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特開2024-117750ゲルマニウム半導体装置及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117750
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】ゲルマニウム半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021200
(22)【出願日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2023023409
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】中井 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】ムハマド ファイズ ビン アミン
【テーマコード(参考)】
5F149
【Fターム(参考)】
5F149AA04
5F149AB03
5F149BA28
5F149CB14
5F149FA05
5F149FA13
5F149GA04
5F149GA12
5F149GA17
5F149XB15
5F149XB37
(57)【要約】
【課題】内部に空洞がなく、表面が平坦で貫通転位密度が低いGe単結晶層を有するゲルマニウム半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によるゲルマニウム半導体装置1は、{100}面方位を有し、主面に{111}面が露出した凹部が形成されたSi基板10と、凹部の内部を含むSi基板10の主面に形成されたGe単結晶層20とを備える。凹部は、平面視で線状に形成された複数本のV溝11、或いはナノスケールのランダムな凹凸面からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
{100}面方位を有し、主面に{111}面が露出した凹部が形成されたSi基板と、
前記凹部の内部を含む前記Si基板の前記主面に形成されたGe単結晶層とを備えることを特徴とするゲルマニウム半導体装置。
【請求項2】
前記凹部は、平面視で線状に形成された複数本のV溝からなるV溝アレイである、請求項1に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項3】
前記V溝アレイは、前記V溝が面内の一方向に形成された一次元V溝アレイである、請求項2に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項4】
前記V溝アレイは、前記V溝が面内の二方向に形成された二次元V溝アレイである、請求項2に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項5】
前記V溝の幅は0.5μm以下であり、
前記Ge単結晶層の貫通転位密度は6×10cm-2以下である、請求項2に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項6】
前記V溝アレイのスペース幅は1.5μm未満である、請求項5に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項7】
前記V溝の幅に対する前記V溝アレイのスペース幅の比は3未満である、請求項5に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項8】
前記Si基板の前記主面は、前記凹部を含むナノスケールのランダムな凹凸面である、請求項1に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項9】
前記Ge単結晶層の上面に形成されたSi層と、前記Si層の上面に形成された第1電極層と、前記Si基板の裏面に形成された第2電極層とを備え、
前記Si層は前記Si基板と逆の導電型を有し、前記Si基板、前記Ge単結晶層、及び前記Si層は縦型pin接合を構成している、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項10】
前記Si基板はp型半導体であり、前記Si層はn型半導体である、請求項9に記載のゲルマニウム半導体装置。
【請求項11】
{100}面方位を有するSi基板の主面をアルカリエッチングすることにより{111}面が露出した凹部を形成する工程と、
