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特開2024-117875生成装置、生成方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117875
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】生成装置、生成方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20240823BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20240823BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
G10K11/178 120
H04R3/00 320
H04R1/40 320A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023936
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘章
(72)【発明者】
【氏名】鎌土 記良
(72)【発明者】
【氏名】小塚 詩穂里
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亨真
(72)【発明者】
【氏名】羽田 陽一
【テーマコード(参考)】
5D018
5D061
5D220
【Fターム(参考)】
5D018BB21
5D061FF02
5D220BA06
5D220BC05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】実際のエラーマイクから離れたユーザの耳元でも高い抑圧性能を実現する生成装置、生成方法及びそのプログラムを提供する。
【解決手段】騒音抑圧システムにおいて、ユーザの頭部近傍に2つのエラーマイク93-1、93-2を配置し、2つのエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイク130が位置するものとし、2つのエラーマイクを結ぶ直線上に仮想マイクが位置し、仮想マイクから遠い位置にある第1のエラーマイク93-1と仮想マイクに近い位置にある第2のエラーマイク93-2の距離と、第2のエラーマイクと仮想マイクの距離が等しいものとし、第1のエラーマイクの収音信号と第2のエラーマイクの収音信号から、第1のエラーマイクから第2のエラーマイクまでの伝達関数を算出し、算出した伝達関数と第2のエラーマイクの収音信号から仮想マイクで収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する生成装置であって、
ユーザの頭部近傍に2つのエラーマイクが配置されるものとし、前記2つのエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクが位置するものとし、前記2つのエラーマイクを結ぶ直線上に前記仮想マイクが位置し、前記仮想マイクから遠い位置にある第1のエラーマイクと前記仮想マイクに近い位置にある第2のエラーマイクの距離と、前記第2のエラーマイクと前記仮想マイクの距離が等しいものとし、
前記第1のエラーマイクの収音信号と前記第2のエラーマイクの収音信号から、前記第1のエラーマイクから前記第2のエラーマイクまでの伝達関数を算出し、算出した前記伝達関数と前記第2のエラーマイクの収音信号から前記仮想マイクで収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る音圧推定部と、
抑圧対象の騒音を収音した収音信号と前記推定収音信号とを用いて、前記仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成部とを含み、
前記仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクである、
生成装置。
【請求項2】
請求項1の生成装置であって、
ユーザの頭部近傍に前記2つのエラーマイクを含む4つのエラーマイクが配置されるものとし、前記4つのエラーマイクは正方形の頂点に位置し、前記4つのエラーマイクのうち、前記第2のエラーマイクは前記仮想マイクに最も近いエラーマイクであり、第3のエラーマイクは前記第2のエラーマイクの対角に配置されるものとし、
前記音圧推定部は、前記第1のエラーマイクの収音信号、前記第2のエラーマイクの収音信号および前記第3のエラーマイクの収音信号から、前記第3のエラーマイクから前記第2のエラーマイクまでの伝達関数と、前記第1のエラーマイクから前記第2のエラーマイクまでの伝達関数を算出し、算出した2つの伝達関数と、前記第2のエラーマイクの収音信号および第4のエラーマイクの収音信号とから前記仮想マイクで収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る、
生成装置。
【請求項3】
請求項1の生成装置であって、
騒音の音源信号が既知であるものとし、前記第1のエラーマイクおよび第2のエラーマイクと騒音源との間に前記仮想マイクがあるものとし、
前記音圧推定部は、前記第1のエラーマイクの収音信号と前記音源信号から、前記騒音源から前記第1のエラーマイクまでの伝達関数を算出し、前記第2のエラーマイクの収音信号と前記音源信号から、前記騒音源から前記第2のエラーマイクまでの伝達関数を算出し、算出した2つの伝達関数の初期遅延を除去した伝達関数を用いて、前記第1のエラーマイクと前記第2のエラーマイクを前記騒音源に近づけたときに得られる疑似的な収音信号を算出し、
前記第1のエラーマイクの疑似的な収音信号と前記第2のエラーマイクの疑似的な収音信号から、疑似的な第1のエラーマイクから疑似的な第2のエラーマイクまでの伝達関数hを算出し、算出した前記伝達関数hと前記第2のエラーマイクの疑似的な収音信号から前記仮想マイクで収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得、
2つの疑似的なエラーマイクよりも前記観測点に近い位置に前記仮想マイクが位置するものとし、前記2つの疑似的なエラーマイクを結ぶ直線上に前記仮想マイクが位置し、前記仮想マイクから遠い位置にある疑似的な第1のエラーマイクと前記仮想マイクに近い位置にある疑似的な第2のエラーマイクの距離と、疑似的な前記第2のエラーマイクと前記仮想マイクの距離が等しい、
生成装置。
【請求項4】
アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する生成方法であって、
