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特開2024-117689電磁鋼板とその製造方法およびロータコア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117689
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】電磁鋼板とその製造方法およびロータコア
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240822BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240822BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240822BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240822BHJP
   H01F 3/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/58
C22C30/00
C22C38/00 302Z
H01F1/147 175
H01F3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136918
(22)【出願日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2023023038
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】濱田 典彦
(72)【発明者】
【氏名】及川 勝成
(72)【発明者】
【氏名】杉本 諭
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
5E041BD09
5E041CA04
5E041HB11
5E041HB14
(57)【要約】
【課題】ケイ素鋼板の一部に改質部を有する電磁鋼板を提供する。
【解決手段】本発明は、溶融凝固してできた改質部を一部に有するケイ素鋼板である。この改質部は、オーステナイト相と化合物相を含む金属組織を有する。その化合物相は、オーステナイト相よりも低密度なB系化合物を含むとよい。B系化合物は、例えば、FeB、Cr 、CrB、CrBの一種以上である。このようなB系化合物は、例えば、金属組織全体に対する体積割合で1~45%含まれるとよい。このような電磁鋼板は、例えば、ケイ素鋼板の特定領域上に配置した改質材(例えばNi、Cr、B等を含む粉末)へ高エネルギービームを照射して得られる。このときに生じる引け巣が本発明により抑止される。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融凝固してできた改質部を一部に有するケイ素鋼板であって、
該改質部は、オーステナイト相と化合物相を含む金属組織を有し、
該化合物相は、Bを含むB系化合物を含み、
該B系化合物は、該オーステナイト相よりも低密度である電磁鋼板。
【請求項2】
前記金属組織は、初晶オーステナイト相と共晶を含み、
前記B系化合物は、該共晶に含まれる請求項1に記載の電磁鋼板。
【請求項3】
前記B系化合物は、前記金属組織全体に対する体積割合で1~45%含まれる請求項1に記載の電磁鋼板。
【請求項4】
前記B系化合物は、FeB、Cr 、CrBおよびCrBの一種以上を含む請求項1に記載の電磁鋼板。
【請求項5】
前記B系化合物は、少なくとも二種以上の化合物が交互に形成された複化合物を含む請求項1に記載の電磁鋼板。
【請求項6】
前記複化合物は、積層状である請求項5に記載の電磁鋼板。
【請求項7】
前記複化合物は、FeB層とCrB層が交互に積層されてなる請求項6に記載の電磁鋼板。
【請求項8】
前記オーステナイト相は、Niおよび/またはCrを含む請求項1に記載の電磁鋼板。
【請求項9】
ケイ素鋼板の特定領域上に配置した改質材へ高エネルギービームを照射して、該ケイ素鋼板の一部に改質部を形成する改質工程を備え、
請求項1~8のいずれかに記載の電磁鋼板が得られる製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の電磁鋼板を積層したロータコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質部を有する電磁鋼板等に関する。
【背景技術】
【0002】
交番磁界中で使用される磁性部材の多くは、磁気回路の形成、渦電流損失(鉄損)の抑制、強度の確保等のため、所定形状に成形された電磁鋼板の積層体からなる。磁性部材のさらなる高性能化や低損失化(効率化)等を図るため、積層体の一部が非磁性(弱磁性、低磁性を含む。)にされることも多い。
【0003】