前記凹部の内部を含む前記Si基板の前記主面にGe単結晶層を化学気相成長により形成する工程とを備えることを特徴とするゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記凹部は、平面視で線状に形成された複数本のV溝からなるV溝アレイである、請求項11に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記V溝アレイは、前記V溝が面内の一方向に形成された一次元V溝アレイである、請求項12に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記V溝アレイは、前記V溝が面内の二方向に形成された二次元V溝アレイである、請求項12に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記V溝の幅は0.5μm以下である、請求項12に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記V溝アレイのスペース幅は1.5μm未満である、請求項15に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記V溝の幅に対する前記V溝アレイのスペース幅の比は3未満である、請求項15に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記凹部を形成する工程は、TMAHを用いたウェットエッチングにより前記Si基板の前記主面にナノスケールのランダムな凹凸面を形成する、請求項11に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項19】
前記Ge単結晶層の上面にSi層を形成する工程と、
前記Si層の上面及び前記Si基板の裏面に第1電極層及び第2電極層をそれぞれ形成する工程とをさらに備え、
前記Si層は前記Si基板と逆の導電型を有し、前記Si基板、前記Ge単結晶層、及び前記Si層は縦型pin接合を構成している、請求項11乃至18のいずれか一項に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【請求項20】
前記Si基板はp型半導体であり、前記Si層はn型半導体である、請求項19に記載のゲルマニウム半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウム半導体装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光半導体デバイスとしてGe(ゲルマニウム)を利用した光デバイスの開発が進んでいる。シリコンフォトニクスの基本光部品は、Si(シリコン)系光導波路とGe受光器であり、これらを同一基板上にモノリシック集積させた小型光モジュールは通信システムに応用されている。
【0003】
Ge受光器の基礎材料であるGe単結晶膜の製造方法に関し、例えば特許文献1には、サブミクロン幅のSiOマスクが繰り返されたSi基板の表面にGeのエピタキシャル成長を行う方法が記載されている。図14に示すように、SiOマスク31が繰り返されたSi基板30の表面にGeのエピタキシャル成長を行うと、Si基板30の露出面からGeが選択的に成長する。結晶成長を継続すると、SiOマスク31上に空洞33を残してGeが横方向に成長し、隣接したGe選択成長層と一体化して連続膜が形成される。この手法を用いると、Si基板30上に貫通転位密度を低減させたGe単結晶膜32を熱処理なく形成できる。
【0004】
また特許文献2には、シリコンウェーハの表層部を加工してサブミクロン幅のSi細線アレイを形成し、Si細線アレイ上にGe単結晶膜15を化学気相成長法によりエピタキシャル成長させる方法が記載されている。シリコンウェーハとしては、例えば、Si支持基板上に絶縁層を介して上部Si層が形成されたSOIウェーハを用いることができ、Si細線アレイは上部Si層に形成される。隣接するSi細線パターン間には空洞が形成されるが、Geの結晶成長を継続すると、横方向のエピタキシャル成長により表面が平坦な連続膜が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-98493号公報
【特許文献2】特開2022-165087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Ge単結晶膜中に形成される空洞は、デバイスプロセスやデバイス性能の向上の妨げとなる場合がある。特に、特許文献1の方法においてGeを連続膜にし、かつ表面を平坦にするには、1.5μm程度の膜厚が必要である。またSiOマスクのない通常のSi基板上へのGe成長と比較して、膜厚が薄くなるため、通常成長に換算して2μm以上のGe膜が必要となる。