ユーザの頭部近傍に2つのエラーマイクが配置されるものとし、前記2つのエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクが位置するものとし、前記2つのエラーマイクを結ぶ直線上に前記仮想マイクが位置し、前記仮想マイクから遠い位置にある第1のエラーマイクと前記仮想マイクに近い位置にある第2のエラーマイクの距離と、前記第2のエラーマイクと前記仮想マイクの距離が等しいものとし、
前記第1のエラーマイクの収音信号と前記第2のエラーマイクの収音信号から、前記第1のエラーマイクから前記第2のエラーマイクまでの伝達関数を算出し、算出した前記伝達関数と前記第2のエラーマイクの収音信号から前記仮想マイクで収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る音圧推定ステップと、
抑圧対象の騒音を収音した収音信号と前記推定収音信号とを用いて、前記仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成ステップとを含み、
前記仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクである、
生成方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れかの生成装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の位置での外部の騒音を抑圧する能動的騒音抑圧(ANC:Active Noise Control)の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の能動的騒音抑圧技術として非特許文献1が知られている。能動的騒音抑制では、参照マイク、エラーマイク、キャンセルスピーカを一般的に用いる。図1は従来の騒音抑圧装置の構成例を示す。参照マイク91で騒音源の発する騒音を収音する。キャンセルスピーカ92は、抑圧信号生成装置90で生成されたキャンセル信号を再生して、騒音を相殺するキャンセル音を発する。さらに、エラーマイク93で騒音の消し残しを収音し、フィードバックする。抑圧信号生成装置90は、参照マイク91の収音信号とエラーマイク93の収音信号とを用いて、騒音の消し残しが小さくなるようにキャンセル信号を能動的に制御し、生成する。エラーマイク93の設置位置において、騒音の消し残しが小さくなるように、キャンセルスピーカ92がキャンセル音を発するため、キャンセル音はエラーマイク93の設置位置で最も効率よく騒音を抑圧する。そのため、エラーマイク93はユーザの耳元近くに設置される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】梶川, 「アクティブノイズコントロールの最近の話題と応用」, 研究報告音楽情報科学(MUS), vol. 2015-MUS-107, no. 3, pp. 1-6, 5月 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際の利用に際しては、エラーマイク93をユーザの耳元近くに設置できない場合もあり、エラーマイク93の設置位置とユーザの耳元との距離が大きくなると、前述の通り、エラーマイク93の設置位置で最も効率よく騒音を抑圧し、ユーザの耳元では騒音の消し残しが大きくなり、抑圧性能が低下し、ユーザが騒音抑圧の恩恵を十分に得られない場合がある。例えば、騒音源から耳元までの距離が100mmであり、エラーマイク93をユーザの耳元(0mm)に設置した場合の抑圧性能は-∞dBであり、エラーマイク93を騒音源と耳元との中間地点に設置した場合の抑圧性能は-7.38dBであることをシミュレーションにて確認した。図2は、従来技術の抑圧可能領域(スイートスポット)Sと所望のスイートスポットSとの違いを説明するための図である。
【0005】
本発明は、実際のエラーマイクの配置位置で収音した収音信号から、ユーザの耳元で収音した場合に得られる収音信号を推定し、キャンセル信号を能動的に制御するために、実際のエラーマイクの配置位置で収音した収音信号の代わりに推定により得られた収音信号を使用することで、実際のエラーマイクから離れたユーザの耳元でも高い抑圧性能を実現する生成装置、生成方法、そのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様によれば、生成装置は、アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する。ユーザの頭部近傍に2つのエラーマイクが配置されるものとし、2つのエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクが位置するものとし、2つのエラーマイクを結ぶ直線上に仮想マイクが位置し、仮想マイクから遠い位置にある第1のエラーマイクと仮想マイクに近い位置にある第2のエラーマイクの距離と、第2のエラーマイクと仮想マイクの距離が等しいものとし、生成装置は、第1のエラーマイクの収音信号と第2のエラーマイクの収音信号から、第1のエラーマイクから第2のエラーマイクまでの伝達関数を算出し、算出した伝達関数と第2のエラーマイクの収音信号から仮想マイクで収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る音圧推定部と、抑圧対象の騒音を収音した収音信号と推定収音信号とを用いて、仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成部とを含み、仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ユーザの耳元にエラーマイクを配置できない場合に従来よりも高い抑圧性能を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】従来のアクティブノイズコントロールを説明するための図。
図2】従来技術の抑圧可能領域を説明するための図。
図3】第一実施形態に係る騒音抑圧システムの機能ブロック図。
図4】第一実施形態に係る騒音抑圧システムの処理フローの例を示す図。
図5】推定収音信号の推定方法を説明するための図。
図6】エラーマイクの位置関係を説明するための図
図7】第二実施形態に係る騒音抑圧システムの効果を測定するためにシミュレーション状況を説明するための平面図。
図8】シミュレーション結果を示す図。
図9】エラーマイクの位置関係を説明するための図。
図10】第二実施形態の変形例に係る騒音抑圧システムの効果を測定するためにシミュレーション状況を説明するための平面図。
図11】シミュレーション結果を示す図。
図12】実際のエラーマイクの位置関係と疑似的な収音信号を算出する際の疑似的なエラーマイクとの位置関係を説明するための図。