例えば、電動機(モータ、ジェネレータ)のロータやステータは、通常、所望形状に成形(打ち抜き、溶断等のトリミング)されたケイ素鋼板からなるコアシートを積層してなる。起磁源である永久磁石を収容するスロットの外周側にできる狭幅なブリッジ(連結部)は、改質により非磁性化されて、回転トルクに寄与しない無効な磁束の低減が図られる。
【0004】
このような改質は、積層前または積層後のケイ素鋼板の金属組織(フェライト相)をオーステナイト相を含む金属組織へ変態させてなされ得る。これに関連する記載が、例えば、下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-259385 (特許第2616504号)
【特許文献2】特開平6-74124 (特許第2989977号)
【特許文献3】特開2008-308712
【特許文献4】特開2011-6741
【特許文献5】特開2011-171613(特許第5622074号)
【特許文献6】特開2014-214351(特許第6212924号)
【特許文献7】特開2015-201997(特許第6350964号)
【特許文献8】WO2022/004672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、磁気検出に用いるステンレス鋼製リング上に、合金粉末をレーザ光照射により溶融凝固させた肉盛層を形成して、領域毎に磁気特性を変化(改質)させている。改質に際して、3相(フェライト相、オーステナイト相、マルテンサイト相)の存在域を、Ni当量とCr当量を軸とする座標上に示したシェフラー状態図が参考にされている。
【0007】
特許文献2は、ステンレス鋼からなる電磁アクチュエータ(燃料噴射弁)用固定鉄心にレーザ照射をして、フェライト相や加工誘起マルテンサイト相を非磁性なオーステナイト相へ変態させることを提案している。特許文献1や特許文献2には、ケイ素鋼板の改質に関する記載は一切ない。
【0008】
特許文献3は、Mn―Ni―B合金粉末とメチルセルロース水溶液を混合したペーストを所定域に塗布したケイ素鋼板を加熱炉で加熱(1120℃×20分間)し、ケイ素鋼板の所定域を非磁性化している(特許文献3の実施例4)。緩慢な加熱により合金粉末をケイ素鋼板へ溶け込ませてできる金属組織は、合金粉末とケイ素鋼板を共に溶融させた後に凝固させてできる金属組織とは大きく異なる。
【0009】
特許文献4は、Ni―Cr粉末をテトラデカンに分散させたインクを電磁鋼板に印刷した後、乾燥後のインクへ電子ビーム照射する局所加熱(1520℃×1秒間)により、溶融合金化された非磁性領域を電磁鋼板上に形成している。特許文献4には、レーザ照射による局所加熱や、B添加による溶融合金化温度の低減に関する言及もあるが、それらに関する具体的な記載(例えばB量)は一切ない。
【0010】
特許文献5は、Fe―Cr―C系合金板(強磁性素材)から切り出して形成されたロータコアシートを外周側から高周波加熱して、外周側にある狭幅な連結部(ブリッジ)だけを非溶融のままオーステナイト主体の金属組織(弱磁性部)へ変態させることを提案している。特許文献5にも、ケイ素鋼板の改質に関する記載は一切ない。
【0011】
特許文献6は、磁性体を非磁性体へ改質する加熱条件(入熱量)に関する提案をしている。特許文献6にも、ケイ素鋼板の改質に関する具体的な記載は一切ない。
【0012】
特許文献7、8には、ロータコアのブリッジに改質部を設ける旨の記載がある。特許文献7は、レーザ照射(加熱)により電磁鋼板の透磁率を部分的に低下させているに過ぎない。特許文献8は、ケイ素鋼板(母材)と改質材(ニッケル、クロム等)とをレーザ溶融して、オーステナイト相からなる改質部を形成している。しかし、その改質部の組織構造や成分組成等に関する具体的な記載は特許文献8にない。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、ケイ素鋼板の一部に改質部を設けた新たな電磁鋼板等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は鋭意研究した結果、ケイ素鋼板の一部を溶融凝固させた改質部が特有な金属組織を有するとき、その改質部に生じ得る引け巣を抑止できることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0015】
《電磁鋼板》
(1)本発明は、溶融凝固してできた改質部を一部に有するケイ素鋼板であって、該改質部は、オーステナイト相と化合物相を含む金属組織を有し、該化合物相は、Bを含むB系化合物を含み、該B系化合物は、該オーステナイト相よりも低密度である電磁鋼板である。
【0016】
(2)本発明によれば、溶融凝固して形成される改質部が所定の金属組織からなるとき、改質部の形成時に処理される領域(改質域)に生じ得る引け巣等を抑止できる。その結果、改質部の形態自由度の拡大、改質域の設定自由度の拡大またはケイ素鋼板の歩留まり向上等を図ることが可能となる。なお、オーステナイト相に加えて、化合物相も非磁性であるとよい。