Geの典型的な結晶成長速度は10nm/minであるため、2μm以上のGe膜を形成するためには4時間以上の結晶成長時間が必要である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、内部に空洞がなく、表面が平坦で貫通転位密度が低いGe単結晶層を有するゲルマニウム半導体装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明によるゲルマニウム半導体装置は、{100}面方位を有し、主面に{111}面が露出した凹部が形成されたSi基板と、前記凹部の内部を含む前記Si基板の前記主面に形成されたGe単結晶層とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、内部に空洞がなく、表面が平坦で貫通転位密度が低いGe単結晶層を有する高品質なゲルマニウム半導体装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明によるゲルマニウム半導体装置の製造方法は、{100}面方位を有するSi基板の主面をアルカリエッチングすることにより{111}面が露出した凹部を形成する工程と、前記凹部の内部を含む前記Si基板の前記主面にGe単結晶層を化学気相成長により形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、内部に空洞がなく、表面が平坦で貫通転位密度が低いGe単結晶層を追加の熱処理なしで形成することができ、高品質なゲルマニウム半導体装置の製造効率を高めることができる。
【0012】
本発明において、前記凹部は、平面視で線状に形成された複数本のV溝からなるV溝アレイであることが好ましい。前記V溝アレイは、面内の一方向に形成された一次元V溝アレイであってもよく、面内の二方向に形成された二次元V溝アレイであってもよい。
【0013】
本発明において、前記V溝の幅は0.5μm以下であることが好ましい。これにより、Ge単結晶層の貫通転位密度を6×10cm-2以下に低減できる。
【0014】
本発明において、前記V溝間のスペース幅は1.5μm未満であることが好ましい。あるいは、前記V溝の幅に対する前記V溝間のスペース幅の比は3未満であってもよい。これにより、Ge単結晶層の貫通転位密度の低減とGe単結晶層の表面の平坦化を図ることができる。
【0015】
本発明において、前記Si基板の前記主面は、前記凹部を含むナノスケールのランダムな凹凸面であってもよい。これにより、内部に空洞がなく、表面が平坦で貫通転位密度が低いGe単結晶層を有する高品質なゲルマニウム半導体装置を提供することができる。また上記のようにV溝アレイを形成することなく高品質なGe単結晶層を形成することができる。前記凹部を含むナノスケールのランダムな凹凸面は、TMAHを用いたウェットエッチングにより形成することが好ましい。
【0016】
本発明によるゲルマニウム半導体装置は、前記Ge単結晶層の上面に形成されたSi層と、前記Si層の上面に形成された第1電極層と、前記Si基板の裏面に形成された第2電極層とを備え、前記Si層は前記Si基板と逆の導電型を有し、前記Si基板、前記Ge単結晶層、及び前記Si層は縦型pin接合を構成していてもよい。この場合において、前記Si基板はp型半導体であり、前記Si層はn型半導体であり、前記Ge単結晶層は真性半導体であることが好ましい。本発明によれば、ゲルマニウム半導体装置を受光器として応用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内部に空洞がなく、表面が平坦で貫通転位密度が低いGe単結晶層を有するゲルマニウム半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す図であって、(a)は略平面図、(b)は(a)のX-X線に沿った略断面図である。
図2図2は、ゲルマニウム半導体装置の製造方法を示す模式図である。
図3図3は、本発明の第2の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す略平面図である。
図4図4は、本発明の第3の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す略平面図である。
図5図5は、本発明の第4の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す図であって、(a)は略断面図、(b)は略平面図である。
図6図6は、ゲルマニウム半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
図7図7は、実施例1~3及び比較例1によるGe単結晶膜の断面のSEM画像である。
図8図8は、実施例1によるGe単結晶膜の断面のTEM画像である。
図9図9は、実施例1~3及び比較例1によるGe単結晶膜の断面のTEM画像である。
図10図10は、実施例及び比較例による受光器(pinフォトダイオード)の電流-電圧特性を示すグラフであって、特に受光サイズが20μm角、30μm角、40μm角、50μm角の場合を示している。