図13】本手法を適用するコンピュータの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、同じ機能を持つ構成部や同じ処理を行うステップには同一の符号を記し、重複説明を省略する。以下の説明において、テキスト中で使用する記号「^」「-」等は、本来直後の文字の真上に記載されるべきものであるが、テキスト記法の制限により、当該文字の直前に記載する。式中においてはこれらの記号は本来の位置に記述している。また、ベクトルや行列の各要素単位で行われる処理は、特に断りが無い限り、そのベクトルやその行列の全ての要素に対して適用されるものとする。
【0010】
<第一実施形態のポイント>
本実施形態では、耳元から離れた位置に設置されたエラーマイクの収音信号から耳元での観測音圧を推定する。例えば、実際のエラーマイクの収音信号から、耳元に配置された仮想的なエラーマイクの収音信号を推定し、ANCにおいて、仮想的なエラーマイクの収音信号を従来のエラーマイクの収音信号として用いる。このような構成とすることで、スイートスポットの位置をエラーマイクの設置位置から仮想的なエラーマイクの位置に変更し、耳元での消し残りをキャンセルする音を出すことができる。
【0011】
仮想的なエラーマイクの収音信号を推定する方法としては様々な方法が考えられる。例えば、実際のエラーマイクの設置位置から耳元までの距離減衰、位相遅延を考慮して音圧を推定する。また、例えば、球面上に配置した実際のエラーマイクから、球面調和関数を用いて耳元の音圧を推定する。
【0012】
<第一実施形態>
図3は第一実施形態に係る騒音抑圧システムの機能ブロック図を、図4はその処理フローを示す。
【0013】
騒音抑圧システムは、参照マイク91、キャンセルスピーカ92、エラーマイク93、抑圧信号生成部110および音圧推定部120を含む。抑圧信号生成部110および音圧推定部120からなる装置を抑圧信号生成装置ともいう。
【0014】
抑圧信号生成装置は、参照マイク91の収音信号x(r)と、エラーマイク93の収音信号x(e)とを入力とし、騒音の抑圧量が最大となる地点が、エラーマイク93の設置位置よりもユーザ側に位置するようにキャンセル信号(以下、「抑圧信号」ともいう)yを生成して、キャンセルスピーカ92に出力する。
【0015】
抑圧信号生成装置は、例えば、中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)、主記憶装置(RAM: Random Access Memory)などを有する公知又は専用のコンピュータに特別なプログラムが読み込まれて構成された特別な装置である。抑圧信号生成装置は、例えば、中央演算処理装置の制御のもとで各処理を実行する。抑圧信号生成装置に入力されたデータや各処理で得られたデータは、例えば、主記憶装置に格納され、主記憶装置に格納されたデータは必要に応じて中央演算処理装置へ読み出されて他の処理に利用される。抑圧信号生成装置の各処理部は、少なくとも一部が集積回路等のハードウェアによって構成されていてもよい。抑圧信号生成装置が備える各記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置、またはリレーショナルデータベースやキーバリューストアなどのミドルウェアにより構成することができる。ただし、各記憶部は、必ずしも抑圧信号生成装置がその内部に備える必要はなく、ハードディスクや光ディスクもしくはフラッシュメモリ(Flash Memory)のような半導体メモリ素子により構成される補助記憶装置により構成し、抑圧信号生成装置の外部に備える構成としてもよい。
【0016】
以下、各部について説明する。
【0017】
<参照マイク91>
参照マイク91は、抑圧対象の音を収音し(S91)、収音信号x(r)を出力する。参照マイク91で収音した抑圧対象の音を、以下「騒音」と記載する。
【0018】
<キャンセルスピーカ92>
キャンセルスピーカ92は、キャンセル信号yを入力とし、キャンセル信号yを再生する(S92)。キャンセルスピーカ92から再生される再生音と抑圧対象の騒音とが完全な逆位相となる場合、再生音と抑圧対象の騒音とが重なる、すなわち、音波同士が重畳する、と波が打ち消し合うため、騒音が抑圧される。
【0019】
<エラーマイク93>
エラーマイク93は、騒音の消し残しを含む、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音を収音し(S93)、収音信号x(e)を出力する。エラーマイク93は、観測点(例えば、ユーザの耳元)よりも騒音源に近い位置に配置される。例えば、エラーマイク93は、図5のように耳元よりも騒音源に0.05m近い位置に配置される。
【0020】
<音圧推定部120>
音圧推定部120は、エラーマイク93の出力信号(収音信号)x(e)を入力とし、エラーマイク93よりも観測点に近い位置にマイク130を設置した場合に収音されると推定される信号である、推定収音信号x(v)を算出し、出力する。すなわち、音圧推定部120は、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音がマイク130の設置位置で収音される場合に得られる収音信号を推定し(S120)、推定した収音信号を推定収音信号x(v)として出力する。以下、推定収音信号x(v)の推定方法を例示する。ここで、マイク130は実際には設置せず仮想的に設置されるものであり、以下仮想マイク130と記載する。
【0021】
音圧推定部120では、頭部近傍に等間隔に配置した複数のエラーマイクの収音信号から、球面調和関数展開係数を利用して仮想的なエラーマイクの収音信号を推定する。図5は、実際のエラーマイクの位置関係を説明するための図である。
【0022】
本推定方法では、半径reの球面上に等間隔にエラーマイクを配置し、半径rの球面上の音圧を推定する。例えば、中心からエラーマイクまでの距離をre=0.15mとし、(i)6個のエラーマイクを正六面体の各面の中心に配置する(図5の(i)参照)、(ii)12個のエラーマイクを正十二面体の各面の中心に配置する(図5の(ii)参照)ことで、等間隔にエラーマイクを配置することができる。例えば、中心から観測点(仮想マイク130の位置)までの距離をr=0.08mとして推定する。
【0023】
球面調和関数展開を利用することで、ある球面上での観測音圧から、任意の球面上における観測音圧を推定することが可能である。
【0024】
半径re上のL個のエラーマイクから音圧の観測値p(θ11),p(θ22),…,p(θLL)を得る。例えば、L個のエラーマイク93の収音信号x(e)=[p(θ11),p(θ22),…,p(θLL)]とする。
【0025】
音圧推定部120は、次式により、球面調和関数Ym n(・)に対する半径re上の音場係数Pnm(re)を求める。
【数1】