【0017】
なお、特に断らない限り、本明細書でいう「ケイ素鋼板」は、素材、基材または母材を意味し、その形態や、処理または加工の有無等を問わない。また「電磁鋼板」は、少なくとも一部が改質(処理)されたケイ素鋼板、または少なくとも一部に改質部を有するケイ素鋼板を意味する。このような電磁鋼板は、成形等の加工前の状態でも、その加工後の状態でもよい。なお、改質と加工の先後は問わない。
【0018】
《電磁鋼板の製造方法》
本発明は、電磁鋼板の製造方法としても把握できる。例えば、本発明は、ケイ素鋼板の特定領域上に配置した改質材へ高エネルギービームを照射して、該ケイ素鋼板の一部に改質部を形成する改質工程を備え、上述した電磁鋼板が得られる製造方法でもよい。
【0019】
《磁性部材と電磁機器》
(1)本発明は、電磁鋼板を用いた磁性部材や電磁機器としても把握される。例えば、本発明は、上述した改質部を一部に有するケイ素鋼板からなるコアシートでもよい。コアシートは、その形態を問わず、改質部が形成されたケイ素鋼板であれば、トリミング(例えば打抜き)等の加工前でも、その加工後(積層可能な形態)でもよい。
【0020】
(2)本発明は、電磁鋼板(コアシート等)を積層した部材や、それを用いた装置としても把握される。例えば、本発明は、複数の電磁鋼板を積層したコア(磁心)でもよい。コアは、例えば、電動機を構成するロータコアおよび/またはステータコアである。また本発明は、そのようなロータコアやステータコアと、永久磁石や電磁コイル(アーマチャ)とを組み合わせたロータやステータでもよい。このような一例として、ロータコアの磁石孔に永久磁石が埋め込まれた磁石内包型ロータ(例えばIPM用ロータ)がある。
【0021】
さらに本発明は、上述した電磁鋼板(コアシート)からなるロータおよび/またはステータを備えた電動機(発電機を含む)でもよい。
【0022】
《その他》
(1)本明細書でいう「非磁性」は、母材であるケイ素鋼板よりも磁化され難いこと(磁束を通し難いこと)を意味する。その具体的な程度は問わず、「弱磁性」または「低磁性」も含めて「非磁性」という。このような非磁性な領域(非磁性域)をケイ素鋼板の一部に形成することを、本明細書では「改質」または「非磁性化」という。
【0023】
非磁性に改質された領域(改質域)は、母材であるケイ素鋼板に対して、(初)透磁率の低下、飽和磁束密度の低下、磁気抵抗の増大等により判断される。改質部の一部には、フェライト相やマルテンサイト相等が含まれていてもよい。
【0024】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系(mm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】ロータコアシートとステータコアシートをケイ素鋼板から分取する一例を示す想定図である。
図1B】そのケイ素鋼板に施す改質工程例を示す模式図である。
図1C】他の改質域(改質部)を示す模式図である。
図2】実施例に係る改質工程を示す模式図である。
図3】その改質工程で得られた試料の表面観察写真である。
図4A】試料1のB系化合物を観察したTEM像とXRDの回折パターンである。
図4B】試料2のB系化合物を観察したTEM像とXRDの回折パターンである。
図4C】試料3のB系化合物を観察したTEM像とHAADF-STEM像である。
図5】シェフラーの状態図(組織図)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書中に記載した事項から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を上述した本発明の構成に付加し得る。方法に関する構成要素も物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0027】
《金属組織》
(1)改質部は、溶融後に凝固してできた金属組織からなる。この金属組織は、オーステナイト相と化合物相を含む。オーステナイト相は、例えば、初晶でもよいし、共晶の一部でもよい。化合物相は、例えば、共晶の一部でもよいし、そうでなくてもよい。
【0028】
晶出または析出する化合物相は、溶融時の鉄合金組成や改質工程等に応じて、種類や量が変化し得る。溶融凝固時の引け巣を抑止する観点からいうなら、オーステナイト相よりも低密度であるとよい。低密度な化合物相は、オーステナイト相が晶出するときに生じる凝固収縮量を補って、引け巣の発生またはその粗大化を抑止し得る。
【0029】
(2)このような化合物相として、例えば、B系化合物がある。B系化合物には、FeB、Cr 、CrB、CrB等がある。化合物相は、そのようなB系化合物の一種以上を含むとよい。これらB系化合物の密度(比重)は、例えば、FeB:7.33g/cm、Cr:6.46g/cm、CrB:6.58g/cm、CrB:6.07g/cm である。なお、オーステナイト相の密度は、その成分組成により異なるが、7.8~7.9g/cm程度である。