図11図11は、実施例及び比較例による受光器(pinフォトダイオード)の電流-電圧特性を示すグラフであって、特に受光サイズが100μm角、200μm角、300μm角、500μm角の場合を示している。
図12図12は、実施例及び比較例による受光器(pinフォトダイオード)の入力電圧が-1V(逆バイアス)のときの暗電流の大きさを示すグラフであって、横軸は受光サイズ(μm)、縦軸は電流値(A)をそれぞれ示している。
図13図13(a)及び(b)は、実施例及び比較例による受光器(pinフォトダイオード)の電流-電圧特性を示すグラフであって、(a)は実施例、(b)は比較例をそれぞれ示している。
図14図14は、従来のGe単結晶膜の製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す図であって、(a)は略平面図、(b)は(a)のX-X線に沿った略断面図である。
【0021】
図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態によるゲルマニウム半導体装置1は、(001)面又はこれと等価な結晶面を主面10aとするSi基板10と、Si基板10の主面10aに形成されたGe単結晶層20とを備えている。Si基板10の(001)面と等価な結晶面は、一般的に{100}面と表記される。
【0022】
Si基板10は例えばn型Si単結晶基板であり、Si基板10の主面10aには細線状の凹部からなるV溝アレイ11Aが形成されている。V溝アレイ11Aは面内の[110]方向と平行に形成された複数本のV溝11の一次元アレイであり、V溝11の内壁面は{111}面方位(右側が(-111)面、左側が(1-11)面)を有し、約55度の傾斜面を構成している。
【0023】
V溝11の長さLはできるだけ長いことが好ましい。これによりGe単結晶層20の面積をできるだけ広くしてGe受光器の受光面積を稼ぐことができる。
【0024】
V溝11の幅Wtは0.5μm以下であることが好ましい。V溝11の幅Wtを0.5μm以下とすることにより、Ge結晶成長時に発生する転位をV溝11内に閉じ込めることができ、Ge単結晶層20の貫通転位密度を6×10cm-2以下に低減することができる。
【0025】
隣接する2本のV溝11,11の間隔、すなわちV溝アレイ11Aのスペース幅Wsは1.5μm未満であり、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下が特に好ましい。V溝アレイ11Aのスペース幅Wsを1.0μm以下にすることで、Ge単結晶層20の貫通転位密度の低減とGe単結晶層20の表面20aの平坦化を図ることができる。
【0026】
Ge単結晶層20は、V溝11の内部を含むSi基板10の主面10aに形成されている。Si基板10の主面10aを基準としたGe単結晶層20の厚さtは500nm以上が好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
【0027】
図2は、ゲルマニウム半導体装置の製造方法を示す模式図である。
【0028】
図2に示すように、ゲルマニウム半導体装置1の製造では、(001)面方位を有するSi基板10の主面10aにシリコン酸化膜13を形成する(図2(a))。シリコン酸化膜13の厚さは例えば100nm程度であり、熱酸化法又は化学気相成長法により形成することができる。
【0029】
次に、シリコン酸化膜13を加工してサブミクロン幅の細線アレイのネガパターンを形成する(図2(b))。シリコン酸化膜13のパターニングはフォトリソグラフィ及びドライエッチングにより行うことができる。細線アレイは、Si基板10の[110]方向(Y方向)に延在する細線パターンが[-110]方向(X方向)に周期的に形成されたものである。
【0030】
次に、シリコン酸化膜13をマスク(SiOマスク)とするSi基板10の主面10aをアルカリエッチングすることによりV溝アレイ11Aを形成する(図2(c))。Si基板10の主面10aをアルカリエッチングすると、エッチングレートの違いにより、エッチング面にはエッチングレートが遅い{111}面(右側が(-111)面、左側が(1-11)面)が現れる。こうしてSiOマスクに覆われていないSi基板10の露出部分を選択的に除去することにより、断面視でV字状の溝が形成され、V溝11の内壁面は{111}面(右側が(-111)面、左側が(1-11)面)からなる傾斜面となる。
【0031】
その後、シリコン酸化膜13のマスクパターンをHF溶液により除去した後、V溝アレイ11Aが形成されたSi基板10の主面10aにGe単結晶層20(Ge単結晶膜)を化学気相成長法により形成する(図2(d))。Geの化学気相成長は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成することが好ましく、結晶成長温度(基板温度)は600~700℃であることが好ましい。