音圧推定部120は、求めた音場係数Pnm(re)を用いて、次式により、半径r上の音場係数Pnm(r)を求める。
【数2】

ただし、kは波数であり、aは音を反射する剛球の半径とし、jnはn次の球面ベッセル関数であり、jn'はjnの微分であり、hn (2)は第二種球ハンケル関数であり、hn'(2)はhn (2)の微分である。
音圧推定部120は、再合成により、観測点(r,θ,φ)における音圧の推定値^p(r,θ,φ)を得る。
【数3】

なお、推定収音信号x(v)=^p(r,θ,φ)とする。
【0026】
以下、式(5)の導出について説明する。
【0027】
騒音源を点音源とし、半径aの剛球での反射を考慮したとき、点(r,θ,φ)における音圧は、
【数4】

である。なお、Bnmは騒音源の座標と信号で定まる係数である。球面調和関数展開は、
【数5】

であり、音場係数Pnm(r)、音場係数Pnm(re)は、次式で表される。
【数6】

【数7】

式(10)をBnm=…の形に変形して(9)に代入すると、
【数8】

【数9】

となる。
【数10】

なお、球面調和関数展開における最大次数Nは以下の制約を受ける。
【0028】
(N+1)2<L
ここで、球面調和関数Ym n(・)の各モードに対応するだけのスピーカ数が必要である。L=6ならばN=1であり、L=12ならばN=2である。
【0029】
さらに、空間エイリアシングが起こらない条件として、Nは以下の制約を受ける。
【0030】
kr<N
頭部と仮想的なエラーマイク間の距離が制限される。例えば、周波数300Hzとして、N=1のとき推定可能領域は頭部との距離r=0.18m以内に制限される。
【0031】
<抑圧信号生成部110>
抑圧信号生成部110は、収音信号x(r)と推定収音信号x(v)とを入力とし、仮想マイク130の設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号yを生成し(S110)、出力する。
【0032】
キャンセル信号の生成方法としては、従来技術を用いることができる。例えば、非特許文献1の方法を用いることができる。本実施形態では、収音信号x(r)、推定収音信号x(v)とキャンセル信号yによってフィードフォワード型ANCを実現する。騒音源からの騒音とキャンセル信号yの再生音との干渉音を仮想マイク130で検出した際に得られるだろう収音信号を推定するとともに、騒音源からの騒音を参照マイク91で検出し、適応ディジタルフィルタによって実現されている騒音制御フィルタに入力することでキャンセル信号yを生成し、キャンセルスピーカ92で再生する。キャンセル信号yの再生音は、キャンセルスピーカ92から仮想マイク130までの一連の伝達系である二次経路を伝播すると仮定する。そして、仮想マイク130の入力が最小となるように騒音制御フィルタの係数を適応アルゴリズムにより更新する。騒音制御フィルタの係数の更新方法としては従来の更新方法を用いることができるため、説明を省略する。フィードフォワード型ANCにおいては、二次経路を推定した二次経路モデルが二次経路の影響を適応アルゴリズムにおいて補償するため利用される。
【0033】
<効果>
以上の構成により、ユーザの耳元にエラーマイクを配置できない場合に従来よりも高い抑圧性能を実現することができる。第一実施形態に係る騒音抑圧システムでシミュレーションを行った結果、騒音を300Hzの平面波とした場合の抑圧性能は右耳で-19.04dBであり左耳で-19.25dBであり、騒音を100Hzの平面波とした場合の抑圧量は右耳で-24.91dBであり左耳で-24.90dBであった。
【0034】
<第二実施形態>
第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
第一実施形態の騒音抑圧システムは、所望の観測点(例えば、ユーザの耳元)上の音圧を推定してからANC処理を施すことで、ユーザの耳元にエラーマイクを配置できない場合に従来よりも高い抑圧性能を実現する。しかし、観測点上の音圧推定精度を高めるためにはユーザの頭部周辺の球面上に等間隔に複数のエラーマイクを配置する必要がある。そのため、騒音抑圧システムとして実装する際に、ユーザの頭部前面にも複数のエラーマイクを配置する必要があり、ユーザの邪魔になる場合がある。
【0035】
また、第一実施形態における音圧の推定方法を時間領域のフィルタとして実装すると不安定になる場合がある。
そこで、本実施形態では、所定の制約条件を満たすように、2つのエラーマイク93-1,93-2を含む、形状が既知のマイクアレイを配置し、2つのエラーマイク93-1,93-2の収音信号を用いて、適応アルゴリズムにより、騒音制御フィルタb1を算出する。算出した騒音制御フィルタb1とエラーマイクの収音信号を用いて、所望の観測点上の音圧を推定する。さらに、推定した音圧を用いて、抑圧信号生成部110で用いる騒音制御フィルタを構成することで、抑圧性能が向上する。
