下であることが好ましく、0.1~15.0質量%であることがより好ましく、0.5~10.0質量%であることがさらに好ましい。なお、ラウリン酸残基の含有量の下限値は0質量%である。
【0074】
また、油相の脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量が6.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。油相の脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量は0質量%でありうるが、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。
本発明で使用する油脂や、水分移行抑制用組成物の油相の、構成脂肪酸残基中の各脂肪酸残基の含有量は、従前知られた種々の手法を用いて測定することができ、例えば、日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.2(1996)に記載の手法で測定することができる。
【0075】
本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、ベーカリー生地に含有させやすくなり、本発明の効果がより好ましく得られるようになるという観点から、10℃における固体脂含量(以下、「SFC-10℃」と記載する。)が、10~60%であることが好ましく、12~57%であることがより好ましく、15~55%であることがさらに好ましい。
また、20℃における固体脂含量(以下、「SFC-20℃」と記載する。)が、2~30%であることが好ましく、5~27%であることがより好ましく、5~25%であることがさらに好ましい。
【0076】
本発明の水分移行抑制用組成物(B)のSFC-10℃およびSFC-20℃は、従前知られた方法を用いて測定することができ、例えば、本発明の水分移行抑制用組成物(B)をアステック株式会社製「SFC-2000R」を用いて、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.2.9(2013)」に記載の方法を用いることで測定することができる。なお、本発明の水分移行抑制用組成物(B)が水分を含有しない場合は、得られた測定値をSFC-10℃およびSFC-20℃の値とし、水分を含有する場合は、得られた測定値を油相量に換算した値を、SFC-10℃およびSFC-20℃の値とする。
【0077】
本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、油相を連続相とした組成物の形態をとるためクリーミングしやすく、ベーカリー生地中に含有されやすいため、飽和脂肪酸モノグリセリドが効率よくベーカリー生地に作用できる。そのため、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制し、水分移行による食感の悪化を防止することができる。さらに、本発明の水分移行抑制用組成物(B)の良好なクリーミング性により、得られるベーカリー食品の食感が適度な硬さを有した良好なものとなる。
【0078】
本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、水分を含有することができる。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)の形態においては、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化を防止しやすくなるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物(B)の水分含有量は55.0質量%以下であることが好ましく、50.0質量%以下であることがより好ましく、45.0質量%以下であることがさらに好ましい。水分含有量の下限値は0質量%である。
なお、上記水分含有量は、後述のその他の原材料が水分を含有する場合、その量も加算した値とする。
【0079】
本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、澱粉類を含有することができる。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)の形態においては、澱粉類を含有する場合、その含有量は0.5~10.0質量%であることが好ましく、1.0~5.0質量%であることがより好ましい。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)に用いることのできる澱粉類については、上述の通りである。本発明の水分移行抑制用組成物(B)においては、これらの澱粉類の中でも、澱粉、加工澱粉から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0080】
<その他の原材料>
本発明の水分移行抑制用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、必要に応じて、上記飽和脂肪酸モノグリセリド、その他の乳化剤、油脂、水分、澱粉類以外に、本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料を含有することができる。
本発明の水分移行抑制用組成物に用いることができるその他の原材料としては、特に制限されず、例えば、糖類、高甘味度甘味料、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味料、酢酸や乳酸等の酸味料、調味料、香辛料、酵素類、pH調整剤、β-カロテンやカラメル等の着色料、着香料、食品保存料、日持ち向上剤、トコフェロール等の酸化防止剤、植物性蛋白や動物性蛋白、乳や乳製品、卵類およびその加工品、コーヒー、カカオマス、ココアパウダー、肉類・魚介類・果物類・野菜類およびこれらの加工品等の、食品や食品添加物が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0081】
上記糖類としては、例えば、上白糖、三温糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、グラニュー糖、含蜜糖、黒糖、麦芽糖、てんさい糖、きび砂糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロース、トレハロース、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の単糖、二糖、オリゴ糖、多糖や、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、還元麦芽糖水あめ、還元乳糖、還元水あめ等の糖アルコールが挙げられる。
【0082】
上記高甘味度甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリン等が挙げられる。