【0030】
B系化合物は、金属組織全体に対する体積割合で、例えば、1~45体積%(単に「%」という。)、2~40%、6~30%または15~25%含まれる。B系化合物が過少では、改質域に引け巣が生じ易くなる。B系化合物が過多になると、改質部の脆化や硬質化により、電磁鋼板の加工性や積層性等が低下し得る。
【0031】
B系化合物の体積割合は、例えば、次のようにして求められる。改質部から採取した試料の体積と質量を測定し、その密度(ρ)を求める。X線回折分析(XRD)、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、エネルギー分散型線分光分析(EDS、EDX)等により、試料に含まれるB系化合物の種類やオーステナイト相(母相)の種類を特定する。これにより、オーステナイト相の密度(ρa)とB系化合物の密度(ρb)が、既知のデータベースから求まる。あるB系化合物の体積割合をx(0<x<1)とすると、ρ=(1-x)ρa+xρbを解いて、そのB系化合物の体積割合(100x(%))が求まる。
【0032】
金属組織中に複数種の化合物が含まれる場合は次のように考えるとよい。例えば、上記のB系化合物に加えて2種目の化合物(別なB系化合物等)が含まれるときなら、その密度:ρc、その体積割合:y(0<y<1)として、ρ=(1-x-y)ρa+xρb+yρcと表現される。但し、変数の増加に伴い、別な測定が必要になる。
【0033】
そこで例えば、観察した断面組織に基づいて、初晶となるオーステナイト相と共晶の割合を測定する。断面組織は、金属顕微鏡やSEMにより観察される。さらに、SEM、EDS、EPMA、TEM、STEMなどの観察結果から、共晶中におけるオーステナイト相と複数種の化合物相との面積割合を測定する。各相の面積割合を体積割合へ換算すれば、実質的にx、yを求めることができる。その他、共晶組織にある複数種の化合物は、XRD、SAD分析、STEM像解析などで同定すれば、それらの密度も既知のデータベースから求まる。このような密度の特定により、一部の化合物相の面積割合の測定を回避(代替)することもできる。
【0034】
(3)改質部に含まれるB系化合物の具体的な態様(種類数、成分組成、形状等)は問わない。一例として、B系化合物は、例えば、少なくとも二種以上の化合物が交互に形成された複化合物を含む。複化合物を構成する化合物(「構成化合物」という。)は、例えば、FeB、CrB、FeCrB、Cr 、CrB等の二種以上である。交互に現れる各化合物の形態は粒状でも層状でもよい。層状な構成化合物が交互に出現する場合、複化合物は積層状となる。その具体例として、例えば、FeB層とCrB層が交互に積層された複化合物がある。顕微鏡写真から観察される各層の厚さは、例えば、1~20nm、2~10nmまたは3~5nmである。
【0035】
《ケイ素鋼板》
ケイ素鋼板は、ケイ素鋼からなる(薄)板材である。ケイ素鋼は、その全体に対してSiを1~7%、2~4%または2.5~3.5%を含む鉄合金である。本明細書でいう化学成分は、特に断らない限り、その対象全体に対する質量割合(質量%)であり、単に「%」で示す。
【0036】
軟磁性であるケイ素鋼は、通常、Siと残部であるFeおよび(不可避)不純物とからなるが、C、Mn、P、S、Ni、Al、Cr、Ca、Mg等の合金元素が含まれてもよい。それらの合計は、例えば、6%以下さらには3%以下であるとよい。なお、本明細書では、Cの有無を問わず、Siを含む鉄合金も「鋼」という。
【0037】
ケイ素鋼板の具体的な磁気特性(透磁率、飽和磁化等)、組織、厚さ等は、適宜選択され得る。代表的なケイ素鋼板は、例えば、bcc結晶構造(フェライト相)からなり、その厚さは、例えば、0.1~1.0mmさらには0.15~0.7mmである。薄過ぎると、積層数の増加(コスト増加)、改質部の強度低下、ビームの照射条件の狭小化等が生じ得る。厚過ぎると、鉄損の増加、改質工程による歪みの増加等が生じ得る。
【0038】
ケイ素鋼板は、無方向性でも方向性でもよい。電動機(発電機を含む/単に「モータ」という。)には、例えば、無方向性ケイ素鋼板が用いられる。変圧器(トランス)等には、例えば、方向性ケイ素鋼板が用いられる。ケイ素鋼板は、少なくとも一方の表面が絶縁被覆されていてもよい。改質工程後に絶縁被覆(絶縁膜形成)を行なうなら、改質工程前のケイ素鋼板における絶縁被覆は無くてもよい。
【0039】
《改質部》
(1)改質部は、ケイ素鋼を基材(母材、原料)とする鉄合金(適宜「改質合金」という。)からなる。その合金元素として、Siの他、B、Al等がある。その他、非磁性相となるオーステナイト相を安定的に生成させる合金元素が適量含まれてもよい。
【0040】