【0036】
以下、第二実施形態に係る騒音抑圧システムについて説明する。
【0037】
<第二実施形態に係る騒音抑圧システム>
図3は第二実施形態に係る騒音抑圧システムの機能ブロック図を、図4はその処理フローを示す。
【0038】
騒音抑圧システムは、参照マイク91、キャンセルスピーカ92、エラーマイク93、抑圧信号生成部110および音圧推定部220を含む。ただし、本実施形態では、エラーマイク93は、2つのエラーマイクを含む既知の形状のマイクアレイからなる。抑圧信号生成部110および音圧推定部220からなる装置を抑圧信号生成装置ともいう。
【0039】
以下、第一実施形態と異なる音圧推定部220について説明する。
【0040】
<音圧推定部220>
音圧推定部220は、エラーマイク93の出力信号(収音信号)x(e)を入力とし、エラーマイク93よりも観測点に近い位置に仮想マイク130を設置した場合に収音されると推定される信号である、推定収音信号x(v)を算出し、出力する。すなわち、音圧推定部220は、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音が仮想マイク130の設置位置で収音される場合に得られる収音信号を推定し(S220)、推定した収音信号を推定収音信号x(v)として出力する。以下、推定収音信号x(v)の推定方法を例示する。
【0041】
音圧推定部220では、頭部近傍に配置したマイクアレイに含まれる2つのエラーマイク93-1,93-2の収音信号から、騒音源から遠い位置にある一方のエラーマイク93-1から他方のエラーマイク93-2までの伝達関数を算出し、算出した伝達関数と他方のエラーマイク93-2の収音信号から仮想マイクの収音信号を推定する。なお、騒音源が変化しない場合には、騒音抑圧処理に先立ち予め伝達関数しておいてもよい。騒音源が変化する場合には、所定の時間ごとに伝達関数を算出し、更新してもよいし、逐次伝達関数を算出し、更新してもよい。
【0042】
図6は、エラーマイクの位置関係を説明するための図である。
エラーマイク93-1,93-2を含むマイクアレイは以下の制約条件を満たすように配置される。
【0043】
(i)2つのエラーマイク93-1,93-2を結ぶ直線上に所望の観測点が位置するようにマイクアレイを配置する。
【0044】
(ii)エラーマイク93-1とエラーマイク93-2の距離と、エラーマイク93-2と所望の観測点(仮想マイク130の位置)の距離が等しくなるようにマイクアレイを配置する。
【0045】
上述の(i)、(ii)を満たす場合、マイクアレイの他方のエラーマイク93-2があった位置までマイクアレイの一方のエラーマイク93-1を、マイクアレイごと並行移動させると、他方のエラーマイク93-2の位置と所望の観測点の位置(仮想マイク130の位置)とが一致する。
【0046】
なお、マイクアレイに含まれる2つのエラーマイクのうちの他方(図6ではエラーマイク93-2)が、騒音源に近い位置に配置され、一方(図6ではエラーマイク93-1)が騒音源に遠い位置に配置される。そのため、騒音源は、2つのエラーマイクから等距離に位置しない。
【0047】
2つのエラーマイクは、抑圧対象の騒音の波長に応じて空間エイリアシングが起こらないように、離れているものとする。
【0048】
また、騒音源がマイクアレイおよび所望の観測点から十分に遠くなるように、マイクアレイを配置する。なお、「十分に遠くなる」とは、マイクアレイおよび所望の観測点に到来する騒音を平面波と見做すことができる程度に離れていることを意味する。
【0049】
さらに、騒音源と観測点の間にマイクアレイを配置する。このように配置することで、騒音が観測点より先にマイクアレイに到達する。
【0050】
このようにマイクアレイを配置することで、エラーマイク93-1からエラーマイク93-2までの伝達関数で、エラーマイク93-2から所望の観測点(仮想マイク130)までの伝達関数を置き換えることができる。
【0051】
エラーマイク93-1の収音信号をx1(t)とし、エラーマイク93-2の収音信号をx2(t)とし、エラーマイク93-1,93-2を含むマイクアレイからなるエラーマイク93の収音信号x(e)をx(e)=[x1(t),x2(t)]とする。ただし、tは時刻を表すインデックスである。エラーマイク93-1からエラーマイク93-2までの伝達関数a1とすると、
【数11】

と表すことができる。
【0052】
ここで、エラーマイク93-1を参照マイク、エラーマイク93-2をエラーマイクとして、騒音制御フィルタb1を適合アルゴリズムにより算出する。
【0053】
つまり、収音信号x2(t)と、次式で推定されるエラーマイク93-2の収音信号の推定値y2(t)との誤差が最小になるように騒音制御フィルタb1(t)を更新する。
【数12】