上記増粘安定剤としては、例えば、寒天、ゼラチン、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、ジェランガム、タラガントガム、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン等が挙げられる。
【0083】
本発明の水分移行抑制用組成物中のその他の原材料の含有量は、30.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましい。なお、本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料の下限値は0質量%である。
【0084】
<ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物の用途>
本発明の水分移行抑制用組成物は、ベーカリー食品用として用いることができる。本発明の水分移行抑制用組成物により、高水分食品からベーカリー食品への水分移行を抑制することができ、水分移行による食感の悪化を防止することができる。
本発明の水分移行抑制用組成物を用いることができるベーカリー食品は特に制限がなく、例えば、食パン、菓子パン、バターロール、ソフトロール、ハードロール、バラエティブレッド、フランスパン、デニッシュ、ペストリー等のパン類や、シュー、ドーナツ、スポンジケーキ、バターケーキ、折りパイ、練りパイ、ワッフル、カステラ、クッキー、ビスケット、メロンパンの上掛け、ラングドシャ、サブレ、クラッカー、ラスク、プレッツェル、ウエハース、モナカの皮、コーン、ワッフルコーン等の焼菓子や、ピザ、キッシュ、クルトン等を挙げることができる。
【0085】
高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化を防止できるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物は、上記ベーカリー食品の中でも焼菓子用であることが好ましく、焼菓子の中でも特に、折りパイ、練りパイ、クッキー、ビスケット、メロンパンの上掛け、ラングドシャ、サブレ、クラッカー、ラスク、プレッツェル、ワッフルコーン用であることがより好ましく、折りパイ、練りパイ、クッキー、ビスケット、メロンパンの上掛け、ラングドシャ、ワッフルコーン用であることがさらに好ましい。
【0086】
<ベーカリー食品への水分移行抑制用組成物の製造方法>
次に、本発明の水分移行抑制用組成物の製造方法について述べる。
本発明の水分移行抑制用組成物の製造方法は、最終的に得られる水分移行抑制用組成物が飽和脂肪酸モノグリセリドを0.5~99.5質量%含有していれば特に制限されず、例えば、飽和脂肪酸モノグリセリドと、必要に応じて、その他の乳化剤、油脂、水分、澱粉類、本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料とを、混合することによって製造することができる。
以下に、本発明の水分移行抑制用組成物が、好ましい形態である水分移行抑制用組成物(A)あるいは水分移行抑制用組成物(B)の形態をとる場合の、それぞれの好ましい製造方法の一様態を示す。
【0087】
<<水分移行抑制用組成物(A)の好ましい製造方法>>
本発明の水分移行抑制用組成物(A)が、好ましい一様態である、ゲル状の水中油型の乳化形態をとる場合の製造方法を以下に示す。
【0088】
まず、本発明の水分移行抑制用組成物の原材料を混合し、水中油型の乳化形態をとる乳化物を得る。
具体的には、好ましくは50~75℃に調温した水分に、飽和脂肪酸モノグリセリドと、必要に応じて、本発明の水分移行抑制用油脂組成物のその他の原材料とを加えて混合し、水相を得る。
別途、加熱融解させた油脂に、必要に応じて、澱粉類と、本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料とを加えて混合し、油相を得る。
水相に、上記油相を加えて混合し、水中油型に乳化することで、水中油型の乳化形態をとる乳化物を得る。該混合時においては、乳化物の増粘を避けて製造効率を高める観点から、乳化物の液温は、含有させた油脂の融点等によっても異なるが、45℃以上とすることが好ましく、50℃以上とすることがより好ましい。
【0089】
次に、上記得られた水中油型の乳化形態をとる乳化物を、均質化装置により均質化する。
均質化装置としては、例えば、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等が挙げられる。
均質化圧力は特に制限されないが、0~200MPaであることが好ましい。2段式ホモジナイザーを用いて均質化を行う場合は、例えば、1段目を1~150MPaの範囲で、2段目を3~200MPaの範囲で行うことが好ましい。
【0090】
次に、均質化された水中油型の乳化形態をとる乳化物を、60℃以上となるように加熱する。
上記加熱の方法は特に制限されず、例えば、インジェクション式、インフュージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT、HTST、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理、あるいは直火等を用いた加熱調理により行なうことができる。また、加熱滅菌処理もしくは加熱殺菌処理、あるいは加熱後に必要に応じて再度均質化してもよく、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行ってもよい。
【0091】
加熱温度や加熱時間は、選択する加熱方式等により異なるが、加熱温度は60℃以上が好ましく、例えば、60~140℃の範囲が好ましく、75~140℃の範囲がより好ましく、90~140℃の範囲がさらに好ましい。加熱時間は加熱方式によるが、1秒間~60分間の範囲であることが好ましい。
【0092】
次に、60℃以上に加熱した水中油型の乳化形態をとる乳化物を、20℃以下となるように冷却することで、水中油型の乳化形態をとる、ゲル状の本発明の水分移行抑制用組成物(A)を製造することができる。
冷却は、急速冷却でもよく、緩慢な冷却でもよいが、急速冷却を行うことがより好ましい。本発明における急速冷却とは、1.0℃/分以上の冷却速度での冷却を指し、緩慢な冷却とは、1.0℃/分未満の冷却速度での冷却を指す。
上記冷却温度は、15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。また、冷却温度の下限値は、本発明の水分移行抑制用組成物が凍結しない範囲であれば特に制限されないが、好ましくは3℃以上である。
【0093】
上記水分移行抑制用組成物(A)の製造方法では、水に飽和脂肪酸モノグリセリドを含有させることで、飽和脂肪酸モノグリセリドの状態が変化することや、飽和脂肪酸モノグリセリドが澱粉類に作用することなどの理由によりゲル状となる。また、乳化物以外のゲル状の水分移行抑制用組成物(A)の製造方法としては、上記の水中油型乳化物である水分移行抑制用組成物(A)の好適な製造方法と同様にして得られた水相に澱粉類を添加した後、上記の好適な製造方法と同様にして均一化し、次いで同様にして加熱し、同様にして冷却すればよい。