【0032】
Si基板10の主面10aにGeをエピタキシャル成長させると、Geは主面10aのみならずV溝アレイ11Aの内部でも成長し、V溝アレイ11A内にはGeが埋め込まれる。Geのエピタキシャル成長はSi基板10の主面10aのみならずV溝11の内面({111}面)からも進行するため、V溝11内に空洞は形成されない。また、Ge単結晶層20中にはSiとGeとの間の4%の格子不整合により転位が発生するが、V溝領域に転位が集中する結果、Ge単結晶層20の表面20aまで貫通する転位(貫通転位)の密度を追加の熱処理なしで低減でき、Geエピタキシャル層を高品質化することができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によるゲルマニウム半導体装置1は、(001)面方位を有し、主面10aに一次元のV溝アレイ11Aが形成されたSi基板10と、V溝アレイ11Aの内部を含むSi基板10の主面10aに形成されたGe単結晶層20とを備え、Ge単結晶層20はSi基板10の主面10aの上方のみならずV溝11の内部にも埋め込まれているので、内部に空洞がなく且つ表面が平坦なGe単結晶層20を形成することができる。また、Ge単結晶層20中の転位がV溝領域に閉じ込められるため、貫通転位密度が低いGe単結晶層20を有するゲルマニウム半導体装置1を提供することができる。
【0034】
図3は、本発明の第2の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す略平面図である。
【0035】
図3に示すように、本実施形態によるゲルマニウム半導体装置1の特徴は、V溝アレイ11Aが平面視でY方向のみならずX方向にも形成されている点にある。すなわち、Si基板10の主面には、V溝11の二次元アレイが形成されている。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。図3のX-X線及びY-Y線に沿った略断面図は、図1(b)のようになる。
【0036】
このように、本実施形態によるゲルマニウム半導体装置1は、(001)面方位を有し、主面10aに二次元のV溝アレイ11Aが形成されたSi基板10と、V溝アレイ11Aの内部を含むSi基板10の主面10aに形成されたGe単結晶層20とを備え、Ge単結晶層20はSi基板10の主面10aの上方のみならずV溝11の内部にも埋め込まれているので、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。すなわち、表面が平坦なGe単結晶層20を形成することができる。また、Ge単結晶層20の貫通転位密度を熱処理なしで低減でき、Geエピタキシャル層を高品質化することができる。
【0037】
上記実施形態においては、Si基板10の主面10aに一次元又は二次元のV溝アレイ11Aを形成し、V溝アレイ11A内に転位を閉じ込めることでGe単結晶層20の貫通転位密度の低減を図っているが、本発明はV溝を形成する場合に限定されず、例えば任意の形状の多数の凹部を形成することも可能である。例えば、Si基板10の主面全体をアルカリエッチングすると、Si基板10の主面10aが荒れてエッチングレートが遅い{111}面が露出し、多数の逆四角錘状の凹部(エッチピット)がランダムに形成される。上記のように、このような凹部が形成されたSi基板10の主面10aにGe単結晶層20を形成した場合、Geは凹部の内部にも埋め込まれ、凹部内に転位が集中するので、Ge単結晶層20の貫通転位密度の低減が可能である。
【0038】
図4は、本発明の第3の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す略断面図である。
【0039】
図4に示すように、本実施形態によるゲルマニウム半導体装置1の特徴は、Si基板10の主面10aがナノスケールのランダムな凹凸面12からなる点にある。凹凸面12の表面粗さ(Rms値)は0.5~50nmが好ましい。ナノスケールのランダムな凹凸面12は、例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)を用いたウェットエッチングにより形成することができる。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。本実施形態によれば、V溝アレイを形成した第1の実施の形態と同様、Si基板10上に貫通転位密度が低いGe単結晶層20を形成することができる。また第1の実施の形態と異なり、フォトリソグラフィプロセスが不要であるため、製造面でも有利である。
【0040】