なお、適応アルゴリズムとして様々なアルゴリズムを用いることができる。例えば、Filtered-x LMS等を用いることができる。
【0054】
上述の拘束条件を満たすので、エラーマイク93-1からエラーマイク93-2までの伝達関数で、エラーマイク93-2から所望の観測点(仮想マイク130)までの伝達関数を置き換えることができる。さらに、式(22)において、エラーマイク93-1の収音信号x1(t)をエラーマイク93-2の収音信号x2(t)に置き換えることで、推定収音信号x(v)を算出することができる。つまり、次式により、時刻tの推定収音信号x(v)=x(t)を算出する。
【数13】
【0055】
式(23)の通り、本実施形態では、音圧の推定方法を時間領域のフィルタとして実装することができる。
【0056】
<効果>
以上の構成により、第一実施形態と同様に、ユーザの耳元にエラーマイクを配置できない場合に従来よりも高い抑圧性能を実現することができる。さらに、時間領域の処理であるため、ANCのアルゴリズムに容易に組み込むことができる。図7は第二実施形態に係る騒音抑圧システムの効果を測定するためにシミュレーション状況を説明するための平面図である。なお、騒音源、キャンセルスピーカ92、観測点、エラーマイク93-1,93-2は全て高さ1mの位置に配置されている。図8はシミュレーション結果を示す。図8は、帯域騒音(100Hz~800Hz)の抑圧結果を示し、所望の観測点上での抑圧性能を示す。図8から騒音が抑圧できていることが分かる。さらに、ユーザの頭部前面にもエラーマイクを配置する必要がなく、ユーザの邪魔にならない。
【0057】
なお、マイクアレイに含まれるエラーマイクの個数は2個以上であればよく、その中の2つのエラーマイクを用いることで本実施形態を適用することができる。
【0058】
<変形例1>
第二実施形態と異なる部分を中心に説明する。
本実施形態では、所定の制約条件を満たすように、4つのエラーマイク93-1,93-2,93-3,93-4を含む、形状が既知のマイクアレイを配置し、3つのエラーマイク93-1,93-2,93-3の収音信号を用いて、適応アルゴリズムにより、騒音制御フィルタb1,b3を算出する。算出した騒音制御フィルタb1,b3とエラーマイク93-2,93-4の収音信号を用いて、所望の観測点上の音圧を推定する。さらに、推定した音圧を用いて、抑圧信号生成部110で用いる騒音制御フィルタを構成することで、抑圧性能が向上する。
【0059】
以下、第二実施形態と異なる音圧推定部220について説明する。
<音圧推定部220>
音圧推定部220は、エラーマイク93の出力信号(収音信号)x(e)を入力とし、エラーマイク93よりも観測点に近い位置に仮想マイク130を設置した場合に収音されると推定される信号である、推定収音信号x(v)を算出し、出力する。すなわち、音圧推定部220は、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音が仮想マイク130の設置位置で収音される場合に得られる収音信号を推定し(S220)、推定した収音信号を推定収音信号x(v)として出力する。以下、推定収音信号x(v)の推定方法を例示する。
【0060】
頭部近傍に配置したマイクアレイに含まれる4つのエラーマイクは、正方形の頂点に配置されるものとする。
【0061】
音圧推定部220では、頭部近傍に配置したマイクアレイに含まれる3つのエラーマイクの収音信号(所望の観測点に最も近いエラーマイク93-2の収音信号と、所望の観測点とエラーマイク93-2を結ぶ直線上に位置するエラーマイク93-1の収音信号と、正方形におけるエラーマイク93-2の対角に配置されたエラーマイク93-3の収音信号)から、エラーマイク93-3からエラーマイク93-2までの伝達関数とエラーマイク93-1からエラーマイク93-2までの伝達関数を算出し、算出した伝達関数とエラーマイク93-2,93-4の収音信号から仮想マイクの収音信号を推定する。
【0062】
図9は、エラーマイクの位置関係を説明するための図である。
エラーマイク93-1,93-2、93-3,93-4を含むマイクアレイは以下の制約条件を満たすように配置される。
【0063】
(i)4つのエラーマイク93-1,93-2,93-3,93-4が正方形の頂点に位置するようにマイクアレイを構成する。
【0064】
(ii)所望の観測点と所望の観測点に最も近いエラーマイク93-2を結ぶ直線上にエラーマイク93-1が位置するようにマイクアレイを配置する。
【0065】
(iii)エラーマイク93-1とエラーマイク93-2との距離と、エラーマイク93-2と所望の観測点の距離が等しくなるようにマイクアレイを配置する。
【0066】
上述の(i)、(ii)、(iii)を満たす場合、マイクアレイのエラーマイク93-4,93-2があった位置までエラーマイク93-3,93-1を、マイクアレイごと並行移動させると、エラーマイク93-2の位置と所望の観測点の位置(仮想マイク130の位置)とが一致する。
【0067】
なお、マイクアレイに含まれる4つのエラーマイクのうちのエラーマイク93-3が、騒音源に最も近い位置に配置され、エラーマイク93-3の対角に位置するエラーマイク93-2が騒音源に最も遠い位置に配置される。
【0068】
4つのエラーマイクは、抑圧対象の騒音の波長に応じて空間エイリアシングが起こらないように、離れているものとする。
【0069】
また、騒音源がマイクアレイおよび所望の観測点から十分に遠くなるように、マイクアレイを配置する。なお、「十分に遠くなる」とは、マイクアレイおよび所望の観測点に到来する騒音を平面波と見做すことができる程度に離れていることを意味する。
【0070】
さらに、騒音源と観測点の間にマイクアレイを配置する。このように配置することで、騒音が観測点より先にマイクアレイに到達する。本変形例では、頭部表面の鉛直方向に所望の観測点から遠ざかる位置にエラーマイク93-2が位置するようにマイクアレイを配置する。
【0071】
このようにマイクアレイを配置することで、エラーマイク93-3およびエラーマイク93-1からエラーマイク93-2までの伝達関数で、エラーマイク93-4およびエラーマイク93-2から所望の観測点(仮想マイク130)までの伝達関数を置き換えることができる。
【0072】
第二実施形態の場合、騒音源が2つの場合には、解不定となり、伝達関数を推定することができないが、本変形例では、騒音源が2つの場合でも伝達関数を推定でき、仮想マイクの収音信号を推定することができる。
【0073】
エラーマイク93-1,93-2,93-3,93-4の収音信号をそれぞれx1(t),x2(t),x3(t),x4(t)とし、エラーマイク93-1,93-2,93-3,93-4を含むマイクアレイからなるエラーマイク93の収音信号x(e)をx(e)=[x1(t),x2(t),x3(t),x4(t)]とする。エラーマイク93-3からエラーマイク93-2までの伝達関数a3とし、エラーマイク93-1からエラーマイク93-2までの伝達関数a1とすると、
【数14】