ペースト状の水分移行抑制用組成物(A)の製造方法としては、水に飽和脂肪酸モノグリセリドを分散させたペースト状組成物の製造方法として公知の方法を採用できる。
なお、後述するa-1及びa-2の製造では、均質化後の加熱時間を上記範囲内とした。
【0094】
<<水分移行抑制用組成物(B)の好ましい製造方法>>
本発明の水分移行抑制用組成物(B)が、好ましい一様態である、油中水型の乳化形態をとる場合の製造方法を以下に示す。
まず、加熱融解させた油脂に、飽和脂肪酸モノグリセリドと、必要に応じて、本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料を加えて混合し、油相を得る。
次に、水分、好ましくは加熱した水分に、必要に応じて、その他の乳化剤、本発明の水分移行抑制用組成物のその他の原材料を加えて混合し、水相を得る。なお、本発明の水分移行抑制用組成物(B)の製造方法においては、飽和脂肪酸モノグリセリドを、油相に加えてもよく、水相に加えてもよく、油相と水相の両方に加えてもよい。
【0095】
上記得られた油相に水相を加えて混合し、油中水型に乳化させて、乳化物を得る。
そして、乳化物を殺菌処理することが好ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でもよく、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でもよい。
その後、乳化物を冷却、好ましくは急冷可塑化することによって、油中水型の乳化形態をとる本発明の水分移行抑制用組成物(B)を製造することができる。
【0096】
なお、上記冷却は、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機や、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせ等により行うことができる。
【0097】
上記可塑化は、例えば、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブ等で捏和することにより行うことができる。
本発明の水分移行抑制用組成物(B)は、窒素や酸素、空気等の気体を含気していてもよい。
【0098】
[ベーカリー食品]
次に、本発明のベーカリー食品について述べる。
本発明のベーカリー食品は、本発明の水分移行抑制用組成物を含有する生地の加熱品である。本発明のベーカリー食品は、本発明の水分移行抑制用組成物を含有することが好ましい。
本発明のベーカリー食品としては、本発明の水分移行抑制用組成物を含有する生地の加熱品であれば特に制限されず、例えば、食パン、菓子パン、バターロール、ソフトロール、ハードロール、バラエティブレッド、フランスパン、デニッシュ、ペストリー等のパン類や、シュー、ドーナツ、スポンジケーキ、バターケーキ、折りパイ、練りパイ、ワッフル、カステラ、クッキー、ビスケット、メロンパンの上掛け、ラングドシャ、サブレ、クラッカー、ラスク、プレッツェル、ウエハース、モナカの皮、コーン、ワッフルコーン等の焼菓子や、ピザ、キッシュ、クルトン等を挙げることができる。
【0099】
高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化を防止する効果がより得られやすいという観点から、本発明のベーカリー食品は、上記ベーカリー食品の中でも焼菓子であることが好ましく、焼菓子の中でも特に、具体的には、折りパイ、練りパイ、クッキー、ビスケット、メロンパンの上掛け、ラングドシャ、サブレ、クラッカー、ラスク、プレッツェル、ワッフルコーンであることがより好ましく、折りパイ、練りパイ、クッキー、ビスケット、メロンパンの上掛け、ラングドシャ、ワッフルコーンであることがさらに好ましい。
【0100】
本発明のベーカリー食品に用いられるベーカリー生地(以下、単に「生地」ともいう。)が含有する、本発明の水分移行抑制用組成物の詳細は、上述の通りである。本発明のベーカリー食品は、本発明の効果を得ながら、食感が硬くなりすぎることを防止し、適度な硬さを有したものとなるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物(A)、本発明の水分移行抑制用組成物(B)から選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましい。
また、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化をより防止しやすくなるという観点から、本発明のベーカリー食品は、ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対し、飽和脂肪酸モノグリセリドを1.5~10.0質量部含有することが好ましく、2.0~9.0質量部含有する生地の加熱品であることがより好ましく、2.5~8.0質量部含有することがさらに好ましい。ベーカリー食品中の澱粉類と飽和脂肪酸モノグリセリドとの好ましい比率も、ベーカリー生地における両者の好ましい比率と同様である。
「ベーカリー生地中の澱粉類100質量部」には、本発明の水分移行抑制用組成物中に含まれる澱粉類の量は含まないものとする。以下、本発明において同様である。
【0101】
本発明のベーカリー食品は、ベーカリー生地中の飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量が、上記好ましい数値範囲となるように、本発明の水分移行抑制用組成物の含有量を適宜設定することができる。
また、本発明のベーカリー食品に用いられる生地は、本発明の水分移行抑制用組成物とともに、飽和脂肪酸モノグリセリドそのものを併用してもよいが、本発明のベーカリー食品においては、飽和脂肪酸モノグリセリドそのものを用いた場合、ベーカリー生地に含有させにくく、また、ベーカリー食品の食感が硬すぎて好ましくないものになる恐れがあるため、本発明の水分移行抑制用組成物のみを用いて飽和脂肪酸モノグリセリドを含有させることが好ましい。
なお、本発明のベーカリー食品に用いることのできる飽和脂肪酸モノグリセリドは、上述の本発明の水分移行抑制用組成物に用いることのできる飽和脂肪酸モノグリセリドの通りである。
【0102】
本発明のベーカリー食品に用いられる澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、ヘーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉類、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などの澱粉、これらの澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理などから選ばれた1種または2種以上の処理を施した加工澱粉等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種または2種を用いることができる。
本発明の効果がより好ましく得られるという観点から、本発明のベーカリー食品に用いられる澱粉類中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上が小麦粉類であることが好ましい。