(2)合金元素の成分組成は、例えば、シェフラーの状態図(組織図)上でオーステナイト相を形成する領域に基づいて特定または調整され得る。シェフラーの状態図は、下記に示すCr当量(横軸)とNi当量(縦軸)を基軸として、鉄合金に現れる金属組織(F:フェライト相、A:オーステナイト相、M:マルテンサイト)を示している(図5参照)。
Ni当量(Nieq)=[Ni]+30[C]+0.5[Mn]
Cr当量(Creq)=[Cr]+[Mo]+1.5[Si]+0.5[Nb]
([X]は、鉄合金中に含まれる合金元素Xの含有量(質量%)を示す。)
【0041】
シェフラーの状態図に基づけば、下式(1)、(2)を共に満たす領域内(図5のハッチング域)にある成分組成の鉄合金は、主にオーステナイト相からなり、非磁性(弱磁性)を発現し得る。
1.33Creq+Nieq≧25.5 (1)
1.16Creq-Nieq≦8.6 (2)
【0042】
シェフラーの状態図からもわかるように、オーステナイト相の形成または安定化に寄与する合金元素として、例えば、Ni、Cr、Si、Mn、C、Mo、Nb等がある。ここでは、代表的なNi、Cr、Si、Mnについて、それらの組成範囲を例示する。各元素の化学成分は、改質合金全体に対する質量割合であり単に「%」で表記する。
【0043】
Niは、例えば、10~30%、13~27%、15~25%または17~23%含まれる。Crは、例えば、8~28%、13~24%、15~22%または17~20%含まれる。NiやCrが過少ではオーステナイト相が減少し、それらが過多では原料コストが増加する。
【0044】
Siは、例えば、1~5%、1.3~4%または1.5~3.0%含まれる。Siは、Cr当量式からわかるように、Crの代替となる。過多なSiは改質部を硬質化または脆化させる。Siの下限値は母材であるケイ素鋼板の化学組成に依存する。
【0045】
Mnは、例えば、20~60%、26~54%、30~50%または34~46%含まれる。Mnは、Ni当量式からわかるように、Niの代替となる。Mnは改質域の割れを抑制し得るが、過少ではその効果が乏しい。Mnは液相で蒸発しやすいため、過多なMnは改質部の成分が変動し易くなる。
【0046】
(3)Bは、引け巣や高温割れ(クラック)等が改質域で発生することを抑止し得る。Bは、改質合金全体に対して、例えば、0.1~3%、0.2~2%、0.3~1.5%または0.5~1.1%含まれる。Bが過少では上述した効果が乏しく、Bが過多では脆化、硬質化、原料コスト増加等を招く。
【0047】
改質合金は、さらにAlを適量含んでもよい。これにより改質域における欠陥(特に割れ)の発生をさらに抑止し得る。Alは、改質合金全体に対して、例えば、0.5~5%、1~4%、1.5~3.5%または2~3%含まれる。Alは過少では、その効果が乏しく、Alが過多では硬質化や非磁性の低下を招く。
【0048】
(4)改質合金の化学成分は、例えば、欠陥域を除いた改質域(改質部)の略中央付近から採取したサンプルを分析して特定される。Bは、例えば、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)により分析される。その他の元素は、例えば、エネルギー分散型分光装置(EDS)により分析される。改質部に含まれるオーステナイト相の有無または割合は、X線回折装置(XRD)または電子後方散乱回折装置(EBSD)により分析される。
【0049】
《改質工程》
改質工程は、例えば、ケイ素鋼板の特定領域上に配置した改質材へ高エネルギービーム(単に「ビーム」ともいう。)を照射してなされる。改質工程により、ケイ素鋼板の一部に、少なくともオーステナイト相を含む改質部が形成され得る。
【0050】
(1)改質材
改質材と母材であるケイ素鋼板とが溶融混合後に冷却凝固されて、上述した化学成分の改質合金ができる。改質材は、例えば、粉末、インク(ペースト、スラリー)、シート(フィルム)等として、ケイ素鋼板の特定領域に供給される。
【0051】
粉末は、例えば、擦切り等によりケイ素鋼板上に供給される。粉末の擦切りは、ケイ素鋼板上に載置した型枠やケイ素鋼板上に形成した窪み(凹部)等を利用してなされる。インク(スラリー)は、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等によりケイ素鋼板上に塗布される。シート(フィルム)は、例えば、予め所望形状に成形(型抜き等)された状態でケイ素鋼板上に貼着される。
【0052】
粉末のみからなる改質材(「改質粉末」という。)は、溶媒、分散媒、結合剤等を含まず、改質合金の成分組成を調整し易い。改質粉末は、単種でも複数種(混合粉末)でもよい。改質粉末を構成する原料粉末は、単元素粉末(Ni粉末、Cr粉末、B粉末、Al粉末、Mn粉末等)、合金粉末(NiCr系粉末、FeB系粉末、FeAl系粉末、FeMn系粉末等)、化合物(金属間化合物を含む)の粉末(FeB粉末、FeAl粉末等)等のいずれでもよい。
【0053】