と表すことができる。
【0074】
ここで、エラーマイク93-3,93-1を参照マイク、エラーマイク93-2をエラーマイクとして、騒音制御フィルタb3,b1を適合アルゴリズムにより算出する。
【0075】
つまり、収音信号x2(t)と、次式で推定されるエラーマイク93-2の収音信号の推定値y2(t)との誤差が最小になるように騒音制御フィルタb3(t),b1(t)を更新する。
【数15】

なお、適応アルゴリズムとして様々なアルゴリズムを用いることができる。例えば、Filtered-x LMS等を用いることができる。
【0076】
上述の拘束条件を満たすので、エラーマイク93-3からエラーマイク93-2までの伝達関数とエラーマイク93-1からエラーマイク93-2までの伝達関数とで、エラーマイク93-4から所望の観測点(仮想マイク130)までの伝達関数とエラーマイク93-2から所望の観測点(仮想マイク130)までの伝達関数とをそれぞれ置き換えることができる。さらに、式(25)において、エラーマイク93-3の収音信号x3(t)をエラーマイク93-4の収音信号x4(t)に置き換え、エラーマイク93-1の収音信号x1(t)をエラーマイク93-2の収音信号x2(t)に置き換えることで、推定収音信号x(v)を算出することができる。つまり、次式により、時刻tの推定収音信号x(v)=x(t)を算出する。
【数16】
【0077】
式(26)の通り、本実施形態では、音圧の推定方法を時間領域のフィルタとして実装することができる。
【0078】
<効果>
このような構成により、第二実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、騒音源が2つの場合でも伝達関数を推定でき、仮想マイクの収音信号を精度よく推定することができる。図10は第二実施形態の変形例に係る騒音抑圧システムの効果を測定するためにシミュレーション状況を説明するための平面図である。なお、騒音源、キャンセルスピーカ92、観測点、エラーマイク93-1,93-2,93-3,93-4は全て高さ1mの位置に配置されている。図11はシミュレーション結果を示す。図11は、帯域騒音(100Hz~800Hz)の抑圧結果を示し、所望の観測点上での抑圧性能を示す。図11から騒音が抑圧できていることが分かる。
【0079】
なお、マイクアレイに含まれるエラーマイクの個数は4個以上であればよく、その中の4つのエラーマイクを用いることで本変形例を適用することができる。
【0080】
<変形例2>
第二実施形態と異なる部分を中心に説明する。
第二実施形態では、騒音源と観測点の間にマイクアレイを配置するため、騒音がエラーマイクに先に到達したが、騒音が観測点に先に到達する場合、第二実施形態では仮想マイク130の収音信号を推定することができない。
【0081】
本実施形態では、騒音源からマイクアレイまでの伝達関数を加工することで、騒音が観測点に先に到達する場合(騒音源とマイクアレイの間に観測点がある場合)にも仮想マイク130の収音信号を推定することができる騒音抑圧システムを実現する。
本実施形態では、騒音の音源信号s(ドライソース)が既知であるものとする。
【0082】
以下、第二実施形態と異なる音圧推定部220について説明する。
<音圧推定部220>
音圧推定部220は、エラーマイク93の出力信号(収音信号)x(e)を入力とし、エラーマイク93よりも観測点に近い位置に仮想マイク130を設置した場合に収音されると推定される信号である、推定収音信号x(v)を算出し、出力する。すなわち、音圧推定部220は、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音が仮想マイク130の設置位置で収音される場合に得られる収音信号を推定し(S220)、推定した収音信号を推定収音信号x(v)として出力する。以下、推定収音信号x(v)の推定方法を例示する。
【0083】
音圧推定部220では、頭部近傍に配置したマイクアレイに含まれる2つのエラーマイク93-1,93-2の収音信号x1(t),x2(t)と騒音の音源信号s(t)とから、騒音源からエラーマイク93-1までの伝達関数h1と、騒音源からエラーマイク93-2までの伝達関数h2を算出する。例えば、次式から伝達関数h1、h2を算出する。
【数17】

【数18】
【0084】
音圧推定部220は、算出した伝達関数h1、h2の初期遅延を除去した伝達関数h'1、h'2を用いて、次式により、エラーマイク93-1,93-2を騒音源に近づけたときに得られる疑似的な収音信号x'1(t),x'2(t)を算出する。
【数19】