【0103】
本発明のベーカリー食品が、特に焼菓子である場合は、高水分食品から焼菓子への水分移行がより好ましく抑制され、水分移行による食感の悪化が防止されやすくなるという効果に加えて、適度な硬さを有した良好な食感になるという観点から、好ましくは本発明の焼菓子に用いられる澱粉類中1~30質量%、より好ましくは5~25質量%が、加工澱粉であることが好ましい。
【0104】
本発明のベーカリー食品は、糖類を含有することができる。
本発明のベーカリー食品に用いられる糖類としては、例えば、上白糖、三温糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、グラニュー糖、含蜜糖、黒糖、麦芽糖、てんさい糖、きび砂糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロース、トレハロース、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の単糖、二糖、オリゴ糖、多糖や、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、還元麦芽糖水あめ、還元乳糖、還元水あめ等の糖アルコールが挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
本発明のベーカリー食品が糖類を含有する場合、その好ましい含有量はベーカリー食品の種類によっても異なるが、本発明のベーカリー食品に用いられる生地中の澱粉類100質量部に対し、10~200質量部であることが好ましく、20~150質量部であることがより好ましい。ベーカリー食品中の糖類と澱粉類との好ましい比率も、ベーカリー生地における両者の好ましい比率と同様である。
なお、上記本発明のベーカリー食品及び生地中の糖類の含有量は、本発明の水分移行抑制用組成物に含まれる糖類を考慮しないものとする。
【0105】
本発明のベーカリー食品が、特に焼菓子である場合は、高水分食品から焼菓子への水分移行がより好ましく抑制され、水分移行による食感の悪化を防止できるという観点に加えて、適度な硬さを有した良好な食感になるという観点から、本発明の焼菓子が糖類を含有する場合、糖類としてトレハロースを含むことが好ましい。
本発明の焼菓子がトレハロースを含む場合、その含有量は、本発明の焼菓子に用いられる生地が含有する糖類中10~50質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。ベーカリー食品中の糖類とトレハロースとの好ましい比率も、ベーカリー生地における両者の好ましい比率と同様である。
【0106】
本発明のベーカリー食品及びそれに用いられる生地は、上記本発明の水分移行抑制用組成物、飽和脂肪酸モノグリセリド、澱粉類、糖類以外の、本発明のベーカリー食品のその他の原材料を含有してもよい。
本発明のベーカリー食品のその他の原材料としては、一般的なベーカリー食品に用いられる原材料であれば特に制限されず、例えば、水、油脂、飽和脂肪酸モノグリセリド以外の乳化剤、高甘味度甘味料、増粘安定剤、イースト、イーストフード、膨張剤、ベーキングパウダー、塩味料、酸味料、調味料、香辛料、酵素類、pH調整剤、着色料、着香料、食品保存料、日持ち向上剤、酸化防止剤、植物性蛋白や動物性蛋白、乳や乳製品、卵類およびその加工品、コーヒー、カカオマス、ココアパウダー、豆類およびその加工品、種実類およびその加工品、肉類およびその加工品、魚介類およびその加工品、果物類およびその加工品、野菜類およびその加工品等の食品や食品添加物が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
本発明のベーカリー食品のその他の原材料の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されないが、好ましくは本発明のベーカリー食品に用いられる生地中の澱粉類100質量部に対し、300質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましい。ベーカリー食品中のその他原材料と澱粉類との好ましい比率も、ベーカリー生地における両者の好ましい比率と同様である。なお、本発明のベーカリー食品のその他の原材料の含有量の下限値は0質量部である。
また、上記本発明のベーカリー食品のその他の原材料の含有量は、本発明の水分移行抑制剤に含まれる飽和脂肪酸モノグリセリドおよび澱粉類以外の成分の量も含む値である。
【0107】
<ベーカリー食品の製造方法>
本発明のベーカリー食品は、本発明の水分移行抑制用組成物を含有していれば特に制限されず、一般的なベーカリー製品の製造方法を用いることができる。
具体的には、例えば、本発明の水分移行抑制用組成物とベーカリー食品の原材料とを用いて、本発明の水分移行抑制用組成物を含有するベーカリー生地を得て、該ベーカリー生地を加熱処理することにより製造することができる。
本発明の水分移行抑制用組成物を、ベーカリー生地に含有させる方法は、本発明の水分移行抑制用組成物の形状によっても異なるが特に制限されず、従前知られた方法を用いることができる。
【0108】
例えば、本発明の水分移行抑制用組成物が液状の場合は、水分移行抑制用組成物にベーカリー生地の原材料を添加し混合する方法や、ベーカリー生地の原材料と同時に混合する方法や、ベーカリー生地に後添加して混合する方法等が挙げられる。
【0109】
本発明の水分移行抑制用組成物が固形状や、ゲル状、ペースト状である場合は、あらかじめ水分移行抑制用組成物を撹拌やホイップし、ここにベーカリー生地の原材料を添加し混合する方法や、水分移行抑制用組成物とベーカリー生地の原材料を同時に混合する方法や、ベーカリー生地に水分移行抑制用組成物を練り込むまたは折り込む方法等が挙げられる。
【0110】
本発明のベーカリー食品を製造するためのベーカリー生地を得る方法としては、例えば、中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法等のパン生地の製造方法や、オールインミックス法、溶かしバター法、別立て法、共立て法、後粉法、後油法、フラワーバッター法、シュガーバッター法等の焼菓子生地の製造方法などを用いることができる。
本発明のベーカリー食品を製造するための加熱処理の方法は特に制限されず、例えば、焼成、蒸し、蒸し焼き、揚げ、電子レンジによる加熱等が挙げられるが、好ましくは焼成である。
本発明のベーカリー食品を製造するための、ベーカリー生地の加熱処理の条件は任意に設定することができ、ベーカリー生地の種類や加熱処理の方法によっても異なるが、例えば焼成の場合、加熱温度は100~250℃であることが好ましく、120~210℃であることがより好ましい。
製造されたベーカリー食品は、冷蔵してもよく、冷凍してもよい。なお、本願における冷蔵温度は0~10℃であり、冷凍温度は0℃未満、好ましくは-30℃以上0℃未満である。
また、製造されたベーカリー食品や、冷蔵または冷凍後のベーカリー食品を、再度加熱処理してもよい。