Ge単結晶層20が形成されたシリコンウェーハを用いて光デバイスを作製する場合、Ge単結晶層20は光導波路に接続された光源、光変調器、受光器等の光デバイスとして加工される。例えば受光器は、Ge単結晶層をパターニングした後、pn接合(又はpin接合)を形成することにより実現できる。
【0041】
図5は、本発明の第4の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の構成を示す図であって、(a)は略断面図、(b)は略平面図である。
【0042】
図5(a)及び(b)に示すように、本実施形態によるゲルマニウム半導体装置1は上述した第3の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置を受光器として構成したものであって、p型Si基板10と、Ge単結晶層20と、Ge単結晶層20の上面に形成されたSiキャップ層21及びn型Si層22と、Siキャップ層21を覆うSiO絶縁層23と、n型Si層22に接続された第1電極層24と、p型Si基板10の裏面に形成された第2電極層25とを備えている。なお、図5(a)のp+およびn+の表記はp型ドーパントおよびn型ドーパントの濃度が高いことを示している。
【0043】
第1電極層24は、Siキャップ層21の上面に形成されたTi層24aと、Ti層24aを覆うAl層24bの二層構造が好ましく、Ti層24aの一部はn型Si層22に接続されている。n型Si層22の大部分はSiO絶縁層23や第1電極層24に覆われることなく露出しており、自由空間を伝搬する光を受光する受光部を構成している。第2電極層25は、第1電極層24と同様、Si基板10の裏面に形成されたTi層25aと、Ti層25aを覆うAl層25bの二層構造が好ましい。以上の構成により、p型Si基板10、Ge単結晶層20及びn型Si層22は、p層、i層及びn層をそれぞれ構成しており、これにより縦型pin接合フォトダイオードが形成されている。なお、n型Si層22の上部の露出部に光源波長の1/4n(n:屈折率)に相当する厚さのSiO層を形成して反射防止膜としてもよい。
【0044】
図6は、図5に示した第4の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【0045】
図6に示すように、受光器としてのゲルマニウム半導体装置1の製造では、p型Si基板10の主面10aをアルカリエッチングにより粗面化してナノスケールのランダムな凹凸面12を形成する(ステップS1)。エッチング液にはTMAHを用いることが好ましい。また、エッチング温度は50~70℃、エッチング時間は10~60秒とすることができる。
【0046】
次に、Ge単結晶層20及びSiキャップ層21をUHV-CVD法により順に形成する(ステップS2)。Ge単結晶層20の厚さは500nm以上が好ましく、1μm以上がさらに好ましい。Ge単結晶層20はナノスケールの凹部内にも埋め込められ、上面が平坦なGe層が形成される。Siキャップ層21の厚さは20~200nmが好ましく、50~150nmがさらに好ましい。Ge結晶中や界面の結晶欠陥を低減するため、800℃のN雰囲気中でGe単結晶層20をアニールすることが好ましい。Siキャップ層21はGe単結晶層20を保護する役割を果たす。
【0047】
次いで、Siキャップ層21の全面にSiO絶縁層23をCVD法により形成した後、フォトリソグラフィ及びドライエッチングによりSiO絶縁層23の一部を除去してSiキャップ層21を露出させる(ステップS3、S4)。その後、SiO絶縁層23をマスクとしてSiキャップ層21にイオン注入することによりn型Si層22を形成する(ステップS5)。さらに、SPM及びドーパント活性化熱処理を行う。
【0048】
次に、Si基板10の主面10a側の全面にTi層24a及びAl層24bからなる第1電極層24をスパッタリングにより形成した後、フォトリソグラフィ及びエッチングにより第1電極層24を所望の形状にパターニングする(ステップS7、S8)。これにより、n型Si層22が露出した受光部が形成される。また、Si基板10の裏面側10bに第2電極層25をスパッタリングにより形成する(ステップS9)。以上により、本実施形態によるゲルマニウム半導体装置1が完成する。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0050】