【数20】

ここで、伝達関数の加工方法を伝達関数h1とh2とで同じにすれば、エラーマイク93-1,93-2間の相対位置は保たれる。
【0085】
図12は、実際のエラーマイクの位置関係と疑似的な収音信号を算出する際の疑似的なエラーマイクとの位置関係を説明するための図である。なお、初期遅延の除去量、言い換えると、エラーマイク93-1,93-2を騒音源に近づける距離は、以下の条件を満たす。
【0086】
(i)疑似的なエラーマイク93-1f,93-2fを結ぶ直線上に所望の観測点が位置する。
【0087】
(ii)疑似的な2つのエラーマイク93-1fとエラーマイク93-2fの距離と、疑似的なエラーマイク93-2fと所望の観測点の距離が等しい。
【0088】
なお、疑似的なエラーマイクは、実際には、配置されないため、図12のようにユーザの頭部前面に位置してもユーザの邪魔とはならない。
【0089】
このような条件を設けることで、疑似的な収音信号x'1(t),x'2(t)から第二実施形態と同様の方法により、仮想マイクの収音信号を推定することができる。
【0090】
上述の(i)、(ii)を満たす場合、疑似的な2つのエラーマイクの他方のエラーマイク93-2fがあった位置までマイクアレイの一方のエラーマイク93-1fを、他方のエラーマイク93-2fとともに並行移動させると、他方のエラーマイク93-2fの位置と所望の観測点の位置(仮想マイク130の位置)とが一致する。
【0091】
なお、疑似的な2つのエラーマイクのうちの他方(図12ではエラーマイク93-2f)が、騒音源に近い位置に配置され、一方(図12ではエラーマイク93-1f)が騒音源に遠い位置に配置される。言い換えると、疑似的な2つのエラーマイクから等距離に騒音源が位置しないようにマイクアレイを配置する。
【0092】
疑似的な2つのエラーマイクは、抑圧対象の騒音の波長に応じて空間エイリアシングが起こらないように、離れているものとする。
【0093】
また、騒音源が疑似的な2つのエラーマイクおよび所望の観測点から十分に遠くなるように、マイクアレイを配置する。なお、「十分に遠くなる」とは、疑似的な2つのエラーマイクおよび所望の観測点に到来する騒音を平面波と見做すことができる程度に離れていることを意味する。
【0094】
さらに、騒音源と観測点の間に疑似的な2つのエラーマイクを配置する。このように配置することで、騒音が観測点より先に疑似的な2つのエラーマイクに到達する。
【0095】
このように疑似的な2つのエラーマイクを配置することで、エラーマイク93-1fからエラーマイク93-2fまでの伝達関数で、エラーマイク93-2fから所望の観測点(仮想マイク130)までの伝達関数を置き換えることができる。
【0096】
疑似的なエラーマイク93-1fの収音信号をx'1(t)とし、疑似的なエラーマイク93-2fの収音信号をx'2(t)とする。ただし、tは時刻を表すインデックスである。エラーマイク93-1fからエラーマイク93-2fまでの伝達関数a1とすると、
【数21】

と表すことができる。
【0097】
ここで、エラーマイク93-1fを参照マイク、エラーマイク93-2fをエラーマイクとして、騒音制御フィルタb1を適合アルゴリズムにより算出する。
【0098】
つまり、収音信号x'2(t)と、次式で推定される疑似的なエラーマイク93-2fの収音信号の推定値y'2(t)との誤差が最小になるように騒音制御フィルタb1(t)を更新する。
【数22】

なお、適応アルゴリズムとして様々なアルゴリズムを用いることができる。例えば、Filtered-x LMS等を用いることができる。
【0099】
上述の拘束条件を満たすので、疑似的なエラーマイク93-1fから疑似的なエラーマイク93-2fまでの伝達関数で、疑似的なエラーマイク93-2fから所望の観測点(仮想マイク130)までの伝達関数を置き換えることができる。さらに、式(32)において、疑似的なエラーマイク93-1fの収音信号x'1(t)を疑似的なエラーマイク93-2fの収音信号x'2(t)に置き換えることで、推定収音信号x(v)を算出することができる。つまり、次式により、時刻tの推定収音信号x(v)=x(t)を算出する。
【数23】

式(33)の通り、本実施形態では、音圧の推定方法を時間領域のフィルタとして実装することができる。
【0100】
<効果>
このような構成により、第二実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、騒音源と観測点の間にマイクアレイが配置されておらず、騒音が観測点に先に到達する場合に、仮想マイク130の収音信号を推定することができる。なお、騒音源とマイクアレイと所望の観測点の位置関係に応じて、第二実施形態と本変形例とを切り替える構成としてもよい。さらに、本変形例と変形例1とを組み合わせてもよい。
【0101】
<その他の変形例>
本発明は上記の実施形態及び変形例に限定されるものではない。例えば、上述の各種の処理は、記載に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されてもよい。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0102】
<プログラム及び記録媒体>
上述の各種の処理は、図13に示すコンピュータの記憶部2020に、上記方法の各ステップを実行させるプログラムを読み込ませ、制御部2010、入力部2030、出力部2040などに動作させることで実施できる。
【0103】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。
【0104】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0105】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0106】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13