本発明者は、飽和脂肪酸モノグリセリドを特定量で含有する水分移行抑制用組成物を用いた生地を焼成等の加熱処理することにより、水分移行が効果的に抑制されたベーカリー食品を得ることができることを知見した。ベーカリー食品において、当該組成物を混合及び焼成して得られたことによる当該組成物を用いないものとの物性の違いを見出すためには、新たな評価手法の開発が必要であり、過大な時間がかかる。つまり、ベーカリー食品について本願明細書に記載されたことを超えて物としての構成を規定することには、不可能且つ非実際的事情が存在した。
【0111】
[複合ベーカリー食品]
本発明のベーカリー食品は、高水分食品からベーカリー食品への水分移行が抑制され、水分移行による食感の悪化が防止されるという効果を有するため、本発明のベーカリー食品と高水分食品とを含む、複合ベーカリー食品であることが好ましい。
複合ベーカリー食品としては、具体的には、本発明のベーカリー食品と高水分食品とを複合させたものや、本発明のベーカリー食品を得るためのベーカリー生地と、高水分食品とを複合させたものの加熱処理品が挙げられる。
上記複合の方法としては特に制限されないが、例えば、サンド、トッピング、塗布、包餡、注入、練り込み、折り込み等が挙げられる。
【0112】
高水分食品とは、ベーカリー食品と比較して水分含有量が高い食材を指し、ベーカリー食品の種類によっても異なるが、具体的には水分含有量が10質量%以上の食品を指す。高水分食品は、水分含有量が好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上である。なお、上記高水分食品としては、例えば、生クリーム、ホイップクリーム、コンパウンドクリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、ファットスプレッド、マーガリン、バター、バタークリーム、ジャム、あんこ等のフィリング材、ヨーグルト、プリン、ゼリー、アイスクリーム、果物やその加工品、野菜やその加工品、本発明の水分移行抑制用組成物を含有しないベーカリー生地やベーカリー食品等が挙げられる。
【0113】
[ベーカリー食品への水分移行抑制方法]
最後に、本発明のベーカリー食品への水分移行抑制方法(以下、単に「本発明の水分移行抑制方法」と記載する。)について述べる。
本発明の水分移行抑制方法は、ベーカリー食品に、ベーカリー食品中の澱粉類100質量部に対して、飽和脂肪酸モノグリセリドを1.5~10.0質量部含有させるものである。
本発明の水分移行抑制方法においては、より本発明の効果を得ることができるようになるという観点から、本発明の水分移行抑制用組成物を含有させて、ベーカリー食品の飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量を、上記数値範囲量とすることが好ましい。
本発明の水分移行抑制方法においては、本発明の水分移行抑制用組成物を1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0114】
また、本発明の水分移行抑制用組成物とともに、飽和脂肪酸モノグリセリドそのものを含有させることもできるが、本発明の水分移行抑制方法においては、本発明の水分移行抑制用組成物のみを含有させて、上記飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量の数値範囲とすることが好ましい。
【0115】
本発明の水分移行抑制方法により、高水分食品からベーカリー食品への水分移行を抑制することができる。また、水分移行により、ベーカリー食品がしっとりしたり、柔らかくなったりして、歯ごたえのある食感が失われ、食感が悪化することを防止することができる。
さらに、高水分食品と複合させた場合でも、水分移行による複合ベーカリー食品の食感の悪化を防止することができる。
【0116】
本発明の水分移行抑制方法に用いられる飽和脂肪酸モノグリセリド、本発明の水分移行抑制用組成物、得られるベーカリー食品、複合ベーカリー食品についての詳細は、上述の通りである。
本発明の水分移行抑制方法においては、高水分食品からベーカリー食品への水分移行をより好ましく抑制でき、水分移行による食感の悪化をより好ましく防止できるという観点から、ベーカリー食品に、ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対して、飽和脂肪酸モノグリセリドを1.5~10.0質量部含有させることが好ましく、2.0~9.0質量部含有させることがより好ましく、2.5~8.0質量部含有させることが特に好ましい。
【0117】
本発明の水分移行抑制方法において、本発明の水分移行抑制用組成物を用いて、ベーカリー食品に飽和脂肪酸モノグリセリドを含有させる場合、その方法は特に制限されず、従前知られた方法を用いることができる。
例えば、本発明の水分移行抑制用組成物が液状の場合は、水分移行抑制用組成物にベーカリー生地の原材料を添加し混合する方法や、ベーカリー生地の原材料と同時に混合する方法や、ベーカリー生地に後添加して混合する方法等が挙げられる。
本発明の水分移行抑制用組成物が半固体状または固体状である場合は、あらかじめ水分移行抑制用組成物を撹拌やホイップし、ここにベーカリー生地の原材料を添加し混合する方法や、水分移行抑制用組成物とベーカリー生地の原材料を同時に混合する方法や、ベーカリー生地に水分移行抑制用組成物を練り込むまたは折り込む方法等が挙げられる。
【実施例0118】
以下、本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により、何ら制限されるものではない。以下の表における配合の単位は質量部である。
【0119】
[エステル交換油脂の製造]
エステル交換油脂(i):ヨウ素価が64であるパーム分別軟部油(パームスーパーオレイン)100質量部からなる油脂配合物を、ナトリウムメトキシドを用いてエステル交換し、ヨウ素価が64のエステル交換油脂(i)を得た。
得られたエステル交換油脂(i)の構成脂肪酸残基中のラウリン酸残基含有量が0.5質量%であり、ベヘン酸残基含有量は0質量%であった。
なお、エステル交換油脂(i)は、本発明のエステル交換油脂(I)にあたる。
【0120】
エステル交換油脂(ii):パーム油70質量部、パーム核油25質量部、ハイエルシン菜種極度硬化油5質量部からなる油脂配合物を、ナトリウムメトキシドを用いてエステル交換し、エステル交換油脂(ii)を得た。
得られたエステル交換油脂(ii)の構成脂肪酸残基中のラウリン酸残基含有量は13質量%であり、ベヘン酸残基含有量は2質量%であった。
なお、エステル交換油脂(ii)は、本発明のエステル交換油脂(II)にあたる。
【0121】
エステル交換油脂(iii):パーム分別軟部油60質量部、パーム核油20質量部、ハイエルシン菜種極度硬化油20質量部からなる油脂配合物を、ナトリウムメトキシドを用いてエステル交換し、エステル交換油脂(iii)を得た。
得られたエステル交換油脂(iii)の構成脂肪酸残基中のラウリン酸残基含有量は7質量%であり、ベヘン酸残基含有量は7質量%であった。
なお、エステル交換油脂(iii)は、本発明のエステル交換油脂(II)にあたる。
【0122】
[水分移行抑制用組成物の製造]
表1および表2に記載の配合に則り、以下の製造方法により、各水分移行抑制用組成物を製造した。