改質材の成分組成や改質材のケイ素鋼板上への供給量は、改質合金の所望組成およびケイ素鋼板(母材)の化学組成と板厚を考慮して調整される。なお、ケイ素鋼板上に改質粉末を層状に形成する場合、その厚さ(高さ)は、例えば、0.1~1.4mm、0.2~1.0mmまたは0.3~0.8mm程度とするとよい。その厚さが過小でも過大でも、改質合金の非磁性化が低下し得る。ちなみに、ケイ素鋼板の板厚は、通常、0.15~0.7mm程度である。
【0054】
(2)高エネルギービーム
高エネルギービームは、例えば、エネルギー密度(フルエンス)が大きいレーザや電子ビームである。レーザは、種類(増幅媒質、励起源、光共振器等)、出力、エネルギー密度、照射エリア、オーバーラップ率等が適宜、選択・調整される。レーザは、連続波レーザでもパルスレーザでもよい。レーザの一例として、増幅媒質に光ファイバー(例えば、コアに希土類元素をドープしたダブルクラッドファイバー)を用いたファイバーレーザ(固体レーザの一種)がある。ファイバーレーザは、例えば、半導体レーザ(LD)を励起源として、入射側の光反射ミラーと出力側の低反射ミラーとを光共振器として備える。
【0055】
ビームの照射範囲や照射軌跡は、所望する改質部の形態に応じて調整され得る。必ずしも、ケイ素鋼板上に配置した改質材全体を溶融させなくてもよい。残存した改質材は、ビーム照射後に除去されてもよい。
【0056】
《他工程》
(1)ビームの照射痕(適宜「ビード」という。)が、ケイ素鋼板の基面(非改質表面)から盛り上がっているとき、それを基面以下(平坦状態でも、さらに窪んだ状態でもよい。)にする整形工程を行なってもよい。整形工程は、改質工程の直後になされてもよいし、後述する積層工程の際に併せてなされてもよい。整形工程は、ビーム照射により生じたケイ素鋼板の熱歪み等の除去を兼ねてもよい。
【0057】
(2)ビーム照射された表面付近は絶縁処理がなされてもよい。絶縁処理は、例えば、絶縁樹脂塗布、化成処理(例えばリン酸塩処理)等である。絶縁処理工程は、積層時の対面間に絶縁空間を形成する加工工程でもよい。加工工程は、上述した整形工程を兼ねてもよい。
【0058】
(3)ケイ素鋼板から所望形状の電磁鋼板(シート)を得る成形工程と改質工程の前後関係は問わない。改質工程後に、成形工程がなされると効率的である。成形工程は、例えば、プレスによる打抜き加工、レーザ等による切断(分割、分断等)加工などの分離工程(トリミング)である。成形工程と上述した整形工程および/または絶縁処理工程との前後関係も問わない。成形工程後に仕上処理等がなされてもよい。ビーム照射の始点や終点は、ケイ素鋼板と改質材の溶融混合が不安定となるため、ケイ素鋼板の除去域に配置されるとよい。
【0059】
(4)改質部を有し所望形状に成形されたケイ素鋼板(電磁鋼板)は、積み重ねられて積層体となる(積層工程)。複数の電磁鋼板の固定は、プレス加工等によるかしめ、溶接、接着等によりなされる。積層体は、寸法精度を確保するために、仕上加工等が別途なされてもよい。
【0060】
《具体例》
(1)電磁鋼板の用途例としてコアシートがある。コアシートは、例えば、電動機(発電機を含む。)のロータコアシートやステータコアシートである。ロータコアシートの積層体がロータコアとなり、ステータコアシートの積層体がステータコアとなる。
【0061】
(2)一枚のケイ素鋼板または電磁鋼板から、ロータコアシートとステータコアシートを分取すると、ケイ素鋼板の歩留まり向上が図れる。このような具体例について以下説明する。
【0062】
図1Aに示すように、1枚のケイ素鋼板Mから、ロータコアシート1とステータコアシート2を打抜く場合を考える。ロータコアシート1とステータコアシート2は、磁石埋込型同期機(「IPMモータ」という。)のロータコア(積層体/図略)とステータコア(積層体/図略)の製造に用いられる。説明の便宜上、適宜、ケイ素鋼板Mの打抜き前の各部(二点鎖線で示す仮想部分)とケイ素鋼板Mの打抜き後の各部(実線で示す実部分)には、各図において同符号を付した。なお、図1Aの全体図は、表示の都合上、仮想部分も実線になっている。
【0063】
ロータコアシート1は8磁極用である。A部拡大図に示すように、その1磁極あたり、ボンド磁石を一体成形する略U文字状のスロット101、102と、それらの外周端側にブリッジ111、112(連結部)との形成が予定されている。スロット101、102(スロット域)と軸穴10は打抜き(トリミング)により除去され得る領域(除去予定域)であり、ブリッジ111、112(ブリッジ域)は打抜き(トリミング)後も残存し得る領域(残存予定域)である。改質工程は打抜き前のブリッジ域を含む領域(改質域)に施される。打抜き後にできる各ブリッジ(111、112等)の全域またはその一部が改質部とされる。打抜き後にできる改質部は、通常、改質域の一部である。
【0064】