例えば、上記第4の実施の形態では、第3の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置(表面を粗面化したSi基板)を用いて受光器を構成しているが、第1又は第2の実施の形態によるゲルマニウム半導体装置を用いて受光器を構成してもよいことは言うまでもない。また、第4の実施の形態では、p型半導体であるSi基板10と、真性半導体であるGe単結晶層20と、n型半導体であるSi層22とを組み合わせてフォトダイオードのpin接合を構成しているが、Si基板10をn型半導体とし、Si層22をp型半導体とすることでpin接合を構成してもよい。さらに、pin接合を形成するためにSi層22は必ずしも必要ではなく、n型ドーパントであるリンのイオン注入をGe単結晶層20の上部に行うことでSiキャップ層21を省略してもよい。
【0051】
また、上記実施形態によるゲルマニウム半導体装置は、Si基板10上にGe単結晶層を形成したものであるが、Ge単結晶に代えてSiGe単結晶やGeSn単結晶を用いることも可能である。
【実施例0052】
(Si基板上のV溝アレイの効果の検証)
(001)面方位を有するバルクSiウェーハの主面をパターニングしてV溝の一次元アレイを形成した。V溝の幅はすべて0.5μmとし、またV溝間の平坦部の幅(スペース幅)は0.3μm、0.5μm、1.5μmの3通りとした。またSiウェーハ上にはV溝なしの平面領域(Blanket)も確保した。
【0053】
次に、Siウェーハ上にGe単結晶膜(Ge単結晶層)をUHV(Ultra-High Vacuum)-CVD法により形成した。原料ガスにはGeHを用い、700℃の基板温度でGeのエピタキシャル成長を行った。Geの結晶成長は、V溝のない平面領域で1.0μmのGe単結晶膜が得られる条件下で行った。
【0054】
こうして得られたGe単結晶膜の断面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。その結果、図7に示すように、厚さが0.65μm以上のGe連続膜を形成することができ、Ge連続膜の表面は概ね平坦面となった。またV溝内にもGeが埋め込まれていた。なお成膜時間を延長すれば、例えば1.0μm以上で、より表面の平坦度が向上したGe連続膜を形成することができると考えられる。
【0055】
Ge単結晶膜の断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察した。その結果、図8に示すように、V溝間のスペース幅を0.3μm、0.5μm、1.5μmとしたいずれのサンプルにおいても、V溝領域に埋め込まれたGe中に転位が集中し、表面に突き抜ける転位が少ない傾向が確認された。
【0056】
次に、Ge単結晶膜を貫通する転位の密度を評価した。HF(49%)を10ml、HNO(61%)を20ml、CHCOOH(>99.8%)を67ml混合して、さらにIを30mg溶解した液でGe単結晶膜の表面をエッチングし、表面に形成されるエッチピット密度から貫通転位密度を求めた。
【0057】
その結果を図9に示す。V溝間のスペース幅を0.3μmとしたGe単結晶膜の貫通転位密度は4×10cm-2となり、V溝のないSi平面上に形成された比較例によるGe単結晶膜の貫通転位密度2×10cm-2よりも小さくなった。またV溝間のスペース幅を0.5μmとしたGe単結晶膜の貫通転位密度は6×10cm-2となり、比較例によるGe単結晶膜の貫通転位密度2×10cm-2よりも小さくなった。一方、V溝間のスペース幅を1.5μmとしたGe単結晶膜の貫通転位密度は2×10cm-2となり、比較例によるGe単結晶膜の貫通転位密度と変わらなかった。以上の結果から、V溝アレイが形成されたSi基板上にGe単結晶膜を形成することにより、Ge単結晶膜の貫通転位密度を低減でき、熱処理なしで高品質なGe単結晶膜が得られることが分かった。
【0058】
(Si基板上のランダムな凹凸の効果の検証)
(001)面方位を有し、導電率が0.01Ω・cm程度の高濃度p型Siウェーハを用意し、ウェーハの表面にナノスケールのランダムな凹凸を形成した。詳細には、Siウェーハを0.5%HF水溶液で処理して表面の自然酸化膜を予め除去した後、液温60℃の2.38%TMAH水溶液中で15秒間処理した。Siウェーハの表面を原子間力顕微鏡像(AFM)で観察したところ、図1のようにSiウェーハの表面に形成されたナノスケールの凹凸の横幅は50nm程度、高さは5nm程度であり、表面粗さ(Rms値)は1.3nm程度であった。
【0059】
次に、TMAH処理したp型Siウェーハ上にGe単結晶膜(Ge単結晶層)をUHV-CVD法により形成した。原料ガスにはGeHを用い、600℃の基板温度で500nmのGeのエピタキシャル成長を行った。
【0060】
さらにGe単結晶層の表面にSiキャップ層をCVD法により形成した。原料ガスにはSiを用い、600℃の基板温度で120nmのSi成長を行った。
【0061】
こうして得られたGe単結晶層の断面をSEMにより観察した。その結果、厚さが約500nmのGe連続膜が形成されており、その表面は概ね平坦面となった。また凹部内にもGeが埋め込まれていた。
【0062】