【0123】
【表1】
【0124】
<水分移行抑制用組成物a-1~a-2の製造>
65℃に加熱した水に、構成脂肪酸残基がパルミチン酸残基である飽和脂肪酸モノグリセリドを加えて撹拌し、分散させ、水相を得た。
水分移行抑制用組成物a-1については、上記水相に小麦澱粉を加えて混合し、60℃の混合物を得た。得られた混合物を圧力10MPaで均質化した後、90~95℃まで加熱し、室温(20℃)まで冷却することで、水相を連続相とする、ゲル状の水分移行抑制用組成物a-1を得た。
水分移行抑制用組成物a-2については、加熱融解させたエステル交換油脂(i)に、加工澱粉を加え、混合し、油相を得た。上記水相に油相を加えて混合し、水中油型の乳化形態をとる60℃の乳化物を得た。得られた水中油型の乳化形態をとる乳化物を圧力10MPaで均質化した後、90~95℃まで加熱し、室温(20℃)まで冷却することで、水相を連続相とする、ゲル状の水分移行抑制用組成物a-2を得た。
水分移行抑制用組成物a-1~a-2は、上記本発明の水分移行抑制用組成物(A)にあたる。
【0125】
【表2】
【0126】
<水分移行抑制用組成物b-1~b-7の製造>
加熱融解させた配合油に、構成脂肪酸残基がパルミチン酸残基である飽和脂肪酸モノグリセリド、構成脂肪酸残基がオレイン酸残基である不飽和脂肪酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステルを、表2の水分移行抑制用組成物b-1~b-7のそれぞれの配合に応じて加えて撹拌し、混合して、油相を得た。
続いて、水分移行抑制用組成物b-1~b-6については、65℃に加熱した水を水相として用意した。
水分移行抑制用組成物b-1~b-6については、上記油相に水相を加えて混合し、油中水型に乳化して、乳化物を得た。
得られた乳化物を急冷可塑化し、油中水型の乳化形態である、固形状の水分移行抑制用組成物b-1~b-6を得た。
水分移行抑制用組成物b-7については、上記油相を急冷可塑化し、油相を連続相とする、固形状の水分移行抑制用組成物b-7を得た。
水分移行抑制用組成物b-1~b-3およびb-5~b-7は、上記本発明の水分移行抑制用組成物(B)にあたる。
【0127】
[コントロールとして用いたショートニング]
パーム油5質量部、パーム分別軟部油のエステル交換油脂95質量部からなるショートニングを用いた。用いたショートニングは、飽和脂肪酸モノグリセリドを含有しないものであった。
【0128】
[検討1:水分移行抑制用組成物の形態による効果]
まず、水分移行抑制用組成物の形態による効果を、クッキーの系で評価した。
表3に記載の配合に則り、以下の製造方法により、実施例1-1~1-3、比較例1-1~1-2のクッキーを製造した。なお、ショートニングを用いた、比較例1-1のクッキーをコントロールとした。
得られたクッキーを、下記水分移行抑制効果の評価方法、および高水分食品との複合時の食感の評価方法により評価し、両方の評価で○以上の評価を得たものを合格とした。
【0129】
【表3】
【0130】
<クッキーの製造方法>
まず、コントロールである、比較例1-1のクッキーについては、ショートニングをボウルに投入し、ビーターで混合した後、上白糖を加え、さらに混合した。次に、全卵、水、食塩をあらかじめ混合したものを3回に分けて加え、均一になるまで混合し、薄力粉、ベーキングパウダーを加えてさらに混合し、クッキー生地を得た。
比較例1-2のクッキーについては、コントロールのクッキーの製造方法のうち、上白糖を加えるタイミングで、構成脂肪酸残基がオレイン酸残基である不飽和脂肪酸モノグリセリドを加えた以外は同様の方法で、クッキー生地を得た。
水分移行抑制用組成物a-1~a-2を用いた、実施例1-1~1-2のクッキーについては、コントロールのクッキーの製造方法のうち、薄力粉とベーキングパウダーを加えるタイミングで、水分移行抑制用組成物a-1またはa-2を加えた以外は同様の方法で、クッキー生地を得た(水分含有量)。
水分移行抑制用組成物b-1を用いた、実施例1-3のクッキーについては、コントロールのクッキーの製造方法のうち、ショートニングをボウルに投入するタイミングで、水分移行抑制用組成物b-1を加えた以外は同様の方法で、クッキー生地を得た。
次に、得られた各クッキー生地を、4℃の冷蔵庫で2時間休ませ、生地厚が4mmとなるように伸ばし、直径42mmの丸型でくりぬき、成形した。成形後に、オーブンで上火180℃、下火170℃の設定で17分間焼成し、実施例1-1~1-3および比較例1-1~1-2のクッキーを得た。
【0131】
<水分移行抑制効果の評価方法>
水分移行抑制効果は、「水分移行抑制効果が高いベーカリー食品ほど、水を吸収しにくく染みこむまでに時間を要する」という仮説に基づき、以下の方法で評価した。
まず、得られたクッキーの表面に、食紅で赤く着色した水を約0.4g滴下し、滴下してから、滴下された水がクッキーに完全に染みこんだことが視認されるまでの時間を計測した。次に、下記の評価基準に沿って、水が完全に染みこむまでの時間を基に、水分移行抑制効果を評価した。
評価結果は、表4に示した。
【0132】
―水分移行抑制効果の評価基準―
◎:表面の水が完全に染みこむまでの時間が10分以上であった。
○+:表面の水が完全に染みこむまでの時間が5分以上10分未満であった。
○:表面の水が完全に染みこむまでの時間が2分以上5分未満であった。
△:表面の水が完全に染みこむまでの時間が1分以上2分未満であった。
×:表面の水が完全に染みこむまでの時間が1分未満であった。
【0133】
<高水分食品との複合時の食感の評価方法>
得られたクッキーと高水分食品とを複合させた複合ベーカリー食品の食感について評価を行った。高水分食品であるホイップドクリーム(水分含有量:44質量%、糖添加量:7質量%)5gを絞ったクッキーを4℃で1日間保管したものを評価サンプルとし、この評価サンプルを熟練したパネラー5人が喫食し、下記の評価基準に沿って採点した結果に基づき、その合計点で評価を行った。
なお、評価基準については、評価前にパネラー間ですり合わせを行い、パネラー間で評価基準に差が生じないようにしている。
評価結果は、表4に示した。
【0134】
―高水分食品との複合時の食感の評価基準―
5点:しっとり感がなく、歯ごたえがありながらも適度な硬さで噛み砕きやすい、非常に良好な食感であった。
4点:しっとり感がなく、歯ごたえがあり、少し硬くて噛み砕きにくさがあるが、良好な食感であった。
3点:少ししっとり感があるが、歯ごたえも感じられ、食感は問題のないものであった。
2点:歯ごたえが弱く、しっとり感の強い不良な食感であった。
1点:歯ごたえがほとんどなく、非常にしっとり感の強い不良な食感であった。
【0135】
―高水分食品との複合時の食感の評価の表示方法―
◎:23~25点
○+:20~22点
○:15~19点
△:11~14点
×:10点以下
【0136】
【表4】
【0137】
<検討1の結果>