ステータコアシート2は48極用である。その1極あたり、櫛歯状のティース211、212と、それらの両側にあるスロット201、202、203との形成が予定されている。打抜き前のスロット201、202、203(スロット域)は除去予定域、ティース211、212(ティース域)とヨーク21は残存予定域となる。便宜上、ロータコアシート1やステータコアシート2の各部に関する説明は、適宜抽出した一部のみについて行い、周方向に繰返し現れる他部の説明は省略した。
【0065】
(3)打抜き前のケイ素鋼板Mに対して、ブリッジ111、112となる予定域の一部を非磁性化する改質工程の概要を図1Bに示した。先ず、その予定域およびその周辺に改質材311、312を設ける(工程I)。改質材311、312は、例えば、CrNi合金粉とFeB粉末の混合粉末を擦切りして形成した粉末層である。
【0066】
改質材311、312上からビーム照射する。ビーム照射は、ロータ側のスロット101、102となる予定域にある始点p0から、ステータ側のスロット201、202、203となる予定域付近にある終点p1まで、ブリッジ111、112となる予定域を通過する軌跡t(特定軌跡)に沿って、ビーム中心を走査させる(工程II)。これにより、ビーム照射域には、ケイ素鋼板Mと改質材311、312が溶融混合および冷却凝固してできたビードb(ビーム照射痕/改質域)が形成される。
【0067】
ここで、ビーム照射の軌跡tは、ブリッジ111、112を略半径方向に貫くビードbが少なくとも一つできるように設定した。また、ブリッジ111、112にできるビードbが、打抜き時の隙間cを越えてステータコアシート2側に及ばないように、その軌跡tを設定した。なお、ビーム照射は、ケイ素鋼板Mの両面側(表面側と裏面側)から行ってもよい。もっとも、ケイ素鋼板Mの一面側からビーム照射を行うだけでも、ケイ素鋼板Mの一面側から他面側に到るビード(厚さ方向に貫通したビード)が形成され得る。
【0068】
その後、余分な改質材311、312を除去したケイ素鋼板M(電磁鋼板)を、所定形状の金型で打抜き加工する(工程III)。これにより、ブリッジ111、112の一部に非磁性な改質部121、122を有するロータコアシート1が、ステータコアシート2と共に得られる。打抜き加工時、ビーム照射の始点p0や終点p1の付近にできた欠陥部(引け巣、割れ、未溶解部等)は、スロット101、102等の形成と共に除去され得る。引け巣や割れ等を抑止して欠陥部を小さくできる程、改質部の形態自由度や改質域の設定自由度を拡大でき、またケイ素鋼板の歩留まりの向上等を図れる。
【0069】
(4)ロータコアシート1のスロット101が、左右に2分割されたスロット1011、1012からなる場合を図1Cに拡大して示した。このとき、スロット1011、1012の外周端域にあるブリッジ1111、1112には、上述したように、改質工程によって非磁性な改質部1211、1212が形成される。この他、スロット1011とスロット1012の間(非外周端域)にできるブリッジ1113にも改質部1213が形成されてもよい。
【0070】
ちなみに、ビーム照射の軌跡は、例えば、マクロ的に観て直線状の経路でも、ミクロ的に観ればジグザグ状の経路であってもよい。
【実施例0071】
ケイ素鋼板上に配置した改質材(粉末層)へレーザ照射を行なった。得られた試料の改質域を観察および分析した。このような具体例を示しつつ本発明をさらに詳しく説明する。
【0072】
《試料の製作》
(1)母材
母材にはケイ素鋼板(Fe-3.1%Si-2.5%Ni/厚さ:0.5mm/日本製鉄株式会社製)を用いた。
【0073】
(2)改質材
原料粉末として、Cr-50%Ni合金粉(日本ウェルデング・ロッド株式会社製ウェルパウダー)、Fe―16%B粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用意した。これら原料粉末を改質域の所望組成に応じて配合・混合した粉末(「改質粉末」という。)を改質材に供した。
【0074】
(3)改質材の配置
図2に示すように、長方形状の貫通孔(幅3mm×長さ10mm)を有する平板状の枠板(厚さ:0.4~0.8mm)をケイ素鋼板上に載置した。その貫通孔へ改質粉末を充填し、余分な粉末を擦切った。こうしてケイ素鋼板上に粉末層(改質材)を形成した。なお、改質部の所望組成に応じて、枠板の厚さを適宜変更し、粉末層の厚さ(h)を調整した。
【0075】
(4)レーザ照射
図2に示すように、枠板を除いた粉末層(改質材)上へレーザを照射した。レーザには、シングルタイプのファイバーレーザ(レーザ発信機:株式会社IPG製YLS-2000-SM、ファイバーコア径:24μm、光学系:株式会社安川電機製3Dガルバノスキャナ、集光径:36μm)を用いた。
【0076】
レーザの照射軌跡は、ジグザグ状に左右へミクロ的に振幅させつつ、マクロ的に観れば矢印方向へ直線状に移動させた。その左右への振幅幅は±1.5mm、直線状の移動速度(照射速度)は11mm/sとした。レーザ出力は340Wとし、Arフロー条件下でレーザ照射を行った。改質域の冷却を待ってから、ケイ素鋼板上に残存した粉末を除去した。こうして表1に示す各試料を得た。