膜厚方向にpin接合を有するフォトダイオードへ応用するため、まずSiキャップ層が形成されたSiウェーハの表面に厚さが200nmのSiO絶縁層をプラズマCVD法により形成した。その後、Ge結晶中や界面の結晶欠陥を低減するため、800℃のN雰囲気中で10分間の熱処理を施した。
【0063】
次に、フォトリソグラフィによりSiO絶縁層を部分的に除去して開口部を形成し、開口部から露出するSiキャップ層にn型ドーパントであるリン(P)のイオン注入を行った。イオン注入では、Siキャップ層及びGe単結晶層の表面付近までPを打ち込んだ。Pの活性化熱処理は、例えば、600℃のN雰囲気中で10分間行った。
【0064】
その後、Siウェーハの主面側にTi及びAlの金属膜をスパッタリングにより形成し、フォトリソグラフィを用いて電極パターンに加工した。Siウェーハの裏面側にもTi及びAlの金属膜からなる電極を形成した。受光部となるn型領域の中央には光入射用の窓領域を設けた。窓領域のサイズは、20μm角、30μm角、40μm角、50μm角、100μm角、200μm角、300μm角、500μm角の8水準とし、同一サイズをそれぞれ3素子ずつ形成した。こうして、実施例による受光器を完成させた。
【0065】
比較例による受光器の作製には、TMAH処理を施していない高濃度p型Siウェーハを使用した。それ以外の条件は実施例と同様とした。
【0066】
実施例及び比較例による受光器(pinフォトダイオード)の電流-電圧特性を測定した。その結果を図10及び図11のグラフに示す。
【0067】
図10及び図11において、実線は、TMAH処理を施して表面を粗面化(textured)したSiウェーハを用いた実施例による受光器の電流-電圧特性を示しており、破線は、TMAH処理を施していないSiウェーハを用いた比較例による受光器の電流-電圧特性を示している。図示のように、実施例及び比較例のどちらの受光器においても整流性能があり、フォトダイオードとして動作することが確認できた。また、フォトダイオードの窓領域のサイズ(受光サイズ)によらず、実施例によるフォトダイオードの逆方向リーク電流(暗電流)は、比較例によるフォトダイオードよりも小さくなった。すなわち、Siウェーハの表面をTMAH処理してナノスケールの凹凸を形成することにより、Ge結晶品質を向上させてフォトダイオードを高性能化できることが確認できた。
【0068】
図12は、実施例及び比較例による受光器(pinフォトダイオード)の入力電圧が-1V(逆バイアス)のときの暗電流の大きさを示すグラフであって、横軸は正方形の受光領域の一辺の長さ(受光サイズ)(μm)、縦軸は電流値(A)をそれぞれ示している。
【0069】
図12に示すように、フォトダイオードの暗電流は、受光サイズ(窓領域のサイズ)に比例して大きくなることが分かった。また、フォトダイオードの受光サイズによらず、実施例によるフォトダイオードの暗電流は、比較例によるフォトダイオードの暗電流よりも小さくなった。この傾向は、逆バイアス電圧が大きくなるほど大きくなる(図10及び図11参照)。さらに、フォトダイオードの個体間の電流値のばらつきは、比較例よりも実施例のほうが小さくなることも確認できた。
【0070】
次に、実施例及び比較例による受光器に波長約1.55μmの近赤外光を照射したときの電流-電圧特性を測定した。
【0071】
図13(a)及び(b)は、実施例及び比較例による受光器(pinフォトダイオード)の電流-電圧特性を示すグラフであって、(a)は実施例、(b)は比較例をそれぞれ示している。
【0072】
図13(a)及び(b)に示すように、実施例及び比較例による受光器のいずれも、近赤外光を照射することで暗電流が増加しており、受光器として動作することを確認できた。特に、実施例による受光器の暗電流の増加率は、比較例による受光器よりも大きくなった。例えば、入力電圧が-1Vのとき、比較例の受光器では、赤外光の照射によって暗電流が3×10-5(A)から1×10-(A)まで変化したのに対し、実施例の受光器では、赤外光の照射によって暗電流が7×10-6(A)から1×10-(A)まで変化した。このように、実施例による受光器は比較例と同等な高い受光感度をもつことが分かった。
【符号の説明】
【0073】
1 ゲルマニウム半導体装置
10 Si基板
10a Si基板の主面
10b Si基板の裏面
11 V溝
11A V溝アレイ
13 シリコン酸化膜
20 Ge単結晶層
20a Ge単結晶層の表面
21 Siキャップ層
22 n型Si層
23 SiO絶縁層
24 第1電極層
24a Ti層
24b Al層
25 第2電極層
25a Ti層
25b Al層
30 Si基板
31 SiOマスク
32 Ge単結晶膜
33 空洞
Ws V溝間のスペース幅
Wt V溝の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14