本発明の水分移行抑制用組成物を用いた実施例1-1~1-3のクッキーは、水分移行抑制効果および高水分食品との複合時の食感ともに良好な評価であった。特に、本発明の水分移行抑制用組成物(B)の形態をとる、水分移行抑制用組成物b-1を用いた実施例1-3のクッキーは、高水分食品との複合時の食感が少し硬く、歯ごたえはあるがガリガリと少し噛み砕きにくい食感であったのに対し、本発明の水分移行抑制用組成物(A)の形態をとる、水分移行抑制用組成物a-1またはa-2を用いた実施例1-1および1-2のクッキーは、高水分食品と複合させても歯ごたえがあることに加えて、サクサクと噛み砕きやすい良好な食感を有していた。
対して、コントロールである比較例1-1のクッキーと、不飽和脂肪酸モノグリセリドを直接クッキー生地に添加した、比較例1-2のクッキーは、1分以内に滴下した水が完全に浸み込んでしまった。また、食品と複合させた場合、しっとりとして、歯ごたえの弱い食感となってしまった。
以上から、本発明の水分移行抑制用組成物により、水分移行抑制効果が得られ、食品からベーカリー食品への水分移行による食感の悪化が防止されることが知見された。
【0138】
[検討2:本発明の水分移行抑制用組成物(B)の配合による効果]
検討1において良好な評価が得られた、本発明の水分移行抑制用組成物(B)の形態をとる水分移行抑制用組成物について、その配合による効果を、検討1と同様にクッキーの系で評価した。
検討1のコントロールのクッキーの製造方法のうち、ショートニングに換えて、表5の配合表に則り、水分移行抑制用組成物、あるいは水分移行抑制用組成物とショートニング(飽和脂肪酸モノグリセリド非含有)とを用いた以外は、コントロールのクッキーと同様の方法で、実施例2-1~2-5および比較例2-1のクッキーを製造した。
得られたクッキーの水分移行抑制効果と、高水分食品との複合時の食感の評価を、検討1と同様の方法で行い、両方の評価で○以上の評価を得たものを合格とした。評価結果は、表6に示した。
【0139】
【表5】
【0140】
【表6】
【0141】
<検討2の結果>
飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量を変化させた実施例2-1および2-2のクッキーを、実施例1-3のクッキーとともに比較すると、飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量が高い実施例2-2および実施例1-3のクッキーは、水分移行抑制効果がより良好であった。高水分食品との複合時の食感は、実施例2-2のクッキーが最も硬く、すこし噛み砕きにくかったが、問題ない程度であった。
【0142】
実施例2-3のクッキーは、検討2におけるクッキーの中で、高水分食品との複合時の食感が最もサクサクとして噛み砕きやすいものとなっていた。これは、油相に特定量のラウリン酸残基、ベヘン酸残基を含有することが一つの要因であると推察される。
実施例2-1と飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量は同じであるが、不飽和脂肪酸モノグリセリドを含まず、配合の異なる水分移行抑制用組成物b-6を用いた実施例2-4のクッキーは、実施例2-1と比較して、滴下した水が完全に染みこむまでの時間が少し早く、高水分食品との複合時の食感も少ししっとりとしていたが、問題のない程度であった。
水相を含有しない、油相を連続相とする水分移行抑制用組成物b-7を用いた実施例2-5のクッキーは、水分移行抑制効果も、高水分食品との複合時の食感も良好なものであったが、飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量が同じである実施例2-2よりもさらに硬く、噛み砕きにくさが感じられたが問題ない程度であった。
【0143】
[検討3:クッキーの配合による効果]
クッキーの配合により得られる効果の変化について評価した。
水分移行抑制用組成物b-1を用いて、表7に記載の配合に則り、検討1の実施例1-3のクッキーの製造方法と同様の方法により、実施例3-1~3-7のクッキーを製造した。
なお、実施例3-5については、上白糖を加えるタイミングでトレハロースを加え、実施例3-6~3-7については、薄力粉を加えるタイミングで加工澱粉を加えた。
得られたクッキーの水分移行抑制効果と、高水分食品との複合時の食感の評価を、検討1と同様の方法で行い、両方の評価で○以上の評価を得たものを合格とした。評価結果は、表8に示した。
【0144】
【表7】
【0145】
【表8】
【0146】
<検討3の結果>
実施例3-1~3-4の結果から、クッキー中の飽和脂肪酸モノグリセリドの含有量の増加に伴い、水分移行抑制効果と、高水分食品との複合時の食感が良好なものになることが知得された。
クッキー中の上白糖を、一部トレハロースに置換した実施例3-5のクッキーは、水分移行抑制効果が良好なことに加えて、高水分食品との複合時の食感が、サクサクとした、噛み砕きやすい良好な食感となっていた。
また、クッキー中の薄力粉を、一部加工澱粉に置換した実施例3-6~7のクッキーも、水分移行抑制効果が良好であった。加工澱粉への置換割合が、クッキーに用いられる澱粉類中10質量%である実施例3-6のクッキーは、実施例3-3のクッキーと比較して、高水分食品との複合時の食感は、やや噛み砕きやすいものになっていたが、まだ噛み砕きにくさが感じられた。加工澱粉への置換割合がさらに大きい実施例3-7のクッキーは、高水分食品との複合時の食感が、サクサクとした噛み砕きやすい良好な食感となっていた。これらの結果から、焼菓子であるクッキーにおいては、糖類としてトレハロースを含有すること、あるいは、澱粉類として加工澱粉を含有することで、本発明の効果が得られることに加え、高水分食品との複合時の食感が、適度な硬さを有した良好なものとなることが知得された。
【0147】
[検討4:練りパイの系における効果]
水分移行抑制用組成物の効果を、焼菓子である練りパイの系で評価した。
表9に記載の配合に則り、以下の製造方法により、水分移行抑制用組成物を含有する実施例4-1の練りパイ、および水分移行抑制用組成物を含有しない比較例4-1の練りパイを製造した。
得られた練りパイの水分移行抑制効果を、検討1と同様の方法で評価した。
高水分食品との複合時の食感の評価については、下記評価方法および評価基準に沿って評価した。
両方の評価で○以上の評価を得たものを合格とした。評価結果は、表10に示した。
【0148】
<練りパイの製造方法>
水分移行抑制用組成物b-1またはショートニング(飽和脂肪酸モノグリセリド非含有)と、薄力粉と、強力粉と、食塩と、水とをボウルに投入し、均一に混ざるまで混合し、練りパイ生地を得た。
得られた練りパイ生地を、4℃の冷蔵庫で2時間休ませ、4つ折りを3回行い、圧延後、4℃の冷蔵庫で1時間練りパイ生地を休ませた。その後、生地厚が2mmとなるように圧延し、直径42mmの丸型でくりぬき、成形した。成形後、オーブンで上火180℃、下火170℃で20分間焼成し、実施例4-1および比較例4-1の練りパイを得た。
【0149】
<高水分食品との複合時の食感の評価方法>
高水分食品であるホイップドクリーム(水分含有量:44質量%、糖添加量:7質量%)約5gを絞った練りパイを4℃で1日間保管したものを評価サンプルとし、この評価サンプルを熟練したパネラー5人が喫食し、下記の評価基準に沿って採点した結果に基づき、その合計点で評価を行った。