【0077】
《観察と分析》
(1)表面観察
試料の改質域を表面観察した写真を図3にまとめて示した。
【0078】
改質域に現れた引け巣のサイズ(単に「引け巣径」という。)は、ワンショット3D形状測定機(株式会社キーエンス製VR-5000)の円測定ソフトウェアを用いて測定した。
【0079】
(2)金属組織
試料の改質域から欠陥(引け巣、割れ等)がない部分(改質部)を選択して、その略中央付近の金属組織を観察した。
【0080】
試料1と試料2を透過型電子顕微鏡(TEM/日本電子株式会社製JEM-ARM200F)で観察して得られた明視野像をそれぞれ図4A図4Bに示した。各TEM像に現れた化合物相の結晶構造を、TEMに付帯している制限視野回折装置(SAD)で分析した。試料1と試料2に係るSAD回折パターンをそれぞれ図4A図4Bに併せて示した。
【0081】
試料1と試料2を金属顕微鏡で観察したミクロ組織から、初晶オーステナイト相と共晶が確認された。初晶オーステナイト相はデンドライト状であり、共晶はオーステナイト相と化合物相で構成されていた。上述したTEM像は、共晶中の化合物相を示している。
【0082】
試料3も、試料1および試料2と同様な共晶組織であった。試料3の共晶中のB系化合物相の一部(TEM像に示す矢印の先端部)をさらに、走査透過電子顕微鏡(STEM/日本電子株式会社製JEM-AEM200F)で観察して得られた高角度散乱暗視野(HAADF:high angle annular dark field)像を図4Cに示した。そのHAADF-STEM像からわかるように、複数種のB系化合物(FeBとCrB)が層状に交互配置された積層構造を有する複化合物の存在が明らかになった。
【0083】
(3)成分分析
試料の改質域から欠陥(引け巣、割れ等)がない部分(改質部)を選択して、その略中央付近の化学成分を分析した。その結果を表1に併せて示した。元素記号の前に付した数値が、分析部分(改質部)の全体に対する質量%を示す。
【0084】
成分分析は次のように行なった。BはEPMA(株式会社島津製作所製EPMA-8050G)により分析した。その他の元素は、EDS(Oxford Instruments社製X-MAXN)により分析される。それぞれの具体的な分析条件は次の通りである。欠陥がない改質域から切り出した分析部分(改質部)を樹脂埋め後に断面を研磨した分析用の試料(φ25mm)を製作した。Bは、その試料中央面(100μm×100μm)でEPMAによりマップ分析を行った。他の成分は、その試料中央面(1000μm×300μm)で、EDS(電圧:15kV、電流:12A)によりマップ分析を行った。その試料中にオーステナイト相が含まれることはXRDにより確認した。
【0085】
《解析》
上述した成分分析により、オーステナイト相と化合物相の各組成を特定した。この結果に基づいて、オーステナイト相の密度(ρa)と化合物相の密度(ρb、ρc)を、既存の結晶構造データベースから引用して確定した。また、改質域から採取した試料(改質部)の密度(ρ)は、予めアルキメデス法により求めておいた。これらから、化合物相の含有量(体積%)を算出した。化合物相の種類(組成)とその含有量を表1に併せて示した。なお、試料4は、全体がオーステナイト相となっており、化合物相(共晶)は観られなかった。
【0086】
《評価》
表1、図4A図4Cから明らかなように、オーステナイト相中にB系化合物からなる化合物相が分散している金属組織が形成される場合、改質域に引け巣が殆ど観られなかった。オーステナイト相の晶出時に生じる凝固収縮が、それよりも低密度なB系化合物により補われたためと考えられる。また、そのB系化合物は、単種に限らず、複数種(複化合物)になり得ることもわかった。さらに複化合物は、層状となり得ることもわかった。
【0087】
以上から、本発明によれば、改質域に現れる欠陥を縮小さらには消失させれることが確認された。これにより、改質部の形成自由度の拡大、ケイ素鋼板の有効活用または改質工程の効率化等を図りつつ、改質部を有する電磁鋼板を製造できることが明らかとなった。
【0088】
なお、通常、本発明に係る構成の特定(有無)は、一般的な分析対象である微小領域(μm単位で規定される領域)において、改質部を分析や解析して判断されれば足り得る。超極小領域(nm単位で規定される領域/例えば10nm×10nmまたは5nm×5nm)における改質部の観察や分析等は、適宜、必要な範囲でなされれば足る。
【0089】
【表1】
【符号の説明】
【0090】
M ケイ素鋼板
1 ロータコアシート
2 ステータコアシート
101 スロット
111 ブリッジ
121 改質部
311 改質材
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5