なお、評価基準については、評価前にパネラー間ですり合わせを行い、パネラー間で評価基準に差が生じないようにしている。
【0150】
―高水分食品との複合時の食感の評価基準―
5点:しっとり感がなく、適度な硬さを有した、歯ごたえのある非常に良好な食感であった。
4点:わずかにしっとり感も感じられるが、歯ごたえのある良好な食感であった。
3点:少ししっとり感があるが、歯ごたえも感じられ、食感は問題のないものであった。
2点:歯ごたえが弱く、しっとり感の強い不良な食感であった。
1点:歯ごたえがほとんどなく、非常にしっとり感の強い不良な食感であった。
【0151】
―高水分食品との複合時の食感の評価の表示方法―
◎:23~25点
○+:20~22点
○:15~19点
△:11~14点
×:10点以下
【0152】
【表9】
【0153】
【表10】
【0154】
<検討4の結果>
練りパイの系においても、本発明の水分移行抑制用組成物によって、水分移行抑制効果と、高水分食品との複合時の食感は良好な評価が得られることが知得された。
また、クッキーの系における効果と比較すると、滴下した水が完全に染みこむまでの時間が短く、水分移行抑制効果が少し劣ることも知得された。
【0155】
[検討5:ラングドシャの系における効果]
水分移行抑制用組成物の効果を、焼菓子であるラングドシャの系で評価した。
表11に記載の配合に則り、以下の製造方法により、水分移行抑制用組成物を含有する実施例5-1のラングドシャ、および水分移行抑制用組成物を含有しない比較例5-1のラングドシャを製造した。
得られたラングドシャの水分移行抑制効果を、検討1と同様の方法で評価した。
高水分食品との複合時の食感の評価については、下記評価方法および評価基準に沿って評価した。
両方の評価で○以上の評価を得たものを合格とした。評価結果は、表12に示した。
【0156】
<ラングドシャの製造方法>
水分移行抑制用組成物b-1および/またはショートニング(飽和脂肪酸モノグリセリド非含有)をボウルに投入し、ビーターで混合した。ここに、上白糖を加え、さらに混合した。次に、卵白と食塩を溶解させた水を数回に分けて混合し、ここに薄力粉を加えてさらに混合し、ラングドシャ生地を得た。
得られたラングドシャ生地を、4℃の冷蔵庫で2時間休ませた。休ませたラングドシャ生地を、天板の上に一辺約40mmの正方形となるように、型にすり込んで成形した。成形後、オーブンで上火190℃、下火180℃で約10分間焼成し、実施例5-1および比較例5-1のラングドシャを得た。
【0157】
<食品との複合時の食感の評価方法>
高水分食品であるホイップドクリーム(水分含有量:44質量%、糖添加量:7質量%)約10gを絞ったラングドシャを4℃で1日間保管したものを評価サンプルとし、この評価サンプルを熟練したパネラー5人が喫食し、下記の評価基準に沿って採点した結果に基づき、その合計点で評価を行った。
なお、評価基準については、評価前にパネラー間ですり合わせを行い、パネラー間で評価基準に差が生じないようにしている。
【0158】
―高水分食品との複合時の食感の評価基準―
5点:しっとり感がなく、適度な硬さを有した、歯ごたえのある非常に良好な食感であった。
4点:わずかにしっとり感も感じられるが、歯ごたえのある良好な食感であった。
3点:少ししっとり感があるが、歯ごたえも感じられ、食感は問題のないものであった。
2点:歯ごたえが弱く、しっとり感の強い不良な食感であった。
1点:歯ごたえがほとんどなく、非常にしっとり感の強い不良な食感であった。
【0159】
―高水分食品との複合時の食感の評価の表示方法―
◎:23~25点
○+:20~22点
○:15~19点
△:11~14点
×:10点以下
【0160】
【表11】
【0161】
【表12】
【0162】
<検討5の結果>
ラングドシャの系においても、本発明の水分移行抑制用組成物によって、水分移行抑制効果と、高水分食品との複合時の食感は良好な評価が得られることが知得された。
水分移行抑制効果については、クッキーの系と比較して、滴下した水が完全に染みこむまでの時間が短く、劣っていた。これは、クッキーと比較して、ラングドシャの表面には、多数の細かな空隙が存在していたため、水が染みこみやすかったのだと推察される。
【0163】
[検討6:ワッフルコーン]
水分移行抑制用組成物の効果を、焼菓子であるワッフルコーンの系で評価した。
表13に記載の配合に則り、以下の製造方法により、水分移行抑制用組成物を含有する実施例6-1のワッフルコーン、および水分移行抑制用組成物を含有しない比較例6-1のワッフルコーンを製造した。
得られたワッフルコーンの水分移行抑制効果を、検討1と同様の方法で評価した。
高水分食品との複合時の食感の評価については、下記評価方法および評価基準に沿って評価した。
両方の評価で○以上の評価を得たものを合格とした。評価結果は、表14に示した。
【0164】
<ワッフルコーンの製造方法>
水分移行抑制用組成物b-1とショートニング以外の原材料をボウルに投入し、ビーターで混合した。ここに、あらかじめ加熱して溶解させておいた水分移行抑制用組成物b-1またはショートニング(飽和脂肪酸モノグリセリド非含有)を加えてさらに混合し、ワッフルコーン生地を得た。
ワッフルメーカーを用いて、4分間焼成し、焼成したワッフルコーン生地を丸型でくりぬいて成形し、実施例6-1および比較例6-1のワッフルコーンを得た。
【0165】
<高水分食品との複合時の食感の評価方法>
高水分食品にあたるアイスクリーム(水分含有量:64質量%)約10gを成形したワッフルコーンに乗せ、-18℃で72時間置いたものを評価サンプルとし、この評価サンプルを熟練したパネラー5人が喫食し、下記の評価基準に沿って採点した結果に基づき、その合計点で評価を行った。
なお、評価基準については、評価前にパネラー間ですり合わせを行い、パネラー間で評価基準に差が生じないようにしている。
【0166】
―高水分食品との複合時の食感の評価基準―
5点:しっとり感は全くなく、歯ごたえのある非常に良好な食感であった。
4点:わずかにしっとり感も感じられるが、歯ごたえのある良好な食感であった。
3点:少ししっとり感があるが、歯ごたえも感じられ、食感は問題のないものであった。
2点:歯ごたえが弱く、しっとり感の強い不良な食感であった。
1点:歯ごたえがほとんどなく、非常にしっとり感の強い不良な食感であった。
【0167】
―高水分食品との複合時の食感の評価の表示方法―
◎:23~25点
○+:20~22点
○:15~19点
△:11~14点
×:10点以下
【0168】
【表13】
【0169】
【表14】
【0170】
<検討6の結果>
ワッフルコーンの系においても、本発明の水分移行抑制用組成物によって、水分移行抑制効果と、高水分食品との複合時の食感は良好な評価が得られることが知得された。
クッキーの系と比較すると、滴下した水が完全に染みこむまでの時間は少し短く、また、食品との複合時の食感も、少ししっとり感が感じられるものであることも知得された。
以上の検討の結果から、本発明の水分移行抑制用組成物により得られる効果には、ベーカリー食品の種類によって差があり、特に焼菓子であるクッキーと練りパイの系において、水分移行抑制効果と、高水分食品との複合時の食感の効果がともに好ましく得られることが知得された。